妹のせいで婚約破棄になりました。が、今や妹は金をせびり、元婚約者が復縁を迫ります。

百谷シカ

文字の大きさ
15 / 28

15 許されない想い

しおりを挟む
 もう子供じゃないのだし、このまま結婚しなくてもいい。
 ジェルマンには自分で思っていたほど未練があったわけでもなかったし、失ったものより得たもののほうが遥かに大きいような気がしてきた。

 一緒に生きていく人がほしいという意味でなら、デュモンがいる。
 これ以上踏み込んだら、……欲を出したら、いつか失ってしまうかもしれない。

 私は大人になって狡さを覚えた。
 
 私が結婚したら、デュモンは妬く?
 デュモンが結婚したら? 今なら、祝福できる。親友として。

 だけどもし彼と先へ進んでしまったら、親友のふりはできない。戻れない。
 

「ジェルマン……」


 懐かしい人との再会は、私に教えてくれた。
 彼とは、いいお友達になれる。戻れるのだと。一度は張り裂けた胸の痛みが、嘘みたいに。

 馬車が着いた。
 下りて御者を労い、小走りに中へ駆けこんだ時だった。


「!」


 物陰から誰かが飛び出してきて、ぶつかった。私はよろけて壁に激突した。
 小さい体。すぐに誰かわかった。

 ハイラだ。

 グングンの《河》はさすがに宿に入らないので、水汲み係と一緒にドルイユ伯爵家に滞在してもらっている。当然ハイラも客室棟で生活していて、グングンのお世話をしたり、町を散策したりして日々を過ごしていた。私を嫌っているから、顔を合わせる事はなかったけれど。
 そして、日常的にデュモンに会いに行くのも知っていた。


「! ! !」


 彼女のまっすぐな幼い愛が、私の事を許せないのは当然だった。
 ついさっき言われた彼の言葉が、耳に蘇る。

 昔の婚約者を招いて、泊めて、それで別の男性の部屋を訪ねたのだ。
 

「ハイラ、痛いわ。やめて」


 できるだけ優しくお願いしたけれど、彼女は私の鎖骨のあたりを強く殴ってから悪態をついて走り去った。
 悪い噂で中傷されるより、ずっと堪えた。私は壁に寄りかかったまま、長い事苦労して息を整えながら闇を見つめた。

 幼気な愛を引き裂く酷い大人に、今度は私がなっているのだ。
 言葉にできない哀しみと、諦めが胸を占めた。私は大人になったのだと。

 そして夜が明けた。

 すっかり気持ちの整理がついた私は、当主として客人であるジェルマンを朝食に招いた。理性を取り戻したのはジェルマンも同じようで、昔と変わらない穏やかな笑顔を、だいぶ大人になってしまった頬に乗せて、あれこれと取り留めもない話をしてくれた。彼もまた、私の人生のなかで、本当に大切な人である事はたしかだ。


「ありがとう、バルバラ」


 朝食を終えて、彼は優しく言った。


「ええ、こちらこそ」


 私も微笑みを返し、今日の予定を尋ねようと、彼を見つめたまま息を吸った。すると彼が徐に立ち上がり、食卓を回り込んで、私の傍らまで来て跪いた。


「……ジェ、ジェ、ジェルマン?」


 声が裏返る。
 壁際でセシャンも硬直している。

 一度は取り戻した理性が勢いよく羽ばたいていった。

 ……ああ……大変。
 ジェルマンが天鵞絨の小箱を出して、掌に乗せて、そして私に向かって蓋を開いちゃったわ。指輪が光ってる……。見た事ある懐かしい指輪……。


「男らしく申し込むよ。バルバラ、どうか僕と結婚してほしい」

「ジェ」

「何度でも申し込むよ。バルバラ、結婚してくれ」

「ジェ」


 次に私の呼びかけを遮ったジェルマンの言葉に、私は息を呑んだ。


「君が今、誰を愛していても構わない。結婚していたはずなんだから、君はずっと心の中で僕の妻だった。昔も今も、これからも、ずっとね」

「……」


 どうしよう。


「在るべき形に戻ろう。そうすれば、ちゃんと心はついてくるよ」

「どうかしら」


 急激に冷めていく私の心をどう説明したらいいの。

 それにしても友情って冷める事があるのね。初めて知った。
 またひとつ大人になったわ。
 

「バルバラ、愛してる!」

「えっ!?」

 
 急に伸びあがってきた彼に掌で頬を挟まれキスされるまで、1秒もなかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

不倫した妹の頭がおかしすぎて家族で呆れる「夫のせいで彼に捨てられた」妹は断絶して子供は家族で育てることに

佐藤 美奈
恋愛
ネコのように愛らしい顔立ちの妹のアメリア令嬢が突然実家に帰って来た。 赤ちゃんのようにギャーギャー泣き叫んで夫のオリバーがひどいと主張するのです。 家族でなだめて話を聞いてみると妹の頭が徐々におかしいことに気がついてくる。 アメリアとオリバーは幼馴染で1年前に結婚をして子供のミアという女の子がいます。 不倫していたアメリアとオリバーの離婚は決定したが、その子供がどちらで引き取るのか揉めたらしい。 不倫相手は夫の弟のフレディだと告白された時は家族で平常心を失って天国に行きそうになる。 夫のオリバーも不倫相手の弟フレディもミアは自分の子供だと全力で主張します。 そして検査した結果はオリバーの子供でもフレディのどちらの子供でもなかった。

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

処理中です...