29 / 53
恋してる 5
しおりを挟む
城は少し落ち着きを取り戻したように見えた。外から見える部分は。
「シン公使を引き渡すのですか?」
「そうなるだろうね。リン国と我が国で合同でことにあたっていたからね。こちらは我が国の情報を売っていたもの達を捕まえることが目的だった。違法な薬物の取り締まりも含めてね。薬物汚染というものは怖いものだ――。大事な人さえも売り渡すほどの中毒性があり、それによって沢山の人が被害にあっている」
「シン公使は何故そんなことをしたんでしょうね。王族の末端だと聞きましたが……」
「あの国は王族が多いからね。何代か前まで後宮があって、王の血筋は山のようにいるんだ。シン公使が実力でのし上がるまで随分苦労したんだろう。あまり裕福な家ではなかったようだから。それが人を弄んでいい理由にはならないが――」
チラッとクロードがこちらを見た。
「俺はもう大丈夫ですよ」
「アンリは……そうやってすぐに大丈夫だと言うけれど、そう見えないから私もビアンカも心配してるんだ」
「シン公使については大丈夫ですよ。本当に。クロード様が書き換えてくれたじゃないですか。ありがとうございます」
まだ職場だから言葉遣いは補佐官のまま、お礼を言った。
「アンリ!」
クロードは何故か、扉の鍵をかけた。
「クロード様?」
「アンリがそんな風に言ってくれるなんて思っていなかったから感激して――」
キスをしながら椅子に座っていた俺を立たせた。
「クロード様!」
「アンリが無事で本当によかった……。でないと私はシン公使も、アンリを売った財務の人間も……何より自分を許せなかったと思う」
切なげな声を耳の横で聞かされて、体温を感じれば身体が反応し始める。たった何回かで身体というものは変わるものなんだろうか。
「クロード様――」
「クロードって呼んで。もう今日の仕事は終わっただろう?」
唇が合わさって、舌が入り込んでくる。その舌を迎えて絡めると、さっき飲んだ珈琲の味がした。
「ん……んぅ――」
唇の端から流れる唾液を指ですくい取ったクロードの目が情欲にまみれている。
「クロード、あの……」
このまま抱かれてしまえという声が聞こえる。そして、一緒に寝ないって言ったのにって言う声も。それより大きな声は……、クロードを喜ばすためにリオナのことを言ってやれっていう声。どれも俺の声なんだよなと思いながら、クロードが外そうとしていたボタンの上を握った。
「どうしたの? やっぱり嫌だった?」
クロードも朝のやりとりは覚えていたようだ。残念そうな、おあずけされた犬のような顔に見えた。
「いや、先に教えてやろうと思って……。今週か来週の休日に俺とクロードで家に来ないかってヒューゴ先輩に誘われた――」
「え!」
それまでの色気をしたたらせていたクロードの目が、子供のように輝いた。
「そんなに……」
「アンリ、それってご招待? 私はリオナと会っていいの?」
そんなに嬉しいんだな。よかった。
元恋人を妻と会わせたいなんて思う旦那がいるだろうか。しかも……。
「リオナとクロードが……一緒の間、俺に相手をしてくれないかって。ははっ、恋してる間は相手にされなかったのにな、でも、俺が……と、虜にできたら……クロードは」
言いながら何をしてるんだと冷静な自分が問いかける。
でも俺がクロードのためにできることは、先輩を虜にして(できるとは思えないが……)リオナをクロードの元に走らせてやること……。結婚式で本当は連れて逃げるつもりだったクロードを引き留めたのは俺なんだから、それくらいしてやる。
覚悟を決めてクロードを見上げたら、もの凄い笑顔を湛えてこちらを見ていた。緑の瞳にあるのは喜びではなく、酷く冴えた月のような静寂だった。
「シン公使を引き渡すのですか?」
「そうなるだろうね。リン国と我が国で合同でことにあたっていたからね。こちらは我が国の情報を売っていたもの達を捕まえることが目的だった。違法な薬物の取り締まりも含めてね。薬物汚染というものは怖いものだ――。大事な人さえも売り渡すほどの中毒性があり、それによって沢山の人が被害にあっている」
「シン公使は何故そんなことをしたんでしょうね。王族の末端だと聞きましたが……」
「あの国は王族が多いからね。何代か前まで後宮があって、王の血筋は山のようにいるんだ。シン公使が実力でのし上がるまで随分苦労したんだろう。あまり裕福な家ではなかったようだから。それが人を弄んでいい理由にはならないが――」
チラッとクロードがこちらを見た。
「俺はもう大丈夫ですよ」
「アンリは……そうやってすぐに大丈夫だと言うけれど、そう見えないから私もビアンカも心配してるんだ」
「シン公使については大丈夫ですよ。本当に。クロード様が書き換えてくれたじゃないですか。ありがとうございます」
まだ職場だから言葉遣いは補佐官のまま、お礼を言った。
「アンリ!」
クロードは何故か、扉の鍵をかけた。
「クロード様?」
「アンリがそんな風に言ってくれるなんて思っていなかったから感激して――」
キスをしながら椅子に座っていた俺を立たせた。
「クロード様!」
「アンリが無事で本当によかった……。でないと私はシン公使も、アンリを売った財務の人間も……何より自分を許せなかったと思う」
切なげな声を耳の横で聞かされて、体温を感じれば身体が反応し始める。たった何回かで身体というものは変わるものなんだろうか。
「クロード様――」
「クロードって呼んで。もう今日の仕事は終わっただろう?」
唇が合わさって、舌が入り込んでくる。その舌を迎えて絡めると、さっき飲んだ珈琲の味がした。
「ん……んぅ――」
唇の端から流れる唾液を指ですくい取ったクロードの目が情欲にまみれている。
「クロード、あの……」
このまま抱かれてしまえという声が聞こえる。そして、一緒に寝ないって言ったのにって言う声も。それより大きな声は……、クロードを喜ばすためにリオナのことを言ってやれっていう声。どれも俺の声なんだよなと思いながら、クロードが外そうとしていたボタンの上を握った。
「どうしたの? やっぱり嫌だった?」
クロードも朝のやりとりは覚えていたようだ。残念そうな、おあずけされた犬のような顔に見えた。
「いや、先に教えてやろうと思って……。今週か来週の休日に俺とクロードで家に来ないかってヒューゴ先輩に誘われた――」
「え!」
それまでの色気をしたたらせていたクロードの目が、子供のように輝いた。
「そんなに……」
「アンリ、それってご招待? 私はリオナと会っていいの?」
そんなに嬉しいんだな。よかった。
元恋人を妻と会わせたいなんて思う旦那がいるだろうか。しかも……。
「リオナとクロードが……一緒の間、俺に相手をしてくれないかって。ははっ、恋してる間は相手にされなかったのにな、でも、俺が……と、虜にできたら……クロードは」
言いながら何をしてるんだと冷静な自分が問いかける。
でも俺がクロードのためにできることは、先輩を虜にして(できるとは思えないが……)リオナをクロードの元に走らせてやること……。結婚式で本当は連れて逃げるつもりだったクロードを引き留めたのは俺なんだから、それくらいしてやる。
覚悟を決めてクロードを見上げたら、もの凄い笑顔を湛えてこちらを見ていた。緑の瞳にあるのは喜びではなく、酷く冴えた月のような静寂だった。
2
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】
きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。
オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。
そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。
アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。
そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。
二人の想いは無事通じ合うのか。
現在、スピンオフ作品の
ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中
【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う
凪瀬夜霧
BL
「顔だけだ」と笑われても、俺は本気で騎士になりたかった。
傷だらけの努力の末にたどり着いた第三騎士団。
そこで出会った団長・ルークは、初めて“顔以外の俺”を見てくれた人だった。
不器用に愛を拒む騎士と、そんな彼を優しく包む団長。
甘くてまっすぐな、異世界騎士BLファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる