5 / 9
五話
しおりを挟む
紫の髪をほめた時、紫は「どうも」と言って微笑した。私はそれが嬉しくて、嬉しくて――すぐに髪を紫と同じ色に、染めた。
「染めたんだ」
紫は興味深げに目を見開いて――
「似合ってる」
と笑った。私は舞い上がらんばかりだった。
でも、紫は次の週に、髪の色を変えてしまった。
「変えちゃったんだ」
「うん。金が入ったんで」
紫は機嫌良さげに、毛先をもてあそんだ。私は残念だった。それ以上に、無性に恥ずかしかった。
けれど、だからこそ、なんてことのないようなふりをして、
「似合ってる」
と笑い返した。紫は笑っていた。
そのときと同じ、同じ。おんなじ。
私は笑って、何でもない風に笑った。
付き合ったってうまくいくかなんてわからないし……そう思ったけど、それでも、うまくいくようにって、基本思ってることにして。
「ゆーかーり。栄太、そろそろ、誕生
日だよ。何かしないの?」
「そうなんすか?」
「ええっ、聞きなよ、もう! 栄太も何で言わないかな!」
私は変わらず、二人の応援をしていた。
「ねえ、栄太はね、こういうの好きだよ」
通販サイトの商品のスクショを見せる。紫はそっと長い首を伸ばして、のぞき込んで「はあ」とうなずいた。
「もう、紫!」
紫はとことん消極的な彼女だった。私が水を向けないと、何もしない。水を向けられることへの不快感もなく、全部私の言うとおりにしていた。
信頼されてるんだ。そう思おうとしたけど、
「電気、部屋を出る前に消してね」
って、頼んでるような気持ちだった。
栄太がかわいそう。
ねえ、紫、何考えているの?
深い茶色の瞳はのぞき込んでものぞき込んでも、奥が見えない。
私のことだけじゃなく、栄太も見ないの? 栄太のことだけじゃなく、私も見ないの?
馬鹿にされてるの? ――私も、栄太も。
「大丈夫?」
紫が栄太に呼ばれて行って、友達が、私の肩にそっと手をおいた。
「桑原って、無神経だよね」
「気づくよ、普通さ」
「やめてよ」
私は、その瞬間、燃え上がるような羞恥に前進を覆われた。汗があふれる。それは、激しい怒りに転じた。
無神経なのは、あんたたちも変わらない。毒づいてやりたかった。でも、同時にその言葉に、救われてもいた。
だから、怒りは全部、ひとつの方向に向くしか
なかった。
何で、紫は気づかないの。皆気づくのに。
「染めたんだ」
紫は興味深げに目を見開いて――
「似合ってる」
と笑った。私は舞い上がらんばかりだった。
でも、紫は次の週に、髪の色を変えてしまった。
「変えちゃったんだ」
「うん。金が入ったんで」
紫は機嫌良さげに、毛先をもてあそんだ。私は残念だった。それ以上に、無性に恥ずかしかった。
けれど、だからこそ、なんてことのないようなふりをして、
「似合ってる」
と笑い返した。紫は笑っていた。
そのときと同じ、同じ。おんなじ。
私は笑って、何でもない風に笑った。
付き合ったってうまくいくかなんてわからないし……そう思ったけど、それでも、うまくいくようにって、基本思ってることにして。
「ゆーかーり。栄太、そろそろ、誕生
日だよ。何かしないの?」
「そうなんすか?」
「ええっ、聞きなよ、もう! 栄太も何で言わないかな!」
私は変わらず、二人の応援をしていた。
「ねえ、栄太はね、こういうの好きだよ」
通販サイトの商品のスクショを見せる。紫はそっと長い首を伸ばして、のぞき込んで「はあ」とうなずいた。
「もう、紫!」
紫はとことん消極的な彼女だった。私が水を向けないと、何もしない。水を向けられることへの不快感もなく、全部私の言うとおりにしていた。
信頼されてるんだ。そう思おうとしたけど、
「電気、部屋を出る前に消してね」
って、頼んでるような気持ちだった。
栄太がかわいそう。
ねえ、紫、何考えているの?
深い茶色の瞳はのぞき込んでものぞき込んでも、奥が見えない。
私のことだけじゃなく、栄太も見ないの? 栄太のことだけじゃなく、私も見ないの?
馬鹿にされてるの? ――私も、栄太も。
「大丈夫?」
紫が栄太に呼ばれて行って、友達が、私の肩にそっと手をおいた。
「桑原って、無神経だよね」
「気づくよ、普通さ」
「やめてよ」
私は、その瞬間、燃え上がるような羞恥に前進を覆われた。汗があふれる。それは、激しい怒りに転じた。
無神経なのは、あんたたちも変わらない。毒づいてやりたかった。でも、同時にその言葉に、救われてもいた。
だから、怒りは全部、ひとつの方向に向くしか
なかった。
何で、紫は気づかないの。皆気づくのに。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる