メス堕ち魔王は拐った勇者を気に入る『長編読者向け』

書くこと大好きな水銀党員

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隠居編

都市ヘルカイト③

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§都市ヘルカイト⑳吸血鬼と聖霊..


 数日後、ヘルカイトとの会議でエルフ族長はヘルカイト都市で教会を新設することが決める。教会と言ってもギルドの支部に似て領民の管理をそこで行うらしい。モデルは都市インバスの教会と言う組織との事。

 そして話にあった都市インバスは今、勢力争いが激化しているが、表はおおむね平和らしい。教会が存続できるのは「教会のシステムが非常によい」との事だ。聖霊と言うシステムや聖霊から若い世代の教育が熱心であり、愛を啓蒙しているために横の繋がりも強力とのこと。

 そんな色々な話を商店の人と私は会話をし、情報を集めて家に帰ってくる。話す内容が多いほど井戸端会議では上を目指せるし話に相づちがうちやすい。

 でも、一番の理由はトキヤと話す時間が長く出来る。長く会話が続くのがいいのだ。そう「いっぱい話を聞いてほしい」と言う女の子のわがままである。

「はぁ………いけませんね。ついつい」

 甘えてしまう、それもとびっきり。この一瞬でも愛しさが溢れ出る。

ドンドン

「あら?」

 玄関を叩く音。お客さんである。

「最近多いですね。この前はエルフ族長でした………今日は誰でしょうね」

ガチャ!!

 玄関の扉を開けて外を覗くと………マントに身を包んだ紳士とそれに付き従う幼女が立っていた。

 幼女はお人形らしい可愛く紅いドレスに身を包み。深くお辞儀をする。実体があるように見える。

「こんにちは。姫様」

「こんにちはですね。姫様」

「ええ。こんにちはインフェさんにセレファさん」

 ご挨拶する少女は聖霊と言う生者に憑く幽霊と吸血鬼として血を啜る種族の公爵だ。肌が誰よりも白く。犬歯が鋭い。

「どうぞ、上がってください」

「はい。お邪魔します」

「お邪魔しますね。ネフィアさん」

 聖霊インフェは靴を丁寧に脱ぐ。靴を脱いでいる彼女のその行為に私は首を傾げた。

「幽霊なのに?」

「姫様、これはですね人形なんです」

「人形?」

 人形と言われ不思議に思っていると。階段の隅に座りそのまま動かなくなる。しかし、そこから抜けてフヨフヨとインフェちゃんが主人の場所に立ち絡み付いた。本当に幽霊だ。

「はい、インフェの体はですね。オペラ座との国交で人形劇が流行り。小さな人形を操る遊びですね………それを見て私は気付きました。憑依して動けるのではないかと」

「それで………これ?」

「はい。成果は抜群でした。しかし、非常に労力を使い1日数時間しか憑依出来ませんが皆。好きに人形で私たちと触れ合っています。ね、インフェ」

「はい、人形を通して………ご主人様の肌を触れたとき涙が出そうでした」

「これも愛の女神が降臨し。助言をくださったためです。姫様………女神が会いに来ます。それを伝えに来ました」

 来るとエルフ族長も言っていた気がする。トキヤに教えてもらったのだ。

 何故か、女神が降臨したらしい。理由はなんだろうか。

「お茶、用意するわね。都市インバスの話を聞かせてよ」

「わかりました。インフェいいかい?」

「はい。ご主人様………でも私動き疲れました。申し訳ないですがご主人様の中で眠ります」

「ああ、おやすみ」

 首についていた煙が消える。聖霊は生者から力を貰い受けているために今度は宿主に憑依したのだろう。

「………人形に憑依は大変なんですが。可愛くて仕方がいんですよ。私」

「だから、無理をしてしまう」

「はい………でも。幸せです」

 紅茶を淹れてセレファの前へ置き。一口、彼は啜る。

「ふぅ……美味しい。それで都市インバスですが嬉しいことに支援をいただき。今、最大勢力となりました。あと、死霊術士の負の遺産として四天王アラニエのゾンビがいましたが絶命させることが出来ました。インフェのお陰でね」

 「彼も相当の実力者だなぁ」と思いつつ話を黙って聞く。

「後ですね。オペラ座の怪人ことエリックが私たちと同門になり………色々と手伝って貰えてます」

「オペラ座の怪人さんが?」

「ええ、非常に働き者ですよ。姫様」

 彼も私を姫様と呼ぶ。流行っているのだろうか。

「にしても、エルフ族長もセレファさんも似てますね」

「似てますか?」

「口調とか、物腰の柔らかさが………そう、歳のとった男の人って感じで。でもエルフ族長は私にだけこうなんだと思う」

「実は私も似ていると思いましたが話してみると全く違っていましたよ」

「ん?」

「彼は夢を持っています。それにひた向きに向かっています。私は長い時をインフェと過ごすだけが望みですから熱さが違うんです」

「………初めて知った」

「隠し事は多いですね。彼」

 私は唸る。隠し事をするのは私に不利益を被るからだろう。

「教えてくれたりは………」

「残念ですが。約束しましたので………夢の端を掴んでいます」

「…………ヒント」

「ダメですね」

 それからも、何度も何度も聞くが答えてはくれなかった。




 私は会話の後でグレデンデ………エルフ族長に会いに行く予定だった。姫様はご飯の準備をすると言ったが、ごちそうになろうかと悩む。しかし、予定があり断念する。姫様は残念がっていた。

「ふあぁ~よく眠りました。姫様とは何をお話に?」

「都市での事を少々です」

「ご主人様。甘い話しはされませんでした?」

「いいえ」

「…………まぁ私もお話ししたいのですがご主人様が『用がある』と言ってましたので我慢しました」

「ありがとう。お陰で姫様の耳に女神が来ることをそれとなく伝え、都市インバスが変わっていく事を報告出来ました。ありがとう。インフェ」

 私は隣の憑依している人形に声をかける。手を握り歩きながら、都市の中心に向かう。

「お二人さん。こんばんわ」

 都市の中心、日が暮れ。カンテラ片手に大樹の木ノ下でグレデンデとその従者が待っていた。非常に姫様に似た美少女がお辞儀をし、私の従者インフェに近寄る。

「インフェさん。こんにちは。初めてではないですが………ご挨拶を再度。ネフィアです。フィアと呼んでください。姫様と同じ名前ですが………私は姫様と同じではないのです」

「インフェです。使用人をしております。フィアさん………移動しましょうか」

「はい」

 二人は席を外してくれる。私は支援者のグレデンデにお礼と、これからの話をした。そして………決まったあとに無駄話をする。

「姫様から、私はあなたに似ていると言われました」

「そうですか。そんなことはないでしょう?」

「『口調と落ち着きが』と」

「…………はははは!! 騙せているんですね!!」

「そうですね」

「ええ!! いやぁ~姫様の前で思いをぶつけるのをどれだけ我慢したか!!」

 私は吸血鬼だが司教をやっている。しかし、ここまで盲信は出来てはいない。

「はは、いやぁ~すいません。取り乱しました」

「いいえ。でっ……フィアは影武者にさせるのですか?」

「影武者にさせますよ。いつか、戻ってきた時用に。それと………ネフィアの名で。善行を行っていきます」

「わかった。ここの都市での布教はやめることにするよ」

「ありがとうございます」

 彼は盲信している。姫様に。そして………姫様を非常に高位な存在と信じて疑わない。

「太陽に賛辞あれ」

「愛の女神から愛あれ」

 新しい宗教が少しづつ魔国に広がっている。





「ただいま」

「おかえりなさい」

 私は玄関の速足で向かい。彼の剣を受け取った。壁にかける。トキヤはそのままリビングへと入りソファーに座った。

「トキヤさん。トキヤさん」

「ん? なんだ?」

「今日はインフェさんとセレファさんが来ました」

「ああ、ギルドにも顔を出してたな」

「インフェさん人形で可愛いんですよ‼」

「ありゃ~ご主人の趣味だな」

「ですよね~可愛い」

「………ネフィア。今の生活楽しいか?」

「ん? どうしました?」

「俺は楽しい」

「私も楽しいですよ………」

「そっか…………うん。わかった。お前の好きにするといい」

「なんですか? それ」

「………なんでもない」

 トキヤは含んだ言い方をし、静かに笑うのだ。言われないとわからない。だけど、彼は何かを考えている。考えて私に任せると言っているのだ。

「トキヤ~教えてよ」

 私は彼を後ろから抱き締め。囁く。

「教えてくれたら………今晩頑張るけどなぁ」

「……魔王に復帰したいか?」

「…………全然」

「それなら……お前の好きにすればいいさ」

「なーんだ。『トレインだめだなぁ』て言われてるんだ。なら私でもダメですよ」

 きっと、誰も魔王はできない。魔国は広いのだ。そして、魔王はすげ替えが簡単に出来る。強さで決まる。

「ネフィア。今夜は頑張るんだな」

「うん……いいですよ」

「覚悟しろ。寝かせないから」

「……はい。覚悟します」

 深く繋がって抱き締めてくれるから。覚悟なんかいらず全てを受け入れよう思う。今夜は………激しそうだ。

 
§都市ヘルカイト⑳① 聖樹ユグドラシル誘拐事件..

 
 朝、まだほんのり寒さが残るが段々と春の暖かい日差しが都市を照らす日。ユグドラシルの木の下でユグドラシルちゃんとワンちゃんと私で集まる。ユグドラシルちゃんが呼んだのだ。見てほしいものがあると。

「ネフィア姉さん!! 見てみて!!」  

 彼女は年相応の女の子のような仕草でぴょんぴょん跳ねる。大きな実った胸がはね上がる。体に似合わず心は幼女。体は大人な子。

「なーに? 木の根っこ使って呼んで」

「見ていて!! ワンちゃん、お手」

 ドレイクに手を出す。ドレイクが右前足で手を置く。

「良くできましたぁ!! 次はお座り」

 ドレイクが座る。座ったドレイクの頭に手を置き撫でる。

「よしよし。次は立って3回まわって、ワン!!」

 ドレイクが立ち上がり3回まわった。

「わん!!」

「ワンちゃん良くできました!!」

 ユグドラシルが抱き付きスリスリする。ドレイクは今はドレイクだが。元はヘルカイトと同じドラゴン。プライドは捨てたとは言っていたが流石に………いえ………尻尾めっちゃ振って喜んでる。まぁそんなことよりも。

「スッゴーい!! スッゴーい!!」

「でしょう!! ワンちゃん頭偉いね~」

 わたしはしっかりと芸が出来る事に驚いた。

「ワン!! いや、言葉わかるし。簡単だけどもこんなんで喜ばれるとちょっと………ええんですかお二人さん簡単で!!」

「ねぇ!! ユグドラシルちゃん!! 私も私も!!」

「ネフィア姉さんにお手」

 私はユグドラシルの手に手を乗せた。

「はい!! 違うよ!! 私もお手したい。ふふふ………」

「クスクス………」

 二人で今の流れを笑ってしまう。そうじゃない、そうじゃない。

「じゃぁ………ワンちゃん、お手」

「ワン!!」

「良くできました」

 スッゴい、楽しい。

「おねさま!! 次私!! おちんちん!!」

「えっ!? ユグドラシルお嬢さん!?」

「ワンちゃんおちんちんですよ!!」

「ご主人!?」

 何故か渋るワンちゃん。私たちは首を傾げた。

「ワンちゃん?」 

「難しい?」

「ワン!! どうにでもなれ!!」

 お座りし腹を見せて、両足を合わせる。それを上下に振りおねだりのように見えた。あまりの可愛さにユグドラシルが抱きつく。

「ワンちゃん!! 偉い!! 偉い!!」

「ワンちゃん。おやつ、何食べたいですか? ご褒美です」

「ご主人。大丈夫………お腹一杯です。こんなのでご褒美貰うのがスゴく辛いです」

 ワンちゃんは何故か遠慮する。気にしなくていいのに。

「ネフィア姉さん!! これでお金貰えるんゃないですか?」

「そうですね!! 芸を仕込んで売ればいいんです!!」

「そうそう!! おこつがい稼げますね‼」

 流石、商人の娘。お金の話だとすぐに真面目になる。

「竜人も見世物でもすれば儲かりますね。帝国で」

「お金必要な竜人に助言ですね。体を売ってこいと」

「………あんまり変なこと言うなよ」

 背後から声がし、振り返る。そこには呆れた顔をするトキヤさんがいた。

「あっ!? トキヤさん!!」

「トキヤお兄さん、こんにちは」

「トキヤさん。おサボりですか?」

「ああ、おサボりだ」

「ネフィア姉さん。トキヤさんは荒事担当です。喧嘩の仲裁役や竜人同士のぶつかり合いを止めるのがお仕事で、治安維持の衛兵の監視もしてます」

「えっ…………そうなの? いっぱい殺してるのかと」

「おい!! 俺をなんだと思ってるんだ!!」

「脱法殺人鬼」

「………よし、ネフィア。深く話し合おう。夫だぞ、一応な?」

 今まで仕事に関して聞いてこなかったから驚いただけで怒られそうになる。なんでぇ。

「ネフィア姉さん………そんな酷いこと言っちゃダメですよ………お兄さん、お仕事でここに来てますし」

「そうなの?」

「ああ、そうか。ユグドラシルちゃんは知ってるのか?」

「うん」

「なら、話が早い。帝国で世界樹を探しているっと噂が流れてるんだ。帝王は全く気にしてないらしいが……貴族がなんかやってるんだろ」

「世界樹?」

「そうだ。世界樹の何かを持ち帰り献上すれば金と名誉、上級階級が貰える」

「へぇ~でも。世界樹なんて何処にあるんですか?」

「わからんから探してるんだ。一応………ユグドラシルちゃんは世界樹じゃぁ~ないけど勘違いする馬鹿もいるし気を付けなって忠告に来た」

「知ってるよ!! お兄さん!!」

 ユグドラシルが大きい胸を張って威張る。こう、仕草は本当に子供だ。

「大丈夫です!! 治安いいですし」

「まぁ一応な……じゃ!! またな」

 トキヤが離れていく。私はその前に聞こうと思う。

「今日は遅くなりますか?」

「大丈夫。普通」

「わかりました。ワンちゃん帰りましょ。ご飯の支度しなくちゃ」

「はい、ご主人」

「バイバイ!! ワンちゃんまた明日!!」

「ワン!!」

 トキヤが仕事に戻っていく合間に私たちも家に帰る。夕飯を作るために。




「あの子が………この木の本体か」

「可愛いな。さすが世界樹の女神。立ち入り禁止を無視したかいがあるな」

「いつ拉致を行う?」

「人が消えたらだ」

「なら………今だな」

 俺たちは彼女の前へ躍り出た。






 夕飯の支度も終わり。あとは焼くだけになった。今日はカルデラ湖に住むマスっぽい魚をおかずにする。ムニエルだ。

ドンドン!!

「ん? はーい」

 この時間に誰だろうか。

「こんばんは……あっ。トンヤさん」

「こんばんは娘は来てませんか?」

 玄関前にカンテラを持った恰幅のいいオークが立っていた。娘とはユグドラシルの事だ。トンヤとユグドラシルは本当に親子であり。異種族の交配でも生まれる奇跡を起こした。そう、愛の深い御仁。そんな人が顔を出したのだ。

「いいえ、来てません。ワンちゃんの小屋は?」

「おりませんでした…………何処へ行ったのでしょうか? 噂があって心配です」

「………勝手に一人で出掛けたりしますか」

「いいえ。いつも一人ですが………この時間まで遊ぶ場合は教えるようにしつけてます」

 私は胸騒ぎがした。

「噂は最近?」

「噂は一月前からですね。ここへ伝わったのが最近です」

「………」

 噂が伝わるのは帝国からの冒険者が来て広める筈。

「音渡し…………だれか!! 聞こえる!! ユグドラシルちゃんがいない!!」

 私は目を閉じて音を出す。都市中に音を伝えた。少しだけ音を拾い聞こえるのは驚いた声と一緒に「何だって!?」と空に叫ぶ人々の声。ユグドラシルちゃんに聞こえていたら。現れるかと思ったがそんなこともない。

「この都市にいない!!」

「ど、どういうことですか!?」

「ユグドラシルちゃんにも呼び掛けしたけど反応がないの!!」

「そ、そんな!!」

 玄関前に隣家の人たちや、近くにいたのだろう人々が集まる。

「ユグドラシルたん!! 居ないんですか!?」

「どういうことです!!」

「ユグドラシル!? いったいどこに!?」

「姫様!! 俺の娘は!?」

「…………拐われた」

 集まった人々が騒ぎ出す。ユグドラシルはすでにこの都市の守り神みたいな所もあり、可愛いので慕われているのがわかった。そして………都市の象徴でもある。

バサッ!! ズサァアアアアアア!!!

 空からドラゴンが降ってくる。ヘルカイトだ。

「ネフィア!! 今の話は本当か!!」

「ヘルカイト領主様!! 本当です!! 何処にも居ないんです!!」

 理由を話す。私は全力で声を都市に震わせたがユグドラシルの帰ってくる声が聞こえない。

「一大事です!!」

「ネフィア!! 全都市に伝達!! ユグドラシルが拐われた!! 探せ!!……………この都市を見守る木の精だ!! 何度も何度も助けられてる!!」

「わかった!!」

 私は声を出す。「拐われたユグドラシルを探せ」と。





 夕暮れどきに都市に響く声が俺たちの耳に入る。馬車で待機していたがこんなにも早くバレてしまった。

「畜生!? なんだなんだ!?」

「もごもご!!」

「大丈夫だ!! まだ特定されてねぇ!!」

 緑の髪の女の口を布で塞ぎ、手を縛っている。逃げることはできない。木の実も葉も手に入れた。後は帝国に送るだけ。

「馬車を出せ!! 明日出発は取り止めだ!! 危ないが夜走る!!」

 夜は強い魔物が多い。視界も悪いが捕まっては元もこもない。走らせる。

バシン!!

