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第三章

第三章 よし。金鉱山を見つけよう!

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第三章 よし。金鉱山を見つけよう!

     王城
あの列車事故から数日が経ち、私はスラム街に向かっている。
「お嬢様~やはり止めにしませんかあ~?危険ですよ・・・」
「そうですターニャさんの言う通りやめにするべきです!」
ターニャと共に来てくれた護衛の騎士ジャンが口を揃えて言ってくる。
二人が止めるのも無理はない、これから行く場所はあまりにも治安が悪く、ましてやこんな少人数で行っていい場所ではないからだ。
「ごめんなさい。でもどうしても私は見なければならないと思うの。王女としてこの国の貧しい場所を見ずにのうのうと生きていくなんてただの怠慢。私たち王族は国民が働いているおかげで毎日豪華な食事が食べられるのだからそこから目を背けるわけには行かないの」
二人は言葉が出なかった。なぜ目の前にいる少女がなぜこんな事を言い放つのか?
なぜその年でその考えに至ったのか?本当に目の前にいる少女は年齢通りの少女なのか?
そんな考えが頭の中を巡り、何も言い返せなくなってしまったのだ

     ディストブルグ・スラム街
それは馬車の中で、普段外に出ない私でもハッキリ感じた。
ある一定の境界線を超えた途端に空気が変わったから。
鼻の奥を突くような汚物と腐臭が混ざった匂い。
馬車の小窓から外を覗き、通り座り込む人々と目が会う度に人々から肌がピリピリ痺れるような殺気を向けられる。
ターニャとジャンも明らかに先程までとは違い目付きが鋭く常に周りを警戒し直様剣を抜ける状態になっているのがわかる。
「「これが国から切り捨てられ、人々から忘れ去られる人々・・・」
なんとも言えない感情が湧き起こった。
スラム街の中心地に到着した。馬車から降りた瞬間先ほどまで感じていたものが一層強くなり、昼に食べたものが出て来そうになった。
「大丈夫ですか姫様!」
「・・・ハアハア・・・大丈夫です・・・ごめんなさい大丈夫だから・・・」
「「見なければいけない」」そう思いここに来たが、それがどれほど甘く優しい考えだったかが思い知らされた。中心街に行くほど様子がひどくなり、人々は痩せこけ着ているものはボロ雑巾のような布。街自体は荒れ果ていつ崩れてもおかしくない状況だ。
「こんなところがこの国にもあったなんて・・・」
「・・・はい。ここは先の大戦で負傷したり事故で働けなくなった人々は行く宛もなく
国と人から追いやられた人々が集まった街です。ここでは人が死ぬなんて日常茶飯事で子供は特に死亡率が高いです」
「ですが!国も何もしていない訳では無いんです。食料配給をしたり無料の治療を行ったりしていますが、根本の問題解決にならなく結局この状態が続いているのです」
「根本ってなに?」
「・・・そもそも彼らが働ける仕事がないんです。彼らの中に五体満足のものなんていないんです。何かしらのハンデを抱え、その所為で傭兵も炭鉱労さえもできない状況なんです」
周りを見渡した。ジャンの言う通り、道端にいる人だけでも片手、片足がない人しかいなかった。
「そうです。そもそも働ける場所がなければ金は入ってこない。飯を買うことも服を買うこともできない。彼らはただただ死ぬまでこの街の片隅で死んだように生き続けるのです。」
ジャンの言葉が重くのしかかった。
「「死んだように生き続ける」」その言葉はこの光景に一番相応しい言葉だった。
彼らは、働く生き甲斐も生きる意味もなくし、新たに何かを始めることもできず、誰にも受け入れられず、ただ無為に死が向かいに来るのを待っているだけだ。
「・・・私のやるべきことが見えたわ」
私は決めた。たとえ未来が絶望だとしても、今目の前の絶望を救えるのに救わない理由にはならない。これが未来の私にどう左右するのかわからないけど、彼らを救える力があるのにそれをしない訳にはいかない。

     王城・自室
「ねえターニャ!この鉱山がどこにあるか調べてくれない?」
「お嬢様ここに何かあるのですか?」
「多分、そこにあるもので何とかなるかもしれないの」
はあ?・・・と渡された紙に疑問符を抱えながらも城の図書庫に向かう
「ジャンあなたスラム街のまとめ役みたいな人と会えるかしら」
「・・・・・・・・・」
「「ん?反応がない」」ジャンを見ると珍しくもないけど口を開いてポカーンとしている
「「あ・・この人何言ってんだろう・・正気かなって考えてる」」って言われなくても分かりちょっとイラッとした・
「ジャン!お願い!探してきて!」
「は・・・はい!」

     山脈沿いのある場所
厚く積もった雪の上を大きな荷物を抱え登っている集団がいる
ハアハアハアハアと大量の汗が頬を滴る
「大丈夫?」
「だ・・・大丈夫です」と言っているが見た目はダメでしょって感じだ
そりゃそうだ。こんな雪深い場所で私を肩車しながら登ってくれているのだから
だけど、これには訳がある。
まさか登ろうとした瞬間、小さな自分が頭まで雪に沈んでしまうとは思いもしなかった。
結果このままは危険と言われジャンの肩の上にいる。
「い・・いきましょう」

