メス堕ち魔王は拐った勇者を気に入る『長編読者向け』

書くこと大好きな水銀党員

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魔国北伐戦争

魔国北伐戦争③

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§急使、魔王の決断



 帝国騎士団は都市インバスで少し被害を出し……色んな事件が起き、このまま都市に居ても士気が低下し続けるとの事ですぐに都市を抜けた。その帝国軍遠征途中だった。

 さぁ後は目の前の首都までと言う所まで来た。順調な遠征である。

 帝国騎士団は逐次増援要請の使者を出す。

 後は首都だけとなり圧倒した兵数で押し潰す作戦だったのだが。

「増援が来れないだと!?」

 急報により北騎士団長が驚きの声を出した。

 遠征途中での野営。天幕の中での騎士団会議中の出来事である。数十日、馬で走り追いかけてきた急使に皆が驚く。

 浜辺防衛失敗。マクシミリアンに怪しい動きあり。後退し旧魔術第2都市防戦線も突破された。

 そう……皆は情報を得ていた。海から来ることを……だからこそ南騎士団を残したのだが。

「南騎士団長は?」

「存命しております」

「……」

 天幕で重々しい空気が流れる。使者はこれでもかと情報を話した。

 得体の知れない丸い車輪が爆発したことや、雨の後、門が開け放たれて乗り込まれたことを。騎士団員たちの顔が険しくなる。

「向こうの主攻撃部隊であり。我々が居ないことを利用した攻めですね」

「うーむ……思った以上に厄介な奴等が居るようだな」

 北騎士団長と東騎士団長は悩む。南1番隊長は彼の悩みが理解できず。黒騎士団長は手を挙げた。

「ここへ来て……大きく戦局を見なおさなくちゃいけない。戻るか、攻めるかだ」

 黒騎士団長は提案する。攻めるか引くかの2択を。黒騎士団長は遠征を止めて引くべきだと考えるが……彼に操る力はなかった。

「攻めるか引くか……」

「面白くなって来たな……おう。俺は攻める。あの帝国の都市を落とすには聞いた数の兵では時間がかかるだろう」

「確かに。そうですね」

「それに再度攻めるには遠すぎる。この遠征で決めなければ相手に再編成の時間を与えるだろう。現に帝国を占拠するほどの戦力ではない。魔王も次の魔王が愚かとは限らないからな」

 北騎士団長は目を閉じ、息を吐いた。そしてゆっくりと吸い込んで発言する。

「攻めるか引くか……意見を」

 その言葉に南騎士団1番隊長が口を開く。

「この遠征で思った以上に労力、兵糧が必要であり。数年後まで先送りを考えた時……あまりにも大きい痛手も伴う。それに南騎士団長を信じています」

 続いて黒騎士団長が話出す。

「私は帰還を押す。スパルタ国に援軍を求められるだろうが帝国存続を第一とするならば帰還だ。相手は強い」

 今度は東騎士団長が喋り出す。

「同じことは言わんが……攻めることが大事であろう。目と鼻の先は我等も同じこと。力で捩じ伏せてこそだ」

 北騎士団長が目を開ける。

「では……進軍ですね。私も先に落とす事が重要と思っております。それから戻り、戦ってもヨロシイかと。その後はマクシミリアン領地に進軍したいですね」

 マクシミリアンに裏切りの兆候ありとも言われている。確かに戦ったがあまりにも呆気なく敗走したのは怪しいためだ。

 そして、進軍と決まった会議はそのまま……なにも変わらずに終わったのだった。 





 数週間で私は首都イヴァリースに帰還していた。都市インバスで数日帝国兵を足止め出来ている間に到着する。

 時刻は夜であり。何故か帰還を知っているエルフ族長に連れられて新しい寝室を案内された。

 紙ではなく木簡として用意された物に目を通す。紙ではない理由は後世に遺すためだと言う。

 内容は集まった兵数とその隊長名だった。

 ほくそ笑む。

 手は揃った。

「ん……そういえば……手紙があったわね」

 私は手紙を開く。中は果たし状のように話がある旨が書かれていた。

 カンテラで照らされている文字から伝わるのは怒り。父を残した事への怒りだった。

 そう、オーク族長の息子。レオンの誰かの代筆だ。

 それを読み、すぐさま夜勤の衛兵に頼んだ。

 返信の手紙を渡して。

「……デュミナス・オークの子、レオン・オークとトロール族長の子……タイタン・トロール」

 任された子孫。次の日……会おうと思う。

 何故なら彼らが決戦で重要な役目を持っている故に。

「ネフィア……寝ないのか?」

「寝ますよ。そう……寝ますよ」

 私は明日からの激務に溜め息を吐くのだった。


§余は魔王である!! 



 次の日、昼下がり。大きな大きな広間に私は立った。石を組み強いた作りの石畳の中心で私は待っていた。

 多くの観衆が居る中でただ待ち続けた。衛兵が距離を取りただただ不安そうに見守る。

「……女王陛下。お待たせしました」

 背後から声が聞こえゆっくり振り向く。そこには……彼らがいる。

 トロー族長の息子。タイタン・トロール

 オーク族長の息子。レオン・オーク

 レオンは筋肉隆々とし人のように背は低い。タイタンは巨人と言われる父よりも低く。これもまた……青年と言われればそうだろうと思う。

 恵まれない体なようで二人とも身が引き締まった屈強な亜人の男だった。

「女王陛下……手紙の返事……ありがとうございます」

「おでも……ありがとうございます」

「……ええ」

 睨み合う二人に私は……堂々と視線を外さずに応えた。

「話があるのでしょう……」

「何故父上を見捨てになったか」

「父上は……何故。残ったのか」

「彼らは……彼らの意思で残りました」

「……見殺したのでしょうか」

「ええ。父上はあなたを強者と言っていた。何故!! 帝国から逃げるのですか!!」

「………」

 観衆が息を飲む。元より……私は……逃げたつもりはない。

「逃げたつもりはない。レオン……その苛立ちは置いてかれたと思っているのだろう」

「!?」

「タイタン……父上の最後を知りたくないか?」

「……もちろん」

「なら……確かに私は見殺しにした」

「「!?」」

「恨むなら恨め。だがな……終わってからにしろ。私は逃げないよ、最後まで。彼らが紡いだ可能性が芽生えるまで」

 二人が顔を見合わせて私を再度睨んだ。

「まぁ若い故に納得できない感情もわかる。1発……今この場で殴るのを認めてやる。それで今は怒りを押さえろ」

「俺は……最後を知ればいいので……レオンは?」

「俺は納得できない!!」

 レオンが拳を固める。そして、そのまま拳を中腰に構え踏み込み近付く。

 その勢いはまるで猪の猛突のように鋭く腹にめがけて撃ち抜こうとした。観衆が息を飲んだ。

 ズュゴン!!

 金属に当たったようなそんな鈍い音が広間に響く。そして……

「んぐ!?」

 レオンが拳ごと弾かれ打ち込んだ姿勢のままで後ろに押された。レオンの顔は非常に固いものを殴ったかのようにしかめっ面になり、拳を押さえた。

「………ふぅ……」

 私は腹に力を入れていたのを解き。ゆっくり息を吐いた。その場一歩も引かずに立ち続ける。

「……レオン。聞け」

「…………陛下」

 拳をニギニギする彼の目にはなにか写っただろうか。

「私には……いや。余は魔王ぞ。背負った重さはそんなものでは動かんよ。わかったな」

 私はそれだけをいい背中を見せる。フワッと隣にトキヤが現れて豪華なマントをかけてくれた。そして……皆から私を隠すように姿を消してくれる。

 背後、周りから喚声が上がる。私を称賛し、祈るものもいた。

 そして……ゆっくりと私は跪く。

「げふぅ……」

 ツゥー

「ネフィア……大丈夫か?」

 私の肩を叩くトキヤに私は少し胃から逆流した血を滴らせながら微笑む。

「ふふ、大丈夫……結構効いたけどすぐに治る。ふぅ……痩せ我慢しんどいね。体の中身がズタズタよ」

「格好良かったぞ」

「……嬉しくないなぁ~全く。私は女よ」

 私は血を拭い立ち上がる。そして……回復した瞬間。彼に抱っこされて城へと戻ったのだった。







 女王陛下を殴った俺は拳を見ていた。

「レオン……大丈夫か? 拳は?」

 隣のトロールのタイタンに拳を見せる。周りは女王陛下に勇ましさに喚声をあげていた。

 俺はその中で……拳を見続ける。渾身の一撃だった。「死んでもおかしくない」と思うほどに。

 しかし……結果は女王陛下を退けるどころか自分が弾かれたのだ。まるで大きい大きい鉄を殴ったように重たい固さに驚く。

「タイタン……殴った瞬間。重かった」

「……レオン」

「俺は……餓鬼だったようだ。背負うもの背負った重さに気付かされた」

 拳を握りしめる。己の薄さに悔しい思いをした。

「タイタン俺を殴れ!!」

 バゴン!!

 ヨロ……

 頬に重い一撃と痛みが体を揺らした。

「これでいいか?」

「ああ……目が覚めた。ありがとうよ」

「いいよ……お礼は。あと、俺も一発」

 ボコォ!!

 タイタンに女王と同じ拳を手加減して入れる。深く入った瞬間にくの字に折れ倒れるタイタン。立ち上がれずに……倒れたままになる。

「げほっ……重い。これを女王陛下は受けたのか?」

「……手加減している………もっと重い筈だった」

「……」

 タイタンを起こして肩を貸す。

「俺は……間違っていた」

「同じく」

 ゆっくりと二人で歩く。何も言わず、痛みを噛み締めながら。







 次の日、私は全族長を集めた。戴冠式を行った玉座に座りトキヤを右側に立たせ、左側にはエルフ族長を立たせた。玉座と言っても借り付けの椅子である。

 目的は隊の把握。どれだけの兵数が要るかを確認するためと点呼だ。

 変わった奴もいる。黒い鎖帷子でツノがついた兜や、昆虫ぽい種族もいた。知り合いばっかりであるが。リディアは私に指を差してランスロット怒られていた。エルフ族長は自分で2000程度と言っている。

「ダークエルフ族長兵数3000」

「はい」

 ダークエルフ族長が応える。次にエリック率いる悪魔族など。九大族長から点呼を取り、スキャラ族長以下、トロール族長、オーク族長の姿はない。スキャラ族長は攻撃中でいないのは当たり前だが。

「トロール族長、オーク族長は居ないのか」

「……」

 私は溜め息を吐く。彼ら二人はまだ族長としては若いのかもしれない。「戦法を変えないといけない」と思った瞬間だった。

 ギギギギギ

 扉が開き、視線が前に向く。

「はぁ……はぁ……トロール族長タイタン。今、父上を継ぎ!! 陛下の元へ馳せ参じる!!」

「……オーク族長襲名。レオン……ここにいる」

 父上より流暢に言葉を並べて部屋に入る二人の屈強なトロールとオーク族。その二人が赤い絨毯の上を歩き……皆の視線の中で私の目の前に跪く。

「……お遅くなりました。女王陛下」

「女王陛下……多くのご無礼をお許しください」

「……なに。二人には日時を間違えて言っていたようだ。それに……見捨てたのは事実……いや。殿を命じたのは余だ。非は余がある」

「いえ!! 何も知らなかった我々こそ……非があります!!」

 私は立ち上がる。

「そうか……頑なにそう言うのだろうな。なら!! 面をあげよ‼」

 二人は頭をあげる。

「オーク族長レオン。トロール族長タイタン。両名を族長と認めよう。そして非を感じるならば戦場で償って見せよ。先代に恥じぬような活躍を期待している」

 私は荘厳な声で話をし、少し柔らかい声に変える。

「先代二人は……本当に素晴らしい英雄でした。一緒に打ち勝ちましょう」

 そして……二人に手を差しのばす。

 彼らの問いは立ち上がっての握手だった。



§余の話を聞け……お前ら


 兵士たちの宣誓が終わったあと大陸地図のある会議場に移動する。兵数把握を行ったあとは作戦の説明があるのだ。

 会議場に魔剣と聖剣と凡剣を私の背後に飾る。一つは魔王の象徴。一つは親友の剣。そして最後は共に歩んだ名の無い剣だが私の伝説が乗った物。それを飾りながら会議場に皆が集まる。9人の族長。そしてそれ以外にあらたに将が加わった。

 私が座るまで直立で身動きをしない中で座れと命ずる。一斉に座り静かに私の言葉を待った。背後にトキヤが直立不動で立つ。

「……ふむ」

 皆いい面構えだった。

 2代目トロール族長タイタン。2代目オーク族長レオン。トカゲ獣人族長リザード。エルフ族長グレデンデ。ダークエルフ族長バルバトス。夢魔族長エリック。吸血鬼族長セレファ。アラクネ族長リディア。

 族長以外にはリディアの背後にランスロット。オニヤンマの女性カスガ。

 旅から帰ってきた黒い部隊を率いるノワールと言う精鋭の隊長に元勇者のサーチ。

 ユグドラシル商会のオーク。トンヤとその付き人のドラゴン。

 そして……数人の民兵代表がこの場にいた。

「……おほん……先ずは礼を言おう。短期間で兵を集めた事と遠い地から駆け付けてくれたことを」

 私は咳払いをして感謝を示す。背中から汗が出そうな緊張感の中で静かに語り出した。

「帝国は目の前に迫ってきた」

 唾を飲み込む音。会議場に緊張が走る。

「まぁ……結果。奴等は私たちと戦いたいそうだ」

 私はゆっくりと立ち上がり。これまで隠していたことを話そうと思い地図に聖剣を抜いて向ける。

「朗報だスキャラ族長がここまで侵入した。快進撃は続くだろう」

 皆が「オオオオ」と感激する。それは勇気を貰える報告だった。「遠い地で勝っている」と。

 地図にスキャラ族長が占領した土地を示す。そして……隣国のマクシミリアンの国も含めた。それにエルフ族長は気が付く。

「……包囲網」

「まぁ~待て。そうだな……包囲網だな。しかし。これまでの流れを言う」

 私は思い描いた盤面を全て話そうと思う。

「私の考えは一つ……帝国を滅ぶほどの打撃を加えようと考えている。我らに戦いを挑もうと思えぬ程度のな」

 全員が顔が驚愕に歪ませる。各々が唐突な話に声を出すがトキヤが黙れと一声。静かになる。

「そのために相手が死力を尽くす決戦での勝利が必要だった」

 何人かふと……勘づいたのか目が合う。ランスロットにいたってはリディアの耳に説明してあげていた。察する者は多い。それだけ優秀と言うことだ。

「ここで……この盤面で敵は二つの選択があった。帝国の危険を排除しに帰還か遠征続行かの二つ」

 どんどん、エルフ族長の顔の血色がよくなる。ダークエルフ族長は首を傾げた。

 ダンッ!!

「姫様!! 最初から……最初からですか!!」

 エルフ族長は机を叩き立ち上がる。

「……もちろん」

「ならば……何故もっと早く……いいえ……立派に彼らは役を果たした。知っていたのですね」

「ええ。たぶん勘でしょうが……知っていたのですね」

 エルフ族長は私を見つめる。

「勝てるでしょうか?」

「……勝つしかない。敵は遠征続行を選んだ。選んだために……決着を急ぐ。故に起こるのは……なにかな?」

「決戦です」

 エルフ族長は答えを出した。

「この地を決戦の地とし……帝国を誘った……思惑通り……もしやとは考えました」

「流石エルフ族長。ご明察よ……もし帰還を選ぶなら背後を叩いたでしょうが。それもしなかった。どっちに転んでも、もうやるしかないのよ彼らは決戦を」

 私は地図上の首都を差す。

「皆の者……これから大決戦を行います。陣形を言います。その前に……」

 皆が……静かに震える。私は深い深い笑みを向けて言い放った。

「ただ成すべき事は一つ………勝つ。それだけだ」

 勇ましい言葉に……族長の数人は叫ぶのだった。







 決戦前夜……帝国のある一室でのこと。

「陛下は?」

「お目覚めになりませんの~」

 暗い寝室の中心で医者と共に衛兵と貴族が顔を出していた。眠るように衰弱していく陛下に皆が心配するなかで……ふと声が聞こえる。

「んん……ふぅ。ここは」

「陛下!? お目覚めになったぞ!!」

「………そうか……寝ていたのか。どれぐらいだ?」

 老いた老人が昔からの付き合いの医者に問う。

「……1週間じゃ」

「そうか……」

「陛下!! おはようございます!!」

「………」

 陛下に甲斐甲斐しく世話をする貴族に陛下は冷たい目を向ける。貴族が「恩を売っている事」が見え見えなためだ。

「……ククク。お前……王になりたいか?」

「へ、陛下!?」

「……くれてやる。何でもな……もう私には必要ない……ああ……必要ない。遠征は?」

「え、遠征は順調です。首都目前との事」

「そうか……魔王は出たか?」

「は、はい? ああ。その……『弱音の停戦要求の手紙を贈るほどに弱っている』と聞いております。それはしつこいほどに……」

「………そうか。ククク……で、お前らはそれをそれをありがたく信じたと」

「?」
  
 ゆっくりと苦しそうに笑う陛下。貴族が首を傾げる。

「……若ければ一戦交えたかった……いいや、若ければ夢を叶えるか……全く最後にもう一度……逢いたいの」

 空を見上げる陛下。だが、みるみるうちに顔が変わる。

「な、何故ここに?」

「陛下?」

「そうか……ハハハハ」

 貴族達が唐突に笑い出す陛下にビックリする。

「そうか……そうか……見たかったな。前線でお前の勇姿を……ふぅ……」

 陛下が震える手で空を掴もうとする。

「……優しいな、お前は。はぁ。いい女だ」

 震えが止まり陛下が唐突に叫んだ。

「悔いは多いが……満ち足りた最後だった!! あとは……お前が叶えよ……夢をな」

 ふっ

 唐突に「叫んだ」と思った瞬間……手が下ろされてゆっくりと陛下は目を閉じる。そうして帝国の王は静かに息を引き取ったのだった。







 これは夢だろう……会議場で部隊配置と作戦を言った後の決戦前夜。私は何故か親しいおじいちゃんの前に立っていた。

 今にも炎が消えそうなおじいちゃん。そう……帝国をここまで大きくした英雄が今にも消えようとしていた。

「……陛下……」

 私は夢の中で呼ばれたのだろう。強く強く。私を呼んだからここに要るのだろう。

「……陛下。こんにちは」

「な、何故ここに?」

 私はゆっくりと横になっている陛下に近付く。

「陛下がお呼びになりました。『最後を看取ってほしい』と願われました。私に」

 静かに私は話し出す。

「帝国兵は私の目と鼻の先です。私は明日出陣します」

「そうか……そうか……見たかったな。前線でお前の勇姿を……ふぅ……」

「……私も陛下の勇姿を生でみとうございました」

 陛下が震える手をあげた。私は察してそれを両手で優しく包む。皮は固く。肉は厚い手。力強くて老いても感じる熱を持った手だった。

「……優しいな。はぁ。いい女だ」

「ありがとうございます。陛下……私はここにいます。見届けてさせてください」

 私は強く手を握った。すると……それを握り返し陛下が叫ぶ。

「悔いは多いが……満ち足りた最後だった!! あとは……お前が叶えよ……夢をな」

 夢とは……きっと。あのことだろう。

「陛下の夢は叶えられないかもしれません」

「かもしれぬな……」

 ふっと手に力が無くなり陛下の手が滑り落ちる。そして……ゆっくりと私は手を広げた。

 ゆっくりと火を継がせ……役割を終えた火が消えていく。

 ゆっくりと……火の粉となって空に舞う。

 ゆっくりと……歴史が終わりをつげる。

 ゆっくりと……光が消えていった。

 手の平に熱を残して。






 晴天の早朝、私は鎧を着たのち。陛下からいただいた帝国旗を持つ。

 そして、強く自信に満ちた足取りで集まった臣下を見下ろせる壁の上に立った。

「……」

 多くの臣下が一人一人抱負をいい。歓声が上がり士気の高さが伺い知れる。

 黙っていた私は最後の番らしく……途中で一歩前に出る。

 万の目線を受けながら。帝国旗を靡かせ……それを掲げて優しく言う。

「我らの戦いに陽の加護があらんことを」

 短く何も言わず。祈るように……皆がひれ伏した。歓声が鳴りを潜め静かに静かに頭を垂れたのだった。

§イヴァリース大平原~遭遇~


 騎士団員はとうとう山や森を抜け最後の平原。魔国首都イヴァリースの前に広がる大平原に到着した。大平原に名はなく。首都の名をそのまま使いイヴァリース大平原と命名されていた。

