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第6章 終局七将イゴロウ
第21転 ステータスとパラメーター
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短剣を弾いて距離を稼ぎつつ着地する。イゴロウは無事だ。あんな急転回の抜剣をしておきながら手首を捻ったり腰を痛めたりしている様子はない。余裕の防御行動だった。
「……ちっ。今のはうまく意表を突けたと思ったんだがな」
駐屯地に潜入して一番近くのテントの陰まで接近、そこから力の限り跳躍して上空に移動、イゴロウのほぼ真上から急襲したのだ。人間にとって頭上は克服しがたい死角の一つだ。うまく行けば一撃死、悪くても先制にはなると思っての攻撃だったのだが、当てが外れた。
「いやいや、今のは結構ビビったぜ」
「本当かよ。余裕そうな顔しやがって」
事実、イゴロウは冷や汗一つ掻いていない。クリトやデクスターなんかとはレベルが違うのは知っていたが、まず胆力からして違う。これが『終局七将』か。
「どうやってここまで侵入した? 見張りがいた筈だが」
「俺が本気で動けば、俺を視認できる奴はそういないよ」
「速さで強引に押し通ってきたのかよ。とんでもねえな、テメェ」
侵入した方法はなんてことはない。見張りの目にも留まらないスピードで走っただけだ。見張りからすれば一陣の風が吹いたようにしか感じられなかっただろう。不思議に思って振り返った時には、そこに俺の姿はないという訳だ。
「カルルちゃんの姿が見えねえが?」
「あいつならここまで道案内して貰った後、逃げたよ。元々獣月宮が無理矢理従えていただけだからな」
「そうかい? ま、そういう事もあるわな」
「……それより獣月宮を解放しろ。約束通り俺が来てやっただろうが」
「そいつぁできねえ相談だな」
「何だと?」
イゴロウが短剣を揺らす。宝石が散りばめられた豪奢な曲刃だ。
「折角一対一にしたってのにわざわざ二対一にする馬鹿はいねえだろう。こいつを解放したかったら俺様を殺してからにするんだな」
返す言葉もない。実際、イゴロウが竹をここで解放するなんて微塵も思っていなかった。イゴロウの言う通り、自分が不利になるような真似をする奴などいやしない。
だったら、
「そうさせて貰う……ぜ!」
言葉をその場に置き去りにして俺は地を蹴る。【大神霊実流剣術追儺】――近距離間での縮地法――高速移動だ。傍から見れば俺が消えたと錯覚しただろう。
瞬く間に肉薄し、刀をイゴロウの喉元に目掛けて突き出す。常人ならば気付きもせずに死に至る一閃だ。だが、
「ん~?」
異世界で盗賊をやっていた男が常人である筈がない。イゴロウはあまりにも容易く俺の刀を短剣で受け止めていた。
「ひゅー。危ねえ危ねえ」
そのまま短剣で刀を上に流して弾く。だけでなく、一歩踏み込んだと思ったら俺の腹を短剣で斬り付けた。俺は躱したものの逃げ遅れた服が裂かれ、一部の繊維が舞う。
「危ないのはそっちだろうが!」
愚痴を零しながら俺は二度三度と地を蹴って距離を離す。
「待て待て~ってな」
イゴロウが俺を追う。俺よりも瞬発的ではないが、俺よりも軽やかな動きだ。離れた距離を今度はイゴロウが詰める。
疾走する短剣。旋回する刀。イゴロウの殺意が右から左から上から下から死角から予想だにしない方向から攻める。刃と刃が瞬きの間に幾十とも激突し、火花を散らす。最高速度は俺の方が上だが、小回りはイゴロウが勝る。総じてスピードは互角だった。
「こいつ、これでスピード系のチートじゃないのかよ……!」
冷や汗を宙に散らしつつ、この駐屯地に来る間際にしたカルルとの会話を思い返す。
『――は? イゴロウ殿のチートスキルは何かって? はあ……本気でイゴロウ殿と戦う気なんですね』
ここまで来る途中、イゴロウの手札を知ろうと俺はカルルに尋ねた。カルルは呆れ顔だった。
腹が立つが、無理もない。彼女は再三再四イゴロウの強さを語った後だ。それでもなお戦おうとする俺の方こそ正気に見えないのだろう。それでも、俺を案ずる気持ちが少しでもあるのか答えてくれた。
『イゴロウ殿に与えられたチートスキルは【神命豪運】――レベルアップ時に幸運値にボーナスを得られるって、それだけの常時発動型スキルですぞ』
『幸運値? ……ゲームじゃあるまいし』
地球と魔法世界カールフターランドに相違は数多くあれど、特筆するならばまず挙げられるのはレベルアップとステータスの存在だ。
魔法世界では魂の存在が証明されている。その魂を観測する事でパラメーターを数値化する魔法も開発されている。一般的には、
・体力
・魔力
・筋力値
・生命値
・魔法値
・敏捷値
・器用値
・幸運値
・レベル
この九種類のパラメーターが定められている。この九種類に加えて習得したスキルや資格を含めたものをステータスと呼び、魔法世界の人間はこれを自由に閲覧できる。【魂魄観測魔法】だ。
このパラメーターはレベルアップするごとに増え、レベルアップは魔物を殺すごとに得られる経験値によって成る。まさしくゲーム的システムだ。
『筋力値や敏捷値なんかは地球人でも計ろうと思えば計れますな。握力測定とか反復横跳びとかでいいと考えればですが。でも本来、数値には表せないパラメーターを視覚化して、その上、操作できるっていうのが異世界人の強みなのですぞ』
『確かに……レベルとか運のよさとか計れるもんじゃねえからな』
そういう風に言われると、凄いシステムだ。
【神命豪運】はその計測不可能な筈の幸運値を強化するスキルだ。聞けば、この能力によってイゴロウの幸運値は現在、常人の五〇〇倍を優に超えているという。運が絡む要素において失敗する事はまずない数値だ。
『でも、幸運だけって聞くと強そうじゃないよな』
『実際、このスキル単体では強くはないですぞ。【陸の王者】や【太陽神の片鱗】の方がよっぽど理不尽な性能をしていますしな』
だが、
『イゴロウ殿の強さはその幸運値を如何に使いこなすかというところでしてな。イゴロウ殿が身に纏っているギンギラギンの装飾品、アレ全部に特殊効果があるそうですぞ』
『あの装飾品全部……!?』
『そうですぞ。「一定確率で相手を即死させる」、「一定確率で相手の急所を突く」、「一定確率で筋力値の倍のダメージを与える」、「一定確率で敏捷値の倍の速度で攻撃する」、「一定確率でダメージに器用値を上乗せする」、「一定確率で相手の攻撃を無効化する」、「一定確率で相手の攻撃を回避する」、エトセトラエトセトラ』
衝撃的だ。あの指輪にも首飾りにも全て意味があったとは。単なる成金趣味だと思っていたが、全身武器状態だったとは恐れ入る。
『イゴロウはその特殊効果を全て一〇〇パーセントで発動できる……?』
『そういう事でつ。結局、一番厄介なのは奇を衒った能力ではなく、普通に戦って強い奴なんですわ』
「……ちっ。今のはうまく意表を突けたと思ったんだがな」
駐屯地に潜入して一番近くのテントの陰まで接近、そこから力の限り跳躍して上空に移動、イゴロウのほぼ真上から急襲したのだ。人間にとって頭上は克服しがたい死角の一つだ。うまく行けば一撃死、悪くても先制にはなると思っての攻撃だったのだが、当てが外れた。
「いやいや、今のは結構ビビったぜ」
「本当かよ。余裕そうな顔しやがって」
事実、イゴロウは冷や汗一つ掻いていない。クリトやデクスターなんかとはレベルが違うのは知っていたが、まず胆力からして違う。これが『終局七将』か。
「どうやってここまで侵入した? 見張りがいた筈だが」
「俺が本気で動けば、俺を視認できる奴はそういないよ」
「速さで強引に押し通ってきたのかよ。とんでもねえな、テメェ」
侵入した方法はなんてことはない。見張りの目にも留まらないスピードで走っただけだ。見張りからすれば一陣の風が吹いたようにしか感じられなかっただろう。不思議に思って振り返った時には、そこに俺の姿はないという訳だ。
「カルルちゃんの姿が見えねえが?」
「あいつならここまで道案内して貰った後、逃げたよ。元々獣月宮が無理矢理従えていただけだからな」
「そうかい? ま、そういう事もあるわな」
「……それより獣月宮を解放しろ。約束通り俺が来てやっただろうが」
「そいつぁできねえ相談だな」
「何だと?」
イゴロウが短剣を揺らす。宝石が散りばめられた豪奢な曲刃だ。
「折角一対一にしたってのにわざわざ二対一にする馬鹿はいねえだろう。こいつを解放したかったら俺様を殺してからにするんだな」
返す言葉もない。実際、イゴロウが竹をここで解放するなんて微塵も思っていなかった。イゴロウの言う通り、自分が不利になるような真似をする奴などいやしない。
だったら、
「そうさせて貰う……ぜ!」
言葉をその場に置き去りにして俺は地を蹴る。【大神霊実流剣術追儺】――近距離間での縮地法――高速移動だ。傍から見れば俺が消えたと錯覚しただろう。
瞬く間に肉薄し、刀をイゴロウの喉元に目掛けて突き出す。常人ならば気付きもせずに死に至る一閃だ。だが、
「ん~?」
異世界で盗賊をやっていた男が常人である筈がない。イゴロウはあまりにも容易く俺の刀を短剣で受け止めていた。
「ひゅー。危ねえ危ねえ」
そのまま短剣で刀を上に流して弾く。だけでなく、一歩踏み込んだと思ったら俺の腹を短剣で斬り付けた。俺は躱したものの逃げ遅れた服が裂かれ、一部の繊維が舞う。
「危ないのはそっちだろうが!」
愚痴を零しながら俺は二度三度と地を蹴って距離を離す。
「待て待て~ってな」
イゴロウが俺を追う。俺よりも瞬発的ではないが、俺よりも軽やかな動きだ。離れた距離を今度はイゴロウが詰める。
疾走する短剣。旋回する刀。イゴロウの殺意が右から左から上から下から死角から予想だにしない方向から攻める。刃と刃が瞬きの間に幾十とも激突し、火花を散らす。最高速度は俺の方が上だが、小回りはイゴロウが勝る。総じてスピードは互角だった。
「こいつ、これでスピード系のチートじゃないのかよ……!」
冷や汗を宙に散らしつつ、この駐屯地に来る間際にしたカルルとの会話を思い返す。
『――は? イゴロウ殿のチートスキルは何かって? はあ……本気でイゴロウ殿と戦う気なんですね』
ここまで来る途中、イゴロウの手札を知ろうと俺はカルルに尋ねた。カルルは呆れ顔だった。
腹が立つが、無理もない。彼女は再三再四イゴロウの強さを語った後だ。それでもなお戦おうとする俺の方こそ正気に見えないのだろう。それでも、俺を案ずる気持ちが少しでもあるのか答えてくれた。
『イゴロウ殿に与えられたチートスキルは【神命豪運】――レベルアップ時に幸運値にボーナスを得られるって、それだけの常時発動型スキルですぞ』
『幸運値? ……ゲームじゃあるまいし』
地球と魔法世界カールフターランドに相違は数多くあれど、特筆するならばまず挙げられるのはレベルアップとステータスの存在だ。
魔法世界では魂の存在が証明されている。その魂を観測する事でパラメーターを数値化する魔法も開発されている。一般的には、
・体力
・魔力
・筋力値
・生命値
・魔法値
・敏捷値
・器用値
・幸運値
・レベル
この九種類のパラメーターが定められている。この九種類に加えて習得したスキルや資格を含めたものをステータスと呼び、魔法世界の人間はこれを自由に閲覧できる。【魂魄観測魔法】だ。
このパラメーターはレベルアップするごとに増え、レベルアップは魔物を殺すごとに得られる経験値によって成る。まさしくゲーム的システムだ。
『筋力値や敏捷値なんかは地球人でも計ろうと思えば計れますな。握力測定とか反復横跳びとかでいいと考えればですが。でも本来、数値には表せないパラメーターを視覚化して、その上、操作できるっていうのが異世界人の強みなのですぞ』
『確かに……レベルとか運のよさとか計れるもんじゃねえからな』
そういう風に言われると、凄いシステムだ。
【神命豪運】はその計測不可能な筈の幸運値を強化するスキルだ。聞けば、この能力によってイゴロウの幸運値は現在、常人の五〇〇倍を優に超えているという。運が絡む要素において失敗する事はまずない数値だ。
『でも、幸運だけって聞くと強そうじゃないよな』
『実際、このスキル単体では強くはないですぞ。【陸の王者】や【太陽神の片鱗】の方がよっぽど理不尽な性能をしていますしな』
だが、
『イゴロウ殿の強さはその幸運値を如何に使いこなすかというところでしてな。イゴロウ殿が身に纏っているギンギラギンの装飾品、アレ全部に特殊効果があるそうですぞ』
『あの装飾品全部……!?』
『そうですぞ。「一定確率で相手を即死させる」、「一定確率で相手の急所を突く」、「一定確率で筋力値の倍のダメージを与える」、「一定確率で敏捷値の倍の速度で攻撃する」、「一定確率でダメージに器用値を上乗せする」、「一定確率で相手の攻撃を無効化する」、「一定確率で相手の攻撃を回避する」、エトセトラエトセトラ』
衝撃的だ。あの指輪にも首飾りにも全て意味があったとは。単なる成金趣味だと思っていたが、全身武器状態だったとは恐れ入る。
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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