メス堕ち魔王は拐った勇者を気に入る『長編読者向け』

書くこと大好きな水銀党員

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隠居編

都市ヘルカイト②

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§都市ヘルカイト⑬   天国の塔..


 空から多くの岩槍が降り注ぐのが見えた。ドラゴンゾンビである私の体に幾つもの槍が突き刺さり肉を抉る。腐蝕のブレスを吐いても溶けきれずに突き抜けた。肉盾として役割は出来る筈だが、中々数が多い。

「私の下へ!!」

 私は槍を受け止めながら押し戻される。ゾンビの体を生かし肉壁となる。砕けようと裂けようと修復され何度も槍を肉で抜きながら耐える。あえて抜かずに盾にもする。

「くぅ!! 迎撃か!!」

「数が多い!! 兄貴!!」

「どけ!! ナスティ!! 吹き飛ばす!!」

「私ごと!! やりなさい!!」

 私は背後から膨大な熱量を感じ、体が炭化するのを感じる。ヘルカイトの大口からブレス、熱線が吐き出され私を巻き込み槍の雨に穴を開ける。そのまま私の体が再生し空を見上げ、塔を見上げる。

「遠い!!」

「兄貴!! 僕が穴開けた所から行く!!」

「ま、まて!! 坊主!! 一回だけじゃ無理だ」

「待ちなさい!!」

 私の背後からワイバーンが勢いよく飛び出し空を目指す。背後に魔方陣を展開し魔力の噴射で昇っていった。声が届かない程の爆音。ワイバーンの周りに輪が生まれそれを突き抜けた後に大きな音と衝撃波が空に響き渡る。

「くそ!! 速いのも問題だな!! 声さえ置いてくからな」

「でも!! あれなら穴をくぐって………」

 遠くに行ってしまったワイバーン。しかし、第2、第3の岩槍の雨が降り注いでいるのが見え、なんとかかわしながら昇る。

「行けるか?」

「あっ!?」

 ワイバーンの翼に槍が刺さる。横からの唐突な突出によってぶつかり。切り盛りしながら槍と共に落ちてきた。翼が破れている。

「あの馬鹿!!」

「速度が早かったからカウンターのようになったのよ!! 落ちるわ!!」

 二人でワイバーンの元へ飛ぶ。落ちて来た彼をヘルカイトが受け止め。私は上になり肉壁を継続する。

「あほか!!」

「ご、ごめん。助かった。行けると思ったのになぁ~」

「うぅぐ!! だめ!! 数が多い!! 受け止めきれない!! 熱線まだ!!」

「まだ!! 無理だ!! 連発出来ねぇ」

 多くの岩槍が私を削る。再生よりはやく削る。このままじゃ二人に当たる。この魔法は威力が高く鱗を突き抜けのだ。だからこそ、この塔は竜に危険と判断されている。

 じゅわっ………グウウウウウウウ!!

十二翼の爆炎じゅうによくのツバサ

 ガガガガガ!!

 魔力の高なりと一緒に私の目の前で火の魔力球何個も現れ、膨脹し爆発する。槍の雨を一帯吹き飛ばし、岩がくだけ散った。

 そして……背後から、赤い竜が抜き正面に立って咆哮をあげた。

「なっさけない。あんたたちエルダードラゴンでしょ!!」

「竜姉!!」

「火竜ボルケーノ!! どうして!?」

「………気になったからな。デラスティ!! 男なら!! そんな槍で飛べなくなるな!! お前はその程度か!! ヘルカイトも!! 長年戦わずで鈍ったかぁ!?」

「………厳しいよ竜姉」

「うっさいぞ!! 隠居のババァに言われたくねぇ!!」

「だったら!! こんな槍ぐらい!! 吹き飛ばせ!!」

 ワイバーンは槍の破けた翼で飛ぶ。全く影響はないようだ。

「わかったよ竜姉!! 腐竜の姉ちゃん!! 兄貴!! 今度は頂上に行くよ!! だから!! 道を作って!!」

 私たちは頷いた。そして、小さな体のワイバーンに託す。上の魔法の主を倒すことを期待して。





「愚かな!?」

 自分は狼狽える。外の奴もそうだが中のやつら。あれがかけ上がってくる。

「なんなんだ!? あいつら!!」

 瞳を通して見る姿に驚く。メンバーは変わってな
い。だが、勢いがある。特に先頭の女。

「何故倒せん!?」

 最初は後方支援や魔法での援護が主だった。しかし今は白い鎧に炎の翼を翻しゴーレム等の邪魔を倒さずすり抜けて上がってくる。罠も全てかわされる。前もって罠があることをわかっているかのように鋭い勘を持っていた。

「くっ!! やめろ!! 塔を!! 上がってくるな!!」

 自分は焦り出す。汚されてしまう、邪魔をされてしまう。

「やめろおおおおおおお!!」

 叫ぶが目の前の女は真っ直ぐ止まること知らない。炎の翼で跳びながら。





「ね、ネフィア!! 速い!!」

「ネフィア姉さま!! 待って!!」

「ネフィアさん!! 一人で出すぎです!!」

「皆はゆっくりでいい!! 私は………彼に………会わなくちゃいけない気がするの!!」

 階段を駆け足と跳び越えで進む。真っ直ぐ。塔を進んでいくとわかった事がある。上には行けば行くだけ生活感の名残を。この塔は誰かと住んでいたことを。もう一人。居たことを。

「何故だ!! 何故上がってくる!!」

 悲痛な声が耳に入る。背後の瞳が私を追う。

「もう一人!! 誰がいたの!!」

「なぜそれを!?」

「私を!! 呼んでいるから!!」

 声が聞こえる。仲間の声とは違う。女性の声。「彼を救ってと」言う嘆きが。

「何が聞こえるんだ!? 何が見えるんだ!?」

「女性の声と!! あなたを止めるように!!」

「女性の声………女性の声だと!?」

「忘れた!? あなたが天国へ目指す理由を!!」

「……………理由」

 声の主が静かに唸る。私は駆け上がる。呼び声に導かれ。そして………到達した。

 一面の青空。雲一つ無い晴天。冬空の透き通った空気を吸い込む。背中の炎を仕舞いながら深いローブを被った魔術師に対峙する。顔は見えない黒い影が顔を隠す。その脇に………白骨し風化した骨が転がっていた。

 風は無い。きっと魔法で防いでいるのだろう。

「はぁはぁ………」

「くっ………登り詰めたか」

「ええ。素晴らしい景色ね」

「………お前は何故。ここまで上がってきた」

「セア……」

「セ……ア……」

「思い出さない? そこにいるのに………いいえ、ずっと居た」

 ローブの男は頭を抱える。

「セ………ア………」

「塔を護る理由は? 塔を伸ばす理由は?」

「天国へ至るために。護る理由は護らなければ………護らなければ………」

「退いて………」

 彼の横を抜けて風化した骨を拾う。骨の主は「セア」と言う。彼女が私に教えてくれた。

「その、骨……ああなんだったか……」

「長い時があなたを風化させた。もう一度思い出しなさい」

「………くぅ!! 思い出せない!! 重要な事を!!」

「…………思い出して。彼女を」

 思い出してほしい。

「彼女……セア……セア!!」

 ローブの男が膝をつく。

「わ、私はいったい!? まだついていない!! まだついていないのか!! あああセア!!」

「………思い出した?」

「ああ、ああ。思い出した!! 思い出した!! ああいったいどれだけたった? いったいどれだけたったんだ!!」

「………」

「はぁはぁ……私はどうやって天国へ行けるんだ………どうやって………彼女にまた逢えるだ……」

「セアさんは私を呼びました」

「きみ!? そうだ!! どうやって名前を知った!!」

 私は手を上げ指を空に向ける。

「私は聖職者です。愛の女神を信奉しております」

「か、彼女は!? 彼女は天国へ行けたのか!?」

「いいえ、まだ空であなたを待っています」

「待っている!? まだ!? 私を? リッチを!? 死ぬことが出来ない私を!! そんな!!」

 ローブの男が杖を落とす。そして私の足元へ。

「教えてくれ!! 彼女はどこに!!」

「……会いたいですか?」

「会いたい!! もう一度!!」

「では、目を閉じてください」

 私はローブを外し骸骨の頭に手を乗せる。そして、一言。

「フェニックス。歪んだ輪廻焼ききれ」

 手から炎が彼を包む。その彼に抱くように一人の女性が現れた。

「あ、ああ………こんな近くに。天国へ行こうと思ったのに。こんな近くに……き………み………が………」

ガシャン!!

 骸骨が崩れ落ちくだけ散る。彼女の遺骨も風化して交ざりあい。魔法がとけ風が靡き灰を空高く舞い上げる。

「彼等に祝福を」

 膝をつき手を合わせて祈る。何も知らないが………塔の理由は悲しいことぐらいわかる。私は皆が来るまでそうしていた。





 上空へ雲より高く塔の天辺に僕は到着した。ワイバーンの非力な体で槍の雨を抜けた先。綺麗な光景を目にした。幻のような。

 そして一人の女性が祈りを捧げている。大きな白い翼を広げ。周りに白い羽が舞う。僕は目を擦る。

 何もない。ネフィアお姉さんがいるだけ。でも確かに一瞬…………そう見えた。

「?」

 僕は首を傾げながら縁に降り立った。ちょうど槍の雨が収まり。何か起こった事だけがわかる。

「ネフィアお姉さん?」

 声をかけるとネフィアお姉さんは立ち上がる。綺麗な顔は悲しそうな、伏し目がちで、下をみている。

「デラスティくん。来たんだね……全て終わったよ」

「何があったの?」

「………リッチを浄化した」

「そっか!! 流石ねぇさん」

「ええ………ふぅ。皆さんまだですかね?」

「もうじき来ると思う?」

「ふふ!! たっぷり報酬貰わないとね!!」

 ネフィアお姉さんがいつもの優しい笑みになる。そして、階段からトキヤの兄さんが現れた瞬間。お姉さんはすでに彼の胸へと飛び込むのだった。






 知らないところで知らないことが起き、知らないうちに解決する。塔の頂上に登りきった彼ら皆が私に説明を求めた。

 トキヤに抱きついているのを離れ。四方をドラゴンに囲まれる。威圧的な光景だか、彼等は知り合いだからこそ安心できる。

「ネフィア………何があったんだ?」

「女神から信託がありました」

「信託?」

 私は頷いた。私は感じる。強く、私の背後にいる女神の存在を。皆が私の言葉を待つ。

「ここに居たのは過去、この土地を治めていたリッチキング。彼の寝城がこの塔の最上階。正室と一緒に住んでいたみたいです」

 私は塔を駆け上がる間にこの塔の過去を覗き見た。ナスティが地図の赤いラインを記入したあの場所は過去の建物が立っていた場所。今は砂になってしまっている。砂漠は魔法によって草木を生やすことを許されない場所となっている。わかる。わかってしまう。

 頭の中に勝手に知識を刷り込まれた物語を語る。

「そして、正室が死に………リッチキングはもう一度、会いたいとの一心で塔を作った。リッチキングは死ねない事と天国へ行く事が出来ないと考えたから。しかし、時は無惨に彼を忘れさせる。塔の意味もなにもかも………いつしかリッチキングは動かなくなり。時がたって冒険者が現れ。目覚めたの」

「俺たちが家捜しをするからか………」

「一応は愛しい人と住んでいた場所。本能か体が覚えていたのでしょうね。だから墓荒らしは嫌われるのよ。ドラゴンの迎撃は都市を護るための防衛装置みたいね………ここに都市を隠してドラゴンの目から盗んで繁栄。しかし……時は無情にも何も残さなかった。砂を掘ればあるかもね。昔の名残が」

 私は話終えて周りを確認した。

「ネフィア。ではその主は何処へ? ワシは領主………非礼を言わなくては」

 天に指を差す。

「二人仲良く天に召しました。ここには誰もいません。ただの塔です」

 強くはっきりと宣言する。

「冒険者が探ればいいと思います。もう、終わったのです。きっと、沢山………彼等の物が見つかるでしょう」

「いいのか?」

「ええ………それがセアと言う女性の報酬ですから」

 声の主は二人だった。そして………願いは叶えた。

「帰りましょう。洗濯しなくちゃね」

 明るい声を出し。私は先に階段を降りる。心は晴天のように軽く。そして「ありがとう」と言う彼女の御礼と共に。
 

§都市ヘルカイト⑬  イチゴジャム事件..



 塔での強行調査によって。あの地域に冒険者が探索するようになった。理由は単純で砂漠の下に過去の遺物が発掘できたり。塔の上の方に宝があると思われ………あの地域での活動が人気になる。拾った遺物は転売される。一部のみヘルカイトの屋敷に贈呈され、リッチキング博物館として残す予定らしい。

「はぁ~」

 私は帰ってきてからナイーブな気持ちで塔の事を思い出す。長い間、あの塔で一人ぼっちだったのはどれだけ寂しかったのだろうと。

「いつか、私も一人になるのでしょうか?」

 ソファーに横になって天井を見上げる。私が聞いた感じた内容は全部、紙に書いてギルドに提出している。家事も終わった。だからか、考えてしまう。終わりを。幸せだからこそ、失う恐ろしさを。

「…………うん。悪い考えはだめ。1日1日が大切」

 小さな巡り合わせの奇跡を楽しもう。そう考え体を起こす。

「それよりも………女神様」

 私は頭を押さえる。異常なほど今、女神が近くにいる気がするのだ。目を閉じれば綺麗な波のようなウェーブの髪型の女性が母性の微笑みを浮かべている姿が目に写る。

 そう、容姿が都市インバスでの教会にあった女神像とそっくりなのだ。

 名前もわかる。愛を司る女神エメリア。

「…………女神様はいつか現れる」

 そんな気がする。それがいつかわからないが近々に出会う筈っと確信を何故か持てる。声もハッキリと塔で聞こえたのが大きい。

「………まぁ気にしてもしょうがないね」

「ただいま!!」

「あっおかえりなさい」

「ネフィア!! 2階の倉庫開けてもいいよな?」

「!?」

 トキヤが剣を背負ったままリビングに入り睨み付ける。馬鹿な私はしっかり隠した筈。

「な、なにも……ないよ?」

「俺の目を見て話をしような?」

 沈黙、そして。私は立ち上がり走り出す。階段を上がり倉庫となっている部屋の扉の前に陣取る。

 ゆっくりゆっくりトキヤが階段を上がって迫ってくる。

「ネフィア、そこを退け」

 首を振る。この中には。

「………こちょこちょ!!」

「んんん!?」

「さぁ!! 抵抗はやめろ!!」

「ん!! ふふ!! はははやめてぇ!!」

 脇を攻められその場に腰をペタンっとつける。鍵を壊して中を覗かれた。私は耳を押さえる。

「ネフィア…………これ全部そうかよ?」

「わ、わたし。なにも聞こえない見えない!!」

「じゃぁ~いいな~おーい!! 頼むわ」

「「へい!!」」

「えっ!?」

 二人の竜人が私を避けて中の木箱を運び出す。何をしているかわからない。

「えっ? えっ?」

「ネフィア。イチゴジャム禁止令」

「!?」

「食べ過ぎ。あとこんなに買い込みやがって………罰としてイチゴジャム禁止令。体に悪いんだぞ!! 偏食は!!」

 私はヘタリこんだまま、トキヤのズボンに縋る。

「トキヤ!!………いえ!! トキヤ様!! お慈悲を!! お慈悲をください!!」

「無慈悲だ」

「そ、そんな!! 報酬で買ったものですし!!」

「だーめ。お前は変に偏食なんだから節制をだな………」

「嫌です!! お願いします!! なんでも!! なんでもしますから!!」

「じゃ~イチゴジャム禁止な」

「イチゴジャム禁止以外なんでも!! おちんちんだってなめます!! お願い!!」

「おい!! 他に人がいるところでチンチン言わない!! 残念だが今回は許さない。この前注意したのに一瓶食べただろ? 1日で」

「な、なんのことかなぁ~」

「数、数えてるんだぞ?」

「い、いやぁ~…………………だって!! イチゴジャムだよ!! 美味しいよ!! ねぇ!!」

「くそ、イチゴジャムジャンキーが!!」

 黙々と荷物が無慈悲に運ばれる。止めようとするが。トキヤに邪魔をされる。気付けば全て外の馬車に乗せられていた。こっそり一個盗む。

「これで全てですね。安く売ってきます」

「おう、任せた」

「そんなぁ~」

 馬車が行ってしまう。

「………はぁ………まぁいいです。諦めます」

「ネフィア。背中に回してる手。見せて」

 片手を見せる。

「両手な?」

 片方をおさめ。もう片方の手を出す。

「両手同時な?」

 私は唾を飲み込む。トキヤが私の目と合う。背中が汗が垂れるのがわかった。冬なのに暑い。

「ネフィア…………」

「はーい」

「盗んだジャムを渡せ」

 踵を返し、ジャムの入った瓶を抱き抱え。路地に逃げ込む。

「あっ!? くそ!! 逃げた!!」

「この子だけは!! この子だけは!!」

「紛らわしい言い方をするな!!」

「私が守るんです!!」

「もっと!! 守るもんあるだろ!!」

 路地裏を走り込む。三叉路で私の足音を出さず。分かれ道の反対に音を出し誘導する。後ろからの足音が分かれ道の方へと進んだ。撒けたっぽい。

「よし!!」

「なーにがよしだぁああああ!!」

「先回り!?」

「足音ぐらい俺でも操れるわ!!」

 目の前にトキヤが両手で抱き締めようと構える。

「ん…………ん!!」

 私は真っ直ぐ。低く。瓶を抱き締めて走り込む。

「いい加減大人しく…………!?」

 私は右を抜けようとした。トキヤが右へズレる。それを見た瞬間ゆっくりと時が延びるのがわかった。集中できている。居合いの時と一緒だ。1秒が1分、1分が1時間となるような感覚。

 右から、左へステップを小刻みに刻んでフェイントに引っ掛かったトキヤの左を抜ける。抜ける瞬間目線が合い。時間が動き出す。

スカッ!!

「ネフィアああああああああ!!」

 背後から怒声が響く。ああ、怒られる。でも大丈夫。明日の私が怒られる。今日の私じゃない。

 路地から表に出た。人混みに入る。

「ふぅ………ここなら」

「ストームルーラー。おい!! お前ら!! ネフィアから離れねぇと死ぬぞ」

 ばっ!!

 人混みが分かれ、私の周りの人達が震え出す。分かれた中心を………鬼の形相でゆっくり剣を肩に担ぎ歩く姿に心が凍えそうになる。

「ネフィア………みぃつけた」

「うわああああん!!」

 恐い恐い恐い。

「あっ!! 逃げるな誰か捕まえろ‼」

 皆が一斉に顔を背ける。私は人混みの上をジャンプ。跳躍力で屋根へと上がり。走り出す。

「ネフィア!? おまえ!! どれだけ身体能力高い…………あっ!? こっそり歌って強化してるな!!」

 バレてしまった。しかし、もう遅い。私は屋根を走り抜ける。





 ネフィアが全力で逃げるのを俺は追いかけていた。屋根の上を走る背中がゆっくり離されていく。

「畜生、鎧の分遅くなってしまう」  

 相手もこっそり歌って身体を強化してる。音魔法の厄介さを感じながら。詠唱を始める。そっちが本気なら。

「風矢!!」

 数発、風の矢を打ち出し。操作させ当てる。予定だった。

 ブワッ!!

 ネフィアの背中から炎の翼が生え矢を打ち消した。厄介な防御。

「………まぁいい!! 嫁にこれを使うのは忍びないが!! そこまで本気なら!!」

 方目を閉じ。空間を指定し。詠唱。頭が悲鳴を上げる。頭痛を噛み殺す。

「其は風を支配し、使役する魔術士である。故に、今ここに風の征服者として我が操る!! 操られよ風よ!! 我が使命のために」

 ネフィアの先、進路上指定。

「絶空!!」

 ネフィアの走る先に無の空間を作った。色も指定し透明なそれを罠として設置。入れば呼吸が止まり息が出来なくて走れなくなる筈。

「………どうだ?」

 ネフィアが罠の前で跳躍する。体を捻りこっちを見て舌を出した。畜生かわええな。

「それより何故わかる!?」

 透明で知覚できない筈。なのに「ある」とわかっていた動き。

「………運の良さもだが。直感が化け物レベルなのか!?」

 恐ろしい物を見た。そして、気付く………ネフィアの背に翼がない事を。

「!?」

 背後を見る。大きな火の鳥が俺に向かっていた。抱き付き、炎に包まれる。

 もし、あいつが魔王で殺し合いした場合。俺は「負けるかもしれないな」と思うのだった。





 壁の上。 縁に座り込み頭を抱える。無我夢中で逃げて来た。フェニックスをトカゲの尻尾切りで置いてきた。

「はぁ………あうぅ」

 落ち着いて考える。やり過ぎた。

「絶対怒ってるよぉ~絶対怒ってるよぉ~ううぅ」

 失った物は大きい。しかし、得たものも大きい。

「………まぁでも。イチゴジャムは守れた。いただきます」

 発展した都市、中央のユグドラシルを見ながら家から持ってきた銀のスプーンを天に向けて掲げる。キランと輝く銀の高価なスプーン。

「…………馬鹿なことしてないでたーべよ!!」

キィン!!

