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9、そういえば『守秘義務』習いました!
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「アクジョノ家の皆さんは俺達の事、学のない平民だと思ってたから、けっこうきわどい話を平気でされるんですよ」
俺達がいるのに、だ。
黙って働くだけの、自分たちとは違う生き物くらいに思っていたのかもしれない。
それだというのにお嬢様のお勉強はまず俺が家庭教師から学び、それを俺がお嬢様に教える方式だった。
性格が悪く、勉強嫌いのお嬢様に教えるのは無理だと言って、家庭教師が皆すぐに辞めてしまうせいだ。
よって俺は子供の頃からずっと学びの機会が与えられていた。
家庭教師は俺を気の毒がって、貴族視点ではない世の中の仕組みや、役に立ちそうな法律なんかも教えてくれた。
勃起剤を多用すると死ぬ、という話もこの家庭教師から教わったものだ。
……いや、違うな?
授業のあと「旦那様が勃起剤買ったんですけど、あれって効くんですかね?」と俺が聞いただけの世間話だったな。
さんざんそういった話をして盛り上がった。今思うとあの家庭教師とはウマが合った。
俺はそうしてたくさんの知識を与えられたが、お嬢様はそれを受け取ろうとはしなかった。
それを聞いた旦那様は眉間の皺をさらに深めた。
眉間が険しいのは常だともう分かっている。
「マーロ、お前、年は」
言いながらカルレイさんに手を向け、アクジョノ家の調査書を引き寄せる旦那様。旦那様が項目を探し当てるよりも先に答えた。
「二十八です」
お嬢様よりも一つ上だ。
リョシュー家の皆さんの視線が集まるので、へらりと笑っておいた。こういう反応は今に始まった事ではない。
「……いっても二十くらいかと思ってた」
ぼそりと言う、アントンさん。
くぅぅ、人が気にしていることを―!
そうなのだ。二十八にもなったのに、二十前後のニアやアリーンと並ぶと一番若く見られる事さえある。
いつまでも若造と舐められて本当に困るんだ。こんな事を言うと二人が激高するだろうから口が裂けても言いやしないが。
「良かったですね」
「まあ、な……」
カルレイさんの謎の声掛けに、旦那様が居心地悪そうに答えた。
なんだろう。
「何も知らない青年を手篭めにしたなんて、風が悪いでしょう?」
カルレイさんはにっこりと笑い、旦那様はそっぽを向いた。旦那様の意外な一面を見た気がした。
そういえばカルレイさんとアントンさんは旦那様に気安く接されている気がする。みんな年も近いようだし、付き合いが長いのかもしれない。
俺たち三人の身の上も記載されているという、あの調査書にはどんなことが記載されているんだろう。
今まとめている内容と重複する部分があるのでは、と思ってからはっとする。
そうだ、アクジョノ家の旦那様が勃起剤を買った話で家庭教師と延々と盛り上がって、最後に言われたのだ。
『仕える主人の内情は軽々しく話してはならない』、と。
『守秘義務というものがある』、と。
通常雇用契約を結ぶときに約束させられるもので、俺はそんなものを交わした覚えはないが「気をつけなさい」と言われたんだ。
その時は「旦那様の下半身事情でさんざん盛り上がった後に言われても」とこれまたお互い爆笑したのだが。
「これって守秘義務違反とかになるんでしょうか。俺は契約書は書いてないんですが、こちらにご迷惑をおかけする事になりますか?」
「かまわん。向こうの非人道的な行為がなければこうはならんのだから。それにしてもザクザク出て来そうだな」
急に不安になって振り返ると旦那様は驚き半分、呆れ半分で紙に目を落とした。
「お前達からの情報だという事は内密にするし、これだけの情報提供だ。うちで保護する事を約束しよう。もしマーロの契約書が捏造されていたら、しめたものだ。偽造の罪も追加になる」
旦那様の言葉一つ一つが頼もしいことこの上ない。
俺は感謝と共に安堵した。胸が温かい。
ここを追い出されることもなさそうだ。
そしてその夜、新しく部屋を貸し出される事もなく俺は昨夜の寝室にいた。
「ん?」
昨夜と同じような夜着の旦那様と、なぜかお揃いの夜着を借りている俺。
「寝ないのか?」
先に横になった旦那様がこちらにむけて布団を上げ、不思議そうにしているが。
「え、いや、俺、ここで寝るんです、か……?」
「他にどこで寝るんだ?」
不思議そうに返された。当然じゃないかと言わんばかりだ。
あ、意外と具合が良くて今夜も一発ご所望ですか?
