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危機が終わって 1
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「今日はゆっくり休んで――」
「いや、まだ書類途中だし……もう大丈夫だから」
ぐっすり眠ったせいか早朝に目が覚めた。起きたのに気づいたクロードが俺の頬にキスをする。甘ったるい雰囲気に居心地の悪さを感じながらそう言うと「真面目だね」と笑われた。
「ありがたいけど、それならお昼からでいいよ。公休にしておくから。具合が悪くなったり、精神的に辛いことがあったらホテルの支配人に言ってくれればいい。本当は一緒にいたいけれど……」
「いや、いい。色々放り出してきたんだろう?」
「アンリはもっと我が儘を言ってもいいのに。どうしてそんなに謙虚なのかな」
寝台の横に落ちていた羽根ペンをクロードが拾い、こちらに向かって見せた。
「別に大丈夫だ」
羽根ペンを見ても嫌な気分にはならないし、おっさんも思い浮かばなかった。
「いや、これ使うの忘れてたなって思って。今度おもちゃも使ってみようね」
「おもちゃって? 子供じゃあるまいし」
忘れてたのかよ、なんだそれ。
「ごめん、自分が薄汚れていることに気づいたよ。アンリはどうしてこんなに綺麗なままで生きて来られたのかな?」
クロードのどこが薄汚れているというんだろうか。キラキラしてるくせに。
「別に平凡な顔だからだろ。お前みたいにキラキラしてたら大変そうだ」
「まぁ、大変だけど。この国はおもちゃは使わないのかな? リン国はおもちゃが豊富なんだ。ヤバい薬だけじゃなくて、香とかおもちゃとか――」
それでやっと遊ぶための子供のおもちゃじゃないことに気づいた。カッと火照った顔をクロードに見えないように俯けて「馬鹿か」と詰った。
「アンリ、耳が真っ赤だからわかっちゃうよ」
「馬鹿! そんなものいるか!」
「ふふっ、楽しみにしてて――」
枕を投げたけど軽くキャッチされて、むかつく。
「お腹空いた!」
「夜ご飯食べられなかったもんね。待ってて」
寝室の向こうの居間に消えたクロードは戻ってきた時に服を持っていた。
「食事用意してもらってるから。服、もう着られないからこれを着てね」
下着から全て揃えられた一級品だとわかる品をソファに置いてクロードはチラリと時計を見て「一緒に食べられないのが残念だけど」と言いながら仕事に行く用意を始めた。
「そんなに急ぐなら俺も朝から行くよ」
「ううん、様子を見て欲しい。一緒にいられなくて心配なんだけど、ごめんね。支配人は私の信用できる男だから、頼ってくれていい。この部屋は私の部屋だからゆっくりしていって」
ホテルの客室を自分の部屋だという。
「ずっとここにいるの?」
最高級の部屋だ。高くつくなんてものじゃない。それとも俺みたいに抱いたりするやつを連れてくる時に固定の部屋を使っているということだろうか。
「リン国から帰ってきてからここが私の家だよ。家には父と恋人が住んでる」
家って言ってもリスホード侯爵家の敷地は広大なはずだ。嫌なら顔を見ずに過ごせるくらいの広さがある。
「恋人……とそりが合わないのか?」
「いや、もう私も大人だし、全く気にしてないよ。弟もいて、可愛いんだよ」
「血が繋がってないのか?」
「半分だけね。父の子だよ。でも恋人は仕事が好きだから侯爵家に入りたくないんだって。侯爵夫人ともなると社交が忙しいし、家のこともしないといけないからね」
「変わった人もいるんだな」
「全くね。さっさと結婚してほしくてここに住んでるんだけど、あまり効果がないみたいだ」
色んな家があるもんだ。侯爵夫人になりたいものなんて山ほどいるだろうに。まぁ俺もどうかと言われたら、拒否すると思うけどな。何から何まで違いすぎる。
「ふぅん、ここなら城も近いし便利だもんな」
高いけど、と口には出さない。
「そう、うちの持っているホテルで一番近いからね」
「え?」
「リスホード侯爵家の持ち物だって知らなかった? リスホードのリスがついてるでしょ? リスってついてるのは大体家の持ち物だよ」
そんなの知らない。リスって……。
「リスティリア劇場も?」
「そう、アンリは劇も観るの? ボックス席で見られるよ」
「リスジンパークも?」
王都の誰もが大好きな公園だ。
「そうだよ」
「リスム温泉は?」
「ふふっ、長期休暇に一緒に行こうね」
王都側の温泉で、最高のリゾートだ。俺も家族で何度かいったことがある。
「お前、仕事しなくていいんじゃないの?」
「アンリ、お仕事したくなくなったらいつでも私のお嫁さんに来てくれていいよ」
一気に嘘くさく感じた。優しく見えてもただの男じゃない。そんな甘い言葉でフラフラするような人間を側には置かないだろうと思えた。
「ははっ、ありがとう」
とりあえずお礼を言っといた。
俺の気持ちが透けて見えたのか、クロードはフッと笑ってキスをした。
「本気なんだけどね」
嘘でデコレートされた甘いお菓子のような男はそう言って仕事へ行ってしまった。俺は一人で風呂を満喫し、用意された朝食を食べてもう一眠りした。