「…………」

 掲げたスプーン。先の丸い部分が無くなっていた。ゆっくり背後を見ると剣を肩に担いだトキヤが肩に小さい火の鳥をとめて立っていた。冷や汗が止まらない。

「えっ? フェニックス?」

「ああ、お前の炎って暖かいんだな」

 鳥がトキヤの頬をスリスリ体を擦り付ける。さすが私の炎。納得した。私と同じようにトキヤには全く抵抗できないのだ。

「で、でも。何故この場所に?」

「あの大きい木。見てみろ」

「ん?」

 中央の木の枝に可愛い緑の髪の女に子が手を振る。

「ワンちゃん一週間自由権をあげたら快く教えてくれたよ」

「は……はは………」

「さぁ!! どうする? 大人しく…………ネフィア!?」

 私は壁から落ちる。

「ば、ばっか!! 危ない!!」 

「はっはは!! まだ逃げられ!!」

「見つけたぞ。お前ら」

 落ちたと思ったら何かに捕まれた。顔を上げて見ると牙の大きな紅いドラゴンが私の服を掴み壁の上へ戻した。

「お、おかえり」

「うん………ただいま」

 ちょっと、なんとも言えない空気になる。

「…………お前ら。何故ワシがいるかわかるな?」

「いやぁ~俺わかんないっす!!」

「ええ、私はただ。屋根を走り抜けてただけですよ」

「衛兵がワシに泣きついて言ってきたのだ…………恐ろしい二人が暴れているとな」

「お、おう………」

「えっと………」

「ネフィアが悪い」

「トキヤが悪い」

「両方悪いわ!! ぼけぇ!! 鉄拳制裁!!」

 ドラゴンの姿から人の姿となる。強く握り拳を作って咆哮をあげた。

「鉄拳制裁で許してやる。歯を食いしばれトキヤ」

 トキヤが諦めたのか。歯を食い縛り。それを見たヘルカイトが勢いよく顔面を………違う。

「おりゃあああああ!!」

 腹部を殴り抜ける。トキヤの体がくの字に折れ、そのまま壁の石畳に倒れる。私は背中から冷や汗が止まらない。

「歯を食い縛れって言ったじゃないか………げほげほ」

「誰も顔面を殴ると言わなかった。さぁこれでお前は無罪だ。次は………」

 ギョロっと私を見つめる。

「女ですよ!?」

「ワシの付き合っている奴がな元男なんだ。お前もだろ?」

「いいえ!! 今は弱き乙女です!!」

「そうか。しかし、ワシの親友も女だ」

「ええっと………」

「腹を括れ。男だろ?」

「………………わーかりました!! 腹を決めます!! 決めますよ!!」

 イチゴジャム瓶を地面に置く。

「くく!! 男らしいな!! さぁ!! 歯と腹に力入れろ!! 行くぞ!!」

 私も諦めて待ち構える。ヘルカイトが力を込めて…………足を振り。腹に突き刺す。

「へ? あぐぅ!?」

 殴りじゃなく蹴り。腹部に激しい傷みが一瞬全身に走る。吹き飛ばされて壁の石畳の上をゴロゴロ転がった。素早く立ち上がり叫ぶ私。腹部の回復魔法を当て、痛みも全て取り除く。

「ヘルカイト!! 私に対して酷いです!! トキヤより!! 全力ですよ!? 私は乙女ですよ!!」

「元気やないか!! すぐに立ってやがるし大丈夫だろ!! まだトキヤは倒れとるぞ!!」

「ちくせう!! 痛かったんですよ!!」

「がははは!! そうかそうか!! じゃ!! もう一発いくか?」

「ごめんなさい。酷くないです」

 腹に擦りながら私は渋々………トキヤに回復魔法を唱えるのだった。





「はぁ~疲れた」

「全くだな………お前が逃げなければ良かったんだ」

「ふふ、でも一つ守れた!! 大事にたーべよ!!」

「あっ!! ネフィアお姉さん。トキヤお兄さん」

 家の玄関前に馬車とユグドラシルちゃんがいた。竜人の二人が家に箱を入れている。

「あの………お父様からですね。瓶の返品を頼まれて………」

「「えっ?」」

「あのですね。量が量で………需要過多になって市場が荒れました。ごめんなさい売れないんです」

「それって………」

「………もしかして」

 私たち二人は膝をつく。ドット疲れが出た。

「逃げる意味なかった」

「追い掛ける意味なかった」

「「殴られ損じゃん!!」」

 叫ぶのだった。


§不思議の国のネフィア①..


 6月、新入生の新しい春は過ぎた時期。私は制服に身を包み。鏡の前で気合いを入れる。

 親の都合で色んな学校を転々としたが高校になり一人暮らしを許される。もっと早く帰ってきたかった故郷。懐かしい場所と言えど都会と言えば都会だし。交通の便も悪くない。そんな中途半端な場所。でも私には帰りたい理由があった。

 母親譲りの金髪に、少しつり目な女の子が鏡の前で立っている。帰国子女と言われればそうなのだが。通りすぎる人たち皆に見られちょっと落ち着かないぐらい目立つ。声もかけられる。そんなのはどうでもいいのに。

「よし!! 元気で行こう!! 初対面が一番大事!!」

 私こと、小鳥遊ネフィアは胸を張るのだった。





 親の事情で編入が遅れ、職員室に顔を出す。担任の先生に挨拶をすませ。クラスのHRで紹介してくれる流れになった。学校に来る前に色んな人が私を見る。珍しい容姿は知っている。向こうでもハーフは珍しかった。

 クラス前につくと騒がしい声が聞こえ緊張してしまう。

「さぁ小鳥遊さん。緊張せずにそのままのあなたでいいのよ」

「は、はい!!」

 若いお姉さんのような担任に背中を押されてクラスに入った。その瞬間、声が収まり皆が一斉に私を見る。

「うぅ………」

「大丈夫大丈夫」

 緊張。緊張。

「新しいクラスメイトを紹介するわ。小鳥遊ネフィアさん。海外から帰って来たばっかだから優しくね」

「小鳥遊ネフィアです。よろしくお願いします」

 ゆっくり頭を下げる。

「ネフィア…………?」

「ハーフだぁ」

「うわっすっげぇ」

「美人だなぁ」

 各々が、私を奇異な目で見る。至って普通な反応だろう。私はいつもさらされている視線に緊張もほぐれてしまう。普通な反応で安心した。私だってその立場がわかる。

「席はあそこね」

「わかりました」

「じゃぁ、HR始めるよ!!」

 席につき先生が名前を呼ぶ。私はボーッと窓の外をみた。目線が合うと緊張するかもしれないので嫌だった。

「………もっと早く編入したかったなぁ」

 桜を見そびれた。「きっと窓の外の木々はきれいだったのだろうな」と思うのだった。





 休憩時間、色んな人が質問攻めに合う。もちろん面白い話などをして彼らの興味を満たさせる。早く解放されたい気持ちもあったが我慢する。

 時間がたてば落ち着くだろう。落ち着いたら。私は探すんだ彼を。

「ねぇねぇ………休日とか何してるの?」

「えーと。皆と変わらない事です。漫画よんだり、ゲームしたり。でも私は最近ずっと人探しをしてます」

「人探し?」

「はい、昔ここに住んでたときの幼馴染みを探してるんです」

 ここへ帰ってきた理由。

「ふーん人探し?」

「ねぇねぇその人の名前はわかるの?」

「ええっと。センゲくんしかわからないんです」

「センゲくん? うちのクラスにいるけど彼じゃない?」

「おーい千家くん」

「なんだい?」

「小鳥遊さん。千家くん探してたんだって」

「……僕を?」

「…………ごめんなさい。その人は違うと思います」

「あら? そう?………だって~」

「はぁ………千家ですか。彼………いや違うよな。それよりも僕はあなたを見たことある気がしますよ」

「えっ?」

「ええ、神社に遊びに来てましたよね?」

「あっはい!! そうですそうです」

「それなら。知ってますよね自分を」

「…………ごめんなさい」

「ざんねーん。忘れちゃったって」

「残念ですね」

「…………あの。もう一人センゲさんいるんですか?」

「あっ、いるよ。隣のクラスの不良。センゲじゃないけど親族だね確か」

「今日もサボってるでしょ?」

「トキヤって言いませんか?」

 ふと、名前を思い出す。思い出し、胸が焦がれる。

「そうそう、そいつだね。まぁ行くのはオススメしないよ」

「ヤンキーだからね」

 何故か既視感に襲われる。誰も彼の正しい評価をしてない気がした。私だけが彼を知っている。私だけが何故か彼は素晴らしい人と知っている。胸の奥で。

「そっか」

「そうだよ」

 会いに行こう。そう決めた。






 会いに行ったらお寝坊で遅刻していた。

「うん、知ってた」

 そんな気はしてた。不真面目なかんじ。

「はぁ、逢いたいのに」

「………小鳥遊さんなんでそんなに逢いたいの?」

「ん?………んん?」

 そういえばなんで逢いたいのだろうか。幼馴染みだったから。昔遊んでいたから。それが理由なのかもしれない。

「…………んん。何でだろう。昔遊んでいたからだけじゃないような。そう、ここで誰も知らない町で唯一、知ってる人」

「そっか。それなら会ってみたいね」

「そういえばお名前聞いてなかった」

「………だよ!!」

「………だね。わかった。私は誰か知ってるよね」

「ははは、知ってる知ってる。だって有名人だもん」

「目立つよね私って」

「それを自分で言う~?」

「言う~」

「はは」

「ふふふ」

 放課後までに来るでしょう。きっと彼は。





 放課後までには来たようだ。クラスメイトが教えてくれた。もちろん、逢いに行く。隣のクラスへ。

 ボーッと窓を眺めている時也。予想通り帰宅部らしく、窓から視線を避けすぐに帰る仕度をする。友達らしい人に挨拶を済ませた彼。どうやら一人ぼっちでは無いようだ。

「…………えっと」

 声をかければいい。声をかける必要がある。だけど…………どうやって声をかければいいか悩んでしまう。スカートを掴み。鼓動が早くなり焦がれる。

 髪は染めず。何処とも変わらない姿。しかし、私にとってとてもとても顔が格好良く見える。

「…………」

 朝の気合いを入れていたのが嘘みたいに霧散した。どうしようか。

「じゃぁ……帰るわ。じゃぁなぁ~」

「明日は遅刻するなよ」

「おけ」

 彼がクラスから出てくる。一瞬目線があったが何もなく。彼は帰ろうとする。

「あっ…………」

 声をかける暇もなく。過ぎ去ってしまいそうになる。焦った私はなんとか振り向いて欲しくて彼の背中についていき頭を殴った。

パコーン!!

 いい音が響き。下校中の他の生徒が奇異な目で私たちを見る。もともと目立つのに尚更、変な行動だ。

「つうぅ!? えっ!?」

「ご、ごめんなさい!! えっと………千家君!!」

「…………?」

「そ、その!! わ、わたし転校生で!! 小鳥遊ネフィアって言うんです!!」

「………えーと。千家時也です」

「…………」

「…………」

 何を会話すれば良いのだろうか考えろ。女が無理なら男らしい方法で。

「千家君。私とお茶でもどうですか? なお拒否権はない」

「ええっと。はい」

 お茶して。会話………続くかな。





 お茶すると言っても来る場所はもちろんファミレスである。チェーン店で有名な店。店内は私以外の学生が喋りながらドリンクバーを選んでいた。メイド喫茶とか敷居高いよね。

「ドリンクバーなに飲む? 取ってくるよ? お酒はないよ。ぶどう酒」

「飲まない。コーラ………どこでその発想が出るんだよ」

「よく飲んでない?」

「まだ未成年者。そこまで悪じゃない」

「そっか~」

 コーラとはカフェイン飲料水。それよりなんで彼の飲み物はぶどう酒をイメージしたのだろうか。違和感を胸に飲み物を用意して席に戻る。

「ええっとお久しぶりだね?」

「初対面だ」

「えっ? でも…………」

 そんな筈はない。

「私だよ? 覚えてない?」

「…………神社の君」

「覚えてるじゃん!! もぉー焦った~」

「…………はぁ」

「なんか疲れてる?」

「いいや。ちょっとナイーブなだけだよ。小鳥遊」

「ネフィアでいいよ」

「いいや。小鳥遊がいい。かわいい名前だ」

「よし!! 小鳥遊で!! 時也くん!!」

「付き合ってもないのに下の名前で呼び会うのはNG」

「じゃぁ、今から付き合って」

「………お、おう!?」

「相思相愛だね」

「俺は恐ろしいほどの一方通行を見たぞ」

「時也くんは好きじゃないの? 好きでしょ?」

「言わすな…………昔から変わってないなぁ」

「一途なの」

「胸焼けするド速球をぶつけられてる気分だわ」

「気持ちは伝わったってことだね」

「めっちゃポジティブ!?」

「だって楽しいし」

「………そっか。そうか。楽しいか」

「楽しくない?」

「目の前に綺麗な女性がいて楽しくない訳がないだろ?」

「知ってた!!」

「ナルシストめ」

「ナルシストだよ~私、自分が大好き。これからもよろしくね!! あっおうちに来る?」

「いきなりの誘いに引くんだが……」

「男は獣だもんね」

「あの。久しぶりに会って間もないのにそこまで…………言う?」

「うーん何でだろう? なんか、知ってるんだよね」

「そうか、俺も何故か知ってる気がするな」

「でっ? 来る?」

「いかない」

 結局、お誘いはダメだったが。想い人には出会えた。その日、私は住所を教えてもらい一緒に登下校の約束をして、その夜は嬉しくて布団にくるまりながらニヤけたのだった。




 7月。出会って間もないが私たちは急速に仲が良くなった。早朝、彼の家へ迎えに行く。

「おはよう!!」

「ああ、おはよう。毎日よー来るな」

「好きだから」

「………………そっか」

「照れた?」

「バカ………照れるわ」

 まだ、付き合って間もないが彼の事はよく知っている。朝の少しづつ暖かくなる気温の中。夏服で私たちは登校する。

「ねぇ………あれやりたい」

「何を?」

「日本ではパンを咥えて好きな人にタックルするって聞いた」

「あってるようで………あってないようで…………まぁでも………やりたいなら昼休みするか?」

「よっし!! やるやる!! 弁当じゃないもん」

 私は腐って大変な思いはしたくないので学食か菓子パンを食べることが多い。

「屋上でいい?」

「いいぞ」

「そういえば、お義母様、お義父様は元気?」

「二人とも海外出張」

「私と一緒だね………」

 これはチャンスでは。

「ねぇ………お家に泊まってもいい?」

「ダメ!!」

「ええ!? どうして!?」

「一つ屋根の下では間違いが起きる」

「………ふふ、大切にしてくれてる。優しい」

「うぐぅ!?…………まぁまぁ……」
 
「仕方ないなぁ~行ってあげる」

「ま、まて!? 話の流れで断ったよな!?」

「千家くん。お義母様には言ってあるよ。息子をよろしくだってさ。ああ、あと家賃今月で切れるんだ~住むところない」

「やりやがったな!? お前!!」

「日本のことわざ好きね。外堀を埋める」

「どこまで手を打った!?」

「ええっと、婚姻届け判押した」

「畜生!! 俺の知らないところで!!」

「まぁ~まぁ~据え膳食わねば男の恥でしょ?」

「くっ………まぁいいどうせ……」

「ん?」

「いいや……なんでもない。俺からは話せない」

 なのかもったいぶっている。

「………何を隠してる?」

「小鳥遊、隠してる。全て………内容は言えない。探偵ごっこ好きだろ? 頑張れ」

「………うん」

 私は何故か胸がざわつく。何かを忘れている気がした。すごく、すごく重要な事を私は忘れている。



 

 昼休憩の屋上。おにぎり等買って屋上へ上がる。他にもカップルなどが私たちと同じように日影でご飯を食べている。手作り弁当持参の意識が高いカップルもいた。

 屋上は日影になるように所々にトタン屋根がついている。古い建物なのか継ぎ目から雑草が生える。

 私は良いところを探すが良いところが空いておらず。コンクリートの屋根に座った。

「小鳥遊、尻痛いだろ俺の上に乗りな」

「えっ? いいの?」

「いいぞ」

 言葉に甘えて時也の前に座らせて貰う。予想外のいい椅子だ。熱いけど、大好きだ。

「あちいぃ」

「まぁ風があってまだいいよなぁ~」

「風、気持ちいいね」

「ああ、気持ちいい」

「もっと!! 操れない?」

「ない」

「おかしいなぁ~おかしいなぁ………」

「俺は超能力者じゃないぞ。おにぎりうまい」

「うん。美味しい…………風」

 私は何故か色々な事に引っ掛かりを覚える。何かを忘れている。

「ネフィア、どうした?」

「い、いいえ」

「………あっ君。小鳥遊さんですね」

「ん?」

 食事中に生徒会と言うワッペンをつけた生徒が私たちの前に来る。綺麗な黒髪の長髪で整った顔。東洋の美少女が私を睨む。

「小鳥遊さん。私は生徒会長柳沢心です!! 少しお話いいかしら?」

「………え、ええ?」

「小鳥遊さん。お付き合いはホドホドに。他の生徒の迷惑がかからないように」

「小鳥遊。お前の好意が激しいから釘刺しに来たぞ」

「ええ!? 私は健全な付き合いを」

「廊下でハグとキスをしようとするのは健全? 異性不純行為はだめです‼」

「ええ、海外じゃ普通」

「ここは日本です!!」

「くっ………郷に入っては郷に従え。ワビサビを心得ろと………くぅぅぅううぐぬぬに」

「ええ!! そうよ!! まぁ今回は注意!! わかった!!」

「はい………」

「先輩、風でスカート捲れそう」

「!?」

「時也!! 目潰し!!」

「ぎゃあああああ!!」

「お、覚えておきなさい!!」

 生徒会長がスカートを押さえて立ち去る。

「お、お………いてぇ」

「時也ごめん。つい」

「い、いや……大丈夫」

「ねぇ何色だった?」

「白」

「アイアンクロー」

「痛い!? えっ!? 力強くない!? うぎゃあああ!!」

「だって元男だし~」

「はぁはぁ………元男? お前………いや………生まれたときから女だったろ」

「えっ………あれ?」

 何故だろう。私は女の子の筈なのに。なぜ、そんなことを。

「変なこと言うなぁ~」

「………まぁいいや。時也」

 私は彼の肩に手を置く。

「好き」

「生徒会長に言われたばっかだろ………」

「じゃぁ………すぅ」

 私は歌い出す。唐突と思われるかも知れないが………彼は「私が歌が好き」と知っている。それに歌うなら悪いことじゃない。

「歌でもラブソングは………不純かな~」

「大丈夫、気持ちは純情だから」

 昼休みいっぱい。私は歌を詠う。






 放課後。時也がカラオケに誘う。「珍しい」と思いながらチェーン店に入った。ドリンクバーでシュワシュワの飲み物を用意し、エアコンが効いている部屋に入った。

「いつから、俺ん家に来る?」

「夏休みかな?」

「………夏休みか」

 遠い目。彼は良く何か別の事を考える。

「ねぇねぇ~何か歌ってほしいのある? 何でも歌えるよ?」

「本当にすごいよなぁ。一人で十色の声を操れる。声優就職出来るな」

「出来ないよ。就職先決まってるもん」

「………言わないよな。俺のお嫁さんって」

「すごい!! 心読めるんだね………主婦に就職します」

「まぁ夢を持つことは良いことだ」

「あぁ~誤魔化した~私モテるんだよ?  彼氏いるのに告白して………はぁ」

「まぁ、まぁ~それより歌おう。ラストスターダスト好きなんだけど歌ってくれない?」

「えっ………いいけど」

 ちょっと中二臭いけどいい曲だ。

「ありがとう。小鳥遊」

 彼は優しい目と笑みを向ける。イントロが流れ出す。落ち着いた出だしだ。

「じゃぁ………頑張る」

 私は彼の期待に答えるように熱唱する。彼に喜んで貰うために。








 7月中旬。期末試験も終わり後は夏休みを待つ。部活動は激しさを増し。太陽に日差しもますます熱くなる。 熱中病に注意する日々。

 放課後で彼を探している時だった。体育館裏が見える校舎の4階。そこである光景を目にする。時也が複数の男子生徒と揉めていた。

「小鳥遊さん? どうしたの?」

 廊下ですれ違ったクラスメイトの一人が私に声をかける。私は指を差して「あれは」と聞いた。クラスメイトが怪訝な顔をし苛めと言う。

「どうしよ先生呼ぶ?」

「………待って。時也なら」

 全員倒せる筈。元………えっと………あれ。なにか首を傾げながら彼を見る。怒声が耳に入り考える事をやめた。

「おい!! お前………俺らと立場変われよ」

「運がいいだけでその立場だろ?」

「なぁ俺らにも味合わせてくれ………頼む」

「救いがほしいんだ」

「断る。最初に決められた事だ」

「くっそ!! お前も矮小な俺らと同じ癖に!!」

 時也が勢いよく壁に押し付け殴られる。全員で殴り、時也がへたりこんだ。私はモヤモヤする。手を出さないことに。

「なぁ俺らより弱い癖に………」

「弱いにになぁ。なんでお前なんだ」

「……………さぁ」

ボゴ!!

