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8 君にもロマンス(※マルセル視点)
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約束のランチで、コンラート様はレディ・ロミルダにフライパンを贈った。俺がそう言ったから。
「まあ、アニーに!?」
「ええ。料理の天才と聞いたので。ここの料理長愛用の逸品の、予備をひとつ譲って貰ったのです。検品済みの、新品です。ぶんどってはいませんよ? でも、あなたに金額の話は無粋でしょう? ぶんどっていません。神に誓って本当です」
「信じます」
「よかった。昨夜、魚はどうでした?」
「美味しく頂きました。焚火で焼き慣れた様子だったので、つい慢心してしまって……そうねぇ、アニーは料理人なんだもの。いつまでも、このままではいけないわ。ありがとうございます、コンラート卿。心の篭った贈り物、感激です」
「あなたは使用人を大切にしている。ツムシュテークの領民も。あなたには、類稀なる経営手腕だけでなく、愛がある。本当に素晴らしい方だ」
「褒めすぎです。さあ、アニー。いらっしゃい。お礼を言って」
「ファアアアアッ! あうっ、あぅっ、うっ、うっ、うっ」
「あなたのフライパンよ」
「あ゛りがとうごじゃいばすぅぅぅぅぅぅッ!!」
なんて美しい光景なんだ……。
俺は、いい主に恵まれて、いい主もいい妃に恵まれそうで、俺も可愛いガールに恵まれそう。人生って最高。
アニーって、釣りはしないのか?
いつも手掴み?
「……」
可愛いクマさんめ。
そんな感じて最初のランチはうまくいって、帰ってからずっとほくほくしっぱなしの主が
「ひとりにしてくれ……ときめきを、噛み締めたい」
と真顔で言うので、俺ひとりで散歩に出た。
アニーは、もう一人きりで森に入ったりしないだろうし、夕焼けに染まった空の下でそよ風に吹かれて──
「マルセル卿」
「ん?」
振り向いてしまった。
夕焼けに染まるルイーゼが、かなり近くに立っていた。
しまった。
「やはり」
「ん?」
「あなたも身分を隠していらっしゃる」
「んっふ? なんの事かな?」
「マルセル卿とお呼びしたら振り向かれましたよね。瞬時に」
「ああ、慣れてるから」
「ではメイドに手をつけるのも慣れていらっしゃる?」
そよ風のような可憐な殺意が、俺を刺す。
チクチク。チクチク、と。
油断ならない。
「アニーに手を出さないでください」
「なぜ君に言われなければならない?」
このルイーゼというメイドとは、本気で向き合う必要がありそうだ。
「アニーは心と体と頭に境目がないタイプなのです。弄ばれても、それを愛だと妄信します。そして痛みを引き摺るでしょう。壊れてしまうかもしれません。あの子は純粋です。あの子には誠実な男しか相応しくないのです」
「君は何を言っているんだ。どんな女性にも、誠実な男しか相応しくないさ。君にもだ」
「……え?」
不意を突いて崩せた。
だが、まあ、真実だ。
「安心してくれ。俺はアニーが好きなんだ。可愛いし、面白い。だから、アニーが乗り気じゃないなら手は出さないさ」
「口説きましたよね?」
「いつ?」
「フライパンを。あれは、あなたの入れ知恵でしょう」
「ああ、そうだ。口説くのと手を出すのは違う。ところで、君には……そうだなぁ。ひ弱な性格だけど従順で可愛い尻に敷けるタイプの男か、高潔で能力の高いストイックで熟練の腕を持つ尊敬できるタイプの男がいいだろう」
「え?」
また崩せた。
だが、まあ、事実だろう。
人を見る目はある。
だから旅のお伴に抜擢された。
「君は上下関係ありきって感じだから、絶対そうだ。で、俺みたいな煩い奴は、好みじゃない」
「……ひ弱で可愛くても、馬鹿は嫌です」
「従順でも?」
「程度によります。這い蹲るなら」
おお、言うね。
「ですが、私のような身分の女に頭を下げるような情けない殿方は、論外です」
「俺の知り合いで博士と医者と錬金術師と、教皇庁の書庫管理を任された若い俗世神父がいる」
「なるほど……」
ルイーゼが笑った。
それはもう、美しくて恐ろしい笑顔だった。
「私を男で釣ろうというおつもりですね。姑息な手を。私が恋に恋すれば自分の邪魔はしないだろうと。甘いです。私がまだ誰も愛していないなんて、どうして思われたんでしょう……ふふふ、ウフフフフ」
やっべ、怖え。
「ん、まあ、落ち着け。悪かった。君に敬意を表して、秘密を打ち明けるよ。お見事! 俺はマルセル・ラウファー、ハーティング伯爵令息だ。そして主はコンラート・ヴェーグマン。あちこちにあるヴェーグマン家のうちで、最高位のヴェーグマン。そう、コンラート様は、我が王国の第二王子コンラート=オズヴァルド殿下、フリック公爵、その人だ。今度公国になるんで、御妃探しの旅をしてる」
そんな上手い話しがあるか。
大法螺吹きめ!
というような反応は覚悟していた。
だが、ルイーゼは俺の予想を超えて来た。
「……それが嘘か真実かは今重要ではありません」
「へ?」
なんで?