と思ったが━━
「さすがに二カ月分、出し尽くした。いくら回復させたとはいえ、お前も嫌だろう。寝るぞ」
そうおっしゃる旦那様の腕の中で、今夜も俺は寝ることになったのだった。
ただし、その翌日はヤった。
初日とは違っていて、なんというか、俗にいう「いちゃらぶセックス」だった。
ん?
※
お嬢様が失踪されてから七日目の朝。
「俺がここで寝るのっておかしくない?」
シーツ交換をしてくれているアリーンに俺はついにそう尋ねた。
毎晩のように旦那様と交わり、その度に翌朝アリーンにベッドを整えられるこの居た堪れなさよ。
「旦那様と初夜を過ごしたのはマーロなんだから、当然じゃないの?」
アリーンは平然とそんな事を言う。
「でも旦那様は……」
つまみを回すことなく明るくなったランプ。
第三者に初夜を確かめられ、暗殺に備える旦那様。
酷使した俺の尻と腰の、驚異の回復。
毒に耐性があるとも言っていた。
薬を多用したにもかかわらず、ずっと会話が成り立っていた。自我や冷静さを失ってはいなかった。
鋼の精神力だと思っていたが。
古来よりこの世には、魔力を備える人間がいるという話がまことしやかに語り継がれている。それは皆が知っているおとぎ話のような話だ。
それをふまえて、俺は家庭教師に教えられた。
その血は尊ばれ、ごく一部の人間に集約されたのだという。
例えば、王族といった━━
先代の王は好色家というか、色欲が強いお方だったからご落胤がいてもおかしくない、と家庭教師も言っていた。
国境を守る「尊いお方」と思っていたが、これはガチで、シャレにならないやつなのでは━━
「あら」
ふと、窓掃除をしていたニアが声を上げた。
「お嬢様だわ」
俺達がいるのに、だ。
黙って働くだけの、自分たちとは違う生き物くらいに思っていたのかもしれない。
それだというのにお嬢様のお勉強はまず俺が家庭教師から学び、それを俺がお嬢様に教える方式だった。
性格が悪く、勉強嫌いのお嬢様に教えるのは無理だと言って、家庭教師が皆すぐに辞めてしまうせいだ。
よって俺は子供の頃からずっと学びの機会が与えられていた。
家庭教師は俺を気の毒がって、貴族視点ではない世の中の仕組みや、役に立ちそうな法律なんかも教えてくれた。
勃起剤を多用すると死ぬ、という話もこの家庭教師から教わったものだ。
……いや、違うな?
授業のあと「旦那様が勃起剤買ったんですけど、あれって効くんですかね?」と俺が聞いただけの世間話だったな。
さんざんそういった話をして盛り上がった。今思うとあの家庭教師とはウマが合った。
俺はそうしてたくさんの知識を与えられたが、お嬢様はそれを受け取ろうとはしなかった。
それを聞いた旦那様は眉間の皺をさらに深めた。
眉間が険しいのは常だともう分かっている。
「マーロ、お前、年は」
言いながらカルレイさんに手を向け、アクジョノ家の調査書を引き寄せる旦那様。旦那様が項目を探し当てるよりも先に答えた。
「二十八です」
お嬢様よりも一つ上だ。
リョシュー家の皆さんの視線が集まるので、へらりと笑っておいた。こういう反応は今に始まった事ではない。
「……いっても二十くらいかと思ってた」
ぼそりと言う、アントンさん。
くぅぅ、人が気にしていることを―!
