メス堕ち魔王は拐った勇者を気に入る『長編読者向け』

書くこと大好きな水銀党員

文字の大きさ
10 / 22
隠居編

都市ヘルカイト①

しおりを挟む
§都市ヘルカイト①

 都市ヘルカイトに私たちは帰ってきた。時期はまた一週し、もう冬であり、寒さが肌を突き刺すほど痛みも感じるほどに冷え込んでいた。

 都市インバスから時間をかけトロールの都市を抜けた。森は開拓され、舗装された道を進んだ先で様変わりした都市ヘルカイトの姿に私は胸を踊らせる。

 昔は外から武骨な壁しか見えていなかったのだが。今では恐ろしいほどの大きい木が都市の中央から生えていた。魔力が濃くなっており、それは酔いそうになるほどだ。

 都市に入るともっと驚く。色んな種族が住み始め、行商、店などがしっかり立ち並びつつある。道路が整備された結果だろう。

 ガラガラだった都市に人が集まりだしていた。そして、冒険者が未開拓地を探しに果敢に挑もうとする声が聞き取れ活気に溢れている。

 何が変わったか、店で情報を纏めると。旅立ったドラゴン達がやりたいことをやっているらしい。

 西側トロールの都市方面は商業区。私の家がある東は宿泊等の住居部。

 「他は好きしていい」と言うことで建物の壁が白かったり赤かったりした。青い屋根、赤い屋根等が入り乱れる。

 上空は衛兵のドラゴンが飛んで都市を監視しているし、たまにヘルカイトも飛んでおり、都市の周辺の魔物たちの被害は一切ない安全な都市だ。

 とにかく、一瞬で魔法のように一年で劇的で変わったのだ。元々建物はあったがそれが埋まった結果と言える。

「じゃあ、俺達は家へ帰る」

「ええ、わかりました。私たちは住居を買いに行きますので……また後で教えてください」

「わかったよ」

 入り口で情報を聞いたあとにランス夫妻と別れた。私たちは私たちで家を目指す。高級住居はまだ売れ残り、私たちの家しか誰も住んでいなかった。

 ここだけゴーストタウンだ。たぶん、今来ている人々はただの冒険者なのだろう。持つ家も結局、安くていい。どっしり家を構える人はまだ少ないようだ。ならば宿屋が儲かっていると思われる。

「ただいまぁ!! おかえり!!」

「おう、一人で言うなよ。ただいま。帰ってきたなぁ~」

「だねぇ~」

 家に上がり、カビ臭いので換気する。埃が積もっているので掃除もしなくちゃいけない。時間的に全部掃除は無理。台所だけ掃除しようと思う。私は鎧を脱ぎ捨てて掃除できる準備をする。

「俺は部屋掃除するわ」

「はーい」

「お邪魔します……」

 女性の声が聞こえる。誰か来たのだろう。

「どうぞ。汚いですが。ふふ、ふーんふーん」

 鼻歌混じりながら、水道から水を汲み。雑巾で台所を綺麗にする。さすが高級家。水道がある。パイプはどうやって這わしてるのだろうか。

「いい家ですね」

「そうでしょ高かったんです」

 お客も待たせてるし素早く綺麗にしなくちゃ。「お客?」と私は疑問に思う。

「えっ? お客?」

 私は掃除の手を止め。ソファに座る緑の髪に花飾りをつけた女性を見る。何処かで会った気がするが……わからない。本当に誰だろう。ただ、似ているとは思う。

「えっと、ごめんなさい。帰ってきたばっかりで何も用意できないです」

 ソファに座っていた少女が立ち上がり紙袋を持って私の前に来る。懐かしい木の匂いと容姿。思い出すことがあった。いいえ、忘れられない出会いがあった。

「お父さんから。これ」

 紙袋を受けとり中身を見ると芋と小麦粉に竜の卵が入っている。

「えっと………」

「お父さんから」

「ありがとう。その……エウリィさん?」

 私はある都市で出会った木の精ドリアードの女性の名前を言う。しかし、疑問としての投げ掛けるだけだった。知っている彼女は…………枯れてしまったのだ。

「お母さんの名前ですね‼ お母さんから聞いてます!! ありがとう…………私が生まれたのも、あなたのお陰です」

「えっと?」

 深く深く、緑色のドレスを着た少女が頭を下げる。私は頭が混乱した。

「えっとえっと!?」

「ユグドラシルと言います。この都市中央の木が私の本体です。お父さんは忙しいので私がご挨拶に来ました」

「!?」

 デカイ木。あの木が自分と言う。なぜあんなに大きくなったのかわからないが面影はあった。父親に全く似てない。母親似である。

「1年未満でここまで大きくなりますか?」

 ちょっと大きくなりすぎな気がする。

「そうですね。私は母が生まれた時から生まれていました。ただボーッとしていたのは覚えています。母はいつかここではない場所へ子孫を残すためにゆっくり力を蓄えていました。ずーと長い年月。肥沃な大地でずーと…………あの場所で大きくなることは出来ないことを知っていたのでしょう。だから種を残すことに尽力した。あとは雄とその雄が何処かへ持っていってくれるだけでした。お陰で栄養いっぱい。ここも凄く栄養が豊富で。大きくなりすぎちゃいました~」

 可愛らしく私は説明を受ける。

「じゃぁ………本当だったら。エウリィさんも………」

「生まれた場所では大きい大樹だったと思います。ですが、きっとお父さんとは出逢わず混じれず。私も生まれなかったと思います。ですから、あそこで良かったんです母は……そう、幸せでした」

 私は頷き、彼女に聞く。

「何か飲みます? 紅茶は買って来てたんです」

「魔力をたっぷり入れたお水ください!!」

 変わった飲み物を頼む。私はガラスのコップに水を入れて魔力を流し込む。これは魔法使いしかできない事だと思う。

「はいどうぞ」

「いただきます」 

 ニコニコと受け取って話を続ける。

「ネフィアさん。ありがとうございます。そして、母に力をくれてありがとうございます」

「まぁ、残念ながら………枯れてしまいましたけど」

「うん。でも、幸せでしたよ。お腹のなかで私は少しだけ記憶をいただきました。少しだけなのは『大切な記憶を娘でも渡したくない』という理由でした。本当にお父さんが好きだったんですね」

 「お父さんが好きだった」と言う彼女は本当に可愛らしい。幼子の匂いがする。

「そうなんだ。で、お父さんは?」

「スゴく忙しいですけど楽しそうです。ただ………店に娘の名前をつけるのはどうかと思いました」

「ユグドラシルてつけるの?」

「ユグドラシル商会です。変な名前……私の名前も大きくなって欲しいからユグドラシルらしいです」

 昔の世界を支える伝説の木の名前らしい。まぁー童話の話ではある。もしくは世界樹の別名。

「ふふ。親バカね」

「はい。母から、『お父さんは任せた。お父さんの夢を見届けてね』て言われてるのです。お父さん頑張ってます。それ伝えたらこっそり一人で泣いてました。だから、お父さん頑張ってるのかなって」

 しっかりした子だ。生まれて間もないのに。

「にしても、なんで今日。私たち帰ってくるの知ってたの?」

「えーと、私。大きいので見えたんです。あとは根っ子が張っているので…………こうなんとなく」

 さらっと凄いことを言う。

「凄い!? じゃぁ………見えてるの!?」

「だいたい。見えてます。皆さんのこと、私はこの都市で多くを学んでます」

「色々覗ちゃダメよ?」

 ウィンクして「見ちゃダメ」と言う。可愛い仕草をイメージして。

「ごめんなさい。多くの『行為』について。興味があったので見てました」

「ええ…………そこまで見えてるんですねぇ」

 教育によくなさそう。

「…………見ないようにしてますけど。気になるんです」

 筒抜けだぁ。ちょっと見え過ぎる。

「そうそう!! お姉さん。私、母親似ですか?」

「ええ、驚くぐらい。最初に名前を呼んだでしょ?」

「へへ………」

 まだ、幼さの残る美少女は可愛く、微笑むのだった。





 ユグドラシルが帰り。トキヤが入れ替わりで掃除を終わったことを伝えに1階へ降りてくる。私も、あの木について教えてあげる。

「へぇ~あの木が」

「愛の力は絶大」

「もう。愛の力って禁呪なのではないかと思う」

「禁呪ですよ。だって………私はあなたに骨抜きになってます。洗脳されてます」

「危ないなぁ」

「ですから、気を付けて。火傷しちゃうよ」

「いいじゃないか。火傷、痛いぐらいがちょうどいい」

ガチャン!!

「帰ってきたか!! ウルツァイト!! 待ってたぞ!!」

 大きな声でズカズカと入ってくる人物。私は怒りを覚える。トキヤがせっかく珍しく甘く乗ってきたのに。水をさされた。

「はぁ……水をさされた」

 大きな巨体に赤い髪に髭に獰猛な目を持つ彼はヘルカイト。龍人でありこの領主様だ。私は渋々、台所へ行き。何かすぐ準備できるように待つ。

「ウル!! 頼みがあって来た!! だから飛んできたぞ!!」

「ギルド長か? 断りたい……」

「違う!! 頼む………俺の変わりに………」

「ヘルカイトさん。何か飲みますか?」

「ああ、ええっとまて!! これを持ってきたぞ‼」

 ヘルカイトがカンテラのような入れ物の実を私に手渡す。中身の実が光を放ち。本当にカンテラみたいだ。

「ホウズキと言う実らしい。中に美味しい甘い汁が入っている。常温で飲むのもいいし。夏は冷やして飲んだらきっとうまい筈だ」

「へぇ~じゃぁちょっと用意しますね。これ入れ物も綺麗ですね」

 私は中身をガラスコップに移し、トキヤが魔法で暖める。

「どうぞ」

「おお!? あったかい!?」

 ヘルカイトがトキヤの魔法に驚く。まぁ~気持ち分かる。珍しい魔法だ。

「でっ………飲み物も出てきたし話は?」

「そ、そうだ。ああ………ええっと腐竜ナスティって知っているよな?」

「ドラゴンゾンビの兄ちゃんだろ? 知ってる知ってる。で?」

「実は奴は大農園を持っていてな」

「はぁあああ!? あのゾンビが!?」

「トキヤ。腐竜って?」

「ええっと、ヘルカイトわかるか?」

「ワシらと同じエルダードラゴンの生き残りじゃ。敵対してるんだワシと」

「じゃぁ、なんで農園持ってるの知ってるんだよ。それより理由を話せ」

 ヘルカイトが真面目な顔をする。トキヤは眉を歪ませており嫌な顔をしていた。

「人工が増え、食料事情が辛くての………トロールから買っているが数が限られる。『値段も物価も上がって良くない』とオークの商人が言っておった」

 オークの商人とはきっとトンヤと言うオークだろう。ユグドラシルの父上だ。

「この都市をここまで発展させた商人が言うんじゃ。確かじゃろうし、それに大きな木も絶大な貢献をしてくれておる。まぁ………必要だ」

「あああ、わかった。で?」

「農園を持っている事を知ったオークの商人が交渉に行っての…………ワシと「面会したら色々考えてくれる」と言っておった」

「いきゃ~いいじゃん。行けば!! 旧知だろう!!」

「『敵対している』と言っただろう!! それに会いたくない!! 会いたくない!! 怖い!!」

 ヘルカイトが引くぐらい強いのだろうか。震えている。頭を抱えながら大の男が震えている。事情があるらしい。

「あーわかった。いいぞ、御駄賃くれ」

「よし!! いいぞ!! 奮発してやる!!」

 そうとう嫌いなご様子。これは筋金入りだった。彼は笑顔でガラスのジュースを一気に飲み干し席を立つ。

「よし!! 俺は帰る!! 場所はオークに聞け」

「名前覚えろよ!!」

「何故?」

「アホかァああああ!! あああ………バカだ」

「………自覚はしてるぞ」

「…………わかったよ。トンヤだろ?」

「そうだ!! お前らが誘ったのだろう!! ありがたい事だ!! 商売の全権を任せて正解だなぁ!! ははは」

 ちゃっかり掌握されてる。まぁ悪さはしないだろう。

「にしても美味しいねこれ。そつなくな甘さで。柑橘っぽい」

「珍しい飲み物の味だなぁ~飲みやすいな」

「そうだろ!! 我が都市の名物。ユグドラ汁だ!!」

 私はトキヤと顔を見合わせた。

「ユグドラシル?」

「そうだ!! ユグドラ汁!!」

「トキヤ…………これ………」

 トキヤはまだ大丈夫だろう。私はユグドラシルちゃんを生で見ている。複雑な気分になった。彼女の分泌液。なんとも………言い難い。

「どうした? 顔色が悪いぞ? がはははは!!」

 豪快に笑う彼の精神を疑うのだった。





 ワシはウルのネフィアの家から隣の馬舎へ足を踏み入れた。気になる奴がいる。

「おい………」

「………」

 ワシはドレイクに声をかけた。臭うニオイはどうみても旧知だ。

「おい!! ワシを見ろ」

「……………」

 そっぽ向くドレイク。しかし、声は聞こえているだろう。

「何故、お前がここにいる!! 生きていたのか!!」

「……………………」

 沈黙。

「仕方がない。ネフィアに言うか………」

「や、やめろ」

 振り向いてドレイクが喋りだす。

「や、やめるんだ………そんなことはしちゃいけない」

「じゃぁ、ワシの質問に答えろ。何故お前がいる。グランド」

「い、今は『ワン』と言う名前だ」

「ワン?…………別名で王と言うのか」

「いや、たまたま『ワン』と鳴いてしまってな………ワンと名前を戴いたのだ。姫から」

「そ、そうか。でっ………何故?」

「これも、たまたまだ。ドレイクで何もせず滅びを待っていたのだが…………暇をもて余していた時に、まぁついて行こうと考えた。あまりにしつこいから折れてな」

「…………変だ。ウルツァイトもいる」

「ウルツァイトが?」

「トキヤと言う人物はウルツァイトの転生者と思われる。人間だがな、気付かなかったのか?」

「ご、ご主人様の夫様があいつなのか………別人すぎる」

「別人だが、記憶はある。同化している」

 理由は知らないが同化しているのはわかった。勘で。

「気付かなかった。いや、相手も気付いてないな」

「まぁいい。お前はそのままドレイクで過ごすのか?」

「もちろんだ。我は姫様のドレイクだからな」

「エルダードラゴンの癖にペットとして落ちて悔しくないのか?」

「お前は知らない。姫様の素晴らしさを………念入りに手入れをしてくれるのだぞ? しかも、色々話しかけてくれる。喋れないのが悔やまれるが………暮らしはいい。すごくいい」

「じゃぁ喋れよ」

「ペットでいたい。いまさら喋ってなんと思われるか…………」

「何故、そこまで」

「だから言っただろう。楽だからだ。飯もありつけるし、体も洗ってくれるし、抱擁する時の嬉しそうな顔を見せられたら…………『夢を壊したくないな』と思う」

「………はぁ。まぁいい。悪さをしないならそれでいい。俺が地面に叩きつけた事を恨んで暴れるかとヒヤヒヤしたぞ」

「ふん、お前じゃあるまいし。姫様の前で、そんな小さい器を見せられん。安心しろ。許してやるこれまでの事は全てな。あれがなければ出逢えんかったからな」

 ビックリだ。そこまで言うのか、こいつは。

「何がいいんだか………わからん」

「ただし、姫に侮辱や暴行は許さんぞ。飛べないが暴れる事は出来る」

「わかったぜ。安心しろ………俺の領民だ。護ってやるよ」

「……お前も変わったのか。暴れるしか能がなかっただろう?」

「ああ、変わったぜ。数字を覚えた」

 俺は地竜グランドに挨拶を済ませその場を去った。





「ネフィア、あのドレイク。ドラゴンらしいな、それも名のある」

「えっ? そうだったの?」

「あ、ああ。今そこでな……盗み聞いたんだ………俺も知ってるドラゴンだ。しゃべったの本当だったんだな。ごめんな妄言吐きみたいな扱いして」

「どやぁ~あの子はすごいでしょ」

「気にしないのか?」

「ワンちゃんはワンちゃんだし、あっ!! 餌あげないと」

「…………俺、どうしよ。あいつ知ってたわ」

「ワンちゃんはワンちゃんでいいんじゃないの?」

「それもそうか………うん」

 後日、俺はドレイクに頭を下げた。


§都市ヘルカイト②~腐竜ナスティ、防腐剤の農場..



 昨日。俺はヘルカイトから腐竜ナスティに交渉してほしいと頼まれ、ネフィアも「用事がある」と言い。オークの商人に会いに来た。

 商人は商業区にある、商会の建物で仕事をしているらしい。待合室で椅子に座り壁に貼り付けられている大きな地図を見ながら待つこと数分後、彼は現れた。小太りのオークだ。

「ああ!! お久しぶりです。母娘共々お世話になりました」

「こんちは。トンヤ」

「こんにちは。トンヤさん」

「いやぁ~お二人の活躍は聞いてます聞いてます‼ 特に!! ここを教えていただきありがとうございました。全ての商売を掌握出来る権利は素晴らしいです。それに娘もしっかり根を張ることができました。本当に!! ここを教えていただきありがとうございます!! ありがとうございます!!」

 商人らしく捲し立てる。ライバルいない場所だからこそ、素晴らしい商売地なのだろう。

「そこまで喜んでくださいますと嬉しい限りです。で………その………トキヤさんがですね」

「ああ、話を伺っています。これがここら一帯の地図です」

 待合室の壁にかけられている地図。非常に大きな地図だ。誰が描いたか知らないが、素晴らしい出来である。

「娘が一晩で書きまして、今の冒険者たちがこれを複写して探検をしています。そして、ここに彼女はいるのです」

「彼女?」

 地図を指差した、カルデラの大きい泉の縁にいるらしい。農業地と書かれている。そして、俺は疑問に思った。

「いま、『彼女』て言ったか?」

「はい。素晴らしく凛々しい女性です」

 おかしい。俺の喰った魂記憶では男だった記憶がある。ドラゴンゾンビは雄だった。

「何百人かのアンデッドの部下を持ち。畑を持っております。それを『利用させて欲しい』とお願いしたいのです。無駄に育てているようでした」

「はぁ………まぁいいけど」

 俺の知っている奴じゃないのか。ネフィアが首を傾げて聞いてくる。

「お話、終わりました? 向かいます?」

「ああ、わかった。向かおう」

「トキヤさん。それはいいんですが一つ聞きたいことあるんです。トンヤさんに」

「なんでしょうか? 答えられる範囲でお応えします」

「ええっと………ユグドラシルちゃんに私は会いました」

「ええ、娘から聞いております。会いに行ったと」

「ヘルカイトからユグドラ汁をいただきました」

 サッ!!

 オークの商人が顔を逸らす。そしてネフィアは問い詰める。

「それって道徳的にどうなんですか?」

「わ、私はですね。娘から実が取れる事は驚きましたが……その。『売るために作る』と言うので………まぁええっと。申し訳ない。売れる商品なんです。目を瞑ってください。皆はユグドラシルがドリアードとは知らないのです」

 心境は複雑なのだろう。だが、彼は金を取った。

「…………まぁ。手伝うために成長したんでしょうけど」

「も、もちろん!! 私は口にしておりません!! 娘の液を飲めるほど……おかしくはないです‼」

「その娘の液を皆が『うまいうまい』と飲むんですよ?」

「娘が喜んでますので………ええ。目を瞑っています。複雑なんですよ。同じ種族ではないですからね。植物と生体は違います。価値観も違います」

「娘は生体ですよね?」

「もう、よしてください。わかってます。ですが…………うまいんですよ。あれ、もう止められないでしょうね」

「飲んだの?」

「娘が持ってきた時に………ええ。見つけて来たと言って騙されましたよ」

 娘もやり手である。黙っていたのだ。

「ああ、俺。なんか複雑だな。ネフィアの体からの液と考えるとな………」

「それ、いいですね………トキヤのだと思うとゾクゾクします。悪くないですね」

「やめろよ!? ネフィア!?」

「はぁ、姫様も娘と同じですかぁ。娘も一部の男性に教えてるそうです……」

「冗談ですよ~」

「やる気だったろ」

「もちろん」

「はぁ……トンヤありがとう。交渉行ってくる」

「はい。いい報告を期待します」

 俺は呆れながら商会を後にした。まぁ遠い場所だが。半日でつくだろう。一度家に戻り、仕度をして都市を出るのだった。





 舗装されていない土道を進む。深い森、山を登る。ネフィアはドレイクに乗り、俺は手綱を引きながら進む。予想より険しい。寒い時期だが、風の魔法によるベールで寒さは感じない。汗をかかないように調整はする。

「ワンちゃん……私を背負って登るの大丈夫?」

「ワン!!」

「喋っていいぞ? もう、誰も見てない」

「問題ないです。ご主人」

 深い、渋い声がドレイクから発せられる。

「大変になったら言ってね?」

「大丈夫です。姫様」

「そう?」

「心配しすぎです。我はエルダードラゴンです。そこいらのドレイクとは違うんですよ」

 鼻息を荒くして喋るドレイク。黙っていた理由は嫌われたくないから、らしいが。杞憂に終わる。喋れる事を知ったネフィアは抱きつきながら喜んでいたし。「流石私のワンちゃん」と胸を張っていた。

「まぁ………俺もワンはそのままで居てくれてありがたかったよ。考えてみればワンて鳴くのもおかしいし、ドレイクにしては力強いし体が大きい、怪しい事は多かったんだけどなぁ~」

「触りたくてウズウズしていたのは笑いそうになった」

「やめろ!! 忘れろ!! 仕方ないだろ!! ドレイクって馬より格好いいしな………」

「トキヤ!! 分かる!! 馬より格好いいよね!!」

 ネフィアが拳を握ってウンウンと頷く。

「いやぁ~愛されてるなぁワシ」

「畜生、知り合いだったなんて分かりっこないぞ………まぁ、もう、家族だし。今更だけどな」

「だねぇ~ワンちゃんは家族だよ。例え喋っても」

「…………」

 ドレイクが顔をそむけた。

「照れてるのか?」

「ワンちゃん~前見ないと危ないよぉ~」

「…………照れるぞ」

 新しい仲間みたいに増え、何とも楽しく道を進んだ。







 凍ったカルデラ湖の縁に平たい平原が広がっていた。ゴツゴツした火山岩も転がり、ここが火山地帯なのを思い出させてくれる。

 トキヤが複写した地図を広げながら指を差して凍った湖の浜を歩く。整備されているのか浜には草木は生えていない。それどころか…………湖の中心に向かって桟橋もあり。誰かが文明的な生活している事が伺えた。

 空も今さっきまで野生のドラゴン、怪鳥、ワイバーン等々が飛んでいたいたのに一切、魔物が姿を見せない。魔物が避けているのがわかる。

「あっ見えた」

 トキヤが平原を指差すと石で組まれた屋敷が見えた。人間か何なのかわからない生物が畑を手入れしている。冬でも生える野草なのだろう。蒼い葉を持っている。

「あれ、なに?」

「わからん」

 近付くとそれが作業服を着た亞人なのが分かる。種族はなんだろうか。肌は青いが。

「ん? そちら誰ぞ?」

「ええっと。腐竜ナスティに会いに来ました」 
    
「ナスティお嬢様にか………ええぞ。都市ヘルカイトから来たのだろう」

「ええ、ヘルカイトが忙しくて代理で来ました」

「そうかぁそうかぁ………お嬢様も残念に思うなぁ」

「すいません………」

「いやいや、忙しいでしょ。ではお屋敷に案内します」

 私らは畑を横切り、屋敷へと足を踏み入れる。香水の強い匂いが鼻についた。ドレイクは表で待たせる。

「ああ、すいません。腐ったゾンビが多く。防腐剤も多くて多くて」

「ゾンビ?」

「ええ、ゾンビです。一度死んだが、何故か色々あった者たちが集っております。他にも転々と屋敷がございます」

「こんな辺境に………」

「辺境だからこそ、狩られる心配はないのですよ。私たちは人間魔族両方から魔物と同じ扱いですから。ここまで来るのも一握りですがね」

 屋敷を進むと女性のゾンビもいて、ビックリする。私が許しを得て触れると冷たかった。やはり死体なのだとわかる。冬は特に辛いらしい。冷え性なため。

「こちらです」

 案内され、入った部屋は待ち合い室で軽く装飾され。あまり何処とも代わり映えのしない待ち合い室だった。暖炉が焚かれ、私たちはソファーに座る。

「少し寒いですが、ここでお待ちください。暖かい紅茶をご用意します。寒い場合は魔力ストーブの火力上げてくださいね」

「………ど、どうも」

 何とも、辺境とは思えぬ場所。

「トキヤ………幻とかじゃないよね?」

「どうだろ?」

「イタタタ!! トキヤ!! なんで私をつまむの!?」

「かわいいから」

「なら、許す!! 痛いから夢じゃない」

「………お前、夢魔だよな。わかるだろ」

「そ、そうだった」

 夢なら分かるのだ。種族特性で。

「つままれ損」

「つまみ得」

 二人でイチャイチャしていると外の廊下で足音が聞こえ、慌てて離れる。お上品にお上品に。

「………お嬢様、こちらに使者が」

「わかった」

 扉を開け、黒髪の中性的な人は男服。執事服を着て長い黒髪を束ねて真後ろに下ろしていた。そして真面目な顔で入ってくる。使用人は別の方であり執事服を着て、紅茶を手早く紅茶を注ぎ、すぐに部屋を出た。

 黒髪の男っぽい人はソファーにスッと座り、足を交差させる。なんとも格好いい仕草をする。

「私が腐竜ナスティだ。ヘルカイトからはるばる来ていただき……………………」

 挨拶を途中で区切り慌てて立ち上がる。そして指を差した。

「お、お前!? 鋼竜ウルツァイト!? なんでお前が!?」

「おっ!! 分かるのか」

「魂が、いや………混ざっているな? 魂喰らいか。情けない。人間ごときに負けて喰われたか。しかし、綺麗に混ざりあっているな。もう別人じゃないか」

「ええっと、まぁ。今はトキヤ・ネロリリスって言うんだ。こっちが俺の嫁」

「ネフィア・ネロリリスです」

「嫁だと!?…………うむ。あの糞坊主が。時代は変わったのだな」

「あれから何年経っていると思っているんだ?」

「さぁ、知らないな」

 ゆっくり座り直し膝に手をつきながらナスティは喋り始める。

「ヘルカイトは………その………元気か?」

 私は驚く。真面目に話す仕草等で頭に電撃が走る。これは……もしや。そして私は顔を伏せる。

「ヘルカイト………重病なんです。あと、1年ほどかも………でもだから一生懸命で一日でも早く…………『都市を発展させたい』と言ってました」

「な、なに!? あのヘルカイトが!?」

「ネ、ネフィア!?」

「トキヤ、驚いてるけど黙っていてもダメよ………嘘はだめ」

「い、いや………そうじゃなくって」

「い、1年。そんな、バカな話が……」

「ですから、交渉に出てこれません」

「…………そうだったのだな」

 綺麗なため息を吐く。麗人は頭を振って悲しみを表現した。

「黙っていろと言われているんだろ………よく話してくれた。お礼を言おう」

「嘘です」

 沈黙が部屋を満たす。なのでもう一回言う。

「嘘です」

「……………」

「本当に嘘です」

「ネフィア………えっと………その」

「……………………へ?」

 男装の麗人が私を見る。初対面で嘘を吐かれてなんと言おうか迷っている。なので私から切り口を入れた。にやっと笑い。女の勘が騒ぐ。

「良かったですね。愛おしい人が健康で」

「!?」

「ネフィア!? どういうことだ!?」

「簡単ですよ‼ この人、ヘルカイトに恋情抱いてます!! それもそうとう重いです」

 指差し、トキヤの耳元で何故わかったかを囁く。

「ネ、ネフィア本当か!? しかし、腐竜は男だった筈」

「目の前に男だったのがいるでしょ? 何かがあって女になったんだよきっと。理由はそう色々あるはず」

「しかし、天敵って言ってたし………確かに昔はヘルカイトとよく喧嘩してたのは見てたけど」

「まぁそこはご本人に聞きましょ。ね?」

 トキヤと二人で目を閉じている腐竜を眺める。ゆっくり声を出し、腐竜が覚悟の一言を言い放つ。

「ええ、ヘルカイトは気になるわ。それも………女になってまで」

「あっホモ?」

「トキヤさん。女ですよ。私と同じですよ」

「ホモと言われればそうだ。まぁ、私はどちらでも気にしない」

 なんか、凄くさわやかにカミングアウト。

「現に私はヘルカイトが好きです。それ以上に何もないわ」

「うわぁ!? マジかぁ!? ワンに後で言おう。面白い」

「えっと………腐竜ナスティさん。ヘルカイトさん来なくて残念でしたね」

「ええ、残念………どうして避けるのかしら?」

「直接聞けばいいじゃないか? 直接」

「トキヤさん。直接聞けないから呼んだんですよ。見た目のわりに度胸無いんですよ」

「ああ…………なるほど」

「ちょっと、ウル。そこの女を黙らせて。嫁でしょう?」

「いや、めっちゃ楽しいので『このまま』と言いたいが。こっちも頼まれてるんでね」

 ヘルカイトが書いた書簡を手渡す。

「…………農場ねぇ。防腐剤用の農園以外に作っているの知っているのね」

「ええ。交渉………どうですか?」

「ふん。ヘルカイトが来なさい。それからよ」

「トキヤ。もう2度とヘルカイトに会えないね」

「ああ、会えなくなるな」

「…………どういう事よ」

 二人で頷く。

「ヘルカイトに報告して金輪際、口聞いてくれなくなっても知らない」

「俺なら、『一生口を聞かないこと』を助言するな」

「あとは『ヘルカイトのことをバカにしてた』って報告する?」

「『殺したい』て言ってたし、伝えないと」

「「さぁ!! 帰ろう!!」」

 二人で立ち上がる。慌てて腐竜は立つ。

「待ちなさい!! 待ちなさい!!」

「「んん~?」」

「あなたたち!! ふざけないで!!」

「ふざけてないですよ。大真面目」

「足下見てるだけ」

「く、喰えない人ね………」

 腐竜ラスティが怒りを見せるが、諦めたのか、ため息を吐き。羽ペンを持ってきて書簡にサインをする。

「はぁ………とんだ疫病神ね」

「まぁまぁ。ありがとうな。ラスティ」

「ラスティさん。ありがとう‼ でっラスティさん」

 私は彼女にある提案をする。彼女は最初、悩んでいたが決心をつける。自分達はすぐさま都市へ帰るのだった。






 ヘルカイトの領主が住まう場所。私たちは日がくれる前に到着できた。ラスティの助けによって飛んで帰って来れたのだ。ヘルカイトの執務室へ勢い良く入る。

「ヘルカイト!! 契約取ってきたぞ!!」

「おおおお!! やったか!!」

「ああ!!」

 トキヤが書簡を投げつけ、それをヘルカイトが掴み読む。

「よし!! 良いだろう‼ 駄賃だな」

「いや、駄賃いらねぇ。それよりお前に会いたいやつがいるんだって」

「…………会いたいやつ? いや、いや!? まておい!! まっさか!?」

 ヘルカイトが窓から逃げようとするのをトキヤが手をつかんで阻止する。私は窓の前へ立った。

「離せ!! 頼む!! くっそ!! 力がある!? そんな馬鹿な!?」

「鍛えてるから。腐竜ラスティ!! 捕まえたぞ」

カツン、カツン。

 ヒールの音が廊下から部屋へ響く。扉を開け、彼女は姿を現す。

「久しぶりヘルカイト」

「お、おう!」

 ヘルカイトが大人しくなる。

「…………」

「…………」

「どうして避けるの?」

 ヘルカイトはラスティに背中を見せため息を吐く。

「お前、男だろ」

「いいえ」

「いいや!! 男だろ!!」

「何処を見て言ってるの? ないわよ」

「いいや!! 男だ!!」

「…………はぁ。あなたのために私はあれを切除して。ドラゴン死体から子宮を移植したのに。何故!! 振り向いてくれない!!」

 私はドン引きした。トキヤも感じたのか「ヒエッ」と声を出す。考えてみればドラゴンゾンビ。ツギハギのドラゴン。聞けば心臓部分以外は全部もう赤の他人の体らしいのだ。考えてみればおぞましい。

「いや、お前……前まで男だったじゃないか」

「男でフラれたのではないでしょう‼ あのときから体は変えていた!! 滅びが来るまでにお前の子を残すのが私の使命だ」

「くぅ。変わらず。気色悪い」

「気色悪い………うぅぐ。ああ、そうだよ。ドラゴンゾンビだもんな」

「いや、いや………お前立派な男」

「くぅ!! これを見ても男と言い張るか!!」

「トキヤ!! 目を閉じて!!」

「わかってる!!」

 いきなり、腐竜ラスティが脱ぎ始める。私はジロジロと観察した。細い、胸もあまりない。所々にツギハギがあるスレンダーな女性だ。凄くウエストが細い。綺麗なスタイルだ。

「ヘルカイト!! こっちを向け!!」

「向けるか!! 脱いだろお前!!」

「………脱いだよ」

 ピトッ

「お前はいつもそうだ。見てくれない………逃げる。嫌う……くっそ………わかってたんだ。何度だってそうなるって………傷付くのにな……くそ………」

 ヘルカイトの背中に触れ、泣き出す。最初は勢いに引いていたが。なんとも、女の子らしい激情だった事が伺えた。お腹一杯である。

「………ぐぅ………泣くな。俺の好敵手だろ」

「うぅぅ………う。好敵手より………違う関係がいい………」

「ああ、トキヤ。でよでよ」

「お、おう……ここまで激しいの見ると胸焼けする」

「胸焼けするねぇ~」

 私たちはけっこう呑気だった。あとは二人に任せる。

§都市ヘルカイト③   腐竜ナスティ..


 領主の部屋外で私たちは待つ。泣いたと思ったらまた言い争いが始まった。「服着ろ!! 服着ない!!」と言う低レベルな争いだ。さぁ私は「竜って裸だよね」と思う。

「今、思ったけど。人の恋路を弄るのはいけないのでは?」

「えっ!? ノリノリだったのに、今言うのトキヤ?」

「だってなぁ………喧嘩してるし」

「喧嘩するほど仲がいいんだよ」

「そうだけど。引っ掻き廻す事はいけないだろ?」

「楽しくない?  私は楽しい」

「楽しい」

 ここに畜生二人がいる。私とトキヤと言う名前だ。

「それにさ、ずっと前から。あんな感じだよ? きっと私は思うにずっと進まない気がする」

「二人の問題だしさ……」

「トキヤ。私も今までさぁ~そうなんじゃないかなって思ってたけど。実は愛のキューピットじゃ~ないかな?  と思えるの」

「ああ、そういえば愛の女神の信奉者だったな」

「そうそう。それに!! 楽しくない?」

「同じ事を言うな!! 楽しいわ!! とくに二人を知っているから、よけいにな!!」

「じゃぁ!! 決まり!! 引っ掻き廻そう」

「わかったよ、お前に毒されて来た気がする。でっ案はあるのか?」

「冒険者の鉄則は情報収集ね」

「じゃぁ。お前はラスティと俺はヘルカイトと酒飲みに行くわ」

「よし!! 明日、報告ね」

「いいぜ、じゃぁ………行くぞ!!」

ドン!!

 私たちは振り返り。領主の部屋へ勢いよく飛び込んで二人の間に割って入る。そして、私たちはそれぞれ説得し別れ。二人を別々の酒場まで案内するのだった。





 新設冒険者ギルドの酒場に俺とヘルカイトは飲みに来る。ギルドの中は何処の都市とも変わらない作りになっている。

 俺は葡萄酒を頼み。ヘルカイトは麦酒を頼む。ユグドラ汁酒もあるが、お上品すぎるので飲まない。他にも理由はあるが。  

「はぁ……くそ。あいつめ!!」

「ヘルカイト。苛立ってるな」

 怒りに身を任せ。ヘルカイトは麦酒を一気に飲み干す。

「いつも、いつも!! ふざけるな!!」

 ドンッ!!

「まぁまぁ落ち着いて。素晴らしい麗人だろ?」

 いい女になってる。それは確かだ。

「殺し合いして来た仲だ。それがいきなり『好き』て………はぁ。昔のあいつは強かったのに女々しくなりやがって。そうだ!! 元男だぞ!!」

「元男がどうした? 関係ないだろ?」

 俺がおかしいのかと思うが、まぁ気にしない。

「関係ない? 馬鹿。ホモかよ」

「いや、元男でも大丈夫だって。世の中にはそれで結婚してる奴がいるしさ」

「嘘をつくな」

「いや、嘘じゃない。俺がそうだからな?」

「そういえば、そうだったな………疑うが」

 一応、ネフィアが元男だった事は一部の人たちに周知されている。疑われているが。信じてもくれない奴もいるが。

「まぁ、だから。元男とか関係ないだろ?」

「………それはお前だけだ」

「そうかなぁ。まぁいい。俺の話を聞いてくれよ」

「なんだ? 聞こうではないか」

 巨体が腕を組んで笑った。それを聞き、葡萄酒を飲み干して語り始める。

「ネフィアって最初は本当に男だったんだよ」

「いや、知ってるが?」

「だけど。俺やあいつが言わなきゃ信じないだろ?」

「そうだ!! まだ、疑っている」

「そう、誰から見ても女だ。かわいいからな………だけど。あれは努力で成り立ってるんだ」

「…………」

「皆はそこまで知らない。表面でしかな。内面は男だよ、やっぱ。ネフィアの容姿は俺好みだが。俺は内面まで拘りが一切なかった」

 ヘルカイトが黙って酒を飲む。

「じゃぁ、何故。皆は一切疑いもせずに女と言うのか? 一番は容姿だが仕草も、話し方も全部女。全く非の打ち所がないからだ」

「それには同意する」

「でも、スゴく出来すぎじゃないか? 女として」

「…………それがどうした?」

「ネフィアは元男だ。女じゃなかった。だから、誰よりも女であることを努力する。内面や、色々な仕草は全部…………ネフィアの理想の女性像なんだよ。女はいい、努力せず女なんだからな」

 俺は一呼吸を入れて捲し立てる。

「『その差は大きい』とネフィアが寝室で言っていた。生まれた時から疑わず女で居れるが。あいつは違う。ハンデがある。だがそれをも覆し、今だに努力を怠っていない。何故、そこまで努力が出来るんだと聞いたさ」

「何を言った?」

「『愛する人のために理想の女性を演じ続けますだ』てさ。まぁもう、演じると言うより素が出まくってるけどな!! はははは」

 ヘルカイトが神妙な顔をする。

「まぁ、俺が言いたいのは。生半可な覚悟じゃぁ女にはならない。男に戻った方がましだ。それをしないのは、たった一つ。本気だからだよ」

「…………ぐぅぅ」

 ヘルカイトの顔が歪む。悩んでいる顔だ。そりゃそうだ。落ち着いて考えさせればその行為がどれ程、大変かをわかる筈だ。理解してあげれる筈だ。

「だから、愛してやらなくちゃ~ネフィアの努力が報われない。あんなに可愛い女を泣かせる訳にはいかないだろ?」

 ちょっと偉そうに気取るが。残念な事に何度も泣かせているし、女にしたのは俺の目的のためだったし、目的のために神薬を盛った。けっこう酷い事をしていた。しかし、人生わからないことで。夢を妥協し、ネフィアを嫁にした。何年も追い求めた答えは…………手に入らなかったが、これでいいのだろう。

 まぁ今はヘルカイトに「女になる」て大変だと教え。情に訴えかけていく予定だ。

「……………あいつもそこまでか?」

「それはわからない。でも、並大抵で誰かのために女にはなろうと思わないな」

「うむぅ………」

「理由ぐらい聞けばいいじゃないか………ただ何も聞かずにダメって言うんじゃ諦めてくれないぞ。俺からは以上!! 我慢して話を聞け。天下の覇竜ヘルカイトだろ? 器の大きさを見せてみろ!!」

「…………鋼竜の糞坊主の癖に生意気な」

「鋼竜じゃない。今はトキヤだ」

「まぁ次回があれば、我慢しよう」

 俺は振り向いてガッツポーズを取る。なんとか、話を出来るとこまで持っていけた。上出来だ。

「…………トキヤ。ドラゴンの滅びまで何をする?」

 ドラゴンの滅び。懐かしい響きを聞いた。そう、エルダードラゴン以外に本当のドラゴンはもういない。他は全部ワイバーンの大型種だ。本当のドラゴンじゃないが便宜的にドラゴンと言っている。隆盛を保っていた本当の恐ろしい化け物ドラゴン、生物兵器の時代に飲まれ消えた。

 いきなりの真面目な話で驚きながらも自分自身の考えを答えた。

「俺はもう、滅んだ。滅ぶその日まで暴れて、遊んで………結果。俺に滅ぼされた」

「そうか……」

「お前の滅びへの問いは?」

「滅ぶまで、覇竜ヘルカイトとして火山で力を示す。筈だった」

 ヘルカイトが遠い目をし、深いため息を吐いた。滅びは必ずくる。諦めだ。だが、それまで何をするかをエルダードラゴンたちは決めたのだ。ある一部は「許せん」で暴れたが。

「今では都市と共に滅ぶその日までだ。先に朽ちるか、都市が朽ちるか。どっちかだ」

「いいんじゃないか? 土竜ワングランドは滅びるまでドレイクで怠惰で生きるだった」

「火竜ボルケーノは隠居し、その滅びの日が来るまで静かに過ごすだったな」

「水竜リヴァイアは滅ぶまで大海原を駆け巡り。海底で滅びを待つ。なお、たぶん死んでる」

「腐竜ラスティは………知ってるか? ワシは知らん」

「俺も知らない。だが、まぁ聞けよそれも」

「…………」

 ヘルカイトが頭をかき、アクビをした。

「考えるとダメだ。眠くなる」

「じゃぁ、何も考えず。飲もうぜ」

「ガハハ、そうだな」

 俺らは酒を浴びるように飲んだ。






 私はトンヤと言うオークの商人が経営者として商談用に用意した酒場に入った。内装は個室になっており、防音もしっかりしている。

「あら、個室?」

「そうですよ~商談以外でも二人っきりで飲める場所で人気があるんです。他の店にも個室があるんですが………ここは会員制で一般では入れない所なんです。会員だからこそ一般客は少なく。盗み聞きもされにくいです。わざわざ私は用意しましたよ」

「徹底されているな………」

「はい!! 私の友人の店ですから!!」

「…………」

 ラスティがシュンっとなった状態で顔を伏せて座る。道中も顔は暗かった。

「間に入ってくれてありがとう。あのまま、何も進まずに夜が明けていただろう………」

「まぁ今も『深夜で明けるまで飲み明かそうかな』て思ってます。あっユグドラ汁酒なんてあるんだ……」

 メニューを見て驚く。あのオークの子は金のなる木だったらしい。私は葡萄酒を頼み。店員がワイングラスと共に瓶を用意してくれる。

 葡萄酒をグラスに注ぐ。実はめっちゃここ葡萄酒は高い。高級品だ。それを用意するのはそれ相応の客人であるからだ。食糧問題解決策は二人の仲を良くする事だ。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう………」

「元気出してください」

「そうだな。何度も何度も痛めても復活できるのがゾンビだな………結局、今日もだ」

「………」

 めっちゃくちゃ暗い。どうしよ。

「えっと。暗い顔じゃ!! 殿方は靡きませんよ!! 楽しい事を考えましょ‼」

「元気ね。はぁ、本当に羨ましいわ。同じ元男として」

「ああ、うぅ~ええっと。まぁその、苦労しましたよ。いえ、今もですね」

 私は笑みをやめ。真面目に話を始める。相手が話が出来ないなら聞いてもらうだけ、弱味を見せるべきだ。

「私は苦労しました。聞いてくれませんか?」

「ええ、話す気力がないからお願いするわ」

「じゃぁ。そうですね。実は私の愛しい夫様はまだ初恋を忘れていません。まだ、心のどこかで求めてます」

「初恋を? あいつ女々しいわね」

「えっと。女々しくはないですよ。だって初恋の女を探すために力を手に入れたんです。スゴく一途です。ですから、絶望はしました。好きじゃないんだって。だけど諦めませんでした」

「………それで? 夫婦に」

「はい、最後は私が勝ちました。初恋の人を越えた気はしませんが私は彼女より『いい女になってやる』て思ってますし努力します」

 ラスティが羨望の眼差しで見つめてくる。

「這い上がれるなんて強いのね………私より」

「弱いですよ。でも、胸にある想いは誰より熱を持ち、誰よりも彼を愛してる自信を持ってます。だから、這い上がれるんです。自信があるから」

「自信………」

「はい。ヘルカイト領主の事。愛してないのですか?」

「愛してる」

 私は糸口が見えてきた。ラスティの目に輝きが宿る。

「ふふ。私はトキヤに護ってもらい生きてきました。そのときの逞しい背中がカッコ良くて、いつもいつも危険な時に駆け付けてくれたんです。色んな楽しい事を教えてくれて。この首飾りが気になっているのを見て買ってくれたり。死にかけになっても私の事を気にかけたりと好きな想い出が沢山あります」

 私は胸の首飾りを握りしめる。あの日々は私と言う女を作った想い出。宝物だ。

「私はきっと、どんな切っ掛けでも。絶対好きになったでしょう。好きが多すぎて多すぎて辛いです。だから、私は女になりました。大好きだから」

 言い切る。とにかく私の胸のうちを放つ。そして、促す。

「ラスティさんはどうして? 女に? それに、彼との出会いも知りません」

「私か、私は………そうだな」

 ラスティが天井を見上げた。私は心の中で叫ぶ。良くやったと。火を灯し治せたと。

「ドラゴンゾンビになる前はただのドラゴンだった。しかし、そう。ヘルカイトに殺されたなぁ」

「えっ!?」

「恨んださ。いたぶられて殺されたから」

 初っぱなから好きになる動機がわからなくなる。背筋が冷えた。狂気なのかと。

「ヘルカイトに殺され、死んでも意識が残っていたの。だから恨んで恨んで。そしたら、気付けば立ち上がり。ヘルカイトに噛みついた。噛みついたけど全く歯がたたなかった。そして何千回殺されたかしらね」

「えっと…………えっと……………」

「ごめんなさい。もうちょっと聞いてて」

 私は手を膝の上に置き。黙って聞くことにする。

「何回かで彼が逃げた。そっからよ、ヘルカイトにずっと挑み続けるの。死にながら再生しながらね。毒も吐き、相手の体力を削ぐ戦いをずっと。好敵手………気付けば仲間のドラゴンから、ヘルカイトを止めるためにお願いされたわ。絶対勝てないけど絶対負けない。時間稼ぎやヘルカイトが疲れて帰るまで私は彼と戦えた」

 懐かしそうに楽しそうに話すラスティ。本当に好きなんだっと伺い知れた。

「ある日、彼と戦わず。会話をしたことがある」

「そのときは男?」

「ええ、男として。ヘルカイトは上から目線で何度も挑む姿勢を誉めてたわ。『もう、やめろ』て言われたわね。交流はそれからかしら。その日から戦う前に言い争って、戦って。疲れたら二人で喋って帰る。そんなのが何年も続いたわ。まぁ最後は戦うのも億劫だったわね。ただ会話してたわ」

 相当、昔の話な気がする。百年単位の。

「そんなある日。『滅び』が金竜によって示された」

「滅び?」

「ドラゴン種が絶滅する。環境の変化によって純粋なドラゴンが居なくなると」

「えっ? でも?」

「今のドラゴンは昔ではワイバーンよ。そう、ワイバーンに生存競争で負けたの。多くのドラゴンが死に絶えた」

「ん? でも、ラスティさん。ドラゴン………」

「エルダードラゴンに子孫は居ないわ。私たちの代で終わり」

「じゃぁ、子を作れば……」

「それは追々話すわね。ドラゴンの絶滅はドラゴン同士の殺し合いが多くなり気付けば雌が減って数を減らしたあと。雌の取り合いで巻き込まれてまた雌が死に。そして今度はワイバーンが増えて、数で負けてたり。ワイバーンとドラゴンの流行り病で絶滅した。数が少ないドラゴンは病の適応力がある個体はおらず。ワイバーンは多様性によって数が減ったけど生き残ったの。生存競争の結果、ドラゴンみたいなワイバーンも生まれたわ」

「何故、エルダードラゴンは残ったんです?」

「知恵があった。病で生き残った。でも、残ったのが協調性もなく、個体が強く、子孫を残す気がしない奴ばっかりで自由に世界に分布したの。あとは生存競争を諦めた」

 なんとも、驚きなお話だ。生物の本能は何処へ。

「皆は諦め。自分が滅びるまで皆が勝手に動いたわ。ヘルカイトは覇竜のまま、火山の主として『滅びるまで胸を張って生きる』と言ったのよ」

「ラスティさんは? 滅びるまで何をする予定だったんです?」

「………滅びが来ないのドラゴンゾンビだから」

「!?」

 その、悲しい声に私は耳を傾けた。

「皆が自由に生きる中。いつか最後の『一人になる』て思ったら。寂しくなってね。ヘルカイトに相談に行ったの」

「それで…………」

「『喜べ、お前が勝者だ好敵手。俺はいつか滅びる。お前の勝利だ』って………ヘルカイトが初めて負けを認めたのよ。余計に悲しくなって寂しくなったわ」

 ラスティが少し涙ぐむ。思い出したのだろう。心が揺り動かされた思い出を。

「そのときになって初めて。ヘルカイトの大事さに気づいた。好敵手であり、親友である彼は私の大切な人だった。『ずっと一緒にいたい。ずっと一緒に喧嘩したい。ずっと一緒に…………ずっと一緒に』って考えが強くなったの。そして私は答えを出した。滅びに対して」

「その答えをおしえてくださいませんか?」

「『ヘルカイトが滅びる前に彼のこの世界に居た証拠を残したい』と。『彼はいつかいなくなっても、形見があれば、我慢できる』って」

「残したい形見?」

「そう。記憶は私だけが持っている。だから、子孫を用意したい」

「えっと、自分が女になって?」

「いいえ、最初はね。色んな雌の生き残りに頼んだけどヘルカイトと逢瀬が『嫌だ』て言うのばっかでね。『じゃぁ自分が女になればいいや』て安直だったわ。まぁ他の雌も自己顕示欲の塊で『気に入らないから』てのもあったし。こんな奴らの子供とか、ヘルカイトに紹介したくなかった。だから殺して体を頂いた。体に馴染まないとすぐ子宮は腐った。でもワイバーンの雌なら多かったし、捕食ついでに色々試したわ」

 ちょっとグロい説明を語る。口を押さえる。それは……やばい。

「そして、試していくと、やっと馴染んだものと言うよりこの体が出来ていたわね。誰の体だったかはもうわからないわ」

「その体でヘルカイトに会いに?」

「ええ、驚いてたわ。そして、『逢瀬しよう』と言ったら逃げられた。追いかけても、追いかけても」

 そりゃ………逃げる。親友が次あったら女で襲ってくるんだ。怖い。もうちょっと考えようよ。

「途中、女になったことを後悔したわ。ヘルカイトが避け寂しい思いしたし。思った以上に生理も辛い。喧嘩しかしなくなった。『昔の私がよかった』とか、言われて泣いたし。でも、落ち着いて考えたとき。時間はあるし、『子を育てる環境を作ろう』と考え準備して、ヘルカイトから放れていったわ。その間に子宮はしっかり癒着して、女を感じれたし。『魅力がないから』と男っぽい麗人として振る舞いから全部変えていったわ」

「……………だけど。肝心な彼は振り向かない」

「ええ、振り向かない。だけど、親友として数回会いに来てくれた。もちろん男っぽく振る舞いをし、全ての準備をして万全ってなったときに。また、フラれた。女に見れないってね」

 長く長く戦ってきた話を聞くと「報われてほしい」と思うようになる。

「………デリカシーないでしょ」

「ないねぇ~最低の男」

「むぅ……そこまで言う? 彼は素晴らしいわ」

「ごめんなさい」

 怒られた。おい、ノロケルナ。

「で、でも!!…………そんなに想うならその想いを打ち明けて、彼にもう一回アタックしてみよう!!」

 多分、情に訴えかけられる。今なら、性格が丸くなったっと言われている。今なら。

「……………無理よ」

「どうして?」

「それ、打ち明けて。それでもフラれたら………私、もうどうしようも出来ない………怖い」

 ポロポロとラスティが涙を流す。私は深いため息を吐く。

「はいはい、あなたの想いはその程度ね」

「な、なによ!! その程度!? ふざけるな!! 噛み殺すぞ!!」

「何故、その勢いでぶつからないの? 100回フラれたら101回告白する。私はそうする。諦めない諦めきれないなら!! 1000でも100000でも告白し続けて心がへし折る!! ゾンビなら!! 相手が負けるまで戦えるでしょ」

 ラスティがハッとする。

「多分言ったでしょ? ヘルカイトさん、ラスティさんの粘り強さに敬意を持ってたから『好敵手』て言ったのでしょう? 親友になれるのってね。尊敬出来る仲じゃないと無理。ラスティさん!! 頑張って!!」

「ネフィアさん………ああ、目が覚めたわ。ごめん、今日は帰る」

「告白します?」

「する」

「じゃぁ、伝えておきます。ユグドラシルの木の下で明後日に」

「ありがとう。えっと何故、明後日?」

「ヘルカイトさん。二日酔い予想です」

 私はやり遂げた顔で彼女の背中を押した。なにもしてないが正直。「他人の恋路はスッゴい楽しい」と感じた。


§都市ヘルカイト④腐竜の告白.. 



 腐竜が告白すると決めた明後日の朝。家が決まった事を報告にアラクネのリディアと人間のランスロットが我が家に挨拶に来た。ユグドラ汁を持参して。

「ネフィアお姉さま。挨拶に来ました」

「新居のご挨拶です。近くにいい物件が余っていましたので、ご報告を」

「ふふ、二人ともこんにちは。さぁ上がって……ちょっと玄関狭いけど。リディアは頑張って」

「はい、あと!! これ美味しいですよね!! ユグドラ汁」

「え、ええ」

「ん? お姉さまの口には合いませんでしたか?」

「い、いいえ。違うの。道徳の問題なの」

「?」

 リディアが首を傾げながら部屋に入ってくる。広めの家だったので、なんとか入るのだが、台所はさすがに狭いので入れない。人型専用なのだ。

「トキヤは何処ですか? ネフィアさん」

「ランスさん、トキヤは寝てます。朝帰りなの」

「朝帰りですか」

「うん。もうそろそろ起きてくる頃かと思う」

「ふぁあ~おお寒む。暖炉暖炉っと」

 階段から降りてくる音が聞こる。トキヤが一人言を言いながらリビングへ顔を出す。

「おお? 来てたのかランス」

「ええ、新居のご挨拶です。朝帰りとは感心しませんね」

「まぁ、感心しないが素晴らしい事があったよ。二日連続だとは思わなかったが」

「トキヤ。酔い止めです」

 トキヤに飲み薬を手渡し、彼はそれを腰を当てて一気に飲む。

「ぷはぁ~胃にくる~」

「ねぇ、トキヤ。起きたことだし皆に昨日の話をしない?」

「おっ巻き込むの?」

「楽しいイベントですもの」

「悪い顔だなぁ~」

「トキヤこそ、ふふふ」

 ランスロットとリディアが私たちの悪い顔を見比べる。畜生同士でハイタッチを行った。

「何があったんだい?」

「私も知りたいです。お姉さま、お兄さま」

「じゃぁ、話をしよう」

 私とトキヤは昨日の知り得た情報を伝え合う。ランス夫婦は黙って聞き。話の終わりを見計らってランスロットが口を開いた。

「それは………いけない事と思うのですが?」

「そうか?」

「そうでしょうか?」

「トキヤ。君がしっかりしてネフィアさんに注意をしないといけませんよ?」

「俺を真面目君か何か勘違いしてないか? ランス」

「真面目でしょう。トキヤはしっかり者です」

「俺の評価高いなぁ………でも、お前。よく考えてみろ。果たして俺はそんなに善人か?」

「…………すいません。極悪人でした」

「そこまで言うか?」

「金のために暗殺はする。敵には容赦をかけず。命乞いを無視します。騎士道を持っているようで。持っていない。簡単に人を殺める。擁護しようがないですよ」

「トキヤ………でも大丈夫。私がいるからね? 安心して」

「なんで惨めな気分に………いや。まぁうん。今さら善人ぶってもなぁ………うん」

「ただ、極悪人なのは君を嫌う人だ。お助けだっていっぱいしているしね。僕も恩は感じてるよ」

「やめろよ!? それもそれで痒い」

 トキヤが背中を掻く。

「まぁ、そんなことよりも。どうする? 覗くか? 覗かないか?」

 明日の告白を覗くかと問う。ヘルカイトには後で「明日、昼過ぎにユグドラシルの木の下で」と伝えようと思っている。ランスが真面目な顔で首を横に振った。

「いけませんよ。覗いては………リディアも………」

「わ、私は!! 見たいです!!」

「り、リディア!?」

 ランスが慌てて、リディアの方へ向く。あまりの予想外な答えだったのだろう。椅子から少し尻が浮いていた。大人しく成り行きを見ていた蜘蛛姫が顔を逸らす。

「だって、私は魔物です。だから………その………悪いことだってわかります!!………だけど、恋愛………見たいんです………魔物だから、学びたいんです。他の方の…………その………ごめんなさい」

「リディア………」

 ランスが、椅子に座って目を閉じた。

「わかった。目を瞑りましょう。僕も見ますよ、リディア。僕も悪い人ですから気にしなくていいです」

「あ、ありがとう‼ ランス!!」

 イケメンの元皇子様。嫁にめちゃくちゃ甘い。激甘である。

「おふぅ。やべぇ、甘い」

「ぐふぅ……」

 トキヤと私はあまりの恥ずかしさに悶え。口を押さえる。ちょっとこっちが恥ずかしいですよ。

「君たち、そんな恥ずかしい事ではないでしょう」

「ランスさん。耳………真っ赤です。ふふ」

「リディア………言わなくていいです」

「トキヤ、何でこんなに甘いんだろうね?」

「そりゃ~ラブラブですからねぇ~」

「あらぁ~」

「茶化さないで欲しいな」

「ランスロット、大好きです」

「リディア………人前で言わない」

「人前で言わないのですか? ランスロットお兄様」

 違う場所からかわいい声が聞こえる。ランスの背後で。その少女はユグドラシルだ。

「時と場所を選びます」

「ランス………その。女の子誰ですか?」

「!?」

 ランスロットが、慌てて振り向く。私たちの目にも映る女性。名前はユグドラシル。緑の髪を持ち、都市を眺め続ける大樹。彼らには初めてかもしれない。

「ええっと、ええっと」

 私は紹介しようか悩んだ。何故なら飲み物が彼女のあれだからだ。

「お初にお目かかります。ユグドラシル商会、トンヤ・オークズの娘。ユグドラシル・オークズです。広間の中心。ユグドラシルの大樹は私の本体です。オークと言うよりドリアードですね」

「私はリディアです。リディア・アラクネ・アフトクラトルです。蜘蛛の魔物ですが安心してください。トキヤお兄様より安全です。彼は私の主人のランスロット・アフトクラトルです」

「始めまして。ランスロットです」

「ちょ!? お前!! 自分の嫁になに吹き込んだ!?」

「トキヤ。静かにしてください。いいでしょ、自己紹介」

「仲がいいんですね!! ランスさんとリディアさん」

「はい。ランスはいっつも昔の事は全部。トキヤお兄様との思い出ばかりです」

「私はちょっと仲が良すぎると思うの。トキヤ~」

「いやいや、腐れ縁だからさ。何度も何度もランスに嫉妬しない」

「ふふ。やっぱり来て良かったです‼ 裏口から勝手に」

 今さっき、裏口から勝手に入ってきたようだ。鍵はどうやって開けたか知らないが。根っ子で色々とできるのだろう。今度、炎の罠でも仕掛けよう。

「どうして来たの?」

「面白そうな話だったので。飛んできました!! 私の木の下で告白ですよね‼」 

「ええ、ユグドラシルちゃんも来る?」

「もちろん!! 特等席で見ます!! 目の前で‼」

 なんとも、えげつない子だと思う。

「ロマンチックです‼ 私の木の下で~愛を囁くのです。さぁ段取りしましょ」

 私たちは作戦会議を行い。ユグドラシルがヘルカイトに伝えたのだった。作戦会議の過程で、ランス夫婦はユグドラ汁の生産者を知り。魔物だったリディアは気にせず。ランスロットだけ、凄く複雑な表情をして頭を抱えていた。




 

 作戦会議後の昼。早飯をいただき。ユグドラシルの木の下が見える路地に陣取る。ユグドラシルの広間は実は立ち入り禁止区域となっており。身分がわかる者しか入れないのだ。火を点ける蛮行を阻止するために父親が敷いた。

 もうひとつの理由はユグドラ汁栽培を盗む輩が出てきたためらしい。

 それほど重要な場所なのだ。この隔離された地域は。空き家が目立つのもそれが理由。住んでいるのは木が生える前の入居者のみ。

「ユグドラシルの木の下が一番、聞かれない場所なんだな」

「ユグドラシルちゃんが聞くけどね」

 私たちは顔を出し、ヘルカイトを待つ。腐竜ラスティは先につき、木の下で寒さの中待つのだ。今日は雪は降らない。

「リディア、寒くないかい?」

「えっと、寒くないです。元魔物ですから」

「リディアちゃん。『寒い』て言えば………人肌で暖めてくれたのに」

「あっう…………ううぅ」

 リディアがしょんぼりする。まだ、甘え方が初心者だ。

「リディア。近くに」

「は、はい」

「僕が寒い」

「はい!!」

 うん。皇子は上級者だ。甘い。

「さすが、帝国の女たらし」

「全く……嘘を言わないでくれ」

「トキヤ………トキヤ。寒い」

「はいはい。お前もなんだな」

 路地裏で私たちはくっつきながら暖め合う。

「にしても、早いなラスティ」

「早くついてしまう物だよこういうの。ドキドキするね」

「実は僕も何故かドキドキするんだ」

「ランスも? 私も~」

「声についてはネフィアが拾うか?」

「うん。私の魔法で拾うね。トキヤより音質いいよ」

「だな…………おっ!! お出ましだぞ」

 空から羽ばたく轟音が響き。大きな牙を持つドラゴンがユグドラシルの木の下へ降りる。そのまま体を丸めると小さくなっていき最後は人の姿に変わった。服ってどうやって着ているのだろうか。

 ラスティが深呼吸する音も聞こえ、私以外3人がビクッと震える。呼吸音も言葉のひとつだ。特に、こんな場面でも。

「だから、音質いいって言ったでしょ?」

 私は私の音質に震える3人に笑みを向けた。





 今、私の前にヘルカイトが来てくれた。深呼吸したあと。素直を意識し口を開く。

「来てくれてありがとう」

「ああ、依頼だからな。断るのも悪い。早いな、お前」

「ちょうど来た所よ。気にしなくていいわ」

「そ、そうか」

 今日のヘルカイトは変だ。暴れる気配がない。

「話があるんだろ?」

「………ええ」

「すまねぇ。後ろ向いて聞くだけに徹するから好きに話すがいい」

 彼が後ろを向いて背中を向けた。大きな逞しい背中に少しだけドキドキする。背中を向ける行為は不誠意に見えるが、今の私には丁度いい。

 正面を向かれると素直になれない。喧嘩する絶対。それに、うまく話が出来ない。

 だから…………私は始めて。落ち着いて。今までの事を口に出来る気がした。

「返答もしないからな!! 勝手に語ってろ!!」

「ええ、そうさせてもらうわ」

 深呼吸を1回。目を閉じて、想い出を語る。

「もう、すごい過去。私たちは戦ってきたね。最初は覚えてる? 私は覚えてる。殺されたことを」

 紡ぐなら「最初からがいい」とネフィアに教えてもらった。

「いたぶられて殺され。そして、私は恨みでドラゴンゾンビへと生まれ変わった。そこから、ヘルカイトに何度も何度も挑んだ。いつか恨みをはらすために。だけど、長い間戦い。ヘルカイトも嫌になったのを知って恨みは晴れてしまった。そのときからヘルカイトは私の好敵手だった。まぁ他が張り合いが無かったわね」

 目を開け彼の背中を見る。背中は語らない。続ける。

「長い時間。好敵手になった私たちはいつからかよく話すようになった。口喧嘩ばっかりだったけど。毎日会っていたし、他の『風のエルダードラゴン』と戦う時。共闘したよね。私が、『お前を倒すのは俺だ』て言ってさ~まぁ余計なお世話だったでしょう。まーた共闘後喧嘩したし、それからもいっぱい喧嘩した」

 ヘルカイトは身じろぎもしない。

「喧嘩ばっかりでも。私は楽しかったな…………好敵手の前にそう、親友とも言えた。まぁ他があなたの事を暴れん坊で嫌ってて。抑えるために私に頼んでばっかりだったけど。悪い気はしなかったよ。私には暴れん坊でも大丈夫だった。話に乗ってバカして………も楽しかったし」

 ドラゴンゾンビである私は何故か、ヘルカイトの前だと胸が暖かい。心臓替わりのオーブに熱が籠る。

「まぁ、その。ヘルカイトには悪いとこも良いとこも全部知ってたね…………うん」

 そう、全て知っている。だから。

「ヘルカイトは私の滅びを覚えてる?」

「いいや、知らない。それはいまさら気になった……教えろ」

「えっ!?」

 いきなりの返答で戸惑う。

「………ああ、すまん。続けてくれ」

「え、ええ………私の滅びは」

 「知ってる」と思っていた。一度伝えた。だが、忘れてしまったのだろう。もう一度言う。今度は、女の私で。

「滅びはない。ドラゴンゾンビだから。それを伝えに………いいえ。相談に行ったとき。そのときあなたは『喜べ、お前が勝者だ好敵手。俺はいつか滅びる。お前の勝利だ』って、そんなことを言ったの覚えてる?」

「すまん。一切記憶がない。まぁそうだろ。お前の勝ちだ」

「………これ聞いて。私が何を思ったかわかる?」

「……………勝ったんだ。喜んだろ?」

 私はすぐに返答しない。彼の背中を凝視する。彼は私がそう思っていたと思ったのだろう。始めて知った。だから………私の想いも知ってほしい。

「凄く、寂しい気持ちになったよ」

「な!?………何故だ!?」

「………だって。ずっと好敵手、親友だと思ってた人が先に私から消えるんだよ? ずっとずっと、誰よりも一緒だったのに。滅んでしまう。そのときになって始めて私は。ヘルカイトの大切さを知りました」

「…………」

 返答はない。表情も読めない。

「ヘルカイトと一緒にいて楽しい。だけど、いつかあなたは……私を置いて滅んでいく。想い出の人になってしまう。悩んだ、怖くなった。寂しくなった。一人になる訳じゃない。だけど、一番の人が居なくなるのはひとりぼっちになる事だと思ったよ」

 私は強くこれまでの想いを背中にぶつける。

「悩んだ。そして決めたの。滅びの日は私は滅びはしない。しかし、ヘルカイトは滅んでしまう。なら…………滅んでいった後のあなたの生きた証。想い出を思い出せる形見を用意することを決めた。寂しさを埋めたいために。自分勝手に。最初は生き残りのメスに交渉した。でも、皆がヘルカイトとは『嫌だ』と言う。嫌われ者だったから。だから私は決めたの、私が女になって。『形見を残そう』と。生き残りのメスに親友を奪われても嫌だったから。ドラゴンゾンビの力で子宮を漁ったわ。色々ね。腐って落ち。汚れても捨て。そしてやっと………馴染んだの。だけど、ヘルカイト。あなたに拒絶されたわ。気味が悪いって。私も、焦っていたんだと思うの。本当に気味が悪いよね。男だったのが次あったら女で、求めてきたら。だけど私は必死だったよ。逃げても追いかけて、追いかけて。嫌われても、嫌われたときは本当に辛かった。そのときからかな………本当にヘルカイトのことが『好きなんだ』て思ったの。距離もとりたくないほど。何度も何度も喧嘩して挑んだ。けど………あなたは振り返ってくれなかった!!!!」

 感情が溢れてくる。止めどなく。私は、自分が押さえられくなり。彼の背中に飛び付く。彼の大きい背中には手を回さず。彼の服を掴み。顔を押し付ける。涙を押し付ける。

「嫌われても!! バカにされても!! なんで、こんな何も『気付いてくれない』と思ってた!! バカだよね!! 何も言ってないのに勝手に恋心抱いてさ!! でも、直接会うたび。心がね、弱っていったんだよ。あなたはそれも知らずに。嫌う。そして、とうとう耐え切れなくなって………あなたから逃げ出した。直接、向き合うのが辛くって………だから。楽な方へ楽な方へ逃げてった。子供が出来て育てれる環境を作ろう。そしたら告白しよう。やっぱやめた………今度はいっぱい学ぼう。そうだ………農園したり本読んだり。遊んだりして気を散らそう。拒絶が辛くて…………今まで逃げてきたの。何年も何年もね。そう………一昨日まで。きっとあなたが滅んで後悔するんだろうね。私」

 私は涙を拭って離れる。

「ヘルカイト、あなたの勇ましい所が好き。あまり頭がよくないのも好き。いいえ、ヘルカイトが好きよ」

 告白の言葉を口にする。

「ありがとう………聞いてくれて。昔からずっと誰よりも大好きよ」

 彼は何も反応しない。その事にまた傷付く。だけど私は笑う。想いを打ち明けれたんだ。今日はこれで十分っと思うことにしたから。

 バチ!!

 彼の背中を軽く叩いた。昔のように男口調で話す。

「ありがとう。お礼に農園の作物自由にしていいからって言ってくる。頑張れよ‼ ヘルカイト領主様!! 応援してるぞ‼…………じゃぁな」

 無理しての空元気な会話の後。私は彼に背中を向けて歩き出す。何も聞かずに。

 これで………良かったのだろうか。

 まだ彼の返答を聞いていない。

 怖くてまた逃げ出した。

「………つぅ!!」

 返答………返答がほしい。ただの好きって言う言葉じゃない。本心全てを伝えた。

 彼の本心を聞かずに逃げるなんて。このまま振り返らずにいたら、逃げたら後悔する。絶対、聞けばよかったと後悔する。私は悩んだ結果。返答を聞くために、その場を振り返った。














 頭が白くなるって…………こういう事なんだね。 



  







 私たちは遠くで悶絶する。

 私はあまりの甘さに胸焼けがしそうになり。

 トキヤは地面に手をつき。

 アラクネはどっかへ走り去り。

 ランスロットは壁に手をついて頭を押し付ける。

 私たちは見た。言葉はない。何もない。

 何もない。

 ただ、ヘルカイトが彼女を追いかけた。

 彼女が振り返った所だった。

 振り返った彼女を強く強く何も言わず抱き締めた。たった、それだけだった。それだけだったが私たちには猛毒だった。

§都市ヘルカイト⑤ 呪いの槍消却..



 私たちは告白を覗き見し、楽しんだ後にヘルカイトとラスティの二人のその後の会話を盗み聞く事なく別れた。何故ならアラクネのお姫様には非常に目に優しくなかったのか、何処かへ行ってしまい。夫であるランスロットがあわてて探しに行ったからだ。

 リディアのだいたいの場所は風が伝えてくれたのでそれをランスロットに教え、感謝と共に走り去ってしまう。すごく心配なのだろうとその全力疾走で見てとれた。

 私たちも頭が熱い中で家に帰り、すぐさま魔力炉の暖炉に火をつけた。水瓶が空だったので節約のためお水をトキヤに頼んで魔法で作って貰い。水を沸かして紅茶を淹れてからソファーに座る。前のテーブルに置かれた2つお揃いのティーカップから漂う香りが部屋に充ち。少しだけ距離を空けて私たちは座った。

「す、すごかったね」

「ああ、ただ抱き付くだけであんなに悶えるとは………」

「出会って数世紀経ってるからだと思う。私より長いから、歴史みたいに重なってるから。そう…………受け止めたって事が大きいかな。言葉はいらないね」

「…………ちょっと。頭がまだ熱い。二人で何するんだろう?」

「お店でお酒を含みながら会話?」

「ふ~ん………ネフィアならそうするんだろう?」

「うん、トキヤなら?」

「誠意を見せて襲う」

「ふふ、男らしい」

「まぁ勢いに任せるだけだけどな。ズズっ!? 熱い!?」

「あら、大丈夫?」

「油断した………」

 紅茶を啜った後、静かな時間が過ぎる。何も喋らない時間。だけど暖かい時間。

スッ

 私は静かにソファーに置いている彼の手の下に自分の手を潜り込ませる。しっかり握ってくれる。そしてゆっくり、彼の近くに移動し、布越しで肌に触れさせ、顔を彼の肩に乗せる。手はどけて彼の膝の上に置いた。

「ネフィア」

「はい」

 名前を呼ばれ顔を横に目を閉じる。何も言わず深く愛し合う。舌を絡めながら。

 何度も味わった。でも、まだ足りない。どんなに深く長くしても。私は何度も求める。それがキスって言う物だ。

「好き、トキヤ」

「…………」

「ん?」

グイッ!!

 手を引っ張られ。体がトキヤの方へ倒れる。手を離し強く抱き締められてた。逃げれないほど強く。

「んぐぅ!?………ん………ん」

 強引に口を塞がれ逃げれない。逃げるつもりはないが。強い求められ方に心が溶ける。太い男の腕に包まれる体は非常に心地がいい。

「ふぁぁ………今日は、激しいね。きゃぁ!!」

 トキヤが体を寄せて。手も押さえつけながらソファに私を押し倒す。あまりの力強さに無抵抗で押し倒され。女を感じる。

「トキヤ?」

 彼は何も言わず見つめるだけ。押し倒した手はすでに私の胸を鷲掴みにしていたため体が強張る。あまりの恥ずかしさと唐突な押し込みに顔をそらして目を閉じた。

 目を閉じると胸に逞しい手を感じ、体がゆっくり揉んで、「気持ち良くしてほしい」と願う。私の胸は大きめ。だけどトキヤの手に少しだけ溢れるぐらいでしっかりと掴める大きさだ。そう、トキヤの好きな大きさで感触なのだ。

「…………襲う?」

「襲う」

「…………………じゃぁ、優しくお願いします」

 チリンチリン!!!! ドンドン!!!!

「すいませーん!! お届け物です」

「「………」」

 トキヤが失笑しながら立ち上がり、玄関へ向かう。私は体を起こしてふかーいため息を吐いた。玄関の会話を聞くと冒険者らしい。手紙を依頼されたとの事。彼は玄関から何通かの手紙を持って私の前のテーブルに置く。

「魔王からとエルフ族長からだって」

「そ、そう」

 あの、糞魔王め。今度会ったら斬ってやる。

「魔王から読もう重要だと思う」

 トキヤが手紙を千切って中身を見る。

「うわぁ!?」

「ど、どうしたの!?」

「呪詛ばっか」

「ええ~どれどれ…………あっ頭痛い」

 呪いの言葉。不幸になれとか、そんなもの。呪いについては優しく頭が少しだけ痛い。

「ええぇ………魔王なのにこんなの送るの」

 聖なる魔法で呪いを解く。いったい何がしたかったのだろうか。ただの恨みだろうか。

「エルフ族長のを見るか」

「ええ………」

ビリっ

「どれどれ………ああ」

「何が書いてるの?」

「お前に嫉妬して、『ストレス発散のために嫌がらせ』だとさ」

「うわぁ………トレインってそんなに小さい奴だったの!?」

「まぁそれと。呪いの魔法具を受け取ってほしいらしい。お前の『聖なる魔法で浄化してください』てさ」

「ごみすて場かよ!?」

「『ごみすて。すいません』てさ………呪いの槍かぁ。玄関の槍」

「うぇ~燃やしてくる。そんなもん玄関に置いてくな!! 冒険者!!」

「燃やしてくる? めんどくさいし、暖炉に入れよう。なんか木製の槍だったし」

「わかった、取ってくるよ」

 私は玄関に向かい槍を見つける。木の槍で2本の尖った穂先が捻れて絡まり伸びている。槍の先だけ金属であり、禍々しい雰囲気を醸し出す。

「ネフィア。槍は『貫き侯爵』て言うらしい」

「へぇ~」

 槍を手にし、トキヤの元へ。槍の呪いか耳元で変な声が聞こえ、イラッとする。

「トキヤ。持ってきた」

「おう。このままじゃぁ大きいし折るか」

「トキヤ。なんか唸ってるね」

「ん?」

 二人で耳を済ませる。脳内に直接声が聞こえる。

「さぁ、我を使い貫け。さぁ……貫くのだ」

 高慢な声で生き物を殺せと命令をする。

「なるほど。えーと手紙には相手や味方を貫いて遊んだ悪魔の侯爵が使用した槍らしい」

「へぇ~」

「さぁ、我を使い男を殺すのだ」

「トキヤ、どうやって折る?」

「ちょい。貸してみろ」

「はーい」

「我を………」

「うるさいなぁ。洗脳したいなら他を当たって」

「えっ? ちょっと待って!?」

 トキヤが槍の中心を持ち、力でへし折る。折った後に満足そうな顔をして、槍を手渡してくれる。

「よし!! どうだ!!」

「わぁ~すごーい!! 暖炉に置いとくね」

 断末魔が暖炉から発せられるが気にせず暖まる。

「ついでに魔王の手紙も燃やそう」

「ああ………」

 手紙もくべて。熱を出させる。

「依頼完了と。返信すればエルフ族長からお金が届くってよ」

「あっこれ依頼だったんだ」

「まぁ『面倒な物を処置してくれ』ってこったな。またあるな。こういうこと」

「ふーん。まぁ燃やすだけだし………そんなことより。続きしよ?」

「続きとは?」

「言わせたいの?」

「言わないと伝わらない」

「知ってるくせに。いつもそうやって焦らす」

「焦らして拗ねた顔が可愛いから。悪いのはネフィアだ」

「むぅ。褒めるのはいいから………その………」

 やっぱり、いつも声を出すのは恥ずかしい。

「その? なんだ?」

「…………」

 私は彼の手を掴みそれを自分の胸へ誘導する。

「その……夫婦だし。好きにしていいから………好きでしょ。私の体」

「素直じゃないなぁ~いっつも素直なのに。途端に恥ずかしくなってなぁ~」

「…………だって」

「まぁ、こういうときだけ俺に主導権があるのは楽しいがな」

「ひゃぅ!?」

 胸へ誘導した手が、私の胸をもみだし。先にある敏感な物を強くつままれた。電気が走るような感覚が脳に響き渡る。

「さすが婬魔エロい」

「ふぅ……ふぅ………トキヤ………そのぉ下半身しゃぶりたい」

「ダメだ。ほら指でもなめておけ」

「あうぅ……あん」

 私の口の前に指を出す。我慢できずそれを咥える。逞しい手から伸びる指は固く。それでいて何処か甘く感じる。

 チェロチェロと音をたてながら唾液を貯めて、指はしゃぶりながら。途中、唾液を飲み込む。

「はぁう………指じゃ。物足りない……」

「残念、今日はこれまでだ」

「ええ………嫌」

「じゃぁ………なにしてほしいか言えよ」

 私は彼にお願いをする。下半身から全身が求める。我慢なんか出来ない。目を閉じて叫ぶ。

「お願いします。私をムチャクチャにしてください‼ 何でもします!!」

 恥ずかしさより快楽を求める欲が勝った。その夜、久しぶりに女を感じ。記憶が飛びそうになる日になる。




「ふぁああああ~んんんん!!」

 朝日が部屋を明るくし俺を目覚めさせる。起きた瞬間、あくびをしながら背伸びをした後。昨日の事を思い出し、腰を擦る。

「ん?」

 俺は気付いた。隣にネフィアの姿がない。先に起きたようだ。

「…………」ぽりぽり

 最近、本当にネフィアは朝が早い。俺が起きるのが遅くなったのもあるが早い。そう考えながら私服に着替え。2階寝室から1階へ降りる。

 降りた先でリビングの扉を開けた。台所でネフィアの後ろ姿が見える。美しい金髪を束ねる事で綺麗な女性の体のラインが引き立ち、それと束ねるのを初めて見た新鮮さでドキッとする。

「あっ!! おはよう」

「お、おはよう」

 物音に気付いたのか、振り返り。満面の笑みで挨拶をする。本当に幸せそうな笑みだ。

「残念、起こしに行きたかったのに。ちょっと待ってて、朝食作るからソファーで座ってて。部屋は暖めておいたから」

「お、おう」

 なんとも、手際のいい。言われた通りにソファに座る。台所でネフィアの後ろ姿を覗いた。エプロン姿がよく似合っている。それを見ていると昨日の事を思いだした自分。特に体を蹂躙したことを思い出してなんとも、「楽しみすぎたなぁ」と思った。

「ふふ~ふん♪」

 嬉しいそうに鼻歌を歌いながら、何かを作っている。自分は何故かたまらず彼女の背後に移動する。彼女は振り向かない。

「トキヤ、まだだよ~サンドイッチ」

「そっか」

「!?」

 俺は勢いよく背後から抱き付く。言葉に出来ないぐらい愛おしい。衝動にかられ抱き締めてしまう。ネフィアは驚いたのかピクッと体が跳ねた。

「と、トキヤ!?」

「愛してる」

 昨日の夜も言った。もちろん彼女はもっと言った。だけど、何度でも言ってしまう。そんな気分だ。ネフィアもよく。「好き」と言うが、その何度も言う理由がわかった気がする。

「………へへ。待ってね。すぐに作って食べてから抱いて」

「今がいい」

「うーん。だーめ」

「ええ~」

 ネフィアが振り向いて片方の目を閉じ、人差し指を自分の唇に優しく押さえつけた。

「昨日の仕返しです♪」

 今日も彼女はすこぶる可愛かった。覗いた結果。自分達も深く求めるようになったような気がする。


§都市ヘルカイト⑥  火山地帯なのだから、温泉を探そう..

 

 腐竜の告白から数日。貯金を食い潰しながら惰性でトキヤと四六時中、色んな事をやりながら過ごしていた。そんなとき、一人の竜人が訪問しヘルカイト領主が呼んでいると教えてくれる。何故かドレイクもつれてきてほしいとのことだ。何故だろうか。

 疑問に思いながら私たちはご立派な領主の館に顔を出すことにした。本当ならギルド発行の身分証提示がいるが、使用人皆が私たちを知っているため挨拶だけで何も警戒もない。堂々と正面からドレイクを引き連れ、ドレイクの足の泥を綺麗に拭き取って中に入った。

 そのままヘルカイトの執務室へノックして入ると。ヘルカイトと腐竜ラスティ。商人のオークが商談している。もちろんヘルカイトはずっと窓を見て蚊帳の外だ。

 私たちを見たオークは商談を中断し挨拶を済ませる。この前の感謝の言葉と、商人からは喜びの声をあげる。

「いやぁ~このリストの農作物みてください」

 トキヤと私は見る。ぎっしり書かれておりどういった農作物なのかわからない。知らないのが多すぎる。

「ええ、いっぱいあることしかわからないです」

「そう、いっぱいあるのです。商品数が多いのは良いことです。特に香辛料は高値で取引できます」

「うわぁ~トキヤ!! イチゴがある!!」

「ネフィア!! すげぇ~!! 大豆があるぞ!?」

「大豆?」

「さすが!! トキヤ殿!! お目が高い!!」

 詳しく聞けば加工する事で素晴らしい物が出来るらしい。

「都市ヘルカイトの料理のレパートリーが増えるかも」

「やった!! 献立を悩まされなくていいのね!! トキヤは好き嫌いあるくせに言わないから困ってたの」

「………いやぁ……まぁ……面倒で」

「そうやって~考える身にもなってよ。何度も言ってるけど」

「はい。善処します」

「それも何回も聞いてる」

「お、おう………」

 ちょっと愚痴っぽくなってしまった。しかし本当に悩む。健康も気を使う。肉肉肉肉とか体を壊す。

「とにかく、ユグドラシル商会で調理法も探してみます。それよりも先ずは二人にお願いがあります」

「ワシからも頼む」

 窓の外を眺めていた巨体の男が振り向く。

「やっと喋りましたね、ヘル。朝から一言も喋らないので驚いたわ」

「ふん。気のするな。でっ商人、言いな。話について行けないとは言いたくないからな」

「ええ、実は温泉を探して欲しいのです」

「温泉?」

「ええ、温泉です」

 トキヤと私はちょっと不思議な顔をする。何故なら温泉は山へ行けば沸いているからだ。行ったことは無いが冒険者たちが逐次探してこっそり入っていると聞く。酒場での噂だが。

「えっと、山に温泉ありますよね? 冒険者たちが探してますよね?」

「ワシから言おう。ある部下が連合国の1都市や商業都市にある浴場をいたく気に入って作りたいと言い出した。白い煉瓦や材料を手配して作る気だが肝心の温泉がわからないと言う。大衆浴場なら作ろうと思ったが………残念。『温泉以外は認めない』と言う徹底ぶりなんだ。とにかく、こだわるらしい」

「山から配管でも作って引いたら?」

 錆びるが鉄パイプぐらいはあるだろう。

「残念だが………そやつ。生で高温なものを探しているのだ。あまりに熱心に語ってくるからなぁ~熱意に負け。土竜に頼もうと言う話なのだ。はぁ」

 なるほど。ワンちゃんを使いたいと言う事か。

「俺たちじゃなくて直接ワンちゃんに聞けよ」

「断られた」

「えっ? ワンちゃん断ったの?」

 私は驚いて顔をワンちゃんに向ける。

「あのな、ヘルカイト。俺の背中の翼をもいで地面に叩き落としたのは誰だったか? そんな奴に協力求められてもなぁ………水に流したとはいえな……」

「………擁護できないわ。ヘル」

 「呆れた」と肩を落とすナスティ。

「お、おう」

「あーそっか。ごめん、ワンちゃんがやりたくないので帰ります」

「ま、まってくれ!! 金は出す!! お前ら二人でなんとか出来ないか?」

「アホいえ!! 俺らは冒険者でも温泉なんて知らんド素人だ!! 専門家を呼べ!!」

 トキヤが叫ぶ。

「専門家なんぞわからんから頼んでいるんだぞ‼」

 ぎゃぁぎゅぁとトキヤとヘルカイトが言い争いだした。「出来る」「出来ない」を言い争い。まったく進まない。私はワンちゃんを撫でながら。一歩引いて眺めた。

「主人、何故お断りを?」

「ワンちゃんが嫌って断ったのを別に無理に押すことはないでしょ?」

「…………」

「大丈夫。私たちが断るから安心してね」

「………………主人。温泉入りたい?」

「寒いですから入りたいですね。家帰ったら風呂沸かしましょう。体も綺麗に拭き取ってあげますね」

「………………………ヘルカイト」

「ん?」

 執務室の真ん中にドレイクが陣取る。一応、多種族用の広さのため。ドレイク一匹では手狭にならない。

「わかった。探してやろう………お前との決着は俺が負けただけ。恨むのもバカバカしかった。昔のことは忘れてやる。主人に感謝しろ。水に流してやろうと言っていたしな!! 大事なことだから2回言うぞ!! 許してやる」

「お、おう!? ありがたいぜ‼ ネフィアの嬢ちゃん!!」

「えっ!? えっ!? どうしたの!?」

「ご主人。自分も入りたいので探すことにしました。綺麗に洗ってくださいね。トキヤの主人も」

「う、うん。心替わり早いね」

「おう、任せろ。ピカピカに磨いてやらぁ」

 オークの商人が手をニギニギして話し出す。

「では、契約内容ですが。冒険者ギルドに出しておきます。ランスロットと言う新任のギルド長に言っておきますので。トキヤ殿とは同期でしょう」

「えっギルド長?」

「おお!! 忘れとったぞ!! お前ら二人。竜狩りと言うランクだからギルド長になれるだろう。冒険者ギルドの長として2人の名前を入れといたぞ。別に一人でもいいだろうがなガハハハハ!!」

「くそったれ!? なに勝手に!!」

「旅出る前にそんな話をしてたような気がするぞ?」

「…………記憶がない」

「まぁ!! そういうことだ‼ ギルド長殿!! がはははは!!」
 
 トキヤの就職先も見つかり。私たちは新しい冒険者ギルドへ向かおうと思う。

「冒険者ギルドの酒場の管理人になるとは………」

 トキヤは不満を口にしながら。渋々了承するのだった。





 ギルド所有の酒場から奥へ入り。もう一人のギルド長に挨拶をする。知り合いなため。軽い挨拶で終わったあと。会話から本題を聞こうと思っている。

「お前、ギルド長になったんだな………ランス」

「ええ、君もでしょ?」

「まぁ、そうだな」

「実際は形だけのギルド長ですから。気にしなくてもいいです。代理も用意出来ておりますよ」

「なら、自由にさせてもらってもいいんだな?」

「いいですよ。ただし、僕が不在の時はお願いします。ギルド長2人体制はそういうことです」

「わかったよ……でっ? 温泉の依頼書は?」

「これですね。受付も終わらせています。報告も何もかも全て終わったらギルドが処理します」

 トキヤは依頼書を受け取り。それを丸めて脇に挟んだ。

「じゃぁ探してくる」

「任せました!!」

「………ランス。えらい気合いが入ってるな」

「ええ、期待しております‼」

「トキヤ、あんまり詮索しない方がいいよ」

「何故?」

 私は耳元で伝える。「リディアと入るためだよ」と言うと頷いてトキヤが振り返った。

「むっつりが。くそえろむっつりが」

「な、何を言うんだね!? ぼ、僕はただ」

「狼狽えてる方が怪しいよ?」

「………まぁその。リディアが楽しみにしてるのです。約束をしてしまいました」

「リディアさんだけか? リディアさんだけかぁ~?」

「君だって入りたいとは思わないのかい!?」

「残念だが思わない」

「トキヤ!? そ、そんな…………なんのために湯を……」

「ワンちゃんを洗うためだろ?」

「それもだけど………」

「まぁどうせ男湯と女湯は分けるし大丈夫さ」

「よくな…………!?」

 私はあることを思い付いた。そして、やる気を手に入れる。

「トキヤ!! 早くさがしに行こう!!」

「お、おう。またな~ランス」

「ええ、報告お待ちしてます。依頼主もお呼びしてますので酒場で声をかけてあげてください」
 
 私は彼の手を掴み。引っ張ってギルドを出りのだった。やり方は色々ある。酒場に顔を出し叫ぶ。

「お湯さがしに行くぞ!!」

「ネフィアうるさいぞ」

「来ましたか!! あなた達ですね!! エルダードラゴンを倒し従えている強者は!!」

 私の叫びに一人立ち上がり近付く。男性、小さい角があり龍人であることを示していた。悪魔と違い。角は小さくかわいい。あと龍印というのを持っており。これに魔力を流すことで彼等は変幻自在に姿を変えられるという。それを見せ種族を証明させた。

「依頼主か………回りくどい事を直接依頼すれば……」

「すいません。誰に頼ればいいか……わからなかったのです」

「お名前は?」

「ふふふ!! よくぞ聞いてくれました!!」

 龍人がくるっと一回転し叫ぶ。

「こよなく風呂を愛する者!! ユブネマスターでございます‼」

「トキヤ帰ろう」

「ああ、帰ろう」

「ちょ!! ちょっと待ってください!!」

「トキヤ晩飯どうする?」

「どっかで食べるかな」

「無視しないでください!! どうしたんですか!?」

「いや、だって………ね?」

「変人の相手はしてないんだ。追加料金いただくぞ?」

「自分が変人なのは知ってます!! お願いします!!」

「でも、名前……それでいいの?」

「風呂好きを極めております!! そう!! 東方の地へも行きました。そこで学んだ世界は素晴らしく!! そして僥倖!! この地は火山も地震も多く!! 温泉も湧く立地なのです‼」

「あっうん。いいんだねそれで」

 私でも引くことがあるとは思わなかった。

「ヘルカイトが匙投げた理由を垣間見た…………まぁいい。依頼だし、早速壁の外へ行く準備をしよう」

「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」

 変な竜人が何度も何度も頭を下げる。私たちはそんなに喜んでくれるならっと依頼をそのまま受けた。

「成功したら、追加料金貰うからな」

 そして、私の夫様は抜け目はない。




 東壁から、ドレイクのワンちゃんと依頼人ユブネさんをつれて東から北へ歩く。ワンちゃんは鼻をつかい。何かを嗅ぎながら歩く。

「何を嗅ぎながら歩いてるんだ?」

「ゆで玉子の匂い」

「ああ、温泉の匂いか」

「うむぅ………しかし。匂うのは遠くから来た匂いだけ。表面付近にない」

「どっか近くでわからない? ワンちゃん」

「深くを探ればあるでしょう。でも主人たち掘れないでしょう?」

「ああ…………掘れないな」

「私でも頑張って掘りましょうか?」

「厳しいかもしれない。断層があればその下とかにあると思う。まぁここにはない。皆さん離れて少しお待ちを」

 私たちはドレイクから離れる。ドレイクが高く飛び上がりそのまま地面に着地した。

「…………クエイク!!」

ベコッ!! ボゴォ!! ドゴオオオオオオオオン!!

 着地した瞬間地面が抉れ盛り上がり、地面が浮き上がった。あまりの衝撃に足元が揺れ、私は後ろに倒れそうになる。しかし、トキヤに抱き締められて支えてくれたおかげで倒れずにすむ。

「あ、ありがとう」

「怪我はないな。ワンちゃん、わかった?」

「うーむ。衝撃が途中で止まった。スッゴい深くに水脈がある」

「それ、カルデラ湖から流れてるものじゃないのか?」

「それは川として流れ都市の中心に流れている。それとは違う…………お湯かもわからない」

「わからないかぁ………どうしよ………」

「問題ですね………お湯とはいかに高価なものか………」

「あのぉ~すいません皆さん。すっごーく痛かったので飛んで来たんですけど………ぐすん」

 背後から声がして、振り向くと緑色の髪の女の子が涙目で立っている。ユグドラシル。都市中心の大樹だ。

「すまない、木の精霊。根っこをキズつけたようだ…………もうしないよ」

「ドレイクが喋ってる? もしかして土竜さん?」

「もぐらじゃないな。土龍ワングランドです」

「ああ!! ワンちゃん!!」

 もう、愛称だけが有名になりつつあるのじゃないだろうか。名付けたの私だけど気に入ってるけど。もう少し格好いい名前だったらよかったのかなぁ。

「ユグドラシル殿。この下にある水は湯ですか?」

「えっと………深くてわからないかなぁ。表層しか根っ子ないから」

「掘りますか?」

「うーむ。掘るしかないかぁ」

「トキヤ!! その万能の風の魔法でなんとかできないの?」

「いや………無理。表層抉るだけだな。硬質なのは無理だ」

「そんな弱点が………」

「鎧を壊したことはないだろ?」

「そういえば………うーん手詰まり」

 悩む。いい方法はないだろうか。

「何かを………うーん。楽をしたいよね?」

「楽したいな。掘るのはしんどい」

「ご主人、ご主人」

「どっちのご主人?」

「ネフィアご主人」

「なーに?」

「ご主人の炎でいけるのでは?」

「炎で……………!? ワンちゃん!! 偉い!!」

 私は思い付く。今は時間もあるので出来る筈。

「ネフィア?」

「よし、イメージが出来る。そう、私にこれがある!!」

「どうするつもりだ?」

 その問いには威厳を出して答える。

「離れておれ、余から」

 口調を変え、イメージする。深呼吸を一回し目を閉じる。背中から炎の翼が生え魔力が高まる。周りの魔力が火の粉となって見えるようになった。

「我、ネフィア・ネロリリス。最強の男の伴侶である」

 詠唱。目の前に魔方陣が浮かびあがり描かれ赤く燃え上がる。背中の翼が霧散し魔方陣に吸い込まれた。

「我が心の炎よ!! 翼を得て舞い上がらん!! フェニックス!!」

キャアアアアアアアア!!!

 魔方陣が爆発し燃え上がり。上空へ大きな火の鳥が声をあげて飛び上がる。それをドレイクが吹き飛ばしクレーターになっている地面に回転させながら向かい。地面に吸い込まれるよう突っ込んだ。

 地面が一面赤く液状化し。ブクブクと灼熱を放つ。

「マグマかぁ………」

「トキヤ、これなら深く潜れる」

「しかし、穴を掘ったとは言えないな」

「確認だけなら出来るから……ん?」

 ぶく………ぶくぶ………ブクブクブクブクブクブク!!

 マグマから泡が多くなり盛り上がってくる。

「ネフィア!? やばくないか!?」

「う、うん。なんかヤバイ!! 逃げて!!」

 少しづつ膨らんだと所から勢いよくマグマが吹き上がった。周りにマグマを散らし草木を焼く。私に向かってマグマが降り注ぐ。

「え!?」

「ネフィア!! 危ない!! つぅ」

ジュゥウウウウ!!

 トキヤが私を抱いて、マグマから身を護る。彼の背中に灼熱のマグマが当たり焦げた匂いがした。

「あっつ!! あっつ!! ネフィアの魔法だろこれ!? 威力が出てる!!」

「トキヤ!?」

 私は回復魔法を唱え回復させる。他のドレイクや龍人はマグマの柱から距離を取った。私たちも距離を取る。

「ネフィア!! フェニックスは!!」

「わかんない!! 押し戻されてる!?」

「そうか、マグマが都市まで飛んでいってしまう。俺がやるしかないか」

 高く吹き上がるマグマが都市へ降り注ごうとしていた。険しい表情。大惨事になってしまう。

「ネフィア!! 一か八か全部風で吹き飛ばす。気を失ったらあとは頼む」

「わ、わかった」

「まって!! 大丈夫…………」

「大丈夫!? ユグドラシルちゃん!! 燃えちゃうよ!?」

「大丈夫」

 ユグドラシルが笑みを溢した。余裕を見せた表情で手を付き出す。

「私の名前はユグドラシル。都市ヘルカイトの中心に位置する木。私は護る!! この都市を!! 私の生まれた地を!!」

 ユグドラシルがそのまま手をあげ、その瞬間に都市の上空に大掛かりな緑の魔方陣が生まれた。マグマが見えない壁に当たり反対方向に吹き飛ばされる。

「ふぅ………大丈夫でした」

「えっと俺。スッゴいの見た………なんだあれ?」

「わ、私も」

「ここ、火山多くて噴火したときに同じ方法で護ったんです。私も火は天敵ですから火を入れさせないように進化しました。これしないと本当にどうしようもないです」

 この地で生きてくために身につけた能力らしい。なんともスゴい木だ。

ゴボッ!! ブッシャアアアアアアアアアア!! ボシィ!!

 マグマの次に今度は暖められたお水が吹き上がる、壁の高さを越えた水圧にフェニックスも吹き飛ばされており、私の元へ戻ってくる。力を使い果たしたのか小鳥になっていた。綺麗な虹が冬の空を彩る。

「ネフィア。お前の炎で水が急激膨張、沸騰し噴火みたいになったんだな………これ」

「はぁ………ごめんなさい」

 やらかしたらしい……面目ない。

「おおおおおおおお!? これは!! 素晴らしい!! 温度は高いですが!! これなら…………充分!!」

「依頼人が喜んでるから気にするな。終わったことだ」

「トキヤ……やさしい」

 吹き上がったお湯がゆっくりと落ち着きぽこぽこと湧くだけになる。

「いやぁ!! 報酬は後でいいですね!!」

 竜人が全裸になり、竜の姿で大きなクレータに貯まった湯に突っ込んだ。

「ぐへへへ~」

 気持ち良さそうに湯舟となったクレータでくつろぐ。

「ふぅ。トキヤ行きましょ」

「ああ。まぁ浴場はすぐには出来ないし満足ならいいや」

「ええ、ユグドラシルちゃんもありがとうね」

「いいえ!! あのあの!! 助けたからお願い聞いてください‼」

「ん? どうしたの?」

「ワンちゃん!! 乗って良いですか!!」

 ユグドラシルは目を輝かせてピョンピョン跳ねる。

「ワンちゃん? いい?」

「いいですよご主人。さぁ木の綺麗なお嬢様」

「んんんぅんんんぅ!! やった!!」

「今日だけユグドラシルちゃんのためにお願いね」

「はい、ご主人。お嬢様何処へ向かいますか?」

「私!! 遠くで確認したいのあるの!! そこ行きたい!!」

「わかりました」

 ドレイクに股がり。指を差して二人だけでどっかへ向かう。

「ご飯までには帰ってくるんだよ~」

 その背を見ながら、トキヤと共にギルドに報告へ向かうのだった。





 ギルドへ報告後。ご飯を食べ終えて家に帰ってくる。すぐに風呂に水を張り魔力炉で風呂を湧かす。この家に魔力炉は4つあり、非常に高価な物を惜しげもなく使っていた。本来は安い魔力炉を使い回すものだ。

「トキヤ、ご飯食べて帰ってきたけど大丈夫?」

「お前の回復魔法は一級品だ。あんな軽いケガは大丈夫さ………あのな。あれお前の魔法の炎でやられたんだ。本来は傷もつかない。ご飯中も言っただろう? 何回も聞くなよ」

「……心配だから」

「ごめん。いや………ありがとうだな。大丈夫、それよりお前に傷がなくて良かった」

「…………すぐに私の心配する」

「その台詞そのままお前に返す」

「………ふふ」

「………ははは」

 二人で笑いながらリビングで風呂が沸くのを待つ。沸いた瞬間チンっと音がして私たちに知らせた。

「トキヤ、お風呂先入っていいよ」

「ああ、お前そうやって。また入ってくるだろ」

「背中流すだけでしょ?」

「まぁ……」

「一線は越えてません」

「そうだな。越えてないが今日越える気だったろ」

「!?」

「はい、驚いた顔。ギルドで勇気出たんだろうな」

「…………のー」

 私はため息を吐く。「一緒に家で入りたい」と思ってたがまだ一回も入っていない。それを今日、ギルドでやると決めたのに。全部バレてしまった。

「ネフィア、背中流してやるよ。入るぞ」

「………えっ?」

「一緒に入るぞ」

「ん? ん?」

 聞き間違いかな? そんな、トキヤからなんて。

「駄々こねない」

 トキヤが私を風の魔法で倒してヒョイっと姫様のように持ち上げる。

「さぁ、いくぞ」

「えっと………」

「どうした顔を手で隠して恥ずかしいか?」

「ち、ちがう。トキヤがイケメンすぎて直視できない」

「俺が恥ずかしくなるな………それ」

 脱衣場に私は連れ去られ、私の一緒に入る願いが叶うのだった。 



§都市ヘルカイト⑦魔国の呪物.. 



 年末年始が迫ったある日のこと。2通の手紙と呪いの品が届いた。それを私はリビングで確認する。

 1通目は魔王の嫌み。この前は言葉が制限されたりと大変だった。2文字しか喋られない呪いは本当に大変だった。2通目はエルフ族長が呪いの品についての話。

「囚人の枷?」

 木箱を開けると中には「囚人の手枷」と思われる鉄の輪が二つ入っていた。一個一個は繋がっておらず変なオーラを纏っている。

「うーん繋がる所がないから手枷にならないよね………これ」

 トキヤに鑑定をしてもらおうと思ったが今日はギルドに顔を出して家にいない。

「仕方ない。洗濯干してから確認しよう」

 外はちらほら雪が降り寒いため部屋に入れて部屋干ししている途中だった。それを干してから再度確認しようと思う。

「…………助けて。痛い痛い」

「はいはい。洗濯物干してからね。ワンちゃんもいないし。変な声を出さない」

 ワンちゃんは今日もユグドラシルと遊びに出掛けてしまった。ユグドラシルちゃんは見た目より遥かに幼い。だから遊び盛りなのだが、お父さんは仕事で忙しいから我慢していたのだろう。最近はユグドラシルとワンちゃんの仲のいい目撃情報が増えている。竜と木は相性がいいのだろう。
 
「よし!! 干せた!!」

 トキヤが帰ってきたら換気をお願いしよう。部屋干しは匂うのだ。だから風の魔法がいい。

「さぁ、一枚うっかり洗濯をし忘れた下着が一枚」

 もちろんトキヤのである。

「今日もお願いします」

 トキヤが居ない時、こっそり下着を嗅いでいる。甘い香りが鼻腔をくすぐるので大好きなのだ。変態な趣味だろう。だけど夢魔は婬魔。何もかもが好きになる呪いのような所まで落ちるのだ。しかも、いろんな所が回復する。肌艶さえよくなる。

「う~ん!!」

 私は自分の容姿を知っている。令嬢な雰囲気を出せる。外では真面目な奥さんで通っている。だがら、その背徳感からの倒錯的な気持ちがたまらず。堕ちていく。

「こっそり嗅ぐのがいいの!! んんんん」

 トキヤの生の体臭も好き。下着についている仄かに残る体臭も好き。女になってから匂いが好きになったのだ。いや、トキヤが好きで全てが好きなのだ。全はトキヤ、一はトキヤなのだ。婬魔はこうなる運命なのだろう。

「さすが私。婬魔ですねぇ……」

 そう、これは種族のせいだ。こんな忌ましい事がたまらない理由。

ガタガタ!! フヨォ!!

