メス堕ち魔王は拐った勇者を気に入る『長編読者向け』

書くこと大好きな水銀党員

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魔国北伐戦争

魔国北伐戦争①

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§英魔国九代族長会議前・帝国4方面騎士団会議前


 ネフィアはトキヤの隣に座った。テーブルには地図が広げられ情報を彼女は聞く。「侵略濃厚であり、準備がしっかりされている」と言うことを聞きネフィアは唸る。

 夜の帳が降り、簡単な夜食を取りながら。ネフィアは質問を最小限にし寝起きたばっかりの脳に詰め込んだ。

「姫様さま……もう、そろそろ」

「まだ、イケる」

「だっ、そうだ」

「……倒れないでくださいよ」

「倒すならエルダードラゴン持ってこい」

「逞しいなぁ~ネフィア」

「人の子を宿した母親だからな」

 エルフ族長は「ふぅ」とため息を吐いて続けた。彼は自分達の予想戦力も全部の話をした。ネフィアはメモを取らず。頷くだけしかしない。

「……………よし、叩き込んだ。どんな事もやってみなければわからない」

「あの、1回で叩き込まれたのですか?」

「1回聞けば十分……九代族長召集時間は?」

「……1週」

「3日で来いと言え」

「3日!?」

 エルフ族長は「無茶苦茶な」と思う。ここから一番遠い人を呼ぶのは行くだけも遠い。情報は流して身構えろと注意勧告はしているが、その伝達だけでも時間がかかる。

「時間が惜しいでしょ?」

「……ええ」

「じゃぁ……私が行くしかない」

「行くしかない?」

「商業都市ネフィア。私の名前を勝手に使って……まぁ不問でいいけど。そこへ向かうか、来てもらわないと無理よ」

「………来ていただきましょう」

 エルフ族長は今の姫様に長旅は酷だと判断し、妥協案を出す。

「5日でどうでしょうか?」

「最短で」

「……善処させます」

「ネフィア……5日あるな」

「5日で戦術に詳しい奴を集めて」

「……姫様申し訳ないですが」

「なに?」

 エルフ族長は頭を押さえて発言する。

「そんな輩は英魔族に居ません」

「……まぁ、まぁ……まじ?」

「頭がいいのよりも力での世界です。正面から戦うばっかりで……私が初めての軍師ですよ。昔の四天王を思い出してください。あんなのです。だから私はトップにな
れたんです


「………ネフィア。致命的に人材不足だ」

「どうしろと?」

 ネフィアも頭を抱えた。

「戦争は頭が居ないと……無理でしょう。トキヤは!?」

「俺は騎士団長の席には座れない。ランスロットぐらいが………」

「それはダメよ……都市ヘルカイトは巻き込みたくない」

「姫様?」

「……これは英魔族で終わらせるべき。都市ヘルカイトの人達に頼ってはこれからも私たちはずっとそうしてしまう。それだったら私よりヘルカイトを王にしなさい。最後の切り札よ。そうね、切り札あるだけいいわね………それと正面の連合国側を見ていて欲しいかも。そっちからの攻めはあるかもしれないから」

「………そうですね」

「ネフィア……竜は今回で弱体化した。期待しない方がいい。気絶はせずともな」

 重々しい空気が流れる。女神の手が毒のように回る。

「付け焼き刃。私が色々考えるわ……はぁ」

「姫様が? 姫様に戦争の理がわかるのですか?」

「………わかんないわ。でも誰かがしないといけないでしょう? 5日間で決める。トキヤ、一緒に悩んで。エルフ族長は召集を。あとユグドラシル商会にも。『来なかったら英魔国内の商売は禁ずる』でも言っておけばいいわ」

「『都市ヘルカイトの力は借りない』と言われてましたよね?」

「商人よ。ヘルカイトだけで商売はしてないわ。ヘルカイトには連合国側を見てもらい。トロール族の住む都市もついでに見てもらうわ」

 エルフ族長は何故、ユグドラシル商会なのかと思ったのだったが……これが後に恐ろしいほどの成果をあげるとは思いもしなかったのだった。







「今日はこれで休むわ……」

「姫様……夜遅くまでありがとうございます」

「……ごめん。止められたのに風竜倒しに行って」

「いいえ。帰って来られたのです。文句はないです。それでは……私も仮眠を取ります」

「ネフィア立てるか?」

「ん……少し」

 トキヤは私の手を掴む。そのまま、エルフ族長に頭を下げ。部屋を出た。暗がりの廊下でトキヤがカンテラで足元を照らす。

「絶対離すなよ……ぶつかるし。まだ見え難いだろ」

「……トキヤ優しい」

「優しいか……」

「いつだって。私には優しいトキヤ好き」

「ネフィア……」

「そんな、辛気臭い顔をしないで……かわいい顔は無事でしょ? ほれ~ぷにぷにだぞ~」

「本当にお前は!!」

 ガバッ

 廊下の寝室に戻る途中で抱き締められる。頭をワシャワシャと撫でられた。

「片目を失っても……明るくて……なんで俺の方がショック受けてるのがバカらしくなるじゃないか……」

「ふふ、明るいだけが取り柄です。トキヤ……んぅん~。トキヤがいればそれでいいのですぅ~んん~」

 抱き締められたのを抱き締め返す。この抱き締められるのはいつだって私にとってご褒美になる。目は見えなくなってもまだ触れる暖かみは分かる。愛を語れる。

「全く見えなくなったら悲しいけど………トキヤ。そのときは……捨てないでね」

「捨てる発想が出る時点で心外だ」

「ちょっと言ってみただけだよ」

 カツンカツン

「あっ……姫様!? 勇者さま!? お、お疲れさまです」

 バッ!!

 トキヤが慌てて離れる。ダークエルフの衛兵が不動の姿勢になる。巡回だったのか気になったのか近付いて驚いてしまったようだ。「私も偉くなったなぁ~」とつくづく思う。

「ああ、勤務ご苦労……ちょっとなあっち行っててくれ」

「す、すみませんでした」

「へへ、トキヤが照れてる」

「……照れるわ」

 慌てて離れていても。トキヤは私の手を掴んだままだった。





 帝国黒騎士の執務室。日は沈み、執務室を出ようとした瞬間だった。

トントン

「……なんだ?」

ガチャ

「黒騎士団長。風竜が何者かによって倒されているという事がやっと確認できました」

 黒装束のマントを被った部下が報告書を持ってくる。

「そうか……」

「風竜の亡骸らしき物を都市よりはるか遠くで発見しました。解剖結果は我々ではない誰かが仕留めたことしかわかりませんでした。恐ろしいほどに損傷が激しいです。肉片と言えばいいでしょうか?」

「一月でわかったのはそれだけ……帝国は大義名分を得てしまったな」

「……やはり魔国からの尖兵でしょうか? しかし、尖兵ならだれがあの風竜を?」

「周りの証言では竜が集まり戦っていたそうだな」

「……はい」

 黒騎士団長は理解する。倒した者はきっとあの少女であることを察する。あの少女は一度この都市で竜を集めた。

 大胆不敵な笑みを浮かべる姿が想像出来る。あれが今の魔王であり……暗殺程度簡単に跳ね返せる傑物となってしまった。

 元部下のアイツがやった事はとんでもない事に成長してしまった。取り返しのつかない場所まで。

「……だが。竜は魔物。魔王が操っていると思われても仕方ないか」

 庇う訳ではないが。あの天災を押さえた人物が元凶とされているのに同情はする。

「魔物を寄越した魔国を攻めようと躍起になっております」

「……そうか。北伐を予定するのだな」

「はい。貴族たちは皆が怒っております」

「真実は……違うだろうな」

 あの天災を倒した者に敵うのかと……疑う。しかし、これを他の騎士団に言うつもりもない。帝国と言う国が残る最良の方法を考えるに肥大化し、政権を私物化した騎士団は邪魔でもある。我々黒騎士は裏切り者によって弱くなった。

「難民は?」

「皆、故郷に帰っております。支援し……帝国も完全なる領土になるのも時間の問題と思われます」

「……流れが大きくなっていく。全面戦争か」

「黒騎士団長!! 我ら帝国のために北伐を準備致しましょう」

「…………準備はしよう」

 黒騎士団長は苦いタバコを吸いながら……悩む。今、魔王が変わったばかりで四天王らしき強者も、将もいない。集まったばかりであり、魔王の支持者の数もそう……多くはない筈。纏まり強固になる前に叩き、国を乱したあと、暗殺者や弱体化させればまた魔王が変わる場合もあり。帝国の有利に持っていけるだろう。

 しかし、懸念もある。勝手に帝国に遊びに来る魔王。その裏で必ず国を動かしている影の実力者がいる。

「……そいつが何処までやるかだな」

 思考を巡らせ。負ける要素も考えるが。

「……今の帝国は強いな」

 正面は圧倒出来るだろうと考え……そして頭を振った。強い時こそ……悩むべきたと。

「黒騎士団長。どうされますか?」

「騎士団長会で決める」

 帝国を牛耳る。4方面騎士団。その会で……きっと決まるだろう。北伐が……



§九代族長会議前


 私は起きたあとに唯一記憶を辿りながらある部屋に旦那のトキヤとともに訪れた。そこは図書室という場所であり文字深く読む物はエルフ等の人に近い種族だけ使用する場所だ。中に入ると円柱の本棚が並び。日光も遮られた暗い部屋だった。カンテラの明かりとシャンデリアの薄暗い明かりだけがあり、読むには苦労しそうな場所だ。

「姫様……こんにちは」

「えっと、司書は変わってないんですね」

 眼鏡のかけた悪魔族に挨拶する。驚きながら……彼女は知り合いだった。

「はい……その……大丈夫なのですか?」

「大丈夫。もう二度と戻ってこないと思ったけどそうは言ってられないし。そんなに嫌いな場所じゃないから」

 私は悪魔でエルフのハーフ女性司書に笑顔を向けた。昔から知っている彼女。彼女はいつも私に本を持ってきたり、図書室の本を選ばせてくれた人だった。優しい人だったのは覚えている。本の入った箱にこっそりおやつとか入ってもいた。

 だけど、深い関わりは禁じられていたため。あまり喋ることもなく。時が過てしまう。ここでまだ仕事してるとは思ってもいなかった。

「………あの日々は申し訳ありませんでした」

「気にしてないわ。あのとき本を沢山用意してくれたのは感謝してるし。この図書室にあの日々で足を踏み入れる事が出来たのも貴方のお陰です。本当はもっと早く御礼を言いに来るべきでしたね」

「い、いえ………非力な私をお許しくださりありがとうございます」

 司書は気が弱い人だ。そんな人にトレイン殺された魔王前任者などの悪魔には何も手は出せないし命令通りしか動けないだろう。そして、彼女は勘違いをしている。

「もう二度と戻ってこない。それは……私が閉じ込められていたことが嫌だって事を知ってますね。なんの因果か知りませんが……まーた閉じ込められに帰ってきましたよ。私も足で彼と」

 私も手を繋いでいる彼に向き、彼はおじきをした。司書は……ちょっと涙ぐみながら言葉を紡ぐ。

「あの日から……ずっと可哀想と思ってましたが……本当に幸せになられたのですね」

「彼が連れ出してくれました。幸せです……が!!」

 私は笑顔をやめて真面目な顔をする。

「まだ、秘匿されてる情報ですが帝国が我々を攻める動きがあります。司書さん!! 私が読んでいた戦記物はどちらに!!」

「えっ!? えっと!! あの柱……だけです」

「柱だけ……」

「ま、魔族の戦記はその………ございません………書き残す文化がなく……人間側の書になります」

「……終わったら学園作ろう……」

「ああ、ネフィア。すべてが終わったらな」

 私は頭を押さえて呆れる。肩を叩きトキヤがその柱に近付き何冊か取る。

「ネフィア……けっこう考察されている本だ。付け焼き刃でも何とかなるかも」

「うぃ~」

 バシッ

「あう」

「やる気があるのか無いのかわからないな」

 頭を本で優しく軽く叩かれて頭を押さえながらそれを受けとる。これを頭に畳み込めと言う暗示だろうか。

「陛下の武勇伝じゃん。知ってる」

「知ってる?」

「夢で……一度見た」

「………そうか」

 トキヤが何か眉を潜めて悩み。頷いたと思ったら何冊かの本を持って図書室に置かれているテーブルにつく。黙々と読み出し。私もそれに習って何冊かを読む。

 戦記物は昔に少し読んでいたが……理解できずに難しかった本として覚えている。今、読むと少し理解出来る気がする。トキヤを見ると……目を閉じていた。

「トキヤ?」

「黙って読む」

「う、うん………」

 何かを思い出そうとしている。私は黙々と人間の戦いかたを学んでいく途中に眠気が生まれ……ゆっくりと船を漕いで机に伏す。

 昔に比べ……勉強は出来ない……だらしない女になってしまったらしい。

 




 ネフィアが船を漕ぎ出した。俺は目を閉じて唸っている演技を止めて司書に静かにと伝える。悪魔の角と黒い肌の女性が頷く。

 ちょうどいい暗さと暖かさにネフィアは眠り出す。俺は「待っていました」と言わんばかりに司書に掛け布団を頼んだ。彼女は笑顔で用意してくれ、かけてくれる。

「さぁ……ネフィア。夢でたぶん……見るだろう」

 嫁の力は弱まった。まるで、使い果たしたように弱々しくなった。これもあの風竜相手で死なない方が奇跡だったが。それでも勝った対価が重くのしかかる。

「すぅ……すぅ……」

 だが、夢魔の力は健在だと俺は信じている。かわいい寝顔の嫁の能力を仮定した能力を思い出す。

 夢魔に生まれたのも運命。

 魔王としての魔力の高さも運命。

 俺が彼女を救ったのも運命。

 そして、風竜を倒すのも運命だったのだろう。

 偶然と言うのはネフィアの前では言葉違いだ。必然と言う言葉が正しい。

 だからこそ……エルフ族長はネフィアを巻き込んだ。巻き込めば……大きく運命を変えてしまう程に運がいい故に。

「運がいいからこそ……たぶん夢で……」

 俺の直感が囁く。今回も、ネフィアは見ることが出来るだろう。風竜の時のように。

 何かを……足りない物は補える力を。

「本当にネフィアの能力があれなら………これも予想外な結果になるだろうな」

 笑みを向けながら。どんな事をしてくれるかを期待してネフィアを見続けたのだった。





 暗い中で私は頭を抱える。

「寝てしまった……時間がないのに」

 私は夢魔として夢と現実が区別でき、夢を自由に動く事が少し出来る。

 昔は……自由だったが。引っ張られるような感じで夢を見ている事が多い。金竜の夢もあれが必然だったからこそ……見れたのだと思っている。

「うーむ」

 私が死ぬ場合。風竜は倒されずに居たのだと思うと。過去でここまでは生きていたと言う事が保証されていたのだろう。これが正史となっている。

「……まぁ。私が当事者だからわかったことですし。今は関係ない事で頭を使うのもよくないですね」

 観測者がいなければそれが有った事なんてわからないのだと結論づけ。考えるのを止める。

「そんな事よりもここは?」

 周りを見渡すと。黒から一変、平原が現れる。見たことはない場所。そんな場所で私は左右から魔法が迫るのが分かった。

「ふへ!? あぐぅ!?」

 慌てて魔法を唱えようとするが痛みを発して、その場にうずくまる。火玉が飛び交い。私は痛みを覚悟し……目を閉じた。

「………」

 ゴォゴォ!!

 痛みがなくなり、目を開けると体をすり抜ける火玉。夢であった事を忘れていたわけではないが現実のような夢のせいで反応してしまったようだ。

 多くの土埃と。魔法の撃ち合いを見ながら。ふと冷静になり……夢を分析し……一つ、私は気が付いた。

「……たまたま。見てしまえるなんて僥倖ですね。起きるのは全て見終わってからにしましょう」

 私は笑みを浮かべてイメージする。空を飛ぶイメージを。上空から夢の内容を見るために……過去の戦争を見るために。




§魔王の戦争見学



 人族の戦闘の流れを私は上空から見る。夢のイメージは白い鎧に白い翼で飛んでいるイメージだ。

 誰の夢かと考えた時……これは大地の夢なのだろうと理解できた。こんな夢を見れる物は指で数える人しか知らない。大地の意思とは違い。刷り込まれた記憶なのだろうと思う。

 上空から見える光景は平原に対する二つの勢力だ。帝国と都市連合の人間同士の戦い。そしてその光景の時期もわかった。

 一人の騎士に目が行ったからだ。馬に乗った黒い騎士と白い騎士が騎兵を引き連れて魔法使いの一団に噛みついたのだ。上空から見ると大回りして側面から圧迫し、相手の出方を見るような動きだった。

 魔法使いの一団は馬に吹き飛ばされた。騎士たちはそのまま走り抜けて逃げていく。それに遅れてやって来た連合側の騎士が逃げるのを追いかけ出し、残った魔法使いは負傷した同僚を担ぎ上げた。愚痴を溢して態勢を立て直す。

「お前……魔術士か?」

「く、黒騎士!?」

 負傷した同僚たちに凶刃が迫る。気がつけば死体の数が増えていく。たった一人の黒騎士のせいで。わざと馬から降りて……すでに護衛は倒れていたのか彼を止めれそうな人はいない。

「ま、魔物!?」

「た、たすけ!!」

 魔法使い達が遁走する背中を黒騎士は斬りつける。無慈悲に命を奪いながら、ある一人が魔法を唱えて炎球で牽制した。

 ゴバッ!!

 黒い鎧に当たり炎球が散る。騎士鎧に魔法は効き目が薄いようだ。

「魔導士見つけた……お前だけは危ない狩らせて貰うぞ!!」

 私は……勇者トキヤの単騎駆けを「参考にならない」と思い他を見る。過去であり勝つことがわかっているのではない。一人で魔法使いの団を壊滅させようとしている。こんなことは彼しかできない。

「黒騎士は個が強すぎる……」

 そして、魔導士と魔法使いの違いを思い出した。魔法使いは魔力を扱う物。魔導士は魔力を自身で作り練り上げて扱える物。

「魔力が凄く薄い………」

 魔法使いの攻撃がゆっくりと萎んでいき。ついには魔力を扱う帝国側の魔法使いが去り始める。連合都市側も去り。戦場には魔法使いはいなくなった。

「……魔力の枯渇から始まるんだ」

 だからこそ初戦での騎馬駆けは意外だったのか対応が遅れたのかもしれない。しかし、トキヤは魔導士を探して狩り来ているのはきっと魔導士は危険な存在であると言うことだろう。それも覚えておく。

「魔法が戦場を支配すると思ってた……」

 予想外なことで戦場の魔法使いは少ない。多いのはやはり長い槍を持った歩兵だった。理由はきっと鎧に有効な攻撃じゃないこと。魔力枯渇が要員だろうと見れることが出来た。

「魔法使いは使いにくいっと……矢は……」

 戦場には矢が放たれているが歩兵の装備に弾かれている。矢も有効打にならないらしい。人間ヤバ。

「矢が効いてない……鎧が強固なんだ……」

 トキヤは名の知らない魔法使いを仕切っていた魔導士を狩り。そそくさと走って陣地に帰ってきている。それも徒歩で……ちょっとやっぱおかしいこの人。

「流石旦那様と言いたいけど………ちょっと使いづらい」

 強い個人は戦場にはちょっと使いづらいと思いながら平原の草が踏みしめられるのを見ている。歩兵がゆっくりと槍を構えながらジリジリと進んでいく。歩兵を守るように騎兵が左右を忙しく動き。帝国騎兵と都市連合がぶつかった。

 そして………帝国騎兵が弾かれる。

「!?」

「我ら祖国を救わんとする勇敢なる者よ!! 我に続けええ!!」

 上空から突撃した騎兵同士。馬が倒れ、人が落馬しながらも帝国側が劣勢になり。とうとう、押し返される。

「数は上だけど質が下なのね……へぇ、騎馬戦なら連合側が強かったのね」

「いけ!! 我らの土地から追い出せ!!」

「「「オオオオオオオオ」」」

 騎兵の戦闘の最前線に女性の声がよく響いた。懐かしい声に「ああ………」と思う。紫の花の絵柄の旗に見覚えがある。

「………」

 死んだ人は帰ってこない。その無慈悲さも思い出した。惜しい人だった。

「黒騎士!?」

 劣勢の帝国騎兵の戦闘を後ろから見ていた黒い騎士たちが無言で馬から降り前に出る。大きな武器を持った者たちが帝国騎士を蹴散らしながら突っ込み。連合騎兵に正面から戦いを挑んだ。馬の足が止まった状態で、歩兵の方が動きが取りやすいのだ。

「黒騎士1番隊長前に出る!!」

「「「オオオオオオオオ!!」」」

 帝国側から大きな声で怒声と奮起する声が満ちる。戦場には士気という。やる気みたいな物があるが……やはり、それは重要な物であり。兵士を1段2段と強くする要素なのだと実感した。

「くっ……帝国騎士が息を吹き返したか!!」

 ガキンッ!!

