ヒロインの息子×悪役令嬢の息子(転生者)

ー結月ー

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用心棒として守る者

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「騎士さんならすぐに仲良くなれると思うから大丈夫です!」

「…本当?」

「エンジェルの理解者だって自称してるんで!」

まだ用心棒になってから数日しか経っていないけど、エンジェル達とは仲良くなって少しくらい分かっているつもりだ。
意外と顔面重視のエンジェル達が多いから、騎士の美しい顔なら仲良くなれる筈だ。

そう思ったのに、騎士は急に無表情になった。
さっきまでは嬉しそうな顔をしていたのに…やっぱり会えないのがそんなに嫌なのか。

そうは言っても、エンジェル達が住んでいる場所を教えるわけにもいかない。

俺の頭ではベストの考えなんて生まれるわけがなかった。

「俺で良ければお話……いらないですよね、ごめんなさい」

俺はエンジェルでなくて、ただの用心棒だから話しても面白くないよな。
何をしにきたのか思い出して、店に入ろうと鍵を開ける。
ドアを開ける前に、思いっきりドアを手で押されてびっくりした。

顔の真横に手があって、背中に騎士がいるのは分かるが振り返れない。

他になにか用でもあるのか?エンジェルの場所を教えろって事?それはちょっと…
小さな声で「あの…」と声を掛けると、肩を掴まれて振り返らされた。

鼻がくっつきそうなくらい至近距離で見つめ合い、視線を下に向ける。
そうだ、勘違いとはいえキスしたんだった……俺の初めての…

大切にしていたわけでも、捧げる理想の相手もいないからか忘れていた。
能天気過ぎだった、男相手でも思う事はあるが顔が見えなかったから何処か別次元に感じていた。

でも、こうして顔が見える状態でいると目を逸らしてしまう。

真剣な顔でジッと見つめられて、もしかして男とキスしたから怒ってる?
でも、不可抗力だ…あの時俺はどうすれば良かったんだ。

「話したい、君と…」

「………へ?」

自分でも思ったより間の抜けた声が出てしまった。

俺なんかで良ければ…面白い話とかは出来ないけど…

とりあえず窓の戸締りだけ確認する事を伝えてドアを開けた。
灯りがなくて、真っ暗な店内で誰もいないと知らせていた。
エンジェルも他の従業員も皆いない筈なのに、奥の方で物音が聞こえた。

まだ誰か残ってる?いやでも、鍵は閉まっていた…でも窓が開いていたとしたら窓から?

