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女神の尖兵
女神の尖兵、悪用される魂
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§プロローグ
暗闇の中でポツリと一つの椅子があり俺はそれに座っていた。俺は交通事故で死んだ。何故、死んだかわからないが教えて貰ったのだ。誰にかって言うと目の前にいる女神だ。そう目の前の美少女にだよ。
「気分はどうですか?」
凛とした綺麗な声で問いかける。綺麗な瞳と長く黒い髪がスラッと伸び。ふくよかな胸に、綺麗な生足で俺は唾を飲み込んだ。パンツ見えてる。
「えっ? あっはい!! 元気です!!」
何処とは言わない。
「ふふ。それは良かったです。勇者さん」
「勇者?」
「そう、あなたは選ばれました。世界を救う英雄となってください」
俺はポカーンと口を開ける。自分は最近流行りの小説が異世界転生物だったのでそれが現実に起きていることに驚く。
「いや、その………」
「辛い戦いでしょう。しかし………人々の未来を救ってください‼」
目の前の美少女に頭を下げられるとつい。男なら「ウン」と言いたくなる。しかし、おれは我慢して一つの事を聞いてみる。
「俺、死んだんですよね………」
「はい。しかし、生き返らせる事が出来ます」
「ん?」
「交渉です。私は世界を救って欲しい。救っていただければ願いを叶えます」
「何でも?」
「何でも」
「ハーレムでも?」
「クスッ………男の子ですね」
「あっ……いやぁ~」
俺はつい。本音を口にしてしまった。だが目の前の美少女は目を細めて嬉しそうに微笑む。そう、まるで母親が子の間違いを面白がるような暖かい微笑み。
「出来ます。あなただけの………ハーレムを」
「やらせてください」
2つ返事で俺は頷いた。性欲に身を任せて頑張ろう。そう決心したのだ。
「あっ!! 俺、小説で読んだんですけど!! 能力くれるんですよね‼」
「ええ。苦しく辛い戦いです。特別な祝福が必要でしょう」
「強い能力がいいなぁ~。何を貰えるんですか?」
「不明です。しかし、必ず役にたちます」
「やったぜ!!」
これはあれだ!!何でも微妙そうな物を貰ったのが実は結構有用だったりするあれだ。
「では、勇者。目的をお話しします。今、世界は魔王によって滅ぼされ壊されようとしております。その力は強く強大で。人間を脅かしております」
話を聞いていくと「王道冒険物語の話だなぁー」と俺は思う。
「それを倒して欲しいと?」
「はい。私たち女神は授ける事しか出来ず。今の魔王に苦労しております」
女神が悲しそうに目を細める。それを見た瞬間に俺は立ち上がり胸を張った。美少女を悲しませるなんて許せない。
「俺に任せてください!! チャチャチャっと倒して安心させますよ」
「ふふふ。逞しいですね。流石、勇気ある者………では頼みましたよ。世界を悪しき魔王の手から救ってください」
「もちろんです。女神様!!」
「呼び捨てでいいですよ。ヴィナスと言います。勇者さま。では………今から転生を行います。場所は帝国の首都。もうすでに何人かの仲間もいます」
俺は体が浮く。幻想的な青い光に導かれた。
「おっ?おっ?」
「使命をお願いします」
フワッと浮いた瞬間。目の前が真っ白になった。
§勇者の目覚め、情報収集
「んん…………」
俺は目の前が太陽の眩しい光によって目覚める。
「んあ……ん?」
「起きましたか?」
「あ、はい。おはようございます」
「おはようございます」
ベットにシスターが座っていた。シスターと言っても腰にメイスをつけ、スカートにスリットがあって白い太ももが見える。シスターとわかったのは頭の被っている帽子が十字架の刺繍がされていたからだった。肩や足が見え、スリットの中のガーターベルトのニーソなんて履いてる聖人なんて異世界しかいない。異世界だったここは。
「えっとここは」
「はい、ここはですね。勇者。帝国ドレッドノートの首都です。ここは私たちに融資してくださっている方の持ち家です」
見た目はあれだか、声は優しい同級生のような感じだ。
「融資?」
「はい。女神の信託を聞き私たちを助けてくださる方です。インペリウム家と言う貴族さまですわ」
「へぇ~」
寝惚けた頭で整理をする。異世界でも協力者はいる。そりゃそうだ。異世界の勇者でも最低限装備を渡されている。仲間だって。
「もしかして仲間ですか?」
「はい、転生者です。記憶は曖昧ですが」
「俺と一緒かぁ~能力とかある?」
「細かなお話は皆さんが揃ってからにしませんか?」
「皆さんとは?」
「他にも転生者はいるんです」
俺は驚いた。転生者は複数いて味方なのだ。と言うことは。
「あなたも勇者ですか?」
「はい。聖職者のコスプレをしています。サーチです」
「コスプレ………コスプレ!?」
「私はちょっとこの服は聖職者ポク感じませんから。信仰深くなると何故か布が減るんですよ?」
「あっ……うん」
異世界七不思議だ。
「お名前を聞いてもいいですか?」
「いいですよ。名前は」
俺は自分の名前を言おうとした瞬間。驚く。
「ライブラ!! 能力魔法図書館を持つもの!!」
昔の名前を思い出せない。
「わかりました。あと………私たちは昔の名前を忘れています。能力名が名前ですね」
「そ、そうだったのか………まぁでも異世界で新しい自分なら新しい名前の方がしっくりくるね」
「はい!! ヨロシクお願いしますライブラさん」
彼女のかわいい笑顔に鼻が伸びる気がし、ベットから降りるのだった。
*
朝食をいただきながら俺は自己紹介を行う。シスターは既に知っていたが他二人にも挨拶した。二人もかわいい。
一人は騎士メデューサ。長い紫の髪を持つ女性。名前の通り有名な能力で石化を行うことができるらしい。騎士の鎧は鋼の色で非常に胸当てが大きく豊満な胸なのがわかった。美少女なので心で歓喜する。美人系だ。
二人目は騎士とは違い軽装な革鎧を身につつみ健康そうな体を持っているボーイッシュな女の子だ。こめかみの所が長く、ドキッとしてしまうぐらいに顔は無垢そうでかわいい。名前はグラビデ。重力を操ることが出来るらしい。
三人目はシスター。性職者と言われても文句が出ないようなスリットの足がエロい人だ。ちょっと天然が入った髪と性格なのか。ちょっと舌足らずなところがある。コスプレ言ってしまうところもおっちょこちょいなのだろう。美少女。そう帰国子女のような人。
自己紹介も終わり俺は話を聞くことにする。
「えっと転生者ですよね」
「そうだ。私も転生者だ」
「私もそうね」
「私もです」
「記憶はありますか?」
皆、首を振る。
「記憶はないが。知識はある。洗濯機など知っている」
「そうなんだよね~知っているだよ」
「だけど。私たちは忘れてます」
「ふーん。皆さん俺よりも先にこちらへ?」
「そうだが?どうしてわかったんだ?」
「武装してます。装備しっかりしてますし」
「そうだよ~私たちは先に来ていた。私は一月前に」
「私は二月前にですね」
「私は、そうだな半月と1月だ」
「けっこう15日周期なんですね」
「そうだな」
召喚するのに時間がかかったのだろう。4人集めるのに。何故俺は時間がかかったのだろうか。聞いてみる事にする。
「何故、俺は時間が?」
「女神に聞いたのだ。男はいないのかと」
「そうです。同年代で『同じ境遇の男の子がほしい』とお願いしたんです」
「そうそう。で、来たのが君」
「マジですか!?」
これはあれ。女ばっかだから男がほしいと。
「女ばっかだから………ちょっとな」
「ええ。私もそう思いました」
「だよね。スゴく不安だったけど!! まともな子が来てスゴく嬉しいよ!!」
「………俺はどんな反応すればいい?」
好感度高くてビックリしていた。女神様ありがとう。きっと女神さまが弄ったんですね。
「どんな反応か?」
「笑えばいいと思う」
「やったぜ!! 俺もこんな綺麗な人達と旅できるなんて嬉しいなぁ~」
「そうか!!」
なんとも幸せな光景だ。
「おっほん。では………自己紹介も終わった。今からの事を話をしよう。私たちは勇者だ。相手をしらなければならない」
「実は結構、女神の言うには人間がヤバイほど負けてるらしいよ」
「はい。女神の信託では新しい魔王が強いのです。前回の魔王はある勇者が倒したそうですが」
「一度は魔王は倒したんだ」
「しかし、新しい魔王が出てきて困っている情況らしいのです。それも裏ボス的な感じでずっと表の魔王を操り、裏で糸を引いてたと」
「でも、新しい魔王が出てくるなら倒したらまた出てくるのでは?」
「今の魔王がいけないのだ。前は一人で倒せた今度は4人。前よりも強いから大変らしい。いや、ここから本来の真・魔王が登場した」
色んな話を聞き何となく理解が出来た。要は本物が出てきてしまったと言うことらしい。裏ボスや黒幕と言ったところか。
「魔王の名前は?」
「魔王ネフィア・ネロリリス。女であり、人をたぶらかす婬魔らしい」
「婬魔ですか?」
「変な想像したでしょ~」
「いや!! その!!」
「うわぁ~ひくぅ~」
「仕方ないだろ!! 婬魔と言えば男のあれを食べる種族だって知っているんだから!! それに婬魔が魔王って弱そうなんだが………」
性欲操るだけの魔王なんて強そうと思えない。
「いや。炎を扱い、フェニックスを生み出すそうだ」
「なにそのラスボスぽい技」
「ラスボスぽいよね」
「私もラスボスぽいと思います。カイザーフェニックスですね」
皆が頷き俺も頷く。そして冷や汗が出た。魔王そのまんまなら滅茶苦茶強いだろう。
「漫画みたいに強いのかな?」
「強いのかもな」
「強い」
「ええ強いと思います」
「勝てるのか!?」
「「「勝てる!!」」」
三人が自信満々に答えた。
「私たちは能力を持っている」
「そう」
「はい。それに女神もついています。勝てばライブラ君を好きにしてもいいとおっしゃてました」
「そっか………そうだな。能力がある!! 頑張ろう!!」
皆に勇気をいただき俺は決意をする。まって、好きにしていいとはどう言うことだ。
「ん? 好きにしてもいい?」
「ああ、好きにしてもいいとな」
「そうそう。私たちさ………ライブラ君としか子供出来ないそうなんだよね」
「はい。女神の話ではですね」
「………それってつまり?」
「結婚はあなたとしか出来ないです」
俺は女神に感謝する。男の夢が叶う。そう。ハーレムだ。
「鼻伸びてる。やらしい」
「うっせ!! かわいいグラビデを嫁に出来るだけで嬉んだよ!!」
「あっ………ふーん。そ、そう」
俺はついつい本音を口に出してしまい。他二人もせがまれるのだった。
神様ありがとうございます。
§勇者の能力
俺は先ずは情報を片っ端から3人に聞いてみた。情報をまとめるとこの世界は帝国と連合国、魔国と烏合の衆で4分に別れていたらしい。
しかし、世界は変わり4分のうち連合国は帝国になる予定で魔国と烏合の衆はこの前に結合して大きい魔国となったらしく、このままでは全面戦争に舵を切ってくるだろうと言われていた。新しい魔王の下で集まり始め、驚くほどに色々と大きく。人間の生活を脅かす所まで増長して困っているそうだ。
このままでは世界が壊れてしまう。だからこそ勇者を集めて魔王を倒し。真の平和を取り戻そうと言うわけだ。魔王は女らしい。驚くほど綺麗な女性らしくちょっとだけワクワクしている。
そして俺は自分の能力を知るため。3人と一緒に魔物狩りに出掛けるのだった。帝国の東側の森で魔物を探す。
「ここらへんかな?」
「気を付けてね」
「私は後ろを見てますね」
「…………」
中々、馴れた手つきで四周を警戒しながら森を進む。すると物陰から化け物が現れた。熊である。しかし、俺は驚き腰を抜かす。自分達の何倍も大きいのだ。そう。規格外。
「出た!! 熊だ!! 私が前衛を張る!!」
「側面の遊撃任せて!!」
「補助します!! サーチ!!……………熊ですね。情報ではこの個体は爪から斬撃を飛ばせるようです」
「わかった。気を付けよう。ライブラ!!」
「は、はい!!」
「私たちは力を使わない。倒すのはお前だ!!」
「わ、わかった」
腰が引けながらも何とか背筋を伸ばす。能力はなんだ。
「イメージしろすぐに体に変調が来る」
「ええっと………」
イメージ………イメージ………ああああ。何も思い付かない。
ギャン!!
「くっ!! 熊よ中々いい攻撃だ」
「よっと!! こっちだよ!!」
熊の重たそうな攻撃を盾で受けとめるメデューサ。そして側面から剣を抜かずに拳の打撃で攻撃をするグラビデ。サーチは回復呪文を詠唱しきってダメージを負った瞬間に回復を図ろうと伺っていた。正直に思うが「俺はいるのだろうか?」となる。
「おい!! 早くしろ!!」
「わ、わかってる………焦らすな」
俺は目を閉じる。ああ、スマホがあれば検索してとか緩いことを考えていた。
「ん………」
考えていた途端に俺は驚く。右手に手慣れた感触があった。そう、それを見ると思わず声を出してしまう。
「ええええ!?」
右手にスマホが普通に用意されていた。そしてスマホが起動する。幾何学的な文字と魔方陣で画面が写し出される。そして………声認証マスターと文字が出てくる。それを見た瞬間。頭に知らない知識が溢れだす。そう、このスマホの使い方が脳に入ってくる。
「ライブラリー起動」
スマホの画面に大量の本が並んだ本棚映る。そして………一冊を指定する。
「炎の書、初級!!」
一冊の本が画面内で開かれ魔方陣が浮かび上がる。
「ファイアーボール!!」
スマホをかざし画面から勢いよく炎の弾丸が飛んでいく。慌てて、グラビデとメデューサが飛びす去り。熊に直撃した。
「ガアアアアアアア!!」
熱さに悶える熊。そして俺はもう一つ唱える。
「アイスランス!!」
スマホから氷の槍が飛び出し炎に飲まれている熊に突き刺さる。もがき苦しんだあとピクッと動かなくなり。大きな音を立てて倒れた。俺はガッツポーズをする。そして、皆が集まり出してくる。
「すごい。魔法職かぁ!!」
「スマホだよな」
「スマホですよね」
「ああ、スマホだと思うよ」
皆が俺の手の平に乗っているスマホを覗いた。画面にはライブラリーと書かれている。きっと能力名だろう。
「へぇ~お前の能力は『ライブラリー』か」
「そうらしい。これはスマホに見えるが魔法図書を内蔵した持ち運べる図書館らしい。好きにイメージした魔法を出せるようで、演算詠唱による即席と威力を両立した物だって」
「前衛、後衛、補助、魔法職かバランス良くなったな」
「そうですね!! 私と同じ支援職です!!」
「へぇ~男なのに女に戦わせて後方~?」
「い、いや……その。ええと」
「こら、グラビデ。困っているではないか。まぁ私は火力特化は必要と思っている。素晴らしい能力だな」
「ああ。驚いたよ。まだまだレベルは低いけど鍛えれば禁術も使えるようになるらしい。隕石落としとか」
「それは………恐ろしいな」
「まぁ、でも!! 役にたてそうで良かったよ」
俺は胸を撫で下ろす。女の子の足手まといは嫌だからだ。
「うむ。では帰ろう」
メデューサが指揮を取り俺たちは都市へ帰った。出会う出会う魔物はメデューサが片っ端から石化させ砕き殺していたのを見て「………俺いる?」と思うのだった。
*
ある日、大きな庭で剣を振る練習をしていたとき。サーチに呼び止められる。他の二人は個人で冒険者ギルドに行き依頼をこなすらしい。一人一人強力な能力を持っているため「単独で強くなるよう修行しろ」との上からの命令だ。俺も何とか自衛のために剣を使っていたが。二人よりもつたない。
「一緒に教会行きませんか?」
戦闘訓練中。サーチが俺を誘う。教会へお祈りの行こうと言うのだ。
「いいよ」
「ふふ。抜け駆けです」
サーチさんが唇に「秘密ですよ」と俺の唇に指を押し当てた。可愛らしい仕草に鼓動が弾む。
「ふふふ」
上機嫌な彼女に手を引っ張られながら教会へ向かう。綺麗な白いレンガ作りの教会。扉が解放され中では数人が祈りを捧げているのがわかった。
綺麗なステンドグラスに女神の像が信者に微笑んでいる。ここまでずっと手を繋いで歩いていたのでちょっと気恥ずかしくなり。頭を掻いた。
「ついたね」
「はい。つきました」
二人で中の入り空いている席に座る。そして、サーチは目を閉じて手を合わせて祈り始めた。服装はエロいがしっかり聖職者をしているようで安心する。俺も見よう見まねで祈りを捧げたが。すぐに飽きて顔をあげる。サーチは聖職者らしく、文言を一字一句丁寧に謡っていた。
「……………」
金髪で整った顔立ちに笑顔になる。ああ、こんなに綺麗な人が俺を慕っているとか夢のようだ。
カツン
「?」
教会にヒールの音が響く。わざと鳴らしている訳じゃない。ただ………ふと耳に入ったのだ。そして俺はその音を出した人を見る。深くローブを被っていた人物が教会に入って来たのだ。
「誰だろうか?」
品がいい。大人しい歩み。教会の中心に来たときにローブを脱ぐ。俺はその姿に息を飲んだ。
一瞬、初恋だったひとを思い出したのだ。記憶を失っていた筈なのにも関わらず。俺は驚く、顔を振り再度見たとき。また別人だった。
金色の長い髪に純白のドレス。それに豊満な胸の谷間と少しつり目の美少女。つり目だが厳しい雰囲気はない。化粧せずとも紅は美しく。歩く姿はまるで物語の姫様だった。
「はぁ………」
あまりにも綺麗な姿に溜め息を吐いた。彼女はそのままローブを椅子に置いて教会の真ん中へ行く。そして跪き祈りを捧げた。
「………ライブラくん。どうしました?」
祈りを終えたサーチさんが袖を引っ張る。俺は指を差して彼女は誰かを聞いてみた。
「………確かに不釣り合いな人ですね。『サーチ』」
サーチさんが能力を使う。
「ん? 不明です。レベルが高くて無理ですね」
「レベルが高いと言うことは………何処かの姫だろうか?」
「かもしれません。ですが………お忍びなら静かに黙っていましょう」
「それもそうか……ローブ着てたし」
彼女は祈りが終わったのか立ち上がり。満面の笑みでローブを取り教会を後にした。後をしたあとも俺は彼女が頭から離れなかったのだった。またどこかで出会うだろうか。
俺は何故か気になって気になってしょうがなかった。
§先代の勇者、魔王との対話
俺たちは4人の勇者はある貴族が支援してくれている。その貴族さまはインペリウム家といい。なんと先代の魔王を倒した勇者がいる家らしい。俺たちはその貴族様から買い与えられた家に住み。日々鍛練に勤しんでいた。
そんな日々で、ある一人の男の使者が出向く。深いローブを身につけ現れたその人はなんと元勇者でありトキヤと言う。姿は黒髪の青年であり。「そこそこイケメンかなぁ~」と思う。
そんな彼がテーブルに座り俺たちに話を始めた。
「帝国が思った以上に苦戦している。そろそろ頃合いだ。魔国魔王城へ向かって貰いたい。旅資金だ」
テーブルに4人分の金袋が置かれ、中々重そうな袋に唾を飲み込む。
「多くないか?」
「少ない方だ」
これで少ないのかと驚きながら手に取る。ズシッとした重さに俺は眉を潜めた。ひのきの棒とかのレベルじゃない。
「相手はそれほど強い。気をつけろ」
「わ、わかりました」
これだけの金額を貰えると言うことはそういうことだろう。皆が緊張した顔をする。
「行かない選択はないが………近々旅立って貰う。1日でも早く平和が欲しいからな」
「もちろんです」
「ええ、もちろん」
「そのための俺らだな」
「気を引き締めていきましょう」
そう。俺たちには使命がある。1日でも早く平和を取り戻さないといけない。
「トキヤさんはご一緒に?」
「いいや、俺は君達をサポートするために後方勤務だ。使者としても役目がある。それに………君達は俺よりも強い」
彼がローブを取る。話には聞いていたが片腕がない。そう右腕がないのである。新しい魔王と戦った結果腕を失ったとも聞いている。噂ではあるが。
「腕を失った自分では足手まといだからな」
そしてすぐさまにローブで腕がないことを隠した。俺たちは息を飲む。
そう、不安が出てくるのだ。腕を失う。死んでしまうかもしれない。そんな不安がよぎる。
「おっと、不安がっているな。大丈夫だ。これを渡そう」
彼は懐から4枚の羽根を取り出した。綺麗な純白の羽根が硝子に封じ込められている。
「神器。国宝以上の価値がある4つ。効果は一度だけ死を回避し、帝国に戻ってくる強制転移だ」
「そんな高価なものをいいのですか? 一度きりですし………」
「女神が与えてくださったのだ。ありがたく使うべきだ。そして………使い終わったら俺の所へ持ってくるといい再使用が出来るようになる」
「そ、それって!!」
「そう。何度でも死を乗り越えられる。おれの能力はこれを再使用が出来る能力なんだ」
「そんなのチートじゃないか!?」と言う声を俺は喉に引っ込めてその羽根を受け取る。
「何度も挑める訳か」
「これなら………勇気でるかも」
「そうですね。敵を知りもう一度挑めれば勝ちに繋がるでしょう」
「俺、ちょっとズルい気がしてきた」
「ふん………戦いにズルいも糞もないぞ」
トキヤに鼻で笑われる。しかし俺らはそれを聞いたお陰で安心したのか口々に喋りだし。不安も無くなった。
チート能力ばっかだから何とかなりそうだ。
*
トキヤは情報や地図を置いて帰っていく。インペリウム家の姫が帰らないと五月蝿いらしい。
「ふむ。帰ったか………でっ!! どうする!!」
「行くに決まってるね」
「はい。行きましょう!!」
「俺も近々行くべきだと思う。こんなにも良くしてもらっているのは期待してるからだと思うから」
俺の能力も分かり。ある程度何が出来るかとかも確認できている。期は熟したと言えるだろう。
「準備が必要だな。4日設けよう。私たちは心の準備も必要だ。外は恐ろしい」
「わかったよ~」
「ええ、そうしましょう」
「俺も賛成」
「では………ちょっと席を外してくれ」
「ええ、外して」
「すいません。女子会です」
そう言って彼女らは俺を玄関へ押し出し外へ出す。鬼気迫る勢いで俺を掴んでほおって投げた。
「すまん。デリケートな話なんだ」
「わ、わかった。こえぇよ」
「ごめんね…………」
「まぁ~女だけの秘密会議ね。どこかで暇を潰してよ」
「……お、おう」
俺は渋々立ち上がり埃を払う。玄関は鍵を閉められ溜め息を吐きながらその場を後にした。こう考えると男友達が欲しいと思う。
「まぁいいや。ちょっと先に買い出しに行くか!!」
俺は気にせず。歩き出す。異世界の空気を堪能するために。
*
「兄ちゃん気前がいいね」
「道具は必要だからね」
出店で俺は魔力を回復できる飲み物。ポーションを数本買い込み袋にいれる。割れないように硝子瓶ではなく皮の小さな水筒みたいな物で魔法使い御用達の回復材であり重宝する。俺みたいな色んな魔法を駆使する人間にはちょうどいい。
「何処か遠くへ?」
「魔国へ」
「そりゃ~遠いなぁ~おまけでこれつけてやるよ」
店主が気前よくもう一本いただける。
「気をつけな。近ごろ怪しいからな」
怪しいとはきっと魔国の動きの事だろう。俺は静かに頷いた。
「偵察任務だよ」
「ああ、そうか………そりゃ!! 頑張ってくれ」
「ありがとう。頑張るぜ」
俺は店を去る。大通りはいつも通り人がごった返していた。その中で俺は時が止まるのを感じる。
シャァン
俺はローブを着た教会で見た姫を見つける。たまたま、ローブの中の髪が見えたのだ。金色の髪が。人混みの中でゆっくりと歩み。リンゴをかじっていた。片手で男らしく。満面の笑みで。
「………」
気になる。気になって仕方がない。だから俺は………スマホを取り出した。
「スパイウェア」
スマホから一匹。影の蜘蛛が這い出る。そして彼女の影に潜ませた。
スパイウェアは昔、よくあったウィルスソフトだ。それを魔法として相手の情報と何かを操れるようにイメージした魔法。うまくいけばサーチさんのよう情報を得ることが出来る。奪うと言う手段で。
スパイウェアが姫の位置を把握しスマホに方向と距離を示す。ゆっくり尾行し………あの、初めて見た場所。教会へつく。
「…………?」
教会の手前で止まり。そして一瞬だけ翼を見た。純白の翼を。輝ける翼を。たった一瞬、刹那に等しい一瞬。
しかし俺はそれを………スマホで捉えた。スパイウェアが彼女を把握して画像だけを寄越したのだ。しかし、情報はそれだけだった。何故なら。
「弾かれた?」
その一瞬で影が無くなり蜘蛛が逃げるように這い出て俺に向かってくるからだ。ジャンプしスマホに入っていく。情報が開示されたが不明しか表示されない。時間をかければ分かるだろうが解析時間がすごく長い。旅の合間にバックグラウンドで解析出来るらしい。後でしよう。
「女性を尾行とはいい趣味ですね」
金色の美少女が鋭い目付きで俺を見た。射ぬかれたような瞳に少し後すざる。蜘蛛が俺の方に帰ってきてしまったのでバレてしまったらしい。
「誰ですか?」
「ら、ライブラと言います。ええっと」
「タカナシ………東方の遠い島国の名前でタカナシと言います」
「タカナシ………小鳥遊!?」
俺はあまりにもこの世界には似合わない名前で驚く。タカナシと言われて転生前を思い出していた。それ以上に見た目に反する名前でなんともいえない。
「て、転生者ですか?」
恐る恐る。聞いてみる。バカな話だが反応があればもしかしたら勇者かもしれないと思ったのだ。スマホの中で捉えた画像の彼女はまだ雑にノイズが混じっているが美しい翼だけは判断できた。
「テンセイシャ? テンセイシャとはなんでしょうか?」
「あっ……いいえ。ははは。すいませんテンセイシャと言う女性に似ていたのです」
「そうだったのですか。それで………尾行を。ごめんなさい。そのテンセイシャではございません」
「そ、そうですね!! ははは」
俺は誤魔化しながら頭を下げる。
「それはそうと………その。お茶でもしませんか?」
昔の俺とは違い。女性になれていたのか、スラリとナンパの言葉が口から出たのだった。心を動かされそうなほどに魅惑な女性に声をかけた。
「いいですよ」
俺はきっとモテ期が来たのだと確信した。
*
「ふぅ。誘われるとは思いもしませんでした」
「あっすいません」
「いいえ。これも何かの縁。この時は大切にしましょう」
「そうですね」
俺はドキドキしている。目の前女性はローブを外し、ドレスをさらけ出し、さも当然のように寛いでいる。庭のようなそんな新鮮さをにじみながら酒場で紅茶をいただく。場不相応な女性だが。そんな事を気にせずに様になっている。この酒場の空気に彼女はなれていた。
そして、彼女は何も語らない。あまりの沈黙に俺は一生懸命に話しかける。色んな事を勇者の使命とか色々。まるで気を引こうとしているように見えるが。「断じて違う」と心して話しかける。
「面白いですね。勇者ですか?」
「は、はい。その変なことですよね?」
考えてみれば夢みたいな話だが。信託があったと誤魔化せばいいのかもしれない。
「いいえ。信じますよ。帝国には昔から多くの勇者がおり。団を作って向かっていき………帰ってきませんでしたから。大変ですね」
ニッコリと大人な笑みを浮かべ。俺は鼓動が速くなる。やっぱり美人だし………こう。大人なエロさを感じる。若妻のような匂いも。同じ歳の匂いも。姉の匂いもする。いけない気持ちになる。
「そういえば………聖職者なんですか? 一度教会でお見えしましたから」
「聖職者と言えば聖職者です。他宗教の」
「他宗教?」
「ええ。こことは違った宗教です。ですから祈りをしに教会へ行くこともあります」
「他宗教なのに?」
「神に祈るのはどこでも一緒ですよ」
彼女は「変なこと言ってますよね」といい。クスクスと笑う。その笑い方は手を押さえる女性らしい笑い方だった。そういえば………3人の女性を知っているがこんなにお上品できれいな女性らしい笑い方なんて出来ないと思う。育ちの違いを見せつけられている。
「一体どんな神なのですか?」
「破廉恥です」
「は、破廉恥!?」
「はい。愛の女神なのですが。愛とは白くも黒くもなります。美しく下品でもありますね」
俺は紅茶を溢しそうになるほどに綺麗な唇から「破廉恥」と言う言葉が出てきて驚いた。
「ふふふ。私を何処かの姫様か何かと勘違いしてませんか? 顔に出てますよ。クスクス」
「す、すいません。勝手にこう………決めつけてしまって………」
「皆さんそんな感じですよ。私は魔法も剣も使える冒険者です。友人に会いに来たのです」
「そ、そうなんですか!?」
「冒険者ギルドの名簿に名前があります。まぁもう………廃業してますけど。だから、一人なんです」
驚きの連続だった。目の前の姫様かと思ったが違い。冒険者の一人らしい。何処から見ても姫様にしか見えないがそうなのだろう。プレートを彼女は手にもって見せ胸元に戻す。なんでそんな場所に納めてるんだとドキッとした。
「まぁ剣は置いてきてます。帝国で荒事はもう、ないでしょうし。それで勇者様はいつ頃旅立つんですか?」
「えっと………4日後?」
「頑張って下さいね。どちらから行かれるのか知りませんが………きっと砂漠からでしょうね」
砂漠とはスパルタ砂漠の事だ。スパルタ国と言う帝国傘下の国がある。噂では屈強な男たちが居る国で。スゴく強い者が多いのだとか。
「そこから。魔国へ行き、長い旅です」
「覚悟はしております」
「そうですか。あなたの旅路に陽の導きがあらんことを」
「あ、ありがとうございます!!」
「ふふ。こちらこそお茶お誘い。ありがとうございます。それでは、失礼しますね」
「はい。またどこかで会いましょう。あっ……いいえ。一ついいですか?」
「はい?」
「その、彼氏とかいらっしゃいますか?」
「彼氏はいません」
「では………その………」
「?」
モテ期を盾に「一緒に冒険しませんか」と誘おうとして飲み込む。彼女は勇者じゃない。死んでしまうかもしれない。だから…………誘おうとするのは良くない。
「今度、また会ったときお茶でもどうですか?」
「また会ったときですか…………生きていればいいでしょう」
彼女は悲しそうな顔をする。その意味はきっとこれからの旅を案じての事だろう。
「は、はい。絶対帰ってきます。絶対に」
「信じましょう。では、さようなら」
彼女はローブを深くかぶり。店員に一つ二つ何かを伝えて店を出た。俺は椅子にもたれ掛かりため息を吐く。
高瀬の花だ。誰よりも高潔で誰よりも美しく芯の通っている雰囲気もする。男として「落としてみたい」と思うほどに。勇者なんだ。フラグは立っている筈。頑張っていこう。ああいうキャラはのちのちアフタールートのサービスキャラだ。行ける行ける。
「あっ会計お願いします」
古風なメイドにお金を渡そうとする。すると笑顔でメイドは応える。
「お会計は今さっきの冒険者からいただいていますよ」
「え!?」
「女ではなく同じ冒険者としてだそうです」
格好いい。俺はそう思い、「戦う姿を見てみたい」とも思うのだった。
*
教会の中で私はある人物をまつ。
「お待たせしました姫様」
「姫様………ヒヤヒヤしましたよ」
人間の男二人が大剣を携えて現れる。もちろん聖職者らしく祈りを捧げてこちらに来た。信仰は深い二人だと思う。人間の女神に祈っているのは面白いけど。
「音奪い…………聞かれてないわ。情報は集まったかしら?」
「集まった情報は8人に手渡し、各自バラバラで向かっております」
4組に分けた理由はもちろん。確実な伝達のためだ。
「そう、わかった。あなた方二人が最後ね………重要な物です送り届けてください。トキヤに」
蝋で封をした手紙を手渡す。私の偽名を書く。勇者はわかる。小鳥遊と言う名前と漢字が。
「わかりました。内容は秘匿ですか?」
「勇者の能力と容姿、どういった性格かを書いてる。あとは…………黒騎士団長とのこの前の会談結果も」
「!?」
「重要でしょ?」
「…………姫様。危ない綱渡りはお止めください」
「心臓が持ちません」
「4日後に出発らしいです」
「わかりました」
二人が立ち上がって教会を後にした。私も立ち上がって女神像の前に立つ。人間の女神像の前に。
「エメリア」
「なーに。ネフィア」
声をかけると背後から声がする。振り向かずに話をする。
