In Another World〜異世界で送る新人生〜

勝田美雪

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森林波瀾篇

初めての魔法

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 その後もゼピュロスに強制されて魔物と闘い続けたユウキだった。

 ブラックバットの次に、スライム、ベアー、あと、なんかカマキリみたいなやつと、一番ヤバかったウルフと闘った。

 それも、1匹と言わず、数多の数と。

 ユウキたちは、闘いで疲弊すると、休憩を取り、また闘いを再開する、ということを繰り返していた。

 ゼピュロスは闘っていないのだが……

 しかし、唯一闘っているユウキにはどうやら闘っているという自覚、意識は無いらしい。



 さて、僕が魔物との戦闘についてまとめようと思う。

 ブラックバットは、もういいよね。

 スライムに関しては、あっちから攻撃はしてこないものの、物理攻撃がある程度弾かれるので面倒ではあった。

 まあ、最後は殴り倒したんだけどね。

 ベアーは重かったわ。だって、あっちの世界でいう熊だもん。

 …………僕、熊とタイマンで勝ったの?え?それって、あっちの世界のどこぞの達人よりも強くない?

 まあ、ベアーにもやり投げしたんだけど。

 そんなこと、勝てば問題ではない。

 カマキリは、怖かったから。思い出したくないから。……話さない。

 それから、一番ヤバかったウルフたちね。あいつら、3匹で来やがったの。びっくりだよね。

 そこで何を考えたか、そこの小枝を刀代わりに構えちゃったんだよ。

 まあ当然折られるよね。

 でも、そこでもう一度考えてみたんだ。

「レイピア風にすればいいんじゃないか?」と。

 実際、その戦術はハマり、3匹を一挙に倒したんだよ。

 なんで小枝がそんな頑丈だったかって?え?そもそも熊や狼を小枝で倒せるわけないだろって?

 そんなの僕が知るわけないじゃないか。



 とまあ、大変薄くまとめたけど、ほんとはもっと闘ってるから。そこ、間違えないように。

 ほんとに、ほんとだから。こんな文字では語り切れない程の激戦を繰り広げたんだから。



「おお。ウルフまで退治しましたか。いやはや、ユウキ様の成長スピードには目を見張るものがございます。」

「え?い、いや、そんなことないよ?たぶん」

 ゼピュロスは、本心ではこんな修行、ユウキには無理であると思っていた。倒されることこそ、カオスの狙いであるとも考えていた。

 しかし、現実は違った。ユウキは、みるみるうちに成長し、ランクC上位に相当するウルフ、しかもトリオに勝利したのだ。

 ゼピュロスは、本当にユウキに感心していた。

(なるほど。『これ』がカオス様の狙い、ですか。)


 いえ、断じて違います。


 後から本人に聞いた話だが、こんな強いなんて、カオスも想像してはいなかったようだ。


「そんな、ご謙遜を。さて、ユウキ様には1つ、技術の存在と、その1つを伝授しようと思います。」

 それを聞いて、僕は興奮した。

 だって、ここは擬似ゲーム内と言ってもいいんだ。しかも、RPG。『スキル』などが無いはずがない。それを教えて貰えるんだ。嬉しいことこの上ない。

「え!?いいの!?もう、素手で闘わなくていいの?!」

 それに、興奮した理由はもう一つあった。

 そう。『武器』が手に入るのだ。もう、拳で語ることなんて無い。

 そう。拳の時代は終わった。

「はい。これを会得できれば、素手で闘うことはほぼ無くなるでしょう。」

 おお!!まじか!ようやく、ようやくだ!!

「え?!じゃあ、早速教えてくれ!!」

「はい。心得ました。」


「その前に、ユウキ様には《術技》について知ってもらいます。」

「《術技》?《術技》って技か?」

 なんだ?この自分で言ってて恥ずかしくなるような文体は。

「恐らくは、その解釈で良いと思います。まず、《術技》には、物理攻撃と、特殊攻撃の2種類があります。
 また、その中でも分類がございます。
 物理攻撃には、《特技》《奥義》があり、《奥義》の方がより威力、難易度が上昇します。
 また、つまり、《特技》を習得し、完全な理解を果たせたら《奥義》を習得できるのが一般的です。強者ならば、あまり関係ないのですがね。
 特殊攻撃についても同様です。
 特殊攻撃とは、通常、魔法のことを指します。まあ、例外もあるのですが、まだ良いでしょう。
 魔法にも、《下級魔法》、《中級魔法》、《上級魔法》と序列が物理攻撃同様につけられているのです。仕組みなどもそれと全く同じです。」

