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不誠実な男たち 2
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翌週の日曜日。
カフェのいつものテーブルに座った葵は、新作メニューが運ばれてくるのを心待ちにしていた。
本当は今日、ここに来るのもちょっと悩んだ。
受信した案内メールを眺めていると、先日の失態が頭に浮かび決まりがわるくって……
けど、カップルの顔ーーピアノを弾いていた男性と、彼に会いに来たらしい女性の顔さえ覚えていないのだし。結局は楽しみにしていた試食をキャンセルするほどではと予約はそのままにした。
それにここ一週間で、たまりに溜まった会社でのストレスをピアノを見て癒されたかったのもある。
ーー半年前に、葵は営業アシスタントから顧客を担当する営業へと昇格した。その後さらに、事業の再構築という名目で葵の属する営業二課もバリバリ働く者や勤務態度が真面目な者以外は、配属変えとなった。
さいわい課で生き残った葵はベテランと肩を並べ仕事をしているけれど……そんな中、元カレの石田が戻ってきた。デスクは離れているが直接関わる事を避けまくる毎日で、ここ最近は結構なストレスを抱えている。
(はあ~。やっぱりここはーー、落ち着くな)
客で賑わう上階を避け、小さなテーブルに陣取った葵はピアノを眺めニコニコと上機嫌だ。
「お待たせしました。新作の海鮮パエリアです」
美味しそうな匂いを漂わせる皿がテーブルに並べられると、お礼を述べ、早速「いただきます」と手を合わせた。ーーが、なぜだか料理を運んできたウェイターがそのまま向かい席にスッと座る。
「ーーウチのカフェは、いかがですか?」
「あの……?」
ピアノをぽうと眺めていた葵は、ウェイターに意識を向けていなかったため、その声でようやく目前の男性に気づいた。
……センスの良い藍染めのドレスシャツと、スマートなベージュのチノパン。組まれた手の綺麗な指を認めた葵の胸が、小さくドキッと鳴る。
(っていうより、こんなイケメンのウェイターいたんだ……)
男性は葵より年上だろう。
スッと優雅な眉、整った鼻筋に魅力的な口元。ドレスシャツのシルエットが見せる肩の線や引き締まった腕からは、男らしさが漂ってくる。くっきりした二重の瞳は切れ長で、黒い艶のある睫毛が縁取っている。
サラッとした漆黒の髪と涼しげな瞳を持つ、麗しいイケメンーーそんな艶やかな容貌の持ち主がこちらをじっと見ている。 唇をひき結んだ顔は端正で落ち着いたものだが、目が合うと微笑みかけてきた。笑うと目元が柔らかくなり醸しだす雰囲気が甘くなる。
すごい。
今まで出会ったどんな顔立ちが整った人より、この人の容姿は飛び抜けている。
心の中で葵は唸った。こんな艶やかなイケメンにはお目にかかったことがない。
「カフェ……そうですね。コーヒーも紅茶も種類が豊富で、出される料理もとても美味しいです。それに店の雰囲気も心安らぐものがあって、私は好きです」
彼が何者なのかは分からなかったが、新作料理を前に感想を聞かれたのできっとカフェの関係者だろう、そう思って日頃抱いていた店の印象を口にした。
「ありがとうございます。さあどうぞ、パエリアも試食してみて下さい」
素直な意見を述べた葵を、ふむと言った感じで男性は目を細めて見る。
ーー今日は店の人がわざわざ新作メニューのご感想、ご意見を直接聞き取るのだろうか? いつもなら簡単なアンケートと一緒に渡されるおまけデザートを、楽しみにしていたのだけど。
「あ、はい。そうですね……いただきます」
艶のある容貌にぴったりな低めの声に勧められ、フォークを手に持ったが、一人だけ黙々と食べるのも気が引けて相手の正体を見極めようと葵はさり気なく会話の糸口を探った。
「あの、お店の方ですか?」
頷いた男性は鳳条、と名乗った。
ほうじょう……という名前は、最近耳にした覚えがーー?
(あぁっ、もしかしてあの時のーーっ!)
一口食べて、あ、美味しいと思ったパエリアをごくんと喉に流し込む。どこかで聞いた声だと思ったが。
「す、すみません、先日はとても失礼な真似をーー」
大慌てで頭を下げた。
「……すごいですね。名前を覚えられているとは思いもしませんでした。失礼ですが、営業関係のお仕事でもされているのですか?」
頭の上で感心する声が聞こえた。恐る恐る顔を上げると、彼がおかしそうに口元をゆるめている。
失礼な事をしたと自覚があっただけに、葵はホッと胸を撫で下ろした。
「はい、えっと……植松と申します」
勢いよく名刺を差し出してからハッと気づいた。
(……何をやってるの、私……?)
今日は日曜日。このカフェにはプライベートで訪れている。何もこんなところで営業しなくてもーー。
「ああ、絹路スパイスに勤めていらっしゃるのですね。植松葵さん?」
「は、はい……」
だが、葵の名刺はすでに鳳条の手に渡っていた。……なんだか、恥の上塗りをしてしまったような気がする。
仕立てのいいシャツの襟元から覗く、その男らしい喉元にうっかり目をやってしまった葵は慌てて目線を上げた。鳳条は、外見も身のこなしも艶めいた男性美を感じさせる人だ。初対面なのに、黒い瞳に引き込まれそうになる。
そして名刺を渡したもののどうしようといった風情の葵を見て、鳳条は軽く笑った。
「そんなに硬くならなくていいですよ。この間のことなら、全然気にしていません」
いやいや、普通は気にするでしょと思ったが、むしろ助かったとおかしそうに笑う笑顔につられた。
するとそれまでスクリーン越しの映画俳優を鑑賞するといった感じで、どことなく現実離れしていた目前の鳳条への親近感が急にわいてきた。
「よかった。あの女性とは仲直りされたんですね」
「いや、彼女とはあの後すぐに別れましたよ。ちょうど良い機会だったのでね」
……突っ込んで良いのものなのか? 微妙な流れだったので、葵は黙って水を飲んだ。
「それよりも。せっかくだから、もっと植松さんの意見を伺いたいな」
「ーーそれは……このカフェのことですよね?」
「もちろん。あ、もしかして、あの夜のことを詳しく聞きたいですか?」
からかいまじりの鳳条の言葉に、葵は勘弁してと話を急いで元に戻した。
「いえっ! とんでもないですっ。そうですね……内装も落ち着いた感じがして私はくつろげます。素材を生かした色合いも、上階のカウンターの飾り棚を兼ねた仕上げも、個性的で目を惹きますね」
無難な話題をと、素敵だなと思えるカフェへの感想を述べていく。
すると彼は試食を促しながらも、気軽にどんどん質問してくる。話が葵のお気に入りのレンガ壁の装飾に及ぶとついつい熱が入り、パエリアを美味しく食べ終える頃には緊張感もだいぶ薄れていた。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ、こちらこそ貴重な意見をありがとう。植松さんは食品会社にお勤めなだけあって、舌が肥えていますね。絹路スパイスは香辛料などを手掛けている会社では老舗だ。お礼に、今日はおごらせて下さい」
「え? そんなわけには……」
「その代わりと言ってはなんですけど、今述べてくれた感想をここに送っていただけると助かります。今後の参考にしたいのでね」
「あ、はい。それくらいでしたら」
店にとって顧客の意見は大事だ。葵も営業としてそれは分かるので、交換条件としてアドレスを受け取り素直に頷いた。
こうして、お昼をご馳走になった葵はおまけのデザートを手に、得したな~と上機嫌で家に戻り、言われた通り感想を送った。するとまもなく返信音が聞こえる。
『感想ありがとう。ところで、近々新たにデカフェを試飲するんですが、もしよかったら一緒にどうですか? 植松さんの意見は参考になるので、時間が合えばぜひ。平日の夜になりますから、もちろん夕食もおごりますよ?』
三種類の豆の試飲だと続いたメールを読んで、葵はしばらく迷った。これは思っても見なかったお誘いだ。けれど、今日話した感じでは悪い人ではないように思えた。ーーあの夜の様子では、女性関係は突っ込まない方がいい気がしたが。
(ーーまあ、あれだけのイケメンだものね)
自分がそういう意味で誘われているとは思えない。彼の態度は常に落ち着いた紳士だったし、何よりカフェに対することを熱心に聞かれた。的を得た質問と頼もしい印象を残す会話の運び方、ただ者でないあの雰囲気から察するに……
もしかしたら、経営に関わっているのではないか……? 葵の勘はそう告げている。
下心を感じさせないお誘いに、結局は行くと返事をした。その後、詳しい日時と時間のやり取りをして、来週の金曜の夜また店に顔を出すことに。その日は石田の歓迎会のはずだが、いい口実ができたと葵はもちろん欠席だ。
そしてその夜がやって来た。
「いらっしゃいませーー。植松さん、お待ちしておりました」
馴染みの店員が丁寧に案内してくれたのは、葵が先日隠れていた作り付けのテーブルだった。愛しいピアノを真横にした席に、葵は心の中でラッキーとはしゃいだ。
「ここって、いつもは侵入禁止ですよね?」
榊と名乗った店員によると、このテーブルはオーナー専用らしい。
「許可を得ております。本日はこちらからわざわざお呼び立てしたのですから、これくらいはサービスをさせて下さい」
そう言って、いつもはレジを兼ねたカウンターに置いてあるメニューを差し出してくる。
「植松さんは食品会社にお勤めでいらっしゃるとか。金曜の夜だと言うのに、お時間をいただきありがとうございます。さあ、夕食はお好きなものをメニューから召し上がって下さい」
「え、本当にいいのですか?」
夕食をおごる云々は、文面上の流れだろうと思っていた。だが、榊はもちろんだと頷き、ケーキやパフェまで勧めてきた。
「デザートを召し上がるころには、鳳条も顔を出せると思いますので」
榊の言葉から鳳条はどうやらこのカフェのオーナらしいと推測した葵は、遠慮なくご馳走になることにした。
お腹もほどよく膨れた葵が、上機嫌でカフェにかかる微かなBGMを聴きながら持参したノートパソコンで仕事の続きをしていると、タンタンと階段を降りてくる足音がする。ふわりと漂う清涼感のあるメンズ香水のほのかな香り……爽やかなのに華美すぎない落ち着いた匂いに、葵はハッと顔を上げた。
「やあ、待たせて悪かったね」
「いえ、こちらこそ夕食をご馳走になってしまって」
「わざわざ足を運んでもらったのだから、当然だよ。それに仕事じゃないんだから、言葉は普通でいいよ」
鳳条が向かい席に座った途端、彼のスマホから呼び出し音が聞こえた。チラッと画面を見た彼の表情は変わらなかったが、かすかに眉を寄せたのを葵は見逃さなかった。気にしないで出て下さいと告げると、彼は「すまないね」と一旦席を離れた。だが、しばらくして戻ってくると今度はメールの受信音だ。
「……お忙しいんですね」
「いや、仕事じゃないよ。今日は用事ができたとキャンセルしたら、この調子でね」
「もしかして、この間の女性ですか?」
「ハハ、違う違う、彼女の妹だよ。姉と別れたのなら、付き合ってくれと言われたんだ。だけどこんなにしつこい女性だとは思わなかった。姉の方は割り切っていたのにな」
(へ? 姉妹とって……ウソーー)
あまりにもなその言葉と内容に、問いがうっかり漏れる。
「あの、別れたって、先々週ーーじゃあなかった、その前の週……なんじゃあ……」
「そうそう、あの夜別れたって言ったよね。まあ、こっちももういいかな」
「っ⁉︎」
さらっと述べられたあけすけな言い草に、何から突っ込んでいいやらーー。葵はあぜんとしてしまった。いやまあ確かに、ものすごくイケメンではあるけど。先々週の今週で違う彼女、それも姉妹とって……
「……サイクルが、早過ぎやしませんか?」
目の前のスラっとしたスーツ姿に、思わず正直な感想を述べていた。
「いいんだよ、どうせみんな同じに見えるから」
「は? えぇっと、それは……付き合っている女性が、同じように見えるという意味ですか?」
(視力でも悪いのかな……? いやでもこの言い方だと、そうではなさそう……)
「プラス言い寄ってくるのも含めて、かな。アプローチも似たようなものだし」
なんでもない事のように、鳳条は興味薄そうに答えた。
「ところで、デザートはもう済ませたかい?」
そんなあっさり……スルーしていいのだろうか……。いやでも人の付き合い方などそれぞれだし、葵が口出すことではないのだろう。そう思った葵はもう一度お礼を述べる。
「アーモンドプードルの風味が絶妙で、とっても美味しかったです」
その言葉に端正な顔が微笑んだ。
(あ、やっぱり。こんな風に笑うと、年上に見えないなあ)
どこから見ても大人の男性といった鳳条だが、楽しそうに笑う姿は無邪気にも見える。そんな彼はとても親しみやすい。
榊に運ばれてきた純和風の夕食を鳳条が食べている間に、同時に置かれた三つのコーヒーの飲み比べをさっそく葵は始めた。
「ミルクと砂糖を入れてみていいですか」
「ブラックだと、分かりにくいかい?」
「いえ、単に味がどう変わるのか興味があるだけです」
「ありがとう、そこまでしてもらえて嬉しいな」
それぞれを飲み比べた後、葵は感想を述べつつ忘れないうちにと持参のノートパソコンに向かいカタカタとキーを打つ。
「はじめに試飲したのに、比べるとーーちょっと待ってて下さいね……」
しばらくするとクルリとノートの画面を鳳条の方に向けた。
「こんな感じでしょうか? 比較表にしてみたんですが」
「お! やるね。ーー植松さん、うちで働かない?」
「いえ、間に合ってます。それよりやっぱり、こちらは濃度というか後味が少し薄く感じますね。けどミルクや砂糖を入れて飲むのなら違いはそんなに感じられません」
「フラれたか。どれどれ」
葵が手をつけたコーヒーカップでも気にもせず飲み比べをする鳳条に内心ではちょっと驚いたものの、本人が気にしていないのだからと葵もスルーした。
こうして意見を述べ合う鳳条の落ち着いた態度に、やはり悪い人ではないと心で頷く。そして彼の気さくな態度もあって二人の会話は自然と弾んだ。
「鳳条さんが、このカフェを経営されているんですか」
「経営というよりも、出資かな。シェフが知り合いでね。業務は店長の榊に任せているよ」
ということは、普段は別の職業についているということか。もしくは、投資家なのか……?
けれど、知り合ったばっかりだし、向こうから触れるまではと当たり障りのない会話を葵は続けた。それに店員だと思っていた榊が店長だというのにも、ちょっと驚かされた。
「熱心にリサーチされていますよね。他にも、カフェに出資しておられるんですか?」
「いや、ここだけだよ。元々ここも、朝食や夕食を手軽に食べれるところが欲しくてね、はじめたようなものだから」
彼は、「大きくするつもりはないが、どうせなら、客のニーズに応えられる店をと思って」とフランクなものだ。
ーーどうやらこのカフェは……彼にとっての食堂、否、キッチンがわりらしい……
そう見当を付けて思い当たった。彼がさっき食べていたのも、メニューに乗っていない純和風の家庭料理だ。それにここのカフェメニューはすべてお持ち帰り可能でネット注文もできるから、葵も会社帰りに利用したことが何回もある。
道楽にしては、かなりビジネスマインドではないか? そう思える言動といい、身につけている高級そうな服や腕時計から、もしかしてと思っていたがここにきて確信した。この人は、葵と違う生活レベルを送っているに違いない。
(この見てくれで、この雰囲気で、お財布が厚いってーー……)
恵まれた人とはいるものだ。そりゃあモテるだろう。
姉妹で鳳条をめぐって争うというのも、言い寄ってくる女性がたくさんいるらしいのも、今なら頷けるような気がした。
ーー恋愛に関しては非常に残念なイケメンではあるけれど。それはまあ、自分には関係のないこと。
試飲したコーヒーをカフェメニューに加えるかを一緒に検討した後、結局は二人が気に入ったデカフェ豆を店に出してみることになり、夕食のお礼を述べた葵は家路についた。
この間試食したシーフードパエリアも、今日食べたあさりのスパゲティーもどちらもとても美味しかった。和食もいい匂いが漂っていたし、あそこのシェフは本当に腕がいいのだろう。
そんなことをぼんやり考えていたところに、葵のスマホがメッセージを受け取った。
画面を見なくても差出人は分かっている。
(もう。こっちは会わないって、言ってるのに!)
今週に入ってから石田はなぜか、話をしたいと言ってくる。最初は話す気などないといちいち断っていた葵も、石田のあまりのしつこさに閉口してアカウントをブロックしたら、今度は会社のメールに仕事を装って連絡をしてくるのだ。
浮気が発覚してから二週間以上も葵の存在を無視して、会社でも話しかけて来なかったくせに。
いまさら、何を話し合う必要があるのか。
(まさか……、指輪を返せ、とか?)
ホントこれ以上、幻滅させないでほしい。
こう言っては何だが、元カレの石田は見栄っ張りだった。営業だからスーツはいいものを着るのはわかるが、貯金はほとんどなし。なのに、葵に贈られた指輪はブランドもので、買取専門店で買い取ってもらったら思わぬ資金を得た。葵はそのお金をとっておくのではなく、使い切ることにした。それも形の残らない食べ歩きで散財するという方向で。
……大学時代に渡された指輪を長い間捨てられず、引きずった経験は痛かった。二回目ともなれば、そんな疲れる無駄はしないと今回は割り切った。部屋に残っていた石田の小物も処分済みだし。合鍵は返してもらっていないが、それこそ使う理由などもうないだろう。
受信音が聞こえるたび、いい加減放っておいてと思ってしまう。彼女とお幸せにと嫌味ぐらい言いたかったが、そんな手間隙さえ億劫だ。
ところが、翌週の会社で葵は石田に帰りがけつかまりそうになった。
「植松さん、ちょっと話がーー」
「……申し訳ありませんけど、これから客に会う予定ですので」
仕事の件でないことは分かっている。彼とは顧客も重ならないし、引き継ぐ内容もない。
こちらにおずおずと言った感じで話しかけてくる石田を、振り切るように葵は会社を出た。
客先によってそのまま帰宅すると、玄関前に見覚えのある人影が見える。今まさに出ようとしていたエレベーターの扉を急いで閉じた葵は、足早にマンションから離れた。
(どうしよう、早く帰ってくれないかな……)
当分家には、帰れそうにない。
そう思った葵の足は自然と鳳条のカフェへと向かっていた。
「いらっしゃいませ、植松さん」
「こんばんは、榊さん」
心の中で、安堵と諦めの混じったため息をついて、カウンターで注文をした。
今夜は家で夕食を作るつもりだったから、手提げ袋には買った野菜が入っていたが、こうなったら彼が帰るまで根比べだ。葵は閉店まで居座ることに決めて、その日はカフェで夕食と仕事を済ませマンションに帰った。
