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宝石箱の中の鈍い光石、箱の外の輝ける紅石
しおりを挟むシャルティエは窓の外を見ていた。穏やかな陽気に当たりながら隠居生活を行う。宝石箱と言われる後宮で警護に守られ病気がちなため……重要な儀式や祭事、必要な時以外はずっとここにいた。
旦那を待ち、優しく触れるだけの毎日。娘や側室の息子達の成長を見守る中でも……耳にすることはある。
警護や使用人との会話でも……本としても。彼女は目立ってシャルティエの耳に入る。
【悪役令嬢】ミェースチ・バルバロッサの名前は王国では誰よりも有名になってしまった。
そう……敵……悪役。帝国の女王でありながら。表舞台に出続ける才女の影に怯え王国はシャルティエを表舞台から下ろした。いや……下ろさずにいられなくなった。
有名になればなるほど。人物を調べられる。二つ名、悪役令嬢はその時の事を現しての蔑称だ。だが……帝国でも畏怖と敬意を込めてそう言われている。
王国では……ミェースチは国を壊す逆賊。帝国では帝国黄金期の象徴。それは戦場での赤き聖女と言われるほど有名であり恐怖の対象でもあった。
そう……耳で塞いでも見える。聞こえるほどに。その名声は私に届けられた。
「お母様~おはようございます」
「メイチェル。おはよう……今日は学校は休日ね」
母の容姿を受け継ぎ。14才、学園に入り2年目である。シャルティエと同じ学園に入り、婚約者も決まっており。今は令嬢として学んでいる所である。お相手は歳が10以上も離れた騎士様だ。
「お聞きしましたか? お母様?」
「何がでしょうか?」
「帝国の令嬢と王子が来ていたそうです。そして父上になんとも敬意がない対応と品位のない行為で罵倒したようです。歳も私と同じで14才……なのに。ま~子供です。ふふ~ん」
「……」
どうやっても、耳に入る。そう思いシャルティエは受け入れる事をずっとしてきていた。少し14才? とシャルティエは疑問にも思うが……頭を振る。既に20未満が帝国で名を馳せているのだから気にしないでおこうと。
「お母様。お膝よろしいでしょうか?」
「ええ……クス。子供ぽいですよ。メイチェル」
「す、すこしだけですわ!!」
元気に活気づいている子に微笑み。膝の上にシャルティエは乗せた。きれいな金髪を撫で……抱き締める。いとおしい我が子を………そして……
「お母様?」
「ごめんなさい……ごめん……」
謝る。これからの事を考えると……どうしても悪い想像がある。影が……手を伸ばすイメージが。
「なんで謝るんですか?」
「……いいえ。なんでもない………」
シャルティエは王のためと夫のためと努力し……令嬢として知識を持つ。だが……その努力を嘲笑うようにある影が見えたのだ。
シャルティエは覚えている。ミェースチのあの過激な姿を。衛兵に連れられながらも堂々と前を歩く姿を……それを見て、王子に選ばれた事で努力した。護ってもらわなければと……本能で。
努力した。結果……王国では聖女として王の寵愛と国民の励みになったと教えてもらえている。最初は喜んだ。しかし……何も時期が被ったのがいけなかったのか。帝国にも同じように同じ歳で女王となり聖女と言われる者が現れた。ミェースチである。
「お母様? 大丈夫ですか? 重いですか?」
「大丈夫……大丈夫……」
娘を見ながらシャルティエは思い出が溢れる。彼女の息子と娘たちが現れたせいで溢れてしまう。蓋をしていた物が。
「お母様? 辛そうです……」
「大丈夫……」
「そうですか……」
シャルティエは覚えている。帝国の新しい女王のがスゴいと話題になった事を……彼女は本にもなっている程に有名になった。
帝国の令嬢は王国を真似た学園を作った。
帝国の反抗的領地を丸く納めた。
女王でありながら騎士をし王国民でありながら帝国民に認められている。
ヴァルハラ戦役でその騎士たる手腕、強運、先見……そして武勇は帝国民の士気高いものにする。
取り囲まれた小数の中でたった一人生き残った戦神と帝国騎士に愛された聖女である。
帝国の男は皆、彼女のように勇敢であれ。帝国の女は皆、彼女のように母であれ。
そう……ミェースチの名は何処でも響き渡った。王国でさえ……彼女の本が出るほど人気であり、不敬とし焚き書もあった。ただただ私を苛めていただけの人とは思えないほどに。
結果……同じ歳で同じ時になった女王であり私は比較され続けた。
光の聖女ならシャルティエ。影の聖女ならミェースチ。
神聖なる神に愛された聖女シャルティエ。戦神に愛された騎士聖女ミェースチ。
概念だけの王女シャルティエ。真の女王ミェースチ。
ミェースチの作った学園の卒業生が他国正規軍を打ち破り防衛を成功させた。その息子である。名将ウリエル・バルバロッサは若いが王国の誰よりも思慮深い大人であり、それでさえ上に立てない程である。
ミェースチの子供らがスゴい。ミェースチの騎士団がスゴい。ミェースチのせいで皇帝がただの名将。
ミェースチが現れた。ミェースチがまた何かした。ミェースチ……ミェースチ……
令嬢ガブリエル・バルバロッサは若くして既に自由騎士であり、弟を護る勇敢な姫である。メイチェル・グローライトは……
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最初は比較、途中は活躍だけが……最後は比較するのもおごがましいとまで言われる程にシャルティエは指を差されていた。復讐されるぞとも言われた。王も捨てた女が復讐にと陰口で言われている程に。他の令嬢も私の方がとも……色々……そのため、年が経つたびに国民の一部が心の中で帝国の女王がもしも……我が国の女王ならと思っているだろうとシャルティエは妄想してしまい……無理が祟って体を壊した。
「お母様!? お母様!?」
「……あっ……えっと。メイチェルどうしたの?」
「お母様……反応がなくて……」
「ごめんなさい……少し……辛いみたい。横になります」
「はい……」
メイチェルは悲しそうに。膝から降り……シャルティエは申し訳なくなる。こんな母親でごめんなさいと。
(……何がどうしてでしょうか……)
シャルティエは……窓の外を見て考える。この護られている宝石箱の中身に本当に価値があるのだろうかと。
自分は本当に価値があるのだろうかと。
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