上 下
16 / 24

三国会議 5

しおりを挟む
あっ、と心で叫んだイザベルは、顔からみるみる血が引いていく気がした。
ーーま、まま、待って! 1人にしないでぇっ。
実際のところ顔色はほとんど変わらないのだが、内心で慌てふためいているうちに誰もが一礼して去っていく。無情にも扉が閉まるパタンという音がやけに大きく響いて、イザベルの鼓動は大きく跳ね上がった。
しー~~ん。
こういう時、顔に出ないのがつくづく恨めしい。パニックな胸の内など誰にも察してもらえない。それは仕方ないとしてもこんなすました態度をとっておいて、正直なところ正面切って話す勇気がないなんて自分でも情けなくなる。

「……食事後に、ゆっくりと思っていたが。こんな可愛い反応を見せられるとな」

いつの間にかテーブルを回ってこちら側に来たらしい。イグナスの官能的な声がイザベルの俯いた首筋を撫でていく。ざわり、と全身が慄いた。

「いい度胸をしている。何日もおあずけをくらわせたあげく、堂々の挑発とは」
「え……?」

怒ってる? と顔を上げたらマリンブルーの瞳が挑戦的に光った。

「知らないとでも思ったか? 毎晩毎晩、留守にしよって。よもや他の男の邸に通っていたわけではあるまいな」
「な、ありえせんわ!」

思わず抗議をしかけたら、力強い腕にあっさり捕まった。

「ふ、いいだろう。望み通りのってやろう」

ーー何を言っているのだっ、この鈍感男は⁉︎ 乙女心を理解しないにもほどがあるっ!
憤慨したイザベルは、次の瞬間何が起こったのか分からなかった。ガシャんと食器のぶつかる音と同時に仰向けだ。食卓の上にやすやすと押し倒されている。

「は……ぇ?」
「口を開け」
「んっ、っむ」

突然覆い被さってきたイグナスが、骨ばった指を唇の間からゆっくり滑り込ませてきた。
ーーこの指を思い切り噛んでしまえば……もしくは魔法を使ってーーーー
頭では分かっているのに、どうしてもできない。
指先で歯並びにそってゆっくりなぞりだすイグナスの妖しい色香に、呼吸が苦しくなる。骨ばった指をついしゃぶってしまい、イグナスの味が口内に広がった。
ーー忘れたくても忘れられないのなら、いっそ。高みで何度もキスをされたあの幸せな思い出にもっと浸らせてーー……

「っ……その手は食わん!」

瞳を半ば閉じると、いきなりちゅぽっと指を引き抜かれた。

「そんな目をしてもだめだ。まったく……このように煽られたら、どんな男だろうと抵抗できん! この柔らかな身体に誰も触れていないなど、奇跡としか思えん」

イグナスは顎を掴んで「確かめさせろ」と唇を合わせてくる。するりと忍んでくる舌が口腔をなぶりだし逃げ惑う舌を捉えた。

「この私を焦らすとは、はねっかえりもいいところだ」
「ふ、ぅん~~んっ、んんっ……」

舌を吸われると心を震わす甘い切なさで、身体が熱を持ちジンジンしてくる。
絡まる舌、しっとりした吐息に胸がきゅんとなり、酸素を求め唇を離すと強引に引き戻された。交わる唾液で腰の奥から熱く溶けだす感覚に、心臓はドキンドキンと大きく打ちはじめる。
抱いて。今すぐここで奪って欲しい。
そんな大胆な願望とイグナスを求める本能で、頭はいっぱい。言い返したいのに、言葉が何も浮かばない。「ベル……」と呼ばれると目尻がにじんだ。
ふいに着ていた魔導ローブが一瞬でちりぢりになる。