平日だったし、石田は帰った後で玄関ドアを開けながらホッとする。
こんなこと、続けて起こらなければいいけど……と眉を寄せてため息をついた。
カフェのいつものテーブルに座った葵は、新作メニューが運ばれてくるのを心待ちにしていた。
本当は今日、ここに来るのもちょっと悩んだ。
受信した案内メールを眺めていると、先日の失態が頭に浮かび決まりがわるくって……
けど、カップルの顔ーーピアノを弾いていた男性と、彼に会いに来たらしい女性の顔さえ覚えていないのだし。結局は楽しみにしていた試食をキャンセルするほどではと予約はそのままにした。
それにここ一週間で、たまりに溜まった会社でのストレスをピアノを見て癒されたかったのもある。
ーー半年前に、葵は営業アシスタントから顧客を担当する営業へと昇格した。その後さらに、事業の再構築という名目で葵の属する営業二課もバリバリ働く者や勤務態度が真面目な者以外は、配属変えとなった。
さいわい課で生き残った葵はベテランと肩を並べ仕事をしているけれど……そんな中、元カレの石田が戻ってきた。デスクは離れているが直接関わる事を避けまくる毎日で、ここ最近は結構なストレスを抱えている。
(はあ~。やっぱりここはーー、落ち着くな)
客で賑わう上階を避け、小さなテーブルに陣取った葵はピアノを眺めニコニコと上機嫌だ。
「お待たせしました。新作の海鮮パエリアです」
美味しそうな匂いを漂わせる皿がテーブルに並べられると、お礼を述べ、早速「いただきます」と手を合わせた。ーーが、なぜだか料理を運んできたウェイターがそのまま向かい席にスッと座る。
「ーーウチのカフェは、いかがですか?」
「あの……?」
ピアノをぽうと眺めていた葵は、ウェイターに意識を向けていなかったため、その声でようやく目前の男性に気づいた。
……センスの良い藍染めのドレスシャツと、スマートなベージュのチノパン。組まれた手の綺麗な指を認めた葵の胸が、小さくドキッと鳴る。
(っていうより、こんなイケメンのウェイターいたんだ……)
男性は葵より年上だろう。
スッと優雅な眉、整った鼻筋に魅力的な口元。ドレスシャツのシルエットが見せる肩の線や引き締まった腕からは、男らしさが漂ってくる。くっきりした二重の瞳は切れ長で、黒い艶のある睫毛が縁取っている。
サラッとした漆黒の髪と涼しげな瞳を持つ、麗しいイケメンーーそんな艶やかな容貌の持ち主がこちらをじっと見ている。 唇をひき結んだ顔は端正で落ち着いたものだが、目が合うと微笑みかけてきた。笑うと目元が柔らかくなり醸しだす雰囲気が甘くなる。
すごい。
今まで出会ったどんな顔立ちが整った人より、この人の容姿は飛び抜けている。
心の中で葵は唸った。こんな艶やかなイケメンにはお目にかかったことがない。
「カフェ……そうですね。コーヒーも紅茶も種類が豊富で、出される料理もとても美味しいです。それに店の雰囲気も心安らぐものがあって、私は好きです」
彼が何者なのかは分からなかったが、新作料理を前に感想を聞かれたのできっとカフェの関係者だろう、そう思って日頃抱いていた店の印象を口にした。
「ありがとうございます。さあどうぞ、パエリアも試食してみて下さい」
素直な意見を述べた葵を、ふむと言った感じで男性は目を細めて見る。
ーー今日は店の人がわざわざ新作メニューのご感想、ご意見を直接聞き取るのだろうか? いつもなら簡単なアンケートと一緒に渡されるおまけデザートを、楽しみにしていたのだけど。
「あ、はい。そうですね……いただきます」
艶のある容貌にぴったりな低めの声に勧められ、フォークを手に持ったが、一人だけ黙々と食べるのも気が引けて相手の正体を見極めようと葵はさり気なく会話の糸口を探った。
「あの、お店の方ですか?」
頷いた男性は鳳条、と名乗った。
ほうじょう……という名前は、最近耳にした覚えがーー?
(あぁっ、もしかしてあの時のーーっ!)
一口食べて、あ、美味しいと思ったパエリアをごくんと喉に流し込む。どこかで聞いた声だと思ったが。
「す、すみません、先日はとても失礼な真似をーー」
大慌てで頭を下げた。
「……すごいですね。名前を覚えられているとは思いもしませんでした。失礼ですが、営業関係のお仕事でもされているのですか?」
頭の上で感心する声が聞こえた。恐る恐る顔を上げると、彼がおかしそうに口元をゆるめている。
失礼な事をしたと自覚があっただけに、葵はホッと胸を撫で下ろした。
「はい、えっと……植松と申します」
勢いよく名刺を差し出してからハッと気づいた。
(……何をやってるの、私……?)
