メス堕ち魔王は拐った勇者を気に入る『長編読者向け』

書くこと大好きな水銀党員

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古き時代の竜

古き時代の邪竜

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§最南端の都市メイルシュトローム


 ここは帝国から最南端の帝国都市メイルシュトローム。学園の中央に大きな石碑が立ち。その中心から魔力を供給され……多くの魔石を産み出し続けている場所。風が強く、長い年月をかけてそれに適応した低い植物、木々が生える素晴らしい大地。

 何処よりも魔力に満ち、何処よりも魔力に順応し、何処よりも魔法使いが生まれる地だった。帝国の参加の都市であり、多くの人がそこで魔法を学ぶ。

「ナオト先生……まーたここで眺めてるんですか?」

「ん……」

 生徒の一人。アーヤ・ガラケと呼ぶ。短い髪を切り添えられた髪が風で靡いた。幼い女性のような丸っこい顔で男性学生に人気な子だ。

「ああ、今日は風が静かで驚いてたんだ」

「実験の影響ですかね?」

「さぁ~」

 俺は黒髪を掻きながら学園の展望台で都市を見る。多くの魔法使い見習いがここの学園に学びに来ており。帝国の魔法使いを越えようと躍起になっていた。

 落ちこぼれと言われているが。俺は別に落ちこぼれとは思っていない。

「本当に先生は………ここが好きですね」

「まぁ……俺の故郷だしな」

「先生は……ずっとここで暮らすんですか?」

「暮らす。この光景を見ていたい」

「展望台から見える町並みをですか?」

「ああ………ずっとな」

 俺は眺め続ける。眼下の町並みを。人の営みを。風の魔法で音を拾う。

「先生……石碑にいかないのですか?」

「いかないな。行っても何もできない」

 最近、学園の学者たちがこぞって石碑を調べている。この前に地震があり不規則な小さい揺れも観測されていた。石碑には掠れて「ここに眠る」だけしか読めない。そして地下に要るものはなんなのかを調べていた。文献にもなく、わざと残さなかったのかと思われた。タブーに顔を突っ込んでいる気がして俺は調査チームに入らなかった。

「先生や学生たちが一生懸命に穴ほってますね」

「何か出てきたか?」

「大きい大きい魔石がたくさん」

 今、学園の中央。石碑の周りは穴ぼこだらけだろう。封印されているものを呼び起こそうとしていて俺は胸騒ぎがするのだった。





 そこは中央がくり抜き、貫かれ空から後光がふり下ろさされており。石碑を照らす。学園の中央に位置しており。一部の有力な魔法使いのみ訪れる事が許された神聖な場所だ。

 一ヶ所穴が掘られ、土汚れや道具が散乱している。調査の後。今日はもう切り上げたのか休みなのか……誰も残ってはいなかった。

「今日は休みか。そうか………曜日の感覚がおかしいな」

「ふーん……ここね」

「アーヤか……どうしたんだいここへ来て」

 石碑からあの学生の声がした。彼女が石碑の裏から笑顔で歩いていく。

「………メイルシュトローム」

「ん?」

「過去、多くの者を殺した邪竜」

「……アーヤ?」

「…………」

 俺はアーヤと名前を呼んだが彼女は姿を変えた。黒い長い髪に黒い翼を持ち。喪服のようなドレス姿になる。

「お前はいったい!? アーヤじゃない!!」

「あら……見破られた?」

「何者だ!! 名を名乗れ!!」

 持ってきた杖を構える。そして、魔力を込めた。

「私は女神ヴィナス。あなた方、人間の神よ」

「め、女神だと!?」

「そう」

「……」

 恐ろしい程の魔力の大きさな気がついていたが……女神なら納得する。そう……信じてしまいそうになる程に規格外な人なのが肌に伝わった。

 ヒシヒシと間接が痛みつぶれそうになる。圧迫される雰囲気の中で石碑に彼女が触れた。

「これが目覚る時期が重なった。ふふ、ちょうどいいわ……魔王に蹂躙されるなら。これを使い全部壊すまで。そしてもう一度人を生み出して何度もやり直すだけ」

「……なにを!!」

「あなた達。学園で生まれた理由を果す日が来たの。でも………今の所は無理そうね。あなたたちは成長しきれなかった。彼を止めるほど強くならなかった」

 何を言っているかわからない。俺は火球を産み出す。

「答えろ……何が眠っている」

「この依り代はいらないわ。じゃぁね」

 スッと姿が変わりアーヤの姿になったと思ったらフラッと地面に倒れる。

「アーヤ!?」

 慌てて杖を投げ、アーヤを抱き締めて揺さぶる。大切な学生であるアーヤは目を開ける。

「あうぅ………先生?」

「ああ。大丈夫か?」

「先生………先生!!」

ガシッ!!

「ど、どうした!?」

 アーヤは目を見開き。俺の肩を掴んだ。

「逃げて!! 目覚めが来る!! 私たちが何もしなかった。私たちはもっと強くならなければ行けなかった!! 目覚めが来る!!」

「どういうことだ!?」

「女神が私たちを見捨てたんです!! 魔王に蹂躙されるなら。魔王もろとも被害を出させる!! 嫌がらせのために!! 魔王についたエルダードラゴンを仕留めるために!!」

「………話は後で聞こう」

「ダメ!! 逃げないと!!」

 ドゴオオオオオオオオオオオン

 ガガガガガガガ!!

 地面が大きく揺れる。何かが目覚めようとしているのがわかった。しかし、それが何かわかっていない。

「先生!! 早くここから離れましょう」

 アーヤは立ち上がり。俺の手を引っ張って学園の外へ連れ出した。

 学園の外へ出た瞬間。雲に覆われ嵐が都市を覆っている。その瞬間背筋が冷えた。

 驚きの連続から。驚愕の連続に変わった。大きい咆哮とともに。学園の鐘が鳴り響く。耳に恐ろしいほどに声が響いた。風に紛れた憤怒の声。


「何処だ……何処にいる!! あの裏切り者たちは!! 何処へ!! 何処へ!! 俺は帰ってきた!! 俺は帰ってきたぞ!!」


 咆哮とともに憤怒が都市を震わせた。



 §風竜王メイルシュトローム①復活する災厄


 新興聖樹都市ヘルカイト。数年で大きく成長した都市は中央に大きな樹ユグドラシルが生え。竜人が住み、昆虫系英魔族などや異種族がごった返し。ゾンビや不死者までもが住む都市となった。そんな都市の治安や運営を任されているのは名前の由来となった旧き竜の生き残り。暴竜ヘルカイトである。

 そのヘルカイトは執務室でソファーに腰掛けながら。これもまた旧き竜の元男。ヘルカイトの配偶者。腐竜デラスティが淹れるコーヒーを飲んでいた。ヘルカイトは大きな体に赤い燃えるような短髪のおっさん。ナスティは麗人であり。仲のいい二人は都市でも有名なおしどり夫婦だった。

「うむ。美味い」

「コーヒーが好きなんてね」

「今まで……なぜ、こんなにも苦味と甘味がある飲み物を飲んでこなかったのが悔やまれる」

「そこまで?」

「ああ、お前が淹れるコーヒーは美味しいだけかもしれないがな」

「……もう。毒いれますよ」

「……なんでだよ」

 ナスティがモジモジとし、嬉しさが障気として漏れてしまう。ヘルカイトは全く効かないが。ヘルカイトが換気のため立ち上がろうとした瞬間。

 ピシッ

 テーブルに置かれたマグカップにヒビが入った。そして、ヘルカイトは窓を開け唸る。胸騒ぎと直感が囁く。

「……ナスティ」

「なーに? マグカップが壊れちゃったね」

「違う、感じないか?」

「感じる? 何を? またまた~愛してますよ~」

「……風竜の気配」

「!?………風竜。テンペスト・メイルシュトロームが復活した?」

 不真面目な空気が真面目な空気へと変わる。

「復活の刻……早い。もっと数百年かかるはず」

「………ヘル……どうする?」

 ヘルカイトは状況を知りたいと思った。気のせいか、復活したかを。だから彼は指示を飛ばす。

「デラスティを呼べ」

 弟分として大切に育てて来た。いや、厳しく躾てきたワイバーンのデラスティをヘルカイトは思い出し、「あいつなら」と期待する。

「緊急だからな。『すぐに来い』と言ってくれ。旧き旧友どももな」

「はい、そうね……杞憂ならいいけど」

「わからんがな………寝付きが悪くなりそうだ」

 ヘルカイトは冷や汗を垂らす。己が唯一勝てなかった竜の一人ゆえに。エルダードラゴン最強の者に。





「こんにちはヘル兄貴。なに?」

「おう、デラスティ。ちょっと頼みがある」

 執務室にデラスティと言われた少年が入ってくる。大きいテーブルの前に座りソファーの感触を楽しむ。まだ幼さの残る子だ。

「遊びじゃないぞ」

「わかってる~いつも子供じぁないのになんでか~ソファーふかふかして気持ちよくて遊んじゃう」

「まぁ~羽毛だからな」

「デラスティちゃん。はい、これ……ミルクコーヒーよ。砂糖いっぱい入れたから」

「……ブラック飲める」

「背伸びして可愛い」

「ナスティ姉さん……いつも子供扱いだよね」

「あなたが小さい時から知ってるからね」

 テーブルにカップに入ったミルクコーヒーが置かれ、それをデラスティは啜る。

「飲みながら聞け。この地図のここ」

 ユグドラシル商会と言う大商団からお借りしている世界地図の縮図を広げヘルカイトは指を差した。

「都市メイルシュトロームだ。最南端の都市で平原が広がり………異常に風が強い地域だ。風が都市を中心に渦を巻いている」

「凄いね……それ。竜姉から聞いたけど。そこに居るんでしょ? 竜」

「ああ、いる。話が早い」

 竜姉とは火竜ボルケーノ。恐ろしいほどに気が荒かった女だった。今ではただの優しい姉さんになってしまっている。デラスティを拾い育てた人物であり、デラスティの想い人でもある。

「最近、そいつの気配がした。見てきてほしい。お前の速度なら一瞬だろ」

「うん、わかった。ここだね……よし。探すよ」

「すまんな。この地図は秘匿されているから渡せず……」

「うん。大丈夫……冒険者だからさ」

「頼んだぞ」

「行ってらっしゃいデラスティ。私からボルケーノに言っておくわ」

「ありがとうナスティ姉さん!!」

 幼い子がミルクコーヒーをイッキ飲みし、執務室を飛び出る。甲高い音と爆音が都市に響き、デラスティが飛びたつのが誰の耳にもわかるのだった。





 大陸の上空を僕は飛んでいた。目を閉じて魔法視と言うちょっとオリジナルの目で青い空を僕は見ていた。瞼を透かして外が見える便利な魔法だが。自分には必要である。理由は………目が痛い。

 空は非常に皆は寒いと言う。確かに寒いと思う。しかし……僕は何故か熱かった。最初は飛んでいけば寒いと思う。しかし、速度が増えたら何故か鱗が熱いし周りは「五月蝿い」と言われる始末「最初は竜姉さんの背中を越したかったのに。気付いたら……ずっと誰よりも速く飛んでいけるようになっちゃった」と思い出す。

 そんな昔を懐かしみながら雲を裂き、音を置いてけぼりにしながら目的地まで飛んでいく。

「………もし、目覚めるなら僕が久しぶりに初見なエルダードラゴンだ。気を付けよう」

 現存生きている古竜たちは本当に数が少ない。四属性の頂点と亜種、変異種の頂点ばかり。「強いからこそ生き残った」とも言える。

 教えて貰ったことを思い出す。四属性の頂点。竜姉こと火竜ボルケーノ。海で引きこもっているが新種族で死んだ水竜リヴァイアサン。ユグドラシルの護り竜で今はドレイクだったり竜だったり尻尾モフモフで人気者、土竜ワン・グランドさん。そして……風竜メイルシュトローム・テンペスト。

 四属性以外なら竜の上位種ヘルカイトと変異種ドラゴンゾンビのナスティ。滅んだ亜種鋼竜や何処かにいる銀竜金竜のウロとボロスがいる。

「他の竜は自由に生きてるけど……唯一封印されている竜……風竜」

 人間の世界では失伝しているだろうと思われる。いや、伝わっている時期が竜時代。人時代は後からである。そもそも伝わっていないのだろう。

「僕の知り合いから……聞いた話だと……」

 最強のエルダードラゴンだ。竜たちが滅んだ理由の一因にもなってしまった竜らしい。「竜の滅び」を認めないために滅びを招いてしまった竜だ。

 他のエルダードラゴンが滅びを受け入れる中で唯一……受け入れなかったのだ。それで嫌われ封印されたらしい。

「まぁ……やってることは完全に悪だけど」

 竜姉は貪欲な竜と言っていた。平民は貴族に憧れ、貴族は貴族を統べる頂点の王に憧れ。王はみんなが慕う神に憧れる。そして、神は他の人気の神に憧れる。

 その白き風竜はそんな人だったらしい。力で全てを征することを目指した竜。そして神を喰らおうとした竜だ。

「………王かぁ……」

 僕は飛びながら。何故か金色の髪と白い翼を持つ女性を思い浮かべた。優しいあの人も今では新しい種族の長。英魔族の王だ。あんな美味しいクッキーを焼いていたのに………ちょっと複雑である。遠くに行ってしまった気さえする。逆に彼女を思い出すだけで背筋が冷える。頼れと勘が発する。

(………にしても……遠い)

 僕は速度を増し………不安を拭うように風を斬る。






 旅を始めて2日……目的の場所付近まで近付き。一つの気配を感じ取った。その向きに翼を曲げて飛行していると大きな都市を見つける。

 王宮のような建物が中央にあり、城と言うよりもなにか違った都市ヘルカイトの小学校のような雰囲気のする都市だった。しかし………穏やかな空気に怒気が孕み。僕をこの場所に気付かさせた。

(ここかぁ………)

 状況は晴天。色々な物で迎撃されない距離を飛び。衛兵たちに指を差される。あれは何だとか、変なワイバーンがいるとかの声を拾いながら様子を伺う。

(問題が起きそう)

 僕は一端、地面に降りて鉄箱を下ろし、竜人化した。裸なので服を着替えてそのまま都市に向かう。行商に混じり、都市の衛兵に止められて冒険者カードを見せることで中に入れさせてもらった。

 中は至って普通の都市で……都市ヘルカイトの方が道は広いし綺麗だし、栄えているのが分かる。出店料理の多さも違う。種族も人間しかいない。

 あまり……料理の匂いも美味しそうじゃなかった。

僕は「……そっか。僕、都市ヘルカイトで贅沢になってる」とそう思いながら憤怒の気があふれでる場所まで足を運ぶ。誰も彼も全く気にせず、怒気に気付かずに生活をしている。平和が感覚を鈍らせているのだろう。あの学校は学園と言われるらしく、あの中から感じた。

 歩きながら、色んな人の話し声を拾い。大きな大きな建物が魔法の学園だと言うことがわかった。

 そして……その中から。怒りが溢れている。僕は万人に解放されている学園に入り細い廊下を進んでいく。

「ん!?」

 その途中で僕は大きな圧力を感じ歩みをやめた。地面が揺れたのだ。

「な、なに!?」

「何処だ……何処にいる!! あの裏切り者たちは!! 何処へ!! 何処へ!! 俺は帰ってきた!! 俺は帰ってきたぞ!!」

 咆哮とともに憤怒が都市を震わせた。恐ろしいほどに大声量が聞こえ、目の前から女性と男性が現れる。

「逃げて!!」

「子供!? なんでここに!?」

「……えっと」

「早く!!」

 手を捕まれ引っ張られる。そのまま揺れる学園から外へ出ると皆が頭を抱え震えていた。晴天が曇り、風が強くなる。

「皆!! 逃げ………」

 ガアアアアアアアアアアアアア!!

 竜の咆哮が都市に響く。学園の建物が大きく揺れ、石が外れて崩れていく。学園は高い建物で何本の搭は崩れていき、人も落ちていく。どうなるかの結果は僕はわかる。助からないことを。

「キャアアアアア!!」

 何人もの人間たちの悲鳴が風に混じる。そして、壊れゆく学園の中から白い鱗と翼を持つ巨体が空に上がって制止する。

ゴロゴロ!! ピシャ!!

 稲妻が都市に落ち家を砕く。火が上がり燃えるのも見えた。それをその白い竜は冷たい目線で見つめていた。

「俺が封印されている間に……ここまで鼠が蔓延るか!!」

 大きな大きな声をあげて稲妻を落としていく。阿鼻叫喚。至る所で逃げ惑う人々。しかし………僕は見た。壁を囲うように竜巻が生まれ。舞いあげられる人々を。

「くぅ!! 竜か!! 魔法使いを集めて迎撃を!!」

「先生!! だめむり!! 逃げよう!!」

「他の生徒も………」

「………」

 僕は強い風の中で災厄を見つめる。竜がニヤリと笑みを向けていた。

「ちょうどいい………長く封印されていた。小手調べと行こう。変な奴も見ているだろ」

 「気付かれた? 存在を? ならば」と僕は魔力を流し竜化し……空を飛ぶ。

「なっ!? あの子はワイバーンだと!?」

「な、なに!?」

 背後で何人かの驚く声を無視し、白い竜の元へ飛んでいく。そして、上空で対峙した。ここで小手調べをされては困る。

「僕の名前は飛竜デラスティ。風竜メイルシュトロームさん。皆が困ってますやめてあげてください!!」

「ふん……お前……知らんな。俺の名前。間違っている。竜王メイルシュトローム様だ覚えておけ!!」

 グワアアアアアアアアアアアアア!!

 大きい咆哮をあげる。膨大な魔力の高まりを感じて僕は……体当たりを行おうとした。

「ふん!! 雑魚が!!」

 ぶわっ!!

 体当たりを行おうとしたが横凪ぎの風によって吹き飛ばされてしまう。何度も行うが風に阻まれてしまった。風というより空気弾のようだ。

「カトンボめ……うるさいな………今は機嫌が悪い邪魔をするな」

 近付けなければ攻撃できない。僕を大いに悩ませた。その隙が僕に襲いかかる。幾重にも魔方陣が生み出された。都市を覆うほど多く。

「死ね。頭が高い」

 魔方陣から何本もの風の玉が降り注いだ。触れた瞬間そこが爆発して鋭い斬撃が生み出される。下の方で人間が真っ二つになり、建物さえも斬り払われる。なんとか飛んで避けるが僕はそれが手加減しているのだと気が付いた。

 風竜の魔力が高まる。

 グオオオオオオオ!!

 竜の咆哮とともに白い竜の周りに風に包まれる。そして風壁のようなものが広がっていく。その技に勇者トキヤの魔法と同じ見覚えがあって、慌てて僕は都市外へ飛んだ。地面が抉られ舞い上がり。粉々にし、塵となる。壁が迫ってくる。それは渦を巻きながら広がり。都市を覆った。

 僕は追いかけられた壁を逃げ切り、範囲の外から様子を伺う。城壁が砕け岩になり石になり砂になる。多くのものが削られ上空へと立ちのぼり大きな竜巻となった。

 結果………嵐が去ったあと。都市はなくなり渦の傷痕だけがその場に残る。全て……全て砂にまで刻まれた。

「!?」

 誰もいない。白い竜だけしか……いない。

「ハハハハハハ!! ワシの上で住んでいた報いだ!!」

 僕は………その圧倒的な力に驚かされると同時に。白い竜に対して、力強く体当たりをかました。相手は油断していたのか強く当たる。しかし無傷だった。

「メイルシュトローム!! 何故!! なぜそんな!! 虐殺を!!!」

 沸々と我慢していた怒りが溢れる。「人間だけど!! 僕は知っている。営みがあったはずだ。子供もいた!! 何もかも!! 骨さえも砂にし!! 消し去った!!」と心底、苛立ちと怒りと憎しみと復讐心が湧いた。

「お前……まだ生きていたか。ふん」

 白い竜がぶれる。その瞬間………頭に激痛が走る。目の前の白い竜は消え失せて頭から尻尾打ちを受けてしまったらしい。そう、姿を消しての襲撃だ。

「ぐへ!?」

 ドシャ………

 強い力で地面に叩きつけられ、身が砕けそうな痛みを発する。一瞬だった………見えなかった。

「げほげほ……」

「ほう……耐えるか。良かろう。選べ、俺のために忠誠を誓うか今ここで死ぬか」

「………」

「なんだ。死ぬか………では。死ね」

 魔方陣が展開される。僕は痛むからだでその場を這い上がる。逃げなくてはいけない。逃げないと始まらない。だから大きく翼を広げ、魔力を放出する。チャンスは一回。

「僕は逃げなくちゃ。伝えなくちゃ!! ソニックブレス!!」

 魔方陣からの風玉が放たれ。それに合わせて僕は口から、魔法の力で増幅した声量の空気砲で打ち消す。距離はないが色んな竜のブレスを防御する技として編み出した。ワイバーンでドラゴンブレスの真似事だ。

「はぁはぁ!!」

 防御し、背後にばら蒔いた魔力で推進力を得てすぐさまに飛び立つ。魔力噴射で翼をはためかさせずに一気に加速し……風竜から一瞬で離れる。音の壁を抜けて「危険を知らせる使命」を胸に僕は全力で都市ヘルカイトに向かうのだった。


§風竜王メイルシュトローム②復活をしる旧き竜




 都市ヘルカイトの中心の大きい大きいユグドラシルの樹の下で。緑髪の長い髪をもつ美少女ユグドラシル・オークとワン・グランドと言うエルダードラゴンが居眠りしていた。灰色のモフモフであるドラゴンらしくない彼は彼女に寝床を用意する。

 ユグドラシルはまだ生まれたばかりだが体はすでに成人した少女に見えており、知識も大人顔負けなため同年代の友達はいない。そんな彼女に一緒に居てくれる。エルダードラゴンにいつもベッタリだった。友達以上に信頼を置いている木が目を醒ます。

「ん………」

「…………ふぁあああ。ユグドラシル殿どうした?」

「ワンちゃん………なんか飛んでくる。これデラスティくんだけど………このままじゃ……」

 横になって寝惚けた眼を開けて指を差す。

「ワンちゃんそこでくるまって」

「わかったが……なにを?」

「受け止めてね」

「ん?」 

 ユグドラシルは都市を護るように障壁を出す。その何重にも重なった緑の障壁は火山噴火から自分と都市を護るために生み出したものだった。それに向けて勢いよく何かが突っ込む。

 ドゴオオオオオオオオオン!!

 一匹の弾丸が突っ込んだ。緑の魔力の軌跡に甲高い斬り割き音が都市に響く。

 パキパキパキパッリーン!!

 そして何重にも重なった障壁が全て壊れてしまう。しかし、弾丸は勢いが弱まって樹の枝に突っ込んでぶつかり、そのまま葉っぱと枝とともにワン・グランドの上にワイバーンが落ちてきた。所々鱗が剥げ、ボロボロのワイバーンが落ちてきたのだ。

「デラスティ!?」

「デラスティくん!?」

 ワンとユグドラシルは彼の予想以上の重症に驚きの声をあげる。ゴロッと転がったらデラスティが立ち上がった。

「ああ……イッテ。気絶してたのかな? いつの間にかついてる」

「デラスティ。いったい何が!!」

「……ワンさん!? ユグドラシルさん!?……こんにちは」

「こんにちは~デラスティくん」

「いや!? 挨拶はいいから治療と状況を!!」

「そうだった!! ごめん!! 神水どうぞ~」

「ああ、痛みになれてたから重症だね。もう痛覚さえ壊れてる重症だ。これ、いただきます」

 ユグドラシルの木から蔓に引っ掛かったホウズキが降りてくる。それをデラスティは噛みつき飲み込む。魔力が内から溢れだし、ユグドラシルが魔法を唱えると傷がみるみる塞がっていった。ワンはその魔法がネフィアご主人の魔法なのを思い出す。「再生魔法と言うものだったかな?」と思い出す。

「これで大丈夫。デラスティくん」

「ありがとう。ユグドラシルさん」

「でっ……状況は? 何があった?」

「そ、そうだ!! 皆を集めて!!」

「皆を?」

「そう!! 風竜が復活した!! 絶対に奴は復讐しに、この都市に来る………多くの都市を消し去りながら。ここへ」

 ユグドラシルは首を傾げていたが。ワンはため息を吐き。皆を呼ぶために遠吠えをする。何度も何度も。

 数分後……大きな翼の音ともにユグドラシルの木の下へドラゴンが集まった。ここにいる人だけで国を相手に喧嘩が出来る実力者たち。そしてそれを愚行と考える者たちだ。

「おい、ワン。うっさいぞ」

「ええ、どうしたのいきなり? 遠吠えをして」

「で、デラスティ!? 帰ってきたのだな!!」

「竜姉さん……ただいま」

「おかえり。話が変わるけど……どうだった?」

 赤き髪のスレンダーな女性のボルケーノが風竜のことを聞いた。ただならぬ雰囲気を感じて。

「復活してた………大きい渦によって都市は塵になった。本当に一瞬ですべてを無に帰した」

 皆の顔が険しくなる。ヘルカイトが唸りながら言葉を絞り出す。

「あの都市を一瞬でか……」

「一瞬で」

「そうか……ここではなんだ。場所を移そう」

 重々しい空気を纏ったまま。場所を移す。





「はい、どうぞ……」

 無言のまま、冒険者ギルドが所有する会議室で顔を付き合わせる。古き竜に交じり、下半身が蜘蛛で上半身が人間のような美人のアラクネ族長リディアがお茶を出す。彼の旦那であるランスロットもギルド長として顔を出していた。

「でっ……あの糞野郎が復活したわけだが……」

「早いですね。ヘル」

 ナスティがヘルの上で抱き付きながら話をする。皆はそれを無視して話をする。ネフィア化が激しい事を無視して。

「早い……あと100年は大丈夫だったはず」

 ムッとしてボルケーノが喋り出す。

「ええ、誰か手引きしてるだろう。封印を解いた愚か者が」

「竜姉……犯人は都市とともに消えたよ。たぶん操られてたんだと思う。封印してる場所が魔法学園だったもん」

「犯人探しはどうでもいいの。それよりも……倒すしかない」

 他は竜人の姿だが、唯一ワンだけドレイクのまま話を始める。

「過去はウロとボロス。鋼竜に水竜リヴァイアも全員が怒り狂って結託し倒したが。今は奴らはいない。それに俺は竜として弱くなった。乗り心地のため………進化か退化をしてしまった」

「元々、ワシがお前の翼をもいだのが原因だ。仕方ない………チッ」

 過去はエルダードラゴンが総出で倒したが……今回は数がいない事を皆が理解していた。

「あの………僕も戦う」

「デラスティ。ダメよ……あれは今までの竜とは違う」

「竜姉……奴はきっとこの都市も消す。そんなの許されない。戦うべきだ。なんだよ!! 兄貴たち!! ばっかじゃない!! 僕は一人でもやる!! エルダードラゴンの癖に及び腰で『情けない』と思わないの!!」

 唐突に暗い空気に耐えかねたデラスティが叫ぶ。

「……そうだな。情けない。このヘルカイトがな!! デラスティ!! 倒すためにどうすればいい!!」

「えっ!? 僕が言ってもいいの?」

「ああ!! ワシらはもう歳で頭が固い。ボルケーノさえ歳で丸くなった。だからさ、若い意見を聞きたい」

「ぶっ殺すわよ」

「ひどいわ……ヘル」

「ワンちゃんおじいちゃん?」

「そうだ、ユグドラシル殿。じいちゃん」

「皆、黙れ。歳を気にするのをやめろ。よし、デラスティ。お前ならどうする」

「………」

 デラスティは悩む。悩むふりをする。ある事を思い出していた本能と、ちょうど自分がその場所にちょうど居合わせたこと。過去にあの人に出会ったのが運命的な出会いでデラスティは「何かあるな」と感じ取っていた。ずっと考えていた。何故、ネフィアお姉さんに出会ったかを。そしてちょうど彼女は「魔王」になった。

「ネフィア姉さんに助けを求めよう。ううん。協力を!! ちょうど今は『魔王』になった。こんなタイミングは運命を感じる」

 デラスティが話を始め……ゆっくりとデラスティの歯車が回る。あの日、重症のトキヤ王配を背負っていた過去を思い出しながら。





 何もない大地、砂埃だけの大地。その上で風竜が眠る。多大な魔力を使いきり。回復のために眠る。

「あら? おやすみ?」

 グググ

「誰だ……臭いがしない」

「生きてませから。始めまして竜王メイルシュトロームさん。ヴィナスと申します」

「ヴィナス……」

「まぁ、ちょっと。お願いをしようと思いましてね」

 黒い髪の美人が黒いドレスを着た状態で現れる。それにメイルシュトロームはいつでも噛み殺せる準備をする。

「鼠風情がお願いをすると言うのか!!」

「ええ、お願いをしようと思います。北の大地、魔国から荒らしてください」

「魔国から……何処から荒らそうと俺の勝手だ」

「そうですね。勝手です。ですが………お願いをします。愚かなワイバーンの巣もそこにあります。でないと私が相手をするようになります」

「あの鳥の巣か……まぁいいドラゴンを探すついでに見ておこう。だが!! お前の指図は受けない女神」

「なぜ!?」

「わからないとでも思ったか!! 眠っていてもずっと俺は世界を見ていた!! 俺よりも前からずっと伺い『滅び』を生んだ元凶め。お前らを喰ってやる」

 グアアアアア!!

 メイルシュトローム立ち上がり噛みつく。

「……所詮獣か……まぁいいわ。精々暴れていればいい。飽きたら私が狩りに来てやるわ。人間の仕返しに」

「やってみたまえ!! 俺は竜神となり!! 全部を平らげて見せよう!! お前の野望もお前の使命もお前の天使たちも、神の宮や浮遊大陸、過去の遺物まで」

「……………」

 ヴィナスは姿を消す。「変なのを目覚めたなぁ」と「どうでいいか」と思いながら。


 
§風竜王メイルシュトローム③緊急の救援要請


 僕は新しい国の首都に降り立つ。国なのか何なのかわからないが。正式名称が長いために今は皆は英魔国や英国と呼んでいる。その首都は昔からの帝国から遥か遠くの場所に位置した。イヴァリースと言う場所だ。花が咲き誇り、風で花びらが舞う地方で、今は治める人が変わったのか、行商も多く。石などや木々の運搬で賑わっている。花の野原は開発が進み数を減らしているらしい。だが、それも手があると聞いた。

 そう……都市が大きくなろうとしている所だ。僕は空を速く飛んで先に首都に出向き。城の門から都市に入る。白地の生地に赤い太陽が描かれる太陽の旗があり、皆の顔は明るい。仕事で忙しいのかてんやわんやしているのが見える。

 観察しながら人混みを進み。後でワンさんが飛んで来てネフィア姉さんを連れて来てくれる手筈を思い出す。自分がやるべきことは説得すること。協力を取り付けることだ。

 少しばかり高い位置にネフィア姉さんは居るがきっと話を伺ったら快く手伝ってくれると思う。

 門の前で衛兵に伺う。「エルダードラゴンである都市ヘルカイトの領主からの書状です」と言って見せた。

「都市ヘルカイトから……遠路はるばる来ていただいたが今はね。『誰一人通すな』と厳命が下っている。すまない帰ってくれ」

「えっ!? 都市ヘルカイトの領主のだよ!!」

「ダメだ!! すまない………本当に本当にダメなんだ。あと1月かいつかわからないがダメなんだ。もしかして女王陛下が居ないのかもわからない」

「そ、そんな!! 待って!! お願い!! いま凄く大変な事が起きようとしてるの!!」

「…………わかってる。なにかあるだろうからエルフ族長グレデンデ様を呼んでいる。しばし、待たれよ」

「………………わかった」

 僕は「エルフ族長グレデンデさんが来るなら話は通じるだろう」と思う。数分後、衛兵に故郷の話をして待つ間。故郷のユグドラシルの乾燥させた瓶ずめの葉っぱをあげる。衛兵が驚いた表情をしながら瓶を開けて匂いを嗅いだ。吟味している。

「これは……」

「衛兵さん、体から匂いがしたからきっと好きなんだなって。どうぞ」

「あの都市のタバコだな……ありがとう。これは……凄く良いものだ」

「俺にも嗅がせろ……おおこれは………」

 衛兵二人が笑顔になる。物を渡し、イメージを一応良くする方法だ。

「中々いいが、それでも通さないぞ?」

「いや………待ちますよ」

「しかし、タダで貰うのは………」

「お前ら、タダで貰えるものは貰っていいんだ。難しく考えるな。なぜならそれは寄付だからな。賄賂じゃなければいい」

「エルフ族長!!」

 衛兵の後ろから、耳の尖り白い肌の男性が顔を出す。この英魔国の実力者であるエルフ族長グレデンデが顔を出したのだ。ゆったりした服を着て、衛兵二人の間に割り込んでくる。

「エルフ族長さん!! これを!!」

 僕はヘルカイト兄貴からの書状を手渡す。エルフ族長はそれをその場で衛兵と一緒に見たあとに目を閉じて唸る。衛兵と一緒の理由は確実に受け取った証拠とする事だからだ。

「………すまんが姫様には会わせられない」

「な、なんで!!」

「……『帰れ』と言わないが。今夜、私の屋敷に来てくれ、重要な話がある。姫様に会わせるにはそれを聞いてからにしてもらいたい」

「ダメです!! 時間は一刻も争い!! また一つ都市が消えてしまう!!」

「人間の都市が消えようと我々の敵の力が削げるだけ………問題はない」

「なっ!? 多くの罪なき人が消えるんですよ!!」

「そう……消える。我々は英魔国。それだけは覚えておけ。帝国は我々の敵なんだ」

「!?」

 エルフ族長が冷たい視線を向ける。僕は「そんな!?」と思い。服に掴みかかった。

「……ネフィア姉さんに話を聞いてもらう。暴れてもいいんだぞ」

「…………暴れた瞬間。君は姫様に会う資格は失うが?」

「うぐ……」

「……今夜まで待ってくれ。頼む、悪いようにはしない。首都の地図を見せてくれ。ここが私の家だ。フィアに事情を話して入れてもらってくれ。顔見知りだから大丈夫だ」

 僕は渋々、エルフ族長の服を手放して話を聞くことにする。トボトボとその場を去る。ネフィア姉さんの立場が変わってしまった事を痛感しながら。




 
 エルフ族長と別れたあと。屋敷に出向いた。そこで知り合いのフィアメイド長に案内された場所は綺麗な大きな豪邸だった。色んな種族の使用人が豪邸で住んでいるらしい。その客用の寝室に案内され、ご飯をいただいたあと。夜まで寝て待つことした。そして、体を揺さぶられて僕は起きる。

「起きなさい。デラスティ君」

「んあ………」

 声の主はエルフ族長。あったときよりも柔らかい声音で話しかけてくる。

「お待たせしました。話し合いをしましょう。まず、姫様はここには居ません」

 ベットからテーブル席につくエルフ族長は短く状況を説明した。僕は驚いた声をあげる。

「ど、どこに!?」

「わかりません。大体の場所は予測がつきます。2日か3日後で帰ってくるでしょう。姫様から報告がありました。姫様は忙しい身なのです。『勇者を倒しにいく』と言う使命で」

「勇者?」

「トキヤ殿のような強き方が魔王を倒そうとする人物です。3人か4人ほどですね。それを成長する前に刈り取り。身の安全を確保したあとに………伏せますが色々とやるのです」

「…………」

「遠路はるばる。姫様に助けを求めに来たのでしょうが不在です」

「……明日には出発したいです」

 僕はベットから立ち上がり、テーブル席に座る。お酒を進められるが首を振り飲めないことを教えた。大人扱いにちょっとご機嫌が直る。

「明日出発ですか……一応。姫様には1日休養していただたいた後にこの書状をお渡しします」

「……本当に?」

 僕は昼頃の言葉を思い出しながら口にした。「敵だから見捨てるべき」と言い放ったのは忘れてない。

「私の本心は姫様はまだ沢山の事をしていただきたい。そんな遠出をする暇はもうない。それに考えてみてください。姫様はなんですか? 我が国の新しい盟主ですよ?  危険な場所に送ることはもう流石に気が引けて出来ません。それは帝国に塩を送るような事です」

 彼、エルフ族長は厳しい表情を見せる。一冊の本を手に取り眺めたあとに頭を抱える。

「しかし、姫様に戴いた占い師の書物にはメイルシュトロームも人間が滅ぶ危険因子であり。非常に危険と書かれている。見過ごす事はできない。だから、姫様に渡して姫様の自由に動いて貰います。結局、決めるのは姫様です」

「本当に……手渡してくれるんですか?」

「渡すだけです」

 エルフ族長グレデンデが僕に対して語りかける。真意を話してくれているだけで僕には心を許している気がした。結局、あの場で姫様の不在は知らされていないのだろう。噂だけはあった。

「どうするかは『陽の神』のみぞ知るです」

「……わかった。ありがとう。渡すだけでも譲歩してくれたんですね」

「ええ、最悪の事態で来ないことも考えておいてください。もう姫様は自由ではないのですから。それに敵国内ですし、我々も身動きできません。すみません……何も出来ず」

「うん………」

 僕はここへ来て。「君の慕う凄く優しいお姉さんのネフィアさんが遠い存在になってしまったんだよ?」と目の前で言われ……それを知り。凄く寂しい思いをするのだった。

 「ネフィア姉さんのおやつのクッキー。もっとしっかり味わって食べれば良かったな」と顔を落とした。

 

§風竜王メイルシュトローム④嵐の前の



 都市テンペスは大荒れだった。友好都市もメイルシュトロームが一夜の瞬間に消え去っている報告が都市に届き。驚きと夜逃げにより都市の機能が麻痺してしまう。壁の中でも関係なく塵に変えるのだ。