「ヒヒーン!!」

 鞭を打ち、馬を走らせた。勢いに乗り西門にたどり着く。ゲートはまだ閉じておらず衛兵が立っているだけ。

「ん? なんだ?」

「なっ!? 危ない!! 止まれ!!…………もしかして!!」

 人の姿をした衛兵が叫ぶ。

「止まれえええ!!」

ボゴッ!!

 衛兵の一人がボコッと馬に蹴られて死ぬ。あれは死んだ筈だ。

「とまんじゃねぇえぞ!!」

「わ、わかってる!!」





「ぐへ!?」

「相方大丈夫か!!」

「大丈夫、痛いだけ………くっそ!! どうする!!」

「俺らで追いかけるか?」

「いや!! 持ち場を離れるわけにはいかない!! 咆哮を上げよう!! ヘルカイト様を呼ぼう!!」

ガオオオオオオオオオオ!!







ガオオオオオオオオオオ!!

 西門で竜の咆哮が響く。

「何かあったんだ!! ワンちゃん!!」

「ご主人!!」

 ヘルカイトが飛び立ち。私たちも走り出す。一部の人は手分けして探す手筈になった。西門には私たちだけが向かう。ワンちゃんに並走し駆けていく。

「ご主人!! 乗れ!!」

 並走から、背中に飛び乗りワンちゃんが駆ける。飛び上がって屋根を突き進み。西門の営舎に到着した。二人の竜人の衛兵が駆ける私たちに叫ぶ。

「怪しい馬車が通っていきました!! そのままで追いかけてください!! ネフィアさん!!」

「体張ったんですけど無理でした!! ヘルカイト様みたいにすぐには竜になれないですし!! とにかく!! 走っていきました!!」

「わかった!! ヘルカイト!! 空から!!」

「おう!! 何処のどいつだあ!! 我が領土でひとさらいなどを!!」

 空でヘルカイトが咆哮をあげて周りが震える。魔物たちも叫びに反応し飛び立つ。

「ご主人!! ユグドラシル殿の匂いです!!」

「当たり!?」

「匂いを追いかけます」

 そのまま舗装された道を駆ける。加速し、風を切る。私は意識を集中した。

「やべー!? ドラゴンの咆哮だ!!」

「何故ドラゴンが!?」

「上見ろ!! ドラゴンが追いかけてくる!!」

「逃げろ逃げろ!!」

「ワンちゃん聞こえた?」

「はぁはぁ!! ご主人………しっかり捕まって!!」

 私は首にしっかり捕まった。振り落とされそうなほど激しく駆ける。腰に衝撃が強くちょっと辛い。

「ご主人!! 見えた!!」

「ヘルカイトは?」

「ワシも見えた!! 先回りする!!」

 爆走する馬車が見える。荷物を引いているのか速度は遅い。追い付けたのはそれが理由だ。

「ユグドラシル!!」

「畜生!! 追い付いてきた!!」

「弓を引け!!」

 二人の人間が弓を構え私たちに向かって撃ち込む。

「そのまま………ワンちゃん。加速して」

「わかった!! ご主人!!」

 炎翼を展開しフェニックスを打ち出す。炎に矢を包み、機動をそらした。後方へ火の鳥が離された。追い付けないらしい。

「飛び移りたいけど………」

「ご主人………飛ぶよ!!」

 ドレイクが急加速し、跳躍。体を捻らせ馬車の荷台に飛び込んだ。

「ぐへっ!?」

「ぐあああああ!!」

 飛び込んだとき私は荷台に転がり。ドレイクも二人の人間にぶつかりながら荷台を滑ってくる。ユグドラシルが拘束され転がっているのにぶつかった。

「畜生!? 乗って来やがった!! んあっ!?」

「ワシの領地でなにやってるんじゃあああ!!」

 ヘルカイトが立ちふさがり。馬が驚いて2頭両方が転倒する。

「あっ!? ワシ!! やっちまった!?」

 転倒し、馬車も転倒。私たちが吹き飛ばされる。ヘルカイトは…………待ち伏せの仕方を間違えた。道を塞いでしまい。ヘルカイトに馬と馬車が叩きつけられる。馬車の荷物も外へほおり出された。

「えっ!? う? キャアアアアアアアアアア!!」

「ご主人!! ぐげええええ!!」

 ヘルカイトを飛び越えて地面を転がる。めちゃくちゃ痛いのを回復魔法で和らげて立ち上がちゃ。泥だらけになりながら怒る。

「ヘルカイトおおおおおおおおお!!」

「ヘルカイト!!!!!」

 ワンちゃんと一緒に叫んだ。

「わ、悪かった。それよりも!! ワシの領民は!!」

「そだった!! ユグドラシル!!」

 土の道路に拘束されたユグドラシルが転がっている。ピクリともしない。

「ユグドラシル!!」

「ユグドラシル殿!!」

 近付き肩を持ち上げる。ダラリとし、全く動かない。

「えっ!? うそ!! うそ!!」

「ユグドラシル殿!?」

「どうした!?」

 私は冷や汗が出る。もしかして…………殺されてた。

「やっと追い付いた!! 皆さん私の娘は!?」

 ドレイクに乗ってオークが現れる。焦った顔で。

「……………」

「どうしたんです!! あっ………」

 私は顔を背けた。

「ゆ、ユグドラシル…………あ、ああ。どうして………」

「わ、わしが………間違ったばかりに………」

「………うぅううう………ごめんよ………父さんが悪かったから!! 目を醒ましてくれ!!」

 オークの顔が涙で濡れる。そして………膝が崩れるのだった。





 私たちはトボトボ都市に戻ってくる。ヘルカイトは一足先に帰っているはずだ。

 私たちは無言。オークは生気を失い。ユグドラシルの亡骸を抱き締めながらここまで来た。

「はぁ…………」

 外傷はない。だから回復魔法も効果はなかった。今さっき、まであんな笑顔だったのに………

「ぐし……ぐし……ユグドラシルどのぉ………」

 ワンちゃんと私は泣きながら都市の西門を潜った。日はすっかり落ち。竜人の衛兵がカンテラで照らしていた。その照らしていた姿に私たちは足を止める。

「おかえりなさい。ワンちゃん。ネフィア姉さん。父さん」

 出迎えがユグドラシルちゃんだった。鬼灯の実の形をしたカンテラを持っている。

「「「えっ?」」」

 全員ですっとんきょんな声が出てしまう。

「へへ………こんな沢山の人に心配されるし。その………こんなにも泣いてくれるなんて嬉しい」

「ユグドラシル!? ユグドラシルなのか!! お父さんだよ!! わかるか?」

「う、うん。ごめんなさい…………その………うん………」

「どうして!?」

「ユグドラシル殿!? えっ? この亡骸は?」

「あの………私の本体。あれですよね?」

 ユグドラシルが大きい木を指差す。

「そのぉ………体はえっと………実なんです」

 私たちはユグドラシルに抱きついたのだった。






 次の日

「ワンちゃん!! 貸してくれるのネフィア姉さん!!」

「ええ。もう………あんな騒ぎはこりごり」

「同じくですユグドラシル殿………ご主人っと言えばいいのですか?」

「ええっと。ユグドラシルって呼んでワンちゃん!!」

「はい!! ユグドラシル」

「………任せたねこの子」

「はい、ご主人」

「主人はあちらですよ?」

「いいえ、ご主人はご主人です」

「うん!!………譲るよりその方が私もいいと思う。ワンちゃんはみんなの物!! でも!! 私が一番だからね‼」

 何事もなく。彼女はこの都市を謳歌する。なお、もう1つの亡骸は彼女のファンの一人の高値で取引され抱き枕になったらしい。やましいことはあると思うが。親子はお金で売ってしまった。

「ワンちゃん、お手!!」

「わん!!」

 でも、気にしてないようだし。私は悩むのをやめるのだった。






「ランス………今回の事件はやっぱり………」

「ええ、そうでしょうね。伝説に頼らないといけないほどに生い先短いのでしょう」

「だよな………じゃぁ跡取り出てくるな」

「いいえ。出て来てませんね」

「どうして?」

「皇帝陛下を延命する手段を考えてますから」

「そっか………」

「世界樹を探す理由はそうなんでしょう。義父上はもう………」

「…………………荒れるな」

「ええ、荒れますね。帝国か……世界か」



§都市ヘルカイト⑳②女神エメリアの降臨とネフィアの新しい命..


 ある日唐突に私に神託が降りた。「聖樹ユグドラシルの下で待つ」と。今日もきっとユグドラシルは遊びにでかけている。閉鎖され都市の住民しか立ち入りを認可されていない場所で私は待った。

 あの連れ去り事件から数日後。皇帝が病に伏したと聞いた。連合国との戦争も控えている噂もある時期に私は胸騒ぎがする。しかし………そんなことを気にする必要はない筈なのに気になっていた。

「もう、魔王では無いのですから気にする事もないのに」

 大きい大樹を見上げそろそろ花が咲く時期だと思う。駆け足で過ぎた日々に何度目かの想いを馳せて。

「…………あぁ………こんなにも彼を愛するなんてね」

「それが愛ですよ。ネフィア・ネロリリスさん」

 凛とし、透き通る美声で芯の通った声。何度も何度も励まされた声に私は振り帰らず言葉を聞く。出会いなんて唐突だ。私の夫みたいに。

「嫉妬、増悪、性、絶望とも強く結び。人を殺める毒にもなる素晴らしいものです」

「優しさ、感謝、夢、希望とも強く結び。人を生かす薬にもなる素晴らしいものでもありますよね」

 私は振り返る。振り返えった先にキラキラと魔力が反応し空気を輝かせ乱反射させていた。服装はまるで今からでも、舞踏会にでも出るかのような優雅な純白のドレス。

 しかし、舞踏会に出るお上品な服装ではなく露出が多い服で男を絡めとるような妖艶さも持っていた。大人な女性。優しく、包みこむような柔らかそうな体。婬魔と変わらない容姿に見える。

 また、胸は大きく開き谷間を全て見せ、後ろからはスカートは長いが前は短く綺麗な白いソックスと足を魅せる。背中からは白翼がはためき、魔力の羽が舞い散った。長い髪はウェーブがかかり、教会の女神像にそっくりである。

「女神エメリア様。はじめまして」

「ええ、はじめまして。ネフィア・ネロリリス」

「女神さま………」

「はい」

 私は胸のうちを明かす。ちょっとばかり言いたい。

「女神って破廉恥なんですね? 淑女よりも遊んでそうな感じですよ。その姿」

「初対面の女神を前にそんなことを普通に言いますか? あなた」

「尊敬してます。でも………どうみても服装が男受けを全面に出してます」

「………………」

「破廉恥」

「まぁその……理由あるんです」

「大丈夫です!! 愛の女神さんなんですから!! 私も婬魔ですからわかります!!」

「そうです。一重に愛といっても明るいものじゃないです。目を瞑りましょう」

「愛欲ですね!! 愛欲に訴える服装ですね!!」

「…………」

「さすが女神さま!! 男を釣るツボを知っていらっしゃいます‼」

「…………………ああああもう!! そうです!! 男の劣情も愛には欠かせないのです!! そこから始まる愛の物語もあります!! あなた!! 思ったこと言わないで!!」

「さすが愛の女神さま!!」

「…………はぁ。女神を前にして恐れ知らずね」

「だって………お姉さまみたいな人ですから。婬魔っぽくて親近感沸きます。女神さま私と同じですよね?」

「そうよ!! 婬魔と一緒で……淫れたのも好きなの!!」

 顔を赤らめて女神が悔しそうに言い放った。

「私も大好きです。性欲は必要ですよね?」

「もちろん」

「さすが女神さま!!」

「むぅ。清く正しくあろうと思ったのに」

「無理ですよね? 色恋沙汰は楽しいですよね。腐竜の良かったですよね?」

「楽しい。良かった………何年も何年も諦めていてのあれは美味しかったです」

 私と女神に向けて両手を掴む。

「ユグドラシルのお母さん」

「悲愛でしたが………奇跡を起きましたね」

「吸血鬼と幼女」

「長い間、一人ボッチだった二人が………輪廻を外れ。長い時を一緒にっと言う願い。受けとりました」

「天国の塔」

「不死者に会わせましたよ!! 今はもう………悔いはなく転生してるでしょう」

「蜘蛛姫と王子さま」

「貴族の重圧から解放され。魔物に愛する心を持たせた。正真正銘の王子さまです」

「…………仮面の男」

「過去虐げられていた二人。でも、助けられ、一人はもう一人を愛で助け。仮面の中の男を目覚めさせました」

「マクシミリアン」

「あれは………その………私が消えてた話なのでごめんなさい。でも………いつか黄泉で出逢える事を約束しましょう」

 私は今まで見てきた恋愛沙汰を話す。女神はそれを糧にしていた筈。手を離す私たち。

「女神は目覚めた」

「深い愛によって」

「色恋沙汰は」

「女の嗜み」

 二人でハイタッチをする。しかし、まだ感触はなかった。幻影のように。





 私はお家に招き入れる。非常に目立つ女性で皆が見ていた。「騒ぎになるかな」と思ったが私を見た瞬間に普通に何事もなく生活に戻っていった。誰とも聞かず関わらない。自慢したいが………触らぬ神に祟りなしっという事だろう。

 家につき、椅子に座ってもらう。フワッと女神は座りスカートの中が見えた。やっぱり恥女ですよトキヤさんこの人。

「私はまだ、信仰は浅く。長時間現世に留まるのは無理です。消えるときは一瞬です」

「大変ですね」

 何となく理解できている。女神の法則も構造も頭の知識に刻まれていた。それは誰の知識だろうか。

「お茶どうぞ」

「ありがとう………でも、飲めないんです。体がないので。精神体みたいな物で精霊と同じような状態なんです」

「知ってます。でも、お気持ちです。お供え物です」

「………お気持ち………ありがとう」

 ニコニコ、暖かく包み込みそうな微笑み。男なら一瞬でコロッと行くだろう。無防備そうな微笑み。

「腹黒そう………男を釣るために」

「!?」

 女神の顔がピリッと固まる。

「ごめんなさい。私もこんな、なのかなぁって………ぶりっこ演じてる訳ゃないですけど。ひんしゃく買いそうで」

「えっと!! あれです!! 男受けしそうな女性は女性の敵もたいなのです!! だから……女の性としてなので!!」

 何か隠して居るように焦る。

「敵ですね?」

「み、味方です!! お願い!! 信じて!!」

 この女神可愛い。しどろもどろで説明するなんて。知ってるのに。

「冗談ですよ。私は聖職者………裏切る事はしません。ただ………ええ。ちょっと緊張してるのでしょう」

 私は首についているアクアマリンの宝石を握りしめる。昔にトキヤがくれた物。トキヤがいないときはいつもつけている。寂しさが紛れるのだ。

「ごちそうさまです。もっとトキヤさんを愛してあげてくださいね」

「もちろんです。女神さまは愛をいただくんですね?」

「ええ、それが糧になります。信仰者の愛で私は潤うのです。感謝してるんですよ。目覚めさせてくれたから……………」

 「それはどうかな?」と私は思う。聞こえた声に導かれてここまでやって来たのだ。操られてきっとここまでこれた。

「違うわ」

「えっ?」

 女神が目を閉じて申し訳なさそうに喋りだす。心を読まれたらしい。

「私にあなたを操れる能力はないの………今も過去も」

「で、でも……」

「助言だけ………応援だけ……しか………出来なかったの。だから!! 切り抜けたのはあなたたち二人の力だから!!」

「女神さま?」

「ごめんなさい………女神と言っても………何も出来なんです。まだ……やっと姿を取り戻しただけ……ん!?」

 私は恐れ多いかもしれないが女神の頬に手を伸ばした。綺麗な顔に私と同じ綺麗な髪。感触はないけど。暖かく感じる。

「3人の力です。ありがとうございます。見守ってくださって」

 私は微笑み返す。実際、あの助言でどれだけ救われたか。女神も私の手を上から触れる。

「暖かいですね………ネフィア。あなたに憑いて良かった」

「女神様に会えてよかったです」

 二人でクスクス笑い合う。

「ええっと………時間もないですから。私が知り得た情報をあげようと思います」

 女神の笑みが消し、沈黙。私も両手を添えて大人しく座った。黙って話を聞く。

「あなたの見てきた疑問に答えます。人間が信仰する女神が本当にいます」

「…………」

 見てきたことを思い出す。私が思い描く神とヨウコ嬢をたぶらかした女神と本の中に失敗した勇者を詰める女神は違う事を。

「本の中を覗きました。あれはあなたが行ったことですか?」

「違うわ。私……そんなこと出来ないの」

「じゃぁ……世界を牛耳ってる人がいるんですね」

「ええ、帝国の教会。人間の女神様ね」

「トキヤを導いた女神………」

「いいえ。トキヤさんは決別した。勇者である以外は何でもないんです」

「この世界はおかしいです。なんであんなに魔王に殺意が?」

「人間至高の女神が人間の繁栄を願ってなにが悪いんです?」

「…………魔族にとっては邪神ですね」

「ええ。歪んでるんです。この世界は色々な勢力が過去からもやって来ます。あなた、落ち着いてますね? 普通なら世迷い言で驚くのに」

「私は自分で考えるのは苦手なんだと思います。感情が先に走ってしまうこともあって………世迷い言でも本当の事でもわからないんですよ。トキヤさんに任せっきりなんです。今だって………トキヤさんの帰りを待ってます」

