攻略対象に転生した俺が何故か溺愛されています

東院さち

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2 フラワーガーデン物語(笑)

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「熱はないな……」
「なっ……にを」

 額と額がコツンとあたって、目の前にアルフォンスの端正な顔がどアップだ。まつげの先まで赤いのだなと当たり前のことを思った。

「ああ、悪い。私が熱を測るなんて、弟くらいだからな」
「アルの弟は子供だろう。俺はそこまで子供じゃない」

 まるで子供扱いされたようで、ムッとした。

「額が冷たい。さっきまで普通だったのに、義姉の婚約がそんなにショックだったのか? ほら温かい布で顔を拭けば、少し楽になる。拭いてやろうか?」
「子供じゃないと言うのに」

 侍女が用意してきた水をアルフォンスが魔法でお湯にかえる。あったまった布から水分を絞ってアルフォンスは俺の手にのせた。顔や首筋を拭くと、身体から不快感が消えた。

「お前はまだ子供だよ」

 そう言って、アルフォンスは俺の頭を撫でた。一つしか変わらないのに大人づらされても困る。

「アルもまだ成人じゃないだろう」
「そうだな。同い年だったら良かったのに。そうしたら学園生活もずっと一緒にいられたのに。一年の差は大きい」

 大人面したり、すねたり面倒な王太子様だ。

 フラワー王国の成人は十八だ。俺たち王侯貴族は十六になる歳、王国が運営する学園に入学することになる。俺はまだ十五歳。半月後、王立フラワーガーデン学園に入学が決まっている。
 変な名前の国だなと思われるかもしれないが、それには理由がある。
 ここは『花咲き誇るフラワーガーデン物語』という乙女ゲームの舞台だ。花にも意味があり、オーディクス侯爵家の花はエーデルワイスで高貴、崇高などの花言葉がキャラクターのイメージになっている。
 王家の花はラナンキュラス。華やかな魅力、希望が花言葉で、アルフォンスはまさにそのイメージ通りだ。

 突然だが、俺の名前はサイラス・ルゼル・オーディクス。侯爵家の長男だが、前世は御堂怜一という高校三年の受験真っ只中の高校生だった。
 俺は、妹とたこ焼きを買いに出かけて交通事故に遭って死んでしまった。
 この『花咲き誇るフラワーガーデン物語』というゲームは妹の澪が夢中になっていた乙女ゲームで、澪はいつも居間のテレビでゲームをやっていた。余程このゲームが大好きだったんだろう。何度も同じ場面をみたことがある。澪は絵を描くのも好きで、よくキャラを描いては「萌える」「推せる!」と叫んでいた。本を作るのだと楽しそうに夜更かして寝ぼけ眼で食卓に突っ伏していたのも懐かしい思い出だ。

「お兄ちゃん! アルサイ本ができたの!」

 王太子のアルフォンスと、俺が転生したキャラサイラスの本らしいが中は見せてもらえなかった。

「よかったな。がんばってたもんな。お祝いはたこ焼きでいいか?」
「やった! 行こう行こう」

 本ができたと喜んでいたから、お祝いにたこ焼きをおごってやろうとしたのが間違いだった。悪いことをしたなと思っている。せめて食べてから死にたかった。

「どうした? サイラス。お前は時々どこか遠くを見るような目をしている」

 アルフォンスはそう言って、俺の前髪を掬った。前髪に隠れたところには傷がある。俺がアルフォンスに初めて会った時ついた傷だ。アルフォンスは時折それを確認するように、俺の髪を掬う。

「アル、どうやったって……」

 元の世界には戻れない。妹は助かったのだろうか。庇ったけれど、大きな車だったから一緒に死んでしまったかもしれない。妹はこの世界にいるのだろうか。

「どうやったって……?」
「現実は変わらないのかもしれない。まさか陛下がプリメリアの輿入れを望んでいたなんて……」

 ゲームの世界では、フラワーガーデン物語が始まる前、十歳のプリメリアがアルフォンスを庇って暗殺者の刃をうけた。額に傷ができたプリメリアに報いるために、アルフォンスはプリメリアを婚約者にしたのだ。
 乙女ゲームのヒロインは俺と同い年で、一つ年上のプリメリアやアルフォンスが十七歳の時に入学してくる。男爵だか子爵だかの令嬢だったと思う。
 プリメリアは王太子やその他の攻略対象と仲良くなるヒロインに嫉妬して苛めを繰り返し、最後には殺人未遂までおこしてしまう。それを攻略対象であるヒーローが救い、ハッピーエンドとなるのでプリメリアは良くて国外追放、悪くて首を切られる。いわゆる悪役令嬢だと妹は言っていた。
 ちなみに、俺も攻略対象と呼ばれるゲームでヒロインが相手役に選べるキャラの一人だ。
 俺が前世の記憶を取り戻したのは五歳。プリメリアに初めて会った時だ。それから俺はプリメリアが悪役令嬢にならないように、必死に回避行動を続けてきた。
 アルフォンスを助けて傷を受けたのは俺だし、王家から打診されていたオーディクス侯爵家への婚姻は父アランに頼んで断り続けている。
 ゲームのプリメリアはアランに愛されていないと誤解していて、マリアをいびり自殺に追い込みサイラスに憎悪を向けられていた。そんな未来は絶対に許せなくて、俺はあがいた。
 俺が立てたプリメリアを救おう作戦は上手くいっていると思っていた。それなのに、ヒロインが入学する前になってプリメリアがアルフォンスの婚約者になるというのは、ゲームの強制力なのだろうか。どうすれば、プリメリアを救えるのか。
 考えていたら頭がズキズキと痛んだ。
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