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ぬいぐるみ師
大人になりたくなかった
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モカ君は、泣きながら私を見つめる。
「大人になんてならなければよかった。光珠さんも、わかるでしょ?」
「わかるよ、モカ君」
「同じように笑っていたあの日々のままでいたかった。」
「そうだね」
「同じ血の繋がりをもっているのに、どうして選ばされた未来は同じじゃなかったのかな?どうして、コウだけあんなに苦しまなくちゃいけなかったのかな?どうして…どうして…どうして…」
モカ君は、私の胸にコンコンと頭を当てる。
「どうしてかな…。」
私も、わかる。
糸埜君のように、子供をもうけ幸せな未来を思い描いていた。
二条さんも宝珠も同じだ。
でも、二条さんは男の人を好きになった。宝珠は、子供を授ける事は出来なかった。私は、麗奈が死んだ。同じように、能力者として育てられながらも、手に出来た未来は違った。
手に入れられないなんて、おかしいよな。
「光珠さん、私は、コウと大人になりたかった。コウと同じ未来の中に生きていくと信じていたかった。なのに、そうならなかった。神様なんていないと思った。私は、コウと一緒に生きていたかった。それが、間違いでも彼の人生には……私がいて。私の人生には彼がいて。そんな風に、一生一緒に生きていくと思っていたんだよ。光珠さん、大人になんてなりたくなかった。大人になんて、なりたくなかった。大人になんて、なりたくなかった。」
モカ君は、何度もそう叫んで泣いた。
わかるよ。
手に入らないものが、あるなんて、知らなかったんだ。
小さな世界の中では、大人になれば何もかも手に入る気がしていたんだよね。
「光珠さん、私は、コウのいない人生を望んでいなかった。」
私は、その言葉に宝珠を思い出した。
【光珠が、死ぬ未来を私が望んでると思ってるのか?】
麗奈の49日が終わって、ナイフで首を切ろうとした私に言った。
私は、宝珠に酷い事を言ったのを今気づいたのだ。
【私なんかいなくたって、宝珠の人生に1ミリも影響なんてしないだろ】
私は、そう言って鼻で笑った。
宝珠は、そんな私を殴る事も怒る事もせずに、ただ、「デミグラスソースを作ってくれ」という宿題を置いて帰った。
「苦しくて、痛いのは、コウだけじゃない。私だって、コウがいなくなってから…。暗闇の中をさ迷っているのですよ。」
「うん」
わかるよ!とは、言えなかった。
だって、私はコウ君の立場の人間だったから…。
私は、宝珠をたくさん傷つけた。
「私は、大人になりたくなかった。コウが、いなくなってしまうなら、私は未来なんていらなかった。大人になって、コウが死ぬのがわかっていたら…。私もいなくなればよかった。」
「モカ君のお陰で、たくさん救われてる人がいるんだよ。この先だって、たくさん救える。だから、生きていかなくちゃね」
「それでも、コウと生きる未来が欲しかった。それ以外、いらなかった。私が、殺したんだよ。光珠さん。私が、大好きなコウを殺したんだ。」
「違うよ。それは、違う。モカ君が、殺したんじゃない。」
「それでも、私は…。」
どうすればいい。
私は、何を言えばいい。
私は、どう伝えてあげればいい。
「モカさんが、殺したわけじゃないですよ」
私が、助けて欲しいと思う時、いつもやっぱり来てくれた。
私のHEROだ。
「宝珠………ゐ空さんとは?」
「少しだけ、一人にして欲しいと言われたので庭でも見ようかと思ってね。」
私とモカ君に、宝珠は近づいてきた。
「モカさん。絶望を拭えるのは、自分しかいないのです。コウさんは、拭えなかった。だから、悪しきものに最悪な道に連れていかれた。誰かが、埋めてはくれません。人は、一人で産まれ堕ちて、一人で死んでいくのです。だから、己についた痛みも傷も悲しみも全て自分自身で取り除くしかないのです。モカさんの痛みや悲しみは、人には理解できません。光珠の痛みや悲しみは、人にはわからない。感じようとする努力は出来ます。でも、それは努力に過ぎないのです。モカ君や光珠の心の中までは、人にはわからない。だから、自分で直すしかないのです。」