「あれ……なんだ?」

「……一旦戻るぞ」

 偵察として先行していた騎士が馬を反転させ騎士団長達を呼ぶ。騎士団長たちは呼ばれた瞬間に馬を走らせ平原を見渡した。

 北騎士団長は偵察に激を飛ばす。

「接敵。数から見て敵主力だ……陣を組め!!」

 帝国の騎士達が馬で主力に命令を行う。迅速に敵と戦えるように慌てて整えるのだった。

 布陣は右翼に南騎士団、東騎士団。中央に傭兵、歩兵、西騎士団。左翼に北騎士団、黒騎士団と西騎士団騎兵たちが展開する。

 両翼を騎兵とし。中央にいる兵士を護るように布陣をし……騎兵を生かす戦術が出来る平原を利用する事が決まった。





「来ましたね。慌てて編成を行っているのが見えます。如何しましょうか?」

「チャンスですが……待ちましょう」

 エルフ族長が私に伝え。それに答えた。頷き、エルフ族長は持ち場に戻ろうとする。その前に私に声をかける。

「姫様。加護があらんことを」

「……ありがとう。まぁどうなるかですね……上手くいけばいいですが」

 都市の城壁に旗を刺し、すっと飛ぶ……高い場所からゆっくり降り、スタッと音を立てて都市の外に出た。都市の外だが、難民の仮設住宅が並び。多くの者が仮に住んでいた。

 視線を浴びる中で待機させていたドレイクに股がる。急いで応援されながら先陣に向かい。

 先陣に用意した天幕のしたに駆け込む。

 入った瞬間に皆がその戦う時が来たのだと理解し、会戦準備を行う。

 それはもう……私が何を言うこともなく準備が始まる。

「……」

「ネフィア。持ち場につくぞ」

「………え、えぇ。なんか一言あっていいじゃない」

「すでに緊張してるんだ」

「トキヤがいっぱい訓練したでしょ?」

「それでもだ」

「……実戦だから?」

「そう……じゃぁ行くぞ」

「……そうね」

 私はドレイクに乗り直し……逐次他の兵士に激励を飛ばしに陣を奔走するのだった。








 にらみ合いから1日たった早朝。遭遇し戦うことはなく準備を行い。にらみ合いが続く。

 いつ決戦の火蓋が落ちてもおかしくはなく。少しネフィアの魔力が焦げ臭い匂いを撒いていた。

 騎士団は両翼を騎兵で固め。そこから平原を駆け回り戦う機動戦の陣を敷く。帝国の強さを知らしめる騎兵隊が準備をした。万の騎兵隊は恐ろしい程の突貫能力を有しているだろう。

 対する魔国は右翼にドレイクの騎兵隊を集め。左翼は歩兵だけである。右翼には帝国の半分以下しか騎兵隊しか居らず。方翼だけになる。背後は都市から伸びる仮設住宅などを盾にしているが歩兵も騎兵隊も数は少なかった。

 帝国の名だたる将は右翼。南騎士団、東騎士団。中央に傭兵長、黒騎士団。左翼に北騎士団、東騎士団。南騎士団長死去の代わりに北と東が主力ともとれ左翼側。魔国右翼の騎兵隊と当たる。空にもワイバーンの騎兵がいるが背後を取れる気配はなかった。都市攻めのも数は少ない。

 そして……ネフィア率いる新生魔国側の名だたる将は右翼。獣人族長、ダークエルフ族長、エルフ族長率いるドレイク騎馬隊。

 中央に悪魔族長エリック。吸血鬼族長セレファと民兵長と精鋭黒い戦士ノワールにサーチがいる。色んな種族混成の歩兵部隊である。

 そして……過激な戦闘が予想される場所。左翼にはオーク族長、トロール族長。そして……名だたる将にまでなったランスロットが指揮をする。

 都市には予備部隊であるアラクネ族長以下昆虫亜人族の兵と民兵が待機していた。予定としては左翼支援になるだろうと予想がされていた。将の数も兵数の差も歴然だった。

 そんな中で新生英魔国の旗が翻り。信号旗が上がる。それは準備が終わった事を示す旗だった。

 差はあれど……誰も敗けを考えず。前だけを向いた。イヴァリース大平原の中心で。歴史で始めて亜人と人間の決戦が行われようとしているのだった。






 帝国が陣の展開が終わり。魔法使いが対禁術魔法を唱え。戦場は魔法のない旧時代の戦いに落ちる。

 魔法は禁止する場合の方が効力は強く。帝国はこれによって数の優位で覇権を手に入れてきた。禁止された元では魔法使いの上位の魔術士も制限がかかり。剣で斬った方が早いと言われるほどだ。

 その整った戦場で兵は火蓋が降りるのを待っていた。

「ふむ……」

 騎士団長達も同じように待ち、急拵えた物見矢倉から相手の陣形を見る。黒騎士団長、北騎士団長、東騎士団長、西騎士団1番隊長が相手の陣を見る。

「黒騎士団長、なんだあの馬は?……あれは……魔王だな」

「ああ。北騎士団長。魔王だな」

 黒騎士団長が仮面の上から双眼鏡を覗き答える。北騎士団長は鼻で笑う。

「あれは……魔国側の馬か」

「目が赤く白いドレイクか。異常個体だな」

「白馬と同じか?」

 陣の前を旗を掲げて左翼から右翼へ走る。その姿に北騎士団長は何をしているか理解はしなかった。しかし……黒騎士団長は眉を歪ませる。

 黒騎士団長は危惧する。士気が異様に高いことに。走る中で亜人達は堂々と誇らしく胸を張っていた。

「白馬のつもりだろうか? 古くさい……あれでは大将が一目でわかるだろう」

「目立つな。確かに……あれの首を取ればいいな」

 魔王は白色の鎧に白い白馬のようなドレイクを乗りながら何かを叫んでいた。それに呼応するかのように大歓声が響く。

「……なるほどやる気は十分か。相手の陣形を見るにこの平原で雌雄を決するつもりだ。しかし、この平たい平原では騎馬を遮る者はいない。向こうにも右翼に騎馬を集めているが……」

「数が少ないな……南騎士団1番隊長と東騎士団長には物足りないか?」

 黒騎士団長が二人に声をかける。

「ガハハハ……中央の魔王の首はワシが近いの1番隊長もな!!」

「ええ。しかし……大きい図体ですね」

「亜人はワシのように大きいが所詮!! 旧時代の無知恵の陣だな」

 両翼に騎士を用意してないのをバカにする東騎士団長。葉巻を取りだし火をつける。

「……フゥ~。あの白馬に矢を放て」

「なっ!?」

 南騎士団1番隊長が驚いた声を出す。後ろに控えていた騎士が物見矢倉から降り、叫ぶ。

「矢など効かないと思うか? あの魔王は所詮お飾りだ……弱々しい文を出すほどにな。愚かに射程内だ」

 白いドレイク乗った魔王が中央で止まる。

 そして……市民を攻撃する用に用意された矢が放たれ。下卑た笑いが物見矢倉から発せられたのだった。







 私はエルフ族長が用意してくれた白いドレイクに乗り。前線の陣の前を駆けながら声をかけていった。もちろん魔法が禁止、妨害されている時でも無理に声を響かせていた。

 声を響かせる事はなんとか出来る。囁くような芸当は出来ないが魔力を反発させて無理矢理声を通した。

 そして……中央に差し迫り止まる。中央の前線にいる悪魔の軍団を指揮する劇場の悪魔エリックと吸血鬼と人間のような狼男たち。人形兵を指揮する吸血鬼セレファに民間の亜人志願兵の長と勇者を倒すために鍛えた精鋭黒い兜と異国の武者鎧を持ち帰り着ている戦士達の長ノワールとサーチに会うために。


 その一瞬だった。

 私は青天の空に多くの影が動いているの見る。

 矢の雨。今の時代はあの矢尻では屈強な兵士は倒れない。旧世代の代物。そう……民を倒すためにだけの殺傷道具。それが面となり雨となり空に埋め尽くされる。


「皆、盾を構えよ!!」


 私は大きく大きく魔力を乗せて叫んだ。怒号が起こる中で兵が上に盾を向ける。

 そして……


ヒョンヒョンヒョン!!


