妹のせいで婚約破棄になりました。が、今や妹は金をせびり、元婚約者が復縁を迫ります。

百谷シカ

文字の大きさ
27 / 28

27 ゆるぎないもの(※デュモン視点)

しおりを挟む
 あの一件は俺たちを変えた。
 そして宮廷を動かした。

 王子との婚約を蹴り、よりによってその側近と駆け落ちしたイアサント。重罪を犯したにも関わらず、愛に結ばれたふたりは生きる事を許された。ドルイユ伯爵家も、爵位剥奪を免除された。

 そのドルイユ伯領に侵略戦争を仕掛けた。
 ラファラン伯爵は終わった。次の嵐を待つより早く判決は下され、多額の賠償金が支払われた。それは忌々しいオーブリー・ルノーの命乞いも含まれていた。奴は国軍直轄の監獄島に幽閉された。そのうち死ぬだろう。

 2度目の嵐が過ぎ、俺はナダルへ向かっていた。
 下町を通り抜ける際、ふいに声をかけられた。


「船長さん?」


 振り返ると、イアサントがパンかごを抱えて立っていた。
 小さな顎に痛々しい傷がまだ残っている。嵐の間、酷く傷んだはずだ。


「イアサント。具合はどうです?」

「大したことない。柔らかいものばかり食べてるから、お腹は空くけどね。ねえ、船長さん。行くの?」


 小柄な女戦士は、愛情深いひとりの女の顔で問いかけてきた。


「いえ、あんな事がありましたから。今年は部下に任せ、レディ・ドルイユの傍にいます。指示を出しに行くところです」

「そっか」


 イアサントが黙り込んだ。
 なにか言いたそうだ。俺は静かに待った。

 やがて彼女は口を開いた。


「私が、あの人が死んだあともこうして生きていられるのは、ホエルとマカリオがいてくれたからなんだ」


 駆け落ちをして、王子の側近の騎士との間に生まれた双子。
 国王は母子の勘当を解く許可を出し、爵位継承は確実になった。双子はバルバラが引き取り教育する。


「結婚しなくても子供は作れるよ、船長さん」


 イアサントは、俺が航海で死んでもいいように、子作りを促している。
 明け透けな気遣いに笑いが洩れた。


「ありがとうございます、イアサント。俺は傍にいます」

「……なら、いいけど」


 目を逸らし、イアサントは嬉しそうに笑った。


「あなたは? 勘当が解けて、貴族に戻れるんですよ?」

「私は


 帰らない、とは言わない。


「どうして?」


 イアサントが俺を見あげた。
 眩しいような、美しい笑顔だった。


「私はマダム・マクロン。この町の用心棒だからさ!」


 彼女が命をかけ姉を守ろうとした姿に、俺はすっかり、心を動かされていた。そもそも誤解していたのだ。愛するプリンセスの妹が、無責任で奔放なはずがない。
 ゆるぎない愛に生きる、素晴らしい女だ。


「下町じゃなくなる日もそう遠くないでしょう。あなたは次期領主の母親で、俺の家族になる人で、そんな人が愛する町を誰も放っておけなくなる」

「やめてよ。みんな金の扱いなんか知らないんだから」


 すっかり下町の口調で大らかに笑う。

 俺がトゥルヌミール公爵夫人の孫である事を、彼女はまだ知らない。だからこれから俺がバルバラに相応しい身分を手に入れ、結婚を申し込む事も知らない。それを本人ではなく妹に先に教えるわけにもいかない。ただ、互いによくわかっている事がある。それだけで充分だ。


「金をせびる暇もないくらい、あの人はあなたを呼びつけますよ。あなたを追い返すたびに泣いてましたから。代りの用心棒を雇うなら言ってください。おまけします」

「もう、やめてったら。船長さんからはなにも貰いたくないよ」

「本当に姉君を愛しているんですね」


 和やかに話していたというのに、イアサントはむっとして俺を睨んだ。


「私がどんだけお姉様を愛しているかなんて、私だけが知っていればいいんだよ」


 口を出すな。
 そう牽制している。

 長い年月を経ても、姉妹は愛で結ばれていた。
 
 双子のどちらが爵位を継ぐか、俺が親父を連れて帰るか、俺の子が生まれるか。どれが先にくるかわからない。だがいずれバルバラを抱いて海を渡ろうと、確かにつながっている。

 ゆるぎない、愛というものによって。

 海の果て。地の果て。
 空の果てまで。



                                (終)
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

不倫した妹の頭がおかしすぎて家族で呆れる「夫のせいで彼に捨てられた」妹は断絶して子供は家族で育てることに

佐藤 美奈
恋愛
ネコのように愛らしい顔立ちの妹のアメリア令嬢が突然実家に帰って来た。 赤ちゃんのようにギャーギャー泣き叫んで夫のオリバーがひどいと主張するのです。 家族でなだめて話を聞いてみると妹の頭が徐々におかしいことに気がついてくる。 アメリアとオリバーは幼馴染で1年前に結婚をして子供のミアという女の子がいます。 不倫していたアメリアとオリバーの離婚は決定したが、その子供がどちらで引き取るのか揉めたらしい。 不倫相手は夫の弟のフレディだと告白された時は家族で平常心を失って天国に行きそうになる。 夫のオリバーも不倫相手の弟フレディもミアは自分の子供だと全力で主張します。 そして検査した結果はオリバーの子供でもフレディのどちらの子供でもなかった。

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

処理中です...