「だが私の目の前に出てきたこと後悔させてやる」

「んお!? ククク俺に挑むか!!」

「紫蘭!! 参る!!」

 前線で指揮する者同士がぶつかり合う。馬から降り、方は斧、方は刀で戦い。そして……黒騎士の首を跳ねた。

 帝国側がこの日、この初戦によって……初めて相手の強さを知り、作戦が変わるのだった。







 帝国側が黒騎士の隊長が撃ち取られた瞬間。士気低下を危惧し撤退した。初戦は意外な手で撹乱しようとしたが全く効き目はなく。結局敗走していた。

 わかった事は前線で指揮する者は士気をがあげられるがそれだけ死ぬリスクもある事を学んだ。

 将は見える場所で待機し。指示するのも重要なのだろう。

 私は………草原の岩に座りながら考えを纏める。目の前に多くの馬と人間の亡骸を見て、これが英魔国でも行われるだろうと思う。そんなことを考えながら空を見上げると。大きい月が見えるのだ。

「はぁ……無情になれと申すか」

 きっとこれから帝国側は敵の戦力を削る作戦に変わるだろう。長期戦から疲弊と相手の将を打ち取る作戦に。

「持久戦………我慢比べ。結果……多くの連合将がトキヤ以下黒騎士によって撃ち取られ。士気も下がった事で撤退。2回目の侵攻で終わる訳ですね」

 戦場を空から見たとき。右翼左翼の騎兵が大事なのがわかった。歩兵は正面は強いが側面が弱い。そういう基本もわかった。そして……その騎兵同士で戦う場合は技量の優劣もある。

 1回見ただけで「はい。わかりました」なんてのは無理だ。

「…………でも。人の戦い方は少しだけ。わかった。問題は攻城戦……」

 どうやって城を落としてくるのかを見たかった。

「惜しんでも仕方ない……時間がないね」

 ここの出来事を見終わり、私は目を閉じる。もう起きる時間だ。





「ふぁあああんんんん?」

「んっ? 起きたかネフィア」

「………今のお時間は?」

「夕刻、晩飯前」

「今夜、眠れるかしら?」

 机に屈伏し、背筋を伸ばしながらトキヤに質問した。トキヤはカンテラの明かりだけで本を読んでいた。

「夢の戦場は……いかほど?」

「トキヤが魔法使いを仕留めていた」

「初戦か……」

「そうそう……トキヤが……」

「なに? 俺がなんだ?」

「かっこよかった」

 口を押さえ、頬を染まっているだろう私は顔を背ける。

「真面目に見てこいよ!!」

「見てきたよ………それよりもトキヤはよく私の夢がわかったね?」

「寝言で色々唸ってたぞ」

「ふーん」

 寝言で色々とね。

「ん? トキヤその本見たことあるけど……なに読んでるの?」

「ああ、これ。エルフ族長に渡そうと思ってな………秘密だ」

 本を隠して目線を反らすトキヤ。私はその姿に首を傾げて司書に聞いた。司書は笑顔で答えてくれる。

「それはですね。姫様の日記とか、お絵かきとかですね」

「!?」

「司書さん………黙っていてくれよ」

「トキヤ!! 貸して!!」

 昔を思い出してなんか嫌なことが書いていそうなので見ようとトキヤに対して手を出す。

「ネフィア……大丈夫。ネファリウス騎士と言う創作……まぁ面白いよ」

「トキヤ!! この世にはあってはならない!! 消すべき!!」

「残念だが……そうはさせない!! あいつに恩を売る」

「私に対しては仇よ!!」

 妄想垂れ流しを公開されるなんて……そんな羞恥はさすがに許せない。

「あの……姫様」

「なに!! 今、それどころでは!!」

「今さっき、トキヤ様の1冊を残して全て持って行かれました」

「ネフィア……日記とかは残すとろくなことがないな。ククク」

「……ふふ、笑って許されるとでも?」

「……すまんな。これも信用のため……いや……お前のそのふくら顔が久しぶりに見たかった」

「………」

「………なんだよ」

 私はトキヤに近付く。何となく察したのだ。

「トキヤ……」

「?」

「もう、普通の女の子ではないの……」

「知ってる。知ってるつもりなんだ」

「だったら……そんな顔をしないで」

「どんな顔だよ」

「今の顔」

「……困るな……全く。ああ、そうだよ」

 私はため息を吐いて。本を忘れる事にする。彼も傷を負っている。ずっと深い。

「いつか、あなたのネフィアに戻る日が来ると思う」

「そうだな……そう、信じて剣を握ろう」

「ええ」

 トキヤはいつだって。私を家族と見ている。だからこそ……悩むのだろう。何度も何度も。今の私に対して。


§騎士団会議①


 帝国の城の一室。帝国の実力者が並び、帝国の旗が何度も帝国の実力者が変わるのを見てきた場所。帝国議所だ。

 その席や椅子の数は年数とともに増えたり減ったりとしてきた場所。そしてその今の数は5つだった。丸いテーブルに囲むように椅子があり、陛下無き今では玉座のような重みの椅子5つ。その部屋に……彼らはやって来る。

 好青年のような甘い表情を持ちながら野心家の北騎士団長オヴリュージュ。

 屈強な大柄な体を持ち。過去黒騎士1番隊長の弟を持っていた東騎士団長フリード。

 一番歳を取りながらも騎士団長となった老兵南騎士団長アフトクラトル。

 マクシミリアン騎士団を正面から抑える西騎士団長オキシデント。

 全ての騎士団を監視する黒騎士団長。

 現、騎士団を指揮する5人の軍人が顔を合わせた。連合国陥落、隷属国家化の数ヵ月振りにである。

 重々しい空気の中で皆が席を座る。従者は壁に椅子を用意し座り他騎士団長の従者を警戒する。タバコを南騎士団長以外が吸い出し一服しながら話始める。話の切り口は北騎士団長から始める。

「では……始めましょうか? 書記、いいですね」

「は、はい」

「これより。騎士会議を始める。先ずは報告会です」

 北騎士団長が段取りし、笑顔で話を促す。従者が立ち上がりゆっくりと情報を出していく。

「南騎士団からの報告は以上です。嵐竜は討伐されたものとし……南側の都市二つが大きな被害を出しました。逃げてきた難民も壁の外に溢れています」

「ククク!! ハハハ!! 目の上のたん瘤が消えたのだ。痛みは伴っていたが、いつ裏切るが分からなかった魔術師たちが消えたのだ。嬉しい報告だな」

 東騎士団長が邪悪な笑みで報告を聞き。話を続ける。

「現状、南騎士団長の仕事は無くなったな。不安はない」

「そうだな。不安はない」

「次はワシだな」

 東騎士団長が部下に報告させる。内容は併合後の話である。

「結果、こちら側は平定……反帝国の貴族を失脚させ我が国の息のかっかった貴族を入れ替え頭を変えた。アクアマリンの裏切り王のおかげか戦いも全くなく。1回目が嘘のように完勝。反乱分子を残す結果だが。まぁ~時間が立てばそれも消えるだろう。騎士団は常駐している」

「これでやっと半分は手に入れましたね」

「おうよ、北騎士団長さんよ!!」

 黒騎士団長はタバコをもう一本取り、吸いながら観察する。騎士団長同士で仲互いしている時代は過ぎ………色々と変わってきている。

 北騎士団長と東騎士団長はいがみ合いながらも何かと話が会うのか共闘もしていると黒騎士団長は知っていた。東騎士団長と北騎士団長は休戦し、今は同じ敵を倒す同士としている。

 彼らは決めている。全てが終わったときに勢力争いをすることを。もう、すでに決めていた。黒騎士団長はそれを知りながらも泳がせていた。次期皇帝は誰になるかわからない。それが確定するのはこれからの結果である。

「東からは以上だ!! でっ……西騎士団長さんよ……」

「…………」

 西騎士団長は部下に手をあげて合図をする。西騎士団長の頬に冷や汗が垂れているのを右隣の黒騎士団長は見逃さない。

「報告します。マクシミリアン騎士団の潜入工作は………全て失敗しました」

 場が静まる。報告者の騎士が唾を飲みながら続けた。

「失敗した状況としまして……何やら劣勢でありました旧王国派の面々が知らぬ間に力をつけ。我々帝国派の手の者は全て退去させられました。帝国派だった者も………何やら裏切り者も出る始末でしてマクシミリアン騎士を我らの物に出来ませんでした」

「マクシミリアン騎士団長は帝国派だったろう………」

 東騎士団長が髭を触りながら疑問を呈する。

「マクシミリアン騎士団長は帝国容認でしたが。何やら……事件があり旧王国派になりました。それと同時に騎士団長が変わり……騎士団長が誰かがわからない状態です」

 黒騎士団長は皆の顔を伺いながら。自分しか情報を持ってないことに気が付く。黒騎士団長は知っている。マクシミリアン元騎士団長は生きた女王であり。あれが………隠居せず表へ出て活動したならば帝国派なぞは全く相手にならないだろう。

 マクシミリアン領の真の領主なのだ。今まで、全く静かだったが目覚めてしまったらしい。このときになって黒騎士団長はあれをトキヤに会わせた事が間違いだったのを悔いる。「いや、それも魔王の運命力の結果」と納得していた。

「黒騎士団長………何を唸っている?」

「……上手く行かないものだな」

「黒騎士団長様が苦言を………西騎士団長。マクシミリアン騎士団にいったい何が?」

「旧王国の復活を目指すらしい。旧都を取り戻すと」

「………ふむ」

「戦力的に、今叩くよりも疲弊したときに叩こう。旧都はアンデットの巣窟。掃討は数年では無理だろう」

「採決!!」

 北騎士団長が号令を叫ぶ。皆が手をあげずに満場一致で決まる。

「マクシミリアン騎士団へはスパイを送り、疲弊後に攻めるとしよう。昔のあの戦争は腑抜けだった。今なら勝てるだろう」

「完全に制服すると言うことでいいですね。次は黒騎士団長どうぞ」

「俺からはない。知っている情報は書面で先に送った」

「では…………私ですね」

 北騎士団長が立ち上がる。そして、一枚の紙を見せつけた。

「皆もご存知ですが。北伐の命令が陛下直々に下りました」

 その紙は命令書であり王印が押されていた。しかし、皆は知っている。王は床に伏せている故にそれが偽装された物だと。だが誰も声高に非難はしない。各々の思惑のために。

「北伐遠征を行います。長らく、勇者等と言う暗殺者を送り込んで国を荒して茶を濁していましたが!! やっと準備が整いました!!」

 北騎士団は元々魔国防衛を主とした任務だ。故に、昔から北伐を願いとして士気を高めて来た。北騎士団長もその洗脳に近い教育を受けている。北は討つべき場所と。

「陛下の大陸制覇の夢を叶えようではありませんか‼」

「御託はいらん」

「……そうですか。では今回、会議の議題は北伐についてでよろしいですか?」

「最初からそのつもりだ」

「まぁそうだな」

「ああ」

「………」

 各々がわかっていたという反応をする。東、南の驚異は去り。西にも「驚異はあるが大丈夫だろう」と考えている。ならば長く……目指していた北への攻勢を騎士団長たちは決める。

「では、採決。北伐を行う」

 北騎士団長の声で黒騎士団長が手を上げる。

「黒騎士団長……なんだね」

「時期早々なのではと考える。今、我々は魔国の情報が少ない。不確定な状態で戦っても勝てはしない。それにマクシミリアンが怪しい」

「不確定ではない。何人も草を忍ばして情報を得ている」

「同じくな。最近の冒険者を雇い入れたな」

「魔国に通じている冒険者ですね。東騎士団長」

「北騎士団長そうだ。冒険者に情報を売って貰っている」

「黒騎士団長……少し。臆病ですね」

「ククク、仮面の下臆病な顔をしているのだろうか?」

「………問題ない。わかった……異議はない」

 黒騎士団長は仮面の下で感情を表に出さないが、非常に焦りを感じるのだった。帝国は一度も魔国を攻めたことは無いのだから。どんなことが起きるかわからないと。

 スッ

 隣の南騎士団長が机の下で何かを手渡す。それは一通の手紙だった。

「………」

 黒騎士団長はそれを手に取り、ローブに隠す。今、この瞬間にこんなことをする理由が想像できないが「後で話そうと言うのだろう」と黒騎士団長は察する。

 北騎士団長と東騎士団長がどっちが魔王の首を手に入れるかでにらみ合いを見ながら黒騎士団長はタバコに火をつけるのだった。


§騎士団会議②



 騎士団長会議後、北騎士団長は東騎士団長を呼び止め。二人で廊下で再三、話を合わせていた。その姿は西騎士団長には好敵手に見え、黒騎士団長には敵同士の探り合いに見え、南騎士団長には何かを棚上げし結託しているように見えた。

 黒騎士団長は南騎士団長に連れられ、南騎士団の駐屯地まで馬車で移動し、南騎士団の執務室まで案内した。先着として………元黒騎士部下のトラスト・アフトクラトルと言う6番隊長が席についており、表では精強6番隊長。裏では黒騎士との繋がりを持つパイプ役と報告者として暗躍していた。

「トラストさん元気ですか?」

「元気です。手紙は読みましたか? 黒騎士団長」

「ええ、奥さんと娘さんの文通でしょう」

 机の下で受け取ったのは彼の息子の嫁に当たる魔物からの手紙だった。母親との文通や世間話の内容がびっしり書き込まれている。

 逆に言えば……近況が分かると言うものだ。しかも、何故か文は速達であり。1月などではなく7日で届くのだ。非常に速いために情報も鮮度はいい。

「やはり………これでわかりました。嵐竜を倒したのが紛れもなく魔王であると」

「情報によると………孫は魔王を知っているらしいな。いや、魔王の王配と親友であり、妻は魔王との親友か」

「ええ……そのとおりです。黒騎士団長……トキヤとはやはり………あの子ですか」

「……………はぁ」

 南騎士団は一番情報に精通している。たった一枚の紙が恐ろしいほどに情報をもたらす。何でもかんでも書き込んでいたのだ。

「元黒騎士であり魔物と恐れられた奴ですよ……裏切り者です」

「そうか………ランスロットの親友のあの子ですね」

 その表情は暗い。

「なんと言う運命だろうな……孫は放逐された先で魔王と会い。人外を嫁にし………その人外が九代族長の一人とは………」

「……ん? 族長?」

 知らない単語だと黒騎士団長は仮面の内側で眉を潜める。

「九代族長?」

 それに答えるトラスト。

「魔王の下にいる。種族の代表者らしいです。手紙では纏める人が9人居るとのこと。その一人に選ばれ、ランス共々右往左往していることを書かれていました。だからこそ正確な情報なのでしょう」

「………」

 黒騎士団長は考える。知りたいと。

「情報はあるだろう?」

「ああ、調べている。紙で用意した……後で目を通しておいてくれ。それは後でいい」

「はい」

「問題は……この戦……厳しいのではと僕の勘が働く」

「現に一度、帝都は進行されているしな、息子の言うなら」

「そうです。魔王を拐ったために……多くの被害が出ました。ワイバーンの騎兵の需要もあがりましたが……あのドラゴンは………本物です。あれを使役しているとなると……」

「黒騎士全員でかかれと言うことですね。私の経験上、あれは伝説の竜です」

「ドラゴンが出てきた場合ですね。あれを知らないわけがないのに、北伐です」

「……他にも……孫の近況から察するに魔国は思いの外、纏まっている。短期間でひとつの国として立派にな。その纏まりはある都市の名前を変えるほどだ」

「南騎士団長はどうしようと思いますか?」

「トラスト6番隊のみ残し。わしが出る。黒騎士団長は敗戦処理も考えておいてくれ」

「………『負けることを想定しろ』と言うことですね」

「ああ。停戦協定はお主が段取りするだろう」

 少しの間、沈黙が場を支配する。

「………そろそろ。私も話しましょう」

 黒騎士団長が話をする。

「私は……魔王に会ったことがある」

「そうですか……では、私の妻も魔王に会ったことがあります」

「……知っていました」

「なんだろうな。この運命はな」

「なんでしょうかね。この運命は」

 黒騎士団長が仮面を外す。二人が驚いた顔を向けた。そして……黒騎士団長が仮面を外す理由を考えると自ずと言葉が出た。

「黒騎士団長………腹を割って話をする気か」

「ええ、こうまでしないと………話をされないでしょう」

 黒騎士団長は何となくだが、彼等の考えを知りたくなったのだ。

「………お父上」

「ああ……わかった」

「………」

 一つ溜め息を吐いてアフトクラトル家当主は答える。

「最初は陛下の後を継ぐと思っていた。孫であるランスロットは……罪で放逐し、かの地で族長と結ばれた。ランスロットはその嫁に対し、アフトクラトル家の名前を名乗らせている」

「………亜人に?」

 黒騎士団長が眉を歪ませる。人間以外の者に家の名を名乗らせるのは抵抗があるはずだと思ったのだ。

「亜人とな、なりほど人だな。まぁ……こいつも変な趣味を持っている男だ。孫もそうだろう。そして……名を絶やさぬ事は重要だ。ゆえに分家として我々は『認めている』のだ」

 それは黒騎士団長にとって。予想外の答えになる。

「魔族ですよ?」

「魔族の前に……孫の嫁だ。それに権力者だ。だから……ワシらは勝っても負けても痛みは他の家より少ない。滅びようと魔国で続いていく」

「………もし。孫と戦う場合は?」

「斬る。向こうも『そうする』と手紙で言っていた。魔族であるとな……今の帝国の王になるより幸せだろう」

「………そうですか」

「残念だったな、黒騎士団長。ランスロットはもう………向こうの手の内だ。聖剣もな」

「ランスロット皇子しか、剣は抜けず……王になる器があると思われる男だったのに………残念ですね」

「やはり。呼び戻したかったんですね黒騎士団長」

「ああ………今の王子たちに……辟易しててね」

 深い溜め息を吐く黒騎士団長。ここへ来て。あの蟲毒は効果が出ず。結局、聖剣も失い。ランスロットさえ、向こうに渡った。結果論と言えど運がないと黒騎士団長が思う。

「後手後手な気がしますね」

「実はワシもだ。しかし、孫はいったら誰に似たのか………」

「自分ですね。お父上。愛する人のために何かも捨てる王子様のように教育したのです。聞けば………なかなかロマンチックで筆が捗ると言うものです。魔物と王子。いい関係性じゃないですか」

 トラストが腕を組みながら笑顔でメモを取る。それに呆れながらも優しく眺める騎士団長に黒騎士団長は南騎士団の裏切りを見た。

「陛下への裏切りです」

「陛下の旗はどちらに? 陛下は魔王に手渡したと言われてましたが?」

「………」

「黒騎士団長。君は恐ろしい。しかし………恐ろしいだけで人は動かない。知っているだろう?」

「………」

「実はあの命令書も陛下の直筆だ。陛下が何を思ったか……筆を走らした。偽装物ではない」

「……どこでその情報を?」

「義理の娘がね………陛下と共通の話題を持っていてね………色々とコネが効くよ。陛下はもう一度、戦いを見たいそうだ。そう『魔王が勝つ世界を見て逝く』とな」

 南騎士団は運がいいようだ。ランスロットのような者を輩出出来ているのも、他の騎士団にない物を掴めている。

「黒騎士団長。安心しろ………兵は全力で出す。勝つつもりでな。しかし、『わからない』とだけ言おう。運命はわからぬ」

 南騎士団長が白くなった髭を掴みながら唸り。黒騎士団長は頭を掻くのだった。

 あの、目の前に堂々と現れた金髪の女性を思い出しながら。



§第一回  九代族長会議①



 静かな日。外の庭園では花が咲いているし鳥がさえずっている。こんな穏やかな日に私は白いドレスを着込んで腰に愛剣を帯剣し皆が待つ場所へと進む。場所は執務室と言うより会議所であり、大陸の地図がカーテンで隠している場所だ。

「ネフィア……大丈夫か?」

「大丈夫……片目でも馴れた。トキヤ手を離して」

「いいのか?」

「ええ、怪しまれないようにしなくちゃね」

「………王は辛いな」

「全くよ………皆に見られる故に……ね。私は強い事を示さないといけない」

 トキヤが手を離し、私はその背中についていく。本来、王の前に立つのは不徳と言われるかもしれないが。昔から殿方の後ろについてきた私は癖でついつい………黙って歩く場合は後ろについてしまうのだ。

 まぁ、それも……衛兵から見れば「熟練の夫婦に見える」と言われているので不徳と言うものは居ないのではないかと思うが。

「ついた」

「トキヤ待って………」

「皆が待ってる」

「そ、そうだけど……」

「………王として切り替えか?」

「い、いや……その………なんだろう。ついつい、トキヤの後ろについてきたけど………私が前がいいかなって………」

「…………そういえばそうか。扉を開けてネフィアが先頭の方が普通だな」

 トキヤが首を傾げて唸る。

「しまったな………俺もついつい。お前の前に出てしまう。今ではお前の方が上なのにな」

「でしょう!! 私もついつい後ろについて行ってしまうの」

「………」

「………」

「仕方ないか」

「仕方ないね」

 私は口元に手を当ててクスクス笑う。居心地のいい雰囲気だ。

 ポンポン

 そして、優しく頭を撫でられる。

「ネフィア……安心しな。ずっと一緒だから」

「一緒でないと困る」

「ははは……強情なやつめ……これもやっちゃいけないのかな?」

「気にしないで……文句言うやつは首を」

「おお、怖い怖い。立場があると怖いなぁ」

「冗談だけどね」

 ガチャ

「冗談でしたらそろそろいいですか? 姫様とトキヤ殿。皆が待っています」

「………すいませーん」

「すまんな。グレデンデ」

 エルフ族長が扉から顔を出し、文句を垂れる。王にこんな仕草をしても私は「怒ろう」とかは思えず。手を合わせて謝るのだった。

「いちゃいちゃは後で自室でしてくださいね」

「はーい」

「ネフィア。もうちょっと固い返事をな………」

「へへ……やっぱ身が入んないや」

「……あの早く」

「ごめん!!」

 扉を開けて素早く部屋に入る。部屋には重々しい雰囲気で皆が待っていた。それを見ながら頷き……テーブルの最奥に進み座る。トキヤは私から右手の方にある椅子に座る。

 メンバーはトロール族長トロール。オーク族長デュナミス。トカゲ獣人族長リザード。エルフ族長グレデンデ。ダークエルフ族長バルバトス。夢魔族長エリック。吸血鬼族長セレファ。アラクネ族長代理オニヤンマのカスガ。スキャラ族長オクトパスにユグドラシル商会からトンヤ・オークズが来ている。

 すぐによく集まったものだと感心する。

「………」

「………」

「………」

「………姫様」

「あっ!? ごめん!! そういうことね。おっほん」

 慌てて椅子から立ち上がる。他の族長が苦笑しながら私を見た。その視線に答えるよう私は言葉を発する。

「第1回……九代族長会議を行う。皆に集まってもらったのは他でもない。緊急事態だ」

「「「「!?」」」」

「意外そうな顔をするな……余の顔に何か? ダークエルフ族長申してみよ」

「あっ……いえ……どうぞ続けてください。声変わりですか?」

 エルフ族長とエリック族長以外、以下数人の顔つきが変わる。真面目そうな顔に笑いそうになる。真面目な声に反応したのだろう。

「内容は知っての通り帝国と戦争になる。会議の話は一つ、情報提供と作戦会議とする。なお、策は用意した。今のところ質問は無しだ」

 全員が頷く。驚くぐらいに聞いてくれている。

「まぁ、その前に………ユグドラシル商会のトンヤさん。話がある。これは早急に進めてほしい」

「なんでしょうか女王陛下」

 ユグドラシル商会のオーク男性が笑みを向ける。今のところ知り合いのような軽い口調での会話ではない。

「ふぅ、なれないわね。知り合いにこう、固い言葉を使うのは」

「いやー俺もですよ。女王陛下になるとはね~。でっ何を所望で?」

「金、金が欲しい。ありったけ………全財産を利子つきで貸して欲しい。名義は余だ」

 周りがざわつく。それを私は目で制する。

「余とトンヤで交渉してる。静かに」

「……全財産。利子つきですか」

「たんまり溜め込んでいるだろう?」

「ククク。利子無しで………お金を出しましょう」

「ん?」

「しかし!! 条件がいる。これは融資である」

「言うてみろ」

 ユグドラシル商会のトンヤが立ち上がる。

「一つ、お金を投資する条件として今後の女王陛下領地及び共栄国領地の商売は全部私の一任として欲しい」

「なっ!? それは独占です!!」

 エルフ族長がたまらず声を出す。

「確かに独占ですが。ユグドラシル商会の下でなら自由にしますよ。権限を一括し円滑に交易を行いたいのです。ちょうど………族長たちが居ますからね」

「よかろう」

「姫様!?」

「エルフ族長……大丈夫。悪さはしないわ彼は」

「女王陛下に誓って。それに………」

「そう」

「「大商人は夢でもある」」

 私は彼を知っている。だからこその応援の意味を込めて。認めようと思う。実際は「経済管理者」となるのだろう。最大商業家になりつつあり、逆に仲間に引き込まないと危ないまで肥大化している。

「エウリィさんも喜ぶわ」

「ええ、女王陛下。ありがとうございます。正直な話は女王陛下に頑張ってもらわなければゆめが叶わないのですけどね」

「ええ、わかってるわ」

 帝国が勝った場合……きっとユグドラシル商会は潰されるだろう。そういうことだ。

「………そしてもう2つ目」

「何かしら?」

 トンヤが汗を滴らせて言葉を捻り出す。

「……エルダードラゴン。ワン・ドレイクをください」

「あれはあげたわよ?」

「口約束ではなく……書面でお願いします」

 私は首を傾げて。考え……「ああっ」と思いつく。

「ユグドラシルちゃんね」

「……発言い、いたしかねます」

「娘に甘いのね」

「……」

「わかった。契約しましょう」

「ありがとうございます。では、こちらにサインをお願いします」

「あら? 準備がいい」

「前もって、予測できましたからね」

 汗を吹きながら笑顔のまま私に近付き。羽ペンと上質そうな紙を用意する。それに私はサインをした。

「資金はいつまでにどれだけ集められる?」

「城一杯に出来ますよ………帝国からいただいたのでね」

「帝国から?」

「情報提供………兵糧の買い出し分の把握が出来ておりますので後で売買記録をお持ちします。それとですね。権限の行使を即日にしていただけたいと思います。帝国からの交易を閉じ、スパイ流入を防ごうと思います」

「わかった。追々、見ましょう。即日ね」

「では、帝国の商人どもを蹴散らしましょう。早く動かないといけないので私はこれで失礼します。今後もご贔屓に」

「わかったわ。ありがとう」

 トンヤが契約書を持ってその場を去る。資金は確保できた。

「資金分配は半分を9等分にしましょう」

「幾らほどか?」

 虫系亜人でオニヤンマのカスガが聞いてくる。気になるのは仕方ない。

「そうね………来るのを楽しみにしましょう。ちょっと想像できない額らしいわ。耳打ちではね。把握出来てないそうよ」

「そうか………資金繰りは困らないのだな」

「簡単に解決できたわね」

 資金は十分貰えるだろう。幾ら蓄えがあるのかは知らないが。

「次に、敵についてお勉強よ」

 私は立ち上がり大陸の地図の前に立った。大陸の地図に魔力を流すと模様が変わるだけ。拡大は出来ないようだ。

「新しい黒板は?」

「その地図の裏です」

「ん?」

 地図に触れるとズレ、奥から黒板が現れる。地図の裏は色々な物が置いてあり、そのなかで丸められた白紙を尻目にそれをトキヤに渡すとテキパキと紙を木の板に張り付けた。私は白い粉を固めた物。チョークを手に取り、書き出す。

「おお、いいかんじ」

「黒板……姫様が言う通りに用意してみしたがどうでしょう?」

「うむぅ……便利」

 ささっと凸を描いて展開図を描いた。

「敵の主力は両翼と背後の予備部隊からなる騎馬部隊だ。非常に多く、機動力、突破力に優れる」

 凸に3方向からの矢印を書く。予備部隊は大回りし、背後を叩く。

「機動力を用意し、両翼から挟み込むように戦うのが得意であり。背後に回り叩くのも行う。予備部隊は臨機応変に援護に入ったりするほど柔軟な運用ができている」

 そしてもう一つ凸を描く。

「それとワイバーンの竜騎兵と言うのも存在し、空からの撹乱と背後から回られる恐れがある。帝国の主兵は以上だ。歩兵は数の多さで圧倒するが。騎兵、竜騎兵をどうするかが戦争の分け目である。騎兵、竜騎兵はすぐに撤退も出来るからな」

 私は黒板に兵数という項目を書く。

「エルフ族長!! 数は!!」

「………予想で30万………35万でしょうか……」

 会議がざわつく。ダークエルフ族長もオーク族長も驚いた顔をするのはそれだけ数が多いってことだろう。

「さ、30万!?」

「ほぅ……」

「義兄……まじか」

「一番、最大な数です。これから何処まで絞ってくるかですが………」

 獣族長リザード。蜥蜴男が立ち上がる。

「エルフ族長、遠征だ。全力でやって来るぞ‼」

「だから会議だ」

「ふふふ……」

 皆が私を見る。何で見るのかわかっている。笑っているからだ。エルフ族長が私に質問を投げる。

「姫様? 何故お笑いに?」

「いや、『首級の奪い合いをせずとも良いな』と思ってね」

 歪め私よ。今ここではそれが求められる。

「いっぱい首があっていいではないか? 皆に均等に褒美がやれそうだ。沢山倒せる。数を聞いて安心したよ。全員に行き渡らせれそうだ」

「姫様………」

「ククク!! 女王陛下ハハハハ!!」

 オーク族長が大笑いし、大きな声で叫ぶ。

「女王陛下は数を聞いて。首に困らないか!! 確かに!! ガハハハ!!」

 私は空気が柔らかくなるのを感じる。

「まぁ、そうね」

 それを感じ取った瞬間に邪悪な笑みを浮かべる。底冷えする声で……皆に示した。

「勝つつもりだから。そこんとこよろしく」

 誰も否定はしない。誰も疑わない。私も疑わない。
 

§第一回 九代族長会議②


「絶対に勝つから」  

 ネフィアが宣言し、族長達の顔を伺った。皆が頷きネフィアは言う。黒板はどかして大陸の地図の前に立ち、トキヤから棒を受けとりその棒先で説明をしようとする。

「軍師はいない、故に我が作戦を考えた」

 ピッ!!

 地図に魔力を流すと地図に変化が生まれる。それは驚くように分かりやすい。凸に帝国兵と記入もされる。便利である。

「便利ね。先ずは………決戦場を説明する。場所はイヴァリース大平原。この花園の広がる平原とする」

「「「「!?」」」」

 一部の族長が驚きの声を上げて立ち上がる。ガヤガヤと族長の一部が騒ぎだし、それをピシャッとトキヤが音を消して黙らせた。

「ネフィアが発言している」

「まぁ、よい。一番、リザード申してみよ」

 獣族長リザードが火を吹きそうなほどに激昂し叫ぶ。

「女王陛下!! それはこの都市の目と鼻の先です‼」

「そうだ」

「それでしたら何故我が都市の前で防衛をされない!!」

「………負けるからだ」

「負ける!?」

「あそこは防衛をする場合、まだ新しい都市であり。そう大きくはない。すぐに突破される。それに正面から戦えずにじり貧だ」

「しかし!! それではその都市は!!」

「………決戦前に、都市を見捨てる」

「なっ!?」

 族長達が驚いた表情になる。

「………俺は女王陛下に推薦したのは……我が都市を護ってもらうためでした。我のワガママでしょうが!! 何卒!! 考えなおしてください!!」

「あなたの気持ちもわかる。悔しいのも……でもね!!」

 ネフィアが机を叩いた。大きく大きく。

「正直言うわ!! あなたたちは遥かに弱い!! 私だって悔しいわ!! 祖国を踏み荒らされるのよ!! でも、祖国を護れないの!! 私たちは!! 傲るな族長ども!! 帝国はこの日のために力を貯めた」

「くぅ……よ、よわいと………」

 リザードが苦渋の顔を出して目線を下げる。心当たりがあり、言葉が弱くなる。

「正直言います。決戦までの期間中に訓練を施し。徹底的に抵抗できる場所まで持っていくことが必要なの!! 金はある!! 足りないのは時間と!! 兵のみ!!」

「…………都市はどうなりますか?」

 弱々しくリザードが言い出す。

「全面放棄。しかし、余は約束しよう。一度は相手の手にわたるが。奪い返して見せると!! 絶対にな……お前と共に祖国から逆賊を追い出してやる」

「………その言葉に嘘は?」

「ない!! 獣族長リザード。この都市に集めよ………全ての民もみな……ここにな」

「姫様……首都にそこまで入れるとは……」

「エルフ族長、ダークエルフ族長。首都を拡張しろ。壁は2の次だ。住める場所をとにかく増やせ。文句は戦後に聞く」

「………御意」

「あー姫様には……何も言えないわ」

「獣族長リザード……いいな?」

「………致し方なし。しかし、宣言しよう全族長ども聞け!! 奪還の時は我らだけでやる!! 横槍はやめてもらおう。この屈辱を内に秘め。静かにその時を待とう」

 全員が少し笑みを含んで頷く。リザードは満足したわけではないが席につき。ぶつくさとどうするかを悩みだす。

「良いでしょう。手は出さない。続きを話しましょう。物分かりよくて助かる」

 ネフィアが帝国兵の遠征予定路を決める。何個の都市が犠牲になるのを色で分ける。

「兵の問題は時間が解決できるわ。全族長がこの首都で集め訓練をさせる。あと、夢魔族長エリック」

「はい?」

「夢魔を集めよ」

「娼婦館でも?」

「士気が上がるならなんでも良いけれどそうじゃない。夢って便利で時間関係なく訓練が出来るわよ」

「ああ、なるほど……」

「訓練方法、何人かのあなたの連れの夢魔に入れといてあげる」

「わかりました。用意します」

「頼みました」

 トキヤが立ち上がり、エリックの場所に行き交渉を重ねる。エリックもトキヤから説明の細かな所を聞き。練り出す。

 それを横目で見ながらネフィアは笑顔で今度はスキャラを見る。もう決まったかなとか、都市が違う場所だしと言うことでケーキを食べてホクホクとしていた海族長スキャラがフォークを口にくわえながら目が合う。慌てて、咀嚼し、照れながらフワフワした表情を引き締めて私をみた。

「なんでしょうか‼」

 ネフィアは思う。「なにこの天然そうでかわいいタコ娘は」と、だが首を振って言葉を紡ぐ。

「あなたに重要な役を授けます」

 帝国の南部の都市を差す。

「ここの都市を落とし。次に上の都市を落とし。帝国首都の周りの都市にちょっかいをかけて」

「んぐっ!?……ごほごほ」

「大丈夫?」

「ごほごほ……げほ……む、むせた」

 族長の中で和やかな空気が流れる。涙目でむせたのを治めようと四苦八苦しているのを見ていると可愛いのだ。

「…………」

「ご、ごめんなさい」

 隣の昆虫族長の女性のカスガが背中をさする。

「大丈夫? スキャラ?」

「カスガ姉さんありがとう………」

「女王陛下の御前で……」

「本当にな」

「こんな小娘なぞオーク族の女でもやっていればいい。戦場に出る必要はないぞ」

「全く……かわいいですね」

「スキャラさんは……可愛いですね」

「ぐしぅ……ごめんなしゃい……」

 族長達が苛めるのをスキャラは涙目になる。オークは「かわいい。わが一族の女になれる」といい褒めてたのだが、気付かないだろう。オーク族は女を大事にする種族なのだ。自分の足を抱き締めてる姿は弄りたいがネフィアは堪える。

「皆さん。スキャラさんが可愛いから苛めるのはわかりますが。話をしましょう。実はここ……嵐竜によって都市が崩壊しています。そこを奪い。海族長スキャラの土地として帝国に圧力かけてください。海を遠征できるでしょうか?」

「で、でこまず!!」ガリッ

「そう。お願いしまず!?」ガリッ

 スキャラは舌を噛み。笑いそうになるのを堪えたネフィアも噛み。口を押さえて悶絶する。

「スキャラちゃん……持ってるわぁ………」

「姫様の真面目を崩すなんて……恐ろしい子」

「んぐぅ……スキャラちゃんめ……」

「!?」ブンブン

 スキャラが口を押さえながら首を振って無罪を言おうとする。実は「遠征も難しいこと」を言おうとしたが失態続きと。テンパりようで何も言えなくなったのだった。スキャラも周りが囃し立てて族長になったタイプと言える。

「………痛かった。でも安心。海族長スキャラちゃん。よろしくね。あなたの行為が相手を惑わせる。頼みましたよ。逃げてもいいわ。細かい指示は紙で用意する」

「は、はい!!」

 スキャラは緊張した面持ちで頷いた。

「最後に……都市は全て壊すけど……その前に時間を稼ぐ必要がある。一応、この商業都市ネフィアで一度時間を稼ぐ」

「時間を稼ぐとは?」

「敵にちょっかいをかけて展開をさせ、攻めず。時間を浪費させる。そして、都市を去るときは火をつけて相手に物資を渡さない状態で去る。遅滞させ……ある程度、兵を疲れさせてから決戦に臨む」

 大陸の地図に凸の字が反対にもでき、それがゆっくりと後退する。

「質問いいか?」

 オーク族長が手を上げて立ち上がる。

「おい、ネフィアの姫さんよ。そのままこっちに来るとは思えねぇ。戦線を広げる気がする。トロール都市側やあのオペラハウス側に来ないとは限らない」

「オデモ……チョットワカラヌ」

「トロールの旦那は黙ってな」

「……ウム」

 もっともな意見だとネフィアは思う。

「いいえ、絶対に来る。囮がいるから。他に戦力を散らしてそちらへ行くなら時間が稼げる。道草食うなら御の字よ」

「囮が? そんな引き寄せる餌なぞ?」

「私が……その場にいる」

「「「!?」」」

「私が戦い。殿も努め、敗戦を演じ。敵を導くわ」

 エルフ族長が机を叩く。

「ダメです!! それなら私目が!!」

「私以上に囮が出来る? 無理でしょう。目の前に王がいるなら……倒せば勝ちなら追いかけるわ」

 ネフィアは胸を張って言う。

「それに族長リザードが苦渋の決断してくれたし、それに余が出て時間を稼ぐんだ。余は各族長が使命を全うすることを信じ頑張るわ。意思は固い。文句も聞かない」

「………姫様……はぁ」

 ダークエルフ族長がエルフ族長の肩を叩いた。それから大きな流れを何をしなくちゃいけないかをネフィアは話をし……気付けば夕方になってその日は解散するのだった。次の日の会議のために。


§族長の夜  前編



 私はセレファ。都市インバスを任されている族長であり。悪魔や淫魔の族長であるエリックとは親しい仲である。都市イヴァリースに別荘を買い。今は書斎の椅子に座っている。膝の上には人形に憑依した少女幽霊のインフェを撫でる。

「今日は……素晴らしい日です」

「……はい」

 人形を愛でながら。椅子に座り考えを纏める。

「銀髪鬼を用意しましょうか………」

「彼女は……」

「そう、危ないですが。首輪をすればいいのです。首輪を」

「………もう。首輪ついてる」

 私は都市インバスにいる。銀色の狼女を思い出していた。彼女はずっと、戦い続けていたが。今では大人しく我々の檻に入り大人しくしている。

 それを放とうと思っている。

「力になればいいですが………危ないですかね?」

「………あら? そんなのが居るんですか?」

「「!?」」

 バサッ!!

 私とインフェは驚いて声がした窓を見た。開け放たれた窓に白い翼の少女が舞い降りている。まるで………夜中の太陽のように白く輝く姿は………女神のように。

「都市インバスですね。せっかくです解き放ってください。何でも利用しましょう」

「ネフィア女王陛下……なぜここに?」

「ふふ、会議で一言も喋らずにいた貴方が少し気になっただけよ。でも、安心した。しっかりと悩んでいてくれてる。なので任せましたよ。何でも解放して使いましょう」

「ネフィア姫……」

「ネフィアお姉さま……あの。本当に前線へ?」

「ええ」

「………ご武運をお姉さま。陽の導きがあらんことを」

「ありがとう。陽の導きがあらんことを」

 姫様はそれを言ったあとに窓から飛び降りた。なんのために来たのかは話さず。任せるだけにわざわざ言いに来たのだろうか。

「……ご主人。信用されてますね。『任せましたよ』ですよ!! すごいです!!」

「………ええ、すごいですね。わざわざ……こんな吸血鬼の私に光を見せるのですから」

 期待されている。たったそれだけを私は感じとり、目を閉じて血のたぎりを押さえ込む。

 今夜は……少し熱いようだ。





 今日の夜も月は一段と眩い。その中でトロール族長はベットに横になり早く寝ようとする。

「あら、早い」

「ン?」

 トロール族長の自分は大概の事は鈍くノロマなのだが、それは早く反応できた。

「ん……トロール族長さん。ありがとう」

「オデ……ナニモ……シテナイ」

「いいえ、これからするの。トロールさん………今回も頑張って抜け出そうね‼ 今度は捕まらないように。人間に捕まらないよいに頑張っていきましょう」

「……ワザワザイイニ?」

「ええ、ワザワザ」

 トロール族長はベットから降りて窓から入ってきた鳥のような自由の翼で羽ばたく少女の頭を撫でる。

「アレカラ……モットオオキクナッタ」

「うん。では……行くね。トロールさん……信じてます」

「………オデニマカセロ」

 ネフィアはトロール族長は笑顔に頷いて窓から飛び出た。昔とは違い。自分の翼で飛び立つ姿にトロール族長は時代を感じ、「頑張ろう」と考えるのだった。







 買った家の屋根の上をアラクネ族長代理のカスガが寝そべっていた。オニヤンマの彼女は肉を食べながら空を見て……月が綺麗だと思っていた。

 フワッ

 そんな中で、隣に白い翼の女性が舞い降りる。

「こんばんわ。今日は月が綺麗ですね」

「………女王陛下……何故こんなところに?」

「カスガさんが気のなってじゃだめ?」

「気になったですか……」

「そう、アラクネ族長の代理として。頑張ってるから」

「………まぁ。死にたくはないから」

「お話を伺っても?」

 ネフィアは隣に座り、カスガを見てくる女王陛下に。身分関係なしに降りてこられる事に驚きつつ………ああ。これが蜘蛛姫を助けれた要因なのだと理解する。

「……少し話が長くなります」

「いいですよ」

「私たち、虫みたいな人型はずっともっと強い魔物の餌でした。隠れ住み、亜人にも魔物として迫害を受けてきました」

「………」

「多くの仲間はワイバーンに喰われ。亜人に負われ………数を減らし。強いものしか残れなかった」

「自然淘汰ね」

「……ええ」

 さも当然と言葉にするネフィア。カスガは彼女を眺める。

「自然淘汰でしたが……ある日に。都市ヘルカイトの話を聞き。蜘蛛姫と出会いました」

 そのまま続ける。

「暖かく。初めて我々は受け入れられた……いとも容易く」

「来るもの拒まずでしたね。我が故郷は」

「……そう。気がつけば我々は皆。移り住み………規則を学び。亜人との距離を知り。労働を知り。知識を身に付けた。気がつけば亜人とかわらない所まで来ました」

「結構、苦労されたのね………」

「はい。しかし………それが今こうして。亜人の一人として月を見れている」

 カスガが月に手を伸ばした。

「生きるのに精一杯で知りませんでした。月はこんなに美しいと」

「あなたの望む世界になるといいですね。頑張ってください。あなたは選ばれてここに居ます」

「そうですね。蜘蛛姫の代理として………選ばれてるのです。我らの運命を掴もうと思います」

 カスガは月を掴む仕草をする。

「………遅いですが新九代族長代理就任おめでとうございます。これからも英魔のために頑張ってください。英魔族昆族亜人カスガさん」

「ああ、はい。女王陛下。英魔族一員として頑張っていきます」

 ネフィアは彼女を英魔と言う。

「………女王陛下」

「なんでしょう?」

「蜘蛛姫以下、認めていただきありがとうございます。こんな場所ですがお礼を言わせてください」

「私は何もしてません。あなた方が勝ち取った身分です。誇りにしなさい。そして胸を張って生きなさい。英魔なのですから」

「……はい」

「では行きます。期待してますからね」

 ネフィアはその場にたち。翼をはためかせて屋根から飛び降りる。

 カスガはその背中を見ながら。己が期待されてることに嬉しく思うと同時に頑張ろうと思うのだった。







コンコン

「スキャラお嬢様。お客様です」

「はい……」

 私は今日。会議で粗相をして落ち込んでいた。この前は何とか威張れたのだが………仮面が剥がれ落ちたようにポロポロと荒が出てしまった。

 海側の亜人代表者として私は皆の願いも元に選出された。父上母上や皆に託されて来たのにこれではいけないと思う。

 首都に置いた我らの集合住居の家から顔を出す。こんな遅くに誰だろうか気になり玄関までお迎えに行く。スライムのメイドは後ろで控えていた。

「どちらでしょうか」

 玄関には………白い有翼のあのお方が見えて息を飲んだ。

「こんばんわ。夜遅くにすみません」

「あっ……えっと……」

 私は言葉を失う。

「少し気になったのです。一番お若いでしょうし。あんなゲテモノ集団で大変でしょう」

「えっと………その………」

「はい………」

「………お嬢様。お部屋にご案内しましょう」

「あっすいません。お茶をご用意します」

「ごめんなさい。ゆっくりしたいのですが仕事があります」

 仕事。こんな遅くに………まだ姫様は働くのだ。

ポンポン

「………?」

 姫様は私の頭を撫でる。身長は低い私でも足は長いため、同じぐらいの高さだ。そんな私の頭を撫でて下さる。

「背伸びして偉いです。頑張ってください。スキャラお嬢様」

「姫様……ワザワザありがとうございます。粗相ばかりで………その……すいません」

「そうですね」

「……すいません」

「謝ってばかりなので。一つお願いがあります」

「はい……なんでも仰ってください」

 できることならなんでもしようと思った。姫様は悪い笑みで答える。

「では、頑張って英魔に勝利を導いてください。期待してます」

 重たい言葉。でも、私は頷く。せっかく私に会いに来てくださったんだ。「頑張らないといけない」と思うのだった。



§族長の夜  中編


 会議が終わったあとすぐにオーク族長デュミナスはその大きな巨体が収まる酒場の個室を借りてそこにあるソファーに腰掛け、踊り子服を着た女性に酒を入れさせていた。踊り子は若い悪魔族の女性でありデュミナスの物である。妖艶な姿で彼に寄り添う。

 異種族のメスを奪い服従させる。これは昔からオーク族がやって来た事だった。

「息子は家でなにをしてる」

「毎日、毎日。鍛練です」 

「……ふん。兄弟で唯一無二の放浪息子がこのタイミングで帰ってくるとはな」 

「女を連れてとは驚きました。誰に似たのかしら?」

「ワシだろう」

「でしょうか?」

 デュミナスは悪魔の女性の顎を撫でる。悪魔の女性はにこやかに笑みを溢し服従の証として彼の頬にキスをする。

トントン、ガチャ

「……ん?」

「オーク族長。こんばんわ」

「ん?……お前は」

 オーク族長は目を細める。そしてニヤリとした目の前の女王陛下に「なるほど」と頷く。

「配下に挨拶か。素晴らしい心がけだな」

「話が早いですね」

「オーク族をまとめるためには力だけではダメだ。頭もいる。女を落とすのもな」

 下卑た笑いをするが、なんとも旧い猛者の雰囲気があり。その年上にネフィアは少し頭を下げる。

「我々の仲間に入っていただきありがとうございます。そして………その腕を落としたことをこの場をもって「黙れ」………?」

 言葉を遮られる。

「謝るな。ワシの腕を落としたことを誇れ。片腕はお前を試すために色々と煩わした罰でもあり。気にすることはするな。ワシはこの傷を誇りに思う」

「………はじめまして。彼の物であります。ウーです。話に入ることをお許しください。女王陛下。彼の腕は名誉ある一騎討ちによるところです。情けはいりません。私からもお願いします」

「………すまない。配慮が欠けていた。ああ、私と戦った猛者の一人であるな」

 ネフィアは頭を上げて頷く。

「ワインを入れてくれ。女王陛下は飲める口か?」

「もちろん。大好きさ」

 踊り子の服を着た女性にネフィアはワイングラスを貰い注いで貰う。オーク族長も注ぎ。ワイングラスを触れさせる。

 ガラスが擦れる音がしたあと。オーク族長とネフィアはグラスを傾けて赤い液体を飲み干す。

「これで同じ酒を味わった仲だ。何も気にするな。勝っていくぞ」

「ええ、勝ちましょう。あと………奥さんの踊り子服……いい趣味ですね」

「ククク。これはこいつの趣味だ」

 ネフィアは悪魔の女性をみる。妖艶に微笑み一つ。ネフィアは納得した顔をする。

「何人も産んでも綺麗でしょ私は」

「ああ、綺麗さウー」

「……少しお邪魔みたいですね。次に行きます」

 オーク族は女を大切にしているのだろう伺え、なんにも気にしないで良いことにネフィアは安堵しながら去ろうとする。

「ちょいまて。次は誰に会って。士気を上げるんだ?」

「エルフの二人と飲みあいます。夢ではエリックさんと」

「そうか。忙しいな陛下は……だが」

「だが?」

「今の姿もいい女だぜ。姉さんよ。勇ましいのは好きさ。な、ウー。まーた大きな斧振り回してくれや」

「……まぁ気が向いたらね」

「ふふ、ありがとうございます。では失礼」

 ネフィアはその場をさる。背後では仲の良い夫婦を見れ「自分も精進しない」と心に誓うネフィアだった。






「グレデンデ準備はいいな」

「兄貴、手加減せんぞ」

「ダークエルフごときに負けんよ」

 樽の上でトキヤが両方の握る拳に手を添えて睨ませていた。大衆酒場の観衆が集まりお金を賭け出す。ダークエルフにお金が集まる。白い肌の筋肉と黒い肌の筋肉が今か今かと待つ。

「ダークエルフが多いな。2倍ほど」

「まぁーそうだろう。俺は鍛えてる」

「賭け事は世俗的でつまらないですよ。なーに。足りない分は全部。私に賭けます」

「………俺もお前に賭けよう」

「なんだぁ? なんだぁ? なんか俺はそっちの反骨の方が燃えるぜ」

「反骨? 同じ族長の癖に下に思うのか? バルバトス」

「トキヤ。こういうのはまぁーお偉いさんを倒す方が楽しいんだ」

「では……戦意も充分。腕相撲……ファイ!!」

「んおおおお!!」

「ぐおおおお!!」

 エルフ族長とダークエルフ族長が腕相撲の開始の合図と共に叫び会う。そして、拮抗し観衆が叫びながら両方を応援する。

 ヒョコ!!

「トキヤ、どっち勝つかな?」

「ネフィアはどっちがいい?」

「ダークエルフ族長は強し。力で劣るエルフ族長の粘り勝ちを求めたいのでおこずかいそっちに入れる」

「了解………いつの間に帰ってきたんだよ」

「今さっきだよ」

「へぇー……あああああ!?」

 トキヤの腕に顔を突っ込んで見るネフィアにトキヤが腕を締める。エルフ族長が押され出して苦しい表情に盛り上がりが生まれ、トキヤが力んでしまったためだ。

「ちょ!? 絞まって!? ぐぇ!?」

「あっ、すまん………お前もそんなとこ突っ込むなよ」

「げほげほ………捩じ込みたかったから。エルフ族長!! 負けんなよー意地見せろー」

「!? 姫様!? そうか………姫様はここにいないのに声が聞けるとは………天命ですね」

「やっべ!? 目が据わってる。あっ動かね!?」

「ダークエルフ族長バルバトス。すまぬが声が聞こえた。負けられぬ」

「ちょ!? あが!?」

 ダンッ!!

「よっしゃあああああ!!」

「あっくっそおおおお!! ビビってしまったああああ」

 樽をダークエルフ族長は叩き。エルフ族長は天を仰ぐ。酒場の観衆が何人かはため息を吐いて何人かは歓声を上げた。

「よっし。おこずかいアップ!! よくやったエルフ族長!!」

「グレデンデ!! よくやった!!」

「いえいえ、声援ありがとう。姫様のお陰ですよ………姫様の………姫様?」

「どうしたんです? エルフ族長?」

「姫様なんでここに!?」

「いてもいいでしょ? ねっ? マスター。お酒を飲みに来る場所でしょ?」

「ああ、まぁー。俺は姫様来てくださると箔がつくから嬉しんだけどな」

「商売人だなぁ。ネフィア、でっどうしたんだ?」

「飲みに来たって言ったでしょ? おこずかいで飲みに来れるのここら辺だし。今日はトキヤも居るし」

「まぁ」

 トキヤは考える。「姫様がこんなとこ居ていいのか?」と。だが………「自分もエルフ族長もダークエルフ族長も居るし、昔から魔王としても帝国で居たのでいいか」と思いマスターにネフィアの分を注文する。

「すまん。ネフィア……おれ分配を行うから」

「はーい」

 トキヤは大きなテーブルでお金の分配を客に行う。ネフィアはカウンターに座り。その両翼にダークエルフ族長とエルフ族長が他の客から守るように座る。他の客も気になるが殺気を感じ、チラチラと見るだけに留まる。女性客からは羨望の眼差しでネフィアを見つめた。

 エルフ族長とダークエルフ族長を両翼に置けるのはあとにも先にもネフィアだけだろうと思われる。ネフィアは気がつかないが男運はいいのかある意味。いい男が周りに多い。

「いやー実は負けると思ってました」

「勝つと思ったのに俺は……」

「まぁー私はおおいに盛り上がったので満足です」

「「姫様満足ならそれでいいか」」

「……二人ともちょろない?」

「そうですかね?」

「そうですか?」

「ちょろい方がいいんですが………私がワザワザここへ来たのは二人にこの戦の行く末を期待してるからと言えば……どうですか? 頑張れます?」

「姫様!?」

「そ、その言葉は」

「……こうやって、暗殺のリスクを犯してるんです。察してもいいではないですか? 確かに担がれましたが。悪意ではないでしょうし、それに……同じ酒を飲んだ仲ですよ」

「ずびぅ……ずびびび」

「ちょ!? エルフ族長!?」

「ああ。姫様。こいつ、酒が入ると涙脆いんです」

 ダークエルフ族長は呆れながら言う。しかし、心ではしっかりと泣く理由も理解していた。誰よりもネフィア姫様を望んでたのが義兄さんだったために。ダークエルフ族長は彼が感極まるのもわかるのだ。

「あーエルフ族長。そこまで考えてくれてるのは嬉しいですけど………勝ってから泣いてください。マスター、ハンカチ」

「ほい。族長」

「ずびびび」

「あー兄貴がないたせいで。俺も胸が熱いもんあったのに冷めた。まぁでも………姫様ありがとう。こんな俺にも声をかけてくれて」

「そう思うなら歴代最強の衛兵を見たいです」

「姫様!? ああ………いいでしょう。見ていてください。お見せしますから‼」

 ネフィアは頷くだけにした。士気と雰囲気はいい。安心して任せられることに笑顔になる。

 トキヤが集計し帰ってきたとき。席を二人は譲らなかったのを笑いながら。ネフィアはそれを許すのだった。


§族長の夜  後編


 私は深夜に目覚める。と言うよりも夢の中で目覚めた。暗がりの中で浮遊し、暗い地面に降り立つ。夢の中は私たちの世界。そう………夢魔と言う種族の領域である。何度も何度も。知っている世界。

「おはようございます、姫様。エリックでございます」

 目の前に灯りがつき、紳士服を着た男が現れ、仮面の男は儀礼的な礼を行う。

「英魔悪魔族長エリックさん。ここはあなたの夢ですね」

「そうです。姫様……姫様も私に会うつもりでしたでしょう? 私からお迎えにあがりました」

「……あなたも結構。変わったわね」

 昔ならもっと強引なような。暴れるような感じだった気がする。心に黒い感情を宿し復讐に心が支配された時もある。あれから柔らかくなった。

「そうですね。また多く変わりました。何回も何回も……姫様。一曲どうでしょうか?」

 エリックは手を差し出す。それは舞踏会で令嬢を誘うような仕草である。

「ヨウコさんに怒られますよ?」

「彼女は夢の世界まで来れません。私に残された唯一の自由な場所です」

「浮気……しているな?」

「色んな女性に夢を授けてるのですよ~時には初恋の人に、時には尊敬する人を演じ、時には私自身が入り。背中を押すのです」

「一夜の夢のような夢……儚い」

「しかし、夢であるからこそ納得します」

「……もてあそぶのね」

「私たち種族はそうでしょう? しかし……姫様は少し違うようです」

「………わかった。1曲でも何曲でも踊ってあげるわ」

 私は彼の手を取る。

 ブワッ!!