 草原の上に矢尻が突き刺さる。


「女王陛下あああああ!!」

 何人かの臣下の声がした。








「姫様ああああああ!!」

「女王陛下が矢の雨の中に!!」

「ネフィア姉さま!?」

 矢の雨、矢で倒れる愚か者は居ないが数が数であり、その数には屈強な兵士でも耐えられない。そんな中で傘のように防ぐ事の出来る盾を持たない姫様が巻き込まれ慌ててセレファとノワール。サーチが躍り出る。

 あまりの激しい雨に身動きが取れず耐えるなかで皆が不安がる。

 そして……矢は止まった。被害報告があげられていく中で皆が盾を構えるのを止める。

 そして、皆が目を開けて絶句する。


「…………」


 何も言わず、帝国の方に向き背中を見せる女王陛下に誰もが……言葉を失った。ゆっくりと振り向くネフィアの姿に白い翼があるように空見する。

「すいません。私の距離への配慮の無さで起きた突発的な物でしたが……一糸乱れぬ動きは見事でした。正面は任せましたよ」

 女王陛下は声を出し己の失態を謝り、一言だけ「任せる」といいそのまま、何事もなく走っていく。


「………」


 その勇敢な姿に皆が叫んだ。その奇跡に誰もが勇気を手にした。そして……今か今かと敵を見る。


 そう……「早く戦いたい」と叫ぶのだった。







 物見矢倉の騎士団長達は遠くで観戦し何かを魔法で防いだと確認する。

「………ふむ。敵の士気を上げただけか?」

 大草原に広がる歓声に眉を歪ませて東騎士団長は吸いかけの煙草を握りつぶす。

「少し、癪だなあいつ。ワシはもう右翼へ向かう」

 機嫌を損ねた東騎士団長を皆が見つめながら各々が物見矢倉を降りていく。そして、最後に残った黒騎士団長は魔王の姿を双眼鏡で追い続け。帝国側左翼、魔国側右翼の騎馬隊に混じるのが見えた。何人かの報告にあった族長らしい人物と会話をして消える。

 ちょうど、左翼に配置しているため見えるだろう。

「……ふむ。正面にたつは殺しそびれ逃げられた者か」

 黒騎士団長は己の失態からここまでに至ったことに何度も何度も驚かされる。

「……」

 そして、何度も何度も。驚異に思うのだった。そう……その豪運に。









 トラストは最後の用意した紙で3通の手紙を書き。後方部隊の従者の3人に預けた。

「もし、私になにかあればお願いします」

 そう伝え。大きい盾のような剣、ディフェンダーを背負い馬に乗る。剣は取り回しは悪いために別に用意した騎士の丸太のように太い豪槍を地面から引き抜く。

「トラスト殿。ご武運を」

「ああ……」

 馬に鞭を打ち、前線の仲間に合流する。トラストは覚悟決める。

 同期に聞いた情報で「見えた」と言う息子が帝国側右翼に居ることを知る。

 黒騎士団長から聞いた盗まれた聖剣とともに。

「……さぁどうなるでしょうね」

 
§イヴァリースの戦い~英傑の大号令~


 昼頃。両陣のにらみ合いの中で英魔国兵は今か今かと震える中、ネフィアは右翼先陣につく。その両脇にダークエルフ族長とエルフ族長、獣人族長リザードがドレイクが近寄った。

 エルフ族長だけは馬であり。エルフ族長以下の兵士も馬であった。

「姫様、見事な魔法でした」

 エルフ族長が喜びながら声をかける。

「やっぱり気付いていた?」

「ええ、1本弾いたのよ」

「1本ですか……はは」

 エルフ族長は今さっきの矢の雨の中で矢を弾く姿を見ていた。そして笑みを溢しながら語る。エルフ族長、ダークエルフ族長、リザード族長は背筋が冷える。

 1本しか弾かなかったのかと……そのネフィアと言う恐ろしい存在を再認識し、味方なのに震えてしまう。その事を3人とも感じ取り繕うようにエルフ族長は続ける。

「良い士気の上げかたです。そう、まるで神のように見えます。その白翼もまた……綺麗です」

「ありがとう。士気だけで敵うわけないけどね。こっち右翼は死闘よ。こっちに全てかかってる。お願いします」

 ネフィアは3人に頭を下げる。3人は顔を見合せて……笑いだした。「今更何を」という感じである。

「そこは。殺れと言えばいいではないですか?」

「本当にな……後ろの兵士に示しがつかん」

「そうです。我ら獣人は勇ましいのを所望します。女王陛下」

「……あーすいません。ふむ」

 ネフィアも笑い。頷きながら声を変える。

「余の背中……白翼を目印についてこい!! 追い越すことは許さん。我が先頭だ!!」

「「「!?」」」

 3人驚いた顔のあと、納得し、姫様なら普通かと呆れた顔をしたあと。真面目な顔で答える。

「「「御意」」」

「では、作戦通りにな」

 ネフィアは白翼をはためかせる。そして……決戦前にエルフ族長作詞作曲の英魔国歌をくちすざんだ。

 それを聴いた3人も歌い出し。それを聞いた英魔騎士達も歌いだし、中央、そして左翼までも一斉に歌をうたう。

 おとなしいゆっくりした単調な歌。今か今かと猛る兵士たちが大人しくなる。

 そして……歌が終わった瞬間にネフィアの声が響き。零号旗が掲げられる。

「諸君、英魔国は各員がその義務を果たさんことを期待する」

 ネフィアが剣を抜き、敵陣に向かい走り出す。英魔国兵士から大きな声が上がり一斉に前に出るのだった。





 帝国兵は英魔国陣営が歌い出したと思った瞬間。動き出したのを確認した。そして……騎士団員に攻撃の指示が飛ぶ。

 中央から、両翼に命令が飛ぶ。

 騎士達が馬に鞭を打ち、両翼から魔国兵を潰そうと馬が走り出す。

 大決戦の火蓋が落ち、両陣は自国の勝利のために武器を振るう。

 だが、誰も気付かなかった。

 火蓋を落としたのが英魔女王陛下、ネフィア・ネロリリスだと言うことを。

 兵数劣性な英魔国から仕掛けられたことを誰も疑問視しなかったのだった。





 帝国側右翼、英魔国側左翼は帝国側の攻撃から始まった。展開した歩兵は側面背面が弱点であり、それを守るために両翼に騎兵を使い守るのが定石だった。

 しかし、魔国側は一切左翼に騎兵は置かれていない。居るのは歩兵だけであり。帝国兵は迂回し側面から突撃を行う。背面は……背後に都市もあり背後からでは何かあると言うことでの側面攻撃だった。

 大平原であり、騎馬を縛る物はなく戦場を駆ける事が出来た。

 南騎士団1番隊長と東騎士団長が突撃の命令を出す。

 東騎士団長は勝利を信じて先陣を切った。







 劣性、左翼の亞人はその事を知っていた。

 しかし、彼らは何度も何度も夢で行ってきた訓練で自信をつけていた。

 劣性なら……一人が10人20人の活躍すればいいと考える。そう、亡きオーク族長、トロール族長のように活躍すればいいと。

 故に族長号令は……オーク族、トロール族を奮起させる。

「我が父上は!! 最後まで動かず守り続けた!!」

「我の父上は!! 劣性の中で騎士団長を討ち取った!!」

「我らが」

「我らの」

「「族長の後を追い英雄にならんとする!!」」

 オーク新族長レオンとトロール新族長タイタンの号令は煩い瞬く間に兵士に行き届く。

 ガンガンガン!!

 そして、オーク族達が前に出た後に背中の物を前に突き出した。

 黒鋼ダークスティールの大盾。四方に取っ手のついた大きな大きな盾が構えられる。

 それは一列になり、中央の兵を守るために左翼に黒い壁を作った。

 それを帝国兵はもちろん見ていた。護るならと大きい槍を構え突撃をそのまま実行する。

 ガッシャン!!


 草原の大地に英魔国の盾と帝国の槍が激突する。

 グゥワン!!

 帝国の騎馬槍が弾かれ宙を飛んでいく。

 黒い壁に阻まれ。突撃は止まり、後ろから続く帝国騎馬が渋滞し勢いが死んだ。

「…………左翼全軍に告ぐ!! 猪突猛進開始!!」

 黒い壁の後ろでオーク族長率いるオーク族とトロール族が盾と槍構え、縦列にささっと並ぶ。壁となっていた大きい盾を持つオーク族達が道を開けた。


 もちろん帝国騎士もそれを見て、そこを急所と考えて後方が突撃する。だが、出てきた縦列した盾と槍を持つ亞人たちと衝突。

 亞人たちが騎馬ごと吹き飛ばし。騎馬隊の中心を突き抜ける。

 分断、もとい挟み撃ちの格好となった彼らだが。その後方から……兵が雪崩れ込む。先陣を切ったのはランスロット率いる亞人部隊。傭兵隊………そして、都市内に籠り隠していた族長アラクネ率いる昆虫人族たちだった。

