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初等部編
教室でラブコメとか恥ずかしすぎるだろ_2
しおりを挟む「アリスがいなかったから、学園が静かだったぜ」
そう言って隣席で面白そうに笑っているのはオスカー。
オスカー・テオ・ノワイユ。
ノワイユ侯爵のご令息。ノワイユ侯爵は軍務卿で、内務卿のお父様とはアカデミーの同級生らしい。お母様を取り合ったライバルとか何とか。知らんけど。
オスカーと私はいわゆる腐れ縁の幼馴染だ。
幼馴染!憧れの幼馴染だ!といっても貴族社会は狭いので、身分と年頃の近い子供はだいたい幼馴染である。王太子殿下だって、王宮やうちの庭で一緒に縄跳びしたりかくれんぼした仲だし。
親同士が仲が良いせいもあって、アリスは特にオスカーと親しかった。
赤銅色の短髪が爽やかで、日に焼けた肌は健康的。薄い茶色の瞳はキラキラと好奇心に満ちている。
(あ~~~いいね~~~こういう元気キャラもいいよね~~)
当然ゲームでの攻略対象の一人だ。ただし、悪役令嬢のアリスにとっては、ヒロインが登場したあたりから疎遠となってしまうのだが……。
(友達をとられちゃうみたいで寂しいけど……まあ、短い間でも仲良くしてもらえるのは嬉しいなぁ)
「口うるさい私がいなかったから、皆さん清々となさってたんでしょうね……」
私は情けない顔で笑った。『アリス』は一昔前の風紀委員のごとく、よく他人に小言をいっては嫌な顔をされていたからだ。するとその言葉を聞いたオスカーが少し驚いたような表情を見せた。
「アリス、ほんと変だな。前なら怒ってた」
「あら、オスカーはいま私を怒らせようとしてたの?いじわるね」
子供っぽさが可愛らしくて小さくクスクス笑うと、オスカーは目を見開いた。そして破顔一笑した。
「なんか前より今のお前が好きだぜ、アリス。ガキの頃に戻ったみたいだ」
「は?すっ、好き?ですって??」
爽やかイケメンにそんな事言われたら動揺するに決まってるだろ!
恥ずかしくて耳まで赤くなっていくのがわかる。
「え、何だよ、その反応……らしくねぇな……」
照れてうつむいた私に、オスカーまで赤面している。
なんだこの突然のラブコメ。教室でラブコメ。恥ずかしすぎるだろーー!!
「おやおや、今日は一段と仲良しだね」
そう言ったのは、アレクサンドル。
アレクサンドル・ノア・オルレアン。騎士団長であるオルレアン伯爵のご子息。
さらっさらのグレーの髪はひとつに束ねられて緩やかに背に流れている。涼しげな瞳は水色。12歳で騎士団の入団試験に合格した位なので、剣の腕は一流。ゲームでもヒロインを助けるおいしい場面がある。そして、私は知っている……ヒロインに対してはヤンデレ系の愛し方をするのだ……。敵に回したくない。
「は?別に仲良くねぇし!何でもねぇよ」
頬を染めたまま横を向くオスカーが可愛い。すっかりオバちゃん目線だ。
「アリス、おはよう。具合は良さそうだね。顔色もいい…というか真っ赤だね。可愛い」
そう言いながらアレクサンドルはアリスの前の席に座る。(横がオスカーで前がアレクサンドルなの?眼福だ)と思い、登校して早々に昇天しそうになったが、頑張って淑女の微笑みで返事をした。
「おはよう、アレックス。ありがとう、すっかり元気よ」
「っ!アレックスー!何か調子狂うんだよ、こいつ。いやルテール公からアリスが変だってのは聞いてたんだけどさ」
オスカーが机に突っ伏して私を指さしている。
「指を差すなんて失礼ね」
私はオスカーの手をぺちんと叩いた。お説教ババア、とオスカーが悪態をついたのが聞こえた。見た目は美少女でも中身はオバチャンだよ悪かったねえ。こいつ案外するどいな。
幼馴染とキャッキャウフフとラブコメしていたら授業が始まった。
初等部といっても10歳から15歳までだから、日本でいう中学校に近い教育内容だった。生前の『私』はそれなりに成績は良かった。ただし座学に限るのだが。
「まさかの異世界転生するなら…もっと手に職つけとけばよかったなー……」
料理とか裁縫とか、モノづくりに従事しておけばよかった。
午前の休憩時間。教室を移動しながら私は独り言を呟いていた。頼りにしようと思っていたオスカーはアレックスと一緒に先に行ってしまったので、私は仕方なく一人で廊下を歩く。
「ルテール公爵令嬢、ごきげんよう」
「アリス様、ごきげんよう」
「アリス様、お加減はいかが?」
男女問わず、すれ違う人のほとんどに挨拶されるのであまりボーっと出来なかった。
(うーん、公爵令嬢も大変だな……にこにこするのも、もう面倒になってきた……アリスも苦労してたんだな……)
ようやく目的地の音楽室が見えてきたとき、前方からざわめきが聞こえてきた。
(あ~~殿下だ~~~!今日も美少年デスネェ~~~)
ラファエル王太子殿下。キラッキラの王子様には、取り囲むように女子生徒が群がっていた。
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