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8、ノリノリ大暴露大会
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「あとご報告。ちょっと年増の派手な女が結婚詐欺に遭ったようです」
アントンさんからの唐突な報告。
「イヌカの往来で捨てられていたという目撃情報が入りました。イヌカってのはうちの領の端の方ね」
この領に来たばかりの俺達のため、アントンさんは丁寧に地理を教えてくれた。
「「「あ~~」」」
アクジョノ家から来た俺達三人は、そんな声しか出なかった。
お嬢様には友達がいなかった。
だから世間の情報も入ってこず、色々と疎かった。
たまに男達が侍っていたが、そいつらは金目当てだ。結婚詐欺なんて、似たような事をしている連中が話すはずがない。
詐欺師からすれば格好の餌だったんだろう。
「一番金目のものを持っている所で逃げたのか。男の差し金かもしれんな」
旦那様の声は厳しかった。
そうだ、確かにお嬢様は身の回りのものをこの屋敷に運び込まなかった。運び込もうとしたら罵倒された。不本意な婚姻で癇癪を起こしてるのかとハイハイ言っておいたが、そういうことか。
そう言えば挙式で使うからと散財しまくっていた。
アクジョノ家の旦那様も「これで大人しく出て行ってくれるなら安い物」と放置していた。挙式でもでっかい宝石の首飾りを着けていた。
結婚が嫌ならその前に駆け落ちすればよかったのに、と今の今まで思っていたが全部、逃走資金のためだったという事か。
確かにあのお嬢様がそこまで頭が回るか、というと疑問だ。
「貴族のご令嬢を狙うなんてちょっと異常です。組織的なもので、もう国外に出ているかもしれませんね」
アントンさんのそれは、諦めたような口調だった。
そこに上乗せするかのようにカルレイさんが続ける。
「あとはこちらの方が問題なのですが、花嫁の契約書のサインのつづりが間違っていました」
嘘だろ、お嬢様。
俺は絶句した。
カルレイさんに渡された書類を確かめ、頭を抱えたくなる。
「マジか……うわぁ、わざとですね。確かに頭の残念なお嬢様でしたが、自分の名前くらいはさすがに書けます」
俺は断言し、今度絶句したのはリョシュー家の皆さんだ。
お嬢様の名前はやたら長く、つづりも一般的ではない。しかも字が汚い。初見ではまず分からないだろう。
わざと、自分の経歴だけは傷がつかないようにしたのか。そういう姑息なところは変に頭が回るんだよなぁ。
「一方的な契約破棄だな。今後の後始末を含め、お前達三人の身柄はこちらで預かる旨をアクジョノ家に連絡しよう」
旦那様のお気遣いがありがたい。こんなにも迷惑をかけているのに。
「ニアと、アリーン、だったな。今後のことだが……ここでこのまま妻付きとして働くか、故郷に帰るか。我が領で他に働き口を探すなら便宜を図ろう。ゆっくり考えなさい」
旦那様の温情溢れるお言葉に二人は、旦那様と俺を何度か見比べるように見たあと元気に声を張り上げた。
「いえ! こちらに勤めさせていただきたいです!」
「よろしくお願いします!」
ゆっくり考えていいと言われたのに即答だった。なぜか旦那様もその答えを予測していたようだ。
「そうか。よろしく頼む」
そう言って厳かに頷き、また俺を見た。
……そうか、二人は奥方様になる方のもとで働くという手があるけど、俺はそうはいかないのか。
ここでの実績も信頼もない男が、いずれ新しく迎えられるだろう奥方様付きとして働けるわけがない。
この屋敷で雇ってもらえるとありがたいけど、見たところ人手は足りている気がする。町で働くか……そうなると旦那様とはお別れになるのか。
そう簡単に、というか、まず会えなくなるんだろうな……
なぜだかきゅう、と胸がひどく痛んだ。
「もう少し材料を揃えて徹底的にやるぞ」
旦那様がカルレイさんに指示する。
「ああ、じゃあ忘れないうちに俺達もまとめとこうか。ニア、アリーン手伝って」
こうなったらリョシュー様にせめてものご恩返しをせねば。
