「お前を愛する気など毛頭ない」とおっしゃる旦那様、完全に同意です!

志野まつこ

文字の大きさ
9 / 14

9、そういえば『守秘義務』習いました!

しおりを挟む
「アクジョノ家の皆さんは俺達の事、学のない平民だと思ってたから、けっこうきわどい話を平気でされるんですよ」
 俺達がいるのに、だ。
 黙って働くだけの、自分たちとは違う生き物くらいに思っていたのかもしれない。

 それだというのにお嬢様のお勉強はまず俺が家庭教師から学び、それを俺がお嬢様に教える方式だった。
 性格が悪く、勉強嫌いのお嬢様に教えるのは無理だと言って、家庭教師が皆すぐに辞めてしまうせいだ。
 よって俺は子供の頃からずっと学びの機会が与えられていた。
 家庭教師は俺を気の毒がって、貴族視点ではない世の中の仕組みや、役に立ちそうな法律なんかも教えてくれた。

 勃起剤を多用すると死ぬ、という話もこの家庭教師から教わったものだ。
 ……いや、違うな?
 授業のあと「旦那様が勃起剤買ったんですけど、あれって効くんですかね?」と俺が聞いただけの世間話だったな。
 さんざんそういった話をして盛り上がった。今思うとあの家庭教師とはウマが合った。

 俺はそうしてたくさんの知識を与えられたが、お嬢様はそれを受け取ろうとはしなかった。
 それを聞いた旦那様は眉間の皺をさらに深めた。
 眉間が険しいのはデフォルトだともう分かっている。

「マーロ、お前、年は」
 言いながらカルレイさんに手を向け、アクジョノ家の調査書を引き寄せる旦那様。旦那様が項目を探し当てるよりも先に答えた。

「二十八です」
 お嬢様よりも一つ上だ。
 リョシュー家の皆さんの視線が集まるので、へらりと笑っておいた。こういう反応は今に始まった事ではない。

「……いっても二十くらいかと思ってた」
 ぼそりと言う、アントンさん。
 くぅぅ、人が気にしていることを―!

 そうなのだ。二十八にもなったのに、二十前後のニアやアリーンと並ぶと一番若く見られる事さえある。
 いつまでも若造と舐められて本当に困るんだ。こんな事を言うと二人が激高するだろうから口が裂けても言いやしないが。

「良かったですね」
「まあ、な……」
 カルレイさんの謎の声掛けに、旦那様が居心地悪そうに答えた。
 なんだろう。

「何も知らない青年を手篭めにしたなんて、風が悪いでしょう?」
 カルレイさんはにっこりと笑い、旦那様はそっぽを向いた。旦那様の意外な一面を見た気がした。
 そういえばカルレイさんとアントンさんは旦那様に気安く接されている気がする。みんな年も近いようだし、付き合いが長いのかもしれない。

 俺たち三人の身の上も記載されているという、あの調査書にはどんなことが記載されているんだろう。
 今まとめている内容と重複する部分があるのでは、と思ってからはっとする。
 そうだ、アクジョノ家の旦那様が勃起剤を買った話で家庭教師と延々と盛り上がって、最後に言われたのだ。

『仕える主人の内情は軽々しく話してはならない』、と。
『守秘義務というものがある』、と。

 通常雇用契約を結ぶときに約束させられるもので、俺はそんなものを交わした覚えはないが「気をつけなさい」と言われたんだ。
 その時は「旦那様の下半身事情でさんざん盛り上がった後に言われても」とこれまたお互い爆笑したのだが。

「これって守秘義務違反とかになるんでしょうか。俺は契約書は書いてないんですが、こちらにご迷惑をおかけする事になりますか?」
「かまわん。向こうの非人道的な行為がなければこうはならんのだから。それにしてもザクザク出て来そうだな」
 急に不安になって振り返ると旦那様は驚き半分、呆れ半分で紙に目を落とした。

「お前達からの情報だという事は内密にするし、これだけの情報提供だ。うちで保護する事を約束しよう。もしマーロの契約書が捏造されていたら、しめたものだ。偽造の罪も追加になる」
 旦那様の言葉一つ一つが頼もしいことこの上ない。
 俺は感謝と共に安堵した。胸が温かい。
 ここを追い出されることもなさそうだ。

 そしてその夜、新しく部屋を貸し出される事もなく俺は昨夜の寝室にいた。
「ん?」
 昨夜と同じような夜着の旦那様と、なぜかお揃いの夜着を借りている俺。

「寝ないのか?」
 先に横になった旦那様がこちらにむけて布団を上げ、不思議そうにしているが。

「え、いや、俺、ここで寝るんです、か……?」
「他にどこで寝るんだ?」
 不思議そうに返された。当然じゃないかと言わんばかりだ。

 あ、意外と具合が良くて今夜も一発ご所望ですか?
 と思ったが━━

「さすがに二カ月分、出し尽くした。いくら回復させたとはいえ、お前も嫌だろう。寝るぞ」
 そうおっしゃる旦那様の腕の中で、今夜も俺は寝ることになったのだった。

 ただし、その翌日はヤった。
 初日とは違っていて、なんというか、俗にいう「いちゃらぶセックス」だった。

 ん?

 ※

 お嬢様が失踪されてから七日目の朝。
「俺がここで寝るのっておかしくない?」
 シーツ交換をしてくれているアリーンに俺はついにそう尋ねた。
 毎晩のように旦那様と交わり、その度に翌朝アリーンにベッドを整えられるこの居た堪れなさよ。

「旦那様と初夜を過ごしたのはマーロなんだから、当然じゃないの?」
 アリーンは平然とそんな事を言う。

「でも旦那様は……」
 つまみを回すことなく明るくなったランプ。
 第三者に初夜を確かめられ、暗殺に備える旦那様。
 酷使した俺の尻と腰の、驚異の回復。
 毒に耐性があるとも言っていた。
 薬を多用したにもかかわらず、ずっと会話が成り立っていた。自我や冷静さを失ってはいなかった。
 鋼の精神力だと思っていたが。

 古来よりこの世には、魔力を備える人間がいるという話がまことしやかに語り継がれている。それは皆が知っているおとぎ話のような話だ。
 それをふまえて、俺は家庭教師に教えられた。
 その血は尊ばれ、ごく一部の人間に集約されたのだという。
 例えば、王族といった━━

 先代の王は好色家というか、色欲が強いお方だったからご落胤がいてもおかしくない、と家庭教師も言っていた。
 国境を守る「尊いお方」と思っていたが、これはガチで、シャレにならないやつなのでは━━

「あら」
 ふと、窓掃除をしていたニアが声を上げた。

「お嬢様だわ」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

【完結】塩対応だった旦那様が記憶喪失になった途端溺愛してくるのですが

詩河とんぼ
BL
 貧乏伯爵家の子息であったノアは家を救うことを条件に、援助をしてくれることとなったラインドール公爵家の若気当主のレオンに嫁ぐこととなった。  塩対応で愛人がいるという噂のレオンやノアを嫌う義母の前夫人を見て、ほとんどの使用人たちはノアに嫌がらせをしていた。  そんな中、レオンが階段から転落し、レオンは記憶を失ってしまう。すると――

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しております

処理中です...