「本当に寝ているんですね。女神ヴィナスは」
「4人召喚と勇者一人の腕を再生。そして………一人の女性を祝福したんです。力を使い果たしてしまったようですね。元々帝国は皇帝を神に近い存在洗脳もあって信仰は低めなんですよ。まるで何処かの王が『女神に立ち向かう予定』があったような動きでバレて負けたようですが」
「神の居ぬ間に洗濯と言ったものだが。ちょっとな」
「姉が休むほど力を使うのはあなたを恐れていると言うことです。ネフィア」
「………恐ろしいですか? 私は?」
「恐ろしいですよ。だって女神の土地で好き勝手してるでしょ? それに英魔国内を無血統一です」
「好き勝手とは失礼な」と言おうかと思ったが。違うことを考えてしまい。言葉を窮する。
「好き勝手ですか………人間の女神の方が好き勝手ですよ。勇者なんて作って、魔族を排斥、迫害、消そうとしてるんですから」
「出会ってどう思いましたか?」
「可愛そうな人形です。使命に縛られた機械のような……機械が形を持った状態に見えます」
「…………ですね。遠からずそうです」
「勇者との約束は叶わなそうだな」と私は思うのだった。私の手で勇者を殺すのだから。
§商業都市新名ネフィア、勇者到着
俺たちは帝国から商隊に混ざり北上した。途中砂漠でサウンドワームの群れを倒し。ワイバーンの群れも倒し。商隊の商人から多額の金額を貰え。好調だ。
砂漠都市スパルタで滞在し多額のお金でコロシアムを見学したあと。3人と日替わりで童貞を捨てるイベントもあった。
寒い時期らしいがそれでも砂漠は暑く、それが次第に旅の途中で冷えていく。旅は順調であり、スパルタから数日で商業都市ネフィアへ到着した。
最近都市名が変わったらしい。都市名は昔の偉人の名前を使うのが通例であった。妖精国ニンフ、都市ヘルカイト、帝国首都ドレッドノート。
そして、族長の抗争で商業都市は名前は無かったのだが。ユグドラシル商会等の商業連合隊の膨大なる資金力と財と信仰。大抗争を迎え魔王側が圧勝、よって商業都市は統一。ネフィアと言う名前になってしまった。
そう、魔王ネフィアは恐ろしいほどに覇権を持っている。これからは敵地での行動だから気をつけないといけないらしい。
「ねぇ、ライブラ。これから敵地。気を引き締めなよ」
「そうだぞライブラ。グラビデの言う通りだ」
「そうですよ? ライブラさん」
「えっ? 俺なんでめっちゃ注意受けてるの?」
「だってライブラ勝手にねぇ~一人で全部倒しちゃうんだからねぇ~今回はそうはいかない筈」
「あのどや顔で『なんか俺やっちゃいました!!』って言うのはカチンと来たぞ」
「調子いいんですから。ライブラさんは……」
みんなが俺のことを貶しながら「ネェ~」といい。ジャンケンをしだす。
「股下だな」
「右腕」
「左腕」
三人が俺の所有権で争う。今夜もしんどそうだ。一番いいのは修羅場が無いことだろう。まぁ険悪な空気にはなることはあったが仲良く旅ができている。
俺はそう思いながら亞人、人間が混じった商店街を歩き。自分達は冒険者ギルドの直営酒場に顔を出す。何人かの冒険者が女性冒険者達を見て難癖かけたりするイベントもなく。平和である。
自分の知識とは大違いでビックリだった。まぁ衛兵の方が怖いもんな。あと暴れまわって殺されても文句は言えないらしいし。イチャイチャする冒険者も俺らだけではないならしく。皆が慣れきってしまっているとの事。前例があるらしい。
「……平和」
中には都市インバスからお持ち帰りした亞人と冒険者をやっている人もいるそうだ。比較的過ごしやすく。チンピラぽい冒険者もいない。思う………滅茶苦茶魔国内平和じゃね。
「冒険者ってチンピラのイメージだった」
「冒険者でもチンピラでは生きてはいけないのでしょう」
「恐ろしいな」
「恐ろしいですね。私たち旅の瞬間、ワイバーンの群れでしたよね。スライムとか下級な魔物なんていないんですよ」
「おれ、ハードモードとか聞いてないよ」
そう、俺たちは悩んでいる。この先の魔物強さに。きっともっと強い雑魚が多くなる筈。
「どうする?」
「どうしよ?」
「そうだ!! クエストをやろう。経験値を上げるんだ」
「そうですね。それが一番です」
俺たちはそうと決まって冒険者の受付に聞く。すると流石は商業都市。護衛ばかりと外周の魔物退治ばかりだった。魔物退治はまぁ魔物を退けるための方法なのだろう。衛兵隊は所詮壁の中だけの仕事しかしない。なお、冒険者より強い模様。サーチが魔法「サーチ」で調べた結果だ。自分達より弱いが………それでも驚愕だった。
この世界、噛ませ犬みたいな人が出てきてもめっちゃ強いのだろう。気をつけないといけない。ハードモードすぎる。
「では、外周の魔物でも狩るか」
「そうですね」
「おっ散歩!! おっ散歩!!」
女性人が嬉しそうに笑顔で歩き出す。俺はヘイヘイとそれについていく。何もない日常。
いつまで続くかわからないが。続いてほしかった。そして…………帝国で出会った、女性を思い出す。目に焼き付くこの燃えるような感情はなんだろうかと問答しながら。
*
ギルドの酒場での席で俺たちは奴等を見ている。
「現れましたね。トキヤ殿」
「ああ、4人だけか」
「4人だけです」
「5人が合計で一人は潜伏しているな。そいつは強すぎる。俺が対応して時間を稼ぐ。4人は任せた」
「はい。姫様の絵の通りですね」
「ネフィアなぁ………帝国で無茶してないといいけど」
「はは、残念ですが。黒騎士団長と陛下に謁見してますよ」
「そうだった。恐ろしい奴だ。恐怖も圧力も鼻で笑うほどに感じてない。飄々として………どこ吹く風なんだよなぁ………胆力、器でかすぎるのを初めて知ったよ」
「それはトキヤ殿では? 似てらっしゃいますね」
「………俺のせいかぁ~」
「トキヤ殿。落ち込んでいられませんよ。バルバトス様は一騎打ちがしたいそうですが?」
「勝手にやらせとけ。いいや………利用しようか。あの狂戦士」
*
「見られている」
そう、口にしたのはメデューサさん。彼女は四周を警戒する。
俺たちは今、商業都市の道路を歩き。たまに道に外れながら魔物を探す。1匹ほどスライムが現れたが魔法職の俺が簡単に仕留め。スライムの皮を手に入れた。
「誰に?」
「わからない。ついてきている」
「見えないけどなぁ~」
「私にもわかりません」
「なら………ちょっと罠を仕掛けよう」
俺はスマホからウィルスの黒い蜘蛛を数体撒き散らして伏兵にする。スマホに蜘蛛の見ている映像が写し出された。
「便利だな」
「すごくズルいね」
「では、歩こう」
4人で魔物を探す振りをする。すると………映像に亞人のダークエルフだろう冒険者二人がついてきているのがわかった。何か話し声を聞き取ろうとするが無言だ。
「あやしい」
「あやしいですね。どうしますか?」
「サーチは詳細とか見える?」
「やってみましょうか……ああ画面越しではダメですね」
「自力でやるか………」
画面が揺れ蜘蛛が冒険者の影に入り込もうとする。その瞬間、冒険者が剣を抜いて蜘蛛を切り払った。影として消えていく黒い蜘蛛。あまりの剣劇の速さに俺は驚いた。冒険者一人がアワアワとしながらも実はすでに黒い大剣を握っていた。いつ背中から引き抜いたのだろうか。
冒険者の会話が聞こえる。一人は抜いた黒刀を納めながら。
「魔物か?」
「魔物にしては変だな?」
「にしてもそれが居合いかぁ~」
「ああ。その武器もいいけど。わざわざ作って貰ったんだぞ。姫様やトキヤ殿に届きたくてな。この前やっとこの刀が届いた。いやぁ~格好いいわぁ」
「帰るか?」
「そうだな」
ただの冒険者のような会話。気のせいだったのだろうか。
「居合いか、剣筋が速い」
「メデューサ。気配は?」
「うーむ。なくなったが気のせいか?」
「気を付けましょう。敵地なので」
そう、俺たちは敵地にいる。だから………すべてを疑っていかないといけない。気疲れしそうだ。
「まぁなんにせよあと1匹で帰ろう」
みんなは俺の提案に頷くのだった。
*
冒険者を装った二人が深刻な顔で追跡をやめる。
「やベーな気付かれたかな」
「警戒はされ出したか………」
「頑張って感覚を鋭くしていて良かったよ。少し怪しい動きもあった」
「やっかいだな」
「『あんまり喋るのをよろしくない』とトキヤ様は言っていた。聞かれていると」
「………どうする?」
「あいつが仕掛けるのを待とう」
二人は頷き。仕事の話をやめて駄弁る。冒険者の振りをして。
*
酒場に戻ってきた俺たちは討伐した魔物の素材を売り、旅の資金源にする。旅の資金源は帝国からたまに使者が来てくれるそうだ。その使者はなんとトキヤさんだと言う。一緒に最後戦ってくれるんじゃないだろうか。
「ん、見られてる感覚はないな」
「気のせいだったんだよ」
「そうならいいが」
「気にしすぎはいけません。ライブラさん何かないですか?」
「何かって言っても………この宝具で出来ることは。盗撮?」
「………」
皆がジト目になる。まぁうん。
「あ、あとは洗脳とか?」
「恐ろしいことを考える奴だな」
皆にそれだけはやめろと釘を刺された。そして事件は起きた。
「やめろ!! はなせ!!」
「ああ!? 今財布取ったろ!!」
「つかめ………ああやっぱそうだな。懐から出てやがった」
「ガキ………盗みはよくねぇ」
「あああん!? 冒険者はお金一杯あるんだろ!! 少し分けてもらってもいいじゃないか!!」
「『こんなところで彷徨いてるからなんだ』と思ったら浮浪者か」
「ぐぅ!! うっさい!!」
酒場の一角で人間の人間の少年が捕まっている。どうやら盗みに入ったらしい。冒険者のこの場で堂々と。
「こいつこの前も盗んでいたよな。お金あげてもまた来る。痛め付けようぜ」
「ああいいな。一発づつな」
一人の亞人の冒険者が構える。そして、捕まっている少年の腹におもいっきり深く拳が入り込む。恐ろしいほどに深く突き刺さり、少年の口からゲロを吐かせた。
「おうおう、きたねぇな」
「げほ!! くっそ………冒険者め………」
「次は俺な……」
ガタッ
「メデューサ?」
「すまんな。少し助けてこよう」
「あんまり………首を突っ込まない方が」
俺は悩みスパンウェアを一匹つけた。応援する。
「メデューサ。やっちゃえ!!」
「うむ」
メデューサがゆっくりと髪を揺らしながら彼に近付き。肩を叩く。
「そこまででいいだろう。死んでしまうぞ」
「ああ? あまちゃんめ………浮浪者に同情か?」
「全く、これだから意識が高い冒険者は変なんだよ」
「げほっ………!! よっと!!」
少年が隙を見て冒険者の股間を足で蹴り脱出する。そして、懐を探って財布を取り一目散で酒場を出るのだった。
「へへ!! 姉ちゃんありがとう!!」
「あっ!! 畜生!!」
「追いかけるぞ!! 姉ちゃん手伝え!!」
「あっ………くぅ!!」
メデューサが追いかけようか悩んでいるのを冒険者が誘う。メデューサも隙を作らせてしまった罪悪感で仕方なく手伝おうとする。
「あ~構うから~」
「本当ですね」
「………俺。君が一応聖職者なの思い出してたんだけど?」
「異教徒はダメですね。救うに違わず」
「世知辛い」
なお、少しして帰ってきたのを見ると見つからなかったのだろう。メデューサがトボトボと帰ってきたのを俺たちは慰めるのだった。「そう、うまくはいかないぞと、この世界はおかしいのだから」と。
*
身軽なグラビデを操れるグラビデは夜中、一人で外に出掛けていた。勿論装備をしっかりして外に出た。一応は敵地と言うこともあり危険ではあるが散歩がてら、情報を集めようと考えたのだ。
これから先、情報をもって旅をしなければ道は険しいと判断した故の独断の行為。
いや、ゆとりがあった故の慢心か。能力が使えるからや強さに自信を持っていた。だからこそ彼女は狙われて囲まれる。
「ん………ん?」
酒場へ向かう大通り。一人の男性と目が合う。黒い肌のダークエルフだ。大きな槍のような大剣のような武器を持ち。対峙する。殺気を纏いながら。
「!?」
グラビデは周りを見た。周りの人達がグラビデを避けていく。そう、争い事が起きる場合この都市では日常だった。だからこそ関わらないように道を開けるのだ。そして………衛兵が市民を誘導し避けるように言っていた。
「ど、どういう!? な、なに!?」
異様な光景。一部の人々の目にはグラビデを蔑む目をしていた。グラビデは気がつかない。一部の人物が実は潜伏していた兵士だとは思いもしない。
「こんにちは。勇者、グラビデ殿。俺は魔国衛兵団長バルバトス・ダークエルフだ。よろしければ手合わせ願おう。いいや………死んでもらう」
「な、な!? なんでここに族長クラスが!?」
勇者たちは知らされていた。族長と言う長がいてそれらは強いと。有名どころの長は勉強していた。だからこそグラビデは驚く。
魔城に居る筈の族長が目の前に居る。そして………逃がさないように囲まれていることに気が付く。メデューサの言葉を鵜呑みにしなかった事で彼女は知らず知らずに死地に赴いてしまったのだ。
「………答える気はない!!」
ダークエルフ族長バルバトスが剣槍を構えて近付く。グラビデは慌てて能力を使い。重力を軽くし、横に避ける。避ける前の石畳が斬り払われる。鎧さえも切れそうな鋭い攻撃だ。
「くっ、[グラビテ]!!」
彼女は期待する。皆の騒ぎを聞いての援軍を。それまで耐えないといけない。だからこそ一帯の重力を操った。何人か地面に這いつくばり、全く動けなくなる。しかし………目の前のダークエルフ族長は動いてくる。ゆっくりと。重力は効いている。
「中々の魔法ですね。しかし、それだけです」
「!?」
彼女は背筋から汗が流れ落ちる。これが中ボスの風格。これが族長と恐怖した。ゆっくりと武器を肩に担いで睨み付ける族長にグラビデは後ろに下がり続けた。
シャン!! ザシュウウウウウウウ!!
グラビデは背後から近付かれて肩から大きな剣に切り落とされた。その瞬間に痛みともに胸の中の魔法が発動して頭が真っ白になるグラビデ。そう、目の前に気取られて上からの攻撃に気が付かなかったのだ。目の前の族長が笑顔になり。周りの皆が族長に集まってハイタッチをしているのを見た瞬間。グラビデの目の前が暗くなり。気を失う。
次にグラビデが目が開いたとき。帝国の玉座の間に戻されており、彼女は「自分が死んだこと」を知る。そのまま彼女は胸を撫で下ろし、ため息を吐いたのだった。神具の羽はもう力を使い果たしていた。
しかし、悪夢はここからだった。グラビデに声をかける者がいた。
「こんにちは。グラビテさん………私の名前はネフィア・ネロリリスです。死んでください」
帝国に戻されたグラビデの目の前に。白き翼と白い鎧を着こんだ天使のような魔王が立っていたのだった。
§白翼の姫騎士と黒翼の姫騎士
ネフィアは城の門の前に立った。大きな大きな開け放たれた門の中で騎士が一人一人に入城の許可証を確認している。彼女は今日からずっと通いづめないといけないその初日に堂々と正面から歩く。白い騎士の鎧を着込んだ状態で。
そして……それは後に「帝国の門を一人で潜った魔王」として彼女の伝説で語られるようになる。それほどまでに異様な出来事であった。
「止まってください!! ここは王城。入城の許可書を見せてください。どこの令嬢様で?」
「はい、どうぞ」
ネフィアは懐から陛下の発行する許可証を見せつけた。騎士は敬礼をし無礼を謝る。見た目は姫騎士なので皆が、御挨拶をしている。誰も心辺りがない姫様だが………身なりを見て勝手に納得していた。何処かの姫君だと。箱入り娘なのだろうと。囚われていた事も知っており。噂が噂を呼んだ。皇帝陛下の隠し子と。
故に嘘が広まり誰も気がつかない。誰も気にしない。綺麗な姫騎士が実は敵国の魔王と言うことを。誰も全く考えなかった。露骨すぎるために疑わない。
そして、誰にも止められずに玉座の間の扉にネフィアはやって来た。
「陛下!? 寝ておられなくていいのですか!?」
廊下から衛兵の声が響く。ネフィアは笑顔で待っていた。
「今日は調子がいい。それに私の愛人が来るのでな」
「陛下、遅くなりました」
ネフィアが跪き、騎士の礼をする。それを見た陛下は益々上機嫌になった。
「はははは!! 騎士の礼節を知っているのか!! お前は!!」
「私の剣の師は誇れ高きマクソミリアンの祖。元マクシミリアン騎士団長エルミア・マクシミリアンです」
「あの、紫の死神。女傑が師だったな!! なら当然知っているな。あやつも素晴らしい傑物だ。あやつの息子も孫も子孫もワシの子孫とは比べもんにならん」
皇帝のグラムが玉座の扉の前に立つ。衛兵が、扉を慌てて開けた。
「下がってよい。玉座の間に入れるのは王かそれに認められた者のみ」
「しかし………こやつは………」
この衛兵はネフィアを知っているらしいく視線を寄越していた。ネフィアも何処かで見たことがある素振りをして挨拶をする。渋々と衛兵が後ろへ下がり、二人は玉座の間に入とふただび扉を閉める。
玉座の間の鳥籠の晒し檻は消え、窓から陽光が差していた。そして、もう一人がお目見えする。
「久しぶりね。ネフィア」
「久しぶりね。ネリス」
ネリス・インペリウム。インペリウム家の御令嬢であり、勇者の支援者だ。ネフィアの白金の鎧に似た桜色の騎士鎧を身に付けている。髪は長くピンク色の髪を持つ。
「陛下、お下がりください」
「うむ。まぁここで見ておく」
「ネフィア………今度は陛下を誘惑? 見境ないわね」
「………はい」
「ならば、害は消さないと」
ブワッ!!
ネリス・インペリウムの背中から黒い翼が具現化し、黒い羽を撒き散らす。
「そ、その姿!!」
「ふふ、驚いた? 女神が私に力を授けて下さった。ここを護れとね」
「うらやましい!!」
「………」
ネフィアが輝いた目で黒い羽を見る。そして、同じように白い翼を具現化し背中を見せた。
「私って白い鎧に白い翼じゃないですか。そこはやっぱり黒い方が見栄えがいいと思うんです。一応魔族ですし!!」
いきなりファッションの話をするネフィアに皇帝は腹を抱えて笑い出す。
「はぁ………余裕ですわね。魔王。それに……その翼」
ネリスは自分の黒い翼とネフィアの綺麗な純白な翼を見比べ。嫉妬する。何故魔王の方が白いのかと。
「正義は私たちにあるのに………偽りの天使の翼を斬らせてもらう!!」
ネリスが地面を蹴り剣を抜く。細い剣であり突きを繰り出しながらネフィアに肉薄した。ネフィアは最速で向かってくるネリスに合わせて剣を抜き。突きを剣で叩き逸らした。ネフィアは頬をかすり、傷がついたが一瞬で傷が輝き、傷が癒える。血さえ出さない。
「な、なに!?」
「どうしました?」
ネリスが距離を取るために離れる。しかし、ネフィアはそれに追い縋った。剣を振り、細い剣と打ち合う。
1合2合と回数を増やしていく。金属音が玉座の間に響かせ………30合の時にネフィアが口を開く。
「軽いですね。剣が」
「はぁ!?」
「軽いです」
ガッキィイイイイイン!!
大きく剣を振った訳でもない。だが、ネリスの剣が大きく吹き飛ばされそうなる。ネリスは歯噛みした。「重い!?」と苦しんで。
ネリスは思う。重騎士のハンマーの一撃のような重さに剣を持った右手が痺れたのだ。
「あなたの剣は何を想い振ってますか?」
「それは!! お前を殺すために!!」
嫉妬に歪んだ顔でネリスは叫ぶ。愛しい人を奪い。自分の思惑さえなにもせずに潰し。まるで……まるで聖女のような清らかさにネリスは憤怒を覚える。自分の醜さを笑われている気がして。鏡で醜い姿を晒されているような気がして。ネリスは自分が影であることを納得しない。
「はあああああああああ!!」
キィン!!
ネリスが鋭い突きを行う。しかし、今度は距離を取ってネフィアが避けた。避けた先で、聖剣をその場に産み出して、ネフィアは地面を蹴り直し、ネリスに接近して2刀で攻め立てる。
「私の剣はトキヤへの想いと!! 国の女王としての国民への想いが乗っているんです!!」
回避から突然の2刀の猛攻。ネリスは防戦一方になり苦虫を噛んだ表情になる。経験の差が歴然である。
「くぅ。この!! くそあまああああああ!!」
ネリスが右に回転し、黒い翼で凪ぎ払おうとする。ネフィアも同じように距離を取って右に回転し、白い翼を黒い翼にぶつけた。
ドゴンッ
重たいもの同士がぶつかった音。二人の翼は消え。魔力となって白と黒の羽根として散った。ネフィアは叫ぶ。
「フェニックス!!」
「!?」
ネフィアは叫びと同時に聖剣に炎を纏わせてネリスに向けて投擲する。慌ててそれを弾こうと彼女は剣を振った。
キィン!! カアアアア!!
「王手」
ネフィアが囁く。弾かれた瞬間、纏っている剣の炎が剣から離れて鳥の形をする。ネリスは時がゆっくりになるのがわかった。そして呪詛を吐く女神へ。「ここまで強いのを知らない!! はかったか女神!!」と。
女神から聞いていた魔王の強さや技の情報が全く古いことを彼女は気付いた。ネフィアは人間女神の観測より早く強くなっていた事を知らない事が予想外だったのだ。
ドボアアアアアアアアアン!!
火の鳥が爆発音を立てながら火球になりネリスを飲み込む。剣と魔法の二段攻撃に負けたネリス。そのネリスを飲み込んだ火球にネフィアは近付き、ネフィアの背中の羽根が再生する。そして、背の羽根に炎が吸い込まれていく。
消えた火球の中心にネリスが倒れていた。所々、服は燃え塵となっている。鎧も溶けて赤くなってドロドロであり、ネリスが大火傷した顔をあげた。
パチパチパチ
「流石、女王………でっ殺さぬのか? こいつを」
皇帝が「いい決闘だった」と満足げに顔を出す。
「陛下!?………こいつは魔族です!! 敵ですよ!!」
ネリスが怪我をした状態で叫ぶ。しかし、皇帝グラムはネフィアに聖剣を借りる。緑の剣が皇帝の懐かしいエクスカリバーの姿に変えた。
「敵の前に……お前は何故………玉座の間にいる?」
「そ、それは………あああああああ!!」
ネリスの体の中心に剣が突き込まれた。女神の祝福か傷が癒えていく中で突き入れる。
「女王、首を切れ。お前の首級だ。王以外が無断で入った罰だ。勝手に暴れた罰だ」
「へ、へいかがああああああ!!」
シャン!!
ネフィアが近付きブロードソードの火剣を振り下ろして首を斬り離す。そのまま剣を納めたネフィアは疑問を口にした。
「陛下。よかったのですか? 彼女はあなたのご子息です」
「女王、ここはな………玉座の間。王が座る場所だ」
「私の座は………教会のような場所です。人が集まる場所です。こんなさみしい場所ではないです」
「成る程な。お前の王と言うのは………ワシの思う物と違っているのかやはり。老い先短く。お主の覇道をその先を見れないが。お前の王道がどう言った道になるか見届けたかったな。ガハハハ」
「……………見ててください天から」
「ああ、なるほどな。あの世で見ろと言うのか。ククク。お前は勝った。ここに好き勝手に入ってくれていい。だからこそ………言うぞ。『止まるなネフィア!! お前の進む道をただ信じろ!!』」
ネフィアは頷かない。しかし、笑顔になる。
「私は何も出来ません。ですが………国民が出来るでしょう。私は『英魔族を信じます!!』」
「ふっ……ククク。俺とは違うから本当に面白い。本当にお前の王の道を見たかった」
陛下はそのまま名残惜しそうに自室へ戻るのだった。
§目の前に魔王、ラスボス、リスポーン狩り
ネフィアはネリス・インペリウムを倒し玉座の間で住み込んで。勇者が帰ってくるのを待っていた。彼女はトキヤの育てた隊員たちに「勇者を時間差で一人一人倒してほしい」と願う。理由は勿論、殺到する勇者が4人同時だった場合は負けるだろうと考えてのことだ。
玉座の間の端に椅子とテーブルと野営用の簡易テントを置いて紅茶を啜りながらネフィアは本を読む。本は恋愛物だったがなんと作者はランスロットさんの父上と言う劇物である。非常に甘く蕩けるような内容の実在の話を元に書かれており。貴族社会で人気を博しているため騎士へ嫁ぐ者が多くなった原因である。
そんな中でネフィアは魔力の高鳴りを感じて本を閉じ、テーブルに置く。時間は夜中であり、勇者が暗殺されたのだろうとネフィアは感じ取った。
「一人ですか二人ですか? それとも全員?」
ネフィアは立ち上がり玉座の間の中心へ行く。するとそこでは魔方陣が浮き上がり。一人の少女が膝をついた状態で召喚された。ネフィアはその姿を見た瞬間に素早く目の前に移動して臨戦体勢をとる。ゆっくりとボーイッシュな女の子は目を開けた。
「!?」
皮軽装のシーフ姿の女の子グラビデはネフィアを見て息を飲んだ。ネフィアは彼女を知っていた。女の子の名前をグラビデと言い。能力が何なのかをネフィアは味方の情報を全て話してしまった勇者気取りの暗殺者。愚か者のせいで知っている。なので先に仕掛けておく、罠を。彼女の新しい炎の能力を。
「こんにちは、グラビテさん………私の名前はネフィア・ネロリリスです。ごめんなさい、死んでください」
「ネフィア………!?」
グラビデは気が付いた。しかし、彼女の頭は理解ができない。一度死ねば帝国の玉座の間に戻される事を知っていた。神の与えてくださったら物の効果だ。しかし………目の前に倒すべき敵が居るなんて事は知らされてなかったのだ。
「ここは………帝国。なんで!?」
「なんで、魔王が居るのでしょうね。わからないでしょうけど」
ネフィアは剣を抜く、「ゆっくり、説明なんかしてあげるほどに優しくはない」と思いながら。現実主義なトキヤの影響で慈悲を捨てる。
「ひ、ひきょう」
グラビデが後すざる。綺麗な幼い顔に恐怖が貼り付けられた。そう、グラビデは死ぬ恐怖を経験し、体が強ばっている。彼女は今さっき戦ったのよりも絶対強いと予想する魔王に震え出す。「一度、死んでも大丈夫だ」と言う保険がある状況は、死への恐怖に対する精神を鍛えられず。恐怖に打ち勝てない状態を生む。
「私を殺すつもりなのに………死ぬ覚悟も出来てないの? どうして私を殺そうとしたの? 全く………これだから転生者は何度も何度も失敗してたんですね」
ネフィアは主人のトキヤを思い出していた。彼と比較して少しは強いのではと思っていたのに拍子抜けだったのだ。黒騎士団長。族長たちの方が遥かに強いと信じている。この世界は甘くはない。
「…………!!」
ネフィアの言葉にグラビデが反応する。しかし、次にはわめき散らすように命乞いをした。
「お願いします!! 死にたくない!! 知らなかったんです!!」
ネフィアはそれに悲しい顔で喋り出す。「流石にそれはないでしょう」と思うのだ。「これが勇者なんて酷すぎる」と。旦那を思って苦しむ。旦那と比較して幻滅する。そう、ネフィアの剣の鈍りは拍子抜けたからだ。
「私が同じことを言っても殺すでしょ?」
「そ、そんなこと!!」
「ごめん。少し見苦しいよ」
ネフィアが白い翼を持つ形態に変化した。グラビデはその姿に驚く。幻聴なのか聖歌が聞こえ、まるで天使であり女神のように立って睨んで剣を構える魔王の姿に「自分達の方が愚かなのでは」と言う錯覚に陥る。「正義は向こうにあり。私たちはなんのために集められたのか?」を疑問になりそうなほどにわからなくなる。
グラビデの目にはどうみても敵には見えないのだ。だからこそ叫んだ。そして、それでも苦し紛れで能力を起動する。
「あああああ!! グラビデ!!」
彼女が叫び能力が発動する。周囲一帯で重力が増え。ネフィアの動きが止まる。ネフィアはへたりこみ、重力に耐える魔王を見て「あっ」と言う顔になった。余裕が生まれる。
「なんだ。効くんだ」
「……重たい」
ネフィアは演じる。重いふりを立てないことはないし走れる。しかし、飛び跳ねることはできないと冷静に判断を下しながら、待つ。
「このくそ女!! ビビらせやがって!!」
「………本当に勇者?」
勇者ライブラに見せられないほどに醜く表情を歪ませてナイフを取りだし近づく。ネフィアの問いには答えない。
「私一人で倒せるね……あなたを」
余裕の笑み。憎たらしいほどの余裕の笑み。
「うぐ………お願いします。殺さないで」
ネフィアはこっそり。舌を出す。答えは決まっているが意趣返しだ。
「………」
グラビデは答えない。しかし、グラビデは手にあるナイフを握り直した。行動で問いに答えたのだ。
「結局………そうなんですよね、勝ち誇るんですよね。グラビデさん。私って美人で白いから目立つでしょ?」
「ええ、それがなにか?」
警戒するグラビデ。余裕の表情が崩れる。
「カイザーフェニックス。足元がお留守ですよ」
「!?」
グラビデはその場に止まり、ナイフを構え足元を見た。しかし、彼女は気が付いた。上が熱いこと。目線をあげた瞬間に炎に飲まれる。
「きゃああ!!………………」
ゴオオオオオオオオオオオ
上から襲って来た白い炎の翼を持つ鳥に飲み込まれて重力の影響を受けていたのかいなかったのかはわからないほどに一瞬で喉を焼ききられ全身を燃やした。辺りに人間の焦げた臭いを撒き散らす。悶える時間はない。そして熱風がネフィアの頬を叩く。
「……………」
絶叫はない状態で立ったまま彼女は何もかも黒く白く炭化し、倒れた瞬間に体が砕けた。骨は高温で曲がり。ただ人だった物が転がる。その中心から小鳥が突き破ってネフィアに戻っていった。内蔵も何もかも水分等を蒸発させて焼ききっているだろう。内側から。
「………うぷ。ちょっと気持ち悪いですね。残酷でしたか」
あまりの残酷な光景を作ったネフィアは「仕方がない」と思いながら剣を収めて手を合わせる。
「天国へ行けますから………どうか次の転生先は普通の人として生きてください」
無慈悲だが。ネフィアは扉を護る衛兵に後始末を頼む事にしたのだった。あと3人と考えながら。
*
勇者たちは朝にグラビデが居ないことに気が付いた。気が付いた瞬間、宿屋の主人から「彼女は夜に何処かへ出掛けた」と聞く。ギルドの酒場で彼らは会議を行う。既に亡くなっている事を知らずに。
「なにかあったのか?」
「わかりません。しかし、彼女はそれでも勇者の一人ですから強いと思います。しかし、帰ってこれない。何かの事件に巻き込まれたのかもしれません」
「どうする? 待つか? 探すか?」
勇者一向の唯一の男性であるライブラが提案する。危機感を持っていない3人。そう………すでに魔王の手によって葬り去られている事を知らない彼らは愚かな選択をした。
「探そう。3人手分けして情報を手に入れよう」
「確かに時間は惜しいですものね」
「決まったね。では………昼に一回ここに戻ってこよう」
「ああ」
「ええ」
「一応、事件の匂いだから気を引き締めよう」
勇者一向は頷き。パーティは解散した。ギルドの酒場でそれ以降彼らの姿を見たものは居なかった。彼らは自信に満ちていたために別行動に移ってしまったのだ。
§邪眼の女騎士の目の前にラスボス
女騎士メデューサは大きな通りの商人に話を聞いていた。大通りで堂々と人探しをしているのは一応は目立ち。なにか向こうから接触があると思っての行動だったが。そのとおりだった。
「人間の姉ちゃん………やぁ!!」
「おまえは」
「この前はありがとう」
「いや………………」
彼女は予想外だった。この前、酒場でゲロを吐き財布を盗んだ少年が声をかけてくれたのだ。
「でっ……姉ちゃんもしかして人探ししてる?」
「………すまない。子供は危ない事に首を突っ込まない方がいい」
「姉ちゃん探してるのって………あの軽装の姉ちゃん? 知ってるよ?」
「!?」
彼女はその場を去ろうとした瞬間に足を止めてしまう。
「裏路地行こうぜ~子供だからこうやって稼がないと生きてけないんだ~金貨1枚ね」
「…………」
メデューサはどうしようかと悩み。一緒に路地裏へと入る。路地裏と言っても4mぐらい幅広い場所で建物の影になっているが普通の道とも言える場所である。
「姉ちゃん。昨日ね………ここであの姉ちゃん一人で情報を集めにいってたんだよ。そこでさ………こう暗殺者の人と戦ってた」
「な、なんだって!?」
少年が喋り出す情報にメデューサは驚いてつい口に出してしまう。
「お姉ちゃん強かったよ。でっ命からがら逃げて潜伏してるんだ。僕知ってるよそこ」
「そうか………ならそこを教えてほしい」
「うん………わかった。勇者殿」
しゅっ!! ザグゥ!! グリグリ!!
「かは!?」
少年が一瞬で間合いを詰め女騎士鎧の隙間、横腹にナイフを突き入れた。メデューサは目の前の状況についていけず。横腹を押さえながら少年から離れる。少年は目を閉じていた。メデューサは自分の能力を知られている事に背筋が冷える。何が起きているかわからないと言うように。
「何故……何故だ!!」
痛みに耐えながら。赤く塗れたナイフを持つ少年の声が変わる。幼さを感じない声だ。そう………青年の声が路地裏に木霊する。
「自分は人間とゴブリンの血が混じってて体が小さいままなんですよ。まぁそんな仲間がいっぱいいるんですけどね。だから一応大人です」
「くっ!! 騙したのか!!」
「ええ、自分の出身地。都市オペラハウスの子役から。女王陛下の元への志願兵ですよ。お仲間の所へ送りますよ。殺して帝国に」
「こ、殺した!? あの………グラビデを!?」
女騎士は戦慄する。人間の少年にそこまでの強さがあると思えなかったのだ。剣を抜き、痛みに耐えながら構える。傷はゆっくりと癒えていく。
バサッ!! スタッ!! ダダッ!!
女騎士は上から大きな影が降りてくるのがわかった。それは大きな布。それが女騎士に被ってしまう。気がつくのが遅れた。それは目の前の少年のせいで、目の前の殺意に目が離せなかった事が原因だった。
何人かの足音が聞こえる。女騎士は剣をむちゃくちゃに振り回して布を切ろうともがくがその前に。路地裏に殺到した部隊に鎧の上から斬り下ろされたりしてぼこぼこにされる。鎧を着ていたために耐えていたが、多勢に無勢。しだいに………倒れ。布が紅く染まり路地裏に血だまりや壁に飛び血が散乱するまでにやられる。
「まだ死なないか」
「自身を硬化しているな。しかし………姫様よりも耐久は低いな」
「夢の中の姫様。頑丈だったなぁ………」
皆が染々と女騎士の亡骸を見る。微かにまだ息はある。「弱ければ苦しまずに済んだものを」と皆が思う。なお、ネフィアは夢の中で剣一本だけのハンデで隊員と戦い。損耗耐久戦で勝利している。「それよりも弱いな」と隊員は思ったのだ。
「首を落とす。俺が」
一人の刀を持ったダークエルフ族が腰から抜き、スッと振り……刀を戻す。すると布ごと、女の首が飛んだと思った瞬間。光だし粒子となって消えてしまう。
「姫様の元へ行ったか」
「あとは姫様の仕事だな。にしても………めっちゃ名演だった!!」
皆が同士のゴブリンの頭を叩きまくる。勇者を俺達で倒せたことを喜びながら。
*
昨日の今日。目の前で惨劇を行った魔王は玉座の間にある椅子に腰かけていた。朝食を帝国の食堂で衛兵と食べた後からずっと。
「すぅ…すぅ……」
寝ていた。翼は畳まれ、魔力の羽根が玉座のあちこちに散り、玉座に陽光が差して女神が寝ているような光景が生まれる。
あまりの幻想的な光景に衛兵たちは明け放たれた扉から覗き込んだ。絵心を持つ衛兵が一人、スケッチし出す。女騎士の鎧をドレスに見立てて。
玉座の間に…………穏やか時間が流れていた。だがそれは終わる。
ブオオオオオン!!
魔方陣の起動音とともに静寂が崩される。慌てて衛兵が扉を閉めた。ネフィアも目をひらけ、顔をあげる。
「んんんん!!…………よく寝た。相手はメデューサね」
魔方陣を眺め。姿が見えたときにネフィアは玉座から離れ柱に隠れる。相手が目を合わせると危ない相手と理解しての行動だ。
跪いた女騎士が召喚された。メデューサはその瞬間体を抱いて震わせて叫ぶ。
「なんと卑劣な行為か!! 魔王めえええ!! 性根の腐った魔王め!!」
ネフィアはビクッと体を震わせる。全く心当たりがないのに怒られている事に。
「………えっと。おほん」
ネフィアは気を取り直し声を響かせる。
「余になんのようだ? メデューサ」
「なっ!? 何処から声が!! おまえはいったい!!」
「魔王ネフィア……がり…………」
ネフィアは悶絶する。ここ一番で舌を噛んでしまった。あまりの痛さに名前を言い切れなかった。
「魔王!? 何故帝国に!!」
「…………」
「答えろ魔王!!」
メデューサが大きく叫び、剣を抜いて声を荒げる。ネフィアは答えようとしても答えられない状況なのだがそれはメデューサは知らない。
「何処だ魔王!! 出てこい!!」
「すぅ………ああ。痛かった。出てこれるわけないでしょメデューサ。石化させられるし」
「何故知っている!! それと!! グラビデはどうした!!」
「灰になりました。知っているのは勇者から聞いたんです。あとですね~酒場で会話はだいたい丸聞こえですよ」
「…………帝国に潜伏していたのか!?」
「ええ、あなたたちを倒すのに2回倒さないといけないですから。リスポーン狩りです」
「卑怯な事をして。勝ってなんになる!!」
「卑怯? 勝つための努力は生きるための努力です」
ネフィアは堂々と話す。
「私は魔王になりたくありませんでした。しかし………この大陸で生き抜くために私は皆に選ばれました。それを否定はしませんし。何があったのか知りません。ですが、選ばれたら戦わないといけないのです。民のために」
「…………くぅ」
「ですので死んでください」
「………姿を見せろ!!」
「はぁ……血が登ってますね。フェニックス」
ネフィアはため息を吐きながら、炎をだし、それがネフィアの姿をする。そのまま歩いて柱から出す。囮だ。
「お前が………お前が魔王か!!」
メデューサが剣を振りかぶりフェニックスを切る。切られたフェニックスは笑い。剣に炎が巻き付く。
「な、なに!?」
剣を払い、炎を引き剥がして距離を取ったメデューサ。フェニックスはそのまま立って笑みを向ける。柱の裏からネフィアは手入れようの手鏡で位置を確認し、柱から走り出す。側面、鎧の薄い場所を目指し鞘を掴み。柄を掴み。居合いの構えをする。
「に、偽物!?」
目の前のフェニックスがネフィアの偽物なのにメデューサは気が付いた。しかし、もう遅く。だが、メデューサの騎士としての勘がこのときやっと働き側面を見る。ネフィアもしまったと思う。
メデューサとネフィアは目線が合った。目を閉じる前に合ってしまった。
「あっ……」
メデューサはネフィアの姿に「何故、天使が?」と思い。一瞬で「女神から堕天して裏切り者」と勝手に解釈し、深い増悪の笑みを浮かべた。
ネフィアは体が石化して、動かなくなると思ったが。普通に剣を鞘から引き抜き、炎刃が女騎士を巻き込む。
「な、何故!?」
「な、なんで!?」
「「効かない!?」」
メデューサは絶望な表情で絶叫しながら、倒れ炎に焼かれる。ネフィアも驚きながらも絶叫をうるさいので音を消し去り首を傾げた。
ネフィアは全身を見てもなんにもなってない状況に悩む。そのまま「まぁいっか」とネフィアは考えるのを止め。さっと女騎士の首を斬って絶命させる。苦しんでいるようだったので介錯した。
「勇者って人柄………悪い? でも、転生後はこの世界の住人になれたら普通になるのでは? 変えた? 洗脳?」
そんな疑問のまま。ネフィアは偽物のフェニックスを戻して衛兵に終わった旨を伝える。すると衛兵の一人がデッサンさせてほしいと言われ快く承諾する。
衛兵が片付けるなかでネフィアは気が付かない。石化の呪いが効かない理由と己がまだまだ変異している段階だと言うことを。いままで、呪物を浄化してきた事を忘れていた事も忘れている。そう、メデューサも知らない。何度も呪いをはね除けた魔王ネフィアが聖職者であり、自身を祝福できるほどに矛盾した退魔の力を持っていることに。聖なる力を行使出来ている存在なのだと。
エルフ族長は知り、ネフィアも人間至上主義女神も気付いてないのだった。
§陽の天使を崇める勇者を寝取る魔王
サーチは一人、新設された教会に足を運んだ。信託や教会の女神に会いに来たのだ。教会は小さいがそれでも多くの信者がひしめき合い。喋り散らかしうるさく。少しだけ眉を歪ました。亞人の神父がそれに気がつき、説明する。
「人間の信奉者ですか。すいませんね。これも女神の求める物ですから。人間は静かにお祈りしたいでしょうが……申し訳ない」
「ええ、驚きました。うるさいです」
「まぁ待合所のような場所であり、女神は許してくれるのです。騒がしいのも静かなのも全て受け入れる。そんな女神様です」
サーチは一人で宗教関係の情報を集めていた。最近、新しく宗教が魔国で流行り。それが魔王ネフィア誕生を後押ししたと言う。内容は多神教。「多くの神が魔国に降臨していただいている」と言う物だ。
多神教。そう………サーチは情報を掴んでいた。
愛を司り。性に関して悪とも聖とも言われ。皆が心に愛があると信じる愛の女神エメリア。
大地の全ての母である世界樹の生まれ変わりと言われ。商業を司り。竜をも従える聖樹女神ユグドラシル。
陽の明るさ。全ての種族を照らし。名前はまだないが絶対に存在すると言われる太陽の女神。
3人程、有名な神があり………魔族全員がその宗教者であると言う。また魔族ごとで神が違う事も含めて多神教化したらしい。しかし、ほとんどが無宗教だったのが陽の女神の挨拶したら宗教者と言う「簡単な物のために。莫大に広がってしまった」と言う事をサーチはスパルタ国で一冊の本を買って知っていた。今も持っているそれを神父に見せる。兎耳の神父はそれを見てピコピコと耳を動かす。
「それは………聖書ですね。どなた執筆ですかな? 私はグレデンデ大司教さまのが好きです」
「グレデンデ大司教です」
「それはそれは……同志ですね」
グレデンデ大司教。サーチはこの多神教宗教で魔国を一つにした張本人。こいつが裏の魔王だと思っていた。 しかし、どうやら本当に聖書の主人公が魔王らしく。逆に困惑する。魔物の王らしくないのだ。
「私もこの本を読んでみて凄く気になったんです。魔王のことが。私は………その………勇者です。しかし………聖職者でもあります」
「そうですか…………姫様はたしか勇敢な方。戦ってくれるでしょう」
「魔王を慕う人は………多いですか?」
「多いです。何故なら私たちが唯一。一つになれる方法なのですから。この首都もやっと一つになりました。争いで殺し会う事も、いがみ合うのも、もう終わりです」
「でしたら………私の仲間を拐ったのはあなたたちですか?」
「ええ、そうですねきっと。姫様と勇者に選ばれた精鋭。祝福されし英魔国護りの衛兵たち。黒衛兵隊ですね。呼び名は様々ですが……教会によく顔を出してます。気をつけてください」
教会の人々が途端に敵に見えるサーチは一人。ため息を吐いた。
「それを話すと言うことは………私一人では敵わないのですね」
「ええ、きっと………ですが。姫様に説得すれば助かるかもしれません」
「それを喋って良かったのですか?」
「自由で静かに暮らすこと。それが女神が求めるものです。それに同志じゃないですか。私には……あなたが可哀想に見えるのです」
サーチは息を飲んだ。神父が笑顔に驚かされたのだ。姫様を殺そうと旅している奴に向ける顔ではない。そう………聖職者の器を見せつけられる。
カツン!!
「………おっと。衛兵のご登場ですね。教会の裏側もいるねこれは」
「……はぁ……拷問されて最後ですか」
サーチはため息を吐く。「きっと根掘り葉掘り言われるのだろう」と諦めてそう思っている。獣族とエルフ族の二人の前に神父が躍り出た。
「神父すいません。その人を渡してもらえませんか?」
神父が前に出てサーチを庇う。サーチはまたここでも自身の聖職者像との隔離に驚かされた。
「神の御前で血生臭いのはやめてください」
「ああ、だから。渡してほしい」
「ここは教会の敷地内。権限はこちらです」
「姫様のためにだ。お願いだ………」
神父と衛兵たちがサーチを無視して議論し合う。一人、エルフ族が俊足で離れる。
「動くなサーチ。お前の仲間がどうなっても知らないぞ」
「仲間は………どうでもいいです」
「なに!?」
「………サーチさん?」
「ええ、どうでもいいです。作られた仲ですから」
サーチは投げやりに言う。神父たちが顔を傾げる。そんな中で駆け足で二人が現れる。その速さには目を見張るものがあった。恐ろしいほどに俊足でこれは逃げられないとサーチは悟る。黒い大きい角が生えた男性だった。大きな黒い剣を背中に担ぎ。そしてサーチを庇う教会の主に頭を下げた。全員が同じ行為をする。
「神父、すいません。後で罰は受けます。お願いします。俺の命と交換してください」
サーチは息を飲んだ。「こんな少女を引き渡す事にここまで言うにか」と。
「はぁ………隊長自らですか。ダメと………」
「すいません。神父………私を庇ってくださいましたこと感謝します」
サーチは覚悟を決める。このやり取りを見て………これまでの全てを見て………自分は悪だと知る。物語勧善懲悪と言う話ではない事を確実にする。
「隊長さんでしたか………連れていってください。陽の女神の加護があります。次回の人生が願わくば英魔族でありますように……」
「……………そうか。すまないな………人間の聖職者」
「はい。ここで、お願いします」
サーチは正座する。そして………商業都市で買ったお守りを握りしめる。陽を形を型どった物。目を閉じて身を捧げるように祈る。
「魔王は………帝国に居るんですね。やっぱりあれは見間違いじゃなかったのですのね」
「知っていたのか? 教会で出会ったと聞いてはいたが………」
「能力を使い、調べました。最初は間違いだと思いました。しかし………調べていくと納得しました。姫様に会い。聞いてみます。私は運悪く勇者として生まれてしまったから」
「………はぁ。同じ同志。向こうで姫様にお願いしてくれ。もし、説得出来れば生かして貰える筈だ」
「優しいですね」
「………敵であれば容赦はしないが。その瞳に敵意はない。サーチと言ったな。我が名は隊長ノワール・デビル。悪魔だ」
「礼儀の正しい悪魔ですね」
「………これも運命か。全てを見届けよう。もし、許されざるなら、私が亡骸はしっかり丁寧に供養しよう」
「あなたは悪魔ですか?」
「悪魔だが…………いい答えを持ち合わせてない。すまない」
「そうですか……では供養。お願いします。神父さん。ありがとう、庇ってくれて」
「………ああ。帝国だったな。待っていろ。長旅になるからな」
そう言い、ノワールは剣を降り下ろすのが見えてサーチは痛みと共に意識を失うのだった。
*
ネフィアは玉座に座る。スケッチをする衛兵のために皇帝の許しを得て玉座に座っていた。衛兵の用意した服を着替えた状態で止まって待っていた。その瞬間にスケッチしている衛兵の足元に光が集まり魔方陣が産み出される。召還されるのは際どい姿の聖職者だった。
ネフィアは知っている。出会っている。一度出会っていた。帝国の教会で。衛兵が慌ててスケッチを持って避難する。
「姫様………申し訳ありません。鎧ではないことを」
「気にするな。余は魔王………このドレス。綺麗だからな。汚さぬようにするよ」
「陽の加護があらんことを」
衛兵は嘆息する。その堂々と勝つ宣言する魔王に心を奪われる。玉座に帝国の旗が風のない筈なのに靡いた。
「ん………んん………」
ネフィアは横になって倒れる聖職者に剣を向ける。
「………サーチさん。能力は鑑定」
「………魔王様。いいえ、女王陛下ネフィアさま」
ネフィアは様子の違う勇者に剣を納める。敵意がない。そう、敵意がないことに気が付く。
「お初ではないですね。サーチさん」
「ええ、教会で」
「それで。どうして………諦めたんです。使命を。勇者でしょう?」
「………えっ」
サーチは驚いた表情を見せた。「何度も何度も驚かされてばっかりだ」と内心で思う。
「見たらわかります。覇気がない」
「………長くなりますが聞いてくれますか? 会いたかったです」
「ええ、いいでしょう。ちょうどそこにテーブルありますし、椅子もあります」
ネフィアに導かれて席に座るサーチは話をする。ネフィアは内心でドキドキした。何故なら殺気だっていない以上に何か思っていたのと違うことに。悩み相談、懺悔みたいな状況に。
「私の能力は知っています。私は教会で一度能力を使いました。そして………一瞬で全てを知りました」
「全て?」
「女王陛下ネフィアさまと名前がわかった後に………すごされた日々に。何でもです。能力以上に知ってしまいました。勇者を愛している日々を」
「…………恥ずかしいですね。うん」
ネフィアは照れる。サーチは「そんな笑顔が出来る魔王を知らない」と心で思いながら口にした。
「作られた使命と作られた勇者。作られた勇者への愛。何もかも女神が作った物です。そう………私は何もかも作られ。勇者を無償に愛せという呪いをかけられています。だから……それをサーチして確認して自分で知って『消えたい』と思いました」
サーチは自分を鑑定した。「結果は散々だったのだろう」とネフィアはそう思い、口にする。
「呪いを解いてほしいですか?」
「呪縛を解放してほしいです!! あなたの愛する真の勇者トキヤさまのように!!」
「…………味方を殺しましたよ?」
「本当の味方を………普通に愛して作りたいです。皆、英魔族の人々はいい人ばっかりでした!! 庇ってくれて………嬉しかった」
サーチが泣き出す。ネフィアは席を立ち子供をあやすようにサーチを抱き締めて自分の翼でも包む。
「陽の天使ネフィアさま。どうか………裏切りを女神からの堕天を認めてください」
「いいえ。認めるか認めないかはあなたの足で歩いてください。私は背中を押すだけしか出来ません」
「知ってます。自由になりたい」
「…………サーチ。下の名前は?」
「ないです」
「では、爵位司祭。サーチ・リベルタを名乗りください。あなたは自由です。あなたのその翼で好きに飛び立ってください。私が祝福してあげるから」
「ネフィアさま………ありがとうございます」
深く私の胸に顔を沈める。ネフィアは優しく子を撫でるように慈悲を渡す。
物音がしない事に疑問に思った衛兵が扉を開けて見たとき。「天使の祝福する瞬間を見た」と目に焼き付けるのだった。
§勇者と裏切り勇者
俺は一人、酒場に帰ってきた。昼を一人でとり、スマホに電気を流して補充する。周りの目線があるが気にせずにスマホで位置を確認した。スマホにはこの都市の地図が用意されている。
「…………いない。どこにも」
消えたと表現すればいいのか、何処にも反応がない。今更ながら蜘蛛をつけていればよかったと後悔する。一人一人、消し去られているのだ。
「勇者ライブラ。話がある」
「と、トキヤさん!?」
酒場に知り合いの彼がローブを被って登場する。深刻な顔で俺の席の向かい側に座る。
「ライブラ………全員個別で捕まったようだ」
「な!?」
「話はここで出来ない。ついてきてくれ奪還する」
俺は驚きながらも。なんとなーくそんな気がしていたので頷く。「捕まって俺が助けに行けば株も上がるし、勇者らしい」と思い。深刻な顔をしながらも内心は喜んでいた。そういうイベントだと思う。
「余裕そうだな」
「勇者だから」
俺にはこのチートアイテムがある。「大丈夫だ」と信じ、彼に連れられ酒場を出た後に路地裏に入る。こっそり蜘蛛をつけて警戒しながら。
そして………大きな路地の裏に何故か広場があり。公園でもないただ広いだけの場所である。建物の影で少し暗い。
「ここは?」
「物置き場だった場所だ。情報屋の集まる場所でもあるが………誰もいないな」
「変ですね」
俺はこっそり蜘蛛を戻す。そしてスマホの画面を見て驚きの表情と共に地面を蹴り距離をとった。
内容は爵位勇者。英魔女王ネフィアの王配と言う情報だけで俺は臨戦体制に移る。スマホの中に数十個の魔法をコピーした。
「どう言うことですか!! 魔王の王配とは!!」
「………やっぱ厄介な能力だな。報告通りか」
「トキヤさん!! なんで裏切って!!」
「おい。ライブラ…………そいつの相手は俺がする」
「ああ、遅かったな偽者いいや………偽物かな?」
俺は連続で入ってくる情報に混乱する。先ず……目の前のトキヤさんは王配。後ろから聞こえたのはもう一人トキヤさんがいる。これはいったいどういうことだろうか。
「な、何がどうなって!?」
「さぁ~どうなってるんだろうな」
偽物が笑顔になる。憎々しい顔だ。それに本物が睨んで話をする。
「ライブラ、お前の仲間は全員殺された」
「えっ!?」
「目の前の奴にな!!」
俺は驚き、目の前の男を睨み付ける。何してるんだこいつ。
「俺はまだ一人も殺ってない。お前で一人目だ」
「ほざけ………ライブラ逃げろ。ここは俺がやる」
「お、おう。援護は………」
「とにかく帝国まで逃げろ。とにかく逃げろ」
俺は踵を返して路地裏に逃げる。スマホを構えたまま。
*
勇者トキヤと王配トキヤが同じ形の剣を構える。
「腕治ったのか?」
「女神が祝福してくださった。お前こそ腹に穴が空いてただろう」
「……ネフィアがな、癒してくれたんだ。『白い翼でまるで天使だった』と聞くぜ。奇跡を俺のために起こした。本当にいつもいつも………死なせてはくれないよ」
「………ギリ」
勇者トキヤは歯軋りをする。憎々しい自分のモデル。苦渋を飲まされた事への怒りと惚れた女のノロケ話などにヘドが出る思いだった。
「ここへ来る途中でも。夜を何回か………綺麗な聖女を汚す感じだったな。俺の上に立ち、俺の下で手を広げる姿は淫魔のそれだな」
「ギリギリ………」
ニヤリと王配トキヤは歪んだ笑みを見せつける。精神攻撃をして、相手の冷静を失わせるつもりで効果はある。下劣な話をしているが、王配トキヤは採取される側なので苦労している。
「まぁ、お前に言っても自慢にしかならないな」
ギャン!!
勇者トキヤ距離をつめて怒りを込めて剣を降り下ろし重い一撃を出す。王配トキヤはそれを剣で防ぎ。力勝負をする。
「なんだ? まーだ心に奴への渇望があるのかぁ? やめとけ………俺しか見えてないぞ」
「お前を殺せば!! 稲妻の螺旋!!」
剣に電気が走るのが見え王配トキヤは後方に下がる。バチバチと剣が帯電し、剣を中心に螺旋を描く。それに王配トキヤも準備する。
「嵐の支配者」
王配トキヤも風を剣に纏わせた。
ゴオオオオオオ
バチチチチチチ
「一撃いいのかましてやる」
「………一度死んだ奴はな!! 死んでないといけねぇんだよ!!」
勇者トキヤが叫び剣を振るい。王配トキヤも同じように振るう。
路地裏で雷と嵐が混じり魔力となって霧散し破壊の限りを尽くさんと荒れ狂う。そして、その中で火花が散る。遅れて激しい金属音を鳴り響かせながら剣と剣が撃ち合う。 路地裏の建物が壊れていく。
「あぁ~お前の剣軽いな」
「何を!!」
王配トキヤは防戦一方だが。余裕を見せる。
「実力はお前の方が上だが………今回は負けられな
い!!」
ブワッ!!
王配トキヤの周りに風が集まる。そして、勢いよく後方に飛ぶ。追い縋れない程に早く速く移動する。
「なっに!! 逃げるのか!!」
「………」
追い縋ろうと稲妻のごとく走る勇者トキヤ。それに向けて王配トキヤは大剣を投げつけた。それを勇者トキヤは弾いた。その瞬間………王配は消える。
「!?」
風に混じるように王配トキヤは姿を消した。剣を残して。
「風隠しか………」
勇者トキヤは目を閉じる。怒りを静め感覚を研ぎ澄まし、背後にいるのがわかった。くるりと翻し抱きつきにいく。
ザクッ
勇者トキヤはナイフを腹に受け止めながら獲物をとらえた。離さないと強くしがみつきながら。暗殺者を捕まえた。
「!?」
「捕まえたぞ!! はははは!! 一緒に死んでもらう!!」
「………ああ。お前は復活できるんだなそういえば」
「ああ!! だから!! 神の審判!!」
「へぇ~大呪文か」
ゴロゴロドゴオオオオオオオオオン!!
晴天の霹靂。都市を揺るがす大音量と共に路地裏にピンポイントで落雷が落ちてくる。抱きつく二人を焦がしながら。
「ぐぅ……があああああ!!」
「あああああああああ!! はははははは!!」
自爆で道連れを敢行した勇者トキヤ。狂気じみた笑い声で痛みに耐える。王配トキヤはナイフをグリグリと抉るがいっこうに死ぬ気配はなかった。
「勇者に尾行し、お前が出てくるのを待っていた。俺と死ね!! そのすました顔を焼ききってやる」
「…………じゃぁ。俺とお前の我慢比べだ」
「くく、簡単にへばるなよ俺!!」
都市にもう1つ稲妻が落ちる。空気を鳴動させながら。
*
その頃、ネフィアは優雅に用意されたテーブルと椅子で午後のお茶を楽しんでいた。目の前に泣き張らした目をしている女の子。サーチと一緒に。衛兵のスケッチはまた後日になった。今は目の前の女の子と話をしなければならいとネフィアは思う。
「帝国のど真ん中でこんなに優雅にお茶を楽しむなんて…………変ですね」
「何処でも淑女たるもの。落ち着きを持たないとね」
「ありがとうございました。スッキリして………楽になりました。ネフィア姉さま」
「よかった。私も楽にこうやってお茶が飲めるのもあなたのおかげよ。敵対してたら死体処理中だったわ」
サーチは「恐ろしい冗談を」と身震いして、あることに気付き想いを伝える。
「お姉さま………」
「ごめんなさい。ちょっと怖がらせちゃった?」
「格好いいいですうううう!!」
「!?」
ネフィアが紅茶を溢しそうになり。慌ててカップに乗せる。
「んんんん!?」
「はぁ………お姉さま。流石です。その凛々しくも男のように勇敢でありながら。女の繊細さとお上品さを兼ね備えてるなんて………同じ女性とは思えません。いいえ、お兄さまと呼びしていいのでしょう………ああ!! 尊い」
ネフィアは恐ろしい物を見た気がすると頭を押さえる。これはヤバイ。目でわかる。女の子の表情とその恍惚とした顔を見れば誰にでもその感情は読み取れた。
「あ、あなた。勇者にゾッコンではなくて?」
「教会で見たとき。私はこれは運命と思いました。そして………苦しみました。正直に言います」
「う、うん…………」
「お姉さまぁ~私のお姉さまになってください‼」
これはあれだとネフィアは思う。都市オペラハウスでもあった。同性に対する異常な感情。ネフィアは理解できない感情だった。慕うならわかる。慕う以上に見えるのだ。まるで恋する乙女のように。
「お姉さまの活躍は知っております。聖書を何度も何度も何度も読みました。丘での笑みは………本当に美しいです」
ネフィアは知らない。彼女が読んだ本が盲信者。エルフ族長の本だった事を。
「……………」
「あらあら、ネフィア困ってるね」
「エメリア………だって」
ネフィアが引き気味にエメリアを見る。フワッと現れた女神は嬉しそうにご挨拶をする。
「エメリアです。こんにちは……勇者サーチ」
「始めまして!! エメリアお姉さま!! 美しいお姿です」
「「えっ?」」
「どうかされましたか?」
「い、いいえ。ええ、ええ」
「エメリア。凄く焦ってますね」
ネフィアは理解している。エメリアも理解している。「破廉恥」と言われなかった事に動揺したことを。サーチはそれを凄く仲のいい姉妹に見え、己が女神のお茶会を共にできる今日の幸運を祈りだした。
「今日の幸運をありがとう。お姉さま」
「ネフィア!? どうしよう!!」
「エメリア………あんまりに祈りなれてないから慌ててる」
「………だって」
「ふふ。女神のお姉さま方。大丈夫です。どんなお姿でも受け入れます」
「………洗脳解けたんじゃないの?」
「………おかしくなってますね。私、女神じゃないですし」
「ああ、辛辣。ネフィアお姉さま」
「ごめんなさいね。あまりの変わりようで………」
「お姉さま。1ついいでしょうか?」
「なーに?」
ネフィアはサーチの言葉に答える。サーチは嬉しそうにしたあとに何か考えて言葉を口にした。
「お姉さまの役にたちたい。お姉さまに救っていただいたのに何も御礼ができていません。神父さんや………色んな人に。そう………ノエールと言う悪魔さん。私の亡骸を供養してくださると約束してくださいました。帝国まで来てくれるそうです」
「そう、役にたちたいのね。トキヤさんは転生者でありながら記憶なしですけど。サーチさんはお持ちですか?」
「少なからずあります」
「では………ノワールさんと一緒に東方の島国を探して向かって欲しいです。都市ヘルカイトにユブネさんと言うドラゴンがいます。お話を伺ってください」
「島国?」
「はい。サーチさんはどういった国の出身でした?」
「島国です」
「なら、味噌とか文化を学んできてください」
「??」
「味噌汁飲みたい。松茸、醤油、揚げ豆腐………」
ネフィアが悲しそうに味を思い出していた。ワンダーランドの世界で知ってしまった美味しさを思い出す。
「ネフィアお姉さま。思った以上に俗世にまみれてますね」
「だって………だって…………」
異世界を何故か経験してしまい。「味を覚えてしまったのが運のつきだった」とネフィアは思う。
「わかりました。その任を承ります」
「ありがとう。ノワールさんをちょうどいいので護衛につけます。二人でユブネさんを訪ねなさい。今から色々と書くわ」
「何をですか?」
「私直々の勅命書。ノワールさんとユブネさんや他で困ったら使いなさい。女王が命ずる使命です」
「わかりました!!」
衛兵に道具を持ってくるように頼み。10枚ほど直筆書き込む。その一枚を私は開け見せる。
「お姉さまの字………綺麗」
「そこじゃない」
「………内容はわかりました。しかし、何故複数を?」
「見てて………」
勅命書が燃え上がる。封筒と一緒に。
「!?」
「私の魔法が入っておる。読んだら燃え上がるから偽装も出来ないわ」
「わかりました切り札ですね」
納得してくれたようでそれを受け取るサーチ。
「ありがとうございます。姉さま……あ~姉さまの人生羨ましいですわぁ~」
「あげませんよ。私のトキヤとのシンデレラストーリー」
「本当に……勇者が好きなんですね」
「好きにならない理由はなくってよ?」
「そうですね。ああ、本当に羨ましいです」
サーチが年頃の乙女のように恋愛話を話す。ネフィアはそれを聞きながら赤面した。エメリアも同じように会話に参加して裏話を話す。
「ネフィア姉さま。暴れすぎですね」
「猛牛ですね。あっ猛乳牛でした?」
「ネフィア姉さまの乳!! 触ってみたいです!!」
「そんなことよりも面白い事があって………」
ネフィアは恥ずかしい過去を暴露され。ネフィアの辿ってきた恥ずかしい恋ばなもされて心がゴリゴリと削れる音が彼女はしていた。ネフィアは顔に出さず淑女として落ち着いているが、「穴があったら入りたい」と思った。事細かに見聞されている様は日記を誰かに見せているようなそんな気分を味わっていた。
「二人とも、そんな過去の事はいいでしょう」
「さ、さすがお姉さま。過去は過去と?」
「トキヤ以外の事は忘れたわ」
全部覚えていることは言わない。
「はぁ……高潔ですね………お姉さま。少し真面目な話いいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「お姉さまは何故。自身の能力や強さを過信したりせず。粛々としているのでしょうか……いえ。能力等は知ってますか?」
「婬魔の能力でしたら。夢や姿を変えるぐらいです」
「目に見えない能力をお持ちではないでしょうか?」
ネフィアが首を傾げて考える。
「剣術、魔法、奇跡………他に出来る事は家事、料理、洗濯、編み物、乗馬、物書きでしょうか? サーチさん」
「本当に教養がよろしい事です。いえ。魔王……間違えました。英魔族女王になるために必要な事でしょうか?」
「強さは必要でしょう。英魔族ですし」
「ネフィア様………申し上げます」
サーチがネフィアの能力の名称を知らないが近い言葉で話をする。抜けている部分でだ。
「ネフィア様は………勇者なのではないでしょうか?」
「!?」
その結論、評価にネフィアは息を飲む。そして、パタパタと手を振った。エメリアは「しまった」と言う顔をする。しかし、それにネフィアは気が付かない。
「勇者じゃないですよ。女王です。魔王ですよ」
「勇者の定義は果たして転生者のみですか?」
「………それは違うでしょう」
ネフィアは旦那を思い出して言葉にする。
「どんな過酷な状況でも未来でも。希望を忘れず勇敢に結果を求める者であり。英雄と同じように偉業を成した人を言います。そして………勇気を授ける者でもある。名誉の爵位と考えております」
「ネフィアお姉さま。お鏡……ご用意しましょうか?」
「………」
「ネフィアお姉さまは傲りませんが少し自身の事を過小評価し。自身をあまり知っていません。いえ………見てこなかった」
「サーチ。愛の女神が断じます。それ以上はいけません」
エメリアが制止の声をあげる。しかし、サーチは続ける。「お前なんか怖くない」と。
「ネフィアお姉さま。あなたは勇者です。何処の世界に聖なる力を行使する魔王がいるんですか?」
「………はぁ、ネフィア」
エメリアがため息を吐く。そして、ネフィアは大きい大きい溜め息の後にハッキリと声に出す。
「知ってました」
「「!?」」
二人が顔を見合わせてネフィアに向く。ネフィアは凛とした綺麗な声で真面目に語る。
「少し違いますね。見ないようにしてきた訳じゃないです。考えないようにしてきただけです。いいえ、それも違う。そんな事を考える前に………トキヤさんの夕ご飯を考える方が楽しいです。まぁ今は無理ですけど」
ネフィアは紅茶を飲み干す。ドレス姿で足を組み、王者の風格を見せて。
「私自身、実は恐ろしくなります。『強さ』の力を持っていることや。ふと、昔はあんなにも弱かった筈の自分が気付けば歴代最強の英魔族王であり。今こうして、女神や新しき勇者とお茶を楽しんでいることを。これは必然なのか………それとも。エメリアの指図なのか………わかりません」
「………ネフィア姉様。鑑定してもいいですか?」
「いいですよ」
サーチの目がオッドアイになり、ネフィアを覗き込む。そして言い放った。
「魔王と勇者は相反する存在。敵から見れば魔王。味方から見れば勇者。それはまるで私はお姉さまに男を見るように。トキヤ様は女として見るように。変わっていく者です」
「変な鑑定結果ですね」
「ネフィアお姉さまは………不確定なんです。なんでも演じてなんにでもなれる。トキヤ様の伴侶であると演じる故に今のお姿でしょう。だから………ネフィアお姉さま。それはもうストッパーとして機能し、それ以上に昇華されないのでしょう。天使のような聖女の勇者の伴侶で止まっています」
「……………もしも。伴侶を捨てたら」
「もっと高みを演じることができます。それがネフィアお姉さまの能力です。もっと上を目指すべきです。その先へ行くべきです」
「………そっか。ありがとう。付に落ちた」
「そうですか!! でしたら!!」
時が止まる。そう形容するほどに空気が凍てついたような。そんな気をサーチは味わった。
「女神殺しのために………悪魔になれる。ありがとう………ふふふふ」
サーチはいきなりの変貌に驚く。殺意やドロッとした空気に今さっきまでの穏やかな空気はない。目の前のネフィア様がただただ笑うのに恐怖する。しかし、サーチはその殺意に心当たりがある。そう、ネフィアは忘れていない。心に押し込めて押し込めている。それがちょっと出てきただけ。我が子を殺された怨みは消えてなどいなかった。
「ふぅ………ごめんなさい。ちょっとね」
いつものように「やっちゃいました」と笑うネフィアにサーチは………喜んだ。エメリアは悲しそうに見つめる。
「そうゆうの大好きです。ネフィアお姉さま」
サーチが笑みをこぼした瞬間に魔方陣が起動する。勇者が帰ってくるのだ。魔王の前に。
「今回は誰でしょうね」
ネフィアは静かに立ち上がる。剣を構えて。
*
ゴロゴロピシャッ!! ドオオオオオオン!!
俺は何発目かの雷を落とした。体や至るところが焦げて痛みを発する。腹に刺さったナイフの傷口はふさがり。目の前の男と自爆しようと試みていた。だが………
ズルッ
力が抜け倒れそうになるのは俺の方が先だった。
「な、なぜ……」
俺は声が出てしまう。「しまった」と思ったのも遅く。憎たらしい笑みを王配トキヤは俺に向けた。
「魂喰いは最後まで至ったバカはいない………その前に精神が歪む。まぁそれがどうしたか……知らないな。1つや2つ隠している事があってだな」
「な、なんだ!? その姿は!!」
王配トキヤの頭に角が生えている。悪魔族のように。
「俺だって一度負けたんだ。努力はするさ………それしかできないから。人間ではなくなる。中身がな変異する」
ゴロゴロゴロゴロ。ブオオオオオオ!!
空に雲が出来上がり。雲が渦を巻く。
「お前は風魔法使えないのか?」
「同じ魔法を使ってやるもんか」
「そっか………じゃぁ俺は遠慮なく………やらせてもらう!!」
目の前の悪魔が笑う。詠唱は聞き取れなかったがすでに終わっていた。詠唱を隠され何が起きるかもわからない。
「稲妻の嵐!!」
バチバチ!!
天空から稲妻が降り注ぐ。嵐のように。俺達に容赦なく引き寄せられた。1発1発は弱い稲妻の魔法だが連続して落ちるために呼吸さえままならない。痺れ痛む体に意識が消えそうになる。
「ふぅん!!」
目の前の男がもがき出す。何処からそんな力があったのかデーモンや竜のような力強さに拘束を解いてしまう。
「やれ」
そんな声と同時に……背後から大きな剣が腹を突き破られた。痛みがする。
「ぐはっ………」
「お前らの首級だ。やるよ」
目の前の王配はボロボロの服で背を向けて歩き出す。俺は魔法を唱えようとした瞬間に口を押さえられ、後ろに引っ張られた。剣を引き抜かれ、倒れるように転がされる。そこには数人の亜人が冷たい視線で俺を見ていた。同じ大剣を数人が同時に降り下ろす。
「ぐわああああああ!!」
体が千切れ飛ぶ。視界が暗くなり、そしてまた明るく見える。死んだために帝国に戻されたのだ。そう帝国の筈だ。そう疑問に思う。だからこそ驚く。
目の前に魔王が俺に対して剣を突き入れていた。魔王らしからぬ白い翼をはためかせて眩しい姿で一瞬の場面で頭が混乱する。
「げほっ………ね、ネフィア」
「軽々しく。汚い口で余の名前を語るな。歪んだ愚者。決着ついている癖にみすぼらしい」
「あっぐぅ……」
目の前に手を伸ばす。しかし、それは手に現れた緑色の綺麗な刀身の聖剣に切り落とされ阻まれる。痛みは感じない。そして、ネフィアは剣を刺したまま背を向けて羽を俺に当てる。それは温かく体が炎に包まれるのがわかった。
「白炎翼」
包まれた炎の中で俺は終わりを感じ、ゆっくりと体が崩れるのがわかった。何故かそれは………やっと終われると安心して目を閉じる。
「…………さようなら」
愛しい声が俺の耳に入る。手に入らなかった………至宝はこれからも輝くだろう。あの女神よりも。
*
玉座の間がまた焦げ臭くなる。「人が燃える臭いはなれないものね」とネフィアは心の中で愚痴った。
サーチがトテトテとネフィアの腕をつかんで灰を見る。
「彼は………可哀想な人ですね」
「トキヤを倒すためにトキヤを模倣した」
「だからこそ………歪んだ」
「仕方ないです。トキヤさん姉様のこと好きですから」
スッ
エメリアが灰の後ろにたち跪く。
「姉の犠牲者………私が供養します」
「…………」
「いいでしょう。ネフィア」
「いいですよ」
ネフィアは衛兵を呼びに行く。片付けを依頼しようと玉座の間を後にした。
*
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
俺は汗を流し逃げ回っていた。すべてをこっそり見ていたが魔王の勇者はとてつもなく強い。それ以上に黒い大剣を持つ冒険者もヤバイ。
当てもなく、都市のなかを逃げる。とにかく都市から出なくちゃいけない。そう判断した。
「畜生!! 畜生!! 畜生!!」
夢のような生活が一瞬にして霧散した。異世界に来れた筈なのに能力を持っていた筈なのに。
追い詰められていることに恨み言を述べる。黒い陰って湿った路地をひた走る。だが………それも終わってしまった。
「何処へ逃げる。勇者」
目の前に角が生えたボスがボロボロの状態で剣を構えて立っていた。絶望が立っていた。
勇者は叫んだ。この不条理な世界を呪うように。
§勇者と魔王の一度きりの最終決戦
俺はボロボロになった体に鞭を打って勇者を見つけた。路地裏をむやみやたらに走り回っているこいつは都市から逃げようとしていたのを正面に回り込んで止める。
「畜生………くぅ。起動」
「認証しました。マスター」
目の前のライブラと言う勇者が片手の魔法書を起動する。ネフィア情報では、色々と出来る便利な図書館らしく。影を蜘蛛として使役し。スパイを行うことが出来るとのこと。
「………勇者ライブラ。怨みはないがネフィアの元へ送る」
「魔王の元へ!? 生け捕り!?」
「いいや、殺す。2回死ねと言うことだ」
剣を担ぎ俺は走り出す。勇者はたまらず魔法を叫ぼうと声をあげた瞬間だった。
「音奪い」
「……!?」
声はせず。口をパクパクと動かすだけ。その顔に恐怖が張り付く。
「初見ではわからないだろう。死んでもわからない。その神の物は声認証で発動だろう」
「………」
反応を見ればわかる。未熟者。想定外の事に頭が追い付いてない。俺なら逃げて時間を稼ぐのだが、そういう判断も出来ない。
所詮は力を持っただけの素人だ。俺は容赦なく近付いてから切り下ろす。袈裟斬りにより血が路地裏に飛び散る。そして勇者は初めての痛みと死で声にならない叫びをしたが。無音で何も聞こえない。
「この近くなら。絶空」
倒れた勇者の口を塞ぐ。呼吸も出来ないだろう。苦しみもがき涙を流している。そして………動かなくなった。死体は光って粒子となって消えていく。
「あっけない。弱すぎる」
俺はそう一言いい。その場を去る。あとはネフィアがどうにかするだろうと思いながら。
*
玉座の間に魔方陣が浮かび上がる。ネフィアは身構える。最後の勇者が死んでしまったようだ。これで全滅まであと少しだ。
「ライブラですね。お姉さま」
「一番強い勇者よね?」
「一番強いのは武器が強いだけです」
召喚されるまでの間。ネフィアはサーチと一緒に魔方陣の中心を見ていた。中心に知った人間が召喚される。冷や汗や苦しそうな顔で。
「はぁ……はぁ………はぁ………息も出来る。声が出
る」
勇者が喉を押さえて肩を上下に激しく揺らす。ネフィアは気が付く。誰によって殺されたかがわかった。
「トキヤさんに出会ったのですね」
「!?」
勇者ライブラは顔を上げてネフィアの顔とサーチの顔を見る。驚いた表情で。
「な、なぜ小鳥遊さんとサーチさん? どうして!?」
「どうしてもこうしても。あなたが『帰ってきたらまた会いたい』と言っていたご執心の彼女は。初代英魔族女王陛下であり!! 歴代最強の魔王様なんです。お姉さまの面前で頭が高い!!」
「!?」
ライブラはネフィアの顔を覗き込む。申し訳なさそうに顔を背けるネフィアに………ライブラは叫んだ。惨めに。
「約束………叶いそうにないですね」
「だ、騙したのか!!」
そんなの間違いだとか以上に。自分が勇者で魔王を倒した暁には………とか甘い事を考えた相手が魔王本人であり。そして……魔王本人であるのなら既婚者で、非常に心が荒むライブラ。
「騙しました。いろんな事をメモして部下に渡し。『あなたたちを全滅させよう』と思いました」
「ネフィアお姉さま。もっとしっかり言ってあげてください。彼はバカですから」
サーチがネフィアの横から一歩前へ出てライブラを罵倒しようとした瞬間。ネフィアは翼を片方だけ広げてサーチを遮り盾のようにする。裏切り者へ攻撃を懸念しての行為。それ以上いくなと無言での行い。サーチは己が護られている事に感動し口を閉じる。
「さ、サーチ!? 何故!! 魔王の後ろに!!」
「呪いから解放していただきました。女神の洗脳を解除して」
「呪い!? 裏切ったのかよ!! 俺の事好きだったんだろ!! あの夜のお前は!!」
「ぺっ…………作られた愛になんの意味があるのでしょう? 知らない人を一目惚れ? 現実見ろよブ男」
「い、言い過ぎです。彼はまぁ………はい」
サーチの容赦ない言葉にネフィアもちょっと思うところがあったが。ネフィアもトキヤ以下と評価を下し。落ち着いて剣を抜く。
「畜生!! 畜生!! 畜生!!………どうしてうまくいかない………どうして。俺は選ばれたんだ。俺は………俺は!!」
自分の物にしようとした人が既婚者であり。サーチを寝取られ、連続して不幸が襲って来た。今までの幸せは崩れ去り世界を呪う。俺が俺が主人公なんだから。幸せにしろとワガママな事を口にして。その瞬間に手から声が聞こえた。
「力は欲しいですか? 欲しいなら………くれてやります」
「!?」
手の記憶媒体が声を発する。そこには新しいコード限界突破・リミッター解除と書かれ。ネフィアはその声に反応しライブラを切り落とそうと襲いかかる。
「くれ。目の前の女を奪える力を!!」
殺した勇者を同じように惨めな思いをさせたい。それで発した言葉に反応するように体の中の魔力が膨張。膨れ上がり衝撃波としてライブラの周りの空気を吹き飛ばす。ネフィアもその衝撃波に吹き飛ばされながら。翼でサーチと自身を護った。
「………お喋りが過ぎたようです。サーチさん。柱の裏へ」
「ネフィアお姉さま。魔力が桁違いに上がっています。身体や色々なものが強化され………限界以上の力です。短い時間だけ強化されるようです」
「………最後は容易く勝たせてはくれないのね」
「おおおおおおおおおおお!!」
ライブラは叫ぶ、己が強くなることを自覚しながら。そして図書館から一本の剣を抜く。一から復元された剣にネフィアは眉を潜める。エクスカリバーによく似た剣だ。
「自動制御。全て任せる」
「マスター認証確認。発動します」
ゴバッ!!
その言葉と同時にライブラは床を蹴り、魔法職とは思えないほどの加速でネフィアに迫り剣を振るう。ネフィアはそれを怖れずに直視し剣を弾いて防御した。
「雷撃!! 嵐の偽物支配者!!」
ライブラは片手で剣を振りながら。図書館から雷撃をネフィアに浴びせる。ついでに剣に付与魔法かけてネフィアのドレスを風で斬る。
「くっ!? ここで………鎧を着てないのが仇になるの!?」
バチ!!
「あぐく。痺れて痛い」
「ネフィアお姉さま!?」
「タカナシ!! いいや!! ネフィア!! 凌辱しあいつの前に引き出してやる!! 何故俺は不幸にならなくちゃいけないんだ!!」
「逆恨み!? まぁ……気持ちわかる」
剣撃を防ぎながらのドレスが余波でボロボロになっていく。電撃の痛みに耐えながらネフィアは叫ぶ。
「くぅ!! 強い。攻撃も速いし。魔法もバカスカを当てて痛い」
痛いで済んでいるのはネフィアが硬い事もさることながら。少し抉れても自然に回復しているために非常に高い耐久を持っていた。歌のような回復呪文の詠唱で回復しながら戦う。
「魔王が回復呪文つかってんじゃぁねぇえええ!! 奇跡はない」
「くっ!?」
魔王に対して、闇の魔法を唱えた勇者。少しの間だけ回復が阻害される。自動制御で相手の嫌な魔法を選んでいく。それにネフィアは歯噛みした。攻撃の激しさが動きがどうみてもトキヤに近い物を感じ、剣では勝てないと考えて冷や汗を流す。
ネフィアは「トキヤはどうやって勝ったんだ」と思いながら。この一瞬だけでも勇者のように強い。ネフィアだけを殺すための癖や攻撃方法、アンチ魔法を組まれたプログラムがネフィアを追い込む。ネフィアは女々しくなる。ドレスも千切れ。恥ずかしいほど。白い肌が露になる。だから、リセットをかねて一回転し翼で凪ぎ払う。
シャン!!
「うぐっ」
しかし、翼は切り落とされ魔力となって霧散した。
「爆炎の翼 !!」
しかしただではネフィアはやられせない。魔力が小さな爆発を起こす。たまらずに防御したライブラと距離が取れ。隙がライブラに生まれた。ネフィアはそのまま…………思い付く。
ダダダダダダダ!! ガン!!
ネフィアは玉座の間の扉に向かって走り、扉を蹴破り、廊下に出たあとに手を振ってその場を去る。サーチやライブラはその見事な逃走に少し反応が遅れる。
今までの逞しい剣劇を繰り返していたのに逃げ出したのだ。
「勝機がないと見て逃げた? お姉さまが!?」
「………!?………魔王の癖に逃げやがった!!」
ライブラは慌てて追いかける。多くの影で出来た蜘蛛を廊下に撒き散らしながら、ネフィアは廊下と階段を爆走する。後ろから足を強化したライブラが追いかけて同じように絨毯削りながら走る。
「魔王!! なんで逃げるんだ」
「音奪い」
「対抗呪文!! 穏やかな風になれ」
「ずる!?」
ネフィアはライブラの「ズルい魔法に卑怯だ」と叫んだが。「人の事は言えないだろ!!」と返してくれる。階段をネフィアが飛んで降りたあと。左足を軸に遠心力を生かして切り返し、階段を降りる。ボロボロで短くなったスカートや鎧ではないためにすばしっこい。強化されているライブラの脚力でさえ追い付けないほどに。
「稲妻」
ライブラは雷撃を飛ばす。走るよりも速く迫り。
バチバチバチ!! ヒョイ!!
当たる瞬間に大きくネフィアは体を捻って避けた。後ろに目があるのかタイミングはバッチリだった。
「!?」
ライブラは追いかけても追いかけても追い付けない。ライブラは驚きながら城を駆け巡る。衛兵使用人に見られながら。城ごと破壊すればいいのだがライブラの頭や自動制御にそんなことは書かれていない。故に………時間が来てしまう。
5……4……3……2……1
ぷつん
「あっ!? しまった!!」
ライブラは大きな間違いを犯してしまう。剣が消え、片手の記憶媒体の画面が暗くなる。そしてガクッと膝が折れ。手を床につける。ダラダラと汗を流し、気だるくなった体は一切動けなくなる。
ダダ、フワッ、スタッ!!
ライブラは顔をあげる。目の前に笑みを消した美少女が白い翼に光を放ちながら立っていた。
「『しまった』と言う声が聞こえて戻ってきたら………電池切れですね」
声に出してしまったためにネフィアは帰ってきてしまったのだ。衛兵や使用人たち。騎士たちが騒ぎに駆け付ける。
「くっ……どうして!! どうして殺すんですか!?」
「自分を暗殺しようとするのに殺されない道義はないわ。では、処刑します」
「ま、まってくれ!! サーチみたいに呪いなんだ!! そう!! サーチと一緒!! サーチだって殺そうとしただろ!?」
「サーチさんは死のうとしました。私に刃向かうのを良しとせず。あなたは違うでしょ?」
ネフィアはライブラの横に並び剣を両手で掲げる。
「ひ、卑怯な逃げて戦うなんて。それでも魔王か!? 人の純情もてあそび。この売春婦め!!」
「生き延びる戦いこそが普通なんです。あと、魔王の前に女ですから。生き延びて………逢いたいじゃないですか。夫様に」
「………」
ライブラは顔を歪ませる。死ぬ前に目の前の美少女がノロケたあとに笑顔で剣を掲げることに「この世界が狂っている」と思った。
「では、さようなら。勇者さん。ごめんなさい。約束、違えて」
「ま、まって!! 死にたく……」
スンッ
色んな野次馬に見られた中で断頭の処刑は行われた。
*
全ての勇者を倒し終え、私は玉座の間を片付けて陛下にご挨拶し暴れまわった事を謝って城を出た。トキヤの家もとい。実家にサーチと共に帰ってくる。ドレスはボロボロになったが衛兵が買い取ってくれた。サーチをこきつかい。荷物をトキヤの家に運び入れる。
「ここが始まりの聖地ですね。お姉さま」
「聖地ではないです。実家です」
「初めてのキスはここでしたよね。最初はトキヤ様から強引に奪われ突き飛ばした。お姉さまはそれに関して少し残念な気持ちでいらっしゃいます。最初なら……もっと………違う事が出来たのではと思うのですよね?」
「やめて………それ以上言わないで……やめて」
私は耳を塞ぐ。サーチの能力は鑑識。この家に残っている記憶を見つけ出したのだろう。恥ずかしすぎる。
「これからお姉さまはどうします?」
「城に帰ります。サーチあとこれをあげます」
勇者の死体から漁った記憶媒体を手渡す。魔力を流して再起動した。
「ネフィアお姉さま? しかし、声認証は」
「起動する」
「マスター認証」
「おお………」
「マスター権限委託っと」
勇者の声を真似て使えるようにしたあと。中身の設定で声認証はやめてパスワードを設定する。サーチさんにそれを手渡した。
「二人の旅は大変でしょう。貸しておきます。返してくださいね。旅が終わったらそれは封印します」
誰でも魔力さえあれば魔法を唱える事の出来るこれは世界を滅ぼす物と判断した。いつか私が消し去ろうと考える。エメリアは少ししか役にたたない。今もエメリアは何処かへ行ってしまった。
「ネフィアお姉さま。案外あっさり勝ちましたね」
「時間制限は失敗ですよね」
「耐えれる事がおかしいのです。もっと誇ってください。軽い気分で終わるものではありません」
「………そうですね。皆、理由があって剣を向けて。それを踏み潰したんですよね。ですが、私もトキヤと会いたいですから仕方ないことです」
そう、割り切る。案外気にしてもないが………「死んでまで辱しめを受けさせよう」とは思わなかった。偽物勇者以外は一応「手厚く供養してほしい」とお願いはしている。
「ネフィアお姉さま。一緒にお風呂とかどうですか?」
「いいですね。着替えても中身はボロボロですし」
「流石お姉さま。昨日の今日の人と一緒に入れるんですね」
「旦那と入ってるよりは恥ずかしくないですから」
そう言って私はサーチさんと一緒に入ることになった。終わってしまったらもう、あとはトキヤに会うだけ。そう思っていたらサーチに抱きつかれる。
「ネフィアお姉さま~」
「う~ん。あなたは少し、変ですよ」
「ネフィアお姉さまのせいです。ネフィアお姉さまが男なのでいい匂いがします」
「はぁ………」
1日でも早く。彼の胸に飛び込みたいとサーチをみながら思うのだった。女なのに………なんで女に好かれるのだろうかと疑問に思いながら。
§勇者抹殺後の亜人たち
トキヤとダークエルフ族長以下200名は商業都市の大きな酒場を貸し切りにして宴会を開いていた。気が抜けたと言うよりも皆が一人も欠けずに達成したことが何よりも嬉しいようで。「生きている」と言う事を賛美し、ネフィアを敬う賛美歌から始まった。
一糸乱れず。直立し短く歌う。この場にネフィアが居ればその歌に心当たりがあっただろう。ゆっくりの戦慄で短く。静かに苔が蒸すまでの長い平和を歌う。いい曲だと思うトキヤは思う簡単だ。しかし、そのあとの祈祷は長かった。
「祈祷10分は長い。短くしろ」
「トキヤは姫様になにも浮かんで来ないのでしょうが。一応我等は姫様のために集まってる」
「祈祷は1分これをルールにする」
「横暴な!? 姫様の配偶者であると言うだけで!! トキヤ殿!! 横暴!!」
「トキヤ。俺もそれは短いと思う」
「うっせ。ネフィアから言わせたる。1分だけでもありがたいと思え」
祈祷後、すぐに乾杯しビール酒が入った瞬間に皆が騒ぎだし。トキヤも横柄な態度を取る。トキヤのテーブル席にはダークエルフ族長グレデンデ。隊員代表のノワールと言う悪魔が席についていた。他にも隊員がいたのだがこの席の重圧に耐えられなくなり何処かへ逃げてしまった。
それでも3人。酒が入り饒舌になった結果……仕事の話になってしまう。
「トキヤ、これからはどうする?」
「エルフ族長からお達しで先ずは国内をどうにか内政で国力をあげるそうだ。あとはネフィアと合流。帰ってからだな。グレデンデは?」
「衛兵を遠征に出す。道路を繋ぐのに護衛がいるらしいからな。魔物が邪魔くさいだろう」
「ノワール隊長は?」
「約束した聖職者の亡骸を供養しに帝国に入る」
「約束した?」
「ああ、俺と同じ陽の信奉者か」
「ええ、陽の信奉のために命を捧げた聖職者の鏡だ。供養してやらんと我の信奉に傷がつく」
「聖職者か………まぁ仕方ないな」
「ええ、仕方ない事でしょう。トキヤ殿が特別だったのです」
ノワールが若い少女だったと言い。次の生の幸せを願う。しかし、彼は後で全く違う任務について祖国から長く離れるようになってしまうのは今の彼には予想は出来ないのだった。
「姫様はここで待つのだろ? トキヤ」
「もちろん。変なところに行かれないようにここで待ち。餌とする」
「自分を餌とは………いや」
「「「……」」」
暗黙の了解。ネフィアの愛馬鹿は知れに知れ。何も言わなくても伝わるのだ。「ネフィアを動かしたいならトキヤを使え」と言われるのは時間の問題である。
「これから。帝国はどうするのでしょうか?」
「攻める場所は決まっている。残念だが………」
「トキヤ、今のままで勝てるか?」
「負ける。だから国力を増やそうとしているんだ。ネフィアがたとえ………頑張っても0パーセントを100には出来ない」
暗黙で能力の話をトキヤがダークエルフのバルバトスに振った。納得したのかバルバトスはそのままグラスのビールを飲み干して真面目な表情になる。
「何年後だ。予想は」
「帝国が連合国をゆっくり手に入れている。疲弊した力を戻すのに1、2年」
「短いな」
「兵士は腐るほどいる。人間はいっぱい産むからな」
人間本当に良く産む。大多数は体が弱いために他種族より産まれやすいと聞く。オークよりも。
「数の暴力か………」
「バルバトス。ノワールさん。俺からいい一言がある」
「ん?」
「なんでしょうかトキヤ殿」
「一人で1000人殺せばここの3人で3000人だ」
「む、むちゃくちゃな!?」
「トキヤ。お前出来るのか?」
「一人で1000人殺せるやつを数人殺っている。出来るぞ? ん? ん? 3、4人俺はやるぞ?」
トキヤが珍しくバルバトスを煽る。バルバトスは不敵の笑みを浮かべ……指を出した。
「じゃぁ、俺は5人」
「なら6人」
「………10人でどうだ?」
「やれよ絶対に」
バルバトスは角を避けてトキヤのおでこを手で擦り笑みを浮かべた。ノワールはそのプレッシャーに背筋が冷えて逃げ出したくなる。
「英魔族最強は俺だ」
「オーク族長もいる。果たしてそうかな?」
「トキヤ、1、2年後が楽しみだ」
「………頑張れ応援してるぜ。ククク」
そのあと、二人が殺す方法を議論しあい。ノワールは知らぬうちに約束させられたのだった。首級の数を競う物に。
*
ふんわりした。穏やか寝室。帝国のトキヤ家。風呂上がりの美女ネフィアの羽根が入ったカンテラに部屋が照らされる。非常に明るく。昼間のような明るさにネフィアの金色の髪はキラキラと輝いていた。ネフィアは椅子に座り魔法で髪を乾かす。
「お姉さま。入ってもいいですか?」
「どうぞ」
部屋にサーチと言う名前の聖職者の美少女が入ってくる。彼女もまた。整った顔立ちでネフィアのように金髪なのだが少し癖毛が入っている。
「髪をとかしてもよろしいでしょうか?」
「ん? やってくださるの?」
「はい。お姉さま」
艶の含んだ声でサーチがお姉さまといい櫛を片手にネフィアに近づく。
「うわぁ………すごい。一本一本艶々で手から溢れるようにサラサラです」
「いい髪でしょ? 自慢なんです」
「はい。お姉さまの髪は本当に綺麗です」
櫛でとかしながらサーチは髪の感触を味わう。
「お姉さまは本当に強く。気高く。優しく。無慈悲で平等で。綺麗な人ですね。英魔族女王の座を手に入れて。なんでも望むものが手に入る地位ですね」
「すごく私を誉めてくれて嬉しいけど。私は普通の女の子ですよ?」
「ネフィアお姉さまのご普通はですね。普通ではありません。激しい謙遜は妬みや僻みを生みます」
「社交辞令ですよ」
「では、ネフィアお姉さまはどう思っているのですか?」
「…………」
ネフィアは少し考え吐露する。
「私は自身の今の姿は好き。綺麗な姿は非常に男にとって美味しそうに見えるし、楽しいから」
「ですよね。綺麗な姿を演じていらっしゃいます」
「そう、最高の女を演じています。自分が大好きです。トキヤが愛してくれるこの自分が」
「お姉さま。喋ればトキヤ様の事ばっかり。ネフィアお姉さまは英魔族の王です何でも手に入りますよ? 男でも富でも………なんでも」
帝国の家の一室に誰も王がいるとは思わない。王なら手に入る物はなんでも入るとサーチは思っていた。しかし、サーチは笑顔で聞く。答えを知っているが本人の口から聞きたいのである。サーチは途中から、本でしか彼女を知らない。だからこそ、聞いたのだ。
「なんでもですか………本当になんでもです?」
ネフィアは手机に置いてある手鏡を手に後ろにいるサーチを見て問いを返す。
「お姉さま。私は何でもと思われます。お聞きします。手に入らないものを教えください」
「………私が欲しくて手に入らないのは」
ネフィアはお腹を撫でる。優しく。優しく。
「トキヤとの平穏。普通の家庭で皆さんが持っている物。もう二度と手に入らない物。そして………トキヤとの子も手に入らない」
「………そうですね。手に入らないですね」
サーチは不謹慎だがその悲しむ姿も美しいと思い。心の中で感動する。こんなに変な人は一握りだろう。
「………他にも死んでいった人は戻りません。いろんな方の死を見てきました。王になっても手に入らないのはたくさん。たくさんあります。だからこそ………世界は美しいのでしょう?」
「お姉さまの言う通りです」
ネフィアがそれを聞くと。「ありがとう」と言って席をたち。ワインをグラスに注ぐ。一口含んで、ため息を吐く。サーチはその姿にも心打たれ。一つ一つの動作がまるで劇場のように見えりほどに流暢であり。魅せる。
サーチは今さっきの言葉を反芻し、ネフィアの異質性を見る。王になる物は全員欲があるが殆んどが大きい欲だ。ネフィアの欲は小さい。しかもそれは庶民的だ。「果たして令嬢にはそんなのを望む者はいるだろうか? いや、居ないだろう」とサーチは思う。なのに……王のような堂々とした振る舞いや。強さと人脈を持ち。聖剣さえ持っている。特に監禁からの返り咲き。完璧に近い王と言える。
「これからは………女神を倒した先は………どういった生き方をすればいいんでしょうね?」
「………ネフィアお姉さま。多分ですが」
「なーに?」
「『勝手気ままに生きる』と思いますよ?」
サーチは「何となく馴染むのだろう」と思う。郷に入っては郷に従うのがネフィアお姉さまの良いところだ。
「………ええ」
「トキヤ様と一緒の時はさぞワガママと聞いております」
「…………」
沈黙。
「さぁ~どうかしら?」
「ネフィアお姉さま。実際トキヤ様以外要らないのでは?」
「……………」
ネフィアが無表情になる。そして低い声で感情を吐露した。
「…………秘密ね」
サーチは頷き。ネフィアお姉さまの危うさを見つけた。分かりやすい地雷だと。別に女神様は………荒神でないと誰も言っていない。荒神を奉る理由は一つ。暴れないてとお願いする物だから。
「ネフィアお姉さま………ゾクゾクします」
「ごめんなさい。そっちの趣味はないの」
サーチの「変態的な趣向があるのだろう」とネフィアは引く。サーチは「勘違いしてます」と言いながらもネフィアの手を掴み逃がさない。真面目な顔で。
「ネフィアお姉さま。まだ、陽の女神について………お話があります」
「エメリアに聞いて頂戴」
「聖なる太陽の化身。女神ネフィア」
「…………」
「知ってました?」
「耳に入ってくる。たまたま同じ名前よ」
「はい。同じ名前です。しかし………私は思うのです。裏切った理由でもあります」
サーチが真っ直ぐ言い放つ。
「女神ネフィアはきっとお姉さまが『なられる』と信じております」
「そんな大層なもん。なれない………諦めなさい」
「…………はい」
サーチは知っている。ネフィアお姉さまは嫌がる。本心で謙遜する。でも…………誰が見ても。本人が否定しようとしても。「そうさせよう」と皆が動いている。太陽の女神はネフィアさましかいないのだから。
暗闇の中でポツリと一つの椅子があり俺はそれに座っていた。俺は交通事故で死んだ。何故、死んだかわからないが教えて貰ったのだ。誰にかって言うと目の前にいる女神だ。そう目の前の美少女にだよ。
「気分はどうですか?」
凛とした綺麗な声で問いかける。綺麗な瞳と長く黒い髪がスラッと伸び。ふくよかな胸に、綺麗な生足で俺は唾を飲み込んだ。パンツ見えてる。
「えっ? あっはい!! 元気です!!」
何処とは言わない。
「ふふ。それは良かったです。勇者さん」
「勇者?」
「そう、あなたは選ばれました。世界を救う英雄となってください」
俺はポカーンと口を開ける。自分は最近流行りの小説が異世界転生物だったのでそれが現実に起きていることに驚く。
「いや、その………」
「辛い戦いでしょう。しかし………人々の未来を救ってください‼」
目の前の美少女に頭を下げられるとつい。男なら「ウン」と言いたくなる。しかし、おれは我慢して一つの事を聞いてみる。
「俺、死んだんですよね………」
「はい。しかし、生き返らせる事が出来ます」
「ん?」
「交渉です。私は世界を救って欲しい。救っていただければ願いを叶えます」
「何でも?」
「何でも」
「ハーレムでも?」
「クスッ………男の子ですね」
「あっ……いやぁ~」
俺はつい。本音を口にしてしまった。だが目の前の美少女は目を細めて嬉しそうに微笑む。そう、まるで母親が子の間違いを面白がるような暖かい微笑み。
「出来ます。あなただけの………ハーレムを」
「やらせてください」
2つ返事で俺は頷いた。性欲に身を任せて頑張ろう。そう決心したのだ。
「あっ!! 俺、小説で読んだんですけど!! 能力くれるんですよね‼」
「ええ。苦しく辛い戦いです。特別な祝福が必要でしょう」
「強い能力がいいなぁ~。何を貰えるんですか?」
「不明です。しかし、必ず役にたちます」
「やったぜ!!」
これはあれだ!!何でも微妙そうな物を貰ったのが実は結構有用だったりするあれだ。
「では、勇者。目的をお話しします。今、世界は魔王によって滅ぼされ壊されようとしております。その力は強く強大で。人間を脅かしております」
話を聞いていくと「王道冒険物語の話だなぁー」と俺は思う。
「それを倒して欲しいと?」
「はい。私たち女神は授ける事しか出来ず。今の魔王に苦労しております」
女神が悲しそうに目を細める。それを見た瞬間に俺は立ち上がり胸を張った。美少女を悲しませるなんて許せない。
「俺に任せてください!! チャチャチャっと倒して安心させますよ」
「ふふふ。逞しいですね。流石、勇気ある者………では頼みましたよ。世界を悪しき魔王の手から救ってください」
「もちろんです。女神様!!」
「呼び捨てでいいですよ。ヴィナスと言います。勇者さま。では………今から転生を行います。場所は帝国の首都。もうすでに何人かの仲間もいます」
俺は体が浮く。幻想的な青い光に導かれた。
「おっ?おっ?」
「使命をお願いします」
フワッと浮いた瞬間。目の前が真っ白になった。
§勇者の目覚め、情報収集
「んん…………」
俺は目の前が太陽の眩しい光によって目覚める。
「んあ……ん?」
「起きましたか?」
「あ、はい。おはようございます」
「おはようございます」
ベットにシスターが座っていた。シスターと言っても腰にメイスをつけ、スカートにスリットがあって白い太ももが見える。シスターとわかったのは頭の被っている帽子が十字架の刺繍がされていたからだった。肩や足が見え、スリットの中のガーターベルトのニーソなんて履いてる聖人なんて異世界しかいない。異世界だったここは。
「えっとここは」
「はい、ここはですね。勇者。帝国ドレッドノートの首都です。ここは私たちに融資してくださっている方の持ち家です」
見た目はあれだか、声は優しい同級生のような感じだ。
「融資?」
「はい。女神の信託を聞き私たちを助けてくださる方です。インペリウム家と言う貴族さまですわ」
「へぇ~」
寝惚けた頭で整理をする。異世界でも協力者はいる。そりゃそうだ。異世界の勇者でも最低限装備を渡されている。仲間だって。
「もしかして仲間ですか?」
「はい、転生者です。記憶は曖昧ですが」
「俺と一緒かぁ~能力とかある?」
「細かなお話は皆さんが揃ってからにしませんか?」
「皆さんとは?」
「他にも転生者はいるんです」
俺は驚いた。転生者は複数いて味方なのだ。と言うことは。
「あなたも勇者ですか?」
「はい。聖職者のコスプレをしています。サーチです」
「コスプレ………コスプレ!?」
「私はちょっとこの服は聖職者ポク感じませんから。信仰深くなると何故か布が減るんですよ?」
「あっ……うん」
異世界七不思議だ。
「お名前を聞いてもいいですか?」
「いいですよ。名前は」
俺は自分の名前を言おうとした瞬間。驚く。
「ライブラ!! 能力魔法図書館を持つもの!!」
昔の名前を思い出せない。
「わかりました。あと………私たちは昔の名前を忘れています。能力名が名前ですね」
「そ、そうだったのか………まぁでも異世界で新しい自分なら新しい名前の方がしっくりくるね」
「はい!! ヨロシクお願いしますライブラさん」
彼女のかわいい笑顔に鼻が伸びる気がし、ベットから降りるのだった。
*
朝食をいただきながら俺は自己紹介を行う。シスターは既に知っていたが他二人にも挨拶した。二人もかわいい。
一人は騎士メデューサ。長い紫の髪を持つ女性。名前の通り有名な能力で石化を行うことができるらしい。騎士の鎧は鋼の色で非常に胸当てが大きく豊満な胸なのがわかった。美少女なので心で歓喜する。美人系だ。
二人目は騎士とは違い軽装な革鎧を身につつみ健康そうな体を持っているボーイッシュな女の子だ。こめかみの所が長く、ドキッとしてしまうぐらいに顔は無垢そうでかわいい。名前はグラビデ。重力を操ることが出来るらしい。
三人目はシスター。性職者と言われても文句が出ないようなスリットの足がエロい人だ。ちょっと天然が入った髪と性格なのか。ちょっと舌足らずなところがある。コスプレ言ってしまうところもおっちょこちょいなのだろう。美少女。そう帰国子女のような人。
自己紹介も終わり俺は話を聞くことにする。
「えっと転生者ですよね」
「そうだ。私も転生者だ」
「私もそうね」
「私もです」
「記憶はありますか?」
皆、首を振る。
「記憶はないが。知識はある。洗濯機など知っている」
「そうなんだよね~知っているだよ」
「だけど。私たちは忘れてます」
「ふーん。皆さん俺よりも先にこちらへ?」
「そうだが?どうしてわかったんだ?」
「武装してます。装備しっかりしてますし」
「そうだよ~私たちは先に来ていた。私は一月前に」
「私は二月前にですね」
「私は、そうだな半月と1月だ」
「けっこう15日周期なんですね」
「そうだな」
召喚するのに時間がかかったのだろう。4人集めるのに。何故俺は時間がかかったのだろうか。聞いてみる事にする。
「何故、俺は時間が?」
「女神に聞いたのだ。男はいないのかと」
「そうです。同年代で『同じ境遇の男の子がほしい』とお願いしたんです」
「そうそう。で、来たのが君」
「マジですか!?」
これはあれ。女ばっかだから男がほしいと。
「女ばっかだから………ちょっとな」
「ええ。私もそう思いました」
「だよね。スゴく不安だったけど!! まともな子が来てスゴく嬉しいよ!!」
「………俺はどんな反応すればいい?」
好感度高くてビックリしていた。女神様ありがとう。きっと女神さまが弄ったんですね。
「どんな反応か?」
「笑えばいいと思う」
「やったぜ!! 俺もこんな綺麗な人達と旅できるなんて嬉しいなぁ~」
「そうか!!」
なんとも幸せな光景だ。
「おっほん。では………自己紹介も終わった。今からの事を話をしよう。私たちは勇者だ。相手をしらなければならない」
「実は結構、女神の言うには人間がヤバイほど負けてるらしいよ」
「はい。女神の信託では新しい魔王が強いのです。前回の魔王はある勇者が倒したそうですが」
「一度は魔王は倒したんだ」
「しかし、新しい魔王が出てきて困っている情況らしいのです。それも裏ボス的な感じでずっと表の魔王を操り、裏で糸を引いてたと」
「でも、新しい魔王が出てくるなら倒したらまた出てくるのでは?」
「今の魔王がいけないのだ。前は一人で倒せた今度は4人。前よりも強いから大変らしい。いや、ここから本来の真・魔王が登場した」
色んな話を聞き何となく理解が出来た。要は本物が出てきてしまったと言うことらしい。裏ボスや黒幕と言ったところか。
「魔王の名前は?」
「魔王ネフィア・ネロリリス。女であり、人をたぶらかす婬魔らしい」
「婬魔ですか?」
「変な想像したでしょ~」
「いや!! その!!」
「うわぁ~ひくぅ~」
「仕方ないだろ!! 婬魔と言えば男のあれを食べる種族だって知っているんだから!! それに婬魔が魔王って弱そうなんだが………」
性欲操るだけの魔王なんて強そうと思えない。
「いや。炎を扱い、フェニックスを生み出すそうだ」
「なにそのラスボスぽい技」
「ラスボスぽいよね」
「私もラスボスぽいと思います。カイザーフェニックスですね」
皆が頷き俺も頷く。そして冷や汗が出た。魔王そのまんまなら滅茶苦茶強いだろう。
「漫画みたいに強いのかな?」
「強いのかもな」
「強い」
「ええ強いと思います」
「勝てるのか!?」
「「「勝てる!!」」」
三人が自信満々に答えた。
「私たちは能力を持っている」
「そう」
「はい。それに女神もついています。勝てばライブラ君を好きにしてもいいとおっしゃてました」
「そっか………そうだな。能力がある!! 頑張ろう!!」
皆に勇気をいただき俺は決意をする。まって、好きにしていいとはどう言うことだ。
「ん? 好きにしてもいい?」
「ああ、好きにしてもいいとな」
「そうそう。私たちさ………ライブラ君としか子供出来ないそうなんだよね」
「はい。女神の話ではですね」
「………それってつまり?」
「結婚はあなたとしか出来ないです」
俺は女神に感謝する。男の夢が叶う。そう。ハーレムだ。
「鼻伸びてる。やらしい」
「うっせ!! かわいいグラビデを嫁に出来るだけで嬉んだよ!!」
「あっ………ふーん。そ、そう」
俺はついつい本音を口に出してしまい。他二人もせがまれるのだった。
神様ありがとうございます。
§勇者の能力
俺は先ずは情報を片っ端から3人に聞いてみた。情報をまとめるとこの世界は帝国と連合国、魔国と烏合の衆で4分に別れていたらしい。
しかし、世界は変わり4分のうち連合国は帝国になる予定で魔国と烏合の衆はこの前に結合して大きい魔国となったらしく、このままでは全面戦争に舵を切ってくるだろうと言われていた。新しい魔王の下で集まり始め、驚くほどに色々と大きく。人間の生活を脅かす所まで増長して困っているそうだ。
このままでは世界が壊れてしまう。だからこそ勇者を集めて魔王を倒し。真の平和を取り戻そうと言うわけだ。魔王は女らしい。驚くほど綺麗な女性らしくちょっとだけワクワクしている。
そして俺は自分の能力を知るため。3人と一緒に魔物狩りに出掛けるのだった。帝国の東側の森で魔物を探す。
「ここらへんかな?」
「気を付けてね」
「私は後ろを見てますね」
「…………」
中々、馴れた手つきで四周を警戒しながら森を進む。すると物陰から化け物が現れた。熊である。しかし、俺は驚き腰を抜かす。自分達の何倍も大きいのだ。そう。規格外。
「出た!! 熊だ!! 私が前衛を張る!!」
「側面の遊撃任せて!!」
「補助します!! サーチ!!……………熊ですね。情報ではこの個体は爪から斬撃を飛ばせるようです」
「わかった。気を付けよう。ライブラ!!」
「は、はい!!」
「私たちは力を使わない。倒すのはお前だ!!」
「わ、わかった」
腰が引けながらも何とか背筋を伸ばす。能力はなんだ。
「イメージしろすぐに体に変調が来る」
「ええっと………」
イメージ………イメージ………ああああ。何も思い付かない。
ギャン!!
「くっ!! 熊よ中々いい攻撃だ」
「よっと!! こっちだよ!!」
熊の重たそうな攻撃を盾で受けとめるメデューサ。そして側面から剣を抜かずに拳の打撃で攻撃をするグラビデ。サーチは回復呪文を詠唱しきってダメージを負った瞬間に回復を図ろうと伺っていた。正直に思うが「俺はいるのだろうか?」となる。
「おい!! 早くしろ!!」
「わ、わかってる………焦らすな」
俺は目を閉じる。ああ、スマホがあれば検索してとか緩いことを考えていた。
「ん………」
考えていた途端に俺は驚く。右手に手慣れた感触があった。そう、それを見ると思わず声を出してしまう。
「ええええ!?」
右手にスマホが普通に用意されていた。そしてスマホが起動する。幾何学的な文字と魔方陣で画面が写し出される。そして………声認証マスターと文字が出てくる。それを見た瞬間。頭に知らない知識が溢れだす。そう、このスマホの使い方が脳に入ってくる。
「ライブラリー起動」
スマホの画面に大量の本が並んだ本棚映る。そして………一冊を指定する。
「炎の書、初級!!」
一冊の本が画面内で開かれ魔方陣が浮かび上がる。
「ファイアーボール!!」
スマホをかざし画面から勢いよく炎の弾丸が飛んでいく。慌てて、グラビデとメデューサが飛びす去り。熊に直撃した。
「ガアアアアアアア!!」
熱さに悶える熊。そして俺はもう一つ唱える。
「アイスランス!!」
スマホから氷の槍が飛び出し炎に飲まれている熊に突き刺さる。もがき苦しんだあとピクッと動かなくなり。大きな音を立てて倒れた。俺はガッツポーズをする。そして、皆が集まり出してくる。
「すごい。魔法職かぁ!!」
「スマホだよな」
「スマホですよね」
「ああ、スマホだと思うよ」
皆が俺の手の平に乗っているスマホを覗いた。画面にはライブラリーと書かれている。きっと能力名だろう。
「へぇ~お前の能力は『ライブラリー』か」
「そうらしい。これはスマホに見えるが魔法図書を内蔵した持ち運べる図書館らしい。好きにイメージした魔法を出せるようで、演算詠唱による即席と威力を両立した物だって」
「前衛、後衛、補助、魔法職かバランス良くなったな」
「そうですね!! 私と同じ支援職です!!」
「へぇ~男なのに女に戦わせて後方~?」
「い、いや……その。ええと」
「こら、グラビデ。困っているではないか。まぁ私は火力特化は必要と思っている。素晴らしい能力だな」
「ああ。驚いたよ。まだまだレベルは低いけど鍛えれば禁術も使えるようになるらしい。隕石落としとか」
「それは………恐ろしいな」
「まぁ、でも!! 役にたてそうで良かったよ」
俺は胸を撫で下ろす。女の子の足手まといは嫌だからだ。
「うむ。では帰ろう」
メデューサが指揮を取り俺たちは都市へ帰った。出会う出会う魔物はメデューサが片っ端から石化させ砕き殺していたのを見て「………俺いる?」と思うのだった。
*
ある日、大きな庭で剣を振る練習をしていたとき。サーチに呼び止められる。他の二人は個人で冒険者ギルドに行き依頼をこなすらしい。一人一人強力な能力を持っているため「単独で強くなるよう修行しろ」との上からの命令だ。俺も何とか自衛のために剣を使っていたが。二人よりもつたない。
「一緒に教会行きませんか?」
戦闘訓練中。サーチが俺を誘う。教会へお祈りの行こうと言うのだ。
「いいよ」
「ふふ。抜け駆けです」
サーチさんが唇に「秘密ですよ」と俺の唇に指を押し当てた。可愛らしい仕草に鼓動が弾む。
「ふふふ」
上機嫌な彼女に手を引っ張られながら教会へ向かう。綺麗な白いレンガ作りの教会。扉が解放され中では数人が祈りを捧げているのがわかった。
綺麗なステンドグラスに女神の像が信者に微笑んでいる。ここまでずっと手を繋いで歩いていたのでちょっと気恥ずかしくなり。頭を掻いた。
「ついたね」
「はい。つきました」
二人で中の入り空いている席に座る。そして、サーチは目を閉じて手を合わせて祈り始めた。服装はエロいがしっかり聖職者をしているようで安心する。俺も見よう見まねで祈りを捧げたが。すぐに飽きて顔をあげる。サーチは聖職者らしく、文言を一字一句丁寧に謡っていた。
「……………」
金髪で整った顔立ちに笑顔になる。ああ、こんなに綺麗な人が俺を慕っているとか夢のようだ。
カツン
「?」
教会にヒールの音が響く。わざと鳴らしている訳じゃない。ただ………ふと耳に入ったのだ。そして俺はその音を出した人を見る。深くローブを被っていた人物が教会に入って来たのだ。
「誰だろうか?」
品がいい。大人しい歩み。教会の中心に来たときにローブを脱ぐ。俺はその姿に息を飲んだ。
一瞬、初恋だったひとを思い出したのだ。記憶を失っていた筈なのにも関わらず。俺は驚く、顔を振り再度見たとき。また別人だった。
金色の長い髪に純白のドレス。それに豊満な胸の谷間と少しつり目の美少女。つり目だが厳しい雰囲気はない。化粧せずとも紅は美しく。歩く姿はまるで物語の姫様だった。
「はぁ………」
あまりにも綺麗な姿に溜め息を吐いた。彼女はそのままローブを椅子に置いて教会の真ん中へ行く。そして跪き祈りを捧げた。
「………ライブラくん。どうしました?」
祈りを終えたサーチさんが袖を引っ張る。俺は指を差して彼女は誰かを聞いてみた。
「………確かに不釣り合いな人ですね。『サーチ』」
サーチさんが能力を使う。
「ん? 不明です。レベルが高くて無理ですね」
「レベルが高いと言うことは………何処かの姫だろうか?」
「かもしれません。ですが………お忍びなら静かに黙っていましょう」
「それもそうか……ローブ着てたし」
彼女は祈りが終わったのか立ち上がり。満面の笑みでローブを取り教会を後にした。後をしたあとも俺は彼女が頭から離れなかったのだった。またどこかで出会うだろうか。
俺は何故か気になって気になってしょうがなかった。
§先代の勇者、魔王との対話
俺たちは4人の勇者はある貴族が支援してくれている。その貴族さまはインペリウム家といい。なんと先代の魔王を倒した勇者がいる家らしい。俺たちはその貴族様から買い与えられた家に住み。日々鍛練に勤しんでいた。
そんな日々で、ある一人の男の使者が出向く。深いローブを身につけ現れたその人はなんと元勇者でありトキヤと言う。姿は黒髪の青年であり。「そこそこイケメンかなぁ~」と思う。
そんな彼がテーブルに座り俺たちに話を始めた。
「帝国が思った以上に苦戦している。そろそろ頃合いだ。魔国魔王城へ向かって貰いたい。旅資金だ」
テーブルに4人分の金袋が置かれ、中々重そうな袋に唾を飲み込む。
「多くないか?」
「少ない方だ」
これで少ないのかと驚きながら手に取る。ズシッとした重さに俺は眉を潜めた。ひのきの棒とかのレベルじゃない。
「相手はそれほど強い。気をつけろ」
「わ、わかりました」
これだけの金額を貰えると言うことはそういうことだろう。皆が緊張した顔をする。
「行かない選択はないが………近々旅立って貰う。1日でも早く平和が欲しいからな」
「もちろんです」
「ええ、もちろん」
「そのための俺らだな」
「気を引き締めていきましょう」
そう。俺たちには使命がある。1日でも早く平和を取り戻さないといけない。
「トキヤさんはご一緒に?」
「いいや、俺は君達をサポートするために後方勤務だ。使者としても役目がある。それに………君達は俺よりも強い」
彼がローブを取る。話には聞いていたが片腕がない。そう右腕がないのである。新しい魔王と戦った結果腕を失ったとも聞いている。噂ではあるが。
「腕を失った自分では足手まといだからな」
そしてすぐさまにローブで腕がないことを隠した。俺たちは息を飲む。
そう、不安が出てくるのだ。腕を失う。死んでしまうかもしれない。そんな不安がよぎる。
「おっと、不安がっているな。大丈夫だ。これを渡そう」
彼は懐から4枚の羽根を取り出した。綺麗な純白の羽根が硝子に封じ込められている。
「神器。国宝以上の価値がある4つ。効果は一度だけ死を回避し、帝国に戻ってくる強制転移だ」
「そんな高価なものをいいのですか? 一度きりですし………」
「女神が与えてくださったのだ。ありがたく使うべきだ。そして………使い終わったら俺の所へ持ってくるといい再使用が出来るようになる」
「そ、それって!!」
「そう。何度でも死を乗り越えられる。おれの能力はこれを再使用が出来る能力なんだ」
「そんなのチートじゃないか!?」と言う声を俺は喉に引っ込めてその羽根を受け取る。
「何度も挑める訳か」
「これなら………勇気でるかも」
「そうですね。敵を知りもう一度挑めれば勝ちに繋がるでしょう」
「俺、ちょっとズルい気がしてきた」
「ふん………戦いにズルいも糞もないぞ」
トキヤに鼻で笑われる。しかし俺らはそれを聞いたお陰で安心したのか口々に喋りだし。不安も無くなった。
チート能力ばっかだから何とかなりそうだ。
*
トキヤは情報や地図を置いて帰っていく。インペリウム家の姫が帰らないと五月蝿いらしい。
「ふむ。帰ったか………でっ!! どうする!!」
「行くに決まってるね」
「はい。行きましょう!!」
「俺も近々行くべきだと思う。こんなにも良くしてもらっているのは期待してるからだと思うから」
俺の能力も分かり。ある程度何が出来るかとかも確認できている。期は熟したと言えるだろう。
「準備が必要だな。4日設けよう。私たちは心の準備も必要だ。外は恐ろしい」
「わかったよ~」
「ええ、そうしましょう」
「俺も賛成」
「では………ちょっと席を外してくれ」
「ええ、外して」
「すいません。女子会です」
そう言って彼女らは俺を玄関へ押し出し外へ出す。鬼気迫る勢いで俺を掴んでほおって投げた。
「すまん。デリケートな話なんだ」
「わ、わかった。こえぇよ」
「ごめんね…………」
「まぁ~女だけの秘密会議ね。どこかで暇を潰してよ」
「……お、おう」
俺は渋々立ち上がり埃を払う。玄関は鍵を閉められ溜め息を吐きながらその場を後にした。こう考えると男友達が欲しいと思う。
「まぁいいや。ちょっと先に買い出しに行くか!!」
俺は気にせず。歩き出す。異世界の空気を堪能するために。
*
「兄ちゃん気前がいいね」
「道具は必要だからね」
出店で俺は魔力を回復できる飲み物。ポーションを数本買い込み袋にいれる。割れないように硝子瓶ではなく皮の小さな水筒みたいな物で魔法使い御用達の回復材であり重宝する。俺みたいな色んな魔法を駆使する人間にはちょうどいい。
「何処か遠くへ?」
「魔国へ」
「そりゃ~遠いなぁ~おまけでこれつけてやるよ」
店主が気前よくもう一本いただける。
「気をつけな。近ごろ怪しいからな」
怪しいとはきっと魔国の動きの事だろう。俺は静かに頷いた。
「偵察任務だよ」
「ああ、そうか………そりゃ!! 頑張ってくれ」
「ありがとう。頑張るぜ」
俺は店を去る。大通りはいつも通り人がごった返していた。その中で俺は時が止まるのを感じる。
シャァン
俺はローブを着た教会で見た姫を見つける。たまたま、ローブの中の髪が見えたのだ。金色の髪が。人混みの中でゆっくりと歩み。リンゴをかじっていた。片手で男らしく。満面の笑みで。
「………」
気になる。気になって仕方がない。だから俺は………スマホを取り出した。
「スパイウェア」
スマホから一匹。影の蜘蛛が這い出る。そして彼女の影に潜ませた。
スパイウェアは昔、よくあったウィルスソフトだ。それを魔法として相手の情報と何かを操れるようにイメージした魔法。うまくいけばサーチさんのよう情報を得ることが出来る。奪うと言う手段で。
スパイウェアが姫の位置を把握しスマホに方向と距離を示す。ゆっくり尾行し………あの、初めて見た場所。教会へつく。
「…………?」
教会の手前で止まり。そして一瞬だけ翼を見た。純白の翼を。輝ける翼を。たった一瞬、刹那に等しい一瞬。
しかし俺はそれを………スマホで捉えた。スパイウェアが彼女を把握して画像だけを寄越したのだ。しかし、情報はそれだけだった。何故なら。
「弾かれた?」
その一瞬で影が無くなり蜘蛛が逃げるように這い出て俺に向かってくるからだ。ジャンプしスマホに入っていく。情報が開示されたが不明しか表示されない。時間をかければ分かるだろうが解析時間がすごく長い。旅の合間にバックグラウンドで解析出来るらしい。後でしよう。
「女性を尾行とはいい趣味ですね」
金色の美少女が鋭い目付きで俺を見た。射ぬかれたような瞳に少し後すざる。蜘蛛が俺の方に帰ってきてしまったのでバレてしまったらしい。
「誰ですか?」
「ら、ライブラと言います。ええっと」
「タカナシ………東方の遠い島国の名前でタカナシと言います」
「タカナシ………小鳥遊!?」
俺はあまりにもこの世界には似合わない名前で驚く。タカナシと言われて転生前を思い出していた。それ以上に見た目に反する名前でなんともいえない。
「て、転生者ですか?」
恐る恐る。聞いてみる。バカな話だが反応があればもしかしたら勇者かもしれないと思ったのだ。スマホの中で捉えた画像の彼女はまだ雑にノイズが混じっているが美しい翼だけは判断できた。
「テンセイシャ? テンセイシャとはなんでしょうか?」
「あっ……いいえ。ははは。すいませんテンセイシャと言う女性に似ていたのです」
「そうだったのですか。それで………尾行を。ごめんなさい。そのテンセイシャではございません」
「そ、そうですね!! ははは」
俺は誤魔化しながら頭を下げる。
「それはそうと………その。お茶でもしませんか?」
昔の俺とは違い。女性になれていたのか、スラリとナンパの言葉が口から出たのだった。心を動かされそうなほどに魅惑な女性に声をかけた。
「いいですよ」
俺はきっとモテ期が来たのだと確信した。
*
「ふぅ。誘われるとは思いもしませんでした」
「あっすいません」
「いいえ。これも何かの縁。この時は大切にしましょう」
「そうですね」
俺はドキドキしている。目の前女性はローブを外し、ドレスをさらけ出し、さも当然のように寛いでいる。庭のようなそんな新鮮さをにじみながら酒場で紅茶をいただく。場不相応な女性だが。そんな事を気にせずに様になっている。この酒場の空気に彼女はなれていた。
そして、彼女は何も語らない。あまりの沈黙に俺は一生懸命に話しかける。色んな事を勇者の使命とか色々。まるで気を引こうとしているように見えるが。「断じて違う」と心して話しかける。
「面白いですね。勇者ですか?」
「は、はい。その変なことですよね?」
考えてみれば夢みたいな話だが。信託があったと誤魔化せばいいのかもしれない。
「いいえ。信じますよ。帝国には昔から多くの勇者がおり。団を作って向かっていき………帰ってきませんでしたから。大変ですね」
ニッコリと大人な笑みを浮かべ。俺は鼓動が速くなる。やっぱり美人だし………こう。大人なエロさを感じる。若妻のような匂いも。同じ歳の匂いも。姉の匂いもする。いけない気持ちになる。
「そういえば………聖職者なんですか? 一度教会でお見えしましたから」
「聖職者と言えば聖職者です。他宗教の」
「他宗教?」
「ええ。こことは違った宗教です。ですから祈りをしに教会へ行くこともあります」
「他宗教なのに?」
「神に祈るのはどこでも一緒ですよ」
彼女は「変なこと言ってますよね」といい。クスクスと笑う。その笑い方は手を押さえる女性らしい笑い方だった。そういえば………3人の女性を知っているがこんなにお上品できれいな女性らしい笑い方なんて出来ないと思う。育ちの違いを見せつけられている。
「一体どんな神なのですか?」
「破廉恥です」
「は、破廉恥!?」
「はい。愛の女神なのですが。愛とは白くも黒くもなります。美しく下品でもありますね」
俺は紅茶を溢しそうになるほどに綺麗な唇から「破廉恥」と言う言葉が出てきて驚いた。
「ふふふ。私を何処かの姫様か何かと勘違いしてませんか? 顔に出てますよ。クスクス」
「す、すいません。勝手にこう………決めつけてしまって………」
「皆さんそんな感じですよ。私は魔法も剣も使える冒険者です。友人に会いに来たのです」
「そ、そうなんですか!?」
「冒険者ギルドの名簿に名前があります。まぁもう………廃業してますけど。だから、一人なんです」
驚きの連続だった。目の前の姫様かと思ったが違い。冒険者の一人らしい。何処から見ても姫様にしか見えないがそうなのだろう。プレートを彼女は手にもって見せ胸元に戻す。なんでそんな場所に納めてるんだとドキッとした。
「まぁ剣は置いてきてます。帝国で荒事はもう、ないでしょうし。それで勇者様はいつ頃旅立つんですか?」
「えっと………4日後?」
「頑張って下さいね。どちらから行かれるのか知りませんが………きっと砂漠からでしょうね」
砂漠とはスパルタ砂漠の事だ。スパルタ国と言う帝国傘下の国がある。噂では屈強な男たちが居る国で。スゴく強い者が多いのだとか。
「そこから。魔国へ行き、長い旅です」
「覚悟はしております」
「そうですか。あなたの旅路に陽の導きがあらんことを」
「あ、ありがとうございます!!」
「ふふ。こちらこそお茶お誘い。ありがとうございます。それでは、失礼しますね」
「はい。またどこかで会いましょう。あっ……いいえ。一ついいですか?」
「はい?」
「その、彼氏とかいらっしゃいますか?」
「彼氏はいません」
「では………その………」
「?」
モテ期を盾に「一緒に冒険しませんか」と誘おうとして飲み込む。彼女は勇者じゃない。死んでしまうかもしれない。だから…………誘おうとするのは良くない。
「今度、また会ったときお茶でもどうですか?」
「また会ったときですか…………生きていればいいでしょう」
彼女は悲しそうな顔をする。その意味はきっとこれからの旅を案じての事だろう。
「は、はい。絶対帰ってきます。絶対に」
「信じましょう。では、さようなら」
彼女はローブを深くかぶり。店員に一つ二つ何かを伝えて店を出た。俺は椅子にもたれ掛かりため息を吐く。
高瀬の花だ。誰よりも高潔で誰よりも美しく芯の通っている雰囲気もする。男として「落としてみたい」と思うほどに。勇者なんだ。フラグは立っている筈。頑張っていこう。ああいうキャラはのちのちアフタールートのサービスキャラだ。行ける行ける。
「あっ会計お願いします」
古風なメイドにお金を渡そうとする。すると笑顔でメイドは応える。
「お会計は今さっきの冒険者からいただいていますよ」
「え!?」
「女ではなく同じ冒険者としてだそうです」
格好いい。俺はそう思い、「戦う姿を見てみたい」とも思うのだった。
*
教会の中で私はある人物をまつ。
「お待たせしました姫様」
「姫様………ヒヤヒヤしましたよ」
人間の男二人が大剣を携えて現れる。もちろん聖職者らしく祈りを捧げてこちらに来た。信仰は深い二人だと思う。人間の女神に祈っているのは面白いけど。
「音奪い…………聞かれてないわ。情報は集まったかしら?」
「集まった情報は8人に手渡し、各自バラバラで向かっております」
4組に分けた理由はもちろん。確実な伝達のためだ。
「そう、わかった。あなた方二人が最後ね………重要な物です送り届けてください。トキヤに」
蝋で封をした手紙を手渡す。私の偽名を書く。勇者はわかる。小鳥遊と言う名前と漢字が。
「わかりました。内容は秘匿ですか?」
「勇者の能力と容姿、どういった性格かを書いてる。あとは…………黒騎士団長とのこの前の会談結果も」
「!?」
「重要でしょ?」
「…………姫様。危ない綱渡りはお止めください」
「心臓が持ちません」
「4日後に出発らしいです」
「わかりました」
二人が立ち上がって教会を後にした。私も立ち上がって女神像の前に立つ。人間の女神像の前に。
「エメリア」
「なーに。ネフィア」
声をかけると背後から声がする。振り向かずに話をする。
「本当に寝ているんですね。女神ヴィナスは」
「4人召喚と勇者一人の腕を再生。そして………一人の女性を祝福したんです。力を使い果たしてしまったようですね。元々帝国は皇帝を神に近い存在洗脳もあって信仰は低めなんですよ。まるで何処かの王が『女神に立ち向かう予定』があったような動きでバレて負けたようですが」
「神の居ぬ間に洗濯と言ったものだが。ちょっとな」
「姉が休むほど力を使うのはあなたを恐れていると言うことです。ネフィア」
「………恐ろしいですか? 私は?」
「恐ろしいですよ。だって女神の土地で好き勝手してるでしょ? それに英魔国内を無血統一です」
「好き勝手とは失礼な」と言おうかと思ったが。違うことを考えてしまい。言葉を窮する。
「好き勝手ですか………人間の女神の方が好き勝手ですよ。勇者なんて作って、魔族を排斥、迫害、消そうとしてるんですから」
「出会ってどう思いましたか?」
「可愛そうな人形です。使命に縛られた機械のような……機械が形を持った状態に見えます」
「…………ですね。遠からずそうです」
「勇者との約束は叶わなそうだな」と私は思うのだった。私の手で勇者を殺すのだから。
§商業都市新名ネフィア、勇者到着
俺たちは帝国から商隊に混ざり北上した。途中砂漠でサウンドワームの群れを倒し。ワイバーンの群れも倒し。商隊の商人から多額の金額を貰え。好調だ。
砂漠都市スパルタで滞在し多額のお金でコロシアムを見学したあと。3人と日替わりで童貞を捨てるイベントもあった。
