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宝珠の視点

喜与恵と…

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「喜与恵と行ってくれますか?」

「光珠さんについていてあげたいですか?」

「はい、すみません」

「いえ、いえ。喜与恵さん、呼んで来ます。」

そう言って、宮部さんは喜与恵の元に行って、暫くして戻ってきた。

「パフェが美味しいらしいです。出て、右のかどくらってお店が」

「そうなんだね」

「私と、宮部さんで行ってきますね。」

喜与恵は、さっきの小さな二体の人形をポケットに入れていた。

「ネクタイ、ずれてるよ」

「ありがとう」

喜与恵は、本当にスーツが似合う。

「じゃあ、喜与恵さん。行きましょうか!」

「はい、是非。」

「気をつけて」


ニコニコと笑いながら、私に手を振って、二人は行ってしまった。

パフェか…。

私は、人形の工場に行った。

さっきと違って、シャッターも扉も閉まっている。

開けるわけには、いかない。

ビジョンを見せてもらおうかな

私は、あの方のお陰で、授かった能力を使う。

そのお陰で、建物の中の人の会話が、聞けるようになった。

ドクン………。

ゐ空さん…。

やはり、人形を持っていたのですね。

私は、光珠と麗奈ちゃんの会話を聞いていた。

出てきた光珠に、もう一度、戻るように言った。

私も、麗奈ちゃんと話して外に出た。

時計を見ると、14時を回っていた。

どうしたものか……。

晩御飯は、どこで食べようか?

「ゐ空さんが、宝珠を呼んでる。」

「光珠は、どこかに行くのか?」

「あぁ、庭でも見とく。」

「光珠、宮部さんと私の事」

「もう、希海さんは完全に吹っ切れたんだね」

「ビジョンを見たか」

「でも、私は、まだだ。希海さんの気持ちが嬉しい」

光珠は、ボロボロと泣き出してしまった。

「前に進んでいくのは、勇気がいる。でも、生きている限り前に進まなくちゃいけない。過去を振り返るのは、簡単だ。でも、そこには希望はない。あるのは、絶望だけだって。わかってるんだろ?光珠」

「わかってる」

「過去を繋ぎ合わせたって、未来の一ページにもならないのをちゃんとわかってるんだろ?」

「わかってるよ、宝珠」

私は、光珠を抱き締めた。

「前に進んで生きろ!光珠は、私が掴まえて手繰り寄せてきた縁だ。だから、命を諦めないでくれ。必ず、宮部さんと笑って歩いて行ける未来があるから…。だから、今は悲しくて辛くても、前を向いて歩いて行こう。」

「宝珠、ありがとう」

光珠は、私に抱きついた。

「じゃあ、行ってくるから」

「うん、待ってるよ」

私は、扉を開けてゐ空さんの元に行く。

「何か、ご用ですか?」

「宝珠君、さっき光珠君にバレてしまった。私が、君をここに呼んだ事を…。」

「私をですか?」

「あぁ。君の記憶が戻った日に私は君を見つけたんだ。ついてきてくれるか?」

私は、ゐ空さんについていく。

「師匠が言っていた、ゐ空にとって必要な時期がくれば、黒き能力者の夢を見る。君は、黒き能力者だろ?」

「はい、そうです。」

「その手の夢を見たよ。」

「そうなんですね」

「多分、人形(かのじょ)をどうするか決めるために、私は君を導いたんだと思う。」

一番奥の扉を開けるとガラスケースの中に、人形がしまわれていた、

パチンと電気をつける。

その人形は、恐ろしいほどに綺麗だ。

「愛した人ですか?」

「うん。水島空(みずしまそら)、私と同じで空がついていた。一度人形を作ってした話をさっきしただろ?」

「はい」

「いつか、また使いたいと言われたらと思って置いていたんだ。」

「解体出来ずにいたのですね」

「怖いんだ。見ただろ?解体作業。」

「はい」

「助けて欲しいんだ。もう、どうしていいかわからなくて…。」

「少しだけ、いいですか?」

「うん」

私は、右の手袋をポケットに入れてゐ空さんの後頭部に手を当てる。

ドクン………。

流れ込んだ、空さんとの時間。

ボタボタと涙が流れては、落ちた。

「悲しい恋愛でしたね。」

私の言葉に、ゐ空さんは目を開けた。
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