どこか部屋を借りられないかカルレイさんに尋ねれば、旦那様にここを使えと言ってもらえた。
紙とペンを借り、さぁやるぞ、と袖をめくった所で視線を感じてふと顔を上げる。
座ったまま、なにやら観察するようにこちらを見ている旦那様と目が合った。
「旦那様、お忙しいのでは……?」
「邪魔か?」
「いえ、そういうワケではないのですが……時間がかかると思いますし……」
こんな面倒に巻き込まれたうえ、ご領主様だ。なにかとお忙しいのではないかと思ったのだが。
「偉い人から言われた一方的な婚姻とは言え、新婚さんだから。一応、五日は仕事しなくて済むよう体制を整えてたんだよ」
アントンさんが肩を竦めた。
愛する気はなかったのに、気を遣ってくださったのか。
ああもう、本当に。
「よし。じゃ、やるか。アリーン、月の終わりにいつも来てた、ちょび髭のおっさんの名前分かる?」
「名前の一覧は持ってきてるわ」
「さっすが、上出来。ニア、最近の奥様の恋人って何人? は? 四人? また増えてんじゃねぇか。若い愛人への小遣い、どこから出てるかずっと怪しいと思ってたんですよ。これ絶対帳簿に載ってない収入ありますね」
俺は思いついたまま二人に尋ねながら、それらを書き連ねていく。
怪しいのが多すぎて、もらった紙はあっという間にぐちゃぐちゃになった。追加で紙をもらったが、これはあとで分かりやすく整理して書き直しが必要だな。
「旦那様も愛人に新しい邸宅を買おうとしてたわ」
「くそ、寄付は出し渋る癖に。あの不動産屋もあやしかったよな」
「ええ、上品なフリしてたけど上辺だけね。しょっちゅう権利がどうとか話してたわ。違法取引かも」
「あいつ街とは反対方向から来てたよな。となると裏通りの組織絡みの可能性もあるか…… あーじゃあ、やっぱ外商も怪しいのか。あいつの紹介だったよな」
「マーロ?」
旦那様から戸惑いがちに声を掛けられた。アクジョノ家の大暴露大会につい夢中になってしまっていた。
「アリーンは旦那様の、ニアは奥様の来客応対もやってたんです」
そして俺はお嬢様係。
お嬢様が嫌でみんな逃げるもんだから、屋敷は常に人手不足だった。
アントンさんからの唐突な報告。
「イヌカの往来で捨てられていたという目撃情報が入りました。イヌカってのはうちの領の端の方ね」
この領に来たばかりの俺達のため、アントンさんは丁寧に地理を教えてくれた。
「「「あ~~」」」
アクジョノ家から来た俺達三人は、そんな声しか出なかった。
お嬢様には友達がいなかった。
だから世間の情報も入ってこず、色々と疎かった。
たまに男達が侍っていたが、そいつらは金目当てだ。結婚詐欺なんて、似たような事をしている連中が話すはずがない。
詐欺師からすれば格好の餌だったんだろう。
「一番金目のものを持っている所で逃げたのか。男の差し金かもしれんな」
旦那様の声は厳しかった。
そうだ、確かにお嬢様は身の回りのものをこの屋敷に運び込まなかった。運び込もうとしたら罵倒された。不本意な婚姻で癇癪を起こしてるのかとハイハイ言っておいたが、そういうことか。
そう言えば挙式で使うからと散財しまくっていた。
アクジョノ家の旦那様も「これで大人しく出て行ってくれるなら安い物」と放置していた。挙式でもでっかい宝石の首飾りを着けていた。
結婚が嫌ならその前に駆け落ちすればよかったのに、と今の今まで思っていたが全部、逃走資金のためだったという事か。
確かにあのお嬢様がそこまで頭が回るか、というと疑問だ。
「貴族のご令嬢を狙うなんてちょっと異常です。組織的なもので、もう国外に出ているかもしれませんね」
アントンさんのそれは、諦めたような口調だった。
そこに上乗せするかのようにカルレイさんが続ける。
「あとはこちらの方が問題なのですが、花嫁の契約書のサインのつづりが間違っていました」
嘘だろ、お嬢様。
俺は絶句した。
カルレイさんに渡された書類を確かめ、頭を抱えたくなる。
「マジか……うわぁ、わざとですね。確かに頭の残念なお嬢様でしたが、自分の名前くらいはさすがに書けます」
俺は断言し、今度絶句したのはリョシュー家の皆さんだ。
お嬢様の名前はやたら長く、つづりも一般的ではない。しかも字が汚い。初見ではまず分からないだろう。
わざと、自分の経歴だけは傷がつかないようにしたのか。そういう姑息なところは変に頭が回るんだよなぁ。
「一方的な契約破棄だな。今後の後始末を含め、お前達三人の身柄はこちらで預かる旨をアクジョノ家に連絡しよう」
旦那様のお気遣いがありがたい。こんなにも迷惑をかけているのに。
「ニアと、アリーン、だったな。今後のことだが……ここでこのまま妻付きとして働くか、故郷に帰るか。我が領で他に働き口を探すなら便宜を図ろう。ゆっくり考えなさい」
旦那様の温情溢れるお言葉に二人は、旦那様と俺を何度か見比べるように見たあと元気に声を張り上げた。
「いえ! こちらに勤めさせていただきたいです!」
「よろしくお願いします!」
ゆっくり考えていいと言われたのに即答だった。なぜか旦那様もその答えを予測していたようだ。
「そうか。よろしく頼む」
そう言って厳かに頷き、また俺を見た。
……そうか、二人は奥方様になる方のもとで働くという手があるけど、俺はそうはいかないのか。
ここでの実績も信頼もない男が、いずれ新しく迎えられるだろう奥方様付きとして働けるわけがない。
この屋敷で雇ってもらえるとありがたいけど、見たところ人手は足りている気がする。町で働くか……そうなると旦那様とはお別れになるのか。
そう簡単に、というか、まず会えなくなるんだろうな……
なぜだかきゅう、と胸がひどく痛んだ。
「もう少し材料を揃えて徹底的にやるぞ」
旦那様がカルレイさんに指示する。
「ああ、じゃあ忘れないうちに俺達もまとめとこうか。ニア、アリーン手伝って」
こうなったらリョシュー様にせめてものご恩返しをせねば。
どこか部屋を借りられないかカルレイさんに尋ねれば、旦那様にここを使えと言ってもらえた。
紙とペンを借り、さぁやるぞ、と袖をめくった所で視線を感じてふと顔を上げる。
座ったまま、なにやら観察するようにこちらを見ている旦那様と目が合った。
「旦那様、お忙しいのでは……?」
「邪魔か?」
「いえ、そういうワケではないのですが……時間がかかると思いますし……」
こんな面倒に巻き込まれたうえ、ご領主様だ。なにかとお忙しいのではないかと思ったのだが。
「偉い人から言われた一方的な婚姻とは言え、新婚さんだから。一応、五日は仕事しなくて済むよう体制を整えてたんだよ」
アントンさんが肩を竦めた。
愛する気はなかったのに、気を遣ってくださったのか。
ああもう、本当に。
「よし。じゃ、やるか。アリーン、月の終わりにいつも来てた、ちょび髭のおっさんの名前分かる?」
「名前の一覧は持ってきてるわ」
「さっすが、上出来。ニア、最近の奥様の恋人って何人? は? 四人? また増えてんじゃねぇか。若い愛人への小遣い、どこから出てるかずっと怪しいと思ってたんですよ。これ絶対帳簿に載ってない収入ありますね」
俺は思いついたまま二人に尋ねながら、それらを書き連ねていく。
怪しいのが多すぎて、もらった紙はあっという間にぐちゃぐちゃになった。追加で紙をもらったが、これはあとで分かりやすく整理して書き直しが必要だな。
「旦那様も愛人に新しい邸宅を買おうとしてたわ」
「くそ、寄付は出し渋る癖に。あの不動産屋もあやしかったよな」
「ええ、上品なフリしてたけど上辺だけね。しょっちゅう権利がどうとか話してたわ。違法取引かも」
「あいつ街とは反対方向から来てたよな。となると裏通りの組織絡みの可能性もあるか…… あーじゃあ、やっぱ外商も怪しいのか。あいつの紹介だったよな」
「マーロ?」
旦那様から戸惑いがちに声を掛けられた。アクジョノ家の大暴露大会につい夢中になってしまっていた。
「アリーンは旦那様の、ニアは奥様の来客応対もやってたんです」
そして俺はお嬢様係。
お嬢様が嫌でみんな逃げるもんだから、屋敷は常に人手不足だった。
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