 メイルシュトロームはまだ力を溜め続けている時間が逃げる時間を稼ぐ。

 そんなガラガラとなった中でも残って商売する者もいる。そんな人の酒場に僕たちは集まった。ドカッと格安になった麦酒を置かれ、それをヘルカイトは一気に飲み干す。

「デラスティ……でっ……『ワンだけを置いてきた』と言うわけか」

 デラスティは1、2日で都市ヘルカイトから首都イヴリースに行き。帝国の都市テンペスに来た。寝なずに来ている訳じゃないが中々体に堪える旅だと彼は感じている。魔力回復ポーションがぶ飲みで頑張ったのだ。

「うん。来てくれるかわからない……だから。僕たちだけで頑張ろう」

 「僕たち」と言ったデラスティは皆を見る。強き竜たち。自分を鍛えてくれた竜達を彼は順番に見つめた。

 暴君ヘルカイト。腐竜ナスティ。火竜ボルケーノ。ここには居ないがきっと後で来てくれると信じている土竜ワン・グランド。「自分含めてこれだけしかいない」とデラスティは思う。

「過去、アイツは竜だけの世界を目指そうとした……結果は俺らが全員ムカついて反発。金銀竜にはめられたとも思うが封印した。だれも奴に賛同しなかったな。今、思うのはそれが大成功だった。都市ヘルカイトがそれを示す」

「ふん、若造だったじゃないか」

 ボルケーノが鼻で笑う。

「私たちより若く。考えが合わなかったんだ」

「今でこそ。その共存してしまっているのですけどね……もっと早ければと思わないでもない」

 ナスティが複雑そうな声を出す。

「ナスティ。奴は上を目指すし、力での抑制を目指す。そんなのはいつか爆発して溢れでる。俺らは竜だ。本来は孤高であり……仲良くしている今がおかしいのだ」

「……そうね。でも、ボルケーノも丸くなったし。ヘルカイトも丸くなったからね。デラスティが現れてからだね」

「ん?」

「デラスティが赤ちゃんだったとき。ボルケーノが拾って育てたのが、いつしか私達と肩を並べられるなんてね。なんでしょうね……なんかデラスティが鍵な気がします」

「そうか、ナスティもか」

「ふむ。私もよ……ナスティ」

「えっえっ?」

 デラスティはキョロキョロと周りを見回してドキドキと鼓動が跳ねる。期待されているのが分かり背中に重圧がのしかかった。

「ワシらの生活を賭けて倒さなきゃいかん。デラスティも覚悟しろ……見ていただろ奴の強さを」

「う、うん」

「デラスティ……逃げてもいい。見捨てて。あなたなら逃げられるわ」

「竜姉を置いてなんて……無理だよ」

「それも覚悟しなさい。仇を取る覚悟を」

 まるで、勝つ見込みが薄いのかそんなことまで言う皆にデラスティは机の下で拳を握った。これだけの実力者が集まっても勝てないのを歯痒く感じながら。





 僕は仏頂面で空を飛んだ。都市は活気が無く。人々の往来も無く。静かに店を畳んでいた。被害があった都市から一番近い都市なのだ。居るのは泥棒か故郷を捨てきれない人だけである。それを上空から眺め………都市メイルシュトロームのあった方角へ向きを変えた。

「………偵察」

 そのまま、メイルシュトロームを探しに飛ぶ。ゆっくりと警戒しながら飛んでいると………食い散らかされた魔物の死体が横たわっているのを見つけ、追っていくと……驚愕する物が見えた。

「な、なの……これ」

 建物があった。宮殿のようなものが黒い鉄で組まれ立ち上がり、中央に居眠りしている竜だけが見える。距離を取りながら周りを見ると……骨塚が至るところにあり。ここがかの竜の拠点なのがわかった。

「人の姿で隠れよう」

 竜人化し、骨塚に身を寄せる。小型の魔物が死体や骨を啄む大音が聞こえる。

 白い嵐竜は今は6枚の翼増えており、非常に強そうに見える。絶対に強い。

「………ふわぁあああ!!」

 白い嵐竜が立ち上がり2足歩行で宮殿を歩く。のしのしと。そして………咆哮をあげた。

「グアアアアアアア」

 異常なほどに高い声。周りの骨塚を骨を食べていた魔物達が逃げ惑う。

「………そこに居るな。何者だ」

「!?」

 骨塚が吹き飛び僕はそれと一緒に転がる。竜を見ると宮殿がトロけて彼の右手に集まり一本の大剣になる。物質操作を魔法で行っていた。

「なんだ……人間の生き残りか」

「…………」

「見ると様子を伺いに来たか……安心しろ!! 今回は見逃してやる。お前の都市を破壊するときと一緒になるまでな!! ははは!!」

 せっかく服を着てたけど僕は竜化した。

「ほう、お前はあのとき逃したワイバーンか」

「うん……1、2周間が忙しかった」

「そうか……まぁいい。取り逃した獲物が帰ってくるなぞ監視か何かだろう。それとも服従を決意したか? ここのワイバーンは言葉を理解しない低脳だ。美味ではあったがな」

「……エルダードラゴンがやって来るここに」

「ほう……エルダードラゴンか。奴等は全員生きているだろうな!!」

「ボルケーノ。グランド。ヘルカイト。ナスティだけが居る。こっちに戦いに行くから動かないで探すの面倒」

 食い散らかされたのを目印に来ている故に。後は……これ以上被害を出さないために。

「命令するとはいい度胸だ……ワイバーンの癖に肝も座っている。部下にしてやりたい所だが復讐の邪魔をする気だろう」

「もちろん。皆、大切な人だからね」

「ほう……結託したか‼ ならば先に潰さなくてはな!! 我が覇道の邪魔になる。新しい魔物の世が来るのだ‼」

 大きく叫び空間を震わせる。大地も空も全てが彼に震えた。

「その虐殺の覇道に意味はない」

「ほぉ!? ワシに異議を申すか!! 不敬だが!! その蛮勇に敬意を示し聞こうじゃないか!!」

「無為に………都市の人を消し去った。そんな事は必要ないと僕は思う」

「いいや、ネズミに恐怖を埋め込ませるには十分必要だ!! ワシを封印し続けた蛮行の精算であり。これからの覇道に必要だ!! 相手が頭を下げて従うまで叩き潰す」

 狂った程に力の権化のような竜だった。目の奥からは真面目に「そうあるべき」と思い。力での征服こそ至上という性格なのがわかった。

 僕が知っている王とは血色が全く違う。しかし……彼も王たる器を持てる資格の持ち主なのだろう。それがその旧き時代で受け入れられなかっただけである。いや………強者だからこそ最初のヘルカイト兄貴と同じ弱者を知らなすぎるのかもしれない。

 王とは所詮。多くの弱者と強者の混じった民を統べる者。資格を持てるが今だに、持てていない竜だと今、理解した。

「恐怖も統べる力ではあるが……それだけじゃ……反抗を生む」

「反抗も喰ってやる。力あるものが滅びる世界なぞ要らぬ。聞き飽きた。そろそろ死ね」

 白い竜が黒い鉄の剣を振る。地面が真っ二つに割れた。僕は瞬時に避けていたために攻撃は聞かなかった。

「やる気か? 逃げず」

「僕がここで逃げたら……たぶんもう次の都市へ行くから」

「くくく………体はもういい。腹も膨れた」

 僕は偵察が失敗したのを理解し、戦闘が始まる。背後に知らない人達を背負って戦おうとする。


§風竜王メイルシュトローム⑤大嵐 



 奴は大きな剣を振るうたびに地面や雲が裂ける。

 奴が叫ぶたびに地面は揺れ。空間が爆ぜる。

 奴の6枚翼がはためく瞬間。鉄矢の雨が降る。

 綺麗だった地表は変動し山や谷を形成し、荒れ狂う強風による死の世界へと変貌する。

 天変地異の大異変を行う風竜メイルシュトロームは生きている天災だった。

「逃げるだけしか出来ない矮小な存在。ワイバーンよ。時間稼ぎのつもりか?」

 上空で魔法陣を多数展開し、鉄の槍を精錬する風竜が止まりながら笑う。余裕を見せる姿に僕は戦慄した。地上の宮殿は消え。今は多くの鉄槍が地面に刺さっている。魔法陣から槍は作られている。無限に。

「お前も風の魔法を目指す者だな………ちと休憩させてやろう」

「………」

 空中でその場に止まる。

「その風の魔法。独学だな」

「もちろん。師事してくれる人はいない」

「ククク、火、水にかまけ。土、風を軽視する文化は続いているか………」

「……」

 何が言いたいか僕にはわからなかった。「軽視されているのだろうか?」と思うほど、弱い風使いに出会った事はない。

「そうさ、最初は所詮は弱い風竜と侮っていたから。俺が力で教えてやった。最強の竜として……風の魔法を独学で学んでいるお前に教えよう。今、俺は風の魔法しか使っていない」

「!?」

「驚くだろう。これも風に類する魔法だ。いや、属性魔法の完成だ」

 大きな黒い鉄槍が産み出されそれを掴み。構えた。

「魔法名、風槍グングニル」

 大きな槍と共に魔法陣で待機していた槍が打ち出される。

「やっば!?」

 動きを止めてしまったのが不味かった。それは点の攻撃ではなく面の攻撃で僕に襲ってくる。苦し紛れに回避を行おうとするが。範囲が広すぎて僕は痛みを覚悟した。

 キラッ

 魔法の燐粉が目の前溢れる。見たことある魔力の形で僕は身構えた。

爆炎の十二翼バクエンのツバサ

 十二処じゃない魔法の爆発が至る所で行われる。その衝撃と熱風で槍と僕は吹き飛ばされた。

「あぐぅ!?」

 パスッ

 クルクルと転がるように落ちていく僕に大きな巨体の竜が抱き締めた。鋼よりも強固な鱗を持つ竜。ヘルカイトだ。

「あ、兄貴?」

「高まる魔力を感じ取ったが……まったく、『戦うな』とあれほど言っただろう」

 クルッと空中で旋回し。風竜から逃げる。

「逃げるか!? ヘルカイト!!」

「………」

「久しぶりに会ったら腰抜けになったか!!」

 無視して戦線を離脱。僕を抱き抱えたまま。荒れ狂う風から離れていく。奴は笑いながらも追ってこない。

「デラスティ!! 怪我は!!」

「ないよ竜姉。ちょっと鱗が竜姉の攻撃で剥がれた」

「ご、ごめん」

「槍に貫かれるよりマシだろう。にしても………」

 並走で飛行しながらヘルカイトは目を閉じた。

「過去より。強くなっている」

 そう、言い。それを聞いた僕は少しだけ、悔しい思いに駆られるのだった。








 空の上空で逃げるヘルカイトを見ながら我は実感する。ワイバーンの模擬戦で体が馴染み。

「もっと高みに至った」

 封印前よりも魔法が使えるようになっている事に違和感を持つ。人間を見ていた結果、精練された。女神の加護さえ感じる。

「余計な事を………ククク。だが。貰えるものは俺の物だ!! 見ているのだろ女神!!」

 封印を解き、力を渡したあの黒い女神に我は語る。

「首を洗って待っていろ。噛み殺してやる。お前らが我らを消し去った元凶だからな!!」

 女神の贔屓は弱小な者たち。弱いものは弱いもの。弱肉強食こそ我ら魔物の至上。考えが全く合わない。

「神をも喰らい。我が神になってやる!!」

 飢餓は収まらない。止めどなく溢れでる欲が我を突き動かす。全ての頂点に立ち。

 力で竜の滅びを打ち負かして見せよう。







 デラスティたちは都市テンペスに戻ってきた。所々に鱗に傷が入り。血が出る。気が付かなかったが結構、攻撃は通っていたことをデラスティは悔しがる。

「なんとか。傷はふさいだわ」

「ありがとう竜姉」

「……ええ。ヘル……どうする?」

 空気が重い無人の宿屋にヘルは唸る。

「ここで迎え撃つ………全力を持ってな。目で見て理解した。あれは俺達だけの問題じゃない」

「ヘ、ヘル」

 ナスティが不安そうに彼の腕にしがみつく。

「し、死ぬ気?」

「……何故わかった」

「な、長くいるから。そ、そんな顔始めてみた………嘘でしょ………風竜そこまでじゃ無かったでしょ?」

「ナスティ………ヘルが苦虫を潰した顔をするのも仕方ない。長い年月。溜まった魔力が膨大なんだろう。それを操ることが出来る体なのだ。勝つのは難しい。死力を尽くさないと」

「に、逃げましょう‼ ね?」

「ナスティ………お前がここまで不安がるなんて始めて見たな。残念だが都市ヘルカイトも例外じゃない。いや………全ての生き物が例外じゃない。どうなるかわからないが。今ここで抑え無ければ世界は壊れる」

 ナスティが顔を埋める。嫌々と言うように。

「全く、女々しいぞナスティ」

「ヘルは!! 生きている!! 私は死なないけどヘルは死んじゃう!!」

「男はな戦って死ぬ生き物。いいじゃないか?」

「ダメよ!! 滅んじゃう!! 私を一人にしないで!!」

 ナスティがヘルカイトに噛みつく。

「あだだだ!?」

「ナスティ……好きなのわかったから死なないように全力で勝ちに行きましょう」

「ぐぅ………」

「そうだ。ここで迎え撃つ理由は簡単だ………罠を張る。ボルケーノがな。俺は囮、お前も来いナスティ」

「う、うん」

「僕は?」

「デラスティ……お前はとにかく撹乱だ。攻撃はボルケーノとワシがやる」

 デラスティは深く頷く。

「では、時間はない!! 準備を取りかかれ!!」

 ヘルカイトの怒号で僕たちは用意をする。多くの魔法陣を描きに。





§遅れてやって来る勇敢なる王



 出来ることをして。竜の状態でデラスティたちは壁の上で待った。都市テンペスを犠牲にするが、建物で魔方陣は隠れ、逃げる人々でとうとう無人となった場所で待ち構える。

 居るのは旧き竜と小さなワイバーンのみ。

 自分達だけの問題じゃないことを知り。過去は虐げる側だった竜たちが結託して事に当たる。

「結局……ネフィア姉さん来なかったね」

「……ああ。奴も今のあれを見せれば来てくれただろうが………残念だ」

「逆に彼女が生きているのです。最後の手段ですね」

「私も、同意見だ。デラスティ………もしも無理だったら逃げろ。見捨てろ。爆炎で退路と殿は任せなさい」

「…………ぺっ」

「こら、デラスティ。はしたない」

 ちょっと和みそうになった空気をデラスティが咆哮をあげる。それは立派なドラゴンの咆哮だった。

「情けない!! なんで僕はこんなにも怒ってるかわかる!! 3人!! 戦う前から諦めてなよ!! いいや!! エルダードラゴンと名乗るんだからそれぐらいの気迫を見せろよ!! 僕は………そんなエルダードラゴンを目指して頑張ってた訳じゃない!!」

 古い竜たちは顔を見合わせる。そして笑う。

「もう歳だな」

「ええ、歳ですね」

「わ、私はまだ歳じゃないぞ。バリバリだぞ!! なっなっ!!」

「………ふぅ。若造に言われると堪えるなぁ~ボルケーノ」

 都市テンペスに暗雲が立ち込め。目の前から嵐の渦が迫る。風も強くなりつつある。

 そんな中で、覇竜ヘルカイトは咆哮をあげた。都市が震える。

「我が名はヘルカイト。都市ヘルカイトの領主なり!!」

「おおお」

「これでいいか!! デラスティ!!」

 それにつられ、腐竜ナスティも甲高い咆哮をあげた。

「我が名はナスティ!! 不死竜ナスティである!!」

「格好いい!! ナスティお姉さん!!」

「これでいい? デラスティ?」

 二人の顔が変わる。視線も何もかもが。そして呆れたため息を吐きながら火竜ボルケーノが咆哮をあげた。

「はぁ……我が名はボルケーノ!! 過去、災厄と言われた火竜なり!!」

「えっ!? 竜姉そんなに悪いことしてたの!?」

「………………」

 ボルケーノは頭を垂れる。「穴があったら入りたい」と。「過去の自分を殴りたい」と苦しむ。

「でも、竜姉格好いいよ」

 頭を上げてボルケーノが咆哮をあげた。嬉しそうに。

「ふぅ。それでこそ僕のお兄、お姉さまたちだよ………すぅ!!」

 黒い嵐が都市の前で消え去り。中から6枚翼の白い竜が見える。僕は………全力で咆哮を上げ、それにつられて他も上げる。

「行くぞ!!」

 ヘルの一言で一斉に飛び出した。風竜メイルシュトロームも咆哮を上げて魔力を高める。

「来たか!! ヘルカイト!! 覇竜は我なるや!!」

「そんなもんくれてやる!! 俺の首を取ってからだがな。取りに来い雑魚が!!」

「ククク!! ははははははは!! 絶対の力にひれ伏せ………旧友たち」

 風竜の背後で多くの魔法陣が産み出され。黒い槍が精錬される。風竜の右手が掲げられ振り下ろされる。

「風槍グングニル!!」

爆炎の十二翼ばくえんのツバサ!!」

地獄の業火ヘルブレス!!」

 黒い槍が雨のように降り注ぎ都市の屋根を突き潰し。何重にもの爆発が大気を揺るがしながら槍を吹き飛ばす。そしてヘルカイトの口から放たれた熱線が空を裂く。

「風防!! 絶壁!!」

 グバァアアアアアアアアアアアアアン!!

 風竜が左手を突きだし。魔力で魔方陣を産み出す。その魔方陣の前で熱線が8方に裂けて都市や空を焼く。

 膨大なエネルギーの奔出により、地面が隆起し、地震が起きている。空で飛んでいるからわからないが地面や都市が小刻みの揺れ高い塔や城は崩れ落ちていく。

「ははははははは!! ヘルカイト!! 老いたな!!」

「………ふん!!」

 ヘルカイトがそのまま風竜に向かい飛び。両手を掴みかかった。風竜もそれがわかり嵐を解いて両手で掴み返す。力を比べになり、自分達は旋回しながら様子を見る。

「老いたのはお前もだ!!」

 掴み、地面に落ちる竜たち。大きな衝撃と共に瓦礫の上で竜が力を比べる。地に足がつかないと力が入らないのだろう。

 ググググ!!

「………ククク。さすがヘルカイト。純粋な力では敵わないか。だが!! 押し潰せまい!!」

「……ちっ無駄に強くなりやがって。地獄の業火!!」

「遅い……風槍グングニル!!」

 ヘルカイトの口から炎が漏れ、エネルギーが貯まっていく。だが、吐き出す前に背中に向けて黒い大槍が降り注ぐ。

「ヘル!!」

「ナスティ姉さん!!」

 ザクザクザク!!

 ツギハギのドラゴンが庇うように飛び込み肉盾となり貫かれる。

「………ヘル!! やっておしまい!!」

「グアアアアアアア!!」

「風鎧!! 絶壁!!」

 風竜の体に黒金属の鎧が纏われ咆哮のような熱線を至近距離で受ける。手を離し、地面が吹き飛ぶが風竜の場所で二つに裂けた。ポロポロと鎧が剥げる。黒い鉄は液状となり吹き飛んでいくが。風竜は涼しそうな顔で立っている。

「ヘルカイト………我はブレスを吐けない。だがな……」

 風竜の右手に風が集まり続ける。それが唐突に光を発し、熱を発し始めた。

「我には風がある。風の息吹きウィンドブレス!!」

 熱線を吐き終え。連発したために少しふらっとするヘルカイトに向けて白い圧縮空気弾を投げつける。

 真っ直ぐ白い玉は進みヘルカイトの目の前で爆発のような風が荒れ狂う。膨大な熱と膨張によりヘルカイトとナスティを吹き飛ばした。

「ヘル!!」

「ぐおおおおおおおおおお!!」

 黒い槍が鍵爪のように変形し刺さったままのナスティを縛り付ける。ヘルカイトは吹き飛ばされた先に黒い槍があるが鱗で阻んだ。風竜が砂鉄を集め剣を形にし魔力を流す。それを構えヘルカイトに近付こうとした。

「させるか!! ワイバーンテイル!!」

 そこに横から高速で接近し回転しながら尻尾で打つデラスティに吹き飛ばされる。

「ふん……速いな………」

 そのまま飛ばされた状態で空に舞い上がった。手に黒い鎖が現れる。何をするかデラスティはわからない。

 ジャラジャラジャラジャラ!!

「くぅ……結構いい線の攻撃だったのに」

「ククク。ワイバーンお前は後だ。先ずは雑魚のこいつを」

 ジャラジャラ!!

 鎖を引っ張るとその先にナスティに刺さった槍に繋がる。そのまま引っ張られて風竜の前に来た。風竜はナスティの首を掴み握り潰す。

 グシャ!!

「ナスティ!! その手を離せ!! 風竜!!」

 ヘルカイトが叫ぶ。

「なんで焦る。不死だろう。まぁ………俺はこいつの不死を消し去る事ができるがな」

「かはっ……ふふふ。そう上手く行くかしら?」

 ブワァ!!

 毒霧を吐き出すナスティしかし……風で流される。

「何か?」

「………ふん視界を奪えばいいわ」

 ナスティが大きく叫ぶ。

「今よ!! 私ごと!! ボルケーノ!!」

 ドクンッ

 大きな鼓動が聞こえた。空に飛んでいるボルケーノが咆哮をあげる。地表の魔方陣が紅く光る。

「ボルケーノ……お前の切り札か……昔、これにやられたな」

 風竜の周りに風が集まる。嵐となり全てを巻き込む。黒い小さな鉄の塊によって都市が削られていく。

メイルシュトローム全て風に帰れ!!

迫撃砲!!全て吹き飛べ!!

 膨大な数のドラゴンを包むほど大きな炎弾が都市の至るところから打ち出され黒い嵐にぶつかり続ける。デラスティはそれを避けながら様子を見て、何もできない自分歯痒く感じた。

 化け物同士の戦いを見ることしかできない事に。

「くぅ!!爆炎の十二翼じゅうによくのツバサ!!」

 ボルケーノも追加の攻撃で魔力を放出し嵐に巻き込まれ至るところで爆発する。空間が熱く、熱風が吹き荒れる。

 ブワァ!!

 勢いは飲まれ。上に上にと逃がされる。嵐が止み都市は至るところでボロボロとなった。しかし風竜は無傷。その手にまだナスティが掴まれている。

「そ、そんなばかな!?」

 デラスティはボルケーノの弱々しい言葉に驚く。

「ククク………ハハハハハハ!!」

 あの猛攻がまるでそよ風のように消し去られてしまった。風竜の高笑いだけが響く。

「一度喰らったのを忘れていない。ボルケーノ……お前は生かしておいてやろう。メスだからなハハハ!!」

「……そ、そんな。ボルケーノの攻撃を……」

「ん? ナスティお前。メスだったのか。なら丁度いい。命乞いをしろ。子を孕めるぐらいは出来るだろう」

「…………ペッ」

 ベチャジュウウウウ

 毒液を吐き出し頬の鱗を溶かす。しかし、風竜は痛みを感じないのが鼻で笑う。

「ほう。いいメスだが二人も要らない。不死を消す方法も試してやる。粉々に体を細切れにして再生できるかな?」

 ナスティの周りに黒い槍が刺さり続ける。痛みは感じない筈のナスティが苦悩な表情を見せる。苦しいのだ。

「ほう………これでも生きてるか。なら……あの都市のように砂にまで削るか」

 黒い風がナスティを包みだす。

「うわあああああああああ!!」

「その手を離せ!! 風竜!!」

 ヘルカイトが飛び込み、デラスティも飛び込むが近付けない。風が激しくなり近付けさせない。

「竜姉!!」

「ぅっ………すまん。まだ魔力が……」

「ヘルカイト兄貴!!」

「くぅ!! 地獄の!!」

「ヘルカイト。今日は雨らしい」

 風竜が空を見上げる。雲に隠されていたのか魔方陣が浮かび上がる。デラスティ、ボルケーノ、ヘルカイトは驚く。空一杯に広がる魔方陣の数に。

「ヘル………皆………逃げて。ヘル………生きて……」

「ナスティ!!」

「ヘル………愛してる。だから!! 逃げて!!」

 ナスティが叫び。ヘルカイトが大きく咆哮をあげる。熱線を魔方陣に向けて吐き出すが消せども消せども浮かび上がる。ヘルカイトの熱線が収まり………槍が形成される。

「ほう……ヘルカイト。お前の専属メスだったか。ふぅ……今日は気分がいい。晴れの日よりも」

「ヘル………早く……」

「お前を置いて!! 逃げれるか!! ナスティ!!」

 膨大な黒槍が打ち出される。ナスティは………涙を流した。自分の非力に……滅んでほしくない人を想いながら。

風槍グングニル今日は黒い雨が降る

 空一面に黒い槍が降り注ぐ。それはまるで雨のように竜たちに降り注ごうとした。

 ボルケーノは回避を諦めたデラスティを抱き締めて庇う。ヘルカイトは咆哮をあげながら風竜に向かう。

 デラスティは………口を強く強く強く噛み締める。

 「もっと、もっと、強くなりたかった」と風竜を睨み続けた。ここで終わるのか………もっと何か出来るんじゃないかと………考える。

 鉄の雨は無情にも降り注ごうとしている。














「私の目の前で………悲愛は認めない!!」













 そんな雨にある声が響いた。

 黒い槍の雨が横凪ぎの嵐と、何十、何百の爆発で吹き飛ばされる。赤く………青く………そして白く輝きながら燃える鳥が風竜の目の前に一瞬で現れナスティを包み込み。風竜が慌てて回避する。

 風竜の手の鱗が剥がれ落ちる。あの一瞬で焼けたのだ。

「何だ!?」

 風竜が遠くを見る。貪欲な黒い雲を裂いて、太陽に照らされながら一匹のドラゴンが降りてくる。白い地竜ワン・グランド。その背中に大きな大きな白い翼を広げる小さな人影を皆は見た。

 綺麗な歌声が響く。体の底から魔力が溢れる。皆の傷が癒えていく。回復魔法と強化魔法の融合のそれに心当たりがある。

「お前は………誰だ。いったい………地竜の姿もだが……なんだ?」

 風竜が警戒しながら。グングニルを突き出して叫ぶ。

「名を名乗れ!! 王の面前であるぞ!!」

 地竜から、翼の人物は建物に降り立つ。陽光差す姿に皆が黙り。何処からか聞こえる荘厳な音楽とともにその場の雰囲気を変えてしまう。大きなドラゴンが描かれた帝国旗がはためき……それを地面に突き刺した。

「………人間?」

「いいえ、英魔族よ」

 否定の後に大気に響く大声が白翼を持つ女性から発せられる。帝国皇帝陛下の旗の隣で。

「我は英魔共栄国!! 初代女王ネフィア・ネロリリスなるや!!」

 風竜を見上げながら、背後に大きい白い炎鳥を従え。堂々と宣言したのは………皆が願う歴代最強の魔王様だった。




§嵐竜に挑む前の最初の王



 デラスティが去った日から数日たったある日。豪華な王族の特別寝室にネフィアはトキヤの上に座り首に手を回しながらニコニコしていた。そんな中でエルフ族長が顔を出し。いつも通りの女王陛下で安心する。エルフ族長も自分の妻に同じことをさせているので少しだけ心でに照れが出てしまう。ネフィアはトキヤの立派な角を弄り「カッターイ」と子供のように喜んでいた。

 考えてみれば未だに成人していない子供……エルフ族長グレデンデは己が遥かに幼い彼女を女王に仕立て上げた罪を心の底で侘びる。最初から拐われた彼女は年端のない子供だった。知られていないが、夢魔として急成長させたのだ。だから、昔は異様に幼かった。

「姫様、大変なご公務の後で申し訳ありません。これをお読みください」

 頭を振り、今はそんな懺悔をする場ではないとエルフ族長は領主ヘルカイトからの手紙を机に置いた。

「ん? 何かしら………」

 片手でネフィアは広げようとするが……んっんっといい、出来ず。結局、王配トキヤが飽きれ顔で手紙を奪い。両手で広げてネフィアに見せる。

「……手紙だな。グレデンデ」

「はい……都市ヘルカイトから」

「内容~これって!!」

「どうした? ネフィア?」

 ネフィアに見せていた手紙をトキヤも読み始め。ネフィアがある一文を指差す。

「これを……見てトキヤ」

「………風竜復活」

 風竜復活し、風竜がどれだけ危ないかを事細かにかかれていた。ネフィアがエルフ族長に対して声を張り上げる。

「エルフ族長……あの本は!! あの!! 占い師の本」

「こちらです」

 エルフ族長が前もって用意していた。ネフィアが盗んできた本を机に置いた。ネフィアはトキヤから離れ、別の席に座り……本を捲る。

「そうね。やっぱりそう………ぱらぱら読んでたときに見たけど……載ってる。風竜メイルシュトローム・テンペスト。全ての支配者が切り替わったのち………全力を持って排除すべき。風の竜封印されしエルダードラゴン」

「全力をもって……まーた他にも旧支配者は力を持ってるんだな」

 旧支配者旧人類とは英魔国でも一部しか知らされていない。昔に制覇していた人間達の事を指す。表へ出ては来なかったが……ある占い師のミスで露見し、ネフィアに斬られた者。その者が予言した滅びの原因の一つだ。

「……なんでこう。世界って危ないの」

「それも知れたのも運がいいのか悪いのか……ネフィア。ちょっと支度しておく。丁度、ワンちゃん来てるし」

 トキヤが立ち上がり。かばんを整理し出す。

「……行くのですか? 何も話されずに?」

「?」

 ネフィアは首を傾げた。

「行くだろネフィア? エルフ族長なんだ? その質問」

「………いきますけど? どうして行かない選択があるんですか?」

 エルフ族長の目が見開かれる。「驚いた」と言わんばかりの仕草にトキヤが鼻で笑う。「ちょっと俺の方が知ってるぞ」と自慢するみたいに。それを察したネフィアは机の下で手を握って喜ぶのを我慢する。
 
「エルフ族長。時間やそういうのは判断できてもまだ分かってないな」

「い、いえ。行かれるだろうと思ってはいたのですが……こう……納得出来ないのがありまして……」

「聞きましょう。聴きましょう」

 機嫌がいいネフィア。反対に真面目な顔をするエルフ族長。

「姫様……不躾ながら相手は敵地であり。暴れられると我々に有利になります。敵の敵は味方といい。英国的に有利になるでしょう」

「ふむ」

「なので、大局的に申し上げますと見捨てる覚悟も必要でしょう」

 ネフィアはうんうんと頷く。「そう言うことか」と納得した表情で腕を組んで笑みが消える。真面目なキッと切れ長く美しい目がエルフ族長を見る。1歩、立っているエルフ族長は後ろに下がった。

 エルフ族長は歓喜する。一瞬だけの圧力で跪きたくなったのだ。

「エルフ族長は理由が欲しいのですね。そのメリット越える」

「……ええ。メリットとして支援も出せます。義勇兵を出し恩を着せれます」

「たぶん。それが正しい。国民のために繁栄のために」

 ふわふわした声音は無く。女優のようにハキハキと喋り。まるで男のように力強い姿でネフィアはエルフ族長と議論する。

「ええ、進言します。見捨てる覚悟を」

「…………女王の判断に任せる感じね」

 それは、「決定権は私にある」と言い放ったネフィアにエルフ族長はまた数歩下がる。

「……はい。これは族長で話し合えない案件です」

「では、私は決めます。風竜復活は本来は全員でかからなければいけない天災であり、そこに人間も英魔もない。このままでは英魔国民の危機にも直結する。あとは……そうね。私のご友人の国であるけれど………いつか臣民なるとも限らないじゃない? 領地になるかもよ? 荒らされたくないでしょ?」

 前半は真面目に語り。後半はいつものフワッとした冗談を言うみたいな声音で話したネフィア。コロコロ変わる声音にエルフ族長は小さく呼ぶ。

「姫様……」

 無視をし、ネフィアは続ける。

「今の王が床に伏せているし、皇帝に恩も返すいい機会だわ……それに、友人、故郷ヘルカイト友人たちも戦う。だから覚悟出来る。エルフ族長……国をお願いね。トキヤ!! 武具を!!」

 「トキヤ行くよ」と彼に伝えた。

「ネフィア、用意はしているよ。ワンも呼んだ」

「姫様!!」

 エルフ族長は手で口を隠しながら叫んだ。ニヤケる自分の口を隠しながら。止めても無駄だと知りながら。

「止めても行く」

「……お考えを改めてください。姫様がお亡くなりになられたら……今は族長たとともに国を安定させるのが重要なのですよ?」

「あなたが王になりなさい」

「!?」

 「簡単に王になれと言うのですか」とエルフ族長グレデンデはワクワクした。跪いて賛美を歌いたい叫びたいと体が震え出す。

「まぁ、絶対帰ってこれる保証はないけど。帰ってくるから」

「……」

「そう、むずかしく考えるの得意じゃないの。御託を並べたけど……もう、簡単に言うわ。私にとっては見ず知らずの数万の命より、身内の一滴の涙の方がずっと重い。これが行動原理よ……覚えておくが良いわ。だから皆が待ってる。それに~エルフ族長」

「は、はい」

「困ったら……あなたも助けに行ってあげる」

 エルフ族長は跪いた。頭を垂れ……そして、胸に手を当ててゆっくり喋る。

「姫様……ありがとうございます。お留守を預かりますので必ず帰ってください。そして……あの、竜人のご友人達をお救いください」

「もちろん、全部やれたらやる………」

「ネフィア。話は終わったか?」

「うん、トキヤが教えてくれた。幸せになるには力がいる。ちょうど力があるから行ってくるわ。では、これで話はおしまいね」

 ネフィアはエルフ族長に退室を促した。「聖装に着替えるのだろう」と族長は思い。立ち上がってその場を去り。はち切れんばかりの笑みを溢し女王陛下万歳を胸で何度も何度も叫んだのだった。





「うーん。まーたお留守だよ」

「1日……休んだから大丈夫だろ?」

「………エルフ族長も変な人」

 ネフィアが装備をつけながら思い出したように話をする。

「1日後、手紙を渡せば行くと分かっていながら………渡すんだから」

「渡さない方法もあったが……エルフ族長は渡した。ネフィア……今度の相手は勇者どころの話じゃない。それは恐ろしい程に強い」

「……やるしかない。知らないからって逃げられたら……さぞ、いいんでしょうね。だけど……私は求められてる。デラスティとか助けを求める程に大変なんでしょうね」

「ネフィア……」

 トキヤはネフィアを後ろから抱き締める。耳元で囁くように語る。

「俺がお前も護ってやる。安心しろ」

「逃げない……ふぅ………弱かった日々が懐かしいわ……」

「最初っから君は強かった」

「……本当?」

「ずっと俺の奥さんを張り続けてた」

「……うそ。つかない」

「俺にとってはだな」

「ふふ。死に場所は一緒がいいから護っちゃダメよ」

 ネフィアが抱きつく手を退かし、振り向いて背延びをする。触れた唇から二人は熱を感じる。

「………行こう。トキヤ。友達が危ない」

「ああ、全くな」

 帯剣し、装備を整えて扉を開ける。風竜王に挑む最初の王はこの日……決まったのだった。




§夢へと渡る魔王


「ワンちゃん!!」

 改築途中の魔王城の庭園にネフィアの喜ぶ声が響いた。白い犬のような竜が伏せていたのが立ち上がる。大きな舌を出してハゥハゥと言いながらひっくり返りお腹を見せた。

「おう、ワン・グランド。プライドはないのか?」

「体が勝手に……」

 ばふっ

 ネフィアが大きなお腹に飛び込み毛皮に飲み込まれる。

「わぁ~お腹モフモフ~竜みたいな堅い鱗なくなちゃったね」

「乗り心地がいいと褒めていただいてます。毎日の水浴びもかかせません」

「お前はいったい……何処へ向かってるんだよ……」

「乗竜の頂点。ユグドラシル殿が望まれるので仕方ないと思います。最近ワガママで………」

「……ワンちゃん」

「なんでしょうか?」

 ネフィアが真面目な声音になる。

「……嵐竜について何処まで知ってる?」

「背中にお乗りください」

「時間が惜しいか……ワンちゃん」

 体を起こし、伏せる。轡をつけて手綱を持ちながらよじ登り、リュックを背負ったトキヤが手綱とネフィアを掴んだ。

 ワンはぶわっと翼を広げ、魔力を使い浮力を得て飛び上がった。見えるのは城下町と城の改装工事で組まれている足場ばかり。城壁ももう1枚増設途中である。

 太陽に照らされる都市を見ながら、トキヤが魔法で皆から姿を隠した。不在を隠すために。

「寝ずに飛び続けます。戦いが無理な体になってしまいましたから……着いたらお任せします。ご主人」

「わかった。とにかく戦闘に間に合えば文句はないよ」

「ワン・グランド。行けるな‼」

「もちろん!!……嵐竜については飛びながら!!」

 都市を尻目に……竜の背に乗ってまた。帝国に逆戻りをする。

「帝国に住もうかな?」

「俺は知り合いが多いから嫌だな」

「裏切り者だったね。トキヤは」

「盗賊ギルドたちにも喧嘩売ったしな」

「あ~懐かしい」

 そんな会話をしながら、大空の風を感じる二人だった。






 夜の帳が落ちる。夜の飛行は危ないが月下のしたで強引に飛行する。風竜の情報は聞いていたが………ワン・グランドはうろ覚えな感じで。少しわかったのは魔法を使っていくドラゴンだったらしい。だが……背中の勇者によって大きな情報になっていく。

「ワンちゃんの話を統括すると。全員で一斉にボコって封印したからわからないと?」

「面目ない……」

「風の魔法の終着点はトキヤ」

「そこまで出来ると仮定してなら……水、土、炎の3属性を縁因で操れるだろう」

「操れる?」

「風の基を操れるなら……それはそうだな……土でも操れるし、水も操れる。『風の魔法は危険だ』と言われてたのは……たぶん奴のせいなんだろうな」

「……昔に言ってた空気を操ることが出来る事と何が違うの?」

「1から10を説明してやろう………空気のなかには1の物質であり細かな金属も何もかも含んでいる場合があって……その1まで操れるなら。金属を変形させたりする。土属性の技もあり。水魔法の劣化も打て。熱を取り出す事も出来るだろう。俺がいつもやっている飲み物を冷やしたり暖めたりが空間で出来るわけだな」

「つ、強くない?」

「……弱点もある」

「どんな?」

「無駄に魔力がかかる。お前が火を生み出す行程は詠唱1回で済むとしよう。それが3回4回と唱えないといけないから無駄なんだ。詠唱1回で唱えたらそれでいい」

「…………トキヤご主人。それは人である話でしょう」

「そう……たったそれだけが弱点なんだよ」

「それはつまり」

「エルダードラゴンは無尽蔵な魔力持っている筈だ。別に工程を増やしても魔力が尽きる弱点がないんだよ」

 背後から緊張した声音で絶望のような一言を言う。

「……トキヤはどうやって勝つ?」

「すまんが巨竜の大決戦に行っても何も出来ないと思っている」

「ぶっ叩くわよトキヤ」

「ネ、ネフィア?……ああ。すまんな。はは……懐かしいなその声。いつもいつも俺は男だとか文句ばっか言ってたな。『くそ』や『おまえ』とか言ってたな」

 ちょっと強めに怒られたトキヤは過去を懐かしむ。もうすっかり歳がとってしまったおじさんのように。

「………ごめん。昔のことはいいから……それよりも勇者でしょ!! もっと勇気ある言葉を………ごめん。トキヤは勇者だけど勇者ぽくなかったね」

「一人で納得するのやめような? 確かに……弱音だったな」

 ネフィアの頭をポンポンと撫でながらトキヤは謝った。

「ううん……わかってる。トキヤの判断正しい。私たちが出来る事なんて小さい針のような物だと思う。でも、鎧通しのようにスッと入る事は出来るはず。そういうのは得意でしょ?」

「……ああ。正面からよりもな」

「きっと、全てを使わないと勝てない……出来るかわからないけど。そろそろ夢を渡ろうと思う」

「夢を?」

「実は過去の自分にあったことがある。ボコった事がある。世界樹にも会ったことがある」

「………ちょっと専門外だからわからないが出来るか?」

「うん……見てくる。過去の夢で風竜の情報……この目で見てくる。出来ることは全てする。婬魔として生まれて来たのだから……利用できる物は利用する。そうでしょ? あなた」

「お前も俺に染まったな」

「染まるも何も……ずっと一緒でしょ?」

「たまに一緒じゃない」

「心はずっと一緒だよ」

「……ふぅ。今日は異様に月が綺麗だな」

「……『あなたとなら死んでもいいわ』と言うのが正解?」

「どうだろうな。俺は月に言ったんだが……」

「あら? 褒めてくれたかと……」

「褒めるなら直接言う。恥ずかしいがな」

「ふふ……そうでした」

 ブォン!!

 ワン・グランドが少し急降下する。慌てて手綱を引っ張るトキヤ。

「おい!!」

「背中でイチャイチャしないでください。戦地へ赴くのです」

「ワンちゃん……嫉妬?」

「………」

「はは、構ってやりたいが………飛んでる今じゃな」

「ワンちゃんもユグドラシルみたいにワガママになって……」

「……ワン」

 小さく鳴くワン・グランドの背中を優しく撫でるネフィア。

「帰ったらいっぱい構ってあげるから我慢してね。そうそう、夢渡り途中……二人に任せるからね。無防備だからお願い」

「任せろ」

「ネフィアご主人お任せください」

 二人の返答に満足したネフィアはトキヤの胸に抱かれたまま目を閉じた。魔力を開放し髪が金色に輝き、小さな白い翼が現出する。

「おやすみ。ネフィア」

「行ってきます。トキヤ」

 ネフィアは過去の夢へと堕ちるのだった。


§金色の夢



 私は夢に入ると言うよりも落ちるというイメージで過去に遡る。長く色んな人に引っ張られて夢という記憶の中を私は歩くことが出来るようになった。

 能力発現のきっかけはあの人の夢を見たいからだった。そう、マナの夢に顔を出したのだから。

「まぁ……今でも見せてはくれないので、夢に渡る努力はしてるんですけど……マナには会えない……」

 暗い、水の底のような場所にゆっくりと沈んでいく。命綱はない。気を付けないと戻ってこれないほど深く深く落ちていく。

 私のイメージなのか……過去は下へ。未来は上にあり。水面下のような暗さと深さがある。

 前は何もない空間だったが今は海のような場所で深く潜っていく。多くの記憶が海となって過去に沈殿しているのだ。それが積み重なって今がある。

「深い……」

 何百年前の夢に繋がろうとしているのだ。深くて当たり前であり……そして。

「未来……変わってしまうかも」

 関わった瞬間に未来は変わる。記憶消去……これは夢だったで終わればいいが終わらない場合は何かしら遠因になるだろう。

「……………まぁでも何事も悩むより行動あるのみ」

 私は長く長く落ちながら。物思いに耽る。

「とにかく百聞は1見にしかずと言うし。見てみましょう」

 私はイメージする。風竜に関わった人たちを。その人たちの記憶の海に入ればあとは……読むだけでいい。

 フワッスタッ!!

 目的の階層についたようで私はそこで、一つ光を見つける。誰の記憶かを知らないがその小さな光まで歩き出す。

 光に触れる瞬間……暗がりの世界が暗転する。風が私の髪を靡かせ。あまりの明るさに目を閉じていた。

「うっ……眩しい………」

 ゆっくりと目を開けるとそこは断崖絶壁の丘の上だった。目の前に広がる森と空。翼を持つものが飛んでいた。大自然が広がり。マナの魔力も濃く。全てが野性味溢れた世界だった。

 まだ人や亜人が隠れ住み。集まらずに細々と生活している世界だった。全く動けないほど危ない世界だ。

「これが……過去」

 ブワッ!!
 
「つっ!?」

 断崖絶壁の下から1匹の竜が飛び出し、私は後ろに吹き飛ばされた。

「な、なに!?」

 ズンッ

 一匹の竜。銀色の竜が丘で咆哮をあげ。私と眼があった。

「ウロ!? 起きたのか!!」

「えっ?」

 私は自分の頬を爪で引っ掻く。痛いことは痛い。細かく夢の中でも私自身をイメージ出来ているためだ。

「見えるのですか? どう見えますか?」

「……ウロどうした?」

「ウロ?」

「起きないから不安だった」

 銀竜が頭を垂れる。

「……」

 私は周りをみた。少し物が小さく見える。小さな石を拾うと鱗と鋭そうな爪があり、まるで自分の体のように使うが考えてみれば……私は竜じゃないか。

「……ん!!」

「どうした!?」

 頭痛がする私は………思い出す。

「………なんでもない。まだ本調子じゃない」

 魔力陣が足元に出して私は竜人の姿になる。裸ではあるが、手などは私自身に近く。身動きも取りやすい。元々竜は裸だし、気にしはしない。

「なっ!? ウロ!! また痩せ我慢か!! いい加減にしろよ!! 動いちゃだめだ!!」

「私は………すまない。ああ。思い出した」

 ウロ……金竜ウロだ。

「金竜ウロ。ボロス………私は……いいえ。なんでもない」

「ウロ!?」

「………ふぁあああ。寝てる間に何か変なの入ったみたいね」

 私は……頭を押さえる。幻視なのだろうか。私たち竜が大きく数を減らし、矮小な人間が覇権を争う世界を夢見た気がした。しかし、そのあまりのリアルな未来に。私は……夢とは断ずる事が出来なかった。

 また、未来を幻視したのだろう。滅び行く我らの未来を。私は竜の神として見たのだろう。

「ボロス……少し。未来が見えた」

「いつもの君だ……だが……もう手遅れな未来だろう? 興味ない」

「うむ……ちょっと違う気が」

「……あの奇病にかからないだけ。ありがたく思うよ」

「そうね……ありがたいわ」

 残念だけど……私はもう……病に伏せている。ゆっくりと力を失いつつある。だけど黙っている。竜に感染する『作った人間が復活出来るようにするための時限爆弾』の感染症を。

「風が強い。ここに風竜が来てしまう」

「そうね………ごめん。寝すぎたわ」

 風竜は破壊のかぎりを尽くしている。破壊し、我々を従僕させようとしては敵対は殺して行っていた。竜は粗暴であり集まらない。いや、集まりにくい。

「予言により……私が『滅び』があることを言ってしまったために………皆が狂ってしまった」

「いいや!! ウロは悪くない!! ずっとずっと前から言っていたのを今になって騒ぐのがダメなんだ!!」

「……私が弱くて強く言わなかったから」

 私には不思議な力があった。未来を夢みる力だ。竜たちが感染し死んでいく病。まるで世界が私たちにだけ感染するように作ったような病気。名前はない。しかし、おそれがなにかを詳しく知っている。私は監視者でもある。

 この病気の第一段階:吐き気が少しだけ。

 この病気の第二段階:竜に対して高い殺意。噛みつき。そして………感染。

 この病気の第三段階:鱗の内側から剥がれていく。もしくは血が吹き出たあと激痛。

 この病気の最終段階:第三段階飛ばしての死。狂い。暴れまわり絶命。

 私はたぶん……第一段階。今はそう思っている。

「ウロ。果実食べるかい?」

「うん。食べる」

「じゃぁ。食べに行こう。獲物は逃げ去ってしまった」

 風竜のせいだろう。風竜は本当に手段が荒い。私は翼を広げて丘を飛び立つ。果実を求め。匂いを嗅ぎながら。








「あなたは誰?」

 暗闇の中で私は目が覚める。これは夢だろうか。夢だろう。最近よくみる。「何も見たくない」と願った私の夢。そんな中で小さな光りが見える。

「……見えますか? 聞こえますか?」

「見えません。聞こえます」

「同じですね。見えませんが聞こえます」

「聞こえますのでもう一度。あなたは誰ですか?」

「……他言無用でお願いします。ネフィアといいます」

「ネフィア……知らないお名前です。私は金竜ウロ……あなたはなんの竜ですか?」

「竜ではないです。あなた方が言う小さき者たちの一種族です」

「小さき者………あの小さき者ですか?」

「ええ」

「……小さき者ですよね………」

「どうしました?」

「光りが強くて眩しいです」

 目の前の光玉が輝く。直視できない程に。

「少し光を抑える事は出来ないですか?」

「ごめんなさい。夢を用意し操ってるのはあなた………あなたが眩しいと思うから見えないです」

「………眩しいですね」

「……私の何が眩しいのでしょうね?」

 私は金竜ウロは……本能で告げる。

 私に……舞い降りたのだ。聖なる者が。



§金竜ウロ銀竜ボロス



 同じ出会った瞬間に仲良くなるのはきっと何か、近いものがあったのだろう。

 私たちは変異種、私は竜を導く者。土竜の一種だが鱗が他と違い。光沢を放つ。

 初めて出会った同種。初めて出会った強き異性だった。天界から降りてくるほどに惹かれた。

 両者の爪は鱗に弾かれ。1日しがみつき。疲れたとき。

「もうやめよう。私はもとからやる気はないし」

「そうだね……疲れた」

 目の前の竜は子供だった。

「果実探そう。今日はそれでいいや」

「いい場所知ってる。ついてきな」

 たった、それだけで。私は銀竜ボロスについていった。




「へぇ~あなたたちそんな感じで仲良くなったんだ」

「最初は殺し合いでしたが。気がつけばずっと一緒でしたね。いいえ……空から降りてきて。私は手加減しました。私は……裏切ったんです」

「ふ~ん!!」

 クルクルと光の玉が私の周りを飛ぶ。いま、私にしか見えない光であり、独り言のように聞こえるだろう。ボロスにはそれが見えなかった。

 丘に座り、空を見上げる。青い空は何処までも続いている。私たちが滅びようと。それは続く。そして、また赤い世界になる。

「ネフィアさん悩み相談できますか?」

「いいでしょう。代わりに風竜の情報頂戴。スッゴい欲しい」

「はい……先、風竜メイルについては頭を覗いてください」

「はーい覗く。あら……ボロスに花を貰った事あるのね」

「何を見てるんですか!!」

「照れちゃって~告白はまだなの?」

「………告白は……悩んでます」

「悩み? それ?」

「いいえ。悩んでますが少し答えを得ました。それよりも…………」

 私は光の球を凝視する。

「未来預言について」

「………」

 光の球は答えない。未来から来ている筈なのは私にはわかった。勘ではあるが……私に来たという事はそう言うことだろう。

「私は多くの夢を預言として見れます。我ら竜は病と種族同士の殺し合いで数が減りいつしかは絶滅するという未来を見ました。しかし……私にはそれを防ぐ術がなかった。神だったのに。いいえ、違う。私はそれを監視する役回りだった」

「………それで?」

「私はそれを見過ごせず……力ある竜に教えていたんです。ですが……皆は受け入れるのが多かった。何もせずに………死を受け入れる」

「生けるもの全てに等しく滅びはあるわ」

「知っています。でも……何も残らないのは私は嫌です。生き物だからこそ繋がりを目指すべきです。あらたな種として残るべきです一人でも、一匹でも」

 そう……私は残したい。何かを。

「だから……悩んでます。どうすればいいかを」

「……風竜は竜で国を作ろうとしてるわ」

「それは……正しいでしょう。ですが殺しすぎです。恐怖で縛るのもおかしい。喰うならわかる。でも遊びで殺してるのは歪んでます」

「あなた、竜よね? ちょっと人間臭い」

「………生まれた場所を間違えました。いいえ、だからこそそういう意識になったのかも」

「………私もよ。間違えた」

 クスクスと笑い会う。

「まぁ、でも……滅びはきっと来るでしょう。残された時間を有意義に使いなさい」

「………そうですね。あっ………そっか………それがあった」

「どうしたの?」

「………残された時間。そうですね……期待しましょう」

「……何を考えてるの? 読めないけど?」

「その時になったらお伝えします。彼が帰ってきた」

 優しく暖かい光の球が私の中に戻った。彼が帰ってくる。銀色の光沢を放ちながら、私の隣に降りる。

「ただいま……ここもそろそろ来るな。アイツ」

「そう……これが最後の逃走ね。次は奴と相対します」

「な、なにを!? 君では勝てないだろう!!」

「そうですね……ボロスとなら勝てる」

「……ウロ君は何をしようとしてる?」

「………未来が私たち竜にはあります」

「唐突に何を言ってるんだい? いつもいつも君はそうだ」

 ボロスが首筋に噛みつく。甘くこちょばゆい。

「もう!! ボロスこちゃばゆい!!」

「ウロ……教えてくれよ」

「……風竜と相対してからね」

 私はイタズラっぽく彼に言った。一人で悩んでいたのが馬鹿らしいと思いながら。






 空が黒く、雷が鳴り響く。その中心人物である風竜が他の竜を従えて飛んでいた。

 私は彼に追いかけられている。女であることも理由だろう。

「なぁ……逃げるのをやめて風竜を戦うってなんでだよ」

「……残された竜たちの自由のために」

「ウロ。俺は何をすればいい」

「最後まで生き残って」

「無茶苦茶な。ウロも生き残るなら……やってやろう」

「……うん。約束する」

 私は頷いて風竜の目の前に躍り出る。メイルシュトロームが笑みを浮かべた。

「やっと俺の女になる気になったか?」

「独善的でクソワガママで子供みたいに力を振り回すあなた……なんか……嫌いよ」

「ふん。力でねじ伏せればいい。滅びなぞ捻り潰してやる」

「何故、どうやって滅ぶか知らないくせに。なんで滅びが願われてるか知らないくせに。生体兵器なのも知らないくせに」

「子を沢山為せば滅びん」

「まぁ、そうね。変異する……でも……もう滅びは来ないわよ」

「何を!? お前が言い出した事だろう!!」

「……言い出した。でも見えた……滅んでいい。私たちは滅んでいいんです」

「………気でも狂ったか?」

「気でも狂ったのはあなたでしょう? 最初は私たちは言葉を持たなかった。私たちは知恵をもたなかった翼も」

 風竜が風をうねらせる。

「ウロ!!」

 バシュン!!

 小さな風矢が私の横を通り抜ける。鱗が数枚消し飛んだ。

「破滅主義者め。我が王となり全てを治め神に挑めば………滅びなどこない」

「余計なお世話よ………強き竜たちは滅びを受け入れた。お前だけだよ………受け入れてないのはな!! 神である私は囁く!! お前は危険だとな!! 滅びゆく竜の最後の時間を奪わせはしない」

「……ほう。自由を取るか」

「翼がある。まだ飛べるわ……遠くまで」

「………………はぁ。いいメスだった」

 膨大な魔法陣と黒い槍が精錬される。

「味はいいだろうか?」

「………じゃぁ。また会いましょう」

 魔法陣から黒い槍が打ち出され私を襲う。しかし、火を吐いて一掃し、ボロスを呼びつけてその場を飛んで逃げる。

「風竜……宣戦。覚悟しなさい」

 滅びはやって来る。やって来るその前に私は最後の預言を手にしようと躍起になるのだった。

 
§金竜ウロと自由な竜たち



 透き通る青い空、輝く太陽。嵐に削られていない木が生い茂った大地にその大地に丸にくりぬかれた広場に私は降りる。

「土竜グランド」

「………」

 大きな巨体の茶色いドラゴンが森の中心で目を閉じて大人しく寝ていた。

「ウロ嬢ちゃんか………」

「ええ、ウロです。金竜ウロですよ」

 のっそりと岩のような体を起こす。元々、ヘルカイトに対する牽制で私が協力を申し出た竜だった。今では……ヘルカイトは火山地帯に追い込み。ヘルカイトは火山の主人と喧嘩をしているだろう。

「なんのようだ? またヘルカイトが暴れたか? 暴れるのか?」

「ええ、そうです。ここから極南でヘルカイトが向かいます」

 嘘をつく。

「ふぅ。あいつが何故あちらへ?」

「わかりません……風竜に挑むのではないでしょうか?」

「……そうか」

 土竜は何を感じたのか私の目を見る。

「俺は悪さをしない。大人しく寝ているだけだ。だから教えろ。金竜ウロ」

「……嘘です。ごめんなさい」

「ふん……やはりな。お前の口癖……『予言により』が無かったからな。なんだその目は? 輝いてる」

「気を付けます。お願いです。土竜グランド、風竜を弱らせてください。あなたが選んだ滅びまでの時間……寝て過ごすと言いましたね?」

「ああ、どうあがいても滅ぶのだろう?」

「その時間……邪魔されたくないでしょ? 私もです。協力をお願いします」

 私は聞いてみる。それでもいいのなら……諦める。

「……ふぅ。風竜の若造が粋がってるのも気に入らん。縄張りを荒らされそうだし……いいだろう。邪魔されたくないからな。時間を」

 意思が本当に弱い。私が思う以上に嫌いだからとか簡単な動機で動く。魔物からは変わっていないほどに。

「ん?」

 私の体から光の玉が飛んでとクルクルと土竜グランドの周りを舐め回すように見ている気がした。非常にしっかりとみているのを私は首を傾げる。

「どうした? 俺を眺めて?」

「あっいえ」

 光の玉は見えないらしい。私は光の玉が戻って来る瞬間、何故かそれが微笑んでいるように感じたのだった。私は察した。彼は滅びず……未来に居ることを。そのあまりの露骨な行為に察した。死なないことを。






 北東、火山地帯を私は飛びながらドラゴンの死骸を見ていく。多くのドラゴンが死に絶えた場所。雲は排煙が混じり、パラパラと火山の塵を降らせ大地は白くなる。

 その場所で尖った岩石の上にドンッと2足で立っている竜を見つける。それがカッコつけているだけのようにも見えるのは私だけだろうか。

「ん? なんだ? 金竜」

「ちょっと。言伝て」

「……なんだ?」

「風竜って知ってるよね?」

「あの若造がどうした? 最近王にならんと言い暴れているのは聞いている。暴れるならナスティでも寄越させるか? しつこいぞ奴は」

「ナスティ君にも言ってみるけど。『ヘルカイトて雑魚だなって風竜』が言ってた」

 ピキィ

 空気が割れる音がした。鬼の形相で私を見てくる。

「風竜の場所はあっち。遠いけど」

「よかろう……若造が」

 バン!!

