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第1章 はじまるまでの5週間

16、たろさんの「堀ちゃんの実家に行った」話

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 本当は車を出したいところだったが、この間タクシーで相乗りした時に降りたコンビニで堀ちゃんに拾ってもらう事になった。

『お迎えには行くんですけど、他の人を乗せるのが苦手で、緊張するので良ければ運転をお願いしたいです。勝手言ってすみません』
 謝らなくてもいいのに、律儀だなぁ。
 最後の一言は他人行儀感が半端なかったが。
 堀ちゃんの敬語はのんびりとした空気にさせてくれるから気に入っているけれど、時々ものすごく他人行儀に聞こえてしまう。
 特にメールは業務連絡かと思う時がある。

 堀ちゃんの車はクリーム色の軽自動車。
 姪御さんを乗せてから来ると言っていたが、それでは怯えてしまう気がする。
 先に合流して二人でお迎えに行くことを提案した。
『うちの実家ですよ?』
 堀ちゃんは電話の向こうでかなり驚いていた。
 それはそうだろうとは思うが、大事な孫と娘を預けるのだからご家族も相手の男が気になるだろうし。

 もし姪御さんが俺を見て嫌がれば、動物園は中止で、と堀ちゃんは言っていた。
 堀ちゃんの実家はまわりに田畑が点在する住宅街の一軒家で、会社からも近かった。
 そう言えば堀ちゃんは時々自転車通勤していた事を思い出す。
 着けばお母さんと妹さんも外に出られていたので「佐々木と言います」と名乗る事が出来た。
 さすが二人とも堀ちゃんと雰囲気が似ていて、思っていたほどは緊張しなかった。
 
 堀ちゃんは出掛ける支度を済ませた小さな女の子の前にしゃがみ込んだ。
「|さくら(さー)ちゃん、今日はこのお兄さんが動物園連れて行ってくれるんだって。|わたし(ちーちゃん)と3人で行く? ママとばぁばはお留守番なんだ」
 目線を合わせるために堀ちゃんと並んで腰を落とすと、始めは俺を見て驚いていたさくらちゃんだったが、「行く」と言ってくれた。

 堀ちゃんは驚いた顔をし、さくらちゃんのお母さんは「やっぱり」と言うように笑いながら言った。
「すみません、ご迷惑をお掛けします。ごねたりしたらすぐ撤収していただいて構いませんので。さくら、ちーちゃんとお兄さんの言う事ちゃんと聞くのよ」
 
 38で「お兄さん」と呼ばれるのは何とも肩身が狭い。
 後部座席に載せたジュニアシートの横に堀ちゃんが乗った。
 そりゃそうか。
 これはこれで新鮮だ。
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