「逃げても無駄だ。隅々まで余すことなく、じっくり吟味してやる」

ーーもしかして夢を見てる? ローブこれよろいより丈夫なはずだわ。
こんな場所で裸に剥かれたのにさらに胸が高まったなんて、ほんとダメダメだ。

「やっ……何をなさるの……」

強く抗議したつもりで吐き出された弱々しい声にイザベルがたじろぐと、イグナスの口元が綺麗な弧を描いた。

「待ち遠しいか。少しは思い知れ」

意味不明の言葉を吐き、足首を撫でるように掴んでくる。

「ちょうどよい。このソースは美味な素材を引き立てる」

白いテーブルクロスの上で身動きできない身体に、とろりとしたルビー色の液体がかけられた。

「白い肌にほど良く合う。ーー美味そうなデザートだ」
「一ーこれ、は……?」

胸にかかった果物ソースを指で拭おうとしたら、「させん」の一言で両手が拘束された。やけに楽しそうなイグナスは舌を伸ばし、胸に滴るソースを蜜を溶かすように素肌ごとねっとり舐め上げる。

「あ、あ、ぁ……」
「本日一番の馳走だ。シェフに感謝せねばなるまい」

密着した彼の重みも、鼻腔に漂う彼の陽だまりのような匂いも、よくよく知りすぎて心が痛い。
果実の甘味で香る裸身を舐めまわされ、尖ってきた胸の蕾をしゃぶられ、大蛇だった頃のイグナスに毎晩抱かれた記憶が昨日のことのように一気に蘇った。

「ふっ、あ、あぁっ……んンーー」
「私のものだと誓ったな……この磁器のような肌も、触れると熱く濡れる身体も、可愛らしい啼き声もすべてだ。思い出したか」

忘れるわけがない。涙が滲んでぼやけた視界に天井の魔導灯が映った。
食卓に載せられた身体は真っ裸でソースまみれ。太ももを押し開かれじっくり嬲られるこんな痴情を受け入れられるわけがない。なのに、逆らう力がまったく出ない。

「ようやくこの手で抱ける。興奮するな……いか?」
「ひっ……いっ……あっ、ぁっ、指っ……だめぇ……」

蜜をたっぷり含んだ蜜口に彼の指が挿入はいってくる。だけど久しぶりで狭すぎる内壁に、すぐ舌が指に取って代わった。柔らかい舌でジュブジュブになるまで膣中なかを掻き回され、ぷつりと立ち上がった花芯もチュウウと吸い上げられるのだからたまらない。

「ふぁンっ……アあッーー……」
「ここを可愛がるとすぐ締まる。腰が浮いているぞ」

瞼がチカチカする。甘い痺れが身体中を走り抜けて、涙がこぼれ背中も反り返った。

「ふあっ、あぁっ、ぁんっ……どうか、もう……」
「いくらでも溢れてくる。こんなに敏感だったか?」

あまりの気持ちよさに食卓の硬さも忘れ、イザベルはすすり泣きながら細い声で懇願した。イグナスは至極満悦そうにマリンブルーの瞳を細めると、ヌルヌルの花びらをからかうように撫でさする。

「そうか、そんなに私が欲しいか」
「っあ……や……そこ、むずむずする……あ……はぁ……ぁ」
「言ってみろ、私が欲しいと。私だけが欲しいと。ーーそうすれば望みを叶えてやる」
「あ、ぁ、あ、イグナス様ぁ……欲しいのは貴方だけ……ずっと貴方だけですわ」

長い指が濡れそぼった秘所に沈められ、くぷぷっと愛蜜たっぷりの卑猥な水音がする。

「熱いな……すっかりとろけけている」

ぬちゅぬちゅと内壁を擦られる快感にイザベルの臀部がきゅっと引き締まった。硬く膨らんだ花芯を爪で弾かれて一瞬で頭が真っ白になる。

「あぁっん~~んンーー!」
「こんなに悦んで締め付けて……甘やかしたくなるじゃないか……」

愛蜜を溢れさせ、びく、びくんと震える身体から、イグナスが濡れた指をゆっくりと引き抜いた。まとわりついた液を舐め取り、されるままの身体を食卓にうつ伏せにする。絨毯にぽたぽたと蜜がしたたり広がるのも構わず、広げた足の間に背後から覆い被さった。
猛々しい切先が、ひくつく蜜口に押し当てられる。

