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森林波瀾篇
初陣
しおりを挟む僕とゼピュロスは、『おうち』を出るために、延々と続くかのように思えてしまうような廊下を歩いていた。
「あの、ゼピュロスさん?いつまで歩いてたらいいんでしょう?」
恐る恐る聞いてみた。
なんでかって?そりゃあ、ゼピュロスさんは「神様」なんだ。下手な口は叩けないし、タメ口なんて以ての外だろう?
「ユウキ様。私めなど、ゼピュロスとお呼びください。」
「え?でも……」
ユウキがそんなことを思い、おろおろしているとはつゆ知らず、ゼピュロスはこんなことを発したのだった。
「いえ、私も『神』ではありますが、カオス様の軍門を下りている次第です。カオス様が直々にあちらに出向き、召喚したのだとすれば、私には貴方様に付き従う必要すらあるのです。」
ゼピュロスはこう説明していたが、僕はイマイチ理解出来なかった。
それもそうだ。なぜなら、「神様」が自分よりも下であると話しているのだ。戸惑うことこの上ない。
「え…………えぇっと。え?じゃ、じゃあゼピュロス。」
「はい!なんでしょうか?」
呼び捨てで名前を呼んでやると、ゼピュロス大層気分の良さそうに返事をした。
正直ソッチの方に感じてしまうので、気持ち悪い。
そこにふと疑問を感じたが、無視することにした。
「んで、どれくらい歩けば外に出れるの?これ。」
さて、本題に戻そう。
「それでしたら、もうすぐでございます。ほら、そこに扉があるでしょう?それを潜れば外に出られます。」
「もうすぐって……結構歩いたよな?」
「はい。カオス様のお城は、この世の中で最も大きいものですから。」
ん?今『お城』って言った?
何となく想像はしていたが、『おうち』が『お城』であると完全に信じてはいなかったな。まさか本当に城だとは…
まあ、そりゃそうか。なんてったって、「神様」が住んでるんだからな!!
というか、あの神、『城』を『おうち』って言うとは。中々にお茶目ではないか!背は小さいし、普通に可愛いし、中々良い……っておい!!
この先に行ってしまっていたら……あぁ…考えることすら辛い。
そうこうしているうちに、ようやく城の外に出られたようだ。
「ーーーー!?」
そこには、木々が生い茂っていた。
そう。ここは森林の中であったのだ。
「さて、ここは見ての通り大森林の中でございます。また、カオス様がご説明しておられた通り、この世界にはモンスターつまり魔物が数多存在しております。当然、この森林にも潜伏しております。ユウキ様には、修行と題して、邪悪な魔物の駆除をしていただきます。」
はてさて、どうすればいいものか。そんなこと、急に言われても困るばかりだ。
本気でそう思った。しかし、そんなことは杞憂である。
(ここは異世界なんだ。しかも、魔物だとかギルドだとか、いかにもゲーム。ということは、これはチュートリアルなんだ。)
そう自分を言い聞かせることにした。
(これでも僕は、伊達にこの手のRPGを数やってないぞ?こんなチュートリアル、すぐ終わらせてやる。どうせちょろいだろ。)
この時点で若干のフラグが立ったのは自覚したが、気にしては負けだ。
「え?あ、うん。……え?僕、どうやって魔物を攻撃すればいいの?」
「おや。すんなりと受け入れましたね。これは想定外です。」
「まあ、あっちの世界には色々あるからな。どんなのがあるか、知りたいか?」
「なんと!?……まあ、そんなことは今はどうでも良いでしょう。」
!?こいつ…僕が日本のゲームの数々を自慢しようとしたのに、阻止しやがったぞ!?やるな……
「おや?これはちょうど良い。ブラックバットですね。それも、1匹ですね。非常に好都合。ではユウキ様。まずはこのブラックバットを自力で仕留めてください。」
…………何を言っているんだ?こいつは。僕は今武器を持っていないんだぞ?え?なに?素手でやれって?拳でってか?