今日は日曜日。このカフェにはプライベートで訪れている。何もこんなところで営業しなくてもーー。
「ああ、絹路スパイスに勤めていらっしゃるのですね。植松葵さん?」
「は、はい……」
だが、葵の名刺はすでに鳳条の手に渡っていた。……なんだか、恥の上塗りをしてしまったような気がする。
仕立てのいいシャツの襟元から覗く、その男らしい喉元にうっかり目をやってしまった葵は慌てて目線を上げた。鳳条は、外見も身のこなしも艶めいた男性美を感じさせる人だ。初対面なのに、黒い瞳に引き込まれそうになる。
そして名刺を渡したもののどうしようといった風情の葵を見て、鳳条は軽く笑った。
「そんなに硬くならなくていいですよ。この間のことなら、全然気にしていません」
いやいや、普通は気にするでしょと思ったが、むしろ助かったとおかしそうに笑う笑顔につられた。
するとそれまでスクリーン越しの映画俳優を鑑賞するといった感じで、どことなく現実離れしていた目前の鳳条への親近感が急にわいてきた。
「よかった。あの女性とは仲直りされたんですね」
「いや、彼女とはあの後すぐに別れましたよ。ちょうど良い機会だったのでね」
……突っ込んで良いのものなのか? 微妙な流れだったので、葵は黙って水を飲んだ。
「それよりも。せっかくだから、もっと植松さんの意見を伺いたいな」
「ーーそれは……このカフェのことですよね?」
「もちろん。あ、もしかして、あの夜のことを詳しく聞きたいですか?」
からかいまじりの鳳条の言葉に、葵は勘弁してと話を急いで元に戻した。
「いえっ! とんでもないですっ。そうですね……内装も落ち着いた感じがして私はくつろげます。素材を生かした色合いも、上階のカウンターの飾り棚を兼ねた仕上げも、個性的で目を惹きますね」
無難な話題をと、素敵だなと思えるカフェへの感想を述べていく。
すると彼は試食を促しながらも、気軽にどんどん質問してくる。話が葵のお気に入りのレンガ壁の装飾に及ぶとついつい熱が入り、パエリアを美味しく食べ終える頃には緊張感もだいぶ薄れていた。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ、こちらこそ貴重な意見をありがとう。植松さんは食品会社にお勤めなだけあって、舌が肥えていますね。絹路スパイスは香辛料などを手掛けている会社では老舗だ。お礼に、今日はおごらせて下さい」
「え? そんなわけには……」
「その代わりと言ってはなんですけど、今述べてくれた感想をここに送っていただけると助かります。今後の参考にしたいのでね」
「あ、はい。それくらいでしたら」
店にとって顧客の意見は大事だ。葵も営業としてそれは分かるので、交換条件としてアドレスを受け取り素直に頷いた。
こうして、お昼をご馳走になった葵はおまけのデザートを手に、得したな~と上機嫌で家に戻り、言われた通り感想を送った。するとまもなく返信音が聞こえる。
『感想ありがとう。ところで、近々新たにデカフェを試飲するんですが、もしよかったら一緒にどうですか? 植松さんの意見は参考になるので、時間が合えばぜひ。平日の夜になりますから、もちろん夕食もおごりますよ?』
三種類の豆の試飲だと続いたメールを読んで、葵はしばらく迷った。これは思っても見なかったお誘いだ。けれど、今日話した感じでは悪い人ではないように思えた。ーーあの夜の様子では、女性関係は突っ込まない方がいい気がしたが。
(ーーまあ、あれだけのイケメンだものね)
自分がそういう意味で誘われているとは思えない。彼の態度は常に落ち着いた紳士だったし、何よりカフェに対することを熱心に聞かれた。的を得た質問と頼もしい印象を残す会話の運び方、ただ者でないあの雰囲気から察するに……
もしかしたら、経営に関わっているのではないか……? 葵の勘はそう告げている。
下心を感じさせないお誘いに、結局は行くと返事をした。その後、詳しい日時と時間のやり取りをして、来週の金曜の夜また店に顔を出すことに。その日は石田の歓迎会のはずだが、いい口実ができたと葵はもちろん欠席だ。
そしてその夜がやって来た。
「いらっしゃいませーー。植松さん、お待ちしておりました」
馴染みの店員が丁寧に案内してくれたのは、葵が先日隠れていた作り付けのテーブルだった。愛しいピアノを真横にした席に、葵は心の中でラッキーとはしゃいだ。
「ここって、いつもは侵入禁止ですよね?」
榊と名乗った店員によると、このテーブルはオーナー専用らしい。
「許可を得ております。本日はこちらからわざわざお呼び立てしたのですから、これくらいはサービスをさせて下さい」
そう言って、いつもはレジを兼ねたカウンターに置いてあるメニューを差し出してくる。
「植松さんは食品会社にお勤めでいらっしゃるとか。金曜の夜だと言うのに、お時間をいただきありがとうございます。さあ、夕食はお好きなものをメニューから召し上がって下さい」
