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12 白昼堂々
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無礼な5人組を貨物船で国へ送り帰してあげた、翌日。
執務室にて。
おじぃに見守られながら、新米執政官ヒューゴ・ヴァイヤンの小言に襲われている。そんな私は女王陛下ゾフィ……
「あの状況で笑うというのは、陛下の心もねじ曲がったものですね。罪人の心を羞恥と絶望で挫き、再犯の意欲さえ与えずに単純な労働力にするという新しい監獄のスタイルには同意しました。見世物にした効果も実感できました。あんな目に遭いたくないと思って、あの場に立ち会わされた我が国の貴族たちは、それはそれはお行儀よく生きていこうと決意を新たにした事でしょうよ。ですがね、陛下。あなたは性格が悪すぎる!」
「はいはい」
そんな私が好きなくせに。
「ああ、私が間違っていた! こんな事になるのであれば、泣いて縋ってくださった純真無垢なあの日の陛下に従って、恥を忍んで女装してトスミラ伯爵家のメイドにでもなればよかった!」
「当時は〝殿下〟よ」
「今そんな話をしていますかッ!?」
リュシル……
今日が、国際編み図考案会議でなければ……
この男を受け持ってくれるのに。
私も、覚悟を決めなければいけないようね。
いつまでもあの子に頼ってばかりではいられない。
それに、リュシルがいたのではできない話もあるし……
「おじぃ──コルベル卿」
「はぃはぃ、陛下」
「ヒューゴに折り入って話が」
「はぃはぃ」
ほくほくと笑いながら、おじぃが執務室から出て行った。
「まったく、毎回毎回おじぃおじぃと。トゥーヴァ陛下と国を支えてきた方ですよ? 〝さん〟か、せめて〝ちゃん〟くらいつけたらどうです?」
「わかった、わかった。私たち、お互いあの頃に間違ったのね」
「はい?」
ボタンの掛け違いってやつよ、と呟きながらヒューゴに抱きつく。
「!」
そして当然のように、スリスリ甘える。
「へっ、陛下ァ……!?」
「あの日あなたと離れなければ、つまらない男に引っかかる事もなかった。こんなに性格が悪くなる事もなかったのよ」
「否っ、性格そのものは、そんなに変わりませんが……ッ」
「私、可愛い?」
「ファァッ!?」
ヒューゴが真っ赤な顔で天井を仰いだ。
照れてるわ……
「かッ、可愛いですよそりゃあ……! 世界でいちばん可愛らしい御方ですともホ……ッ!」
「繰り返すけど、あの日に離れたのが間違いだったのよ。間違いは正したほうがいいと思うの」
「ええそうですね」
即答よ。
気が動転しているんだわ。
落とすなら、今ね。
「だから結婚しましょう? 私、あなたが大好きよ」
「──」
「ずっとアレが片付くのを待ってたの。新しい婚約者か夫を脇に置いて、終わった相手を『結婚しようなんて嘘よくもついてくれたわね』って詰るのも微妙でしょ?」
「これはニューゲームですか? 『新米執政官を騙せ!』みたいな」
「違うわよ」
あの日、お願いだから一緒に来てと泣いて縋った時のように。
今度は泣かずに、とびきりの笑顔で……
「ヒューゴ。あなたを愛してる。一生、私の傍にいて。昼も夜も。王座でもベッドでも」
「ああ、もう、もちろんです。よろしくお願いします。指輪は明後日」
「OK♪」
ゴールインよ。
おじぃを越えるほくほく笑顔で舞い上がりかけたヒューゴが一瞬、真顔になった。
「私、妹に殺されませんかね?」
あんなに血に飢えていたくせに、自分の命は惜しいのね。
可愛い人♪
「大丈夫よ。『私とあなたが義姉妹になるのよ』って言ったら凄く喜んでた」
「はぁ、よかった。陛下…………私のゾフィ。もう、離さない。御存じでしょうが、ずっと愛してきました。これからは正々堂々と、あなたを独占して愛でさせて頂きます。愛してる」
その後、離婚したオリヴィアは取り巻きABCのどれかの愛人になったと風の噂で聞いた。アンジュはネドマメの味を掻き消す香辛料を求めて、貿易商に弟子入りしたらしい。もちろん密偵を忍ばせて、健康調査は抜かりない。
そして、私はヒューゴとリュシルという、愛するヴァイヤン兄妹と幸せに暮らしている。