そうなのだ。二十八にもなったのに、二十前後のニアやアリーンと並ぶと一番若く見られる事さえある。
いつまでも若造と舐められて本当に困るんだ。こんな事を言うと二人が激高するだろうから口が裂けても言いやしないが。
「良かったですね」
「まあ、な……」
カルレイさんの謎の声掛けに、旦那様が居心地悪そうに答えた。
なんだろう。
「何も知らない青年を手篭めにしたなんて、風が悪いでしょう?」
カルレイさんはにっこりと笑い、旦那様はそっぽを向いた。旦那様の意外な一面を見た気がした。
そういえばカルレイさんとアントンさんは旦那様に気安く接されている気がする。みんな年も近いようだし、付き合いが長いのかもしれない。
俺たち三人の身の上も記載されているという、あの調査書にはどんなことが記載されているんだろう。
今まとめている内容と重複する部分があるのでは、と思ってからはっとする。
そうだ、アクジョノ家の旦那様が勃起剤を買った話で家庭教師と延々と盛り上がって、最後に言われたのだ。
『仕える主人の内情は軽々しく話してはならない』、と。
『守秘義務というものがある』、と。
通常雇用契約を結ぶときに約束させられるもので、俺はそんなものを交わした覚えはないが「気をつけなさい」と言われたんだ。
その時は「旦那様の下半身事情でさんざん盛り上がった後に言われても」とこれまたお互い爆笑したのだが。
「これって守秘義務違反とかになるんでしょうか。俺は契約書は書いてないんですが、こちらにご迷惑をおかけする事になりますか?」
「かまわん。向こうの非人道的な行為がなければこうはならんのだから。それにしてもザクザク出て来そうだな」
急に不安になって振り返ると旦那様は驚き半分、呆れ半分で紙に目を落とした。
「お前達からの情報だという事は内密にするし、これだけの情報提供だ。うちで保護する事を約束しよう。もしマーロの契約書が捏造されていたら、しめたものだ。偽造の罪も追加になる」
旦那様の言葉一つ一つが頼もしいことこの上ない。
俺は感謝と共に安堵した。胸が温かい。
ここを追い出されることもなさそうだ。
そしてその夜、新しく部屋を貸し出される事もなく俺は昨夜の寝室にいた。
「ん?」
昨夜と同じような夜着の旦那様と、なぜかお揃いの夜着を借りている俺。
「寝ないのか?」
先に横になった旦那様がこちらにむけて布団を上げ、不思議そうにしているが。
「え、いや、俺、ここで寝るんです、か……?」
「他にどこで寝るんだ?」
不思議そうに返された。当然じゃないかと言わんばかりだ。
あ、意外と具合が良くて今夜も一発ご所望ですか?
と思ったが━━
「さすがに二カ月分、出し尽くした。いくら回復させたとはいえ、お前も嫌だろう。寝るぞ」
そうおっしゃる旦那様の腕の中で、今夜も俺は寝ることになったのだった。
ただし、その翌日はヤった。
初日とは違っていて、なんというか、俗にいう「いちゃらぶセックス」だった。
ん?
※
お嬢様が失踪されてから七日目の朝。
「俺がここで寝るのっておかしくない?」
シーツ交換をしてくれているアリーンに俺はついにそう尋ねた。
毎晩のように旦那様と交わり、その度に翌朝アリーンにベッドを整えられるこの居た堪れなさよ。
「旦那様と初夜を過ごしたのはマーロなんだから、当然じゃないの?」
アリーンは平然とそんな事を言う。
「でも旦那様は……」
つまみを回すことなく明るくなったランプ。
第三者に初夜を確かめられ、暗殺に備える旦那様。
酷使した俺の尻と腰の、驚異の回復。
毒に耐性があるとも言っていた。
薬を多用したにもかかわらず、ずっと会話が成り立っていた。自我や冷静さを失ってはいなかった。
鋼の精神力だと思っていたが。
古来よりこの世には、魔力を備える人間がいるという話がまことしやかに語り継がれている。それは皆が知っているおとぎ話のような話だ。
それをふまえて、俺は家庭教師に教えられた。
その血は尊ばれ、ごく一部の人間に集約されたのだという。
例えば、王族といった━━
先代の王は好色家というか、色欲が強いお方だったからご落胤がいてもおかしくない、と家庭教師も言っていた。
国境を守る「尊いお方」と思っていたが、これはガチで、シャレにならないやつなのでは━━
「あら」
ふと、窓掃除をしていたニアが声を上げた。
「お嬢様だわ」
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