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急須酌子

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(1939,-s.s.van dine [winter])[1,]

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★ヴァン・ダイン
◎ウィンター殺人事件
○1939年-米国
○宇野利泰 先生-訳
○グーテンベルグ21
○amazon kindle

{◎小説あらすじと個人的コメを記しております。ヴァン・ダイン氏12番目の作品で遺稿。短編ですが、警察関係と召使いを除いても16人も登場人物がいます。全16章}


《われわれはみんな召使いですよ。人間として自分自身の召使いであるものもいれば、自分の持っている悪徳に仕えている人間もある。よく考えてみることですね~第6章~》



◇◇◇
~登場人物~
ファイロ・ヴァンス…素人探偵
マーカム…地方検事

レクスン氏…荘園の当主
リチャード…レクスンの息子
ジョーン嬢…レクスンの娘。病身
エラ嬢…ジョーン嬢の話相手
カーロッタ嬢…リチャードの結婚相手
クエイン医師……レクスン家の主治医
バセット氏……リチャードの友人

ガンサー氏…エラの父。荘園の監理人
ジェッド老人…緑の隠者(グリーンハーミット)で荘園の元監理人
ダラップ氏…荘園の大工頭
ウォレン氏…荘園の番人
ヒギンズ……執事
マーシア…家政婦

オレアリ警部補…ワインウッド警察署員
ブランダー氏……検屍官

~客人~
ダリア嬢…政治家
サリー嬢…歌手
ビアトリス嬢…飛行家
サイズ氏…秘宝発掘家
マッコーセイ氏…スピード運転手
スローム氏…騎手
◇◇◇


◆01-救助の要請[01月14日(火)11:00]
年が明けたある日、ヴァンスはマーカムからレクスン氏の荘園の邸に招待される。レクスン氏の息子リチャードの帰国パーティーが催される事になったがレクスン氏には1つ気がかりがあった。彼自身のエメラルドコレクションがパーティーの客人に盗まれるのではないかと懸念しており、見張り役としてヴァンスに白羽の矢が立つ。特に息子の友人バセット氏は、リチャードの結婚相手ビアトリス嬢の招待した客ではないため疑念を持たれていた。美しい荘園とエメラルドコレクションに興味を持ったヴァンスはその依頼を引き受ける。


◆02-月下の美女[01月15日(水)21:00]
翌日の午後、ヴァンスとダイン氏はレクスン邸のあるワインウッド地方へ出かける。通常なら車で5時間程で着くが昨夜は雪が降ったため到着したのは夜9時だった。邸を探して近くをさまよってると、どこからか蓄音機の音楽が聞こえて来る。林の向こうに池があり、1人の少女がスケートをしていた。美しいジャンプや回転技をヴァンスたちは褒める。彼女はエラ嬢でレクスン氏の病弱な娘ジョーン嬢の話し相手だった。蓄音機やスケート靴は近くのジェット老人の小屋に隠しておいて夜な夜な練習してるという。邸から離れて練習していたのはジョーンを気遣っての事だった。


◆03-ウィスキーのグラス[01月15日(水)22:30]
ヴァンスたちがレクスン邸へ辿り着くとパーティーは賑やかでカーロッタ嬢の案内で客人たちを紹介される。

雄弁な女性政治家ダリア嬢、太平洋横断に挑戦する女性飛行家ビアトリス嬢、ビアトリスに気があるスピード運転手マッコーセイ氏、既に酔っている騎手スローム氏、カーロッタに言い寄る秘宝探索家サイズ氏、リチャードに憧れる歌手サリー嬢、そして会場の隅で独りで飲んでいるバセット氏。ヴァンスはバセット氏と一通り話をすると、なぜか彼の触れたグラスを密かに持ち去るのだった…。

別室ではレクソン氏とクエイン医師がジェーンについて話をしていた。この2人は特別親しい関係のようだ。またヴァンスは6人の招待された客人に一通り会ってから、カーロッタはリチャードの許婚者らしいが彼が全くその気が無い事や、バセット氏が本当はスイスに行ったことがないと見抜く。そしてスケートリンクで出会ったエラ嬢の事が気がかりになっていた。


◆04-第1の殺人[01月16日(木)08:00]
翌朝、ヴァンスたちは執事ヒギンズが部屋のドアを叩く音で起こされた。レクスン邸番人のウォレン氏が岩山から滑落してガンサー氏が発見した。ウォレンはレクスン邸の西翼の番人でエメラルドコレクションが保管されてる宝石室もそこにあると言う。ヴァンスたち、エラ嬢の父で現在の監理人ガンサー、大工のダラップ、そして自らを「緑の隠者(グリーンハーミット)」と名乗るジェット爺さんの案内で雪が積もった朝の渓谷の谷間に赴く。滑落現場に着くとウォレンは手の施しようがない無惨な姿で発見される。町の警察に連絡するため邸に戻る際、ヴァンスはガンサーにお願いして崖の上を行く道を案内してもらう。雪のうっすら積もった低い木立に黒い血痕が残っていてヴァンスはウォレンが誰かに殴られ、意識がもうろうとした際に突き落とされたらしいと推理する。


◆05-エメラルドの呪縛[01月16日(木)09:30]
ヴァンスがワインウッド町の警察へ連絡するとオレアリ警部補がやって来た。レクスン医師は警察医も兼ねていたので現場で検死する。ウォレン氏は死後8時間ほど経過していて真夜中に殺されたと推定される。またウォレンの右耳には圧迫痕と、滑落した際に出来たものとは別のスパナのような物で殴られた痕があった。ウォレンは別の場所で撲殺された後、谷底に突き落とされたのだった。現場には3人分の足跡が残っていたが、形が曖昧で誰のものかは分からない。
邸の西翼にガラス張りバルコニーと人口のスケートリンクがあり、そこで車椅子に座ったジョーンとエラが不安そうに話し合っていた。ヴァンスは何も心配はないと励ますが、エラはウォレンが真夜中に亡くなったと聞くとなぜか動揺し、自分が検死に立ち会うことになるだろうと言い残して去る。また家政婦のアーリア嬢はこのレクスン家はエメラルドのせいで呪われてると言い出す。ジョーンお嬢様の不治の病や、ジェット老人の気狂いぶり、許婚者のカーロッタ嬢の奇妙な友人たち。そして何より跡取りであるリチャードがエラ嬢と特別な関係を思わせる逢い引きをしていたというのだった。


◆06-棘のある言葉[01月16日(木)16:30]
邸内の正午のチャイムが鳴ると、ヴァンスはどこかへ出かけてしまった。彼が帰宅したのは夕方だった。レクスン氏に彼の領地内で様々な話を聞いたと伝える。レクスン家の評判は決して良くなく、現在の監理人ガンサー氏は仕事に厳しく使用人たちの評判が悪いため、近い内にウォレンが後を引き継ぐ予定だったと言う。またウォレンがエラ嬢との結婚を望んでいて父親のガンサーは反対してた。昔からジェーン嬢の側で仕えていたエラは、他の者たちの嫉妬を買って陰口を叩かれていた。エラの唯一の味方はこの領地ではジェット老人だけであり、「緑(グリーン)」の象徴のエメラルドが何かしらジェットに影響を与えてる事が伺えた。

ヴァンスたちが応接間へ行くとリチャードの友人バセット氏がエラ嬢の腕を掴んで絡んでいた。お高く止まって召使いには惜しい女だと、嘲る言葉を向けたバセットにヴァンスは鋭い視線で咎める。オレアリ警部補がやって来て明日の正午ブランダー検屍官の立会で検死訊問を行う事になった。そこへスキーから帰って来たカーロッタ嬢がエラ嬢を見下すようにリチャードはサリー嬢に乗り換えたらしいと意地悪を言う。サイズ氏はやめるように言うが彼を小馬鹿にした態度さえ隠そうともしないのだった。家政婦には今日のお嬢様の話し相手は結構と言われ、大人しく帰るエラ。ヴァンスは後を追い、身の拠り所のない彼女を明るく励ますのだった。


◆07-検死訊問[01月17日(金)正午]
ワインウッド公会堂にて検死訊問が行われる事になる。エラ嬢はヴァンスに自分も同行させてくれとお願いする。最初は彼女を説得しようとしたヴァンスだが、あまりに熱心でとうとう根負けして同行させる事になる。

会場ではブランダー氏が上手く場をまとめ、ウォレン氏は事故死であるとの見解になった時、大工のダラップ氏が挙手をし意見を述べる。彼はガンサー氏は使用人たちからの評判が悪く、近くウォレンが後を引継ぐことになってた事、ウォレンがエラに好意があり、ガンサー氏が反対してたこと、しかしエラはウォレンに特に好意はなく、事件のあった夜、ウォレンが突き落とされたらしい崖の上からエラが駆け下りてきたのを目撃したというのだった。ブランダーはここは個人的な悪態を述べる場ではないとしてウォレンは事故死したと言う結果に落ち着いたのだった。帰りの車中でヴァンスはエラにダラップが証言した事は本当かい?と尋ねるがあれは彼の嘘で自分は崖の上には行っていないと言うのだった。


◆08-秘密の計画[01月17日(金)夜]
その日の夜、夕食後にベランダからスケートリンクを眺めてるヴァンスたちの元へカーロッタ嬢が話しかけてくる。彼女は他の仲間たちと協力して、明日スケートリンクでリチャードのサプライズパーティーを計画しており司会者としてヴァンスにその役をお願いする。ヴァンスは喜んで引き受ける。それからカーロッタになぜエラに対し辛く当たるのか尋ねるとリチャードとエラの関係をカーロッタは既に気づいていてリチャードはサリーとほとんど口も聞かないという。カーロッタもこの結婚は全く乗り気がせず、レクスン氏を気づかってそれなりに振る舞ってるだけだった。
その後、ヴァンスはジョーン嬢の元へ行くと家政婦のマーシアには席を外してもらい、2人で話をする。ジョーンとエラは2人共、昔スケートが大好きだったがジョーンはスケートで転倒し車椅子になったある日、エラのスケート姿を見て大泣きしてしまい、以来2人の間でスケートの話題はしなくなってしまったという。しかしジョーンはその事をずっと申し訳なく思い、もう一度エラにスケートを滑ってほしいと望んでいるのだった。


◆09-オレアリ警部補の推理[01月18日(土)am~正午]
翌朝、珍しく早めに起きたヴァンスは支度をすると外出した。邸内の他の人々はパーティーの準備の買い物等に出かけた。ベランダからジョーンと家政婦マーシアが外の眺めを見ていると脇の小道からヴァンスとエラがやって来る。ヴァンスはこれからしばらくは、毎日エラをジョーンの元へ連れてくると約束する。

ヴァンスたちの部屋にオレアリ警部補がやって来て先日のウォレンの事故には疑問が残ると打ち明ける。大工のダラップ氏が言ったことは決して嘘ではなく、むしろいずれ起こりうる事だったのではないかと話すのだった。また犯行時刻にガンサー氏が自宅の方ではなく、ウォレンが滑落した崖の方へ歩いていく姿が目撃されおり彼にはアリバイも全く無いのだった。

それから正午のチャイムが鳴るまでは室内でエラとジョーン、クエイン医師が話していた。医師は他の患者の診察もあるため邸を後にする。その後、執事がヴァンスたちの元にやって来る。主の姿が見えないと言うので探すと、レクスン氏が部屋の中で倒れていた…!


◆10-消えた鍵[01月18日(土)12:30]
ヴァンスが駆け寄るとレクスン氏は頭の後ろを殴られ、血を流し倒れていた。血は既に黒くなり始めていた。しかし幸い命に別条はなく間もなく意識を取り戻す。クエイン医師が丁度お昼で自宅にいた為、すぐ呼び出された。レクスンは殴られた時の状況を話す。正午のチャイムがなる頃、未だ朝食の盆が下げられてなかったため執事のヒギンズを呼び出そうとした際、突然頭の後ろに激痛が走り気を失ったと言う。そして腰の鍵束を見ると彼は騒ぎ出す。宝石室の鍵がなくなっていた。ヴァンスがすぐに宝石室へ行くがドアに鍵がかかっていたため、レクスンが合鍵で開ける。部屋に入ると他のエメラルドは無事だったが、ガラスケースが粉々に砕かれコレクションで1番高価な「イシュタール王妃の首飾り」が盗まれていた。レクスンは、あの首飾りだけは盗まれたくなかったと愕然とする。格子のはまった窓には傷が付けられた跡があり犯人はここから侵入しようとしたが断念し、鍵を奪うためレクスンを襲ったようだ。

通報で駆けつけたオレアリ警部補は、これでガンサー氏の疑いがますます強まったと主張する。午前中、滅多に会うことのないガンサーが珍しくレクスンに話があると言ってやって来た。レクスンは支度が整ってないというと帰ったと言う。他にも部屋を訪れてた家政婦マーシア、息子リチャード、ジョーンの診察に来たクエイン医師、サイズ氏とカーロッタ嬢がいたが、オレアリ警部補はガンサーがレクスンが部屋を空けた隙に忍び込んで物陰に隠れていたと推理する。また内通者としてエラ嬢も疑うがヴァンスはそれは大げさと否定する。応接間に戻るとジョーン嬢とカーロッタ嬢がおしゃべりして、バセット氏とサイズ氏はバーボンウイスキーを片手にトランプをしていた。


◆11-スケート・パーティー[01月18日(土)21:00]
その日の午後は何事もなく過ぎた。夕食後、レクスン邸の客人たちはベランダからスケートリンクへと集まってきた。そこへ白いマフラーを巻き、非の打ち所がない夜会服姿のヴァンスがスケートで滑りながら登場し司会者としてパーティーを指揮する。パリの小唄とコメディを披露するサリー嬢、ダリア嬢と騎手スローム氏のスケートボクシング(滑りながら行うため腕力は関係ないらしい)、ビアトリス嬢とマッコーセイ氏の飛行機模型によるパフォーマンス、カーロッタ嬢とサイズ氏のタンゴのアイスダンス…そしてラストに金色に輝く仮面をつけた女性が登場し、プロ級シングルフィギュアスケートの技を披露する。アンコールが鳴り止まず、仮面を取ってくれと観客たちが騒ぐので、彼女はヴァンスに促され仮面を取る。それはエラ嬢だった。ジョーンは感激しエラはきっとプロ級の才能があると信じていたと彼女を褒める。他の観客たちもエラを見る目が尊敬へとすっかり変わっていたのだった。


◆12-イシュタール王妃の首飾り[01月19日(日)09:30]
翌朝もヴァンスは早起きし、コーヒーを飲むとダイン氏と共に散歩に出る。エラ嬢と初めて会った池のスケートリンクの向こうへ行くと一軒の小屋がありドアをノックする。そこにはジェット老人がいてヴァンスたちを迎え入れる。テーブルには盗まれたエメラルド「イシュタール王妃の首飾り」があった。ヴァンスは優しく誰が盗んだか尋ねるがジェットは口をつむぐ。尋ねるのはエラのためであると言うと、ジェットは蓄音機の中に隠してあったのを見つけたと言う。また昨夜、エラがリンクで演技を披露する少し前に、この小屋にバセットがやって来てエラに手出ししようとしたがジェットが一緒に居合わせたので事なきを得たという。そこへエラもやって来て首飾りを盗んだのは自分であると告白する。しかし部屋に鍵がかかってなかった、ガラスケースを割らずに開けたと言い、つじつまが合わない。

ヴァンスはエラをレクスン氏の元に連れて行く。エラはそれでも自分が盗んだと言い張るので、本当はどこで首飾りを手に入れたか尋ねて嘘をつく必要はないと諭す。するとエラは、本当は昨夜のリンクに出る前に待機していた別館の更衣室で窓際に落ちていたのを拾ったのだと言う。またウォレンの事故の夜にダラップ氏に目撃されたのはリチャードと密かに待ち合わせをしてたからだった。しかし彼は約束の時刻に現れず、少し離れた場所でリチャードが誰かと言い争っているのを聞いて、彼はそのまま部屋に戻ってしまったためエラは泣きながら帰宅したのだった。父親やジェット老人やリチャードまでも何か陰謀に巻き込まれていると感じたエラは、すぐに首飾りを返せずためらってしまい嘘をついたのだった…。


◆13-第2の殺人[01月19日(日)11:30]
オレアリ警部補もやって来てエメラルドの首飾りが見つかった経緯を聞くとガンサー父娘の疑いをますます強める。そこへニューヨークのヒース部長からヴァンスに電話が入る。電話が終わるとオレアリ警部補がガンサー氏の逮捕状を取る手続きをしようとするのでヴァンスは引き止め電話の内容を伝える。このレクスン邸に来た初日の夜、ヴァンスがバセット氏のグラスを密かに持ち去り、ヒース部長に指紋照合を依頼したところ、バセットが国際的宝石盗難のリーダー「ビセット」である事が判明した。今回本名を偽りリチャードに近づいたのもエメラルドコレクションを盗むのが目的だったようだ。早速バセットを尋問しようとするが彼は部屋におらず、ベッドも使用された形跡がない。ヴァンスたちとオレアリ警部補は、バセットが逃亡を図ったのだろうとワインウッド駅に向かう。しかしヴァンスはバセットが車を使用してないため徒歩で行く事を提案。その途中、邸内の仕切り壁の側で倒れているバセットを発見する。しかし彼は既に死んでおり、盗まれた残りのエメラルドもなく、ウォレンと同じように右耳に傷痕が付けられていた……。

ヴァンスは邸に戻りクエイン医師に連絡後、エラ嬢にヴァンスが止める合図をするまでスケートリンクで踊り続け、客人たちをできるだけ邸から引き離しておいて欲しいとお願いする。父のガンサー、ジェット老人にはレクスン氏が話があるから書斎に来るよう伝えるように言うのだった。


※以下はネタバレですので、未読の方は…
(>0<;)見ないで下さいな!


























◆14-時間稼ぎのスケート[01月19日(日)13:15]
ヴァンスは執事のヒギンズが家政婦マーシアを呼びに行く間、レクスン氏に話しかける「僕は午前中、何か忘れ物をしたような気がします。大した物ではないのですが…待っていたのに起こらなかった、そんな感じです」

そこへマーシアがやって来る。昨日エメラルドが盗まれた時刻に廊下で見かけた人物を尋ねる。リチャード、バセット氏、サイズ氏、正午のチャイムの後にクエイン医師、裏口にいて邸まで入ったか分からないがガンサー氏、ジェット老人はほとんど邸に寄り付かない為、見かけていないという。そしてエメラルドが盗まれた事を彼女はむしろ良い事であったと言う。それから近い内に自分はワインウッド町を離れるつもりだとレクスン氏に報告する。昨日、クエイン医師からプロポーズされ彼もワインウッドでの商売に限界を感じ始めており、何年も前からヨーロッパの方へ移住を考えていた。以前からマーシアに想いを寄せていた事もあり一緒に来て欲しいと言われたのだった。そこへエラから伝言を受けたガンサーもやって来る。ヴァンスはガンサーが昨日、邸を尋ねた理由を聞くと、エラの恋人であるリチャードから今後飲酒を絶つと約束してくれるなら、自分からも父に解雇を思い留まるよう説得するから邸に来て父のレクスンと話し合って欲しいとお願いされたからだった。しかし、いざ合うとなると気持ちが塞ぎ、緊張からつい酒をあおってしまい酔いを冷ますため邸を後にしたのだと言う。オレアリ警部補はここぞとばかり早速ガンサーを逮捕しようとするが、ヴァンスはリチャード、サイズ氏、クエイン医師から話を聞いた後にするよう引き留める。



◆15-揃った証拠[01月19日(日)13:45]
部屋にリチャード、サイズ氏、クエイン医師もやって来る。ヴァンスはサイズに「貴方が興味があるのは隠された秘宝探索だけですか?」と問う。サイズは自分がエメラルドの窃盗を疑われたと感じ、レクスン氏がエメラルドコレクションを持ってる事は今回ワインウッド町に来るまで全く知らなかったと言う。またコレクションの閲覧が急きょ中止になって(盗まれた為)残念に思っていると話す。ヴァンスは今朝バセットが殺された事を話すとサイズもリチャードも驚く。バセットの洋服ポケットや部屋からエメラルドが見つからない事を考えると手元にいつまでも置くような事はせず、小包で郵送してしまったに違いないと推理。そしてリチャードに対し「貴方には様々な点でその機会があった」と言うと父親のレクスンがヴァンスにもうこれ以上追求しないで欲しいと遮る。その時、突然マーシアが「そんなはずありませんわ!!」と泣きながら部屋を飛び出してしまったのだった。ヴァンスは窓の外の人物に気がつくと招き入れる。話を立ち聞いていたジェット老人だった。
再び部屋に戻って来たマーシアの手には小包があった。彼女が急いで開封すると中から盗まれたエメラルドの残り全てが出てきたのだった…!



◆16,-それぞれの出発[01月19日(日)14:45]
マーシアはクエイン医師からこれを受け取り「ヨーロッパに着くまで開けずに保管しておいて欲しい」と言われたという。エメラルドを盗んだのはクエイン医師だった。昨日は土曜日で町の銀行が閉まっていたため邸から外に出せなかったのだった。

クエイン医師はバセットとの会った時の事を話す。何年も前、ヨーロッパ旅行をした際に会って彼の宝石類を米国に持ち帰って欲しいと頼みを聞いたのが始まりだった。素晴らしい宝石に目が眩んでつい引き受けたが、後にそれが全て盗品である事を知った。もう2度と会うこともないだろうと思っていたが、リチャードが連れてきた友人がバセットで彼は今回のエメラルド盗難に協力しろ、さもないと盗品密輸を暴露し医師免許をはく奪してやると脅されたと言う。しかし盗みの夜、ウォレンに宝石室の格子をこじ開けてる現場を目撃され、とっさに持っていた自動車用スパナで殴り殺してしまったのだった。事故に見せかけるためバセットと共にウォレンの死体を崖から落としたが、バセットは更に殺人を隠ぺいして欲しければ、エメラルドを盗む役をやれと言われ、彼の殺害を決意する。昨夜、エメラルドを渡すと言って邸から離れたところへ呼び出し同じスパナで撲殺したのだった。

ヴァンスが午前中に感じていた違和感は正午のチャイムだった。レクスン氏によると日曜のみ、あのチャイムは鳴らさないと言う。昨日、エメラルド盗難があった時刻には応接間にエラ、ジョーン、クエイン医師、ヴァンスがいて、バセットがやって来たのは“レクスン氏から鍵を奪った、宝石室へ盗みに入れ”と言う合図だった。長年このレクスン邸の主治医であるクエイン医師は邸の何処にいても怪しまれず動き回れる。ベランダに面した窓から鍵を受け取ると、宝石室に侵入してエメラルドを盗んだのだった。エラとジョーンはレクスン氏が襲われた時刻のクエイン医師のアリバイの証人として利用されたのだった。

ヴァンスは殺害に使用したスパナが自動車用であるため犯人はこの邸を立ち去るまでは処分出来ないであろうと推理。エラの協力で全員を邸に引き留めたのは車を使わせないためだった。クエイン医師はマーシアに謝罪し、彼女へ想いを寄せていたのは嘘ではないと言うと、ポケットから何か取り出し急いで口に入れた。すると彼は突然、痙攣を起こしソファーに倒れ込んだかと思うともう動かなくなってしまったのだった……ヴァンスはアーモンド臭を嗅ぎ取り、彼が青酸カリを飲んだと呟く。
そこへカーロッタ嬢が部屋に飛び込んで来る。ヴァンスに「一体いつまでエラを踊らせるの!?」と抗議してくる。とっさにソファーのクエインの前に立ちはだかり「もう良いですよ」と言うやいなや、カーロッタは部屋を飛び出して行った。



事件も解决して、帰り際ヴァンスたちはレクスン氏の書斎に挨拶に行く。サイズ氏とカーロッタ嬢はこれから一緒にココス島へ行くと言い、マーシアは今しばらくはジョーンお嬢様のお世話をするとワインウッド町に残ることになった。娘が寂しがるのでレクスン氏もそれを聞いて一安心する。リチャードとエラは、一緒にヨーロッパへ行くことになった。研究に夢中になったらまた何年も町に戻らないだろう、その前に未来の息子の嫁と話をしたいと執事にエラを書斎に呼ぶよう言いつけるのだった。それを聞いたヴァンスは、微笑みながら書斎を後にしたのだった……。



《終》

{◎数回は書き直す執筆作業の内、初回の原稿で展開がかなり早い感じがしますが、ちゃんと完結されててすごいと思いました。特に11章のスケートパーティーでエラがワインウッド町の観客をあっと驚かせるフィギュアスケートを披露し、長年わだかまりのあったジョーンと本当に仲直りできた場面が素敵でした。殺人事件抜きでエラとジョーンの友情物語としても読めると思います}
※巻末に『探偵小説20則』とヴァン・ダイン経歴の解説付きです。

○Sonja Henie→ソニア・ヘニー選手…冬季五輪フィギュアスケート選手。エラ嬢のモデル。



*****
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