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消えた復讐者
しおりを挟む二人、敵地のど真ん中に残されたガブリエルとミカエルは色々と考える。ガブリエルは皮の軍靴にナイフを仕込み。太股に暗器を仕込み。髪飾りに小さな凶器を隠す。小さなペンダントには毒薬を入れる。準備を行い護るべき弟、ミカエルを見た。
「母上は暗殺しに行ったのかしら? ミカエルはどう思う?」
「暗殺なら……もうその話題が出ていると思う。最初に潜入した時から狙うよね。シャルティエ女王の護衛が増える前に。と言うか……俺には予測がついた。ガブリエル姉さんは?」
「さっぱり。私は暗殺かなと思っていたのだけれど……王国内ではすでに一般人の耳にも入ってるし……そして……空気が重いだけでなにもない。ミカエルはそれ教えてくれないの?」
「残念だけど……情報が足りない。まとめるには」
ガブリエルが窓に座る。チリチリした空気が肌を刺し、重たい雰囲気の中で待つこと数日。動きがあったのは最近で……王国から使者が来たのだ。
トントン……
「どうぞ」
ガブリエルとミカエルは扉を開け騎士を迎え入れた。もちろん……その騎士は上級騎士であろう。
「お迎えに上がりました。こちらへ……」
言われるまま。ミカエルはその騎士に手持ちの剣を渡す。敵意はないと見せつけた。
「ガブリエル姫こちらです」
騎士一人がガブリエル姫の目の前でしゃがみお手を取ろうとする。ミカエルはそれに割り込み……ガブリエルの手を握る。
「申し訳ない。姉上はまだ嫁入り前で知らない男の手を取るのは禁じられております。騎士でもある私めが……お連れしますので気になさらず」
「……ミカエル王子」
「……それは申し訳ありませんでした」
騎士の一人が頭を下げる。確かにミカエルとガブリエルは王国では子供と言われてもかわらないぐらい若く見られている。
それを知っているからこそ……あえて鈍感や経験が浅そうに演技もしていたが。今は貴族として振る舞う。
騎士たちはその威風堂々とした姿に驚きながらもバカにすることなく。しっかりと案内をしていただけた。馬車に乗せられ向かう先はもちろん王宮である。
そう……呼ばれたのだ。王国の王の元へと。
過去、母親ミェースチの元婚約者クレート王の元へと。
*
ガブリエルとミカエルは非常に神々しい宮殿に招かれる。冒険者の服装であり似つかわしくない二人だが。全く萎縮せずに騎士に護衛され王の間へと案内をされる。
逐一、騎士に話しかけ。ミカエルやガブリエルは談笑をする。敵になると言う王国のど真ん中でありながらもいつもと変わらず。宮殿を見まわした。
「綺麗ね。流石は王国。ミカエル……あの彫り物なんか丁寧ね」
「ガブリエル姉さん。スゴく金がかかってる。国民のお金でこんなに立派にするんだからさぞ……楽しいでしょうね」
「ミカエル? 皮肉?」
「まぁ~貴族や騎士しか見れないなんて。贅沢でしょう? いっそ解放してお金を取った方がいいでしょう」
「ミカエル……それお母様がやってることでしょ?」
「もちろん」
「申し訳ございませんが王の間へに到着しました。お静かにお願いします。粗相のないようにも……お願いします」
騎士の一人が頭を下げる。ガブリエルとミカエル黙ってうなずく。
「案内、お疲れさまです」
ミカエルが上から、騎士に言い。下げさせる。扉が開き大きい広間と赤い絨毯に天涯の窓から陽光を取り入れ広間を照らしていた。そこにガブリエルとミカエルは進み。目の前に座る母親より少し年上の王の姿を目に入れる。優男のような顔にウリエルのような王子の雰囲気。豪華な錫杖と赤いマント。王冠をかぶり。いかにも王であると言う出で立ちだった。
ミカエルとガブリエルの服装の方が場違いであるが二人は気にせずに跪く。両脇に多くの騎士と貴族が並び目線を集めた。
((この人が……母上の元婚約者))
「……名を名乗れ」
荘厳な声が広間に響く。
「はい……名をガブリエル・バルバロッサと申します」
「ミカエル・バルバロッサと申します」
名を顔を下げたまま名乗る。
「顔をあげよ……」
二人は顔をあげる。逆光で眩しく。二人は欠陥じゃないかと思うがワザワザ鏡で輝かせているのを見ると王の見栄に見えた。そんなことをするのかと。
「ふぅ……俺の名前はクレート・グローライト。王である。呼んだ理由だが……単刀直入に言う」
王と名乗った。ミェースチの元婚約者は目を細める。何を聞きたいかはミカエルとガブリエルhは予想がついていた。貴族や騎士が今、一番知りたい事だろう。何故なら数日間探し回ったのだから。
「お前の母親。ミェースチ・バルバロッサは何処に潜伏している」
「「……」」
「黙秘か……いや。喋ることを許可する」
(どっちが語る? ミカエル?)
(俺が行く。ガブ姉……ここで終わっても後悔はしないね?)
(……ええ。ミカエル。愛してるわ)
短く、二人で話したあと。ミカエルが立ち上がる。
「申し上げますと自分達も母上に見捨てられ……知らぬ間に消えた母上を探してました」
周りがざわつく。それを気にせずにミカエルは続けた。
「そこで情報を手に入れたのですが。情報が足らず。まとめることが出来ません。何卒、申し訳ないのですが情報をいただけないでしょうか? それを聞き……居場所を突き止めます」
周りから何を言っているんだと各々愚痴を溢す。
ドンッ!!
しかし、その声は王の錫杖によってかき消された。
「何が欲しい?」
「騎士の探索の結果を」
「…………居場所を聞いているのだ。察せるだろう?」
「では……王国内……すべてを見たと言うことでよろしいですね」
「ああ。王国首都は全て見た。門衛も厳しく取締っている」
「次に……目撃情報はございますか?」
「商人数人との取り引きのみ」
「以上ですか?」
「以上だ。城の警備も増やした……女王の暗殺もない」
「………ですね」
ミカエルは真っ直ぐ王の瞳を見る。全く臆することなく……途中から大きく……ため息を吐き頭を振る。呆れたと言うように……
「最後の質問です。どれだか不利益が起こったのでしょうか?」
「不利益……ふん。貴族と騎士が大きく騒ぐ。休まる暇もなく……」
「不安だけは先行する」
「……」
話の途中をミカエルは切った。そして……大きく息を吸い込み。笑みを浮かべた。
「わかりました。母上の場所が……」
「ミカエル?」
不安そうにミカエルを見るガブリエル。ミカエルはそれに安心してと言い。王に向き直った。そして……手を大きく広げて叫ぶ。
「多くの聴衆の中で話させていただきますはミカエル・バルバロッサ!! ミェースチの実子でございます。ではでは……今回の騒動。母上の狙い居場所を説明させていただきます」
ミカエルが唐突に演劇の舞台の上のように大きく大きく身振り手振りを加えて周りを見る。唐突な変化に騎士が剣に手を置き。いつでも切り捨てるほど荒々しく憤る。そろそろ限界が近いようだった。
ガブリエルはその変化に黙って見つめる。そう……その大行な姿に空見する。
燃えるような紅い髪の女性を、ミェースチの何処でも演劇の舞台かのような華やかな薔薇の令嬢を。
「………では。居場所を、皆さんは長く話せば飽きてしまう。結末は知っている方がいいでしょう。母上は……」
周りが静かになる。ミカエルの声が広間に響き吸い込まれる。
「帝国に帰ってます」
ガタッ!!
目の前の王が立ち上がる。周りの騎士がざわつき、貴族も騒ぎ。ミカエルの言っている意味を理解しなかった。ガブリエルは……頭を押さえてわかったようにため息を吐いた。王は声にならないほどにビックリしている。
そして……落ち着きやっと声を出す。
「どう言うことだ!! お前らはここにいるじゃないか!! 子を置いて帰る親がいるか!!」
「……いるのです。そう、それが母上です。母上はそうする。なんのためにか? 母上が居ると思い込ませるためにですよ」
ミカエルは周りを再度見渡す。多くの王国の何人もいる重鎮に言い渡す。
「私含め全員、母上に遊ばれている。母上は笑っている。無様に探し、無様に無駄に時間を浪費し……多くの騎士と貴族を出し抜いて」
皆がミカエルの言葉を静かに聞く。王は座り……疲れた表情をした。
「……狙いは?」
「それは……最後に言います。先に説明を……今、我が国と彼の国は非常に緊張している。そして……その中での訪問は多くの人々に開戦の正当化をしに来ると考えられる。そう……母上がここで死ねば戦争でした。居なくなってもいい。何故なら母上は帝国の礎を作れる聖女であると言われるほどに人気です」
戦争の言葉に周りはざわつく。静かにと王は言い。真っ直ぐ睨みつける。王はこいつは怖くないのかとミカエルを値踏みした。ガブリエルは弟の勇姿を目に焼き付けようと必死となる。
「それが……誰の頭にもあった。常識です。そう、常識。だが……この国に足を踏み入れる事態は非常識です。王国の女王様が帝国に来ますか? 来るとしたら騎士団の護衛。国賓であり、対応もしっかりするでしょう。それは常識ですね……そう常識。皆が思う事」
「ミカエル……」
「何が言いたいかわかりますね? そう……常識では……常識なら……常識、こうである。それが私たちを縛った。固定観念。価値観。それらが霧となり母上を隠した。そして……ミェースチ・バルバロッサは有名すぎた。復讐者としても。だからこそ……認識がズレる。そう、母上の事を誰も彼も姉も知らなかった」
ミカエルは自分の母親の異常性に背中がゾワゾワし……震える。そう、震える。
「母上の買った商品は帝国へのおみあげが多数。それと一緒に商人の箱に隠れて一緒に首都を出たのでしょう。通行証は母上ご本人であり。簡単に商人が入れますからね。だから……伝令が届いたときには都市に居なかった。伝令についても母上は伝令よりも早くつくことを目指したでしょう。早馬で冒険しましたから」
「なら……俺たちはいったい何をしていたんだ!!」
王が説明に苛立って唸る。ミカエルはきっぱりと言う。
「ミェースチ・バルバロッサの影に怯えただけです。居ないものに怯えただけです。無駄に騒いだだけです。母上はそれで満足したでしょう。きっと……想像し、帝国で高笑いしてるでしょうね……なんのために? 復讐の色を見せるためにでしょう」
母上の狂気。国に対してイタズラをかましたのだ。女王の品位やそんなものはない。国家ぐるみで迷惑をかける。それらがわかったのか周りの者がミカエルとガブリエルを罵倒する。その罵倒の中で……ミカエルは大きく叫ぶように声を張り上げる。
「黙れ!! 忘れたか!! 帝国の我が母の女王の二つ名を!!」
皆がシーンとなる。皆は思い出す。ミェースチの二つ名を。
「【悪役令嬢】ミェースチ・バルバロッサ。元王国民。思い出せ……母上のその名を。思いだせ……いつの時代でも帝国には彼女の血がある。思いだせ……」
ミカエルは代弁する。
「あなたが拾った令嬢と見比べよ。さすれば見捨てた令嬢の大きさと復讐の大きさと逃がした才能に絶望せよ……メアリーはミェースチと名を変えて生きている。いつしか……それを成さんと生き続けている」
王はその深い深い復讐心に戦慄した。そして……ミカエルは周りを見て……何人かをガブリエルに確認する。答えはもちろん……他国の貴族たちだろうと。
「………どうやら。他の王国外の貴族様もいるようで……では。私たちも帰ります。殺すなら殺せばいい。だが……まだ時間は欲しいでしょう? 連合軍を編成するには……」
「………」(こいつは!? 知っているのか!?)
「帝国は大きく口を開け待っています。同盟国軍を……覚悟してください。帝国は……知っているのですよ? なにもかも」
「ミカエル!!」
「!?」
ガブリエルが熱を持ったミカエルを怒鳴り落ち着かせる。そして……手を繋ぎ。引っ張る。
「それ以上……情報を与えてはダメよ……それでは皆さん愚弟の狂言にお付き合いしていただきありがとうございました」
引っ張り……二人は多くの者に見送られながらその場を出た。去ったあと門が閉じられ……多くの者が喋りだし、王に意見を求める者を現れる。王は……椅子に肘を置きながら。二人を思い出す。
「14と15か………帝国はいったいどんな教育を……」
王は……震える手を拳を作って押さえた。同じ歳の姫と息子との差に底知れない気味悪さを感じながら。
*
「生き残った。ガブ姉さん」
「生き残ったね。ミカエル」
首都から馬をのりながら二人で帰路を歩かせる。国外追放処分で助かった。追っ手もおらず……本当に戦争がしたくないのだと認識する。
「……かまかけたらマジだったね」
「……えっ? ミカエル?」
弟は笑顔で答える。
「大同盟だって~やっぱ……噂は本当だった。それよりも母上失踪事件を治めた分。裏切り行為じゃないかな? 怒られるかな?」
「……いんじゃないかしら? 私たちを置いてきた訳だし。それよりも……ミカエル。大きくなったね。怖くはなかった?」
「うーん。ふっ………上に3人とお母さんお父さんに比べたら。あれは……でも……全部母上の言葉ではなく憶測だけどね」
「憶測だけど……名演だったわよ」
ガブリエルが恍惚な表情をして頬に手を添えた。
「ねぇ。ガブ姉。これも母上の予想通りかな? 王の前で語らせる事を」
ガブリエルの恍惚な表情が硬くなる。
「…………」
「…………」
二人は背筋がブルッとすした。あの母親ならと……思うのである。
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