「彼に判断を任せると?」

「彼の判断なら死んでも悔いを残さないように我慢できます」

「愛?」

「愛」

「…………」

 女神が目を閉じて口元が緩む。そしてその綺麗な唇から物語が紡がれる。

「ある所に…………一人の男性がいました。男性は愛国心が強く。軍に入り日の丸の国を隣国から防衛する任務についていました。そしてその戦いで命を失いました」

 ああきっと、この物語はトキヤの物語なのだろう。

「頭に一発の銃弾。そして、暗転。そこから姉は彼を拾いました。幾多の勇者が失敗する中、今度は彼を転生させる………つもりでした」

「つもりでした?」

「彼は満足していた。国は残りました。だから………一つの能力を選びました」

「なんですか!! 知りたいです!! 彼の強さはやはり!!」

 何か能力がある筈。

「全てを忘れ。1から生まれ落ちる能力」

「えっ?」

「前世を忘れ。女神を忘れ。ただ………生まれ落ちただけです」

「それって能力?」

「能力です」

「…………じゃぁ何もないわけだ」 

 少し、格好いい能力ではないので残念なようで。「彼らしいな」と思う。そう考えたら堪らなく愛おしい。前世を捨てる潔さも。

「私は深淵でそれを見ていました。能力を言い切った彼は格好良かったです。だから彼に憑りついた」

 最初っから私についていた訳じゃないんだ。

「彼は冒険者の親の元に生まれ落ちました。結果、誰も到達出来なかった魔王を倒す直前まで行けた初めての勇者になりましたね」

「初めて?」

「ええ、初めて。みんな帝国で死んだり。魔王を倒すことを諦めたり。オペラ座を作ったりとね。誰も魔王に到達は出来なかった。どうして彼だけが到達出来たか………知ってるよね?」

 それは占いの結果を信じたからだ。それだけでここまで来た。

「『彼女』に恋をしたからよ」

 歪んでいるほど彼女を追い求め。誰とも変わらない者が勇者となった。

「ええ。夢の誰かを愛したから」

「…………いまだに出会ってないですけどね」

「だけど、お陰であなたはここにいる。私も占いであなたに憑依を移すことが出来たわ。暗がりでずっと寂しかったしね」

「…………はい。勇者の占いで導いたのは感謝します」

「う~ん、何度も言うようだけど………私は何もしてないの。私が操って私を目覚めさるために行動なんて私はしてないわ。教会で、女神像作ってほしいなぁ~ぐらいよ………それも。やっとの力で」

「じゃぁ……じゃぁ!? あれは全部!?」

 占いからのトキヤの道は険しい。あんなのを洗脳せずに歩ませるなんて。それを私は。

「…………奇跡って信じますか?」

「………信じてます」

「全部、あなたの運だけで起こった奇跡です」

「…………じゃぁ。本当に」

 私は何故か涙が溢れてしまう。赤の他人の空似でここまで。そして………奪い取った。二人への罪悪感が満ちていく。思い出そうとは思ってなかった。思い出したら………絶対。おかしくなる。

「喜びなさい。その愛は女神を越えます。彼自身、女神を裏切り続けている。誰よりも深く愛しているから」

「………報われますか………彼。会わせてあげたい………彼女に………」

「たぶん会うでしょう。そして……いいえ。予想は口に出すべきじゃないね」

「………女神さまは占いの人をご存知ですか?」

「あなたでしょう………でもわからないんですよ。あなたであってあなたではない。何が違うかわからない。答えは彼しか持てない」

「………私は酷い女ですね」

「酷いのも愛です。だけど………目を瞑りなさい。忘れなさい」

「どうして? 彼は忘れられない!!」

「いいえ。忘れられなくても。諦めるしかなくなる事が起きてる。あなた、健康に気を付けなさい」

「ふぇ?」

「イチゴジャム。食べ過ぎはダメよ。感じてるでしょ?」

 私は体が変なのは知っていた。女神が来るからの変調だと思っていた。椅子から立ち上がる。涙を拭って腹を擦り、お腹の当たりに熱が生まれていることに気が付く。

「奇跡って信じますか?」

「女神さま………ありがとうございます」

「いいえ。これは授かり物。異種同士は難しいですが愛があったからこそです。おめでとうございます。これで彼は逃げれません。私が出来る女神らしい事ですね」

 暖かく、女神は微笑み。私はその場に崩れ落ちて涙を流す。女神が頭を撫でた感触がわかり………ゆっくりとその暖かみが消える。女神は帰っていった。

「うぅ……うう………」

 トキヤには全く言わなかった。欲しくなかった訳じゃなかった。だけど………デキるなんて思ってもいなかったし。それを悲しむのも嫌だった。

「ありがとう………女神さま」

 私は泣きながら、お腹に触り続けた……ずっとずっと。



§都市ヘルカイト⑳③二人の距離..



 家でくつろぎながら俺は悩んでいた。最近、ネフィアが昼間は機嫌がいいのだ。聞けば女神に会ったらしい。イチゴジャムもあまり食べない。昔は一瓶を1日で消していたのに。

「春よ~遠き春よ~瞼閉じればそこに~愛を~くれし君の~なつかしき声がする~♪」

 台所で窯を見ながら歌を謳う。機嫌がいい日はいつも何処で知ったのかわからない歌を謳う。料理を忘れて謳うことに熱中する日もあり。それで失敗する日もあった。その日は涙を流してしょげるのを慰めたりして自分の機嫌がよくなる。女の涙はいいものだと思いながら。

 ただ最近は、ため息を吐いたり。悩んでいるのが見てとれた。夜の行為も最近は断られている。機嫌がいいのか悪いのかわからない。そう不可思議なのだ。

「ラザニア出来たよ」

 窯から大きな、平たく四角いお皿を取り出す。炎は炎の鳥のさえずりとともに彼女の体に吸い込まれる。あっつあつのお皿をお皿の上におき、小皿も用意する。テキパキと料理をする嫁に感心した。

「うまそう……」

 知らない料理も多く、懐かしさを覚える料理も多く…………こんな飯がうまい嫁を大事にしたいと思う。

「いただきます」

「いただきます」

 手を合わせる姿は少女のようで大人なようで………俺に対して甘い微笑を浮かべる。最近はレシピ本を出版し都市に貢献したのと一緒にお金をいただいているとか。

「………ネフィア。俺に隠し事ない?」  

 その事で悩んでいるかもしれない。にしても小皿に分けたラザニア………めっちゃうまい。ひき肉はなんの魔物だろうか。いや、今はネフィアの隠し事だ。

「ため息が多い。俺でよければ相談に乗る。お、女の悩みはわからんがな」

 声が震えてしまう。生理の相談は辛い。わからない。

「ん?………ごめん!! 何か喋った?」

「えっと。ため息が多い。俺でよければ相談に乗る」

「あっ………うん。うん。そうだね」

「?」

 やっぱり何かを隠してるし、それでモジモジしている。あまりの可愛さに頭が蕩けそうだ。気を付けろ奴は元魔王。可愛さ攻撃で殺されかねない。

「トキヤ………『可愛さ攻撃で殺されかねない』とか………そのぉ………変なこと言わないで……意識しちゃう」

「口に出てたか………すまないな」

 心の中で恥ずかしさを我慢し叫ぶ。

「…………」

「…………」

 ネフィアが下を向いてモジモジする。沈黙が支配するが何故かこの空気の甘さに胃がもたれそうだ。これはいけない。ラザニアの味がしなくなる。

「「あ、あの!!」」

「………」

「………」

 俺は「くっそ!! なんでタイミングが合うんだよ!! まーた!! 沈黙だ!! 沈黙してしまうじゃないか!!」と考えながら強敵を前にしどろもどろいになる。最近の嫁は可愛い。可愛い過ぎるんだ。

「くぅ………可愛い可愛い過ぎるんだ!!………畜生………」

「と、トキヤ。口に出てるよ。恥ずかしいよ? 家だからいいけど……」

「………すまん。外で頭を冷やしてくる」

 俺は食事を残したまま立ち上がり。部屋を出て階段を上がって屋根上に向かう。屋根へ出たとき、ユグドラシルが魔力で輝いてるのを見ながら夜の風に当てられる。

 火照った体が冷め体育座りをした。ああ、辛い。何故だ………この前まで普通だった。だけど………色っぽさがネフィアから出ている。

「変わった………そう」

 天真爛漫は落ち着いてきて、少女が大人になろうとしている。そんな………感じ。いつも俺がいない所での凛々しい姿を見れる。そう大人になった。

「…………何が変わったんだ?」

 俺は悩む。夜の風を感じながら。いつも悩むときの癖で屋根に寝そべった。





「はぁ…………」

 私はお腹を擦る。女神から伝えられ、あれから数日。トキヤに何も言えず。相談できず困っている。

「なんでだろう………」

 怖い訳じゃないんだ。それよりも嬉しい。だから………彼の顔を見ると見惚れてため息が出るし、見惚れて何も考えられなくなる。

「あああ!! こんなんじゃただの恋する乙女です!! 女神の餌です!!」

 頭を押さえる。トキヤも悪い。可愛いとか言うんだから。

「………ええっとええっと。早く言わないといけません………でも言葉が出なくなるんですよねぇ~」

 どうしようかと、悩んだとき………そういえば春が来て丘が綺麗だと聞いていた。

「よし!! 勇気を出してそこで告白しよう!! 待ってね。お母さん頑張るから」

 お腹を擦りながら。決意を固めた。





 やばい………屋根から降りられない。悩んだが悩んだが………何故かわかるのは愛してる事ぐらい。何が俺はしたいんだろう。空を見上げながら胸騒ぎだけが心を焦がす。

「トキヤさん。ご飯冷めちゃいますよ」

「あ、ああ。すまないな………ご飯中に抜けてしまって。不味かったわけじゃないんだ。美味しいが………何故かな……恥ずかしさがあったんだ」

「………へぇ~」

 ひょこっと窓から顔を出す嫁さんにビクビクしながら喋る。

「トキヤ………隣いい?」

「いいぞ………」

「ちょっと冷たいからすぐに要件済ますね」

「お、おう」 

「………じゃっぁ。キスしよっか」

「…………おう」  

 嫁が目を閉じて待つ。俺はドキドキしながら何度も重ねた唇を奪った。深く深く。

「ありがとう………愛してる」

「おう………」

「ねぇ、トキヤ。次の休みいつ?」

「………明後日休もうか」

「うん。お願いね………色々伝えたい事があるから」

「わかったよ。覚悟しとく」

「うん………きっと驚くよ」

 金髪を靡かせ。彼女は笑った。





 言った、明後日デートすると。私は食器を片付けながら歌を謳う。

 嬉しいことは沢山。可愛いことも沢山。

 これからも、いつまでも二人で幸せになれる事を信じる。

 奇跡って信じますか?

 私は、今が奇跡って信じます。

 お腹を擦りながら。女神に祈る。

 明後日………告白が出来ますように。


§都市ヘルカイト⑳④ 見つけた答え..



 休日。ランスに言って休ませてもらった。春の冬から目覚めた魔物が跋扈する時期に休むのは「迷惑なのでは?」と思ったが。この都市は逆に魔物を狩り、食べる気でいるので魔物たちは危険を察して離れているので「そういうことはないか」と思い直す。

 その結果、冒険者に混じり領民が旨い肉を求めて狩りにで続ける。冒険者だけ被害が出ているのは都市民の屈強さが伺えた。俺も参加を促されていて、春に狩り祭りを行う準備とかもお願いされている。

 そんな時期なのか軽装で都市の壁の外を出歩くことが出来る。白いドレスのような白金騎士の私服に身を包んだネフィアに連れられて都市の北東側の山道を登る。軽快に登る彼女の後をなんとかついていく。

 今日は剣を二人とも持たずに出てきた。魔法職で二人。大丈夫だろう。

「トキヤ!! こっち!!」

 明るい声で彼女が呼ぶ。山道は整備され、丸太で階段を作り、上まで続いている。展望台として用意されているのかもしれない。

「待ってくれ………」

「遅いぞ。ト・キ・ヤ」

 俺の名前を愛しそうに呼ぶ。最近、名前にも感情が乗っている。呼ぶ名前も甘く聞こえた。

 木々の合間を抜け、山を登りきった先は丘が広がっている。春の日差しに照らされた色とりどりの花。丘の上はまるで花畑のように整備されていた。

「ヘルカイトが教えてくれたの。特等席だって」

「ああ、確かに………アイツが好きそうな場所だな」

「うん。悩んだりしたら来るんだってさ」

 丘の上に立つ。すると目の前には都市ヘルカイトの全貌が確認でき、ヘルカイトが好きな理由が思い付いた。大きな樹に外周をぐるりと巻く壁。壁から離れて小さな大衆浴場の湯気が立つ砦。沸き上がる湯を採取し貯めておく水道。飛び交うドラゴン。小さな農場、牧場。全て見渡すことが出来る。

「ああ、ヘルカイト。本当に好きなんだな……この都市」

 心地がいい場所になった都市が見える。

「好きだよね。私も故郷は大好き………この場所は天国の塔を見て作ったんだって。そして………地図に記入は来月になるらしい……展望台として」

「誰もいないのはそういうことか」

「うん」

 一部しか知らない素晴らしい場所。静かな展望台から世界を見渡して彼女の肩を抱いた。







 私は彼に体を寄せて時間を過ごす。太陽の日差しが暖かく世界を包み込む。

 トキヤが肩を放して離れる。花畑を進み帰り道を進んだ。もう帰る気だ。

「ネフィア、風が強くなる。帰るぞ」

「う、うん………待って!!」

 言わなくちゃいけない。だから、そのためにここへ来た。目の前の光景に目を奪われてる場合ではない。

「ネフィア?」

「待ってね………そこで」

 後ろから愛しい声が私を呼ぶ。私は色々考える。なぜだろう………考える度に過去が全て思い出される。色んな出来事が想い出が胸に溢れる。

「えっと………」

 今までの護ってもらった事などいっぱい感謝したい。

「ん………」

 今までの沢山の優しさを感謝したい。

「…………」

 今までの沢山の愛を叫びたい。

「……ふぅ」

 私は多くの物を戴いた。感謝をしたい。「ありがとう」と言いたい。でも、言葉が多すぎてまとまらない。あれもこれもと止めどなく溢れる。

「…………時間ないよね」

 家に帰ってから話そう、沢山。

 私は丘上で振り返った。

 そして私はずっと言わなかった事を、初めてその言葉を口にした。






  
 風が騒がしく、荒れてしまう気がする。胸騒ぎもし、俺はネフィアから離れ帰ろうとする。

 慌ててついてきてくれる事を期待しての行動。しかし…………彼女は前を向いていた。

「ネフィア、風が強くなる。帰るぞ」

「う、うん………待って!!」

 呼ぶがそれでも来ない。ため息を吐いて手を延ばそうとした瞬間。

「ネフィア?」

 俺は瞼に焼き付く光景を思い出した。

「!?」

 この場所は初めて来た。だが知っている。

 この場所は初めて来たが。いつもいつも探していた場所。俺は口を押さえる。

 夢で何度も見た。何故、今になって思い出したのか。

「???」

 彼女の隠し事に俺は悩んでおり。周りを見ていなかったからか。

「えっと………」

 ネフィアが悩んでいる。俺は鼓動が速くなり。全身が硬直する。動けない。

「………ふぅ」

 俺は幻聴が聞こえるほど記憶を思い出す。記憶なのに鮮明に思い出す。「彼女の名前は? 綺麗だった、綺麗な笑みで短い言葉を伝えたのに聞き取れなかった。なんであんなに綺麗に微笑むのだろうか? 自分に向かって。自分だけに向かって」と昔の俺の言葉が鮮明に昨日のように思い出せる。あの綺麗な情景を。俺は………そうだ。諦めていた。

「待ちなさい。その道は茨道よ。行くの?」

「………行きます。知りたいですから」

 そうだ、知りたかった。厳しい道だとしても。「言葉と笑顔の意味を知りたい」と願ったのだ。

 俺はここから始まった。全てを裏切ってでも彼女を救ってあげたいと思うようになった。なんでもやった。強くなるために魔王だとか関係ない、救うためだけに。

 元から雲を掴む話だった。諦めもついた筈。忘れられなかったが諦めた。ネフィアを愛したから。


「…………時間ないよね」


 胸がざわつき、世界が彩られる。春の太陽が彼女を照らす。女神のように。


 丘上に、一人の女性が立っている。風に金色の髪を靡かせる背中姿。お腹を擦っていた。

 そして彼女は振り返る。

 困った表情からパッと明るくなり短い言葉を発した。たった………知りたかった言葉は3文字だった。














 「あなた」と。

















「うぅ……ああ。はは…………」

 私は振り返り。想いを乗せ、恥ずかしさも含めてあなたと言った。

 その瞬間。私の旦那様は膝を折り、花畑の中心で泣き始めた。

「えっ? えっ?」

 いきなり、大の大人がはばからずに泣き崩れたのだ。笑いながらも、泣きじゃくる。子供のように。

「………」

 何かあったかわからない。でも、悲しい涙じゃないのはわかる。

 私は彼の元へ行き。黙って抱き締める。暖かい涙を流しながら私を抱き締める旦那様。

「ありがとう。ネフィア…………ありがとう」

「………うん。何がどうしたの? あなた?」

 強く抱き締めながら泣き。掠れた声で言う。

「至った………夢に…………君を選んで良かった。愛してる………愛してるから………ずっと……愛してるから」

 珍しく、恥ずかしげもなく。言い放つ。

「うん………よしよし。頑張ったね」

 まるで大きい子供。だから………背中を擦ってあやす。ずっと……頑張ってきたんだから。いいと思う。





 俺は膝から崩れた。放心し気が付いたら泣いていた。

 ああ、そうか俺は雲を掴んだ。目の前が霞んだ。

 なんて………大きい響きだろうか。愛しい言葉だろうか。そして、いるのかお腹に新たな命が。

 全て………今までを事を内包した響きだった。

 なんで微笑でいる理由も全て理解できた。あのときの俺に向かって微笑んだのではない。今の俺に対して微笑んたんだ。

 だから………誰にも出来ない微笑みを向けることが出来るんだ。

 ネフィアがゆっくりと歩いてこっちに向かってくる。微笑みながら。そして、ゆっくり抱き締め包んでくれる。

「ありがとう。ネフィア…………ありがとう」

 俺はそれに、強く抱き締め返す。

「………うん。何がどうしたの? あなた」

 掠れた声で言う。

「至った………夢に…………君を選んで良かった。愛してる………愛してるから………ずっと……愛してるから」

 そう………君は俺だけの姫様だ。俺だけの。

「うん………よしよし。頑張ったね」

 ネフィアは女神のように俺に優しくしてくれる。無償の愛を捧げてくれる。だから………俺は戦い続けられる気がしたのだった。 


§都市ヘルカイト⑳⑤元魔王妊娠..