寒い時期らしいがそれでも砂漠は暑く、それが次第に旅の途中で冷えていく。旅は順調であり、スパルタから数日で商業都市ネフィアへ到着した。
最近都市名が変わったらしい。都市名は昔の偉人の名前を使うのが通例であった。妖精国ニンフ、都市ヘルカイト、帝国首都ドレッドノート。
そして、族長の抗争で商業都市は名前は無かったのだが。ユグドラシル商会等の商業連合隊の膨大なる資金力と財と信仰。大抗争を迎え魔王側が圧勝、よって商業都市は統一。ネフィアと言う名前になってしまった。
そう、魔王ネフィアは恐ろしいほどに覇権を持っている。これからは敵地での行動だから気をつけないといけないらしい。
「ねぇ、ライブラ。これから敵地。気を引き締めなよ」
「そうだぞライブラ。グラビデの言う通りだ」
「そうですよ? ライブラさん」
「えっ? 俺なんでめっちゃ注意受けてるの?」
「だってライブラ勝手にねぇ~一人で全部倒しちゃうんだからねぇ~今回はそうはいかない筈」
「あのどや顔で『なんか俺やっちゃいました!!』って言うのはカチンと来たぞ」
「調子いいんですから。ライブラさんは……」
みんなが俺のことを貶しながら「ネェ~」といい。ジャンケンをしだす。
「股下だな」
「右腕」
「左腕」
三人が俺の所有権で争う。今夜もしんどそうだ。一番いいのは修羅場が無いことだろう。まぁ険悪な空気にはなることはあったが仲良く旅ができている。
俺はそう思いながら亞人、人間が混じった商店街を歩き。自分達は冒険者ギルドの直営酒場に顔を出す。何人かの冒険者が女性冒険者達を見て難癖かけたりするイベントもなく。平和である。
自分の知識とは大違いでビックリだった。まぁ衛兵の方が怖いもんな。あと暴れまわって殺されても文句は言えないらしいし。イチャイチャする冒険者も俺らだけではないならしく。皆が慣れきってしまっているとの事。前例があるらしい。
「……平和」
中には都市インバスからお持ち帰りした亞人と冒険者をやっている人もいるそうだ。比較的過ごしやすく。チンピラぽい冒険者もいない。思う………滅茶苦茶魔国内平和じゃね。
「冒険者ってチンピラのイメージだった」
「冒険者でもチンピラでは生きてはいけないのでしょう」
「恐ろしいな」
「恐ろしいですね。私たち旅の瞬間、ワイバーンの群れでしたよね。スライムとか下級な魔物なんていないんですよ」
「おれ、ハードモードとか聞いてないよ」
そう、俺たちは悩んでいる。この先の魔物強さに。きっともっと強い雑魚が多くなる筈。
「どうする?」
「どうしよ?」
「そうだ!! クエストをやろう。経験値を上げるんだ」
「そうですね。それが一番です」
俺たちはそうと決まって冒険者の受付に聞く。すると流石は商業都市。護衛ばかりと外周の魔物退治ばかりだった。魔物退治はまぁ魔物を退けるための方法なのだろう。衛兵隊は所詮壁の中だけの仕事しかしない。なお、冒険者より強い模様。サーチが魔法「サーチ」で調べた結果だ。自分達より弱いが………それでも驚愕だった。
この世界、噛ませ犬みたいな人が出てきてもめっちゃ強いのだろう。気をつけないといけない。ハードモードすぎる。
「では、外周の魔物でも狩るか」
「そうですね」
「おっ散歩!! おっ散歩!!」
女性人が嬉しそうに笑顔で歩き出す。俺はヘイヘイとそれについていく。何もない日常。
いつまで続くかわからないが。続いてほしかった。そして…………帝国で出会った、女性を思い出す。目に焼き付くこの燃えるような感情はなんだろうかと問答しながら。
*
ギルドの酒場での席で俺たちは奴等を見ている。
「現れましたね。トキヤ殿」
「ああ、4人だけか」
「4人だけです」
「5人が合計で一人は潜伏しているな。そいつは強すぎる。俺が対応して時間を稼ぐ。4人は任せた」
「はい。姫様の絵の通りですね」
「ネフィアなぁ………帝国で無茶してないといいけど」
「はは、残念ですが。黒騎士団長と陛下に謁見してますよ」
「そうだった。恐ろしい奴だ。恐怖も圧力も鼻で笑うほどに感じてない。飄々として………どこ吹く風なんだよなぁ………胆力、器でかすぎるのを初めて知ったよ」
「それはトキヤ殿では? 似てらっしゃいますね」
「………俺のせいかぁ~」
「トキヤ殿。落ち込んでいられませんよ。バルバトス様は一騎打ちがしたいそうですが?」
「勝手にやらせとけ。いいや………利用しようか。あの狂戦士」
*
「見られている」
そう、口にしたのはメデューサさん。彼女は四周を警戒する。
俺たちは今、商業都市の道路を歩き。たまに道に外れながら魔物を探す。1匹ほどスライムが現れたが魔法職の俺が簡単に仕留め。スライムの皮を手に入れた。
「誰に?」
「わからない。ついてきている」
「見えないけどなぁ~」
「私にもわかりません」
「なら………ちょっと罠を仕掛けよう」
俺はスマホからウィルスの黒い蜘蛛を数体撒き散らして伏兵にする。スマホに蜘蛛の見ている映像が写し出された。
「便利だな」
「すごくズルいね」
「では、歩こう」
4人で魔物を探す振りをする。すると………映像に亞人のダークエルフだろう冒険者二人がついてきているのがわかった。何か話し声を聞き取ろうとするが無言だ。
「あやしい」
「あやしいですね。どうしますか?」
「サーチは詳細とか見える?」
「やってみましょうか……ああ画面越しではダメですね」
「自力でやるか………」
画面が揺れ蜘蛛が冒険者の影に入り込もうとする。その瞬間、冒険者が剣を抜いて蜘蛛を切り払った。影として消えていく黒い蜘蛛。あまりの剣劇の速さに俺は驚いた。冒険者一人がアワアワとしながらも実はすでに黒い大剣を握っていた。いつ背中から引き抜いたのだろうか。
冒険者の会話が聞こえる。一人は抜いた黒刀を納めながら。
「魔物か?」
「魔物にしては変だな?」
「にしてもそれが居合いかぁ~」
「ああ。その武器もいいけど。わざわざ作って貰ったんだぞ。姫様やトキヤ殿に届きたくてな。この前やっとこの刀が届いた。いやぁ~格好いいわぁ」
「帰るか?」
「そうだな」
ただの冒険者のような会話。気のせいだったのだろうか。
「居合いか、剣筋が速い」
「メデューサ。気配は?」
「うーむ。なくなったが気のせいか?」
「気を付けましょう。敵地なので」
そう、俺たちは敵地にいる。だから………すべてを疑っていかないといけない。気疲れしそうだ。
「まぁなんにせよあと1匹で帰ろう」
みんなは俺の提案に頷くのだった。
*
冒険者を装った二人が深刻な顔で追跡をやめる。
「やベーな気付かれたかな」
「警戒はされ出したか………」
「頑張って感覚を鋭くしていて良かったよ。少し怪しい動きもあった」
「やっかいだな」
「『あんまり喋るのをよろしくない』とトキヤ様は言っていた。聞かれていると」
「………どうする?」
「あいつが仕掛けるのを待とう」
二人は頷き。仕事の話をやめて駄弁る。冒険者の振りをして。
*
酒場に戻ってきた俺たちは討伐した魔物の素材を売り、旅の資金源にする。旅の資金源は帝国からたまに使者が来てくれるそうだ。その使者はなんとトキヤさんだと言う。一緒に最後戦ってくれるんじゃないだろうか。
「ん、見られてる感覚はないな」
「気のせいだったんだよ」
「そうならいいが」
「気にしすぎはいけません。ライブラさん何かないですか?」
「何かって言っても………この宝具で出来ることは。盗撮?」
「………」
皆がジト目になる。まぁうん。
「あ、あとは洗脳とか?」
「恐ろしいことを考える奴だな」
皆にそれだけはやめろと釘を刺された。そして事件は起きた。
「やめろ!! はなせ!!」
「ああ!? 今財布取ったろ!!」
「つかめ………ああやっぱそうだな。懐から出てやがった」
「ガキ………盗みはよくねぇ」
「あああん!? 冒険者はお金一杯あるんだろ!! 少し分けてもらってもいいじゃないか!!」
「『こんなところで彷徨いてるからなんだ』と思ったら浮浪者か」
「ぐぅ!! うっさい!!」
酒場の一角で人間の人間の少年が捕まっている。どうやら盗みに入ったらしい。冒険者のこの場で堂々と。
「こいつこの前も盗んでいたよな。お金あげてもまた来る。痛め付けようぜ」
「ああいいな。一発づつな」
一人の亞人の冒険者が構える。そして、捕まっている少年の腹におもいっきり深く拳が入り込む。恐ろしいほどに深く突き刺さり、少年の口からゲロを吐かせた。
「おうおう、きたねぇな」
「げほ!! くっそ………冒険者め………」
「次は俺な……」
ガタッ
「メデューサ?」
「すまんな。少し助けてこよう」
「あんまり………首を突っ込まない方が」
俺は悩みスパンウェアを一匹つけた。応援する。
「メデューサ。やっちゃえ!!」
「うむ」
メデューサがゆっくりと髪を揺らしながら彼に近付き。肩を叩く。
「そこまででいいだろう。死んでしまうぞ」
「ああ? あまちゃんめ………浮浪者に同情か?」
「全く、これだから意識が高い冒険者は変なんだよ」
「げほっ………!! よっと!!」
少年が隙を見て冒険者の股間を足で蹴り脱出する。そして、懐を探って財布を取り一目散で酒場を出るのだった。
「へへ!! 姉ちゃんありがとう!!」
「あっ!! 畜生!!」
「追いかけるぞ!! 姉ちゃん手伝え!!」
「あっ………くぅ!!」
メデューサが追いかけようか悩んでいるのを冒険者が誘う。メデューサも隙を作らせてしまった罪悪感で仕方なく手伝おうとする。
「あ~構うから~」
「本当ですね」
「………俺。君が一応聖職者なの思い出してたんだけど?」
「異教徒はダメですね。救うに違わず」
「世知辛い」
なお、少しして帰ってきたのを見ると見つからなかったのだろう。メデューサがトボトボと帰ってきたのを俺たちは慰めるのだった。「そう、うまくはいかないぞと、この世界はおかしいのだから」と。
*
身軽なグラビデを操れるグラビデは夜中、一人で外に出掛けていた。勿論装備をしっかりして外に出た。一応は敵地と言うこともあり危険ではあるが散歩がてら、情報を集めようと考えたのだ。
これから先、情報をもって旅をしなければ道は険しいと判断した故の独断の行為。
いや、ゆとりがあった故の慢心か。能力が使えるからや強さに自信を持っていた。だからこそ彼女は狙われて囲まれる。
「ん………ん?」
酒場へ向かう大通り。一人の男性と目が合う。黒い肌のダークエルフだ。大きな槍のような大剣のような武器を持ち。対峙する。殺気を纏いながら。
「!?」
グラビデは周りを見た。周りの人達がグラビデを避けていく。そう、争い事が起きる場合この都市では日常だった。だからこそ関わらないように道を開けるのだ。そして………衛兵が市民を誘導し避けるように言っていた。
「ど、どういう!? な、なに!?」
異様な光景。一部の人々の目にはグラビデを蔑む目をしていた。グラビデは気がつかない。一部の人物が実は潜伏していた兵士だとは思いもしない。
「こんにちは。勇者、グラビデ殿。俺は魔国衛兵団長バルバトス・ダークエルフだ。よろしければ手合わせ願おう。いいや………死んでもらう」
「な、な!? なんでここに族長クラスが!?」
勇者たちは知らされていた。族長と言う長がいてそれらは強いと。有名どころの長は勉強していた。だからこそグラビデは驚く。
魔城に居る筈の族長が目の前に居る。そして………逃がさないように囲まれていることに気が付く。メデューサの言葉を鵜呑みにしなかった事で彼女は知らず知らずに死地に赴いてしまったのだ。
「………答える気はない!!」
ダークエルフ族長バルバトスが剣槍を構えて近付く。グラビデは慌てて能力を使い。重力を軽くし、横に避ける。避ける前の石畳が斬り払われる。鎧さえも切れそうな鋭い攻撃だ。
「くっ、[グラビテ]!!」
彼女は期待する。皆の騒ぎを聞いての援軍を。それまで耐えないといけない。だからこそ一帯の重力を操った。何人か地面に這いつくばり、全く動けなくなる。しかし………目の前のダークエルフ族長は動いてくる。ゆっくりと。重力は効いている。
「中々の魔法ですね。しかし、それだけです」
「!?」
彼女は背筋から汗が流れ落ちる。これが中ボスの風格。これが族長と恐怖した。ゆっくりと武器を肩に担いで睨み付ける族長にグラビデは後ろに下がり続けた。
シャン!! ザシュウウウウウウウ!!
グラビデは背後から近付かれて肩から大きな剣に切り落とされた。その瞬間に痛みともに胸の中の魔法が発動して頭が真っ白になるグラビデ。そう、目の前に気取られて上からの攻撃に気が付かなかったのだ。目の前の族長が笑顔になり。周りの皆が族長に集まってハイタッチをしているのを見た瞬間。グラビデの目の前が暗くなり。気を失う。
次にグラビデが目が開いたとき。帝国の玉座の間に戻されており、彼女は「自分が死んだこと」を知る。そのまま彼女は胸を撫で下ろし、ため息を吐いたのだった。神具の羽はもう力を使い果たしていた。
しかし、悪夢はここからだった。グラビデに声をかける者がいた。
「こんにちは。グラビテさん………私の名前はネフィア・ネロリリスです。死んでください」
帝国に戻されたグラビデの目の前に。白き翼と白い鎧を着こんだ天使のような魔王が立っていたのだった。
§白翼の姫騎士と黒翼の姫騎士
ネフィアは城の門の前に立った。大きな大きな開け放たれた門の中で騎士が一人一人に入城の許可証を確認している。彼女は今日からずっと通いづめないといけないその初日に堂々と正面から歩く。白い騎士の鎧を着込んだ状態で。
そして……それは後に「帝国の門を一人で潜った魔王」として彼女の伝説で語られるようになる。それほどまでに異様な出来事であった。
「止まってください!! ここは王城。入城の許可書を見せてください。どこの令嬢様で?」
「はい、どうぞ」
ネフィアは懐から陛下の発行する許可証を見せつけた。騎士は敬礼をし無礼を謝る。見た目は姫騎士なので皆が、御挨拶をしている。誰も心辺りがない姫様だが………身なりを見て勝手に納得していた。何処かの姫君だと。箱入り娘なのだろうと。囚われていた事も知っており。噂が噂を呼んだ。皇帝陛下の隠し子と。
故に嘘が広まり誰も気がつかない。誰も気にしない。綺麗な姫騎士が実は敵国の魔王と言うことを。誰も全く考えなかった。露骨すぎるために疑わない。
そして、誰にも止められずに玉座の間の扉にネフィアはやって来た。
「陛下!? 寝ておられなくていいのですか!?」
廊下から衛兵の声が響く。ネフィアは笑顔で待っていた。
「今日は調子がいい。それに私の愛人が来るのでな」
「陛下、遅くなりました」
ネフィアが跪き、騎士の礼をする。それを見た陛下は益々上機嫌になった。
「はははは!! 騎士の礼節を知っているのか!! お前は!!」
「私の剣の師は誇れ高きマクソミリアンの祖。元マクシミリアン騎士団長エルミア・マクシミリアンです」
「あの、紫の死神。女傑が師だったな!! なら当然知っているな。あやつも素晴らしい傑物だ。あやつの息子も孫も子孫もワシの子孫とは比べもんにならん」
皇帝のグラムが玉座の扉の前に立つ。衛兵が、扉を慌てて開けた。
「下がってよい。玉座の間に入れるのは王かそれに認められた者のみ」
「しかし………こやつは………」
この衛兵はネフィアを知っているらしいく視線を寄越していた。ネフィアも何処かで見たことがある素振りをして挨拶をする。渋々と衛兵が後ろへ下がり、二人は玉座の間に入とふただび扉を閉める。
玉座の間の鳥籠の晒し檻は消え、窓から陽光が差していた。そして、もう一人がお目見えする。
「久しぶりね。ネフィア」
「久しぶりね。ネリス」
ネリス・インペリウム。インペリウム家の御令嬢であり、勇者の支援者だ。ネフィアの白金の鎧に似た桜色の騎士鎧を身に付けている。髪は長くピンク色の髪を持つ。
「陛下、お下がりください」
「うむ。まぁここで見ておく」
「ネフィア………今度は陛下を誘惑? 見境ないわね」
「………はい」
「ならば、害は消さないと」
ブワッ!!
ネリス・インペリウムの背中から黒い翼が具現化し、黒い羽を撒き散らす。
「そ、その姿!!」
「ふふ、驚いた? 女神が私に力を授けて下さった。ここを護れとね」
「うらやましい!!」
「………」
ネフィアが輝いた目で黒い羽を見る。そして、同じように白い翼を具現化し背中を見せた。
「私って白い鎧に白い翼じゃないですか。そこはやっぱり黒い方が見栄えがいいと思うんです。一応魔族ですし!!」
いきなりファッションの話をするネフィアに皇帝は腹を抱えて笑い出す。
「はぁ………余裕ですわね。魔王。それに……その翼」
ネリスは自分の黒い翼とネフィアの綺麗な純白な翼を見比べ。嫉妬する。何故魔王の方が白いのかと。
「正義は私たちにあるのに………偽りの天使の翼を斬らせてもらう!!」
ネリスが地面を蹴り剣を抜く。細い剣であり突きを繰り出しながらネフィアに肉薄した。ネフィアは最速で向かってくるネリスに合わせて剣を抜き。突きを剣で叩き逸らした。ネフィアは頬をかすり、傷がついたが一瞬で傷が輝き、傷が癒える。血さえ出さない。
「な、なに!?」
「どうしました?」
ネリスが距離を取るために離れる。しかし、ネフィアはそれに追い縋った。剣を振り、細い剣と打ち合う。
1合2合と回数を増やしていく。金属音が玉座の間に響かせ………30合の時にネフィアが口を開く。
「軽いですね。剣が」
「はぁ!?」
「軽いです」
ガッキィイイイイイン!!
大きく剣を振った訳でもない。だが、ネリスの剣が大きく吹き飛ばされそうなる。ネリスは歯噛みした。「重い!?」と苦しんで。
ネリスは思う。重騎士のハンマーの一撃のような重さに剣を持った右手が痺れたのだ。
「あなたの剣は何を想い振ってますか?」
「それは!! お前を殺すために!!」
嫉妬に歪んだ顔でネリスは叫ぶ。愛しい人を奪い。自分の思惑さえなにもせずに潰し。まるで……まるで聖女のような清らかさにネリスは憤怒を覚える。自分の醜さを笑われている気がして。鏡で醜い姿を晒されているような気がして。ネリスは自分が影であることを納得しない。
「はあああああああああ!!」
キィン!!
ネリスが鋭い突きを行う。しかし、今度は距離を取ってネフィアが避けた。避けた先で、聖剣をその場に産み出して、ネフィアは地面を蹴り直し、ネリスに接近して2刀で攻め立てる。
「私の剣はトキヤへの想いと!! 国の女王としての国民への想いが乗っているんです!!」
回避から突然の2刀の猛攻。ネリスは防戦一方になり苦虫を噛んだ表情になる。経験の差が歴然である。
「くぅ。この!! くそあまああああああ!!」
ネリスが右に回転し、黒い翼で凪ぎ払おうとする。ネフィアも同じように距離を取って右に回転し、白い翼を黒い翼にぶつけた。
ドゴンッ
重たいもの同士がぶつかった音。二人の翼は消え。魔力となって白と黒の羽根として散った。ネフィアは叫ぶ。
「フェニックス!!」
「!?」
ネフィアは叫びと同時に聖剣に炎を纏わせてネリスに向けて投擲する。慌ててそれを弾こうと彼女は剣を振った。
キィン!! カアアアア!!
「王手」
ネフィアが囁く。弾かれた瞬間、纏っている剣の炎が剣から離れて鳥の形をする。ネリスは時がゆっくりになるのがわかった。そして呪詛を吐く女神へ。「ここまで強いのを知らない!! はかったか女神!!」と。
女神から聞いていた魔王の強さや技の情報が全く古いことを彼女は気付いた。ネフィアは人間女神の観測より早く強くなっていた事を知らない事が予想外だったのだ。
ドボアアアアアアアアアン!!
火の鳥が爆発音を立てながら火球になりネリスを飲み込む。剣と魔法の二段攻撃に負けたネリス。そのネリスを飲み込んだ火球にネフィアは近付き、ネフィアの背中の羽根が再生する。そして、背の羽根に炎が吸い込まれていく。
消えた火球の中心にネリスが倒れていた。所々、服は燃え塵となっている。鎧も溶けて赤くなってドロドロであり、ネリスが大火傷した顔をあげた。
パチパチパチ
「流石、女王………でっ殺さぬのか? こいつを」
皇帝が「いい決闘だった」と満足げに顔を出す。
「陛下!?………こいつは魔族です!! 敵ですよ!!」
ネリスが怪我をした状態で叫ぶ。しかし、皇帝グラムはネフィアに聖剣を借りる。緑の剣が皇帝の懐かしいエクスカリバーの姿に変えた。
「敵の前に……お前は何故………玉座の間にいる?」
「そ、それは………あああああああ!!」
ネリスの体の中心に剣が突き込まれた。女神の祝福か傷が癒えていく中で突き入れる。
「女王、首を切れ。お前の首級だ。王以外が無断で入った罰だ。勝手に暴れた罰だ」
「へ、へいかがああああああ!!」
シャン!!
ネフィアが近付きブロードソードの火剣を振り下ろして首を斬り離す。そのまま剣を納めたネフィアは疑問を口にした。
「陛下。よかったのですか? 彼女はあなたのご子息です」
「女王、ここはな………玉座の間。王が座る場所だ」
「私の座は………教会のような場所です。人が集まる場所です。こんなさみしい場所ではないです」
「成る程な。お前の王と言うのは………ワシの思う物と違っているのかやはり。老い先短く。お主の覇道をその先を見れないが。お前の王道がどう言った道になるか見届けたかったな。ガハハハ」
「……………見ててください天から」
「ああ、なるほどな。あの世で見ろと言うのか。ククク。お前は勝った。ここに好き勝手に入ってくれていい。だからこそ………言うぞ。『止まるなネフィア!! お前の進む道をただ信じろ!!』」
ネフィアは頷かない。しかし、笑顔になる。
「私は何も出来ません。ですが………国民が出来るでしょう。私は『英魔族を信じます!!』」
「ふっ……ククク。俺とは違うから本当に面白い。本当にお前の王の道を見たかった」
陛下はそのまま名残惜しそうに自室へ戻るのだった。
§目の前に魔王、ラスボス、リスポーン狩り
ネフィアはネリス・インペリウムを倒し玉座の間で住み込んで。勇者が帰ってくるのを待っていた。彼女はトキヤの育てた隊員たちに「勇者を時間差で一人一人倒してほしい」と願う。理由は勿論、殺到する勇者が4人同時だった場合は負けるだろうと考えてのことだ。
玉座の間の端に椅子とテーブルと野営用の簡易テントを置いて紅茶を啜りながらネフィアは本を読む。本は恋愛物だったがなんと作者はランスロットさんの父上と言う劇物である。非常に甘く蕩けるような内容の実在の話を元に書かれており。貴族社会で人気を博しているため騎士へ嫁ぐ者が多くなった原因である。
そんな中でネフィアは魔力の高鳴りを感じて本を閉じ、テーブルに置く。時間は夜中であり、勇者が暗殺されたのだろうとネフィアは感じ取った。
「一人ですか二人ですか? それとも全員?」
ネフィアは立ち上がり玉座の間の中心へ行く。するとそこでは魔方陣が浮き上がり。一人の少女が膝をついた状態で召喚された。ネフィアはその姿を見た瞬間に素早く目の前に移動して臨戦体勢をとる。ゆっくりとボーイッシュな女の子は目を開けた。
「!?」
皮軽装のシーフ姿の女の子グラビデはネフィアを見て息を飲んだ。ネフィアは彼女を知っていた。女の子の名前をグラビデと言い。能力が何なのかをネフィアは味方の情報を全て話してしまった勇者気取りの暗殺者。愚か者のせいで知っている。なので先に仕掛けておく、罠を。彼女の新しい炎の能力を。
「こんにちは、グラビテさん………私の名前はネフィア・ネロリリスです。ごめんなさい、死んでください」
「ネフィア………!?」
グラビデは気が付いた。しかし、彼女の頭は理解ができない。一度死ねば帝国の玉座の間に戻される事を知っていた。神の与えてくださったら物の効果だ。しかし………目の前に倒すべき敵が居るなんて事は知らされてなかったのだ。
「ここは………帝国。なんで!?」
「なんで、魔王が居るのでしょうね。わからないでしょうけど」
ネフィアは剣を抜く、「ゆっくり、説明なんかしてあげるほどに優しくはない」と思いながら。現実主義なトキヤの影響で慈悲を捨てる。
「ひ、ひきょう」
グラビデが後すざる。綺麗な幼い顔に恐怖が貼り付けられた。そう、グラビデは死ぬ恐怖を経験し、体が強ばっている。彼女は今さっき戦ったのよりも絶対強いと予想する魔王に震え出す。「一度、死んでも大丈夫だ」と言う保険がある状況は、死への恐怖に対する精神を鍛えられず。恐怖に打ち勝てない状態を生む。
「私を殺すつもりなのに………死ぬ覚悟も出来てないの? どうして私を殺そうとしたの? 全く………これだから転生者は何度も何度も失敗してたんですね」
ネフィアは主人のトキヤを思い出していた。彼と比較して少しは強いのではと思っていたのに拍子抜けだったのだ。黒騎士団長。族長たちの方が遥かに強いと信じている。この世界は甘くはない。
「…………!!」
ネフィアの言葉にグラビデが反応する。しかし、次にはわめき散らすように命乞いをした。
「お願いします!! 死にたくない!! 知らなかったんです!!」
ネフィアはそれに悲しい顔で喋り出す。「流石にそれはないでしょう」と思うのだ。「これが勇者なんて酷すぎる」と。旦那を思って苦しむ。旦那と比較して幻滅する。そう、ネフィアの剣の鈍りは拍子抜けたからだ。
「私が同じことを言っても殺すでしょ?」
「そ、そんなこと!!」
「ごめん。少し見苦しいよ」
ネフィアが白い翼を持つ形態に変化した。グラビデはその姿に驚く。幻聴なのか聖歌が聞こえ、まるで天使であり女神のように立って睨んで剣を構える魔王の姿に「自分達の方が愚かなのでは」と言う錯覚に陥る。「正義は向こうにあり。私たちはなんのために集められたのか?」を疑問になりそうなほどにわからなくなる。
グラビデの目にはどうみても敵には見えないのだ。だからこそ叫んだ。そして、それでも苦し紛れで能力を起動する。
「あああああ!! グラビデ!!」
彼女が叫び能力が発動する。周囲一帯で重力が増え。ネフィアの動きが止まる。ネフィアはへたりこみ、重力に耐える魔王を見て「あっ」と言う顔になった。余裕が生まれる。
「なんだ。効くんだ」
「……重たい」
ネフィアは演じる。重いふりを立てないことはないし走れる。しかし、飛び跳ねることはできないと冷静に判断を下しながら、待つ。
「このくそ女!! ビビらせやがって!!」
「………本当に勇者?」
勇者ライブラに見せられないほどに醜く表情を歪ませてナイフを取りだし近づく。ネフィアの問いには答えない。
「私一人で倒せるね……あなたを」
余裕の笑み。憎たらしいほどの余裕の笑み。
「うぐ………お願いします。殺さないで」
ネフィアはこっそり。舌を出す。答えは決まっているが意趣返しだ。
「………」
グラビデは答えない。しかし、グラビデは手にあるナイフを握り直した。行動で問いに答えたのだ。
「結局………そうなんですよね、勝ち誇るんですよね。グラビデさん。私って美人で白いから目立つでしょ?」
「ええ、それがなにか?」
警戒するグラビデ。余裕の表情が崩れる。
「カイザーフェニックス。足元がお留守ですよ」
「!?」
グラビデはその場に止まり、ナイフを構え足元を見た。しかし、彼女は気が付いた。上が熱いこと。目線をあげた瞬間に炎に飲まれる。
「きゃああ!!………………」
ゴオオオオオオオオオオオ
上から襲って来た白い炎の翼を持つ鳥に飲み込まれて重力の影響を受けていたのかいなかったのかはわからないほどに一瞬で喉を焼ききられ全身を燃やした。辺りに人間の焦げた臭いを撒き散らす。悶える時間はない。そして熱風がネフィアの頬を叩く。
「……………」
絶叫はない状態で立ったまま彼女は何もかも黒く白く炭化し、倒れた瞬間に体が砕けた。骨は高温で曲がり。ただ人だった物が転がる。その中心から小鳥が突き破ってネフィアに戻っていった。内蔵も何もかも水分等を蒸発させて焼ききっているだろう。内側から。
「………うぷ。ちょっと気持ち悪いですね。残酷でしたか」
あまりの残酷な光景を作ったネフィアは「仕方がない」と思いながら剣を収めて手を合わせる。
「天国へ行けますから………どうか次の転生先は普通の人として生きてください」
無慈悲だが。ネフィアは扉を護る衛兵に後始末を頼む事にしたのだった。あと3人と考えながら。
*
勇者たちは朝にグラビデが居ないことに気が付いた。気が付いた瞬間、宿屋の主人から「彼女は夜に何処かへ出掛けた」と聞く。ギルドの酒場で彼らは会議を行う。既に亡くなっている事を知らずに。
「なにかあったのか?」
「わかりません。しかし、彼女はそれでも勇者の一人ですから強いと思います。しかし、帰ってこれない。何かの事件に巻き込まれたのかもしれません」
「どうする? 待つか? 探すか?」
勇者一向の唯一の男性であるライブラが提案する。危機感を持っていない3人。そう………すでに魔王の手によって葬り去られている事を知らない彼らは愚かな選択をした。
「探そう。3人手分けして情報を手に入れよう」
「確かに時間は惜しいですものね」
「決まったね。では………昼に一回ここに戻ってこよう」
「ああ」
「ええ」
「一応、事件の匂いだから気を引き締めよう」
勇者一向は頷き。パーティは解散した。ギルドの酒場でそれ以降彼らの姿を見たものは居なかった。彼らは自信に満ちていたために別行動に移ってしまったのだ。
§邪眼の女騎士の目の前にラスボス
女騎士メデューサは大きな通りの商人に話を聞いていた。大通りで堂々と人探しをしているのは一応は目立ち。なにか向こうから接触があると思っての行動だったが。そのとおりだった。
「人間の姉ちゃん………やぁ!!」
「おまえは」
「この前はありがとう」
「いや………………」
彼女は予想外だった。この前、酒場でゲロを吐き財布を盗んだ少年が声をかけてくれたのだ。
「でっ……姉ちゃんもしかして人探ししてる?」
「………すまない。子供は危ない事に首を突っ込まない方がいい」
「姉ちゃん探してるのって………あの軽装の姉ちゃん? 知ってるよ?」
「!?」
彼女はその場を去ろうとした瞬間に足を止めてしまう。
「裏路地行こうぜ~子供だからこうやって稼がないと生きてけないんだ~金貨1枚ね」
「…………」
メデューサはどうしようかと悩み。一緒に路地裏へと入る。路地裏と言っても4mぐらい幅広い場所で建物の影になっているが普通の道とも言える場所である。
「姉ちゃん。昨日ね………ここであの姉ちゃん一人で情報を集めにいってたんだよ。そこでさ………こう暗殺者の人と戦ってた」
「な、なんだって!?」
少年が喋り出す情報にメデューサは驚いてつい口に出してしまう。
「お姉ちゃん強かったよ。でっ命からがら逃げて潜伏してるんだ。僕知ってるよそこ」
「そうか………ならそこを教えてほしい」
「うん………わかった。勇者殿」
しゅっ!! ザグゥ!! グリグリ!!