その言葉に、あの日の宝珠の宿題の意味が少しだけわかった気がした。
いや、きっと答えはこれだ。
「大人になんてならなければよかった。光珠さんも、わかるでしょ?」
「わかるよ、モカ君」
「同じように笑っていたあの日々のままでいたかった。」
「そうだね」
「同じ血の繋がりをもっているのに、どうして選ばされた未来は同じじゃなかったのかな?どうして、コウだけあんなに苦しまなくちゃいけなかったのかな?どうして…どうして…どうして…」
モカ君は、私の胸にコンコンと頭を当てる。
「どうしてかな…。」
私も、わかる。
糸埜君のように、子供をもうけ幸せな未来を思い描いていた。
二条さんも宝珠も同じだ。
でも、二条さんは男の人を好きになった。宝珠は、子供を授ける事は出来なかった。私は、麗奈が死んだ。同じように、能力者として育てられながらも、手に出来た未来は違った。
手に入れられないなんて、おかしいよな。
「光珠さん、私は、コウと大人になりたかった。コウと同じ未来の中に生きていくと信じていたかった。なのに、そうならなかった。神様なんていないと思った。私は、コウと一緒に生きていたかった。それが、間違いでも彼の人生には……私がいて。私の人生には彼がいて。そんな風に、一生一緒に生きていくと思っていたんだよ。光珠さん、大人になんてなりたくなかった。大人になんて、なりたくなかった。大人になんて、なりたくなかった。」
モカ君は、何度もそう叫んで泣いた。
わかるよ。
手に入らないものが、あるなんて、知らなかったんだ。
小さな世界の中では、大人になれば何もかも手に入る気がしていたんだよね。
「光珠さん、私は、コウのいない人生を望んでいなかった。」
私は、その言葉に宝珠を思い出した。
【光珠が、死ぬ未来を私が望んでると思ってるのか?】
麗奈の49日が終わって、ナイフで首を切ろうとした私に言った。
私は、宝珠に酷い事を言ったのを今気づいたのだ。
【私なんかいなくたって、宝珠の人生に1ミリも影響なんてしないだろ】
私は、そう言って鼻で笑った。
宝珠は、そんな私を殴る事も怒る事もせずに、ただ、「デミグラスソースを作ってくれ」という宿題を置いて帰った。
「苦しくて、痛いのは、コウだけじゃない。私だって、コウがいなくなってから…。暗闇の中をさ迷っているのですよ。」
「うん」
わかるよ!とは、言えなかった。
だって、私はコウ君の立場の人間だったから…。
私は、宝珠をたくさん傷つけた。
「私は、大人になりたくなかった。コウが、いなくなってしまうなら、私は未来なんていらなかった。大人になって、コウが死ぬのがわかっていたら…。私もいなくなればよかった。」
「モカ君のお陰で、たくさん救われてる人がいるんだよ。この先だって、たくさん救える。だから、生きていかなくちゃね」
「それでも、コウと生きる未来が欲しかった。それ以外、いらなかった。私が、殺したんだよ。光珠さん。私が、大好きなコウを殺したんだ。」
「違うよ。それは、違う。モカ君が、殺したんじゃない。」
「それでも、私は…。」
どうすればいい。
私は、何を言えばいい。
私は、どう伝えてあげればいい。
「モカさんが、殺したわけじゃないですよ」
私が、助けて欲しいと思う時、いつもやっぱり来てくれた。
私のHEROだ。
「宝珠………ゐ空さんとは?」
「少しだけ、一人にして欲しいと言われたので庭でも見ようかと思ってね。」
私とモカ君に、宝珠は近づいてきた。
「モカさん。絶望を拭えるのは、自分しかいないのです。コウさんは、拭えなかった。だから、悪しきものに最悪な道に連れていかれた。誰かが、埋めてはくれません。人は、一人で産まれ堕ちて、一人で死んでいくのです。だから、己についた痛みも傷も悲しみも全て自分自身で取り除くしかないのです。モカさんの痛みや悲しみは、人には理解できません。光珠の痛みや悲しみは、人にはわからない。感じようとする努力は出来ます。でも、それは努力に過ぎないのです。モカ君や光珠の心の中までは、人にはわからない。だから、自分で直すしかないのです。」
その言葉に、あの日の宝珠の宿題の意味が少しだけわかった気がした。
いや、きっと答えはこれだ。
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