「久しぶりだからな、ゆっくりいく」
 
臀部はまだ痙攣をおこしたままで、呼吸も苦しい。甘美な余韻にたゆたいながら弛緩がはじまった身体はまだ、過敏な状態だ。

「やっ、今まだーーあぁぁっ」
「さすがに……きついな……」
「つぅぅっ……っうぅ!」

ーー熱くてっ! あぁ、こんなにーーーー……
時間をかけて侵入してくる圧倒的な大きさに堪えるので精一杯。痛いのにすぐ馴染んでくる焼けごてを当てられる感じを、またこの身に受けるなんて。頭が沸騰しそうだ。

「ふぅ~~~~あぁあっっ」
「嬉しいが、もう少し力を抜け……」

初めてのような鈍痛を再び味わう身体に、にちゅと硬い彼がさらに強硬に押し入ってきた。
全身が熱くて脈打つようにずきずきする。
繋がった灼熱にたちまち支配された膣中なかは彼を逃すまいと絡みついてキュウと締め付けはじめた。
イグナスは腰をゆっくり回しイザベルの締め付けを心ゆくまで堪能しながら、愛蜜で滑りを良くする。

「っ吸い付いて、抜けんぞ……」
「っ……ひぅ……っあ……んっ……んぅ~~」

そして一旦、己を深く埋もれさせると浸るように息をついた。

「この日を待った。ーー心に刻め。触れていいのは、私だけだと」

言い聞かせる掠れ声はイザベルの耳にひどく甘く響く。イグナスがあやすように身体を揺すってくるから、ゆらゆら揺れる視界で頭はくらくら、身体の中で硬い屹立が脈打った。

「ふぅぅン……んぁ、あ……」

背中に感じる汗ばむ体温は、なんて心地よいのだろう。
二つの身体が一部の隙間もなくピッタリ繋がって、熱い圧迫感は幸せで……心まで満たされる。
イザベルの身体はイグナスの求めに応えるようにうねって硬い屹立に一気に絡みついた。

「……ベル、どうだ。思い出したか……? 私の形を……」

くすぐったい吐息が耳の下へ移動すると、いきなりうなじを噛まれた。

「ひぅ、ぁぁあ……」

熱杭がゆっくりとくびれまで引き抜かれ、再び奥深くまで沈められる。
狭い中を押し進み、一突き一突きを楽しむゆったりとした抽送だ。身体の最奥まで穿つ動作を繰り返されるうちに圧迫感は薄れ、滑らかな波打つような腰送りに合わせてイザベルの腰も揺れだした。

「あっ、あん、ぁっ、ぁあっ、んっ……」
「……具合よく締まる……手折って染めた私が言うのもなんだが……罪深いな……」

身体中が火照って、恥ずかしい声が止まらない。
だんだん激しくなる抽送にどっしり重い食卓もガタガタと揺れて、全身から汗が吹き出す。苦しいのに、蕩ける甘美な快感に溺れていく感覚が懐かしい。
お腹の奥にずんとくる衝撃がい。唾液が口端から垂れ落ちて、つま先から頭の芯までジンジン痺れて、何も考えられない。

「……ふっ……あっン……深、い……のぉ」
「……ようやく戻った……二度と離さない」

低い唸り声で、身体が軋んで痛いほど抱きしめられた。臀部が打ち付けられる衝撃でテーブルクロスを掴んだ手にも、ぽたっと汗が滴り落ちる。
ーーっくる……すぐそこっ、もうクるっ……あぁもうダメ~~~~!
固く抱きしめられたまま、真っ白に溶ける極まりに近づく。この瞬間が永遠に続くといい…………