「ん?」

 テーブルの上に置いた箱が一人でに震えだす。箱の蓋が勝手に開き、中から4つ鉄の輪が飛んでいる。2つは箱の底におが屑があり埋もれていたみたいで私は4つあることを知らなかった。

「えっ!? いやああああああ!!」

 私はあまりの光景に悲鳴をあげる。幽霊だ。

「幽霊!? そ、そんな!! いや!! 来ないで!!」

 腰を抜かした私に4つの鉄の輪がフヨフヨと浮かぶ。

「幽霊怖い!! トキヤ!! 助けて………」

 鉄輪が私に向かって飛んで来る。恐怖で体を丸め目を閉じ、あまりの恐怖で気を失った。





 俺は冒険者ギルドから急いで家に帰ってくる。ネフィアの悲鳴と俺を呼ぶ声が聞こえたからだ。「聞こえた」と言ってもネフィアが魔法で助けを呼んだからであり。皆が悲鳴を聞いているほどに大音響で五月蝿かった。異常事態だったので俺が緊急で帰宅する。周りには俺の報告待ちである。

「ネフィア!!」

 家の扉を開け部屋に乗り込む。リビングでネフィアが倒れていた。両手両足に鉄の輪のような物がつき。彼女の体を両手両足を拘束している。

「ネフィア………大丈夫か?」

「う、ううん…………あれ? トキヤ………トキヤ!!」

 ネフィアが起き上がろうともがく。しかし、縛られているみたいに動けない。

「うぐぅ……これは一体なに? 幽霊かと思ったのに」

「いや、おれが聞きたい………ん?」

 俺はテーブルの箱と手紙を見つけ読む。「呪いの枷だから頼む」と書かれた内容を読んで納得する。

「えっと………呪いの装備で死ぬまで外れないか………拷問で殺したり処刑したりするための呪縛枷だな」

「そ、そんなぁ~」

「お前も我らと同じ苦しみを………」

 枷からフワッとした骸骨が見え、ネフィアが涙目になる。かわいい。

「と、トキヤ!!」

「ああ、どうした?」

「ゆ、ゆゆ」

「湯?」

「ゆ、ゆうれい………あそこにいる」

「うーん………俺には見えないなぁ」

「えっ!? い、いるの!! 本当に!!」

「我らと同じ苦しみを………くるじい………助け………死にたくない」

「いやぁ~見えねぇわぁ~。それより取れる方法考えるから」

「お願いします!! はやぅ!! はやく!!」

「わかった。焦るな。動けないだけだろ?」

「見えてる!! 見えてるの!! 幽霊が!!」

「都市インバスでしこたま見たじゃないか?」

「あれは聖霊!! これは幽霊!!」

「一緒なんだけどなぁ~」

 過去にトラウマがあったようだ。まぁ…………怖がる彼女はスゴくかわいい。

「いやぁ~何にもないのにビビるお前。めっちゃかわいいなぁ」

 しゃがんで観察する。

「ごめん!! 嬉しいけどそれどころじゃない!!」

 骸骨の幽霊が顔以外の体や腕を手に入れて大きくなって這う。剣も装備する。

「やぁあああ!! もう!! いやぁあああ!!」

「ははは、面白」

「トキヤ!! 後で絶対ぶん殴ってやる!!」

「ははは。かわいいなぁ本当に~」

「和んでないで!! 幽霊が、幽霊が!!」

 骸骨が這ってくる。そして、ネフィアの綺麗な生足に触れ掴んだ。俺はそれだけは許さない。

「ひぃひいい!! トキヤ、幽霊が!!」

「………ああ。今見えた」

「えっ?」

「人の嫁を気安く触ってんじゃねぇよ!!」

 骸骨の頭を掴み家の壁へ投げ飛ばす。壁には当たらずすり抜けて外へ抜けた。

「と、トキヤ!! うわぁあああん!! 怖かった!!」

「おお。怖かったなヨシヨシ」

 いやぁ~楽しかった。まぁまだ楽しめそうだなあの道具。

「まぁ仕事も明日にして。今日は一緒にいような」

「や、やさしい。嬉しいけど何か企んで………んひゃああああああああ!?」

 俺はネフィアの太ももを触る。動けないを良いことにねっとり触る。スベスベの肌は握ればむにゅとした包み込むようなやわらかさがある。ついでに問題無いことを報告を入れた。

「えっ!? まって!! 動けないのに!! んあぁ!!」

 服の上からブラが邪魔なので外し、そのまま服に手を突っ込み下から揉みあげる。

「ト、トキヤ!! だめ!! 動けないからね!? ね!?」

「動かなくていい。おれが気持ちよくさせる」

「だめ!! まだ、仕事でしょ!?」

「仕事は明日でいい。今はお前をいただく」

「トキヤ!? スイッチ入ってる!?」

「ネフィア愛してる」

 動けないネフィアの口を無理矢理塞ぐ。深く舌を押し込んだ。離れた瞬間、優しい笑みを向けた。ネフィアはもう、目が潤んでいる。これは………うまそうだ。

「ト、トキヤ………切ない」

「よし、まだ明るいがいいな」

「苦しい、助け………」

「今、いいところ」

「ごめんなさい。今、それ所じゃないんです」

「……………………」

 動けないネフィアを姫様抱っこし寝室へ持っていく。変な声を無視して。





 朝、呪いの手枷を私は外した。オーラもない。視線を沢山感じたがもうそれも感じれない。羞恥の中での逢瀬だった。

「呪い無くなった?」

「残念………中々、楽しかったのに」

「何で呪い解けたんだろ?」

「さぁ………俺は最終手段で鉄輪を切り落としたり。炎で溶かしたりして終わらせようと思ったんだけどなぁ。生気に当てられるのを嫌がるのもいるし、それかもな」

「うーん。なんで?」

「まぁ………いいんでない?」

「でっ、仕事は?」

「行くよ」

 いつもの皮の軽装を身につけるトキヤ。剣を担ぐ。

「ねぇトキヤ。ありがとう………来てくれて」

「おめぇの悲鳴が聞こえたら何処へでも駆け付けてやるよ」

「ふふ、格好いい。ご飯作るね」

「ああ、たのむ。昨夜から何も食ってないしな」

「うん。何がいい?」

「食パンでもいいなぁ」

「イチゴジャムあるよ」

「じゃぁそれにしよう」

 呪いの輪に触れる。触れて感じるのは「やり直し」の意識。結局、皆………幸せになりたかっただけなんだ。

「あっ……成仏したんだこれ」

「へぇ~まぁ俺が魂を壊すより健全だな。最初に帰ってすぐに悩んだが………まぁ可愛さに負けてな~」

「……………最初?」

「そう、最初………あっ!?」

「ねぇ、思い出した」

「す、すまん!! お前のあまりに泣き叫ぶ姿が可愛くて可愛くて!! 出来心なんだ!!」

「……………トキヤ」

 私はベットから降りトキヤの迫る。トキヤが狼狽え角に追い込まれる。

「わ、悪かった!! いや、ごめんなさい!!」

「………ゆるす」

「えっ!?」

「ゆるす」

 私は彼の首に巻き付き笑みを向ける。拍子抜けしたのかポカーンっとしたトキヤ。

「確かにすぐに助けなかったのはマイナス1。でも、すぐに助けに駆け付けたのはプラス1。私が触わられた時に怒った事がプラス1。そして…………私を女として愛してくれる事で絶対マイナスにならないよ」

「ズルいなぁ………本当にズルい。その緩急が俺を惑わす」

「ふふ、駆け付けたくれたの格好良かったよ。私の勇者様」

 私は想いを乗せて彼の頬にキスをした。



§都市ヘルカイト⑧ 暇をもて余した元魔王と元勇者の遊び..

 

 呪いの枷から数日。エルフ族長に破壊した事を報告書を送った日、俺は仕事で帰りが遅くなった。

「ただいま」

「おかえり。遅かったね?」

「ギルドのルール作りと新しいギルド長を見つけたから教えてたんだ」

「へぇ~誰?」

「飛竜デラスティ。幼いが強いからな」

 飛竜デラスティ。あの、黒髪の小さい男の子で可愛い子。ショタコン火竜ボルケーノと住んでいる子だ。昔に助けてもらった恩がある。俺は寝ていたが、ネフィアがお世話になった相手。小さな体に大きな志。中々にいい青年だ。

「あの子が………そうなんだ。ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」

「はいはい。飯にする」

「ぶぅ~」

「はいはい。膨れない膨れない」

「ぷしゅー」

 リビングの椅子に俺は座る。ネフィアが料理を暖め直し、「今日は乳が入ったのでシチューにしてみた」と台所で話をする。 皿に入れ、パンを焼き。俺の目の前に用意する。一人分。

「いただきます。ん? 一人? お前は?」

 テーブルには一人分しかない。

「先に食べちゃった」

「そうか…………寂しいな」

 一緒に飯を食べてきた。今さらだが、当たり前が恋しい。

「えっ? 寂しいの?」

「こういうのは二人で喋りながら食べるのがいいんだよ。いや………俺が仕事で遅くなっただけか」

 わがまま言ってはダメだ。俺が悪い。

「ごめんね。待てば良かったね………実は悩んでたんだ~帰ってから食べるかなぁ~って」

「悩むかぁ? 早く食べても問題ないよな……悪いの俺だし」

「うん、でもね……うん」

 ネフィアはテーブルに両肘をつけて顔を横に向けた。笑みを向けながら一言口にする。

「美味しい?」

「うん、美味しい」

「そっか、良かった……」

「……えっと。眺められると食べづらい」

「ごめんなさい。トキヤが美味しそうに食べてるの眺めたかったの。だから先に食べちゃった」

「ぐふぅ!? げほげほ!!」

 俺はむせる。予想外の言葉に喉の変なところへ入ってしまった。

「ト、トキヤ!? 大丈夫!! 水いる!?」

「あ、ああ。大丈夫、大丈夫。このシチュー砂糖混じってるよ」

「えっ? そんなことないけど?」

「いや、いや………気のせいだ」

「ふふ、面白い人」

 やめてくれ。可愛いのはわかる。悶えそうだ。

「あの。ネフィアさん。あっち向いててくれませんか?」

「やーだ………好きな人を見ておきたいの」 

 俺は胸焼けを心配しながらご飯を喉に入れる。味なんかわからない。好意が熱すぎる。

「ご馳走さま」

「お粗末さまでした。紅茶、新しいの淹れるね」

「お、おう………」

 ときたま、恐ろしいほど可愛い仕草の日がある。今日はきっとそういう日だ。うん。旅してる時はまぁ仲がよかったがここまで過激な好意はなかった。

「ねぇ!! トキヤ………我は魔王!! ネフィア・ネロリリスなり!!」

 唐突に威張った。紅茶を淹れながら。

 その姿やしゃべり方で俺は「ピンッ」と頭の中で閃き、返しの言葉を放つ。

「魔王!! 俺は勇者トキヤ・ネロリリスだ!! 尋常に!!」

「待った!!」

「どうした? 乗ってやったのに?」

「名前、ネロリリスが同じだとただの親族の喧嘩だよ」

「そ、そっか………こだわるなぁ」

「台本で矛盾はだめ」

「そういえば………お前は元女優だった」

 一時期、劇場で歌い踊っていた。才能はあるが、熱意はない。しかし、本当に恐ろしいほどの才能だった。とにかく歌が卑怯なのだ。表現が他を逸する。声を演じるではない声を作るのだ。

「じゃぁ………俺はお前を倒す勇者だ!!」

「……………余が思うほどしっくりこないな」

「ええ~」

「我が求む勇者とは違う。なんか……うん」

「魔王、お前を倒し世界を救ってやる!!」

「おっ!!…………おほん。お前かが? 冗談は寝てから言え!!」

 けっこう面白い。だが、物足りない。

「うーん。物足りん。ネフィアの声が軽すぎるし、なんか違う」

「トキヤも勇者らしい声じゃない………そう!! 俳優の時は役になりきらなければならない」

「じゃぁ………勇者むりかぁ」

「ええ、そこで諦める~?」

「ランスロットなら勇者だよなぁ」

「ああ、確かに………」

「俺はどっちかっと言うと…………」

 紅茶を啜りながら少し考えた後、俺はワルノリで演じる。

「俺が魔王だ。勇者よ…………長い間お前を観察させて貰った」

「あなたが魔王だったの!? そんな!!」

 もちろんネフィアは乗ってくれる。

「ククク、仲間ごっこは楽しかったか? はははは!! 所詮愛など弱い者が言う戯れ事…………叩き潰し、殺す、力が全て!! 弱き者なぞいらぬ!! 戦うために必要なのは!! 力なり!!」

「それは違う!! 愛があるからこそ戦える!! 愛があるからこそ、人は立ち、勇気を振り絞れる。たとえ負けようと!! 何度だって立てる力!!」

「がはははは…………愚かなり勇者!! 死んだら何もないだろ?」

「いいえ!! 愛が残る!! たとえ朽ちても護るために取った剣は必ず次の愛へ繋がる!! 必ず未来が来る!!」

「………話は平行線か。仲間だった事を考慮し側近にでもと思ったが暗殺しとくべきだったな!! 愚かな考えを持つ者なぞいらぬ!!」

「…………あなたは愛を知らないだけ」

「ああ? 知らなくていいそんな弱い心を!! さぁ勇者よ決着だ!! お前の言う愛が所詮幻想だった事を教えてやろう!!」

「言葉は不要ね。わかった!! 見せてあげる!! 私の愛を!! あなたを愛する力を!!」

 熱演。とにかく、熱く演じた。

「………おほん」

「………うーむ」

 二人して腕を組み。首を傾げた後に頷く。

「「しっくりくる!!」」

 俺たち、生まれた所。間違えたのかもしれない。逆だったらきっと。変に上手く行っていた気がしたのだった。



§都市ヘルカイト⑨   帝国から送られた聖剣..



 ある日、私たちの家にギルド長となったランスロットとリディアが遊びに来た。「遊びに来た」と言うより………なんとも。緊張した面持ちで玄関前に立っている。

「最近、魔国の呪われた品を『浄化されている』と聞きました」

「ごめんなさい。お帰りください」

「ネフィアお姉さま!?」

 リディアが驚いた声をあげた。仕方ないの、もう持ってこないで欲しいだけなの。面倒なの凄く。

「ランスロット? どうした、うちに来て」

 トキヤもちょうど帰って来ていた。トキヤはリビングから顔を出し仕事は終わったことをランスロットに玄関先で伝え合う。よくわからない内容で、こういう仕事は男の人に任せるに限ると思った。

「入れてやれよ。ネフィア」

「うぅ………ゴミ箱じゃぁ~ないんですよ~家は」

 この前から、けっこうな量が魔国から届き。屋根裏に保管している。幽霊は出ないが屋根裏に上がると夜な夜な呻き声がする。「うるさい」と怒ってもだ。

「すいません。しかし………これを」

 ランスロットが私たちに一本の装飾された綺麗な鞘に納まる剣を見せる。

「帝国から送られて来ました」

「ランス!? それは!!」

「ええ、僕も疑ってたんですが」

「ネフィア。上げろ………今回は呪物じゃない」

「わ、わかった」

 トキヤの真剣な目に押されリビングへ案内する。紅茶を沸かし、クッキーと共にお出しする。

「僕はこれが好きなんです。美味しいですね。さすがはネフィアさんっと言ったところです。美味しい」

「お前、これを食べに来たわけじゃないだろ?」

「んん………分量も一緒なのに………私のより美味しそうに食べてる」

 蜘蛛姫がしょんぼりし、ランスロットが慌てて言葉で取り繕う。

「いや、だから………ランス。嫁を慰めに来たわけじゃないだろ?」

「今は!! そちらより大事です!! リディア!! そっぽ向かないでくれ‼」

「ふん!! いいですよいいですよ………私のよりうまいですもん………悔しいですけど」

「えーと………あのね。社交辞令て言うのよ。リディアちゃん」

「…………ネフィア姉さんが言うなら。信じます」

「おれ、お前らに怒っていい?」

「トキヤ、大丈夫です。なんとかなりました」

「すっげー汗かいてるけど」

「大丈夫です。冷や汗です」

 尻にしかれている帝国の元皇子さま。何故か少し「可愛いな」と思う。そして、その可愛いランスロットが剣をテーブルに置いた。なお、アラクネが私を睨む。内心を察したのだろう。牽制だ。

「でっ………ランスロット。帝国からこれが送られたのか?」

「はい。妹からお兄様にあげると言われ驚いています」

「本物だよなぁ……俺も何度も見たことがある」

「ええ、でも。こんなのがここにあってはいけません」

「ねぇねぇお二人。この剣ってもしかして………聖剣エクスカリバー?」

 私は過去の夢で見たことがある気がする。その刀身は白金と金の輝きを放ち。「持つ者を勝利へと誘う」と言われる剣だ。

「ネフィア、知ってるんだな。そうだ、聖剣エクスカリバーだ。別名、王を選定する剣」

「そうです。僕は何故か抜くことができる。そしてこの剣で戦っておりました」

「綺麗な剣ですね。ネフィアお姉さま」

「ええ、鞘がすごく綺麗」

「何故送られてきたんだ?」

「それが僕にもさっぱり………」

「ランスロットが王だから?」

「いいえ、王位継承権は剥奪されている筈です」

「仲間殺しだからな」

「…………何故でしょう?」

 聖剣を送られた理由を悩んでいる二人。

「偽物なら嫌味で贈るが………本物はないと困るのでは?」

「本物を偽物と交換させる事を考えたのです。しかし、本物を贈る方がおかしい。隠しておけばいいと思います」

「…………いや。お前に託す理由がある筈だ」

「妹ですよ?」

「絶対裏があるな………ああぁ。わからん」

「僕以外に抜くことが出来なかったのかな?」

「かもしれない。それだったら偽物を用意するな。でっ………安全に保管する。しかし、送って来たのがおかしいよなぁ…………いや!!」

 トキヤが立ち上がりリビングを歩きながら考える。

「ランスロット!! 新しい王位継承権の候補者を探してるんだ!!」

「な、なんだって!!」

「偽物でも庶民はわからない。抜けばいい。新しい王の候補者の何人かを」

「そ、そうか………僕以外に抜ければ義兄上たちも王に」

「でっ、王位継承権がない奴に剣を渡すと紛失扱いだ。仲間殺しの『これが本物の聖剣』と言う言葉なんて誰も信じないし聞かない。たとえ本物でもな」

「なるほど!! 流石トキヤ!! わからなかったよ!!」

 ランスロットも立ち上がりトキヤの肩を叩くきながら感謝していた。

 私は本当に抜けないのか気になったので「ちょっと挑戦しよ」と軽い気持ちで剣を持ち、少し力を入れる。

 スルッ

「えっ?」

「お、お姉さま?」

 スルッと抜けてしまった。白金の光沢に金色の文字。あまりに綺麗で宝石のような刀身はシャンデリアに照らされて輝きを放つ。

 そして、剣を持つ私に皆の視線が集まり恐る恐る剣を鞘に戻す。

「ぬ、抜けちゃった。ごめん………出来心で………ごめんなさい。そんな怖い顔で見つめないで………」

 ランスロットとトキヤが鬼の形相で私を見つめる。泣きそう。軽い気持ちでだったのに。そんなに睨まれるなんて。

「ネフィア、もう一度抜け」

「ええ、もう一度」

「う、うん」

 恐る恐る抜く。

スルッ

「……………」

 沈黙がリビングを満たす。私はいたたまれず再度鞘に戻した。すごくいけない事をしているようだ。

「ネフィア、俺に貸せ」

 剣を鞘に戻してトキヤに手渡す。スルッとトキヤも抜ける。

「ランスロット。リディアさんにも」

「あ、ああ。リディア抜いてみてくれ」

「は、はい………」

 蜘蛛姫リディアに剣を手渡し彼女も引き抜く。スルッと。

「ランス」

「トキヤ」

 男同士見つめ合い頷く。

「偽物だぁ!!」

「偽物です!!」

 そして、二人は叫び合う。私はフッと気が楽になった。恐怖で出た涙を拭う。

「くっそ!! 騙された!!」

「妹です!! だまして笑ってるんでしょ、きっと!! 苛立ちますね!!」

「本当にな!! 偽物ならただの嫌がらせだよ!! お前に王位継承権なんかないぞ!! 『偽物で遊んでろ』て事だろ!!」

「これは許せませんね!! 寝ずに悩んだのは何だったのか………はぁ」

 二人が帝国の姫の悪口を言い合う。嫌われすぎじゃないですか。あの子、今ならちょっと同情します。勝ちましたので。

「はぁ………どうする? その剣」

「偽物ですが業物なのは確かです。僕の剣にします」

「そうか………良かったな」

「まぁ贋作でもいい剣です。騙されましたし」

 二人の会話を聞きながら。ふと、私は何故か剣の名前を思い付く。

「じゃ!! 名前はエクスカリパーですね!!」

「ははは!! いいなそれ!! 贋作らしい名前」

「いいでしょう、聖剣エクスカリパー!! ぐふぅ………なんですか、その気の抜けた名前………くす」

 あまりの気の抜けた名前に皆で笑い合うのだった。





 帝国黒騎士団執務室。

「黒騎士団長殿。選定の剣を抜くことが出来た人は何人でしょうか?」

「ああ、姫さま。20名ですね」

「………少ない」

「少ないでしょうか? 王位継承権を持つものが20名です」

「もっと用意しないと………」

「王位継承権が多いと争いになりますね」

「蟲毒っと言うのはご存知かしら?」

「ええ、ご存知です。姫さまは人間でそれを行うと?」

「そうよ。私はなれない。だから…………選ばないといけないの」

「何故そこまで?」

「ネフィア・ネロリリス」

「あの、元魔王でしょうか? 現魔王の方が厄介でしょう」

「………女の勘。いつか必ず帝国の大きな障害になる」

「考え過ぎでは? 現段階ですでに魔国は障害です。現魔王の手腕は本物でしょう。最初は考えましたが………譲位はされ、聞けば隠居しています。譲位なので魔国は安定しているでしょう」

「…………そうね」

「それよりも良かったのですか? エクスカリバーを送っても」

「あれを誰も抜けないのがいけないの。だから贋作を用意させ抜かせている。皆、喜んでるわ」

「隠すだけで良かったのでは?」

「万が一よ。抜けない事に痺れを切らし絶対誰かが偽物と交換する。爪が甘い人はすぐに本物が盗まれ偽物とわかっちゃう。計画破綻、王位継承権も振り出しよ」

「…………ほう」

「だから、帝国内に無ければ比較しようがない。それにお兄様がもし、『本物はこれだ』と言って誰が信じます? 気持ち悪い魔物と付き合う男の言葉をね。例え偽物だと知っていても。抜ける剣を聖剣と信じたいでしょうから、王位継承権たちは。現に既に聖剣の名声は堕ちてますしね」

「はははは…………腹が黒い。知ってましたよ。私も」

「そうなの? まぁ結論。王は剣が選ぶのでは無い。人が王を選ぶの」

「その通りで御座います」

「………まぁお兄様にあげたのは皮肉も兼ねてるけどね。お兄様じゃ、『聖剣があっても何もできない』てね!! ふふふ」






「我が名はネフィア!! いけぇ!! エクスカリパー!!」

 ザッ!! しゅん!!

