上 下
12 / 15

12 止まぬ夫婦喧嘩

しおりを挟む
 それからしばらく忙しくて、うっかりしていたけど、ミレナは期待以上に静かになってしまった。まるで塞ぎ込んでしまったみたいに。


「こんな事になるなんて思わなかったの。私は彼女の助けになりたかったのよ。たとえそれが、彼女にとって我慢できないほど嫌な事だったとしてもね」

「わかっているよ、シュテファーニア。まだ気持ちが昂っているだけだ。感謝してる。落ち着けば以前のように元気なミレナに戻るさ」

「そこまでは望んでない」

「なにが不満なんだい? ミレナは今、心の傷を自分のペースで癒しているんだ。そっとしておけばいいじゃないか」

「気になるのよ!」

「おい。僕の可愛い奥さん? いったい僕と妹とどっちが大切なんだい?」

「それはあなたよ! そんな事もわからないのっ!?」

「でも君は以前に増してミレナの話ばかりじゃないか! 僕の顔を見ればミレナミレナミレナミレナ」

「やめて! 連呼しないで!!」

「君の半分以下だ!!」

「だってあなたの何倍も長い時間ミレナが私の傍にいたんだもの!!」

「僕だって君を膝に乗せて仕事ができればいいけど、大人になっちゃったんだから無理なんだ! 充分小さくて可愛いけどね!!」

「ありがとう! でもひとつだけ言わせてもらうけど、小さい小さいって毎回言われるとむかつくのよ! 舐められてるみたいでね!」

「えっ?」

「私は大人だし最近はめっきりエリカの母親みたいになってきたわ!」

「エリカは君の背丈を抜いた!」

「ええ! 気にしてるからやめてって言ってんの!! 馬鹿なのッ!? ほんっとに女心のわからない人ね!!」

「自分の妻を愛してなにが悪いんだ!!」

「小さいって言わないでって言ってるのが聞こえないのッ!? その耳はなんのためについてんのよ! あなたの愛情なら毎日朝晩四六時中ちゃんと感じてる!!」

「ああそうだろうね! 君に夢中だ!! 君はミレナに夢中だけどね!!」

「またその話!? じゃあもうひとつだけ言わせてもらうわ! あなたが蒸し返したんだからね!?」

「望むところだ!」

「ミレナは私に『小さい』って言わない」

「ぬっ……!」

「ほぅら。わかったでしょう? ミレナは鬱陶しいけど癪に障るような事は言わないの。女の子同士だから」

「ずるいぞ! 女心がわからないのは僕が兄だからでそればかりは不可抗力だ!! 姉だったら満足なのかッ!? そうしたら君と結婚できないぞ!!」

「姉は8人、もうお腹いっぱい」

「くそっ!」

「なにが悔しいのよ! あなた私の夫でしょうッ!? 世界にひとりきりよ!?」

「女心がわからないって言って僕を責めるじゃないか!!」

「責めてないわ! 事実を言っただけ!」

「じゃあ君が小さくて可愛いのも事実だ!!」

「事実を全部口に出さなきゃ満足できないわけ!? ミレナみたいに『可愛い』ってただそれだけ私に言えばいいじゃないッ!!」

「まぁ~たミレナか!」

「ミレナは『善い人』とも言ってくれた」

「ああそうかい! わかったぞ?」

「なによ」

「君は末っ子だけど威張りんぼだ。が欲しいんだな?」

「はあっ!?」

「残念だけどミレナは僕の妹だ」

「私だってミレナの義姉よ? あなたと結婚したからミレナは正真正銘、私の義妹いもうとだわ」

「僕はミレナと血の繋がった兄だ」

「私は血の繋がらない義姉あねだけど、血が繋がっていないのに姉妹なのよ? 私とミレナの関係って神秘的で素晴らしくない?」

「14人きょうだいの君の口から出た言葉とは信じられないな! 実の兄妹だって神秘的で素晴らしいだろう!!」

「ええそうね! 結婚して愛が増えて溢れて幸せよ!! 話を逸らさないで! 私はミレナの話をしてるの!!」

「僕がミレナの名前を出したときは不機嫌になったくせに! ひとつ言わせてもらうけど、ミレナを愛しているのは君だけじゃあないんだぞ!!」

「わかってるわよ! 私だってミレナを愛してるんだからっ!!」


 そのとき。


「やぁだ。ふたりで私を取り合ってる」

「「!?」」


 戸口でミレナがにんまんりと笑っている事に、気づいた。


「シュテファーニア!!」


 夫が叫ぶ。


「君を愛してる!!」

「だからなにッ!?」


 私も叫んだ。


「やっと部屋から出て来た妹が見えないわけ!?」

「嘘だろ!? ここは『私もあなたを愛してるわヴィンツェンツ』って言うところなはずだッ!!」

「今朝も昨夜も言ったわ! 昨日の昼も昨日の朝もね!!」


 直後、ついにミレナまで叫んだ。


「私のために争うのはやめてッ!!」

「「!!」」


 薔薇色に頬を染めて、ニマニマしてる年上の義妹。


「ふたりとも愛してるわ!!」

「……」

「……」

 
 ああ、帰って来た。


「おはよう。シュテファーニア。と、お兄様」

「私の勝ち♪」

「くそっ!」


 と、そこで私も我に返る。


「……」


 なんて不毛な喧嘩なの。
 信じられない。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄になりかけましたが、彼は私がいいそうです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,092

処理中です...