 昆虫亞人族の魔物と同じ鋭い牙、爪が馬や騎士たちに襲いかかり。混戦へと発展した。

 いつしか黒い砦のような大盾の壁が無くなり騎士と亞人の混戦状態に移り。オーク族長、東騎士団長などの名だたる猛将が戦いだして双方に犠牲がで続ける。

 戦力は亞人劣性だが混戦状態になった瞬間に昔からの混戦状態の戦いが得意な亞人たちは数をものともせず善戦を繰り返した。

 そう、帝国右翼と左翼は膠着状態となる。そして、その中である人物が後退した。


「我に続け!! 南騎士団!! 6番隊!!」


 南騎士団6番隊長が6番隊を指揮して混戦を抜ける。


「迂回し背後を叩く!! 行くぞ!!」


 膠着はトラスト率いる6番隊を逃がしてしまう。追いかける騎馬も居らず追いかけることも出来ない。そしてそれは……機動力で背後を取る動きをわかっていても逃すのだった。


 6番隊トラストは勘づく。相手は混戦し騎馬の足を殺すことを目的にしていることを。


 魔国の左翼は一人のランスロットの父親によって苦戦を強いられるのだった。








「ランスロット御仁」

「カスガさん……どうしました?」

 混戦中をランスロットは一人、離れ昆虫亞人族でありアラクネ族長の側近を自負し空で監視を行っていた彼女がランスロットの耳で囁く。

「1000ちょっとの騎兵が中央兵士の背後に回っていきます。大きい盾と槍を持った。ランスロット御仁に似た方です」

「父上か……『狙いはわかってる』と言った所か」

 ランスロットは妻の名前を呼ぶ。

「どうしました? ランスさん。ボリボリ」

「リディア!! 背中に乗せてくれ!! あと腹を壊すから喰わない」

「ぺっ……わかった」

 ランスロットは大きいアラクネのお尻の上に乗り叫ぶ。

「カスガさん!! 背後を突かれる!! 何人か背後に寄越してください!!」

「わかった。ワイバーン騎兵を落としてすぐに向かわせる」

 空中ではワイバーンと空飛べる昆虫の亞人族達や鳥族達が戦い。数で圧倒していた。都市内に隠していた機動力の高い予備部隊に後方の支援を頼む。

「……ランス御仁。ご武運を」

「カスガさんも……カスガさん。右翼は?」

 アラクネが戦場を駆ける中で飛びながら追いかけてくれるカスガが口を開く。

「……わからない。が、女王陛下がいる」

 ランスロットは……自分達の踏ん張りが決定打になることを確信したのだった。



§イヴァリースの戦い~英魔国大陸連合軍中央と右翼~


 歩兵を中心に中央を任せられている悪魔族婬魔族長エリックはゆっくりと歩兵を歩ませる。

 同じように吸血鬼族長セレファも号令で歩兵を歩ませるがジリジリとした歩みである。

 そして………その上空。昆虫人族が戦っている中で後方のゴブリン、グレムリンが泡立たしく動いた。

 後方に蜘蛛のように足を持ち。地面に杭を打ち込んでいる物が大きい口を空けて空を向く。魔力が高まり、口の中のネジがまわりだす。

 それは都市オペラハウスを護り続け、都市インバスの夜の太陽を打ち出した魔法具アーティファクト


ゴブリンGoblin Char放火砲belcher


 それを打ち出す準備だけで忙しいのだ。魔法が使えない状態で撃てるかと疑問視されていたが稼働はするようだ。


 ぐわぁんんんんん!!

 激しい鉄の擦れる音が中央から聞こえ。そして……大きい衝撃音が大気を揺らした。

 ゴバァアン!! プシュウウウウウウウウウ!!

 放火砲は周りに衝撃を撒き散らし、地面が揺れ、放火砲の周りは蒸気の煙で視界が見えなくなる。

 放火砲の口から火の玉が打ち出され、英魔兵の上を放物線を描きながら飛んでいく。

 そして……帝国兵の頭上に落ちる。


 バッガアアアアアアン!!


 その音が号令の役割を示し、中央の英魔の兵士が走り出す。落ちた爆心地の帝国兵は焦げ、火傷を負った。それでも数倍の数を少し減らすだけである。

「全軍突撃!!」

 中央で帝国と英魔国の歩兵がぶつかり出した。エリック族長はデーモンと悪魔を引き連れて前線で戦い。セレファ族長は数の少ない人形と吸血鬼だけで戦い続ける。

 黒い兜を着て、異国の仮面をつける鍛えられた精鋭の兵士達が黒い太刀を抜いて奮戦する。

 帝国兵達はいきなりの放火攻撃に驚いたが。数の優勢のままであることを確認して乱戦へと移行する。


 そして、セレファ族長はその行為を笑い。エリック族長は胸を撫で下ろすのだった。







「サーチ……帝国兵の動きは?」

 僧侶のように杖を持って負傷兵の選別。後方に運び出せと指示を出している元勇者のサーチが精鋭黒兜と言う部隊長に呼ばれる。

「ノワール前線は?」

「……押し返されている。ゆっくりと……そして混戦状態になった。帝国兵の動きは?」

「……情報だと。そのまま混戦予定だと思う」

「わかった。今は耐えどきだな」

 悪魔であるノワールが人間のサーチの頭を撫でる。

「勝ったら……結婚しよう」

「……えっ?」

「答えは後で聞く」

「………」

 サーチは不安になった。そして……一言。

「それ死んじゃう」

「……そうなのか?」

「だから。お終わったらゆっくりと話そう。何でここで言うのよ!!」

「………うぐ」

 ゲシッ!!

 サーチは彼を蹴飛ばしたのだった。








 帝国兵の中で……ある情報が届く。

「右翼の騎士団の攻撃が止まって苦戦中」

「左翼の騎士団が敗走した。俺は逃げる」

 その情報は劣勢を伝える情報ばかり。そして恐ろしい事が起きた。

 中央の後ろで悲鳴が上がるのだ。

 何があったかわからない中で……ある情報が流れる。

「味方の中に人狼が混ざっている」

「味方の中に吸血鬼がいる」

「味方の中に……裏切り者がいる」

 それは瞬く間に広がり動揺が広がった。

 そして……後方で本当に狼男の部隊が出現し……その部隊によって帝国兵は疑心暗鬼に陥る。

 そこである声が言われた。

「………え、英魔国に人間の兵士がいる」

 帝国兵は味方を疑い出したのだった。







「あ!? やめろ味方だ!! この太陽のメダルがあるだろ!!」

 帝国兵に混じっていた英魔国人族、セレファ族長の部下たちが合流する。散々、敵陣で叫んでの帰還だった。

 至るところから混戦の中で帰還合流し、背中に印をつけて再度混戦に混じる。

 混戦の中で大混乱が起きた。

 味方だと思ったら斬られるのである。虚報が飛び交い、何を信じればいいかわからない状況に……傭兵の勢いはゆっくりと削がれていくのだった。








 英魔国右翼。帝国左翼がにらみ合いから戦いに切り替わった瞬間だった。

 ネフィア率いる英魔国の騎士の突撃に合わせるように帝国騎士も突撃を行う。

「奴が魔王だ!!」

「奴を仕留めよ!!」

 その言葉に先頭の帝国騎士たち白翼を目印に槍を突き出す。しかし……その槍が届かず騎士が落馬する。

「……」

 ネフィアは緑の剣を投擲し槍が届く前に喉に突き刺したのだ。その緑の剣は役目を終えてまたネフィアの元に帰っていく。

 聖剣の帰巣本能を用いて槍の届かぬ場所で倒す。

「くっそ!!」

 仲間が倒れ、それを仇討とうと槍を突き付ける騎士。ネフィアはそれをそのまま。

「……炎刃」

 剣に炎の刃を纏わせてリーチを伸ばした状態で騎馬戦を行う。槍を緑の剣で弾き、炎刃で切り払い落馬させる。

 ネフィアは前線で騎士を凪ぎ払い。声を張り上げる。声に魔力を長して叫び。全員の耳に届く。

「余はここなり!! 余はここなり!! ネフィアはここなり!!」

 その声は帝国騎士を誘い、討ち取り。それを見ていた他の帝国騎士を震え上がらせ。英魔騎士たちは逆に勇気を手に入れ。騎馬戦を技量と士気と力で捩じ伏せて行く。


「……五月蝿いですね!!」


 そして……その帝国騎士の勢いが弱るなかを黒い騎士達が現れる。

 帝国最狂の黒騎士団。黒騎士団長以下の精鋭がネフィアの前に躍りでる。


「あら、お久しぶり……黒騎士団長」

「戦場で余裕の挨拶だな!! 魔王!!」

 
 黒騎士団長が魔法を禁じられている磁場のような戦場で大きい黒い魔弾を撃ち込んでくる。

 それは地面を穿ち。ネフィアの前にまで迫った。そして……


「させるか!!」


 ガッシャン!!


 ネフィアの前にダークエルフ族長が入り、弾を切り払い。後方の英魔騎士に当たって消え去る。軽症なのか落馬だけですむ。


「対術鎧持ちか……」


 黒騎士団長は毒づいた。

「………いいえ。対術は無いですが?……まぁ少しはあるでしょう」

 「女王陛下の庇護下だからだろう……まぁそれを言うほど俺らは優しくしない」とダークエルフ族長はブレードランスと言う変わった武器を突き付けながら思う。

「姫様……先にどうぞ。ここは私たちが」

「ありがとう」

 ダークエルフ族長は自分の衛兵達に叫ぶ。

「行くぞ!! 英国衛兵の度胸!! 強さを知らしめろ!!」

 ダークエルフ族長以下衛兵騎士と黒騎士団がかち合い騎馬同士の混戦が始まるのだった。


§イヴァリースの戦い ~北騎士団長対英魔王~


 北騎士団長は苦渋の表情で目の前を見ていた。戦況は予想外に芳しくなく。騎士の中には腰が引けて立ち向かおうとしない者もいる。

 中央の指揮系統が歪み。右翼も突破できていないと聞く。

 その中で……道が出来る。

 そう騎士達が戦おうとせずに引いた結果。一本の道が出来た。

 そして……そこに一人の白金鎧と翼を携えた人成らざる姿が近付いてくるのだ。

「魔王……!! 槍を貸せ!!」

 隣の騎士から槍を奪い、それを白いドレイクにめがけて投げつける。


 結果は……


 ザシュッ!!