 剣を両手で振り、大岩を叩く。剣は折れず剣撃、剣圧で岩が切れた。私は驚く、魔法剣だこれは。

「スゴいよ!! 贋作エクスカリパー!!」

「お姉さま!!私もやってみたいです‼」

「トキヤ、帝国は恐ろしい鍛冶屋がいるようだね」

「ああ。これは…………帝国がまた勢力拡大するな」

 私はリディアに剣を渡す。そして彼女も大岩を一つ魔力を込めて叩く。またスパッと切れた。

「ランス!! 見て見て!! 私も出来ました!!」

「うん。見ていましたよ。いい太刀筋です」

「まぁまだアラがあるが筋はいい」

「流石、僕の奥さんです」

「俺の嫁のほうが良かったな」

「君は何を言ってるんだい?」

「お前こそ」

「…………」

「…………」

「決着をつけよう」

「いいぜ」

 胸ぐらを掴み合う。私とリディアは頷く変なところで張り合うんだから。

「トキヤ!!」

「ランス!!」

 仲良く、二人を見ながら一言。馬鹿馬鹿しい喧嘩を仲裁する。

「愛してる」

「愛してます」

「ん!? え、ええ………そうですね僕もです。すいませんトキヤさん」

「ちょ!?………ああ、悪かったな」

「嫁が一番でした。それよりも人前で言わない様にあれほど言ったではないですか。リディア」

「ああ、全くだ。人前で言わない!! 恥ずかしぞ!! ネフィア」

 彼らは胸ぐらの掴む手を放し照れながら私たちに話しかける。恥ずかしさで喧嘩どころじゃない。リディアと私はニコッと笑い合うのだった。


§都市ヘルカイト⑩ 木の下に埋まる呪物、ネフィアの膝枕..



 年の終わりが訪れた。時が経つのは早いなと感慨深くなる日々をすごし、昨年は商業都市で年末年始を迎え、あれから1年もたって幸せだった事を噛み締める。

「ふぅ、今年の厄は今年のうちに落としましょう」

 一応、依頼された聖職者の仕事と屋根裏のゴミどもを掃除するためにユグドラシルの木の元へ集めた。穴を掘り、その穴に投げ入れる。盾、剣、貴金属等肌に触れる物が多く人を不幸にするために作られた物もある。

「ネフィアお姉さん………あの。私の所に埋めるのやめて欲しいんですけど」

「ワンちゃん禁止令出すよ?」

「…………ぐすん」

「ご主人………ユグドラシル殿泣いておられるが………」

「大丈夫。そのまま埋めないから……ね?」

「うぅ………ワンちゃん」

「ご主人………お情けを」

「まぁ!! 待って大丈夫だから!!」

 最近、私が飼っているドレイクを本当に気に入ったようだ。ワンちゃんの手入れもしたり、一緒に寝たりとする。土竜とドリアードは相性が良いのだろう。ワンちゃんが私の服を引っ張る。不安なのだ。

「まぁその………見てなさい」

 私は気にせずに背中から炎の翼を広げ、そして掘った穴に向けて叫ぶ。

「フェニックス!!」

 背中から火の鳥が現れ、穴に入り。呪いの物品を燃やす。そして私は歌を詠う、鎮魂歌を。それを見ていたワンちゃんとユグドラシルが大人しくなり、私の声に聞き惚れた。穴の中は全て溶け合い、呻き声も聞こえなくなる。依り代が無くなったために全ての悪霊が諦めて、苦しむ魂も解放されてフェニックスに混じっていく。

「ささっと、転生しなさい」

 歌を終えフェニックスが雪がかかった木を溶かしながら旋回しゆっくり空へと上がった。そこで、小さな火種たちに分裂し、もっともっと空へと上がる。あとは女神に任せよう。

「お姉さまスゴい!!」

「さすが、ご主人」

「一応、聖職者ですから無理矢理怖い物を成仏させる事が出来るんです。後は埋めましょう」

「うん!! 私も、彼らには落ち着いて成仏して欲しいから………私の下で静かに眠って欲しいな」

 最初は嫌がってたユグドラシルちゃんも納得してくれたようだ。土を戻し、呪物だった物が埋まった。

「良かった~ワンちゃん禁止令出なくて。ねっ? ワンちゃん」

「ええっと………あまりご主人の元を離れるのは………」

「ワンちゃん………」

「ええ!! 嬉しゅうございます!!」

「ワンちゃ~ん♪」
 
 見た目が大きくとも中身はまだまだ子供。例え胸が大きく。色んな雄が金持ちの姫を狙っているとも知らずに無邪気にドレイクと戯れる。

「ワングランド。余が命ずる………ユグドラシルちゃんのお守りを任せよう」

「ご主人!? 捨てるのですか!?」

「ちがーう!! ユグドラシルちゃんは幼い。お父さんも仕事で寂しいでしょうから………私が必要になるまで一緒に居てあげて」

「あぁ~よかった。捨てられるかと思いました。ワン」

「あのね……私が言うのもなんだけど誇りってないの? エルダードラゴンでしょ?」

「誇りは翼と共に捨てた」

「ワンちゃんかっこいい!! かっこいいよぉ!! ワンちゃん!!」

「ご主人。嘘つきました。ちやほやされる今がいいのです。凄く」

「え、ええ。まぁうん………今がいいのですね。じゃ~私は帰りますね。晩飯の支度しなくちゃいけませんから。晩飯には帰ってくるのよ?」

「はい!! お疲れさまでした!!」

「ご主人、わかったよ」

 私はドレイクを置いてその場を後にした。 





「ただいま」

「おかえり。私にする? 私にする? 私にする?」

「めぇ~しぃ~」

「4択目を用意するとは………まぁ今日は鳥の香草焼きです」

「それで………いい匂いが」

「ええ」

 トキヤが帰ってきたのをいつものように迎える。ドレイクはご飯を食べ終わるや、ユグドラシルの元へ。一緒に年を越すらしい。そして、ご飯を食べ終わり。食器を片付けているとトキヤが耳かきを用意しテーブルに置いた。一言も喋らないが何をして欲しいかがわかる。

「待ってね。水洗い終わったら」

 トキヤはすでにソフィーで正座をして準備していた。

「そんなに期待されても………ただの耳掻きでしょ?」

「果たしてそうか? お前ならわかるんじゃないか?」

「…………わかるけど」

 自分の太ももの軟らかさは知っている。婬魔以前に男だったからだ。女性の暖かさも軟らかさも彼を誘惑する武器である。ただの耳掻きでも、男と女では感じ方が全く違う事を本能で理解する。

「男のときに一度も味わったことないもん」

「そっか………残念だな。めっちゃいいぞ」

「そうなんだ」

「早く」

「もう、急かさない」

 手の水を拭き取りエプロンを脱ぐ。スカートを折り曲げて短く調整して、生足で出来るようにする。テーブルにある耳掻き道具を持ってソフィーに座った。

「やっと来たか。頼むぞ」

 トキヤが頭を私の太ももの上に置く。手は右手だけ太ももを触る。

「あー軟らかい。いい匂い。もちもちすべすべ~胸も下から見えるのもいいなぁ~」

「トキヤ………耳掻きしなくても膝枕ぐらいするよ?」

「あのな……これで耳掻きして貰うのがいいんだよ。わかるだろ?」

「気付いたら女の子でした。わかんないです」

「ああ~にしてもいいなぁ~」

「最近、本当に変態さんだね」

「最近、本当にかわいいからな。お前が」

「嬉しい」

 頬に手を置いて笑みを彼に向ける。

「本当に可愛くなった。出会った時から」

 私は綿の先で耳を綺麗にする。トキヤの風の魔法を使えばすぐに耳掻きは終わるはずなのに彼は欲に忠実だ。

「痛かったら言ってね」

「わかったよ、ネフィア。それより年末だな」

「うん。そうだね………何か話したいから耳掻き頼んだんでしょ? な~に?」

「やっぱ、わかるんだな…………あれから1年だ」

「1年だね。色々あったね」

「色々あった。一番楽しい1年だ。2年前は死にかけたのになぁ~今回は危ない事はあったけどなんとかなったな」

「2年前が本当に辛かったけど………今ではいい想い出」

「おれは、2年前から予想外なのはこんなに好いてくれるとは思わなかった事かな?」

「トキヤ格好いいから仕方ないね」

「そりゃ~モテるし~モテるし~」

「嘘……じゃぁないよね。知ってる? 紫蘭さん………トキヤの事を………いいえ何でもない」

「………やっぱり?」

 昔にトキヤと一騎討ちした女性。強く気高く逞しく。私にも影響を与えた人の一人。居合いが得意な人で私もアレンジした技を持っている。

「うん。わかってたの?」

「いや。ここで初めて確証を得たよ………畜生」

 悔しがる彼。それを見て私も悔しい思いになる。何故あのとき止めなかったのかを………今になって少し後悔した。今なら話を出来るのに。

「胸、そこそこあったし………綺麗だったのに」

「鼓膜刺すぞ」

「冗談だって!! 冗談!!」

「愛した女性を愚弄した。怒るよ?」

「すでにめっちゃ怒ってる!!」

「はぁ………片耳無くていいね?」

「待ってくれ!! ネフィアの綺麗な声と歌が聞き取りづらくなるのはイヤだぁ!!」

「くぅ……ま、まぁ許しましょう」

 ごめんなさい紫蘭さん。こんなこと言われたら怒れません無理です。ニヤケが止まりません。

「はぁ………甘いなぁ私。こっちの耳はいいよ。反対向いてね」

「へい」

 トキヤがくるんっと寝返り打つ。トキヤの顔の向きが少し……あれですが。気にせず耳掻きを行う。

「ああ、めっちゃ見える。スカートの中」

「いちいち口に出さない。手元が狂うよ?」

「仕方ねぇだろ………太もも気持ちいいし今度は可愛い下着も見れる」

「ごめん。今本当に危ないから少し黙ろうか?」

「………釣れないなぁ」

「後でいっぱい聞いてあげるから」

「頼むぞ」

 私は夢中で彼の耳を掃除する。ちょっとハマったかもしれなかった。





 深夜。商業都市のように年末らしいことはこの都市はまだないらしく私たちはすぐにベットに横になる。逢瀬に関しては耳掻き後に押し倒された。

「トキヤ。起きてる?」

「起きてるぞ」

「まだ、おやすみ言ってなかったね」

「横になっただけだしな」

「…………今年最後です。何かないですか?」

「おう、おやすみ」

「起きたら殴るよ?」

「いやいや………姫納めしたし。何もないよね?」

「男に戻ろっかなぁ~」

「戻れるの?」

「願えば………ごめんなさい。無理です」

「だろうな~」

「むぅ。どうしてわかるの?」

「だって、俺のこと好きなうちは無理だろ」

 私は肯定しない。枕に顔を埋める。

「ネフィア恥ずかしいか?」

 枕に沈めたまんまで頷く。

「俺も恥ずかしいが。言わないと落ち着かないんだ。しっかり聞いてくれよ」

「ぷふぁ!! トキヤ~甘い」

「お前の方が甘い」

「…………じゃぁお揃い」

「そこが甘い」 

 深夜のテンションは何故か変になる気がする。月明かりに照らされた好きな人の表情を間近で見続ける。飽きることがなかった。

「ねぇ、美人は3日で飽きて。ブスは3日でなれるって知ってる?」

「知ってる」

「飽きた?」

「慣れはした」

「そ、そう………」

「だけど、慣れたからこそ。こうやって………」

 私のおでこに彼の唇が触れる。

「大胆になれる」

「むきゅ~」

 私はその大胆さにまだ慣れないようだ。家に落ち着き変わったのだきっと。余裕もある。

「ネフィア。すまん………眠気が来た」

「そ、そうなんだ。私は今ので鼓動が早くなちゃった」

「ん………ああ。本当にすまない。先に寝るわ」

「………うん。その………手を握って」

「ああ………」

「おやすみ。トキヤ………起きたら一番におはよう言うね」

「うん…………すぅ」

 私も目を閉じる。彼の大きな手の感触を感じながら。明日に希望を持って夢に潜るのだった。



§都市ヘルカイト⑪  呪いのお便り..


 ある日、苦しむ呪いを受けた。きっと誰かの嫌がらせだろう。紙に呪いの内容を紙に書き夫のトキヤに見せる。「呪い二文字しか言えない」と。

「そっか、またあの呪いか。静かになっていいな」

 断固抗議する。私は煩くない。

「じゃべってばっかだろ。お前」

「むぅ」

「いや、むくれてもなぁ………かわいいだけだぞ?」

 私は怒った。褒めてくれてありがとう。でも怒った。 

「よし、静かでよかった。愛を叫ばないのは平和だ」

「んん!!」

 「うがぁ~~!! 噛み付くぞ‼ いいのか!!」と叫びたいのに全く声が出ない。

「いつも噛んでる癖に」

 「甘噛みじゃない!! 本噛み!! がおぉ~」と思うが声は本当に出ない。

「あ~はいはい」

 私は「ちくせう…………!! いいこと思い付いた!!」と手を叩く。

「あっお前、何か良からぬ事を思いついたな………まぁ大したことじゃ………」

 心の中で「覚悟せよ、勇者トキヤ!!我は元魔王!!受けてみよ‼」を叫びながら、大きく手を広げる。

「すきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき」

「うるせぇえええ!! 1回でいい!! わかった、俺が悪かった!! 耳元で叫ぶな‼」

 用意した神に「すき」を殴り書いていく。嫌がらせのように。

「紙いっぱいに書くのかよ!? 裏面にも!?」

 我は魔王。すきすき攻撃で勇者を困らせるのだ。

「歴史上。お前以上に勇者に対して『すき』と書く、『すき』を言う魔王は出てこないだろうなぁ」

 頭の中で「我、もう魔王じゃないけどね」と思いながら頷く。

「まぁそうだな。どうする? 治すか?」

 紙に「大丈夫、困らない」と書く。

「本当か?」

「本当本当」

「そっか~」

「そうだよ~晩飯なにがいい?」

「鯖味噌」

「変わったの好きだねよね。私も好き、見た目へんだけどね。ドロッとして。でも味噌便利」

「ネフィア…………」

「はーい」

「治ってる」

「!?」

「ほら、しゃべって」

「この世で一番、大好きです‼ あっ!! 本当だ!!」

「もっと違う言葉を選ぼうね?」

「大好きより愛してるの方が良かったかぁ……失敗失敗。ごめんね?」

「そこじゃない、そこじゃない」

「わかってるわかってる。この世で一番が未来永劫でしょ? もう~好きなんだから~」

「わかってないじゃないか!?………まぁ治ったかいいか」

 ホッと彼が安心した表情をする。そういえば………好意は私の方が重いのだろうか?

「トキヤ………」

「ん?」

「未来永劫愛してるの私だけ? 私だけなの?………トキヤはその…………」

 スカートの裾を掴む。

「そこまで…………じゃ………ないよね…………やっぱり。私の方が想い強いよね? ひとりよがりでごめ」

「……………ネフィア!!」

「ひゃい!! い、いきなり叫ばないでビックリする!!」

ガシッ!!

 肩を掴まれた。

「な、なに?」

「最初、出会って倒さずに助けたのは誰だ‼」

「トキヤ?」

「魔王城までしっかり護って来たのは!!」

「トキヤです」

「その指に嵌まっている指輪は誰が贈った!!」

「トキヤから」

「姿形が俺の好みの女にさせたのは誰だ‼」

「もちろん、トキヤさんの趣味」

「お前の夫の名前は?」

「トキヤ~」

「ここまでしたのは理由を考えればわかるだろう……一度しか言わないぞ」

「う、うん」

「未来永劫、この世で一番好きであり愛している」

「………耳真っ赤」

「バーカ恥ずかしいんだよ。面と向かって言うのはな………なんで相思相愛の方がはずかしくなるんだよ。昔は普通に言えたのに」

「………も、もう1回お願いします」

「恥ずかしいんだけど……一度しか言わない言ったぞ」

「お願い」

「………未来永劫、んぐ!?」

「んん!!」

 私は背伸びして彼に首に抱きつきながら唇を合わせる。

「…………もう一度聞くんじゃ無かったのか?」

「ごめん。待てなくてフライングしちゃった………」

「…………」

「…………」

「トキヤ」

「なんだい?」

「もう1回しよ?」

「何度でも」






 ある日の昼前。絨毯でトキヤが昼寝をしている。どうしよう。

「ごはん。起こしにきたけど………イタズラしちゃおっか?」

 脳内で悪魔が囁く。やれと。

「やっぱだめかな?」

 脳内で天使が囁く。やれと。

「でも、トキヤが少し喜びそうなことしてみようかな? ついでに起こす事で」

 脳内で天使と悪魔が満場一致でやることに。寝ているトキヤさんの顔まで移動する。長いスカートを履いているのでフワッと浮かせて座り込み太股で顔を挟める状態でスカートを被せた。

「ふふふ、男なら憧れる行為だぞー」

「すぅ…すぅ…」

「ああ、でも寝顔が見れないスカートで………よし!! 挟もう!!」

 柔らかい太股で顔を挟み起こす。たまらんはず。

「んん……………んんんん!?」

「起きた? ご飯だよ?」

「なんだ、これ!? 柔らかい………太股………スカートの中か!?」

「正解。そうだよ~憧れるでしょ?」

「まぁ………こう!! 高鳴るけどさ‼ 普通におこしてく
れ。心臓に悪い!!」

「いや………だって………太股触れてるところ気持ちいいもん」

「婬魔め、これがいいのか?」

 トキヤがスカートの中の太股を擦る。ピクッとつい反応してしまう。堅くてごつっとした手の感触だが何故だろう。マッサージのような気持ちよさがある。

「い、婬魔だよ………気持ちいいの………これ」

「……………まぁ、ご飯たべようか」

「……はーい。あの終わったら……」

「終わったら?」

「色んなところ触れて貰ってもいい?」

「わかった。食べたらな」

「はい!!」

 元気よく返事をした。





 お薬をいただいた。

「ん? トキヤこれなに?」

「えーと一時的に記憶を深く思い出す薬。昔を思い出すにはちょうどいいしな」

「へぇ~どうしてそれを?」

「お前が男の時を忘れてしまってるからな思い出させてやろうと思って。今を忘れて一時的に昔に戻る感じだな」

「いらない!! 絶対飲まない!!」

「まぁ気休め。俺も記憶が曖昧になるとき飲んでるから」

「薬に頼っちゃダメだよ?」

「中身に言ってくれ記憶がごっちゃになるから整理だよ。あれは誰の記憶だったかなぁ~って」

「…………ちょっと飲んでみようかな?」

「水に一滴垂らすだけでいいからな?」

「え?」

 トキヤが余所見しているときに瓶の中身を全部飲んじゃった。

「全部、飲んじゃった!! あわわ!!」

「ネフィア吐くんだ!!」

「ちょ!! 頭が痛い!!」

「ネフィア!?」

「……………」

「んん?」

「馴れ馴れしいぞ。勇者………離れろ」

「大丈夫だな。気絶しないならなんとか大丈夫だな。頭は大丈夫か?」

「ああん? お前、敵の心配………うれしい」

「?」

「あっ!! 違う!! べ、べつに嬉しくなどない!!」

「記憶戻ってない???」

「そんなことより近い、離れろ‼」

「わかった…………あの。手を離して貰わないと」

 服の袖を掴み離そうとしない。我。

「は、離れん!?」

「はいはい、寂しいんですね~」

「ああ!! くっつくな抱き締めるな!!」

「お前だって手を回してる」

「あぐぅ………か、体が勝手に………お前のこと……あうぅ………すき……くぅ~」

「めっちゃ可愛い。昔のツンとした感じもいいな」

「お、男に可愛いって………言うな………」

「可愛い可愛い」

「な、殴られたいか!?」

「殴って貰ってどうぞ」

「………トキヤ」

「!?」

「いつも護ってくれてありがとう………ああ。そっか………結ばれたんだ。勇者と………なーんだ」

「ネフィア?」

「はい。トキヤ。ネフィアはここですよ」

「薬切れたのか!?」

「ああ、ううん~残ってるけど。昔の私がすぐ私になっちゃった」

「…………本当に。意外なことばっかするなお前は」

「うん!! トキヤ~キスして~」

「今が一番可愛いよ」

「うれしい!! 努力の結果だよ‼」

 なんにしても大好きである。


§都市ヘルカイト⑫ 残された天国の塔..