 すると、足元からバラの花が舞い。床が出来上がり。そこから世界に色が産み出されて行く。彫刻された柱が出来、大きな円形の広場が生まれた。それは円形劇場といい、周囲一帯が客席がある。空席には誰も座らないが視線だけは感じた。自分の衣装もフリルのついたドレス衣装であり。まるで魔法のような夢に流石オペラ座の怪人と思うのだ。

一夜限りの主役劇場ナイトメア・ヒロイン。今夜はあなたが主役です」

「……ふふ。そうやって口説くのですね。でも残念。私はすでに主役を張った事があるわ。魅せてあなたに近付き。裏切った」

「そうですね、運命と思いました。それに間違いです。主役を張った事があるではなく。今も主役です。本物ですよ姫様は」

「ずいぶん褒めるのね」

「……褒める場所は多いです」

 彼が私の腰に手を回し。それに合わせて曲が流れる。ゆったりした舞踏曲が。

「彼よりも上手いわね」

「お褒めあずかり光栄です」

 彼とはもちろん愛しいあの人である。エリックはさすがと言うべきか。エスコートが旨かった。

「……姫様の記憶を見させてもらいました」

「あら、悪い子」

「全族長に挨拶しに回る事の意味も理解してます。特にあなたの隣を許されるという事を理解したエルフ族長たちは嬉しかったでしょう」

「本当に悪い子」

「それは、誉め言葉です。あくまで悪魔ですから……令嬢はちょっと悪い人の方が好きですよ」

「最低に悪い子……でも。そんな貴方だからこそモテそう」

「フフフ。しかし、落とせなかった人は居ますよ」

「あら? 誰かしら?」

 私は惚け。首を傾げた。そういう好意は受け付けてないとキッパリと言った。

「族長たちは皆が………声をかけられた事に喜んでいます」

「嬉しいわね。こんな小娘一人。『頑張って』と言えば士気が上がるんですもの」

「ご謙遜を。知ってて動いてるでしょう?」

 そう、知ってて動いた。私は「貴方に期待している」と言えば。あそこまで忠義を持つものなら期待に答えようと努力する。昔の帝国の陛下が行った事だ。

「姫は王には成りたくなかった。しかし……今は王として動かれています。指令書読ませて貰いましたが立派です」

「だーれも軍師にならないから私がやってるだけよ」

「いいえ。姫様だから従うのでしょう」

「………」

 私は躍りながら顔を伏せ。そして、再度顔をあげる。

「ええ、そうね」

「その目です。その真っ直ぐ迷いない目がいとおしい。例え片目でも……皆が驚いてましたね」

「指令書のそれはあなたたち9人の秘密よ。今の私は弱い」

「ええ、知っております。そして何でも利用し勝とうとする姿勢は見ていて勇気づけられました」

 音楽が佳境に入り。そして、ゆっくりと穏やかになる。私は彼が手を離したと同時に離れた。

「運命という言葉をご存知ですか?」

「ええ、知ってる」

「いま、ここで姫が立っているのは運命です」

「そうかもね」

「多くの者と触れ合い。時には救い。時には戦い。時には導いた。そして、皆に認められ、そして英魔王でございます」

 エリックは仮面を取り。額に鎖の押し印を撫でる。

「だからこそ………帝国との戦も避けられない運命なのでしょう。姫様が選ばれたのも……この魔族の暗黒時代を終わらせられると信じております」

「………戦に勝ってもないのに褒めすぎよ。本当に。その褒め言葉は後で全部聞いてあげる」

「……勝たないといけませんね。勝ったら帰ってきてくださいオペラ座に」

「いいでしょう。かわりに族長エリック………族長として義務を果たしてください」

「はい」

 私の目の前でエリックは跪く。

「ご使命を果たすためにもう一つだけよろしいでしょうか?」

「聞きましょう」

「自由に動いてもよろしいでしょうか?」

「良いでしょう。私は縛りません」

「では……やれることをしていきましょう」

 エリックは立ち上がり。笑みを浮かべた。私はそれを見て何となくだが……思い付く。

「……一つ。武演と言う物をご存知かしら?」

「なんでしょうか?」

「こう言うことです」

 私はイメージする。それはいつも着ていた鎧と手に馴染む。無銘の一振りの剣。それを腰に用意する。

「あなたの強さだけは知らないの。臣下の強さぐらい知っとかないとね」

「ふぅ、自信はございません」

「ふふ……では……」

 私は手をあげて手のひらに魔法を産み出すようなイメージで力を出す。舞い散る羽根と一緒に周りから視線を感じるようになった。

「観衆がいる方が良いでしょう? 運良く彼らはあなたの夢に導かれた」

「はぁ……場を整えられたら。やるしかありませんね」

 エリックは仮面をつけ直す。そして、鎧ではなくレイピアを産み出してそれをつかんで構えた。

「お手柔らかに姫様」

「ごめんなさい。手加減はわかんないの」

 私は剣を抜いて剣についた炎を振り払う。エリックは宝石の輝くレイピアを真っ直ぐに構え直した。

 1歩2歩と私は歩みより。勢い良く彼の目の前に飛び込むのだった。観衆の目に私を魅せながら………臣下を見定めた。


§第二回  九代族長会議前


「んっ……」

 私は朝日が昇りきった時間帯に体を起こす。頭が重く、痛いため手を額につけながらベットに座る。

「おはよう。ネフィア………水飲むか」

「ん……おはよう。あれだけの事でも頭痛がつきまとうのね」

「使いすぎると脳が死ぬぞ」

「………はぁ。それは嫌ね」

 トキヤが水瓶からコップに移しそれをいただく。水を飲んで少しスッキリした私は髪を掻き分けてトキヤを見た。

「……昨日の夢は見た?」

「見た。お前が接戦で勝ち。だが………動きはまるで昔の出会ったばかりのように遅かった」

「………今の自分の強さを知りたかった。ダメね……全然。動かない」

 そう、戦った理由は私を知りたかったのだ。

「ああ、ネフィア。わかったなら……お前は大人しくして城で待ってろ」

「……嫌」

「……………知ってた」

 彼は私を心配して言ってくれている。笑顔で彼に話しかける。

「ふふ、嫌よ。楽しいもの………」

「楽しいか~まぁそう思えるなら。何も今日は言わない。ネフィア、族長エリックから伝言」

「なーに?」

「勝手に動くだってさ……まぁ俺もお前が起きたから旅立つ。今日の会議は二人も不参加だ」

「えっ?」

「一人で出来るな? 午後に会議だから準備しろよ。ご飯は持ってこさせる」

「えっ!? 待って!! トキヤ!! どこ行くの!!」

 私は彼のマントを掴んだ。

「いや!! いっちゃ嫌だ!!」

「ネフィア……手が足りないんだ」

「そ、そんな!! 替わりとか!!」

「………」

 スッ

 彼はマントをひっぺはがし、私に向き直る。そして……頭を撫でたと思ったら顎をつかんで上げさせ強引に絡めてきた。

 長い。長い。深い。時間がゆっくりと流れるようなそんな濃厚なふれあい。

 それが途端に終わりをつげ目を開けた瞬間に彼の微笑む顔の近さに目線を逸らした。

「男ってズルい………キスすれば『許される』と思ってる」

「女はズルい。簡単に剣を握らせるんだからな」

「………早く帰ってきてね」

「わかった。いい知らせを持ってこれるようにする。にぃ~」

「にぃー」

 私は釣られて笑う。本当に本当に……いとおしいと感じながら。






「トンヤを呼んでくれ。至急足を2つ欲しい」

 俺はユグドラシル商会の支店に顔を出して受付のかわいい獣の女の子に声をかけた。知り合いのオークの商人に会いに来た。ユグドラシル商会の支店は冒険者ギルドのような机が所狭しと並べられ。地図と紙が散乱していた。俺の知り合いのトンヤは笑顔で俺の問いに答える。

「如何なものがよろしいでしょうか?」

「用意できるなら飛べるやつがいい。一つはネフィアに。ワンちゃんをあげたからな」

「でしたら………ちょっとお待ちを」

 店の奥にトンヤが行き、一人の龍人を連れてくる。俺は挨拶し握手を交わした。

「光栄です。勇者様。レックスです」

「こちらこそよろしく。君が俺の足として活躍してくれるのか? いいのか? 人を乗せるのは?」

「竜のプライドならとっくに捨てました。それより休みを多めに下さい………そっちの方が欲しい」

「そうか……トンヤ。彼を借りていいのか?」

「他の竜人が休み返上で働くだけですよ」

 俺は竜人の肩を叩く。彼らの境遇に同情しながら。

「でっ、トキヤの旦那は何処へ?」

「マクシミリアン騎士団へ」

「……敵地ですか?」

「ネフィアが先に手紙を出していた。しかしな………それではいけないと思ってさ。トンヤの旦那、ついでに手紙でも持っていってやるよ」

「なに!? いいのか!?」

「権力者に会う。ユグドラシル商会がこれだけ支援できる値でも、なんでも交渉材料とするといい」

「出発は待ってくれ……一筆書く………ああー忙しいぜ」

 俺は支店の待合室に向かい座った。トンヤが親書を書くのを待ちながら。ある女性のことを思い出す。

 ネフィアの師匠で勇敢な女性であり。ネフィアのように元男ではないのにその武勇は王と引けをとらない名将、名騎士。生ける伝説。

 騎士エルミア・マクシミリアン。

 彼女に俺は会いに行こうと思う。彼女の魂にもう一度………火を灯すために。







「ヨウコお嬢様。お手紙です………」

 紅茶を飲んでいる昼下がり。私は最近出来たユグドラシル商会の郵便をテラスで受け取りそれを広げた。自分の旦那からだった。

「…………まぁーたワシはお留守番じゃかのー」

 何処かへ行くと前は書かれていた。同じ内容で羽を伸ばし「女をタブらかしているのだろう」と思い。ため息をつく。

 そういう男だ。悪い男だ。でも、そういう男に惚れて手に入れたのだからと我慢は少しする。それでもやはり。限度はある。

「何々………動かせる放火砲を首都イヴァリースに………!?」

 私はビックリして内容を読み直し、金貨を置いて立ち上がる。

「ゴブリン衛兵長はどこじゃったかの………」 

 内容は全力で首都イヴァリースに出兵命令だった。私は内容を頭に入れて首都の衛兵舎へ向かい。手紙を見せようと思う。

 背筋に冷えた汗が流れる。近頃ポロポロと噂されていた事が思い起こされた。

「戦争じゃの………それも……大きい」

 私は英魔族長エリックの妻として手紙の命令を遂行する。女王への恩を返すためにも。







 都市ヘルカイトのギルド長室で僕は報告書を読んだ。隣に秘書として……妻であるアラクネと一緒に。

「ランスさん。戦争ですか?」

「ええ、戦争ですね。」

「九代族長として君は参加するのかい?」

「します。私は……カスガさんに全てを任せてますけど。カスガさん、私のような人が住める場所を護らないと行けません」

「……てっきり怖くて行かないかと思いました」

「出会った当初思い出してください」

「…………」

「一応魔物ですよ?」

「そうだった。ごめん。僕は君を姫様のように思っていたからすこし………間違えたようだ」

「………嬉しいですけど。はい」

「君が戦うなら僕も剣を握ろう」

「えっ!? ダメです。同族殺しは……お父様お母様悲しみます」

「縁は切った。戦場で会ったら迷いなく斬れる。君も僕を分かってない。変わったんだよ」

「……………」

 僕は悲しそうな顔をする。リディアの優しさに笑顔で諭す。

「後悔はしない。もう、護るものがあるからね」

「はい……もし。もし。よろしければ私が戦います」

「大丈夫、家族殺しは背負える。君は優しい。だけど戦場ではそれが命取りだ。昔を思い出して戦って欲しい」

「………魔物のように」

「ああ。僕の奥さんは魔物です」

 僕は立ち上がり。リディアの手を取り。その婚約指輪にキスをする。

「だけど……幻滅もしない。僕にとっては姫だから」

「………」

「何か言わないのかい?」

「泣いていいですか?」

「………こっそりね」

 僕は彼女のためにイヴァリースへ向かおうと決意するのだった。



§スキャラ族長と三者面談



 私はまだ距離感を掴めないまま廊下を歩く。足もおぼつかない状態で何度も何度も壁にぶつかるし、出っ張っている柱にもぶつかる。たん瘤ができそうなほど、ぶつかるが耐えられない事はない。

 痛みには慣れている。痛みを感じることは生きている証として私は思った。なお、煩わしいので痛覚は切るのだが。

「姫様大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。扉を開けて」

「はい……」

 私は会議場の扉前で警備している衛兵に心配される。早く体になれないと不安がられてしまうと危機感を持つ。この前は大丈夫だったのに今日はダメだ。

 弱体化を気付かれてはいけない。彼らは私を強者として見ている。バレたら士気に関わるだろう。

ギギギッ!!

 そう考えながら。重々しい扉を開け私は堂々と胸を張って中央を歩いた。

ザッ!!

「女王陛下……おはようございます」

「おはよう……えっと……」

 スキャラ族長のお嬢さんとその従者の水っぽい女性しか居なかった。なんというか……静かだと思ったのだ。

「今日は質問会の予定でしたが……あなただけなんですね」

「み、みたいですね。ははは………」

「発言いいでしょうかお嬢様」

「ええ。どうぞ。ご紹介します。素スライム族のスラリンです」

「どうも……綺麗な女性な方ですね」

 人魚のような姿で、水の羽衣を着た女性がスキャラ族長の後ろでお辞儀をする。

「……あの。女王さま。この人性別ないです」

「姫様、雌雄同体とお呼びください。この姿は殿方を喜ばせるためです。一応全裸ですし」

 スラリンという女性が水っぽい胸を見せる。私は何処かで知った知識を思い出す。

「……そういえばスライムの魔物見ませんでしたね」

 雑魚の代名詞のような魔物なイメージがある。

「私たちとは違った亜種の魔物はいます。しかし、数が少ないだけでしょう。水辺がないと小さくなってしまいますので」

「へぇ~。結局他……居ませんね。居ないのであれば伝えてくれば良かったのに」

「皆さん。忙しいのです………きっと」

「スキャラさんは?」

「………」

「女王陛下……お嬢様は質問しに来ております。暇ではございません」

「ごめんなさい……そういう意味では……」

 私は言葉の軽率さを謝る。少し、考えなしだったことを恥る。腕を組んだ。3人だけで会議なんて意味を成さない。では……どうするか。

「……帝国の出兵はまだ聞いてませんから。私の部屋でお茶を飲みながらでもお話ししましょうか?」

「よ、よろしいのですか!?」

「……女王陛下。私から申し上げますとそれは暗殺されたり、危険な行為かもしれません。寝室に招くと言うのも……あまり陛下ご自身で……」

「そこまで堅い王を演じるつもりはないわ。忠臣を呼んで問題ないでしょう? それに……あなたたちほどにやられるほど私は弱くはない。一つ疑問に持ちなさい。何故、護衛がいないかを」

 ダークエルフ族長やエルフ族長が打診してきた事に護衛があった。完璧に全員が味方とは限らない。帝国の暗殺者だっているだろうと言われている。

 だが、そんな余剰の兵は居るのかと思う。一人でも足りないのに護衛なぞ贅沢だ。だからこそ。言い放つ。

「私より強い護衛を用意できるもんなら用意してみろ。余は何者ぞ?」

 私は帯剣の取っ手を叩きながら不敵の笑みを向けた。真っ直ぐつり目を吊り上げて。そんな姿に何故かスキャラ族長とスラリンが見つめ合い。笑顔になって私に向き直る。

「「女王陛下でございます!!」」

 キャキャと私を見ながら二人が手を取り合い。私はその姿にある光景を思い出す。昔に上がった劇場のあの雰囲気に。

「すごい格好いいですね!! やっぱり!! 生で見れました!!」

「お嬢様、こう勇ましいの格好いいですね!!」

「でしょう!! エリックさんに夢を見せてもらったんですけど。惚れそうですよね!!」

「ですね!! お嬢様!! お嬢様も同じ女性なのに……」

「わ、わたしを見ないで……族長だけど……族長だけど……その比較しないで」

「申し訳ございません。女王陛下……メイドを雇うご予定は? 執事でもよろしいです」

「ちょっと!? スラ姉さん!? 役職やめないで!?」

「……お嬢様。長い間……ありがとうございました」

「!?」

 私は眉間のツボを押す。スキャラ族長だけが異様に不安になってきてしまった。帝国を攻める役なのに大丈夫だろうか。






 私は自室に招き入れる。綺麗なテーブルに彼女たちを待たせ、魔力炉で湯を沸かし紅茶を入れる。この国は勝手にハーブの花が咲く。それは香りが強く非常にミルクと合うのだ。

 お盆に乗せて、テーブルに置き。おやつとして買ってくれているクッキーもお出しする。

「どうぞ」

「あっはい……すいません。女王陛下……」

「……言われればご用意致しましたのに……」

「気にしなくていいわ。家事が出来なくて女を名乗れません。マクシミリアンの師匠も家事が出来ますしね」

 師匠とは、あのハイエルフの女性である。

「スキャラお嬢様。言われてます。言われてますよ」

「……」

「あら、スキャラちゃん。家事が出来ないの? それでは……嫁ぐことできないわね」

「……」

「女王陛下。もっと言ってください。家事が嫌だとゴネておりますの」

「……まぁ私も最初はそんな物だったし。追々出来るようになればいいわ。まぁ、私の場合体罰アリでいっぱい尻を叩かれたわ~懐かしい」

 私は頬に手を添えて懐かしむ。悲しいかな……過去を懐かしむのが歳を取ったと言うこと。悲しい。スキャラちゃんが苦笑い頬を掻く。そして私に質問を投げた。

「女王陛下の尻を………どんな命知らずなのでしょうか?」

「500年前に滅んだマクシミリアン王の姫。ハイエルフのマクシミリアン元騎士団長様ね。昔はその家にメイドで働いてたわ」

「ほえ~!? 本当だったんですね!?」

「お嬢様も何処かで修業させるのもいいかもしれませんね……」

「うげぇ~」

「私の元でもいいわよ。ただし………スパルタよ」

「………粛々とお断りさせてください」

「女王命令」

「………………」

「冗談よ」

「はぁあああああ~」

 スキャラ族長が大きいため息と胸に手をやる。むにゅ~と胸が歪むくらいに安心したらしい。私も椅子に座り香りのいい紅茶を啜る。

「まぁ、昔もあなたみたいに家事なんてとか……料理なんてクソッタレって思ってましたよ。ですが……好きな人が出来ますと変わるんですよ色々」

「そうなんですか?」

「そうなんです。もっと歳を取ったらわかるようになるわ」

「お嬢様は……女王陛下よりもしかしたら年上かもしれません」

「………」

「………」

「……気にしないで行きましょう。族長全員歳上で今更です」

「はい……」

 私は頷きながら。気にしないようにする。見た目幼い人でも年上はよくあるものだ。考えてみれば私は最年少のような立場だろう。

「にしても……女王陛下」

「ここでは、ネフィアと呼んでいいよ。スキャラちゃん」

「そんな恐れ多いこと」

「不義」

「ネフィアお姉さまと呼ばせていただきます……」

「よろしい」

「私もいいですか? 女王陛下?」

「いいわよスラリン」

「ネフィアさま。ありがとうございます」

「女王陛下、女王陛下とか………かったくるしくていけない。本来もっと気楽にすればいいのにねぇ~。そんな大層な人物ではないのに~ただの婬魔よ」

 私は肩を凝っているような仕草で首を回した。

「そんなことないです。ネフィアお姉さまの偉大な功績は………流石にネフィアお姉さまにしかできません」

「そうです。スキャラお嬢様が同じこと出来るとは思えません」

「スラお姉さま~いちいち私を貶すの嫌いなの? 泣くよ?」

「ごめんなさい。お嬢様。もっとしっかりと族長として胸を張ってくださいと言う鞭です」

「…………はい」

「まぁ~まだ成って若いのだから。これからよこれから~」

「ネフィアお姉さまは数ヵ月で英魔国女王陛下らしい振る舞いです。見習ってください」

「…………はい」

 スキャラちゃんが肩を縮ませる。私はスラリンに釘を刺した。

「そこまで。厳しくしなくても……まぁ……スキャラちゃんは族長としてきっと成長しますから。長い目で見ましょう」

「………わかりました。ネフィアお姉さまがそう仰るのでしたら」

「ネフィアお姉さま………こんな人にこんだけ期待されてるなら頑張らないと……よし!! 頑張る」

 スキャラがグッと力を入れるのを私は「かわいいなぁー」と思いながら眺め。「まぁ大丈夫だろう」と信じた。「なるようになるだろう」と。

「まぁ……それは置いといて……質問をするために残ってたのでしょう?」

「あっ!! はい!!」

「なんですか?」

 私は切り替えをすませて真面目な表情になる。部屋の空気もまるで会議室のように固い空気になり。スラリンが真剣な顔で私を見る。

「帝国を攻める場合の………策をください」

「策?」

「はい………こうすればいいと言うのを……指示していただければ」

「………いいでしょう。命令書は読んだかしら?」

「はい。しかし……内容はあまり掴めておりません。これなんですが……」

「あら? なーんも書いてないわね」

 命令書はまぁ……攻めろしか書かれてなかった。もうちょっとひねりが必要だろう。

「わかった……あなた方の作戦を説明します」

 私は衛兵に紙とペンを頼み。彼女らにしてほしい事を事細かに説明し、策を授けたのだった。



§海洋都市ホエール



 話し込み窓の陽が赤く染まり、暗くなっていく中で私は気が付く。時間があっという間に過ぎ夕刻になっていたのだ。私は一通りの策を与え、スキャラ族長は満足しているのを確認し席を立つ。

