婚約破棄されたので30キロ痩せたら求婚が殺到。でも、選ぶのは私。

百谷シカ

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6 雪と月とキス

 そして泥酔したダニエルを介抱できるのも、私だけだ。
 そこらの男よりは大きい私なら彼の腕を担いで胴を持てば簡単に運べるし、押し処も引き処も心得ているからいいんだけど。


「潰れるまで飲むなんて、よほど破産が恐いのね」


 数歩先で従者に指示を出しているキャロルには聞こえないよう、ダニエルの耳に低く囁く。うーだのあーだの呻くダニエルを励ましたり揶揄ったりしながら馬車に乗せたら、へらっと笑って手を引かれた。


「私は一緒に行かないわよ」

「おやすみ、オーロラ姫」

「!」


 手の甲にキスされ、びっくりした。
 すると続けて馬車に乗り込もうとしていたキャロルが、私に掴まって、


「おやすみなさい、オーロラ姫」


 と、頬にキスした。
 

「おやすみなさい、キャロル姫」


 と、私も可愛いキャロルの頬にキスをした。


「あー、ずるい。俺は?」

「お兄様の分際でオーロラにキスしてもらおうなんて100年早いわよ」


 手をふる兄妹に手をふり返し、私は自分の従者と馬車に向かった。
 
 寒い月夜で、雪が降り続けている。
 そもそもこの寒さから逃れるために、砂漠の別荘で過ごしてきたのだ。
 首を竦めて肩を震わせ、歯もガタガタ言わせながら馬車に乗り込む。


「あー、寒い!」


 握り合わせた手を口元に持ってきて息を吹きかけようとした瞬間、思い出した。
 さっき、柄にもなくダニエルがキスした手の甲だ。


「……」


 深く考えるのはやめた。
 酔っぱらった男について、真面目に考えてやる必要はない。

 それに、来月末に開かれる侯爵家の晩餐会でまた顔を合わせるのだ。
 そのときに揶揄う材料ができただけ、儲けものだった。

 数件の求婚を捌いているうちに、日々はあっという間に過ぎた。
 その中には元婚約者である公爵からの手紙もあった。宮廷で噂を聞き、誰が見せたのか新しい肖像画も目にして、復縁を持ちかけてきたのだ。

 
「いやいや」


 自分がなんと言い放ったか、お忘れか?
 鏡を見ろデブ、だ。


「いい奥さん見つけてください、公爵様」


 手紙は破って暖炉にくべた。
 そして身支度を整え、晩餐会へ向けての旅に出た。

 そしてそして、この晩餐会で、私は驚愕の体験をする事になったのだ。

 雪が降っていた。
 それを忘れるほど、大広間は華やかで賑やかだった。
 人も多かったし、料理は美味しそうだし、寒い中で婚活を頑張っているご褒美に肉をそこそこ食べたり忙しかった。

 すると、ひとりの貴族が接近してきた。
 年は近そうだけれど、見た事のない男だった。

 他愛ない挨拶を交わした後、彼は狩りの穴場を教えてくれるときのような声音で言ったのだ。


「あなたに結婚を申し込みたい」

「……」


 鼻息がない分、好感は持てた。
 ただ問題は、この男が、キャロルの恋焦がれている伯爵令息チャーリー・ハズウェルだという事だ。顔を見た事がなくても、本人がそう名乗ったのだから確実だ。

 まずい。


「実は私も婚約をひとつ白紙にしました。あなたの精神力には感嘆するばかりです。その強さに惹かれたのです。よかったら静かな場所で話でも──」


 はるか背後のバルコニーをわずかな手ぶりで示したチャーリーと目を合わせているのも気まずくて、私はバルコニーに目線を投げた。

 そこにキャロルがいた。
 知らない男と一緒だった。
 そして雪を浴び月の下でキスされていた。


「!」


 ばしん、と。チャーリーの腕を叩いていた。


「痛っ」


 もう2発。


「いっ、な……ッ。落ち着いてください」


 私より少し小さいチャーリーの両腕を掴んでくるりと回し、バルコニーを見せる。


「……」

「ダニエルどこ」

「ん? グランヴィル兄妹をご存知でしたか?」

「いいから探しなさい。あと、あなたとは婚約しない。キャロルは大切な親友なの」

「ああ、彼女なら妹のようなものですよ」

「──」


 一捻りにしてやろうかと思ったけど、後回しだ。
 ダニエルを探さなければ。
感想 7

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