「あっあっあン……はっ……ンっっ……中に! お願い、中にくだ……さっ……」

追い詰められた身体は、痙攣しっぱなしで意識も溶けてどろどろ。何を口走っているかさえ、おぼつかない。

「奥にっ……奥に熱いのっ、欲しいのっ…………」
「……っ可愛いことをっ……ねだってくれる……」

ずんっ、ずんっと深層の壁を突き上げる勢いに、ますます呼吸が乱れる。身体を支えきれなくてテーブルクロスを握りしめると、押しつぶされた胸の先端がジンジンと疼いた。

「……あるいはーーそれもあり、か…………」

うわ言のような呟きが耳をかすって、繋がったまま背後の体温だけが遠ざかった。
ーーあ、どこへ……? 
背中に痛いほどの視線を感じる。荒い息を吐きながらぼんやりそう思った時、滑らかな舌が噛み跡うなじをねっとり舐め上げた。
ぞくぅ。
身体中がすくみあがって、駆け抜けたのは恐怖のような歓喜だ。再び大蛇に捕らわれた恍惚感に打ち震えていると、両腕を後ろから掴まれた。「っいくぞ」と中の彼がぐんと膨張する。
今までにない渾身の突き上げに、めくるめく快感が急速に一点に集まり脳まで痺れて、キュウウと彼を締めつけた。
声にならないよがり声が喉から漏れ出る。

「うっ、ぅう~~ぁあ~~‼︎」
「ベルっ、私のベルっ……っ……孕めっ!」

二人で辿り着いたのは真っ白な世界ーーそこへ身を躍らせた。

「くっ……」

っ初めて! 注がれる熱い飛沫を感じたーーーー…………‼︎
涙がこぼれ落ちて、無意識にまた彼を締めつける。最奥で爆ぜたイグナスは再びうめいた。
ーーぁ、また……噛まれたわ…… 
そんな気もするが、うなじも何もかもが熱い。繋がった箇所から溢れ出した白濁が内股を伝い落ちる感触がこの上なく愛おしかった。
……他人のフリをする疲れが溜まっていたところへ、過密スケジュールもいいとこ。息つく暇もないほど激しく抱かれて何度もイカされた反動か、イザベルの意識は混濁状態で朦朧としていた。
震えながら目を閉じると、愛しい人にまるまる愛された歓喜にもう少し浸っていたい……そう思うのに。
プッツリ。意識が途切れた。
そして次に目覚めたのは真夜中の闇だった。


眠っていたイザベルのまつ毛が、ピクッと動いた。重いまぶたを持ち上げると天蓋が視界に映る。喉が異常に乾いている。動くのが億劫なほど、腰もとてもつもなく重い。
しばらくするとようやく瞳の焦点がぼんやりと合ってきた。顔をゆっくり横に向けると、枕元の一枚の紙が目に入る。
どくんっ。心臓が大きく跳ねた。
ーーイグナス!
意識が一気に引き上げられる。

『夜会には参加するな』

……喉を押さえ、命令とも忠告とも取れるその達筆な筆跡をじっと見つめる。
意味が分からない。
あやふやな文面に困惑して瞬きをした瞬間、そこにあったはずの紙が消えた。
ーーあぁ、これも夢なの?
手を伸ばしパタパタと枕元を叩いてみても、紙などどこにもない。
おまけに夜着はきっちり上までボタンが止まっているし、見上げる天蓋は自室のもの。濡れた感覚がある下着以外は、身体もさっぱりして清潔感がある。
ーーでも、ああでも……まさか……だるくて目を開けていられない。
夢ーーと呼ぶにはリアルすぎて、ここまで現実と区別がつかない淫夢は初めてだった。怖いほど刺激的、激しく淫らで……とても幸せな夢。
隣にイグナスがいるわけでもないのに低い声で「眠れ」と囁かれた気がして、イザベルは再び深い眠りに落ちた。

