4 / 9
四話
しおりを挟む
「なあ、菜摘。お前、桑原さんと友達なん?」
初夏の頃、幼なじみの栄太が私に聞いた。
「な。紹介してよ」
私はうなずくしかできなかった。だって幼なじみだから。そして、その瞬間、私はずっと栄太のことが好きだったことに気づいた。
私は栄太を紫に紹介した。
「大切な友達を紹介してあげるんだから、感謝しなさいよ」
精一杯笑って茶化して、栄太の腕をひじで突いた。栄太は照れくさそうに、明らかに浮かれて紫を見て――なのに、ずっと見ていられないのか顔を逸らすを繰り返していた。
紫は、いつものように、ポケットに手を突っ込んだまま、突っ立っていた。私を見た。私が笑顔で促すと、栄太を見た。栄太は硬直した。紫は動ぜず、図鑑を見るみたいに、栄太を眺めて、それから目を伏せる。
「どうも」
と頭を下げた。栄太ははじかれたみたいに話し出した。紫は浅くうなずきながら、それを聞いていた。
私は紫に気づいてほしかった。
ねえ、私、栄太のこと好きなんだよ、紫。気づいてくれないの?
それとも、気づいてるの?
その夜は、眠れなかった。真っ暗な部屋で、ずっと天井をにらんでいた。
「栄太って、まじいい奴だよ。小さい頃もね」
私はそれから、栄太の話ばかりした。
ことあるごとに、栄太のことを持ち上げて、売り込んであげた。私の声は、上擦ってて、無理してるのが、ばれないか怖いくらいだった。
紫は、音楽でも聞くみたいに聞いていた。時々、うなずくから、聞いているとわかるくらいの熱量で。
それでも時々、私の顔を、あのきれいな顔と目で、じっと見つめるから、私は期待が捨てられなかった。
ねえ、紫、気づいてよ。でも、「気づいてる」なんて、言わないで、そっとわかって、「ごめん、嬉しいけど付き合うとかはまだ」って、栄太を絶対に下げないで言ってよ。
私に対して申し訳ないとかじゃなくて、私のことが好きだから、つき合えないっていう温度を含ませて、ちゃんと断ってよ。ねえ、できるでしょ。
だって、友達だよ?
「二人、絶対お似合いだと思うな!」
それでも、私は二人を応援し続けた。
紫は、栄太と付き合うことに決めたようだった。
「お前、何泣いてんだよ」
「うるさい、だって嬉しいんだもん」
私はうそをついて、ひたすら泣いた。思いを殺して、笑うことにもなれてしまっていた。私の祝福を、紫はすこし目を細めてみていた。
「決め手ってなんだったの」
「んー……」
二人きりになって、私は紫の手を握り尋ねた。紫は、まったくいつもどおりだった。彼氏ができて、好きな人と結ばれて喜んでいる顔じゃなかった。
「まあ、付き合ってみるのもいいかなって」
「……そうなんだ」
紫は最後まで、気づいてくれなかった。
初夏の頃、幼なじみの栄太が私に聞いた。
「な。紹介してよ」
私はうなずくしかできなかった。だって幼なじみだから。そして、その瞬間、私はずっと栄太のことが好きだったことに気づいた。
私は栄太を紫に紹介した。
「大切な友達を紹介してあげるんだから、感謝しなさいよ」
精一杯笑って茶化して、栄太の腕をひじで突いた。栄太は照れくさそうに、明らかに浮かれて紫を見て――なのに、ずっと見ていられないのか顔を逸らすを繰り返していた。
紫は、いつものように、ポケットに手を突っ込んだまま、突っ立っていた。私を見た。私が笑顔で促すと、栄太を見た。栄太は硬直した。紫は動ぜず、図鑑を見るみたいに、栄太を眺めて、それから目を伏せる。
「どうも」
と頭を下げた。栄太ははじかれたみたいに話し出した。紫は浅くうなずきながら、それを聞いていた。
私は紫に気づいてほしかった。
ねえ、私、栄太のこと好きなんだよ、紫。気づいてくれないの?
それとも、気づいてるの?
その夜は、眠れなかった。真っ暗な部屋で、ずっと天井をにらんでいた。
「栄太って、まじいい奴だよ。小さい頃もね」
私はそれから、栄太の話ばかりした。
ことあるごとに、栄太のことを持ち上げて、売り込んであげた。私の声は、上擦ってて、無理してるのが、ばれないか怖いくらいだった。
紫は、音楽でも聞くみたいに聞いていた。時々、うなずくから、聞いているとわかるくらいの熱量で。
それでも時々、私の顔を、あのきれいな顔と目で、じっと見つめるから、私は期待が捨てられなかった。
ねえ、紫、気づいてよ。でも、「気づいてる」なんて、言わないで、そっとわかって、「ごめん、嬉しいけど付き合うとかはまだ」って、栄太を絶対に下げないで言ってよ。
私に対して申し訳ないとかじゃなくて、私のことが好きだから、つき合えないっていう温度を含ませて、ちゃんと断ってよ。ねえ、できるでしょ。
だって、友達だよ?
「二人、絶対お似合いだと思うな!」
それでも、私は二人を応援し続けた。
紫は、栄太と付き合うことに決めたようだった。
「お前、何泣いてんだよ」
「うるさい、だって嬉しいんだもん」
私はうそをついて、ひたすら泣いた。思いを殺して、笑うことにもなれてしまっていた。私の祝福を、紫はすこし目を細めてみていた。
「決め手ってなんだったの」
「んー……」
二人きりになって、私は紫の手を握り尋ねた。紫は、まったくいつもどおりだった。彼氏ができて、好きな人と結ばれて喜んでいる顔じゃなかった。
「まあ、付き合ってみるのもいいかなって」
「……そうなんだ」
紫は最後まで、気づいてくれなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる