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学園登校日
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冬の間、トラストさんと私は何事もいつの通りの冬休み過ごした。時間があっという間に過ぎ去る。バラも咲く日が近日になり。冬の終わりが来たのだ。学園も冬が終わるのを待たずに開園し令嬢を呼び寄せる。
そして私は登校し色んな令嬢と挨拶を交わす。あと数ヵ月後のバラが楽しみですねっと言わされながら。
「お嬢様。バラは楽しみですよね?」
「私は楽しみですけど。そう思わない人も多いです。ですが………令嬢、綺麗なイメージは大事ですよ」
クラスでワルダと共に会話をしながら時間を潰す。始まったのは社交の場。初日には授業は無く令嬢たちの安否や仲のいい令嬢と再開を交わし。縁を維持するための時期。横の繋がりを再度構築するために令嬢は挨拶してまわる。朝から昼にかけて。
「お嬢様はよろしいのですか?」
「私はワルダしかいません。他の方と仲良くしているのは無くなりました」
リトス・リトラトスさんの傘下で友達がいただけで。今は誰もいないのである。だから………声をかける人なんて。
「アメリアお姉さま。こんにちは」
「こ、こんにちは。リリーさん」
「こんにちはリリーお嬢様」
驚いた。声をかける方がいたなんて。それに……私より年上なのにお姉さまなんて。
「アメリアお姉さま。あの、ご無礼をお許しください」
「?」
「覚えておりませんか? 罵倒した事を」
「えっと………はい。ですから許すも何もありませんよ? それにお姉さまなんて………言われるような事はないですよね?」
「………ありがとうございます。我が家をお救いくださり」
何の事だろうか?
「お嬢様がお救い?」
「はい。使用人のあなたは知らないでしょうが………冬休みの間に大きな事件がありました」
もしかしてトラストさん関係かな?
「なんですか? 大きな事件とは」
「お、お姉さま!? どうしてご存知ないのですか!! 当事者でしょう!!」
「リリーお嬢様落ち着いてください。ゆっくりお話をお願いします」
「………は、はい。冬休みの間にアメリアお姉さまの周りで何がありましたか?」
「ええっとですね。美味しいイチゴが食べられました。ヌチェル家の当主さんからお裾分けですね」
「…………お姉さまが指示した訳じゃないのですね?」
なんでしょうか? 呆れられた空気です。
「午後、一緒にお茶でもいかがですか?」
「はい」
「わかりました」
「私もよろしいですかお姉さま?」
「私も?」
「えっと!?」
近くで伺っていたのだろう令嬢も私に話しかける。この流れに危機感を持ち私は言葉を濁した。
「最初の2人にリリーさんでお願いします」
「ありがとうございますお姉さま!!」
「ありがとうございます!!」
「アメリアお姉さま。ありがとう」
「お嬢様………これは………もしかして」
「………」
私は手のひらを返すと言う言葉を目の当たりにしなんとも微妙な顔をするのだった。
§
昼から私はクラスメイトとお茶会を行う。リリーとスナイ、ナメルっと言う令嬢とだ。他にも参加したいっと言い出す令嬢がいたが私が拒否をする。そんなにいっぱいいても話なんて出来ないでしょっと。
久しぶりのカフェテリア。私は携帯用ストーブを用意してそれを囲むように椅子に座る。スナイは短髪の令嬢でナメルはフワッとした癖毛の女の子だ。
「参加させていただきありがとうございます。お姉さま」
「私もお誘いいただきありがとうございます」
「アメリアお姉さま。どうぞ」
「あ、ありがとう」
皆年上である。その年上の彼女が私にもてなす。
「お嬢様顔が堅いですね」
「う、うん。緊張します」
あまり前に出て人と話すような性格では無かったですから。
「それよりも………リリーさん。教えてください」
「はい。わかりました」
リリーさんが喋り出し。私と二人で話を始める。
「お姉さまは何処までご存知か知りませんがヌチェル家の長男が当主の道を外されました。理由は明確にアメリアお姉さまのお力だと聞いております」
「えっ………私は何もしておりませんよ?」
「当主に直接お会いになり。話をしたと目撃があります」
「ええ。お話ししました。しかし、全く外すような事は進言しておりません」
「では次に母上を処罰したと………」
「それは………私の………」
トラストさんを悪く言うのはいけないと思った。
「指示です」
「お嬢様!?」
「最後にリトラトス家の悪評を広めたのはお姉さまが?」
「知りません」
キッパリわからないことはわからないっと言う。
「そうですか。私はお姉さまがアフトクラトル家を従えて復讐をしているっと聞いておりましたので………怖かったです。次は私たちで………不安でした」
「根も葉もない噂です」
「お嬢様、トラスト様がそれを行っているのでは?」
「夫を悪く言うつもりはないです。言葉を慎みなさいワルダ」
「しかし、それではお嬢様が悪者にされてしまいます」
「トラストさんはいい人です。少しお茶目なんです」
「お嬢様。お茶目で済まされる事ではないですよね?」
「アメリアお姉さま。アフトクラトル家とヌチェル家の決闘についてはご存知ですか?」
「ええ、非常に素晴らしい決闘でした」
「………決闘は行われず。示談で終わったと聞いてましたが。噂ではアフトクラトル家が勝ったと聞いてます。それにお姉さまは……今、素晴らしい決闘っと仰った」
私は冷や汗が出る。そんなことになっていたのを知らず。軽率な言葉を悔いる。トラストさんが決めた事なのだろう。
「………さぁ私は知りません」
「決闘相手はドラゴンだったと。そして………トラスト・アフトクラトル様はそれに打ち勝ったと」
「………噂は何処で?」
「市場の流通にドラゴンの新鮮なお肉が大量に。ドラゴンの咆哮が都市に響いた事。断末魔も。決闘が執り行われる日の出来事です」
色んな所で話題を探す人がいる。楽しい楽しい会話をするために。
「わかりました。真実がどうかは伏せます。助言を………騎士はドラゴンを倒してこそ誉れなり。興味の探査は消されるわよ」
「申し訳ございません!! お許しを………」
「ええ。許します」
威を借る狐とはこの事だ。
「二人もそんな噂を信じて?」
「は、はい………それと。アフトクラトル家のご令嬢と仲よくできればと思いました」
「私もです。アメリアお姉さまはもう………有名なご令嬢ですから」
「お嬢様が有名なご令嬢………」
そうかも知れない。アフトクラトル家の令嬢となったのだ。気付けば名門令嬢。集まってくるのは社交の基本。
「……遠くに来た気がしますね」
「お嬢様?」
「何でもないです」
全てトラストさんの力なのに。だからこそ、この3人は私を見ずアフトクラトル家を見る。
「お友達なら。よろしいですよ」
「アメリアお姉さま!? 本当ですか‼」
「ただし、お姉さまはやめてほしいの。アメリアさんっとお呼びください」
「よろしいです?」
「目上にはお姉さまっと言うのが通例です」
「でしたら。従うのもいいのではないですか? ワルダ!!」
「はい、お嬢様!!」
「うん。決まりました。今日から私たちはお友だちです」
友達という響きに彼女たちは喜んだ。しかし、私は少し距離を取ることにしている。
何故なら彼女らは私を陰口で攻撃していたのに忘れたかのように手のひらを返した人だからだ。ヌチェル家当主の言葉を思い出す。信用とは本当に大事なんだとこのときになってわかったのだ。
「そういえば。リトスお姉さま居ませんね?」
「アメリアさん。知らないんですか? リトスの家は今、ヌチェル家とアフトクラトル家に睨まれていると言われてるんです。学園に来る暇はないですよ?」
「本当に怖いです。アメリアさんの力」
「でも、私たちもリトスの傘下から解放されて自由なので。良いことではありますね」
私は背筋が冷える。辛かった時の仕打ちの何倍もの事が行われている事に。
帰ったら聞いてみよう。トラストさんに……何処までやるつもりなのかを。
§
夜、寝室で私はトラストさんとテーブルを挟んで向き合った。
「トラストさん。お聞きしたいことがあります」
「学園の参観日かい?」
「いいえ。リトス・リトラトス家の事です」
「………どうしたんだい?」
「ヌチェル家、アフトクラトル家がリトラトス家を潰そうとしているっと聞きました」
「そんなことはしない。噂を流しただけだ。学園で悪さを働いたってね。調べたら……本当にしてたんだが」
「何を?」
「自分の敵となる家を潰そうとしてたんだ。嫌われてたからここで一気の鬱憤が爆発したのさ。知らなかったのかい?」
「一応知ってました。だけど皆やっております‼」
「そう………皆やっているがそれは悪いことだ。リトラトス家は火消しを頑張っている。いいザマだ。君を陰口叩き。落とそうとして自分が落ちるんだから」
「………そうですね」
「君は優しい。リトラトス家のことはリトラトス家が解決する。ちょっとつついたらこれだ。遅かれ早かれ爆発しただろう。リトスさんは婚約破棄されたらしいし」
「わかりました。リトスさんに会ったら優しくしときます。きっと辛いでしょうから」
「アメリア。何故君は優しい?」
「トラスト。何故あなたは私に優しい?」
「それは愛しているから」
「私はその愛で余裕が生まれているんです。だからこそ優しくなれると思います」
「そっか………俺のお陰か」
「はい………誇ってくださいトラストさん」
「うん。誇ろう」
私はリトスさんに明日、声をかけようと思ったのだった。
§
次の日、リトス・リトラトスさんは登校していた。目に隈があり、生気がなく。彼女のことをコソコソ噂する。
私もされたことを今。リトスさんがさせられている。あんなに慕っていた取り巻きは誰もいないのである。
「お嬢様………本当に声をかけるのですか?」
「ちょっと勇気が入りますし………待ってください覚悟を持ちます」
うーうーっと唸りながらどうやって声をかけようかと悩む。その悩む時間で途端のクラスが騒がしくなる。
「リトス………今までよくもこき使ってくれたわね?」
「………リリー」
「呼び捨てしないで。リリーさまでしょ? 没落令嬢様」
クスクスっとリトスの周りの令嬢が笑いだす。私は胸が苦しくなる。全く一緒だ。リリーの立場がリトスでリトスの立場が私だった時と全く。
「リリー………よくも、裏切ったわね」
「だって………あなたに魅力なんてないでしょ? でも、いっぱい令嬢を叩き落としてきたのに幸せになるなんて虫がいいわ。アメリアさんがシンデレラになったのは………アメリアさんが素晴らしい方だったからですよ?」
「アメリアさん? ですって? 何故さん付けに!?」
「お友だちですから……ねっ!! スナイさん、ナメルさん」
「ええ、非常に素晴らしい人です」
「お姉さまっと言うのを謙遜された上品な方です」
「だから………裏切って良かった」
「お前らぁ……お前らあああああああ!!!」
ガバッ!!
「何で私がお前らみたいな下級令嬢にバカにされないといけないの!! 殺す!! 殺す!!」
眺めていたらリリーを床に押して倒し。何かを抜くのが見えた。キラリと輝く果物ナイフ。それをリリーに向ける。
「ひぃ!?」
「リリー………あなたはいっつもいっつもいっつも私の指示を無視してたじゃない。言う権利はないわ!! その顔!! 切り刻んでやる!!」
クラスが騒ぎだし。混乱し、泣き出し、悲鳴をあげる令嬢たち。私は立ち上がる。
「お嬢様!?」
「や、やめて!!! いやああああああ!!」
リリーが恐怖で体を丸める。それに向けてナイフを切り払う。
びゅっ!!ザシュ!!
「アメリアお嬢様!?」
「あ、あなたは!? アメリア!!」
「うぅ………つぅ」
リリーの前に私は庇うように背中を差し出していた。背中の理由はお腹を怪我させてはいけないっと本能で感じとり背中でナイフを受け止めた。
「リリーさん………大丈夫ですか? はぁ……はぁ……」
「あ、アメリアさん」
背中が痛い。じんわりと濡れる生暖かい感触がする。周りで悲鳴が巻き起こる。
「わ、わたし……な、何をして………ひぃひぃ」
「お嬢様!?」
「つぅう………ワルダ。先生を呼んで」
「は、はい!! 今すぐに!!」
私は泣きながら痛みを噛み締め、跪く。痛い………すごく痛い。
「どうして…………あなたが………庇って………私は………」
ドサッ!!
リトスがナイフを落として、過呼吸で倒れる。体を抱いて震えていた。
「アメリアさん………どうして庇ってくれたんですか!? どうして!!」
「ううぅ……痛いです」
「アメリアさん!?」
「初めて友達のなんです。だから、護らなくちゃって………」
リリーが泣きながら私を抱いてくれる。大泣きしながら。
「痛い…………うぅう………」
「アメリアさん!! 大丈夫です!! 私がついてます!!」
私は痛みに耐えながら先生が来るまで、ずっと励まされ続けたのだった。
§
俺は騎士団の仕事中。伝令によって学園で嫁が斬りつけられた事を知った。相手はあの家と聞き憎悪で潰してやろうと決意を固めて学園へ向かい。生徒に保険室に彼女はいるらしいと聞き速足で彼女に会いに来た。
「アメリア!!」
「トラストさん!!」
保険室のベットで彼女は体を起こしていた。笑顔で自分を見てくる彼女は不思議に感じた。
「切られたと聴いた!! 大丈夫だったか?」
「大丈夫だったよ。治療師がいるから背中の傷は塞がったし、痛みも塗り薬で少し和らいたの」
「ああ、よかった。それよりも何故………そんなことに。顔も笑顔だ」
「えっと。笑顔は違う理由です。何があったかと言えばリトスがリリーという子が斬ろうとしたときに庇ってしまい斬られてしまいました」
「………だから何故、庇ったんだい?」
「友達です。それに泣いて怖がる彼女を見てるとアフトクラトル家のトラストさんを思い出したんです」
「思い出した?」
「はい。トラストさんなら庇うと思い。私は勇気が一瞬で生まれました。気がついたら背中をずばっと斬られてしまいました。背中………傷が残るかもっと言われましたが後悔はしてないです。アフトクラトル家の令嬢ですもん。騎士の家らしく誰かが庇わないといけないと思いました」
「……そうか。その傷跡は勲章だな」
「はい。それよりも………リトラトス家に処罰はやめてあげてください」
「どうして!?」
俺は潰す気でいた。今日の事で。
「リトスさんが辛いのは私も経験で知っております。だから………これは不問としたいのです。皆に陰口叩かれての行為です」
「そ、そうか」
「そんなことよりも………私ですね。庇う時に背中を向けたんです」
「んっ?」
そんなことよりも? 背中を? わからない。
「どうしたんだ?」
「背中を向けたんです。お腹は護らなければと思いました」
「………お腹?」
「治療師さんにお願いしました。わかるかなって。そしたら………もう一人感じれると言ってくださいました」
「それって……つまり………」
焦って学園に来た。不安と共に。だけど今は違う意味で焦りだす。
「い、いるのかい!?」
「いるのです。ここに……」
アメリアがお腹を擦りながら笑顔になる。最初っから笑顔だった理由が理解出来た。斬られた事で知れた事なのが複雑だが。俺はリトラトス家の殺意は霧散しアメリアを抱き締める。
「痛いですよ。トラストさん」
「すまない………ついね」
「いいですよ。私も今………泣くの我慢してるんです」
「そっか……ああ。そっか」
「つねりましょうか?」
「夢じゃないね」
「夢じゃないです」
俺はニヤけるのが収まらない。
「リトラトス家は不問でいいですね?」
「ああ!! それよりも!! アメリア!! 体調は!? つわりは!?」
「トラストさん……まーだですよ」
小さな少女だったアメリアが女になり今度は母になる。落ち着こうとして何も言葉が見つからなくなっていき。とうとう抱き締めるだけになってしまう。痛がる彼女を強く強く。抱き締めるのだった。治療師に怒られるまで。
そして私は登校し色んな令嬢と挨拶を交わす。あと数ヵ月後のバラが楽しみですねっと言わされながら。
「お嬢様。バラは楽しみですよね?」
「私は楽しみですけど。そう思わない人も多いです。ですが………令嬢、綺麗なイメージは大事ですよ」
クラスでワルダと共に会話をしながら時間を潰す。始まったのは社交の場。初日には授業は無く令嬢たちの安否や仲のいい令嬢と再開を交わし。縁を維持するための時期。横の繋がりを再度構築するために令嬢は挨拶してまわる。朝から昼にかけて。
「お嬢様はよろしいのですか?」
「私はワルダしかいません。他の方と仲良くしているのは無くなりました」
リトス・リトラトスさんの傘下で友達がいただけで。今は誰もいないのである。だから………声をかける人なんて。
「アメリアお姉さま。こんにちは」
「こ、こんにちは。リリーさん」
「こんにちはリリーお嬢様」
驚いた。声をかける方がいたなんて。それに……私より年上なのにお姉さまなんて。
「アメリアお姉さま。あの、ご無礼をお許しください」
「?」
「覚えておりませんか? 罵倒した事を」
「えっと………はい。ですから許すも何もありませんよ? それにお姉さまなんて………言われるような事はないですよね?」
「………ありがとうございます。我が家をお救いくださり」
何の事だろうか?
「お嬢様がお救い?」
「はい。使用人のあなたは知らないでしょうが………冬休みの間に大きな事件がありました」
もしかしてトラストさん関係かな?
「なんですか? 大きな事件とは」
「お、お姉さま!? どうしてご存知ないのですか!! 当事者でしょう!!」
「リリーお嬢様落ち着いてください。ゆっくりお話をお願いします」
「………は、はい。冬休みの間にアメリアお姉さまの周りで何がありましたか?」
「ええっとですね。美味しいイチゴが食べられました。ヌチェル家の当主さんからお裾分けですね」
「…………お姉さまが指示した訳じゃないのですね?」
なんでしょうか? 呆れられた空気です。
「午後、一緒にお茶でもいかがですか?」
「はい」
「わかりました」
「私もよろしいですかお姉さま?」
「私も?」
「えっと!?」
近くで伺っていたのだろう令嬢も私に話しかける。この流れに危機感を持ち私は言葉を濁した。
「最初の2人にリリーさんでお願いします」
「ありがとうございますお姉さま!!」
「ありがとうございます!!」
「アメリアお姉さま。ありがとう」
「お嬢様………これは………もしかして」
「………」
私は手のひらを返すと言う言葉を目の当たりにしなんとも微妙な顔をするのだった。
§
昼から私はクラスメイトとお茶会を行う。リリーとスナイ、ナメルっと言う令嬢とだ。他にも参加したいっと言い出す令嬢がいたが私が拒否をする。そんなにいっぱいいても話なんて出来ないでしょっと。
久しぶりのカフェテリア。私は携帯用ストーブを用意してそれを囲むように椅子に座る。スナイは短髪の令嬢でナメルはフワッとした癖毛の女の子だ。
「参加させていただきありがとうございます。お姉さま」
「私もお誘いいただきありがとうございます」
「アメリアお姉さま。どうぞ」
「あ、ありがとう」
皆年上である。その年上の彼女が私にもてなす。
「お嬢様顔が堅いですね」
「う、うん。緊張します」
あまり前に出て人と話すような性格では無かったですから。
「それよりも………リリーさん。教えてください」
「はい。わかりました」
リリーさんが喋り出し。私と二人で話を始める。
「お姉さまは何処までご存知か知りませんがヌチェル家の長男が当主の道を外されました。理由は明確にアメリアお姉さまのお力だと聞いております」
「えっ………私は何もしておりませんよ?」
「当主に直接お会いになり。話をしたと目撃があります」