「え、本当にいいのですか?」
夕食をおごる云々は、文面上の流れだろうと思っていた。だが、榊はもちろんだと頷き、ケーキやパフェまで勧めてきた。
「デザートを召し上がるころには、鳳条も顔を出せると思いますので」
榊の言葉から鳳条はどうやらこのカフェのオーナらしいと推測した葵は、遠慮なくご馳走になることにした。
お腹もほどよく膨れた葵が、上機嫌でカフェにかかる微かなBGMを聴きながら持参したノートパソコンで仕事の続きをしていると、タンタンと階段を降りてくる足音がする。ふわりと漂う清涼感のあるメンズ香水のほのかな香り……爽やかなのに華美すぎない落ち着いた匂いに、葵はハッと顔を上げた。
「やあ、待たせて悪かったね」
「いえ、こちらこそ夕食をご馳走になってしまって」
「わざわざ足を運んでもらったのだから、当然だよ。それに仕事じゃないんだから、言葉は普通でいいよ」
鳳条が向かい席に座った途端、彼のスマホから呼び出し音が聞こえた。チラッと画面を見た彼の表情は変わらなかったが、かすかに眉を寄せたのを葵は見逃さなかった。気にしないで出て下さいと告げると、彼は「すまないね」と一旦席を離れた。だが、しばらくして戻ってくると今度はメールの受信音だ。
「……お忙しいんですね」
「いや、仕事じゃないよ。今日は用事ができたとキャンセルしたら、この調子でね」
「もしかして、この間の女性ですか?」
「ハハ、違う違う、彼女の妹だよ。姉と別れたのなら、付き合ってくれと言われたんだ。だけどこんなにしつこい女性だとは思わなかった。姉の方は割り切っていたのにな」
(へ? 姉妹とって……ウソーー)
あまりにもなその言葉と内容に、問いがうっかり漏れる。
「あの、別れたって、先々週ーーじゃあなかった、その前の週……なんじゃあ……」
「そうそう、あの夜別れたって言ったよね。まあ、こっちももういいかな」
「っ⁉︎」
さらっと述べられたあけすけな言い草に、何から突っ込んでいいやらーー。葵はあぜんとしてしまった。いやまあ確かに、ものすごくイケメンではあるけど。先々週の今週で違う彼女、それも姉妹とって……
「……サイクルが、早過ぎやしませんか?」
目の前のスラっとしたスーツ姿に、思わず正直な感想を述べていた。
「いいんだよ、どうせみんな同じに見えるから」
「は? えぇっと、それは……付き合っている女性が、同じように見えるという意味ですか?」
(視力でも悪いのかな……? いやでもこの言い方だと、そうではなさそう……)
「プラス言い寄ってくるのも含めて、かな。アプローチも似たようなものだし」
なんでもない事のように、鳳条は興味薄そうに答えた。
「ところで、デザートはもう済ませたかい?」
そんなあっさり……スルーしていいのだろうか……。いやでも人の付き合い方などそれぞれだし、葵が口出すことではないのだろう。そう思った葵はもう一度お礼を述べる。
「アーモンドプードルの風味が絶妙で、とっても美味しかったです」
その言葉に端正な顔が微笑んだ。
(あ、やっぱり。こんな風に笑うと、年上に見えないなあ)
どこから見ても大人の男性といった鳳条だが、楽しそうに笑う姿は無邪気にも見える。そんな彼はとても親しみやすい。
榊に運ばれてきた純和風の夕食を鳳条が食べている間に、同時に置かれた三つのコーヒーの飲み比べをさっそく葵は始めた。
「ミルクと砂糖を入れてみていいですか」
「ブラックだと、分かりにくいかい?」
「いえ、単に味がどう変わるのか興味があるだけです」
「ありがとう、そこまでしてもらえて嬉しいな」
それぞれを飲み比べた後、葵は感想を述べつつ忘れないうちにと持参のノートパソコンに向かいカタカタとキーを打つ。
「はじめに試飲したのに、比べるとーーちょっと待ってて下さいね……」
しばらくするとクルリとノートの画面を鳳条の方に向けた。
「こんな感じでしょうか? 比較表にしてみたんですが」
「お! やるね。ーー植松さん、うちで働かない?」
「いえ、間に合ってます。それよりやっぱり、こちらは濃度というか後味が少し薄く感じますね。けどミルクや砂糖を入れて飲むのなら違いはそんなに感じられません」
「フラれたか。どれどれ」
葵が手をつけたコーヒーカップでも気にもせず飲み比べをする鳳条に内心ではちょっと驚いたものの、本人が気にしていないのだからと葵もスルーした。
こうして意見を述べ合う鳳条の落ち着いた態度に、やはり悪い人ではないと心で頷く。そして彼の気さくな態度もあって二人の会話は自然と弾んだ。
「鳳条さんが、このカフェを経営されているんですか」
「経営というよりも、出資かな。シェフが知り合いでね。業務は店長の榊に任せているよ」
ということは、普段は別の職業についているということか。もしくは、投資家なのか……?