栄光というサイコロを振り、人生のゴールを目指して。
(終)
執務室にて。
おじぃに見守られながら、新米執政官ヒューゴ・ヴァイヤンの小言に襲われている。そんな私は女王陛下ゾフィ……
「あの状況で笑うというのは、陛下の心もねじ曲がったものですね。罪人の心を羞恥と絶望で挫き、再犯の意欲さえ与えずに単純な労働力にするという新しい監獄のスタイルには同意しました。見世物にした効果も実感できました。あんな目に遭いたくないと思って、あの場に立ち会わされた我が国の貴族たちは、それはそれはお行儀よく生きていこうと決意を新たにした事でしょうよ。ですがね、陛下。あなたは性格が悪すぎる!」
「はいはい」
そんな私が好きなくせに。
「ああ、私が間違っていた! こんな事になるのであれば、泣いて縋ってくださった純真無垢なあの日の陛下に従って、恥を忍んで女装してトスミラ伯爵家のメイドにでもなればよかった!」
「当時は〝殿下〟よ」
「今そんな話をしていますかッ!?」
リュシル……
今日が、国際編み図考案会議でなければ……
この男を受け持ってくれるのに。
私も、覚悟を決めなければいけないようね。
いつまでもあの子に頼ってばかりではいられない。
それに、リュシルがいたのではできない話もあるし……
「おじぃ──コルベル卿」
「はぃはぃ、陛下」
「ヒューゴに折り入って話が」
「はぃはぃ」
ほくほくと笑いながら、おじぃが執務室から出て行った。
「まったく、毎回毎回おじぃおじぃと。トゥーヴァ陛下と国を支えてきた方ですよ? 〝さん〟か、せめて〝ちゃん〟くらいつけたらどうです?」
「わかった、わかった。私たち、お互いあの頃に間違ったのね」
「はい?」
ボタンの掛け違いってやつよ、と呟きながらヒューゴに抱きつく。
「!」
そして当然のように、スリスリ甘える。
「へっ、陛下ァ……!?」
「あの日あなたと離れなければ、つまらない男に引っかかる事もなかった。こんなに性格が悪くなる事もなかったのよ」
「否っ、性格そのものは、そんなに変わりませんが……ッ」
「私、可愛い?」
「ファァッ!?」
ヒューゴが真っ赤な顔で天井を仰いだ。
照れてるわ……
「かッ、可愛いですよそりゃあ……! 世界でいちばん可愛らしい御方ですともホ……ッ!」
「繰り返すけど、あの日に離れたのが間違いだったのよ。間違いは正したほうがいいと思うの」
「ええそうですね」
即答よ。
気が動転しているんだわ。
落とすなら、今ね。
「だから結婚しましょう? 私、あなたが大好きよ」
「──」
「ずっとアレが片付くのを待ってたの。新しい婚約者か夫を脇に置いて、終わった相手を『結婚しようなんて嘘よくもついてくれたわね』って詰るのも微妙でしょ?」
「これはニューゲームですか? 『新米執政官を騙せ!』みたいな」
「違うわよ」
あの日、お願いだから一緒に来てと泣いて縋った時のように。
今度は泣かずに、とびきりの笑顔で……
「ヒューゴ。あなたを愛してる。一生、私の傍にいて。昼も夜も。王座でもベッドでも」
「ああ、もう、もちろんです。よろしくお願いします。指輪は明後日」
「OK♪」
ゴールインよ。
おじぃを越えるほくほく笑顔で舞い上がりかけたヒューゴが一瞬、真顔になった。
「私、妹に殺されませんかね?」
あんなに血に飢えていたくせに、自分の命は惜しいのね。
可愛い人♪
「大丈夫よ。『私とあなたが義姉妹になるのよ』って言ったら凄く喜んでた」
「はぁ、よかった。陛下…………私のゾフィ。もう、離さない。御存じでしょうが、ずっと愛してきました。これからは正々堂々と、あなたを独占して愛でさせて頂きます。愛してる」
その後、離婚したオリヴィアは取り巻きABCのどれかの愛人になったと風の噂で聞いた。アンジュはネドマメの味を掻き消す香辛料を求めて、貿易商に弟子入りしたらしい。もちろん密偵を忍ばせて、健康調査は抜かりない。
そして、私はヒューゴとリュシルという、愛するヴァイヤン兄妹と幸せに暮らしている。
栄光というサイコロを振り、人生のゴールを目指して。
(終)
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