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ぬいぐるみ師
何を言っても…
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宝珠は、私とモカ君の頬に手を当てる。
「死のうとしてる人に、何を言っても届かないんだよ。私も、そうだったからわかるんだよ。だけどね、幽体の真理亜がね。私に言ったんだ。宝珠、明日ガーベラを一本買ってきてって、今、目の前で死のうとしてる人間に言う事なのか?と思った。だけど、急に死ぬ勇気が沸かなくなってやめたんだ。疑問が沸くと、どういうわけか死ねなくなった。死ぬって、勇気がいるんだよ。何となく死にます。なんて出来なかった。死のう!って覚悟を決めなくちゃできなくて、別の話に頭をもってかれたらもう出来なくなってしまった。従兄弟さんには、モカさんの声は届かなかったんだよ。」
宝珠が、ビジョンを受け取ったのがわかった。
「師匠が、教えてくれたのですね」
「はい」
「その場所から抜け出す方法は、自分しかもっていなかったのにね。気づかなかったんだね。いや、気づけないよね。」
宝珠は、そう言ってモカ君の頭を撫でる。
「人は、わかって欲しいと言うけれど…。人の痛みや悲しみなんて、わかるわけがない。もし、わかるという人がいるなら、私は能力者だねと言うだろう。だって、能力者でない限り、そんな事は出来るはずはないから。」
「絶望も、孤独も、自分で立ち向かうしかないのですか?」
「そうだよ。自分しか出来ないんだ。ほら、補助輪のついた自転車と同じだ。補助輪が、なくなったら漕ぐしかないだろ?自分で、前に前にペダルを漕ぐしかないだろ?後ろに漕いだって、進まないし。誰かが代わりに漕いでくれる事もない。自転車って、人生に似ているかもね。」
宝珠は、そう言って笑った。
私は、糸埜君と二条さんと宝珠と豊澄君の四人に夏休みに自転車を教えてもらったのを思い出してしまった。
【ほら、光珠。漕げ、漕げ】
【自分の足で、漕がなきゃ駄目だよ】
【出来ないなんて、泣いてたら前には進めない!行け、光珠】
【ほら、誰も代わりはできへんで!】
【光珠ー。前だけ見て、漕げー】
確かに、人生に似ている。
「私は、コウに何も出来なかったって事ですね。」
「それは、違うよ!モカさん。出来ていたから、生きていたんだよ。血だらけになっても、前に進もうとしたのは、モカさんが居たからだよ。コウさんだって、モカさんと生きていたかったんだよ。同じ未来の中にいたかったんだよ。私だって、従兄弟にはそう居て欲しいからわかる。」
宝珠は、涙を流して私を見つめた。
「小さな頃は、同じ場所にいたんだ。お互いに…。なのに、いつからか違う場所に進み始めた。手にするものも、見える世界も、変わってしまった。それでも、変わらないって信じたかった。でも、無理だった。痛みも悲しみも苦しみも傷も手にしたものも欲しいものも、何もかも違う世界に行ってしまった。それを埋める事は、出来ない。同じ血が流れているのに、同じ感情(きもち)を受け取れない。それが、大人になる事なら悲しすぎる。だから、いらない。そう思った。私は、今でもそう思ってる。皆平等で、同じような夢を見れていた、あの場所にいけるならいくらだって払ってもいいとさえ思う。」
「でも、もう戻れない。あの頃には、死んでも戻れない。」
私の言葉に、宝珠は私を見る。
「それでも、戻りたいんだよ。私だって…。コウさんだって…。モカさんだって…。光珠だって…。他の皆だって…。平等でいれた子供の頃に戻りたいんだよ。無理な願いなのは、わかってる。それでも、あの場所に行けたら…。今の苦しみや痛みは消えるのだから…。」
宝珠の言葉に、私は涙がとめられなかった。
大人になったから、生まれた悩み
戻れば、消えるって私もモカ君もわかってる。
「でも、もうそこに戻っても、コウさんはいない。私達も、二条さんと豊澄はいない。だから、残された私達は生きていくしか方法がないんだよ。」
