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7 剣の舞とワルツを

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「殺してやる! ぬああああああああああっ!!」


 あまりの気迫に誰も動けなかった。
 
 ポンセ伯爵は、さっき正にモニクとアルフレッドが歩いたせいで蜘蛛の子が散るように見通しのよくなっていた道を一直線に駆け抜ける。

 殺人。

 その言葉が妙に真実味を持って、私は感情を失った。


「うあああああぁぁぁっ!!」

「きゃあああぁぁあぁぁっ!!」

「殺すなら殺せえぇぇぇぇっ!!」

「死ねえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 私は走り出した。

 誰もが凍り付いている中で、私は、なぜそんな事をしてしまったのかわからないのだけれど、ポンセ伯爵と汚れた不死鳥の間に入った。


「!」


 ポンセ伯爵の血走った眼差しを正面から受けて、我に返る。
 瞬間的にへっぴり腰になってしまう。

 でも、咄嗟に両手をポンセ伯爵に向けた。


「待って」

「……っ!」


 あなたがそれを言うのか。
 裏切り者。

 ポンセ伯爵の目はそう悲しみを告げてくる──けれど、次の瞬間。


「……」


 怒気が溶けた。
 そう、夢から覚めたように。

 私とポンセ伯爵の心が通じ合う。


『私たちは、なにに惑わされているの?』

『私たちは、真面目に付き合う必要があるの?』

『ぶっちゃけ、もうよくない?』


 コツ、コツ、コツ……優美な足音が近づいてきて、更に私とポンセ伯爵の間に、あのパンチを持ってきて私を介抱してくれた紳士が立った。そして、静かにポンセ伯爵に問うた。


「あなたは喜べないのか? を手放せた事を」

「……」

「人生は短い。に構うなど、愚の骨頂。それを収めてくれ」


 ポンセ伯爵はしばらく宙を見つめたあと、背筋を伸ばして立ち、剣を振った。
 まるで過去を断ち切るように。


 ──スワッシュ!


「スワッシュ……」


 これが、スワッシュだったのね。
 剣を激しく振るとこんな音がするなんて、教えてくれたのは、あなたの夫なのよ、モニク。


「あなたたちに愛を語る資格はないわ」


 私は思いのほか強い口調で、従姉妹と元婚約者に言い渡していた。
 ポンセ伯爵が剣を収める。ふしぎな夢から覚めたという、少し困惑交じりの顔で、額の汗を拭いている。

 パンチをくれて図書館の似合う紳士が、私の両肩をぐっと掴んで、まっすぐ立たせてくれた。


「なるほど、もう代わりを見つけたのかい。アニエス」

「アルフレッド……」


 その名を口にするのさえ悍ましい。


「君にお似合いの堅物で冷たそうな面白味のない男じゃないか。ああ、それで君の望む愛や結婚生活というものを築くと言い。それがどんなに虚しいか、砂を噛む思いをしながらね」

「無礼にも程がある」


 パンチの紳士が静かに憤怒を滾らせた。
 アルフレッドが(なぜか)せせら笑う。


「君は引っ込んでいたまえ。ポンセ伯爵といい、君といい。始まってもいないのに終わっている無粋な男どもは、愛のファイナル・ステージに相応しくない。第一、無礼は君たちのほうだろう? 私たちは今、シルヴェスト侯爵に直々に結婚の許可をお願いしているのだ。神聖で個人的な場面に土足で踏み込んでくるなど、君の心はまるで廃村かカタコンベだな」

「これは私の晩餐会だ。貴様に貸し出した覚えはない」

「えっ?」


 パンチの図書室紳士は忌々しそうにそう言って、シルヴェスト侯爵のほうへ歩いていく。するとシルヴェスト侯爵が彼を手招きして隣に立たせた。

 モニクが、なぜか胸を寄せる。


「今宵はお集まり頂き、心から感謝している。この度、国王陛下の勅令により辺境の地を収める事となった。ついては息子のジョフロワにシルヴェストの爵位を継承させようと思う。よろしく頼む」


 シルヴェスト侯爵の急な挨拶を受けて、パンチこと新シルヴェスト侯爵が不機嫌そうにアルフレッドを睨んだ。
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