「かは!?」
少年が一瞬で間合いを詰め女騎士鎧の隙間、横腹にナイフを突き入れた。メデューサは目の前の状況についていけず。横腹を押さえながら少年から離れる。少年は目を閉じていた。メデューサは自分の能力を知られている事に背筋が冷える。何が起きているかわからないと言うように。
「何故……何故だ!!」
痛みに耐えながら。赤く塗れたナイフを持つ少年の声が変わる。幼さを感じない声だ。そう………青年の声が路地裏に木霊する。
「自分は人間とゴブリンの血が混じってて体が小さいままなんですよ。まぁそんな仲間がいっぱいいるんですけどね。だから一応大人です」
「くっ!! 騙したのか!!」
「ええ、自分の出身地。都市オペラハウスの子役から。女王陛下の元への志願兵ですよ。お仲間の所へ送りますよ。殺して帝国に」
「こ、殺した!? あの………グラビデを!?」
女騎士は戦慄する。人間の少年にそこまでの強さがあると思えなかったのだ。剣を抜き、痛みに耐えながら構える。傷はゆっくりと癒えていく。
バサッ!! スタッ!! ダダッ!!
女騎士は上から大きな影が降りてくるのがわかった。それは大きな布。それが女騎士に被ってしまう。気がつくのが遅れた。それは目の前の少年のせいで、目の前の殺意に目が離せなかった事が原因だった。
何人かの足音が聞こえる。女騎士は剣をむちゃくちゃに振り回して布を切ろうともがくがその前に。路地裏に殺到した部隊に鎧の上から斬り下ろされたりしてぼこぼこにされる。鎧を着ていたために耐えていたが、多勢に無勢。しだいに………倒れ。布が紅く染まり路地裏に血だまりや壁に飛び血が散乱するまでにやられる。
「まだ死なないか」
「自身を硬化しているな。しかし………姫様よりも耐久は低いな」
「夢の中の姫様。頑丈だったなぁ………」
皆が染々と女騎士の亡骸を見る。微かにまだ息はある。「弱ければ苦しまずに済んだものを」と皆が思う。なお、ネフィアは夢の中で剣一本だけのハンデで隊員と戦い。損耗耐久戦で勝利している。「それよりも弱いな」と隊員は思ったのだ。
「首を落とす。俺が」
一人の刀を持ったダークエルフ族が腰から抜き、スッと振り……刀を戻す。すると布ごと、女の首が飛んだと思った瞬間。光だし粒子となって消えてしまう。
「姫様の元へ行ったか」
「あとは姫様の仕事だな。にしても………めっちゃ名演だった!!」
皆が同士のゴブリンの頭を叩きまくる。勇者を俺達で倒せたことを喜びながら。
*
昨日の今日。目の前で惨劇を行った魔王は玉座の間にある椅子に腰かけていた。朝食を帝国の食堂で衛兵と食べた後からずっと。
「すぅ…すぅ……」
寝ていた。翼は畳まれ、魔力の羽根が玉座のあちこちに散り、玉座に陽光が差して女神が寝ているような光景が生まれる。
あまりの幻想的な光景に衛兵たちは明け放たれた扉から覗き込んだ。絵心を持つ衛兵が一人、スケッチし出す。女騎士の鎧をドレスに見立てて。
玉座の間に…………穏やか時間が流れていた。だがそれは終わる。
ブオオオオオン!!
魔方陣の起動音とともに静寂が崩される。慌てて衛兵が扉を閉めた。ネフィアも目をひらけ、顔をあげる。
「んんんん!!…………よく寝た。相手はメデューサね」
魔方陣を眺め。姿が見えたときにネフィアは玉座から離れ柱に隠れる。相手が目を合わせると危ない相手と理解しての行動だ。
跪いた女騎士が召喚された。メデューサはその瞬間体を抱いて震わせて叫ぶ。
「なんと卑劣な行為か!! 魔王めえええ!! 性根の腐った魔王め!!」
ネフィアはビクッと体を震わせる。全く心当たりがないのに怒られている事に。
「………えっと。おほん」
ネフィアは気を取り直し声を響かせる。
「余になんのようだ? メデューサ」
「なっ!? 何処から声が!! おまえはいったい!!」
「魔王ネフィア……がり…………」
ネフィアは悶絶する。ここ一番で舌を噛んでしまった。あまりの痛さに名前を言い切れなかった。
「魔王!? 何故帝国に!!」
「…………」
「答えろ魔王!!」
メデューサが大きく叫び、剣を抜いて声を荒げる。ネフィアは答えようとしても答えられない状況なのだがそれはメデューサは知らない。
「何処だ魔王!! 出てこい!!」
「すぅ………ああ。痛かった。出てこれるわけないでしょメデューサ。石化させられるし」
「何故知っている!! それと!! グラビデはどうした!!」
「灰になりました。知っているのは勇者から聞いたんです。あとですね~酒場で会話はだいたい丸聞こえですよ」
「…………帝国に潜伏していたのか!?」
「ええ、あなたたちを倒すのに2回倒さないといけないですから。リスポーン狩りです」
「卑怯な事をして。勝ってなんになる!!」
「卑怯? 勝つための努力は生きるための努力です」
ネフィアは堂々と話す。
「私は魔王になりたくありませんでした。しかし………この大陸で生き抜くために私は皆に選ばれました。それを否定はしませんし。何があったのか知りません。ですが、選ばれたら戦わないといけないのです。民のために」
「…………くぅ」
「ですので死んでください」
「………姿を見せろ!!」
「はぁ……血が登ってますね。フェニックス」
ネフィアはため息を吐きながら、炎をだし、それがネフィアの姿をする。そのまま歩いて柱から出す。囮だ。
「お前が………お前が魔王か!!」
メデューサが剣を振りかぶりフェニックスを切る。切られたフェニックスは笑い。剣に炎が巻き付く。
「な、なに!?」
剣を払い、炎を引き剥がして距離を取ったメデューサ。フェニックスはそのまま立って笑みを向ける。柱の裏からネフィアは手入れようの手鏡で位置を確認し、柱から走り出す。側面、鎧の薄い場所を目指し鞘を掴み。柄を掴み。居合いの構えをする。
「に、偽物!?」
目の前のフェニックスがネフィアの偽物なのにメデューサは気が付いた。しかし、もう遅く。だが、メデューサの騎士としての勘がこのときやっと働き側面を見る。ネフィアもしまったと思う。
メデューサとネフィアは目線が合った。目を閉じる前に合ってしまった。
「あっ……」
メデューサはネフィアの姿に「何故、天使が?」と思い。一瞬で「女神から堕天して裏切り者」と勝手に解釈し、深い増悪の笑みを浮かべた。
ネフィアは体が石化して、動かなくなると思ったが。普通に剣を鞘から引き抜き、炎刃が女騎士を巻き込む。
「な、何故!?」
「な、なんで!?」
「「効かない!?」」
メデューサは絶望な表情で絶叫しながら、倒れ炎に焼かれる。ネフィアも驚きながらも絶叫をうるさいので音を消し去り首を傾げた。
ネフィアは全身を見てもなんにもなってない状況に悩む。そのまま「まぁいっか」とネフィアは考えるのを止め。さっと女騎士の首を斬って絶命させる。苦しんでいるようだったので介錯した。
「勇者って人柄………悪い? でも、転生後はこの世界の住人になれたら普通になるのでは? 変えた? 洗脳?」
そんな疑問のまま。ネフィアは偽物のフェニックスを戻して衛兵に終わった旨を伝える。すると衛兵の一人がデッサンさせてほしいと言われ快く承諾する。
衛兵が片付けるなかでネフィアは気が付かない。石化の呪いが効かない理由と己がまだまだ変異している段階だと言うことを。いままで、呪物を浄化してきた事を忘れていた事も忘れている。そう、メデューサも知らない。何度も呪いをはね除けた魔王ネフィアが聖職者であり、自身を祝福できるほどに矛盾した退魔の力を持っていることに。聖なる力を行使出来ている存在なのだと。
エルフ族長は知り、ネフィアも人間至上主義女神も気付いてないのだった。
§陽の天使を崇める勇者を寝取る魔王
サーチは一人、新設された教会に足を運んだ。信託や教会の女神に会いに来たのだ。教会は小さいがそれでも多くの信者がひしめき合い。喋り散らかしうるさく。少しだけ眉を歪ました。亞人の神父がそれに気がつき、説明する。
「人間の信奉者ですか。すいませんね。これも女神の求める物ですから。人間は静かにお祈りしたいでしょうが……申し訳ない」
「ええ、驚きました。うるさいです」
「まぁ待合所のような場所であり、女神は許してくれるのです。騒がしいのも静かなのも全て受け入れる。そんな女神様です」
サーチは一人で宗教関係の情報を集めていた。最近、新しく宗教が魔国で流行り。それが魔王ネフィア誕生を後押ししたと言う。内容は多神教。「多くの神が魔国に降臨していただいている」と言う物だ。
多神教。そう………サーチは情報を掴んでいた。
愛を司り。性に関して悪とも聖とも言われ。皆が心に愛があると信じる愛の女神エメリア。
大地の全ての母である世界樹の生まれ変わりと言われ。商業を司り。竜をも従える聖樹女神ユグドラシル。
陽の明るさ。全ての種族を照らし。名前はまだないが絶対に存在すると言われる太陽の女神。
3人程、有名な神があり………魔族全員がその宗教者であると言う。また魔族ごとで神が違う事も含めて多神教化したらしい。しかし、ほとんどが無宗教だったのが陽の女神の挨拶したら宗教者と言う「簡単な物のために。莫大に広がってしまった」と言う事をサーチはスパルタ国で一冊の本を買って知っていた。今も持っているそれを神父に見せる。兎耳の神父はそれを見てピコピコと耳を動かす。
「それは………聖書ですね。どなた執筆ですかな? 私はグレデンデ大司教さまのが好きです」
「グレデンデ大司教です」
「それはそれは……同志ですね」
グレデンデ大司教。サーチはこの多神教宗教で魔国を一つにした張本人。こいつが裏の魔王だと思っていた。 しかし、どうやら本当に聖書の主人公が魔王らしく。逆に困惑する。魔物の王らしくないのだ。
「私もこの本を読んでみて凄く気になったんです。魔王のことが。私は………その………勇者です。しかし………聖職者でもあります」
「そうですか…………姫様はたしか勇敢な方。戦ってくれるでしょう」
「魔王を慕う人は………多いですか?」
「多いです。何故なら私たちが唯一。一つになれる方法なのですから。この首都もやっと一つになりました。争いで殺し会う事も、いがみ合うのも、もう終わりです」
「でしたら………私の仲間を拐ったのはあなたたちですか?」
「ええ、そうですねきっと。姫様と勇者に選ばれた精鋭。祝福されし英魔国護りの衛兵たち。黒衛兵隊ですね。呼び名は様々ですが……教会によく顔を出してます。気をつけてください」
教会の人々が途端に敵に見えるサーチは一人。ため息を吐いた。
「それを話すと言うことは………私一人では敵わないのですね」
「ええ、きっと………ですが。姫様に説得すれば助かるかもしれません」
「それを喋って良かったのですか?」
「自由で静かに暮らすこと。それが女神が求めるものです。それに同志じゃないですか。私には……あなたが可哀想に見えるのです」
サーチは息を飲んだ。神父が笑顔に驚かされたのだ。姫様を殺そうと旅している奴に向ける顔ではない。そう………聖職者の器を見せつけられる。
カツン!!
「………おっと。衛兵のご登場ですね。教会の裏側もいるねこれは」
「……はぁ……拷問されて最後ですか」
サーチはため息を吐く。「きっと根掘り葉掘り言われるのだろう」と諦めてそう思っている。獣族とエルフ族の二人の前に神父が躍り出た。
「神父すいません。その人を渡してもらえませんか?」
神父が前に出てサーチを庇う。サーチはまたここでも自身の聖職者像との隔離に驚かされた。
「神の御前で血生臭いのはやめてください」
「ああ、だから。渡してほしい」
「ここは教会の敷地内。権限はこちらです」
「姫様のためにだ。お願いだ………」
神父と衛兵たちがサーチを無視して議論し合う。一人、エルフ族が俊足で離れる。
「動くなサーチ。お前の仲間がどうなっても知らないぞ」
「仲間は………どうでもいいです」
「なに!?」
「………サーチさん?」
「ええ、どうでもいいです。作られた仲ですから」
サーチは投げやりに言う。神父たちが顔を傾げる。そんな中で駆け足で二人が現れる。その速さには目を見張るものがあった。恐ろしいほどに俊足でこれは逃げられないとサーチは悟る。黒い大きい角が生えた男性だった。大きな黒い剣を背中に担ぎ。そしてサーチを庇う教会の主に頭を下げた。全員が同じ行為をする。
「神父、すいません。後で罰は受けます。お願いします。俺の命と交換してください」
サーチは息を飲んだ。「こんな少女を引き渡す事にここまで言うにか」と。
「はぁ………隊長自らですか。ダメと………」
「すいません。神父………私を庇ってくださいましたこと感謝します」
サーチは覚悟を決める。このやり取りを見て………これまでの全てを見て………自分は悪だと知る。物語勧善懲悪と言う話ではない事を確実にする。
「隊長さんでしたか………連れていってください。陽の女神の加護があります。次回の人生が願わくば英魔族でありますように……」
「……………そうか。すまないな………人間の聖職者」
「はい。ここで、お願いします」
サーチは正座する。そして………商業都市で買ったお守りを握りしめる。陽を形を型どった物。目を閉じて身を捧げるように祈る。
「魔王は………帝国に居るんですね。やっぱりあれは見間違いじゃなかったのですのね」
「知っていたのか? 教会で出会ったと聞いてはいたが………」
「能力を使い、調べました。最初は間違いだと思いました。しかし………調べていくと納得しました。姫様に会い。聞いてみます。私は運悪く勇者として生まれてしまったから」
「………はぁ。同じ同志。向こうで姫様にお願いしてくれ。もし、説得出来れば生かして貰える筈だ」
「優しいですね」
「………敵であれば容赦はしないが。その瞳に敵意はない。サーチと言ったな。我が名は隊長ノワール・デビル。悪魔だ」
「礼儀の正しい悪魔ですね」
「………これも運命か。全てを見届けよう。もし、許されざるなら、私が亡骸はしっかり丁寧に供養しよう」
「あなたは悪魔ですか?」
「悪魔だが…………いい答えを持ち合わせてない。すまない」
「そうですか……では供養。お願いします。神父さん。ありがとう、庇ってくれて」
「………ああ。帝国だったな。待っていろ。長旅になるからな」
そう言い、ノワールは剣を降り下ろすのが見えてサーチは痛みと共に意識を失うのだった。
*
ネフィアは玉座に座る。スケッチをする衛兵のために皇帝の許しを得て玉座に座っていた。衛兵の用意した服を着替えた状態で止まって待っていた。その瞬間にスケッチしている衛兵の足元に光が集まり魔方陣が産み出される。召還されるのは際どい姿の聖職者だった。
ネフィアは知っている。出会っている。一度出会っていた。帝国の教会で。衛兵が慌ててスケッチを持って避難する。
「姫様………申し訳ありません。鎧ではないことを」
「気にするな。余は魔王………このドレス。綺麗だからな。汚さぬようにするよ」
「陽の加護があらんことを」
衛兵は嘆息する。その堂々と勝つ宣言する魔王に心を奪われる。玉座に帝国の旗が風のない筈なのに靡いた。
「ん………んん………」
ネフィアは横になって倒れる聖職者に剣を向ける。
「………サーチさん。能力は鑑定」
「………魔王様。いいえ、女王陛下ネフィアさま」
ネフィアは様子の違う勇者に剣を納める。敵意がない。そう、敵意がないことに気が付く。
「お初ではないですね。サーチさん」
「ええ、教会で」
「それで。どうして………諦めたんです。使命を。勇者でしょう?」
「………えっ」
サーチは驚いた表情を見せた。「何度も何度も驚かされてばっかりだ」と内心で思う。
「見たらわかります。覇気がない」
「………長くなりますが聞いてくれますか? 会いたかったです」
「ええ、いいでしょう。ちょうどそこにテーブルありますし、椅子もあります」
ネフィアに導かれて席に座るサーチは話をする。ネフィアは内心でドキドキした。何故なら殺気だっていない以上に何か思っていたのと違うことに。悩み相談、懺悔みたいな状況に。
「私の能力は知っています。私は教会で一度能力を使いました。そして………一瞬で全てを知りました」
「全て?」
「女王陛下ネフィアさまと名前がわかった後に………すごされた日々に。何でもです。能力以上に知ってしまいました。勇者を愛している日々を」
「…………恥ずかしいですね。うん」
ネフィアは照れる。サーチは「そんな笑顔が出来る魔王を知らない」と心で思いながら口にした。
「作られた使命と作られた勇者。作られた勇者への愛。何もかも女神が作った物です。そう………私は何もかも作られ。勇者を無償に愛せという呪いをかけられています。だから……それをサーチして確認して自分で知って『消えたい』と思いました」
サーチは自分を鑑定した。「結果は散々だったのだろう」とネフィアはそう思い、口にする。
「呪いを解いてほしいですか?」
「呪縛を解放してほしいです!! あなたの愛する真の勇者トキヤさまのように!!」
「…………味方を殺しましたよ?」
「本当の味方を………普通に愛して作りたいです。皆、英魔族の人々はいい人ばっかりでした!! 庇ってくれて………嬉しかった」
サーチが泣き出す。ネフィアは席を立ち子供をあやすようにサーチを抱き締めて自分の翼でも包む。
「陽の天使ネフィアさま。どうか………裏切りを女神からの堕天を認めてください」
「いいえ。認めるか認めないかはあなたの足で歩いてください。私は背中を押すだけしか出来ません」
「知ってます。自由になりたい」
「…………サーチ。下の名前は?」
「ないです」
「では、爵位司祭。サーチ・リベルタを名乗りください。あなたは自由です。あなたのその翼で好きに飛び立ってください。私が祝福してあげるから」
「ネフィアさま………ありがとうございます」
深く私の胸に顔を沈める。ネフィアは優しく子を撫でるように慈悲を渡す。
物音がしない事に疑問に思った衛兵が扉を開けて見たとき。「天使の祝福する瞬間を見た」と目に焼き付けるのだった。
§勇者と裏切り勇者
俺は一人、酒場に帰ってきた。昼を一人でとり、スマホに電気を流して補充する。周りの目線があるが気にせずにスマホで位置を確認した。スマホにはこの都市の地図が用意されている。
「…………いない。どこにも」
消えたと表現すればいいのか、何処にも反応がない。今更ながら蜘蛛をつけていればよかったと後悔する。一人一人、消し去られているのだ。
「勇者ライブラ。話がある」
「と、トキヤさん!?」
酒場に知り合いの彼がローブを被って登場する。深刻な顔で俺の席の向かい側に座る。
「ライブラ………全員個別で捕まったようだ」
「な!?」
「話はここで出来ない。ついてきてくれ奪還する」
俺は驚きながらも。なんとなーくそんな気がしていたので頷く。「捕まって俺が助けに行けば株も上がるし、勇者らしい」と思い。深刻な顔をしながらも内心は喜んでいた。そういうイベントだと思う。
「余裕そうだな」
「勇者だから」
俺にはこのチートアイテムがある。「大丈夫だ」と信じ、彼に連れられ酒場を出た後に路地裏に入る。こっそり蜘蛛をつけて警戒しながら。
そして………大きな路地の裏に何故か広場があり。公園でもないただ広いだけの場所である。建物の影で少し暗い。
「ここは?」
「物置き場だった場所だ。情報屋の集まる場所でもあるが………誰もいないな」
「変ですね」
俺はこっそり蜘蛛を戻す。そしてスマホの画面を見て驚きの表情と共に地面を蹴り距離をとった。
内容は爵位勇者。英魔女王ネフィアの王配と言う情報だけで俺は臨戦体制に移る。スマホの中に数十個の魔法をコピーした。
「どう言うことですか!! 魔王の王配とは!!」
「………やっぱ厄介な能力だな。報告通りか」
「トキヤさん!! なんで裏切って!!」
「おい。ライブラ…………そいつの相手は俺がする」
「ああ、遅かったな偽者いいや………偽物かな?」
俺は連続で入ってくる情報に混乱する。先ず……目の前のトキヤさんは王配。後ろから聞こえたのはもう一人トキヤさんがいる。これはいったいどういうことだろうか。
「な、何がどうなって!?」
「さぁ~どうなってるんだろうな」
偽物が笑顔になる。憎々しい顔だ。それに本物が睨んで話をする。
「ライブラ、お前の仲間は全員殺された」
「えっ!?」
「目の前の奴にな!!」
俺は驚き、目の前の男を睨み付ける。何してるんだこいつ。
「俺はまだ一人も殺ってない。お前で一人目だ」
「ほざけ………ライブラ逃げろ。ここは俺がやる」
「お、おう。援護は………」
「とにかく帝国まで逃げろ。とにかく逃げろ」
俺は踵を返して路地裏に逃げる。スマホを構えたまま。
*
勇者トキヤと王配トキヤが同じ形の剣を構える。
「腕治ったのか?」
「女神が祝福してくださった。お前こそ腹に穴が空いてただろう」
「……ネフィアがな、癒してくれたんだ。『白い翼でまるで天使だった』と聞くぜ。奇跡を俺のために起こした。本当にいつもいつも………死なせてはくれないよ」
「………ギリ」
勇者トキヤは歯軋りをする。憎々しい自分のモデル。苦渋を飲まされた事への怒りと惚れた女のノロケ話などにヘドが出る思いだった。
「ここへ来る途中でも。夜を何回か………綺麗な聖女を汚す感じだったな。俺の上に立ち、俺の下で手を広げる姿は淫魔のそれだな」
「ギリギリ………」
ニヤリと王配トキヤは歪んだ笑みを見せつける。精神攻撃をして、相手の冷静を失わせるつもりで効果はある。下劣な話をしているが、王配トキヤは採取される側なので苦労している。
「まぁ、お前に言っても自慢にしかならないな」
ギャン!!
勇者トキヤ距離をつめて怒りを込めて剣を降り下ろし重い一撃を出す。王配トキヤはそれを剣で防ぎ。力勝負をする。
「なんだ? まーだ心に奴への渇望があるのかぁ? やめとけ………俺しか見えてないぞ」
「お前を殺せば!! 稲妻の螺旋!!」
剣に電気が走るのが見え王配トキヤは後方に下がる。バチバチと剣が帯電し、剣を中心に螺旋を描く。それに王配トキヤも準備する。
「嵐の支配者」
王配トキヤも風を剣に纏わせた。
ゴオオオオオオ
バチチチチチチ
「一撃いいのかましてやる」
「………一度死んだ奴はな!! 死んでないといけねぇんだよ!!」
勇者トキヤが叫び剣を振るい。王配トキヤも同じように振るう。
路地裏で雷と嵐が混じり魔力となって霧散し破壊の限りを尽くさんと荒れ狂う。そして、その中で火花が散る。遅れて激しい金属音を鳴り響かせながら剣と剣が撃ち合う。 路地裏の建物が壊れていく。
「あぁ~お前の剣軽いな」
「何を!!」
王配トキヤは防戦一方だが。余裕を見せる。
「実力はお前の方が上だが………今回は負けられな
い!!」
ブワッ!!
王配トキヤの周りに風が集まる。そして、勢いよく後方に飛ぶ。追い縋れない程に早く速く移動する。
「なっに!! 逃げるのか!!」
「………」
追い縋ろうと稲妻のごとく走る勇者トキヤ。それに向けて王配トキヤは大剣を投げつけた。それを勇者トキヤは弾いた。その瞬間………王配は消える。
「!?」
風に混じるように王配トキヤは姿を消した。剣を残して。
「風隠しか………」
勇者トキヤは目を閉じる。怒りを静め感覚を研ぎ澄まし、背後にいるのがわかった。くるりと翻し抱きつきにいく。
ザクッ
勇者トキヤはナイフを腹に受け止めながら獲物をとらえた。離さないと強くしがみつきながら。暗殺者を捕まえた。
「!?」
「捕まえたぞ!! はははは!! 一緒に死んでもらう!!」
「………ああ。お前は復活できるんだなそういえば」
「ああ!! だから!! 神の審判!!」
「へぇ~大呪文か」
ゴロゴロドゴオオオオオオオオオン!!
晴天の霹靂。都市を揺るがす大音量と共に路地裏にピンポイントで落雷が落ちてくる。抱きつく二人を焦がしながら。
「ぐぅ……があああああ!!」
「あああああああああ!! はははははは!!」
自爆で道連れを敢行した勇者トキヤ。狂気じみた笑い声で痛みに耐える。王配トキヤはナイフをグリグリと抉るがいっこうに死ぬ気配はなかった。
「勇者に尾行し、お前が出てくるのを待っていた。俺と死ね!! そのすました顔を焼ききってやる」
「…………じゃぁ。俺とお前の我慢比べだ」
「くく、簡単にへばるなよ俺!!」
都市にもう1つ稲妻が落ちる。空気を鳴動させながら。
*
その頃、ネフィアは優雅に用意されたテーブルと椅子で午後のお茶を楽しんでいた。目の前に泣き張らした目をしている女の子。サーチと一緒に。衛兵のスケッチはまた後日になった。今は目の前の女の子と話をしなければならいとネフィアは思う。
「帝国のど真ん中でこんなに優雅にお茶を楽しむなんて…………変ですね」
「何処でも淑女たるもの。落ち着きを持たないとね」
「ありがとうございました。スッキリして………楽になりました。ネフィア姉さま」
「よかった。私も楽にこうやってお茶が飲めるのもあなたのおかげよ。敵対してたら死体処理中だったわ」
サーチは「恐ろしい冗談を」と身震いして、あることに気付き想いを伝える。
「お姉さま………」
「ごめんなさい。ちょっと怖がらせちゃった?」
「格好いいいですうううう!!」
「!?」
ネフィアが紅茶を溢しそうになり。慌ててカップに乗せる。
「んんんん!?」
「はぁ………お姉さま。流石です。その凛々しくも男のように勇敢でありながら。女の繊細さとお上品さを兼ね備えてるなんて………同じ女性とは思えません。いいえ、お兄さまと呼びしていいのでしょう………ああ!! 尊い」
ネフィアは恐ろしい物を見た気がすると頭を押さえる。これはヤバイ。目でわかる。女の子の表情とその恍惚とした顔を見れば誰にでもその感情は読み取れた。
「あ、あなた。勇者にゾッコンではなくて?」
「教会で見たとき。私はこれは運命と思いました。そして………苦しみました。正直に言います」
「う、うん…………」
「お姉さまぁ~私のお姉さまになってください‼」
これはあれだとネフィアは思う。都市オペラハウスでもあった。同性に対する異常な感情。ネフィアは理解できない感情だった。慕うならわかる。慕う以上に見えるのだ。まるで恋する乙女のように。
「お姉さまの活躍は知っております。聖書を何度も何度も何度も読みました。丘での笑みは………本当に美しいです」
ネフィアは知らない。彼女が読んだ本が盲信者。エルフ族長の本だった事を。
「……………」
「あらあら、ネフィア困ってるね」
「エメリア………だって」
ネフィアが引き気味にエメリアを見る。フワッと現れた女神は嬉しそうにご挨拶をする。
「エメリアです。こんにちは……勇者サーチ」
「始めまして!! エメリアお姉さま!! 美しいお姿です」
「「えっ?」」
「どうかされましたか?」
「い、いいえ。ええ、ええ」
「エメリア。凄く焦ってますね」
ネフィアは理解している。エメリアも理解している。「破廉恥」と言われなかった事に動揺したことを。サーチはそれを凄く仲のいい姉妹に見え、己が女神のお茶会を共にできる今日の幸運を祈りだした。
「今日の幸運をありがとう。お姉さま」
「ネフィア!? どうしよう!!」
「エメリア………あんまりに祈りなれてないから慌ててる」
「………だって」
「ふふ。女神のお姉さま方。大丈夫です。どんなお姿でも受け入れます」
「………洗脳解けたんじゃないの?」
「………おかしくなってますね。私、女神じゃないですし」
「ああ、辛辣。ネフィアお姉さま」
「ごめんなさいね。あまりの変わりようで………」
「お姉さま。1ついいでしょうか?」
「なーに?」
ネフィアはサーチの言葉に答える。サーチは嬉しそうにしたあとに何か考えて言葉を口にした。
「お姉さまの役にたちたい。お姉さまに救っていただいたのに何も御礼ができていません。神父さんや………色んな人に。そう………ノエールと言う悪魔さん。私の亡骸を供養してくださると約束してくださいました。帝国まで来てくれるそうです」
「そう、役にたちたいのね。トキヤさんは転生者でありながら記憶なしですけど。サーチさんはお持ちですか?」
「少なからずあります」
「では………ノワールさんと一緒に東方の島国を探して向かって欲しいです。都市ヘルカイトにユブネさんと言うドラゴンがいます。お話を伺ってください」
「島国?」
「はい。サーチさんはどういった国の出身でした?」
「島国です」
「なら、味噌とか文化を学んできてください」
「??」
「味噌汁飲みたい。松茸、醤油、揚げ豆腐………」
ネフィアが悲しそうに味を思い出していた。ワンダーランドの世界で知ってしまった美味しさを思い出す。
「ネフィアお姉さま。思った以上に俗世にまみれてますね」
「だって………だって…………」
異世界を何故か経験してしまい。「味を覚えてしまったのが運のつきだった」とネフィアは思う。
「わかりました。その任を承ります」
「ありがとう。ノワールさんをちょうどいいので護衛につけます。二人でユブネさんを訪ねなさい。今から色々と書くわ」
「何をですか?」
「私直々の勅命書。ノワールさんとユブネさんや他で困ったら使いなさい。女王が命ずる使命です」
「わかりました!!」
衛兵に道具を持ってくるように頼み。10枚ほど直筆書き込む。その一枚を私は開け見せる。
「お姉さまの字………綺麗」
「そこじゃない」
「………内容はわかりました。しかし、何故複数を?」
「見てて………」
勅命書が燃え上がる。封筒と一緒に。
「!?」
「私の魔法が入っておる。読んだら燃え上がるから偽装も出来ないわ」
「わかりました切り札ですね」
納得してくれたようでそれを受け取るサーチ。
「ありがとうございます。姉さま……あ~姉さまの人生羨ましいですわぁ~」
「あげませんよ。私のトキヤとのシンデレラストーリー」
「本当に……勇者が好きなんですね」
「好きにならない理由はなくってよ?」
「そうですね。ああ、本当に羨ましいです」
サーチが年頃の乙女のように恋愛話を話す。ネフィアはそれを聞きながら赤面した。エメリアも同じように会話に参加して裏話を話す。
「ネフィア姉さま。暴れすぎですね」
「猛牛ですね。あっ猛乳牛でした?」
「ネフィア姉さまの乳!! 触ってみたいです!!」
「そんなことよりも面白い事があって………」
ネフィアは恥ずかしい過去を暴露され。ネフィアの辿ってきた恥ずかしい恋ばなもされて心がゴリゴリと削れる音が彼女はしていた。ネフィアは顔に出さず淑女として落ち着いているが、「穴があったら入りたい」と思った。事細かに見聞されている様は日記を誰かに見せているようなそんな気分を味わっていた。
「二人とも、そんな過去の事はいいでしょう」
「さ、さすがお姉さま。過去は過去と?」
「トキヤ以外の事は忘れたわ」
全部覚えていることは言わない。
「はぁ……高潔ですね………お姉さま。少し真面目な話いいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「お姉さまは何故。自身の能力や強さを過信したりせず。粛々としているのでしょうか……いえ。能力等は知ってますか?」
「婬魔の能力でしたら。夢や姿を変えるぐらいです」
「目に見えない能力をお持ちではないでしょうか?」
ネフィアが首を傾げて考える。
「剣術、魔法、奇跡………他に出来る事は家事、料理、洗濯、編み物、乗馬、物書きでしょうか? サーチさん」
「本当に教養がよろしい事です。いえ。魔王……間違えました。英魔族女王になるために必要な事でしょうか?」
「強さは必要でしょう。英魔族ですし」
「ネフィア様………申し上げます」
サーチがネフィアの能力の名称を知らないが近い言葉で話をする。抜けている部分でだ。
「ネフィア様は………勇者なのではないでしょうか?」
「!?」
その結論、評価にネフィアは息を飲む。そして、パタパタと手を振った。エメリアは「しまった」と言う顔をする。しかし、それにネフィアは気が付かない。
「勇者じゃないですよ。女王です。魔王ですよ」
「勇者の定義は果たして転生者のみですか?」
「………それは違うでしょう」
ネフィアは旦那を思い出して言葉にする。
「どんな過酷な状況でも未来でも。希望を忘れず勇敢に結果を求める者であり。英雄と同じように偉業を成した人を言います。そして………勇気を授ける者でもある。名誉の爵位と考えております」
「ネフィアお姉さま。お鏡……ご用意しましょうか?」
「………」
「ネフィアお姉さまは傲りませんが少し自身の事を過小評価し。自身をあまり知っていません。いえ………見てこなかった」
「サーチ。愛の女神が断じます。それ以上はいけません」
エメリアが制止の声をあげる。しかし、サーチは続ける。「お前なんか怖くない」と。
「ネフィアお姉さま。あなたは勇者です。何処の世界に聖なる力を行使する魔王がいるんですか?」
「………はぁ、ネフィア」
エメリアがため息を吐く。そして、ネフィアは大きい大きい溜め息の後にハッキリと声に出す。
「知ってました」
「「!?」」
二人が顔を見合わせてネフィアに向く。ネフィアは凛とした綺麗な声で真面目に語る。
「少し違いますね。見ないようにしてきた訳じゃないです。考えないようにしてきただけです。いいえ、それも違う。そんな事を考える前に………トキヤさんの夕ご飯を考える方が楽しいです。まぁ今は無理ですけど」
ネフィアは紅茶を飲み干す。ドレス姿で足を組み、王者の風格を見せて。
「私自身、実は恐ろしくなります。『強さ』の力を持っていることや。ふと、昔はあんなにも弱かった筈の自分が気付けば歴代最強の英魔族王であり。今こうして、女神や新しき勇者とお茶を楽しんでいることを。これは必然なのか………それとも。エメリアの指図なのか………わかりません」
「………ネフィア姉様。鑑定してもいいですか?」
「いいですよ」
サーチの目がオッドアイになり、ネフィアを覗き込む。そして言い放った。
「魔王と勇者は相反する存在。敵から見れば魔王。味方から見れば勇者。それはまるで私はお姉さまに男を見るように。トキヤ様は女として見るように。変わっていく者です」
「変な鑑定結果ですね」
「ネフィアお姉さまは………不確定なんです。なんでも演じてなんにでもなれる。トキヤ様の伴侶であると演じる故に今のお姿でしょう。だから………ネフィアお姉さま。それはもうストッパーとして機能し、それ以上に昇華されないのでしょう。天使のような聖女の勇者の伴侶で止まっています」
「……………もしも。伴侶を捨てたら」
「もっと高みを演じることができます。それがネフィアお姉さまの能力です。もっと上を目指すべきです。その先へ行くべきです」
「………そっか。ありがとう。付に落ちた」
「そうですか!! でしたら!!」
時が止まる。そう形容するほどに空気が凍てついたような。そんな気をサーチは味わった。
「女神殺しのために………悪魔になれる。ありがとう………ふふふふ」
サーチはいきなりの変貌に驚く。殺意やドロッとした空気に今さっきまでの穏やかな空気はない。目の前のネフィア様がただただ笑うのに恐怖する。しかし、サーチはその殺意に心当たりがある。そう、ネフィアは忘れていない。心に押し込めて押し込めている。それがちょっと出てきただけ。我が子を殺された怨みは消えてなどいなかった。
「ふぅ………ごめんなさい。ちょっとね」
いつものように「やっちゃいました」と笑うネフィアにサーチは………喜んだ。エメリアは悲しそうに見つめる。
「そうゆうの大好きです。ネフィアお姉さま」
サーチが笑みをこぼした瞬間に魔方陣が起動する。勇者が帰ってくるのだ。魔王の前に。
「今回は誰でしょうね」
ネフィアは静かに立ち上がる。剣を構えて。
*
ゴロゴロピシャッ!! ドオオオオオオン!!