 年始から一ヶ月まえにギルドで重大な発見があった。北の凍れる大地より少し下、腐竜ナスティが治める地より西側。都市ヘルカイトから北側に不可思議な砂漠地帯がある。その、砂漠地帯で塔が立っていると目撃証言があがったのだ。新しいダンジョンである。

 未開地と思われた場所に文明の利器があり、都市ヘルカイトの冒険者は我先にとそこへ殺到。しかし、多くの者たちは帰ってこず。帰って来た者もあの塔はヤバイっといい。二度と向かうことはない。それをまた聞き………冒険者たちが無謀に立ち向かった。

 年始から一週間。その塔について緊急の会議がギルドで行われた。あまりに不思議な塔の調査をヘルカイトが指示したのだ。そして私たちは集められたのだった。私は紅茶を人数分。ギルドの獣人の受付とリディアと共に準備する。

「クッキー焼いてきたのもあります。今日はリディアが焼いてきました」

「お姉さま。紅茶4人分」

「はーい。わかったわ」

「すいません!! 私が準備しますから」

 受付の女の子の制止を聞きながらもテキパキと用意する。

「ネフィア、リディアさん。こっち側、作戦練る側な。主力だからな」

「えっ!? 私!! 洗濯物そのままで来ちゃいましたよ!!」

「お姉さまと一緒で私もです!!」

「おい!! 言ったじゃないか!!」

「いいえ!! ただ、『ギルドに来い』と」

「私も、お茶出しかと……」

「リディア。すまない………君の助けが必要だったんだ説明不足だったよ」

「は、はい!! ランスのためなら!!」

「ちょっとチョロくありません? リディアちゃん」

「お姉さまが言うのは『おかしい』と思いますよ? 鏡をお持ちしましょうか? それでじっくり眺められてください」

「ネフィア、そうだぞ。お前もチョロいぞ」

「そんなことは!!」

「ネフィア。俺の膝に来るか?」

「はい!!…………い、いや!! 違うんです!! 口が勝手に!!」

 私はチョロくない。チョロくないっと自分に言い聞かせる。ただトキヤが好きなだけなの。

「おい。早く座れ!!   話ができん!!」

「す、すいません。領主さん」

 私が怒られてしまった。仕方がなくトキヤの膝の上に座る。もちろん姫様座りだ。

「ネフィア。わざわざ俺の所に座るなよ……」

「言い出したのはトキヤです。顔がよく見えますよ。格好いい、お顔が」

「ああ~ええっと」

「何度も何度も見ても飽きません」

「そっか………ちょっと照れるな」

「おい!! お前ら二人の世界へ行くな!! 会議だろうが!! ふざけるな!!」

「ネフィアのお姉さん。僕、久しぶりに会ったけど変わってないね。それより悪化してるよ」

 デラスティに飽きられ、またまたヘルカイトに怒られたが、ここを動く気はない。ヘルカイトは溜め息を吐きながらそのまま話をし出す。

 メンバーは皆顔見知りで統一されている。領主ヘルカイト。腐竜ナスティ。飛竜デラスティ。人間のランスロット。蜘蛛女リディアだ。容姿で言うなら巨体の男。中性的な麗人の女性。小さな子供。帝国の王子。蜘蛛の亞人となり、多種多様な容姿を持っている。

「では………会議を始める」

 ヘルカイトが重々しく口を開いた。

「…………」

 しかし、じゃべらない。鼻を掻く。

「………うむ」

 今度は腕を組み、首を傾げて悩んでる。

「……………………う~む」

 話が続かない。

「えっと……」

「都市ヘルカイトの北。天国の塔についての会議です。領主に代わり私がお話をさせていただきます」

「……………おう」

「ヘル。何か話すかを考えておくのよ。普通」

「………………」

 私は直感する。すでにヘルカイトは尻にしかれつつある。いや………地頭の良さが決定的な差を広げてしまっている。流石、隠れて農場経営してたお方である。

「冒険者失踪が続いている現状。野良の冒険者では探索できない物と思われるわ。空からは見えず。歩き蜃気楼のように立つ塔。非情に強力な魔法がかかっている。塔自体が魔法具と見て間違いがない」

「あの、質問いい?」

「ネフィア?  何か?」

「どうして今になって?   長く住んでいたのでしょう?」

「空から見えないのよ。それに砂漠に入って少ししてから中心に塔が見えるようになる。危険なモンスターも多い中で見に行く者はいませんでした。私も危険な地域としてライン引きしてたの」

「空から頂上は?」

「まって。質問はあとで。最後まで話をするから」

 腐竜が壁に張ってある地図を用意し赤い印と範囲を書く。

「赤い印は塔がある場所。ラインは魔法攻撃とガーゴイルが現れるラインよ。今までいかなかったのはこういうのがあって危なかったからよ。頂上も目指したいですがすでに冒険者の竜人に被害が出てます。塔も障壁で壊せません」

「本当に塔自体がアーティファクトだな。神具かもしれない」

「トキヤ~そんなものあるわけないよ~」

「ネフィア。お前は一回見ている知っている」

「えっ? なんかありましたっけ?」

「一番始めにお前を連れ去ったアーティファクトが神具だ。魔国から一瞬で時空転移を完了させた羽。あるんだよ…………俺らに予想が出来ない物が古くからある」

「ええ、詳しいですね。私たちの時代にもありました。そこで、集めた理由がもうお分かりでしょう?」

 腐竜が皆をジーと見た。

「グハハハ!! そうだ塔を破壊する!!」

「我々によって塔の探索!! 危険物をほったらかしに出来ないわ。ヘルは黙って」

「は、破壊………ワシは破壊がいいと思うぞ?」

「ヘル、黙る。破壊できなかったでしょ?」

「……………」

「外と中に別れて探索する。パーティは外は私たちドラゴンが。中はあなたたちにお願いするわ」

 つまり、私とトキヤ。リディアとランスロットが中を探索するとなる。

「いいかしら?  報酬は商会から沢山いただける。目的は野良の冒険者の安全のために探索」

「嫌です」

 私はトキヤの膝上から降り、部屋を出ようとする。

「どうして?  報酬は約束されているわ」

「聞けば危険な場所であり、荒事は男のお仕事でしょう。私は家で帰りを待ちます。トキヤなら大丈夫でしょうし」

「イチゴジャム沢山買えるわよ」

「物で釣られるわけないでしょ?」

「ネフィアさん。僕からもお願いします」

「ごめんなさいランスロットさん。大人しく家を守ります」

「ネフィアお姉さま。私からもお願いします」

「リディア。別に男に任せてもいいと思うわ」

「領主命令だ」

「では、処罰をどうぞ。か弱い女性ですよ?」

 私のワガママにデラスティが呆れる。

「ネフィアお姉さん。竜姉みたいな事言うんだね」

「うーん…………ごめんね。家でのんびりしたいの」

 何故ここまで引き留められるのか疑問に思う。皆がトキヤを見つめ。彼が立ち上がり私の肩を掴む。

「トキヤがいれば大丈夫。信じてる」

「俺だけではダメだ。お前の力がいる」

「いる?」

「ああ、俺はお前が必要だと判断したから呼んだんだ。それに長い間、戦ってきた仲間であり最高の相棒であり嫁であるお前と一緒じゃないと嫌なんだ。頼む………ネフィア。俺と共に来てくれ」

「はい、喜んで!! 期待に答えます!!」

「「「チョロ!?」」」

 全員が机を叩き私を指差して文句を言う。

「ちょろくない!! ただ、好きな人に頼まれたら断れないでしょ!!」

「ネフィアお姉さま………それがチョロいっと言われるんです!!」

「まぁ、これで大丈夫だな。ありがとうネフィア。嘘じゃないからな………一応」

 トキヤが鼻を掻く。

「大丈夫、知ってるからね。真面目に見つめてたもん」

「ネフィア………」

「トキヤ………」

「はい!! そこのバカップル!! 席につくの!!」

 ナスティに怒鳴られて私は渋々、用意された席に座るのだった。





 次の日。塔の真下に私たちは集合する。荷物等をヘルカイトが背負って運んできた。馬車は砂漠では砂に足をとられてしまう。しかし、ドラゴンは途中まで飛んでこれるし荷物も持って貰えた。本当に便利でいつか空が「竜の荷物運びばっかりなったりして」と思う。

「よし、行くぞ」

 トキヤの声かけに足を踏み入れる。砂漠だが非情に寒く、入口に入った。

「荷物は中に入れとくぞ」

 ヘルカイトが荷物を塔の入口の中に置いておく。屋根があるところで保管。非常食の薫製された肉等や携帯の回復薬が入っている。リディアが大きいバックを背負い。それを見てナスティが皆を見渡し話始めたた。

「ヘルカイトと私。デラスティは私と外から攻略します。行きますよ」

「はい!! ナスティお姉さん!! 僕頑張るよ!!」

「うんうん………性悪火竜のボルケーノが育てたと思えないぐらい、いい子ね」

「ワシが育てた」

 ヘルカイトが胸を張る。嘘は言っていない。

「竜姉の悪口言わないで欲しいけど。来なかったから……仕方ないよね。あと兄貴のお陰だよ!!」

「おう!! 坊主!! 立派になったな!! がははは」

「ヘルみたいになっちゃダメよ」

「………おい。お前、ワシに惚れてるんじゃないのか?」

「ダメな所も好きなだけよ。にしても火竜が来なかったけども頑張りましょ」

 人の姿から3人、形を変える。紅い、鋭い牙の犬歯を持つヘルカイトと4枚の翼を持ちながらツギハギの細身の紫のドラゴン。そして、二人より小さく手が翼になっているワイバーン。ワイバーンは置いてある剣を拾い上げ脇に挿す。比較してわかる。ドラゴンとワイバーンの体格差。しかし臆する事なく一緒にいる。それは実力が認められているからだろう。

 実は私は知っている。今はあのワイバーンがここの誰よりも強いことを。

「では、行きましょう。中の探索、任せました!!」

「デラスティ。落ちるなよ」

「兄貴こそ」 

ぶわっ!!!

 砂が舞い上がり。3匹の魔物が空を飛ぶ。そして塔からガーゴイル達が現れ、激しい空中戦を繰り広げる。私たちはそれを横目に階段に向かう。

 階段も冷えており。暗い。

「よし。パーティのリーダーを決めるぞ」

「贔屓ではないけどトキヤ」

「トキヤさん」

「トキヤだね。僕は前線、張るからね。君は遊撃だ」

「…………了解」

 トキヤが地面にみんなの役割を書く。

「ランスロットが全ての攻撃を防ぐ盾役だ」

「そのつもりです。昔からの戦い方ですね」

「ああ。俺は2番手。アタッカーを努め、側面や機動力で翻弄。背後からでも仕留めるし、急遽の盾役もこなす………まぁ臨機応変だ」

 器用貧乏と言えばいいが結構便利なのだ。

「私は?」

「ネフィア、お前は聖職者として回復魔法を主体に後方支援を頼みながら魔法で支援が主だ。リディアは絶対回復役だ。ネフィアの攻撃時も回復だけを重視してくれ」

「わかりました」

「一応、登っていくが危険と判断すれば降りる以上!! 質問は!!」

「トキヤ!! 先に魔法の先行は?」

「そうだな。索敵はネフィアに任せる」

「わかったよ」

 私の肩に火の鳥がとまる。

「よし、行くぞ」

 トキヤが剣を構え。ランスロットが盾を構え。私は火の鳥を構え。リディアが杖を構える。

 目の前の階段から自分達は上へ上がるのだった。





「…………また来たか。我が塔に」

 塔の外と中で激しい戦闘の音が響き渡り我が塔を揺るがす。杖で地面に叩き作成していたガーゴイルとゴーレムを起こして向かわせる。

 状況を見るために視覚を伝達出来るゴーレムとガーゴイルを動かして様子を伺った。

 外の状況は3匹のドラゴンが飛び。ガーゴイルを次々に砕く。中は恐ろしいことに火の鳥がゴーレムを溶かす。土属性は火に強いと言う常識を無視したような状態だ。その魔法の主は二人の男に護られゴーレムの攻撃が届かない。

「…………ふむ。精鋭か」

 我は階段を登り屋上に出た後。冬の晴天の下で縁に立ち眼下遥か下を覗く。

「起動」

 杖を叩き、塔に指令を出す。迎撃のために石でできた槍が塔から生え下方に向いた。そして、それは勢いよく打ち出される。

「何人たりとも頂を到達させない」

 せっかくここまで伸ばしたんだ。横取りなぞさせない。これだけの槍の雨なら外の敵は大丈夫だろう。

「問題は中」

 目的はわからないが冒険者なら、何も無いと言えば帰るだろう。殺せないなら説得するまで。我は塔に自分の声を響き渡らせた。





 私たちは階段を上がる。上を目指す。ゴーレム等、魔造の魔物がそれを阻み続ける。

「なげーな………しかも多い」

「トキヤ!! ちょっと来て!!」

「なんだ!! 目の前のゴーレムを!!」

「ちょっとだけだぞ」

 私は彼を呼び寄せ、近付いて来たところ顔をつかんで深く彼の唇を奪う。

「んぐ!?」

「んっ………ん!!」

「ぷは!! ネフィア!! 今は戦闘中!!」

「遊んでない!! 大丈夫!! まだ、燃える!!」

 離れ叫ぶ。トキヤからいただいた魔力で継続戦闘が出来るようになった。

「フェニックス!! まだ燃え尽きるには早いわ!!」

 ゴーレムの真下から火の鳥が舞い上がりゴーレムを溶かしながら頂上へ続く階段を上がっていく。

「ネフィア………お前、魔力は無尽蔵か?」

「トキヤが居る限り燃え尽きないの!! 私の炎が取りこぼした魔造の敵をお願いします」

 人型のゴーレムとは違い。蜘蛛のような魔物が壁をはい廻る。冒険者の死体を蹴り飛ばしながら、ランスロットが剣を振り剣撃を飛ばす。

「たとえ、聖剣の贋作でも。意地を見せろ‼」

 剣が光りを放ち。剣圧が飛んでいき蜘蛛を真っ二つにする。

「はぁ……多いですね」

「ネフィア……上は?」

「音的にまだ………沢山」

「お姉さま。休憩しましょう!! ここで蜘蛛の罠を張ります」

 リディアが蜘蛛の糸を張り巡らして部屋を作る。そこで、リュックから薬品を取り出して彼女は魔力を補充した。私の魔力も残り少ない。冒険者の死体を祝福し燃やて供養したためだ。フェニックスの維持は違う力だが………音で探知する魔法と歌による強化魔法は魔力を必要とした。

「はぁ………あとどれくらいなんだ?」

「僕も驚いてます。敵の多さに」

「ランス。大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。戦場より気楽ですから」

「それを言ったら楽だな。俺の魔法………厳しいな。土属性は本当に魔法防御が堅い」

 魔法の相性が悪い。私の炎が通るのは規格外だからだと自負している。自信もある。

「外はどうなんだろうな?」

「音が激しいからまだ戦ってるんだと思う」

 窓は解放されている。そこから光が入り、フロアを照らす。階層は何層にも重なり続いていた。宝はない。解放された場所から音が聞こえるだけである。激しくぶつかり合う音。粉々に砕けた石が落ちるのが窓から見えた。

「先に………外が頂上へつきそう」

「ああ………!?」

 ひゅうううう!!

 外の風景に岩の槍が混じり出す。

「外は激しいな。攻撃受けているじゃないか」

「………早くあがろう」

 外はあまり進めないかもしれない。

「………何故、お前達は登る」

「!?」

「ネフィア!! 何処から聞こえた!!」

「ネフィアさん。リディア。僕の後ろへ」

「大丈夫です。この巣はそうそう破れたりしませんランス」

「声の主は…………上から」

 皆が上を見上げる。浮遊した瞳がギョロと私たちを見つめた。魔法具だろう。

「何故、上を目指す。宝なぞない、冒険者よ」

「………お前は誰だ?」

「我が名はアバオアクゥー。リッチだ。我の塔になんのようだ冒険者!! お前らが望む物はない!!」

「えっと………お家ですか?」

 私たちは顔を見合わせてばつが悪い気持ちになる。人様の家に忍び込んで暴れている。怒られる。

「…………いいや。ここは天国へ至るために造っている塔だ。用がないなら帰れ!!」

「天国へ? 天国があるのか?」

「僕もちょっとビックリですね」

「天国?」

「そうだ、天国だ。お前らに関係はないだろ有限な生者よ………帰れ」

「………確かに関係はないですね。トキヤさん」

「ああ、なぁ教えてくれ。何故この塔を作った? 何故………冒険者を始末した?  荒らされたくないからか?」

 瞳がギョロっと上を見上げる。

「聞いてどうする?」

「………俺らが来たのは知らない物の探索と冒険者の安否。あとは危ないものかどうかと判断しに来た。宝が目標じゃない」

「危ない物なら?」

「近寄らない。他の冒険者は生きてるか?」

「お前らが一番高い位置まで来た」

「なら………私が供養したので全員ね………」

 これ以上、上には冒険者はいないらしい。生存者ゼロだった。

「さぁ、降りろ。天国への道を邪魔をするな」

「…………私たちのここへ来た理由を話しました。次は天国へ行く理由を」

「……………ふん」

 瞳が目を閉じて黙り込んだ。何故か………悲しい気持ちになる。何故一人で、こんな塔を。

「リッチ、俺達は帰る。問題はないだろ」

「ああ、帰れば何もしない」

「ネフィア、火を戻して…………」

「嫌だ」

「ネフィア!!」

「話しなさい理由をアバオアクゥー」

「何故話す必要が?」

「天国を目指す理由は死ぬためですか?」

「…………それがどうした。我はリッチなり。死ぬことはない。死に場所を求めて何が悪い」

「何故死のうと?」

「……………」

 私の魂ではない心が反応する。勘が働く。

「知らん………」

「ネフィア!! 帰るぞ‼ 他人の家だろ‼」

「ええ、でも寂しい家です」

 愛の女神が囁く。「行けと!! 高みを上れと!! 翼を広げろ」と囁き、心を燃やす。

「頂上に居るのですね」

「………それがどうした?」

「直接会いに行きます」

「………愚かなり」

「ええ、愚かです。しかし、理由を知りたい」

「ネフィア!!」

「ごめん。皆は降りて、ここからは一人で行く。あれぐらい……行ける」

「…………その顔。行くんだな。ランスロット、リディアさん。ありがとう、降りてくれ」

「…………いいえ。最後まで付き合います」

「夫と同じです」

「だっそうだ。ネフィア」

「………ありがとう」

「愚かなり!! 何も無いと言っておる!!」

「ありますよ、きっと」
  
 私は本能のまま頂上を目指す。誰かが寂しく呼んでいる気がして。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...