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9 別荘とフライパンと秘密
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「ねえ、ルイーゼ。あのフライパンは鉄よね? だったら、焚火でも使えるのかしら。こう、火の上に、乗せる感じで」
「はい、ロミルダ様」
「ああ、よかった。3つまで候補を絞り込んだのだけれど、迷ってしまって。一つは新しくて完璧で可愛いのだけれどちょっと小ぶりだし、一つは寝室の窓のず……っと向こうではあるけれど窓と窓が見つめあってるし、一つは間取りがいいけど古くて幽霊の噂があるし。一長一短よね。迷うわぁ」
「ロミルダ様、幽霊はいません」
「アニーはそう思ってない」
「たしかに」
フライパンを抱いて眠るアニーの姿が、もう、いじらしくって。
私はかなり真剣に別荘の購入を検討している。
「間に、木を植える? 土地の権利を確認しないと」
「あの屋敷がお気に召していらっしゃるのですね」
「厨房が完璧」
ルイーゼも大切だけど、アニーも可愛いのよ。
「それにほら。木が植えられたら、そこに的をつけてあなたの射撃場を誂えてもいいわ」
「土地の権利を確認しに行きましょう。侯爵領で手つかずならば、賄賂で頂けるかも」
「そうよね。私も、そう思う」
支度を整え宿を出る際、厨房を覗いた。
コンラート卿の計らいで、アニーが宿の料理長から郷土料理を習っている。
「まあ、活き活きとして……」
やっぱり、別荘はあそこにしましょう。
アニーには最高の厨房こそ相応しいわ。
木を植えられないなら、ず……っと向こうのお向かいさんに、賄賂を払う。
「……」
そっちのほうが安上がりね。
でも後々の利益を考えると、はやり土地の特性を──
「ロミルダ様」
ルイーゼの声をきっかけに私たちは歩き出した。
「なに?」
「コンラート様、いい方ですね」
「ええ」
「差し出がましいようですが……気になりませんか? あの方、まだ爵位を伏せていらっしゃいます」
「ええ、そうね」
「?」
私のあっさりした相槌が、ルイーゼには意外だった様子。
ルイーゼは抜け目なく、優秀で、とてもしっかりしている。警戒するのは当然。だから、私の考えを伝えておくほうがいいと気づいた。
「だけど、大丈夫よ。あの方、ちゃんとした貴族でしょう。秘密はあるけど、嘘はない。誠実な方よ」
「……はぁ」
「それに気持ちがわかるわ。私だって、過去の嫌な出来事を全部なかった事にして、別人ですって顔して息抜きしたいもの」
「そうなのですか?」
「アレの妻だったのよ? でも、得た物は大きいし、大切だし、忘れないわ。それに私は私。だからロミルダの名前一つで旅をしている。きっとあの方も、理由があって名前一つで旅をしているのよ」
「……ロミルダ様が、そう仰るなら……わかりました」
私は、なんだか愛しさがこみ上げて、立ち止まってルイーゼの腕に触れた。そして風にそよぐ彼女の前髪を、耳にかける。少し驚いたように、照れたように、珍しくルイーゼが俯いた。
「ありがとう、ルイーゼ。でも、大丈夫。いざとなったら、あなたが守ってくれるでしょう?」
「はい、もちろんです」
「行きましょう」
「はい、ロミルダ様」
また歩き出して、私は知らず知らず、空を見あげていた。
「んー……でも、なんだか見覚えがある気もするのよねぇ……」
「頻繁に顔を合わせるわけではないものの、ひとつの場所に同時にいたという事があったのかもしれませんね」
「あなたも一度見た顔は忘れないでしょう? だから、もしそうなら、あなたが傍にいなかった時よねぇ……式典?」
「えっ?」
あ、また珍しくルイーゼが驚いた。
年相応に見える時って、すごく可愛い。
「はい、ロミルダ様」
「ああ、よかった。3つまで候補を絞り込んだのだけれど、迷ってしまって。一つは新しくて完璧で可愛いのだけれどちょっと小ぶりだし、一つは寝室の窓のず……っと向こうではあるけれど窓と窓が見つめあってるし、一つは間取りがいいけど古くて幽霊の噂があるし。一長一短よね。迷うわぁ」
「ロミルダ様、幽霊はいません」
「アニーはそう思ってない」
「たしかに」
フライパンを抱いて眠るアニーの姿が、もう、いじらしくって。
私はかなり真剣に別荘の購入を検討している。
「間に、木を植える? 土地の権利を確認しないと」
「あの屋敷がお気に召していらっしゃるのですね」
「厨房が完璧」
ルイーゼも大切だけど、アニーも可愛いのよ。
「それにほら。木が植えられたら、そこに的をつけてあなたの射撃場を誂えてもいいわ」
「土地の権利を確認しに行きましょう。侯爵領で手つかずならば、賄賂で頂けるかも」
「そうよね。私も、そう思う」
支度を整え宿を出る際、厨房を覗いた。
コンラート卿の計らいで、アニーが宿の料理長から郷土料理を習っている。
「まあ、活き活きとして……」
やっぱり、別荘はあそこにしましょう。
アニーには最高の厨房こそ相応しいわ。
木を植えられないなら、ず……っと向こうのお向かいさんに、賄賂を払う。
「……」
そっちのほうが安上がりね。
でも後々の利益を考えると、はやり土地の特性を──
「ロミルダ様」
ルイーゼの声をきっかけに私たちは歩き出した。
「なに?」
「コンラート様、いい方ですね」
「ええ」
「差し出がましいようですが……気になりませんか? あの方、まだ爵位を伏せていらっしゃいます」
「ええ、そうね」
「?」
私のあっさりした相槌が、ルイーゼには意外だった様子。
ルイーゼは抜け目なく、優秀で、とてもしっかりしている。警戒するのは当然。だから、私の考えを伝えておくほうがいいと気づいた。
「だけど、大丈夫よ。あの方、ちゃんとした貴族でしょう。秘密はあるけど、嘘はない。誠実な方よ」
「……はぁ」
「それに気持ちがわかるわ。私だって、過去の嫌な出来事を全部なかった事にして、別人ですって顔して息抜きしたいもの」
「そうなのですか?」
「アレの妻だったのよ? でも、得た物は大きいし、大切だし、忘れないわ。それに私は私。だからロミルダの名前一つで旅をしている。きっとあの方も、理由があって名前一つで旅をしているのよ」
「……ロミルダ様が、そう仰るなら……わかりました」
私は、なんだか愛しさがこみ上げて、立ち止まってルイーゼの腕に触れた。そして風にそよぐ彼女の前髪を、耳にかける。少し驚いたように、照れたように、珍しくルイーゼが俯いた。
「ありがとう、ルイーゼ。でも、大丈夫。いざとなったら、あなたが守ってくれるでしょう?」
「はい、もちろんです」
「行きましょう」
「はい、ロミルダ様」
また歩き出して、私は知らず知らず、空を見あげていた。
「んー……でも、なんだか見覚えがある気もするのよねぇ……」
「頻繁に顔を合わせるわけではないものの、ひとつの場所に同時にいたという事があったのかもしれませんね」
「あなたも一度見た顔は忘れないでしょう? だから、もしそうなら、あなたが傍にいなかった時よねぇ……式典?」
「えっ?」
あ、また珍しくルイーゼが驚いた。
年相応に見える時って、すごく可愛い。
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