 ドレイクの胸に刺さり倒れ。白金鎧の女は宙に投げ出されクルッと回転し。地面に立つ。

 ドレイクを心配している顔をして……振り向き。そして私に向き直った。

「……囲まれた」

 周りの騎士が彼女から距離を取りながら槍を構える。通ってきた道も塞がり孤立無援となる。

「…………」

 だが、彼女は落ち着いていた。落ち着き、そして……私を睨む。私は馬から降りず。彼女に対して一斉に攻撃をするように言い放った。






 リザード族長とエルフ族長は女王陛下が無理な突撃で囲まれてしまった事を知る。

 それは彼らに焦りと女王陛下の元へと向かおうとする活力となり。

「ドケェエエエエエ!!」

 リザード族長の槍が騎士を貫き馬から引きづり出し。エルフ族長の矢が全て顔の兜の隙間から射ぬかれて行く。

「ネフィア女王陛下が!! 孤立した!!」


 そう孤立した……と思われていた。


 白い翼が舞い。その翼だけで勇猛果敢に前だけを歩いてで進む姿を感じさせる。

 大きく大きく羽ばたけるほど大きい翼が目印となる。混戦が敵の後方まで侵食したことが伺えた。

「行くぞ!! あそこまで」

 敵味方乱れる騎馬戦に勝者が分からなくなる中で……英魔の騎兵達は死力を尽くす。

「女王陛下は前にいる!! 追い付くぞ!!」

「「「オオオオオオオオオオオ!!」」」

 リザード族長の声が戦場に響いた。







 ネフィアは倒れたドレイクを庇いながら、ゆっくりと両手の剣を持って歩く。

 右手に炎のロングソード。姪無きネフィアの剣。

 左手に緑のロングソード。マナの樹から抜いた聖剣。

 それを構えながら歩く。堂々と、白翼を広げて。北騎士団長は苦虫を潰した顔をし、彼女を睨みつける。

「誰か奴を討ち取る輩はいないのか?」

 誰も彼女に近付こうとしない。いや、翼が邪魔で槍や矢が届かないのだ。槍で翼を突こうとその翼で視界を遮って近付かれて馬の首を切り落とされる。


 帝国騎士が恐怖を抱いていた。迫る死に。


「………北騎士団長」


 ネフィアが声を出す。

「北騎士団長ソードマスターと言われるほどの腕で私と戦ってみません?」

 挑発。北騎士団長は目を閉じ……馬から降りる。

「ふぅ……確かにあなたの剣は欲しいなその……聖剣は聞いている」

「おかしい? これは伝来しておりません」

「伝来してますよ。女神からね」

 北騎士団長はバリスタ兵を呼び、構えさした。

「……勇猛果敢な兵はおらず。ただただ肥えただけの醜い兵士でした」

 ネフィアはそのまま背中を向け。倒れたドレイクに近付き治療をし出す。「舐められている」と思い。その無防備に向けて北騎士団長は命令する。

「ふん。射て!!」

 北騎士団長の号令とともにバリスタの矢が放たれる。しかし……白い翼で防がれ翼に矢が突き刺さる。

 そしてポロポロと矢が落ちていき。

「…………はぁああああ!!」

 北騎士団長が走り出した。そして……途中、大きく跳びそのまま大きく回転し。

 大剣で翼を叩き斬る。その大きい剣は先端が丸い。

「つぅぅ!?」

「処刑剣です。多くの処刑を行った魔剣の一つ」 

 切り落とされた翼は魔力となって霧散する。方翼だけになり。ネフィアは深呼吸を行った。

 北騎士団長はその剣を何かの箱に差し込み納め。またその箱から新しい剣を取り出した。

 今度は幅広い騎士がよく使っている剣。ブロードソード2本だ。

「……私は愚かでした。手紙や最初の出会いだけで評価するのは良くない」

「……色んなところに私の強さを示す事柄があったでしょう?」

「確かに。信じてませんでしたね……結果。苦戦を強いられている」

「……わかるの?」

 ネフィアは「今の状況がわかるのか」と問い。北騎士団長は頷く。

「女神から注意を今……受けました」

 ザッ!!

 北騎士団長が地面を蹴り、両手の剣を振る。一騎討ち開始と同時にネフィアはそれを受けきる。

 ズシッ

「つっ!?」

「弱ってるそうですね。片足……動きが悪いそうで。あとは……」

 北騎士団長がネフィアから右側に移動する。そして左の剣で凪ぎ払った。

「ん!!」

 キンッ!!

 それをネフィアは右手の剣で弾く。剣圧だけで首が切れそうなほどに鋭い。彼の持つ両方の名剣はその恥じぬ程に強いようだ。

「右目……見えてませんね」

「……今になってあの神はあなたに教えるんですね。そうですよ、見えてません」

 ネフィアは笑みを向けて片翼を震わせ羽根を撒き散らす。

「ん!? なにを!!」

「少し、一緒に痛い思いをしませんか?」

 チカッ

 羽根が光だし、北騎士団長は慌ててネフィアから離れる。そして響く声。

方翼の爆炎方翼のツバサ

 羽根が炎となり爆発し、草原の草を焦がし。荒々しく地面を穿つ。

「くぅ!? ディフェンダー!!」

 北騎士団長は木箱から盾のような剣を取り出して爆発を受けきる。

「自爆ですか……それでも驚きです。魔法を禁じられている中でこれほどの威力を……」

 煙が風で流され視界が鮮明になり爆心地に白金鎧で護られたネフィアが膝をつく。禁じられている中で威力は弱まり。全く北騎士団長を倒す事は出来なかった。

「……弱い……こんなものですか」

 北騎士団長はやはりと思ったのか。ディフェンダーと言う剣を納めて処刑用の先端が丸い剣を木箱から抜き放った。

「………ふぅ……そうですね。私は弱いです。しかし………」

「北騎士団長!? 前線が持ちません!!」

「!?」

 北騎士団長は敵方を見る。鬼気迫る形相で北騎士団騎士を倒す1団が見えたのだ。北騎士団長は視線をネフィアに移し、慌てて馬に乗る。

「……ふぅ」

 その姿にネフィアは勝利を確信し、迫ってくる勇ましい声に答えた。

「北騎士団長はここぞ!! 首を獲る者は居らぬか!!」

 大声で叫び……彼女の背後から多くの英魔族達が駆けていく。そして……ネフィアの横に手を伸ばす騎士が現れる。

「女王陛下……遅くなった」

「リザード族長……私を見捨ておけ。逃がすぞ……お前の都市を蹂躙した者達が」

「……よろしいので?」

「うむ。後で追おう……」

「その必要はございません」

「?」

「全て私が終わらせますから」

 ザッ!!

「女王陛下が敵によって負傷された!!」

 走りリザード族長は叫ぶ。騎士達が……怒りに震えた。

「都市を捨てた屈辱!! 陛下への冒涜!! 許せぬ者は我についてこい!!」

 リザード族長はそのまま逃げる騎士団を追っていくのだった。

「……はぁはぁ……姫様御無事で?」

「エルフ族長……遅いな」

「あやつらが速いのです……何処までも追っていくでしょう」

「………エルフ族長は?」

「そのまま。帝国の後方部隊まで向かいますよ。女王陛下はお帰りください……邪魔です」

「ふふふ………そうね。主役はここで降ります……役目は果たしたでしょう?」

 エルフ族長は頷いて一人の騎士にネフィアを拾わせる。ネフィアは……そのまま気を失うのだった。






 黒騎士団長は目の前のダークエルフ族長に苦戦していた。苦戦どころか追い込まれている気がするのだ。

 黒い鱗のドレイクに黒鎧での姿。黒騎士と言われてもおかしくない程に黒い出で立ちだった。

 名乗りは英魔国首都衛兵長兼ダークエルフ族長バルバロスと言い。衛兵らしからぬ猛将で黒騎士団長が釘つけにされてしまう。

 そう、彼を抑えないと何百の騎士が殺されるかわかったものではない。

「ただの衛兵風情と思いか? 名声持ちの黒騎士団の長ともあろうものが……情けない」

「……」

 黒騎士団も彼が率いる衛兵達に苦戦し、気付けば他の敵騎兵に迂回され後方を叩かれていた。

 しかし……動けないのである。ダークエルフ族長は黒騎士団長に交渉を持ち掛けた。

「仲間を見捨てて……戦場を抜けられる事を進言しよう。後ろは既に瓦解し。ここからは中央左翼崩壊し、敗戦は決まるだろう」

「……戦場で情けをかけるのか?」

「女王陛下は自由にしろと命を出している。ここは私の自由にさせてもらう」

「………」

 ダークエルフ族長は周りを見る。被害は双方に出ているが黒騎士団はまだ数を減らせていない。

 黒騎士団長は選択を迫られ……そして決める。

「私の敗けは奴を見逃した事から決まっていたのだろうな」

「そうだろうな。女王陛下はそういう人だ……そして……我々の味方だった」

 黒騎士団長は部下に戦場を離れる旨を伝え。ダークエルフ族長も同じように黒騎士団を見逃し……先陣に合流することを選ぶ。

「もう一つ……負けていた理由はダークエルフ族長バルバロス。お前が居ると言うことだ……」

「……うれしいですね。後で女王に褒めてもらいますよ」

 双方がゆっくりと離れていく。戦場内での異例の交渉は成立したのだった。


§イヴァリースの戦い~帝国右翼敗走~



 帝国軍右翼、混戦状態が長く続くなかで背後を突こうと動き出したトラスト率いる南騎士団6番隊は……動きを止める。

 空飛び回っていた亞人たちと都市から走ってくる一団によって背後が突けなくなったのだ。

 トラストは相手の動きの速さ、対応力に今までにない危機感を覚える。

「……」

 そして……その一団に仕方なく戦線を引き。南騎士団の同僚1番隊長の元まで帰っていく。

 東騎士団長に任せ混戦から抜け出し、情報を求めていた同僚に馬を寄せた。

「……トラスト。背後は突けなかったのか?」

「都市からと空から部隊が対応してきた。6番隊だけでは……数が少ない」

 南騎士団1番隊長は眉を歪ませて。苦虫を潰した顔をする。

「右翼側面、背後は無理……これは……」

「時間稼ぎだ……それもまんまと引っ掛かり……」  

 二人は理解した瞬間に事態が悪い方向に向かっている事を知る。

「1番隊長!! う、右翼……突破されました!! ちゅ、中央も虚報が飛び交い……多くの脱走兵が……」

 伝令の馬を乗った軽装の兵士が慌てて隊長に報告する。

「なぁ……1番隊長。進言しよう………魔国は強い。そして騎士団壊滅の危機だ」

「……………」

 トラストは情報を纏めて一つの結論を導き出す。

「殿は……任せろ。6番隊長が命ずる。殿を志願する者はここに残れ……南騎士団員でも募れ」

「トラスト……」

「……なーに。息子とはまだ決着がついていないだけだ。お前の役目は敵地生存を優先し南騎士団生き残りを帝国に返すことだ。中央から行くな……都市グリーンズから迂回し……他の騎士団を生け贄に生き延びろ」