「ご飯ね……昼も取らなかったからペコペコ」

「ありがとうございました。長い時間拘束してしまって」

「大丈夫、しっかりと話が出来て良かったわ。それよりも………ご飯食べていきなさい」

「いいのですか?」

「もちろん」

 さぁ、いざ料理と思ったときにふと気が付く。

「買い出し行ってなかったわ………どうしましょう?」

「ネフィアお姉さま……よろしければ私が」

「時間も遅いしスラリンさん。城の食堂でなに作ってるのをいただきましょうか」

「……ネフィア姉さまのお口に合うのでしょうか?」

「納豆食べられるから問題ないわ」

「納豆………」

「発酵した豆のなんかよ。都市ヘルカイトで売ってる。一部は嫌いらしいけど私は好き」

 あれとシロメシがいいと思いながら溜め息を吐く。ここでは手に入らないだろうと。ゾンビの珍品であるが珍味として好きである。

コンコン

「はい、姫様。ご用件は?」

 扉を叩くと監視役のダークエルフの騎士が顔を出す。何故か部屋には護衛はいないが監視役はついているのだ。脱走したらすぐに報告が行く。

「3人前、出前取って」

「出前……ですか?」

「何でもいいよ」

「3人前ですね。用意させます」

 騎士が扉を閉めて鐘を鳴らす音が聞こえた。あれで使用人を呼ぶのだろう。扉の外で色々と話しているらしい。

「………ふむ。時間がこれば準備してくれるし大丈夫そう」

「ネフィアお姉さま。流石です」

「流石です。顎でこきつかうなんて」

「まぁ。トキヤも居ませんし楽しちゃましょう」

 シャンデリアに魔力を入れ明かりを灯す。饒舌なスキャラ族長に私は語りかけた。

「そういえば………あなたたちの都市はどちらに?」

「私たちですか? 私たち最近やっと出来ました西海岸第2新都市ホエールと海の中に旧都市が御座います。海洋都市ホエールと言い。リヴァイサン種と言う巨大な種族の庇護の元で暮らしております」

「リヴァイサン………エルダードラゴンにいたわね、そんな名前が」

「エルダードラゴンはお亡くなりなられました。リヴァイサン種に喰われたようです」

 私は冷や汗が出る。どういうこっちゃ。

「えっ? あれエルダードラゴンは強いのでは?」

 スラリンが口を開く。紅茶を体にかけて飲みながら。

「私たちは近海でしか住んでおりません。何かあれば陸に上がります。そう………悲しいですが海の魔物は陸の魔物よりも大きく強大で捕食者の頂点でございます」

「まぁ、一部のリヴァイサン種は私たちと同じ知を持つ者ですが。それ以外は……捕食者です」

「海って大変ね」

「大変です。私の父、リヴァイサン種のクラーケン父上しか……家族が居ませんから……皆、運悪く捕食されました」

 私は唸る。なんとも生きづらい世界なのだろと想像する。

「それで……陸に上がったと」

「上がりたかったですが………他の種族も居てですね。長きにわたる抗争で上がりきれませんでした。今が一番の上陸成功例です」

「ネフィアお姉さま……いいえ。女王陛下の慈悲深き行いによって我々はやっと……海から解放されたのです。そして………我々は気が付いた。例えどんなに苦しくとも海こそが故郷と言うことを離れてから知りましたね」

 改まって二人が頭を下げた。私は何もしていないが勝手に恩を感じているならと言葉を口にする。

「では、恩に報いて下さい」

「はい」

「ええ」

 快く、頷くのはなんとも洗脳のような雰囲気だ。しかし………「利用できるなら利用するべき」と思っている今はありがたい。

「策もいただきましたし、私もスキャラ族長として名を馳せようと思います」

「スキャラお嬢様!?」

「スラリン、スライム隊長の任お願いしますね」

「は、はい!! お嬢様が、感化され………そんな顔をするようになるなんて……」

ドロッ

「うわぁ!? スラリンさん溶けてる溶けてる!!」

「すいません。感極まると溶けてしまうのです。本来の姿はこんな丸々してるんですよ」

「えぇ~かわいい………」

 机に丸々したゼリー状のスライムが座る。なんとも可愛らしい姿だ。

「ふぅ。いつか私もその場所に行ってみたいものね。海洋都市ホエールに」

「すべてが終わったら来ていただけないでしょうか?」

「すべてが終わったらね。帝国によって滅びずに」

「ネフィアお姉さま!! 言質とりましたよ!!」

 スキャラが席を立ち上がった。

「えっ?」

「言質とりましたよ‼」

「え、ええ………」

 その勢いに引く。2回私に対して問い。しどろもどろになる。

「そこまで……」

「そこまでですよ!! これは事件です………」

「そうですね。お嬢様」

「私の影響って大きいのね」

「そうです。大きいです。私が連れてこれた場合。皆が平伏するでしょう」

「スキャラお嬢様にあまり言い顔をしない輩も居ますゆえ」

「ふーん。私はそんな……感じに思えないのにね」

 天井を見上げながら己の価値を考える。使えれるのだろうな……この権威。何者にも私と言う存在は大きくなっている。そして天井を見ながらニヤっとした。

「舵取りを任されてるのね。私は」

「はい」

「ふふふ、嵐は好きよ。平穏もいいけどね」

 今はそういうのが求められている。そう納得し、勇ましい演技を見せつけるのだった。






「スキャラお嬢様。流石は女王陛下でしたね」

「ええ、流石は英魔王ですね。歴代最強と噂される理由もわかります」

「策については……中々。目から鱗でした」

「そうですね。私たち海の亜人を理解し、出来る事を知っていて立案してます」

「はい。私たちに会ったことがないはずなのに。それに邪見にしませんでした」

「そうですね。でも……ああいう器の人だからこそ。私は頑張りたいです。誉められたい」

「お嬢様が褒められるように頑張りましょう」

「ありがとう……スラリン姉さま」

「いえ、スキャラお嬢様の母上の悲願でしたから」

「安心して暮らせる土地が欲しいだったね」

「はい……」

「すでに悲願は達成してます。あとは……恩を返し続けるだけです」

「もちろんですとも。陽の導きがありますから」

「はい。深海にも届いた。陽の導きがあらんことを。ホエール様にもお願いしましょう……我々の女王陛下のために」




§マクシミリアン騎士と交渉


 膨大な農地の上を飛び、俺は懐かしきかの地に降りた。砦で護られたマクシミリアン自治領に竜が降りてくる光景は驚かれ騎士達が集まり槍を構える。土煙が舞うなかで俺は竜の背から降りた。帝国側なのかどうなのかはわからないが一応挨拶する。

「こんにちは………」

「何者だ……竜騎兵……帝国の者か?」

 衛兵の代表者だろう紫の鎧の人物に声をかけられる。俺を帝国と間違えたのは鎧を着ていたからだろう。角も折っており見た目は人間と変わらない。

「権力者に会いたい。冒険者カードだ。話をしたい」

「ふむ。本物だな」

 俺のカードを受け取り魔法を流して確認後に返してもらう。冒険者としての身分は便利であり、位も高いために一目置かれる。だからこそ……冒険者を名乗る。

「権力者……騎士団長は今は帝国に顔を出す予定だ。お前は何者だ?」

「騎士団長? 俺が会いに来たのはエルミア・マクシミリアン殿だ。名をトキヤと言う」 

「……大祖母さまをご存知か……トキヤ……もしや!?」

「ギルドカードで名前が書いてあっただろ……」

「………少し待たれよ」

 衛兵のお偉いさんは兵士を一人走らせる。もちろん報告にだろう。俺は隣の竜人に人になれと言い姿を変えさせ服を着させた。

「湯治から帰って来ているか?」

「……帰って来ている。ふぅ、英魔国の使者か……ますます噂は本物なんだな」

「キナ臭いのはいつだって変わらない。魔物がいる中での生活だ。明日には滅んでいてもおかしくはないほど。強い魔物もいる」

「いかにも……」

 衛兵長と最近の事を聞きながら数分後。馬の土を蹴る姿が見える。姿は金色の髪に長い耳をつけた女性。その馬が駆け込み俺の隣で土煙を上げて止まった。

「よく来た。英魔王ネフィアの王配トキヤ」

「はい。お久しぶりでございますエルミア様……よろしければ堅苦しい挨拶はやめましょう。聡明なあなた様なら……少しは理解されている事でしょう」

 深く頭を下げる。馬上の姫はそれを眺めたのちにため息を吐く。

「……そうね。ようこそマクシミリアン領地へ。案内するわ」

 馬上からマクシミリアンの姫は降り、馬を衛兵に預けて俺たちは槍の囲いを抜けたのだった。

「衛兵長………ここで見たことは他言無用だ」

「……はい」

 重々しい空気が一瞬で生まれ、これからの行く末を見守る領民が不安そうな顔で俺たちを眺めるのだった。





 マクシミリアン領地主の屋敷についた瞬間。俺は竜人に暇をあげる。執務室に通され、変わらない洋風の部屋に深い椅子と机が置かれた所で俺はドッシリと構えた。暗い空気が針のように肌を突き刺し、ピリピリと体に電撃を走らせる錯覚を生む。

「飲み物用意させるわ……何かいいかしら?」

「紅茶でお願いします」

「……」

「……」

 目の前の美しいハイエルフの顔を拝む。悩んでいる顔に俺は言葉を待った。

「……彼女は元気かしら?」

「風の噂は聞かれていますでしょう。はい、彼女は元気です………生きています」

「含んだ言い方ね……あの子、無理してない?」

「………」

 「嘘も言えればいいのに」と俺は思う。しかし……それは不誠実だろう。しかし、言葉は出ない。

「……」

「あの、帝国の南で封印されし竜を討ち取った。その手腕は素晴らしいわ」

「奇跡……ですね」

 運が良かった戦いだった。代償は高くついたが。

「そう……ね……あなたは彼女に関して嘘が下手ね」

「……」

「悲しい顔してるわ。私でいいなら……相談に乗ってあげるわ。お祖母ちゃんに話してみなさい」

「今、ネフィアは右目が見えません」

「えっ……」

 予想外な言葉に彼女は顔を暗くする。

「他にも無理した結果が現れ……以前までの強さはないです。立つのもふらつく時がある」

「………それでも戦おうとしているのね」

「はい。残念ながら。俺は逃げることも考えました。しかし……ネフィアは「胸を張って戦う」と言い。決心して皆をまとめあげています」

「ふぅ……頑張ってるのに一緒にいてあげないのですか?」

「愛した女がゆっくりと壊れていくのは見てて辛いですね」

 俺はこんな事を言いに来た訳じゃない。しかし、吐露してしまう。

「はぁ……全くゴチャゴチャしてるんですよ。色々と」

「……そう。でも、あなたたちなら。大丈夫でしょうね」

 エルミアが紅茶を用意し、机に置く。俺はそれを啜り、大きいため息一つ出した。

「ありがとうございます。ん……美味しい」

 スッとした味で飲みやすい。

「おいしいでしょう。我が領地の物は」

「はい………では、本題です。あいつの書く手紙の宛先を見ました。エルミア殿へ手紙が届いているでしょう」

「ええ……届いている」

 内容は知っている。知っているが……知らないそぶりをする。理由は反応を見るため。

「………『帝国のために剣を違える事を私は怖れない。戦場で逢いましょう』だったわ」

 頬に手を置き目を伏せる彼女に俺は悩んでいる事を知る。よかった。まだ交渉できるらしい。

「帝国からは?」

「……参戦要求のみ。しかも………使者のみしか来てないわ」

「自分も使者です」

「王配がわざわざ来る方が重要でしょう」

「それだけ重要視していると言うことですよ……これ以上無理はさせたくない」

「納得した……参戦要求の不受理をお願いしに来たのね」

「如何にも。ネフィアはマクシミリアン騎士は恩に厚い騎士と思っているでしょう。故に自分を敵としても恨まず。『かかってこい』と胸を張っている。しかし、マクシミリアンは脅威だ」

「…………私が一任してると思ってる?」

「一任出来る。現に………姫であるなら」

 王族ではないが……エルミア・マクシミリアンの功績は多大な物だ。民の信も厚い。騎士団よりも発言力がある。僥倖なのは知り合いであったことだ。

「………ふぅ。あんまり帝国が好きじゃないわ」

「ネフィアは陛下を好んでますがね」

「まぁ……陛下は私に対して対等を示し、今の平安をくれた。しかし、手紙も使者も陛下の息のかかった奴じゃない。それも私は『嫌だ』と思っている」

「……では。参戦要求破棄お願いします」

「……あなたが頭を下げるのね王配」

「王配なんてあいつの隣にいるだけで成れた。プライドはございません」

「ふふふ……ふふふ……」

 エルミアがクスクスと笑いだす。

「そう……そうなの。愛したのが……たまたま……王だっただけ」

「そう、たまたま王だっただけですね」

「あなたと私は似てる。立場もね。一応、私も王配……だった」

「そうでしたね。マクシミリアン王」

 俺は好感触を得て。ここだと思い。ある条件をつける。

「マクシミリアン王国をもう一度復興させませんか?」

「………」

 唐突に俺は言葉を出し、悪い笑みを向ける。いまここでネフィアに無理はさせないを言ったのにも関わらずに交渉する。

「諦めたのですか?」

「帝国は無理と諦めたわ。私は………」

「………ネフィアに恩を売れば。死都奪還出来ます」

 エルミアが鋭い目付きになり俺を見る。獣のような鋭い目付きに頷いた。「話せ」と言っている。

「ネフィアの力はエルミア殿が思うより強くなり。魔族でありながら奇跡を起こすことが出来ます」

「聖職者ね……騎士に随伴させ。回復させる者たち」

「はい。ネフィアは異常な力があり、それは……呪いさえも浄化させてしまうほどに強力です」

「死都を普通の都にすることが出来ると?」

「出来る。現にネクロマンサーの天敵です」

 昔に目の前で焼き払ったのを見たことがあり、塔でも見せたあの力を利用する。

「………」

 目を閉じ、エルミアは悩む。

「時間をください……時間を」

「はい……答えをお待ちしております」

 俺は紅茶を飲みこみ唸る。マクシミリアンをこちら側に引き入れるのは一番いいがすでに参戦しない事を知り、それだけで良かった。しかし、悩むと言う言葉に期待しようと考えるのだった。上の結果を。


§マクシミリアン騎士団の決断


 彼は宿屋に向かった。「おもてなしをしよう」と言ったのだが……「嫁と一緒の時にお願いします」と言われ、それを、つい約束してしまう。外交は昔から得意ではなく。いつもいつも大きな選択で迷ってしまう。

「お祖母さまお呼びですか?」

「ええ、相談に」

 ひい孫の騎士団長となった。アロー・マクシミリアン。先代が病気で倒れ……若くして騎士団長となった。皆、私より先に病で倒れ土に帰ってしまう。血は混じっても……人間は脆い。短命は人の種族の運命かもしれない。

「決まりましたか? 遠征は?」

「それを決めるために相談よ……今日はある人物が訪ねたわ」

「あれは帝国からの使者では? 報告ではそうですが……」

「魔国からよ」

「魔国!?」

「……まだ若いわね。驚いた表情するなんて」

「いや……ばぁちゃん」

「親族だから?」

「もちろん」

 私は「ふふふ」と笑う。いつか私より老けるのだろうけど。いつだって孫なのだ。多くの家族が私にいる。

「若いのに頑張って……」

「撫でようとしないでください。確かにお祖母ちゃんより若いですが成人しております。でっその使者は何を?」

「求めるのは不参加。そして、もっと求めるのは魔国側参戦」

「……寝返れと。度重なる恩があろう帝国に?」

「度重なる恩ね……」

「不参加でも怒られるでしょう」

「怒られわ。それを知ってか魔王は『戦場で会おう』と言っている。使者の独断よ」

「独断……そんなことは許されない筈では? 決めきれぬほどに難しい場面でしょう」

 本来重要な物は立場ある人に打診する物。しかし、その使者は普通ではない場合は除く。

「王配、故に独断ができる」

「魔王の配偶者ですか……それは……」

 使者の意味が魔王の言葉になる。それほどに強い発言を持つ使者だった。

「本当に難しい」

 孫の顔が曇る。「返答次第ではどうなるか?」と考えているのだろう。

「参戦しても魔王は許すだろう……そういう旨は聞いている。帝国が負けてもな」

「器の大きい……」

「ああ、大きくなった。知り合いなのよ。この屋敷で可愛い金色の娘が居たでしょう?」

「居ましたね。『可愛かった』と思います。騎士団で皆が見に行きました。よく尻を叩かれて………………もしや?」

「彼女はネフィア・ネロリリス。現、魔国の魔王となった」

「…………なるほど。だから知り合いですか。悩まれるのも察します」

 私は頷き本題を言おうと思う。

「私、個人では参戦要求を無視。魔国側に参戦し恩を売ろうと思う。交渉のために。アロー!! そちの考えは……民はどう思う!!」

「……非、帝国との戦は避けるべきです」

「そうか……見返りを知りたくないか? 帝国の今までの恩を捨ててまで……私が悩む見返りを」

「………なんでしょう」

「マクシミリアン王国復興。第2王朝樹立」

「お、おう?………おおう!?」

 私は力強く。帯剣していた剣を抜く。目に前に掲げ胸の内を話す。

「騎士としてもう一度戦場に立つつもりでもある。返答次第で隠居はやめる。もう一度、長き年月の中でやっと……手が届きそうな位置にいるのだよ。故に問う。『帝国に与してそこまでを望めるか?』と」

「……死都攻略出来ると?」

「出来るのだよ。魔王なら」

「………」

 孫が剣を抜く。そして机の上に置いた。同じように剣を私は置く。

「愚痴っても?」

「いいよ。私もそろそろ思い出して思い出して。腹が立っている」

「帝国に恩をというのは所詮。地方領土に対する物。やつらは我らを田舎者扱いし、魔都の監視役程度しか思っていない。陛下も会わしてくれない立場で居続けるのは苦しいでしょう」

「では……」

「長き年月。帝国の支配を切り、独立の道を目指しましょう」

「民は動くか?」

「私は騎士団を辞めます。即位してください祖母さま。帝国派はそれで消えます」

「……わかった。それが必要とあれば」

「はい。皆はひれ伏し、従いますでしょう」

「ふふふ……運命とはわからぬ物ね」

 私はクスクスと笑う。

「祖母さま?」

「いや。お前のじいちゃん………そう。私の息子はな帝国に和平の対価でつきだし、断頭台で処刑されたよ。私の目の前でな。帝国の傘下で自由を手にいれると共に」

「…………有名なお話ですね」

「笑顔でな『後は任せた』と送り……帰ってきた……首だけになった息子の悔しさをどれだけ目を反らしていたか……」

「………」

「一生懸命愛した子は帝国に奪われた。私怨と言われればそれまでだ。だから……隠居し隠れていたのだが。わからぬものよ」

 母であるのだから絶対に忘れられない。一緒に戦った同志でもあるから忘れられない。そして、王の唯一、一番初めの彼の忘れ形見だったからこそ。深く深く愛した故に忘れられない。

「すまない。私怨に付き合わせる」

「……それで悩まれていたのですか?」

「ああ。私怨も混じってしまうからな……益のためか……恨みのためか………」

「たまたまですね。そういう機会が生まれただけです」

「……ん?」

「たまたま、『我々が復興出来る時代が来ました』と言うのです。暗黒時代の先と思えます」

 孫が飄々とした態度で笑顔で剣を納めた。話は終わりと言うことだろう。

「エルミアばあちゃん。信じるから……伝説見せてくれよ。過去の話を今に蘇えさせよう」

「ふふふ。可愛い孫のために頑張りましょうかね」

 私の剣を納め。覚悟を秘める。

「目指すは王朝復活。そのために動きましょう。あなたは補佐に任命」

「はい……騎士団長エルミア・マクシミリアンさま」

 孫が強く頷き。方針が決まった。

 運がいいのか私には帝国に仇を返す日が訪れたようだった。







 俺は早朝に屋敷にお呼ばれ、朝食を頂く。俺の目の前に焼かれた卵焼きとパンにシチュー。エルミア殿の前には同じメニューが数倍の量が置かれ、「女性とは?」と思うようながっつき具合でビックリする。食べるのが早い。

