メス堕ち魔王は拐った勇者を気に入る『長編読者向け』

書くこと大好きな水銀党員

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担ぎ上げられた英雄

感情の炎、新たな勇者の出現

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§英魔族共栄圏初代女王陛下戴冠式


 綺麗な純白のドレスに赤いローブ。腰には名も無き炎剣を帯剣。その姿で私は窓から城下町を眺める。多くの人がごった返し今か今かとあわだたしく動いていた。数多くの種族が今日のこの日に集まっているのが伺える。

「姫様、お時間です」

「ええ」

「何か見えましたか?」

 今日は戴冠式。恐ろしいほどの群衆の集まりに背筋が冷え。汗が出る。見えたものに恐怖感を持つが。意地で押し込んで笑みを浮かべた。なんかそれらしい事でも言おうかなと思いながら。

「光でしょうか?」

 ごめんなさい、何も思い付かなかったです。適当です。

「左様ですか」

 しかし、エルフ族長は目を閉じて満足そうに跪き手を差し出す。「満足したの。適当な言葉で?」と思う。

「よろしければ私めに案内させてください」

「いいでしょう。まぁ場所は知っている」

「玉座の間とは違う場所です」

「そうですか。では、案内してください」

 畏まりましたと彼はささやく。私は彼が振り向き彼の後へついていく。そして心で悪態をついた。「滅茶苦茶固い!! 空気が重い!! めっちゃ真面目!!」と。

 恐ろしいぐらいに劇場の上よりも緊張した。重たい空気に私は汗が止まらない。涼しい顔をしているが背中はヤバイ。翼を広げて換気を良くして乾かせる。ローブに穴が空いてしまう。あっ………やってしまった。ドレスは背中が空いているがローブはそんなことなかった。

「姫様、申し訳ありません。ローブ窮屈でしたね」

「………脱ぎます」

「ええ。綺麗な翼を我々にお見せください」

「我々?」

「ええ。我々です」

 寝室の無駄に大きい扉が開かれる。すると驚いた事に………赤い絨毯が敷き詰められ。廊下の端に兵が跪いていた。乾いた筈の冷や汗が止まらない。

「では、向かいましょう」

「はい」

 私は夢を見ている気がした。きっとそう。夢だ。今頃ソファーで寝ていて起きたらご飯の仕度をしている主婦…………マナの剣あるから現実かぁ。

「姫様? どうかされましたか?」

「いいえ、この者たちは?」

「抽選で選ばれた兵です。皆がお待ちですよ」

「うむ。ふぅ………」

 私は気合いを入れて堂々と胸を張って歩き出した。玉座の間まで歩く中で多くの頭を垂れる兵士たちを見た。そこで気がついたのはネックレスを強く握りしめている姿だ。皆が皆、同じような行為をしている。

 廊下を陽の光で照らす中を祈るように強く握りしめている。

「あれは何を?」

「陽を型どったアクセサリーです」

「そうか……」

 深くは聞かない。本を読んだときに何となく察したからだ。新しい宗教が生まれている。まとめるためと言え。あらゆる手を尽くしていた。いや、もう皆が嫌がったのだろう。力での服従を。だから………すぐに広まったのかもしれない。

 廊下を歩きながら。大きな扉の前に来る。

「こちらです」

「廊下も歩いて思っていたのですが玉座の間とは違う場所ですね?」

「新しき玉座の間でございます。増築しました」

 衛兵が大きな扉を開ける。前よりも大きい扉。私はその中を見て驚いた。前より断然広いが熱気がムワッと中から廊下へと流れる。籠った空気に色んな汗の臭いが混じる。

「姫様。全英魔族長とその同志、集まりました」

 ギッシリキツキツ。柱の裏にも集まっているのだ。赤い絨毯以外は白いタイル貼りだろう。その上で皆が我慢して頭を垂れている。多い………とにかくも空気が悪い。密閉された場所で敷き詰めすぎだ。

「窓を開けよ」

「はい、窓を開けよ」

 衛兵が慌てて窓を開ける。そして私は歌を歌うように詠唱する。長く詠唱。

「我が元に風を」

 そして唱えた。窓や扉から空気が流れ、籠った空気が出る。換気と言うやつで結構上手くいった。

 1、2分の詠唱は長く戦闘には使えないが。ちょっと汗臭すぎる中を歩くのは辛い。

「お見事です。姫様」

「バカを言え。得意でないから詠唱もいるし時間がかかった。見事なものか」

 私は敷き詰められた赤い絨毯を歩き出す。玉座の間は大きな柱に囲まれ天井にはガラス細工のシャンデリア。

 両脇の窓で光が差し込んでいるためか中は明るい。前方の大きなガラスの窓はまるで教会のようにステンドグラスが敷き詰められ。ステンドグラスには翼の生えたエメリアが描かれていた。

 炎を優しく見つめる構図だ。玉座の椅子に向けて歩を進め…………椅子がない。あまりの驚きでこっそり音の魔法で囁くように聞いた。後ろからついてくるエルフ族長に。皆に聞こえぬように。

「椅子ないけど!?」

「ええ、向かう先はあの少し段がついた。場所です」

「いや!? 椅子ないけど!?」

「姫様は素晴らしい方です。魔王の象徴だった椅子を斬り、私たちの力以外で共存繁栄を伝えたとしております。段も1、2段しかないのも姫様が庶民派の女王であると言うことで…………椅子はないです」

「洗脳ご苦労」

「いいえ、これもすべて姫様のためです」

 私は悪態をついたが軽く流されてしまった。ゆっくりと歩を進めステンドグラスの前に立つ。本当にここは教会みたいな場所だ。

 エメリア喜ぶだろうなと思い振り返った。多くの臣下の中から控えていたのか使用人の一人が大切にティアラを持ってくる。可愛らしい女の子で綺麗なドレスを着た獣族の少女。私はつい………クスッと笑う。リザードの娘さんだ。体から緊張が解れる。

 鏡の自分を思い出す。ネフィアよ………私よ。今このときは余に演じよう。

「姫様、名工に作らせましたティアラでございます」

「うむ」

 私の元に少女がティアラを持ってくる。私はしゃがんで彼女の頭を撫で、それを受け取った。誰も私の頭に乗せようとはしないらしい。自分で被れと言うことだろう。

「ありがとう」

 お礼をいい、仕方なく白いティアラを私は頭に着けた。そして立ち上がる。皆が視線を上げて私を見る。そして、劇場を思い出し体が身軽になった。

 演じるのは得意だ。演じよう余を。この瞬間だけは私は余になろう。

ザッ

 9人の族長代表者が立ち上がり赤い絨毯に出てくる。そして、跪いた。

「エルフ族長以下代表者9名ここに宣言します。我ら英魔族は姫様の下で平等であり。我々は姫様に従い。姫様を敬い。そして共栄を望むことをここに宣言します」

「………うむ」

 演じようと言った矢先。台本がない。アドリブ。背中の翼を広げ、羽根を舞い散らせ。玉座の間に私の魔力が満ちる。オオと少し喚声が漏れている者もいるが小突かれて慌てて口を塞いでいた。

「余は何も知らぬ。故に頼むぞ我が臣下たち。宣言す!! 魔国は滅び!! 新しき国家!! 英魔族共栄圏を樹立する!! 立ち上がれ!! お前らは愚かな魔族ではない!! 優れた英魔族である!!」

「「「「オオオオオオオオオオオ!!」」」」

 新しき玉座の間で私が宣言したと同時に一斉に立ち上がった。雄叫びが城を揺らすほどに合わさり響く。だが、音が一瞬で止む。パタッと。

シーン

 皆が視線を色んな所へと目まぐるしく動かす。異常事態だからだ。しかし、私は………ワクワクする。

パチパチパチパチ

 乾いた拍手が一つ。それと騎士の鎧が擦れる音が扉から聞こえ視線が集まった。

 黒い鎧に赤いマント。背中に大きな見慣れた剣。それがゆっくりと歩を進めた。周りの一部の衛兵が剣を抜こうとする。

「動くな!!」

 私は叫ぶ。すると一部の衛兵が中腰に構えるだけで止まった。見られているにも関わらず。立ち止まり。兜のまま私を見る。

「………ぐぅ」

 私は我慢をする。泣きそうになるのを我慢してマナの剣を手に出し。9人の族長たちの上を跳躍する。そして………わかっていながら剣を黒い騎士に向けた。

「兜を取れ、狼藉者。今は神聖な儀式の最中だぞ」

「ああ。そうだったかすまんな」

 彼は兜を取った。肩に火の小鳥がポッと登場しチュンチュンと鳴く。胸に込み上げてくる感情を抑える。余は私に戻ってしまう。演じることなんて出来ないほどに心が揺れる。

「ネフィア、何処でその綺麗な髪飾り手に入れたんだ?」

「あぅ……ああ……うぅ」

 声にならない。涙が抑えられず。剣を落として顔を覆った。無理だ無理だ無理だ……

「遅くなったら。盛大に何かしてるし。戴冠式かな? 初めて見るなこんなの」

「遅いよ……私……ずっと待ってたのに」

「ごめんな。でも………一人で冒険出来るし、よく頑張ったと思う」

「トキヤ……」

 ギュウウウウウ

 私は視線を気にせずに彼に飛びついて抱きつく。黒い鎧は暖かく。冷たくない。

「おい。神聖な儀式の最中だろ? 他も見てる」

「無理だよ。愛してるトキヤ。来てくれるって信じてた。ありがとう………私の勇者………」

「はぁ………」

「トキヤ殿」

「エルフ族長」

「約束です」

「ああ。約束だったな。ネフィア………少し離れてくれ」

 私は渋々離れる。涙を拭い彼を見た。跪き私に頭を垂れる。

「帝国黒騎士トキヤ遅れました。ネフィア………あなたに忠義を捧げます。例え、裏切りの刻印をつけられても」

「ふふ、最初から捧げてますでしょう」

 腰の剣を抜き、彼の肩に置く。

「英魔族として受け入れましょう。帝国の人間でありながら余を支え、護ってきた。既に人間ではなく英魔族人族の一人として勇者の称号を与えます」

「ありがたき幸せ」

「余のため私のために………これからも……ヨロシク………うぅぅう……ぐす………」

「はぁ………最後まで演じきれよ」

「無理よ………誰よりも愛してるから………ひっく」

「エルフ族長」

「後はお任せください。フィア」

「はい」

 ネフィアに似た少女が現れる。

「戴冠式は終わってます。少しだけの時間。お話しください。国民に宣言するのが残っていますが時間は少しありますので」

「わかった。ネフィア。歩けるな」
 
 私は首を振る。へたり込みそうなのを我慢してやっと立っているだけなのだ。

「しゃぁない。姫様を奪わせてもらうぞ」

「どうぞ」

 私はヒョイっと体が浮いて、抱き締められる感覚のあと。姫様抱っこされていた。優しく微笑んでくれるトキヤに声がつまる。

 私は女王となっても王子さまには骨抜きにされることを感じるのだった。





 

 寝室へ戻ると椅子に座らされ。涙を拭われ、頭を撫でられた。

「泣いた跡はないな。これから大仕事がある。頑張れよ」

「トキヤ………私!! 私!!」

「不安だろう。だが安心しろ。昔とは違う。今度はお前を慕っている。英雄の帰還。待ち望んだ英雄なんだお前は。だから演じきれよ」

「トキヤ………トキヤは私が女王になるの嫌じゃないの?」

「お前は女王に相応しい女だよ。俺が保証する。いいや………自慢したいな。俺の奥さん女王陛下ってな。ハハハハ」

「クスクス………誰に自慢するの?」

「ランスかな? いい女になったなネフィア」

「女王ですから」

 二人で久しぶりに笑い合う。

「それに俺は独占欲が強い。今、お前のこれを奪わせて貰う」

 トキヤは私の顎に手をやりゆっくりあげた。そしてそのまま唇が重なる。舌で絡めて愛しい彼と愛を絡める。

「これが女王の唇か」

「トキヤ………わかった。演じる。トキヤがいいならそうする」

「綺麗だよ。ネフィア。綺麗だった。玉座の間でのお前は天使に見えた。いいや………考えてみれば天使だったかもしれない」

「トキヤ………うれしい」

 私は席から立ち上がり。彼の首に腕を回す。

「おかえり……あなた」

「ただいま……ネフィア」

 私たちは離れていた時間を埋めるように唇を重ね会う。エルフ族長に呼ばれるまでに。





 城の一角。城下町や広場、全てが見渡せる場所に案内された。増築工事を行ったらしく。そこへ………どうぞと言う。

「姫様………宣言をお願いします」

「ええ」

 私は振り返ってトキヤを見た。頷く彼。

「行ってこい。俺はここにいる」

「うん」

 私は歩く前を向いて。太陽が眩しく目を細め出っ張りに。顔を下に向けると多くの種族が私を見ていた。広間にぎっしりと。城下町にギッシリと。

 玉座の間よりも怖くはない。何故かスッと落ち着いていられた。私は声を出す。囁くように。

「こんにちは」

 反応はないが。皆が顔を横にしたり耳を触ったりして聞こえたかと言い合う。音を伝える魔法である。こんなところで役に立つなんてね。

「余の名前はネフィア・ネロリリス。この場をもって宣言する。英魔族共栄圏国家樹立を!!」

 長い言葉はいらない。短く宣言した。そして髪をたくしあげる。眼下で歓声が巻き起こり私を崇めていく。下僕を見る目で………下を見ようとした瞬間。

パシン!!

 頭を叩かれた。魔法で。

「調子に乗るな。さっさと引く。エルフ族長の仕事の邪魔だ」

「お、おう。ちょっと悦に浸ってもいいじゃないか!!」

 トテトテと後方へ下がり。魔法矢で叩かれた頭を撫でる。地味に痛いぞ。

「我はエルフ族長グレデンデなり!!」

 族長達が並んでいる。ああ自己紹介するのか。

「姫様1番の信仰者なり!!」

 後方の族長たちがブーイングするが眼下の民は歓声をあげている。言ったもの勝ちらしい。そして、エルフ族長がこれからの国はこうすると言う事を細かに説明していた。

「ネフィア。行くぞ」

「う、うん。トキヤ!! トキヤ!!」

「なんだ?」

 私は背を向ける彼の前に立ち。振り向いて手を後ろにやりながら聞いてみる。

「上手く出来てた?」

「ああ。出来てた」

「誉めて誉めて。いっぱい愛でて」

「今さっき、いっぱい愛でただろ?」

「たーりない」

「はぁ………お前はもう立場がある」

「立場は何も関係ない。ただただあなたを愛してる方が重要」

「………変わらないな」

「変わったよ、私は」

 彼の手を引っ張り寝室へ向かう。寝室は聖域であり。逃げることは出来ないらしい。

 鳥籠は大きい。大きいなら二羽ほど入れるだろうきっと。


§女王陛下ネフィアの能力



 戴冠式は無事に終わり。怒濤の如く族長達の挨拶を住ませ。気付けば次の日になっていた。外はお祭り騒ぎも静まり。これから新しい時代が始まると言う事で仕事のために皆が散り散りになる。忙しくなるそうだった。

 九大族長も大部分が去る。驚くべきは私が上がる前にすでに国境がなくなり道路建設が進んでいるらしい。敵が居なくなり繋げても利用されないと言う事のようだ。

 そんなことを聞きながら軽く仮眠を取って起きた午後。私は笑顔で過ごす。何故なら。

「ふふふ~~トキヤ~~トキヤ~~」

 愛しい旦那様の膝の上で対面座位と言う姿勢で彼を向かい合って座ているからだ。密着度が高いのが特徴で頬にキスしたり。首をなめたりと。私は彼を味わう事ができる。

「ネフィア。起きてから節操がない」

「トキヤ~トキヤ~」

「聞いてないな」

 愛しい彼を肌で感じながら私は彼の名前だけを呼ぶ。名前を呼ぶだけでなんでこんなにも嬉しいのか。そう!! 呼ぶ相手がいる幸せ。そう幸せなのだ。

トントン、ガチャ

「姫様おはようございます」

「ネフィア。おはよう」

 部屋にエメリヤとエルフ族長が現れる。私は慌てずに。トキヤの唇を奪う。

「んぐ!?」

「んん……」

「ネフィア………節操がないね」

「姫様のこの姿は見てるこちらが恥ずかしいですね」

「おはよう。お二人さん。取り込み中です」

「ネフィア…………羞恥はないのか?」

「余は女王陛下であるぞ。女王陛下がこれは恥ずかしい行為ではないと言えば恥ずかしい行為ではないのだ」

「英魔国を堕とすなよ」

「婬魔ぞ~」

 人の目を気にせずにイチャイチャする。

「ネフィア!! イチャイチャしすぎ!!」

「まぁいいではないですか。気持ちわかりますよ。先ずは席に座りましょう」

 二人が席に座る。最近エメリヤにはセレファから人形が贈呈され。人形に憑依し歩けるようになったらしい。綺麗なウェーブの長髪。人形らしい整った顔は女神らしいと言えば女神らしい。

「では、姫様。なにか色々と質問があると思います。女神様と一緒にお答えしましょう」

「えっ? もうどうでもいいよ。トキヤ居るし」

ズッ!!

 エメリヤとエルフ族長が椅子からずっこける。

「ネフィア。あなた!! あれだけ荒れ狂って怒ってたのに!?」

「姫様………それはないでしょう。それにどちらかと言えば知っていただきたい」

「あっそう………トキヤ~だってさぁ~」

「ネフィア。真面目に聞けよ。さぁ!! 降りる」

「やぁ~だぁ~」

「エルフ族長。こんなのが女王陛下でいいのか?」

「もちろん。愛狂いは皆が知ってます」

「それもどうなんだ!?」

「私は気にしない。トキヤと一緒なら」

 そう私はトキヤさえ居れば。何も欲しくはない。もう他の物をねだるのはやめた。彼だけでいい………彼だけで。お腹をさすりながら私はため息をつく。

「まぁ、真面目に話を聞こう」

「うん。いいでしょう。余に何を聞かせたいのだ?」

「威厳もないな~」

「ハハハ。姫様らしいです。でっ何処から話をしましょうか?」

「私はそうね………ネフィアが疑問に思ったことでいいと思う」

 疑問………一体何を疑問に思ったのか。

「ないかなぁ………」

「姫様は骨抜きなので勝手に話しましょう。姫様のお姿についてです」

「私の?」

「何故、翼が生えたかご存知でしょうか?」

「トキヤが『天使みたいな女の子をベットの上で汚したい』と願ったから?」

「願ってない!! 願ってない!! 翼が生えたのビックリしてたわ!!」

「まぁそういう事もあるでしょうね」

「エルフ族長ぶちのめすぞ」

「冗談ですよ。ハハハハ」

 エルフ族長が頭を抑えて笑う。

「でっ? 真相は?」

「姫様は完成された婬魔であると言うことです」

「完成された婬魔?」

「はい。婬魔族を調べてみました。婬魔族は異種族に変幻自在だと言うことが確認でき、それは中々魅せるために変幻するという能力でした。しかし、個人差があるようです。フィアの姿で納得しました。いいや………あのフィアのお陰でその特異性にたどりつきました」

「それは何となく私自身で感じてました。トキヤの好みの姿ですし」

ペシッ

 胸を揉んで確かめる。トキヤに「はしたない」と頭を叩かれた。

「姫様。確かにそうです。しかしもっと言えば………姫様の内面も全て………変幻自在なのですよ。現に私は姫様は翼が生えていると信じた。結果はこの通りです」

 私は口を押さえて驚く。

「じゃぁ!! 私の姿は!! トキヤの好みだけの話じゃないの!?」

「いいえ。トキヤさんの好みです。しかし他は他人のイメージを模倣すると思われます。だからこそ演じる事が出来るのでしょう。姿も幻影のように見え方が変わるときがあります」

「ああ、やっぱりそうか。エルフ族長………ネフィアはこれからどうなる?」

「『女王陛下らしくなる』と思われます」

「トキヤ………私、なんか怖くなって来た。私じゃなくなるの?」

「いいや。俺はお前を想い続ける限り姿は俺の好みだ。内面はお前自身のイメージだろう。大丈夫変わらないさ。変えさせない」

「トキヤ………うん。うれしい」

「チッ」

「……………エメリヤ、唐突に舌打ちするのね。なにうらやましい?」

 女神が怪訝な顔をする。

「イチャイチャイチャイチャイチャイチャ!! 愛の女神の前で!!」

「いや、いいじゃないか!? 愛の女神なんだから」

「羨ましいの!!」

 机をバシバシ叩くエメリヤ。私は笑い……指輪を見せつけた。ドヤ~

「早く独身卒業できればいいね。エメリヤおねえさま~」

「ネフィア、煽るな煽るな」

「まぁ、そういう訳で姫様には婬魔として魅せる能力が高いと思われます。後ですね………交遊関係が多いのは外交で有効なのもあり。とにかく女王陛下になるために生まれてきたような道筋を辿ってこられました。面白い程に」

「そういえば………聖書読んだよ!! 嘘ばっかじゃん!!」

 そう、もらった本の内容は嘘ばっかだった。冒険譚だがあまりにも美化され過ぎていて気味が悪い。

「たとえば?」

「生まれたとき男だった事について!!」

「母性に目覚め女として覚醒されたことですか? 男だった理由は男を知るために彼女は最初、男として生を選んだと」

「うんな訳ないわ!!」

「へぇ~そうだったんだ」

「トキヤ騙されちゃいけない!!」

「俺にとっては。男だったのはよかったよ。結構、男の事詳しいし」

「エルフ族長。正しいと思います」

「ハハハ!! 姫様ちょろ!?」

「ちょろくはない!!」

「いや、ちょろいだろ」

 私はブンブン頭を振り回して振り回して否定を表現する。

「まぁ姫様はそのような事で皆から期待を乗せられているようですね。帝国に拐われても生きてましたし」

「確かにな。俺が死にかけた……」

「そういえば、そのあとも世界樹で剣を抜いてましたね。グランドマザーと言う占い師狩ってましたし」

「お前…………グランドマザーとやりあったのか?」

「うん。あれは………敵だよトキヤ。詳しく後で話をする」

「知らないところで何があったんだ……」

 説明したら長いから二人のときに説明しようと思い。トキヤには待って貰う。

「他は?」

「そうですね。太陽信仰と言うのが我らの新しい宗教で姫様には大教祖様の地位があります。私もその司教です。ええ」

「ああ。国教ね」

 帝国は女神崇拝。こっちは太陽崇拝だろう。

「まとめるために用意したのです。うまく浸透しましたよ。エメリヤ様のお陰で」

「いいえ。ネフィアの知り合いが頑張った結果です。それにね…………」

 エメリヤは私を見て黒い笑みを浮かべる。

「女神を倒すには女神信仰を減らさないといけないの。信仰は力です。私たち女神の」

「そうなの? へぇ~」

「ですから………あなたを使い。女神の信仰を減らし。弱くなって表へ出てきたところを戦って勝ちましょう」

「エメリヤ。見た目のわりに考えてるじゃん。最初から言ってよ」

「ダメです。断るでしょ?」

「『女王にさせる』と言われればねぇ…………はぁ」

 私はため息を吐き。トキヤの唇を奪う。

「口直しにキスはやめろ!!」

「はいはい」

「姫様………これからもヨロシクお願いしますね。一応は影武者はいます。自由に動かれてください」

「影武者で回るの? 国は?」

「族長全員で回すのです。女王陛下は切り札です」

 エルフ族長が笑顔で胸を張り宣言する。

「陽の導きがあるかぎりのね」








 俺はネフィアを退かしてエルフ族長と共に寝室を出た。廊下を歩きながら話を始める。こいつは俺に話があるはずだと知っていた。だからネフィアと離れる。

「トキヤ殿………いいや。勇者殿」

「トキヤでいい。俺に話があるはずだ」

「ええ。約束は覚えてますか?」

「戴冠式でも言っていたな。覚えている。ネフィアが全員に敬われる状態なら貸そうとな」

「やり遂げました。しかし…………ネフィア様だけではダメです」

「わかってる。あいつ、俺の言うことはすぐに聞いてしまうからなぁ~操れって事だろ?」

 現に今こうしているのも彼女の背を押したからだ。

「御明察です。姫様はトキヤ殿に多大なる信頼を寄せております。それに私もトキヤ殿を部下にスカウトしたいほど欲しいです。部下と言うより、王配ですので色々と政治をやっていただきます」

「おうおう……スカウトか」

「姫様抜きにしてもこれほど帝国や世界情勢に詳しい方は居ますまい。風の魔法使いは恐ろしいですが味方だと心強い」

「わかった。良いだろう………部下になろう」

「部下と言うよりかは政治関係の雑用をお願いしますね」

「へいへい。冒険者らしくな」

 俺は頭を掻きながら返事をする。そして………一つ紙束を手渡され、俺はそれを受け取る。

「報告書です」

「何のだ?」

「姫様の能力について」

「婬魔の?」

「いいえ。女王陛下ネフィア・ネロリリス個人の能力です。女神もそれを感じ取り憑依していたのでしょう」

 俺はそれを読み漁り驚いた顔をする。確かに言われれば能力と言われても納得する。細かく内容が書かれていた。

「要はネフィアをこっち側に引き込んだか」

「そうです。姫様は人間にもなれる。帝国にわたった場合。英魔国の負けでした」

「そこまでの能力だと思うか? 一度は否定した」

「間近で見てどう思われましたか?」

「…………運がいいな。たまたまだ」

「そう………一言で終わりますが。少し続きすぎでしょう」

 廊下で俺は報告書を読み漁る。最後にこの能力に言葉をつけていた。俺は背筋が冷える。もしも………本当にこの能力があるのならば。俺でも勝てない。

「姫様は演劇も得意で、女優として馴染みのある言葉ですね」

「ああ、しかし………しっくり来るのは何故だろうな」

「九大族長とトキヤ殿にエメリヤ様だけの秘密です。知られすぎると下手したら色々な物が歪んでしまいます」

「………族長。よく気が付いたな。俺でも気にしなかったぞ」

「近くですと気になりませんが遠くからだと異常ですよ。姫様を利用する者が私たちだけである事が重要です。だから切り札なんです」

「まったく。恐ろしい男だな。眉唾もんかと思ったが………確かにな」

「一番の信教者ですからね」

 報告書の表紙に目を向けて俺は頷く。「女神の祝福」と言うのを言っているが。俺たちはこれを違う言葉で表す。演劇出来るネフィアらしい能力。背筋に悪寒が走るその能力。

「ネフィアの能力は………」


 間を開けて、エルフ族長を見ながら口に出す。あまりにもあまりにも馬鹿げた能力だと俺は思うが。心の奥底で納得する自分がいた。そうとしか言えない事象が多すぎる。

機械仕掛けの神デウスエクスマキナ

 俺の奥さん女王陛下だと言う生易しい物ではなく魔族随一の化け物だったらしい。いや、それに我々は育ててしまったのだ。


§感情の炎、新たな勇者の出現



 私は豪華な鳥籠こと寝室で過ごす。その中で最近思うのだが「自分の人生は閉じ込められる人生なのかもしれない」と思うのだ。幼少からずっと閉じ込められることが多かった。

「でも……昔よりも……」

 だが、今は昔よりも窮屈には感じなくなっている。魔力で水を引っ張れるしキッチンもある。まるで家のような広さで。驚くべきことに2階も作るようだ。城の中に家を作ると言う。

 色んな事を私のためにしてくれるのだ。いつしか鳥籠もやめて自由に出入り出来るようにしてくれるとも言っていた。
 
 まぁそれも当分先らしいがそんなことよりも。

「トキヤ、火の鳥返して」 

 私は読書に耽って構ってくれない旦那様に声をかけた。

「あん? 返してなかったっけ?」

「返して貰ってない」

 私は旅立つ前に自分の力をトキヤに預けていた。護って欲しいと願い。だからか、魔法が使いづらい。炎の魔法も全く使えない訳じゃないが非常に火力が弱いのだ。

「私の感情の欠落があるからお願い返して」

「欠落?」

「愛がない」

「はっ? お前………めちゃくちゃくっついて来てるじゃないか」

「そうだけど。これは体の染み付いた感情の残滓で。心は籠ってないから」

「…………本当か?」

 トキヤが本を置いて私を睨む。ああ、すごむ彼は格好いいなぁ~

「愛と言う感情がないのなら………俺を求めるのはおかしくないか?」

「ネフィアはトキヤを求めると言う概念が世界にはあり。私は感情が無くてもトキヤを求めることを強いられているのです」

「……………ネフィア愛してる」

「私も愛してる」

「………あるよなぁ~。泣いてたもんな~」

「………あるかもしれない。胸が暖かい」

 よくよく考えると愛は無制限に溢れるもの。それを取っても溢れるからあるのかもしれない。

「でも。返して。女王になったし!! 必殺カイザーフェニックス!! って叫びたい」

 私は威厳たっぷりにクククと言い。右手を疼かせる。

「まぁ返せって言われてもお前の炎だからなぁ………勝手に帰るだろ普通」

「帰って来てない」

「はぁ………まったく」

 トキヤが火の小鳥を探す。探すとちょうどトキヤの頭から現れ。床に降りていく。

「さぁ………帰ってこい~私」

「分離できる炎かぁ………考えてみれば上級魔法の一種で………」

「チュンチュン!! ちゅううううう!!」

「あっつ!?」

 私は小鳥を掴もうとした瞬間にブワっと火を吐かれ手が焦げる。こやつ!!

「反抗期!?」

「どういうことだ!! 制御できないのか!?」

「わかんない!!」

 トキヤが私を背中に回し庇う。素晴らしい程に格好いい。

「不測の事態だ。どうする?」

「もう。捨てていいかもね。トキヤ~」

「ああ!! こら!! 背中に手を回すんじゃない!!」

「チュン!!…………あああああ!!」

「「!?」」

 小鳥が苛立ったような声を出し。燃え上がる。そしてネフィアに似た炎となった。裸体に所々火を纏い、精霊のような姿へと転じる。

「うっそだろ!? おい!?」

「トキヤ!! ダメ見ちゃ!!」

「それどころじゃないだろ!!」

「あああああああ!! トキヤから離れろ!!」

「「へっ?」」

「離れろ!!」

「う、うん」

 私は恐る恐る離れた。

「どゆこと?」

「ああ………ネフィア自身だからか………なるほど」

「どゆこと?」

「ネフィア。お前の偏愛の塊だからな。感情の自我があるんだよ。でっ………言葉も喋れるし何で戻らないんだ?」

「トキヤが好きだから!!」

「トキヤ!! こいつ消していいよ」

「ネフィア!?」

 トキヤが驚いた顔で私を見る。私は頷いて彼にお願いする。

「消すって言ってもな………俺を護ってくれたし。親にも会わせてくれた。親にも挨拶してくれたし。助かってるんだよなぁ~」

「ズルい!? 何があったの!? 何が!!」

「一緒になればいいじゃないか?」

「嫌だ!! 私はトキヤといたい!! トキヤ………私さ………」

「トキヤさん。ああ言ってますけど」

「戻れ。お前は感情欠落した不完全。危ない。魂を分けているだけで。ネフィアだろお前も」

「くぅ………」

 フェニックスが小鳥に戻り渋々といった様子で私の肩に止まり消え失せる。その瞬間。頭が割れそうな程に傷みを伴った。

「うぅ!?」 

「ネフィア!? 大丈夫か!?」

「あうぅ………まって……」

 頭の中に記憶を無理矢理押し込まれる。結果数分で今までトキヤと一緒にいた記憶を持ち。恐ろしいほどに時間を過ごした気分になる。そして。

「カイザーフェニックス!!」

 フェニックスを掌から出し。掴み。壁に叩きつけた。

「はい!? ネフィア、どうした!?」

「こいつ!! 私が一人の時にトキヤと学園で過ごしてた消し去ってくれる!!」

「いや!! お前だろ!!」

「体は覚えてない!! そう!! トキヤと逢瀬もしやがって!!」

 バシン!!

「あううう!!」

 私は頭を抑えトキヤを見る。本の角で叩かれたらしく。トキヤが本を構えていた。2発め行くぞと言わんばかりに構えている。フェニックスもズルズルと戻ってきた。

「自分自身に嫉妬してアホかと」

「ウグゥ……でも!!」

 トンッ

 おでこが重なりあう。いつもの瞳。真っ直ぐな瞳で私を射ぬく。

「俺のネフィアはお前だけだ。そうだろ?」

「トキヤ…………」

「おでこ熱いな」

「うん………」

 私は目を閉じる。ゆっくりと生暖かい吐息が触れる距離で。

ドンッ!!