 私の旦那様は最近すこぶる優しくなった。丘で泣き崩れた日から一段にだ。あのときは帰ってもずっと泣いていて疲れて寝るまで喜んでいた。お腹に子がいるのもわかったらしく。それが異様に嬉しいそうだ。

「うーむ」

 まだ、お腹は大きくない。擦りながらちょっと不安になる。本当に「ママになっていいのか」と「元男なのに子育ては出来るのか?」と悩んでしまう。

「………やめよう。悪いこと考えたらダメ」

 そう、宿ったのだから。私の元に来てくれたのだから。「変な事は悩んじゃだめ」と思う。

「…………………お腹、すいたなぁ」

 家事も済ませてボーッとしていたらもうお昼だ。家事の後。あの泣き崩れた旦那さまを思い出していた。

 男の本気泣きは、なんでああも………美しいのか。心に残り続ける。ああ、いけないご飯食べないと。

「ふふ。ママね。お腹すいたからパン食べるね」

 台所でパンを1枚焼く。朝食と同じブレッドを1枚切り。窯で焼く。両面に焦げができ、いい匂いになったのをバターを塗る。

「ちょっと軽いですけど………美味しいんですよね」

 イチゴジャム瓶の蓋を取ってスプーンで掬う。あまり多くを接種しないように気をつけないといけない。あとでトマトも食べよう。

「ママね………イチゴジャムがだーい好きなんだよ」

 お腹の子話しかける。一人じゃないってだけで不思議な感じがする。

「あなたのお父さんがね。旅先で食べさせてくれたのが、すっごく美味しくて好きになっちゃったの」

 イチゴジャムのパンをほうばる。んんんんおいちい。

「美味しいね。味わかるかな?」

 何も答えない。でも………美味しいと思ってる筈。

「………ふふ。しっかり大きくなるんですよぉ~」

 どんな子が生まれるか気になりながら、私はパンを食べ終える。

「私とお父さん。どっちに似るかな~女の子なら男を釣れる子に…………お父さんなら、残虐非道に?」

 ま、まともにならない。

「えっと………お父さんにもママにも似てはいけません!! いけませんよ!!」

 焦ってしまう。このままではいけません。

「どうしよう!! 女神様に相談しよう」

「ネフィアちゃん……私に言われても。なんでそんなに変な所を考えたんですか? もっと良いところありますよね?」

「優しい」

「そうそう」

「胸が好きで、愛撫が長い」

「…………離れましたね」

「女神様は好きじゃないんですか?」

「………み、見る分には」

「ど変態女神め」

「あなたが質問したんでしょ‼」

「あんな人になっちゃっダメですよ~」

「ちょっと!! 女神をなんだと思ってるの!!」

「色欲の女神」

「ま、間違っちゃいないですけど!!」

 私の家にフワッと彼女が入り込む。やっぱり服装、破廉恥。目に毒である。

「女神さま。女神さま。出産時期は?」

「えっと………冬ですね」

「長いですね」

「人間と同じか短いですよ」

「………頑張ろ」

「はい。頑張って愛を育ててください。この前もスゴく美味しかったです。トキヤさん………信仰してくればいいのに」

「美味しかったんですか?」

「ええ。占いでずっと探してた答えを見ましたので」

「えっ?」

 それって………もしかして。あの夢。

「良かったですね。追い求めた女性は今のあなたでした」

「じゃ、じゃぁ………夢が叶ったの?」

「はい。彼の願いは成就しました」

「ただいま!! ネフィア!!」

 玄関から大きな声で私を呼ぶ。

「ふふ。おいとましますね」

 女神様が消え。リビングに旦那様が焦った顔で私を抱き締める。

「どうしたんです?」

「ネフィア。この家に魔方陣を張っているんだ。変な者がいるからな。何か変なことされてないか?」

「女神は何もしないですよ」

「女神が………いるのか?」

「はい!!」

 トキヤには言ってある。

「そうか。塩を用意しよう」

「えっええ~」

「……やめさして」

「用意しよう!!」

「……ネフィアさん!?」

「旦那様の好きにするといいよ。塩程度でどうにかなる事はないでしょうし」

「精神面でどうにかなるんです」

「ネフィア。大丈夫だよな? 誰と会話してるんだ?」

「うん。大丈夫大丈夫」

「………大丈夫だよな?」

「旦那様………心配しすぎ。それより良かったね」

「ん? なにが?」

「答え………見つかったんだね。ずっと探してたの。泣くの!?」

 トキヤがポロポロと涙が落ちる。良かった。

「うん。罪悪感あったんだよ………諦めてたの知ってたし。私………泣き虫だもん」

「あっ……ええっと。その、感謝してもしきれないから」

 優しく私を彼は抱き締める。暖かい。この人の子を孕んで良かった思う。

「それよりも……お仕事大丈夫?」

「大丈夫、もう行く………抜けてきたから」

「女神なら大丈夫だから………魔方陣片付けてね」

「俺が心配だからダメだし。女神はお前だけだろ? それに、もうお前一人の体じゃないんだぞ?」

「は~い」

「行ってくる」

 頭を優しく撫でてくれる。愛おしく。

「行ってらっしゃい旦那様」

 私は笑顔で送り出したのだった。





ドンドン!!

「はーい。どちらさん………あっ!? 領主様!?」

「お、おう」

 玄関に顔を出すと大きな巨体の男が立っていた。

「私もいます。こんにちはネフィア」

 後ろに隠れるように腐竜の麗人が姿を現す。

「話は聞いた。その………あのとき腹を殴ってすまなかった」

「聞きました。蹴りあげたそうですね」

「そんなことを謝りに? いまさら?」

「あっああ………もしも………な」

「大丈夫ですよ。あのときはまだお腹にいませんでしたし。たぶん?」

「そ、そうか………」

「ありがとう。ヘルを許してくれて………許されない事だったのに」

「えっと………私も悪かった事です。お茶をお出ししましょうか?」

「すまんが、仕事がな」

「ええ、お仕事まだなの………また今度。私に教えてね」

 気になるらしい。妊娠について。

「はい」

「ヘル………頑張ってほしいなぁ」

「ぜ、善処する」

「えっ!?」

「な、何故驚く……」

「い、いえ………ヘル。いつもはぐらかしたり無視したりしてたのに………どうした?」

「…………まぁそんな日もあるさ。ワシそろそろ行くぞ。悪かったな」

「うん。またね」

「ええ、また」

 私も笑顔で返事をし、約束をするのだった。





 今日は色々とお客が来る。隣のハーピーからアラクネの姫にユグドラシルとその父親。皆が私に挨拶とお腹の経過を聞いてくる。まだ、お腹も大きくならないうちから。彼らは私を気にかけていた。気がついたら日は沈み夜となっていた。

「ただいまぁ………ぜぇぜぇ」

「おかえりなさい、あなた。それより、どうしたの?」

「依頼終わって速足で帰ってきた。ネフィア大丈夫だったか?」

「あっうん。昼間に一回会ってるよね?」

「ああ、心配で心配で」

「…………あなた。大丈夫よ」

「う、うん」

 私はふと思う。

「トキヤ………トキヤのお母さんとお父さんはどんな人だった?」

「俺の親かぁ」

 リビングに座りながらトキヤが首を傾げる。

「子供そっちのけで遊びに行くバカだった。でも冒険者として幸せに死ねたと信じてる。まぁ……無駄に勇敢で……蛮勇でもあったかな」

「そっか~」

「辛い日々だった。父さんは優しく厳しい人だったよ」

「………そっか」

「どうした?」

「………ねぇ。トキヤ。お父さんってトキヤみたいな人を言うのかな?」

「あっああ………お前はそっか。知らないんだよな」

「うん」

「俺は夫でお前の父親にはなれないなきっと」

「………お父さん」

「ん?」

「トキヤお父さん」

「………なんだい?」

「………ごめん。なんでもない」

 私に不安が付きまとう。

「ネフィア。お父さん演じてやろう」

「えっ?」

「予行演習だ。俺もいつか父親になる。そのときの」

 トキヤが席を立ち頭を撫でてくれる。

「ありがとう。大丈夫だよ。それよりもなんでトキヤが好きな理由が一つわかちゃった」

「おっ? 何?」

「トキヤって年上でいつも怒ったり、優しくしたり教えてくれたり………お父さんみたいな人だったんだよ」

「………まぁそのやっぱり年の差があるしな」

「おとうさん」

「上目遣いで言わないでくれ」

「へへ、照れてる」

「俺だって照れる時は照れる」

「おとうさん。お腹触って」

 トキヤがお腹を触ってくれる。ああ、何て愛おしいのでしょうか。服の上から撫でられるだけで気持ちいい。

「んぅ………」

「甘い声出てるけど気持ちいいのか?」

「うん………」

 私は頷く。目を閉じて微笑みながら彼の唇を奪う。

「おとうさん。きっとお腹の子、喜んでる撫でられて」

「一番喜んでるのはネフィアだろ」

「うん………おとうさん」

 甘い声で、おとうさんと呼ぶと体が暖かくなる。

「へへ、生まれてくる子が羨ましい」

「どうして? 俺が幸せにするからか?」

「うん………トキヤをおとうさんって呼べるんだよ?」

「お父さんっと呼んだって大丈夫なんだぞ。熟練夫婦ならな。それまで一緒だ」

「うん………絶対にお父さんって呼べるまで一緒にいる」

 お腹を擦りながらもう一度、唇を奪ったのだった。


 
§都市ヘルカイト⑳⑥ネフィアの日記..




 私の旦那様が私に妊娠日記をつけるように言われた。高い紙のメモ帳。綺麗な皮のメモ帳だ。

 妊娠中の事を記入するらしい。「自由にしていい」と言ったがそれも困ると言うもの。

 何を書こうか悩んだ末にその時その時の事を書こうと思った。妊娠日記なんだからお腹の子を書こうとも思う。




 4月××日。暦は人間が作った物を扱う。

 最近、眠気がひどい。家事の途中等でもすぐに眠気が来る。夜も寝ているのに。

 ソファーで横になったら起きたら旦那様が帰っていた。「ご飯も何もない」と言って泣いてしまう。涙腺も緩い。そして旦那様が酒場から買ってきていた物をいただいた。気付いてたらしい。

 旦那様は優しく本を買ってきた。たくさんの妊娠考察本。実話を買ってきた。二人でソファーに座って読んだ。眠気が来るのは妊娠初期らしい。

 その日、キスは4回だった。





 今日はつわりと言う吐き気がすごく大変。花を摘みに行く回数も多い。胃液も何もないのに吐き気だけがあり。出ないものを出そうとする。無理にご飯を食べても吐いてしまう。

 辛いが旦那様も仕事を頑張っている。旦那様に私は子を託されてる。頑張らなくちゃ。日記を書いてる途中。気をまぎらわせられる。吐き気は治まらず。ソファーで横になった。だるい。

 これも症状らしい。辛い症状が多いけど、何故か我慢出来る。嬉しいからだ。お腹を今日は何度も何度も撫でた。吐き気やだるさは全て体が変わる事を理解してる。婬魔だからこそ変化は鋭い。

 今日も夜まで寝た。吐き気は治まり。ご飯を詰めた。

 回数も2回と少ない。


 

 今日もつわりが酷い。でも、夜は治まるので助かっている。

 トキヤは今日は仕事を休んだ。皆に心配されてだ。祭りが明後日執り行われる。一生懸命稼ごうと働いている。危なげに。

 トキヤは頭を掻きながら落ち着かない様子だった。私の方が落ちついてる。そのためか家事を全般やってくれた。真っ赤に染まったナフキンで不安になっていたが。洗い忘れなだけでカピカピ。もちろん捨てる。妊娠初期の出血だ。あれ以来生理はない。

 トキヤは頑張る。本当に自分を顧みずに頑張る。

 昔からそうだ。勝手に恋して頑張って、力を欲して色々な事を調べ。風の魔法を修練し、戦場の前線で戦い続け、禁術にも染めた。暗殺が得意な後方の人物なのに無理して通した。

 勇者らしくない。何も持たずに誰よりも強くなろうとした。結果、私の旦那様。私の王子様になることが出来たという。

 皮肉なものです。女神から能力もらったどの転生者より強くなってしまった。女神もさぞ悔しいでしょうね。

 今日は回数が多い。上下会わせて10回。

 貯まっているだろう物を私は戴いた。白くべたつくなにかを。
 
 婬魔だからなのか、それとも愛しい旦那様の物なのか苦味や臭いはあるが飲み込める。すごく美味ではないが愛おしい。

 子供もわかってるのかな。おとうさんのお味。

 美味ではないが大好きだ。好きに調教されたとも言う。懐かしい…………最初は全てに嫌悪感を抱いていたのに。
  

*  


 今日はつはりはない。イチゴジャムが無性に食べたくなった。何故か一瓶丸々。抑えようとするが何故か美味く感じない。でも「食べないと」と言う変な気持ちで食べていた。謎である。

 それよりも、最近。トキヤが家事を行う使用人を雇った。その使用人はささっと家事を済ませてしまう。

 暇である。なので、悩む。何をしよう。

 結果、日記を書くことにする。今日あった事は書いた。今度は色々と思い出したことや考えを徒然なるままに書いていこうと思う。

 3回、朝、夕、夜




 今日はつはりが酷い。蛇男のヤブという名医者が来た。初対面だが、実は知っている。ユグドラシルの母親やオークのトンヤの知り合いだ。お腹の様子を見に来たらしい。トキヤがスカウトした医者だ。

 なんの魔法か中を確認し問題なく成長しているとのこと。うれしい。確認後、医者は帰った。

 旦那様に報告すると。喜んでいた。

 今日は6回。





 今日は順調。調子が良くてなれてきたと思う。

 書くことも決まった。旦那様の事を書こう。

 トキヤ・センゲ。自分が知り得た情報で東方の名前で千家時也と思われる。父親は東方の出と言っていたが名家であり予想では家を捨てたのだろう。

 冒険者の両親。きっとすごい恋愛の末で結ばれた筈だ。それにしても運が悪い。両親を同時に失うなんて。私も人のこと言えないが。しかし、両親も両親で冒険にでずっぱりなのは如何なものか。

 トキヤもその変な所は受け継いでる。普通に占いでの幻視でここまでするのは変を通り越して狂人だ。感謝してる。

 トキヤの人生は凄い。憧れの黒騎士入団から魔法使いをやめ剣士修練し、戦争で実地で鍛え。冒険者で鍛え。一人で戦うことを強いて結果。禁術も行い。勇者となった。化け物である。愛してる。

 それからも結構変。私を女にし、自己犠牲を徹底させる。これからもだろう。意思が強い。愛してる。

 とにかく、書いてわかったことは私の旦那様は変態ドMのイケメンで狂人の化け物だ。

 まぁそれ含めて愛してるから。お腹の子がいるのがうれしいのだけれど。


 今日は3回普通だったが。深い深いキスだった。





 今日は誰について書くかは決まった。私たちの出会った事柄を思い出して書こうと思い付いたのだ。

 私が女性になり。全ての事を母のように教えてくれた人物。生きた英雄。エルミア・マクシミリアンについて書こうと思う。夢で知り得た情報を今さらまとめる。

 マクシミリアン家とは。帝国に唯一無二の自国領統治を許された名家の中の名家である。規律正しい騎士の教えが古くから伝来されている。帝国に並ぶ古い騎士団を要し、昔は帝国と並ぶマクシミリアン王国を築いていた。

 マクシミリアン王国の滅亡は壁による保護を行っていなかった事による魔物の襲撃。帝国もその時甚大な被害を出したらしい。城のみが堅い。しかし………民無くしては国は在らず。一部の逃げた人間を残し全滅した。