しばらくしてジャンの上にいる小さいのが「ここですね」と地図とコンパスを頼りに目的地の近くに着いたことを知らせる。
周りを見渡すと崖沿いに洞窟があり、持ってきたつるはしで掘り始める。
2~3時間、ジャン達に掘り続けさせた。
ジャンは終始、見つかるんですか~?と小馬鹿にした感じでぼやいている。
しばらくしてそれは突如現れた。甲高い金属音が響いた。
目的のものが見つかったようだ

     一年半後
再び、あの時降り立った場所に立つアイリスがいた。
あの時嗅いだ吐きそうな匂いは無くなり、道端に座り込む人の姿は消えていた。
街は大きく変化していた。
あの後アイリスは行政の見直し、仕事の斡旋及び新たに国の仕事を作り出し彼らが働ける場を作り出したのだ。
何より仕事を増やすことが可能になったのが金鉱山を見つけたことだ。
あの日ターニャに探してもらった鉱山は、アイリスの記憶にあった将来発見されるものだった。本来これは他国に発見されたことによって紛争の火種になった。
だから今度は私が先に発見して王家の持ち物にした上で利用することにした。
まず、戦争などで体に傷を負った人々を支援するために法整備をして、彼らでも働けるよう
組合や役所、果ては街の大きな宿の受付など仕事を生み出した。もちろん街の人々は、初めは忌避感を出したがジャンに調べさせたこのスラムのまとめ役と話しなんとかまとめてもらった。人一人雇うことによって新たに費用がかかるから、そこで私は新たに作った支援策に店舗側の援助金も盛り込んだ。
その費用は全て金鉱山からの利益を回すことでなんとかした。
そして数多くの組合に足を運び様々な人と何度も何度も話し合い一つずつ増やしていき
親を亡くしストリートチルドレンとして育った子供達は、学校を作りそこで暮らしている。
彼らに話を聞いてもらうのが一番骨が折れた。
彼らにとって私や周りの大人たちは完全に敵として見られていた。これまで多くの大人たちに騙され、ひどい目に遭ってきたから
でも、私はやるしかなかったあの事件を二度と起こさないために

     一年半前
初めてスラムの現状を知ってから私は何とかこの街を元に戻したい。そう思い訪れていた。
真っ先に行ったのが子供の保護だ。何度も子供達の前で、「あなたたちを守るため」「大人になった時の為」などと説明したが一切彼らは興味を持たなかった。
「何度も話せばきっと言葉は届く」そう思っていた。
「ある日、一人の少年が死んだ。」
その子供はまだ10歳でとても明るい少年だった。
彼もまた両親を大戦で亡くし、親戚に捨てられこの街にたどり着いたのだ。
初めは他の子供と同じく私のことも警戒していたけど、何度目かで彼から声を掛けてくれた。とても嬉しかった。「ようやく声が届いた!」そう思ったのも束の間、数日後街を訪れた時に一人の少女から伝えられた。
「あの少年は死んだ」と少年はある日、いつものように仲間と食料を探していた所を子供の人身売買を専門に行っている子供狩りに襲われ、仲間を守ろうと抵抗し殺されたのだと。
城に戻った私はあまりにも無力なのだと思い知らされた。
「なぜ?」「私がもっと早く」「仕方がない」
いろいろな言葉が頭を過った・・・
そんなことを考えた自分に腑が煮え繰り返りそうになった。
あの少年を殺した相手はもちろんだが、何よりそんな連中がこの国にいることを知らなかった己の無知さに一番怒りを覚えた。
「私は彼らに何と言った?守るため?将来のため?」そんな薄っぺらい言葉を私は言い放ったのか!彼らにとって将来なんてものは無い!明日を数時間後を一瞬先を生きるので精一杯なんだ!
「そして彼らの将来を奪ったのも私たちだ・・・」
それに気づかされた私は唯々怒りが身体中を巡った。

     ディストブルグ・スラム街
街の彼方此方で騎士や兵士たちが罪人達を捕え始めている。
その先頭にアイリスが立っている。
「何人も逃すな!この街に巣食う屑共を一人残さず叩き殺せ!子供を食い物にするような奴らはだれであろうと許さん!徹底的にやれ!」
周りの騎士や兵士がただ一人の少女に恐怖を感じている
目の前にいるのが少女でなく、戦場の最前線で兵を率いる将のように思えて
騎士と兵を連れ、徹底的に街に蔓延った子供を襲う下衆どもを一人残らず、一つ残さず念入りに潰すためだ。
もちろん簡単に全てを潰せるわけではないが、奴らにとって大きな牽制にはなる。
何より子供達から少しでも信用を得るためだ。
そして自分を救うために

     王城・自室
スラムでの掃討戦を終え、部屋に戻った私は崩れ落ちるようにベットに倒れ込んだ。
緊張の糸が切れたかのように全身に鳥肌が立ち捕えた者達の顔が駆け巡る。
恐怖に震え、年相応の少女になった。
「だめ、だめ、まだダメなの。ここで折れたらダメなの。演じなきゃ。アイリスみたいに恐られる存在にならないと」
アニスは、何度も記憶の中のアイリスを見ていた。
彼女は、周囲の人間に愛されたと同時に恐れられていた。
その圧倒的な力と信念に
自分もアイリスのように強い人間になり、騎士に兵士、民を惹きつけられる力を持つためにと
何度も何度も自分に言い聞かせていた。
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