 ゼピュロスは、自分の出番だと思うやいなや、早口で話し続けた。ユウキの困惑を無視して。

「さて、今回は私が大昔愛用した、《下級魔法》"ウィンドカッター"を伝授しようと思いますが、良いですね?」

 良いですね?などと言われても、断る理由なんてない。

「え?う、うん。何でもいいよ。」

「それでは。」



「どうですか?とりあえず理解は出来ましたか?」

 今教えてもらっているこの技は、周囲の魔素を利用して、風の刃を作り、相手に対して発射するという、至ってシンプルな技のようだ。

「う、うん。まあ。やってみていい?」

「はい、結構です。」

 ゼピュロスの承諾も得て、《下位魔法》"ウィンドカッター"を発動することにした。

「風よ、刃となれ!!"ウィンドカッター"!!」

 そう唱えると、《下級魔法》"ウィンドカッター"が発動し…………不発に終わった。

「………………」

 落胆した。そりゃそうだ。

「まあ、最初にできる方がおかしいのです。ユウキ様は至って凡人、ということですかね。さて、発動できるまで繰り返しましょうか。」

「ゼピュロス、さらっと酷い事言ってない?」

 そんなユウキの疑惑を無視して、ゼピュロスは黙り込んだ。



 ユウキは、その後何度も何度も詠唱してみたが、一度も"ウィンドカッター"が発動することはなかった。

「……あ、そうだ。」

 ふと、良いことを思いついた。

「?どうかされましたか?ユウキ様。」

 ユウキは答えない。答える必要がないから。

「…………風の化身となり、我に力を与えよ!"ウィンドカッター"!!」

 唱えた瞬間呪文の意味が破茶滅茶であることに気づいたがもう遅い。

 しかし、そう唱えると、魔素がユウキの身体を包み込み始めた。



 ゼピュロスは驚嘆した。

 なぜなら、これは《下級魔法》"ウィンドカッター"ではない、いや、《下級魔法》ではなく、《中級魔法》だとは思うが、その力は《上級魔法》にも匹敵する程だと推察したからだ。

 そもそも、さっきの通り、《中級魔法》とは《下級魔法》を習得した者が鍛錬して習得するもの。ウィンドカッターすら発動できなかった者ができるはずないのだ。

「な、なんだこれ。」

 ユウキはただただ困惑した。"ウィンドカッター"を発動させるために『呪文改変』をしたのに、なぜか別の魔法が発動しているからだ。

 あぁん?そんなことが理解できるのかって??別の魔法が発動していることくらい理解できるわ!バカにすんなよ!?

「なんと、まさか、『呪文改変』を自力で成し遂げるとは。いやはや、やはりユウキ様には潜在的な何かがあるのでしょうな。」

「え?いや、そんなことないと思うけど……」

 僕は風に覆われながらそう答える。

 というか、さっき僕のこと貶してましたよね??

 まったく、どの口が言ってるのやら。

「またまたご謙遜を。さて、この魔法、私も始めて拝見致しました。私は、全ての風属性の魔法には精通しておりますので。つまり、この魔法には名前がないわけです。そして、その決定権は、発動者のユウキにあります。」

 ゼピュロスが何やら話し始めたが、

「……つまり、僕に名前をつけろ、と。」

「はい。」

 ゼピュロスは、しゃあしゃあとそう言い放ちやがった。

「えぇ…………」


「……じゃあ、風の化身(ウィンドアバター)とかでいいか。」

 こういうことに対して、僕は致命的にセンスがない。そもそも、名前というのは識別信号であって、本質ではない。なので、特別見る必要の無いものなのだ。そう。名前など不要なのだ。それを見る必要はない!!!

「はい!それは良いですね。」

 ゼピュロスは相槌を打ってるだけだ、というのは直感で分かったが、そこには深く触れないでおこう。

「うん。……ところで、"ウィンドカッター"の習得ってどうなったっけ?」

「あ……ユウキ様。頑張りましょう!」

「えぇ!!!!」


 この後、また幾度となく元の呪文を唱え続けるのだったが…………
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