「ネフィアさん!! 話があります!!」

 エメリヤが勢い良く扉を開ける。普通なら。恥ずかしくて吹き飛ばしたりするのだろうけど私はしっかりと彼を唇で感じる。

「ん……」

「ネフィア。お客さんだ」

「そうだね」

「このぉ!! バカップル!! まーた!! 女神の前で!!」

「悔しいなら相手を見つけなさい。べー」

 トキヤから離れ椅子に座り。ため息を吐く。トキヤのお父さん、お母さん。優しかった。もう一回挨拶したい。今度は本当の完全なる私で。

「ネフィア!! 私を無視して黄昏ない!! 話があるのよ!!」

「まーたろくでもないんでしょ」

「そうよ………ごめん」

「あっうん。強く言いすぎました。ごめん」

「でっ? 女神………なんだ?」

「大きな大きな力を感じたの」

「力を?」

「…………」

 トキヤが腕を組みながら。椅子に座る。女神が神妙な顔で語りだす。

「私たちは信仰が力です。その中で信仰を糧に事を成します」

「まどろっこしいな早く結論を言え」

「4人の勇者が召喚されるようです。私の姉が力を全力で使って」

 私たちは息を飲み込む。トキヤを見ると驚愕な顔で話始めた。驚いたのか椅子から立ち上がっている。

「4人だと!? 4人!! そんな馬鹿な!!」

「勇者は一人と言う理由はないでしょう。あなたもあなたの偽物も居ますし」

「ネフィアを殺しに来ると言うことだな」

 底冷えする声をトキヤが放つ。殺意を剥き出しにした猛獣の如く空気が重くなった。

「ええ。きっとそう」

「ネフィア…………ここでまて」

「トキヤ?」

「族長を呼ぶ。決めなくちゃいけない…………戦争は始まっている」

 私はその言葉に頷いた。

「わかった。お願い呼んできて」

「女神も本気なんだろうな」

「姉は………愚かですから」

「トキヤ。会議室の手配も」

「ネフィア?」

「意外そうな顔をしないで。女王になってるんだから。演じる事はしなくちゃいけない。もう………逃げないよ」

 トキヤが手をあげて行ってくるといい。部屋を後にした。私は椅子から立ち上がり。窓を見て城下町を見る。多くの亞人が行き交い生活している。そう………私の民だ。

 勇者は恐ろしいほどに破壊を行う。彼等から私は護らなければならない。そう心に決めて挑もうと思う。

「私の民には指一本触れさせない」

 心からそう思うのだった。


§勇者殺し
 

 執務室と言うにはいささか広い場所。大きな長テーブルに数人だけが座っていた。私、エルフ族長とダークエルフ族長。そしてこの場には女神エメリヤと裏切りの勇者トキヤ。ネフィア様はまだ現れずにいる。

「全員集まりましたか」

「少ないな」

「仕方ない、皆は内政に忙しくなる。元々の活動拠点がここの俺らは運が良い」

「そうだな。俺らは運がいい」

 ダークエルフ族長バルバトスは笑みを浮かべた。彼はエルフ族長である私の最初の同志であり。ネフィア様を強き人として信奉している。

「姫様を倒そうとする不埒な奴を狩れる日が来るとは」

「ダークエルフ族長。勇者は強い。俺自身が負けている」

「だからこそ。好敵手なのです。トキヤ殿」

「英魔族は脳筋ばっかだな」

 トキヤが肩をすくめる。ダークエルフ族長もそれに頷いて「同類でしょう」と言い。トキヤは苦笑いをした。

「残念、同類じゃない」

「姫様を護ろうとする同士でしょう? トキヤ殿………クク」

「それは多くの人が該当しますね。ダークエルフ族長。トキヤ殿も私も該当する」

「…………ネフィアいいなぁ………男がいっぱいいて」

 ボソッとエメリアがいい場が凍る。

「こいつ、浮気推奨か?」

「姫様に信仰をやめてもらわないといけませんね」

「女神でなければ………この剣槍、ブレードランスで斬ったのになぁ。その発言は不謹慎です」

「……………あなたたち。私は女神よ!!」

「俺にはネフィアがいる」

「ええ、私にも姫様がいます」

「同じく。陽の女神様がいます」

「………わ、私が洗脳したけどやり過ぎた気がする」

「洗脳した?」

「洗脳されてませんよ? 心から信仰してます」

「だな」

 男3人が女神を罵る。女神も途中から意地になっていたが。全く靡くこともせずに鼻で笑われさめざめ泣きながら部屋の隅で丸くなる。そしてその時になって女王ネフィア様が兵士の案内によって顔を出した。

 ネフィア様はいつものようにただ笑みを浮かべて歩き続け周りを見渡す。トキヤはいつもの彼女に見えたのか、抱き合い私たち男二人には女王陛下は一瞬眩しく見えた。

 エルフ族長とダークエルフ族長は心なかで口に出した。「陽の導きがあらんこと」と。

「遅くなった。すまん。でっ………破廉恥女神は?」

「そこの隅にいらっしゃるのが破廉恥女神です」

 エルフ族長は女神を指差し。ネフィア様がそちらに向かう。

「どうした? エメリヤ?」

「うぅう………ずるい………なんであなたばかり男が集まるの?」

「余が綺麗だからに決まっている」

「わ、私だって容姿に自身がある!!」

「姫様。中身が微妙とお伝えください」

「ネフィア様。自分の奥さんに女神より素晴らしいと自慢できるのは破廉恥女神のお陰ですとお伝えください」

「ネフィア。本当にその女神………役に立つのか? 聞いてみてくれ」

「わかった。聞いてみよう」

「聞こえてるわ!! この糞異教者ども!! なんで……私だって頑張ってるのに………」

 エメリヤが丸まってシクシクと泣く素振りを見せる。一応、泣けないはずなので素振りだけである。

「エメリヤ………たまたまお前の信奉者じゃなかっただけ。大丈夫。余は信奉しているよ」

「ネフィア?」

 エメリヤは顔をあげる。隣でしゃがんで様子を伺うネフィア様と目線があう。

「ずっと隠し事してたりしてましたけど。勇者が現れる事を一目散に私に教えに来たとき嬉しかったです。エメリヤお姉さま。『大切に思ってくれてるんだ』て思いました。嫉妬もするでしょうけど」

「ネフィア~」

「エメリヤお姉さま。元気だして。私の崇拝する女神なんですからね」

「ネフィア~~!!!!」

 エメリヤがネフィア様に抱きつく。スリスリと頬を押し付けて。これだから女王陛下はモテるのだろう。素直な意見だ。
             
「さぁ、会議を始めよう」

「ええ!!」

 二人は立ち上がり指定の椅子に座る。生暖かい目で二人を眺め。トキヤは笑いながら見ていたのをネフィア様が注意する。

 やっと、まとまり落ち着いて会議ができるようになったのはそれから数分後だった。私が議題を提示する。

「では………勇者についてどうするかと言うお話ですね。その前に姫様にだけは姫様の後ろのカーテンを見ていただきたい」

「なんでしょうか?」

 ネフィア様はクルッと器用に椅子を反転させた。部屋の中央の奥。扉から反対側は赤いカーテンでしきられていた。兵士にお願いしてそれを開けさせる。大きな紙が壁の面に貼り付けられていた。平べったいパンケーキを焼くのをミスしたような模様が見える。

「会議をするのに重宝するでしょう。紙はある木から作られ、その木が記しました。姫様、女王就任のお祝いの一つ………聖なる樹ユグドラシルの記憶世界地図です。贈呈者はユグドラシル商会です」

「大陸の地図!?」

「ええ、驚きました。未解地も黒くですが記されております」

「す、すごい」

 ネフィア様は椅子から立ち上がり驚いた声をあげた。素晴らしい地図。しかし………都市の位置が示していない。完成されていそうで完成されていない地図。そしてネフィア様は地図に近付き手を添えた。

「…………」

 沈黙でネフィア様の成り行きを見ている数人の観衆。兵士も息を飲んで見守る。

 何故なら、世界地図に色が生まれ。まるでその世界があるような脈動した風景を示す。そう、地図が出来上がっていく。兵士も皆がその光景に驚くと共に祈りだした。

「魔力を流すと完成だったのだな………うむ。ユグドラシル。洒落た物をくれた」

 ネフィア様が感嘆の言葉を口にして地図を見ると英魔族の都市の名前と場所が示された。地図は完成したのである。

「英魔族共栄国家、広いな」

 思っていたものよりも広く地図は示した。私はついつい泣き出す。

「奇跡ですね………これは」

「ああ………またかよ泣くなよ………エルフ族長。会議は始まっておらんだろ」

「歳ですかね…………」

「関係ないだろう」

 私とダークエルフ族長が小突きあっている中。ネフィア様は地図を見続けるのだった。







 会議が始まって1時間後。勇者の情報が集まった。強さや知り得た情報を言い合い。皆が理解する。

「では………次に案を出しましょうか? 案はございますか?」

「はい!! はい!!」

 ネフィア様が立ち上がり元気よく手をあげた。皆がオッと言う顔になる。期待が集まるのだ。

「では、姫様どうぞ」

「うむ!! 余は一人帝国に行くぞ」

「なりません!!」

「ネフィア!! アホか!!」

「ネフィア様!! そんなことを許されると思いですか!!」

「ネフィアちゃん!!」

「お、おう………皆、何故怒る!?」

 私含め、皆が全員席を立ちネフィア様を囲んで睨みつけた。

「ネフィア。お前は立場はなんだ?」

「姫様………一人で行くなんて無計画すぎです」

「そうです。右に同じです」

「ま、まって!! 1回話を聞いてほしい。私の考え聞いてからでも遅くはないでしょ!!」

「………まぁそうだな」

 トキヤが促して席に座る。皆が怒るのはネフィア様を心配してのことだ。それがわかっているのかネフィア様は冷や汗をかきながら自分の結論を早まったのがいけないと感じていた。口調も威張るよりも穏和に語ろうと思う。

「ああ、うん。まぁ心配してくれるでしょうが………私は大丈夫です。はい!! そこ立たない!! 静かに」

「う、うぐ」

 ダークエルフ族長がいさめられる。

「まぁそれよりも………エルフ族長とダークエルフ族長とトキヤにお願いします。勇者を英魔族共栄国家に引き込み。暗殺してください」

「暗殺ですか?」

「ええ、暗殺です。向こうも私を暗殺するなら勝負しましょう。なぜ、暗殺なのかと言いますと勇者が強いのでそれしかできないのではないかと思います」

「そうですね。トキヤ殿を見れば恐ろしい」

 エルフ族長が笑みを浮かべながらトキヤを見る。「味方で良かった」と言いたげな表情だ。それに答えるように謙遜気味にトキヤは手を振って否定した。

「ですので暗殺をどうにかして成功させてください。なるべく一人一人がよろしいです」

「一人一人ですか?」

「はい。私が帝国に行くと言ったのはきっとイカロスの翼と言う神具を勇者が持っていると思うのです」

「姫様を救い姫様を奪った神具ですか」

「はい。暗殺されそうになったとき帝国へ戻されるでしょう。そこで私はもう一度叩きます」

 場がシーンと静かになる。皆が腕を組み唸る。

「そんな神具が沢山あるとは思えません」

「エルフ族長。俺は3つ見つけている。一度しか使えないがな」

「最悪の結果を見ましょう。トキヤ殿が4人ですか………」

「おいおい。お前ら少しビビりスギだろ」

「言い換えよう。姫様4人だ」

「ひぇ………」

 屈強なダークエルフ族長が縮み込み震える。ネフィア様が「失礼な」といいダークエルフ族長の席へ行き頭をつかんでぐわんぐわんと振り回した。 

「化け物言われる筋合いはない!!」

「「「化け物」」」

 皆の心で思ったことを隠すため顔を反らした。トキヤに至っては頭を押さえてため息を吐く。トキヤは手にした可愛い小鳥のような姫様が実は可愛い小鳥の皮を被ったドラゴンだった気分なのだ。強くなれと願ったがここまで強いと複雑である。

「ネフィア、そこまでにしとけ。大人しく座る。あとエルフ族長。ネフィアが演じれる集中力はだな……短い」

「1時間ですね。使いどころは難しいでしょう」

「公務の半分は俺が肩代わり出来そうか?」

「一応は姫様が初めて爵位を認めた者で特別爵位勇者としています。問題ないでしょう。軍事も任せしますよ」

「そうか………」

 トキヤが顎に手をやる。ネフィア様はとうとう椅子を動かして彼の隣へと移動してしまった。皆はもう気にせずネフィア様を無視することにした。話が進まなくなるからだ。

「ネフィアの案で行こう。ネフィアを送り付けよう。恐ろしい事になるな」

「わかりました。まぁ………いいでしょう。チェック項目が増えるだけです」

「ああ、まぁ………うん。俺ら衛兵は『姫様を守る』と言うよりもこの故郷を守る事だから。うん」

「なんか皆さん含んだ言い方ですけど………」

「ネフィア。殺るんだな?」

「え、ええ」

「………優しいお前が果たして出来るかが気になるところだ」

「私は4人を倒せる方が不安です」

「女神エメリヤ!!」

「は、はい!? トキヤさん? なんでしょうか?」

「勇者召喚予定は!!」

「秋から冬だと思います。あっちでは春から夏ですね」

「1、2ヶ月以上あるということか。いや………すぐに出発しないのかもしれないな。まぁ時間が少ない」

「トキヤ。どうするの?」

 皆がトキヤを見つめる。

「帝国に黒騎士がいるように。俺らも精鋭を揃えよう。勇者を殺せる者な」

「精鋭なら………我が聖歌隊がいます」

 私の言う聖歌隊は陽の信奉者達で構成された特殊部隊だ。ネフィア様が就任するために暗躍し聖とは名ばかりの黒い部隊だ。善悪よりも国のため、陽の信奉のために力を使う洗脳部隊だ。

「同じく精鋭なら俺の衛兵隊もいる」

 第一衛兵隊。名前はあまりにも精鋭ではないと思われるが。聞けば衛兵の指命を誰よりも忠実にこなすため集められた屈強な衛兵を集めた部隊だ。英魔衛兵団と言う組織を作り、首都を護るために治安を維持しているが。その中で第一衛兵隊と言う組織を用意したようだ。

「知っている。そこで相談だが…………向こうは4人用意した。なら俺らも勇者は用意出来ないだろうか? 英雄100人でも用意しようじゃないか? 指揮は俺がする」

「構想を教えください」

「目的は勇者を暗殺。100人でも1000人でも用意出来るならするべきだ」

「暗殺には数が多いですね。トキヤ殿」

「自国なんだし、大人数でも怪しまれない。敵国なら少数精鋭にするべきだがな。俺一人では荷が重い。1、2ヶ月で訓練して物にする」

「そんな短期間で?」

「両方貸せ。ネフィアも手伝って貰う。部隊が仕上がるまで帝国行きは無しだ」

「んぐ……ごくん」

「………トキヤ殿」

「おっかしなぁ……おれ背筋が冷えるぞ」
 
 トキヤが牙を剥く。そんなイメージがこの空間に満たされる。

「やっぱトキヤ………悪役ですね」

「悪役なのは敵から見てだ。味方だよ」

「ぞわっとしましたね、私。わかりました聖歌隊お貸しします」

「全くだ。まぁでも………いいだろう貸してやろう」

 二人が頷き立ち上がり、動き出す。それが合図だったのか会議はお開きになり。部隊の訓練が決まり作戦が始まるのだった。



 勇者殺しの作戦が。


§勇者殺し精鋭部隊作成



 早朝、集められた集団は200人。俺は訓練場に集めさせて整列させた。言われた通りにエルフ族とダークエルフ族。ゴブリンの大小と様々な種族の入り乱れた選ばれた精鋭たち。緊張からか皆、強張った顔をしていた。

 俺は鼻で笑う。精鋭の癖にそんな顔をするのを。ネフィアは全員の前でその様子を見ていた。俺は精鋭の間を進み。ネフィアに音を遮断依頼をする。訓練所以外に情報が漏れるのを危惧したからだ。

「余はお前らに依頼を………いいや命令を下したい」

 精鋭した兵士たちがもっと緊張し震える。ああ、ネフィアが女王だからビビってるな。

「だが………情けないことに命令出来ない。弱い………弱すぎる。勇者が言うには黒騎士以下だと言う。だから命令を下す前に伝わっているが!! 訓練を行う!! 教官は爵位!! 勇者を持つ者!! トキヤ殿とダークエルフ族長が行う!!」

 ネフィアが叫ぶ。そして、200人程の隊員に言うのだ。

「お前らは今から!! 2ヶ月間!! みっちり鍛え直す!!」
 
 隊員たちが冷や汗をかき、背筋が凍っている。ネフィアは隊員たちを背にしてその場を去り「夜にまた会おう」と言った。任されたダークエルフ族長と俺は向き合う。

「今から訓練を行う!! なーに簡単だ。これを背負って城壁の上を10周してこい」

 ドサッ!!

 大きなリュックを片手で投げる。ダークエルフ族長も同じように投げる。

「数はそこに用意した。一応ダークエルフ族長と俺は10周走った。大丈夫だろう」

「やったぜ!! 勝ったぜ!!」

 俺は隣で俺に勝ってはしゃぐダークエルフ族長の足を踏む。小言で「威厳を持て」といい。訓練方法を叫んだ。

「…………なお脱落は許されん!! さぁ!! 隊を崩せ!! 日が暮れるぞ‼ なにぼさっとしている!! 訓練始め!!」

 隊員が我先にリュックを背負おうとした瞬間。隊員達の顔に驚愕な顔を浮かべ。俺たちを見る。

「なんだ………重たいか? 俺たちはそれを担いで訓練出来たぞ?」

「はぁ………衛兵隊を鍛えてなかった俺の落ち度だな。不満顔を晒すな!! お前ら!! その面を女王に見せられるのか!! 見せるつもりなら!! 俺は斬る!! はよ行け!!」
 
 全員にダークエルフ族長が剣を振って叫び。隊員たちは慌てて背負い歩き出す。

「10周だ!! 10周やれ!!」

 ダークエルフ族長と俺もついていき後ろから激を飛ばすのだった。

「な、なぁ………外周いくらあるよ」

「10キロぐらいじゃないか?」

「おい、喋る元気があるな。10周じゃ足りないか? 早く行け!! そして言おう約12キロだ!! 嫌ならもっと大きい最奥の壁にするぞ」

 青ざめる隊員の尻を俺ら教官二人は蹴飛ばすのだった。





 
  夕刻、汗だくになりながら隊員達は倒れ。5周程度でへばり。壁の冷たい石に頬をつけた。それを俺とダークエルフ族長は冷徹な顔で命令する。まぁ予想よりは歩いたが俺らは優しい声をかけない。

「ふん。雑魚が」 

「はぁ………まぁいい次だ」

 次だと言われ。隊員達が泣き出しそうな顔になる。もう無理だと言う表情。

「ふん。飯の時間だ。荷物は置いて食堂へ!! そのあとすぐに風呂に入り訓練所へ向かえ」

「………も、もう無理です」

 一人の隊員が弱音を吐く。

「トキヤ殿何か聞こえましたか?」

「いいや、俺は耳が遠い。何かを聞いたかわからん。そうだな………エルフ族長から聖歌隊は一人二人殺してもいいと言われてたな」

「誰殺りますか?」

 隊員が淡々と喋る俺たちに顔が青くなり慌てて荷物を投げて逃げるように歩き出す。俺は声をあらげ言い放つ。

「女王陛下からお達しだ。事故が起きても目を瞑るとな!! 俺は暗殺が得意だ。逃げられると思うなよ?」

 隊員たちがトボトボと歩く。まるで地獄を見たような顔で。

「トキヤ殿。これは黒騎士の訓練ですか?」

「ああ。黒騎士での訓練だ。だが………今から行うのはもっとキツいだろうな」

「ええ………悪夢ですね」

「ダークエルフ族長バルバトス。聞きたい事がある」

「手短に。あと声を低く」

 ダークエルフ族長は周りを確認しシッと指を立ててた。

「ネフィアの能力を聞いたときどう思った?」

「その話ですか。何となくですが。世界は劇場であり、姫様はその主役と思いました。シンデレラと言う童話を思い出します。脇役だった姫様が実は主役だったと言うのは面白いですね」

「劇場に詳しいじゃないか………脳筋」

「エルフ族長が『劇場行きたい』といい。一人では行く勇気がないと誘われてですね。面白かったです」

「ほう…………まぁうん。わかったありがとう」

「悩まれてますね」

「……ああ」

 俺は頷き下を向いた。考えても考えても悩んでしまう。ネフィアの事について。

「護ると決めた女性が………ちょっとな」

「能力の事でしょう。確かに驚きですがね」

 そう、驚いたのだ。いいや………心の何処かで気付いていたのかも知れない。目線を逸らしていたのかも知れない。なんとも複雑な気持ちでモヤモヤするのだ。

「トキヤ殿………心中お察しします。もし同じ立場なら。同じように悩んだでしょう」

「何で悩んでるかわからないんだけどな」 

「はっ?」

「いや……うん」

「どうせ、家族だったのに気付いたら凄いところに居て。そのギャップに慣れていないだけでしょう」

「!?」

 俺はハッとして胸に手をやる。

「な、なぜわかった!?」

「私も結婚している身。だからこそわかる。心中を察することが出来る」

「そうか………ああ。うん」

「口に出して言えば楽になる。トキヤ殿、昔のあなたはそんなことで悩まなかった。考えることさえなかった。なぜなら目的以外は興味は薄かったからだ」

「俺のことよく知ってるな?」

「知ってますよ。あなたの生き様。歪んでいるが一本芯が通っていた。しっかり冒険譚は読んでます。格好いいと思いましたね」

 俺は溜め息を吐く。そしてポツリポツリと言葉を溢した。

「ネフィアな、家ではスゴくいい奥さんだったんだ。毎日毎日、家事もこなしてさ。俺の帰りをご飯を作って待っていたんだ。ああそうだな。あの日々は不思議と長く続くと思っていたよ」

「…………」

「そんな奥さんが女王だ!! 恐ろしい化け物だ!! なんて思えなくてな………今、勇者を演じてるのは俺の方だ」

「はぁ………歯を喰いしばれ!!」

「な!?」

 頬に強烈な痛みが走る。しかし、俺は吹き飛ばされず睨んだ。

「吹き飛ばないか………流石」

「何する!!」

「寝惚けたのは覚めたか?」

「??」

「わからないかなぁ………いや。そうか。俺も奥さんがいる。俺の奥さんは素晴らしいほど経理や衛兵の運営がうまい。だがな、そんな素晴らしい奥さんでも家では俺にベタベタくっついてくるんだ」

 俺は何となく何が言いたいかを察した。

「だから。それが………女王とか、姫様とかの前に………そうだな。心を許している相手の前でしか見せない物がある。そう思う。一度見ているのでは? 丘上で」

「………ああ。そうだったな。見ているな丘上で」

 遠い過去のような気がする。丘上でのネフィアの美しい笑み。そうか、忘れていたな。

「目が覚めた。ありがとう。ネフィアはネフィアだな。そう………全て受け入れる」

 変わっていない。変わっていないと思う。

「わかったならいいです。トキヤ殿」

「バルバトス。トキヤでいい。心を許して話したんだ。ネフィア曰く、親友だ」

「………はは、違うな好敵手だ。さぁ悩みは消し飛んだ。訓練に戻るぞ」

「そうだな。訓練に戻ろう………やることは今は一つ」

「勇者を殺すために」

「手を尽くすだけだ」

 ダークエルフ族長バルバトスと強く握手をし。隊員の元へ向かうのだった。






 隊員が屋内訓練所に集められる。木の板で一面が舗装され。布団が敷いてある。隊員たちも首を傾げていたが、ある人物が顔を出し直立不動になった。

「よし、お前ら今日は疲れただろう寝ろ」

 ネフィアが魔王モード(真面目)で隊員たちに命令した。隊員達は左右で顔を見て不思議に思いながらも各々が布団に横になる。すると、優しい声で歌が聞こえ自ずと目を閉じると疲れもあってかすぐに寝てしまった。

 気付いたら。平原の真ん中で目を覚ます隊員たち。その中でネフィアが立っている。

「私の記憶ナイトメアへようこそ。諸君………武器はイメージしてください。では、いきます」

「姫様これは!?」

「ネフィア様!?」

「女王陛下!! いったい何が起こっているのですか!!」

「問答無用。ただただ、戦い続けろ。痛みは現実。何度も何度も死ぬ痛みを!! 嫌なら戦え!!」

 隊員たちがネフィアの恐ろしい声に身震いし、空に大きな影が降ってくる。

「過去、幾多の都市を壊して根城した。恐ろしい鋼の竜。ウルツウァイト。エルダードラゴンなり」

 鋼の銀光沢の鱗を持つドラゴンがネフィアの後ろに立ち。隊員達を睨み付ける。ネフィアは手を挙げた。

「さぁ………殺し合いを始めましょう」

 そして、振り下ろしドラゴンが咆哮を上げる。隊員たちは腰をつく。そして………蹂躙されるのだった。






 朝、隊員たちは汗だくになりながら起床する。何度も何度も体を触り、身が大丈夫なことを確認した。

「ゆ、ゆめだったのか………」

 隊員たちは夢の中で何度も何度も殺され、痛みを感じたが起きることは敵わず。悪夢から逃げることは出来なかった。だからこそ。

「おはよう、諸君!! 全く情けないな」

 皆はネフィアの声に恐怖したのだった。そして、自分達が置かれている地獄に戦慄し心が折れそうになる。寝ても覚めても悪夢なのだ。

「では、2日目………訓練を開始する」 

 1日………休まる時間もないまま。訓練が始まるのだった。寝て起きた体は精神に関係なく元気なのだから。






 エルフ族長グレデンデは戦慄した。好きに訓練をしてくれと聖歌隊の一部。100名を渡したのだが。その訓練の内容に同情より恐怖が先に来る。

「少しやりすぎでは?」

「1ヶ月で物にするんだ。時間が足りないほどだ。な? バルバトス」

「全くだ」

 外壁を装備をつけた状態で10周走り込んだ二人が息もあらげずに隊員たちが終わるのをゴールで待っている。もちろんたまに激を飛ばしながら。

「いや、しかし………これでは体を壊す」

「壊さん。寝ている間はネフィアと何人か聖職者が体を癒している。健康だ。筋肉痛もない」

「しかし、夢では………味方同士で殺し合いをしているのだろう?」

「ああ。この前やっとエルダードラゴン倒せたからな。味方を殺す訓練に移行した。俺らも参加してる」

「夢なら何してもいいからなグレデンデもどうだ?」

「………遠慮する」

 グレデンデは身震いした。想像するだけで過酷な訓練。自分ではついていけるか自信がないのだ。

「脱落者は………」

「ゼロだ。まぁ~脱落者したら殺すがな」

「一人ぐらい夢以外で殺したいな!!」

 バルバトスが隊員に向けて言う。だが。

「隊長がどうでもいいこと言ってますね」

「全くだ」

 恐怖せずに目の前を走り抜けていく隊員。グレデンデは気が付いた。隊員たちが笑顔で会話しながら走り抜けていることに。

「既に体は出来上がっている」

「ああ。1月でなんとか体は出来たな」

「………そんな馬鹿な」

「バカじゃない。元々亞人………人間より強固だ」

「まぁ、楽しく待とう」

「そう……ですよ………楽しく……待ちましょう………」

 ネフィアが頭を押さえながら歩いてくる。疲れた表情で。

「姫様、お疲れですね」

「まぁ200人の夢をまとめるんだ。大変だがネフィア………よく頑張っている」

 俺は彼女に近付き頭を撫でる。この世で唯一、彼女の頭を撫でることができる男性が俺だ。くすぐったいのか笑顔でそれを受け入れるネフィア。

「………ん」

「姫様、一月耐えられました。これからは夢ではない事をします」

「思いの外。早く仕上がりそうだな」

「元々精鋭ですから」

「どうするの? これからは?」

「各々が得意とする武器を見つけたからそれを夢ではなく現実で慣らせる事と座学だな」

 夢で使っていた武器は各々違っていた。最初は剣だったが。ドラゴンを切るために大型化し、いつしか皆。ほとんどこんな武器がいいと考えついたのだ。

「これからは詰めだ」

 俺はそう言い。エルフ族長に頼むのだった。武器の調達を。



§勇者殺しの暗殺部隊



 武器を調達依頼された私は悩んだ。エルフ族長として用意してやりたいが。200人が200人とも全員武器に関して大きい武器を指定してきたのだ。

 武器のモデルは姫様が用意した相手が大型な魔物だったからこそ、大型な武器なのはわかる。しかし………首都にそんな武器は一切ないのだ。

 そう、普通の剣では彼等は満足しない。まるで、ダークエルフ族長と勇者のように。大きい物を所望する。

「…………どうすればいい?」

 一人、頭を悩ませる。知っている鍛冶屋は直す専門で新しい武器を作るのは難しい。だからこそ………悩む。

「大剣では満足しないのだ………特大剣が必要か」

 ダークエルフ族長に聞いた鍛冶屋は遠い。人間の国だ。

トントン

「ご主人様、お客様です」

「ああ、誰だい?」

「トンヤと言います」

「ん?」

 私の使用人兼姫様の影武者として用意したフィアと言う元奴隷の姫様似で私の嫁になる素晴らしい女の子がトンヤ・オークズと言うオークを連れてくる。豚の獣、英魔族でニコニコと頭を下げる。ユグドラシル商会を立ち上げ。今では共栄国一の商人と言っても過言ではない。ネフィア様が関わり昇華し、味方となる程に仲がいい商人だ。私も贔屓にしてしまうほどに。

「お久しいですな。エルフ族長~」

「ああ!! 久しいな!! 同志。なにようだ?」

「姫様から………お金の匂いを聞いてましてね」

 タイミングが恐ろしくいい。そう、今は物に悩んでいたのだ。これも姫様の能力なのだろうか。

「200人の特大剣が欲しい」

「特大剣?」

「大剣より大きい剣だ。トキヤ殿が持っている剣並みに大きいのが200人分欲しい。至急」

「ほほう。わかりました。用意させます」

「あるのか!?」

 悩んでいたのがバカみたいに軽々しく用意すると言ってのけた。さすがは商人か。

「ありますよ。都市へルカイトには竜人用に大きめな剣があります。鎧はよろしいのですか?」

「鎧もあるなら………欲しい」

「では、面白いのを納品させてください」

「?」

「聞けばトキヤ様の部隊。ちょうどいいのがあります」

 私は首を傾げたが。依頼し、それから全員の寸法を部下たち計らせメモをトンヤに渡したのだった。納期は10日と言い切り。私は「そんなバカな」と疑っていたのたが。いい意味で裏切られるのだった。





 私は訓練場の壇上に上がる前に整列する隊員を見た。訓練開始からほぼ2ヶ月が経ち。最初は弱々しい隊員たちも地獄のような2ヶ月で体は鍛え上げられ。精神も鍛え上げられ。経験を積んだ立派な騎士となったようだ。流石精鋭だったらしく。2ヶ月で物に出来たらしい。本来なら壊れるか、1年以上かかると言う。

「姫様登壇!! 気を付け!!」

ピシッ!!

 ダークエルフ族長の号令に芯をピンっとし、直立不動の体制になる。暇が出来たので帝国流の騎士教練を取り入れたらしい。そして………敬礼後に休めを私は言わないといけないらしい。

「女王陛下に敬礼!!」

 シャ!!

 一斉に胸に手を当てる。騎士の礼だ。トキヤや親友の旦那ランスロットもしていた敬礼方法だ。私は敬礼を敬礼で返す。何故なら今、騎士の鎧を着込んでいるからだ。私は手を下ろす。

「直れ!!」

シャ!!

「休ませろ」

「休め!!」

ザッ!!

 全員が手を後ろにし、足を半歩開いた不動の姿勢になる。「アドリブでも台本でもいいから話をしなくちゃいけない」と言われ悩んだが。アドリブにする。

「ふふ、皆……いい面構えになりました。2ヶ月、本当によく頑張りましたね。私の臣下として鼻が高いです」

 隊員たちが驚いた表情と泣きそうな表情で私を見る。どれだけ辛かったか知ってる。

「皆の努力でここまで来ました。では!! 一人づつ装備を進呈します!!」

 他の衛兵たちが黒い鎧と大きな大剣を用意した。トキヤのツヴァイハインダーとは違い剣をそのまま大きくしたような黒い剣だ。

「黒鋼製の物です。そして!! 贈呈し!! 爵位として黒騎士を与えます!! 一人一人、衛兵から受け取り!! 今すぐ着替えなさい!!」

「さぁ!! 着替ろ!! 早くな!!」

 ダークエルフ族長の一声に皆が用意された目の前の鎧を着込んでいく。すすり泣く隊員もいて、ダークエルフ族長に怒られていた。数分後、皆が着替えと剣を背負っているのを確認し私は口を開く。

「今から言うことは事実です。そして、2ヶ月はこのためにありました。勇者が4人召喚されました」

 ざわつく。ダークエルフ族長が気を付けの号令で静まるが。兜を脇に抱えた騎士たちは驚いた表情になる。

「なので………私から命じます。200名を勇者討伐隊とし!! 帝国からやって来る勇者を追い返すのです!! 勇者は強敵です。爵位勇者、トキヤが4人と思っていてください」

 苦しい訓練を行ってきた隊員たちが厳しそうな顔をする。そして納得がいったような顔を私に向けて真摯で真っ直ぐな瞳を向けた。

「隊長はトキヤとダークエルフ族長に任せます。以上…………お願いしましたよ」

「全員敬礼!!」

 黒い騎士たちが胸に手を当て敬礼を行う。私は返したあとに降壇し、その場を後にした。後ろから激しい移動する音が聞こえる。会議を始めるのが聞こえる。音を拾うと口々に私に対する敵を知ろうと皆がトキヤに質問していた。

「トキヤ………スゴいね。短期間で黒騎士団を作るんだから」

 私は私の能力も利用した訓練に舌を巻く。彼が旦那でよかったと嬉しくなりながら寝室へ戻るのだった。





 俺はトキヤが勇者について説明しているのを横目に視察に来ていたエルフ族長義兄さんと話を始める。この前、結婚した。ダークエルフ族長の奥さんとして妹をもらった。

「よく集まったな。黒鎧」

「半分は帝国黒騎士団からのお下がりらしい。過去にネフィア様とトキヤ殿が戦い打ち負かしたのを拾ったらしいな。それを元に改造、作ったと聞く」

 昔に黒騎士団を大打撃を与えた事件。ネフィア様が女になるきっかけでもあった事件だ。国境付近で伏兵し待ち構えていたのを切り抜けた奇跡の話だ。

「あと、黒騎士は数が減り。売りに出されていたのを溶かし作り直したらしい。10日でやるんだから用意がいいなと思ったら。姫様勝手に自分の金で用意してたらしい。寸法は夢でメモ。覚えている全員を」

「…………姫様予想済みだったのか」

「ああ」

「金持ちだな~」

「ふむ。都市ヘルカイトではたんまり持っていると言うことだな」

 エルフ族長が嬉しそうに隊員を見ている。本当によく笑うようになった。

「トキヤ殿は流石。黒騎士団部隊長になれると言われた男だな。姫様が自慢していたよ」

「ああ。トキヤはそうだろう。恐ろしい訓練方法だが。夢で実践が積めるし寝ている間は体を休息させて起きたらすぐに肉体精錬だ。1日も無駄にはしない」

 現に俺はこの200人と戦い。個々では全員に勝てる自信はあるが集団では無理だと思う。そこまでに鍛えられたのだ。英雄を作ると有言実行した形だ。

「これもネフィア様の能力でしょうか?」

「わからんが、女神から勇者を奪うなんて姫様にしかできないだろう」

「まったくだ」

 俺らは二人で笑い合いエルフ族長はその場を後にした。俺はトキヤの話に参加し。1隊員として耳を貸すのだった。





 トキヤが命じて訓練所の一室を椅子を置き教室にする。そして200人の前で複写した地図と棒を持って話を始めた。

「先ず!! お前らはまだ弱い!! 理由は後だが今から作戦の目標を言う!!」

 トキヤが話を始め皆が一生懸命に聞き耳をたたせる。

「作戦目標は!! 帝国から来る勇者を暗殺すること!! 4人から5人と思われる!!」

 トキヤは棒を使い帝国都市を差した。

「原則!! 勇者を暗殺が目標であり!! それ以外は味方を殺されようと目標遂行を目指せ!! 戦場ではお前らの独断で暗殺を行う!! しっかり見失わずに咄嗟の判断ができるように鍛えとけ!! お前ら一人一人の裁量にかかっている!! わかったか!!」

「「「はい!!」」」

 全員が返事をし、訓練所の建物が揺れる。

「暗殺の技術は教えてない………いいや!! 時間がなかった!! だからお前らに任せるしかない!! 故に俺が今から軽く説明を行う。耳をかっぽじって聞けよ!!」

「「「はい!!」」」

「では、先ず。潜伏するのはこの商業都市だ!!」

 地図にその場所を示す。そしてトキヤは理由を話す。 

「ここは種族が入り乱れている!! だから潜伏するには持ってこいだ!! お前ら全員は鎧ではなく各々私服で潜伏し!! 冒険者として生活しろ!! そして………勇者が来る通知を待て」

「質問してもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「編成は何人でいくのですか?」

「2人づつだ。多いと動きが鈍る。武器も小型のがいい。相手は人だ。魔物じゃないし狭い路地での戦闘だ。鎧と剣はいただいたがこれは儀礼用と知れ!! あくまでも一般人に扮して暗殺を狙え。2人で無理なら合流し数を増やせ。それも現場で任せる」

「トキヤ隊長は何を!!」

「俺は一人で一人勇者を倒す。後はお前らで分けろ」

「…………トキヤ隊長!!」

「ん?」

 後方の小さい人間の少年のような姿のゴブリンが声を出す。

「なんだ?」

「隊長の分も仕留めてもいいんですか?」

「ふぅ…………殺れるもんなら殺ってみろ」

「「「おおおおおお!!」」」

 全員が手を挙げて叫んだ。やる気は十分らしい。

「人族の奴がいたな。数人前へ!!」

「はっ!!」

「はい!!」

 ダークエルフ族長の衛兵隊に数人ほど人間が混じっていた。そう………ダークエルフ族長は混成を好んでいるからこそだったが。ここへ来て素晴らしく運がいいとトキヤはほくそ笑んだ。

「十人には女王と供に帝国へ行き!! 勇者を調べてもらう!!」

「なっ!?」

「我々も勇者と戦いたいです!!」

 ドンッ!!

 トキヤが大きな音を出し黙らせる。

「原則、勇者を殺すのが目的だ。目的のための手段だ。それに長年、闇に浸かってきた黒騎士団がいる。バレたら終わり。何よりも難しく危険で、非常に重要な任務だと言うことだ」

「女王陛下も向かうと言うのは危険では!!」

「あいつは………大丈夫だ。信じろ。それに目立つから囮としてお前らを助ける。だからこそ失敗は許さん」

 トキヤ以外はネフィアの能力を知らない。この中で一番生存率が高いことを。

「ネフィアがワザワザ出向くほどだ。わかったな」

 数人が黙り込み。静かに頷いた。額に汗が出ているのを見ると緊張している。

「まぁ………そう。緊張するな。簡単簡単」

「トキヤ隊長。任務承りました」

 トキヤが数人の肩を叩く。

「お前らは190人の使命を背負う。頼んだぞ」

「「「は!!」」」

 彼らは敬礼する。任務の重さを知って使命に燃えた瞳で。







 寝室、私は紅茶を啜りながらトキヤの報告を聞いた。聞けば10人程は帝国に潜伏し、勇者の情報を集めるらしい。容姿や能力が知りたいらしい。知った後は………商業都市で暗殺。暗殺後、私が仕留める手筈だ。私一人で4人連続で相手をしないといけないのは大変だが。やるしかない。

「ネフィア……帝国潜伏。何があるかわからない気をつけろよ」

「わかってるわかってる」

「軽いなぁ……お前」

「重くても変わらないでしょ?」

「そうだな」

「ねぇ……トキヤ。ちょっといい?」

「なんだ?」

 私は立ち上がり、宝石箱を箪笥から取り出した。そして指輪を外し宝石箱にしまう。

「トキヤ。お願いがある」

「わかったから……なんだ?」

「私たちは別々で戦う。だから………帰ってきてもう一度、私に指輪を嵌めてトキヤ」

「はは…………なるほど。約束か」

「私は嵌めてもらうために帰りたい。あなたははめるために帰ってこないといけない」

「ネフィア。戦場とは帰らない気でいた方が帰ってくるもんだ」

「それはわかる。だけど、私には無理。絶対帰りたい理由が欲しいの」

「ネフィア………」

 トキヤが立ち上がり私の前に立つ。私は彼の胸に飛び込んだ。彼は私の腰に手を回し、抱き締めた。

「ここが私の帰る場所。いつだってそう」

「そうだな。俺もお前を抱き締めるために帰ってこないとな」

「あなた………」

「ネフィア………」

 少し離れ、私たちはキスを行う。深く深く舌を絡めて。ゆっくりゆっくり。離れるのを寂しくなるのを埋めるように。

「帰ってきたときは………もう一度」

「そうだな………もう一度だな」

 私は覚悟を決めた。もう一度、彼の胸の中に戻れるように生きて帰ってくる事を。



§旅の甘味所~エルフ族長のご褒美




 私達は首都を出発する前に全員がバラバラに旅立つ事になった。トキヤ曰く。200人全員で行くのは変だと言うことらしい。冒険者を偽っての出発だった。私たちも出発する。なんと嬉しいことに二人きりでの出発だった。

「ネフィア。そういえばワンちゃんどこ行った? いつのまにか消えてたけど」

「ユグドラシルちゃんのもとへ」

「そっか………彼女のもとへか」

 ドレイクを一匹買い。それに乗って旅をする。深くローブを被りながら二人乗りの状態でトキヤが手綱を取る。残念ながらワンちゃんはもう都市ヘルカイトにお返しした。ドリアードの女の子を待たせているのだ。

「トキヤ………懐かしいね」

「懐かしいか?」

 道をゆっくりと進みながら。トキヤと旅をした日々を思い出す。

「うん。トキヤとの旅はいつぶりかな?」

「そういえば………そうだな。『魔王辞める』と言った日からだな。殆んど近場で。遠くまで旅をしていない」

「………出会ってから早いね。時間が過ぎるの」

「ああ。早いな」

 言葉に出さないが楽しい時間が多かった事を私達は知っていた。そして、これからもそれを求めるために戦わないといけない。仕方がない事だが。普通に産まれたかったとも思う。

「トキヤ。皆が隠してる事ってない?」

「………ない」

「はい、嘘ついた」

「………………隠してるのに言えるか?」

 私はトキヤや族長が隠し事をしている気がしていたが、その通りだった。

「私はけっこう隠し事されやすいね」

「ネフィア………」

「いいよ。隠し事」

「えっ? いいのか? 聞けばメチャメチャ怒ってたと聞いたが?」

「トキヤが隠し事での埋め合わせをしてくれたらいいよ。全て許す」

「埋め合わせね~」

 手綱を片手に頭を掻く彼。なにも思い付かないようだ。私はふふっと笑い。彼を見つめて言葉出す。

「ずっと一緒にいようね。なにも要らないから」

「本当に俺の事好きだな~」

「好きだよ。好き」

「………ふぅ。ちょっと引く」

「がぶ」

「あたたた!! 腕噛むな!! あたたた」

「酷い!!」

「いや!! 倦怠期とかないか?」

「ない!! 絶対ない!! 一生ない!!」

「お、おう」

「デリカシーないよね本当に。そこは恥ずかしがらずに『好き』て返すとこ。でもそういうのトキヤらしくって好き」

「はぁ~甘い」

「甘い?」

「なんか甘い」

「ふふ。そうやって、いつになっても照れるんだね」

「同じことをそのまま返す。今回は俺だった次回はわからないぞ」

「次回もトキヤ。強敵だよ私」

「ちょろいがな」

「それはちょっとムッとする」

「本当に変な所、ムッとするな」

「軽い女と言われてる気がする」

「俺だけには軽いだろ。いいや………重い女か」

「体重は………言わないでね? デリカシーないよ」

「俺を愛する想いは重いだろ?」

「あぐぅ。不意討ちイケメンスマイル~」

「次回は残念。お前だったな」

 私たちは周りの冒険者もとい、隊員たちに飽き
られながら私達は帝国へ向けて旅をするのだった。
 





「グレデンデさま。出発されました」

「行きましたか………」

 執務室の一室でソファーに座りながら紅茶を嗜んでいた私にフィアは報告しに部屋に入ってきた。私は手でこちらに誘い。彼女を膝の上に乗せる。

 綺麗な白い洋服の彼女の腰に手を回す。

「ご主人様。どうされましたか?」

「これから………君には影武者をしてもらう事になる。大変だが頼んだよ。義娘たちも無事強くなった」

「はい。ご主人様のお望み通りに」

 ネフィア様のような、綺麗な瞳に綺麗な金色の髪。彼女の本名もネフィアと言い。影武者として私が奴隷であった彼女を拾った。ただ……そう……拾っただけだった。

「フィア………今までよく頑張って来た。そしてこれからも忙しい。すまないな………なにか褒美をとらなければならないが。何が欲しいものはあるか?」

 私が彼女に向けて優しく話しかける。ネフィア様より小柄な体はネフィア様より弱々しい。しかし………姫様と言えば姫様らしいとも思う彼女に私は何かを褒美をとらせたいとも思っていた。

 こんなにも小柄な彼女に多くの無理をさせているのだから。

「ご主人様………ご褒美を頂けるのですか?」

「ああ、なんでもいい」

「………なんでもですか」

 フィアは少し逡巡したあとに私の瞳を覗き込む。私も彼女の深い青い瞳に吸い込まれながら言葉を待った。

「………一つ」

「欲しいものがあるのかい? 一つ? なんだね」

「ヤドリギの花、小さくて可愛いんです」

「ヤドリギ? あれに花が咲くのかい?」

「はい、黄色い花です。ご存知ないのですね………」

「わかった。用意しよう」

「…………はい」

 私は花が欲しいと言う女の子らしいお願いにほっこりと心があったかくなるのだった。ただ彼女は少し、ヤドリギに花が咲くのを知らないことに残念そうなのはわかった。少し、申し訳なりながらも。早く手に入れようと思う。かわいい彼女のために。






 出発後、私達は何度も旅をしている身のため。そつなく魔物を撃退しながら都市インバスにつき、九大族長の一人。吸血鬼セレファに挨拶を済ませ、都市インバスを観光する。

 昔は黒くおぞましい雰囲気が嘘のような淫らな雰囲気が漂っていたが。知らない間に都市インバスは繁華街のような娼婦や色欲の都市へと変貌し驚かされる。

 婬魔が虐げられず婬魔悪魔の住んでいる都市らしい都市へと変わってしまった。いい意味なのか悪い意味なのか。

 ローブで姿を隠し忍びながらギルドの酒場に行くと。なんと、女性たちが面積の少ない布を着て接客をしていた。色んな種族の女性が接客をし、後ろに値札がついており私達は引く。その金額を払えば………まぁうん。

「ここ、冒険者ギルドの酒場だよな………」

「娼婦ですよね」

「いらっしゃ………あっ!?」

 一人の獣族の女性が私を指を差した。ウサギ耳の獣族でピコピコと耳を動かす。

「ネフィア様!?」

「バレた」

「顔を見られたら一発だな」

 二人でローブを外し、空いてる席を教えてもらい個室に案内される。ウサギ耳の獣族は少しお待ちくださいといい。個室を後にした。

「トキヤ………この部屋。愛が深い」

 私の嗅覚に少しだけ反応する。

「なにも言うな。なにも」

 そういう部屋なのだろう。トキヤが頭を抱えて、ため息をはく。

「トキヤ………やるくせに?」

「だから、男だけで来る店だここ。お前がいるとなんか悪い気がして落ち着かないんだ」

「………よし!! わかった!! ちょい待っててね」

 私は立ち上がり個室を後にする。そして店員に声をかけ、私は案内してもらうのだった。





「やな予感がする………」

 ネフィアが嬉々として部屋を出て行ったのに不安がりながら。待つこと数分。ある一人の男性が現れる。

「はじめまして。勇者トキヤさま………ここのギルド長をしております。婬魔のインデスです」

 一人、肌の黒く背中に蝙蝠の羽根をつけた男性の悪魔が顔を出した。俺も頷いて挨拶を済ませる。

「トキヤだ。ちょっと都市が変わりすぎて変わりすぎて驚いたわ」

「そうでしょうね。婬魔族長様が私たちの『能力を存分に生かせ』と言われてこの状態です。昔の奴隷のような事は全くなくなりました」

「少しばかり。頑張りすぎだろ」

「ええ、頑張らなければ奴隷に戻ってしまう。一応私達はまだ一人で立てません。婚約者を探しているのです」

「婚約者?」

「トキヤ様のような方をです。ネフィア様のように幸せになりたいのですよ。婬魔は愛に餓えております。冒険者相手に」

「はぁ………まぁ頑張れ」

「はい。あとはやっぱり性欲は金になりますね」

「……………」

 マジで婬らな都市になってしまったらしい。

「どうですか? トキヤ様も? 遊びで抱かれても……」

「ネフィアの前でそれが言えるなら言ってみろ」

「ははは!! 冗談です!!…………とまぁ、それよりも姫様はどちらへ? ご挨拶したいのですが?」

「なんか、飛び出していった。それよりもご飯はあるよな?」

「あります。メニュー表をご用意させますね」

 そう言って個室から彼は姿を消した。まぁ………昔に比べて陰鬱な雰囲気の都市じゃなくなったのは良いことだと俺は笑みを浮かべる。

 昔ならどうでもいいとか、勝手にすればいいとか、全く気にもとめなかったが。今ではなんとも感情が揺れ動きやすい。「昔の二つ名の魔物は返上だな」と思っていた。そして。

「メニュー表お持ちしました~」

 ネフィアの声と共に個室に入って俺は一瞬で目を細める。ネフィアは外の女性たちと同じように布の面積が少ない服を着ている。今、わかったが婬魔らしい服装と言える。黒い下着ぽい。

「…………ご飯なに食べる?」

「トキヤ………他に言うことはないの?」

 ネフィアがその姿で扉にカギをかけて俺の膝の上に座る。首に手を回しながら。

「婬魔だよ」

「あのなネフィア。俺たちは戦地へ向かうんだ」

「戦地へ娼婦を連れるのは普通の事」

「俺は連れなかった」

「私は連れるの」

 なめやかしく。ネフィアが俺の首筋を舐める。

「ふふ。おいしい。今日はあなたにお買い上げされました娼婦ネフィアです」

「おまえなぁ~空気は読まないし一度は………まぁその。もう姫様だし、女王とか皆に言われてるし。ちょっと大人げない」

「…………しゅん」

 ネフィアがしょげる。

「せっかく。トキヤを喜ばせたいから………恥ずかしいの我慢して着て……演じたのに………」

「………」

「こんな姿はトキヤの前だけ。あなたの前だけは一人の女として居させて」

「あぁ……すまんな。その気にならないだけなんだ。宿屋に戻ったらその姿になってくれたら嬉しい。婬魔らしい艶姿はそそる。値札はどこかな?」

 トキヤが優しく頬を撫でる。良かったと内心思い。言い返しを考えた。

「ごめんなさい。私は既に買われてます。あなたに。不買品ですよ」

「そうかぁ、仕方ないな~」

 優しくトキヤが撫でながら、メニュー表を見て注文をお願いする。私はこの衣装を着替え。買い取り。宿屋で再度、着ようと思うのだった。







 私は珍しいヤドリギの花を妖精姫から送ってもらい手にした。しかし、疑問にも思う。ヤドリギの花は小さく黄色いが………こうゴワゴワして。綺麗と言うよりヤドリギを壁に輪にして飾るのが一番見栄えがいいと聞いた。そう家を護るためのおまじないとも。力強く宿る木。御守りとして人気らしい。

「部屋に飾りたいのか?」

 個室を与えているため。花が綺麗とか言うよりもおまじないの御守りとして飾りたいのかもしれない。乾燥させたヤドリギの輪を持ちながら彼女を探す。今日は非番な筈だ。

「そういえば妖精姫ニンフから渡す前に読めと言われていたが………なんだろうな」

 ニンフから手紙も届いている。呪文でも書いているのだろうか。内容はヤドリギの花言葉……忍耐・克服。

 まぁ素晴らしい花言葉だ。まるで姫様のようだと思った瞬間。目の前の続きの言葉でヤドリギの輪を落としてしまう。




 花言葉……キスしてください。




 私は慌ててヤドリギを拾い上げ。もう一度手紙を読んだ。そんなバカなと思いつつも鼓動が早くなる。何度読んでも花言葉は情熱的だった。

「ま、まさか………そんな筈はない」

 否定を口にする。

「ご主人様?」

「!?!?」

 私は廊下でうなっていると驚いた表情で彼女を見た。そう、フィアが背後でにこやかに声をかけてくれたのだ。

「あ、ああ。探していた所だ。これを」

「ヤドリギですね!! この前にお願いしてた!!」

「そ、そうだ!! 見つけるのに苦労した!! 首都にはないからな」

「ありがとうございます。うれしい………御守りとして飾らせてください」

「あ、ああ……」

 なんだ、やはり……飾りたいだけか。胸を撫で下ろす。緊張がほぐれた。

ポロ

「ご主人様? なにか落ちました?」

「あっそれは!!」

「…………これは、花言葉ですね」

「あ、ああ。妖精姫から教えていただいたのだ」

「花言葉は『キスしてください』ですね。知ってました」

「知っていたか。いや、私は知らなくてな………聞いてそういう意味があるのかと知ったよ」

「………ご主人様。その………花言葉。知ってどう思いましたか?」

「ど、どうとは?」

 長い長命な私は何故か冷や汗が止まらない。

「もし、あのご褒美の時に知っていたら。ご主人様はどうしましたか?」

「それは…………まぁ少し考えて今日のように用意しただろう」

「………………」

 フィアが小さな胸に手を当てて深呼吸する。そしてポツリと声を出した。

「ヤドリギが欲しかったんじゃないんです。ごめんなさい」

 ヤドリギが欲しかった訳じゃない。せっかく用意したヤドリギを欲しかった訳じゃないと言った。私はその意味を理解する。よくみると彼女の手は震えていた。

 そう………彼女のなりの精一杯のお願いだったのだ。キスしてほしいと言う褒美を恥ずかしながらも言い切り。察して欲しかったのだ。

「はぁ………」

 私は頭を押さえ自分のその察しの悪さと褒美を取り間違えた事を知り、申し訳ない気持ちになる。

「ご主人様。ごめんなさい。厚かましかったですね。冗談です。うれしいです!! ありがとうございます!!」

「フィア………今からのご褒美は間に合うかい?」

「えっ?」

「まぁ、察しの悪い男ですまなかった」

 呆けるフィアの肩を掴み。廊下の真ん中で褒美を与える。可愛らしい彼女に。

「………」

 そんな長くはない褒美。離れた瞬間。フィアは自分の唇に触れていた。なにが起きたか確かめるように。

「ご褒美、間違ってはいないよな? 私は察しが悪い。教えてくれ」

「………ご主人様。ご褒美…………ありがとうございます」

「それなら良かった。では………これからも頼んだぞ」

 私は彼女から踵を返し。廊下を歩く。

 私は姫様とトキヤ殿の愛に当てられたようだ。昔の私では想像できないほどに………顔が今は赤いだろう。



§魔王対王配勇者


 色々と冒険を楽しみながら。私たちは商業都市へついた。商業都市には都市名がないのは相互で呼び名が違い。権力争いの最前線だからだ。今でも族長同士で牽制し合っている場所である。

 そんな都市の冒険者ギルドへ向かうと受付の女の子が俺らを待っている。先についた冒険者が家を借りていることを教えてくれた。 

 地図で借屋の場所を教えてもらいそこへ行くと3階立ての小さな家であり、カーテンで中が見えないようになっていた。もちろん、家に入ると数人の知り合い冒険者がトランプに興じ異種族同士で笑い合っていた。そして一瞬で笑みが固まり慌てて席を立つ。

 俺らに気が付いた彼らは直立不動の姿勢を取り敬礼をした。今まで冒険者ぽさがなくなり騎士のようにピンっと背筋を伸ばす。

「隊長。お待ちしておりました。人族の隊員は既に出発しております」 

「すまんな遅くなった」

「ごめんなさいね」

「いいえ。バルバトス班長から聞いておりました。そういうものだと」

 要約、「ネフィアがイチャイチャしたがるので時間はかかる」と彼らは聞いている。

「あ~すまん」

「いいえ、隊員。皆ご存知ですから」

「……………ネフィアがすまん」

「わ、わたし悪くないよ!!」

「自制が効かないんだ」

「ええ、お耳にしておりました」

「…………」

 ネフィアがだんまりを決め込む。少しは罪悪感があるようだ。

「でっ、隊長指示は?」

「待機、帰ってくるまで自由行動だ。冒険者として馴染め」

「はっ!! お伝えします。お二人はどうされますか?」

「どうとは?」

「ええ、これからのことを考えましても………」

 隊員が気を回してくれる。俺は頷き、ネフィアの腰に手を回して借り家を出る。

「すまんな。明日、ネフィアも出発する。仕事の話はそれ以降だ」

「会議は明日ですね」

 俺は頷いて今日の一日は彼女にあげようと決める。ドアを閉め、ネフィアに向き直った。黙っていた彼女が嬉しそうに俺の手を掴む。

「トキヤ、優しい」

「部下が気を使わせてくれただけだ。ネフィア何処へ行きたい?」

「宿屋」

 俺は明るいうちからかとため息を吐きながら頭を撫でた。彼女はこれから戦地へ赴く。

「婬魔め」

「あなたの前では淫らな雌なだけです。これから………長い間。会えないのですから」
   
 ネフィアは俺に抱き付いて「少しでも触れていたい」とワガママを言い。いつも変わらず可愛いままのネフィアを連れて宿屋へ向かうのだった。






 俺は草原に寝転んでいた。春の青々とした匂いに目が覚め立ち上がる。

「ん?」

 宿屋で疲れて寝ていた筈だと頭を整理していた。月明かりが綺麗なそんな懐かしい場所だと思い出していると記憶が確かならここは昔に帝国で黒騎士のときに訪れた草原だと思い出す。今でこそ綺麗な月だが。この日は………何人かの敵騎士を暗殺した帰りだった事を思い出して苦々しい気持ちを持った夜だった。

「あの日はこんなに綺麗な月が登っていたのか」

 空を見上げ、月明かりの草原を見つめる。もちろん、居るだろうと思って周りを見渡すと同じように月を見ている美少女と目があった。月に照らされた姫騎士は絵になる美しさでその場をただずんでいた。

「ネフィア。お前の能力か?」

「トキヤの記憶ですね。そうです、ここは夢です」

 訓練でも草原などの広く戦いやすい場所をネフィアは選んで引き込んでいた。なので考えて言葉を投げ掛ける。

「月が見たいだけで呼んだわけじゃ~ないんだな。それとも『月が綺麗ですね』と言えばいいのかな?」

「その返しは異世界では確か………『死んでもいいわ』ですね。でも私は貪欲なのでもっと愛されて愛されて死にたいから生きます」

「お前らしい。俺より先に逝くなよ。本当に」

「夢だと素直ですねトキヤさん」

「周りの目線がないからな。素直に『愛してる』と言うことぐらいは言えるさ。ベットの上でも言ってただろ?」

「はい………今は手を握って寝ていますね。きっとだらしない顔でしょう」

 草原で爵位勇者の俺と現魔王が愛を囁き会う。敵同士なんて物はなく。なんとも甘美な雰囲気を月明かりが照らすのだ。

「トキヤさん。夢の中だと殺し合いしても大丈夫です。幻想ですから」

「魂が怪我をするが治るからだったな。でっ、やはりなんかあるのか?」

「トキヤさん………いいえ。あなた。私と………ううん………余と決闘してくれないか?」

「決闘?」

「そう………私は強くなった気がする」

「いいや。強くなった。俺よりもな、きっと」

「帝国は恐ろしく強敵も多い。勇者を倒すことが出来るかも不安なんです」

「自信が……ないか……」

「はい」

 ネフィアは確かに強くなったと事は知っていた。しかし、何処まで強くなったかをネフィア自身も実はよく分かっていないのだろう。

「だから。お願いします。斬りたくはないのを重々承知です………お優しいですから」

「勇者が魔王を打つのは普通だが。奥さんを斬る趣味はないんだ………」

「自信をつけさせて。あなたしかいないの………処女を強引に奪ったくせに」

「合意だった」

 ニコッとネフィアが笑いかけ。「私を見てほしい」と言う表情をする。これがわかったのは長年一緒にいるからこそだった。ため息を吐くだけだったがそれは肯定と言う動作に過ぎない。しょうがないやるか。

「はぁ、そこまで言うなら。ネフィア全力で行かせて…………貰うぞ」

「ありがとう。夢ですので本気でお願いします」

 剣を抜き構える。ネフィアはそれに答えるように愛剣を右手で抜き。左手に緑の光る聖剣を現出させて握った。背中に翼が生え、はためき。キラキラと羽根を枚散らせる。月明かりに負けずに翼が白く輝き。枚散る羽根も光を放つ。白金のドレスのような鎧がいっそう光を反射する。月明かりの下で天使が草原に降り立つ。

「ネフィア………ちょっと英魔王ぽくないぞ」

「英魔王ではないです。余は英魔族共栄圏初代女王であり、勇者トキヤの伴侶、ネフィア・ネロリリスであるぞ」

「そうだった姫様だなお前。女王から戴いた爵位。勇者を持つ。トキヤ・ネロリリスだ」

 名乗りをあげおわった瞬間。ネフィアが聖剣を投げつけた。緑の光の軌跡が空中に残る。

 キャン!!

 飛んでくる聖剣を大きなツヴァイハインダーで弾く。

「聖剣を投げるのか!?」

「手元に戻ってくる。いい投げナイフです」

「聖剣だぞ!!」

 ネフィアは距離を取り、開いた左手で炎を産み出す。そして叫んだ。己が使える即席魔法を。意思をもつ自分の分身のような炎を。

「カイザーフェニックス!!」

 打ち出した炎は火の大鳥を形作り。俺に襲いかかる。大きな大きな火の鳥はまるで意思を持っているかのように向かってくる。こんな化物を相手にしないといけない。

「その魔法は読めていた!! 空壁!!」

「きゅーん」

 俺は呪文を詠唱せずに火の鳥を緑の魔方陣で出来た箱に閉じ込めた。ネフィアが驚いた顔をする。

「私の炎………閉じ込められた!?」

「消えないから封じるしかない。しかも熱と魔力を放出するから用意した魔方陣は勝手に維持される。覚えておけ、それがお前の弱点だ」

「詠唱もない即席魔法だから…………詠唱打ち消しは無理ですよね」

 トキヤは頷いて答える。本来は防御の魔法だからこそ即席が出来た。

「お前は魔法で詠唱音を消すことが出来るだろうが。そのせいで並列や、長い詠唱は出来ない。逆に即席や短い詠唱はどうしても防げない。気をつけろ………」

「わかったよ」

 ネフィアは笑いながら彼の言葉を聞いていた。トキヤが眉を潜める。

「なんだよ?」

「いいえ、決闘なのに私に弱点教えてくれたり。色々気にかけてくれてうれしいなって」

「………あっそ。まぁ決闘と言うのは相手を知る。いい機会であり弱点も見えてくるものだからな」

 俺は照れ隠しでぶっきらぼうに顔を背けた。そう、照れ隠しを装い焦りを隠す。悩んでいる。どうやってあれを奪うかを。

「はぁ………よっと」

 剣を肩に担ぎ居合いの構えを取る。ネフィアはそれに答えるように剣を納め同じように居合いを構えた。いつだって切り抜けてきた一刀。ネフィアも近い戦い方だが大きく違っていた。俺は相手より先に切り下ろす。それが出来る。

 ネフィアは相手の攻撃をかわして切り払う。相手より早く切り払えないためそれしかできない。その差が命運を分けるだろう。

「あぁ……初めて対峙したけどトキヤ強い」

「ああ、そうだな。一刀で決めるかどうかだな」

 月明かりの下で思う。「魔王と勇者らしい戦いだ」と思う。ゆっくり距離を詰める。ゆっくりと俺は苦しくなる。実は居合いを苦し紛れに構えた。そう、苦し紛れだ。

 ネフィアが決闘しようと言ったとき。俺は悩んだ。「本気で来い」と言っていたがすでに彼女が手加減状態なのだ。ネフィアはいい、真面目に正面から戦う。一騎討ちが一番得意だろう。

 歌で鼓舞し、目立つ鎧に目立つ容姿に目立つ翼があり囮にでもなるのかと思うほどに隠れられないぐらい目立つ。しかし、それは「隠れる必要がなく真正面から打ち負かせる」と言う力の現れである。いや………真面目に正面から戦う勇敢さを手に入れている。

 逆に俺は………申し訳ないが正面から戦うのは好きだが。趣味なレベルで相手より先に倒すことを念頭に置き。風魔法や背後からや、相手より先の行動認識をし、先手を打つ戦い方が得意だ。闇夜にまみれ暗殺が得意だ。正面から戦うのはネフィアを護るために意地で出来るようになったが得意とはいえない。結局魔術士の騎士真似事。本物には敵わない。ネフィアも同じように魔法使い系なのだが。魔法剣士に近い。

 俺は気が付いた。ネフィアも俺も剣の才能はない事に。努力の差、経験の差で決まる。

「………ん、どうするか」

 苦し紛れに構えた居合い。ネフィアが受けてくれなければ本当に面倒だった。もし、受けないなら。ネフィアの得意な魔法の応酬になり、ネフィアの無尽蔵な魔法でじり貧だった。俺に残された方法は………暗殺のみだった。1手しか残されていない。

 ゆっくりと距離を詰める俺たち。俺は「刀身がネフィアの剣より長く先手を打てるだろうが切れない」と思っている。一瞬の直感での回避とそれを行える身軽さ。それを補う器用な才能の塊。そして、恐ろしい程の運のよさ。それは能力と言っていいほどであり。機械仕掛けの神デウスエクスマキナと一部の奴は呼んでいた。厄介である。

「ふぅ………ふぅ………」

 ネフィアが冷や汗をかいて近寄ってくる。本来、かくのは俺の方だと文句を言いたいが、そうこうしているうちにネフィアは緊張した顔で………間合いに入った。

スン!!

 俺は剣を降り下ろす。避けられる事を知りながらも力強く降り下ろした。






 私は間合いに入り込み、トキヤが剣を降り下ろすのが見える。見える筈がない程に速いはずなのに動作を幻視し。時が引き伸ばされるようにゆっくりと動く。刹那が1秒に、1秒が1分に1分が1時間になるかのような感覚。

 私を真っ二つにしようとする凶刃が見え、私はそれを横に大きく避けていた。

 体が勝手に動き、絶大な集中力で彼の一撃を避けきった。虚空を切り、草原の草が切り刻まれ枚散る中で、私は剣を引き抜こうとした瞬間。

 時が動きだし。もっと大きく回避行動を取った。

嵐の支配者ストームルーラー!!」

 トキヤが叫び降り下ろした剣から嵐の刃を撒き散らす。周囲が剣圧とともに切り刻まれ。剣の斬った筋が残る。私はそれを全て避けきって距離を取った。距離を取らされた。避けるためには離れないといけない程に。懐へ入り込めない。

「うぐぅ………」

 汗を拭う。背筋が冷える。昔の自分は愚かだった。トキヤのこの強さはあの出会った日から変わっていない筈。「聖剣を持っているから」と言っても無理だ。今でこそ一撃を入れられなかったのだから。

ゴオオオオオオオオオ

 トキヤの剣に嵐が纏う。剣に魔法を付与して嵐の破壊を撒き散らせる恐ろしい魔法だ。現に地面を抉っている。あたれば鎧の隙間から刻まれ耐えられないかもしれない。

「…………」

「うぅ………こわ」

 トキヤが無表情で剣を持ち直しゆっくりと距離をつめる。嵐を手に問答無用で迫り来る。私は、踵を返して走り出した。

「しまった!?」

 背後でトキヤが叫び。背中から一刀の嵐の刃が迫ってきているのがなんとなくわかり、後ろを見ずに横に避けた。地面が抉れ捲り上げてズタズタになるのを横目に。私のフェニックスが封じられている魔方陣の元へとついた。

「はぁあああああああ!!」

 そして、勢いよく剣を鞘から振り抜き。炎の刃が緑の魔方陣を壊し、フェニックスが解放される。私の背中の羽根と同化し、振り返るとトキヤが数枚の緑色魔方陣から風が渦巻く槍打ち出している。それに混じりトキヤが駆け込んでくる。魔法と剣の多重攻撃だ。

ブワッ!!

 私はフェニックスと混じり大きくなった翼を広げ私の体を包むように目の前を覆った。風の槍が刺さり羽を撒き散らす。翼を抉るが翼だけが犠牲となり。攻撃を防ぎ、私を守る。穴や抉られたところは炎が舞い、修復された。

「ただの翼!!」

「はぁあああああ!!」

ゴオオオオオオオオオ!!

 風槍の攻撃のあと波状攻撃で嵐を纏った大剣が上から遅い来る。まるでドラゴンの爪のように鋭く私を抉ろうと襲いかかる。

「んんんんん!!」

キィイイイイイン!!

 避ける事は叶わず。私は翼を退かせて右手の炎の剣と聖剣を現出させ、交差し大剣を真っ向から受けた。激しい金属音とともに嵐と炎と聖剣の緑の光が混ざり合う。唇を噛み締めて力を入れ耐え抜いた。

ギギギギギ!!

 勇者トキヤの剣が止まる。しかし、力強く押し負けそうだがなんとか数秒は持ちそうだった。耐えたのに驚きである。

「!?」

「ネフィア、驚いた顔をするな。俺のが驚いた。今の一撃を受け止めるか」

「お、おう」

「だから、意外そうな顔をするな!!」

「うぐぅ!?」

 剣に力が入り腕が震える。だからこそ………距離を離したい。翼で彼に包もうとした。

「全てを焼き尽くす翼を!!」

「ちっ!?」

 大剣が退かれ、彼は翼の攻撃から身を離す。それをみた瞬間。私は背後を見せるためにクルッと回る。包もうとした白翼が伸び、長い炎翼となる。少しだけしか距離を取っていないトキヤに向けて。

炎翼の刃ウィングブレード!!」

 炎翼で横凪ぎに振るう。この前出来た巻き込む系の炎だ。

「くぅ!! 絶空壁」

 横凪ぎに払った翼はトキヤの緑の防御魔方陣にぶつかり翼が火の粉となり飛び散った。火の粉は羽根を形作り飛び枚散る。光を放ちながら、幻想的な光景を産み出す。

「攻防一体の翼か………やっかい極まりないな。即席魔法じゃない。常在の魔法」

「そうなんですか? でも、トキヤさん倒せてないです…………強すぎでしょう。あなた」

「………」

 トキヤは笑みを浮かべる。ぞわっとするぐらいに歪んだ笑みだ。気付けば頭に2本角が生え。背後のトキヤの影は体格以上の大きさの角を持ったデーモンの姿を形作る。大きな威圧、恐怖。恐ろしい魔法で私を倒そうとしている殺気が伝わる。手加減をしない事はわかっていた。禁術が垣間見える。

 だからこそ、それに、恐怖に負けていられない。

遠征の劇場オペラハウス!! そして………」

 音楽を流す。荘厳な曲を。まるでここが劇場のように。魔法の威力を上げるために自分に強化の魔法を使い。音楽で恐怖を洗い流す。トキヤが変幻する前に先手を打つ。今なら最上位の魔法を即席で唱えられる。

十二白翼の爆炎12のツバサ!!」

「ネフィア!? それは!!」

 トキヤは驚いた声を上げ、防御の魔方陣を唱え出す。しかし、遅い。既に多くトキヤの攻撃や私の動きで散った羽根が光を放ちどんどん爆発する。12個の爆発どころじゃない。爆発が爆発を生み、爆発を呑み込み。大きな爆発へと昇華する。

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 複数の爆発音は一際大きい爆発にかき消される。私は翼で防御しながら。爆発が収まるのを待つ。自分の翼を全力で自己修復しながら。己の破壊を撒き散らす行為に驚きながら。

「はぁ……はぁ……エルダードラゴンだから死なないけど。普通の術者なら巻き込まれて死ぬよねこれ」

 私でもギリギリ耐えている。爆心地での爆発が収まり、翼を広げると。私の周りは穴ぼこのクレーターがたくさん出来上がり。私の周りには一際大きいクレーターと私を支える土の柱が出来ていた。それが崩れるまえに飛びクレーターの縁に立つ。

 彼は消えたのだろうか。夢から醒めたのだろうか。

「………にしても」

 彼を探しながら破壊の限りを尽くされた光景に心を痛ませる。私にはこれほどの事が出来てしまう。そう、これを都市で放てばどれだけ被害が出るか。

「恐ろしい魔法です。エルダードラゴンが元々魔物だから気にせずに放てるでしょうが……うぐぅ……」

 私は剣を地面に刺し、それを松葉杖のようにして膝から崩れた。

「はぁ……はぁ……上級魔法の反動ですか」

 この前も同じように打ち込んだ。しかし今度はあれよりも魔力を注ぎ込んだ。結果………反動があり。疲れを感じる。

「ネフィア。一気に魔力を注いだ結果の一瞬の弱点だ。覚えておけ………後はそうだな、魔術士はこれが扱えるが非常に危ない存在な事を覚える事。都市で放てば………多くが死ぬ。魔術士は一人で都市を壊せる者を言うが、ある意味厄介者なんだよ。いつか都市に護る術が生まれるまでな」

「と、トキヤ!? 何処に!!」

「どこだろうな? 危なかった」

 周りから声がするが特定できない。風魔法の1分野。音に関する魔法だろう。見えない事に焦りつつ私は立ち上がり。剣を構えた。

「祖は嵐を統べる者」

「お、音奪い!!」

 聞き覚えのある詠唱に慌てて音を消そうとした。しかし、嘲笑が聞こえ背筋が凍る。

「ネフィア。音を奪う事で詠唱を止める事はできない。口パクでいいんだよ。ただ、何を喋っているかをしっかりと覚えていればな」

「そ、それじゃ!?」

「それに、俺はそれがわかっているし。その音奪い………教えたの俺だろ?」

「………くぅ」

「俺もお前ほどではないが使えるんだ。だからこそ」

 上空で声がした。私は驚いて顔を上げる。

「操られよ風よ!! 我が使命のために!! 絶空!!」

 空気の魔方陣の上に乗った彼の中心から白い壁が出来、それにぶち当たり真っ暗な世界に入れられる。私はこの魔法に縁があり。何度も見てきた。だが………息を止めて待つ合間に冷や汗が出てしまう。真空の中で真っ暗な世界に立つ。暗殺しやすい空間。手を考えないと…………光が欲しい。いや。今ならある。

「フェニックス!!」

 フラッとした疲れが癒えた瞬間に上に向けてフェニックスを放つ。一定に高さで形を変えて丸くなり。混ざり白い球へと変化した。それは光を放ち周りがまるで昼前のような明るさとなる。そして剣を抜いて上空や四周を見回した。

「………!?」

 トキヤは居なかった。風魔法の分野で姿を消す魔法があるがあれなのだろう。しかし、それよりも驚いたのはツヴァイハインダーが草原に突き刺さっていただけだった。驚いた一瞬、頭に電撃が走りぐるっと背後を見る。そして、手に聖剣を出し、右手の剣と同時に目の前を突き入れた。

 ザシュ!!

 手に何か生き物を差し込んだ感覚がした。しかし、目の前は誰も見えない。だが、手応えはあった。

「………んぐ!?」

 そして、手応えと同時に唇に少し固く柔らかい感触。いつもいつも何度でも触れたことのある感触があった。少しだけ………鉄の味がする。

「ん………!?」

 それがスッと離れ。剣も同じように引っ張られた。剣先が見えない。しかし、血が滴るのが見える。そこから、ゆっくりと色がつき。口から赤い液体を少し滴ながら。胸に二本、心臓と腹に剣を突き刺されたトキヤが笑みを浮かべて立っていた。手には何も獲物も持っていない。魔法も切れ、フェニックスは私に戻ってきたために月明かりの草原に風景が戻る。

「ふぅ………お前の勝ち……ごふぅ……夢だが死ぬ感覚は本物だな」

「と、トキヤ?」

「驚いた顔をするな。胸を張れ魔王。勇者を倒せたんだ………はぁ………ん……ぐ。もっと………褒めてやりたいが………ごほ………無理そうだ………」

「ま、まって!!」

「おい、だから驚いた顔をするな…………すまんが先に目を醒ましておく………話はそれからだ……」

 トキヤが倒れ、眠るように目を閉じた後。光となって霧散し悪夢ナイトメアから目覚めた。

 残された私は唇に触れてあの感覚を思い出す。月をみながら顔を押さえた。きっと赤くなっているだろう………予想外な。そう………予想外な攻撃だった。

「あぅ………」

 膝をついて、一瞬だったのだが忘れられないほど深く結び付いた唇に剣を離すほど体が許してしまった。それが冷静になって思い出すほどに恥ずかしくなる。

「勝ったけど………」

 決闘には勝った。しかし、私は勝負に負けたような気分になる。夢だから、遊びみたいなもんかもしれない。

「起きよう……それからだ……」

 私は剣を呼び戻し、首を切って無理矢理起きるのだった。







「ん………ん」

 私は起きる。首の痛みがするようなしないような感覚の中で頭を振り周りを見た。先に起きていたトキヤが窓際のテーブル席に座り、夜の景色を見ている。

「お前も起きたのか?」 

「自害してむりやり」

「そうか。おめでとう。お前は勇者を倒せたぞ」

「トキヤ」

 私はベットから降りてテーブルの対面に座る。聞きたい。真意を。

「手加減した」

「してない」

「なら!! 最後のあれはなに!!」

「………なんだろうな?」

「とぼけないで………」

「ふぅ。キスした」

「行為じゃない。何故、そんなことを………あの一瞬。剣を囮にせずに背後から襲えば………」

「剣を囮にして意表を突けた。それに……もっと懐へ入れば隠したナイフで首に差し込む筈だったんだぞ? まぁ………先に剣を突き入れられて無理だったがな」

「…………じゃぁあのキスは」

「さぁ?」

「………嘘ついてる」

 トキヤは隠している。私は彼を睨むと降参と言った表情で口を開いた。

「怒るなよ」

「場合による」

 肩をすくめながら彼は話を始める。

「奥さんを斬る趣味はなんだ。だから……言っただろ?  『奪う』と。お前はそれを文句を言わずに始めてくれた。それだけだ」

「…………………」

「不満?」

 私は笑顔を彼に向ける。決死の覚悟で唇を奪うだけなんて。本当に………予想外で。でも、やっぱり予想通りだった。

「好き」

「唐突にどうした?」

「試合には勝って勝負には負けた気分だけど。でも、トキヤは義に厚く誰よりも愛妻家で格好いい私だけの勇者さま。ありがとう」

「自信ついたか?」

 私は唇を触る。

「ええ、勇者に祝福されたのです。『このまま行け』と私の中の余は言うのです」

「安心した。自信持って行ってこいネフィア。この世界の魔王は………お前だ」

 私は頷き、彼の目線を受け止める。魔王と言う言葉も悪くないと思う。そして、次の日に私だけで帝国に向かうのだった。


§懐かしき帝国首都



 私は無事に帝国到着した。首都に入る前に10人の人族の隊員達が壁の外で野宿をして私を待っていてくれている情報があった。場所は教えて貰っており地図で確認しながらは林を探す。

 林の中を馬に乗って地図で示された場所へ行くとテントを張って生活していた。隊員たちに声をかける。馬に降りて彼等に先ず初めに頭を下げた。

「遅くなってすまない。少し、遊びすぎたようだ」

「いえいえ………まぁ明日までは待てませんでしたけどね」

 ギリギリだった。

「今から敵地だ。『全員生き残るかわからない』と、トキヤが言っていたな。私も自由にさせてもらう」

「はい。覚悟しております」

 いい顔で頷き返してくれる。頼もしい。皆が皆で語り出す。

「そうだな。全員帰ればいいけどな。死ぬつもりの方が辛くないらしいしな」

「ドラゴンぐらいでないと死なないがな」

「トキヤさまみたいな……黒騎士に目をつけられたら終わる」

「おっそろしいしなぁ黒騎士は」

 ワイワイと敵地前でも顔は明るく談笑していた。期待できそうだ本当に。

「姫様、ご無事をお祈りしておきます」

「うむ………余の事は忘れろ。職務に忠実になり達成してほしい。そうだな………英魔族の義務を果たせ。余は見ているぞ」

「「「「は!!」」」」

 皆が騎士の礼を行い。彼等は背筋を正した。

「一つ、私は『自由にさせてもらう』と言ったな。もしも………黒騎士でも捕まれば私は暴れて助けに行ってやるから探して連絡してほしい。騒ぎを起こすよ」

「ひ、姫様!? 見つかったら、トキヤ殿は『死ね』といってましたが!?」

「ここに奴はおらん。だからな。死ぬんじゃないぞ………先に都市へ入っておく。別行動だ」

 私は馬に乗る。皆が私を見上げるのを笑顔で返す。口調をちょっと和らげる。

「ふふ。私の気まぐれですし、初めて出来た訓練仲間です。心痛むんですよ………色々とね」

「わかりました。テントを片付けて任務を行います。陽の加護があらんことを」 

「はい。一際大きい教会に顔を出すので何かあればそこへ。加護があらんことを」

 私は馬を走らせた。都市に向けて。




 残された隊員たちはネフィアの優しさに心を打たれていた。たった10人。俺たちを助けに来てくれる器の大きさに感動していた。

「なぁ、どうする?」

「もしも、捕まったら潔く自害しよう………姫様の手を煩わせる訳にはいかない」

「だな。姫様は泣いてくださるだろう。覚えてくださる」

「行こう。俺たちはやらなくちゃいけない」

「ああ、そうだ!! 勇者に俺たちの姫様を殺させない」

 10人の隊員が固く結託し決意に溢れた表情でテントの片付けを始めるのだった。

 


 

 私は久しぶりでの検問に一人でドキドキしながら検問の順番を待っていた。連合国との戦争中のため厳しいらしい。
 
「次!!」

「はい」 

「顔を見せろ」 

 私はフードを外す。目の前の騎士から吐息が聞こえた。最近気が付いたのだが私の目や姿は婬魔の能力が少し暴発しているようで姿が人によって異なる場合があるらしい。全力で解放した場合は鏡の私を見れるものは精神力が強い方と言う。まぁ今は漏れてる程度なので錯覚程度で終わるらしいが。
 
「……どうされました?」 

 冒険者のプレートを見せながら優しく声をかける。

「あっ……いえ!?………えっと。おお、最高ランク。どうぞご自由にお通りください」

「ありがとうございます」

 プレートのランクを見て驚いていた。顔パスに近い。まぁ~最高ランクだけど2つ名はなく。「一般冒険者で強い」てだけの評価。これがちょうどいいのだ。トキヤは「有名過ぎるので困っている」と言っていた。「暗殺得意だから目立つの嫌なのだ」と言う。「ならばドラゴン倒すな」と言いたいが。まぁうん。仕方ない。

「なぁ、あれって姫様じゃないか?」

「確かにあれだけ綺麗なら………」

「何処か剣を振る姫様で有名なのは………インペリウム家か?」

「……わからん」

 背後で騎士達がこそこそ私の噂をする。フードを被り直して宿屋を探すまえに馬は馬舎に預け路地裏に身を隠した。

「宿屋は……そうだ、あそこにしよう」

 路地裏から隠れながら目的地までゆっくり歩を進めた。私は帝国に来たついでに盗みに入ろうと思う。いや、借りよう。昔に住んでいたトキヤの家を。







 冒険者ギルドの裏、黒騎士経営の酒場に私は訪れた。トキヤの家をトキヤ直伝鍵開けで開けて荷物を投げた。探索は後日の予定だ。

「ふふふ……顔を拝みにきちゃった」

 私は愚行と言える行為として黒騎士団長に会いに来たのだ。なぜ会いに来たのかと言うと私には隠れると言う行為が異常に不得手なのである。まるで暗闇に光があるように目立ってしまうためだ。ローブとフードが外せないほどに。

 なので、ならばと直接来たことを伝えて協力を依頼した方がいい。そう私は判断してここへ来たのだ。

「ん?」

「こんにちは黒騎士のマスター。奥の部屋に用があるの入れてくれませんか?」

「………誰かは知らないが捕まる前に消えな」

 私はマスターに声をかけたが「どっか行け」と言われる。暗号とかそういうのはわからない。何とかして入りたい。音伝えと言う魔法で直接呼べばいいかもしれないが………果たして届くかもわからない。

「うーむ。誰か答えましょう。そう私は……」

「ん?」

 私はフードを外す。そして堂々とマスターにだけ名乗った。もちろん声は彼にしか聞こえない。

「大英魔国女王でトキヤの伴侶。ネフィア・ネロリリスです。こちらでは魔王でいいでしょうか?」

「………」

 マスターが悩む素振りを見せる。そりゃそうだ。目の前に王だと言うのが現れたらそんな顔をする。

「信じれないなら黒騎士団長に聞いてみるといいです。仮面の彼は驚きますよ」

「…………わかった聞いてやろう。お前は少し……何かあるからな。トキヤの近くにいた女だろう事は知っている」

 マスターが悩んだ結果、店の奥へと向かう。私を見抜いたようだ。流石、黒騎士団長の謁見を決めているから鋭い。フードを被り直し数分後にマスターが奥から現れ、カウンターの中へと入れていただける。

「黒騎士団長が待っている。粗相がないように。死にたくなければな」

「旦那の元上司に挨拶来ただけですよ」

「ふん…………女丈夫か。トキヤは元気か?」

「元気、昔より優しいです。格好いいです」

「ふ、たまには帰ってこいと言ってくれ」

「裏切り者ですよ?」

「裏切り者だろうが………客としてなら迎えるさ」

「ええ、伝えておきますね。素晴らしいお店です」

 カウンターに入り長い廊下を歩く。薄暗い中を歩くと一人、黒騎士の守衛が待っておりお辞儀して部屋に案内される。一つ二つ部屋に対して話しかけるとあの声が返ってきた。

「通せ」

「はい」

 黒騎士団長の声だ。私は彼の執務室に入る。すると仮面の男が執務机で肘をおき。私を見る瞬間に大きなため息を吐いた。

「帝国の騎士衛兵はいったい何を見て都市に入れているんだ?」

 頭を抱えながら仲間の騎士に苦言を呈する。「苦労人だなぁ~」とそれだけで同情した。

「冒険者だから入れるんですよ。トキヤが言ってました。便利だとね。拐われていた時からですね。お久しぶりです」

「はぁ、何のようだ魔王。何故ここにいる? 何が目的だ」

「まぁそれは追々話します。お茶は出ないのですか?」

 私は席に座り寛ぐ。黒騎士団長がまたため息を吐いた。

「あのとき殺しておけば………私の勘が当たってほしくはないときに当たる。結局返り咲いたか魔王」

「私も驚きです。気付けば女王陛下なんです。遠くへ来たものですね本当に………陛下に挨拶しなくちゃ」

「お茶は用意させる。で、何のようだ?」

「数ヵ月、私を見逃してください。それと、隠してください」

「敵を庇えと?」

「敵の敵は味方です。そうですね………全部お話する代わりにでどうでしょうか?」

「では、嘘をつかないようにベルを置かせて貰うぞ? あと……情報を聞いてから判断してやろう」

「ダメですよ。契約しなくちゃ………私って魔導士でトキヤを倒せるんですよ? 自爆したら~さぁ~たいへん」

「………鳴らないか。都市で暴れない事を約束しろ」

「暴れませんよ」

 チン!!

