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44 待っていても
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「おめでとう、サイラス」
「ディアハルト!」
卒業式の日、アルフォンスと一緒に隣国へ護衛騎士として留学していたディアハルトが花束を抱えてやってきた。
俺が待ち望んでいたアルフォンスは戻ってこなかった。予測通りとはいえ、失望が押し寄せてくる。
もう、俺のことは好きじゃないのか? あの時言った言葉は嘘じゃないよな? そんな言葉が浮かんでくるのを俺は黙って押し殺した。
「すまんな。おれで」
「いや、アルフォンスは元気にしているのか?」
「元気じゃないな。この前に出たパーティーで噂を耳にしたらしくてな」
「ふぅん、噂……ね」
種は順調に育っているらしい。結構なことだ。
「どんな、とは聞かないのか?」
率直すぎるディアハルトの言葉に笑みが浮かぶ。相変わらず直情型は変わっていないらしい。
「どんな?」
「お前の笑みは前と違うな。そんな皮肉気な顔をする奴じゃなかったはずだが」
俺はトントンと自分の組んだ腕を軽くたたいて、皮肉くらい言わせてほしいとディアハルトを睥睨した。
「オーディクス侯爵家の跡継ぎが、婚約したって話だろう? 黒持ちと」
「そうだ。黒持ちというのはライファーのことだろう?」
ディアハルトの探るような言葉に、俺は前世で言うところのアルカイックスマイルを浮かべた。
「そうだが?」
「殿下を捨てたのか!」
ディアハルトが俺の襟元を掴んだ。筋肉馬鹿は相変わらずだなと思う。
「俺は待っていたぞ。二年と少しだ。洞窟に籠ってレベルを上げた」
魔力を放出し、身体強化すると簡単にディアハルトの手をのけることができた。
「まさか、こんなに——」
洞窟はチート級のレベル爆上げ魔物であるコウモリッターがいる。範囲攻撃ができる友人がいればレベルカンストできるほどの高狩場だ。
ディアハルトは俺の魔力に気づいて、驚いた顔を笑みに変えた。
「社交界で渡り合えるように王妃様にしこまれ、次期王の片腕であれと陛下と宰相の義父に鍛えられた。その間、お前たちは……、アルフォンスは何をしていた?」
責めるつもりはなかったが、俺の策に溺れているのを見ると止めを刺したくなるのは何故だろう。
「……必死に魔力を抑える術を学んでおられる。心の揺れに魔力を動かさないようにとまるで精神攻撃を受けているような日々だ」
修行か何かしているのだろうか。病みそうだな……。
「それで上手くいってないから、聖女とイチャイチャしてるのか?」
ミリアには言わなかったが、聖女の攻略対象としてアルフォンスは確実に攻略されはじめている。いくつものイベントをこなしていると知った時の俺の気持ちをディアハルトにわかってほしいとは言わないが。
「イチャイチャ……。聖女様は前世の話を聞きたがっていてな。それで何度かご一緒したが……」
「俺の前世の話なんて、アルフォンスは知らないだろう?」
「聖女様はドランシェに興味がおありだ。一度こっちの土産を渡してから、ずっと食べたいと願っていて……」
そうだった。どらやきは国の中でしか流通させていないのだ。
もし俺が、隣国のお菓子だとどら焼きをもらったら、もう一度食べたいと願うだろう。
「あくまで恋ではないと断言できるんだな?」
向こうの国に潜り込ませているものたちは、遠目に二人を見ることはできても話を聞ける距離にはいない。
「できる! サイラスがライファーと婚約したと聞いてからのアルフォンス様の落ち込みようと言ったら。おれが『やはり事実でした』と告げたら砂のようにサラサラと崩れ落ちるだろうな」
「……俺じゃない。ライファーが婚約したのはプリメリアだ」
「何故、そんな誤解があちらの国にまで——」
「誤解されるように言ったからな。アルフォンスの手紙を信じないわけじゃないが、聞こえてくる聖女との密会だとか接触に俺もいい加減腹が据えかねた」
アルフォンスは魔力のこともどんなことをしているかも手紙には書いてこない。ただ、俺への募る想いが詩集のように綴られているだけだ。
「……こわっ」
「俺は『魔王の欠片』を宿したことで今までに持っていなかったものを手に入れた」
「『魔王の欠片』だと! あの時の……」
悲壮な顔をしたディアハルトに笑ってやった。
「お前も持ってるんだろうが!」
そうだった、と少し安心したディアハルトに俺は宣言した。
「アルフォンスを掴まえにいく。本気だしていくぞ」
「ひぇっ! お前が本気を出すだって?」
