私なんか要らないんでしょう? 離婚よ! サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ~♪

百谷シカ

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2 デキる乙女たちの計画

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「奥様。そのまま」


 実年齢より成熟して見えるメイドのルイーゼが、私の頭を膝に乗せ、ぐっと屈みこんできた。


「アニーが医者を呼びに走りました。どうか目を瞑っていてください」


 アニーは年相応で元気なメイド。
 正反対の二人は仲が良い。使用人同士の人間関係はいいほうがいいに決まっているので、私は彼女たちの微笑ましい関係がとても好き。

 よって、ルイーゼがそう言うなら、目を瞑るのもやぶさかではない。
 目を瞑ると、ルイーゼは深刻そうな焦り方ながらクールに私を心配し始めた。まるで私がこのまま死んでしまいそうとでも言うような、シビアな声音。そして手つき。


「奥様? な、なんという……大変! 奥様、しっかりなさってください。奥様! 奥様!!」


 仕事がデキる娘なのに、演技まで上手いなんて。
 ツムシュテーク伯爵家には勿体ない人材だわ。

 こんなツムシュテーク伯爵家なんて……


「まぁまぁまぁ、なんの騒ぎ? まっ! ベーレンスなにやってるの!? あなた、何年執事をやっているの! 息子を離しなさい!! 無礼者ッ!!」


 義母も騒いでるし。
 うんざりよ。


「大奥様、ご覧ください。奥様がお倒れです。御乱心の旦那様が殴りかかったのです」

「はあっ!?」

「離せよ、クソッ!! ママ! 今すぐベーレンスなんか殺しちゃってくれよッ!!」

「ええっ!?」


 義母は、有能な執事ベーレンスより、怒鳴り散らす息子のほうに翻弄されている。

 ベーレンスとルイーゼを中心に使用人たちが上手く捌いてくれて、私は目を瞑ったまま自分のベッドに横たえられた。
 部屋には私とルイーゼの二人きり。
 私は瞼を開いた。


「ルイーゼ。口をゆすぎたい」

「はい、奥様。ここに」


 準備万端なのよ。


「……ペッ! ああ、やっぱり。切れていたわ」

「しばらく塩分をお控えになったほうがよろしいかと。ハチミツとレモンをどうぞ」

「ありがとう」


 もし私がツムシュテーク伯爵家を出るならば、何を差し置いてもルイーゼだけは連れていきたい。

 そんな夢が脳裏を過った瞬間、目が覚めた。


「……」


 そうだ。
 離婚しよ♪


「ふふ」


 最高に希望が満ち溢れ、つい、笑ってしまった。


「奥様?」

「奥様!」


 訝しむルイーゼの向こう側で、アニーが元気よく扉を開けて現れた。
 私は即座にベッドに潜った。廊下から誰が見ているかわからない。特に義母はつまらない事で騒ぐ喧しい人なので、廊下にいそう。


「アニーです! ドクター・ペッペルマンをお連れしました!!」

「シッ! 静かに! 奥様はお休みなのよ」

「(アニーです。ドクター・ペッペルマンをお連れしました)」


 アニーも連れていきたい。

 薄目を開けて見てみると、アニーに伴われやり手の町医者ドクター・ペッペルマンが片眼鏡を光らせながら素早く入室し、素早く扉を閉めた。


「マダム。まずは診察を」


 ええ、そうでしょうね。

 ルイーゼに手を添えられつつ半身起き上がり、診察を受ける。その間、アニーは怒りを隠さずベッドの傍をうろついていた。冷徹なルイーゼは一度だけアニーのほうをふり返り、


「そわそわしないで」


 と命じた。
 アニーはピタッと止まって、ドクター・ペッペルマンの助手として機敏に動き始めた。

 本当にいいコンビなのよ。


「頬の腫れは2・3日で引くでしょう。しかし、痣が10日以上残るかもしれません。口の中はそう酷い傷ではありませんが、いつもより清潔にするよう心がけてください」

「ありがとう」

「奥様」


 ドクター・ペッペルマンの診断が済むと、ルイーゼが真剣な様子で私を呼んだ。


「ん?」

「しばらく様子を見ましょう。奥様は頭を打って目をお覚ましにならないという事にして、旦那様と大奥様の本音を引き出すのです」


 抜け目ない美しい乙女ルイーゼ。
 メイドにしておくには勿体ない娘だわ。

 
「反省されるか、図に乗るか。これを機に確かめてみてもよろしいのではないでしょうか」


 ルイーゼの提案に、アニーはもちろんドクター・ペッペルマンも頷いている。
 もちろん私も頷いて、再びベッドにスッと潜った。
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