 力強く。紅の鱗と牙をもった竜が力強く羽ばたく。周りの岩が飛び散り私の鱗を叩く。

「金竜……俺の獲物だ手を出すな」

「はい」

 手出しはします。絶対に。最後に。

「……もし手を出すなら覚悟しとけ。今殺さないのは運が良いことをな」

「そう言って……ナスティくんに報告しますよ」

「……やめろ」

 ヘルカイトはナスティが戦闘では苦手だ。まぁあのドラゴンは恐ろしい。私も戦いたくはない。終わりが見えないのだ。そう、滅びを越えた種だ。

「……………まぁいい」

 ヘルカイトは踵を返して飛び立ってしまう。私はヘルカイトが馬鹿で良かった事に感謝した。







 ヘルカイトから出会った場所からさらに北に進むと。近寄ってはいけない小さき者たちの住み家と高い石塔という我らを近付けまいとする物がある。眼下には多くの小さき者が隠れ住み。そこから東へと行くと山の場所に沢山の湖が見えた。この綺麗な場所。湖の畔にツギハギのドラゴンが眠っている。

「ナスティくんこんにちは」

「こんにちは」

「ヘルカイトが風竜と戦いに行ったらしい」

「方角は?」

「あっち」

 指を差す。南を。

「ありがとう。ヘルカイトを止めてくる」

「頑張ってください。ヘルカイトも嫌がってましたね」

「はは……そうか。嫌がってるわりに絡むんだよなぁ~ははは」

 いろんな色の鱗の翼を広げて空を飛ぶ。

「ヘルカイトはやり過ぎる」

「今は風竜がやるんですけどね」

「わかってる。そろそろあの若い竜に世間を教えるか……」

 ナスティはそのまま私を無視して飛んでいった。私はそれを見ながら。ヘルカイトを「追っかけ」を眺め続ける。

「雌ならさぞ良かったのに」

 「そうすれば子孫残せるのに」と独り言を言うのだった。






 最後のドラゴンに会いに来た。場所は湖の集まる場所から南側を降り続け。火山地帯から離れた樹海の中に灰となった木々がある場所にそのドラゴンは眠っていた。翼の羽ばたく音で起きた彼女は私を見る瞬間。

 ゴバッ!!

 ブレスを吐いた。火の玉が私の横をすり抜け
る。

「火竜ボルケーノ。機嫌が悪い?」

「うるさい。寝ていたのよ………わかる?」

 周りに小さな火玉が幾多も生まれ、身動きを制限する。当たればきっと鱗を貫通してくる熱が生まれるだろう。

「まぁいいわ。お腹すいたし。いただこうかしら?」

「まぁまぁ……風竜は知ってるよね?」

「あの若造? 趣味じゃないわ」

「あれ、倒さない?」

「いいわよ。でもその前の……お前が倒されろ」

 ボルケーノの魔力が高まり。火玉が爆発しそうになる。だが……火玉は爆発せず維持したままになる。

「ん………金竜ウロおまえ抑える事が出来るのか? なら………これでどうだ!!」

「ウロちゃん。後ろに飛んで」

 私の頭に声が響き、翼で風を押して後ろに飛んだ。目の前に金色に輝く玉が何かを発し、私の魔力がごっそりと抜け落ちる。私の口から……知らない魔法が唱えられた。

十二翼の爆炎ジュウニのツバサ

 私の目の前で小さな魔力片が火花を出し、幾多の爆発を生む。火玉が飲まれ、力が力に飲まれて消し去られた。細切れの魔力で小さな爆発を起こし続けて威力をあげる魔法だ。

「すごい……」

 火玉が一掃され、自分自身が放った魔法に驚く。ブレスよりもいい。これなら嵐竜にも届く。

「金竜ウロ。やるわね……初めて見たけどその魔法教えなさいよ」

 ボルケーノが好機な目で私を見る。

「風竜と戦うなら教えてあげる。しかし、悪用はしないこと。暴れないこと」

「いいわ。その魔法にそれだけの価値がある」

 ボルケーノは頷いた。貪欲に力を求める姿勢に私は約束させたのだった。







 ボルケーノ魔法陣を教えて「南へ向かって」と言う。私は南へ行く途中。頭の声を呼んだ。

「なーに? ウロちゃん」

「今さっき、ありがとうございました。私ではどうやっても交渉は無理だったでしょう」

「気にしなくていいわ。私も教えて貰っただけだしね。この魔法は」

「破壊調整ができる。いい魔法と思います」

「無駄がないことはたしかにいいわ」

 頭の声に私はカマをかけようと思う。わかっていることをここで聞く。

「ネフィアさん。未来から来たんですね」

「いいえ」

「即答ですね」

「………まぁ違うから」

「違うなら……なんで土竜グランドの時はあんなにも見てたんですか? あれは『知り合いの昔の姿をまじまじみてる』と思ったんですけど?」

「珍しかったからよ」

「何処がですか?」

「他よりゴツゴツしててね」

「……彼だけ異様に反応し彼は見えませんでした。土竜グランドさんと未来で会っているんですね。それも深く」

「未来なんて知らないわ」

「………ネフィアさん。大丈夫。私しか聞きませんし言いません」

 私は確信する。未来を変えたくないという思いがある。だからこそ私は予言を変えたい故に聞く。

「未来は楽しいですか? これだけ答えて欲しいです」

「……楽しいでしょうね」

「ありがとうございました」

 私は頷く。私がやることはきっと。その楽しい未来のためにしなくちゃいけないことだと自信が生まれたのだった。私は滅びを越える予言の外側を知る。

    

§金竜ウロと魔王



 簡単に竜が集まった。私が思うより簡単に。だから私はクスクスと笑い続けていた。昔の彼らを見れたから。銀竜は無事に水竜と鋼竜を連れてきてくれるだろう。金竜ウロの中でそう思いながら青々しい空を見ていた。

「本当になんで簡単にホイホイ信じたり、死ぬかもしれないのについていったりするんでしょうね」

「ネフィアさん。それはきっとおバカなんですよ。まだ」

「おバカなんですか? 強い竜でしょう?」

 まぁ今を知る私にすれば「もう少し知性があってもいいだろう」と思うほどに弱かった。簡単に説得できそうだ。

「本能のままなんです。火竜を見たでしょう? あの火竜が一番竜らしいと言えるのです。ヘルカイトは違います。あれは私たちの上です。同種を殺そうとするのが私たちの性です」

「まぁ、生存本能では?」

「……生存本能なら雌雄で殺し会わず。言葉を持つなら会話し。愛を語るぐらいはしているでしょうね」

「語らないのですか?」

「ヤるときにヤり。殺したいときに殺し。食べたい時に食べる。言葉を話そうと結局は動物であり……唯一の話し相手は殺すのが大変な相手のみ」

「……あなたはそれが嫌なんですね」

 憎々しく語り出し、私は相槌を打った。そしてウロは答えた。

「嫌です。でも、そう作られているのでしょう」

「作られている……」

「世界樹に会いました」

「世界樹ですか。綺麗な人でしたでしょう?」

「人と言うより……綺麗な樹でした」

「彼女の名前はマナ……といいます」

「……」

 少し、声音を落としてしまった。気付かれたかもしれない。

「お亡くなりになっている程遠い未来からなんですね」

「……そうやってすぐに探りを入れるぅ」

「入れたいじゃないですか……だって。私は……長くないのでしょう?」

「……」

「滅びる前に知れることは知っておきたいじゃないですか」

 金竜ウロが気がついている。私の存在を。

「銀竜は幼い……寝ているなんて嘘です。そう……私は病で倒れ。一番見晴らしの綺麗ないい場所で眠りにつきました」

「それで……丘の上に」

「銀竜に告白せず……ただ、悲しんで欲しくなくて何も言わずに逝こうとしたんですけど……欲が出ました。もう少しだけ……一緒にと。そしたら……目が覚め。空が眩く見えました」

 金竜ウロから感謝も念が私に対して集まってくる。

「たまたまあなたに憑依しただけで……」

「たまたまですが。私にとっては奇跡でした。そう、思い残しを全て終わらせる時間をいただいきました。ありがとうございます。未来の人」

「人じゃない。魔族と言う亞人。そう我らは英魔族。それだけは譲れませんわ」

「………はぁ。ネフィアさんもしかして天使と言う空想の生き物ですか?」

「……」

 私は悩む。見た目はそうと言うしかないほど悪魔じゃない。

「夢で私を見せましょう。言葉では説明できません」

「はい……今夜が楽しみですね」

 夜の帳が落ちるまで。金竜ウロの話に私は付き合うのだった。まるで、金竜ウロが居たことを残すように。





 私の時間がやって来た。金竜ウロの夢の中で私は力をふるい。彼女が見たいだろう未来の光景を映す。場所はもちろん祖国、故郷だ。

 中央に大きな樹が都市を護り。大きな大きな外縁の壁。壁の外にも小さな砦が築かれ湯気を上げている。多くの種族が交わり。生き残った強めなワイバーンが竜となり竜人となり。空で哨戒している。私が住んでいた時の記憶を拾い。

 そして、何故か私自身が……懐かしさと寂しさで涙が出そうになってしまう。片手に何故かある。初代帝国の旗が今の私を昔とは違うことを示していた。

「あの日々は楽しかった」

 空いた片手でお腹を擦りながら、金竜ウロを待つ。

 ドシャ!!

「痛い……これ夢の中? 物理も何もかも………現実みたいな……って!?」

「ようこそ、我が故郷。都市ヘルカイトに」
 
 金竜ウロが空から落ち。石で出来た壁の上に叩きつけられている。その愛らしい姿に微笑みながら私は……彼女に言う。

「あなただけに見せる未来。あなただけに教える私の世界。滅びたあとの世界よ」

「滅び……たんじゃないのですか!?」

 金竜ウロが立ち上がり。都市を見渡す。

「だって!! あれ!! ヘルカイトが空を飛んでます!!」

「そういえば……たまーに徘徊してましたね」

「都市ヘルカイト……あの暴君が……こんな……」

「この都市はそう……奇跡でしたね。たまたま未開地にあり、たまたま聖樹が根付き。たまたま異種族同士の流れる場所になり。気が付けばこんなに大きな大きな都市になりました」

 声が出ないのか金竜ウロが見渡し……そしてまた。驚いた声を上げる。

「ヘルカイトに姿が変わったのかな? ナスティ君にボルケーノ!? あと……知らない竜が2頭」

 徘徊するヘルカイトに何匹かの竜が集まり上級である日の井戸端会議をしだす。ボルケーノが大人しく会話してるのに一番驚いてたが。私も昔の彼女の血の気がヘルカイト以上に多いのに驚いてた。隠したい黒歴史なのだろう。

「……そうなんですね。時間が知を与え理性を持たせられる」

「一応……大陸に残ってる竜はあれだけ。他は知らないの。一応竜は滅んだ。ワイバーンが生き残った」

「……しかし、人はまだ世界を手に入れてはいない」

「えっ?」

 私は驚いて金竜ウロを見た。金竜ウロと目が合う。一体何を彼女は知っているのだろうか。






 ネフィアさんの方を私は見た。未来の小さき人は……どういった人かを見ていなかったからだ。先に目の前の光景に目を奪われたからだろう。

 彼女の声の方を見る。見た瞬間に私は声が漏れてしまった。

 その小さな体には似つかわしくないほど大きい白い翼が広げられ、旗だろうと記憶からわかる物を片手で持ち。人間が過去に着ていた白いドレスのような物を着込んでいる金色の髪の天使に私は頭を垂れる。

 竜より遥かに高みにあり。絶対の強者。陽の光が彼女の姿を照らす。

「人がまだ手に入れてないのを何故……ご存知なんですか?」

「あ……はい。私は世界樹から知り得たのです。私たちは作られたと」

「作られた?」

「人に……」

「……そうですか。世界樹と一緒ですね」

「はい……だからこそ私たちは私たちだけしかかからない病がある。生存本能である子孫を残す事も難しく作られているのです」

「……」

「でも、滅びはないのですね。病や多くの犠牲を越えた先にこんな未来があるなら安心です」

 私は体を伏せる。

「ありがとうございます。ネフィアさま。未来を見せていただきありがとうございます」

「他言無用よ……それに風竜も生きている」

「……そうですか」

 我々が失敗し……それを変えに来たのだろう。

「私がここへ来た理由わかる?」

「風竜を我々に倒させるためですか?」

「違うよ? どれだけ強いか見に来ただけよ。そんだけよ。わからなかった?」

「えっ?」

「えっ? わからない?」

 沈黙。ネフィアさまの考えが読めない。私は首を傾げる。

「どうして来たんですか?」

「……いや。風竜強いから見に来ただけ……」

「あっそうか……ネフィアさま。強そうですもんね。倒せますもんね」

「……倒したい。どれだけ強いか見てどうやって戦うかを練る。初めてより、新鮮な情報が欲しい」

 私のすべき事はわかった。数多くの預言の中で私は小さな預言を見つけた。

「わかりました。我々が戦うのを協力してください……私の最後の散り様をお見せしましょう」

 難しく考え過ぎていた。滅びは来るが竜と言う種族が無くなるだけ。考えを変える。種族が変わったのなら……それも滅びではあるが繋がる。

「英魔族に竜は居ますか?」

「ヘルカイトがそう言いたいのなら。呼び名は自由よ。そう!! 私は英魔族婬魔……ネフィア・ネロリリスと言ってる。種族多いから自由よ。どうしてそんなことを?」

「見つけたんです。新しい事を」

 私の能力は預言。未来を見る能力。見つけた小さな光を……私はこの天使によって新しい予言を手に入れた。

「眩しいです……光を抑えてくれませんか?」

「だ・か・ら!! 無理!!」

「じゃぁ……ここを少し飛んでもいいですか?」

「夢だから好きにどうぞ~」

 クスクスと私は笑う。重りがスッと消えたかのように翼が軽かった。


 
§金竜ウロと風竜



 金竜ウロが風竜の元へ来たあと。多くの竜の死骸が横たわり。その中心で覇竜ヘルカイトと火竜ボルケーノ、土竜グランドに腐竜が風竜に対して攻撃を仕掛けていた。それと知らない竜一頭。夢で見た竜が一頭。銀竜が一頭だ。

 私は見たことのない竜を見る。水掻きを持ち耳ヒレ、背ヒレ等。青い体の竜だ。膨大な水量を操り。氷の槍を打ち出していた。その氷の槍も風竜が用意したのか黒い鉄の槍とぶつかり合い。防がれている。

 そしてもう1体。鋼の光沢を身に纏った竜が槍を弾きながら悠々と飛んでいた。私は囁く。

「化け物同士の争い」

 地面は抉れ、木々は薙ぎ倒され。この一体で破壊の限りを尽くされている。そしてこの破壊の嵐の理由は「強く目障りだからだけ」という軽い理由だ。共闘しているようで隙あらば攻撃を加えているのを見ると全員が目障りなようだ。ヘルカイトにくっついているナスティを見ると隙あらばじゃれているようにも見えた。この時から彼女はもうぞっこんだった。

「ウロ……遅かったな」

「ボロス………ええ」

 銀竜が金竜を護ろうと前に出る。膨大な鉄の槍の雨をその鱗で弾いていく。地面には幾つもの槍が刺さりそれが原因なのか……地面には絶命している竜が横たわっていた。

 金竜ウロがボロスの横について囁いた。

「ボロス……先に言うわ。長い時間が私たちに理性を生み出す。その先に緩やかな滅びがある。覚えておいて」

「ウロ……それが答えなのか?」

「そうよ……答えよ。私たちは亜人になれる」

「亜人?」

「ええ。きっと……楽しい楽しい生活が待ってるんでしょうね……羨ましい」

「ウロ!? お前………まるでお前が居ないような言い方だが?」

 金竜はその問いに答えず激戦の中を飛ぶ。咆哮をあげながら。しかし、戦いは終わらない。私には風竜があまりの数に詠唱が出来てない事がわかり。戦いにくそうにしているのがわかった。

 風竜の魔術は確かに風の魔術だが。私が知る人よりも少し考え方が違うのか。嵐を操り、黒い鉄のような物質を操るだけしか出来てない事がわかった。風で空壁を作ってブレスを止めているが。それを攻撃に転用しようとはしていない。

 知識で魔術を使わず。感覚で使っているのが目に焼き付いた。それは荒い。

「ネフィアさん………手伝って貰ってもいいですか?」

「……いいですよ。力を貸したことは言わないでね」

「はい……女神ネフィアさま」

「名前を言うのも禁止で女神でもない」

 私は彼女の頭の中で叫ぶ。

「なら、英魔王よ」








 ネフィアさんの声が響く。ネフィアさんはただ、蘇った風竜を倒すために調べに来ただけだった。弱い今の彼ではなく。老齢の強くなった彼に挑むために。

 勇ましく手加減せずに。白い大きな翼で挑もうとしている。未来を救うために。そして私は喜ぶ。勝たなくていいと。

「私の体はきっと……あなたが去ったとき。滅ぶでしょう。でも……最後に金色の花を咲かせてみせましょう」

「ロマンチストね。あなた」

「きっと、私の作られた時の言語の比重はそういうのが多かったのでしょうね」

「ふふ。私も好きよ。そういうの……でも……」

「ずっと私の中で過ごそうと思ってないですか?」

「えっと……」

「ダメです。私はもう死んでいる竜。未来に置いてきた人が居るでしょう?」

「……ええ。でもボロスはどうするの?」

「彼は強い竜です。どんな答えを出すかを見届けられませんが……これ以上の奇跡は贅沢です」

 私はもう一度咆哮をあげる。

「風竜に話がある道を開けよ!!」

 全く誰も話を聞かない。

「……声が届きませんね」

「………もう一度……今度は咆哮だけを」

「わかりました。すぅ……」

「音伝え」

 金竜は再度咆哮をあげた。その咆哮は竜たちの戦いを止めるほど大きくなり竜たちが一斉に五月蝿いと罵り魔法とブレスを吐いていく。

 バシュン!!

