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3 号泣と爆笑

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「私は夫の恋人と暮らすなんて嫌です!!」


 思いがけず、爆発した。
 

「王家の結婚が政治である事はわかっています! でも私たちはふたりでひとつの夫婦であるはずです! それなのに、片方の恋人がまるで妻のようにふるまい〝家〟を仕切るなんて、そんなものは結婚でもなんでもありません!!」

「やだ。今どき子供だってこんなふうに泣き喚かないわよ」


 マグダに失笑され、


「黙りなさい!」


 イーヴォ公爵が諫めてくれたけど、


「ちょっと触らないで。私の体は国王のものよ」


 勝ち目はない。


「彼女を追い出してください」


 でも、私だって引く気はない。
 私は国を背負って海を渡ってきた、一国の王妃になる人間だ。
 ふしだらな女優に好き勝手させてたまるものですか。


「クレリア。さあ、これで涙を拭いてくれ」

「……」


 夫となる国王オズヴァルド2世が、シルクのハンカチーフを差し出してくれた。そして、マグダに離れるよう促していた。


「……ありがとう」


 ハンカチーフを受け取って、はらはらと零れる涙を拭った。


「クレリア、あなたの言う通り僕らは普通の夫婦じゃない。国王と王妃だ。だから一時燃えて冷めていくような情熱で結ばれるより、確実な絆が必要なんだよ。王は己のためではなく、国民のためにある。あなたにも理解してもらいたいし、妃として生涯僕を支えてほしい」

「……」


 え? 
 私が、諭される側なの?


「手を取り合って国を治めるんだ。互いを信頼し、相手を尊重し、かけがえのない唯一の味方になるんだ。クレリア、僕たちは親友になろう」

「……ぇえ?」


 困惑と悲しさで、また涙が溢れてくる。
 言っている事は一理ある。でも、なにかがずれている。大きく。


「私を尊重してくださるなら、その女性を宮廷から追い出してください」

「それはできない」

「なぜなの!?」

「宮廷には様々な思惑の輩が息を潜めている。彼女は表の宮廷ではなく、裏の奥の底まで鼻が利くんだ。僕らにとってかけがえのない心強い味方なんだよ」

「……では、恋人のふりをしているだけという事?」

「いや、愛している」

「──」


 再び、思いがけず爆発した。
 シルクのハンカチーフを握って揉みしだき、力任せに引き千切る。


「じゃあその方と結婚したらいいじゃない! 私は国に帰ります!!」


 くるりと身を翻し、私は部屋を飛び出した。


「クレリア!」

「クレリア嬢!」

「あぁーっはははははッ♪」


 焦る男性の声をかき消すように、マグダが爆笑していた。
 階段を駆けあがりながら頬の涙をこする私を、張りのある美声が追い詰める。
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