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極悪令嬢に堕ちる
狂気の令嬢
しおりを挟む私は時間が来たと執務室から部屋を出た。時間は日付が変わる前の夜。軽食を入れ、万全の状態で出る。自身の考えた魔法石を嵌め込んだ杖と剣を両立させた物を携えて行く。服装はブーツに胸当て軽装とする。
ガヤガヤと談笑の声が聞こえる一階へと階段を降りる。すると談笑はピタリとなくなり。席に座っていた令嬢が立ち上がる。そして……代表としてバーディスが私に語りかける。
「エルヴィス。なぁに?」
「わかっているでしょ。お出かけしますよ、皆さん。調子はどうかしら?」
「ふふ。少し悲鳴がなくてつまらない所よ。身支度ね」
「ええ」
その声にメグルが反応する。彼女の隣にはロアが立っており、その腰にはレイピアを携帯していた。彼女は令嬢でも少し鍛えられて来たようだと私は戦えることがわかり、よかったよかったと思う。
「姉貴が出ると言っている。3分で支度しな!!」
私の目の前で身支度を皆が始める。やるといっても武器を携帯するのみであり、すでに軽装鎧は着ていた。それを見ながら、ゆっくりと一階の部屋を歩き中央に行く。
「姉貴、全員の準備出来ました。どこへお出かけですか?」
「出かける先は『龍会』。昼間のお礼に行きます。皆さん地図や相手の特徴はわかりますね」
「「「「はーい」」」」
私は返事に納得し、壁にかけている対魔法防御用のマントを羽織った。すると、皆がポカーンとした表情をしており首を傾げる。
「何かしら? 質問があるの?」
質問に答えたのは白い髪の少女、ルビアだ。
「エルヴィス姉さん……出陣前に何か……こう……ないの?」
「出陣前にねぇ。士気を上げるために演説必要かしら?」
「姉貴、必要と思いますが?」
「エルヴィス。居るでしょ、こんなに数十人が見てるのよ?」
「……」
私は皆の顔を見る。期待した言葉を求める目に微笑し、大きく笑う。
「ふふ、ふふふ。はははは」
気が狂った訳じゃない。おかしくて笑う。令嬢達が『綺麗』な言葉を求める事に。
「ふふ、皆さん。勘違いしてませんか? これは聖戦でもなんでもないのですよ?」
一人、私は演じるように皆の前で踊る。
「死ね、死ね、死ねと言い。ただただ人を殺すだけ。それに……士気を上げる演説なんているかしら?」
「姉貴、そこは『これは我々の正義のために』とか、『我々の名を広めに行くぞ』とか、『自由を勝ちとるため』とか、立派な言葉があるでしょう?」
メグルがクスクスと笑う。空気が柔らかくなり、私は背中を見せて同じように笑い、語る。
「ふふ、ここに居るのは正義を語る騎士でもない。普通に男に尻尾を振って尻を差し出す学園の令嬢でもない。聖女の仲間になってお友達ごっこをするでもない。親にいい縁、いい男を捕まえて来いと言う親孝行を捨てた、品性高潔の令嬢を自ら辞めた親不孝どもじゃない」
「ははは、姉貴。それじゃぁクズみたいじゃないですか。姉貴だって恋愛してるでしょう?」
「あら、気づかなかった? 人を殺した令嬢のクズよ? あなたも私もみーんな」
「ふふふ、ははははははははは。エルヴィス!! そうね!! 違いないわ!! 違いない!! 親の家に仇なす反骨心の集まりね。こんな親不孝者になーにが正義かしら。ははははははははは!!」
バーディスが一人、大きく笑いだし、それが伝播するように皆も笑い。そして……満足気な表情をする。
「さぁ、行きましょう。今の時間は我々の時間だからね」
玄関から大きく扉を明け、暗がりの中を私たちは歩き出す。抗争を行うために私たちは『魔女』となった。
*
「エルヴィス姉様、バーディス姉様が制圧報告が上がってます」
「ルビア姉様から、風報。拷問の許可を」
「メグル姉様からです。生き残りは居なかったと」
私は……屋根の上で座りながら。3人の妹たちから戦況を聞く。抗争の行方は上々だった。爪を研いだ雌豹は的確に喉元を喰らい。拠点を潰していく。あまりの勝利報告に逆にその言葉を疑うほどである。
「バーディスに伝えて。『生き残りはいない』と」
「はい」
「ルビアちゃんに伝えて。『拷問は許可をしない、人思いに仲間の元へ送りなさい』と」
「わかりました」
「メグルちゃんにはそうね。『よくやったわ。次へ行きなさい』と伝えて」
「はい、エルヴィス会長」
連絡係の妹達に私はしっかりと伝えて報告だけを待つ。異常があれば向かう事にしている。予備部隊として。
「暇ね」
「エルヴィス会長の出番はないですね」
「いいのかしらね?」
「いつもお忙しいのでいいのではないでしょうか? ん?」
屋根の上にいる妹達に緊張が走る。妹達の視線の先には非常に変わった姿の服装をした女性が立っていた。三角帽子に髑髏のマーク。豪華なマントにブーツをはいた女性が屋根に上がりサーベルを腰につけ、近付いて来るのだ。妹達は身構える中で私は立ち上がり彼女らの肩を叩く。
「戦闘終了、客人が来たわ。帰還し次に備えなさい。あなた達の足で伝えに行って。あれは私に用があるわ。秘密の話よ。きっと」
「……はい」
妹達が一斉にバラける。そして……その異様な女を私は値踏みする。顔に傷を持ち、歴戦の雰囲気に誰かを考えるが答えは出ない。
「こんばんは。『魔女の夜』エルヴィス・ヴェニスです」
「ああ、こんばんは。『老人会』エルヴィス・ヴェニス。私は『海賊』のウェルネットよ。同じ組織のあなたに用がある」
「なんでしょうか?」
「今すぐ、停戦しなさい。そして交渉よ」
「……許せと申すのでしょうか?」
「ええ、仲介者は私。エルヴィス……あなたはやりすぎる」
私は静かに周りを見渡す。誰もいないのを確認し、一つ意見を言う。
「早いですね。動き」
「それは……あなたもよ。『龍会』の会長が泣き付いて来たわ」
「そうですか。では、ここではゆっくり話が出来ません。私の屋敷にご案内させていただきます」
私はそう言い。交渉人を牙城へと案内をするのだった。
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