 金竜ウロ前に銀竜が立ちはだかり。翼を広げて全ての攻撃を受け鱗と血が飛び散る。金竜ウロは自分の声量とそのボロスの受け止めるために前に来たことに驚いた。

「ボロス!?」

「ウロ……大丈夫だな。さぁ……奴等の手は止まったぞ」

「ええ、ウロ……最後の通知を」

「わかった……風竜メイルシュトローム」

 金竜ウロの声は皆に届く。他の竜もその魔法に驚きながら黙ってしまう。新しい物に気になってしまう子供のように。

「なんだ、金竜。俺らの邪魔をするか?」

「あなただけ隠居しない。考えを改めませんか? 他の竜と同じように距離をとりませんか?」

「なに? 距離を取れと」

「ええ、長い時間をかけて。のんびりしませんか?」

「…………ふん」

「金竜ウロ!! 後ろだ!!」

 風竜メイルシュトロームが咆哮をあげる。背後に大きな魔方陣が生まれ大きい黒い槍が産み出された。それを放たれる。金竜の周りに光となって飛んでいた私は念じた。力を貸してあげたいと。だから、少し私の翼を貸してあげよう。

 バサッ!!

 金竜の鱗が剥がれ落ちる。柔らかそうな白金の羽毛のような翼が新しく生え。鱗も全て落ち、白く輝き光沢のある鱗が生え揃った。髪飾りのように尖った頭の鱗に手甲とまるで文明人のような防具を着ているような姿になる。

 そして、ゆっくりと迫った黒槍が背中の鱗に追突するが傷をつけるだけで弾かれる。

「……な、なに!?」

「「最後の忠告はした。皆とともに未来には行かせない」」

「だ、だれだお前は!!」

「「我が名は金竜ウロなり。風竜メイルシュトローム。お前は竜を殺しすぎた」」

 竜、全員が言葉を失う。そして風竜は焦り出した。目の前の竜の異様な姿に。

 私は……ネフィアはウロの感情が手に取るようにわかる。滅びる未来を見たが故の苦悩と己の生まれた理由に苦悩し……銀竜ボロスに救われたこと。銀竜ボロスを残して先に逝くこと。新しい未来の糸口を見つけ……その幸せそうな場に私がもう入れず寂しいこと。そして……今は目の前の皆のためにコイツだけは抑えようとする勇気が溢れた。

「ククク!! 金竜!! お前は力を隠していたな!! お前は今、だれよりも強い!!」

 ウロは剣を産み出す。緑色の大剣に柄から木の根のように拳から腕に絡みつき。直接魔力が流れ出る。
 
 私はネフィア様の事がわかる……ああ……こんなにも。苦労をしていたのか。こんなにこの人は弱かった。多くの人との出会いが流れてくる。色んな亜人、人間、竜が彼女の友であり親友であり家族なのだろう。羨ましく思いそして……感謝する。

 私たちは目の前の餓鬼に剣を向けた。多くの竜が遠くに離れ私たちを見つめる。

「「風竜……覚悟はいい?」」

 重なった声で重なった魂で。私たちは未来を掴む。

「覚悟か……ククク。お前を倒せば俺が最強だと言える」

 風竜の周りに多くの竜巻と私の周り360度、上下、左右が魔方陣に囲まれる。風竜が右手に魔力をため。左手に黒い槍を装備する。

「ウロ!!」

 ボロスの声が聞こえ。私はそのボロスの顔を見て微笑む。

「「言伝て……頼みましたよ」」

「ウロ!? どうするつもりだ!!」

「「未来に託すんです。こいつはどうやっても……理性を手にはしないでしょう」」

 私は翼をはためき金の鱗が飛び散り。魔力によって燃え上がり、魔方陣の黒槍が同時に打ち出される。
 
黒い槍の雨死ね金竜

「「金翼の爆炎じゅうによくのツバサ」」

 私たちと風竜が叫んだ。己が正しいと信じて。


§金竜ウロと風竜②



 風竜は弱かった。ブレスも吐くことが出来ず。誰よりも若く。しかし、彼は空を見続けた。バカにした奴等を見返すために努力をした。

 ゆっくりとゆっくりと風を操りブレスの吐けない竜と罵った奴を全て滅ぼした。

 竜の亡骸の上で彼は叫ぶ。こんなにも弱い種なのかと。

 彼は色んな竜を見て己より強い竜を捜し魔法を鍛え。ブレスが吐けない事を克服し。名実共に風の竜として君臨する。

 君臨した彼はもっと強くなれると知り。もっと上へ。「俺は初めての竜を統べる者となる」と決める。滅びる運命を力で覆せると信じ。

 しかし彼は……傲りを持っていた事をこの瞬間に知った。それを私たちは理解する。

「お前は……」

 目の前に黒槍による。全方位からの攻撃を知らない魔法の爆発に飲まれ。溶け、魔方陣ごと呑み込まれた。その中心から爆炎の火を纏いながら一直線に突っ込んでくる。その真っ直ぐの殺意。2重に睨んでいるのか重々しい。

「何者だ!!」

 風竜は目の前の竜が別人と思うしかない。右手で風を集めた玉を打ち出し。それの暴風で距離を取らせようとした。しかし、暴風を撒き散らす前に剣で切られ暴風が裂ける。綺麗な剣筋を全くしらず困惑する。

「ちっ!! ……ぐぅ!?」

「「魔力の使いすぎ」」

 今さっきまでの戦闘が響き。風竜は歯噛みする。

「小癪なぁあああああ!! メイルシュトローム!!」

 大きく声を張り上げ、周りの竜巻が混じり一本の大きい竜巻へとなり、風竜を飲み込んだ。私は咆哮をあげ、その嵐に突っ込む。苦し紛れの魔法であり、これを越えれば風竜は今何も出来ない。

 ゴオオオオオオオオオ

 周りの旧き竜達が驚きながらも金竜の行方を見た。

「「がああああああああああああああ!!」」

 嵐に入り、私は目の前の中心で魔力を回復している風竜に肉薄した。剣を構えて。

「ふん!!魔法がなくとも!!」

 視線が混じり。剣を突き入れる。






 金竜ウロが嵐に正面から挑む。俺は……その勇敢な彼女に目を奪われると同時に疑問に思う。

 彼女にこんな力があったとは思えない。だが……あの嵐に全く動じずに突っ込んだ。

「何が起きてる?」

 重なった咆哮に驚きながらを。銀翼で突っ込める用意をする。嵐はまだ収まらない。他の竜も何が起きているのか様子見だった。

「……!?」

 シュルルルル!! バァアアン!!

 嵐の竜巻がゆっくり勢いが緩み一瞬にして消え去る。中心には………

「ククク………ハハハハハハハ!! ビビらせやがって!!ハハハハハハハ!!」

 黒い大槍に腹を深く差し込まれた金竜の姿があった。剣は届かず。槍が先に腹を貫き………金竜ウロがゆっくり剣をおろし………緑の粒子となって消え失せた。

「ウロぉおおおお!!」

 俺は咆哮をあげる。絶望に叫んでしまう。

「所詮、この程度………俺が最強の竜なり!!」

「………」ピクッ

「ん?」

 槍に貫かれ絶命しているように動かない竜の手が少し動く。

「まーだ生きてるか!! さぁ!! とっとと……!?」

 グイッ!! ガシ!!

 金竜が顔をあげて、風竜よりも大きい大翼を広げ羽根を撒き散らし風竜を包む。

「な、なに!?」

「未来へと」

「な、なにを!! 離せ!!」

 金竜ウロががっしりと槍を掴み。風竜を抱き締める。

「風竜……終わりよ。ボロス来て!!」

 叫ばれ俺は彼女の近くまでくる。見ると何故生きてるか不思議なほどに突き込まれて痛々しい。しかし、彼女は強く言葉を続けた。

「詠唱手伝って」

「な、なにを!? 未来へと」

 勝手に口が動く。

「「未来へと続かん。ウロボロス円環の永き眠り」」

 魔力がごそっと無くなり。風竜の動きがゆっくりになっていく。

「くっ!? 体が!!」

 風竜の体から魔力が溢れ、結晶となり風竜を覆っていく。

「金竜ウロおおおおおおおお!! 許さん!! 許さんぞおおおおおおおお!!」

 大きな絶叫が空間を震わし。そして、結晶はとうとう、風竜を包み込んだ。青色結晶に封印され。金竜ウロとともに落ちていく。黒い槍が刺さったまま槍はポロポロと砂鉄になった。結晶から翼が離れ、羽根を撒き散らしながら落ちていく。

「ウロ!?」

 俺は慌てて、落ちていくウロを掴み抱き寄せて。地面に落ちる瞬間、彼女を庇う。

 ドガッ!!

「がっ!? 重ぇ………」

 彼女の体は………金属のように冷たく。鱗は光を失っていた。そう……まるで……眠るように目を閉じていた。

「ウロおおおおおおおお!!」

 俺は……叫んだ。






 ここは何処だろうか。見たことない窓の前に私は立っていた。

 ひとつ見覚えがあるのは……目の前にある少年の姿だけである。ベットに横になっていた少年が体をあげる。

「お姉さんは? だれ?」

「私は……」

「天使かな……僕はもう。ダメなんだね」

「えっと……」

「ふぅ……羨ましいな。翼があって空を自由に飛べて」

 何なんだろうか。ただ私は何となく手を差しのべる。知り合いだからだ。今さっきなにか戦って居たような気がする。私はデラスティに触れる。

「お願い。天使さん……」

「天使ではないですが何でしょうか?」

 私は彼の手を掴み頷く。







「僕に翼を……ください」










「んあっ!?」

 私は……温かい夢の中から目が覚めた。風は無く、貪欲な黒い空模様が続いている。

「やっと起きたかネフィア。長く寝ていたが……大丈夫だったか? 泣いていたりしてたが?」

「う、うん………なんでもない」

 私は夢であった事、思い出していた。

「情報は?」

「いっぱい……貰ってきたよ。倒せなかったのは仕方ないけど……でも。デラスティの夢もあった……」

「飛竜デラスティ?」

「うん」

 私は頷く。戦いの終わったあとに何故か彼の夢を見た。そして……私は何となくだが彼が鍵を持っている気がしてならない。夢に出ることはそういうことだ。直感がそう囁く。

「彼……そう……まるで私が彼を引っ張った」

 そう手を伸ばし掴んだ瞬間……私は夢から上がったのだ。彼の手を引っ張り。

「ネフィア……何かわからないが……そろそろなんだ」

「えっ?」

「ネフィアご主人起きたか……見えた」

 私はトキヤの腕のなかで前を見ると。大きな竜巻と爆発が見える。

 そう、すでに戦っていたのだ。私は数日も眠りに落ちていたらしい。

「……ネフィア。時間がない。作戦を練るぞ」

「うん……」

 私は頭痛がする頭を振って。二人に話を始め、「私の仕事は囮になるだろう」と言うことを説明する。

 トキヤはすべてを聞き頷き、私のおでこにキスをして、土竜ワン・グランドから旗だけを持って降りる。

「ご主人……ヤバイですね!!」

「ええ」

 私は先にフェニックスを飛ばし、無理矢理魔法を唱える。白くなっている火の鳥に驚きながらも。爆炎とともに風竜に接敵するのだった。


§風竜王と英魔王
 


「私の目の前で………悲愛は認めない!!」

 声を響かせる。私の信念に近い物を叫び現れた。

 黒い槍の雨が横凪ぎの嵐を何十、何百の爆発で吹き飛ばした。赤く………青く………そして白く輝きながら燃える鳥を風竜の目の前に出現させ、ナスティを包み込み。風竜から引き剥がす。

 風竜の手の鱗が剥がれ落ちている。私の攻撃が通る事がそれでわかった。

「何だ!?」

 風竜がこちらを見る。貪欲な黒い雲の中で隠れながら様子を伺っていた私は風によって雲を凪ぎ払い姿を晒す。大きな大きな白い翼を広げてやつを見た。

 歌声を響かせる。魔力を伝え、回復呪文を唱えた。魔力は最大出力だ。

「お前は………誰だ。いったい………地竜の姿もだが……」

 風竜が狼狽えていた。その目には確かに覚えがあるのだろう。私の羽根の姿に。

「名を名乗れ!! 王の面前であるぞ!!」

 ワン・グランドと共に皆が黙り私を注視していた。自分を鼓舞するために頭の中で覚えのある荘厳な音楽とともにその場の雰囲気を変える。敗色濃厚な空気を振り払うつもりで胸をはる。

ザッ!!

 大きなドラゴンが描かれた旗がはためき……それを地面に突き刺した。陛下から戴いた宝具。ただの旗が多くの英雄とともにあり。いつしか力を持った皇帝旗だ。

「………人間?」

「いいえ、英魔族……そう!!」

 帝国皇帝陛下の旗の隣で私は名乗る。初めてな気がする。ここまで本気に叫ぶのは。

「我は英魔共栄国!! 初代女王!! ネフィア・ネロリリスなりや!!」

 堂々と宣言した。そう私は魔王様だ。

「お前が……魔王。あの女神が言っていた。そうかそうか、長き眠りの間に出会った女神だが。奴が嫌がるのも面白い……我が最初に」

「金竜ウロ程度にやられた竜がなんですって? えらそうに」

 ピクッ

「胸張って堂々としてても理性は生まれなかったようですね。まぁ~あの金竜が見捨てるのですからそうでしょうね」

 ピクピク

 私は風竜の周りの風があわだたしく荒れ始めるのに笑みを溢した。最高に挑発が効く。

「最弱のエルダードラゴンさま? どうされました?」

 がああああああああ!!

 暴風が私を凪ぎ払おうとするが私は1回転し翼で追い返す。風を弾く事が出来た。

「そよ風が通ったかしら?」

「小さき者よ!! その蛮勇後悔させてやる!!」

「……いいでしょう。かかってきなさい!!」

 私は本当に心の底から愚かと評し。視線を私に向けることが出来た。頭の中で……勝利への道を考える。

「何分で行けるのでしょうね?」

 バサッ!!

 私の隣にボルケーノが降り立ち。こっそり耳で伝えていた。「囮作戦があるから来て」と。

「ネフィア……怒り狂ってるじゃない。奴」

「……背中乗せてくださいね。作戦通りに囮をやりますよ」

「本当に……数分持つの?」

「持たせるのです……何としてでも」

 火竜に乗り、彼女は土竜から手綱を受けとる。

「本当に……ボルケーノ。昔に比べて……」

「なに!? いきなりなによ!?」

「いいえ、行きますよ!!」

 私は大きく叫んだ。倒すために。

「旧き竜よ!! 私に力を貸して!!」

 旧き竜たちは私の問いに咆哮で答え………新しい血筋の竜は私に「切り札となれ」と伝えられてその場を去った。






 僕は……ネフィア姉さんから一つ託された。壁の上で陽光差す中で……僕の耳元で囁かれる。

「空、見たいですか?」

「……あっ。あっ!? あっ!!」

 僕は……姉さんの手の暖かみと力強く引っ張られているのを思い出した。

 僕は……理解した。いや、思い出した。あの日の光景を。あの日出会っていた事を。

 一度、故郷に顔を出した。生まれ変わる前のあの日。そう、天使を見たのは覚えていた。ただ誰か……声も顔もボヤけていたのが今はっきりと思い出す。死神だったような気もするがそんなわけではなかった。

「あなたの空で……彼を倒しなさい」

「ぼ、ぼくが?」

「もちろん……時間は稼ぐ。誰よりも越えている物があるでしょう」

「ネフィア姉さん……」

「さぁ!! 早く!! あなたが切り札となれ」

 僕は小さい翼を広げ飛び。くるっと回って都市から離れていく。

「……痛いだろうなぁ」

 思い出したかのように僕は……劣種ワイバーンの力で竜に挑もうと思っている。空はどんよりした雲で覆われ、それが嫌なのでそれを切り裂きながら。ゆっくりと速度をあげる。

 空は青く、何処までも続いている。

「あの、初めて飛んだ日もずっと夜になるまで飛んで……竜姉に怒られたっけ」

 過去を思い出しながら。目を閉じた。あの日窓を飛び出した日を思い出しながら。





 飛んだ。彼は何をするかはわからない。だけど彼ならきっと何かするだろうという直感だけで。最後の攻撃を任した。

「加速速い」

「そうだろう!! あいつは私が育てた!!」

「はいはい、ボルケーノ。彼は凄いね」

「ふふふ」

「しねぇ!! カトンボ!!」

 ヒョイヒョイ!! ガン!!

 黒槍の猛攻を避けながら、私は炎弾で撃ち落とす。ワイバーンデラスティの攻撃がどんなのになるか……少し予想がつくのでそのまま時間を稼ぐ。

「……逃げ惑って何もしないか!!」

「……」

 逃げ惑っているが。槍の本数が増えていくのを見るとジリ貧になることがわかる。そして……あまり風竜を動かさないのも重要である。

「ボルケーノ……今から。護りはやめよ」

「……ネフィア?」

「攻め続けるわ。防御だけさせ続ければ……」

 火竜の背中で大きく翼を広げ。私の炎の鳥が分離する。翼を維持したまま……同時に。

「うぐっ!?」

「ネフィア!?」

「大丈夫……ちょっと頭痛がするだけよ。最大出力で魔力を放出するから」

 ジュクジュクと頭が痛み。背中や体の内から抉られるような痛みが私を苛む。魔法行使の対価。負荷が体に出ている。回復魔法を越えた体の悲鳴だ。
 
「………!?」

 風竜が黒槍を止め、何か感じ竜巻を生んで、身を隠す。竜巻に小さな刃が混じり、突っ込めば切り刻まれるだろう事が予測できた。風竜なりに金竜の突貫を許さない方法を考えたのだろう。封印されているときに。

「ボルケーノ……暴れるの好きでしょ? ヘルカイトより」

「……まぁ、ヘルカイトより好きじゃないけど?」

「素直じゃないね」

「うっさい……昔を思い出すような発言すな」

 白い炎の鳥が竜巻に突っ込んで爆発を続ける。何度も、何度も爆発を繰り返して竜巻を消そうともがく。

「くぅ……まだよ、まだ!! 同時詠唱!!」

「「爆炎の二重翼じゅうにのツバサ!!」」

 魔力がボルケーノと私から霧散し、大気に混じる。それが竜巻に巻き込まれ。幾多の爆発を産み、破壊を撒き散らしたら。黒い刃が砕け、竜巻は捻れ、歪む。魔力片が滅んでいく都市に撒き散らされ都市で役割を終えた筈の魔方陣が息を吹き返す。それを利用させて貰う。

迫撃砲!!全て吹き飛べ!!

迫撃砲!!全て吹き飛びなさい!!