俺は何発目かの雷を落とした。体や至るところが焦げて痛みを発する。腹に刺さったナイフの傷口はふさがり。目の前の男と自爆しようと試みていた。だが………
ズルッ
力が抜け倒れそうになるのは俺の方が先だった。
「な、なぜ……」
俺は声が出てしまう。「しまった」と思ったのも遅く。憎たらしい笑みを王配トキヤは俺に向けた。
「魂喰いは最後まで至ったバカはいない………その前に精神が歪む。まぁそれがどうしたか……知らないな。1つや2つ隠している事があってだな」
「な、なんだ!? その姿は!!」
王配トキヤの頭に角が生えている。悪魔族のように。
「俺だって一度負けたんだ。努力はするさ………それしかできないから。人間ではなくなる。中身がな変異する」
ゴロゴロゴロゴロ。ブオオオオオオ!!
空に雲が出来上がり。雲が渦を巻く。
「お前は風魔法使えないのか?」
「同じ魔法を使ってやるもんか」
「そっか………じゃぁ俺は遠慮なく………やらせてもらう!!」
目の前の悪魔が笑う。詠唱は聞き取れなかったがすでに終わっていた。詠唱を隠され何が起きるかもわからない。
「稲妻の嵐!!」
バチバチ!!
天空から稲妻が降り注ぐ。嵐のように。俺達に容赦なく引き寄せられた。1発1発は弱い稲妻の魔法だが連続して落ちるために呼吸さえままならない。痺れ痛む体に意識が消えそうになる。
「ふぅん!!」
目の前の男がもがき出す。何処からそんな力があったのかデーモンや竜のような力強さに拘束を解いてしまう。
「やれ」
そんな声と同時に……背後から大きな剣が腹を突き破られた。痛みがする。
「ぐはっ………」
「お前らの首級だ。やるよ」
目の前の王配はボロボロの服で背を向けて歩き出す。俺は魔法を唱えようとした瞬間に口を押さえられ、後ろに引っ張られた。剣を引き抜かれ、倒れるように転がされる。そこには数人の亜人が冷たい視線で俺を見ていた。同じ大剣を数人が同時に降り下ろす。
「ぐわああああああ!!」
体が千切れ飛ぶ。視界が暗くなり、そしてまた明るく見える。死んだために帝国に戻されたのだ。そう帝国の筈だ。そう疑問に思う。だからこそ驚く。
目の前に魔王が俺に対して剣を突き入れていた。魔王らしからぬ白い翼をはためかせて眩しい姿で一瞬の場面で頭が混乱する。
「げほっ………ね、ネフィア」
「軽々しく。汚い口で余の名前を語るな。歪んだ愚者。決着ついている癖にみすぼらしい」
「あっぐぅ……」
目の前に手を伸ばす。しかし、それは手に現れた緑色の綺麗な刀身の聖剣に切り落とされ阻まれる。痛みは感じない。そして、ネフィアは剣を刺したまま背を向けて羽を俺に当てる。それは温かく体が炎に包まれるのがわかった。
「白炎翼」
包まれた炎の中で俺は終わりを感じ、ゆっくりと体が崩れるのがわかった。何故かそれは………やっと終われると安心して目を閉じる。
「…………さようなら」
愛しい声が俺の耳に入る。手に入らなかった………至宝はこれからも輝くだろう。あの女神よりも。
*
玉座の間がまた焦げ臭くなる。「人が燃える臭いはなれないものね」とネフィアは心の中で愚痴った。
サーチがトテトテとネフィアの腕をつかんで灰を見る。
「彼は………可哀想な人ですね」
「トキヤを倒すためにトキヤを模倣した」
「だからこそ………歪んだ」
「仕方ないです。トキヤさん姉様のこと好きですから」
スッ
エメリアが灰の後ろにたち跪く。
「姉の犠牲者………私が供養します」
「…………」
「いいでしょう。ネフィア」
「いいですよ」
ネフィアは衛兵を呼びに行く。片付けを依頼しようと玉座の間を後にした。
*
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
俺は汗を流し逃げ回っていた。すべてをこっそり見ていたが魔王の勇者はとてつもなく強い。それ以上に黒い大剣を持つ冒険者もヤバイ。
当てもなく、都市のなかを逃げる。とにかく都市から出なくちゃいけない。そう判断した。
「畜生!! 畜生!! 畜生!!」
夢のような生活が一瞬にして霧散した。異世界に来れた筈なのに能力を持っていた筈なのに。
追い詰められていることに恨み言を述べる。黒い陰って湿った路地をひた走る。だが………それも終わってしまった。
「何処へ逃げる。勇者」
目の前に角が生えたボスがボロボロの状態で剣を構えて立っていた。絶望が立っていた。
勇者は叫んだ。この不条理な世界を呪うように。
§勇者と魔王の一度きりの最終決戦
俺はボロボロになった体に鞭を打って勇者を見つけた。路地裏をむやみやたらに走り回っているこいつは都市から逃げようとしていたのを正面に回り込んで止める。
「畜生………くぅ。起動」
「認証しました。マスター」
目の前のライブラと言う勇者が片手の魔法書を起動する。ネフィア情報では、色々と出来る便利な図書館らしく。影を蜘蛛として使役し。スパイを行うことが出来るとのこと。
「………勇者ライブラ。怨みはないがネフィアの元へ送る」
「魔王の元へ!? 生け捕り!?」
「いいや、殺す。2回死ねと言うことだ」
剣を担ぎ俺は走り出す。勇者はたまらず魔法を叫ぼうと声をあげた瞬間だった。
「音奪い」
「……!?」
声はせず。口をパクパクと動かすだけ。その顔に恐怖が張り付く。
「初見ではわからないだろう。死んでもわからない。その神の物は声認証で発動だろう」
「………」
反応を見ればわかる。未熟者。想定外の事に頭が追い付いてない。俺なら逃げて時間を稼ぐのだが、そういう判断も出来ない。
所詮は力を持っただけの素人だ。俺は容赦なく近付いてから切り下ろす。袈裟斬りにより血が路地裏に飛び散る。そして勇者は初めての痛みと死で声にならない叫びをしたが。無音で何も聞こえない。
「この近くなら。絶空」
倒れた勇者の口を塞ぐ。呼吸も出来ないだろう。苦しみもがき涙を流している。そして………動かなくなった。死体は光って粒子となって消えていく。
「あっけない。弱すぎる」
俺はそう一言いい。その場を去る。あとはネフィアがどうにかするだろうと思いながら。
*
玉座の間に魔方陣が浮かび上がる。ネフィアは身構える。最後の勇者が死んでしまったようだ。これで全滅まであと少しだ。
「ライブラですね。お姉さま」
「一番強い勇者よね?」
「一番強いのは武器が強いだけです」
召喚されるまでの間。ネフィアはサーチと一緒に魔方陣の中心を見ていた。中心に知った人間が召喚される。冷や汗や苦しそうな顔で。
「はぁ……はぁ………はぁ………息も出来る。声が出
る」
勇者が喉を押さえて肩を上下に激しく揺らす。ネフィアは気が付く。誰によって殺されたかがわかった。
「トキヤさんに出会ったのですね」
「!?」
勇者ライブラは顔を上げてネフィアの顔とサーチの顔を見る。驚いた表情で。
「な、なぜ小鳥遊さんとサーチさん? どうして!?」
「どうしてもこうしても。あなたが『帰ってきたらまた会いたい』と言っていたご執心の彼女は。初代英魔族女王陛下であり!! 歴代最強の魔王様なんです。お姉さまの面前で頭が高い!!」
「!?」
ライブラはネフィアの顔を覗き込む。申し訳なさそうに顔を背けるネフィアに………ライブラは叫んだ。惨めに。
「約束………叶いそうにないですね」
「だ、騙したのか!!」
そんなの間違いだとか以上に。自分が勇者で魔王を倒した暁には………とか甘い事を考えた相手が魔王本人であり。そして……魔王本人であるのなら既婚者で、非常に心が荒むライブラ。
「騙しました。いろんな事をメモして部下に渡し。『あなたたちを全滅させよう』と思いました」
「ネフィアお姉さま。もっとしっかり言ってあげてください。彼はバカですから」
サーチがネフィアの横から一歩前へ出てライブラを罵倒しようとした瞬間。ネフィアは翼を片方だけ広げてサーチを遮り盾のようにする。裏切り者へ攻撃を懸念しての行為。それ以上いくなと無言での行い。サーチは己が護られている事に感動し口を閉じる。
「さ、サーチ!? 何故!! 魔王の後ろに!!」
「呪いから解放していただきました。女神の洗脳を解除して」
「呪い!? 裏切ったのかよ!! 俺の事好きだったんだろ!! あの夜のお前は!!」
「ぺっ…………作られた愛になんの意味があるのでしょう? 知らない人を一目惚れ? 現実見ろよブ男」
「い、言い過ぎです。彼はまぁ………はい」
サーチの容赦ない言葉にネフィアもちょっと思うところがあったが。ネフィアもトキヤ以下と評価を下し。落ち着いて剣を抜く。
「畜生!! 畜生!! 畜生!!………どうしてうまくいかない………どうして。俺は選ばれたんだ。俺は………俺は!!」
自分の物にしようとした人が既婚者であり。サーチを寝取られ、連続して不幸が襲って来た。今までの幸せは崩れ去り世界を呪う。俺が俺が主人公なんだから。幸せにしろとワガママな事を口にして。その瞬間に手から声が聞こえた。
「力は欲しいですか? 欲しいなら………くれてやります」
「!?」
手の記憶媒体が声を発する。そこには新しいコード限界突破・リミッター解除と書かれ。ネフィアはその声に反応しライブラを切り落とそうと襲いかかる。
「くれ。目の前の女を奪える力を!!」
殺した勇者を同じように惨めな思いをさせたい。それで発した言葉に反応するように体の中の魔力が膨張。膨れ上がり衝撃波としてライブラの周りの空気を吹き飛ばす。ネフィアもその衝撃波に吹き飛ばされながら。翼でサーチと自身を護った。
「………お喋りが過ぎたようです。サーチさん。柱の裏へ」
「ネフィアお姉さま。魔力が桁違いに上がっています。身体や色々なものが強化され………限界以上の力です。短い時間だけ強化されるようです」
「………最後は容易く勝たせてはくれないのね」
「おおおおおおおおおおお!!」
ライブラは叫ぶ、己が強くなることを自覚しながら。そして図書館から一本の剣を抜く。一から復元された剣にネフィアは眉を潜める。エクスカリバーによく似た剣だ。
「自動制御。全て任せる」
「マスター認証確認。発動します」
ゴバッ!!
その言葉と同時にライブラは床を蹴り、魔法職とは思えないほどの加速でネフィアに迫り剣を振るう。ネフィアはそれを怖れずに直視し剣を弾いて防御した。
「雷撃!! 嵐の偽物支配者!!」
ライブラは片手で剣を振りながら。図書館から雷撃をネフィアに浴びせる。ついでに剣に付与魔法かけてネフィアのドレスを風で斬る。
「くっ!? ここで………鎧を着てないのが仇になるの!?」
バチ!!
「あぐく。痺れて痛い」
「ネフィアお姉さま!?」
「タカナシ!! いいや!! ネフィア!! 凌辱しあいつの前に引き出してやる!! 何故俺は不幸にならなくちゃいけないんだ!!」
「逆恨み!? まぁ……気持ちわかる」
剣撃を防ぎながらのドレスが余波でボロボロになっていく。電撃の痛みに耐えながらネフィアは叫ぶ。
「くぅ!! 強い。攻撃も速いし。魔法もバカスカを当てて痛い」
痛いで済んでいるのはネフィアが硬い事もさることながら。少し抉れても自然に回復しているために非常に高い耐久を持っていた。歌のような回復呪文の詠唱で回復しながら戦う。
「魔王が回復呪文つかってんじゃぁねぇえええ!! 奇跡はない」
「くっ!?」
魔王に対して、闇の魔法を唱えた勇者。少しの間だけ回復が阻害される。自動制御で相手の嫌な魔法を選んでいく。それにネフィアは歯噛みした。攻撃の激しさが動きがどうみてもトキヤに近い物を感じ、剣では勝てないと考えて冷や汗を流す。
ネフィアは「トキヤはどうやって勝ったんだ」と思いながら。この一瞬だけでも勇者のように強い。ネフィアだけを殺すための癖や攻撃方法、アンチ魔法を組まれたプログラムがネフィアを追い込む。ネフィアは女々しくなる。ドレスも千切れ。恥ずかしいほど。白い肌が露になる。だから、リセットをかねて一回転し翼で凪ぎ払う。
シャン!!
「うぐっ」
しかし、翼は切り落とされ魔力となって霧散した。
「爆炎の翼 !!」
しかしただではネフィアはやられせない。魔力が小さな爆発を起こす。たまらずに防御したライブラと距離が取れ。隙がライブラに生まれた。ネフィアはそのまま…………思い付く。
ダダダダダダダ!! ガン!!
ネフィアは玉座の間の扉に向かって走り、扉を蹴破り、廊下に出たあとに手を振ってその場を去る。サーチやライブラはその見事な逃走に少し反応が遅れる。
今までの逞しい剣劇を繰り返していたのに逃げ出したのだ。
「勝機がないと見て逃げた? お姉さまが!?」
「………!?………魔王の癖に逃げやがった!!」
ライブラは慌てて追いかける。多くの影で出来た蜘蛛を廊下に撒き散らしながら、ネフィアは廊下と階段を爆走する。後ろから足を強化したライブラが追いかけて同じように絨毯削りながら走る。
「魔王!! なんで逃げるんだ」
「音奪い」
「対抗呪文!! 穏やかな風になれ」
「ずる!?」
ネフィアはライブラの「ズルい魔法に卑怯だ」と叫んだが。「人の事は言えないだろ!!」と返してくれる。階段をネフィアが飛んで降りたあと。左足を軸に遠心力を生かして切り返し、階段を降りる。ボロボロで短くなったスカートや鎧ではないためにすばしっこい。強化されているライブラの脚力でさえ追い付けないほどに。
「稲妻」
ライブラは雷撃を飛ばす。走るよりも速く迫り。
バチバチバチ!! ヒョイ!!
当たる瞬間に大きくネフィアは体を捻って避けた。後ろに目があるのかタイミングはバッチリだった。
「!?」
ライブラは追いかけても追いかけても追い付けない。ライブラは驚きながら城を駆け巡る。衛兵使用人に見られながら。城ごと破壊すればいいのだがライブラの頭や自動制御にそんなことは書かれていない。故に………時間が来てしまう。
5……4……3……2……1
ぷつん
「あっ!? しまった!!」
ライブラは大きな間違いを犯してしまう。剣が消え、片手の記憶媒体の画面が暗くなる。そしてガクッと膝が折れ。手を床につける。ダラダラと汗を流し、気だるくなった体は一切動けなくなる。
ダダ、フワッ、スタッ!!
ライブラは顔をあげる。目の前に笑みを消した美少女が白い翼に光を放ちながら立っていた。
「『しまった』と言う声が聞こえて戻ってきたら………電池切れですね」
声に出してしまったためにネフィアは帰ってきてしまったのだ。衛兵や使用人たち。騎士たちが騒ぎに駆け付ける。
「くっ……どうして!! どうして殺すんですか!?」
「自分を暗殺しようとするのに殺されない道義はないわ。では、処刑します」
「ま、まってくれ!! サーチみたいに呪いなんだ!! そう!! サーチと一緒!! サーチだって殺そうとしただろ!?」
「サーチさんは死のうとしました。私に刃向かうのを良しとせず。あなたは違うでしょ?」
ネフィアはライブラの横に並び剣を両手で掲げる。
「ひ、卑怯な逃げて戦うなんて。それでも魔王か!? 人の純情もてあそび。この売春婦め!!」
「生き延びる戦いこそが普通なんです。あと、魔王の前に女ですから。生き延びて………逢いたいじゃないですか。夫様に」
「………」
ライブラは顔を歪ませる。死ぬ前に目の前の美少女がノロケたあとに笑顔で剣を掲げることに「この世界が狂っている」と思った。
「では、さようなら。勇者さん。ごめんなさい。約束、違えて」
「ま、まって!! 死にたく……」
スンッ
色んな野次馬に見られた中で断頭の処刑は行われた。
*
全ての勇者を倒し終え、私は玉座の間を片付けて陛下にご挨拶し暴れまわった事を謝って城を出た。トキヤの家もとい。実家にサーチと共に帰ってくる。ドレスはボロボロになったが衛兵が買い取ってくれた。サーチをこきつかい。荷物をトキヤの家に運び入れる。
「ここが始まりの聖地ですね。お姉さま」
「聖地ではないです。実家です」
「初めてのキスはここでしたよね。最初はトキヤ様から強引に奪われ突き飛ばした。お姉さまはそれに関して少し残念な気持ちでいらっしゃいます。最初なら……もっと………違う事が出来たのではと思うのですよね?」
「やめて………それ以上言わないで……やめて」
私は耳を塞ぐ。サーチの能力は鑑識。この家に残っている記憶を見つけ出したのだろう。恥ずかしすぎる。
「これからお姉さまはどうします?」
「城に帰ります。サーチあとこれをあげます」
勇者の死体から漁った記憶媒体を手渡す。魔力を流して再起動した。
「ネフィアお姉さま? しかし、声認証は」
「起動する」
「マスター認証」
「おお………」
「マスター権限委託っと」
勇者の声を真似て使えるようにしたあと。中身の設定で声認証はやめてパスワードを設定する。サーチさんにそれを手渡した。
「二人の旅は大変でしょう。貸しておきます。返してくださいね。旅が終わったらそれは封印します」
誰でも魔力さえあれば魔法を唱える事の出来るこれは世界を滅ぼす物と判断した。いつか私が消し去ろうと考える。エメリアは少ししか役にたたない。今もエメリアは何処かへ行ってしまった。
「ネフィアお姉さま。案外あっさり勝ちましたね」
「時間制限は失敗ですよね」
「耐えれる事がおかしいのです。もっと誇ってください。軽い気分で終わるものではありません」
「………そうですね。皆、理由があって剣を向けて。それを踏み潰したんですよね。ですが、私もトキヤと会いたいですから仕方ないことです」
そう、割り切る。案外気にしてもないが………「死んでまで辱しめを受けさせよう」とは思わなかった。偽物勇者以外は一応「手厚く供養してほしい」とお願いはしている。
「ネフィアお姉さま。一緒にお風呂とかどうですか?」
「いいですね。着替えても中身はボロボロですし」
「流石お姉さま。昨日の今日の人と一緒に入れるんですね」
「旦那と入ってるよりは恥ずかしくないですから」
そう言って私はサーチさんと一緒に入ることになった。終わってしまったらもう、あとはトキヤに会うだけ。そう思っていたらサーチに抱きつかれる。
「ネフィアお姉さま~」
「う~ん。あなたは少し、変ですよ」
「ネフィアお姉さまのせいです。ネフィアお姉さまが男なのでいい匂いがします」
「はぁ………」
1日でも早く。彼の胸に飛び込みたいとサーチをみながら思うのだった。女なのに………なんで女に好かれるのだろうかと疑問に思いながら。
§勇者抹殺後の亜人たち
トキヤとダークエルフ族長以下200名は商業都市の大きな酒場を貸し切りにして宴会を開いていた。気が抜けたと言うよりも皆が一人も欠けずに達成したことが何よりも嬉しいようで。「生きている」と言う事を賛美し、ネフィアを敬う賛美歌から始まった。
一糸乱れず。直立し短く歌う。この場にネフィアが居ればその歌に心当たりがあっただろう。ゆっくりの戦慄で短く。静かに苔が蒸すまでの長い平和を歌う。いい曲だと思うトキヤは思う簡単だ。しかし、そのあとの祈祷は長かった。
「祈祷10分は長い。短くしろ」
「トキヤは姫様になにも浮かんで来ないのでしょうが。一応我等は姫様のために集まってる」
「祈祷は1分これをルールにする」
「横暴な!? 姫様の配偶者であると言うだけで!! トキヤ殿!! 横暴!!」
「トキヤ。俺もそれは短いと思う」
「うっせ。ネフィアから言わせたる。1分だけでもありがたいと思え」
祈祷後、すぐに乾杯しビール酒が入った瞬間に皆が騒ぎだし。トキヤも横柄な態度を取る。トキヤのテーブル席にはダークエルフ族長グレデンデ。隊員代表のノワールと言う悪魔が席についていた。他にも隊員がいたのだがこの席の重圧に耐えられなくなり何処かへ逃げてしまった。
それでも3人。酒が入り饒舌になった結果……仕事の話になってしまう。
「トキヤ、これからはどうする?」
「エルフ族長からお達しで先ずは国内をどうにか内政で国力をあげるそうだ。あとはネフィアと合流。帰ってからだな。グレデンデは?」
「衛兵を遠征に出す。道路を繋ぐのに護衛がいるらしいからな。魔物が邪魔くさいだろう」
「ノワール隊長は?」
「約束した聖職者の亡骸を供養しに帝国に入る」
「約束した?」
「ああ、俺と同じ陽の信奉者か」
「ええ、陽の信奉のために命を捧げた聖職者の鏡だ。供養してやらんと我の信奉に傷がつく」
「聖職者か………まぁ仕方ないな」
「ええ、仕方ない事でしょう。トキヤ殿が特別だったのです」
ノワールが若い少女だったと言い。次の生の幸せを願う。しかし、彼は後で全く違う任務について祖国から長く離れるようになってしまうのは今の彼には予想は出来ないのだった。
「姫様はここで待つのだろ? トキヤ」
「もちろん。変なところに行かれないようにここで待ち。餌とする」
「自分を餌とは………いや」
「「「……」」」
暗黙の了解。ネフィアの愛馬鹿は知れに知れ。何も言わなくても伝わるのだ。「ネフィアを動かしたいならトキヤを使え」と言われるのは時間の問題である。
「これから。帝国はどうするのでしょうか?」
「攻める場所は決まっている。残念だが………」
「トキヤ、今のままで勝てるか?」
「負ける。だから国力を増やそうとしているんだ。ネフィアがたとえ………頑張っても0パーセントを100には出来ない」
暗黙で能力の話をトキヤがダークエルフのバルバトスに振った。納得したのかバルバトスはそのままグラスのビールを飲み干して真面目な表情になる。
「何年後だ。予想は」
「帝国が連合国をゆっくり手に入れている。疲弊した力を戻すのに1、2年」
「短いな」
「兵士は腐るほどいる。人間はいっぱい産むからな」
人間本当に良く産む。大多数は体が弱いために他種族より産まれやすいと聞く。オークよりも。
「数の暴力か………」
「バルバトス。ノワールさん。俺からいい一言がある」
「ん?」
「なんでしょうかトキヤ殿」
「一人で1000人殺せばここの3人で3000人だ」
「む、むちゃくちゃな!?」
「トキヤ。お前出来るのか?」
「一人で1000人殺せるやつを数人殺っている。出来るぞ? ん? ん? 3、4人俺はやるぞ?」
トキヤが珍しくバルバトスを煽る。バルバトスは不敵の笑みを浮かべ……指を出した。
「じゃぁ、俺は5人」
「なら6人」
「………10人でどうだ?」
「やれよ絶対に」
バルバトスは角を避けてトキヤのおでこを手で擦り笑みを浮かべた。ノワールはそのプレッシャーに背筋が冷えて逃げ出したくなる。
「英魔族最強は俺だ」
「オーク族長もいる。果たしてそうかな?」
「トキヤ、1、2年後が楽しみだ」
「………頑張れ応援してるぜ。ククク」
そのあと、二人が殺す方法を議論しあい。ノワールは知らぬうちに約束させられたのだった。首級の数を競う物に。
*
ふんわりした。穏やか寝室。帝国のトキヤ家。風呂上がりの美女ネフィアの羽根が入ったカンテラに部屋が照らされる。非常に明るく。昼間のような明るさにネフィアの金色の髪はキラキラと輝いていた。ネフィアは椅子に座り魔法で髪を乾かす。
「お姉さま。入ってもいいですか?」
「どうぞ」
部屋にサーチと言う名前の聖職者の美少女が入ってくる。彼女もまた。整った顔立ちでネフィアのように金髪なのだが少し癖毛が入っている。
「髪をとかしてもよろしいでしょうか?」
「ん? やってくださるの?」
「はい。お姉さま」
艶の含んだ声でサーチがお姉さまといい櫛を片手にネフィアに近づく。
「うわぁ………すごい。一本一本艶々で手から溢れるようにサラサラです」
「いい髪でしょ? 自慢なんです」
「はい。お姉さまの髪は本当に綺麗です」
櫛でとかしながらサーチは髪の感触を味わう。
「お姉さまは本当に強く。気高く。優しく。無慈悲で平等で。綺麗な人ですね。英魔族女王の座を手に入れて。なんでも望むものが手に入る地位ですね」
「すごく私を誉めてくれて嬉しいけど。私は普通の女の子ですよ?」
「ネフィアお姉さまのご普通はですね。普通ではありません。激しい謙遜は妬みや僻みを生みます」
「社交辞令ですよ」
「では、ネフィアお姉さまはどう思っているのですか?」
「…………」
ネフィアは少し考え吐露する。
「私は自身の今の姿は好き。綺麗な姿は非常に男にとって美味しそうに見えるし、楽しいから」
「ですよね。綺麗な姿を演じていらっしゃいます」
「そう、最高の女を演じています。自分が大好きです。トキヤが愛してくれるこの自分が」
「お姉さま。喋ればトキヤ様の事ばっかり。ネフィアお姉さまは英魔族の王です何でも手に入りますよ? 男でも富でも………なんでも」
帝国の家の一室に誰も王がいるとは思わない。王なら手に入る物はなんでも入るとサーチは思っていた。しかし、サーチは笑顔で聞く。答えを知っているが本人の口から聞きたいのである。サーチは途中から、本でしか彼女を知らない。だからこそ、聞いたのだ。
「なんでもですか………本当になんでもです?」
ネフィアは手机に置いてある手鏡を手に後ろにいるサーチを見て問いを返す。
「お姉さま。私は何でもと思われます。お聞きします。手に入らないものを教えください」
「………私が欲しくて手に入らないのは」
ネフィアはお腹を撫でる。優しく。優しく。
「トキヤとの平穏。普通の家庭で皆さんが持っている物。もう二度と手に入らない物。そして………トキヤとの子も手に入らない」
「………そうですね。手に入らないですね」
サーチは不謹慎だがその悲しむ姿も美しいと思い。心の中で感動する。こんなに変な人は一握りだろう。
「………他にも死んでいった人は戻りません。いろんな方の死を見てきました。王になっても手に入らないのはたくさん。たくさんあります。だからこそ………世界は美しいのでしょう?」
「お姉さまの言う通りです」
ネフィアがそれを聞くと。「ありがとう」と言って席をたち。ワインをグラスに注ぐ。一口含んで、ため息を吐く。サーチはその姿にも心打たれ。一つ一つの動作がまるで劇場のように見えりほどに流暢であり。魅せる。
サーチは今さっきの言葉を反芻し、ネフィアの異質性を見る。王になる物は全員欲があるが殆んどが大きい欲だ。ネフィアの欲は小さい。しかもそれは庶民的だ。「果たして令嬢にはそんなのを望む者はいるだろうか? いや、居ないだろう」とサーチは思う。なのに……王のような堂々とした振る舞いや。強さと人脈を持ち。聖剣さえ持っている。特に監禁からの返り咲き。完璧に近い王と言える。
「これからは………女神を倒した先は………どういった生き方をすればいいんでしょうね?」
「………ネフィアお姉さま。多分ですが」
「なーに?」
「『勝手気ままに生きる』と思いますよ?」
サーチは「何となく馴染むのだろう」と思う。郷に入っては郷に従うのがネフィアお姉さまの良いところだ。
「………ええ」
「トキヤ様と一緒の時はさぞワガママと聞いております」
「…………」
沈黙。
「さぁ~どうかしら?」
「ネフィアお姉さま。実際トキヤ様以外要らないのでは?」
「……………」
ネフィアが無表情になる。そして低い声で感情を吐露した。
「…………秘密ね」
サーチは頷き。ネフィアお姉さまの危うさを見つけた。分かりやすい地雷だと。別に女神様は………荒神でないと誰も言っていない。荒神を奉る理由は一つ。暴れないてとお願いする物だから。
「ネフィアお姉さま………ゾクゾクします」
「ごめんなさい。そっちの趣味はないの」
サーチの「変態的な趣向があるのだろう」とネフィアは引く。サーチは「勘違いしてます」と言いながらもネフィアの手を掴み逃がさない。真面目な顔で。
「ネフィアお姉さま。まだ、陽の女神について………お話があります」
「エメリアに聞いて頂戴」
「聖なる太陽の化身。女神ネフィア」
「…………」
「知ってました?」
「耳に入ってくる。たまたま同じ名前よ」
「はい。同じ名前です。しかし………私は思うのです。裏切った理由でもあります」
サーチが真っ直ぐ言い放つ。
「女神ネフィアはきっとお姉さまが『なられる』と信じております」
「そんな大層なもん。なれない………諦めなさい」
「…………はい」
サーチは知っている。ネフィアお姉さまは嫌がる。本心で謙遜する。でも…………誰が見ても。本人が否定しようとしても。「そうさせよう」と皆が動いている。太陽の女神はネフィアさましかいないのだから。
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