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5 贅沢禁止令
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結論から言うと、結婚初夜を私はマグダと過ごした。
寝室に居座る彼女と取っ組み合いの喧嘩になり、午前0時を回った。泣き叫ぶ私を笑いながら、マグダは国王と腕を絡めて消えた。
徹夜で泣いた。
明け方、扉を叩いたのは、またイーヴォ公爵だった。
彼は心強い味方であると同時に、安心して依存できる相手でもあったのだ。
この試練を招いたのは私の決断であり、提案したのが彼だから。
「おはよう、イーヴォ公爵」
「おはようございます、陛下」
朝の挨拶もまず、彼から。
結婚から3ヶ月、もうそれが習慣になっている。
「国王はどこに?」
「舞踏会の準備をしておいでです」
「ちょうどよかった。それについて話したいと思っていたのです」
イーヴォ公爵に付き添われ、藍の間へ向かう。
燥ぐマグダに付き合って楽しそうに笑っている国王、つまり私の夫と、大忙しの使用人たち。宮仕えの貴族もいれば、畑からさらってきたような子供までいる。
「やあ、おはよう。クレリア」
「おはようございます、陛下。舞踏会の準備ですか?」
「ああ、そうなんだ。意見を聞かせてくれ、クレリア」
「ええ。そのつもりです」
毎週、毎週、毎週。
マグダ主催の舞踏会が開かれている。
月に1度は必ず喜劇を上演し、マグダの同業者に破格の謝礼を支払い、宮廷の食事をふるまっている。
「やっと乗り気になってくださったのね、王妃様~♪」
「……」
マグダが巨大な胸を張り、扇で優雅に涼みながら言った。
肌寒いくらいなのに、舞踏会の準備はそんなに体温があがるものなのかしら。
興奮しすぎだわ。
「ええ。今年最後の舞踏会になりますからね」
「はっ!?」
「え? なんだって?」
マグダと夫が目を丸くした。
近くにいた使用人たちもざわつき始める。
「あっ、あっ、あなたッ、なに言ってるの!?」
「口を慎みなさい、マグダ・ロヴェーレ。王妃クレリアに失礼ですよ」
「うぐ……っ」
イーヴォ公爵がマグダを窘めた。
私は夫の目をまっすぐに見つめた。
「陛下。国民の血税を使って遊興三昧とは、感心できません」
「あなたは真面目だな。クレリア、芸術は品格に等しい」
「仰る通りです。しかし、何事も過ぎては贅肉と同じ。削ぎ落してこそ本来の美しさが際立つというものです」
「んなっ……!」
マグダが口をぱくぱくさせ、イーヴォ公爵は小さく拍手している。
「ふむ。確かに、一理ある」
「オズヴァルド!?」
夫はマグダを手で制し、私の目を覗き込んだ。その眼差しはとても純粋で、まっすぐで、誠実な善き国王であろうとする姿勢が窺えた。
「少しの遊びもないのでは生きている意味がないとしても、これはやりすぎだとあなたは思うわけだね?」
「ええ」
「わかった。これを今年最後の舞踏会にしよう」
「ええっ!?」
マグダが女優らしい美声で叫んだ。
「ちょっ、ちょっと!? オズヴァルド、正気!?」
「お黙りなさい。国王陛下御夫妻の会話に割り込むなど言語道断」
「く……っ。あんた、調子に乗って……!」
「ふふふ」
イーヴォ公爵とマグダの力関係が変化してきたのを横目に、私は夫に伝えた。
「意見を聞いてくださって感謝します、陛下」
「こちらこそ。あなたは本当に信頼できる素晴らしい妻だ」
「舞踏会だけでなく、過ぎた贅沢は禁止です。威厳のために贅を凝らすのと、享楽に耽るのでは意味が違います。おわかり頂けますか?」
「ああ、もちろんだ。これは国力保持ではなく、僕個人の娯楽だから。改めるよ」