「俺が残る……お前は帰れ。任された1番隊長の使命を全うする」

 同僚の1番隊長が覚悟を決めた表情をする。しかし、トラストは顔を振った。

「残念だが……お前では殿は無理だろう」

「くっ……」

「足手まといだ……」

「辛辣だな」

「本当の事を言ったまでだ。一人で何人やれる? 俺は100人だ」

 トラストは笑顔でそう言い。1番隊長の兜を槍で軽く叩く。

「先輩……アメリヤに僕は最後まで勇敢だったと伝えてください」

 トラストは笑顔で戦場に戻るのだった。






 東騎士団長は焦り出す。自分が倒せども、味方は減る一方なのだ。

 騎士達の技量は相手よりも遥かに劣っている。大きい黒い盾を亞人が凪ぎ払えば騎士が吹き飛び。大きい体に槍を入れれば盾で防がれ、全く何も出来ずにいる。亞人達の戦い方を全く知らないために手探りで攻めているのだ。

 そう……向こうの歩兵は騎士達の戦い方を知りつくしている。しかし、我々は知らないのだ。

「お前が……東騎士団長だな」

「つっ……ここまで来たか。全軍撤退!!」

 歩兵の一人。屈強な体の亞人が立ちはだかる。東騎士団長はその場から去ろうとし背中を向ける。

「!? 将が背を向けるな!! 愚か者め!! 追え!!」

 ザッ!!

 東騎士団は遁走を開始し。歩兵のオーク族、トロール族はそれを追いかけ出す。しかし、騎兵と歩兵では速度が違い離されると思われていた瞬間だった。

「道をあけろ!! オーク族、トロール族!!」

「お前らはゆっくりと追ってこい」

「ランスロット殿、お、王配どの!?」

 オーク族長の背後からドレイクとアラクネ族長リディアに乗ったランスロットとトキヤが部隊を引き連れて現れる。

「昆虫亞人族が空から先回りして撤退を妨害する!!」

 トキヤが叫びながらオーク族とトロール族前衛に伝えていく。そして……そのまま追撃戦が始めると思っていた瞬間だった。

 目の前に槍を構えて突撃陣形の騎士達が見え……歩を止める。

 そして……中央。一騎だけ前に出て馬から降り。身長より大きい盾のような剣を構える人物が現れた。


「全軍止まれ」


 トキヤはその姿に見覚えがあり。ランスロットも息を飲む。


 そう……あの短時間で騎士を纏めあげて殿を用意した手腕以上に。死んでも戦い抜こうと残った者の強さを二人は知っていた故に。止めてしまったのだった。







 帝国側は右翼崩壊からその情報により決定的な物になってしまう。

 右翼敗走から始まった中央の兵士への伝達。その結果は悲惨な物となる。

 中央では既に指揮崩壊が起き、逃亡兵が多く戦線を維持できずに英魔族中央に翻弄されていく。

 帝国右翼も徹底的な防御を押し崩せず。足を止めた所を狙われ。右翼騎士団も敗走した。


 北騎士団長は……途中。追い付かれリザード族長に討ち取られ。東騎士団長は回り込まれた昆虫亞人族達の奇襲に討ち取られる。

 多くの兵士が阿鼻叫喚で敗走する。

 そして……その中でたった1団だけは残り徹底交戦の構えを示したのだった。








 帝国ドレッドノート。陛下の崩御に悲しむ中で屋敷に一人で部屋に籠る。アメリヤは雨の降る窓を見た。

 空が泣いているような土砂降り。英魔族の快進撃に続く暗い話題で帝国内の雰囲気は沈んだ物になっていた。

パタンッ

「!?」

 曇天の雲の中。暗い室内で家族の肖像画を飾っている肖像画立てが倒れた音にアメリヤはビックリした。

 慌てて立て直そうとするが……立てるための足が折れてしまっている。

「……トラストさん」

 あまりの不吉さに……アメリヤは夫の心配をする。肖像画を抱き締めて無事を祈る。

「……どうか……どうか……帰って来て」

 南騎士団長6番隊長の妻はそれだけを望む。

 だが……その日。既に帝国は大敗北を喫していたのだった。


§イヴァリースの戦い ~帝国の英傑、英魔の大英雄~



 少しの影響が波紋のように広げ、帝国軍は散々に逃げ出す。その中で唯一……纏り時間を稼ごうとする部隊と魔国左翼の追撃部隊は睨み合っていた。

「……父上」

 そして……その睨み合いの中でアラクネから降りたランスロットが歩き出す。アラクネのリディアは不安そうに眺める。

「リディア。大丈夫……大丈夫さ」

「ランス……わかった見てます。後ろからずっと」

 ゆっくりと歩きながらランスロットは向こうも同じように歩いてくる姿を見続ける。

 大きな盾のような剣を背中に背負い堂々とした昔から見てきた姿にランスロットはフッと鼻で笑う。

 何処でも格好良く見せつける姿に「やはり父親だな」と思うのだ。

「ランスロット……攻めて来ないのか?」

「ん……父上。無闇の突撃は蛮勇と一緒です。それに……もう既に戦いは終わり。次に待っているのは追撃だけです。父上は殿……突破するのは大変そうだ」

「……あの亞人達ではどれだけ耐えられるか分からんがな」

 トラストの目はランスロットの後ろで二人の会談に息を飲んで見ている姿を見る。そして……ある女性の亞人と目が合う。不安そうに胸に手をやり震える手。その真摯な瞳にトラストは目を閉じる。

「追放された異国で……大変慕われてるそうだな」

「……皆、いい人達です。父上」

「そうか……では。そろそろいいか」

 トラストが剣を構える。大きい剣を軽々と片手で持つ。

「父上……」

「見逃してはくれないだろう……なら戦うまでだ。僕はね帝国騎士である。この背の彼らと同じで」

「………トキヤ!!」

 ヒュルヒュル!! ガッシャン!!

 ランスロットが叫び、空から両手剣ツヴァイハインダーが降り、草原の大地に突き刺さる。それをランスロットは引き抜き構えた。

「それは友人の剣か……その腰に差しているのは飾りか?」

「父上と同じか近い得物でなければ敵いませんから」

「……そうか。それでも敵わんだろう」

 両陣営が睨み合う中で……二人は走り出し。

 ガン!! ブワッ!!

 剣を同時に振りぶつける。大気を揺るがすほどの金属音に二人の周りの草原の草が切り刻まれていき、激しい剣圧が伺える。

 そして、両陣営は全く動かなかった。

「……父上。老いましたか?」

「……お前が強くなっただけだ」

「やはり老いましたね。誉め方が厳しくありません」


 二人の剣劇の音が草原の中を走る。

 激しい金属音に英魔族たちはそのいく末を見届ける。その行為のため……防御側の帝国騎士も動かず成り行きを見届けていく。


 何度か打ち合い。決定的に相手を倒せないことをランスロットとトラストは感じ取り距離を取る。剣圧で鎧の布の部分や鎧に傷がつき、ランスロットの頬には薄く切れて流れ出す血がポタポタと汗と共に地面に落ちていく。


 ランスロットは拭い息を整えた。そして……彼は両手剣を地面に差し腰の剣を抜く。


「聖剣を抜いたか」

「……本物というのを疑ってますけどね。まだ……抜ける人が多いので」


 トラストはその言葉に英魔族の強さの再確認とそれを抜き。どう攻めて来るかを悩ませ……剣を盾に出来るよう防御の姿勢を取る。


 ランスロットはその聖剣を両手に持ち。力を込める。オーラのような白いもやが現れる。

「……」

 トラストは息を飲む。ランスロットは瞬きせずに視線を寄せる。その殺意に……息子の成長を感じるのだった。


 トラストは……何故か過去の息子と一緒に剣を握る光景が少し過り首を振る。


「父上……いきます」

「……来い」


 短く、問いに答えた瞬間。ランスロットは聖剣を片手に持ち、少し助走をつけてオーバースローで投げつける。


「!?」


 その攻撃方法に驚いたトラストはディフェンダーを前に構えた。

 投げられた聖剣は白い軌跡を生み出しながら真っ直ぐ草原の大地の土を舞い上げ。ランスロットは両手剣を抜きそれを追う。


 ガキン!!


 トラストの武器に当たり。上空に弾かれて飛んでいく。

「んああああああ!!」

 ランスロットは両手剣をその防御する剣に叩き付けた。トラストは難なく耐えるが……


 ピキッ!!


「!?」


 不穏な音がトラストの手に伝わり……

 ガキン!!