「ええ。お話ししました。しかし、全く外すような事は進言しておりません」
「では次に母上を処罰したと………」
「それは………私の………」
トラストさんを悪く言うのはいけないと思った。
「指示です」
「お嬢様!?」
「最後にリトラトス家の悪評を広めたのはお姉さまが?」
「知りません」
キッパリわからないことはわからないっと言う。
「そうですか。私はお姉さまがアフトクラトル家を従えて復讐をしているっと聞いておりましたので………怖かったです。次は私たちで………不安でした」
「根も葉もない噂です」
「お嬢様、トラスト様がそれを行っているのでは?」
「夫を悪く言うつもりはないです。言葉を慎みなさいワルダ」
「しかし、それではお嬢様が悪者にされてしまいます」
「トラストさんはいい人です。少しお茶目なんです」
「お嬢様。お茶目で済まされる事ではないですよね?」
「アメリアお姉さま。アフトクラトル家とヌチェル家の決闘についてはご存知ですか?」
「ええ、非常に素晴らしい決闘でした」
「………決闘は行われず。示談で終わったと聞いてましたが。噂ではアフトクラトル家が勝ったと聞いてます。それにお姉さまは……今、素晴らしい決闘っと仰った」
私は冷や汗が出る。そんなことになっていたのを知らず。軽率な言葉を悔いる。トラストさんが決めた事なのだろう。
「………さぁ私は知りません」
「決闘相手はドラゴンだったと。そして………トラスト・アフトクラトル様はそれに打ち勝ったと」
「………噂は何処で?」
「市場の流通にドラゴンの新鮮なお肉が大量に。ドラゴンの咆哮が都市に響いた事。断末魔も。決闘が執り行われる日の出来事です」
色んな所で話題を探す人がいる。楽しい楽しい会話をするために。
「わかりました。真実がどうかは伏せます。助言を………騎士はドラゴンを倒してこそ誉れなり。興味の探査は消されるわよ」
「申し訳ございません!! お許しを………」
「ええ。許します」
威を借る狐とはこの事だ。
「二人もそんな噂を信じて?」
「は、はい………それと。アフトクラトル家のご令嬢と仲よくできればと思いました」
「私もです。アメリアお姉さまはもう………有名なご令嬢ですから」
「お嬢様が有名なご令嬢………」
そうかも知れない。アフトクラトル家の令嬢となったのだ。気付けば名門令嬢。集まってくるのは社交の基本。
「……遠くに来た気がしますね」
「お嬢様?」
「何でもないです」
全てトラストさんの力なのに。だからこそ、この3人は私を見ずアフトクラトル家を見る。
「お友達なら。よろしいですよ」
「アメリアお姉さま!? 本当ですか‼」
「ただし、お姉さまはやめてほしいの。アメリアさんっとお呼びください」
「よろしいです?」
「目上にはお姉さまっと言うのが通例です」
「でしたら。従うのもいいのではないですか? ワルダ!!」
「はい、お嬢様!!」
「うん。決まりました。今日から私たちはお友だちです」
友達という響きに彼女たちは喜んだ。しかし、私は少し距離を取ることにしている。
何故なら彼女らは私を陰口で攻撃していたのに忘れたかのように手のひらを返した人だからだ。ヌチェル家当主の言葉を思い出す。信用とは本当に大事なんだとこのときになってわかったのだ。
「そういえば。リトスお姉さま居ませんね?」
「アメリアさん。知らないんですか? リトスの家は今、ヌチェル家とアフトクラトル家に睨まれていると言われてるんです。学園に来る暇はないですよ?」
「本当に怖いです。アメリアさんの力」
「でも、私たちもリトスの傘下から解放されて自由なので。良いことではありますね」
私は背筋が冷える。辛かった時の仕打ちの何倍もの事が行われている事に。
帰ったら聞いてみよう。トラストさんに……何処までやるつもりなのかを。
§
夜、寝室で私はトラストさんとテーブルを挟んで向き合った。
「トラストさん。お聞きしたいことがあります」
「学園の参観日かい?」
「いいえ。リトス・リトラトス家の事です」
「………どうしたんだい?」
「ヌチェル家、アフトクラトル家がリトラトス家を潰そうとしているっと聞きました」
「そんなことはしない。噂を流しただけだ。学園で悪さを働いたってね。調べたら……本当にしてたんだが」
「何を?」
「自分の敵となる家を潰そうとしてたんだ。嫌われてたからここで一気の鬱憤が爆発したのさ。知らなかったのかい?」
「一応知ってました。だけど皆やっております‼」
「そう………皆やっているがそれは悪いことだ。リトラトス家は火消しを頑張っている。いいザマだ。君を陰口叩き。落とそうとして自分が落ちるんだから」
「………そうですね」
「君は優しい。リトラトス家のことはリトラトス家が解決する。ちょっとつついたらこれだ。遅かれ早かれ爆発しただろう。リトスさんは婚約破棄されたらしいし」
「わかりました。リトスさんに会ったら優しくしときます。きっと辛いでしょうから」
「アメリア。何故君は優しい?」
「トラスト。何故あなたは私に優しい?」
「それは愛しているから」
「私はその愛で余裕が生まれているんです。だからこそ優しくなれると思います」
「そっか………俺のお陰か」
「はい………誇ってくださいトラストさん」
「うん。誇ろう」
私はリトスさんに明日、声をかけようと思ったのだった。
§
次の日、リトス・リトラトスさんは登校していた。目に隈があり、生気がなく。彼女のことをコソコソ噂する。
私もされたことを今。リトスさんがさせられている。あんなに慕っていた取り巻きは誰もいないのである。
「お嬢様………本当に声をかけるのですか?」
「ちょっと勇気が入りますし………待ってください覚悟を持ちます」
うーうーっと唸りながらどうやって声をかけようかと悩む。その悩む時間で途端のクラスが騒がしくなる。
「リトス………今までよくもこき使ってくれたわね?」
「………リリー」
「呼び捨てしないで。リリーさまでしょ? 没落令嬢様」
クスクスっとリトスの周りの令嬢が笑いだす。私は胸が苦しくなる。全く一緒だ。リリーの立場がリトスでリトスの立場が私だった時と全く。
「リリー………よくも、裏切ったわね」
「だって………あなたに魅力なんてないでしょ? でも、いっぱい令嬢を叩き落としてきたのに幸せになるなんて虫がいいわ。アメリアさんがシンデレラになったのは………アメリアさんが素晴らしい方だったからですよ?」
「アメリアさん? ですって? 何故さん付けに!?」
「お友だちですから……ねっ!! スナイさん、ナメルさん」
「ええ、非常に素晴らしい人です」
「お姉さまっと言うのを謙遜された上品な方です」
「だから………裏切って良かった」
「お前らぁ……お前らあああああああ!!!」
ガバッ!!
「何で私がお前らみたいな下級令嬢にバカにされないといけないの!! 殺す!! 殺す!!」
眺めていたらリリーを床に押して倒し。何かを抜くのが見えた。キラリと輝く果物ナイフ。それをリリーに向ける。
「ひぃ!?」
「リリー………あなたはいっつもいっつもいっつも私の指示を無視してたじゃない。言う権利はないわ!! その顔!! 切り刻んでやる!!」
クラスが騒ぎだし。混乱し、泣き出し、悲鳴をあげる令嬢たち。私は立ち上がる。
「お嬢様!?」
「や、やめて!!! いやああああああ!!」
リリーが恐怖で体を丸める。それに向けてナイフを切り払う。
びゅっ!!ザシュ!!
「アメリアお嬢様!?」
「あ、あなたは!? アメリア!!」
「うぅ………つぅ」
リリーの前に私は庇うように背中を差し出していた。背中の理由はお腹を怪我させてはいけないっと本能で感じとり背中でナイフを受け止めた。
「リリーさん………大丈夫ですか? はぁ……はぁ……」
「あ、アメリアさん」
背中が痛い。じんわりと濡れる生暖かい感触がする。周りで悲鳴が巻き起こる。
「わ、わたし……な、何をして………ひぃひぃ」
「お嬢様!?」
「つぅう………ワルダ。先生を呼んで」
「は、はい!! 今すぐに!!」
私は泣きながら痛みを噛み締め、跪く。痛い………すごく痛い。
「どうして…………あなたが………庇って………私は………」
ドサッ!!