「暴れる気か………何をする気だ!!」

「はぁ……ベル嫌い。勇者を殺すんです」

「鳴らないか………勇者を殺すとは?」

「召喚されていないのですか? 4人程、強い騎士がいると思うんですけど………」

「詳しく聞こう」

 私は目的を話した。女神がいて、人間の女神が召喚した勇者の事などをこと細かく彼に説明する。偽トキヤの件があり。彼は怪しみながら私の話を聞く。

「鳴らないが……これは思い込みでも鳴らない場合がある。盲信者の妄言だ。信じれんな」

「うーむ。では、これでどうでしょうか?」

 私は立ち上がり背中を向ける。そして具現化された翼を見せつけた。

「…………悪魔の翼だろう?」

「うーむ。ならこれは?」

 今度は剣を産み出す。エメリアを呼びつけて見せることも考えたが、愛がなければ見えないため諦める。

「ん……その剣は? 何処かで………」

「世界樹の剣です」

「世界樹だと!? そうか!! あの剣か………」

 黒騎士団長に私は近寄って手渡した。

「確かに強力なアーティファクトだ」

「グランドマザーと言う女性から勝ち取った剣です。彼女は死にました。私の手で」

「………彼女が家に帰っていないとはそういうことか。何故、殺した?」

「敵の敵は味方です。あれは敵でした」

 用意されて来た紅茶を啜りながら事細かにこれも説明する。占い師の狙いは簡単に世界征服だとも。黒騎士団長は眉を潜めすべてを聞いた。

「………それで全てか」

「ええ、全て」

「世界の一端をその姿で見ているのか………」

「知らない間にです。たった短い期間でです」

 彼はタバコを吹かしはじめ。執務室椅子に深く腰かけた。

「元々、グランドマザーは敵になる気配はしていた。だから、私が直接会いに行き色々と心を許していたよ。帝国に力を貸してくれる内は味方だった」

「それで、お話なんですが。トキヤの家と占い師の家をお借りしたい。勝手に探索させてもらいます」

「ダメだ。占い師の店は先に黒騎士に調べさせる」

「…………では。その後でよろしいですか?」

「もちろんだ」

 荷物を移動しないといけないみたいだ。

「そこは妥協します。なので隠してくださいますよね? 私を?」

「………難しい所だ。今ここで殺してもいい。犠牲を払っても」

「うーむ」

「悩ましいな……しかし。ドラゴンたちはどうした?」

「秘密です。知りません」

「………他に味方は?」

「いません」

 チン

「嘘か。わかった。その味方が何も騒ぎを起こさないなら許そう。もしや部隊じゃないだろうな?」

「お答えできませんが、ありがとうございます。言っておきますよ」

 私は立ち上がり頭を下げた。彼が私の兵数を聞き出そうとするが黙秘する。

「まったく。帝国内に伏兵はいるのは辛い所だ。連合国との戦争中であることも運がいいな魔王」

「はい。では失礼します。トキヤの家と占い師の家と教会を順繰りするのでよろしくお願いします。監視を置くならどうぞ」

 私は部屋を後にする。あと一ヶ所よりたいところがありそこへ向かう。

 もう一人挨拶しとかなければならない人がいるのだ。帝国に。





 夜中、幾夜過ぎたような見慣れた寝室で私は歌を聞いた。懐かしい声の優しい囀ずるような歌声にこの私、皇帝グラム・ドレットノートは幻聴を聞こえるほどに病に犯され老い先が短いことを悟る。

「ふむ。とうとう幻聴も聞こえだし、お迎えが来る頃か」

 コンコン

「なんだ?」

 ベットから這い上がる。今日はまだ調子がいいらしく動ける体で窓を叩く音へ近付いた。

「………おまえは」

「お爺様。ネフィアです。開けてください」

「幻聴かと思ったぞ」

「本物ですよ」

 窓を開けテラスの美少女に「中に入れ」と言う。頑張って這い上がって来たのだろう。ネフィアはドレスの埃を叩いて落とした。健康そうな体だ。

「お邪魔します」

「酒はいるか?」

「今日は頑張って持って来ました。準備は私がしますね」

 ネフィアは部屋に入り、手慣れた棚から、ワイングラスを二つ用意し、手提げの鞄からワインを取り出す。何処のワインかを知るためにネフィアは私に手渡してくれ、その瓶を見る。

「英魔国のワインです。そこそこ良いのを頼んだんですよ」

 ネフィアがテーブルに置かれた白ワインを注ぎ。私はグラスを手に匂いを嗅ぐ。

「長年の熟成された芳醇な匂いだ。魔国もそこそこいい物を作るな」

「でしょう、お爺様」

「では、再会に乾杯しよう。噂は聞いているぞ魔王」

「話が早いですね。お爺様の言う通り。王に返り咲いてしまいました」

「はははは!! ワシの目に狂いはない。魔王よ。おめでとう」

「………あ、ありがとうございます」

 ネフィアは「喜んでいいのか?」と悩んでいた。王に向いていない気が少しするのだろう。しかし私は知っている。私のやり方ではない方法での王だ。そんな王とグラスを触れさせ乾杯をして一口含む。死に際の夢のような時間だ。

「まぁ!?」

 彼女も驚く。俺も驚く。

「美味だ。白ワインらしからぬ深みがある。酒は止められているが久しぶりにいただくとやはり美味いな」

「止められているのですね」

「ああ、しかし今日は持ってきてもらった物だ。いただかないとな」

「そうですね。酒は万病の薬とも言いますし。少し待ってくださいね…………出来るかな?」

 ネフィアが祝詞を歌い。グラムが飲み干したワイングラスに注ぐ。すると白ワインの中に光が生まれキラキラと輝く。

「何をした?」

「神酒にしました。祈りを捧げ。『女神にお願いします』と言ったのです」

「ふむ。味は変わらぬがな」

「はい。ですが………少しは楽になればと」

 俺がネフィアの優しさに触れながら笑みを溢す。若造の女に慕われているのは悪くないと思いながら。

「さて、魔王ネフィア。帝国には何のようかな?」

「勇者を倒しに来ました」

「勇者?」

「4人ほど新しい勇者が生まれるそうです。そこで相談があります。玉座の間をお借りしてもいいですか?」

「何をする気だ?」

「そこで勇者を待つのです。帰ってくるでしょうから」

「クククク。お前は面白いことを考えるな。魔王を倒しの出向いたら留守だったとなるのか!! 誰も帝国に居るとは思うまいからな」

「です。まぁもうひとつ理由はあるのですが………」

 ネフィアは勇者の神具について解説する。そしてそんな物があることをやはり知っていたらしく。驚きもせず俺は淡々と話を聞いていた。ついでに世界樹も見つけたことも聞く。

「あの剣を抜いたのか?」

「抜きました」

「………そうか。ワシがあと少し若ければ合戦で対峙したのに。おしい。しかしそれもまた。天の決めたことだ」

「……………合戦じゃなく1騎討ちなら」

「いいや、合戦じゃないとな!! 万の兵の泥沼の戦いはいつだって心を踊らせる」

「そうですか……残念です」

 ネフィアは自分の能力の悪夢で全盛期の俺と戦える気がしていた。しかし、指揮能力に重きを置く俺とは決闘も違うだろう。少し話し込み。夜も更け、ネフィアが帰ろうと考えたとき。俺は止める。

「少し待て、魔王。お前の旗はあるか?」

「旗ですか?」

「ああ、旗だ。国旗でもいい」

「まだ………なにも考えておりません。いいえ、考えていないより思い付かなかったですね。旗なんて」

「そうか、ならば………女王陛下となったネフィア・ネロリリスにこれを渡そうじゃないか」

 俺は立ち上がり壁に飾られている旗に近付く。交差し飾られた旗は帝国の国旗と俺の象徴であるドラゴンが書かれた盾の紋章の旗だ。

 その交差されている旗をひとつ取り外し、丸めてネフィアの元へいく。それを俺は渡そうとする。

「これって……陛下の親衛隊旗」

「もう、誰もおらん。持っていけ。王家ならドラゴンが描かれた旗が一般的だ。やろう」

「………ありがたく使わせていただきます」

 ネフィアはそれを受けとった。俺は満足する。そして、俺の夢をこやつに委ねた。

「ありがとうございます。では………帰りますね」

「ああ。楽しかったぞネフィア」

「はい」

「帰りは中を通って帰れ」

「いえ、今日はお忍びです。ですから………窓から帰りますね」

 ネフィアが窓を開け、テラスに躍り出る。フラフラと。

「帰りは……楽です」

 真上に月が登り、月明かりの中でネフィアは白い翼を広げ、丸めた旗を広げ、風が旗を靡かせる。

 俺の目に幻想的な光景が広がり、少し目を細めた。眩しすぎると言わんばかりに目に焼き付ける。

「それでは。さようなら」

 テラスから彼女は白い翼で滑空しながら飛び降りた。それを見続ける。

「ふむ。自由の羽で飛び立つか………」

 若くない自分に本当に悔しい想いになるのだった。その若い翼に。過去の自分を重ねて思う。いつかその旗をこの大陸に広めて欲しいと。我が夢を思う。




 次の日、早朝から私は教会でお祈りを済ませ長椅子に腰掛ける。隣にエメリア、隣に隊員の班長らしき人物が腰掛けた。そう、敵地で会議だ。

「姫様………黒騎士団長に話をしたのですね」

「ええ、乗り込んで。そこで占い師の家を捜査するらしいから。その後に私が行きます。あと二人だけでトキヤの家から武具とか本を帝国に送り届けて欲しい」

「姫様、わかりました。勇者については?」

「それ、私から」

 エメリアが私の膝の上に頭を転がす。精神体のために重量はない。

「ああ、破廉恥女神様」

「ネフィア。教育なってない」

「すばらしい。教育結果ですね」

「ネフィア~ネフィア~」

 私の隣でエメリアはキィーキィー文句を言う。その女神を睨み付け「早く言え」と促した。あまりの圧力に教会に居た人がブルッと身震いをする。やらかしたか。

「あら、私としたことが」

「ネフィアあなた………板についてるわね。魔王」

「鏡で練習してますから、で?」

「女神ヴィナスお姉さまは寝ているわ。やっぱり力の使いすぎ」

「では、好きにできる」

「でっ、勇者は?」

「召喚されているわ。私があなたにとりつき。一緒に行動しましょう。勇者の反応があれば伝えます」

 人間にスッと入り込むエメリア。それに驚く彼。

「女神様がついてくれるんですか………姫様がよかったなぁ」

「頑張ってね」

「はい。姫様」

「…………ねぇ女神だよ~わたし~もっとうやまって~」

 そのあともエメリアは愚痴を言い続けた。それに対して隊員と私は女神に微笑みを返すのだった。







 占い師の家に来た。ちょうど黒騎士数人が店の中をごっそりと運び出していた。調査のため盗むのだろう。まぁもう故人だ。好き勝手にするだろう。

「一緒に調査入ってもいいですか?」

 一人の騎士に声をかける。作業をやめて、私を覗き込んだ。

「ああ、いいぞ。物は持っていくなよ。隠し扉もある」

「わかった」

 話は通してあるのか、すんなりと中に入れた。中では黒騎士たちが鎧を脱いで作業に勤しんでいる。チラチラ私を見るが気にせず隠し扉の場所を教えてもらった。絨毯で隠された地下室のようで中に入るとそこでも黒騎士はせっせと本とか物を盗んで行く。

「めぼしいのありました?」

「禁術ばかりですね。あとは………奥にアーティフアァクト群があります」

「ふーん。なんかわかった?」

「まだです。調査中なため」

「了解です」

 私は邪魔にならないように避けながら。奥のアーティフアァクトの棚を見る。すると一冊の本に目が行く。

「回避すべき事柄一覧表?」

 周りの視線をみながら、それを手に取る。中は調査表だった。人間が地上を制圧するために起こしてはならない事柄が書いてあり、亞人たちによる敗北もダメだと書かれていた。読んでいくと……世界を崩壊させる物や魔物等が調べられていた。たまたま取った本が恐ろしく有用そうだったのだ。

「………」

 私はその一冊を盗む。誰も見ておらず。複写もあり。「いいよね」と思いながらそれを手に地下から上がる。

「ああ、ダメですよ持っていっちゃ」

「複写があったのでもって帰ります」

 バレた。まぁ手にもっているから仕方がない。

「複写が? なら………いいですけど」

「確認してくればいいよ。無理矢理にでも持っていく」

「………わかりました。それだけですよ」

「ありがとうございます」

 私はその本を持ってトキヤの家へ帰る。今ごろは隊員が待っている頃だろう。







 トキヤの家は住宅街の路地裏にある。昔なつかしの家であり私が昔に女になりたての頃、生活していた場所でもある。もしも、色々あって。人間として生きていくならここを使っていただろう。

 私はトキヤの家。地下へ降りる。

「数が多いですね。流石はトキヤ様………なんでもお使いになられるのですね」

「素晴らしい一品ばっかりです」

 隊員達が武器が貯蔵されている地下室に感嘆の声をあげる。

「これな、全部私のプレゼントで用意した武器たちだよ。今、使っている武器はここから一本いただいたのだ。そう、全部私の。何人かで持ち運んで商業都市へ」

 地下の武器たちは錆びておらず。今なら一本一本が素晴らしい一品なのがわかった。私に対する愛の深さも再確認する。気を引こうと沢山用意したんだ。

「全部ですか? 良いのですか勝手に?」

「全部私のになるはずだった。持って帰っても問題ない。トキヤの物は私の物。それに………これを私が特別に頑張った者への褒美でもいいかなって」

「よし全部回収!!」

「よっしゃ!! 頑張ろ!!」

 隊員が頑張って持ち出し始める。私はそれを指示した後に2階3階へと上がり。3階のトキヤの部屋に入った。中は書斎とベット、机があり魔術書などが荒らされてあった。黒騎士団が捜索した時のままなのだろう。

 しかし、ひとつだけ。荒らされている中で私はひとつ。小さい絵を見つける。トキヤが書いたのか。所々破れているが私の肖像画が書かれており。名前が書いてあった。

 私は本当に肖像画から生まれたのではないかと思うほどに素晴らしい絵だった。絵を取り丸めて荷物にしまおうかと思う。

「ネフィア様。占い師の家はどうされますか?」

「黒騎士団が丁寧に調べています。行っても何もないでしょう」

「そうですか………」

「でも。1冊ちょろまかしてきました。面白い本でしたよ」

 私は本の中身を見たとき驚いた。もしも、全てが終わっても危険はいっぱいあることが書いてあった。そう、何が起きたら滅びるかと考えて書かれた本なのだ。いつか役にたつだろう。

「それよりもこの散乱している禁書も送ってください」

「かしこまりました」

 私たちは着実に準備を行っていく。勇者を倒した先も。勇者を倒す段取りも。悲しいのは私一人で5人を倒せと言う。

「トキヤがいれば………ぬぐぐぐ」

 しかし、やるしかないと気合いを入れ直した。

 何故なら私は旦那が自慢したい程の女王様なのだから。
















 




 














 

  








 
















































 


     












  
















 
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