 盾にしていた剣が砕け、その剣の破片がトラストの頬を切り、血を滴らせる。

「……」

 そしてランスロットは聖剣を呼び戻し。力強く横へ飛んでから切り払った。

 その剣はゆっくりと鎧を切り裂き。腹部を裂く。

「………そうか。その剣は手に戻るのか。いや……その戦い方。僕が教えたものじゃない」

「…………すぅ……」

 トラストは壊れた剣を地面に突き込み倒れないように己を支えた。腹部から血が流れ落ち、草原を地面を塗らす。

「はぁ……父上。そうです……ありがとうございました」

「そうか………多くの出会いがあったわけだ」

 トラストは痛みに顔を歪ませながらも顔を上げて息子の勇姿を目におさめた。ランスロットの背後に大きい蜘蛛の亞人。アラクネのリディアが立ち。ふっとトラストは笑顔になる。

「リディア……」

 ランスロットが振り返り。愛しくその名を呼ぶ。

「その子が……リディアさんだね」

 リディアが手を揃え、ゆっくりとお辞儀をした。震える手と震える声で名を名乗る。

「……リディア・アラクネ・アフトクラトルです。昆虫亞人族長をしております。お……お義父さま」

「そうか……君が息子の……ふぅ……ランスロット」

「はい……」

「すごく綺麗な方じゃないか。品もある………」

「ち、父上!?」

「お、義父さま!?」

 トラストは満面の笑みでニヤっとし息子の嫁を褒めた。ランスロットとリディアは亞人を褒める事に驚く。

「お前らの事は……アメリアさんから聞いているからな……ランスロット。お前はやっぱり俺の子だった……ぐっ……」

「リディア手当て!!」

 ランスロットがいたたまれずにリディアに手当てを依頼してしまう。

「ランスロット!! 情けは……ダメだ。そんな甘い所も似なくていい。ふぅ………」

 トラストは目を閉じる。そして、今までも人生を思い返していた。思い返すのは……成人してから若く無茶苦茶して結婚したことだった。

「はは……死の間際でも……アメリアさんを思い出してしまう。思い出し……不安になる」

「……………」

 ランスロットはその愛深い父親の気持ちを理解する。リディアは泣きそうになりながら耐えていた。

「……ランスロット、リディアさん……頼みを聞いてほしい」


 トラストは精一杯の力で声を振り絞る。

「アメリアさんに二人から……言って欲しい」

「父上……なんでしょうか?」

「愛ている。これからも……ずっとな…………孫も見せてあげてくれ……はぁ……寂しがりだからな………最後にリディアさん……」

「は、はい!!」

「息子を………頼のんだ……」

「お、義父さま!! はい!!」

 返事を聞き、安心し、意志が切れたのかトラストが剣を支えに立ちながら動かなくなる。リディアは涙を流して頷き。ランスロットは胸に手をやり敬礼した。

 穏やかな笑みを浮かべ。トラストは眠りについたのだった。







 右翼英魔軍は撤退する。ランスロットは父上の亡骸を背負い。それに皆が付き従う。右翼は追撃を諦めたのだ。

 そして戦場の熱は覚めたのか英魔が撤退するのを確認した帝国騎士たちは反転し逃亡を開始した。


 右翼の戦闘はこれにて終了し。多くの亞人が追撃しなかった罰を覚悟して都市に帰還する。


 しかし、ネフィアは罰する事はしなかった。兵士達に伝えられた言葉は以下である。


「私は義務を果たせと命じ各々の判断に任せた。褒めることはあれど罰する事はない……怒るならお門違いで罰せられると考えたことだ」


 英魔族兵士は……女王賛美を行ったと言われる。


§ネフィア声を失う


 私は義務を果たし、気絶したのは覚えがある。目を開けると木目の天井が目に入り、目覚めた事を知る。

「………」

 何度も何度もこうやって天井を見る機会は多いと思いつつ体を起こした。

 すると起きた瞬間にダークエルフの若い兵士と目が会い叫びだして部屋を出た。どうやら個室らしく。鎧は飾られており……薬品がテーブルに置かれている。

 そして、数分。ドタバタと荒々しい足音が聞こえ飛び込んで入ってくる二人を見た。

 エルフ族長にダークエルフ族長だ。

「姫様!?」

「女王陛下!! お目覚めですか‼」

「………」

 私は頷き声を出そうとした。

 出そうとした。

「……?」

 ゆっくりと手を喉にやる。

「ネフィア、起きたかぁ~ちょっと……左翼側でな……話がある」

 トキヤの優しい声が聞こえ、ゆっくりと信じてましたというように部屋に入ってくる。

「………」

 私はトキヤの名前を叫ぼうとした。しかし……声は出なかった。

「……ネフィア?」

「姫様?」

「女王陛下?」

 3人が不思議そうな顔を私に向ける。心配かけたくないと思いつつ……どうしようもないことを考え。喉に手をやり首を振った。

 エルフ族長は驚愕し、ダークエルフ族長は……悲しそうな顔をし。トキヤは。

 ギュッ

 ベットの私の隣に座り抱き締めて頭を撫でてくれる。甘えるようにトキヤの胸の中で目を閉じる。

「よく頑張った……ネフィア……」

「……」

 トキヤは優しく。私を包んでくれる。

「安心しろ。大丈夫……勝ったからな」

「………」

「いや……知ってますじゃないぞ」

「……」

「はぁ……まぁ皆、頑張ったよ。ネフィア、まだ仕事があるからな……」

「……」

「嫌がるな」

 私は嫌々と首を振ったが。悲しいことに……イベント盛り沢山らしい。

「……トキヤ殿。言葉がわかるんですか?」

「グレデンデ。何となくだがな」

「……」

「ネフィア。以心伝心で喜ぶな。一応声は失ったんだぞ……」

「………」

「……」

 トキヤが私の表情から目線を逸らす。

「トキヤ、何を女王陛下は?」

「バルバトス……すまんが言えない。のろけてやがる」

「わかりました。行こうバルバトス……姫様をここまで酷使させた我々がなんとかしないといけない」

「だな。アニキ……忙しいな」

 二人が私にお辞儀をし、部屋を出ていく。そして……私は。

「……」

「まだ寝たいか……わかった。起きるまでずっといよう」

 彼の胸の中で……もう一度眠りにつくのだった。







 決戦から翌日。城のお立ち台の上にネフィアは帝国旗を持って叫ぶ。

「我々は勝った!! しかし、まだ都市を奪還していない!!」

 ネフィアの声が城から発せられ。これからの事を国民に説明した。

 至るとこで女王賛美が叫ばれる中で……短く言葉を締める。

「勝利に喜ぶのはいい。だが異国での言葉を借りるなら。勝って兜の尾を絞めろと言う言葉がある。まだ始まったばかり……これからだぞ諸君……では……皆、期待……する……」

 都市が沸きだつような歓声の中で……ネフィアはお立ち台を降壇する。

「………」

「ぜぇ……ぜぇ……」

 俺は喉を押さえながら。息を荒げ、ネフィアに背中を擦って貰える。

「いやぁーいい演説でした。トキヤ」

「まったくな」

「ネフィアの声真似から、全域に響かせるのはしんどいな……やっぱ。お前の喉が潰れた理由わかったわ」

 ネフィアの頭をポンポンと撫でながら、労う。決戦前から戦闘中ずっと喉を酷使し、魔法を使い。禁止されている中での無理矢理の行使の対価として見るなら。納得できた。

「………」

「わかったよ」

 イチゴジャムが食べたいらしい。今日は大目に見ようと思う。

「……?」

「断られると思ったか? 充分働いたから見ないことに……あああ!? こら!! くっつくな」

 腰に手を回して抱きつき。擦り寄せる。甘えが激しくなった。

「ネフィア……人が見てる」

「トキヤ殿。いいではないですか……少しばかり」

「そうだぞトキヤ。そういうご褒美をあげるべきだ」

「グレデンデ、バルバトス。ネフィアの肩を持つのか?」

「……待つでしょう? 目を失明し……不完全状態で戦いを先導し勇気を示し。そして……声も失なったのです。こんな……素晴らしい人が幸せにならないと……いえ。トキヤ。幸せにしろ」

「同じく。殺すぞ絶対」

 俺は……そんな二人に「勿論だ」と答え。その瞬間、ネフィアに押し倒される。唐突にその場で唇を合わせられ。ネフィアは上を脱ぎ出し、行為を行おうと婬魔の力最大限で暴走する。バルバトスとグレデンデが慌てて引き剥がしにかかる結果となったのだった。

 流石にそれは……許されなかったらしい。







 ランスロットは父親の亡骸を棺桶におさめる。リディアとともにユグドラシル商会に依頼して。帝国に送る事にした。

 その……父親の亡骸が納められた棺桶の中は英魔首都の周りの花が詰められ。エルダードラゴン直伝の防腐の魔法を施して馬車に乗る。

 多くの亞人の傭兵が通路に並び敬礼を行う中での輸送となった。勿論、ランスロットたちも一緒に向かう。


 戦後処置、停戦や交渉の代表者の一人として。

 戦争はまだ続いているが。中央と右翼の亞人達が追撃し。数を減らしていると情報が上がってくる。

 大きい大きい馬車に揺られながらランスロットは砕けた剣の破片を見る。母には何て伝えようかと……考えながら。

「……リディア……母上に会いに行くけど……大丈夫かい?」

「はい……お義父上の約束ですから。カスガさんが代わりに何でもしてくれるので私はお飾りの族長です」

 ランスロットは暗い顔をする。どれだけ父と母が仲が良かったかを知っている故に……言い出すのが恐ろしいのだ。

「……ランスさん。暗い顔はしてはいけません」

「しかしな……父をこの手で……」

「なら……なおの事です」

 リディアは微笑みながら前足でランスロットの頭に触れる。

「義祖父がお義父さまに負けたとき大層嬉しく泣かれたそうです」

「………」

「お義父さまは……同じように笑顔でした……そして最後まで倒れず。息子の前で……ぐす……王子を演じてたと思います………本当にご立派でした……」

 リディアがポロポロ泣き出す。

「……もっと別の時にお話……もっとしたかったです」

「……リディア。ハンカチをどうぞ」

「ぐしゅん」

 ランスロットの手からハンカチを貰い涙を拭う。

「そうだね。そう……最後まで立派な父上でした。ああ……ああ……リディアさん」

「は、はい?」

「ハンカチを返してください」

 ランスロットはリディアからハンカチを返して貰う。涙で濡れたそれは酷く湿っていたのだった。



 















 




 








 
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