婚約破棄されたので30キロ痩せたら求婚が殺到。でも、選ぶのは私。

百谷シカ

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9 山荘にて

 嬉しい夜から数日後。
 私は、ダンフォード造船所の男爵令嬢とハズウェル子爵の結婚の記事を探して、過去数週間分の新聞をあさっていた。

 そして、見つけた。
 
 
「ふぅん。へえ、音楽学校を開業……やるわね」


 チャーリーの弟ヘイデンは、領地の端を子爵として治めながら、夫婦で音楽学校を経営する方針らしい。ダニエルも貸別荘をやるとか言っていた。やはり最近はそういうのが流行りなのだ。
 キャロルも次期伯爵である子爵との結婚が決まったし、私も頑張らないと。

 でも、その前に。

 キャロルがグランヴィル家所有の山荘に招いてくれた。
 馬車で乗りつけた私は、内々の婚約祝いで父が持たせてくれたワインの樽を転がしながら、白い息を吐いて叫んだ。


「ダニエル! キャロル! 来たわよ!!」


 直後に扉が開いたから、窓から馬車の到着を見つけていたのだろう。
 防寒着に包まれたキャロルは玄関脇に留まり、手を振っている。そしてダニエルは雪を踏みしめ走ってきた。


「オーロラ、大丈夫だった?」

「ああ、少し吹雪いたけどね。あっちに干し肉が積んであるから運んで」

「わかった。気をつけろよ」

「私を誰だと思って……くしゅん!」


 くしゃみが出た。
 冬は、慣れてないから。

 
「シチューがあるから。早く中で温まれ」

「おじ様たちは?」

「いやぁ、砂漠行ってる」

「あ。じゃあ、あなたたちだけなの?」

「ああ」

「そう。ダニエル、荷物よろしくね」

「ああ、任せろ」


 雪に轍を残しながら、残り僅かの距離、樽を転がす。
 玄関のキャロルが口に手をあてて中に怒鳴った。


「チャーリー! ちょっと来て!」


 チャーリーもいるみたい。
 冬空の下に姿を現したチャーリーは、私を見て無言で眉をあげた。動きやすい男装で、編んだ髪を左肩に垂らしている。別荘地で過ごすときのいつもの格好は門外不出だったのに、バレてしまって残念。


「体が大きいと、ドレス以外にも着られるものがあるのよ」

「俺になにをさせたいんだ、キャロル」

「オーロラを手伝って」

「俺より強そうなのに」


 不服を言おうと、チャーリーは私と一緒に酒樽を運び入れてくれた。ふたりの幼馴染だけあって、やっぱり憎めない男だ。


「キャロル、お招きありがとう。他に誰が来てるの?」

「あとはジョシュアだけよ」

「そう。私、チャーリーとは結婚しないわよ?」

「当然よ。オーロラにはもっと素敵な人じゃないと」


 キャロルが私の肩から雪を払う。


「痩せたからっていい気になるな」

「あら、ごめん遊ばせ。それであなた、求婚の進捗は?」

「うるさい」

「これはキャロルに父からのお祝いだけど、あなたも弟が結婚したばかりだから飲んでもいいわよ」


 軽く肩を叩いて揶揄うと、チャーリーは凝然と私を見つめ、首を振りながら溜息をついた。


「はあ。貰い手がないわけだ」

「違う。じゃんじゃん舞い込むけど決められないだけ」

「オーロラ、求婚されたの?」


 外套にキャロルの手がかかった。
 砂漠の別荘地では上着を脱ぐような機会はない。着ないから。でもダニエルの面倒を見慣れているキャロルは、手際よく私の外套を脱がせてくれた。


「痩せてから殺到してる」

「そうよね。だって、こんなに綺麗なんだもの」

「調子よすぎよ」

「たしかに! 痩せる前だってオーロラは素敵だったわ」

「男みたいな姿を見せたらいい。収束する」

「チャーリー。お兄様が荷物を運んでるんだけど、そっちも手伝う?」

「いや、樽を運ぶ」


 チャーリーが酒樽を転がしていく先に、厨房があるのだろう。
 

「そういえば、あなたのジョシュアは?」

「来る途中に風邪をひいて、ずっと寝てるわ」

「それは心配ね」

「いつもの事よ」


 どさり、と音がした。
 両手ですべての荷物を運んでこれたダニエルに、ちょうどいいご褒美がある。チャーリーの消えた先を指差して微笑んだら、ダニエルがキャロルの腕から私の外套をひったくった。


「?」

「オーロラ、馬を頼む。俺じゃ嫌らしい」

「役立たず」


 キャロルが唇をすぼませ、ダニエルを睨んだ。
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