9 / 12
9 山荘にて
嬉しい夜から数日後。
私は、ダンフォード造船所の男爵令嬢とハズウェル子爵の結婚の記事を探して、過去数週間分の新聞をあさっていた。
そして、見つけた。
「ふぅん。へえ、音楽学校を開業……やるわね」
チャーリーの弟ヘイデンは、領地の端を子爵として治めながら、夫婦で音楽学校を経営する方針らしい。ダニエルも貸別荘をやるとか言っていた。やはり最近はそういうのが流行りなのだ。
キャロルも次期伯爵である子爵との結婚が決まったし、私も頑張らないと。
でも、その前に。
キャロルがグランヴィル家所有の山荘に招いてくれた。
馬車で乗りつけた私は、内々の婚約祝いで父が持たせてくれたワインの樽を転がしながら、白い息を吐いて叫んだ。
「ダニエル! キャロル! 来たわよ!!」
直後に扉が開いたから、窓から馬車の到着を見つけていたのだろう。
防寒着に包まれたキャロルは玄関脇に留まり、手を振っている。そしてダニエルは雪を踏みしめ走ってきた。
「オーロラ、大丈夫だった?」
「ああ、少し吹雪いたけどね。あっちに干し肉が積んであるから運んで」
「わかった。気をつけろよ」
「私を誰だと思って……くしゅん!」
くしゃみが出た。
冬は、慣れてないから。
「シチューがあるから。早く中で温まれ」
「おじ様たちは?」
「いやぁ、砂漠行ってる」
「あ。じゃあ、あなたたちだけなの?」
「ああ」
「そう。ダニエル、荷物よろしくね」
「ああ、任せろ」
雪に轍を残しながら、残り僅かの距離、樽を転がす。
玄関のキャロルが口に手をあてて中に怒鳴った。
「チャーリー! ちょっと来て!」
チャーリーもいるみたい。
冬空の下に姿を現したチャーリーは、私を見て無言で眉をあげた。動きやすい男装で、編んだ髪を左肩に垂らしている。別荘地で過ごすときのいつもの格好は門外不出だったのに、バレてしまって残念。
「体が大きいと、ドレス以外にも着られるものがあるのよ」
「俺になにをさせたいんだ、キャロル」
「オーロラを手伝って」
「俺より強そうなのに」
不服を言おうと、チャーリーは私と一緒に酒樽を運び入れてくれた。ふたりの幼馴染だけあって、やっぱり憎めない男だ。
「キャロル、お招きありがとう。他に誰が来てるの?」
「あとはジョシュアだけよ」
「そう。私、チャーリーとは結婚しないわよ?」
「当然よ。オーロラにはもっと素敵な人じゃないと」
キャロルが私の肩から雪を払う。
「痩せたからっていい気になるな」
「あら、ごめん遊ばせ。それであなた、求婚の進捗は?」
「うるさい」
「これはキャロルに父からのお祝いだけど、あなたも弟が結婚したばかりだから飲んでもいいわよ」
軽く肩を叩いて揶揄うと、チャーリーは凝然と私を見つめ、首を振りながら溜息をついた。
「はあ。貰い手がないわけだ」
「違う。じゃんじゃん舞い込むけど決められないだけ」
「オーロラ、求婚されたの?」
外套にキャロルの手がかかった。
砂漠の別荘地では上着を脱ぐような機会はない。着ないから。でもダニエルの面倒を見慣れているキャロルは、手際よく私の外套を脱がせてくれた。
「痩せてから殺到してる」
「そうよね。だって、こんなに綺麗なんだもの」
「調子よすぎよ」
「たしかに! 痩せる前だってオーロラは素敵だったわ」
「男みたいな姿を見せたらいい。収束する」
「チャーリー。お兄様が荷物を運んでるんだけど、そっちも手伝う?」
「いや、樽を運ぶ」
チャーリーが酒樽を転がしていく先に、厨房があるのだろう。
「そういえば、あなたのジョシュアは?」
「来る途中に風邪をひいて、ずっと寝てるわ」
「それは心配ね」
「いつもの事よ」
どさり、と音がした。
両手ですべての荷物を運んでこれたダニエルに、ちょうどいいご褒美がある。チャーリーの消えた先を指差して微笑んだら、ダニエルがキャロルの腕から私の外套をひったくった。
「?」
「オーロラ、馬を頼む。俺じゃ嫌らしい」
「役立たず」
キャロルが唇をすぼませ、ダニエルを睨んだ。
私は、ダンフォード造船所の男爵令嬢とハズウェル子爵の結婚の記事を探して、過去数週間分の新聞をあさっていた。
そして、見つけた。
「ふぅん。へえ、音楽学校を開業……やるわね」
チャーリーの弟ヘイデンは、領地の端を子爵として治めながら、夫婦で音楽学校を経営する方針らしい。ダニエルも貸別荘をやるとか言っていた。やはり最近はそういうのが流行りなのだ。
キャロルも次期伯爵である子爵との結婚が決まったし、私も頑張らないと。
でも、その前に。
キャロルがグランヴィル家所有の山荘に招いてくれた。
馬車で乗りつけた私は、内々の婚約祝いで父が持たせてくれたワインの樽を転がしながら、白い息を吐いて叫んだ。
「ダニエル! キャロル! 来たわよ!!」
直後に扉が開いたから、窓から馬車の到着を見つけていたのだろう。
防寒着に包まれたキャロルは玄関脇に留まり、手を振っている。そしてダニエルは雪を踏みしめ走ってきた。
「オーロラ、大丈夫だった?」
「ああ、少し吹雪いたけどね。あっちに干し肉が積んであるから運んで」
「わかった。気をつけろよ」
「私を誰だと思って……くしゅん!」
くしゃみが出た。
冬は、慣れてないから。
「シチューがあるから。早く中で温まれ」
「おじ様たちは?」
「いやぁ、砂漠行ってる」
「あ。じゃあ、あなたたちだけなの?」
「ああ」
「そう。ダニエル、荷物よろしくね」
「ああ、任せろ」
雪に轍を残しながら、残り僅かの距離、樽を転がす。
玄関のキャロルが口に手をあてて中に怒鳴った。
「チャーリー! ちょっと来て!」
チャーリーもいるみたい。
冬空の下に姿を現したチャーリーは、私を見て無言で眉をあげた。動きやすい男装で、編んだ髪を左肩に垂らしている。別荘地で過ごすときのいつもの格好は門外不出だったのに、バレてしまって残念。
「体が大きいと、ドレス以外にも着られるものがあるのよ」
「俺になにをさせたいんだ、キャロル」
「オーロラを手伝って」
「俺より強そうなのに」
不服を言おうと、チャーリーは私と一緒に酒樽を運び入れてくれた。ふたりの幼馴染だけあって、やっぱり憎めない男だ。
「キャロル、お招きありがとう。他に誰が来てるの?」
「あとはジョシュアだけよ」
「そう。私、チャーリーとは結婚しないわよ?」
「当然よ。オーロラにはもっと素敵な人じゃないと」
キャロルが私の肩から雪を払う。
「痩せたからっていい気になるな」
「あら、ごめん遊ばせ。それであなた、求婚の進捗は?」
「うるさい」
「これはキャロルに父からのお祝いだけど、あなたも弟が結婚したばかりだから飲んでもいいわよ」
軽く肩を叩いて揶揄うと、チャーリーは凝然と私を見つめ、首を振りながら溜息をついた。
「はあ。貰い手がないわけだ」
「違う。じゃんじゃん舞い込むけど決められないだけ」
「オーロラ、求婚されたの?」
外套にキャロルの手がかかった。
砂漠の別荘地では上着を脱ぐような機会はない。着ないから。でもダニエルの面倒を見慣れているキャロルは、手際よく私の外套を脱がせてくれた。
「痩せてから殺到してる」
「そうよね。だって、こんなに綺麗なんだもの」
「調子よすぎよ」
「たしかに! 痩せる前だってオーロラは素敵だったわ」
「男みたいな姿を見せたらいい。収束する」
「チャーリー。お兄様が荷物を運んでるんだけど、そっちも手伝う?」
「いや、樽を運ぶ」
チャーリーが酒樽を転がしていく先に、厨房があるのだろう。
「そういえば、あなたのジョシュアは?」
「来る途中に風邪をひいて、ずっと寝てるわ」
「それは心配ね」
「いつもの事よ」
どさり、と音がした。
両手ですべての荷物を運んでこれたダニエルに、ちょうどいいご褒美がある。チャーリーの消えた先を指差して微笑んだら、ダニエルがキャロルの腕から私の外套をひったくった。
「?」
「オーロラ、馬を頼む。俺じゃ嫌らしい」
「役立たず」
キャロルが唇をすぼませ、ダニエルを睨んだ。
あなたにおすすめの小説
不器用な氷の王子は幼馴染を離さない。元婚約者は勝手に破滅中!
ムラサメ
恋愛
王太子エドワードから「無能な書類女」と蔑まれ、公開婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢エルナ。絶望する彼女の前に現れたのは、隣国の「氷の王子」アルフレッドだった。
強引に彼に連れ去られたエルナだが、実は彼はかつて彼女の後ろをついて回っていた泣き虫な幼馴染で……!?
「昔の俺は忘れろ」と冷徹に振る舞おうとする彼だけど、新生活の準備が過剰すぎて溺愛がダダ漏れ!
一方、エルナを失った母国は経済崩壊の危機に陥り、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが――。
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?
江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。
大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて……
さっくり読める短編です。
異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。
佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。
だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。
その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。
クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。
ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。
【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります
禅
恋愛
妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。
せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。
普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……
唯一の味方は学友のシーナのみ。
アリーシャは幸せをつかめるのか。
※小説家になろうにも投稿中
侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。
和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」
同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。
幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。
外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。
しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。
人間、似た物同士が夫婦になるという。
その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。
ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。
そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。
一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。
他の投稿サイトにも掲載しています。
ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。