「え?男なら拳でって?いや、それは流石に……」
「はて、その通りですが何か問題でもございますか?」
「問題大有りだわ!!なんで魔物に素手で挑まないといけないんだよ!!」
「それに関しては問題ないと思います。このブラックバットは、ランク的にはE。最低ランクの魔物でございます。集団となれば、多少なりは強化されますが、今回は1匹。ユウキ様のような素人でも、武器無しでも容易に倒せると思われます。」
ゼピュロスが何やら淡々と語っているが、そんなこと、ユウキからすれば右から左である。
「え?いや、待てよお前………………
「おや?もうすぐそこまで来てますよ?早くしないと、こちらが襲われますね。さあユウキ様。やってやってください!」
やってやってください!って…こいつ、完全に遊んでやがる。僕はそう確信したのだった。
「え?ゼピュロスは闘わないの?」
「私は先程申し上げましたよね?『これはユウキ様の修行である』と。なのになぜ私が戦闘をするのでしょうか。」
もう退路がないようだ。
逃げるという手段もあったが、そんなことしたところで《風の神》であるゼピュロスが追いつかない訳がないのだ。
いや、そもそも逃げたところで逃げ場所がなかった。
「はぁ。やるしかないのか……」
そう。やるしかないのだ。
しかも素手で。
ユウキは、絶望の淵に立たされていた。
そんなときだった。
………………???
「まあ、気は乗らないが、やってやるよ。ゼピュロス。」
「おお。やっとやる気にやりましたね?ユウキ様。」
「なぁに。"俺"は最初からやる気だったよ。」
「ふふっ。御冗談を。おっと。本当に目の前に来てますよ。ご注意を。」
ゼピュロスはそう言い放つと、忽然と姿を消した。
(全く、本当に何も手を貸してくれないのか…)
まあいい、やれるだけやろう。
そう割り切り、目の前のブラックバットに集中することにした。
(大体、4,50センチくらいか。小さいし、防御力はないだろうが、……飛んでるんだよなぁ。)
俺はなるべくブラックバットを観察していた。
すると、ブラックバットが攻撃を仕掛けてきた。
そう。ブラックバットとは、前世で言うならばコウモリ。すなわち、超音波を仕掛けてきたのだ。
!?うぅ!み、耳が!いや、、頭がクラクラする!!
思わず悶絶した。
ブラックバッドはランクEであると、ゼピュロスが話していたが、この技に関しては、それ以上であったことを、ゼピュロスは隠していた。
(はてさて、ユウキ殿はどこまでやれるのでしょうかな。そもそも、ブラックバットごときスパッとやっつけてくれなければ、私の方が困るのですが。)
ゼピュロスは、こんなことを思考しながら、姿を消して、ユウキの真横で観戦していた。
俺は辛うじて意識は失わなかった。
しかし、そのダメージは、戦闘素人にとって絶大なものであったのは確かな事実だ。
おそらく、もう一度喰らったら厳しいだろうな…
だったら、今すぐ決着をつけなければならない。
(身体は小さい。小さいが、あの高さまでジャンプできないだろ…さてどうしようか……)
どうすればいいか……
そこで、俺は視点を他に変えることにした。
そう。木々が生い茂っている森林自体に、だ。
(あの小枝なら、いけるな。)
小さな枝数本を木からちぎり取り、やり投げの容量でブラックバッドに向けて投げた。
それは、一発で命中し、ブラックバットの身体を貫通した。
その瞬間、ブラックバットは光の塵となり、消滅した。
「お見事でした。ユウキ様ならもしや、とは思っておりましたが、まさか本当に自力で飛行している魔物、ブラックバットを倒してしまうとは。」
ゼピュロスは、本心のままを言葉にした。
「いや、あれで倒せるとは思ってなかったから、迎撃するつもりだったんだけどね。必要無くて良かったよ。」
俺はこの勝利がさも当然であるかのように語ることができた。
「ところで、ブラックバットから最後に発していた光ってなんだ?」
この戦闘で唯一疑問に思ったことをゼピュロスに聞いた。
「あれが魔素でございます。そもそも、魔物は魔素で形成されております。それ故、倒された場合には、あのように魔素に変換され、この世界に還元されるのです。」
「へぇ。」
「また、その還元された魔素で新たな魔物が発生するのです。」
「へぇ。」
まあ、なんとなくは想像していたが、本当にその予想で良かったようだ。
というか、本当にゲームだな。
「さて、初めての戦闘はどうでしたか?」
「え?どうって言われたって、僕、何にも実感ないんだけどさ」
それはそれで当然なのだが、そんなこと、今、ユウキの知れる範疇にないのだ。
その上、ユウキはフラグを回収せずに済んだことに安堵しているばかりで、他に目を向けられていなかった。
「ふふっ。まあ、最初なんかそんなものでしょう。では、次に行きましょうか。」
「え!?まだあるの!?」
ゼピュロスの言葉に戸惑った。
(え?まだやるの?こんなこと?え?嫌だよ?)
「えぇ。言ったでしょう?これは『ユウキ様の修行』であり、『邪悪な魔物の駆除』であると。まだ、どちらも達成されておりませんので、依然として続行でございます。」
いやぁぁぁぁ!!!!
ユウキは、この後もたくさんの戦闘をするのであった。
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