5 / 10
5 結婚に愛は要らない
しおりを挟む
私は手鏡で自分の顔を確認してみた。
「何をしている?」
「私、怒った顔していますね」
「ああ。それに、さっき一瞬、悲しそうだった」
「そうは見えませんけど」
「今は怒っている。たぶん、俺を不作法者だと言いたいのだろう」
「そんな、まさか」
笑ってみた。
すると元帥も口角をあげた。それが意外なほど素敵で、つい胸がときめく。
「俺は君に嫌な奴だと思われたくはないが、よく思ってもらう方法は贈り物くらいしか考えつかなかった。失敗したが、それでもいい。本題に入ろう」
「は、い?」
本題、とは。
医者の代金?
私も緊張しているけれど、侍女と使用人も固唾を呑んで食い入るように私たちを見ている。
「君を傷つけた男の名はいずれわかる」
「……なぜ?」
それが本題?
なんの調査?
「もう一度鏡を見るか? その顔は、困惑だ。次は?」
「想像もつきません」
「俺は想像している。タミー・アップショー。妻になってほしい」
「──」
電流が走るようだった。
血が沸騰したように感じた。
「ほら、驚いた。俺の想像より君はきれいだ」
「お茶のお代わりをどうぞ!」
いいタイミング。
私と元帥の間に見慣れた侍女の顔が割り込んできて、少しだけ冷静さを取り戻す事ができた。テーブルに手鏡を伏せて、とにかく笑顔を貼り付ける。
「うふふふふ」
馬鹿みたい。
媚びを売る頭の空っぽな令嬢みたい。
でも今の私は大差ない。
なんの案も浮かばない。
熱いお茶も入っちゃったし。
「タミー。君の笑顔を見る事ができて嬉しいよ。返事をくれるともっと嬉しい」
「返事って?」
「それは初心なふりか? 嫌なのか? 言ってくれなきゃわからないんだ。慣れてないから」
「表情を読むのはお上手でした、私、どう見えますか?」
「逃げ出したい」
「ええ、そうです」
元帥は一度唇を舐めて、穏やかに目を伏せた。
「その男が忘れられない?」
「まさか!」
それはない。
本当だ。
ただ、その前にはもう戻れないだけだ。
「急な、お話で……」
「どう断ればいいか考えているんだろう?」
「……」
唇を、封印した。
「俺は軍人だ。いつ死ぬかわからない男だ。だが、生涯いい暮らしを約束できる。俺が留守の間、自由にしてくれていい。あらゆる意味で友人を招いて楽しんでもらって構わない」
「え?」
今、聞き捨てならない事をサラッと言われた気がする。
「結婚に愛は必要ない」
しっかり続きがあるみたいだ。
「君が俺を愛する必要はない。その後、愛を見つけたら、大事にするといい」
「待って」
「断る理由が思いついたか?」
「質問です。それは、貴方も外で愛を見つけるという、宣言でしょうか」
「いや、違う」
断言されても、ぜんぜん嬉しくない。
「もういらっしゃるなら、その方とご結婚なさればいいのでは?」
「それも違う。俺は昨日、君に心を奪われた。俺の差し出せる全てを差し出す事で、君を俺の一部にしたい」
「何をしている?」
「私、怒った顔していますね」
「ああ。それに、さっき一瞬、悲しそうだった」
「そうは見えませんけど」
「今は怒っている。たぶん、俺を不作法者だと言いたいのだろう」
「そんな、まさか」
笑ってみた。
すると元帥も口角をあげた。それが意外なほど素敵で、つい胸がときめく。
「俺は君に嫌な奴だと思われたくはないが、よく思ってもらう方法は贈り物くらいしか考えつかなかった。失敗したが、それでもいい。本題に入ろう」
「は、い?」
本題、とは。
医者の代金?
私も緊張しているけれど、侍女と使用人も固唾を呑んで食い入るように私たちを見ている。
「君を傷つけた男の名はいずれわかる」
「……なぜ?」
それが本題?
