四天王最弱の闇の貴公子に転生した俺は器用貧乏を返上し、無限の手札と敵専用チート級最強最悪スキルで高笑いと共に全てを蹂躙し屈服させ覇道を征く!

ミオニチ

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第1部 〈そして俺は、勇者と魔王を手に入れる〉編

7、同志。互いに譲れぬもののために。

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「ふ。そうだな。太陽の少女、勇者アリューシャよ。陣営を異にするいまのこの俺と貴女の間柄では、さすがに友とは呼べまいが、志を同じくする俺たちは言わば、同志と呼べるだろう」

「ど、同志……! じゃ、じゃあ! ジュドー! なんであたしたち、おんなじ気持ちなのに戦わなきゃ……!」

「いや。望まないならば、必ずしも戦う必要はあるまい。勇者アリューシャよ。いま貴女が何もせず、この魔王城より退いてくれるならば、俺も何もせず、もちろん部下にも何もさせず見逃すと誓おう。そしてもう一つ、先ほど貴女に伝えたとおり、魔族と魔物そして人間たちが共存共栄する真に平和な世界という我が野望のために、即座に動き出すと誓おう。我が魔族としての誇りにかけて。さあ、返答は? 互いに立場は違えど志を同じくする、我が同志よ」

「う、うん……! ジュドー! な、なら……!」

「いいかげんにっ! してっ!」

 予期せぬ俺とのやりとりに揺れる少女勇者アリューシャを遮るように、黒髪の少女魔導師がさらにずいと一歩前に出て、まっすぐに先端に魔石のついた杖が突き出される。

「め、メルニー……!」

「だまされちゃダメ! アリューシャ! あの魔族、四天王があなたと同じことを思ってるなんて、そんなわけない!」

 その震える杖先、敵意と威嚇、そして猜疑に揺れる黒い瞳に、俺は鼻で笑って返す。

「ふ。だます? それは貴女自身の心をか? 勇者パーティーの少女魔導師よ。貴女は知っているはずだ。今日初めて会ったばかりの、それも魔族である俺の言葉は、なるほどたとえ信じられずとも、そこにいる勇者アリューシャ。裏表をまったく持たないがゆえか、相手の本質や真偽さえも鋭敏に見抜く目を持つ勇者アリューシャのいまのその激しく動揺する姿こそが、この俺の言葉が真実である何よりの証拠であると」

「っ!? あ、あなた……!? な、なんでそれを……!?」

「さて? 何故だろうな。まあ好きに想像するといい」

「め、メルニー……!」

 これで終わりかと思われた俺と少女魔導師とのやりとり。

 だが、動揺する勇者アリューシャを一度じっと見つめ、ふぅ……! と長く息を吐くと、少女魔導士のその震えと揺れがぴたりと収まり、まっすぐに杖先と翠の瞳が再び俺を射抜く。

「じゃあ、聞きかたを変えるわ。魔王直属四天王の一人、闇の貴公子ジュド。私の大切な親友アリューシャへのいままでのあなたの言葉が全て真実だとして、じゃああなたはいったい、そのためにつもり?」

 思わず、ぶるりと体が震えた。その問いに俺は、口の端と――

「ふふ、ふははっ! ふはははははっ!」

 ――心の底から、高笑いを上げざるをえない。

「くくっ……いや、すまないな。どうやら貴女を見誤ってしまっていたようだ。俺としたことがまたしても礼を失したらしい。……そうだな。ここで全てを語ることは無粋、かつ俺の望むところではない。だが、これだけは言っておこう」

 そこで俺は、口の端をつり上げ、夜の闇を写した藍色の片側留めのマントをばさりと翻す。

「我が野望、俺が征くのは覇道。そしてその障害となるものには容赦はしない。それは、誰よりも心優しい貴女には決してできないことだ。どうだ? 意味がわかるか? 彼女の親友たる魔導師。そして我が同志、勇者アリューシャよ」

 数秒の沈黙。

 その後、訝しげに瞬いていたその穢れのない美しい青い瞳が何かを察したかのように大きく見開かれ――そして、間髪入れずに腰の剣が引き抜かれる。

「だ、だめだよ……! そんなの……!」

 激しく震える手の動きが段々と収まり、ピタリと勇者アリューシャのその切先がまっすぐに俺に突きつけられた。

「もしかしたら、もしかしたらっ! あなたのやりかたのほうが、きっと、結果的には、たくさんの人たちを、魔族や魔物だって、救えるのかもしれない……! でもっ! やっぱり、だめだよ! そのためにたくさん犠牲にするなんてひどいことっ! だから、ジュドー! あたしはいまここで、あなたを止めるっ!」

 ―― ふ。それでこそ、だ。かつての最推し、そしていまの俺が認めし同志、勇者アリューシャよ。

「くく。結構。なかなかに得難い有意義な愉しい時間ではあった。が、どうやらもはや互いに言葉は出尽くしたと見える。では、あらためてそろそろ始めようか。互いにどうしても譲れぬもののために。人々の希望たる太陽の少女、勇者アリューシャを筆頭とする勇者パーティーの諸君。この俺、魔王麾下きか直属四天王が一人、闇の貴公子ジュドが全身全霊をもって――これより、貴女たちを蹂躙しよう」

 心からの満足をもって、俺はそう言ってもう一度恭しくバサリとマントを翻し頭を下げ――厳かに戦いの火蓋を切った。
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