 顔面を蹴り込まれた。それを見た私は真っ白になり。気付けば窓から地面に降りる。

「小鳥遊さん!?」

「………」

 拳を握り、本能のまま走って一人の男を横から蹴り抜く。頭を繋げている首から地面に叩き落とすように首を刈るような鋭い蹴りで倒す。

「なっ!? 小鳥遊さん!? べぐぅ!?」

 もう一人は拳を固めて顎を砕く。

「に、逃げろ!!」

 残った数人も恐怖で逃げ出す。二人倒れた男を睨み付け。足に力を込めた。もがいている二人の頭を潰そうとする。理由は止めをさすために。

「小鳥遊!! やめろ!!」

「!?………えっと………仕留めないと。息の根を止めなければ安心できない。教えてくれたの時也でしょ?」

「………………教えてない。殺人はだめだ」

「倒す覚悟があるから攻撃する。死ぬ覚悟ぐらいあるでしょ?」

「小鳥遊!!」

「………ごめん。時也が殴られていて、つい。時也だって!! 無抵抗はおかしいよ!!」

「……………大丈夫。警察もいるし先生もいる。小鳥遊帰ろう。あいつらも思うところがあるんだよ………」

「う、うん」

 何故か釈然としなかった。考えてみれば………私は今……何をしたのだろうか。動けた。全く何も学んでないのに。

「えっと………千家君帰ろう」

 私は手を伸ばす。時也は少し手を伸ばしたあと悩み。手を下ろして一人でに立ちあがる。

「一人で立てる」

「………うん? 無理してない?」

「大丈夫。殴りなれてないだけだから」

 私たちは大人しく帰る。言葉少なく時也は悩んでいた。何かを…………それを私には一切話をしなかった。それから夏休みまで何も暴力事件は起きなかった。





 試験も終わった週の休み。私は衣類等を纏めて彼の家に運び入れる。空いている部屋を借りて住めるように細工をする。

「今日から夏休みでも良かったのにね?」

「テスト用紙帰ってきてないだろ?」

 整理が終わりリビングに降りる。見慣れらたリビングのソファで寛ぐ時也の隣で私も寛ぐ。

「人の家でくつろぎすぎ」

「いつかは私たちの家」

「気が早い」
 
 ソファに二人。距離を離しながら座り、私はある事を聞こうと口を開いた。

「ねぇ………そろそろ私に隠してること話さない?」

「残念だが話せない。話すことができない」

「………いつもそれ言うよね」

 そう、この前も。同じような言い方ではぐらかされた。体を寄せグイッと彼の顔を見上げる。

「どうして?」

「…………制限がかかっている。小鳥遊、時たま変な事を言うだろ?」

「変な事?」

「元男だった事とかだな」

「言うね………うん。そう、なんか変だよね」

「メモ帳で、メモをとるんだ」

「メモを?」

「そう、一つ一つな小鳥遊」

「わ、わかった」

 真剣な顔をして見つめる彼に押され頷く。

グウウウウゥ

「あっ………お昼過ぎだね」

 時也のお腹の音を聞き。私は時計を見あげ、彼から離れる。用意していたエプロンをつけて台所へ立った。

「何がいい?」

「すぐに出来るもので」

「オムライスにでいい?   ハートいる?  いらない?」

「オムライスでいいけど。ハートはいらない」

「いるね。わかった」

「話を聞こうな!!」

 私はクスクス笑いながら冷蔵庫から材料を取り出し、ご飯を作るのだった。





「御馳走様」

「お粗末様でした」

 オムライスハート付きを二人で食べ食器を食洗機に突っ込み。ソファに寝転がる。

「ふぇ~食べたねぇ~」

「おい!? ブラが見える!!」

「見せてるの………どう?」

「健全な付き合いを所望する」

「………意気地無し」

「ああ、俺は意気地無しさ」

「う~ん昔ならもっと………がっついたり」

「久しぶりに出会って数ヵ月だぞ?」

「………そんなに短かった?」

 もっと長くいた気がする。

「………ほら。俺のメモ帳貸すから今のを記入する」

「う、うん」

 違和感を記入した。これでいいのだろうか。

「そう、これが増えればいい。小鳥遊ならきっと………大丈夫」

 私は首を傾げる。

「今はわからない。いつかわかるようになるよ」

 時也は優しく。私の頭を撫でる。優しく優しく。






 ある日、私は夢を見た。

 魔王である私の夢だ。目に前に勇者の時也がいる。

 勇者は私の手を取り、世界を見せる。

 多くの出会い。

 多くの別れ。

 そして………私は彼に。

 男だった私が女になる。物語。

 そう………彼の背中に。

 女になることを決めた。物語。

 そうだ………恋をした。

 彼が私に手を伸ばす。私はその手を掴もうと………

「!?」
 
 チュンチュン

 見慣れた天井。手を伸ばして私は起きた。朝日が上がって私の手のひらを照らす。

「な、なに?」 

 夢を鮮明に覚えていた。覚えていたのに………心が虚しくなる。

「えっと………どうしたんだろ………」

 目の前が歪んでしまう。伝っていく水の感触に私は驚く。泣いている。

「どうしてだろう………どうしてだろう!!」

 寂しい。ポロポロと涙が止まらない。私は泣きながら夢を思い出している。

「ううぅ……どうして………どうして………」

 こんなに心が痛いのは何故かわからなかった。








 私は一人で泣いた後、泣き腫らした目でリビングへ降りてきた。時也がテレビを見ている。

「ああ、起きた? おはよう」

「う、うん。ごめん………朝食作るね」

「いや。もう食った」

「………そうなんだ」

「ああ………」

 時也がソファから立ち上がり近付く。私は何故か後ろに後ずさってしまう。

「えっと……な、なに?」

「何で逃げるんだ?」

「えっと………わ、わかんない」

「………体に聞く」

「えっ!?」

 彼が顔を近付ける。

「千家くん?」

「…………」

 唇を奪われる。そう思った瞬間だった。

ドンッ!!

「あっ!!」

 私は彼を吹き飛ばす。背中をぞわっとした嫌悪感が体を這う。ゆっくり………その場に崩れる。

「どうして? 私………どうして? 好きじゃなかったの? あれ?」

「………」

「ひっく………ごめんなさい………なんでだろ………なんでだろ!!」

「小鳥遊。メモ帳は取ったか?」

「う、うん………沢山。変な事を書いてる………書いてる………」

「その、欠片を集めてみろ」

「えっ? で、でも……」

 時也が私の寝室からメモ帳を持ってきた。

「読め、一つ一つ」

「………う、うん」

 私は、自分の書いた文字を読み上げる。

「魔王、勇者………鳥籠…………」

 内容は、夢の内容と一致した。そして…………名前を口にする。

「トキヤ………トキヤ?」

 記憶が鮮明になる。夢だと思った記憶が白い色から鮮やかな色へと塗り替えられるような程に思い出す。

「トキヤ!? 嘘、私。なんでこんなところにいるの?」

 私は、私の本当の名前は違う。

「小鳥遊………いや。もうお前は知っているから、俺は話す事が出来るなネフィア」

「そう!! 私はネフィア・ネロリリス!!」

 私は叫ぶ。自分の名前を。

「…………これって。過去の記憶って………私に何があったの? うぐぅ………頭が痛い!!」

「あまりに多くの事を思い出したから痛いんだよ。落ち着いて思い出せばいい」

「そんな悠長な事を言ってられない!! 私は………うぅつつぅ!!」

 激痛で頭を押さえる。歯を食い縛った。

「小説で………そう。学校で読んだ。異世界転生だっけ? 過去の記憶を持って………でも………あなたは誰? トキヤじゃないでしょ?」

「俺は…………千家時也だ。トキヤじゃぁない」

「そ、そう………ごめん。手を貸してくれない?」

「………ああ」

 私は手を伸ばす。彼は………一瞬迷い。目線が泳いだが目を閉じて開けた瞬間真っ直ぐ私を見て勢いよく手を握り引く。力強く。

 その目に………私は何故かドキッとしてしまう。今さっきの嫌悪感がない。気付けば抱かれていた。

「えっと………」

「………小鳥遊……いいや。ネフィア………少しの間だけでいい。俺をトキヤと信じてくれ」

「………う、うん」

 彼の声に頷いた。頷かないといけない気がしたから。そして………私も彼の体を抱き返した強く。強く。

「ネフィア…………絶対に帰してやる」

 強く囁いた声は本当にトキヤに似ていた。


§不思議の国のネフィア②..



 私は紅茶を淹れながらテーブルに座る。向かいに千家時也が憑き物が取れたみたいな爽やかな笑顔で話を始める。

「紅茶、美味しいですね」

「それはよかったけど。異世界ですけど『転生じゃない』て本当ですか? てっきり何かがあって死んじゃったかと思ってしまって…………」

 変な知識が増えている。恐ろしい。何もわからないはずなのに炊飯器等々が何かわかってしまう。

「アニメの見すぎ。この世界はそんな大層なもんじゃぁない。やっと喋られるが………よーく思い出してみろ。この場所に来る前の事を」 

「来る前?」

「何をしていた?」

「えっと…………」

 私は記憶を辿る。






 ある日、ソファに座って腕を組んでいるトキヤが唸って悩んでいた。テーブルには一冊の分厚い本。手にとっては開けて首を傾げる。

「どうしたの?」

「エルフ族長が送ってきた呪物なんだけど。全く邪気もないし。空白なんだよこの本」

「内容は?」

「手紙には読んだ人は気絶し、いつか命が尽きるんだってな。寝たきりになってさ」

「ええ!? トキヤ!! そんな危ないの何で見てるの!!」

「…………まぁ大丈夫だし。ちょっと俺、出てるわ」

「どこいくの?」

「ギルド。ちょっと遊んでくる」

「はーい」

 彼が本を閉じて家を出る。掃除も洗濯も終わっていた私はソファに座る。

「…………暇だなぁ」

 「トキヤについて行けば良かったな」と思い。ふと本を手に取った。背表紙に何も書いていない。表紙も何も書いていない。

「変なの」

 私はそれを手にした。





「………思い出した。本を確認しようと思って」

「そこまで覚えてるなら話が早い。ここは何処か理解したか?」

「………本の世界」

「そうだ。本の世界」

「童話みたいな事があるのね………」

「童話なら『不思議の国のネフィア』て事かな?」

「あ~そうですね。『不思議の国のアリス』てこんな感じですね」

 この世界にそんな本があったのを覚えている。いえ、覚えさせられている。この記憶たちはいったいなんだろうか。

「でも………何で私だけ?」

「いいえ。全員そうです」

「全員?」

「そう、全員。極上の夢の世界を堪能させて食い物にする世界。夢が叶うんですからずっと本の中で。気付いたら体はない。そうやって犠牲者を増やした。もう一つは墓場だな」

「………うーん。でもそれなら尚更。トキヤは何故?」

「…………彼の夢は用意が出来なかった。あまり可哀想な事を言うと夢は続いている。『忘れたい』と願っても強く覚えているものだ」

 彼の夢は心当たりがあった。それが本には用意できなかったのだ。何故ならトキヤ本人がわからないのだから。

「彼女の笑顔が知りたい」

 私は悲しい声でそれを囁く。やはり忘れは出来ないのだろうあの……光景を。

「そう、本はその笑顔の理由を用意することが出来なかった。が、小鳥遊のは用意できた」

「はぁ………『幼馴染み』ですよねぇ~畜生。本め」

 トキヤの夢は本でも叶えられないなんて……格好いいけど。それはある意味夢を忘れられてないとも言うし複雑だ。

「そう、そして。思い出を忘れるほどこの世界の知識を入れ。疑いを持たせず順応させる予定だった」

「が、私は思い出したと? 思い出せたと?」

「『思い出せる』と知っていた。絶対に君は特別だ」

「…………まぁその。ヒントをいっぱい戴いてましたから」

 メモ帳等に記入する案は彼のものだ。

「もう一ついいですか? この世界はその………すごいですけど。誰の夢なんです?」

「全員、俺含む…………奴等の墓場だ」

「墓場? その、私が言うのもあれなんですけどスゴくいい世界じゃないですぅ? 私ね、これ欲しい!! 食器洗い機と洗濯機!!」

「残念、夢だ」

「……しょぼーん」

 最高の魔道具だと思う。はぁ………私の世界って不便なんだね。

「そ、そんな所で落ち込むな………はぁ~記憶もどっても変な所のネジが飛んでるのはやっぱ小鳥遊なんだなって………」

「お、おう………スゴくバカにしたね」

「いいや。可愛いなぁって!!」

「はうぅ………やめろぉ~トキヤの顔でそんなの言うの………畜生。違うのに違うはずなのに。照れる」

「いいや、違わんぞ。小鳥遊のイメージが俺だからな。演じてるようで………演じられている。だからか………なんでもない」

 深いため息。その後に笑う顔は直視できない。本当に本人みたいだ。

「まぁ墓場ってのは…………女神に捨てられた奴がこの本に入れられてる。転生も出来ずにな」

「女神に捨てられた?」

「この世界は俺らの故郷だ。転生前の故郷。一回俺も皆もこの世界の住人で死んでからこっちへ来たんだ」

「じゃぁ……本を読んでしまって閉じ込められた?」

「違う」

 頭を掻きながらバツが悪そうな顔をした後に言う。

「女神の私兵として勇者に成りきれなかった奴の墓場だ。一つ能力か物をいただいて旅に出たが無理だった奴等のな。あんたの先代を殺そうとしたやつらな。女神はあっさり捨てるんだ。そして捨てた事も忘れる。人間のように使い捨てる」

「じゃ、じゃぁ………その」

「俺たちは前世の記憶を持ち、一つ世界を動かせる能力を戴きながら失敗した。それだけだな」

 少しだけ同情をする。こんな平和な世界で過ごしてたのにこっちの魔物が跋扈する世界にいきなり落とされても………無理な気がする。無茶苦茶だ。生きるだけで苦労する。

「話は終わったな。次は帰る場所だが………学校の屋上から帰れる筈だ」

「学校の屋上?」 

 私は思い出すのはフェンスに囲まれた屋上。おにぎり美味しかった。

「おにぎり美味しかった」

「えっと………ちょっと真面目になろ?」

「炊飯器欲しいなぁ」

「だぁ!! 少し黙れ!!」

「…………」

 怒られたため口を塞ぐ。

「小鳥遊は屋上から落ちてきた。一応下界、地獄のような下てイメージなんだろう。学校の屋上が一番高い」

 つい、疑問を口に出してしまう。口は塞がらなかった。

「山があるじゃん?」

「あれは背景だ。この町しか世界はない………四周はハリボテみたいな物」

「えっと。狭い箱庭みたいな物なんだね」

「まぁ墓場だしな」

 ちょっとスケール小さくて安心する。知識ではめっちゃ世界は広く丸いとうかがっている。

「善は急げだ………学校へ行くぞ」

「うん」

「後な………振り返らず絶対に突き進め」

「どうして?」

「…………全員敵だからな」

 私は頷き。私服のまま家を出たのだった。





 二人で夕暮れを歩く。「電車を乗ればいい」とか「タクシーを呼べば」と思ったがそれも「危ない」と言う。「確かに」と身を引き締めたのは通行人全員が私たちを睨んでいる事に気が付いたからだ。

 恐ろしいことに。今まで見てきた人は全員が演じてるだけ。役割を渡し演じてるだけなのだ。

「…………ぞわっとする。私以外全員が私を騙してた事に」

 一時だった。クラスメイトも、店員も、警察も先生も全員。

「まぁ………そうだな。でも久しぶりの故郷を味わえたんだ。良かっただろうさ」

「久しぶりの故郷?」

「な~んでもない、それより………目の前。俺も含めて故郷の匂いを嗅げたんだ………」

「ん? そうなんだ。あれ? 誰かいる」

 私たちは立ち止まる。目の前立っている一人の制服の女が笑顔で話しかけた。

「こんな時間に何処へ行くの?」

「えっと、生徒会長柳沢心さん?」

「小鳥遊、気をつけろ」

 時也が私の前に立つ。

「千家くん。ダメじゃない~しっかり演じないと~」

 背後が黒く恐ろしいオーラを纏い。口もとだけで笑い。目はギロッと睨み付ける。

「やつは………」

「あら? 喋るの? 殺すよ? 消すよ?」

ヒュンヒュンヒュン!! ガン!!

「せっかく。千家時也として任命してあげたのに」

 背後から大きな黒い大鎌が姿を表しそれを振り回す。異様な光景、平和な日常だった世界が一瞬で物騒な世界に豹変する。

「任命してくれて感謝してるぜ‼ ハートの女王よ!!」

「ハートの女王………ハートの女王って!?」

「察しろ………そういうことだ」

 私はある童話の話を思い出す。そして分かったことはこの世界は彼女の物だと言うこと。

「それを知ってどうなるの? さぁ………帰りなさい。家にずっと閉じ籠ってたらなにもしない。ネフィア………魂でも切れば死ぬのよ? この女神がくださった武器で!!」

「聞く耳を立てるな。あいつはお前を殺せはしない。殺したら………この世界は………なんでもない!!  ネフィア!! 逃げるぞ!!」

「う、うん!!」

 私は手を引っ張られて路地裏に逃げ込むのだった。何人もの叫ぶ声を聞きながら。


§不思議の国のネフィア③ 女神に見捨てられた勇者たち.. 



 路地裏から逃げた先。大きな道路に出た。無闇に走っている訳じゃないがいるのは敵だらけ。町並みは変わらず。車は止まり、人も止まり。そして一様に皆が私を見つめた。そんな異様な光景が続いた。

 そして、次第に囲まれる。町全体の人が私たちを捕まえようと集まるのだ。そう騎士団を一人で相手をするもの。各々が武器を用意して待ち構える。剣だったり、槍だったりと主人公が持っているであろう武器を構えて。

「何故………裏切った千家」

「小鳥遊さん………一緒に『演劇やろう』て約束したよね?」

「千家………お前!!」

「小鳥遊さん!! お願い考え直して!!」

 知り合いだったクラスメイトや町内会の人たちが得物をぶら下げながら説得をする。

「小鳥遊………言葉は無視しろ」

「わかってる………ええ。わかってるから何も言わないで………」

「優しさは握りつぶせ。自分のために、トキヤのために」

「…………」

 彼らの前に時也が立ちふさがる。逞しい背中に既視感がある。

「や、やるつもりか? こんな数を!!」

 一人の男性が叫ぶ。その気持ちをわからんでもない。数の優位は大きい。しかし、私の知る彼はそんなの関係ない。

 ブゥン!!

「それがなにか?」

 彼の右手から大きな剣が産み出される。何度も見た両手剣。ツヴァイハンダーを片手で持ち上げ、相手に突き付けた。

「こっちは姫様を帰えさなきゃいけない。押して通るぞ」

「………時也」

「小鳥遊、大丈夫。俺が何とかする」

「……いっつもそう」

 彼のいつもの台詞を聞きながら私は彼の横に立つ。集団を眺めながら。

「護られるだけの姫様はやめましたよ。とっくの昔に」

「………そうだった」

 ブワァ!!

 私の背中から炎の奔流が始まり翼を形作る。服も翼の炎に包まれ、姿を変える。

 白く、ドレスのような4枚の花弁のようなスカート。胸が開いた鎧。頭にカチューシャのような兜。防御力なんて無視した容姿だけを重視した白金の鎧。私がトキヤから戴いた鎧を着こなし、火剣を抜く。

「夢だから、夢なら私の十八番です」

「………さすが小鳥遊。元魔王だったな」

「いいえ。そんな肩書き捨てました。今はトキヤの伴侶です。では行きましょう」

「ああ、行こうか」

 二人で敵に向かって走る。怖じ気ずいた人達を無慈悲に蹴散らしながら。私は進む。





 苛つく。私は眼下に広がるしもべ達に苛立ちを覚える。高いビルからある二人を覗き込む。夜景が綺麗だがそんなのは今、興味はない。

「勇者になろうとしたのに。情けないわね」

 落ちぶれても元は魔王を倒す気だった者たち。各々が戦ってきた筈なのに。彼らを倒すことが出来ない。

「足や手を切り落とすことも出来ないの?」

 眼下では悲鳴が聞こえる。痛みで「死にたくない」と言った恐怖が彼らを阻害している気がする。

「しかたない。本当に使えないわね………彼ら」

 鎌を構え直し、私は白い翼を広げ滑空した。





 目の前の人達が尻すぼみして、私たちを避けていく。誰も武器を振ろうとはせず、悲しく私たちを見るだけだ。笑顔はない、悲痛な。天国でも行けず、地獄へも落ちず底辺を迷っている者たちの姿がそこにあった。

 大きな道路を過ぎ、学校の近くまでやって来る。しかし、まだ人はいる。

「………小鳥遊ストップ」

「な、なに?」

「あいつだ」

 目の前に制服姿で羽を広げて降り立つ女性。『心』と言う名前の女の子が立ちふさがり。彼女の周りの泥が人の形を作った。

「やめてくれ!! 戦いたくない、消えたくない!! 命令しないでくれ!!」

「お願い!! 消えたくないの!!」

 泥で作られた人が剣を構えながら叫ぶ。

「彼等を捕まえなければこれからも暗い底辺のままよ。この世界も壊れ、死ぬのに、なにを怖じ気づいてるの?」

「死にたくない!! 死にたくない!!」

「だ~か~ら~戦うのでしょ?」

 女王は笑いながら手を向けて言葉を発する。

「死ぬ気で戦いなさい。命令よ」

 空気がピリッとする。嫌がる人々が私たちに向かって走る。『やめてくれ』と叫びながら。それを時也は無視をしない。

ギャンッ!!

「ストームルーラー!!」

 風を纏わした剣を横に振り、家や塀等を吹き飛ばし、斬撃をお見舞いする。無慈悲に相手を切り刻み。辺り一帯が赤く染まる。しかし、また人は増える。犠牲者が増える。時也がその集団に飛び込み一人を掴み、振り回す。

「うるさい………死にたくない死にたくない………ああ? もう死んでるだろ俺らは。忘れたか?」

「ひ、ひ!?」

「ここは底辺な世界だ。もう落ちることはないんだ」

 男を吹き飛ばし、また。剣に風を纏わした。私はつい、叫んでしまう。

「やめてぇ!! もう!!」

「小鳥遊!?………やらなくちゃ殺られんだぞ!!」

「殺すことはない!! 吹き飛ばすだけでいい!! 道を作って!! 走り抜けるから!!」

「………ストームルーラー!!」

 時也が一閃し、人の波に道を作る。赤い赤い道を。

「小鳥遊、何度も言う。優しさはいらない。さぁ!! 行くぞ!!」

「ぐぅ………」

「ふふふ、今期の魔王は優しいのねぇ~いいえ元魔王かしら。じゃぁ優しいあなたに教えるよ」

「………な、なにを?」

「聞くな!! 耳を塞げ!!」

「あなたが居なくなればこの世界は終わる。夢が覚めてしまう。何もない暗い底。そう、彼も消えるわ。いいえ…………殺す。あなたに味方した彼は消される」

「!?」

「戯れ言だ。戯れ言!!」

「本当でしょ? あなた………おかしいのよ。死ぬためになんで彼女を助けるの?」

「と、時也?」

 私は彼の顔覗く。覗いて、胸が高鳴る。彼は私が覗いてること知り……こっちに優しい笑みを向けた。

 懐かしい顔付き…………そう、最初のあのときの顔。黒騎士団を倒した時の彼を思い出す。

「ま、まって!! そんな!!」

「小鳥遊………行くぞ!!」

 私の腕をつかみ走り出す。そして、詠唱が始まった。

「其は風を支配し、使役する魔術士である。故に、今ここに風の征服者として我が操る!! 操られよ風よ!! 我が使命のために!!」

 大気を揺るがす大きな詠唱。そして、世界が真っ白になる。

「絶空!!」

 私は強く強く引っ張られながら全てを吹き飛ばした白い世界を走り抜けた。そして、白かった世界が明ける。

 走り抜けたとき、誰一人追いかけては来ない。それを確認し私は腕を振り払う。

「どうした?」

「どうしたじゃない!! 死ぬってどういう事!!」

「…………そのままの意味さ。この魂も消える」

「ぐぅ!!」

 だから、その顔やめて…………その覚悟を決めた顔………やめて。貴方は本当にトキヤみたいだよ。

「うぅうぅ………」

「泣くなって。偽物が消えるだけだから」

「だって……偽物でも………トキヤです」

「…………泣くな!!」

「は、はい!?」

 すっごい大きい怒声で体が反応した。

「泣くなら帰ってから奴の胸で泣け」

「あっあぅ………」

「逢いたいだろ?」

「あ、逢いたい」

 顔を伏せながら、私は願望を口にする。

「なら。行こうか」

「…………」

 私は私のために彼を利用する気がした。罪悪感を抱く。悪いことをしているような気がして足取りが重い。そんな中で切り抜けた先、学校の校庭に私たち到着をした。到着を待っていたのは、またあの女王。彼女だけ待ち伏せる。

「逃げられないわよ」

「しつこいな。どうやって………」

「空を飛べるの天使だから」

「そうか………女王さん。一騎打ちでもどうかな?」

「嫌よ。あなたたち二人を倒さずともそこの女の足を切り落とせばいいもの」

「そっか………」

 時也が魔法で私の耳に伝える。音の魔法。

「俺が切り込んだら、屋上へ上がれ。迎えが来るはずだ。鋼の迎えがな」

「で、でも………」

「大丈夫、絶対に帰す。彼の元へ」

「………うぅ」

「じゃぁ行け!!」

 彼は剣を担いで彼女に斬りかかり、私は目を閉じて走り抜けた。


§不思議の国のネフィア④   ホワイトラビットナイトの勇者..




 7月。まぁ作られた世界に年月日なんてあまり意味をなさない。一人の存在を除いて。

「ああ、面倒な」

 ただ、一言愚痴る。世界が作られた。一人が本の世界、底辺に落ちてから。この本は蘇った。

 自分は千家時也として彼女の前に立たなければいけない。もう一人の千家とは従兄弟という設定を演じろと言われている。ネフィアの幼馴染みを演じろと命令もされた。時間を見ると昼。ダルっ気な体を起こす。

「行けってか………」

 偽りの記憶と小鳥遊ネフィアと言う落ちてきた者が覚えている人物、名をトキヤと言い。そのネフィアが見た記憶を混ぜたのが俺だ。姿もなにもかも。本当の自分は死後転生し、ひとつの能力を手にしたが。死んでしまった雑魚だ。何を貰ったかも忘れている。

「………行くか」

 会って何かをしようとは思えないが見るだけ見ておこう。どんな女かを。





 彼女に会った。想像以上に綺麗だった。金色の髪に小さな小顔でパッチリした目。放課後のクラス前で自分に会いに来たらしい。驚いたのは予想より積極的だった。

「…………」

 目線が合ったが、別に「関わらなくてもいい」と思った。振ってしまっても自由だ。彼女がこの世界に留まり続ければ。

パッコーン!!

 頭に鈍痛。あまりの痛さで手を押さえながら振り返ってしまう。そこで、彼女が握り拳を作ってオロオロしてるのが見えた。あまりの可愛さに怒りも何もかも吹っ飛んでしまう。

「つうぅ!? えっ!?」

「ご、ごめんなさい!! えっと………千家君!!」

「…………?」

 自分の名前なのに首を傾げてしまった。そうだ、俺は千家時也だ。

「そ、その!! わ、わたし転校生で!! 小鳥遊ネフィアって言うんです!!」

 早口に緊張して言葉を言う。ああ、全て忘れて自分をトキヤと勘違いしていた。

「………えーと。千家時也です」

「…………」

「…………」

 何を会話すれば良いのだろうか考える。実際、「千家時也を演じる」と言っても初対面。何を話せばいいかわからなかった。

「千家君。私とお茶でもどうですか?」

 だが、彼女は怖じづかなかった。自分とは違い。前へ前へと進もうとする。その深い紫の瞳に吸い込まれそうになりながら俺は頷くのだった。
   




 結果は押しきられるように付き合うことになった。そう言うより。ネフィアの影響でトキヤとして振る舞うことが普通にできる。恐ろしいほど、過去の自分は嫌いだったようだ。

 昼休憩の屋上。おにぎり等買って屋上へ上がる。他にもカップルなどが俺たちと同じように日影でご飯を食べている。手作り弁当持参の意識が高いカップルもいた。この久しぶりの明るい世界を楽しんでいる。作られた世界を。

「小鳥遊、尻痛いだろ俺の上に乗りな」

「えっ? いいの?」

「いいぞ」

 俺は彼女を座らせる。

「あちいぃ」

「まぁ風があってまだいいよなぁ~」

「風、気持ちいいね」

「ああ、気持ちいい」

「もっと!! 操れない?」

 彼女は疑い無く。彼女のトキヤの記憶で話をする。風の魔法は扱えない。

「ない」

「おかしいなぁ~おかしいなぁ………」

「俺は超能力者じゃないぞ。おにぎりうまい」

「うん。美味しい…………風」

 色々な事に引っ掛かりを覚えて何かを忘れている事を彼女は悩んでいる。俺はそれを全て知りながらも教えることは出来ない。操られているから。

「ネフィア、どうした?」

「い、いいえ」

「………あっ君。小鳥遊さんですね」

「ん?」

 食事中に生徒会っと言うワッペンをつけた生徒が俺たちの前来る。綺麗な黒髪の長髪、整った顔。東洋の美少女が俺睨み釘を刺す。「喋るな」と。ハートの女王。誰か言ったかその通りだと思った。アリスは小鳥遊だろう。じゃ………俺は………なんだろうか。

「小鳥遊さん。私は生徒会長柳沢心です!! 少しお話いいかしら?」

「………え、ええ?」

「小鳥遊さん。お付き合いはホドホドに。他の生徒の迷惑がかからないように」

「小鳥遊。お前の好意が激しいから釘刺しに来たぞ」

「ええ!? 私は健全な付き合いを」

「廊下でハグとキスをしようとするのは健全? 異性不純行為はだめです‼」

「ええ、海外じゃ普通」

「ここは日本です!!」

「くっ………郷に入っては郷に従え。ワビサビを心得ろと………くぅぅうううううぬぬ」

「ええ!! そうよ!! まぁ今回は注意!! わかった!!」

「はい………」

「先輩、風でスカート捲れそう」

「!?」

「時也!! 目潰し!!」

「ぎゃあああああ!!」

「お、覚えておきなさい!!」

 生徒会長がスカートを押さえて立ち去る。俺は緊張が解れた。目がいたい。

「お、お………いてぇ」

「時也ごめん。つい」

 こういう事が他の女性より激しい。元男だったからか。男の子っぽい行為がある。

「い、いや……大丈夫」

「ねぇ何色だった?」

「白」

「アイアンクロー」

「痛い!? えっ!? 力強くない!? うぎゃあああ!!」

 そう、力強い。非力そうな顔しての怪力だ。男のトキヤより弱いが女の人より遥かに強い。

「だって元男だし~」

「はぁはぁ………元男? お前………いや………生まれたときから女だったろ」

「えっ………あれ?」

 いや。男だ。

「変なこと言うなぁ~」

「………まぁいいや。時也」

 小鳥遊が俺の肩に手を置く。そして、綺麗な顔で笑みを溢す。

「好き」

 心臓が跳ねる。太陽のような明るい笑みでの一言は俺の魂に熱を持たせるのに十分だった。

「生徒会長に言われたばっかだろ………」

「じゃぁ………すぅ」

 彼女は唐突に歌い出す。俺が、トキヤが歌が好きだからという理由。それと………「聞いてほしい」と言う彼女の自己主張での行為。気付いてないが彼女はその歌は魔法である。

 魅惑の魔法であり、無限の声帯を操り。無限の歌声を産み出す。音の魔法。ただ歌っているが皆はヒヤヒヤしている。普通に魔法を使うからだ。

「歌でもラブソングは………不純かな~」

「大丈夫、気持ちは純情だから」

 知っている。知っていて利用している。心地いい。昼休みいっぱいで彼女は歌を詠う。俺に満足させようと………だから。あのうたを聞きたくなったのだ。トキヤを愛する歌を聞きたくはなかった。





 7月中旬。他の仲間に体育館裏に呼ばれた。内容は愚痴と僻み。話を聞いてみるとどうも、過去がトラウマでありそれを克服出来ずにいるようだ。他にもそんなやつは多い。

 結局、どれだけ能力を持ってもとダメだった奴等。どれだけ素晴らしい能力を持とうと生かしきれず死んだ者たち。自分は何の能力だったか忘れたが、使いようによっては最強だった筈。

「おい!! お前………俺らと立場変われよ」

「運がいいだけでその立場だろ?」

「なぁ俺らにも味合わせてくれ………頼む」

「救いがほしいんだ」

 彼女に惹かれ。男たちが群がる。成功者の彼女は眩しい。そしてこんなただ自分のためだけに付き合いたい奴にはヘドが出た。

「断る。最初に決められた事だ」

「くっそ!! お前も矮小な癖に!!」

 そう、元は矮小だけど…………今は千家時也なんだ。

 鈍い音が体育館裏の壁に押し付けられた音が響く。背中に痛み。しかし………あまり痛くは感じない。心の痛みよりは。そう、彼女の好意をただただ受けとる罪悪感に比べれば痛みは小さい。

「なぁ俺らより弱い癖に………」

「弱いにになぁ。なんでお前なんだ」

「……………さぁ」

ボゴ!!

 顔面を蹴り込まれた。痛みが広がるが心地いい。悪いのは俺らなんだ。彼女をこの世界から繋ぎ止めたいと思う俺を殴ってくれ。

ボゴゥ!! ダン!!

 もっと殴ってくれと願った瞬間。一人の男が1回転して地面に倒れ伏す。横から走ってきた小鳥遊ネフィアが空中回転蹴りをお見舞いしたのだ。

「なっ!? 小鳥遊さん!? べぐぅ!?」

 回し蹴り後の着地。もう一人の男を下から拳で顎を殴り上げ、男が回転しながら吹っ飛ばされる。顎が砕けた音が聞こえ。他の男どもがビビる。唖然とする俺は………腰を抜かしていた。

「に、逃げろ!!」

 残った数人も恐怖で逃げ出す。

「ふぅ…………」

 小鳥遊が二人倒れた男を睨み付けて足に力を込めた。何をする気かわかった途端に叫ぶ。

「小鳥遊!! やめろ!!」

「!?………えっと………仕留めないと。息の根を止めなければ安心できない。教えてくれたの時也でしょ?」

 そう、小鳥遊は二人を殺そうとし頭を潰す気だった。無情にも見える行為だか、俺にはわかる。刺客に狙われていたし、戦いを良く知っている。だから止めを刺す。これが………あの世界を生き抜く強者。俺らなんかと全然世界が違う生き物だ。

「………………教えてない。殺人はだめだ」

「倒す覚悟があるから攻撃する。死ぬ覚悟ぐらいあるでしょ?」

「小鳥遊!!」

 俺は、彼女を怒った。怒るべきは俺なのに。しかし………どうしていいか分からず名前を叫んだ。

「………ごめん。時也が殴られていて、つい。時也だって!! 無抵抗はおかしいよ!!」

 俺はそれを聞いて絶句した。俺のために戦ってくれたのかと。ああ、格好いい人だ。それなのに俺は自問自答し、罪悪感が募る。

「……………大丈夫。警察もいるし先生もいる。小鳥遊帰ろう。あいつらも思うところがあるんだよ………」

「う、うん」

 心の混乱を隠して話をする。

「えっと………千家君帰ろう」

 そんな俺に彼女は手を伸ばす。自分は………彼女が輝いて見えた。愛おしく。手を伸ばしてつかもうとした瞬間。考えが浮かぶ。「俺に彼女の手を取る資格はあるのだろうか?」と。

 伸ばした手を下ろす。

「一人で立てる」

「………うん? 無理してない?」

「大丈夫。殴りなれてないだけだから」

 俺は立った、一人で。そして、心の悩みが無くなるのがわかった。千家時也は彼女を愛していると。

 そして………愛しているからこそ。皆を裏切るのだと決めたのだった。





 楽しかった。彼女といる時間は太陽の光に照らされているほど暖かく。心を穏やかにした。

 メモ帳や、俺ができる唯一の彼女の想い出を思い出して貰うために色々な工夫をした。

 結果は信じてた通り。トキヤを思い出した。リビングでくつろいでた時に階段を降りる声が聞こえる。

「ああ、起きた? おはよう」

「う、うん。ごめん………朝食作るね」

 泣き晴らしたら目を見て「思い出したんだな」と感じた。

「いや。もう食った」

「………そうなんだ」

「ああ………」

 俺はソファから立ち上がり近付く。彼女は後ろに後ずさってしまう。やはり………思い出した。確信に変わる。

「えっと……な、なに?」

「何で逃げるんだ?」

「えっと………わ、わかんない」

「………体に聞く」

「えっ!?」

 俺は顔を近付ける。目を見ればわかる筈だ。俺を見る目が変わっている筈。

「千家くん?」

「…………」

 もっと深く覗こう。そう思った瞬間だった。

ドンッ!!

「あっ!!」

 吹き飛ばされる。吹き飛ばした彼女はその場を崩れた。瞳が歪んだのも見逃さなかった。

「どうして? 私………どうして? 好きじゃなかったの? あれ?」

「………」

「ひっく………ごめんなさい………なんでだろ………なんでだろ!!」

「小鳥遊。メモ帳は取ったか?」

「う、うん………沢山。変な事を書いてる………書いてる………」

「その、欠片を集めてみろ」

「えっ? で、でも……」

 俺は彼女の寝室からメモ帳を持ってくる。それを突きつけた。命令口調で。

「読め、一つ一つ」

「………う、うん」

 彼女は読み上げる。

「魔王、勇者………鳥籠…………」

 内容は、彼女の記憶そのもの。俺が言えれば良かったが言えない。女王に封じられている。

「トキヤ………トキヤ?」

 記憶が鮮明になった。彼の名を口にする。俺と言う存在のモデル。最強の彼女の伴侶様の名前を。

「トキヤ!? 私、なんでこんなところにいるの?」

「小鳥遊………いや。もうお前は知っているから話す事が出来るなネフィア」

 俺は女王から封じられているのは彼女の忘れたことを話さないこと。思い出してる物には関係がない。彼女の名前を口にした瞬間。ネフィアは驚いた表情で名前を叫ぶ。

「そう!! 私はネフィア・ネロリリス!!…………これって。過去の記憶って………私に何があったの? 頭が痛い!!」

「あまりに多くの事を思い出したから痛いんだよ。落ち着いて思い出せばいい」

「そんな悠長な事を言ってられない!! 私は………うぅつつぅ!!」

 ネフィアが頭を押さえて歯を食い縛った。ああ、本当の彼女に会えた気がする。家では優秀な主婦だが外では勇ましい女傑である。

「小説で………そう。学校で読んだ。異世界転生だっけ? 過去の記憶を持って………でも………あなたは誰? トキヤじゃないでしょ?」

「俺は…………千家時也だ。トキヤじゃぁない」

 だが………トキヤでもあると信じる。

「そ、そう………ごめん。手を貸してくれない?」

「………ああ」

 ネフィアが手を差し出す。真っ直ぐ見つめて。芯を通った瞳に吸い込まれそうだ。嫌がらず。俺を認めれる器の広さ。本物の彼女は思い出す前の彼女よりも高貴で美しく。ああ…………心を奪われた。

 だから………自分は何故彼女を抱き締めているか気付くのが遅れていた。脳が理解するよりも本能で愛を持っている事に。

「えっと………」

「………小鳥遊……いいや。ネフィア………少しの間だけでいい。俺をトキヤと信じてくれ」

「………う、うん」

 そう、千家時也は偽物だ。

「ネフィア…………絶対に帰してやる」

 だが、この愛する気持ちは本物だ。だから俺は一瞬でもトキヤになってやる。そう決意したんだ。


§不思議の国のネフィア⑤    ハートの女王と白い兎..



 おれ自身、驚いている事がある。 トキヤとネフィアが俺を信じてくれているのがわかった。

 彼女の記憶通りのトキヤの強さを模倣できている。ツヴァイハインダーを片手で振り回して魔物のような戦いが出来る。

 魔法だって扱える。昔の自分より遥かに強い。同じ、同じ人間なのにここまで差があるのだ。本物トキヤと本物俺では雲泥の差がある。だが、ありがたい。彼女を護るだけの力が今は十分にある。堂々と女王の目の前に立つ。鎌を構えたハートの女王から聞かれぬように風の魔法でネフィアの耳に伝える。

「俺が切り込んだら、屋上へ上がれ」

「で、でも………」

「大丈夫、絶対に帰す。彼の元へ」

「………うぅ」

 優しい。彼女は強く優しく逞しく。この世の女性より遥かに………女神に近い。俺にとっては女神に等しい。だからこそ、彼女のやっと叶ったトキヤと一緒になる夢を引き剥がすのは耐えられない。

「じゃぁ行け!!」

 俺は剣を担いで女王に斬りかかり、ネフィアは炎翼をはためかせて脇を抜けた。

ガッキン!!

「あっ!?」

「行け!!」

「………つ!!」

 学校の玄関にネフィアは消える。それでいい。

「何故!! 何故!! 死ぬのよ!! また暗い底に落ちるのよ!!」

「それがなにか? ネフィアの幸せが一番だ」

「な、なにを!!」

 一旦距離を取り剣を振り払う。

「あなたは女神を裏切った!! 何故!! 女神にチャンスを貰っておきながら‼」

「貰ったな…………もう一度!! 勇者になれるチャンスを!!」

キィン!! キャン!!

 鋼が撃ち合う激しい音。グラウンドが剣圧によって切り刻まれる。撃ち合う音に紛れ女王が俺を罵倒する。

「勇者になれるチャンス!! 彼女をこの世界に留めることが彼女を倒す事に繋がるのよ!!」

「元魔王だ。現魔王じゃない!!」

「元でも魔王よ!!」

 ギギギギ!!

「なんで狂った!! 千家!! 愛してるなんてヘドが出るわ!!」

「愛してるさ!! 俺は千家時也の前に!! トキヤだ!!」

「偽物だろうが!!」

「本物も偽物も彼女を愛してないわけじゃない!! それに!!」

 俺は一つだけ。トキヤに勝てている。トキヤはまだ過去の夢を諦め切れていない。俺はそんなの持っていない。だからこそ。純粋に愛せている。

「俺はネフィアを誰よりも愛してると言える!!」

 これだけでいい、偽物だろうがトキヤだ。

「くぅ!! わからずやぁああああ!!」

「!?」

 俺は女王から離れる。彼女の周りが爆発し、衝撃波を生み出す。これは………能力か。

「ははは、女神から貰った力を見せ合いましょう。殺してやる!! お前は私が殺してやる!! 駒の癖に言うことを聞かない!! 何故か聞かない!!」

「だって………トキヤは女神を裏切ったし」

 決別している。命令なんか聞きやしない。

「それが愚かだと何故気付かない!!」

 鎌を振り、刃が飛ぶ。「切れる」と言う事象だけを飛ばす能力。それを横に飛び避ける。オリンピックなら金メダル間違いないなこの跳躍力。

「………あなたの能力はなに? 教えなさい」

「残念、あまりの過去で忘れた」

「じゃぁ………面白いの見せてあげる。まぁ見えても真っ二つだけど」

パチンッ!!

 指を俺に向けて鳴らす。ならした瞬間にグラウンドが一直線に切れ、背後の建物も全て真っ二つになる。威力がおかしい。斬撃を飛ばすよりもあり得ない威力だ。

「あら、手が滑って外れちゃった~」

 俺は横に走り出す。指の鳴らす音が聞こえる度に背後で色んな物が真っ二つになる。

「逃げてばっかりでちょこざいな!!」

パチン!! キャン!!

 剣で能力を弾いた。女王が真っ二つになる。弾けるようだあの能力。よかった、変に弾いて校舎が真っ二つになるところだった。

「………あー弾かれるんだこれ」

「!?」

「あれ? 生きてるって? 死なないよ? 超再生」

 これは…………厄介な。

「もっと、的確に殺したいね」

 俺は笑う。怒りに身を任せ俺の相手をしてくれている事に。





 屋上へ来た。月に照らされた町並みが見える。綺麗な光景なのだが……眺めている暇はない

 下で激しく戦いの音が響きながら空を見上げる。どうやって上がるのか検討がつかない。この炎翼は飾りのような物。変な知識で言うなら、見た目も能力の一つだ。

 フェンスの近くに行き眼下を眺めると彼が戦っており、その戦い方はトキヤに似ている。そして私は音で伝える。

「ついたよ………屋上」

「ついたか………厄介だなこの女王」

「………あの」

「すまん………戦闘に集中する」

 眼下で剣を振り払い。女王を切り刻む。しかし、バラバラになってもすぐに復活した。この世界の主は殺せないらしい。

ブヮア!!

「な、なに!?」

 屋上より遥か上で何か音と共に降ってくる音が聞こえた。眼下の二人も聞こえたのか戦闘が止まる。

グアアアア!!

 雲の合間より大きな咆哮が聞こえ、黒い塊が降ってくる。雲の影でよく見えないが黒い塊が翼を広げて雲を吹き飛ばした。もう一度大きな咆哮をあげて月明かりに照らされ光沢を放ったそれは竜だった。

 鋼の白い輝きに、黒い間接部。鋼竜に私は見覚えがある。

「エルダードラゴン。鋼竜ウルツァイト!?」

 トキヤの夢の番人の一人でいつも私の邪魔する。トキヤの………もう一人が屋上へゆっくりと降りてくる。

「………」

 言葉は喋らず、屋上でしゃがみ私を待ってくれる。迎えに来てくれたのは嬉しいが後ろ髪を引っ張られる気持ちもあった。

「あっ……う、うん」

「来てよかったな。トキヤが」

「そ、そうだね………その」

 フェンスに向かい彼の顔を覗く。満足そうな顔に胸がドキドキした。その顔は本当にトキヤだ。

「時也!!」

「………?」

「ありがとう………楽しかったよ‼ 夏休み無くてごめんね」

「ああ、気にするな。最後にいいか?」

「なんでしょう?」

「愛してた。元のトキヤにヨロシク言っといてくれ…………『羨ましい』てな」

「うん!! ありがとう………トキヤさん」

 私は振り返って竜の背に乗る。





 最後の最後…………彼女は俺を時也と言わずトキヤと呼んでくれた。そんな気がする。

「そ、そんな!! 彼は夢を持たないのに何故!! 世界に来れるの!!」

「ウルツァイト。彼は彼なりの夢を持ってるんだよ」

「くぅ……ふふひ。そう!! 残念!!」

「……?」

「今、いい能力見つけたんだ~時を止める能力!!」

「!?」

 俺は剣を構え投げつける。それと同時に自分の能力を使い生み出した短剣で手を自傷させた。思い出せて良かった。俺の能力を。

「残念………時を止まれ」

 世界がピタッと止まる。空へ飛ぶドラゴンも全て動きがなくなった。俺の剣も空中で彼女の目の前で停止した。

「あーあ。見つけちゃった~最強の能力を~どうどう?  どんな気持ち? ああ止まってるからわかんないか~」

 ゆっくり彼女は俺の前に来る。大鎌を彼女は振り上げて俺を殺そうとする。

「さぁ!! 先ずはあなたを倒し次にあの竜から引き下ろす!!」

「残念。そうはさせない!!」

 自分は近くまで近付いた女王に抱き付く。鎌の内側で強く片手で服を握って逃げないようにし、右手だけで己の短剣を握る。短剣は剣先が伸びて剣となる。

「な、なんで動けるの!?」

「自分の能力を喋るバカはいないが。せっかくだ、思い出した能力を教えてやろう」

 剣を逆手に持ち背中から串刺しにして、自分の腹部も含めて差し込む。

「ぐふぅあ!? は、放せ!!」

「痛いな。でもこれで逃げられない。串刺しだ」

 女王が俺を見ながら恐怖に顔を歪ませる。

「そ、そこまでやるの!? なんで!?」

「わからんだろうな。俺もわからない。勇気しかない今が!!」

 剣を捻り能力を使う。時が動きだし竜が空へ登っていく。

「くっ!! 放せ!! お願い!! 放して!!」

「放すか!! 世界が壊れるまで待ってろ!! まぁ教えてやろう………能力使えないだろ?」

「!?」

 気付いたらしい。そして、顔が絶望に染まる。

「いい顔だ、そそる。教えてやろう………俺が選んだのはこの変幻自在の剣。ルーンブレイカーだ。全ての能力を無効にし、全ての力を無力化することが出来る。例えば自傷して自分のかかった能力もな……任意で」

「そ、そんなチート!?」

「だけどな………死んだよ簡単に。ここまで使える発想がなかったからな」

「畜生!! 女神様!! お願いします!! お助けください!! もう!! 暗い底は!!」

ピキッ

 彼女は本の世界から元の彼の胸の中へ戻って行ったのだろう。世界が音をたてて鏡のように割れる。

「嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!!」

「………はぁ。全くうるさいなぁ感傷にも浸らせてくれない。音奪い」

 女王が口をパクパクさせ涙を流す。仕方がない。捨てられたんだ。また………無慈悲に。女神に。

 どんどん世界が狭くなっていく。目の前の女王もひび割れていく。

「ふぅ………本当にトキヤが羨ましいよ……俺の夏休み終わっちゃったじゃないか」

 俺は静かに目を閉じた。


§不思議の国のネフィア⑥終幕、そしてネフィアの追記..



「うぅ………ん………」

 私は唸りながら目を開ける。目が潤んで涙を流していた横になっていた。

「起きたか?」

「………ここ」

 体を起こすと見られた寝室と椅子に座り礼の本を見ていたトキヤが立ち上がり、ベットの縁に座る。

「ビックリした。倒れてた………まぁ仕方ないさ。そういう本だったんだろう」

「………ただいま」

「おかえり」

 私は彼に飛び付いて抱き付く。そして………ワンワンと泣き始める。逢いたかった。逢いたかったよ。

「おい!? どうしたんだ? 泣きすぎじゃないか?」

「逢いたかった!! トキヤ~」

「お、おう………そっか。迎えに行って正解だったか」

 彼は優しく強く抱き締めて頭を撫でてくれる。

「ごめん………私、トキヤの事を忘れて………本は!?」

「本? 本はあそこのテーブルの上に」

 私はベットから這い出る。出たあと立とうとし転けてしまいそうになったがトキヤが支えてくれる。長い間動いてなかったから体が重い。

「………ネフィア大丈夫か?」

「うん………大丈夫。ちょっと悲しいだけ。夢で格好いいトキヤと別れちゃったの」

「そっか………」
 
 本を手に取り中を見る。1枚目に千家時也の似顔絵がある。始めにそう………初めて見たとき驚いて次のページを見たのだ。そして次のページは白紙だった。

「何も書いていないが。今さっきまで………書かれてたんだ。ネフィア………お前の遊んでる話がな」

「私が居なくなったから………」

「そうだろうな………登場人物。主人公がいない物語はない。白紙はそういうことだろう」

「…………トキヤ………お願いがあるの」

 私は一つだけ。トキヤにお願いをした。





  黒い世界で俺は座る。消えずに遺志が残っているため不思議に思っていた。他の皆は意識が混濁し闇のなかで悶えているだろう。

「トキヤが深淵を歩く事が出来るからか? 全くいい能力模倣したよ」

 まぁ………ゆっくりと長い眠りにつけばいいと思った。 次に落ちてくる人を助ければいいと。

 目を閉じて横になる。「誰か来るまで寝ていよう」とそう思った瞬間。

 草の匂いと花の匂いが鼻腔を擽り、目を閉じていても眩しさを感じた。慌てて目を開ける。

「な、なんだ………風がある?」

 穏やかな風を感じながら、目の前の光景に驚きを隠せない。

 自分は桜並木の脇にある芝生で寝転がっていた。空を見上げると太陽が昇り春の始まりの暖かさをもたらす。

「甘いな、やっぱり…………でも……それがネフィアだ」

 それが愛した女神の良さなのだ。




 
 私はトキヤに頼んだ羽根ペンで白紙の表紙と白紙のページに自分の炎を混ぜ、書き込んだ。イメージをそのままに。表題、ワンダーランド。内容は桜の綺麗な転成者の故郷日本。転生した、迷える魂に救済あれ。


§都市ヘルカイト⑭
 
 
 私は本の世界から帰ってきたが、現実時間で1周間ほど寝ていたらしい。献身的なトキヤの世話でなんとか体は維持できていたらしく、鈍ったような感じはない。

 何故、すぐに迎えに行かなかったを聞くと入れなかったと言う。私が思い出すまで無理だったのだろう。

 それよりも時期のズレが辛い。1周間前の話を聞いても一ヶ月前の話に聞こえるし。本の世界は真夏だった。もっと言うなら便利な世界だった。「いつかこの世界もあんだけ便利になればいいなぁ」と思う。

「ちょっとギルドにお前が起きたこと報告行ってくるわ」

 ソファから立ち上がって玄関へ向かう。ブーツを履いてナイフを剣帯する。大きい剣は邪魔らしい。魔法使えるし別にいいのだろう。

「んん? なんでギルドに報告を? 別に気を失ってただけですよ?」

「…………俺以外に心配する奴が多いんだ。ネフィア、昔のように一人ぼっちじゃないんだよ」

「えっと、うれしい!! ああ、うれしいですね。心配してくださってたんですね‼」

「ああう………まぁそうだな。ああ、かわいい。笑うとかわええな」

 トキヤが顔をそらした。久しぶりの反応で嬉しくなる。

「ねぇ、トキヤ。トキヤって特殊能力とかないの? こう!! 指を『ぱちん』とならせば真っ二つとか!!」

「そんなトンデモ超人の能力はない。精々魔法が使えるのが能力だな」

「そっか………おかしいなぁ~」

「何が?」

「だって………転生者でしょ?」

「てんせいしゃ? なんだそれ?」

「あっ……ええっと」

 そう、私が思っていることと彼が思っていることが合わない。伝わらないもどかしさを久しぶりに感じる。昔は愛が伝わらなかった。あれのような感覚。

「能力者みたいな者!!」

「ふむ…………あっ!! あるぞ!! 能力!!」

「えっ!? なになに!! 気になる気になる!!」

「ネフィアを喜ばす能力」

「…………………へぇ~」

「の、ノリが悪いな」

「だってぇ~喜ばすってねぇ~。そんなすぐに喜ばないよ。チョロくない」

「………ネフィア。愛してる」

「うぅ!? うん!! 私も愛してる」

 久しぶりの愛の告白で胸がときめいた。やっぱり言葉で言い合うのは大事。

「なぁ………満面の笑みで可愛いけど。喜こんでるよな?」

「!?」

 私は口を両手で塞ぐ。しまった。チョロい。

「もごもご!!」

「ああ、もう。手を塞いでたらダメだろ」

「そうだった喋っられ………むぐぅ!?」

 手を離した瞬間。別の方法で塞がれる。固い唇……たくましい。

「ごめんな。もう行かなくちゃいけない。話は帰ってからでいいだろ。いってきます」

「い、行ってらっしゃい………」

 トキヤがギルドに向かう。玄関の戸がしまった瞬間女の子座りでヘタっと座る。唇を触れるとまだ熱がある。

「…………キャァアアアアアアアア!!」

 頬を両手で挟んで恥ずかしがる。身構えなかったのもあるが久しぶりのキスといきなりの行為に体が反応するのが遅れてしまった。

「本の世界より!! ずっとずっと甘かったです!!」

 そういえばトキヤは積極的だった。




「ただいま」

「おかえり!! ここたま!!」

「………ごめん。実は人が来ていて」

 私はハグを断られた。

「こんにちはネフィアさん」

「こんにちは。ネフィア姉~大丈夫ですか?」

「こんにちは!! リディアにランス!! もう大丈夫~ちょっと夢の世界で遊びすぎちゃっただけよ」

 蜘蛛姫と皇子の夫婦が尋ねて来たのだ。見ると心配していてくれたのだろう。

「えっと!! 上がって!! お茶でも出しますよ」

「お邪魔しまーす!!」

「あっ!! リディア!! 足拭いて!!」

 みんなを連れてリビングへ。私は魔力炉でお湯を沸かし紅茶を淹れる。香り高い美味しい茶葉等はやはり本の世界よりこっちの方だ。

「いただきます」

「いただきまーす」

「でっ………ランス。話とは?」

「あっいえ……私ではなく相談があるのがリディアです」

「リディアさんが?」

「は、はい!! お姉さま………にその。聞いて貰おうと思います」

「な~に?」

 私は椅子に座り話を伺う。まぁ悩みは多いと思う。今まで魔物だったのだ。人に合わせるのは大変なこと。

「あの………服に関してなんです」

「ええ」

 今は白いワンピースを着ている。蜘蛛に乗っている姫みたいな出で立ちだ。

「これって? 服として意味を成してないと思うんですが………わかんなくって」

 彼女は背中の鞄から一枚の布を見せる。紫色の胸当て下着。布の面積は小さくそして大事な場所は隠せない。特に胸にある二つの物。場が凍る。

「お姉さま………私、わからないんです。薄くて透けますし裸でもいいのではないでしょうか?」

「えっと………これ………ここで出すべき物じゃないわね」

「ランス………おまえ………」

「ま、まってほしい僕はだな!! だめだ………擁護できる場面ではない。ぐっ潔く認めよう」

「ランスケベ」

「トキヤ………斬られたいか?」

「リディアお姉さまにこの服について助言を戴こうと思ってたんです!! なんなんですか? これ?」

 私はどうしようかと思いランスを見るが目線を逸らされてしまう。ムッツリスケベだこの人。

「ええっと。これはね………着たの?」

「はい!! ランスが喜んでくれました…………なんででしょうか?」

 ああ、無知って怖い。ランスも顔を押さえてるしトキヤも「私に早く話を終わらせろ」と指示を目で訴えて来るし…………仕方ない。

「男って女の私たちより遥かに変にこだわりがあるんです。これは、男を喜ばせる服ですね。私たちにはわからない魅力があるんですよ?  男は視覚でも楽しむ事が出来るんです。裸よりも好きなんですよ」

 実は私も持ってる。たまに着て一人で鏡でチェックしてる。

「だから…………私たちは着てあげるだけでいいんです。気にしなくてもいいんですよ」

「そういう服なんですねこれ!! 裸よりいいだなんて。さすが人です」

「いや、それな………うん………なんでもない。俺は黙っておこう」

「…………」

 ランスが意気消沈していた。そりゃー恥ずかしい事を見せつけられて普通に耐えられる訳がない。心中お察しします。

「ランスケ…………ランスケベ。大丈夫か」

「トキヤ……言いなおすなら。普通に呼んでほしい」

「ランスケベすまなかった」

「普通といったぞ僕は………」

 私はため息を吐きながら「仕方ないな」という感じで言葉を喋る。

「リディア。トキヤって………実は裸より騎士の服でいたすのも好きなんですよ。特に両手を天井に括ってお尻を突き出す体制がお好みです。男ってそんなのなんです」

「ネフィアお姉さま!? そ、それは………は、恥ずかしいですね」

「だから、その服も盛り上げる服ですよ」

 行為については恥ずかしいという気持ちがあるようだ。ならば話が早い。

「トキヤ!?」 

「おまえだけには引かれたくないが!! ネフィア!!」

「ふふ、これで二人ともお相子様です」

「ああ、畜生。俺の方が被害でかいだろ……」

「いいえ………自分も相当です」

「確かにショックでかい。あの………高貴な皇子がスケベだとは」

「リディアがかわいいのがいけないのです。それより………ええ。ちょっと。なにも言えないないですね」

「………くぅ……引かれるとは」

「リディア? ご飯は?」

「まだです」

「リディアのお家に行って手伝うよ。台所狭いの」

「あっ!! ありがとうございます」

 私は嬉しい。日常に帰って来たことを噛み締めながら。



§都市ヘルカイト⑮オブジェクトXX-U-2609「炎翼の魔女神」..

オブジェクトXX-11-1「ゲート」

 丸い硬質な不明金属から出来ている。表からは景色が見えるが裏からでは景色が見える事がない。金属等実験に関して、ゲートが不使用になる事象が起きてしまう場合の損失が多いため実験は不許可とする。また、ゲートから多量の放射能汚染と異質の汚染物質により作業員は対防曝用作業服を着込み作業し、使用しないときは異世界の生き物の流入を防ぐため閉じておくこととする。マニュアルを良く読み作業を行うこと。

 19XX年、[削除済み]博士が開発した扉。異世界へと続く道であり支部11号研究所の深部に設置された。我ら運営はこれを維持管理し、異世界の情報を求め。最強の種を作ることが11号研究所の目的である。

オブジェクトXX-11-5230 "遺体番号1" 

 第11回目による。ゲート先調査隊により持ち帰られた異世界の遺体と思われる。損傷が激しい。解剖結果、人間とは類似点が見つかるも他に見られない器官が多く。皮膚は鋼のように硬く硬質することがわかった。成分は全て人間と同じだが、未発見の成分も含み。これを保有する。


 19XX年。オブジェクトXX-11-5230 "遺体番号1"から遺伝子を抽出。100人の協力者によって50人ほどのオブジェクトXX-11-114514が作られた。この個体は防護服を着ずゲートを潜れる。強力な脚力を持ち。人間の遥かに越える生き物である。強化人間と呼称し教育を実施。ゲート内の遠征部隊を作製。いくつものオブジェクトを収集する。

 オブジェクトXX-11-132790"ドラゴン"の収容違反により原発炉が臨界を越えたが強化人間の作業により収容違反は射殺。原子炉を廃炉とした。強化人間の有用性を裏付け。量産体制を行うことが議会で決まった。しかし、遺伝子の損傷等によりオリジナルほどの生体は生まれていない。

オブジェクトXX-11-162999"白翼の鳥人"

 強化人間の一人が群れからはぐれた鳥人を収容。鳥人のアルビノ種であり喋ることが出来る。言語もわからないが、[削除済み]博士や収容した強化人間の一人が会話が可能。実験は博士の一任で強化人間が行う。銀色の懐中時計等、光り物が好きな模様。博士は強化人間と彼女に渡したとする。喜びの感情はある模様。


オブジェクトXX-U-2609  "炎翼の魔女神"

 強化人間のひとりが接触し。収容した人間のような亞人。あまりの美しい彼女を写真で納めようとしてもピンぼけし、残すことが出来ない。10人、彼女を見て絵を書かせた場合。10人とも姿形が違う。上は70才の女性から下は10才の少年の姿を確認できた。[削除済み]博士は彼女の真の姿を確認出来、ある強化人間も同じように見えている模様。二人の絵の共通点が多く。紫の瞳、炎の翼、金色の長い髪そして白い鎧を着た西洋のような女性が描かれる。東方のモンゴロイドの人種が描く絵に良く似た特徴が伺えた。何故か彼女はこの世界の知識を有している。


 20XX年、大規模収容違反により支部11研究所の破棄を決定する。[削除済み]博士等、管理能力欠如とし[削除済み]する。


 20XX年、大規模収容違反発生。発生確認が出来たのは5日後であり多数のオブジェクトが紛失した。紛失リストは別紙を参照。当時の録音データ等からもゲートからの侵入者によって事件が発生した模様。カメラ鑑識によると大小違いはあれど過去、西洋傭兵が使用していた両手武器に類似する。銃弾は効かずサイコキネシスによって被害を大きくした。オリジナル強化人間部隊到着後、数人を除き全滅。強化人間の裏切りが発生。

 20XX年オブジェクトXX-11-1   "ゲート"消失。大規模収容違反によって消失した。監視カメラ映像として残されており上級職員のみ閲覧が可能である。映像内容を翻訳、言葉で内容を表示する。


「ここから帰れます。さぁ皆さん!! 早く!!」

「リューク!! リュークも!!」

「………いや。俺は行けない。ゲートを閉じなくてはいけない」

「リューク!?」

「シエル。君は美しい。だから、こんな所じゃなくて君だけの空を飛ぶんだ」

「いや!! リュークと一緒に!!」

「頼む。シエル………君みたいな者をこれ以上出すわけにはいかない」

「いや。いや!!………リューク!! 私!! 私を拾ってくれたリュークが!!」

「シエル、君は僕の空だ。だからその綺麗な翼で飛んでいくべきだ。ありがとう。恋して良かったよ!! さぁ!! 行くんだ!! 君が最後だよ!!」

「私も残る!!」

「ダメだ!! 殺される!!」

「いや……いや………」

「お二人さん。愛してる?」

「ネフィアさん………もちろんです!! だからネフィアさんも早く!!」

「シエル!! 足で彼を掴みゲートへ入りなさい!! 私がなんとかしてあげる!!」

「はい!!」

「なっ!? やめるんだシエル!!」

「リューク。ゲートを壊せばいいのよね」

「そ、そうです!! しかし!!」

「私の目の前で悲愛は認めない!!」

 カメラはこの後の衝撃で破壊され映像はここまでとなっている。事件調査班の報告によると膨大な熱量がこの空間に発生し全て液状化。溶けていたと報告されている。ゲートは消失が確認された。


20XX年「削除済み」博士捜索。11号研究所の事件は全て[削除済み]博士の手引きがあった模様。データの削除。ゲートへの道の隔壁開放。外部操作を行った形跡がある。エージェントに[削除済み]を依頼。捜索は難航。知り合いである研究者が連絡を取り話を録音したのが最後で消息は不明。閲覧は禁止とする。

「博士、何故。11号研究所で違反行為を?」

「違反行為を? していないよ。ただ普通にしただけだ」

「あなたのせいで11号研究所は使い物にならなくなった。運営はこれを重く見て君を削除するだろう。ゲートを用意し多大な貢献を行ってきたが今回は故意であり。許される物ではない」

「許されるべきではない。許されない………そう許されないのは運営側の方さ」

「……何が言いたい?」

「異界から拉致を行う行為。君は家族の拉致を許せるのかい?」

「…………致し方のない犠牲」

「そうか。11号研究所は壊して正解だ。運営側のデータもほとんど抹消した」

「何故!? そこまでのことを!!」

「………それを調べるのが研究者だよ。今回は長い出張だった。君にも今後、会うことはない」

「博士、ヒントを」

「君は頭がいい。ああ、もう演じることもいいか。答えに近いのを持ち、確認で聞く癖だったか?」

「ええ、長い付き合いです」

「じゃぁ………そうだな。これでわかるか?」

「もったいぶらずにどうぞ」

「シエルは『僕の空』だ。家族を迎えに来ただけさ」

「シエルとは博士のお気に入りの? 余計わからなくなりました………博士? 博士?」

 録音はここで止まっている。[削除済み]博士が切ったのだろうと予想。[削除済み]博士の個人情報は不可解な物が多いため別紙に纏める。研究者の閲覧禁止の論文もあるが答えを知る者は見つかっていない。11号研究所は閉鎖された。



§都市ヘルカイト⑯ 過去の余、未来の私..


 隣家にある夫婦ではないが新しい住人が増えた。連れ去り事件の依頼をこなしている時に出会った二人である。名は異世界の人間のリューク・ハーピーとアルビノで白い翼を持ちハーピーの群れから追い出されたシエル・ハーピーだ。

 私が彼らの住居を買い与え、世の中の事をリュークにはすでにお話しした。ちょうど異世界の事を知っているために違い等を教え込み。「なんとか順応してくれれば」と思う。ハーピーは魔物だったのでハーピーには人の生活を教え込んだ。

 それが5日間続き。リュークは冒険者見習いで生計を立てて貰う所まで知識を蓄えた。好きな人のために頑張って貰おう。そして彼は必ず異世界へ戻らないといけない使命もある。

「はぁー終わった………」

 やっと解放され。リビングのソファに寝転ぶ。

「やっと………なんとかなりました」

 何も知らない二人は大変だと思うが仲良く頑張って貰いたい。私みたいに。

「あぁ………そっか」

 私も昔、無知だった。

「トキヤとエルミア姉さんに教えて貰ったんだよね………私も…………ふふ」

 そう考えると今では教える立場。成長を感じられる。目を閉じて昔の自分を思い出しながら幸せを噛み締めた。

「ありがとう………トキヤ………私の王子さま」

 疲れから眠気に襲われたのだった。





  暗がり。夢の中。何もない場所で私は不思議に感じた。何故なら私が見ようとした夢ではなかったからだ。

「うーむ。私が姫でトキヤが王子さまの夢のつもりが…………誰かの夢に入ってしまったようですね」

 昼寝している誰かだろうか。

「誰だ………余の夢に入り込んだ奴は」

 声が聞こえる。誰だろう。聞き覚えのある人の声だ。中性的な甲高いような少年の声。

「ん?………んんんん!?」

 周りが明るくなり王宮の一室に様変わりした。そしてその声の主に私は驚きの声を上げる。

「わ、わたし?」

「はぁ? 誰だ、お前!!」

 金髪のショートヘアーの青年が指を差して憤る。中性的な美しさがあり、少年婦で人気になりそうだ。自分自身に言うのもあれだけど。

「お前の夢か!! 忌々しい夢魔め!!」

「あなたも夢魔ですよね?」

「な、なぜそれを!!」

 向こうは私が自分自身と思っていない。私は少しの時間で理解した。これは夢で過去の自分と繋がったらしい。「自分自身だとこういう事があるんだなぁ~」と思う。

「いや、私ですし」

「何を知っているか知らないが出ていけ!!」

「やーだ」

「ふてぶてしい奴だ!! だから夢魔は嫌いなんだ」

「私は大好きですよ? 素晴らしい種族です」

「何を言うか!! 淫乱な下級魔族だぞ!!」

「例え淫乱だろうけど。一人の男だけに淫れるなら。それは愛と言ってもいいです」

「……あ、愛だと!? 浮わついた言葉を口にするな!!」

 うわぁ~昔の自分を見るとなんと痛い子か。可哀想。口を押さえて指を差して笑う。

「まぁそれより。魔剣ネファリウス貰った?」

「あれは最初から余の物だ」

 と言うことは戴冠式後で勇者トキヤが来る1ヵ月前ぐらいの私だろう。

「そうね。あなたの剣、趣味が悪いわぁ~」

「な、なに!! この剣の何が悪い!!」

 夢の中に魔剣が召喚される。黒い刀身ダサい。

「あなたみたいな非力の少年が持つのには大きすぎます。まぁ………捨てるでしょうけど」

「何を言う………変な奴だ。お前は余を知っているようだが? 何者だ?」

 私は意を決めて話す。

「私はネフィア・ネロリリス。元の名をネファリウス。あなたの未来の姿が私よ」

「はぁ~寝言は寝て言え。いや、今は寝て夢を見ているな」

「信じれないよね~勇者に女にされて、護って貰って訓練して。愛して結婚して。家で逢瀬を重ねてるんだなんて」

「はぁ!? 世迷い言を!!」

「好きな童話は姫と竜と騎士の物語。騎士に憧れ。姫様にも憧れ。そして…………魔王で自由を手に入れたいと願う」

「!?」

 図星っといった表情。私自身なんだからわかる。

「小さいときはいつも一人で閉じ込められ。いつか出られる事を夢見ていた。そしてやっとそのチャンスがやって来た。身の丈を越えた役職だけど。どうにか生き延びようとね」

「くぅ!! 黙れ!! 夢を覗き見たな!!」

「私だからわかる。本当にあなたは私になる。安心して幸せになるから。夢は叶うから!!」

 昔の自分は押し黙る。

「叶う………しかし!! 女にされるとはいったい!!」

「勇者にね。今度会うはずよ。運命の相手に」

「くぅ………勇者が運命の相手だと!! 気色悪い」

「ふふふ…………すーぐ惚れるわよ」

「私は認めない!! お前が未来の私なんて認めない!! 夢でも斬り刻めばもう二度と夢に現れないだろう!! 斬ってやる!!」

 魔剣を構え、素早く振り下ろす。単直な真っ直ぐな剣筋。私は後ろへ避けて夢を操る。

 一瞬で世界が暗転。そして現れる故郷。都市ヘルカイトの壁の上。大きな木が見え、激しい山々の中心にある都市の情景が写される。

「!?」

「未来の私に今の記憶はない。今日、あなたを倒して夢を忘れさせないといけない」

「くぅ!!」

「恐れないで。未来を信じろ……我が過去よ」

 白金の鎧に身を包み。背中に大きな炎翼を羽ばたかせる。脇に差した剣は炎のブロードソード。それを抜き放つ。壁の上に魔力が流れ火の粉が上がる。

「つっ!? 熱い!! これほどまでに炎の魔法と剣を!?」

「これ、勇者から頂いた最初のプレゼント。いい剣よ」

 つい、ノロケてしまう。目の前の魔王が震える手で魔剣を構えた。私は走り魔剣に向けて剣を振る。

キャン!!

「なっ!?」

 剣が吹き飛び。昔の自分の手が痺れている。私は剣を納めて歩き。彼女の腹に拳を叩き込んだ。

「ぐふっ!?………強い………本当に………余なのか?」

「うん。私よ………でも起きても記憶はないわね」

「そうか………でも。幸せなんだろ?」

「幸せになるよ。いいえ………幸せにしてくれる人が現れるの」

「…………うん。今日は悪夢を見なくて良かったよ」

 昔の自分は素直になり影が薄くなって消える。夢で死んだら夢の記憶はない。そんなルールはないが私が消した。昔にそんな夢は見ていないから。

「ふぅ………ちょっと。疲れた」

 ちょっと休むつもりが………昔の自分に会うなんてね。でも………本当に。

「幸せ………ありがとう。トキヤ」

 壁の上に腰をかけながら。想う。

 感謝しても感謝しきれない。そして愛してる。

 また、いっそう愛が深くなった。





 勇者が来る。一人だけ来る。最強の強者が。

「トレイン!! みな………逃げたのか………」

「はい!! 魔王さま!! では………自分も逃げます」

 部下が逃げた。仕方がない自分は対峙しようと思う。しかし、何故だろう…………心の底でワクワクするのは。

「殺されるかもしれない筈なのに………なんだ?」

 気にしてもしょうがないが………悩みながら勇者が来るまで玉座に座り。勇者を待つ。 ここは魔国の都市。魔王城の玉座の間。誰の玉座?もちろん余である。

 今日、命知らずの勇者が目の前に立っている。他の部下は勝手に逃げ出した。使えないやつらだ。

 そして勇者。ここまで来る者。衛兵等では敵わないであろうとも考えられた。

「初めてだ。わざわざ敵国に潜入し我を倒そうとする者が現れるとは」

 玉座から立ち上がり。魔剣を肩に担ぎ赤い絨毯を歩く。人間は勇者と言うものを輩出し、余を倒そうとする。それが伝統なのか、使命なのか知らないが。無様と思う。一人で来るのだから。



§都市ヘルカイト⑰大浴場設営..


 ネフィアが本の世界から目覚めて数週、ネフィアの連れ去り事件が起きて数日後。俺はある依頼を受けることになった。依頼の一環で金色の回数券を手にする。なんでネフィアはあんなにも事件に巻き込まれるのか疑問に思いながら玄関をくぐった。

 金色の回数券は俺らが掘り当てた温泉での大浴場が出来たらしい。聞けば露天という屋外の風呂。先に作ったとのこと。

 依頼者はお客の感想を聞くためにテストとしてギルドのメンバーに依頼をしたのだ。ついでに言うなら………俺らだけVIP対応らしい。金色の回数券は使いきりではない。何度でも入れるとの事だ。

「まぁ、無料ほど怖いことはないけど。ありがたく貰うか」

 温泉狂いの竜人に押し付けられたとも言う。「意見を絶対尊重するから入ってみてくれ」と言っているらしい。何故か恩を感じているらしいが依頼でやっただけなのにとも考える。色々……ブツブツと考えながら玄関の大きい戸を開けた。

「ただいま~ネフィア~」

トタトタトタ!!

「は~い。おかえりゅ…………」

 リビングから駆け足でお出迎えしたネフィアは言葉を噛んだ。俺は言葉を失う。

「………」

「………」

 ネフィアが目線を泳がせ照れながら人指し指を一本立たせた。噛んだ事を恥ずかしいがりながら。

「もう、1回い~い?」

「ああ」

 肯定。ネフィアがリビングに体を隠すまで俺は無言を貫く。リビングに隠れた瞬間、口を押さえて悶える。噛むのも、もう1回って言うのも可愛すぎるだろ。

 叫びたい気持ちを抑え。彼女はもう一度言う。

「ただいま!! 俺の可愛いネフィア!!」

 先に……つい、口に出てしまった!!

「ひゃ!?…………えっと。ただいま」

 今度はリビングから顔を出して挨拶する。唐突の本心を言われ恥ずかしいらしい。俺は………とうとう耐えられず。その場にしゃがんだ。





 珍しい、ここでは本当に珍しい、お米というものを食べた。ネフィアが買って来たものだが極上の美味しさだった。

 ほかほかを一口含むと何故か懐かしさで心が満ち足りた。涙さえ滲み……何故か魂が震える。

 「銀シャリ」と言う魂の言葉を思いだしている。その食後。緑茶っというものをいただき一服する。

「ユグドラシル商会けっこう揃うね。腐竜も趣味で変わったの育ててるし凄く料理レパートリー増えて嬉しい」

「よかった~そうそう、これ」

 金色の金属プレートを机に置く。

「冒険者ギルドカード?」

「違う、大浴場の入場カードだ」

「大浴場?」

「温泉出来たんだって」

「ふーん………あっ入場回数無限って。そんなに恩を売らなくても」

「転売してやろうかな?」

「だーめ。好意は売っちゃいけません」

「…………変わったなお前」

「変わったでしょ~これも愛の力に致すところ」

「はいはい……」

「愛をバカにするなかれ………愛を覗いているとき。また愛も見ているのだと」

「…………深淵かな」

 ちょっと妄信ですね、ネフィアさん。だから回復魔法は魔力流すだけで発現するレベルまで至ったとも考えられる。元魔王、聖職者になる。うん変だな。いや……目の前にいる。普通だな。

「どうしますか? 行きますか?」

「明日、重役をお迎えして確認するんだ。そのメンバーに俺たちはがいる」

「なんでぇ~?」

「重役はギルドランクがダイヤを越える者対象だ。俺とランスにリディア、お前にデラスティ。あと他に数人だけだな。他は領主とユグドラシルトの重鎮たちとエルダードラゴンぐらいか?」

「ワンちゃん行くか聞こうかな?」

「残念、ワンちゃんはユグドラシル家だ」

 小屋、最近空な事が多い。居てもユグドラシルと一緒に寝ている。まぁ治安維持にも貢献してるし大丈夫だろう。軽装の女騎手としてユグドラシルが話題になっているのは少し心配だが。

「どうします? トキヤは行くんですよね。覗きはダメですよ」

「覗く必要ないだろ…………言えば覗かせてくれるそうなの目の前にいるし」

「チョロくないです」

「一緒に入ったな」

「あれは………強引に」

「嬉しそうに腕を首に巻いてたなぁ……」

「ああああ!! はい!! チョロいです、チョロいですよ!! 満足ですか!!」

「満足」

 恍惚な笑顔で言ってやる。

「はぁ……もう。酷い人ですね」

「でも、好きと」

「大好きですよ!!…………何言わせるんですか~もう」

「じゃぁ行くでいいな。準備しよう」

「はーい」

 緑茶を一気に飲み干して席を立ち寝室へ向かった。





 次の日。堀当てた場所へ行くと強固な壁に護られていた。壁の中に入ると驚いたのは繁華街のような建築を行っている途中だった。奥には湯とかかれた大きな看板が立っている。

 硫黄の匂いが鼻孔を撫で至るとこに湯気が立ち上る。自分以外も今の現状を確認している人が多い。ここが観光資源になると踏んでいるようだ。卵が湯気で蒸してあった。ドラゴンの無精卵だろう、大きい。

「うわぁ!? 温泉街になってる!?」

「1月ちょっとでここまで!? 流石商会。金に物を言わせてるな」

「ええっと確か奥だよね。あの建物かな?」

 湯の看板を指を差すネフィア。早く行きたいのか俺の袖を引っ張る。その小さい仕草が本当に可愛い。

「まーだ、全部できてないが露天風呂だけはあるらしい」

「行ってみよう!!」

 温泉街を歩きながら周りを見るとドワーフやゴブリンなどの多種族がしっかり怒声を出しながら働いていた。

 ちょっと申し訳なくなるがこれも仕事。しっかりと堪能しようではないか。

 綺麗な竜人の受付嬢に受付をする。魔法の鍵を貰い使い方の説明を受けたのちに風呂が3つあることを聞いた。竜も入れるように大きい釜湯もあるとの事。ひとつ男湯。ふたつ女湯。みっつ混浴。

「あっ………混浴あるね」

「混浴あるな」

「人気ですよ!! 夫婦に!! ヘルカイト夫妻もいます」

 知り合いが既に来ているらしい。

「まぁ………家で混浴入れるし」

「そうですね」

 ネフィアが肯定し女風呂へ向かおうとする。俺は唖然となりながら手を掴んだ。

「どうしたの?」

「お前、男湯とか混浴とかに突っ込まないの?」

「元から突っ込んでないでしょ‼」

「………えーと。そうだったなぁ女湯に入ってたな」

「でしょ? どうしたの?」

「いや、混浴がちょうどあるから………誘うだろうと思って」

「…………トキヤが自分で『家でも入れる』て言ったよね?」

「言った」

「………ねぇ? 入りたいの一緒に?」

「あっ……いや」

「…………仕方ないなぁ~背中流してあげる」

「ごめんな。俺から誘えばいいんだけど外だから………ええっと」

「トキヤ。もうそれ『誘ってる』て言うんだよ。…………私、混浴入りたいなぁ~」

「いいぞ!! 入ろう」

 なんとも優しく察してくれる奥さんか。俺たちは混浴の暖簾をくぐるのだった。





「す、すごい」

「おおお!?」

 脱衣場で嫁の生着替えにムラっとしながら浴場に足を踏み入れる。丸い石を隙間なく敷き詰め。大きい石を並べて風呂桶を作る。木ではなく石の重ね合わせだけで自然な天然な風呂に見えた。

 空は解放され肌寒いが、それ以上に解放感は抜群だ。何人か湯船に浸かっているのが見える。湯気が立ち………気持ち良さそうだ。フワフワの大きい職人技が光る布タオルでネフィアは大事な所を隠しながら湯に近付く。

 自分の嫁は背後から見ると本当に綺麗な体をしている。隠しているのが余計にそそる。

「トキヤ………鼻伸びてる」

「ばっか早く!! 入るぞ!!」

 近くに木桶があり、それでネフィアが体に湯をかける。

「ネフィア? 入らないのか?」

「トキヤ、打ち湯と言って先ずは湯をかけて綺麗にしてから入るんだよ? 寒いけど………東方のルール」

「お、おう………詳しいな」

「詳しいよぉ~本当はタオルも入れちゃダメなんだけどね」

「どうして?」

「汚れるから」

 ネフィアの真似して体を浄めてから、ゆっくり入る。ネフィアは恐る恐る。体を慣らしながら入った。綺麗なちょっとふとましいともふとましくないとも言える足を入れて熱さを確認する。

「ひゃぅ……」

 可愛い声をあげながら。風呂に入り肩まで浸かる。

「ふぅぃ~」

 だらけた声も可愛い。

「ちょっと端で浸かろう」

「うん」

 ネフィアと一緒に広い風呂を泳いで端につく。見覚えのある二人がイチャイチャしていた。

「……ヘルカイト」

「ナスティさんヘルカイトさん、こんにちは」

 大きな体の屈強な男はここの領主ヘルカイト。そしてヘルカイトが胡座をかいている上に座っているツギハギの体を持つのが腐竜ナスティだ。

 ナスティはタオルを巻かず細い体を見せつける。腰はヘルが力を入れれば折れるように細く、胸もあまり大きいとは言えない。だが…………継ぎ目があるが綺麗な体型である。気持ち良さそうに彼に体を委ねるドラゴンゾンビ。

「…………二人さん仲がいいことで」

「がははは!! そうか? いつもこんな感じだぞ!! がははは!!」

「い、いつも。揉まれてるんです!?」

「ん? ああ、こいつがこうしろああしろ五月蝿いから従ってるんだ」

「ヘル……言わないの」

 照れながらも。やめさせない辺り度胸が座っている。あと、ヘルカイト領主よ。操られてる。

「………トキヤ」

「やらない」

「………座るだけでいいから」

「ああ……それだけなら。位置変えよう。こっちが恥ずかしいわ」

「だね~」

 場所をまた変え、自分の目の前に嫁を座らせ抱き締める。抱き締めた瞬間の柔らかさを感じながらネフィアは俺に体を預けてくる。

「気持ちいい………」

「ああ、気持ちいいなぁ」

 二人でのんびりしていると。脱衣場から二人新しい面子が見えた。

「こ、こら!! デラスティ!! 走らない!!」

「みて!! 竜姉!! 昔行った山の風呂みたい!!」

「デラスティ!! 飛び込まない!!」

「…………ごめん。つい!!」 

 小さい少年と親子のような感じでこれまたエルダードラゴンが入ってくる。幼く見える少年はデラスティと言うワイバーンの竜人であり。ギルド長の一人だ。ランクは竜狩り。ワイバーンの天敵を一人で倒せる強者と。それを一から育てた火竜ボルケーノが入ってくる。

「竜姉!! 胸ちょっと大きくなった?」

「き、きのせいじゃい!! 変なところ見るな!!」

 タオルで隠しながらモジモジする。歳食った婆さんらしいが姿や仕草は若くなっている気がする。

「触ってもいい?」

「ダメ!! 乳離れしたでしょ!!」

「ちぇ~」

 マセガキの少年だが。一応ワイバーンでは成人である。

「ん? ああ!! ネフィア姉さん。トキヤ兄さん!!」

「よっ!! デラスティ!! 姉ちゃんと一緒に入るんだな。報告書どうする?」

「気持ちいいじゃダメだよねぇ………」

「だなぁ~悪いところをさがさないと」

「あとで集まろう。ランス兄さんも来るし」

 混浴に来るとは限らないがな。ムッツリスケベだしな。にしてもこの少年だが。仕事はしっかりとこなす。俺はボルケーノを見る。

「こんないい子にどうやってお前みたいな奴が育てられるんだろうなぁ」

「五月蝿いぞ!! わかっている………まぁ………気の迷いだ」

「竜姉優しいけどなぁ~。うん、僕にだけ優しいのかもしれないけどね」

「…………ふん」

 火竜ボルケーノが顔を隠し震える。嬉しいようだ。

「ねぇデラスティくん………私の胸、揉んでみない?」

「ネフィア姉さん!?」

「ネフィア!?」

「お、おまえ!! そんな淫乱な事を教えるなぁ!!」

「揉みたい!! ネフィアお姉さんの!!」

「デラスティ!? や、やめなさい!! 汚れるわ!!」

「汚れるって失敬な!!」

「ええぇ………だって」

 俺は見逃さなかった。デラスティの瞳の奥が笑ってない事を。アイコンタクトでネフィアに何かを伝えていることを。こいつら、確信犯か。

「竜姉………揉ましてくれないし」

「そ、それはだな………ああええっと………こ、こう何人も子を産んでる身だ。き、きれいではないし………大きい訳でもない………まぁ腐竜よりはあるが………いや………あいつは男だったな………はは」

「ネフィア姉さん~揉まして~」

「いいよぉ~」

「だめええ!!!」

 ボルケーノが赤くなり叫ぶ。ちょっと火を吐いて俺の顔とネフィアの顔に当たった熱い。

「あっつ………」

「あついねぇ」

「す、すまん。だがダメじゃ!! ダメじゃ!!」

「デラスティ良かったね。竜姉揉ましてくれるらしいよ」

「やった!! 竜姉!!」

「そんなことは一度も!!」

「竜姉すきぃ!!」

「…………す、すこしだけだからな」

 俺は驚く。あの怒り狂ったババァでも可愛くなれるのかと。

「か、岩影でこっそりなデラスティ」

「うん!! ありがとう………ネフィア姉さん」

「ええ」

 岩影へ二人が移動する。俺は、こっそりネフィアの胸を揉んでみる。弾力がある。

「トキヤ?」

「揉んでもいいだろ?」

「いいよぉ~」

 しばらく、ランスロットが現れるまで丁寧に揉んでみたのだった。ランスはムッツリから普通のスケベへと昇進した。







 デラスティが報告書について話があると言うことでギルドメンバーで集まった。プラス領主だ。

「ランスケベ。報告書どうする?」

「名前を普通に呼んでくれ………」

「ランス報告書どうする?」

「難しいですね。このまま開店は問題ないでしょう。広く、湯も深いですし。向こうは巨体用の風呂もあります。問題はない筈です」

「だよなぁ………アラを探すってもなぁ~」

「僕も困ってる。あっ!! 良いところならいっぱい書けるよ!!」

「おう!! ワシも難しいことは書かないぞ」

「…………トキヤは?」

「おれは………評価が良いことを書こうと思っている」

「評価が良いこと?」

「ああ、こう言う場所の細かな所を書くんだ。見たまんまじゃ客はわからない。絵を描き、中の風景や地図。ルールを事細かく情報を提示する。そして入っていただくようにすればいい」

「なるほど!! それに付け加え、領主の意見を書けば!!」

「宣伝として最高だ。報告書は合同で書こう」

「わかった。これで仕事の話は終わりだな」

「ああ、じゃぁゆっくり入るか」

「ワシは、気になるがお前の嫁さん………普通だな」

 ヘルカイトがネフィアを指差す。

「普通とは?」

「乱れるかと」

「ええ、僕もここで致すのかと」

「僕も」

「お前ら………一応言っとくが混浴に入ろう言ったのは俺だからな?  あいつ女湯へ行こうとするの止めて」

「「「!?」」」

 全員立ち上がる。驚き過ぎだ。

「お前から? てっきり………ネフィアからと」

「ネフィア姉さんのわがままかと」

「ええ………いったい何が………」

「淫魔だからって淫れてなんかないぞ」

 まぁ、家では入ろうっと可愛く誘惑してくるがな。黙っておく。

「外では確かに触れる事は多いが、まだ最低限の分別ついてるよ。あと………俺がいない所ではしっかり令嬢のような感じだしな。お前らは心が知れてるから内面を見せてるんだよ」

「そうだったのか」

「ああ、それより………今、女性陣に近づくのやめた方が良さそうだ」

「何故です?」

「女子会に突っ込むバカもいないだろ?」

「うむ。では期を見てわしらは先に上がろう」

 皆が頷き肩まで浸った。




 トキヤがお仕事の話をしに離れていってしまった。男たちで集まり真面目に話し合っている。「邪魔せずに」と言うことで結果。女子会のようなメンバーとなった。風呂でお茶会を開催してもいいかもしれない。

「ふふ、ネフィアさん。タオルなんてつけて………」

「ナスティさん、羞恥を持たないのはダメですよ」

「そうよ!! あなた元男でも!! 今は女性でしょう!!」

「そういえば、ネフィアお姉さんは元男性でしたね」

「羞恥って言葉を貴女から聞くなんてね~もっと激しくトキヤくんと絡むかと思ったわ」

「…………フフ。実はもうすでにお腹がいっぱいなんです。ナスティさん」

「ネフィア姉さん昔に何かありました?」

「最初、女湯に行こうとしたんです」

「「「!?」」」

「うん。その反応ちょっと癪に触りますがいいでしょう」

 全員空を見上げる。失礼な……雪は降らない。

「じゃぁどうして混浴に!?」

「トキヤは焦った表情で手を掴んだんです。で、何も言わないんですよ………恥ずかしくて」

「う、うん。で?   ネフィア姉さんは?」

「もちろん、『私から入ろう』て言いました。一騎当千の強者なのにこんなところで言葉がでないなんてって可愛いと思いました」

「いいですね。ヘルは渋々でした」

「私もランスは普通に悩んだあとに『私と入りたい』と言ってくれましたよ」

「わ、私は………男湯で一人で入るのが不安だったから!! こっちに」

「ハイハイ………一緒に入りたかったのね。ボルケーノおばあさん」

「ぶちのめすぞ!! ネフィア」

「わーい!! わーい!! すっごーい!!!」

「危ないユグドラシル殿!! 走ってはいけない!!」

 ボルケーノの声を書き消すように少女が入ってきた。ドリアードのユグドラシルとドレイクのワンちゃんが大きい種族用に向かっていく。きっとワンちゃんを洗ってくれるのだろう。

「………あれ。誰?」

「ボルケーノ。あれは都市ヘルカイトの聖樹ユグドラシルよ。ドリアードね」

「本当に1年ぐらいの女の子なんですか?」

 皆が彼女の豊かな胸を見る。そして、エルダードラゴンの二人が見比べ………ため息を吐いた。リディアは「形がいいなぁ~」と言う。

 流石、大樹のドリアード。実りが大きいと思うのだった。





 帰宅、トキヤは先に風呂に上がって報告書を用意したので一緒に帰ってこれた。

「ただいまぁ~」

「おかえりなさ~い」

「ははは。一緒に帰ってきたのにな」

「……トキヤ」

 私は笑うトキヤの首に腕を回し軽く唇を奪う。

「おかえりのキス………今日は楽しかったよデート。ありがとう」

「………うんぐ………玄関でそんなことするな」

「リビングまで待てなかった」

 家ではやっぱり、とろけてしまう。玄関からリビングに移動し。まだ冷えるため暖炉を焚く。帰る前に冷えてしまった。ちょっと遠い。

「トキヤ、紅茶淹れるね」

「おう」

「皆、綺麗だったね」

「………お、おう。見てないからな!!」

「見てたでしょ?」

「…………まぁ」

「いいんですよ」

「何だよその余裕は?」

「正妻の余裕です。だって………一番好きでしょ?」

「………………そうえいば。イチゴ牛乳無かったな」

 恥ずかしいのか話を変えてきた。今日のトキヤは攻めが弱い。

「無かったですね。残念です。イチゴジャム食べます」

「………瓶の半分までな」

「…………」

「返事!!」

「はい………」

「全く………なんでそんなに好きかなぁ?」

「初めて元気になってほしいってくれた果実でした。旅の途中も………責任とってくださいよ。好きにさせたんですから。トキヤだって好きでしょ?」

「ああ、好きだな。だけど」

「だったら気持ちわかるでしょ?」

 トキヤが真っ直ぐ私を見る。

「何よりもお前が好きだから全部我慢できるんだ」

 私は顔を手で隠し、へたり込んで何も言えなくなったのだった。


§都市ヘルカイト⑱元魔王の1日..


 
 朝、小鳥が囀ずる中で私は起きる。隣の寝坊助さんの頬にキスをしたあと。一階へ降りて玄関へ行き。牛乳瓶2本と卵2個を受け取り台所に立つ。朝イチに毎日届けてくれるのだ。お金の集金は月終わり。停止するなら手紙を箱に入れればいいと、凄く優しいサービスが開始されている。生乳は腐りやすいため、その日に飲む。

「ありがとうオークさん。すごく助かるなぁ~」

 制度を作ったユグドラシルのお父さんに感謝しながら炎でパンと卵を焼く。塩コショウという調味料を手に入れたのでそれをまぶした。

「ふぁあああ~おはよう」

「おはよう。今日は起きてきたね?」

「ん?………まぁたまには」

「最初は私の方が寝坊助だったのに」

「無理してたんだって」

「知ってる。知ってて………言ってる。何度も言ってる」

「なんだよ………しつこいぞ」

「何度も愛されてたなって思い出すのはダメ?」

「……………朝からノロケはダメ」

「ほっぺにキスするのは?」

「ダメ」

「えっ?」

 トキヤが台所まで来た。肩を捕まれトキヤが屈んで唇を軽く重ねる。

「おはよう。目が覚めたよ。今度からは口にしな」

「ううぅ………眠れる姫様は逆ですよ~」

 なんとも朝からバカな事をしてると思っているが………愛おしいから仕方がない。


 *



  お昼時。シーツの取り返え。洗濯後、トキヤはソファーの上で二度寝をしていた。スヤスヤと。

 ぷにぃ~

  眠っている旦那様のほっぺたをつつく。思ったより柔らかく。そして起きない。

「ふふ……起きないね」

 穏やかに無防備に寝る顔はだらしなく。そして………可愛かった。男の可愛いとはへんな話だが。ギャップっと言う素晴らしいものがその顔にある。

「………ずっと眺めていたいなぁ~」

 好きな気持ちを抑えられない。

「…………昼までちょっと眺めてよう」

 好きな人の見るお仕事………あったらいいのになぁ。


 *


 パスタでの昼食後。紅茶を飲みながら一服する。

「ごちそうさま」
 
「お粗末様でした。朝も食べたのによく入るね?」

「美味しいから? 太ったしなぁ………あとで剣を素振りしようかな?」

「トキヤ………私の約束は?」

「ああ~ええっと膝枕か」

「うん」

 ソファーに座るトキヤ。足を組まずに待っていてくれる。食器を洗い、手を吹き急いでソファに向かう。

 ぽんぽん

「それでは………失礼します」

「そんなに畏まらなくても」

「ふぁあああああ!?」

「ど、どうしたいきなり!?」

「見上げたら好きな人の顔が近くに!!」

 私は顔を手で隠した。ちらっと指を開けて確認し目を閉じる。

「ぶふぅ!?………まぁ……うん、ヤバイヤバイなんで俺が膝枕で悶えそうになってるんだよ!!」

「トキヤしゃん!! スゴい!! 女性でも好きな人の膝枕は楽しめます!! 発見です!!」

「ああ、わかった。黙ってな。落ち着いたわ」

 頭を撫でられる。撫でられた箇所はムズ痒くて気持ちをいい。優しい手つきで私を幸せにする。

「むぅ………もっと良さを知っていれば。しっかりもっとやれてたのに」

「大丈夫、これから好きなだけ出来るぞ」

「………そうだね」

 気持ち良く………少し眠気が来た。

「ん………ん………」

「眠い?」

「うん………」

「寝ていいぞ」

「うん…………」

 私は目を閉じて暖炉から反対側に寝返りを打ちトキヤの方へ向いた幸せな匂いがしてすぐにいいゆめを見れそうだった。


 *


「ん!?」

 私は目覚める。トキヤの膝枕から飛び起きて時計を見た。夕方だ、ご飯の用意をしなくちゃ。

「ごめん!! トキヤ!! ずっと………膝枕………ごめん……すんぅ……」

「おいおい……泣くなって。大丈夫。可愛かったかったし寝てしまったのは俺もだ」

 トキヤが優しく人さし指で涙を拭う。

「でも………ごはん」

「今日は外で食べに行こう」

「えっ?」

 私を抱き寄せて手を握る。姫様を扱うような優しさ。

「一緒にどうですかお嬢さん?」

「…………はい」

 断れる筈もなく私たちは外食することにした。


 *


 行く場所は決まっているようで私はただ彼に後ろからついていく。

「どこ行くの?」 

 背中に声をかける。

「洒落た店とか、そんなの俺には無理だ。ランスなら………あれだが………だから。ごめん………酒場でいい?」

「トキヤ………私は妻です何処へでもついていきますよ」

「お、おう……どうも」

「それよりも………一つ忘れてますよ」

「なに?」

「…………」

 彼の裾を引っ張る。あまり彼はその行為をしない。だから………私からお願いしようと思う。

「お手て………お留守にしてます」

「そうか。すまなかった………」

 彼に手を握って貰い、並んで歩く。

「好き……」

「外だぞ控えろ」

「うん………でも、好き」

 私は彼に対して我慢は出来ないようだ。


 *


 酒場はギルドだった。カウンターで隣の合わせで座り頼むのはピザと言う小麦粉を平たく丸く延ばしてトマトやチーズをもろもろを乗せて焼いた料理。それを葡萄酒でいただくとツマミにもなって美味しい。値は張るが美味しいので気にしない。

「ふふふ………懐かしい」

「何が?」

「いっつも酒場でごはん食べてましたよね」

「冒険者のときか」

「そう………沢山あったね」

「まだこれからだろ? 末長くってな」

「信じてる? 末長く」

「信じてる。お前が一番」

「トキヤ……ここ外だよ?」

「酔ってるな………色々と。ネフィアにも?」

「ふふ、本当に酔ってる」

 コト!!