給仕してくれた男はやたら合愛想のいい男で、俺が食事をしているのをニコニコしながら見ていた。ここで働くには身長も高くて、綺麗な顔も必要なんだなと思いながらホテルを後にした。
「いや、まだ書類途中だし……もう大丈夫だから」
ぐっすり眠ったせいか早朝に目が覚めた。起きたのに気づいたクロードが俺の頬にキスをする。甘ったるい雰囲気に居心地の悪さを感じながらそう言うと「真面目だね」と笑われた。
「ありがたいけど、それならお昼からでいいよ。公休にしておくから。具合が悪くなったり、精神的に辛いことがあったらホテルの支配人に言ってくれればいい。本当は一緒にいたいけれど……」
「いや、いい。色々放り出してきたんだろう?」
「アンリはもっと我が儘を言ってもいいのに。どうしてそんなに謙虚なのかな」
寝台の横に落ちていた羽根ペンをクロードが拾い、こちらに向かって見せた。
「別に大丈夫だ」
羽根ペンを見ても嫌な気分にはならないし、おっさんも思い浮かばなかった。
「いや、これ使うの忘れてたなって思って。今度おもちゃも使ってみようね」
「おもちゃって? 子供じゃあるまいし」
忘れてたのかよ、なんだそれ。
「ごめん、自分が薄汚れていることに気づいたよ。アンリはどうしてこんなに綺麗なままで生きて来られたのかな?」
クロードのどこが薄汚れているというんだろうか。キラキラしてるくせに。
「別に平凡な顔だからだろ。お前みたいにキラキラしてたら大変そうだ」
「まぁ、大変だけど。この国はおもちゃは使わないのかな? リン国はおもちゃが豊富なんだ。ヤバい薬だけじゃなくて、香とかおもちゃとか――」
それでやっと遊ぶための子供のおもちゃじゃないことに気づいた。カッと火照った顔をクロードに見えないように俯けて「馬鹿か」と詰った。
「アンリ、耳が真っ赤だからわかっちゃうよ」
「馬鹿! そんなものいるか!」
「ふふっ、楽しみにしてて――」
枕を投げたけど軽くキャッチされて、むかつく。
「お腹空いた!」
「夜ご飯食べられなかったもんね。待ってて」
寝室の向こうの居間に消えたクロードは戻ってきた時に服を持っていた。
「食事用意してもらってるから。服、もう着られないからこれを着てね」
下着から全て揃えられた一級品だとわかる品をソファに置いてクロードはチラリと時計を見て「一緒に食べられないのが残念だけど」と言いながら仕事に行く用意を始めた。
「そんなに急ぐなら俺も朝から行くよ」
「ううん、様子を見て欲しい。一緒にいられなくて心配なんだけど、ごめんね。支配人は私の信用できる男だから、頼ってくれていい。この部屋は私の部屋だからゆっくりしていって」
ホテルの客室を自分の部屋だという。
「ずっとここにいるの?」
最高級の部屋だ。高くつくなんてものじゃない。それとも俺みたいに抱いたりするやつを連れてくる時に固定の部屋を使っているということだろうか。
「リン国から帰ってきてからここが私の家だよ。家には父と恋人が住んでる」
家って言ってもリスホード侯爵家の敷地は広大なはずだ。嫌なら顔を見ずに過ごせるくらいの広さがある。
「恋人……とそりが合わないのか?」
「いや、もう私も大人だし、全く気にしてないよ。弟もいて、可愛いんだよ」
「血が繋がってないのか?」
「半分だけね。父の子だよ。でも恋人は仕事が好きだから侯爵家に入りたくないんだって。侯爵夫人ともなると社交が忙しいし、家のこともしないといけないからね」
「変わった人もいるんだな」
「全くね。さっさと結婚してほしくてここに住んでるんだけど、あまり効果がないみたいだ」
色んな家があるもんだ。侯爵夫人になりたいものなんて山ほどいるだろうに。まぁ俺もどうかと言われたら、拒否すると思うけどな。何から何まで違いすぎる。
「ふぅん、ここなら城も近いし便利だもんな」
高いけど、と口には出さない。
「そう、うちの持っているホテルで一番近いからね」
「え?」
「リスホード侯爵家の持ち物だって知らなかった? リスホードのリスがついてるでしょ? リスってついてるのは大体家の持ち物だよ」
そんなの知らない。リスって……。
「リスティリア劇場も?」
「そう、アンリは劇も観るの? ボックス席で見られるよ」
「リスジンパークも?」
王都の誰もが大好きな公園だ。
「そうだよ」
「リスム温泉は?」
「ふふっ、長期休暇に一緒に行こうね」
王都側の温泉で、最高のリゾートだ。俺も家族で何度かいったことがある。
「お前、仕事しなくていいんじゃないの?」
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一気に嘘くさく感じた。優しく見えてもただの男じゃない。そんな甘い言葉でフラフラするような人間を側には置かないだろうと思えた。
「ははっ、ありがとう」
とりあえずお礼を言っといた。
俺の気持ちが透けて見えたのか、クロードはフッと笑ってキスをした。
「本気なんだけどね」
嘘でデコレートされた甘いお菓子のような男はそう言って仕事へ行ってしまった。俺は一人で風呂を満喫し、用意された朝食を食べてもう一眠りした。
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