なんの調査?
「もう一度鏡を見るか? その顔は、困惑だ。次は?」
「想像もつきません」
「俺は想像している。タミー・アップショー。妻になってほしい」
「──」
電流が走るようだった。
血が沸騰したように感じた。
「ほら、驚いた。俺の想像より君はきれいだ」
「お茶のお代わりをどうぞ!」
いいタイミング。
私と元帥の間に見慣れた侍女の顔が割り込んできて、少しだけ冷静さを取り戻す事ができた。テーブルに手鏡を伏せて、とにかく笑顔を貼り付ける。
「うふふふふ」
馬鹿みたい。
媚びを売る頭の空っぽな令嬢みたい。
でも今の私は大差ない。
なんの案も浮かばない。
熱いお茶も入っちゃったし。
「タミー。君の笑顔を見る事ができて嬉しいよ。返事をくれるともっと嬉しい」
「返事って?」
「それは初心なふりか? 嫌なのか? 言ってくれなきゃわからないんだ。慣れてないから」
「表情を読むのはお上手でした、私、どう見えますか?」
「逃げ出したい」
「ええ、そうです」
元帥は一度唇を舐めて、穏やかに目を伏せた。
「その男が忘れられない?」
「まさか!」
それはない。
本当だ。
ただ、その前にはもう戻れないだけだ。
「急な、お話で……」
「どう断ればいいか考えているんだろう?」
「……」
唇を、封印した。
「俺は軍人だ。いつ死ぬかわからない男だ。だが、生涯いい暮らしを約束できる。俺が留守の間、自由にしてくれていい。あらゆる意味で友人を招いて楽しんでもらって構わない」
「え?」
今、聞き捨てならない事をサラッと言われた気がする。
「結婚に愛は必要ない」
しっかり続きがあるみたいだ。
「君が俺を愛する必要はない。その後、愛を見つけたら、大事にするといい」
「待って」
「断る理由が思いついたか?」
「質問です。それは、貴方も外で愛を見つけるという、宣言でしょうか」
「いや、違う」
断言されても、ぜんぜん嬉しくない。
「もういらっしゃるなら、その方とご結婚なさればいいのでは?」
「それも違う。俺は昨日、君に心を奪われた。俺の差し出せる全てを差し出す事で、君を俺の一部にしたい」
74
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
薫る袖の追憶を捨て、月光の君に溺愛される
あとりえむ
恋愛
名門の姫君・茜は、夫の高彬に蔑まれ、寂れた離れで孤独な死を迎えた……
けれど意識が途切れた瞬間、視界を埋め尽くしたのは命を削って輝く緋色の夕映え。
目が覚めると、そこは高彬との婚約が決まったばかりの十五歳の春に戻っていた。
「二度目の人生では、誰のことも愛さず、ただあの方の幸せだけを願おう」
茜は、かつて自身の孤独を救ってくれた「最推し」の東宮・暁を、未来の知識で密かに支えることを決意する。
執着を捨て、元夫に無関心を貫く茜。
一方、高彬は自分に興味を失った茜の価値に気づき、今更遅い後悔に狂い始めるが……。
「見つけた。お前は俺の、運命の番だ」
正体を隠して東宮を支えていたはずが、冷徹な暁に見出され、逃げ場のないほどの執着と溺愛を注がれることに。
平安の雅な風情の中で描かれる、逆転と救済の物語。
最後は、二人が永遠の契りを交わす和歌で幕を閉じます。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
「やり直したい」と泣きつかれても困ります。不倫に溺れた三年間で私の心は死に絶えました〜捨てられた元妻、御曹司の傍らで元夫を静かに切り捨てる〜
唯崎りいち
恋愛
三年間の夫の不倫で心も生活も壊れた私。偶然出会ったレトルト食品に救われ、Webデザインで再出発。過去に縛られず、自分の人生を取り戻す静かな再生の物語。
『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~
スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」
聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。
実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。
森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。
「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」
捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる