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4 強く美しい生き様
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離婚して旅に出て5ヶ月。
本当にいろいろな事があった。
まず最初に驚いたのは、連れて出た二人のメイドのうち、元気なアニーではなく清楚でクールなルイーゼのほうが武闘派だった事。
旅支度に銃剣が含まれていて、驚いた。
「奥様……いえ、ロミルダ様は私がお守りいたします」
「女の3人旅ですからね! 美味しいごはんはこのアニーにお任せください!!」
アニーが料理上手なのは知っていたので、申し訳ないけど流しちゃったわ。
「ルイーゼ、あなた……」
「ご安心ください。私は代々続いた鍛冶屋の娘、武器の扱いは心得ています」
だからあんなに見事な箒捌きで……
「鍛冶屋でも、剣や斧や弓じゃなく銃剣なのね」
「銃剣では斧に勝てないとでも?」
その文脈が出てくるまでの理屈がわからないので、深堀はよした。
ちなみに野宿なんてさせないし私もしたくないので、アニーの出番はなかった。
「うぅ……っ」
「別荘を買って落ち着いたら、あなたの自慢の料理を頂くから」
「はいぃ……ッ」
アニーといると、とても和む。
ツムシュテーク伯爵家の財産は丸ッとそのまま置いてきたので、この旅は私の私的財産で賄っていた。
結婚当初、持参金を義母に使い果たされたので、父が心配して生前贈与してくれた分はきちんと隠しておいたのだ。ちなみに父はまだまだ元気。結婚前に私が領地経営の練習として建てた劇場と大浴場の利益も、ある程度まとまったところで送ってくれていた。
『あの馬鹿と別れてくれて本当によかった! お前の開拓を待つ大地はいくらでもあるぞ!!』
威勢のいい手紙と共に、お祝い金も届いた。
それは大切にとっておく。
そんなわけで、私は今、美しい湖を有するある侯爵領の高級宿に滞在している。とてもいい土地なので、この辺に別荘を持ってもいいかもしれない。
「わー!」
小熊のように、アニーも魚と戯れているし。
まあ、料理する気なんだろうけど。
焚火があれば、魚は焼ける。
覚えたわ。
「ロミルダ様」
「?」
ふいに呼びかけられてルイーゼの視線の先を見やると、そこに懐かしい顔があった。ハットをかぶった、やり手執事のベーレンス。私と目が合うと、彼は丁寧にお辞儀して、それから私に柔らかな微笑みを見せた。
湖畔をぐるっと回りあって、5ヶ月ぶりに言葉を交わす。
「奥様……これは失礼」
「いいえ。でも、今はただのロミルダよ」
「ロミルダ様。お久しぶりです」
いくら結婚した相手とその母親が酷いからって、手塩に掛けたツムシュテーク伯爵領や有能な使用人たちを見棄てるわけにはいかない。
私が手配した仲介先との手続きを引き継いでくれたのは、このベーレンスだった。
「皆、新しい主人の元へと辿り着きました。我々はそもそも、キーランド様亡きあとはあなたに仕えていたようなもの。特に年若い者たちは、あなたへの恩を忘れてはおりません」
先代のツムシュテーク伯爵キーランド卿、私にすべてを丸投げした元義父。
楽しませてもらったけれど、充分、恩は返してある。
「領民たちは、ロミルダ様が出て行かれてすぐ、各々対処をしておりました。移住する者、備蓄に精を出す者、そして大奥様に商売を持ちかける者。皆覚悟はできていますし、あなたが道筋を整えてくださっていたのでかえって意気揚々と新しい生活に邁進しています。そして、いざ破産となったちょうどいい頃合いで、レジェス伯爵が融資を持ち掛け、取り込む手筈です」
「今のあなたの主がね」
「はい」
レジェス伯領とは交易でかなり良好な関係を維持してきた。
私がツムシュテーク伯領を任せるなら、彼だ。
皆、新しい人生を歩き出した。
それは晴れた空のように清々しく、あの太陽のように逞しく──
「!」
風が吹いて、私の帽子がふわりと舞った。
湖に向かって。
「あ」
私は、特に動じてはいなかった。
けれど、その帽子をあわや湖面という時に掠め取った人がいた。
「……」
見るからに貴公子。
私と同じように湖畔を散歩していた、どこかの御令息風の美青年。
「危なかった。レディ・ロミルダ。はい、どうぞ」
「?」
私の名前を知っている。
そしてその上品な笑顔が、太陽か月か星のように煌めいていた。
本当にいろいろな事があった。
まず最初に驚いたのは、連れて出た二人のメイドのうち、元気なアニーではなく清楚でクールなルイーゼのほうが武闘派だった事。
旅支度に銃剣が含まれていて、驚いた。
「奥様……いえ、ロミルダ様は私がお守りいたします」
「女の3人旅ですからね! 美味しいごはんはこのアニーにお任せください!!」
アニーが料理上手なのは知っていたので、申し訳ないけど流しちゃったわ。
「ルイーゼ、あなた……」
「ご安心ください。私は代々続いた鍛冶屋の娘、武器の扱いは心得ています」
だからあんなに見事な箒捌きで……
「鍛冶屋でも、剣や斧や弓じゃなく銃剣なのね」
「銃剣では斧に勝てないとでも?」
その文脈が出てくるまでの理屈がわからないので、深堀はよした。
ちなみに野宿なんてさせないし私もしたくないので、アニーの出番はなかった。
「うぅ……っ」
「別荘を買って落ち着いたら、あなたの自慢の料理を頂くから」
「はいぃ……ッ」
アニーといると、とても和む。
ツムシュテーク伯爵家の財産は丸ッとそのまま置いてきたので、この旅は私の私的財産で賄っていた。
結婚当初、持参金を義母に使い果たされたので、父が心配して生前贈与してくれた分はきちんと隠しておいたのだ。ちなみに父はまだまだ元気。結婚前に私が領地経営の練習として建てた劇場と大浴場の利益も、ある程度まとまったところで送ってくれていた。
『あの馬鹿と別れてくれて本当によかった! お前の開拓を待つ大地はいくらでもあるぞ!!』
威勢のいい手紙と共に、お祝い金も届いた。
それは大切にとっておく。
そんなわけで、私は今、美しい湖を有するある侯爵領の高級宿に滞在している。とてもいい土地なので、この辺に別荘を持ってもいいかもしれない。
「わー!」
小熊のように、アニーも魚と戯れているし。
まあ、料理する気なんだろうけど。
焚火があれば、魚は焼ける。
覚えたわ。
「ロミルダ様」
「?」
ふいに呼びかけられてルイーゼの視線の先を見やると、そこに懐かしい顔があった。ハットをかぶった、やり手執事のベーレンス。私と目が合うと、彼は丁寧にお辞儀して、それから私に柔らかな微笑みを見せた。
湖畔をぐるっと回りあって、5ヶ月ぶりに言葉を交わす。
「奥様……これは失礼」
「いいえ。でも、今はただのロミルダよ」
「ロミルダ様。お久しぶりです」
いくら結婚した相手とその母親が酷いからって、手塩に掛けたツムシュテーク伯爵領や有能な使用人たちを見棄てるわけにはいかない。
私が手配した仲介先との手続きを引き継いでくれたのは、このベーレンスだった。
「皆、新しい主人の元へと辿り着きました。我々はそもそも、キーランド様亡きあとはあなたに仕えていたようなもの。特に年若い者たちは、あなたへの恩を忘れてはおりません」
先代のツムシュテーク伯爵キーランド卿、私にすべてを丸投げした元義父。
楽しませてもらったけれど、充分、恩は返してある。
「領民たちは、ロミルダ様が出て行かれてすぐ、各々対処をしておりました。移住する者、備蓄に精を出す者、そして大奥様に商売を持ちかける者。皆覚悟はできていますし、あなたが道筋を整えてくださっていたのでかえって意気揚々と新しい生活に邁進しています。そして、いざ破産となったちょうどいい頃合いで、レジェス伯爵が融資を持ち掛け、取り込む手筈です」
「今のあなたの主がね」
「はい」
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皆、新しい人生を歩き出した。
それは晴れた空のように清々しく、あの太陽のように逞しく──
「!」
風が吹いて、私の帽子がふわりと舞った。
湖に向かって。
「あ」
私は、特に動じてはいなかった。
けれど、その帽子をあわや湖面という時に掠め取った人がいた。
「……」
見るからに貴公子。
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