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ぬいぐるみ師
モカの為…
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「モカが、脅されるのではないかと思った。自分がいなくなり、妻に脅されるのではないかと思った。いっその事、引き連れて行こうと決めた。モカに迷惑がかかるなら、自分が生きてるうちに、この家族を終わらそうと決めた。」
「私は、従兄弟に生きて欲しかったんです。」
「万珠さんが、モカ君に告げた通りだよ。従兄弟の名前は、コウ君だよね」
「はい」
「コウ君はね、ずっと綱渡りしていたんだよ。それは、本当だよ。闇の中の一本の綱を必死で掴んで前に進んでいた。絶望したあの日からは、前にも後ろにもいけない場所にずっといたって…。綱の上に座って泣いても、誰も助けてくれなくて…。何とか血だらけになって進んで行くしか出来なかったって…。万珠さんが、君に伝えた通りだ。ただ、万珠さんがもう一つの声をブロックしていた。それが、さっきの君の為の話だ。私は、その声を聞けた。」
「コウは、幸せになれたのですか?死ぬ事で、幸せになれたのですか?」
「抹消されたから、わからない。でも、生きてる時よりは辛くないのは感じたよ。」
「そんな……。悲しすぎます」
モカ君は、ボロボロと泣き出した。
「私は、死ぬ事で幸せになるとは思わないよ。苦しみから、解放されるとも思えない。だけど、コウ君の声を聞いて思うんだ。ここまで、苦しくて痛いなら、どうやって生きていけばいいのだろう?って…。絶望に、絶望を重ねる日々の中で、僅かに手繰り寄せた小さなか細い光が、モカ君がくれた命だった。でも、それさえも奪われようとした。コウ君は、どうするべきだったのだろうか?私にも、わからない。そんな心で、どうやって生きていくべきだったのだろうか?」
モカ君は、私の手を握りしめる。
「もういいよって言うしか出来ないよね、モカ君」
「はい、うっううう…」
モカ君は、ボトボトと涙を流した。
「生きてくれって言えないよね。頑張ってって言えないよね。もう、充分な程。頑張って生きているのに…。」
私は、こんなに辛く悲しい生き方をしている人に、何も言えない。
宝珠、糸埜君、二条さん、皆ならなんて言うのだろう。
「光珠さん」
「はい」
「万珠さんが、言われた通り。コウを止める事は出来なかったのですよね」
「もう一度、モカ君が最後に会ったビジョンを見せてくれる?」
「はい」
私は、モカ君の肩に手を置く。
ドクン………。
モカ君が、見てる先を目を凝らす。
私は、目を開いた。
「無理だった」
「それは、絶望が強すぎてですか?」
「違うよ。左胸に、黒い痣が浮かんでた。」
「そんなのなかった。」
「能力者にしか見えない。悪しきものが、はいった証だから…。万珠さんが、言った通り。無理なんだよ。あれが、あったらちょっとやそっとじゃ気持ちは変えられない。」
「じゃあ、コウはただ辛い人生を消費しただけじゃないですか。」
私は、モカ君を支える。
モカ君は、私の胸で泣いている。
「良いときだってちゃんとあったよ。ただ、大人になって未来が思っていたものと違ったんだ。誰かが、それを教えてくれたら違ったのかもしれないね。」
麗奈を亡くし、絶望で死のうとした私に、宝珠は生きろと言わなかった。
【ボタンがさ、取れたから縫ってよ】
よくわからない事を、今、目の前から飛び降りようとしてる私に言った。
仕方ないから、縫ってあげた。
【こっちも、取れてるからね】
宝珠は、カッターシャツの全部のボタンを私に差し出した。
不器用ながら縫うだけで、あっという間に時間が過ぎて、眠くなった。
あれが、何だったのかいまだによくわからなかった。
でも、宝珠は次の日もボタンを縫えと言った。
三日目には、くだらなすぎて笑ったのを覚えている。
「モカ君、もう自分を許してあげていいんだよ。もう、苦しまなくていいんだよ。モカ君が、悪いわけじゃないよ。」
モカ君は、私に抱きついて泣いている。
「ごめんなさいを言いたかった。コウとは、ずっと一緒だった。だから、未来もずっと一緒だと思っていた。」
モカ君は、子供みたいに泣いている。
「私は、従兄弟に生きて欲しかったんです。」
「万珠さんが、モカ君に告げた通りだよ。従兄弟の名前は、コウ君だよね」
「はい」
「コウ君はね、ずっと綱渡りしていたんだよ。それは、本当だよ。闇の中の一本の綱を必死で掴んで前に進んでいた。絶望したあの日からは、前にも後ろにもいけない場所にずっといたって…。綱の上に座って泣いても、誰も助けてくれなくて…。何とか血だらけになって進んで行くしか出来なかったって…。万珠さんが、君に伝えた通りだ。ただ、万珠さんがもう一つの声をブロックしていた。それが、さっきの君の為の話だ。私は、その声を聞けた。」
「コウは、幸せになれたのですか?死ぬ事で、幸せになれたのですか?」
「抹消されたから、わからない。でも、生きてる時よりは辛くないのは感じたよ。」
「そんな……。悲しすぎます」
モカ君は、ボロボロと泣き出した。
「私は、死ぬ事で幸せになるとは思わないよ。苦しみから、解放されるとも思えない。だけど、コウ君の声を聞いて思うんだ。ここまで、苦しくて痛いなら、どうやって生きていけばいいのだろう?って…。絶望に、絶望を重ねる日々の中で、僅かに手繰り寄せた小さなか細い光が、モカ君がくれた命だった。でも、それさえも奪われようとした。コウ君は、どうするべきだったのだろうか?私にも、わからない。そんな心で、どうやって生きていくべきだったのだろうか?」
モカ君は、私の手を握りしめる。
「もういいよって言うしか出来ないよね、モカ君」
「はい、うっううう…」
モカ君は、ボトボトと涙を流した。
「生きてくれって言えないよね。頑張ってって言えないよね。もう、充分な程。頑張って生きているのに…。」
私は、こんなに辛く悲しい生き方をしている人に、何も言えない。
宝珠、糸埜君、二条さん、皆ならなんて言うのだろう。
「光珠さん」
「はい」
「万珠さんが、言われた通り。コウを止める事は出来なかったのですよね」
「もう一度、モカ君が最後に会ったビジョンを見せてくれる?」
「はい」
私は、モカ君の肩に手を置く。
ドクン………。
モカ君が、見てる先を目を凝らす。
私は、目を開いた。
「無理だった」
「それは、絶望が強すぎてですか?」
「違うよ。左胸に、黒い痣が浮かんでた。」
「そんなのなかった。」
「能力者にしか見えない。悪しきものが、はいった証だから…。万珠さんが、言った通り。無理なんだよ。あれが、あったらちょっとやそっとじゃ気持ちは変えられない。」
「じゃあ、コウはただ辛い人生を消費しただけじゃないですか。」
私は、モカ君を支える。
モカ君は、私の胸で泣いている。
「良いときだってちゃんとあったよ。ただ、大人になって未来が思っていたものと違ったんだ。誰かが、それを教えてくれたら違ったのかもしれないね。」
麗奈を亡くし、絶望で死のうとした私に、宝珠は生きろと言わなかった。
【ボタンがさ、取れたから縫ってよ】
よくわからない事を、今、目の前から飛び降りようとしてる私に言った。
仕方ないから、縫ってあげた。
【こっちも、取れてるからね】
宝珠は、カッターシャツの全部のボタンを私に差し出した。
不器用ながら縫うだけで、あっという間に時間が過ぎて、眠くなった。
あれが、何だったのかいまだによくわからなかった。
でも、宝珠は次の日もボタンを縫えと言った。
三日目には、くだらなすぎて笑ったのを覚えている。
「モカ君、もう自分を許してあげていいんだよ。もう、苦しまなくていいんだよ。モカ君が、悪いわけじゃないよ。」
モカ君は、私に抱きついて泣いている。
「ごめんなさいを言いたかった。コウとは、ずっと一緒だった。だから、未来もずっと一緒だと思っていた。」
モカ君は、子供みたいに泣いている。
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