宝珠は、私とモカ君を引き寄せて抱き締めてくれる。
宝珠の温もりが、私の体に伝わって涙が溢(あふ)れてくる。
「死のうとしてる人に、何を言っても届かないんだよ。私も、そうだったからわかるんだよ。だけどね、幽体の真理亜がね。私に言ったんだ。宝珠、明日ガーベラを一本買ってきてって、今、目の前で死のうとしてる人間に言う事なのか?と思った。だけど、急に死ぬ勇気が沸かなくなってやめたんだ。疑問が沸くと、どういうわけか死ねなくなった。死ぬって、勇気がいるんだよ。何となく死にます。なんて出来なかった。死のう!って覚悟を決めなくちゃできなくて、別の話に頭をもってかれたらもう出来なくなってしまった。従兄弟さんには、モカさんの声は届かなかったんだよ。」
宝珠が、ビジョンを受け取ったのがわかった。
「師匠が、教えてくれたのですね」
「はい」
「その場所から抜け出す方法は、自分しかもっていなかったのにね。気づかなかったんだね。いや、気づけないよね。」
宝珠は、そう言ってモカ君の頭を撫でる。
「人は、わかって欲しいと言うけれど…。人の痛みや悲しみなんて、わかるわけがない。もし、わかるという人がいるなら、私は能力者だねと言うだろう。だって、能力者でない限り、そんな事は出来るはずはないから。」
「絶望も、孤独も、自分で立ち向かうしかないのですか?」
「そうだよ。自分しか出来ないんだ。ほら、補助輪のついた自転車と同じだ。補助輪が、なくなったら漕ぐしかないだろ?自分で、前に前にペダルを漕ぐしかないだろ?後ろに漕いだって、進まないし。誰かが代わりに漕いでくれる事もない。自転車って、人生に似ているかもね。」
宝珠は、そう言って笑った。
私は、糸埜君と二条さんと宝珠と豊澄君の四人に夏休みに自転車を教えてもらったのを思い出してしまった。
【ほら、光珠。漕げ、漕げ】
【自分の足で、漕がなきゃ駄目だよ】
【出来ないなんて、泣いてたら前には進めない!行け、光珠】
【ほら、誰も代わりはできへんで!】
【光珠ー。前だけ見て、漕げー】
確かに、人生に似ている。
「私は、コウに何も出来なかったって事ですね。」
「それは、違うよ!モカさん。出来ていたから、生きていたんだよ。血だらけになっても、前に進もうとしたのは、モカさんが居たからだよ。コウさんだって、モカさんと生きていたかったんだよ。同じ未来の中にいたかったんだよ。私だって、従兄弟にはそう居て欲しいからわかる。」
宝珠は、涙を流して私を見つめた。
「小さな頃は、同じ場所にいたんだ。お互いに…。なのに、いつからか違う場所に進み始めた。手にするものも、見える世界も、変わってしまった。それでも、変わらないって信じたかった。でも、無理だった。痛みも悲しみも苦しみも傷も手にしたものも欲しいものも、何もかも違う世界に行ってしまった。それを埋める事は、出来ない。同じ血が流れているのに、同じ感情(きもち)を受け取れない。それが、大人になる事なら悲しすぎる。だから、いらない。そう思った。私は、今でもそう思ってる。皆平等で、同じような夢を見れていた、あの場所にいけるならいくらだって払ってもいいとさえ思う。」
「でも、もう戻れない。あの頃には、死んでも戻れない。」
私の言葉に、宝珠は私を見る。
「それでも、戻りたいんだよ。私だって…。コウさんだって…。モカさんだって…。光珠だって…。他の皆だって…。平等でいれた子供の頃に戻りたいんだよ。無理な願いなのは、わかってる。それでも、あの場所に行けたら…。今の苦しみや痛みは消えるのだから…。」
宝珠の言葉に、私は涙がとめられなかった。
大人になったから、生まれた悩み
戻れば、消えるって私もモカ君もわかってる。
「でも、もうそこに戻っても、コウさんはいない。私達も、二条さんと豊澄はいない。だから、残された私達は生きていくしか方法がないんだよ。」
宝珠は、私とモカ君を引き寄せて抱き締めてくれる。
宝珠の温もりが、私の体に伝わって涙が溢(あふ)れてくる。
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