リトスがナイフを落として、過呼吸で倒れる。体を抱いて震えていた。
「アメリアさん………どうして庇ってくれたんですか!? どうして!!」
「ううぅ……痛いです」
「アメリアさん!?」
「初めて友達のなんです。だから、護らなくちゃって………」
リリーが泣きながら私を抱いてくれる。大泣きしながら。
「痛い…………うぅう………」
「アメリアさん!! 大丈夫です!! 私がついてます!!」
私は痛みに耐えながら先生が来るまで、ずっと励まされ続けたのだった。
§
俺は騎士団の仕事中。伝令によって学園で嫁が斬りつけられた事を知った。相手はあの家と聞き憎悪で潰してやろうと決意を固めて学園へ向かい。生徒に保険室に彼女はいるらしいと聞き速足で彼女に会いに来た。
「アメリア!!」
「トラストさん!!」
保険室のベットで彼女は体を起こしていた。笑顔で自分を見てくる彼女は不思議に感じた。
「切られたと聴いた!! 大丈夫だったか?」
「大丈夫だったよ。治療師がいるから背中の傷は塞がったし、痛みも塗り薬で少し和らいたの」
「ああ、よかった。それよりも何故………そんなことに。顔も笑顔だ」
「えっと。笑顔は違う理由です。何があったかと言えばリトスがリリーという子が斬ろうとしたときに庇ってしまい斬られてしまいました」
「………だから何故、庇ったんだい?」
「友達です。それに泣いて怖がる彼女を見てるとアフトクラトル家のトラストさんを思い出したんです」
「思い出した?」
「はい。トラストさんなら庇うと思い。私は勇気が一瞬で生まれました。気がついたら背中をずばっと斬られてしまいました。背中………傷が残るかもっと言われましたが後悔はしてないです。アフトクラトル家の令嬢ですもん。騎士の家らしく誰かが庇わないといけないと思いました」
「……そうか。その傷跡は勲章だな」
「はい。それよりも………リトラトス家に処罰はやめてあげてください」
「どうして!?」
俺は潰す気でいた。今日の事で。
「リトスさんが辛いのは私も経験で知っております。だから………これは不問としたいのです。皆に陰口叩かれての行為です」
「そ、そうか」
「そんなことよりも………私ですね。庇う時に背中を向けたんです」
「んっ?」
そんなことよりも? 背中を? わからない。
「どうしたんだ?」
「背中を向けたんです。お腹は護らなければと思いました」
「………お腹?」
「治療師さんにお願いしました。わかるかなって。そしたら………もう一人感じれると言ってくださいました」
「それって……つまり………」
焦って学園に来た。不安と共に。だけど今は違う意味で焦りだす。
「い、いるのかい!?」
「いるのです。ここに……」
アメリアがお腹を擦りながら笑顔になる。最初っから笑顔だった理由が理解出来た。斬られた事で知れた事なのが複雑だが。俺はリトラトス家の殺意は霧散しアメリアを抱き締める。
「痛いですよ。トラストさん」
「すまない………ついね」
「いいですよ。私も今………泣くの我慢してるんです」
「そっか……ああ。そっか」
「つねりましょうか?」
「夢じゃないね」
「夢じゃないです」
俺はニヤけるのが収まらない。
「リトラトス家は不問でいいですね?」
「ああ!! それよりも!! アメリア!! 体調は!? つわりは!?」
「トラストさん……まーだですよ」
小さな少女だったアメリアが女になり今度は母になる。落ち着こうとして何も言葉が見つからなくなっていき。とうとう抱き締めるだけになってしまう。痛がる彼女を強く強く。抱き締めるのだった。治療師に怒られるまで。
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