翌朝。イザベルは扉を叩く小さなノック音でが目覚めた。メイドが遠慮がちに顔を覗かせてくる。

「朝食ができております。そろそろお支度を……」

朝食の一言で、イザベルは猛烈にお腹が空いている事実ことに気づいた。ぼんやりした頭では昨夜何を食べたのかさえ、まるで思い出せない。

「ーーすぐに下りるわ。支度は自分でするから」

全身の気だるさを押し隠すと、イザベルは寝具を払いのけ床に足をつけた。
昔から使用人メイドは邸を切り盛りできる最低限の人数しか雇っていない。そのため、身支度は大抵一人で整える。
昨夜……よく覚えていないが、一晩中夢を見ていた気がする。
身体のあちこちの骨が軋むように痛いわ、やたらとだるいわ、頭はフラフラするわで、体調は朝から最悪だ。
頭を抱えれば走馬灯のようにイグナスとの数々の痴情が脳内を巡る。だけど意気地なしの心は、即座にすべてを否定した。
ーーありえないわ。食前酒を飲みすぎて……そのまま寝てしまった? 
二日酔いでクラクラする頭を振って、着なれた魔導ローブを散々苦労して身につけ、できるだけ平静な態度でイザベルは食堂へ向かった。
だけど、どっしりした食卓を見た途端、脳裏に浮かんだのは、とんでもなく淫靡なーー……夢?
ユウベ、ココデ、ナニガアッタ?
……ははは。まったく、笑ってしまうほかない。引き裂かれたはずの魔導服も破れていないし、食堂だってきちんと整っている。セバスやメイドもいつも通りだ。
今朝は下着が染みるほど身体が濡れていて、そのぬるっとした感覚を月のものと勘違いした。
ーーこんな恥ずかしい失態は初めてだけど、すべて一晩中見た淫夢のせいだわ。
食堂のような人が出入りする部屋で痴情に明け暮れた夢をみるなんて、欲求不満もいいとこで。ストレスは溜まりに溜まっていたらしい。
考えるのも恥ずかしい夢オチに、何事もなかったように黙々と食事を済ませたイザベルだが、玄関を出るなりギョッと目を見張った。
「おはようございます」と馬車の扉を開け待っていたのは、御者コルトなのだ。
コルトがここにいる。ということは、イグナスと食事をしたのは夢ではない。……その後はぜんぶ捏造だけど。
もしかしたら……と心の底では疑いを持ちながらも、バカみたいに傷つくのが怖くてどうしても信じきれない。
ーーこんなんでは、だめだわ。
現実に目を向けて、しっかりしなくては。今日も忙しい職務が待っている。
馬車に乗り込んだイザベルは、まるでこの世の終わりに直面したかのように大きな溜め息をついた。

「はぁぁーーーーとんでもない間抜けよね。ほんと大バカ、私ったら……」

昨夜のイグナスは邸の使用人の手前だからか以前と変わらぬ態度で接してきた。鮮明な記憶のあれはきっとリアルだ。けど、気さくな態度はその場だけ取り繕ったと考えたほうがいい。
これまで王宮ここでは無視され続けたのだから、過度な期待はしない。
ーーでも、昨夜ほどではないにしても、少しは打ち解けてくれるかもしれないわ。
うろうろする感情に引きずられて、もの思いに耽っていたイザベルは馬車を下りる時「それでは、夕方お迎えに参ります」と言われて大して疑問も持たず頷いた。
執務室に向かう途中でファリラと談笑するイグナスと鉢合わせたが、今朝の彼はいつにも増して精悍で妙に艶っぽい感じがする。
ドキドキしながら丁寧な挨拶を述べたイザベルだが、それを嘲笑うかのようにイグナスは挨拶もそこそこに、そのまま足も止めずに立ち去っていった。上司はさすがに何かを言いかけたけど、後でねとウインクをしてイグナスを追いかけていく。 
ーーまあ、そうよね。これが現実、これまで通りだわ。
イグナスのはっきりした態度は夢オチ説を裏付けており、残されたイザベルは心の中で思い切り凹んでしまった。
そしてその夜。
王宮の立派な石段の前には、可憐な夜会服ドレスを纏ったイザベルが立っていた。
紳士淑女を誘う奏が風に乗って聞こえてくる。……そろそろ、夜会が始まったのだろう。
目前にそびえ立つ王城を挑むように見上げる姿はそのまま、宮殿の階段をゆっくり登り出した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたに愛や恋は求めません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:104,499pt お気に入り:8,837

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:532pt お気に入り:120

二番目の夏 ー愛妻と子供たちとの日々— 続「寝取り寝取られ家内円満」

kei
大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:26

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

BL / 完結 24h.ポイント:1,869pt お気に入り:2,143

彼と私と空と雲

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:510

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:16,685pt お気に入り:10,470

処理中です...