 書いてて思う。エルミア姉さましゅごい。何故生き残ってる。

 エルミア姉さまは当時から美しさを買われマクシミリアン王の慰め物だったらしいが子を宿したと言う。奇跡と言えばいいが逃げた正室も側室も皆、子供は餓えと共に死んだと言う。その中で、帝国に身を潜め子を育てたのだから凄い。草を食いながらも出産し、体を売って金とご飯を手に入れていたらしい。中々売れが良かったのかマクシミリアンから逃げてきた騎士のご飯も用意していたようだ。

 今の私には無理だ。つわりだけで死にそうになってる。

 そのあとも、今度はエルミアは剣一本でも強さを発揮してマクシミリアン王国の跡地から近い所へ戻ったと言う。マクシミリアンの逃げた騎士も集まり。今の壁を要したマクシミリアン騎士団の駐屯地が出来たときく。女の子が母になり剣を握る。また子も大きくなり母の背を見て一人前の剣士となったらしい。

 そんな時期に帝国が魔物の襲撃から復活。占領地を広げ、復活したマクシミリアン騎士団は領地とされるのを拒んだ。というよりも上から押し付ける体制に反発し。戦争となった。

 その時の騎士団長はなんと。エルミア・マクシミリアンだったと言う。もちろん、我が子の首を差し出し和解し領地の委任任命権を取った。孫はいたが、その決断はどれだけ痛みを伴ったか、怨恨残す結果になっただろう。

 それから、長い年月をかけて今のマクシミリアン統括地っというのが出来たらしい。

 書いてて気がついた。トキヤが持ってきた本を題材にした亡国の姫君があるけどあれのモデルだ。「やばい!! 一番始めに出会ったハイエルフ!? なに!? この人!?」と声に出してしまった。

 昔の私に言いたい。お前のバカにしてる女性は生きた英雄様だぞっと。

 今日はトキヤさんにお願いしていつか謝りに行こうと提案した。穴があったら入りたい。

 4回


*  


 最近すこぶるトキヤが優しくて怒って泣いてしまった。

 トキヤが凄く無視して優しいのは嫌だから泣いてしまった。

 昔のように普通に接して欲しい。

 そんなワガママで旦那様を困らせてしまった。情緒不安なのだ。

 でも、泣いたら落ち着いた。

 いっぱいいっぱいキスしてくれた。20回





 昨日、反省して旦那様をお見送りをした。色んな人にお腹の子の話をした。

 帰ってきた時、お腹の子に不思議な気分になる。

 昔は孕むのも嫌がっていたのに。そう、嫌がって………天罰かな。誰かに捕まって部屋に閉じ込められた。あのときトキヤが助けてくれたのは嬉しかった。何度も何度も感謝しよう。

 ありがとうトキヤ。ありがとう旦那様。今日もいっぱいキスするぞ。

 イチゴジャムは逃避行中に食べさせて貰ったかな。あれが………麻薬になるとは。

 それよりも………遠慮無くボコったよねぇ~スパルタ方式だったけど。今では耐久力に自信が出た。ヘルカイトの一撃耐えたなぁ

 色々、あるね。思い出して書いてこ。あとトキヤやっぱり昔から格好よかった。

 逃げた先も私を気を使ったルートだった。うん………やっぱり思い出して書くのは楽しい。

 今日のネフィア軍。トキヤの唇を6回陥落させる事に成功。



§都市ヘルカイト⑳⑦  ネフィアの日記後..


 今日から私の炎はトキヤに憑いた。トキヤにお願いして憑けて貰ったのだ。連絡用や何処に叫べばいいか方角がわかる。

 嘘です。本当は浮気を疑っています。

 私の炎は変な魔法であり。鳥の形をとり、まるで意思があるように飛び回る。威力はトキヤを想う力であり。魔法と言うよりは不明な異質な物だ。

 それが憑くので浮気現場は後で聞けるのだ。

 不安です。私の旦那様は格好いい。モテる筈。そんな事を考えてしまい。不安になってしまう。

 依存。私は旦那様に依存している。だから……お腹の子も「彼を繋ぎ止める物」と思ってしまい悲しくなった。本当に情緒不安定。男だった私は本当に生めるのだろうか。不安は募るばかり。

 今日は15回。不安を忘れるために何度も何度もお願いした。彼は優しくてまた、泣いてしまった。





 嬉しいことがあった。「旦那様いつもの」と言うとキスしてくれるようになったのだ。嬉しい調教がしっかりできている。

 最近、徒然なるままに書き記しているが。今日は帝国について書こうと思う。

 帝国はトキヤの故郷であり、今は病に伏せているが皇帝が1代で築いたらしい。最初は小さな都市だったが大きくなるたんびに壁が増え。5枚の城塞に守られる大陸一の国になったのだ。次点、魔国である。膨大な領地を持ち、4四方騎士団と黒騎士団があって~

 白騎士団は連合国との戦争で壊滅したらしい。実際はランスが味方を倒して再建出来なくなったと言う。ランスロット強い。それを抑えるトキヤもスゴい。さすが旦那様。親友はさすがに斬れなかったよ。女はバッサリ片腕切り落としたのに。

 最近は竜騎兵という兵が増えたと聞く。ドラゴンの卵を持ち帰って育てているようだ。ドラゴンっと言ってもワイバーンらしいが。帝国は四方に強国に囲まれて辛そうだ。連合国も大変だ。

 昔に倒してやろうっと思ったが魔国では無理だろう。ゴブリンの放火砲でワンチャンか?

 ゴブリンの放火砲も大概である。あれの制作者、絶対転生者だろ。

 今日も3回だ。





 今日は剣の重さについて考察した。考えてみれば、トキヤは非常に大きい剣を使うが私も持てるし振る事も出来る。弱々しく。

 しかし、あの剣はドラゴンを裂き、魔物を吹き飛ばすことが出来る。

 何が違うのだろうか?

 夢でも私は昔の私の魔剣を何処にでもある片手剣を打ち直した銘無しで吹き飛ばすことが出来た。

 折れない剣であれば、技量でカバー出来るのは知っているが………それ以上に剣に重さがあるような気がする。

 一番始めに疑問を持つのはエルミア・マクシミリアンの剣撃。打ち負けていたのが打ち勝った。

 何が変わった?

 変わったのは想い方だと思っている。

 トキヤの剣は私に対してあまり重く感じない理由は想いが乗らないからっと言えば納得できそうだ。

 トキヤや大多数は本能で理解してる。そんな気がする。

 この世界、剣の剣撃の重さは想いや意思で増減するらしい。納得。


 今日は3回。剣を重くする鍛練をした。私の剣………重いだろうなぁ~







 今日はなんとユグドラシルちゃんが来て少し膨らんだお腹を見た。凄く感動したらしくワンちゃんにお願いしてたがワンちゃんドン引きしてたのは面白かった。

 ユグドラシルちゃんにこの前、世界樹に間違われた事を話すと。世界樹の細かな事を教えてくれた。何故かわかると言って吃驚した。

 世界樹っと言うより祖母様らしいのか、場所が何処かわかると言っていた。普通じゃないと思ったら。遠かれ世界樹と一緒だったとは………

 世界樹は妖精が治める地にあるらしい。妖精国。大陸の南側上部の樹海生い茂る中にあり、人や魔族を拒み続けている。都市オペラハウスが唯一交流を持ち、農作物を戴いていると言っていた。

 あんなところにあるとは………ここで私が知ってもどうでもいいなぁ~

 トキヤに話をし、3回。普通である。





 今日は魔国について。魔国も帝国と同じ実力主義な国で。魔王は魔剣を持て、尚且つ強くないと族長が話を聞いてくれない。族長も自分が一番と思い、あまり纏まりもない。

 正直、帝国のが強いのはそんな所があるからと思っている。族長が魔王に成りたがるだからそうなんだろうと思う。現に聞けばトレインも怪しいと言う。

 トレインも悲しい男でエルフ族長から聞いたが母親を自由にさせたかったらしい。奴の母親は作られた母親だが。それでも母親だったとのこと。しかし、彼の父は死に死霊術士も死んだのだから、自由になったとも言える。だから、逆恨みで呪いの手紙を送らないで欲しい。

 魔国も、これでは帝国の傘下だ。昔、父上のような絶対な残虐君主がいれば良かったのかもしれない。結局は纏まればいいのにと思う。


 5回、お腹を擦りながら。お腹にもキスをした。旦那様は凄く幸せそうだ。





 春の暖かさとつくしが沢山生えていると聞き居てもたっても居られず。家を出てつくしを取りに行った。皆は不思議がっていたが………これを色々手間をかけると美味しいのだ。最近調味料が増えたのが大きい。出汁を取れる植物もあり、自分が知っている味に近くなれる。卵と一緒に和えると美味しいのだ。

 なんとか、時間をかけてつくしを料理し瓶詰めにした。おかづになるがおやつにするつもりがトキヤに食べられてしまった。不思議がっていたが一口含み懐かしそうな顔で食べたことがあると言っていた。やっぱり記憶は無くても体は覚えている模様。ご飯と一緒に平らげてしまったが、作った甲斐がある。

 春を感じながら、キスをした。ちょっと醤油くさい。





 今日は、何を書こうかと思ったら。ある一冊を思い出した。

 ワンダーランドっと言う本だ。

 本の中へ入り異世界の奇妙な体験が出来る。何故、私の手元にあるかと言うと供養はしない方がいいと思ったからだ。

 ワンダーランドとは言え、中は女神に見捨てられた勇者の魂が封じ込められている魂の捨て場の物。転生も許されず本に閉じ込められている。だが、まぁ今は執筆し。桜の綺麗な国っとなって世界を生み出してる。

 読めばわかるが幸せそうだ。元々、彼らは異世界の住人らしくこっちへ来た人たち。その世界も異世界の世界を模している。

 私は羨ましく思う。食洗機とか洗濯機。オーブントースター等。便利な物が多い。

 だが、一番良かったのは料理のレパートリーが莫大に増えたことだ。お陰でレシピ集の本を作ったらすっごく儲かったし。トキヤの夕飯で悩まなくて良くなったのが大きい。

 ありがとう異世界。旦那様の好みがわかったよ。あと白米の素晴らしい料理を知った。

 あと、浮気ではないが。岡崎時也と言うボーイフレンドが本にいた。今はもう、居らず……消えてしまったのかもしれない。悲しい。

 そういえば女神、女神と言っていたが愛の女神以外に女神がいるらしい。狐人ヨウコが唆されて都市インバスを焼け野原にしようとした原因を作った。

 女神は敵かもしれない。

 今日は5回だった。毎日の日課はかかせない。




 そういえばお隣のハーピー夫妻の妻が仕事を始めたらしい。手紙の郵便屋だ。空を飛べることを生かした仕事。夫の方も大変ながら冒険者や雑用でお金を稼いでいる。なんとか、生活のやりくりは出来ているのだろう。

 彼らも変わった出会いだった。ハーピーのシエルさんは真っ白のハーピーで本来、淘汰される。

 しかし、異世界からのゲートっと言う門が開かれその異世界の研究機関に捕まったらしい。しかし、この世界より安全だと思われる。リュークっと言う夫に拾われたのが運命だったのだろう。

 リュークもあまりの幻想的な生き物に惹かれて連れ帰ったと聞いていた。まぁ向こうの研究期間が拉致し色々していたのはリュークに聞いた。

 彼らに関わったのはこの都市で拉致、不明な集団が散見され都市の住人が不安がり冒険者ギルドの依頼。珍しく私とトキヤが受け持ち。私はリュークと出会った。出会った瞬間に閃きのような神託がありついていったのだ。

 結果、異世界へと通じる門を見つけ。監禁。まぁ気にせずリュークが脱走の計画の実行を待ち。ゲートを開いて。私の旦那と私で施設を壊しまくった。知恵があるものはゲートへ開放。

 リュークとシエルが問答を私が制し、ゲートを破壊した。リュークの蛮行と言える行為は全てシエルを愛した行為からであり。私はそれに従っただけである。無事、帰還を果たしたとき。彼らを私たちの庇護の元で生活を順応させた。

 中々、大変な依頼だったと思う。しかし、リュークはいつか向こうへ行かないといけないらしい。

 それについて。何故か私は理解する。

 シエルとリュークが出会うための愛の橋はリュークが作らないといけないことのようだ。


 隣家は今日も仲良くしているだろう。私も5回ほど仲良くした。





 ネフィアがソファで居眠りしている。日記を片手
に。俺はそれを取り上げて読む。

 有用な情報が書かれている。とにかく世界の事が事細かく書かれ。人物の事も細かい。

 そして必ず………俺とのキスの回数が書かれていた。途中まで………妊娠経過だったのが資料集になっている。あと俺への愛はなんたらっとながったらしく書いている。

「ふぁあああ~んんん!! あっ!? おかえり!!」

「ただいま」

ペシ

 日記のような何かで優しくネフィアを俺は叩いた。

「ふぇ?」

「ネフィア………妊娠の経過や体調や症状などを書くのに。俺のことばっか書いてるじゃないか」

「よ、よんだの!?」

「読んだ。キスの回数をきっちり書いてて吃驚した」

「今日はまだ2回だね。3回目お願いします」

「………あのなぁ」

 可愛い嫁に毒気を抜かれてしまう。

「妊娠日記な!!」

「妊娠日記だったかぁ~」

「おまえなぁ………」

「ご、ごめん」

「まぁ、いいけどな。暇なんだろうし……まぁストレスためないようにガス抜きならいいんじゃないか」

「お父さん優しい。あっ……つい」

 ネフィアが赤くなる。きっとこれは熟練夫婦間の父さんではなく。つい、親しい誰かに自分の父親のように言ってしまうあれだ。

「まぁ父さんは夫婦間で言うし好きに呼んでいいと思うぞ。この前も言ったけど」

「そ、そうだね!!」

 まぁその恥ずかしい気持ちわかるよ。俺も孤児院で言ってしまった事があるから。

「ネフィア。日記の最後にキスの回数もいいけど………体調とか気になること書いてくれよな」

「はーい、旦那様」

「わかればよろしい」

「ねぇ、あなた」

「ん?」

「後でお腹の子撫でてあげてね」

「もちろんだ」

 今日も俺は幸せを感じれそうだ。



§都市ヘルカイト⑳⑧ 赤い毛糸..



「ふふ、ふん~♪」 

「ん?」

 春の向かい入れの祭りも終わった。今年はネフィアが体の状態で不安なため参加させずに家に一緒にいる。来年は二人で参加しようと約束した。

 そして、穏やかな時間が過ぎ春の終わり。暖かくなる。太陽の照る暑さが目立つようになってきた時期にネフィアがソファで編み物をしていた。

「んんん? ネフィア………夏に何で編み物?」

「出産予定秋ですよ?」

「あ、そっか」

 前もって作っとくのか。前より少し張り出したお腹が服の上からでも見える。最初は不安で泣き付いて来ていたが今は落ち着き。端から見ると幸せそうに編み物を編んでいる。

「難しい」

「買うから大丈夫だぞ………無理せずに」

「わかってないですね。愛しい子に作ってあげたいんです」

 お腹を撫でながら微笑む。まるで女神。

「はぁ………」

「ため息なんて吐かないで」

「………すまん。みとれてな」

「そうだったんですか~ふふ。旦那様は本当に好きですね私の事」

「撤回しろ。愛してるだ」

「うぐぅ」

「どうした!? 陣痛か!?」

 ネフィアが前屈みになる。俺は慌てて彼女に駆け寄った。顔を覗くと………頬が紅く。指をくわえていた。

「ネフィア………大丈夫そうだね」

「み、みないで。あなた」

 恥ずかしかったのか顔を押さえる。俺はその手を退かせてネフィアの顎を持ち深くキスをする。

「落ち着いた?」

「うん。おかしいね。キスすると落ち着くなんて」

「お前だけだな」

「他、知らないでしょ?」

「まぁな」

 ネフィア以外は知らない。知る必要もない。

「ねぇ、小指貸して」

「おう」

「あと、目を閉じて」

 俺は小指を差し出す。指切りでもして約束したいのかな。目を閉じて、ネフィアの綺麗な手で俺の指が包まれる暖かさを感じる。男と違う柔らかさ。

「もういいよ~」

「指切りじゃないのか?」

 目を開けると赤い糸が小指に括られていた。ネフィアが笑顔で小指を見せる。赤い糸がくくられた小指を。

「運命の赤い糸…………なんちゃって」

 照れながらも行った行為。そのあまりの可愛さに言葉を失う。

「ご、ごめん………そのやりたかったから」

「いいや。ネフィア」

 俺はソファに彼女を押し倒す。

「えっ!? 編み物中!!」

「いつでも出来るだろ。今日は俺が休みなんだ」

「ト、トキヤ!? んぐぅ」

 俺はお腹を擦る。押し倒した状態で口を奪った。深く、強く。彼女の口中を蹂躙するように。

「ぷはぁ………激しい」

「お前が可愛さにあてられた。責任取れ」

「う、うう。勝手に私が悪いみたいな言い方ぁ~。でも…………襲われるのドキドキする」

「綺麗なお腹だな」

「綺麗なお腹でしょ。私たちの愛の奇跡だよ」

「ああ。そうだな」

「トキヤ…………私………婬魔だから大丈夫」

「何が?」

「…………行為」

「わかった。ベットへ運ぼう」

 姫様を寝室へお連れした。





 俺は屋根の上で夜空を眺める。春の過ぎ去る風と生暖かい風が混じりあった空気で頭を冷やす。今日のあった可愛かった事が脳から離れず。困ってしまう。

 婬魔の最大能力で頭を弄られているのを疑うほどに。

「あぁ………可愛すぎる」

 「赤い糸」と言う嫁の声が耳から離れない。

「トキヤさん」

「ん……?」

 背後から見知らぬ声が聞こえる。嫁に近い声だが抱擁されるような安心感と甘ったるい声。声の主に対して振り向いた。そして、そこに居たのは。

「はじめまして。勇者トキヤさん」

 破廉恥だった。

「ちょっと!! 勇者さん!? 今、私を見て失礼な事思いませんでした!!」

「破廉恥な服装だなぁっと。嫁が着たら似合いそう。高級娼婦の服装だなぁっ~」

 胸は豊満で空いているのでしっかり横乳が見え。スカートも短く中の布が見える。紐であり、なんとも破廉恥な姿だった。露出が多い。

「し、仕方がないのです。教会の方の彫像がこれなんです。イメージなんです」

「そっか、愛の女神さんかぁ」

「わかるんですね?」

「ネフィアが『スッゴいエロい破廉恥お姉さんが女神』て言ってたので。いいですよ? 男の俺にとっては眼福ですから」

「後でキツく言っておいてください。女神ですよ? 私は?」

「ああ、敵ですね。よくもネフィアを殺そうとしたな!! 勇者の使命なぞ糞食らえ!!」

「ま、まって!! 私じゃありません!! それは姉様です!!」

 慌てふためいたのち、フワッと飛んで俺の隣に座る。綺麗な足だ。

「えっと。私は愛の女神エメリヤ。あなたの冒険は全て見てきました」

「………女神とは決別した筈だ」

「お姉さまとです。私は違います。あのぉ………信仰してみませんか?」

「勧誘?」

「はい。私は信仰者の愛で成り立ってます。ある意味ご飯です。そんな精神体な生き物っと思っていてください」

「何故、俺?」

「愛が深いので」

「…………まぁネフィアが信仰してるし。いいだろう」

「ありがとうございます!! うれしい!! ファンだったんですよ!!」

 両手を合わせて笑みを浮かべる。嫁よりは下がるが可愛い笑みだ。

「御馳走様です。奥さんの愛が溢れました」

「あっ………」

 これは厄介だ。

「本当に………いい人です」

「にしても、何故俺は見ることが出来たんだ?」

「愛が深い人しか見ることが出来ず。女神を信じる心も必要です。女神違いですが、神を信じる出来事があったのでしょう」

 ネフィアとの高台の事を言っているのだろう。

「そうだなぁ……まぁ別に厳しい規律もないだろ?」

「愛に生きればいいです。妻をもっと愛してください」

「これ以上無理だろ………天辺だ」

「美味しいですねぇ………美味しいです」

「悪食すぎやしませんか?」

「はい。愛関係は悪魔でもなんでもいいです」

 女神らしからぬ悪巧みの笑顔はネフィアを思い出させる。似ている笑顔で、小悪魔的な魅力があった。

「では、私は消えます。あなたたちに加護を」

 女神が消えた。その瞬間、ネフィアが屋根の窓から顔を出す。

「ごはんできたよ」

「危ないから呼ぶなら魔法で」

「直接呼びたい」

「無理するな」

「大丈夫だぞ~走れるもん!!」

「やめろ!! やめてくれ!!」

「大丈夫~能力落ちてるだけだから」

 全くこいつは………でも。

「ネフィア………お腹の子が心配なんだ」

「そうだよね………ごめん。軽率だった」

「ああ。じゃぁ降りるよ」

「うん!!」

 愛の女神かなんか知らないけど。ありがとうございます。

「トキヤ。顔が笑ってる」

「お前を愛してるからな」

「ひゃう!?」

 今日も夜は愛し合えそうだ。

 
§都市ヘルカイト⑳⑨ 女子会..

 

 とある日。私の家に女友達が集まり出す。最初は遠い地からエルミア・マクシミリアンの女傑エルフが現れ、私は驚いて頭を下げて非礼を再度詫びたのが1時間前。聞けば湯治に来ていて。1年ほど長く滞在するらしい。金持ちである。

 そして、何故か今日はお客さんはこれでおさまらず。ドンドン増えた。気付けばテーブルを囲むように人が集まってしまい。椅子が足りないかとヒヤヒヤする。二人の家なのに椅子が多いのはバカだと思うと思ったが…………実は正解だったようだ。

「えっと………今日のおやつはシフォンケーキと紅茶をご用意させていただきました。えっとですね………こう………偶然が偶然を呼んで女子会を開くことになりましたので年長者から自己紹介をお願いします。お名前と種族。旦那自慢をどうぞ」

 それに慌てて反応するボルケーノ。

「だ、旦那!? いないわよそんなの」

 そのまま落ち着いている腐竜。

「誰から言うのかしら? 私かしら?」

 それに私は疑問に持つ。

「えっと………年長者はどっち?」

 私はある二人に聞いた。エルダードラゴンの二人は確定である。

「わ、私じゃないわよ!?」

「ボルケーノ姉さま~認めたら?」

 腐竜がニマニマして話をする。

「腐竜!!」

「潔く認めたら? 私が生まれたときには大人でしたよね?」

「くっ…………数百年」

「千年ちょっとね。嘘つかない」

「千年歳!! 火竜のエルダードラゴン!! 名をボルケーノ!! 旦那はいないわよ!!」

 それに私は答える。

「気になるのはいるよね。小さいワイバーンの子」

「黙りなさい‼」

「はい、次に私も数百年。少しで千年ですね。同じくエルダーでドラゴンゾンビ。旦那は領主ヘルカイトで勇ましい姿と好敵手として好きです。名を腐竜ナスティ」

 赤く燃えるような髪の切れ長のお姉さまと黒髪の麗人なお姉さまが言い争っている。細く細身の長身二人。ナスティとボルケーノ姉さんだ。その胸は平坦である。

 口調が荒いのはボルケーノ姉さん。彼女の隠居先ではそんなに口調がきつくなかった筈だった。ただしその胸は平坦ちょいあるぐらいかもしれない。着痩せするがやはり平坦である。元男なら仕方ないとも言えるが……元から女性である。

 腐竜ナスティもヘルカイトと結ばれてから女らしい言葉を使うようになっている。愛とは変える力を持つのだ。私と同じ感じでよく相談に乗っている。

「えっと次はエルミアお姉さまですね」

 私はエルフのお姉さまに問いかける。綺麗な金色の私と同じ髪を腰まで伸ばしている。耳が長く肌が白いエルフ族。人間に近い姿である。その胸は細身のエルフ族でありながら豊満であり、昔に沢山の男を相手した名残がある。

「エルミア・マクシミリアン。元マクシミリアン騎士団長だったが。孫が引き継ぎ隠居の身。歳による腰痛の湯治のためにきた。数百年歳の元ハイエルフ族。今は人間です。夫はマクシミリアン王でした」

 立ち上がりお辞儀をする。ピシッとしたお辞儀。そして腰に手を当てる。

「はぁ………もう歳ね。新人騎士の乗馬、乗竜の手解きでやっちゃったのよ」

 エルミアに同調するようにナスティが答える。

「歳は辛いですよね。私もヘルに抱き付くときに腰が痛くなるときがありますよ。ボルケーノもでしょ?」

 そのつぎにボルケーノがまだいける事を主張する。

「軟弱な!! 一緒にしないで!! まだ若い!!」

「あらあら………元気ですね。ボルケーノ姉さん」

「ナスティ、や、やめろ………そんな目で見るな。昔は気にしなかったが。あの子を育てたから歳を思い出すと辛いんだよ」

 理由は知っている。飛竜デラスティと言う子の育母だ。小さな子供が好きなんだ。年の差は千年。方や若い子。方やお婆ちゃんである。

「では、えっと次は………私」

 多分だけど次は私が一番歳上だ。異世界では未成年だが他のが若い気がする。ここは予想だ。

「ネフィア・ネロリリス。都市ヘルカイトの素敵なギルド長でこの子の父親ことトキヤの伴侶です。種族は婬魔と悪魔のハーフ。歳は伏せますね。数十歳ですし」

 歳は監禁されていた時期が長くて実はよくわかっていない。誕生日も。何もかも。

「では、次は………リディア?」

「はい!! ネフィアお姉さま!!」

 蜘蛛の大きい体の下半身に綺麗な上半身であり紫の髪を持つ女性だ。一番異形の姿。部屋が狭くなっている理由は半分彼女のからだが大きいからと言う。「エルダードラゴンに人になれる手段を聞けば良いのに」と思うが。「ランスロットは許さないだろうな」と思う。彼女の胸は誰よりも豊満である。

「私の名前はリディア。リディア・アラクネ・アフトクラトルです。私の素敵な旦那様はギルド長でお仕事頑張ってます!! 歳も数えたことありませんのでわかりません」

 そんな彼女にナスティが笑みを向ける。

「リディア。旦那は本当に働き者です。いつもありがとう………ヘルカイトがだらしなくてごめんなさい」

「い、いえ。そんな………へへ。ランスロット頑張ってるかぁ………へへ」

 旦那を誉められて紫の髪を弄り照れる姿は異形だがギャップのある可愛さだった。私は次を促す。

「次は………インフェちゃん!!」

 フヨフヨと浮いている幽霊に話を振った。幼女の姿でフワッとした髪の人形のような女の子だ。

「はい。都市インバスから来ました。生前は人間でした聖霊インフェです。お仕えしているご主人は教会の祖。古き血族の吸血鬼の一人。セレファ・ヴァンパイアさまです。女子会にお呼びいただきありがとうございます」

「幽霊ですけど怖がらないであげてくださいね?」

「一番怖がってたの出会った時のネフィアお姉さまですよね? 」

「はい。幽霊怖いです。トイレ一人で行けません」

 私暴露にエルミアが頭を撫でてくる。ナスティは「」そういう手があったか」とメモをとる。

「あら、かわいい」

「かわいいわねぇ………私もヘルに頼もうかなぁ~」

 それにボルケーノが腕を組んで思い出に浸り、リディアは手を叩いてやる気を見せる。

「私は逆にデラスティに起こされてついていくな。可愛いんだよねぇ」

「私も今度、ランスロットに言ってみます‼」

 私の怖がりを元に感心して嘘を言おうとする数人にちょっと呆れた。いきなり怖がっても鼻で笑われるだろう。ここにいるのは化物ばかりなのだから。

「あ、あの………私。ここに居ていいんでしょうか?」

 最後の萎縮した一人がボソボソと喋りだす。姿は私にそっくりな女の子で、違いと言えば泣きホクロがあるぐらいしか変わらない。その胸は豊満である。私より大きい。そんな子にエルミアが声をかける。

「気になってたの。あなたのこと。姿形一緒だから………もしかして。あの、舞踏会の時の子かしら?」

「あっ……はい。えっとネフィアと言います。姫様と同じ名前で恐れ多いのでフィアとお呼びください」

「彼女と同じ名前ね。種族は?」

「は、はい。婬魔です。エルフ族長がご主人様です」

 前は無言だったのだがおどおどじくもハッキリと受け答えが出来るようになっている。自信がついたのかもしれない。ただいま一人で修行中だ。

「全員自己紹介終わりましたね。では、お話と行きましょう‼ だれかありますか?」

 私は話を振るとエルミア、ナスティが手を上げる。

「お腹さわらせて欲しいわ」

「同じくね」

「いいですよ? どうぞ」

 私は立ち上がり上服を捲り上げて膨らんだお腹を見せる。大きく張ったお腹は妊婦である事の証明だ。それにインフェとリディアが関心する。

「うわぁ~大きいですね姫様」

「お姉さま大きいです。いいなぁ」

 私のお腹をみんな触っていく。こちょばゆい。さわったエルミア驚いた表情をする。ナスティも同じように触る。

「わ、私。驚いたのですがスベスベ!?」

「わかる!! 私たちより張りがあってスベスベです!? ボルケーノ!! 触ってみなさい!!」

「はぁあ?……そこまで言うなら。うわぁあああああああ!?」

 私はお腹の張りより肌の感想に年の差を感じた。私は慌てて次を促す。

「ええっと、まぁうん。はい、次!!」

 それにインフェが乗っかる。

「えっと………私、恋話がしたいです」

「いいですよね!! ネフィアお姉さんも好きですし」

「………わ、私も興味があります」

 インフェ、リディア、フィアが反応を示し、キャピキャピする。それに大人なラスティが囁く。

「女子会。世代がお婆ちゃん世代と若い世代で意見が近いらしい。ボルケーノはもちろん?」

「わ、私!! 違うし!!」

「やぁボルケーノ姉さん。慌ててるぞ」

 それにエルミアが染々する。

「ボルケーノ姉様。高齢なハイエルフの私が姉様は言う日が来るとは思ってなかったですね」

「や、やめろ!? 言うな!! 姉と言うな!! 若い!!」

「なお。飛竜デラスティには竜姉と言わせ。風呂で頭や体を洗ってあげるという。私、ネフィア・ネロリリスは見ちゃった」

「ネフィア。口を縫い合わせるぞ」

 ちょっと殺伐とした場に笑いが込み上げる。それに私は話をボルケーノに振る。

「恋話ですよね? デラスティ君とはどうなんですか?」

「デラスティとはそういう関係では……」

「拾ったワイバーンの赤子。育てて行くうちにああ、なんと男らしい少年に成長したのか………ボルケーノ好みに。あなた………少年の方が好きな変態さんでしょ?」

 皆が一斉にボルケーノを見つめる。大体は興味の目。女子会は攻め手が有利だ。

「皆のもの。例え親が子に恋情を抱くことなどないでしょう? 家族です!!」

「インフェ情報ですが。えっと………都市インバスで家族なら兄妹の夫婦がいます。それも結構、多いです」

「リディア情報ではアラクネは普通にあります。私は姉妹が嫌でしたけど」

「私のマクシミリアンの土地では禁止してないわ。一世代なら許されてる」

「フィアもエルフ族長主人様から『エルフ至上主義だったらしいのでそれはある』と聞いたことあります」

「………あれぇ?」

「観念しなさい。ボルケーノ。襲うわよデラスティ君が」

「や、やめろ。汚しちゃいけない!!」

「ボルケーノが汚れてますからね。知ってます」

「なっ!? 言うなよ!! 絶対言うな!!」

 何かを隠してるのかは私も知っている。

「ボルケーノさん昔のお子さんは?」

「あっ………いや………」

 狼狽える彼女にラスティは追い討ちをかける。

「火竜の祖、ボルケーノさんは経産婦です」

「経産婦手を上げて!! はい!!」

「はい」

 エルミアと私は手を上げた。

シーン

 沈黙、しかし皆がボルケーノだけを見る。

「ぐすん………はい」

 火竜が心が折れたのかゆっくり手をあげる。

「だって………魔物ですよ。やることはやりますよ………でも、かなしい」

「ボルケーノ………いっぱいいたね」

 ラスティは容赦ない。

「みんな滅んだけどね。まぁ勝手に巣立つから恩も糞もないわ。噛み殺した奴もいるし………でも!! 飛竜は違うの!! あの子は………えっと………慕ってくれるのすごく」

 その言葉にエルミアは笑顔で頷く。わかる気持ちがあるのだろう。

「姉様はその子はお気に入りなのですね」

「お気に入りよ………だって…………初めて寂しさを教えてくれた我が子ですもの」

「あっまああああああああい!!」

「「「「!?」」」」

 フワッとした白いドレスの女性が幸せそうに頬を撫でながら現れ一同が驚く。その登場したのはエメリアだ。エルミアじゃない。エメリアだ。

「女神様!?」

「女神様です!!」

「女神様!!………ありがとうございます!! ご主人様と親しくなれました。フィアは幸せ者です」

「ふふ、愛しいの子達………」

 混沌感が増して私は種族を思い出す。悪魔淫魔、淫魔、アラクネ、ドラゴン、ハイエルフ、聖霊と来て女神だ。すごーい。種族がいっぱい。混ぜ混ぜされてる。

「えっと、どちら様でしょうか?」

 エメリアは彼女を知らず。

「怪しいが、ネフィア絡みなら普通だな」

 ボルケーノは腕を組み。

「ええ、ネフィアなら」

 ナスティはそれに同意する。

「なんで破廉恥さんと仲間と思われないといけないんです……ネフィア・ネロリリスの名前が汚れてしまう」

「あなた、本当に愛の聖職者? 女神泣いちゃうよ?」

「他に女神様居ると思ってます。子供の発育に悪いです。エルミア様」

「ひどい………」

 エメリアが私と同意見らしい。

「一利ありますね。ネフィアの言い分も」

 これ、どうしよう。自己紹介させようかな。

「女神様、自己紹介」

「あっはい。教会やネフィアちゃんが信奉する愛の女神。エメリアです。つい、恋話に釣られてしまいました」

「ネフィア、凄いね。あなた………本当に女神とも知り合いなの?」

「驚かれてますけど。エルミアお姉様も私と友達なの凄いですからね」

「そうよねぇ。魔王でしたもんね。私もそうだわ」

「けどそっか。それも考えると多種多様な気がします」

「わ、私!! 居てもいいのでしょうか!? 奴隷ですよ私!!」

 フィアがそわさする。それにエメリアが頭を撫でる。

「いいです。等しく恋する乙女に歳や身分は関係ありませんから」

 凄く女神らしい暖かい抱擁と優しい声。もっと服も大人しかったら良かったのに。

「女神さま!! ありがとうございます」

 それにボルケーノが反応する。

「女神………気に入らないけど。まぁちょっとは信じてあげる」

「はい、うれしい。二人の信者が~」

「…………女神ねぇ。女神様………私の夫は? マクシミリアン王は?」

「冥界へ無事にお迎えが来ましたよ………次で会えるのは来世でしょうか……」

「そう………よかった。ありがとう」

 エルミアが顔を伏せて席を立つ。

「何処へ。エルミア姉様」

「ごめんなさい。思い出すことが多くて………外で風を浴びてきます。少し、雨が降りそうよ」

 エメリアが席を立つ。うれしいのだろうが悲しいのだろう。聞けば都市インバスでの奇跡を聞き「聖霊で出てくる」と考えたようだが。無理と知った時の落胆はどれ程だっただろうか。

「ねぇ、女神さま。マクシミリアンが滅んだので昔は神も見捨ててましたけど。入ることは出来るのかしら?」

「入るも入らぬも自由です。愛を持つなら」

「……わかりました」

 エルミアはリビングを出る。私はそのままフィアに質問した。

「では、気を取り直しまして。フィアちゃん。もしかしてエルフ族長の事好きなの?」

「どうして!? わかるんですか!?」

「分かりやすい」

「は、はい……助けていただいた恩もですが………こんなにも褒めてくださいますし……奴隷の扱いせず………そのぉ………姫様にも会わせていただきました。でも本当にどうして!?」

「ちょっとうーんって思うけど。姿が似てる以上に泣きホクロあるよね?」

「は、はい………姿、真似る筈が………」

「泣きホクロ。取って良いですか聞きなさい。もしダメっていうなら気があるわ。姿を変える種族ですから」

「は、はい!!」

 彼女は本当に嬉しそうだ。ナスティが顔を上げる。

「エルフ族長と言えば最近、教会を建てているね。新宗教の」

 リディアがその宗教に心あたりがあるようで話に入る。

「あっ!! ランスが言ってました!! 太陽を奉るって」

「私のエルフご主人様も言ってました!! 太陽を奉るが、私たちの教えと教会と競合させるって!!」

「女神エメリア様? 太陽を奉るって太陽の神がいるのでしょうか?」

「わかりません………ふふ。それは知りませんよ」

 女神は怪しく笑う。何かを知っている顔で微笑む。悪い笑みを持ち企んでいる。それがわかったがそれを話すことはないと本能が告げる。まぁ私には関係無いことだ。

「では、今度は何を話します?」

 女子会は続く。そして、若いグループと年寄りで話が本当に別れるのだった。

§都市ヘルカイト⑳⑩ 女子会後..


 私たちは今、都市ヘルカイトに来ています。姫様に会う理由と新しき宗教を広めるための拠点造りをいそしんでいます。宿屋の一室で今日もエルフ族長はお疲れなのでした。

「お疲れさまですご主人様」

「ああ、疲れた。湯治を行いたい所だが………やるべきことが多く大変だ。すまない………まだ君を扱え……いいや。仕事を用意出来ないようだ」

「お気になさらずに」

「そうか………すまないな」

「そこは……ありがとうございますっと言っていただければ喜びます」

「………ありがとう」

「はい、ご主人様」

 私は、ご主人様のためになんだってお手伝いしたいと思っている。だが………今はそのときではないらしい。

「女子会だったと聞いている。姫様はどうだった?」

 エルフ族長はいつもいつも姫様の事を気にしており、尊敬し、身を粉にしながら裏で姫様を魔王の座に上げようと企んでいる。

 だからこそ………私は拾われたのだろう。でも、良かったと思っている。この容姿になれたことはきっとエルフ族長に出会うためだったのだと前向きになれた。

「姫様はいつも通り、皆の中心で話を振ってました。お腹もすべすべでした」

「そうかそうか………ああ、麗しい姫様にお会いしたい」

「………」

 しかし、盲目的な盲信者なのでいつも姫様、姫様と崇める。そこはムッとする。

「………あの」

「なんでしょうか?」
 
 ムッとする理由は簡単だ。

「泣きホクロ取っていいですか?」

「やめたまえ。姫様と区別するために残すべきだ」

「他でも区別できます」

 色んな所で差違があり、ホクロ一つで変わると思わない。しかし、エルフ族長は嫌がる。

「泣きホクロは女性として素晴らしい物です。姫様にない長所です」

 姫様に教えられて実行した。エルフ族長は泣きホクロがたまらず好きらしい。だからこそ………私には泣きホクロがあるのだろう。

 拾われたから。私にはご主人様しかいない。だからこそ………捨てられないように好意を向ける。

「はい!! ご主人様の夢のためにフィア!! がんばります!!」

 ご主人様のために。





 私は広い家で夫の帰りを待っていた。ご飯を用意して。

「ただいま、リディア」 

「おかえりなさい」

「なんとかギルドは落ち着いて運用できる所まで来たよ」

「お疲れさまです」

 夫であるランスロットはギルド長であり、ギルドの運営を任されている。大体は事務仕事らしく。他の二人ほどギルド長がいるが、彼らが実働として仕事をこなしているらしい。

「冒険者も少なくなってきたから扱いやすいね」

「えっと………それは喜んでいいんですか?」

「弱い冒険者は淘汰されただけとも言える。使えるか使えないかだけですよ」

 行方不明の冒険者は多い。未開地が多かったためと野良のドラゴンにやられる人たちが多いからだらしい。都市は安全だが……山を登れば魔境である。

 広いリビングに私たちは腰をかける。用意した夕食をいただき。私は絨毯に座った。足を広げて。

 からだが大きくこうしないと身長差で困るのだ。

「ん? 今日は早いね?」

「今日はすぐに欲しいです」
 
 ペタッと絨毯に体をつけて上半身をちょうど夫の身長に合わせる。すると、夫が私を抱き締めてくれる。

「んん」  

 ギュッとする。この感覚は何故か癒され幸福感に包まれる。幸せを噛みしめる。そして、優しい夫は胸をマッサージしてくれる。

「いつも、ありがとう」

「え、ええ、ただ揉みたいだけです」

 大きい胸は揉まれる事で気持ちよくなれる。不思議に感じながらその感覚を楽しむ。

「えっと、今日ね。女子会だったんです」

「聞いていたよ。楽しかったかい?」

「もちろん!! 人の気持ちとは色んな形があるんですね。魔物は食べて寝てを繰り返すだけでしたから」

 料理とか実際。こんなに美味しい物と思えるのは知ったからだろう。今は昔の食生活に戻れはしない。

「ネフィアお姉さまのお腹。羨ましいです」

「………」

 私たちは異種族。出来ないだろうと思う。だけど…………考えてしまう。

「ランスロット………子供欲しくないですか?」

「無理だと思います」

「…………ん」 

「だけど、わかりません。こればっかりは調べてますが」

「えっ?」

 調べる。調べるとはなんだろう。

「全く、人と多種族の交配はチラホラあるようですが。さすがに私たちの事はないです」 

「調べてくれてるの?」 

「…………リディアとの子ぐらいは考えてますよ」

 私は夫に甘く噛みつく。あまりの嬉しさに我慢できなくなった。

「い、いたいですよ!?」

「んんんん!!」

 もう、食べちゃいたいぐらい愛している。

「あっ………まぁ血を啜るぐらいなら」 

「ごめんなしゃい………ズルルル」

 美味しい。

「はぁ、ほどほどに吸ってくださいね」

「ひゃい」  

 魔物なんだけど…………魔物を我慢できなくさせる夫が好きだ。




 隠居している家。迷った旅人がたまに泊まるぐらいは大きい。その家に帰ってきてからため息ばかり吐く。

「竜姉、頭かかえてどうしたの?」

「あ、ああ。デラスティ………少しね。ショックな事があって」 

「………竜姉がショック」

「デラスティ、その意外そうな顔をやめなさい」

「ごめん………意外だった。何で悩んでるの?」

 声をかけてくれる子は飛竜の竜人デラスティ。少年のまま大きくならない可愛い子だ。声も幼い。そんな子が私を慕い、顔を覗かせて心配してくれる。

「ああ、ちょっと歳の事でね」


「歳?」

「ええ、誰よりも歳の上なのよ」

「竜姉だからでしょ?」

 キョトンとして私を見る目は悪意はない。ああ、清い。私は手を伸ばして寄せる。

ギュウウウ

「竜姉? どうしたの?」

「大人になっちゃダメよ」

「………ええぇ~いやだなぁ」

「ダメ」 

「それよりも………ワイバーンでは大人なんだけど………」

「そうじゃないの………いいえ。なんでもない」 


 私も、変な感じなのだ。これは母性なのか、ただの愛なのか………わからない。

「竜姉~年取っても竜姉ぇは姉ちゃんだよ。見た目若いし」

「見た目だけかぁ~」

「いたい!! つねらないで!!」

 かわいい。頬っぺた柔らかい。

「ヒリヒリする」

「女性に歳は聞いちゃだめよ」

「竜姉何歳なの?」

「聞いちゃだめっていったそばから!!」

「へへ~ん!! あたたた!!」

 全く、やんちゃで可愛いんだから。



   

 領主の住まう屋敷。無駄に広い屋敷に私はヘルと同じ寝室にいる。

 実は今日。お誘いしたい。お誘いしたいのだ。

 酒を飲み合い。女子会であったことを話していた。そしてそろそろ寝るかっとする時間まで延びてしまった。戦いでは飛び込める。だが………ヘルの胸へ飛び込むのは難しい。昔なら体当たりで攻撃したが。今は勇気がいる。

「ヘル……もう寝るか?」

「寝る」

「ヘル……………もう寝るか?」

「………おい。ワシに言いたいことがあるなら言え」

「……………」

 言葉が窮する。

「おい!! ワシは眠い!! 明日は休むが………眠い」

「そ、そうだな………えっと。こう!! ムラっとしないか? あああああああああああ!! 違う!! もっと可愛く言いたい!! 昔の男っぽい口調じゃなくて!!」

「…………ふっ」

「わ、わらうな」

「いや、あの死んでも死んでもしつこいドラゴンがモジモジと弱っちい姿でな」

「仕方がない………女なんだから」

「ふぁあ~寝るとするか」

「ま、まって!!…………ヘル…………」

「一緒に寝るか?」

「寝る。いや、違う!!」 

「………ワシ眠い」

「…………ヘル。寝る前にお願いがあるの」

 私は顔を伏せて、服に手を伸ばす。

「女を感じさせて」

「はやく言えバカ………1回だけな」

 スッと、彼は私を抱き抱えてベットに投げられる。骨が折れそうだったが……気にすることではなかった。





「あなたすごいわ~」

カチャカチャ

「女神さま。食器を洗ってる途中で声をかけないでください」

 食後のつけおきしていた食器を洗う途中に頭の中で女神の声が響く。昔は少し聞こえるだけでありがたかったが。今は聞こえすぎである。ありがたみがない。

「ごめんなさい……でも褒めてるんですよ?」

「食器洗いは妻の嗜みです」

「ち、ちがうわよ!!…………あなたの友人の話」

「んぅ?」

「あなたが関わった人は必ず誰かを好きでいるわね」

「そうですね?」

「たまたまでも凄いと思うわ」

「うーん………そうですね。皆さん幸せになっていただければそれでいいです。関係ないです」

「………ふふ。もっと愛をちょうだい」

「勝手に吸っててください」

 私は女神の声を遮る。五月蝿いので。

「ネフィア~」

「はいはい、なんですか旦那さま」

「お腹さわらせてほしい」

「ふふ、仕方ない方ですね~あっ!?」

「どうした?」

「い、いま………」

 お腹をさわる。小さな衝撃が内から感じ取れた。

「………蹴った」

「!?」

 トキヤがソファから立ち上がり駆け寄る。

「本当に?」

「うん………こう、なんかぐにぃ~って」

「そっか~」

「嬉しい………元気に育ってる」

「………そうだな大きくなれよ」

 旦那が優しくお腹を擦り、愛おしい声で子に問いかけるのだった。



§幸せの時間は終わり、崔は投げられる..



 寒くなってきた時期でお腹は張り出し、今か今かと出産を待ち通しい日々が続いた。

「出産………近いね。トキヤ」

 私は台所で重たい体を起こし。紅茶を淹れ、テーブルに置く。

「………そうだが。無理してないか?」

「してないよ?」

「なら、いいが」

 私は席に座り。お腹を撫でる。愛しく愛しく。

「トキヤ。名前決めちゃおっか?」

「名前かぁ………」

「うん。名前だよ」

「……………産まれてからでも」

「えぇ~私は決めたい」

「じゃぁ、決めていいよ」

「うん……………トキヤ~」

「どうした? 決めていんだぞ?」

「産まれてからでいい?」

「…………よし。ほっぺ貸しなさい。つねる」

「やぁ!!………だって。思い付かないし」

「同じじゃないか。思いつかないの決めたい言ってるのに」

「へへ……同じだね」

「………嬉しそうだなぁ」

「お腹に子がいるのに嬉しくないことは絶対ないです」

 私はきっと笑っているんだろう。幸せそうに。彼もやれやれと仕草で示す。

「そうだ!! 今日ですね作ったんです!! クッキー」

「おっ!! いいね」

「持って来ます」

 私は立ち上がる。その瞬間だった。

「あれ…………」

 つまづいた訳じゃない。何も兆候なんて無かった。だけど体が沼に沈むような深く落ちていく感覚。ゆっくり目の前が暗くなり。墜ちていく。

「………………!!」

 トキヤの方を向いたとき。私は倒れていくのがわかった。声を叫ぶ彼の声も聞こえず。深く淵へ墜ちていく。何も考えられずに私は気を失った。








「ネフィアあああああああああ!!」

 俺は倒れた彼女を抱き抱える。顔は青く衰弱し今さっきの元気な姿から一変。異様な姿だった。頭を強く打った。息はあるが細い。

「どうしんだ!? ネフィア!! 目を開けてくれ!!」

 彼女はピクリともしない。背中からドロッとした汗をかいてしまう。嫌な想像を振り払うように彼女を抱き抱える。

 医者の場所いかなくてはと立ち上がった…………そして………気がつく。

 彼女は足からポタポタと血が落ちている事を。スカートに黒く染みを作っていく。黒い血が床に広がった。

「つぅ!!」

 何度も嗅いだ。鉄の臭いと死臭。戦場で何度も何度も嗅いだ懐かしく胸くそ悪い臭い。気付けば体が勝手に動く。家を飛び出して、走りながら彼女に声をかける。涙が出そうだった。

 すれ違う人々に声をかけられるが無視をし、ナーガ族の医者の診療所に一目散で駆ける。

 死の臭いを振り払いながら診療所につく。到着した瞬間に医者であるナーガは何かを察して診療を中断し、彼女を移動できるベットへ寝かせ部屋の奥へいく。待たされる俺は気が狂っていなかった事を今になって知る。気が狂いそうになるのを押さえるために拳を握って廊下の壁を叩く。

「畜生…………何故、何故なんだ」

 気付かなかった。彼女の異変を。誰から見ても今の異常なもの。この瞬間まで甘い時間で感覚が鈍っていた。

「くっそ………くっそ…………」

 気付けば手遅れまでになっている。

「………トキヤさん」

 背後で声がする。優しい声の主に俺は怒りをぶちまける。魔物のような咆哮で怨恨を口に出す。

「誰だ……一人にしてくれ」

 振り向いた先の女神に悪態をついた。

「………トキヤさん。目を逸らさず聞いてください」

「女神………お前………知っているな」

「ええ。知っています」

「誰だ!!………あいつを!! ネフィアを呪った奴は!!」

 女神がゆっくり腕をあげる。そして………俺を指を差した。

「……………」

「な、なに………」

「トキヤさん。目を逸らさずに聞いてください」

「何故俺なんだ!! 俺はあいつを!!」

「でも、勇者でしょ?」

「元勇者だ!! 勇者じゃない!! 俺は………」

「女神の勇者でしょう。使命は魔王を殺す事………例えその気がなくとも………彼女の体に女神の操れる因子があればいい。特に女神の祝福は魔族の毒となる。いいえ、狙って中身から呪えばいい。人間至上主義者だから」

「ふざけるなぁ!! 認められるか!! こんなこと!! こんなことを!!」

「目を逸らさず見たでしょう? 彼女は人間を孕んだために死にかけている。女神の祝福によって」

「祝福!? あのどす黒い呪いかが!!」

「人間………の祝福は汚れて黒いです。汚れてしまってる」

 俺は肩を落とし診療所を後にする。

「何処へ?」

「俺は外で泣く………女神エメリア………」

「………はい」

「嫁は………頼んだ」

「気をしっかり持って丘で会いましょう。ネフィアさんは救います」

 俺は無言で診療所を後にした。






 行く場所なんてない。俺の場所は奪われてしまった。だけど………足取りは自ずと丘に向かう。

 たった一人で。丘に向かった。

 寒い時期、花も草も生えていない場所。匂いも無く。突き刺さる冷えが体を貪る。目を閉じれば今まで見た中での最高の情景が思い出され。膝が折れてしまう。

 気付かなかった。女神が後ろで鎌を構えていたことを。

 奪われた。あの情景、彼女の笑顔を。診療所での医者の言葉が怖くて逃げてきた。千の敵を前にしても逃げなかった俺が………一人の女に安否でさえ怖がるようになってしまった。