「誰かいますか?」

声を掛けても誰も何も返事をしなくて、明るくしようと思って店の壁に掛けられたロウソクに火を付けようとした。

その時、横から腰を掴まれて俺の体が軽く浮いた。
そのまま横に移動して、すぐ近くで金属音が聞こえた。

俺は騎士に抱っこされていた、どうして突然?と目が点になる。
ただ火を付けようとしただけなんだけど、マッチを持ったままどうしようかと戸惑う。

その時、呻き声が聞こえた…俺でも騎士でもない第三者の声だ。

驚いて周りを見渡すと、暗闇に動く影があった。
具合が悪いのかもしれない、でも騎士が離してくれないと駆け寄る事も出来ない。

「助けないと…あの…」

「…アイツ、君を襲ってきたから危ない」

「そんな事…」

ないとは断言出来ないのが恨みを買う俺の仕事だ。
俺が追い払った人物だったら、暗がりを狙って襲ってくるだろう。

営業していないとはいえ、この店の敷地内で起こった事なら俺の責任だ。
俺を床に降ろして前に出ようとする騎士を止めた。

終わった後に正式に騎士が判断して裁いてくれればいい。
俺に文句があるなら聞いてやる、用心棒としてこの店を守るために…

「お前は誰だ、何故こんな事をする」

「……うるさいうるさい、せっかく俺とエンジェルの時間を奪ったくせに…俺がエンジェルを守るのに」

「お前は…」

その声には聞き覚えがあった、ナイフを持っていた男だ。
戦意喪失したと思ったが、復活したのか…どうしたものか。

護身用って言ってたけど、エンジェルを守るためだったのか。
だとしても、エンジェルにも危害を加えるものを持って来店する事は出来ない。

近付こうとしたが騎士に腕を掴まれて止められた。
それでも大丈夫だと、騎士の手を握るとびっくりしたのかすぐに離れた。

男に近付いて、しゃがむと腕を振り上げている影が動いた。
それを手で握りしめて、男をまっすぐと見つめる。

「俺がエンジェル達を守る、エンジェル達やお客様に安心してもらうために俺がいる」

「……う、ぐっ」

「まだ俺は新人だ、信用できないのも分かってる…でも俺は命を掛けても用心棒をやっているんだ、今までの用心棒とは違う…俺は絶対に逃げたりしない…なにがあっても…」

ポタポタと床に雫が落ちて、真っ赤に染めていく。
それでも俺は手を離さずに手を引いて男を引き寄せる。

暗がりでも目が合うのが分かり、男から目を逸らさない。
俺を認めてもらわないと、きっとまた同じ事を繰り返す。

用心棒をやるって決めた日から俺はその覚悟でいる。
こんな俺でも必要としてくれたエンジェル達のために頑張るんだ。

「う、うわぁぁぁん!!!!!」

急に大泣きしてしまい、びっくりして固まった。
そんなに怖かったのか?わんわん泣き喚いてしまってどうしようかと思って手を離す。
明らかに俺より年上なんだけど、慰め方が分からない。

そう思ったら、俺の横に誰かが来て目の前の男の体が動いた。
大きな音を立てて、男の体は椅子やテーブルを巻き込んで倒れた。

「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続ける男に向かおうとしている騎士の腕を掴んだ。

「ダメ!もういいです、謝ってる事ですし…これ以上は」

「なにが?」

「無抵抗の相手に暴力をしたら、貴方が悪くなってしまいます!」

「……」

後は騎士に裁いてもらいたいが、公平な判断をする前にやったらそれはただの暴力だ。
俺も暴力にならないように、相手から攻撃してきた場合のみ対応している。

騎士は少し違うだろうけど、少しは反省してくれているんじゃないかと思っている。
俺の思ってる事が通じたのか、騎士は男を連れて引きずっていた。

店のドアを開けると、外の光で騎士の姿が見えた。
俺に「すぐ終わるからちょっと待ってて」と言ってドアが閉じて、再び暗がりに染まった。

俺は騎士が帰ってくるまで、ロウソクに火を灯して店内を明るくさせた。
室内がぐちゃぐちゃになっていて、俺も自分の手の血で床を汚していた。

まずは手をどうにかしないと、歩く度に汚れるよな。

救急箱を手に取って、包帯を巻いてから掃除を始めた。

倒れた椅子やテーブルを元に戻して、モップで床を掃除する。
最後に窓を閉めて、騎士を待とうと思って振り返った。

「うわぁ!?いつの間に?」

「…ついさっき」

「そ、そうでしたか…あははっ」

大きな声を出してしまって、恥ずかしくて誤魔化すように笑った。
ぎこちないかな、と思っていたが騎士は微笑んでいて良かった。

ここは店だから、店を出て俺の家である倉庫に案内した。

何度も念を押して「俺の家、びっくりするほど狭いですよ!」と言っても「大丈夫、君がいるから」と、女の人ならクラクラしてしまいそうな言葉を自然と口にしていた。
俺も見習いたいな、女の人に言うだけで頭がヒートして倒れてしまうと思うけど…

見た目も中身も倉庫に到着して、騎士を呼んだ。
人を呼ぶのは初めてだ、恥ずかし過ぎて呼べないけど…

足場が布団の上しかなくて、本当に申し訳ない。

「何処でも座って下さい…といっても布団の上しかないけど」

「うん」

布団に男が二人並んで座る、かなりシュールだな。
片方が絵画のような美形でも、俺はどうしても浮いてしまう。

人が来る事を想像してなかったから、お茶も出せない。

隣をチラッと見ると、俺の顔をジッと見つめていた。
これってお茶の催促か!?どうしよう、水もない!
流石に湖の水はダメだし、水汲み場はあるが倉庫とは反対側にあるから待たせるのも悪いよな。
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