「ありがとうございます」
「ぐぐ……っ」
呻るマグダにお辞儀をして、私は藍の間を後にした。
寝室に居座る彼女と取っ組み合いの喧嘩になり、午前0時を回った。泣き叫ぶ私を笑いながら、マグダは国王と腕を絡めて消えた。
徹夜で泣いた。
明け方、扉を叩いたのは、またイーヴォ公爵だった。
彼は心強い味方であると同時に、安心して依存できる相手でもあったのだ。
この試練を招いたのは私の決断であり、提案したのが彼だから。
「おはよう、イーヴォ公爵」
「おはようございます、陛下」
朝の挨拶もまず、彼から。
結婚から3ヶ月、もうそれが習慣になっている。
「国王はどこに?」
「舞踏会の準備をしておいでです」
「ちょうどよかった。それについて話したいと思っていたのです」
イーヴォ公爵に付き添われ、藍の間へ向かう。
燥ぐマグダに付き合って楽しそうに笑っている国王、つまり私の夫と、大忙しの使用人たち。宮仕えの貴族もいれば、畑からさらってきたような子供までいる。
「やあ、おはよう。クレリア」
「おはようございます、陛下。舞踏会の準備ですか?」
「ああ、そうなんだ。意見を聞かせてくれ、クレリア」
「ええ。そのつもりです」
毎週、毎週、毎週。
マグダ主催の舞踏会が開かれている。
月に1度は必ず喜劇を上演し、マグダの同業者に破格の謝礼を支払い、宮廷の食事をふるまっている。
「やっと乗り気になってくださったのね、王妃様~♪」
「……」
マグダが巨大な胸を張り、扇で優雅に涼みながら言った。
肌寒いくらいなのに、舞踏会の準備はそんなに体温があがるものなのかしら。
興奮しすぎだわ。
「ええ。今年最後の舞踏会になりますからね」
「はっ!?」
「え? なんだって?」
マグダと夫が目を丸くした。
近くにいた使用人たちもざわつき始める。
「あっ、あっ、あなたッ、なに言ってるの!?」
「口を慎みなさい、マグダ・ロヴェーレ。王妃クレリアに失礼ですよ」
「うぐ……っ」
イーヴォ公爵がマグダを窘めた。
私は夫の目をまっすぐに見つめた。
「陛下。国民の血税を使って遊興三昧とは、感心できません」
「あなたは真面目だな。クレリア、芸術は品格に等しい」
「仰る通りです。しかし、何事も過ぎては贅肉と同じ。削ぎ落してこそ本来の美しさが際立つというものです」
「んなっ……!」
マグダが口をぱくぱくさせ、イーヴォ公爵は小さく拍手している。
「ふむ。確かに、一理ある」
「オズヴァルド!?」
夫はマグダを手で制し、私の目を覗き込んだ。その眼差しはとても純粋で、まっすぐで、誠実な善き国王であろうとする姿勢が窺えた。
「少しの遊びもないのでは生きている意味がないとしても、これはやりすぎだとあなたは思うわけだね?」
「ええ」
「わかった。これを今年最後の舞踏会にしよう」
「ええっ!?」
マグダが女優らしい美声で叫んだ。
「ちょっ、ちょっと!? オズヴァルド、正気!?」
「お黙りなさい。国王陛下御夫妻の会話に割り込むなど言語道断」
「く……っ。あんた、調子に乗って……!」
「ふふふ」
イーヴォ公爵とマグダの力関係が変化してきたのを横目に、私は夫に伝えた。
「意見を聞いてくださって感謝します、陛下」
「こちらこそ。あなたは本当に信頼できる素晴らしい妻だ」
「舞踏会だけでなく、過ぎた贅沢は禁止です。威厳のために贅を凝らすのと、享楽に耽るのでは意味が違います。おわかり頂けますか?」
「ああ、もちろんだ。これは国力保持ではなく、僕個人の娯楽だから。改めるよ」
「ありがとうございます」
「ぐぐ……っ」
呻るマグダにお辞儀をして、私は藍の間を後にした。
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