「お待たせしました。トキヤさん…………ネフィアさんはなんとか生きてます。目覚めるのは時間がかかるでしょうが運は強いです」

「…………………」

 何も聞けない。わかっている。希望なんてない。

「トキヤさん。わかってると思いますが…………」

「……………」

「お亡くなりなりました」

「…………………畜生め」

 全て今までの事を掴み握り潰された気分だった。

「あいつが一番喜んでいたのに………何て言えばいいんだ!!」

「………心中お察しします。そしてこれを」

 女神が両手を開けるようの何かを見せる。黒い染みがついた何かの魂。魂喰いの俺だから見る。

「………小さいな」

「はい。小さいです」

「貰っても?」

「はい………救うことは私には出来ませんでした。でも………拾うことだけはできます」

「ありがとう」

 その小さな黒い塊を手に取る。生暖かく今にも消えそうな魂。

「…………悪かった。俺が勇者じゃなかったら生まれていたのにな」

「関係ないです。人間は皆、姉の首輪がついています。たまたまあなたが女神に近かった」

「そうか………じゃぁランスも一応は気をつけるように言っておこう。エメリア………俺を軽蔑するか?」

「いいえ。この魂が姉の元へ行くよりもいいと思います。その行為は咎めません。禁術でしょうが」

「なら……………喰らおう。女神の呪いと共に」

 俺は我が子の魂を喰らった。身が焼けるように熱く。皮膚が一部爛れた。

「トキヤさん!?」

「はぁはぁ……我が子はこれを耐えたわけか」

「トキヤさん?」

「耐えたからこそ………ネフィアは大丈夫だったわけか。男の子らしい勇敢な我が子だ」

「………………はい。小さいながら母親を救ったのでしょう。全ての呪いを内包して」

 魂を喰らい。苦労を知る。

「………勇敢な子だった」

 膝をついたままの俺は立ち上がる。今は涙は枯れた。だから………会いに行こう。我が子の亡骸に。供養をしなくてはいけない。

「………トキヤさん」

「なんだ?」

「………………………なんでもないです」

 女神エメリアは何かを言いたげだったが気にせず丘を下りるのだった。





 ごめんなさい。トキヤさん、ネフィアさん。

 私は知っていた。こうなる事を。こうなってしまう事を。

 だけど………必要な事なんです。

 私は………私は………姉に復讐したい。

 私は姉を止めたい。

 私はあなた達を利用して姉を倒したい。

 だから………黙った。

 復讐者を作るために。この世界の歪んだ物を見せるために。

 そして。私は彼女の力で賽を投げる。

 彼女は………必ず至る。そう信じて。

 

§ 流産


 黒い。暗い。沼の底。女の笑い声が聞こえる。漂っている。力が入らずただただ漂っている。

「ネフィア・ネロリリス。いい夢は見れた?」

「だれ………?」

「ふふふ。あなたのお腹の子から伝ってあなたに言いに来た。死ね魔王……世界の因果律、運命によって」

「…………わかった。あなたは女神」

「正解。だけどご褒美は愛しい子と共に堕ちるのよ」

「あの子………!? あの子は!! トキヤの子!!」

 私は意識が鮮明になる。意識は鮮明になるが体は動かない。まるで鎖で繋がれているようだ。

「私たちの子は!? 私たちの子は!?」

「ふふふ。今までよくも………待たせてくれたわね。胸くそ悪い劇は終わり。あなたは負けたの」

「ま、け……た?」

 どういう事だろうか。

「そう、あなたは魔王として勇者に負けたの。彼は裏切ったから最高の仕返しができた。でもまだ彼は生きている」

「…………」   

 黒い感情が声から伝わる。死神の囁き。

「さぁ!! この子は貰っていくわ‼」

 その声に身震いする。

「ま、まって!?」

「残念!!」

「やめて!! 奪わないで!! その子は!! トキヤの!! トキヤの!!」

「裏切り者の子は生ませないわ。いいえ、彼は最高の手段を用いた。あなたの体の内側から壊せる」

 声を出す。声だけは出る。体が動かない。もどかしい中で、別の声を聞いた。

「その妹は奪わせないわ。お姉さま」

 それは女神さまの声だった。

「エメリアさん………」

「ふーん。まぁいいわ。そんな残りカス、塵ひとつ気にしない。ネフィア………また会いましょう。もっと絶望させてあげるわ。私の刺客で」

「…………ネフィアさん。お手を伸ばしてください」

 私は言われた通り沼から手を出す。すると大きな手が私を包み込んだ。

 暖かく大きな手だった。






「ん…………」

 ここはどこだろう。見慣れない天井が見える。

「ネフィア………起きたか」

「トキヤ?」

 私の手を掴む彼を眺めた。ゆっくりゆっくりと夢を思い出す。

「…………あっ赤ちゃん」

「ネフィア。取り乱さず聞いてほしい」

 真剣な眼差しで私を見る彼の瞳は悲しみに彩られ不安が的中した。

「そ、そんな!! 嘘よ!!」

「ネフィア!! 落ち着け………落ち着いて聞いてくれ。まだ安静にしとかなくちゃいけないから!!」

「トキヤ!! どうして落ち着いていられるの!! どうして!! あの子は!! どこ!! ねぇ!!」

「……………ずっと前に供養したよ。あの丘で」

「……………ぅ」

 声が出ない。痛む体を起こしお腹を触れる。引っ込んだお腹に………なにも感じれない。

「あ……ぅ………」

 あんなに元気だった子。お腹で感じれた熱さがない。もう愛しい子がいないお腹を抱き締めて私は涙を流す。

「………うぅ………」

「ネフィア………すまん。言葉が思い付かない」

「…………ひっく………居たんですここに」

「ああ」

「居たんです……いたのに………私は………男だったから………うめなかった…………」

「それは違う!! 自分を責めるな!!」

「でも……でも………どうして………どうして!!」

「…………運が悪かったんだ」

「ああああ!!」

 私は大声で泣き出す。全て………全て………無くなってしまった。あんなに愛しかった事が全て……崩れていった。

「いやぁ!! いやぁ!!………好きだったのに………うまれてくる事…………ずっと…………お母さんになれるって………」

「…………ネフィア」

「ごめんなさい。ごめんなさい。生んであげられなかったらごめんなさい。ごめんなさい!!」

「ネフィア!!」

 トキヤが私を強引に抱き締めてくれる。抱き締めながら………私は彼の胸で泣き続けた。涙が枯れるまでずっと。ずっと。





 何日たったのだろうか。窓に写る雪をずっと眺めていた。失意の底で何も考えられない。お粥という、最近流行りの療養職も味はせず、ただただ外だけを見ていた。

「ネフィア………帰るから。これを着てくれ」

「帰る?………どこへ?」

「家だよ。家………診療所のベットを空けないとな」

「………そっか」

「………あまりに痛ましいから………誰も面会させなかったが。本当に今は誰にも会わせられない」

 彼は苦い顔をして私の頭を撫でる。

「ネフィア………次。頑張ろうな」

「………トキヤ。ごめん」

「どうした?」

「……………………ここ。壊れちゃった」

 私はなんとなくお腹をさわった。場所はちょうど子宮は辺りで私は失った事がわかる。

「ぐぅ………くぅく」

 トキヤが唇を噛み。拳から血が滴る。体を震わして怒りを見せる。誰に対して、わからないけど。

「ごめん。トキヤ………私は女になれなかった」

「ネフィア!!………いいんだ。もう。子供なんていらない…………君だけが居てくれれば」

「トキヤ?」

「ネフィア。今は辛いだろう。だけど前を向いて歩いてくれ。いつかでいい…………また。笑えるようになろう」

「と、トキヤ………トキヤぁ……」

 私は枯れたと思った涙がまたあふれ。顔を抑える両手から溢れ落ちる。

「捨てないで………女になれなかったけど……捨てないので」

「捨てない………捨てるわけないじゃないか。お前しかいない。俺には」

「ごめん………トキヤも辛いのに私ばっかり泣いて………ごめん………産めなくて」

「もういい………もういいから………大丈夫………大丈夫だ」

 また私は彼の胸の中で思い出したかのように泣き。発作のように自己嫌悪に陥る。

「さぁ………家に帰るぞ」

「ぐすん…………うん」

 私は病衣の上からフカフカの犬系魔物の毛皮を羽織り。足腰が立たず。へたりこんだ私を彼は背負った。ナーガ族の医者に挨拶を済ませ………冷たい雪道をトキヤは歩く。

 彼の背は暖かい。でも………心は冷たいままだった。気付けばもう冬になっている。そう………冬に。







 家に帰り、彼は私を下ろす。やっと廊下の壁に手を繋ぎながら立ち。ヨロヨロと部屋に入った。

「………暖炉に火入れるね」

「俺がやるから。無理するな」

「…………うん」

 彼の肩を借りながら言葉に甘え。ソファーに座った。お腹にいないのに軽い筈の体は凄く重い。

「………あっ」

 トキヤが暖炉に火を入れていく。私は目の前のテーブルに手を伸ばす。

「………ん」

 私は目の前の当時のまま置いていた手編み途中の赤い服を持ち上げた。赤い毛糸で毛糸玉に繋がったままの状態だ。

 完成………しなかった。でも………もう必要ない。

 ギュウウウウ

 それを私は強く抱き締める。

「ネフィア? どうした体調がわる………あっ」

「トキヤ…………これどうしよう」

「…………」

 トキヤが困った顔をする。頭を掻いて罰がわるそうに。

「もう…………必要ないね」

「…………くっ」

 私はその服を編み、完成させようとする。

「ね、ネフィア?」

 意外だったのか彼はしゃがんで私の顔を覗き込んだ。

「丘だよね…………」

「……ああ」

「春まで編んで………行こうねトキヤ」

「ああ…………うぅ………」

 トキヤが我慢できずすすり泣きだした。我慢してたのは知ってた。「男が泣くなんて」と思うかもしれない。だけど今は二人だけ。咎める人なんていない。

「ネフィア……………」

「…………今はいっぱい泣こう…………………次会うとき笑顔で会いたいからね」

 トキヤが私の膝で泣き。服が濡れた。

 この涙は前の涙と違い。冷たく感じるのだった。



§攫われる姫君



 家に帰って来てから。私はソファーで編み物を続けた。黙々と。トキヤはそんな私を見ていられずに何処かへ出掛けてしまう。一緒に居て欲しい。抱き締めて欲しい。

 だけど………トキヤも私も不幸から目覚めるの時間がかかると思う。愛に臆病になってしまった。

「はぁ………辛い時こそ一緒にいるべきなのに」

 私も彼も何も言えない。冬が来てしまった気がする。彼を慰めてあげたいけど。自分も元気がない。

 暖炉を焚いても寒い。暖炉を焚いても明るくならない。心に影を落としてしまう。

「女神ヴィナス」

 誰に教えてもらった訳じゃない。聞いたわけでもないが影と共にその名前が浮かんだ。彼女を裏切った仕打ちは彼には重たい罰だった。

「トキヤ………」

 彼はまた何処かで泣いているのだろうか。

「ただいま…………ネフィア」

「………ん」

 私はトキヤの声に導かれるように立ち上がり。玄関へ向かう。そして…………疑問に思った。

「トキヤ………?」

「…………どうしたんだい?」

「ん………?」

 私は目の前の知らない。トキヤに良く似た人に驚きながら目を見開く。瞳の奥も優しくない。まるで他人のような目に私は言葉を発する。玄関が開け放たれて寒い風が吹く。

「だれ?」

「……………俺は………」

「おい!!」

 背後から私の旦那様の声が聞こえる。トキヤに良く似た人は振り返り、お辞儀をした。

「どうも。元勇者」

「………誰だ。俺の姿を偽る奴は」

 トキヤが剣を構える。良く似た人はまた振り返り素早く私の手を取った。振りほどこうとしても、逃げようとしても力が入らない。弱っている体では………全く何も抵抗できない。

「うぅ!? は、放して!!」

「ネフィアを放せ!!」

「元勇者………それは聞けない」

 引っ張られ抱き締められた状態で旦那様とトキヤに似た人は対峙した。

「なら!! 斬るまで………」

「気が荒い。魔物だな自分。さぁこれはなんだ?」

「そ、それは!!」

「こ、これ!?」

 私はトキヤに似た誰かが取り出した白い羽に見覚えがあった。

「女神の翼。君も良く知っているだろう。彼女を救うために使ったからな。だからアホなんだ」

「な、なぜそれが!?」

「女神の力さ。さぁ………帝国で待っている。トキヤ」

「ト、トキヤ!!!」

「はあああああああ!!」

 トキヤに似た誰かの掌の羽が魔力を放ち私達を包む。私は手を伸ばした。赤い指輪が妖しく光を反射した。旦那様は剣を勢い良く突き入れようとして止まる。偽物が私を盾にしたために。

「来い。早くしないと………女神に殺されるぞ」

「畜生め!! お前は誰だ!!」

「勇者トキヤ。お前だよ………元勇者トキヤ」

「!?」

「さぁ!! 時間だ!! 翼よ!! 我が故郷へ!!」

「トキヤあああ!!」

「ネフィアああああ!!」

 手を伸ばすしたが届かず。私は一瞬にして目の前が暗くなり気を失ったのだった。





 伸ばした手が空をきる。俺の目の前にいた愛しき人は…………赤い指輪だけを残して消えた。

 指輪が落ちる金属音が寂しく響く。

 それを拾い俺は叫んだ。

「ああああああああああああ!!」

 何故こうなったか、しらない。

 奪われた。

 子供の次は愛しき人を。

 地面を殴り、怒りで噛み締めた唇から血が滲む。

「ネフィアああああああああああ!!」

 俺は都市を揺るがさんばかりに名前を呼んだ。

 しかし…………反応はなく。あの笑顔も、優しく名前を呼んでくれはしなかった。


 雪が降る。


 寒さだけが肌を撫でる。


 だが、内にある炎だけは身を焦がすほど熱く熱せられる。


 女神を深く憎しみ。剣を掴むのだった。





 何度目の天井だろうか。もう数える気持ちもない。そんな事を考えながら私は体を起こす。体を見ると綺麗な純白のドレスに身を包んでいた。天蓋付きの赤いカーテンにベットの垂れ幕。装飾された部屋に。大きな暖炉。

「なに………これ? ここはどこ?」

 私は体を触れながらひとつひとつ確認する。首と両手両足に輪のアクセサリーがついていた。まるで拘束具のように………金であり装飾はされてるが非常に強い呪物だった。女神の印がついている。

「…………!? トキヤは!!」

 私はベットから立ち上がる。ふらつく足で鉄格子のはまった窓を見た。外は白い雪が降っている懐かしくもある景色に私は驚きのあまり窓から数歩後ろにさがった。

 場所はそう。トキヤの故郷。

「帝国!?」

 特徴の5つの城壁に水平線まで広がるかのような城下町。壁の上から見た帝国の情景。

「どうして!?」

ガチャ!!

「………お目覚めか」

「お目覚めね」

「!?」

 私の背後で扉が開き。二人の男女の声がした。見たことのある一人は桜の花の色のドレスを着たネリス・インペリウムと言うお嬢様と。トキヤに似た誰かだった。トキヤと言っていたが………姿は似ていても性格は全く違っていた。

「ネリス・インペリウムお嬢……」

「久しぶりね。魔王………あのときはどうも。見て見て………私の勇者さま」

 ネリスが偽勇者の手に胸を押し付けていた。偽勇者は顔に手を押さえて冷たい笑みを彼女に向ける。

「…………離れてくれ」

「はい。トキヤ」

 嬉しそうに離れて行く彼女は私の目の前に立つそして。

バッチーン!!

 勢い良く頬を叩かれる。ジンジン頬が痺れた。

「ふふ。いいざま………拷問も楽しそうね」

「………あまり強くはオススメしない。これは元勇者を誘う餌だ」

「………生死は関係ないでしょ?」

「ある。死んだら……帝国の都市で暴れて大変なことになるぞ?」

「何人臣民が死んでも大丈夫。いっぱいいるんだから」

「…………まぁいい。気分はどうだい? 魔王ネフィア」

「……………私は拐われたんですか?」

「それ、以外に何が?」

「…………ん!!」

 私は近くにあった花瓶を掴んで割った。そして破片を構える。ネリスが笑みを溢した。

「ふふ。愚かね」

「魔王。その枷は女神が用意した神物………何も出来ない。抵抗は無駄だ」

「…………」

 私は目を閉じて破片を………自分の首に突き刺そうと向きを変える。

ドコッ!!

「うぐっ!?」

「なっなっ!? こいつ自殺しようと!!」

 お腹の痛みで目を開けると偽物勇者が破片を奪って驚いた顔で私を見る。

「何故!?」

「…………ぐぅ!! ご!?」

「つっ!!」

「な、何してるの!?」

「こいつ………舌を噛みきろうとした。死ぬ気だ」

「…………殺しときなさいよ」

「いいや………生かす。生かした方が元勇者は動きづらい。それを知って自分の命を断とうとしたか」

 私の考えが読み取られて手を口につっこまれたのを噛み千切ろうとする。鉄の味が喉を潤す。そのまま睨み付けた。

「……………自殺は禁ずる」

「んぐぅ!?」

 少し首が締まり。四肢から吸いとられるように力が抜けた。紅い絨毯に私は倒れる。

「四肢の拘束具は力を失わせる物だ。諦めろ」

「………トキヤが危険な事になるなら。足手まといなら………こんな子も生めない価値のない女は消えるべきだったのに………来ちゃう………罠なのに………」

「…………」

 私はぐすっと泣き出す。それにネリスが笑う。

「いいざまぁああああ!!」

「ネリス!! 出ていけ!!」

「ええ~まぁいいわ。好きにして。凌辱するなら………私もお願いね」

「……ふん」

 ネリスが出ていった。廊下から笑い声が響く。

「魔王………お前。死は怖くないのか?」

「うぅ………トキヤが死んじゃう」

「ああ、殺す」

 私は絨毯を濡らす。非力な自分を誰かに消してもらいたいと願いながら。


 


























 





 





 
  




 
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