 食事後に紅茶を使用人が用意しそれで腹を静めながら会話をする。

「ごちそうさまでした」

「いいえ、久しぶりに食べれましたわ」

「………ええ………」

「体を全盛期まで押し上げないといけませんから。少し、頑張ろうと思います。鞭打って」

 昨晩とうって変わって、まるでネフィアの真面目な雰囲気のように勇ましい。

「あなたを呼んだのはわかるわね」

「不参加ですね」

「帝国には不参加。あなた方に与するわ」

「あ、ありがとうございます」

 俺は頭を下げて机の下で拳を握った。上出来だ。

「変わりに復権に与して貰うわ」

「最初から。それが交渉材料だった。ふぅ……あとこれを」

 手紙を差し出す。このタイミングな理由はもちろんこちら側に来ていただいた褒美だ。それを受け取り封を切ったあとに眺める。

「これは………フム」

 ゆっくりと手紙を読みながら。驚いた表情をした。

「なに!? 交易路だと!? そんな馬鹿な!? 樹海や魔物がいるこの場所とどうやって……」

「許可をいただけたら後はそこの商会が考える。金になるんだからな。頑張るさ」

「……よかろう、税金はうちに納めるか。帝国以外とは初めてだが上手く行くだろうか?」

「いくでしょう。色んな物が流れていきます。ユグドラシル商会はお耳に挟んでいる筈だ」

「金のなる木を持つ商会だな。あれがここでも飲めるのか?」

「飲めるようになるでしょう」

「ユグドラ汁はまぁ美味だった」

 エルミアが手紙を使用人に渡し、後で返事をするからと持って行かせる。きっと誰かに見せるのだろう。

「中々、好条件なのを出してくれるな」

「そうしなければこちらへ来ないでしょう」

「いや。結構悩まされた。『帝国に与してもなぁ~』と言うのが大きくてな」

「まぁ。こっちもよかったといいましょう。後ですね……すいませんが使用人を退室願えませんか」

「ん? わかった」

 使用人が退室し、二人っきりになる。

「それでは……今からお話するのはですね。魔国側の作戦をと思いまして」

「ふふ、信用してるのね」

「もちろん」

 俺はネフィア発案の戦術の話を始めた。黙って聞いていた彼女の顔は驚いた表情となり、終わりに安堵の表情となる。そして最後に。

「私は運良く。敵とならずに済んだようね。海の中にそんな都市が………」

 そう言い、彼女は胸を撫で下ろすのだった。



§女王と王子の出陣



 私は馬舎でドレイクをおこずかいで買い。それに跨がり何人かのエルフの従者に挨拶する。荷物は一人分の非常食と生活品を詰めた。準備していると城の使用人や衛兵が出迎えてくれる。図書館での司書も顔を出して私を見つめる。

「本当に行かれるのですか?」

 不安そうな声であるエルフの使用人が声をかけてくれた。私はそれに頷く。

「帝国はまだ準備が出来ていないだろう。私たちもだ。それに決まった事……申し訳ないのは戦いに絶対に勝つと言えないことだ」

「……」

「だからこそ行く」

「従者一同、お帰りをお待ちしております」

「……まぁ私がいないと給料でないもんね」

「あっそうですね。姫様にお布施で暮らしてますので」

「ふふ。そっちの方が俗世ぽくていいわ。わかった。絶対に帰ってくる」

 私はドレイクを歩かせる。城の門で皆が手を振り、私は振り返す。すると……数人のドレイクに乗った人が幅寄せを行い私に並走した。

「姫様……もう出陣ですか。兵も連れず」

「そうです。200人のあの精鋭の半分でも」

「……エルフ族長。ダークエルフ族長。ここからの戦力は投じない」

 ゆっくりと同じ歩みをするのはダークエルフ族長とエルフ族長だった。エルフ族長が話をし、ダークエルフ族長は黙る。

 周りの観衆がなんだなんだと集まりだしながらも気にせずに私に言葉を続けた。

「しかし……姫様一人では」

「『護衛は要らぬ』と言った。まぁゆっくり行くさ。お前らは難民の受け入れを準備しろよ……3から5個の都市住民が来る。壁は無視して住居だけを用意すれば……なんとか出来るだろう」

「はい……妖精も木を切るのを許してますからね」

「1月、2月、3月」

「………なんでしょうか?」

「耐えられるだけ耐えよう」

「………」

「必ず帰ってくる。きっとな」

「わかりました。絶対に曲げないその意思にご武運を」

 二人は拳を握り胸の前へ叩きつける。

「陽の加護があらんことを!!」

「陽の加護があらんことを!!」

「……ええ。加護はありますよきっと」

 最近は何故かその陽の加護に関して疑問を持っている。何故か私にはその加護は貰えない気がするのだ。空の青空に輝く光を見て……何となく私には要らないのだろうと思う。胸に黒い物を秘めているうちは。





 トラスト・アフトクラトルの騎士である俺は遠征前に妻と共に父上の元へ訪れた。妻が一言聞きたい事があると言うのだ。きっとランスの事だろう。

 騎士団の執務室で父上は待っていた。妻であるアメリアの震える手を引きながら扉を開ける。

「おお、アメリアお嬢。こんにちは」

「こんにちは。お義父様……話を伺いました。出兵なさると」

「いかにも。1月後出兵だ」

「息子からの手紙に……英魔族で戦うとかかれてました」

「………知っている。しかし、そういうことだ」

「何故!? あんなにも愛した孫ではなかったのですか!!」

「アメリア……」

「アメリアお嬢……」

「そんな……なんでそんな躊躇なく剣を向け合えるのです!!」

 妻は叫ぶ。俺も父上もその気持ちがわかる。だが……妻は女だった。

「アメリア……父上は私を外した理由にそれがある」

「ああ、トラストを外した理由に剣を向けさせないとな。親子で殺し合うことは悲しい」

「だったら!! お義父上も!!」

「ワシは長く生きた。もう十分。愛しい我が孫と一戦交えるのは綺麗な余生だ。わかってくれ」

「………あぅ」

「アメリア……気持ちはわかります。しかしこれは男の問題です。覚悟を決めた息子を信じてあげましょう」

 優しく俺は妻を諭そうとする。一人息子なのだから……悩むこともわかる。だからこそ僕は笑顔で答えた。

「息子はきっと大丈夫です。私が育てた王子なのですから」

「………あの子。それで一度つぶれました」

「そう。しかし、今度は自信を持ってそうだ」

「そうだな。孫の晴れ姿でも見てやるか。前回の時は不在だったからな」

 前回とは連合国との一戦。息子は帝国に仇なす罰を背負った。今も帝国に仇なす。剣を抜けたのは理由があったのだろう。きっと、「今の帝国を罰せよ」と神が使わせたのだ。

「………いつも男性は私たちを悲しませます。うぅうぅ……」

 アメリアが顔を伏せて泣き出し、手で覆顔を覆う。

「父上……手加減せぬようお願いします」

「なーに。敵いはしない。まぁ「帰ってこい」と言うぐらいはするの」

「……うぅ……なんで。どうして……こんな……家族で……」

「昔から。そういう物はある。アメリアお嬢。息子をこれからもよろしくな」

 父上は背中を見せる。俺はそれにお辞儀し、アメリアの手を繋いで外へ出た。アメリアを泣かせたくはなかったが。こればっかりは……俺の手ではどうすることも出来ず。黙って連れ出すのだった。






「リディア……君が馬車を引くのかい?」

「えっ? ランスさん、引きませんか?」

 僕は頭を押さえる。目の前に馬車を手で持って牽こうとしている嫁に対してだ。

「どれだけ距離があると思ってる」

「えっ? すぐそこまででしょう?」

「……疲れるからやめなさい」

「せっかく牽こうとおもったのですが……変でした?」

「馬を買いましょう。馬を2頭。それで牽けば……」

「却下」

 リディアがムッとして胸を押さえるように腕を組んだ。ムッとする姿は人らしく可愛らしい。長くなった髪で大人っぽくなったかと思えばそんなことはなく。まだ、少し幼さが残る。

「お金を貯めているのです。そんな贅沢はいけません」

「……」

 前言撤回。しっかりしているようだ。

「では。荷物はどうしましょうか?」

「私が背負います。徒歩が一番です」

「………本気かい?」

「お金は節約するに越したことがありません。走るのは得意です」

「僕だけ馬を買おう。馬車は借りたの返そうな」

「走ればよろしいのでは?」

「残念だが………そこまで僕は速くない。鎧を着るしな」

 リディアとの差を感じる。魔物との差を。

「4本でカサカサしたら大丈夫じゃないですか?」

「僕は人間だよ……クククッ。それこそ遅くなる」

「笑わないでください……真面目に答えたんですよ?」

「そうか、すまなかった。でも、君より遅いし体力はない」

「では、馬だけにしましょう。私も馬みたいな種族なら……よかったです」

「ケンタウルスの女性か。君のほうがずっときれいさ」

「あっ……うれしい」

 二人で見つめ合いニコニコする。やっぱりリディアは可愛い。姿が魔物の姿でもだ。

「あのーランスロットの客さん……イチャイチャせず買うか決めてくれ」

 呆れた素振りで近くにいた顔見知りの亞人のミノタウロスに声をかけられる。早く決めてくれとの事だろう。筋肉隆々の牛男はパンツ一丁で逞しい。

「ああ、すまない。馬一頭頼む」

 僕は懐から金貨袋を出し、金額を聞いて驚く。思った以上に倍ぐらい高い。

「へい、ありがとうございました。ちょっと待ってください連れてきます」

 馬主が店の馬舎へ行くと声が聞こえる。飼育員だろうか。

 パカパカ

 蹄の音が聞こえ、屋外の陽に照らされてある一匹の。

「こんにちは。お買い上げありがとうございます」

「「え」」

 リディアと顔を見合わせる。

「ホリー・ケンタウルスです。ご主人様」

 上半身は人間の服を着た、少し可愛いげのある亞人が歩いてきたのだ。胸もぷっくりと膨らんでるのがわかるぐらいでなんとも妖艶だ。角は隣の牛男に良く似ている。

「チャンジ!! ダメです!!」

 リディアがバッテンを作り拒否する。

「女の子はダメです!! 女の子はダメです!!」

「お嬢さん。そんなこと言わず。娘を頼みます」

「リディアお嬢様……お願いします。旅がしたいのです」

「そう……可愛い娘には旅をさせろと言うのだよ。いっそランスロットが貰ってええぞ」

「僕はリディアが居ますので……」

「きゃぁ~お父様。ランスロット様ですよ!!」

「娘よしっかりご奉仕するのだよ」

「はい!!」

「私は拒否しましたよ」

 リディアがむくれている。可愛い可愛い嫉妬姿だか。僕も道徳的にどうかと思い、頭を下げる。

「すいません……流石に娘さんに乗るのは気が引けます」

「いや……すまんが。他の馬は全部売れてなぁ。他の都市……行きだ。娘以外も出払ってしまって。ランスロットの兄ちゃんに徒歩はいけないと言うことでな………」

「すいません………母親ももう歳で長距離は無理なんです」

「花嫁修行の一貫として頼むわ。リディア嬢なら。いい師匠になってくれるとも思ったんだ」

「リディアお姉さまお願いします」

「………」
 
 二人の亞人に頭を下げられ僕は困惑する。リディアに向き直るとリディアは両手を重ね同じ言葉を反芻していた。

「お姉さま……お姉さま……」

「リディア?」

「は、はい!?」

「良いだろうか?」

「わ、わたしは……ランスさんが『いい』と言うならいいと思います」

「わかった。では、ホリーさん一緒に行きましょう」

「はい!! お願いします。ランスロット様、リディアお姉様」

 リディアが胸を張り威張り出し、僕はなんとも可愛い嫁の仕草に当てられて彼女が族長だった事を思い出すのが遅れたのだった。そう、彼女は族長である。


§プロジェクトP海中の星


 それは……女王陛下からの指令だった。

 都市ホエールごと海を南下し……帝国を嵐竜が荒らした場所から上陸。強襲することの命令書が発令された。

 我々は悩んだ。数少ない人員で如何に犠牲を少なく上陸作戦を成功させるかと。

 スキャラ姫様は陛下から策を聞いていた。そう、我々は魔物ではない。知を持つ英魔族なのだ。

 だからこそ道具を使えと。Pプロジェクトの始まり。

 そう、これは初めて我が種族が陸へ目指した物語である。





 最初、スキャラお嬢様がもって帰ってきた案件に都市中は驚愕した。ホエール様は寝ていたが我々だけでの攻略。「全て自由にしていい」と言うが我々は過去何度も何度も陸を目指し邪魔されて失敗しており、戦いは不慣れとしていた。

 首脳陣たちは皆が不安そう顔をし、下を向いている。誰もが顔を曇らせ、無理だと言わんばかりにであった。

 しかし、スキャラお嬢様は叫んだ。

「今、我々が地上に出れているのはたまたまだ。我々が掴みとった栄光ではない!! 女王陛下の栄光ではないか!! 顔を上げよ!! ここで我々が活躍すれば晴れて英魔国民となれるだろう!!」

 スキャラお嬢様の声は首脳陣たちの顔を上げさせた。そして続く。スライム族代表のスラリンお嬢……王子が続いた。

「女王陛下は女性だ。しかし、女性でありながら我々を陸に導いた。女性に出来て何故!! 我々男どもは陸へと導けない!! 目を醒ませ!! 男はな一生に一度でいいから子孫に自慢できる事をやるべきだ!!」

 スラリンの言葉は首脳陣達を立ち上がらせるに十分だった。

 プロジェクトPが発足されるのは時間はかからなかったのである。





 女王陛下の策は道具を使えとの事だった。道具とは槍や武器の事だが、スキャラお嬢様は兵器と説く。

 我々は帝国に戦車と言う馬車で引き踏み潰す兵器があること。攻城兵器と言うものがあることを知った。

 ある人が言った。無人でなにか走らせれば被害は小さくすむのではと。

 そしてその案は受け入れられ………開発が始まった。兵器名は女王陛下発案。音楽のドラムのような姿で転がり相手の目の前で炸裂するパンジャンドラム計画が発令。

 そして私たちの苦悩の日々が始まるのだった。





 我々は最初、爆薬としてニトログリセリンスライムの体を分けて貰い。筒に詰めて、魔力によって転がす。

 地上側で初めての都市オクトパスの実験であった。

 砂浜での試験。何十台の走行に都市中が期待を乗せた試験。多くの観客が見守るなか叫ばれる。

 パンコロ!!

 結果……勢い良く砂浜をかけ上がりながら走り出したパンジャン達。

 しかし、その日事故が起きた。

 制御されていないパンジャンが逆走、観客とスキャラ族長を襲撃し、スキャラ族長を重症に追いやったのだ。

 計画は凍結されると思われた。しかし……スキャラお嬢様は怪我で運ばれるなかで我々は勇気つけられた。

「死ぬほど痛いです。素晴らしい威力でした。故に。故に英国は各員、『己が義務を果たさん』と期待します。完成させよ」

 我々は激励され、都市はその威力に沸き上がり、改良型を模索することになったのだった。





 改良型は苦行の数々だった。放てば制御できないため。真っ直ぐに進まない。

 我々は悩んだ。真っ直ぐに進ませる方法を。車輪を大きくしたり。小さくしたり。丸くしたりと小さな模型で試作の日々だった。

 無知識を呪い。

 結果が産み出せないことに焦りを感じ。

 仲間同士で喧嘩しあった。苦しい日々が続き。計画は失敗に終わるかと思われながら。試験日が迫る。

 我々は……何も出来ないのかとうちひしがれる中。スラリンお嬢が発案した。

「私が制御する」

 一同は驚いた。そして……それを否定した。しかし……スラリンお嬢は笑顔でいい放つ。

「挑戦なき者に勝利はない」

 多くの者が痺れた。多くの者が頷いた。

 そして……試験日。改良型パンジャンドラム試作1号機が完成した。





 火薬はニトログリセリンスライムの一部を貰ったスライムお嬢がパンジャンドラムに乗り込み制御するという物だった。

 勢い良く砂浜でスラリンお嬢様の詠唱「パンコロ」と言う叫びと共に転がり。

 用意された城石に向けて走り出した。

 皆が胸に手を当て祈る中で実験。

 誰もが声を出さず。陽の太陽の女神に祈りながら成功を望んだ。

 結果は………驚愕なことが起きた。

 速度調整から、左右の回転速度を変えるだけでグルグルと回り。城石をグルグルグルグルし出したのだ。

 歓声が上がり。皆が立ち上がった。泣き出すものも居た。

 そして………パンジャンは城石にぶつかった。

 城石は吹き飛んだ。

 パラパラと壊れるなかで……我々は尊い犠牲に感謝したのだった。

 スラリンお嬢様に感謝を。尊い犠牲者に敬礼を。

「「「「スラリンさまバンザイ!!」」」」
 
 そしてスラリンお嬢様の犠牲により。スライム族が唯一無二の制御者となるパンジャンドラムの開発が決まった。

 名誉の戦死したスライムのお姫さまに我々は敬意を評して、開発に没頭した。

 しかし、我々は気が付いていなかった。大変な事に。

「死ぬほど痛いですが。生き残れます。戦えます」

 スラリンお嬢様は生きていたのだった。退院後、我々は正座させられ……勝手に殺された事にしたことにお叱りを受けるのだった。






 制御が決まり、乗り手の育成が始まった。結果はニトログリセリンスライム直々に乗ることになった。

 ニトログリセリンスライムは元々はスライムが食われたとき爆発して捕食者と同士討ちすることで他のスライムを護るだけの生き方だったが、彼らは新しい職場が見つかり。陽の芽を見つけることができた。

 我々は下級生物スライム族が。英魔族スライムとなって行く過程も産み出したのである。

 スラリンお嬢様はスライムの栄光を挑戦によって掴み。勝利したのである。






 パンジャンドラムの多くの試作品が出来る中で我々は大きな大きな壁にぶち当たる。

 しかし、その度に改良を重ね。スライム族のパンロットパンジャン操縦者の意見を取り入れて改造を行い。少しずつ前へと進む。

 概ねの設計が決まり。量産型パンジャンと司令官型パンジャンの製作が決まった。

 だが我々は………落とし穴に落ちた。


 これをどうやって遠海から近海、浜辺まで運ぶかを悩んだのだった。






 最初の一案は現地製作案だった。

 浜辺で作り上げて運用だ。

 しかし、これは失敗することがわかった。

 まず、パンジャンは個々に癖がありパンロットは専用機を所望すること。

 次に現地を知らないために材料があるのかと。

 そして……一番は。

 浜辺を攻めるために作っているのに本末転倒であること。

 発案者はパンジャンに紐をつけて突撃出来るかの試験に従事し、不可能を立証した。時間を無駄にしてはいけない。






 次の案はパンジャン改良案だった。パンジャンに海を進む能力の付与である。

 しかし……パンロットの反発。余計な機能をつけての故障率。操縦性。水中での運用不向き。パンジャン極地旋回、信地旋回の旋回速度低下が起こる。

 パンロットは最近恐ろしいほどにパンジャンを使いこなす事に成功している。しかし、今から新しい技術模索するのは時間が足りない。

 結果は却下だった。

 発案者はパンジャンドラムにくくりつけて一緒に突撃の試験に従事。結果は酔ってしまい不可能だとわかった。





 次の案は元から上陸用の船を用意し運ぶ案が浮かんだ。

 一番実現出来そうだが非常に大量の船の運搬が必要であり、パンジャンドラムの数を減らして運用する事になってしまう。

 ホエールどのの背中のキャパを越えて動きが阻害される恐れもあり。作って持っていく運用は難しいと思われた。

 発案者はもっと悩めと個室に隔離。発狂し、結局は「何も思い浮かばない」と言われた。





 パンジャンドラムに括った奴も皆、何も思い浮かばないまま。時間が過ぎる中でスキャラお嬢様が我々の前に姿を現した。

 一通の手紙と一緒に。

「女王陛下に報告し、そして相談したわ。返答が今、来たの。部下のために私はいる。部下の幸せのために私はいる。どうぞ、読んでいいですよ」

 我々は感激した。それを慌てて開ける。内容は「魔法を使え」と言う言葉だけだった。

 魔法を使えと言われた我々は悩んだ。生活魔法や攻撃魔法防御魔法に何か切っ掛けがあるのかと。

 一人が………叫んだ。

 冷水を飲んだ硝子コップをかざして我々に見せたのは……




 氷だった。







 氷で船を作ろうと言う。

 最初は我々は出来ないや。不可能だと言った。しかし……ホエール様はそれを聞き、霊体で会話に参加してくれていた。

 ずっと前にパンジャンドラムの事故で大笑いし、都市が小刻み揺れ続けた事件のあとずっと我々を見守ってくれていたようだ。

「ワシの背中にお前らの都市が。魔法の膜で覆われ。今の生活がある」

 ホエール様は懐かしむように我々に諭す。

「最初は無理や。不可能だと思われとったが……結果は出来た。故に挑戦者に【無理】という言葉はない。お前らは限界に挑戦していない。欠点が見えてどうしようもないくらい考えろ。大丈夫じゃ英魔族だからの」

 我々は氷で船を作る計画を発案したのだった。





 パンジャンドラム用空母の開発はまたしても苦難の始まりだった。

 我々の魔法では精々小舟一隻程度の力しか産み出せず。無駄も多く。上手く成形出来ないのである。

 我々の一部は英魔王城の図書を日夜読み漁り。知識を蓄えたが有効な魔法は産み出せなかった。

 しかし……司書である女性がなんとエルフ族長に話を持っていき。我々はあの盲信狂者グレデンデ族長に会うことが出来た。

 魔法に詳しい人員を頼み込んだ。

 昔はいがみ合っていた仲だったのに英魔族と言う枠組が出来た結果が目に見えて生まれる新しい縁。

 なんと、100名の魔法使いに100名ほどの氷のエレメンタル妖精族が我々の研究に加担してくると言うのだった。

 エルフ族長は笑顔で語った。

「とにかくやってみなさい。やる前から諦める奴は一番つまらない。私は姫様を……陽の信仰を広めた。大丈夫………出来る!!」

 異種族に力強く応援され、我々は熱い思いを秘めて研究に性を出すのだった。


§プロジェクトP氷山空母


 エルフ族長に応援され。我々は早速船の設計を魔法使いと妖精に手渡した。妖精ニンフ女王は恐ろしいほどの魔力を持っている。

 たちどころに初の氷山空母が完成した。

 維持は魔力を流し続けて固定する。

 完成した大きな空母。我々は歓喜した。

 しかし……同時に我々は思わぬ壁に当たるのだった。





 空母は普通の船より大きめに開発された。しかし……それはつまり非常に深く、重く。我々の力で押すには速力が足りない。

 速力が足りない場合、多くの攻撃を受ける恐れがあり。岸へ安全にパンジャンドラムを運べるか不安視された。

 早く泳げる訓練を迫られる中であるパンロットパンジャン操縦者の一人のスライムが頼みに来たのだ。

「パンジャンドラム。横にしたら少し泳げた。どうにかして水中専用パンジャンドラムは出来ないのか?」

 移動方法としてのパンジャンドラム開発を提案してきたのだが我々はそれに対し電撃が走る。

 そう、パンジャンドラムは走るだけでなくもしくは泳げるのではないかと思われたのだ。

 水中専用パンジャンドラムを作り。それで氷山空母を押せないかと考えたのだった。





 量産型パンジャンドラム1号を一台用意し、沈め、転がす。木の材質なために浮くのだがゆっくり進んでいるように見える。

 結果はゆっくりだが。ここで横にしたらと言う発想を考えた。今度は指揮官用の金属製パンジャンドラムを沈めた。海底をゆっくりと走る。

 横にするにはどうしたらいい?

