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光珠の視点

それでも、感じていたい

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麗奈は、ずっと肩に顔を埋めたままだった。

『ねぇー。出会った日を覚えてる?』

「私は、18歳だった。麗奈は、17歳だったね。」

『バス停でね。おじさんが、私にぶつかったの』

「そうだったね。乱暴な人だった。」

『私は、ぶつかった拍子に定期を失くしてしまって、光珠が一緒に探してくれたのが始まりだったね。』

「そうだったね」

懐かしくて、涙が溢(こぼ)れ落ちる。

『それから、仲良くなって何度も何度もデートをした。』

「そうだね。」

『それで、光珠が私に言ったのよね。麗奈ちゃん、僕と付き合って下さいって!!』

「言ったね。ずっと、一緒に居たくて」

『全部、初めてだったね。私達』

「そうだったね」

『それから、付き合って一年経ってプロポーズしてくれた。麗奈、結婚しようって』

「そうだったね。」

『18歳で付き合ってすぐに、三津木を継いだ光珠を尊敬していた。でも、忙しかったから…。光珠がプロポーズしてくれた時は嬉しかったよ。幸せだった。不安なんて消えるって思っていた。なのに、どうして消えなかったかな…。』

私は、麗奈の髪を優しく撫でる。

「沢山の幽体や人間に関わっていたからだね。女性もたくさんいたし。不安だったんだね。」

『私は、いつもうまく言葉に出せなくて、もういいって言って我慢しちゃうからいけなかったんだよね。だって、こんなに素敵な光珠に別れようって言われたくなかった。』

「言わないよ。言うわけないよ。私は、どんな麗奈でも愛していたよ。」

『不安だったんだよ。光珠は、優しくて、かっこよくて、街を歩くとこの髪の色とこの顔に振り向かれた。光珠は、気づいていなかったけど。私は、知ってた。そこに、宝珠さん、糸埜(いとの)さん、二条さんが加わると街行く人はさらに見た。だって、四人で並んで歩くとモデルさんや俳優さんが歩いてるみたいだったもの。私だけ、一般人だった。』

「そんな事ないよ。」

『そんな事あるのよ。三日月の集まりに行ってもそう。そこら中、素敵な人だらけだった。20歳の私には、眩し過ぎた。憧れと嫉妬は紙一重なんだとわかった。だから、光珠の隣にいる自信がなかったんだと思う。それでも、三日月の人達は優しくて見た目でなんか判断もしなくて、私はそんな皆が大好きだったよ。もっと、もっと、一緒に過ごしたかった。』

私は、麗奈をギュッと抱き締める。

「私は、麗奈と生きていきたい。今だって、お腹の子だって。」

『無理なの。ごめんね。光珠』

例え、浮気になっても私は麗奈とキスがしたかった。

さっき川澄さんが言った言葉が頭から離れなくて…。

『指輪はめて。さよならしよう』

「お別れのキスしよう。」

麗奈は、私から離れてブンブンと首を横に振る。

「なぜ?」

『宮部さんに悪いわ。いけない事よ。光珠』

「それでも、構わない。しよう」

『駄目よ。駄目。私自身の為にも駄目なの』

ポロポロと麗奈は、泣き出す。

「お願いだよ。それとも、もうこんなおじさんには興味がない?」

『そんなわけないよ。そんなに歳をとっていないように感じる。』

「じゃあ、しよう。麗奈」

『駄目。宮部さんに悪いから』

「ちゃんと謝るから。だから、お願い。そうじゃなくちゃ、私は君と生きる未来を選ぶよ」

『それは、もっと駄目。』

「じゃあ、ほら。しよう」

『20年も経ってるから、怖いの』

麗奈は、そう言って泣いてる。

「大丈夫、心配しないで」

『怖い』

私は、麗奈を引き寄せて抱き締める。

「大丈夫だから」

優しく背中を撫でる。

『もう少し待って、勇気がいるの。』

「わかった」

麗奈が、泣いているのを感じる。

希海さんへの罪悪感はある。

それでも、麗奈に触(ふ)れるのをやめられない。

放したくない。

一生一緒にいたい。

でも、麗奈はそれを望まない。

どうか、少しだけ私を赦して欲しい
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