「今重要なのは、あなたが、何処を崩せばいいか心得ている策士だという事です……」
「うっ」
「マルセル卿。私が、銃剣しか扱えない無能だと思いますか?」
風が吹いた。
死闘を繰り広げた。
「まあ、アニーに!?」
「ええ。料理の天才と聞いたので。ここの料理長愛用の逸品の、予備をひとつ譲って貰ったのです。検品済みの、新品です。ぶんどってはいませんよ? でも、あなたに金額の話は無粋でしょう? ぶんどっていません。神に誓って本当です」
「信じます」
「よかった。昨夜、魚はどうでした?」
「美味しく頂きました。焚火で焼き慣れた様子だったので、つい慢心してしまって……そうねぇ、アニーは料理人なんだもの。いつまでも、このままではいけないわ。ありがとうございます、コンラート卿。心の篭った贈り物、感激です」
「あなたは使用人を大切にしている。ツムシュテークの領民も。あなたには、類稀なる経営手腕だけでなく、愛がある。本当に素晴らしい方だ」
「褒めすぎです。さあ、アニー。いらっしゃい。お礼を言って」
「ファアアアアッ! あうっ、あぅっ、うっ、うっ、うっ」
「あなたのフライパンよ」
「あ゛りがとうごじゃいばすぅぅぅぅぅぅッ!!」
なんて美しい光景なんだ……。
俺は、いい主に恵まれて、いい主もいい妃に恵まれそうで、俺も可愛いガールに恵まれそう。人生って最高。
アニーって、釣りはしないのか?
いつも手掴み?
「……」
可愛いクマさんめ。
そんな感じて最初のランチはうまくいって、帰ってからずっとほくほくしっぱなしの主が
「ひとりにしてくれ……ときめきを、噛み締めたい」
と真顔で言うので、俺ひとりで散歩に出た。
アニーは、もう一人きりで森に入ったりしないだろうし、夕焼けに染まった空の下でそよ風に吹かれて──
「マルセル卿」
「ん?」
振り向いてしまった。
夕焼けに染まるルイーゼが、かなり近くに立っていた。
しまった。
「やはり」
「ん?」
「あなたも身分を隠していらっしゃる」
「んっふ? なんの事かな?」
「マルセル卿とお呼びしたら振り向かれましたよね。瞬時に」
「ああ、慣れてるから」
「ではメイドに手をつけるのも慣れていらっしゃる?」
そよ風のような可憐な殺意が、俺を刺す。
チクチク。チクチク、と。
油断ならない。
「アニーに手を出さないでください」
「なぜ君に言われなければならない?」
このルイーゼというメイドとは、本気で向き合う必要がありそうだ。
「アニーは心と体と頭に境目がないタイプなのです。弄ばれても、それを愛だと妄信します。そして痛みを引き摺るでしょう。壊れてしまうかもしれません。あの子は純粋です。あの子には誠実な男しか相応しくないのです」
「君は何を言っているんだ。どんな女性にも、誠実な男しか相応しくないさ。君にもだ」
「……え?」
不意を突いて崩せた。
だが、まあ、真実だ。
「安心してくれ。俺はアニーが好きなんだ。可愛いし、面白い。だから、アニーが乗り気じゃないなら手は出さないさ」
「口説きましたよね?」
「いつ?」
「フライパンを。あれは、あなたの入れ知恵でしょう」
「ああ、そうだ。口説くのと手を出すのは違う。ところで、君には……そうだなぁ。ひ弱な性格だけど従順で可愛い尻に敷けるタイプの男か、高潔で能力の高いストイックで熟練の腕を持つ尊敬できるタイプの男がいいだろう」
「え?」
また崩せた。
だが、まあ、事実だろう。
人を見る目はある。
だから旅のお伴に抜擢された。
「君は上下関係ありきって感じだから、絶対そうだ。で、俺みたいな煩い奴は、好みじゃない」
「……ひ弱で可愛くても、馬鹿は嫌です」
「従順でも?」
「程度によります。這い蹲るなら」
おお、言うね。
「ですが、私のような身分の女に頭を下げるような情けない殿方は、論外です」
「俺の知り合いで博士と医者と錬金術師と、教皇庁の書庫管理を任された若い俗世神父がいる」
「なるほど……」
ルイーゼが笑った。
それはもう、美しくて恐ろしい笑顔だった。
「私を男で釣ろうというおつもりですね。姑息な手を。私が恋に恋すれば自分の邪魔はしないだろうと。甘いです。私がまだ誰も愛していないなんて、どうして思われたんでしょう……ふふふ、ウフフフフ」
やっべ、怖え。
「ん、まあ、落ち着け。悪かった。君に敬意を表して、秘密を打ち明けるよ。お見事! 俺はマルセル・ラウファー、ハーティング伯爵令息だ。そして主はコンラート・ヴェーグマン。あちこちにあるヴェーグマン家のうちで、最高位のヴェーグマン。そう、コンラート様は、我が王国の第二王子コンラート=オズヴァルド殿下、フリック公爵、その人だ。今度公国になるんで、御妃探しの旅をしてる」
そんな上手い話しがあるか。
大法螺吹きめ!
というような反応は覚悟していた。
だが、ルイーゼは俺の予想を超えて来た。
「……それが嘘か真実かは今重要ではありません」
「へ?」
なんで?
「今重要なのは、あなたが、何処を崩せばいいか心得ている策士だという事です……」
「うっ」
「マルセル卿。私が、銃剣しか扱えない無能だと思いますか?」
風が吹いた。
死闘を繰り広げた。
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