 我々は悩んだ。

 悩んだの結果は………パンロットの意見を取り入れた。重心が変わると転けると言う発想を取り入れる。

 先ずは指揮官用は高価なため量産型パンジャンドラムに重しをつけて沈め。右側車輪に重りをつけた。

 結果は垂直になった。

 横にはなり、そのまま回転させる。

 ブルンブルンと震えるだけだった。

 また、我々は悩む。悩む………そして。妖精姫ニンフが少し陸へ上がろうと言った。

 我々は陸へ上がる。そして………あるものを見せてくれるのだった。








 陸へ上がり。妖精たちが見せてくれたのは玩具だった。

 見たことのない玩具だ。

 それは木トンボといい。切った木を斜めに切った∞羽を使い。棒を回すと空に飛んでいく玩具だった。

 我々は衝撃を受ける。陸上で初めて見る玩具は何故か空へ飛ぶ。

 玩具を研究した我々。

 固定し回した結果は………「風を押し出す事が出来る」と言うことだった。同じものを水中で行う。

 かすかな水流が生まれ。我々は新しいパンジャンドラム製作に取りかかったのだった。





 水中専用試作型パンジャンドラムが完成した。パンジャン車輪を水の水流が生めるように開発し、片方の方に重しをつけ沈め。試験を行う。


 結果は………


 水中の底から海面への陽へと登って行くパンジャンドラムの雄姿だった。







 今度は垂直にではなく横向きで泳がしたい。考えられた方法は両方に重りをつけて沈める方法だった。

 結果は沈みすぎて着底、そのまま進むだけだった。

 我々は……悩む。

 しかし、我々は慣れていた。

 だからこそ変な発想が出る。

 転がす必要ないのなら。車輪は片方でよくない?

 我々は模型を用いた。水中用の木トンボを思い出した。

 そしてパンジャンドラムの形を変える結論に至ったのだ。





 パンジャンドラムの片方だけをつけて沈める。重しをつけて沈めて自分自身の我々はどうやって浮力を得ているかを考えた。

 結果は浮き袋と泳ぎ続ける方法の二つだった。

 パンジャンドラムは進む兵器である。故に泳ぎ続ける方法にした。我々は泳ぎ続ける魚をモデルにした。

 試験結果は真っ直ぐに泳がずも浮く事が出来ると気がついた。

 制御方法はすぐに思い付いた。船の舵を参考にしようと思う。

 早速、試作品を作る。





 水中試作型パンジャンドラム12号が出来た。姿は何処か人型のように十字の羽が付け加えられ背後に車輪がついている。

 重りにより沈められたパンジャンドラムが回り。動き出したとき……我々は歓喜する。

 水のなかを高速で自由に動ける姿に完成を見たのだ。

 パンロットのスライムが言う。思った以上に融通が効くと。

 我々は早速、設計図を製作班に渡すのだった。





 水中専用パンジャンドラムを氷山空母にくっつける実験が行われた。

 水中専用パンジャンドラムの羽を2枚減らして左右のみ動かせれる運用とする。

 実験パンロットスライムが前方が見えないと操作に難を示したが予想より遥かに速い速度を出すことが出来た。

 改良の余地があるが………我々はその成功に胸を撫で下ろすのだった。







 多くの実験を経て、パンジャンドラム専用氷山空母ハボクックが完成した。

 パンジャンドラムを乗せ、水中専用パンジャンドラムを後部に接続し浜まで進める。

 速い速度を維持しながら乗り上げ、パンジャンドラムが一斉に砂浜を走る。

 我々は完成させた。

 帝国側の上陸作戦のため………あとは訓練を行う。

 だが………我々は不安になる。

 果たしてこれは効果があるのかと。




 個人で相談した。

「ん? パンロットになった理由? そうだなぁ」

「決まっている。スライムだったからだ」

「我々は元々……捕食者に怯える日々を過ごしていた。いつしか、捕食者に一矢報いようと自爆するようになった。味方のためにな……だから我々は最後に爆発して死ぬのは美徳だと教えられた」

「それを何年も我々は続けてきた」

「しかし……我々はいつしか死ななくなった」

「爆発しても、死ぬほど痛いだけで済むようになり、死の花は咲けないようになったよ」

「何でかって?」

「女王陛下の英魔族の括りのお陰だろうさ」

「弱小種族スライムが英魔族スライム族になった時に我々は熱い物を手に入れた。わかるか?」

「スライムである誇りさ」

「スライムに生まれて良かったと思える。そう、力ない訳じゃない。我々は爆発がある」

「だからだろうな。強くなった気がする。何度だって誇りの火花を生み出せるようなったんだからな」

「不安になるな。大丈夫だ。上を向け……ここまで来れたのはお前のお陰だ。後は任せなって」

 スライムの妻がパンロットになぜ志願したのかを聞いたが聞いてよかった。





 我々は戦闘訓練を所望した。

 魔法使いから魔法を学び彼らは自身の部隊に帰っていった。

 残った妖精と「合同で訓練が行いたい」と思うようになった。

 そこで……我々は打診した。

 夢魔の族長に。

 答えは………

 「是非との回答」と。

 八代族長連合軍全軍による模擬と伝えられた。

 何度も何度も陸を妨げた敵が相手、それも………九代族長の8人の部隊。歴代で一番の屈強で最強と名高い部隊連合に我々は………息を飲むのだった。



§プロジェクトP挑戦者たち



 我々は夢魔と言う種族によって夢の中で戦闘を行う。

 その前に起きている間に会議が行われた。

「相手はあの………屈強8人の鍛えた連合軍……勝てるのか?」

「いや………難しいだろう」

「くっそ……恥ずかしい姿を陛下に見せるのか?」

 そう、夢の中に女王陛下がいらっしゃるとの事だ。我々は試されている。

「スキャラお嬢様。如何いたしましょう」

「……私はあなた方を信じます」

「お嬢様?」

「なんのために努力したか。どれだけ多くの時間を費やしたか………その結果を見て貰いましょう。そう……胸を張りながら!! これが私たちです!!」

 勇ましい言葉に我々は勇気付けられ夢はやってきたのだった。





 夢の中で知らない海域知らない海岸が見える。これはきっと攻めるべき場所。夢の中で俺は地域を把握出来た。

「……海岸にびっしり居るかね?」

「おう、ルーキびびったか?」

「全員ルーキだろ」

「違いねぇ……」

「おい!! そろそろ出発だぞ」

「了解、生きて起きたら勲章らしいぞ」

「じゃぁ。俺は貰えるな」

「はん……一番始めに爆発だろ」

 悪態をつきながら、慣れ親しんだパンジャンドラムに乗り込む。

「1番OK」

「2番よし」

「3番いいぜ」

「では、浮上!!」

 体が揺れ浮遊感を持つ。そして俺たちは水面に出た。

 下からぐわっと押し上げられ大きく波に揺れる。そう、空母に乗ったのだ。

「ちと冷えるな」

「我慢しろ………なーにすぐにつく」

「デスチーム01。乗ったぜ」

「こちら水中パンジャン。了解……爆発に幸あれ」

 空母が前進し……砂浜を目指すのだった。






 私は声をあげる。族長として皆に激を飛ばす。

「停止!! ここからは水中から上陸を行う!! 先にパンジャンドラム部隊が突っ込む。そこから我々が後を追い。混乱に乗じ占領だ。敵は全て倒せ!!……………全軍、降下!!」

バシャーン!!

 人員輸送用氷山船ハボクックから船員が海に潜り込む。私も潜り込み。水面の船を見ながら先頭を泳いでいく。

 後方からオクトパスリヴァイアサンの父上も泳ぎ。浜を目指すのだ。

「どうなっているか…………」

 不安と期待が私を急かす。上手く行けと信じて。





 浜に防壁を組み、木の杭を敵に向けて埋めた対、防御陣形で族長たちから兵を預かる2番、3番手の隊員が双眼鏡を全員覗く。

「あれは……船か」

「見えたな……明るい中では丸見えだな」

「……しかし、気を付けろ。我々首都の部隊全員がいる。それだけで敵の強さは図れる」

「そうだな、俺は持ち場に戻る。模擬戦闘でも女王陛下が見ている気は抜けねぇ」

「……バカが勝つつもりでやるんだよ」

「もちろんそのつもりだ」

 エルフ族とオーク族が持ち場につき、他種族も準備が整う。

「……旗手」

「はい」

「……降ろし用意」

「………」

「3、2、1、今!!」

バッ!!

 旗手が部隊旗を倒し、それを見ていた他の部隊の旗手が全員旗を前に倒す。

 その瞬間……魔法と矢の同時攻撃が雨のように船に向かい。氷を削っていく。

「全てうち尽くせ!! 上陸を許すな!!」

「「「おおおおお!!」」」

 石壁の上から徹底的に攻撃を浴びせた。





 バガンッ!!ガンッ!!

「おうおう激しいな……」

「氷が削れていってる」

「削れていってる場所から修復してるからなんとか耐えれるか」

「こちら水中パンジャン。そろそろ乗り上げるぞ」

「了解」

 ズザザザザザ!! ドガーン!!

 衝撃と共に目の前の厚い氷の壁が砕け散る。目の前は大きい石壁が立っていた。

「ははは………いけねぇ。本領発揮だ!!」

「デスチーム01!! 突貫!!」

「「「はぁあああああああ」」」

 キュルルルルルル!!

 船から一斉にパンジャンドラムたちが砂浜を走る。後続から続々と進み戦闘が起き続ける。

 矢は無視し相手の火玉の魔法だけを避けて失踪する。

ズザザザザザ!!

 転がり、砂を散らしながら進み続けた。

ドガッ!!

 石壁にぶつかり。そのままで力を練る。

「一番乗り!! 先に逝ってるぜ」


ドッカーン!!


 石壁に触れたパンジャンドラムたちは爆発し、壁を崩壊させたのだった。






「か、壁が!?」

「逃げろ!! 壊れるぞ!!」

「うわぁあああ!!」

 石壁の上から攻撃していた部隊が全て壁を捨てて降りる。降りた瞬間、壁が崩壊し瓦礫の山となる。

 そして、瓦礫の上を得体のしれない丸い物が走ってくる。

 兵たちは皆………混乱をきたした。攻撃をやめ逃げ惑う。予想外な攻撃にパニックを起こしてしまったのだ。しかし……皆は立ち止まる。

「………おもしろいわ」

 兵の耳に声が届く。囁くように耳元で聞こえ兵たちが落ち着く。

「全軍!! 盾を持て!! 近接戦闘用意!! 我が名はネフィア・ネロリリス!! 今から全ての兵よ!! 私の傘下に与しろ!!」

 兵たちは逃げるのをやめ盾を構えたまま後退する。





 海の中から浜を見る。崩れた壁瓦礫を越えてパンジャンドラムたちが疾走し。乗り上げて奥で爆発し続ける。

「先鋒、城壁破壊しましたね。スキャラお嬢様」

「………行ける行ける行ける!! 全軍突撃!! 相手が崩れている今が好機!!」

 後方から声が上がり、浜へ私たち魚人族は三叉槍を持って突撃する。後方の父上も上陸するだろう。

「スラリン姉、行くわよ!!」

「はい!!」

 多くの者が……崩れた壁を越えて逃げ惑う兵に追い付く。スラリンが声を張り上げる。

「我らの勇姿を女王陛下に!!」

 上陸は成功した。そう成功したのだ。





「逃げ惑う振りを止めて反転。オーク族隊前へ」

「「「オオオオおおおおお」」」

 よく響く声に部隊ごとが聞き取り。命令通りに動く。オークの屈強な男たちが3列に並び肩を当たりながら身長より大きな黒鉄盾で壁を作った。背後にトロール族が支える。
 
 それに向けてパンジャンドラムがぶつかり。爆発し続ける。

「さぁ!! 耐えよ!! 帝国の騎兵はこんなもんゃないぞ。旗手は1号旗を掲げよ!!」

「「「「ぐおおおおおっ」」」」

 爆発に押されながらも盾を押し返すオーク族。押さえるトロール族によって………進行は抑えられた。

「では、そのまま………全軍攻撃開始!!」

 1号期は赤一色。意味は攻撃。多くの場所で盾を持ち、剣を持ち。声が上がる。

 中心を深く抉られた陣形だった。浜を乗り上げての進撃は速い。しかし、勢いは弱まり。陸に上がりきった場所で止まってしまった。





「スキャラお嬢様!? 前方のオーク族が破れません!! 周りも一瞬で混乱が解けております!!」

「スラリン姉!! おかしくない!! 統制が取れてる!! 浜まで後退!!」

 スラリンとスキャラは焦っていた。最初の攻撃は成功し敗走させたと思ったのだが。目の前の黒い盾の壁は固く閉ざされ前へといけないのだ。

「重装備オーク族がここまでだとは」

「側面から多数!! 右翼からエルフ族とダークエルフ族!! 左翼は昆虫と………あれは!? 人間!?」

「後退!! 後退!!」

 敗走させたと思ったが今度は我々が押し返されている。兵の力量も違うことを思い知らされるスキャラは……ある報告で……己の軽率さを悟った。

「後方から……帝竜旗。ドレイク騎馬隊!? 浜まで迂回されてオクトパス将軍と交戦!! 後方がたたれました」

「なっ!?」

 帝竜旗。スキャラはその旗を知っている。会議室でエルフ族長が掲げてその素晴らしさを聞いていたからだ。敵の帝国皇帝の旗であり。唯一我が祖国で持っている人は一人しかいない。

「女王陛下だ!?」

 私は声を出したことを後悔する。聞いていた兵たちはその言葉を聞き隣に伝え………一瞬で戦意を喪失してしまったのだった。

「スキャラお嬢様………降伏ですね」

 剣を収め、爆発ではなく体当たり用に残ったパンジャンドラムも止まり。スキャラはうなだれた。






 演習がスキャラ族長以外全員の戦死という結果に終わり。スキャラお嬢様は夢の中でグルグルにお縄に捕まる。降伏も受け入れられずの虐殺だった。

「うぅ、うぅ……う………」

 皆の族長の前に突き出される。目の前にネフィアが椅子に座り。黙っていた。野戦用の布のテントの中で皆が集まる。なお、エルフ族長は戦死し夢から覚めそれ以外が集まる。

「えー、模擬戦闘講評。ネフィア様からどうぞ」

 ダークエルフ族長がしゃべる。

「うぅぐ……えぐ………」

「……泣くな」

 白い鎧を着たネフィアが立ち上がり、頭を撫でる。優しくほほえむ。

「まず、期を見た突撃の判断は素晴らしい。開発した攻城兵器も申し分ない。エルフ族長を巻き込めた。しかし………まだ、経験浅く、引き際と空隙に差し込まれたのは覚えておけ。向こうは騎馬が主戦力。側面背面は気を付けろ。回り込めるぞ」

「じょ、女王陛下!?」

「現に私が指揮を途中行った……それがなかったらそのまま連合は散りじりだっただろう」

「それは……つまり……」

 族長たちが部下の情けない姿に頭を抱える。エルフ族長代理のエルフは頭を掻きながらばつが悪そうにしていた。

「勝っていた。しかし………勝ちすぎは自信をつけるが。慢心が生まれる元でもある。故に余が参入した。結果、早くも士気崩壊したのは驚いたがな」

 スキャラは自分達は運がいいと感じる。こんな人を相手にしなくていいのだから。

「模擬戦闘はおおむね良判定だ。スキャラ族長以下全員。私の無理難題をよくここまでの物にしたか……褒めてつかわす。故に精進しろ最強の攻撃部隊族長どの」

 族長たちが頷く。そして、スキャラの縄を外して各々が彼女を誉める。スキャラは揉みくちゃにされながら……同志の熱さを知るのだった。







 朝方。夢での訓練後すぐにスキャラお嬢様が我々に演説を行った。

 我々は敗北したがエルフ族長を討ち取れた事。女王陛下のお褒めの言葉を聞き。我々は歓喜し、よりいっそう努力をすると心で誓い。これにてプロジャクトPは終了した。

 そして、私は……その日。病に伏した。

 無理がたったのだが。気付いた時には立てなくなったのだ。思い出したかのような疲労だ。

 だが、気分はいい。大変な日々だったが。夢中だった。

 私は皆に伝えた。神様がね、こんなすばらしい人たちを私の周りに置いて下さった。

 そう言いながら。私は計画書に完了の報告を付け加えたのだった。 






 都市ホエールが海面に上がり我々の同志は一列に並び手を振っていた。そして、白地に赤い丸を書いた国旗を掲げる。対岸には残された人や我々が旗を持って振り返すのだ。

 パンロットの妻だけ任せての療養は歯痒かったが我々はゆっくり待とうと思う。

 都市ホエールが大きな大きな水柱を吹き上げる。太陽の光に照らさ虹がかかった。

 対岸の都市オクトパスではお祭り騒ぎ。皆の顔は明るい。

 そして………都市ホエールはゆっくりと沈み。潜航して、途中野生のリヴァイアと交戦しながら帝国を目指す。

 長い遠征の始まりだった。

 私は安全な陸へと上がってしまったが。まだ始まったばかり。

 書くのはここで止めておこう。あとは……我々の勇敢な兵たちが紡いでくれるだろう。

 筆を置き、お祭り騒ぎの中に私は加わる。陽の加護があらんことを。








 


























 















 


  











 












 




















 






 




  

 






   








 












 


 

 


















 
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