ディアハルトに身体強化を教えた時のことを思い出したのだろう。ディアハルトはやや青ざめた顔で、覚悟を決めたように頷いた。
「ディアハルト!」
卒業式の日、アルフォンスと一緒に隣国へ護衛騎士として留学していたディアハルトが花束を抱えてやってきた。
俺が待ち望んでいたアルフォンスは戻ってこなかった。予測通りとはいえ、失望が押し寄せてくる。
もう、俺のことは好きじゃないのか? あの時言った言葉は嘘じゃないよな? そんな言葉が浮かんでくるのを俺は黙って押し殺した。
「すまんな。おれで」
「いや、アルフォンスは元気にしているのか?」
「元気じゃないな。この前に出たパーティーで噂を耳にしたらしくてな」
「ふぅん、噂……ね」
種は順調に育っているらしい。結構なことだ。
「どんな、とは聞かないのか?」
率直すぎるディアハルトの言葉に笑みが浮かぶ。相変わらず直情型は変わっていないらしい。
「どんな?」
「お前の笑みは前と違うな。そんな皮肉気な顔をする奴じゃなかったはずだが」
俺はトントンと自分の組んだ腕を軽くたたいて、皮肉くらい言わせてほしいとディアハルトを睥睨した。
「オーディクス侯爵家の跡継ぎが、婚約したって話だろう? 黒持ちと」
「そうだ。黒持ちというのはライファーのことだろう?」
ディアハルトの探るような言葉に、俺は前世で言うところのアルカイックスマイルを浮かべた。
「そうだが?」
「殿下を捨てたのか!」
ディアハルトが俺の襟元を掴んだ。筋肉馬鹿は相変わらずだなと思う。
「俺は待っていたぞ。二年と少しだ。洞窟に籠ってレベルを上げた」
魔力を放出し、身体強化すると簡単にディアハルトの手をのけることができた。
「まさか、こんなに——」
洞窟はチート級のレベル爆上げ魔物であるコウモリッターがいる。範囲攻撃ができる友人がいればレベルカンストできるほどの高狩場だ。
ディアハルトは俺の魔力に気づいて、驚いた顔を笑みに変えた。
「社交界で渡り合えるように王妃様にしこまれ、次期王の片腕であれと陛下と宰相の義父に鍛えられた。その間、お前たちは……、アルフォンスは何をしていた?」
責めるつもりはなかったが、俺の策に溺れているのを見ると止めを刺したくなるのは何故だろう。
「……必死に魔力を抑える術を学んでおられる。心の揺れに魔力を動かさないようにとまるで精神攻撃を受けているような日々だ」
修行か何かしているのだろうか。病みそうだな……。
「それで上手くいってないから、聖女とイチャイチャしてるのか?」
ミリアには言わなかったが、聖女の攻略対象としてアルフォンスは確実に攻略されはじめている。いくつものイベントをこなしていると知った時の俺の気持ちをディアハルトにわかってほしいとは言わないが。
「イチャイチャ……。聖女様は前世の話を聞きたがっていてな。それで何度かご一緒したが……」
「俺の前世の話なんて、アルフォンスは知らないだろう?」
「聖女様はドランシェに興味がおありだ。一度こっちの土産を渡してから、ずっと食べたいと願っていて……」
そうだった。どらやきは国の中でしか流通させていないのだ。
もし俺が、隣国のお菓子だとどら焼きをもらったら、もう一度食べたいと願うだろう。
「あくまで恋ではないと断言できるんだな?」
向こうの国に潜り込ませているものたちは、遠目に二人を見ることはできても話を聞ける距離にはいない。
「できる! サイラスがライファーと婚約したと聞いてからのアルフォンス様の落ち込みようと言ったら。おれが『やはり事実でした』と告げたら砂のようにサラサラと崩れ落ちるだろうな」
「……俺じゃない。ライファーが婚約したのはプリメリアだ」
「何故、そんな誤解があちらの国にまで——」
「誤解されるように言ったからな。アルフォンスの手紙を信じないわけじゃないが、聞こえてくる聖女との密会だとか接触に俺もいい加減腹が据えかねた」
アルフォンスは魔力のこともどんなことをしているかも手紙には書いてこない。ただ、俺への募る想いが詩集のように綴られているだけだ。
「……こわっ」
「俺は『魔王の欠片』を宿したことで今までに持っていなかったものを手に入れた」
「『魔王の欠片』だと! あの時の……」
悲壮な顔をしたディアハルトに笑ってやった。
「お前も持ってるんだろうが!」
そうだった、と少し安心したディアハルトに俺は宣言した。
「アルフォンスを掴まえにいく。本気だしていくぞ」
「ひぇっ! お前が本気を出すだって?」
ディアハルトに身体強化を教えた時のことを思い出したのだろう。ディアハルトはやや青ざめた顔で、覚悟を決めたように頷いた。
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