 再度、魔力をもらった魔方陣から大きな炎の弾が上空の竜巻に向かう。

「がぁああああああ!!絶対なる風壁メイルシュトローム

 竜巻が紅く膨大な熱を巻き込み、炎の渦になる。中の竜が蒸し焼きになるほどの熱量を蓄える。

「ボルケーノ……もう1回行くよ」

「ま、まて魔力がない………」

「まだ、ある!!」

 私は魔力をボルケーノのに流し込んだ。何故、そんな事が出来るかわからない。でも私の魔力は竜を越えていた。体が痛むが我慢して対応する。

「ま、まちな!! 私は竜だから連発しても……そんなことにはならないけど。お前は持たないぞ!?」

「ツベコベ言うな!! 余は魔王ぞ!! 無理を通してこそだ!!」

「わ、わかったわよ!!」

 私は痛みと何処から流れている血をなめとりながら魔力をだし続ける。手綱を持つ右手の感覚が一切ないのを気にもせずに。いや、痛覚がゆっくり死んでいきながら楽になる。




地獄の業火ヘルブレス!!」

火の玉ブレス!!」

 私はヘルカイトのそばで竜巻にブレスを吐き続ける。一応ドラゴンの発熱器官も持っているので弱いながらも玉を吐けた。

 しかし、お隣では熱線と言うべき。極太い柱の魔力の渦のような物を吐き続けるヘルカイトがいて添え物程度の威力だった。

「げほ………げほ……」

「ヘル!?」

「まだ、いける。くっそ化け物め……あれだけの攻撃を防ぐか」

「……私が足でまといなの……ごめん」

「……いいや。帰りはおんぶしてくれ」

 ヘルカイトが弱音を吐きながら……もう一度力を貯める。ドラゴンゾンビと言う弱さに泣く。

「まったく……化け物同士だな。火竜ボルケーノの魔力が回復していく。あんな小さい体に何処まで貯めてるんだ」

「……わかった。温存する」

「俺が喉が焼ききれてぶっ倒れたら頼むぞ」

「ええ」

 ヘルカイトはもう一度ブレスを吐き出した。絞り出すように。







「くぅ………………痛うっ!?」

 痛みが復活する。頭に拳を殴られた痛みではなくナイフで突かれたような鋭い痛みだった。

「ネフィア!? 大丈夫なの!?」

「ふぅ……ふぅ……はぁ……ええ。一瞬だけ気を失ったけど起きたわ」

 右目が痛む。全身が針で刺されているよう激痛。皮膚の至るところから血が滴り、痛みが死んでいたのが復活させて私の体は限界が近い事を告げる。魔力の多大な喪失による気絶と痛みによる復帰を繰り返しながら。風竜の防御を崩そうとする。

「風竜……本気で防御に専念してるね」

「ええ、どうやって攻撃を通せばいい?」

 嬉しいことにボルケーノは私を頼ってくれる。

「突っ込みましょう。そろそろですね」

「……あの竜巻に?」

「ええ、そう……」

 頭を振り、舌を噛む。また痛みが引き、眠りそうな頭を無理矢理まだ痛覚が生きている場所を傷をつけて起きさせた。

「行きますよ!! 風竜聞こえてるでしょう!!」

「……」

「今から行ってやります!!」

 風竜の竜巻に向けてボルケーノは飛ぶ、そして。

「ククク!! お前らの猛攻!! それで終わりか!! 俺は耐えた!! 耐え切ったぞ!!」

 野太い歓喜の声に私はにやつく。ここにいる竜は一応疑問に思っていた。私の伴侶を。

 一人、いないことを。猛攻にそんな小さな人間を気にする奴はいない。

「対抗呪文。嵐を支配する者ストームルーラ

 私の愛しい人の声が響く。崩壊した壁の上で術式を描ききり、魔力を流して魔法を唱えた。

 炎を纏った竜巻の回転が弱まり。地面に破壊の跡を残して消え去る。雲が風竜の周りから消え去り、陽が差す。

「な、何が!? 何を!?」

「力があると。技術を鍛えようとはしないわな」

「もう一匹いただと!?」

 相手の力を利用し逆回転の力で緩ませる。足りない魔力は全て私から貰い。私の彼は長い間、風を操ってきたので技術なら上だろう。力の流し方もわかっている。だから打ち消した濃厚な魔力は上空へと上がる。不意打ちの得意な彼らしいいい仕事だった。

「ネフィア。俺の仕事は終わった」

「「…………永き眠りに墜ちろ」」

 ボルケーノが風竜に近付きながら、私と同時に唱える。風竜はその詠唱に覚えがあるように体を捻らせ黒い槍を手に持ち、投げ付ける。

 私の声真似はよく効くようだ。

「やめろおおおおおおお!!」

「…………ばーか。ウロとボロスじゃないから唱えられない。最後の一矢を受けてみよ!!」

 私は舌を出して、してやったりの顔をしたあと。ゆっくりと手綱を……力が入らず。スルッと抜けてしまった。

 体が重く感じられ、指一本も動かせずにボルケーノの背から落ちる。黒い槍をボルケーノが避けようとした瞬間。振り落とされた私はそのまま落ちていく。





 ボルケーノは背中のネフィアが落ちるのを感じ慌てて拾おうかと身を捻ろうとした瞬間だった。

 一閃。刹那的に時間がゆっくりとなり目の前の光景が飛び込んでくる。

 目を閉じたワイバーンがネフィアに気を反らされた風竜に体当たりをするだけの光景が見えたのだ。

 しかし、それが刹那的な光景なのはボルケーノは吹き飛ばされてわかった。遅れて聞こえる愛しい我が子のように育てた子の勇ましい声でハッキリ何が起きたかを知ろうとする。

音速弾ソニックブリッド

 キィイイイイイイイイイイン!!

 甲高い。魔力の擦れる音と風圧に鱗が裂け風竜から距離を離される。驚くべきは歪んだ音と共に空間が捻れていたように彼女は感じた。彼女は何が起きたか、近くではわからなかったが風竜の驚いた表情と共に、真っ二つに千切れ飛んでいるのを見て理解する。

 それに混じり、ワイバーンがクルクルと鱗が剥げながら地面にぶつかってバンバンと弾けながら転がっていた。

 風竜の絶命の叫びが木霊するなかでボルケーノのツバサが千切れたワイバーンの元へ飛んだ。ネフィアを忘れて。
 
  




 落ちる。墜ちる。堕ちる。

 金竜の私の体から彼女の力は無くなり、痛みも苦しみも何もなくなる。

 ネフィア様の力が抜け、魔法が解けてしまった。落ちる私は誰かに受け止められていた。

 地面に落ちる衝撃はなく。暖かい何かに抱き締められている。

「ウロおおおおお!!」

「んっ………」

 耳元で叫ばれ目を開けると。愛しい銀色の竜が私を見ていた。一番始めに理性を持っていそうな彼に最後を看取ってくれるのは嬉しいことなのだと私は思う。

 あのまま、眠ったままだったら。こんな事は起きなかったし。そう、やっぱり後悔していただろう。

 私は「彼が苦しむから黙っていよう」と思っていた。けど……「彼は強いと信じて言おう」と思う。最後の奇跡をありがとうございます。

「ウロ!? 大丈夫か!? 何処でそんな力を!!」

「ふふ、天使って居るんですよ。きっと……ねぇボロス。私はもう……永くない。先に滅びるわ。病ですでにそう……すでに死んでたの。ちょっとだけ天使が動ける力をくださったの」

「ウロ!? 何を言ってるんだ!!」

「……ボロス。最初に戦ってから……ずっと、ありがとう。幸せだった」

「う、うろ……あ。ああ。まて。逝くな!!」

 銀竜の目にも涙が浮かぶ。私は嬉しく思った。始めに理性を手に入れてくれて。それは愛情だ。

「ボロス。大好きだった。ありがとう………そして……おやすみ。生まれ変わったらもう一度……竜がいいなぁ……今度は使命もなにもない。ただの竜に……」

 瞼が重く。ボロスが何を言っているかも聞こえず。私は目を閉じた。色んな想い出の中で………ゆっくりと………何も………おもい……






「ネフィア!?」

「んあ……」 

 暖かい胸の中で私は目覚めた。陽が眩しく。愛しい彼の顔を見て……私は微笑む。

「金竜ウロちゃん………約束は守ったよ………新しい若い竜がやり遂げた。倒したよ」

「ネフィア?」

「だから……大丈夫。もう、彼らは………人だから」

 トキヤはため息を吐きながら「またか」といい。強く抱き締めてくれる。遠くで竜たちが言葉であーだこーだと喧嘩していたが。なんとかなったみたいで一安心する。

「トキヤ……疲れた」

「ああ、お疲れさま」

「おやすみなさい」

 私は彼に抱かれながら、眠る。真っ暗な夢へと落ちた。落ちた瞬間……ウロを抱き飛ぶボロスの夢をみる。何処かへ旅立つ姿の夢をみるのだった。遠い遠い竜の墓場へと向かう姿を。


 
§勝利の対価。残った後遺症



「ふわぁ~ん~~」

 私は起き上がった。フカフカのベットに大きな広い部屋。私を閉じ込めるだけに用意された寝室の風景に懐かしく感じる。「寒かった時期も終わりか~」と思いつつ。背伸びする。窓の外等を見ると昼頃らしい。

 ジクッ!!

「つぅうううううううう!?」

 背伸びした瞬間。全身に皮膚の内から針で刺された痛みがして私は叫んでしまう。

「魔力使いすぎたツケね………まぁ大丈夫。生きてる。ちょっと周りもボヤけてるけど大丈夫………トキヤどこぉおおおお!!」

 生まれたての雛のように旦那の名前を私は叫んだ。扉の前で物音がして、慌てる雰囲気がする。待っていれば大丈夫だろう。

ドタドタドタドタ!!

「ネフィア!?」

「おおお、3分ぐらいで来た」

「起きたか!? 痛いところは!?」

「あーまだ。全身が少しピリッとする」

「……そうか。まぁ血だらけで回復魔法も薬も効かなかった程。重症だったからな」

 攻撃を受けた訳じゃなくても重症だった。魔法と言うのは諸刃の剣とは思っていたけどここまでとは思わなかった。いや……気にする暇は無かったのだろう。それだけ奴は強い竜だった。

「……皆は?」

「皆は一部竜化できないほど弱まり、そのままナスティに乗って都市に帰した。グランドも何故か力を失い。ドレイクの姿だ」

「ふーん!! まぁいいの!! トキヤさん~ぎゅうしてぇ~なでぇ~も」

「起きていきなりそれか………」

 私は呆れるトキヤさんに触れようとした瞬間……伸ばした手が空を切った。

「あれ?」

 何度も何度も。空を切る。ブンブンと振り回しても掴めない。

「ね、ネフィアお前……」

「おかしいなぁ……」

「……ネフィアそのまま」

 トキヤが私の空を切る手を掴む。暖かく逞しい手にドキッとした。

「トキヤの手~大きい」

「お前……自分で気が付いていないのか?」

「ん?」

「左目隠すぞ」

 そう言って私の左目を手で隠す。彼は繋いだ手を痛いほど強く握り締めながら。

「………どうだ」

「手しか見えない」

 そう、私の目の前が完全に塞がる。

「ネフィア……」

 手を退かしたトキヤが手鏡を持ってくる。

「右目が……青い」

 左目と右目で色が違い。右目が青く。左目は金色だ。

「ああ、お前の目はコロコロ色が変わる。だが……両目同時だったし、今のお前がまるで『距離感を掴めてない』と思い。もしかしたらと思ったが……」

「右目……見えてないね」

 左目を閉じると左目だけほんの少し瞼の裏が明るい。それ以外で……全体的に左寄りに見える。ボヤけていたのがおさまり。右側が見え……にくい事に気が付く。

「ネフィア……気をしっかり持て」

 優しく抱き締めれらながら、頭を撫でられる。

「トキヤ……優しい。大丈夫……こうやって触れられるし。足もある。手もある。あんな事やったあとだもん。右目だけ。見えなくなったのでよかったよ」

「わからない……右目だけか……立てるか?」

 私はトキヤに手を添えてもらいながら立とうとして……力が入らず。トキヤに抱き締められる。

「あっ……うっ………ちょっとまだ。力が入らない。それと……なんだろ。足……あるよね?」

「ネフィア……医者を呼ぶ」

 結局……私は一人では立てなかった。





「うむ………」

「先生どうですか?」

「姫様の具合は?」

「………はぁ」

 先生と呼ばれる白衣を着た牙と角を持ったオーガ族の首都の医者は首を振る。最近、増えたエルフ以外の多種族の医者である。

「魔法で確認したが目は完全に失明。足に関しては……少し痛覚などの感覚が薄い。全くない訳じゃないが『感じにくい』と言うことだと思う」

 色々とさわりながら私に質問し受け答えての判断だ。

「感じにくいのやだ!! 行為するときどうするの!!」

「……ネフィア。軽く空気を和ませようとするのはいい。もう少し休んどけ」

「えっ?」

 いや、本心なのに。皆が顔を背ける。痛々しい物を見るように。

「ちょ、ちょっと空気重たいよ!?」

「トキヤ殿、話があります」

「ああ、先生。ありがとう」

「いいえ。ワシは何も出来なかったからの……」

「いえ……いえ……では姫様……安静にお願いします」

「ネフィア。寝とけよ……大人しくな」

「今は安静が一番です。一応痛み止めの劇薬は置いております。苦しくなったらお飲みください」

「あ、ありがとう」

 皆が優しすぎるのが少し怖い。ぞろぞろと部屋を出ていく。

「……何を隠しているんだろうか?」

 私は天井を仰ぎ。体を抱き締める。

「はぁ。歪んでる」

 天井は歪んで見える。まだ本調子じゃないらしい。痛みも耐えられるぐらいだが……痛覚を戻すと皮膚を抉られる程度で問題ない。

「………んぅ。寝よ」

 私は横になった。モヤモヤとした心の状態で目を閉じる。





 私はエルフ族長独断で止めるのが正解だったのではと悩みながら、執務室でトキヤ殿と椅子に座り話をする。フィアには席を外してもらい。誰も居ないことを確認して話を始める。

「姫様が目覚めるまで1ヶ月……動きが速い」

「連絡は寝ずに早足で1週間前だとしても商品の流れと噂を加味しても……やはり現実味が出てきたな。帝国に物資が集まり続けている」

 トキヤ殿が帝国内部の情報を纏めている。やはり元帝国騎士。それも黒騎士であったために詳しく。帝国内の偵察者も素晴らしいほどに情報をいただけている。

「……北伐の計画は多かった。そうだな……帝国の最大の敵は我らの旧名、魔族だったな」

「……何故。この時期と思われます? 私めはまるで……ネフィア様が弱い時を狙ったように見えます」

「今が全て丁度いいのと………時間がないためだな」

「時間がない?」

「北伐が見送られたのは魔国は烏合の集と思われていた。それよりも隣国に危険因子が多く。東は連合。南は魔法国家。西はマクシミリアン騎士団があり。全方位敵だった訳だ。皇帝が生きている間に中央は帝国の物となり非常に強権だったために今がある」

 私は生まれてから、今の帝国を知っているだけで昔はしらない。エルフでは若造である。まぁ森を出た種族では古参だが。

「北伐するよりも……他を倒すべきですか?」

「全面戦争は大変だ。だからこそ勝手に滅んだマクシミリアン王国は帝国にとっちゃ運が良かった。現状は帝国領マクシミリアン自治国。味方に与してる。そして、最近。二つほど懸念事項が減った」

 それは……どういう事か私にもわかった。時代の奔流が速い。まるで姫様が生まれてからの数年で世界がこうまで変わるとは誰が予想出来ただろうか。

「一つは……連合国の敗北。第二回東伐で決着した」

「なぜ第一回は失敗したのにもですか?」

「失敗した? 有能な騎士、魔法使いは全部消した。白騎士団は壊滅したが帝国の被害は兵士のみが多い」

「……どういう事ですか?」

「連合国騎士団壊滅。将と呼べる騎士は皆、俺達が斬り伏せた。第二回、第三回と何回にも分けて国を疲弊させ。そして……」

「抵抗余力を全て消し去るのですね」

「そう。降伏するまで続ける。それが出来る国力なんだよ……そして。今回」

「今回は何か?」

「南側、魔法を主とする帝国領の危険因子が消えた」

「あれは帝国の領土では?」

「帝国の奪った領土だ。チマチマ暴動も水面下で色々といざこざがある国だった。南騎士団は平和のようで非常に屈強なのが多い理由だな」

 風竜と言う天災がそれを全て消し去ってしまった。結局、帝国の益だった訳だ。それも折り込み済みなのだろう。

「四方で最後に残ったのは……我々」

「ああ。もう北に行く準備が揃った。そして、今………俺達は英魔族で手を握ってしまった」

「……脅威と見なされましたか」

「烏合の集が手を組んでひとつになる前に手を打つのがいいが。手を組んでいる間の今も攻めるのは丁度いいともとれる。出る釘は打たれるからな………」

「……内政志向でしたが。そこを狙われた訳ですね」

「ああ。今から軍の編制。国境に配備は厳しい。国境も広くなった」

 私は大きくため息を吐く。今から……そう、今からやっと纏まり、国を栄えさそうとしている時に横槍を入れられ。いや、刺されている気分だ。逆にチャンスでもある。

「ネフィアが弱い今だとも……言えるし……悲しいかな。俺達は弱い」

「……どうしてそうと?」

「あっちは何年も戦争している。こっちは族長同士の喧嘩だけ……経験が違いすぎる」

「……敗北濃厚と?」

「今の俺にはそうとしか思えない」

「挙兵はいつでしょうか?」

「いつでもいい。冬を念頭に長期間戦うならな。いや、長期間になるだろう。物量で目一杯攻めるべきだ」

 ガタッ!!

「だ、だれだ!!」

 私は扉が開けられ驚く。トキヤ殿もナイフを構えた。しかし、その現れた人物に息を飲む。

「はぁ……はぁ……一ヶ月ぐらい寝ていたのね……」

「姫様!?」

「ネフィア!?」

 ズリュ

 扉の前で崩れる姫様に私たちは駆け寄った。トキヤ殿が抱き締めながら怒声を発する。

「ネフィア!! どうしてここに!!」

「衛兵に開けて貰ったの……でっ……一人で来たけど。ふふ………笑っちゃう……いっぱいぶつかちゃったし転けちゃった」

「姫様……安静に」

「安静に? 今、すごく大変な事があるんでしょ? 寝てなんか居られない」

 息が荒いまま。姫様は顔をあげる。その顔は恐ろしく青い。

「しかし、姫様……その体では」

「手も足も動く。目は方目は見えるし……言葉も出る。生きている……それに……」

 私は跪き姫様の左目を覗いた。オッドアイとなった姫様の澄んだ瞳に強い意思を感じとる。

「私は英魔の女王でしょ?」

 私は唇を噛む。私が無理矢理用意した席に女王は応えようしていた。身を犠牲にしながら。

「……はい。姫様……いいえ、女王陛下」

「ネフィア。本当に大丈夫か?」

「トキヤ……大丈夫っていうのは大丈夫じゃない。でもね、トキヤとの日々を護らなくちゃ。ついでに……」

 涙が出そうだった。こんな痛々しいお姿でも「動けるなら」という姫様は笑顔で頷くのだから。

 私は拳を握り、頭を振る。自己犠牲で帝国を護った彼女に。私は決心する。

「姫様……一緒に会議に参加して貰えないでしょうか?」

「もちろん……休む暇ないね……だから嫌だったの魔王は………」

 クスクスと姫様はトキヤ殿の腕の中で笑うのだった。 






















 





 






















































 
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