「ん?」

 虎柄の獣人店員が枝豆を出してくれる。

「サービスしとくよ。仲のいいご夫婦さん。ギルド長も女には目がねぇなぁ」

「ありがとう」

「どうも………いい女だからな」

「ちがいねぇ」

「もう………そんなに褒めて。なにも出ませんよ」

 店員とトキヤが笑う。私もつられて笑ってしまった。そして…………曲が聞こえる。

「雇ったのか? 歌い手」

「いいや、ありゃ~勝手に歌ってるだけだな」

「そうか………ネフィアのが聞きたいな」

「わかった………じゃぁ歌うね」

 私は本の中で知り得た歌をうたう。皆が聞いてくれて酒場が静かになり、酒が回るまでアンコールをせばまれるのだった。


 *


 酒場を俺は出る。ネフィアを背負って。歌は凄くよかった。あんなにも昼寝をしたが、色んな歌をうたい………疲れて寝てしまった。

「んんん…………」

 背中に女性特有の優しい匂いと柔らかさを感じる。

「………本当に可愛い」

 苦労して手に入れた宝は大きく。俺の心を満たす。

「トキヤ………大好き」

「全く……夢でも俺かよ」

 でも、全く悪い気はしない。

「ときやぁ~ん…………んんんん………愛してる」

「ああ………愛してる」

 俺も酒が廻ってしまったらしい。寝言に付き合ってしまった。

「愛してるんだから仕方がないか………」

 「イチゴジャムを自制しろ」と言うが………自分も自制出来てないと思いつつ帰路を歩くのだった。




§都市ヘルカイト⑲ エルフ族長の訪問..



 家ではトキヤの帰りを大好きな童話を知っている人物でキャラを変えて読んで待っていると誰かが訪ねてきた。慌てて本を閉じ背筋を張る。

 妄想から現実に戻された私は非常に恥ずかしい思いのまま玄関に顔を出した。よだれをふく。

 顔を出した玄関では鏡で見た私そっくりの女の子がおり、驚く。そして隣を見ると騎士の礼服軽装をしたエルフ族長が笑顔で立っている。呪いの品々を贈ってきたご本人様登場で私は拳を握しめた。その笑顔に苛立ちを覚える。

「あら………こんにちは可愛い人。あと、エルフ族長グレデンデ!! あなたねぇ!! 呪いの品贈りすぎ」

「姫様………申し訳ありません。ですが………姫様以外に処理出来る方も少ないですので仕方ないのです。お金はお支払いしております」

「…………まぁそうね。でも断りも入れず贈ってきたのは許せない」

「はい。良くわかっております。ですのでお詫びの品と謝りに来ました」

 女の子が恐る恐る木の箱を渡す。渡された木の箱にはイチゴが入っていた。

「えっ? あら………」

「あと、こちら。金貨です。本当に助かりました」

 私は金貨の入った袋を受けとる。手にズシッと来る重さにビックリする。

「えっ? こんなに!?」

「いえいえ………ほんの一部ですよ」

 ニコニコと笑う。お金で解決しようとするのは些か癪だが。「終わったことだし」と思う。

「まぁいいでしょう。許しますよ」

「姫様、ありがとうございます」

「ありがとうございます…………姫様」

 女の子とエルフ族長が頭を下げた。まぁ愚痴を言い過ぎても………女の子は関係ないし可愛そうなのでここまでで切ることにした。それよりも気になることがある。

「お二人さん。お茶でも飲みませんか?」

「いただきましょう」

「………」

「ふーん」

 この私に似た女の子、意思が薄い。

「お邪魔します」

「お邪魔します………」 

「ええ、どうぞ」

 私は二人をリビングへ案内し、台所へ立つ。いつもの茶葉でいつもの動作でいつものお茶菓子を用意する。二人はテーブル席に座り私を待つ。

「はい、どうぞ」

「いただきます」

「いただきます………」

 私の分は淹れない。飲んでしまったからだ。それよりもチビチビと飲み。用意したクッキーを少しかじる私のそっくりさんを眺める。無言の時間が過ぎる。

「美味しいですか?」

「………はい。美味しいです」

「そっか………よかった」

 にっこり笑ってあげるが顔を伏せてしまう。恥ずかしいのかもしれない。

「姫様………色々。実は頼みごとがありまして。ヘルカイトの領主様に私をご紹介してほしいのです」

「それが目的ね。族長がこんな辺境まで来るんだから」

「辺境? こんな立派な都市が? ご冗談を。新興都市ヘルカイト。今、話題ですよ。特に木になる実が美味とか」

「私は好きじゃないかなぁ~変な気分になるの」

 ユグドラ汁。流行ってるのかしら。

「いいわ。紹介する。今すぐ行きましょう」

「姫様、彼女は置いておいて良いですか?」

「いいですよ。ソファーでくつろいでも」

「ははは。ええ………いい子にしてるんだよ」

「はい、ご主人様」

 私たちは立ち上がり。彼女を置いて領主に会いに行く、彼女を置いて。





 領主へ向かう本通り。出店や、呼び掛けが多く賑わっている。皆、私を見るや挨拶して「買って買って」とせがまれた。まぁ冗談で噂話や領主の悪口から面白話をしたい、という人ばかりだ。種族も多種多様に富んでいる。変わり者が多いのが特徴だ。

「本当に賑わってますね。あとご友人が多いのですね姫様は」

「皆と話を色々ね。それよりも姫様姫様と言うのやめませんか?」

「すいません、姫様………あっ」

「ふふふ……無理そうですね」

「面目ない」

 エルフ族長も大分柔らかくなった。昔は四天王一角で魔国を睨み付けていたのに変わったものだ。私は色んな人に挨拶しながら………本題を話す。

「ヘルカイト領主に会って何するつもり?」

「秘密ですが………宗教を少し」

「宗教?」

「教会をご存知ですね。あれです………」

「ふーん。あなたも聖職者?」

「いいえ、信者です」

「そっか。愛は偉大だもんね」

「もちろん」

 手を上げてハイタッチする。私は今までの事を全部許した。

「じゃぁ………次。こっちの方が知りたい本題だけど。あの子はもしかして?」

「ええ、姫様を模した奴隷です。トレインは彼女の下で摂政を行い。彼女に魔剣のレプリカ贈呈式を行い。捨てる予定だったんです。毒殺でね。まぁそれは全部、姫様が譲位したから良かったのです」

「彼は用が無くなったからあなたが譲り受けたのね」

「ええ」

「………でも元気が無かったね」

「知ってます。いつもビクビクしていまして……虐められていた事を忘れられないのでしょう」

 エルフ族長が頭を抱えた。

「何度も話かけてるんですが………あまり元気にはなってくれません」

「そう………」

 元奴隷。何かされていても不思議ではない。私たちはその会話を深く掘り下げながら歩き領主の館まで出向いた。領主に謁見し、後日また会議を開いてくれるそうだ。領主は心が広く大きく飛び込みでも許してくれて、それに私は感謝しながら家に帰るのだった。






「ただいま………あれ?」

 俺は仕事を早めに切り上げて帰宅した。重役が来ると連絡があったからだ。

 お帰りの挨拶をするといつもなら可愛い嫁が出迎えてくれるがそんな気配はしない。靴を見ると嫁の靴がなく。新しい靴がある。買ったが履いていないのだろうなと思う。

 物静かな玄関、この時間は買い物にでも出掛けたのだろうか。

「………!?」

 リビングに椅子に座る嫁が居た。ピシッと身を縮めて座っている。小動物のような雰囲気だ。

 挨拶がなく眠っていたのだろう。俺はいたずらを行う事を決め近寄る。優しく起こすために。今日はお人形のようなドレスで少しお洒落しているが気にせず触る。

「ネフィア~ただいまぁ~」

 むにゅう

 後ろから胸を揉む。だが、なぜか、いつもと違うと感じた。

「………んん??」

 いつもより柔らかく小さく乳房も位置が違う。しゃがんで腰や、太ももを触る。再度立ち上がり抱き付いて見た。ネフィアらしき女性が怯えた表情で振り向く。

「…………んんん!?」

「ただいまぁ~あっトキヤ帰って…………」

 俺はネフィアではない女性を抱き締めながらご本人がリビングに入って固まる。その背後に今日来る予定の重役。エルフ族長が顔を出して腹を抱えて笑っていた。

「どうしたのト・キ・ヤ?」

「ええっとこれは………その………」

 慌てて離れる。ヤバイ、口元笑ってるけど目が笑ってない。

「ま、まて!! 起こる前に彼女に謝らせてくれ。間違えて色々してしまったんだ。えっと………君。名前はわからないけど………すいませんでした」

 土下座して、間違った少女に頭を下げる。

「うん………大丈夫………です。なれてます」

「すいませんでした………」

「…………はぁ。トキヤ、まぁ今回は!! 許しましょう。間違ったのは仕方がないです」

「あっ………いや………多分途中で気が付いた」

「確信犯ですかぁ? トキヤあぁ」

「違う!! 色々やっちまって!! あああ!! 余計なことを俺はあああ!!」

「…………何したか後で聞かせてね?」

「………はい」

 ネフィア怒ると怖いが、凛々しい姿で怒る姿は「綺麗であまり苦にならない」と「俺はきっと変わってるんだなぁ」と考えた。怒っても可愛いは犯罪だ。

「何でにやけるの?」

「あっ……いや。まぁ色々………凛々しくて可愛いなって」

「…………許しませんよ?」

「いいよ。一人で満足するから」

 そのあと少しネチネチ言われて日が暮れた。エルフ族長に止めてもらい開放される。エルフ族長には感謝し、そして酒を誘われたので二人で酒場へ向かう。彼は何か理由があって俺はそれに従い家を出る。





 男二人は飲みに行く。仕事話以上に何故か私と彼女を二人にしたい理由があるのだろう。それがわかり。空気を読んで彼女と二人になる。今日、泊まって行くことも視野にいれる。何故なら鞄も用意されているのだ。エルフ族長は何かを企んでいるが………私は何もわからなかった。

「ご飯。夕飯何か食べる?」

「…………えっと。何でもいいのです」

「好きなものは?」

「お腹に入ればいいです」

 私は悩んでしまう。本当に奴隷として扱われていたようだ。私と違い泣きホクロがあるが………本当に泣いているような錯覚になる。

「…………わかった。待っててね」

 私は静かにエプロンをつけて料理を始めた。






 軽くペンネというパスタで市販の瓶詰めトマトソースを和えるだけの簡単な料理をした。私に似た彼女はしっかりと残さず食べてくれた。

「美味しかった?」

「えっと……はい………姫様」

 ちょっと明るく姫様と呼ぶ。食器を片付けて紅茶を用意し、無言を貫く。彼女は喋ろうとし、黙り。でも喋ろうとする。何かを言いたいのは何となくわかっていた。食事の時も私を見ては伏せていたから。

「えっと………姫様」

「なぁに?」

「…………どうして………私は姫様と違うんでしょう」

 私に似た女の子は喋り出す。名前は無い女の子が喋り出す。

「あの………ええっと…………どうして………私は幸せになれないのでしょう………どうして姫様と同じ容姿なのに………こんなに差があるんでしょうか?」

 唐突に言い出す彼女の嘆きは………自分の不幸を呪う言葉だった。

「…………いっぱい色んな事をされました。いっぱい色んな事を聞いてきました。なのになんでこんなにも婬魔の姫様と違うんでしょうか?」

「……………そうね。違うわね」

「…………妬ましいです」

「ふふ。そう………羨ましい?」

「……はい」

「うん。答えは本当に残酷だけど生まれた場所、それからの人生、そして運。すべて平等ではないの。残酷だけどね」

「…………」

 きゅっと彼女の顔が辛そうな顔になる。同じ私の顔でそれは何となく懐かしさを覚えた。辛かった時の顔を。

「名前………無いんだったよね?」

「はい、ご主人様はつけてはくださいません」

「それは寂しいわね」

 後で問いただそう。エルフ族長を。

「ねぇ、そう思わない? ネフィアちゃん」

「えっ?」

「名前無いなら。私がつける。ネフィア………いい名前でしょ?」

「えっと!?………姫様の名前ですよね? そ、そんな奴隷と同じ名前なんて」

「ネフィア。そんなに自分を卑下しないの」

「!?」

 私は微笑む。何かの縁だ。同じ彼女には笑ってほしい。

「姫様………えっと」

「ご主人様は優しい?」

「は、はい………優しいです。今までのご主人様たちよりずっと」

「じゃぁ………エルフ族長にお願いするわ。『あなたを幸せにしてあげて』と」

「えっと………そんな………」

「幸せになりたいんでしょ?」

「………そうですけど」

「なら、きっかけは作ってあげる。だけど、そこからは努力をしなさい。エルフ族長の元で愛される努力を」

「は、はい………ありがとうございます」

 私は何となく彼が私に託した理由がわかった気がする。きっかけを作って欲しかったのだ。

「ネフィアちゃん、風呂入って布団に一緒に入って童話でもお話ししてあげるよ」

「姫様がですか!?」

「そう」

「ど、奴隷で………」

「ネフィア。今からあなたは『奴隷』と自分で言うのを禁止にするわ。命令」

「は、はい………」

「ネフィアと言うこといいね?」

「はい」

 少しづつ明るくなっていく。希望が見えたのだろう。そう…………小さな希望が。





 ギルドの酒場。俺は酒を含んで嗜む。

「ネフィア、上手くやるかな?」

「姫様で変わらないなら。お手上げです」

「………ご執心だな」

「ご執心と言うよりも……あそこまで似ている女性を無為には出来ませんでした。頑張った結果でしょう」

「………あれも婬魔だよな」

「ええ。お気づきですか?」

「婬魔の恐ろしさにな」

「ええ、恐ろしい。変化出来る力は」

「だから婬魔か、相手の理想を自分に投影し形を変えていく」

「姫様の『愛が深い種族』というのも納得です」

「…………」

 俺は何となく気が付いていた。ネフィアの近くで。

「婬魔が虐げられるのも無理はない話です。魅力的な雌は色んな種族で邪魔です。雄を奪われる。だから危険で嫌われてるんです。しかし、まぁいつかはそれも失くなっていくでしょうね」

「なぁ教えてくれ。お前はまだ夢を追いかけるのか?」

 ネフィアを「魔王にしたい夢」を俺は聞く。

「はい………諦めておりません。神託がありましたよ」

「妄言か」

「いいえ、直接会いましたから」

「?」

「教会をご存知ですね?」

「ああ」

 インバスの都市にある宗教集団だ。愛の女神を信奉し、末永く一緒にいることを望む者が集まる場所。

「現れたんです。女神が」

「………頭がイカれた?」

「いいえ。引き寄せられるように…………姫様によく似て、お美しい方でした。少し破廉恥な姿でした」

「女神………嘘はよくない」

「まぁいずれですね。教会を作りますし出会いますよ、きっと」

「そうかぁ………いるのか………」

 俺の中に何故か納得している自分がいる。本能的と言えばいいのか。体の感覚では女神はいることを知っていた。考えでは「居ない」と思っているのにも関わらずだ。

「俺は嫌だが、ネフィアは喜ぶな」

「ええ、喜ぶでしょうね」

 俺たちはゆっくりと時間を過ごす。皆が寝静まる時間まで。





 深夜、玄関をゆっくりあける。寝静まった家ではやはり、物音はせず。魔法で聞く限り寝息が聞こえた。音を消しながら階段を上がり寝室へ行くと。ダブルベットに寝間着姿で抱き合って寝ている二人がいる。俺は穏やかな気持ちで嫁を撫でる。

「エルフ族長の言う通りか」

 1階へ降り俺はソファで横になった。まだ寒い時期なので暖炉に火をくべる。魔力炉なので火をくべると言うよりも魔力を流して火を出させるみたいな物だ。

「起きたときどうなるだろうな」

 目を閉じて自分は酒場での会話を思い出しながら眠りついた。







 朝起きてソファーで寝ているトキヤさんに御礼をいい。ネフィアちゃんに朝食をお出しする。

 朝食後、トキヤの隣にネフィアちゃんがソファーに座りエルフ族長のお迎えを待つ。トキヤが私との出会いを語って彼女を楽しませ時間を潰す。トキヤは家を遅く出るようだ。音の魔法でエルフ族長が来るのを待ち、玄関前に来たところで私は玄関へ向かう。

「エルフ族長」

「おっと、おはようございます。姫様………何故、今来られるとお分かりに?」

「魔法よ魔法。それより、私と来てほしい。話がある」

 自分はエルフ族長と一緒に路地裏へ移動した。移動した先で頭を下げる。

「エルフ族長。領主に取り合った御礼をください」

「ああ、そんな頭を下げないでください。もちろんご用意させていただきます。あまり大きな金額は見込めませんけど」

「いいえ、お金がほしい訳じゃないの。あの子に対してお願いがある」

「何でしょう?」

「幸せにしてあげて。ただそれだけ…………そんな贅沢とかじゃなくていいから」

「………奴隷ですよ?」

「………あなたはそんなこと言う人なのね。ショックです」

「あっ……いえ。すいません。試したんです。すいません」

「言い訳はどうでもいい。それよりも報酬はネフィアを大切にしてね。仕事もしっかりと教えて」

「姫様?」

「名前無かったのでしょう。『ネフィア』て名乗らせたわ。私と一緒、姫様と尊敬するなら。蔑ろに出来ない名前ね」

「はは、そういう事ですね。わかりました引き受けます。ネフィアさんは責任もって相手をします」

「ありがとう」

 偽善者と言われるだろう。でも同じ婬魔、同じ顔に容姿の子の幸せを願ってもバチは当たらないだろう。私は彼女と出会ったのだから。

「いいえ、最初からそのつもりでした。いい名前です」

「でしょ!! 私も大好き。名付け親………私の世界で一番愛しい人だから」

 新しい私に幸が多からんことを。





 久しぶりに出会って感じる。姫様は姫様だった。尊敬する姫様であった。私は奴隷だった女の子。ネフィアと言う名前の女の子を引き取る。たった1日で彼女には笑顔が浮かんでいた。年相応の可愛らしい笑顔。

「ネフィア……姫様はどうだった?」

「はい!! 私みたいな子と分け隔てる事なく優しくしてくださいましたご主人様」

「良かったですね。ネフィア」

 私は名前を呼び続ける。ネフィアと。

「ご主人様………お優しいですね。すごく」

「どうしたのです?」

「いえ、今まで。ありがとうございます。気にかけていただいて嬉しい限りです」

「そうですか」

 彼女の頭を撫でる。私はそこまで素晴らしい人ではない。何故なら。

「ネフィア。帰ったらしっかりと仕事を教え込みます。大変ですが頑張ってください。仕事を覚えれば自立も出来るでしょう」

 残念だがそれはさせない。彼女に首輪をつける。私は偽善者だ。私の物として働かせる。

「ありがとうございます!! ご主人様!!」

「お礼はいりません………仕事で誠意を見せていただければ大丈夫。奴隷のような仕打ちはないです。私が許しません。姫様と約束しました。君を幸せにすると」

「姫様が!?」

「ええ、あなたは運がいい。ネフィア………まるで姫様のように」

 自分は彼女を使う。道具として。いつか罵られようとも…………私は彼女を使う。

「ありがとうございます!! ご主人様……感謝してもしきれない程に」

 無垢な少女は嬉しそうに微笑えんだ。「いつかは私の右腕になってもらわないとな」とも考える。

 似ている彼女は影武者として利用できる。だからこそ姫様に合わせた。

「私も姫様みたいな………人に近付けるよう頑張ります」

「ええ、期待してます。誰よりも」

 姫様を見てそれに近づければ…………姫様居なくとも動ける。己の野心のために。この子を利用する。
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