けれど、知り合ったばっかりだし、向こうから触れるまではと当たり障りのない会話を葵は続けた。それに店員だと思っていた榊が店長だというのにも、ちょっと驚かされた。
「熱心にリサーチされていますよね。他にも、カフェに出資しておられるんですか?」
「いや、ここだけだよ。元々ここも、朝食や夕食を手軽に食べれるところが欲しくてね、はじめたようなものだから」
彼は、「大きくするつもりはないが、どうせなら、客のニーズに応えられる店をと思って」とフランクなものだ。
ーーどうやらこのカフェは……彼にとっての食堂、否、キッチンがわりらしい……
そう見当を付けて思い当たった。彼がさっき食べていたのも、メニューに乗っていない純和風の家庭料理だ。それにここのカフェメニューはすべてお持ち帰り可能でネット注文もできるから、葵も会社帰りに利用したことが何回もある。
道楽にしては、かなりビジネスマインドではないか? そう思える言動といい、身につけている高級そうな服や腕時計から、もしかしてと思っていたがここにきて確信した。この人は、葵と違う生活レベルを送っているに違いない。
(この見てくれで、この雰囲気で、お財布が厚いってーー……)
恵まれた人とはいるものだ。そりゃあモテるだろう。
姉妹で鳳条をめぐって争うというのも、言い寄ってくる女性がたくさんいるらしいのも、今なら頷けるような気がした。
ーー恋愛に関しては非常に残念なイケメンではあるけれど。それはまあ、自分には関係のないこと。
試飲したコーヒーをカフェメニューに加えるかを一緒に検討した後、結局は二人が気に入ったデカフェ豆を店に出してみることになり、夕食のお礼を述べた葵は家路についた。
この間試食したシーフードパエリアも、今日食べたあさりのスパゲティーもどちらもとても美味しかった。和食もいい匂いが漂っていたし、あそこのシェフは本当に腕がいいのだろう。
そんなことをぼんやり考えていたところに、葵のスマホがメッセージを受け取った。
画面を見なくても差出人は分かっている。
(もう。こっちは会わないって、言ってるのに!)
今週に入ってから石田はなぜか、話をしたいと言ってくる。最初は話す気などないといちいち断っていた葵も、石田のあまりのしつこさに閉口してアカウントをブロックしたら、今度は会社のメールに仕事を装って連絡をしてくるのだ。
浮気が発覚してから二週間以上も葵の存在を無視して、会社でも話しかけて来なかったくせに。
いまさら、何を話し合う必要があるのか。
(まさか……、指輪を返せ、とか?)
ホントこれ以上、幻滅させないでほしい。
こう言っては何だが、元カレの石田は見栄っ張りだった。営業だからスーツはいいものを着るのはわかるが、貯金はほとんどなし。なのに、葵に贈られた指輪はブランドもので、買取専門店で買い取ってもらったら思わぬ資金を得た。葵はそのお金をとっておくのではなく、使い切ることにした。それも形の残らない食べ歩きで散財するという方向で。
……大学時代に渡された指輪を長い間捨てられず、引きずった経験は痛かった。二回目ともなれば、そんな疲れる無駄はしないと今回は割り切った。部屋に残っていた石田の小物も処分済みだし。合鍵は返してもらっていないが、それこそ使う理由などもうないだろう。
受信音が聞こえるたび、いい加減放っておいてと思ってしまう。彼女とお幸せにと嫌味ぐらい言いたかったが、そんな手間隙さえ億劫だ。
ところが、翌週の会社で葵は石田に帰りがけつかまりそうになった。
「植松さん、ちょっと話がーー」
「……申し訳ありませんけど、これから客に会う予定ですので」
仕事の件でないことは分かっている。彼とは顧客も重ならないし、引き継ぐ内容もない。
こちらにおずおずと言った感じで話しかけてくる石田を、振り切るように葵は会社を出た。
客先によってそのまま帰宅すると、玄関前に見覚えのある人影が見える。今まさに出ようとしていたエレベーターの扉を急いで閉じた葵は、足早にマンションから離れた。
(どうしよう、早く帰ってくれないかな……)
当分家には、帰れそうにない。
そう思った葵の足は自然と鳳条のカフェへと向かっていた。
「いらっしゃいませ、植松さん」
「こんばんは、榊さん」
心の中で、安堵と諦めの混じったため息をついて、カウンターで注文をした。
今夜は家で夕食を作るつもりだったから、手提げ袋には買った野菜が入っていたが、こうなったら彼が帰るまで根比べだ。葵は閉店まで居座ることに決めて、その日はカフェで夕食と仕事を済ませマンションに帰った。
平日だったし、石田は帰った後で玄関ドアを開けながらホッとする。
こんなこと、続けて起こらなければいいけど……と眉を寄せてため息をついた。
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